※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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File.50 NEXUSを刻む序曲 Ⅱ

リョウマとエスは何区画にも渡り駆け抜けた。どこへ行こうにも常に誰かに見つかり、更に多くの人間を巻き込みながら、徒党を成して追いかけて来るのだ。二人の体力が一気に失われるが、どこにも安息の地がない以上、一瞬たりとも足を止めてはならない。

「どこに行ってもバレるって....もはや世界中を敵に回してるみたいじゃないか!」

「経験がある癖にさも初めてみたいにいいやがって!」

「こんなレベルじゃなかったんだ!」

そのような言い合いでもしなければ、まともに思考が働きそうもなかった。他のブルームーンのメンバーや、弘達が動き出さなかったのが不幸中の幸いであろう。彼らが出て来てしまえば、この騒ぎはますます悪化するに相違ない。しかし、突然追跡の足音や怒号がピタリと止みリョウマもエスも、何事かと周囲を見渡した。彼らを中心として、半径数メートルの円周を描くかの様に取り囲まれていた。銃を持つ者もいれば、刺股や刀を手に構えるのまでいる。

「何だ......ってんだ」

エスの疑問に答えるかの如く、目の前の人だかりが割れこちらへ向かって歩く男が一人。もはや誰であるのかは二人の想像通り。ヴェイン・メビウスである。

「随分と手を焼かせてくれる....お陰でガンプラダイバーの意思はこうも早く結束出来てしまったがね。君をすぐに退場させてやらねば、統一もままならん.....」

尊大さを見せつけるヴェインに対し、エスは内心でどこか悲しさを感じてもいた。かつての強敵だった彼は、これ程までに虚勢を張るような男だったのだろうか。今すぐにでも葬らんとする意思はそのままに、焦りすらも見え隠れしている。エスのν-Typeとしての勘を誤魔化せない。

「言いたいことはそれだけか」

そう言おうとした矢先、リョウマが周囲に向き直り彼らの真意を問うた。

「お前達は、本当にブルームーンが自分たちの敵だって思ってるのか!何でお前達は自分で何も考えずに、物事を勝手に決められるんだ!?運営の一部が言い出したことが、本当に正しいのか考えたことはあるのか!?周りに流されるだけ流された結果がこれなんだ.....人が人を傷つけ合うのが、当たり前になったんだぞ!」

そして深呼吸をし、更に続ける。

「俺はガンプラダイバーズの元開発者だ。この現状を誰よりも許せない人間だ....俺はこんな世界にする為に、このゲームを作ったんじゃない!喜びと希望を胸に生きていける世界.....それがダイバーズの在るべき姿なんだ.....そんな願いを壊しているのは、むしろ....!」

リョウマがヴェインを睨んだ事で、周囲の中でどよめきが起きた。喜びと希望を胸に生きていける世界。その言葉が持つ力は、人々の意識を何らかの変革をもたらす、きっかけとしては十分過ぎるほどだった。

「リョウマ、さん.....あなたは....」

エスが驚いた様子でリョウマを見つめる。一方のリョウマは得意げに強い眼差しで、エスにヴェイン討伐を託した。

「能力者には能力者、だ。他の連中は俺が何とかする。奴はお前に任せるぞ」

「....少なくとも弘よりは当てにならない気はする。けど、任せろ....俺は負けない!」

 

バトルエリア、そしてストライクJOKERのコクピットの中。エスは、新たに装備したネクサスウォードのデバイスドライバを、機体へインストールしていた。それと同時に、フリューゲルを失った後のヴェインが使う機体が何なのか、全く想像もつかずプランニングに悩んだ。とは言え、エスの場合頑張ってプランニングしても自ら壊してしまいかねなかったが。ストライクJOKERの背中には、リジェネストライカーとは異なる、ストライカーパックが搭載される。エールストライカーにも似た、航空翼を備えた赤と黒のバックパック。翼の裏から伸びた翡翠色の刃や、下部の可動式バーニアが大きな特徴である。

「クロノスストライカーVer.2.....こうなる事が分かっていたような気がしてたのは.......俺が奴とまた戦うのを知っていたのか.....」

上手く言葉にならなかったが、エスには分かっていたのだろう。いずれまたヴェインと戦わなければならなくなる。レバーを握り直し、一気に前へ押し倒した。

「エス・ブラックベイ!ストライクJOKER-ex、行きます!」

脚部、そしてクロノスストライカーのバーニアが同時に展開され、圧倒的な加速力を以てストライクJOKERを空中へと飛翔させた。機体のピーキーさは、クロノスストライカーを装着した時点ではかなり抑えられているようで、使用しているエス自身も、ここに来て漸くストライクJOKERと己が一つになった感覚を得た。しかし、バトルエリアの景色を見てそんな思考も一瞬で吹き飛ばされてしまう。

「ここってまさか......」

見渡す限りの青い空と海。ぽつぽつと、疎らに浮かぶ緑の小島。エスは愕然とした。迷わず近くの島へ機体を着陸させ、周囲の索敵へ移る。モビルスーツの着地で木々が揺れ、鮮やかな羽根を持った鳥や、小動物達が一目散に逃げ去った。

「来た.....!!」

エスが気配を感じ取り、一秒後にアラートが鳴る。ストライクJOKERは脚部バーニアとクロノスストライカーのブースターを噴射、大地を蹴って天空へと飛び上がった。そしてエスは敵の姿を捉え、ウェポンセレクタで素早く武器を切り替える。ストライクJOKERの両手に装備された新兵器"ネクサスウォード"の駆動部が淡い光を発し、グリップのジョイントが回転して剣そのものをビームライフルへと変形させた。だが。

「追いつけまい!」

凄まじい速度でジグザグに軌道を描きながら迫る、白い影。ストライクJOKERの牽制射撃を物ともせず、MS2機分の距離まで近づきグルリとバレルロールへとマニューバを変え、真下から素早く斬り上げた。ストライクJOKERも既の所で後ろへステップするが、エスが敵を目視した瞬間に手が止まりかけた。

「白い.....JOKER.....!?」

全てを断罪する裁定者、JOKER。エスが見た事のあるそれは、ある機体を彷彿とさせる黒と赤の装甲を身に纏っていた。しかし今目の前に現れたのは、それとは正反対に純白に染められており、実体剣としての機能を兼ねた、背部の空力制御ウイングバインダー"デュランダルジョーカー"も、青い輝きを湛えている。

「ほう。君も知っているようだな.....しかし!」

白き裁定者―フリューゲルオメガがデュランダルジョーカーを突き出し、ストライクJOKERを撥ね飛ばすと、片翼を大きく開き間隙から無数の光弾を放ち、一斉に突撃させた。ストライクJOKERは雨あられの如く降りつける光を掻い潜り、ネクサスウォードを数発撃つ。エスは射撃の不得手さを自認しており、単なる牽制で充分のつもりだった。しかし弾道は彼の思惑を超え、白き裁定者の頭のすれすれを通り抜けた。

「このライフル......これなら俺でも行ける!」

「どうやらいくらか成長しているようだ.....私を楽しませてくれよ」

ネクサスウォードには"銃口補正"と呼ばれる機能があるようで、これによってエスでも十全な命中精度を手に入れられるのだ。それをヴェインは知らぬが、どちらでも関係のない話である。

「私の作る世界の、糧となれ!」

デュランダルジョーカーをバックパックに再装着、展開と同時に先と同じ光弾を全方位に向けて射出。比較的距離の近い方から順次ストライクJOKERめがけ飛ばし、自身も3次元的な機動で接近をかけた。ストライクJOKERは飛来する光弾を斬り潰し、頭部バルカン砲でフリューゲルオメガを追い返す。だがフリューゲルオメガは被弾さえ意に介さず、リアアーマーからビームサーベルを抜き放ち薙ぎ払った。ストライクJOKERが素早く反応して切り結ぶが、それを超える速さで2の太刀が迫る。何とか反応が間に合い、左手に持ったネクサスウォードで受け止めたものの、高度を取られており圧力が更に加わって状況が悪化した。だがそれでもエスはストライクJOKERと、自分自身を信じフットペダルを踏み込んだ。

「う.....おぉおおおおおお!!」

ストライクJOKERの両肩から、鳥型のデバイスが射出された。そして砲門からマシンガンの如くビームを乱射し、フリューゲルオメガを引き剥がし主の下へと帰還する。

「ビットが使えるようになっていたとは....ククッ....ハハハハハハッ!!」

ヴェインは一瞬驚くが、何故か狂喜した。単純にガンプラダイバーとしての性がそうさせたのか、エスには測りかねた。だが考える余裕はどこにもない。フリューゲルオメガが天に掲げた右手を振り下ろした刹那、ストライクJOKERが金縛りにあったかの様に動けなくなり、そのまま猛スピードで岩盤に叩きつけられた。

「ぐあ......!?がはっ......!」

背中と鳩尾を強打し、エスは悲鳴と呻きの中間のような声を漏らした。だがエスが体勢を立て直すのを許さず、再び機体を拘束され地面を数キロも引きずり回され、空中へと高く放り投げられてしまう。そこへフリューゲルオメガが鬼神の如きの殺意を向け、左右に連結させたデュランダルジョーカーで串刺しにせんと迫る。

「その程度で果ててくれるなよ....面白みがない!」

「だったらお望み通り!!」

グルリとストライクJOKERは振り向き、ネクサスウォードを素早く放ちながら高度を下げ、デュランダルジョーカーを回避、2つほど離れた島へ向かってバーニアを噴かせた。

「どこへ逃げようと、その命は消える運命にある....」

ヴェインもストライクJOKERが飛び去った方角へ、フリューゲルオメガを移動させる。背中にマウントしたデュランダルジョーカーを開き、再び無数の光弾を生成して一斉に地を焼き払った。

「クソっ.....!なんて無茶苦茶な!」

天から降り注ぐ死線の雨。エスは度肝を抜かれる思いをしながら、ストライクJOKERをなるべく敵の視界に晒さぬように進ませる。そして辿り着いた先は、大瀑布を抱える大きな島。エスは迷わずストライクJOKERを洞窟の中へ滑り込ませ、作戦を考えるだけの時間稼ぎを始める。その後を追う形で、フリューゲルオメガも洞窟へと進路を取った。

「君がいくら強大な力で私を封じようが、世界は何ら変わることがないどころか、全ての者達に畏怖を与えるだろう。今ここで私を再び討てば、更に歴史は繰り返されるのだよ」

ν-Typeの存在。常人には決して辿り着くことのない境地。その力は即ち異能である。持つ者と持たざる者の間に生まれる溝は、決して埋まることはない。人が人として生き続ける限り、突きつけられる現実なのだ。エスも凄惨な経験をして理解しているが、ヴェインの言葉が諦める理由になり得ないのは、誰よりも理解していた。

「どう転んだって人間は人間だ。ν-Typeだ何だって、結局は仮想世界で生きてく術を身に着けただけの、ただの人間だ!確かに俺やお前はとんでもない力を手に入れている......けど、力やそれを再現する道具は、使う人間次第じゃないか!」

フリューゲルオメガがデュランダルジョーカーに手をかける刹那、ストライクJOKERが鍾乳石の柱の陰から飛び出し、ネクサスウォードを勢いよく振り上げた。フリューゲルオメガは素早くビームシールドを展開してこれを防ぐが、ストライクJOKERはがら空きになった胴めがけ、回し蹴りを放つ。だがフリューゲルオメガの装甲に接触することが叶わず、逆にデュランダルジョーカーで胸部を斬りつけられてしまった。なぜならば、フリューゲルオメガの祖となった機体が持つ権能により、如何なる攻撃も通用しなくなっていたからだ。

「見た目通りってか.....」

「どんな手を使おうとも、この私には届かんよ」

悠然と歩み寄るフリューゲルオメガに、エスは奥歯を噛む。

 

エスがバトルエリアへ転移してから程なくした頃。リョウマは再び群衆から追いかけられており、逃走を余儀なくされていた。やがて立体駐車場めいた場所に辿り着き、人の気配が少なくなったのを感じてリョウマは、鉄柱の裏に隠れた。

「結局誰も分かっちゃくれないのか.....!」

すぐ呼び出せそうな仲間に連絡しようとした矢先、下から足音が聞こえ反射的にウィンドウを閉じた。足音は確実に近づきつつあり、リョウマはゴクリと唾を飲み込んでゆっくりと立ち上がる。十中八九自分を追ってきた人間であろう。

「今しかない.....!」

だが足音は上からもやって来る。リョウマの足が止まる。そして次の瞬間、足元の僅か先から火花が散った。何かが転がる音も聞こえ、リョウマは恐る恐る視線をそこへ向ける。既に遠くへ行っておりよく見えないが、光沢らしきものですぐに理解できた。銃弾だ。それから間もなくして、バタバタと駆ける足音が上からも下からも近づき――。

「.........最悪だ」

武装した紫フードの連中に取り囲まれ、銃口を突きつけられた。

「逃げるのもそこまでにしてもらおうか、水崎....!」

集団が左右に割れ、リョウマの前に現れたのはシューインだった。薄笑いを浮かべており、リョウマからしても底しれぬ恐怖を感じさせる。

「正気を失ってるのに、まだ俺に固執するのか....!」

リョウマの問にさえも、何も答えず笑うだけのシューインには、もはや言葉は通用しない。この場にいる武装集団が同時にウィンドウを開いたことで、リョウマもその意味を察した。戦うしかない。そう決めたリョウマはゆっくりと立ち上がり、指先にウィンドウを表示させるのだった。

 

ストライクJOKERとフリューゲルオメガの戦いは、後者のペースのまま進み続けていた。

「ぐぁああっ......!?」

ストライクJOKERは鍾乳洞から叩き落され、ポッカリと空いた地底空間に放り出される。後頭部を打ち付けたエスは、目眩を感じながらも怯まぬようにその身に鞭打ち、ストライクJOKERを起き上がらせた。

「地底湖......なのか?」

ドーム型になった空間の中心には、青い光を淡く灯した水溜りがあり、様子を見る限り地底湖の類だとエスは考える。しかし悠長に観察をしている余裕は無かった。背後から光の槍が迫り、エスは弾かれるようにストライクJOKERを後退させ、すかさずネクサスウォードを撃ち返した。煙の中へ吸い込まれるが、火花を散らして消えた事から、ここまで追いかけられたのを想像するのは容易だ。

「この地を私が選んだ意味を、君が解せぬとは思わんが....」

「ただのセンチメンタルだろ、そんなの。どんだけ俺を付け狙う気でいるんだか」

「1つ勘違いしているようだが、私にとっては別に君でなくても良かったのだよ」

次の瞬間、フリューゲルオメガの足裏が眼前にまで迫り、エスは反射的にレバーを引いた。交差させたネクサスウォードで跳ね除け、カウンター気味に振り上げたが既に遅く、フリューゲルオメガに斬り抜けられ、その場に転倒してしまう。すぐに起き上がろうとするが、フリューゲルオメガのデュランダルジョーカーによる一撃を受け、壁に衝突した。

「ぐっ......がっ.....」

エスは顔面をコンソールに打ち付け、半ば意識を失いかけるが自身に突きつけられた凶刃を前に、何とか己を保たせた。一方のヴェインは冷ややかな眼差しでストライクJOKERを見下ろした。

「だがお前を討たねばならない。私の.....俺の邪魔をし続ける者は、一人残らず葬ってやろう....!」

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