創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
フリューゲルオメガがバックパックからデュランダルジョーカーを分離させ、左右で結合して大剣を成し大きく踏み込んだ。
「俺の邪魔をする者は、何人であろうと葬ってやろう!」
切っ先を向けダッシュした瞬間に、ストライクJOKERもビームシールドを発生させる。だが想像を遥かに凌駕する速さで懐へ飛び込まれ、左肩を貫かれてしまった。それだけではない。辛うじて繋がったままだった、フレームのせいで引きずり込まれ、岩壁に叩きつけられた挙げ句、地上へと放り出される。
「なぁああああああっ!?」
全身のバーニアを噴射し、強引に姿勢を保つがその頃にはもう、フリューゲルオメガの踵が脳天めがけ振り下ろされようとしていた。ストライクJOKERが再びビームシールドで跳ね除け、頭部バルカン砲で追い返すが、フリューゲルオメガはくるくると旋回して、真下から掬い上げる様に斬り上げた。
「どうした、エス・ブラックベイ......かつて相対した時と同じ人間とは思えん」
ヴェインの瞳が青く発光する。フリューゲルオメガの周囲に光の渦が形作られたかと思うと、凄まじい数の光弾を嵐のごとく、ストライクJOKERめがけ吹き付けた。エスも何とか己を保ち、絶え間ない弾幕を擦り抜けながら反撃の機会を伺う。だが肝心の武器を一つ失っている。これでは自衛だけで精一杯になるだろう。しかしエスはまだ、チャンスがあるのだと確信を持ち続けていた。
「流れをこっちに引き寄せるんだ、ストライクJOKER!」
弾幕の行く先で爆発音と火炎が立ち上る。ストライクJOKERが墜ちたのだろうか。ヴェインはつまらなさげに息を吐くが、気を緩めることはなくむしろ更に警戒を強めてさえいた。
「完全に息の根を止めるまでは....手を緩める訳には行かん。奴は唯ではやられるはずがあるまい.....本当にやられたとしても、確実に斃さねば意味がないのだ」
フリューゲルオメガのバーニアを全開にし、爆心地へと急いだ。ストライクJOKERが煙の中から墜落していくのが見え、鷹のごとく突き進みデュランダルジョーカーを二振りに分け、X字に交差しながら追いかける。エスも当然それは認識しており、横目で相手との距離を測りつつ反撃の瞬間を虎視眈々と狙っていた。
(この距離ではダメだ.....もっとだ、もっと来い....!)
やがてストライクJOKERとフリューゲルオメガの距離が、格闘戦の間合いより踏み込んだ瞬間。エスの瞳が翡翠色に瞬いた。
「やれる.....!」
突然フリューゲルオメガの真横に巨大な鉄の拳が飛び出し、ヴェインの反応さえ潰し大地に叩きのめした。
「何が起こっている.....!?」
流石のヴェインでさえ予測できなかった一撃。だがエスだからこそ出来た一手でもある。エスのみに与えられた力―"空間跳躍"。本来ならば自分自身を目的の場所へと、瞬時にワープさせる力なのだがそれのみならず、エス本人の機転によって応用が効くようだ。
「リタには迷惑をかけたけど.....無理を通さなかったらここまで行けなかった...!」
空間跳躍で呼び出していたのは何と、サイコガンダムの腕であった。
「やはり君は面白い男だよ.....」
上空にいるストライクJOKERを睨むヴェイン。フリューゲルオメガがぐっと身を屈め跳躍、ジグザク軌道を描きつつ近づき、すれ違いざまにデュランダルジョーカーで斬りつける。だがストライクJOKERもネクサスウォードで切り結び、わざと拘引された。
(いつからなんだ.....何で突然、奴からプレッシャーを感じなくなった....!?)
相対する時は常に感じていた、皮膚を突き刺すような殺気。しかしエスは、今の彼からは同じ物を全く感じなかった。まるでヴェイン自身の力を支えている物が、丸々抜け落ちたかのような。そう感じ取れてならない。
「殺気を消して戦うなんて、人に出来る事じゃない!」
ストライクJOKERの蹴りが腹部に命中し、フリューゲルオメガは一気に体勢を崩してしまった。
「ぐっ.....何だ、何故奴の動きが読めん!?」
いよいよヴェインも自身に起こる変化に気づき、モニターを凝視する。
「もう剣を引け!お前の負けだ!」
フリューゲルオメガが剣を振り下ろすがそこには敵の姿はなく、背後から蹴りを加えられ地面に叩きつけられた。そして振り向く頃には、ストライクJOKERのネクサスウォードの切っ先が眉間を捉えていた。
「あれだけ盛大に喧嘩売っといて.....!」
エスの口調には、どこか悲しさが滲んでいた。過去に縋り付くためだけに、虚勢を張り続けていた、彼の浅はかさに。エスが知っているヴェインは、もう死んでいたのだ。
「だが私は負けてなどは....うっ.....!?」
ヴェインが言い返そうとした矢先。突然全身を寒気が走った。腹から何かが口へと戻ろうとしているような気分の悪さに、思わず口を覆う。モニターにミニウィンドウが表示された。
「やあ。随分と気分が悪そうじゃないか」
通信の主は、徹だった。ヴェインは一つの策を思いつき、彼に協力を仰ごうとする。
「ここへ来たのなら丁度いい....!私は奴を討たねばならん.....手を貸せ....!」
数秒の間を置き、徹の出した答えはNOであった。
「それは相手をしてくれた、彼に対して失礼ではないかな?それに、君はこの戦いでは、誰にも手出しをさせないと僕に言ったじゃないか」
「奴は後々、いや今でさえ我々の脅威なのだ.....!」
「確かに、その意味は分からなくもないけどね。そうだ、一つ教えておかないと行けなかったね。君はどうやら僕を半分利用しつつ、自分の計画を推し進めているつもりだろうけど」
「何が言いたい.....まさか.....貴様.....!?」
ヴェインが全てを察したと言う顔をした。徹はそれを見るや口許に笑みを浮かべた。
「そう。初めから君は、自分のでは無く、僕の計画を遂行していたんだよ」
「貴様......!俺のZeuSと、ダイバーズなければ計画の土台すらなかったというのを、忘れたのか.....!?」
「そういう物言いだから、器量が小さいのさ」
そう言うと徹は指鳴らして通信を切断した。全く身動きをしなくなったフリューゲルオメガに、エスは怪訝な顔をして様子を窺う。だが突然アラートが鳴り響き、何事かとコンソールをタッチした。
「何だ.....!?自爆だって!?」
弾かれるようにレバーを引き、ストライクJOKERを退避させる。やがてフリューゲルオメガの全身に紅い稲妻めいた光が走った。そして目を潰さんとする程の閃光が辺り一帯を包み込む。エスは思わず目を瞑ったが、爆発の音もせず状況が飲み込めなくなった。しかし。
「こんな.......何だよ、これ.....何だってんだ.....こんな死に方を、人がするのかよ......!?」
フリューゲルオメガのコクピットを内部から突き破ったような生え方をする、無数の刃にエスは戦慄を禁じ得なかった。
一方リョウマのビルドスパークルは、徒党を組んで襲いかかるモビルスーツを相手に、苦戦しつつあった。
「コイツら.....他のとは全然違う!手練ばかりを寄越してきたってのか!」
右腕にドリルクラッシャーをビルドし、襲いかかる敵を次々と払い除けて上空へと飛翔する。だが真上からも粒子の激流が迫る。ビルドスパークルは素早く右へ飛び退き、ビルドライフルを連射しながら相手の注意を引いた。
「逃がさんよ!」
ガデッサはGNメガランチャーの射角を僅かにずらし、砲撃を開始した。紫のスパークを散らせるビームを放出し、ビルドスパークルの行く手を阻む。
「逆に嵌められる!?」
リョウマはすぐさまレバーを倒し、ビルドスパークルを急旋回させる。だがそこへエヴィルイフリートが飛び込み、ヒートサーベルの一太刀を浴びせられてしまう。
「うわぁあああっ!?や、野郎っ....!?」
「ハッハッハッハッ......!どうした水崎ィ.....押されているぞ?」
シューインは嘲る様に笑いながら、エヴィルイフリートの歩みを進ませる。そのままヒートサーベルの切っ先を向けて振り下ろしたが、ビルドスパークルは即座にビームシールドをビルドしてこれを防ぎ、頭部バルカン砲の掃射を以て追い返した。とは言えその場しのぎをしたに過ぎず、エヴィルイフリートが再び追撃を加えて来るのは免れない。
「どうしたァ.....何故ハザードを使わないぃいい!!」
「お前の狙い通りになんてさせるか!」
ビルドスパークルの右手のドリルクラッシャーを消し、ムラマサブラスターを形成した。ヒートサーベルの連撃を素早く往なしつつ、相手の胴に後ろ回し蹴りを叩き込み、ムラマサブラスターで斬り上げた。
「とりあえず、ここにいる人達の目を覚まさせなければ.....また何が来るのか!?」
レーダーからアラートが鳴り、リョウマは唇を歪ませる。これ以上戦力を増やされては、溜まったものではない。だが、むしろこれはリョウマにとってチャンスであった。
「プロフェッサー・リョウマ!待たせたな!」
聞き覚えのある声にリョウマは、思わず見上げた。巨大な三角のグライダーが頭上を通過したかと思うと、大量のミサイルを投下してアーネスト勢力の連中を尽く吹き飛ばしてしまった。
「何で......何でここに来たんだ!」
「何でってなぁ。忘れちまったのか?俺達はプロフェッサーを助けてやるってのさ!」
グライダーをパージして飛び降りる鋼鉄の巨兵。十字に開口したモノアイレールと、紫を基調とした装甲はその出自を容易に想像させる。
「ドラグニルでこの場を制圧してやる!」
アントニオは意気揚々と叫び、ドラグニルを走らせた。正面から迫りくるトライバーニングの腹めがけ、右腕を突き刺し、備え付けられた爪を展開。そのままコアを握りつぶして更に向こう側にいる、Gポータントへハンマーの如く殴りつけ圧壊させた。
「だからって.....お前がいるって事はつまり....」
「そういう事ですよ、ミスター・リョウマ!」
ビルドスパークルを真後ろから叩こうとするサザビーの頭が、突然爆ぜる。リョウマが再び振り向くとそこには、ケルディムサーガが次々と敵の頭を撃ち抜いていく姿があった。
「ポール・マートン!?」
となれば、間違いなく後一人は合流してくるだろう。リョウマは内心呆れつつも、援軍を無駄にせぬよう戦いに努める。
「はぁあああああっ.....!だぁあッ!!」
ドラグニルともつれ合うエヴィルイフリートの真ん中に割入り、後者を蹴り飛ばしてムラマサブラスターで袈裟斬り、横薙ぎへと繋ぎダウンさせた。シューインは尚も薄笑いを浮かべ、コンソールを殴りつけるかのようにタップした。
「ヒャハハハハハッ!!ハザードォオオオオッ!!」
「ハザードビルドアップ!」
エヴィルイフリート、ビルドスパークル双方から黒霧が噴き出す。そして両機共に黒い風となりぶつかり合った。ヒートサーベルとムラマサブラスターの剣戟が繰り広げられ、それと同時に妄信と信念が交差していく。
「いつまでこんな事を繰り返すつもりなんです!?ただの殺し合いを世界中でやらせるのに、何の意味があるっていうんだよ!」
「意味?クカカカ.....!そんな物は決まっているッ!!新しい世界を、創造するためだァァァッ!!」
「自分達にとって都合のいい世界を作る為だけに、無関係な人達の命を奪っていいと思っているのか?」
「甘いな水崎ィ....!」
エヴィルイフリートのサイドアーマーからダートビットが飛び出し、突撃と同じくして左腕に発振させた、ビームニードルを叩き込む。既のところでビルドスパークルも、ムラマサブラスターを振り払って弾き返し、反作用を利用して互いに距離を取った。
「閉塞した世界への革新を......邪魔する者は即ち世界にとって不要な存在だァ....ヒャハハハハハ!!だから消して何が悪い!?それになァ....もう既に、無関係な人間なんてのは居ないんだよォ!!」
「独裁者気取りかよ....!」
再びビルドスパークルが駆け出そうとした瞬間、二人の間を閃光が走り足止めを食らった。新手かとリョウマはそちらに目をやるが――。
「ビルド....レイザー...!?」
ビルの上から見下ろす影。その正体をリョウマが知らないはずがなかった。むしろ予感が的中したと言うべきか。
「どうだ水崎.....自分の機体を他人に使われる気分は!」
シューインがリョウマの神経を逆撫でするようなトーンで煽る。リョウマはエヴィルイフリートを横目でちらりとだけ見、すぐに真上に視線を戻した。
「やはり利用されていたか.....!ビルドアップ!」
ビルドスパークルがビームガトリングをビルドするのと同じくして、ビルドレイザーも同型兵装を手にした。互いの光弾がぶつかり合うが、相手の出力が勝ってしまい、ビルドスパークルが一歩下った。その隙を突く形でビルドレイザーがビルから飛び降り、バックパックからビームソードを抜き放ち袈裟懸けに斬りつけた。
「その程度か.....旧型に負ける位なんて、ふざけているんじゃないか?」
「そ、その声.....まさか!?」
ビルドレイザーから聞こえる声は、リョウマを震え上がらせるのに十分過ぎた。あのビルドレイザーに乗っているのは何と、エミだった。
「だからどうした!」
ビルドレイザーは左腕に巨大クローアームを形成、ビルドスパークルを引っ掴み勢い良く放り投げた。ビルドスパークルが咄嗟に受け身を取って、反撃に出ようとするがダートビットの刺突を浴び真っ逆さまに墜落した。
「これ以上戦えば暴走しちまう.....どうにかして彼女だけでも戦場から引きずり出さねえと....!」
リョウマはハザードを解除し、ビルドスパークルの右手にビームマグナムをビルドさせる。何としてでもエミを、この狂った戦場から連れ出さなければならない。
「一撃で墜とせば....!」
ビルドレイザーに狙いを定め、銃爪を引いた。重たい銃撃音と共に赤紫の光弾が、風を切り対象めがけ突き進む。だがそれほど甘い話でもない。エヴィルイフリートがヒートサーベルでビームマグナム光弾を斬り裂き、隙を狙ってビルドレイザーがビルドスパークルの腹に蹴りを突き刺した。ビルドスパークルも強引に受け止め、押し返した後にビームマグナムで追撃を加える。だがビルドレイザーはムーンサルトの如く、しなやかな身のこなしで躱して見せると、仕返しにビルドライフルを放った。
「ぐっ.....!他にもビルドシステムを理解できる奴がいたなんて....!」
ビルドスパークルがビームシールドを展開する瞬間、ビルドレイザーが眼前に飛び込み、左手に形成したGNソードを最上段から振り下ろした。リョウマの反応が間に合わず、銃撃は防げたもののあと数寸部遅れれば、GNソードの直撃は免れぬほどぎりぎりの所で、シールドの縁に押し当てて堰き止めた。しかしこの状況も長くは持つまい。GNソードの剣圧が余りにも強過ぎるのだ。
「どんな気分だ?自分にしか使えないと思ってたのを、他人に使いこなされる気分ってのは!」
こんな口調で話す彼女でない事は、リョウマも理解していた。況してや先の様な、アイドルめいた語り口すら持たぬ人物だと言うことも、想像に難くない。やはり何かが彼女をここまで豹変させたのだろう。そしてその黒幕足らしめている物は――。
「グロック・ルーツに......洗脳されたんだな....君は!」
ビルドスパークルはバックパックに、リゼルのディフェンサーaユニットをビルド。ミサイルポッドを一斉に砲火してビルドレイザーを吹き飛ばした。
「洗脳?何を言ってんだ....私は私の意思で、お前を斃しに来たのさッ!!」
エミの激昂に反応して、ビルドレイザーから黒霧が噴き出す。迫りくるミサイルの群れをバルカン砲で一掃すると、霧から飛び出してビルドスパークルの顔面に、ハイパービームジャベリンを叩きつけた。凄まじい力と衝撃を受け、ビルドスパークルはよろめきながら建物に突っ込んでしまう。かつての自分を遥かに凌駕して、ビルドシステムを手足のように使うエミに、リョウマは焦りを感じる以外なかった。