創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
諒馬は仮想世界からダイブアウトした後、聡と軽く打ち合わせの話をつけて、門松のもとを訪れた。
「お呼びですか、教授」
諒馬の来訪に気づき、門松は席を立って目の前の応接間に招いた。
「散々引っ掻き回されて頭が痛いな....お前の記憶までしれっと戻ってたって言うし、ここらでもう一度整理し直すしかねぇかなって」
「それは、まぁ.....分かってましたけど」
門松に促され、差し出されたコーヒーカップに口をつける。ふとテーブルに目を落とすと、やけに大きなファイルが乗っていた。
「これは、ダイバーズのログファイルですか?いつのなんだ...」
「ここ5年分のログから、今回のに使えそうな物を寄せ集めてきた。少なくともお前は、アイツらの力を理解しなければいけなくなる」
「まさかν-Typeを認めろと言うんですか」
ν-Typeの存在を認めるか否か、これについては諒馬は否定的な立場を取っていた。人が新たな環境に適応したのであって、進化している訳ではない。しかも適応した人間が超能力めいた物を手にしたとなれば、かつてのZeuSとは関係無しに弾圧運動が出来上がる可能性がある。それはA.ν-Tと言う形で現れてしまった。今の彼にとっては、どちらの存在も憂慮すべき物なのだ。
「――いや、ν-Typeって言う概念そのものがおかしいんだ」
彼が漏らした言葉を、門松は聞き逃さなかった。
「今、お前何て.....?」
「今の俺には、ν-Typeなんて枠組みとか必要なのかが疑問に思えるって事です」
「つまりお前は、ν-Typeの人達だってそこらの人達と変わらないって言うのか?」
「区別する事が差別意識を産む。俺の中にもそれはあったのかも知れない。だけど今は、そうではない自分がいる。ただ早く適応した、それだけなんだろう」
第三の選択にも思える諒馬の言葉を受け、門松は「そうか」と頭の中で咀嚼する。
「お前もいつの間にか、かなり変わっちまったな。恩師としては嬉しい限りだよ」
「自分で恩師って言うんですか。このログを用意した意味、無かったですね」
そうして諒馬が研究棟を後にすると、今度は門で自分を待っているかのような人影が。帽子の形を見て、諒馬は違う出口が無いか探そうとした。しかしそれは未然に防がれてしまう。
「やっ。水崎さん!元気そうじゃん!」
強気な笑みを浮かべて英梨が目の前に立ちはだかった。
「もう俺に関わるなと言ったはずだけど」
「まぁまぁ、ここまで来ちゃったら戦友みたいなもんでしょ?」
「何勝手な事言ってんだよ、数回しか会わなかったのに適当な事言うんじゃないよ」
諒馬に軽くあしらわれるが、英梨も引き下がらない。
「適当とか、そんなんじゃないよ。ここらでそろそろ虎の子を、って感じでしょ?」
「何が言いたいんだ?分かるように説明しなさいよ」
怪訝な顔をする諒馬とは対照して、英梨の面持ちは幾らか自信が見え隠れする。
「いやぁ〜....苦節十年、とまでは行かないかぁ。今、ありとあらゆる国が仮想世界専用に、部隊を編成しているのは知ってるわよね?」
「ああ、もちろん」
「どうもウチの国、政府が関知していなかったもんだから、アーネストもそう長くは持たないかもね」
「徹・アルマーニュだぞ?そんなミスをするのか、奴が?」
「この一連の事件は、会社ぐるみでは無かったってことね。ま、そんな事はあなたにも分かってたと思うけど。仮想世界条約第9条にも十分違反している状況だし、間違いなく政府は黙ってないわよ。そして組織と言う後ろ盾を失った連中は」
「予定を繰り上げて次の手を打って来る....!戦争状態を激化させるなら、このタイミングしかないという事か....!」
仮想世界条約。仮想世界そのものが国際的なインフラとして定着した事を背景に、国連加盟国で締結した条約である。中でも第9条は、「仮想世界を国際紛争の場として利用してはならない」と明文化されており、批准する全ての国家がこれを遵守している。故に現在のガンプラダイバーズの状況は即ち、条約違反が行われる無法地帯も同然なのだ。挙げ句自国政府を蔑ろにして進めたアーネストは、謂わばテロリストであろう。つまり、諒馬達にとってもこれは逃してはならない、千載一遇の機会とも言える。国を味方にさえできれば、様々な角度から追い詰められるのだ。いそいそと車に乗り込む諒馬を見送りながら、英梨は胸の内で祈る。
リョウマはクレッセント・ブルームーンに転移するとすぐに、自室に赴きモニターを起動させた。ハザードを初めて使用してから、以降の戦闘リプレイを順番に再生し何かを頻りに呟きながら、ホワイトボードに書き込んだ。
(ハザードを使ったウヴァルスタークと戦いながら、何かが引っかかってた.....俺や弘の機体が余りに早く削られてたのには理由がある......だとしたら、ハザードその物を深く掘り下げたら、何か分かるはずだ....!)
「そうだ、それだ.....!!....あ」
思わず声を上げたと同時、ドアが開き互いに硬直した。しかもリョウマにとっては、余り当てにしたくない人間がここに来ていた。黒いウェーブのかかったセミロングヘアに、同系色のブラウスを着た女。ジプシー・ノアールその人である。
「あぁ、すみません。誰かが入っていくのが見えたものですから」
「よりによってお前に聞かれるなんてな.....丁度良かった、一度付き合ってくれ」
リョウマの右手が肩に乗せられ、ジプシーはドキリとした。付き合ってくれとはどういう事なのだろうか。真意を想像しそうになったが、その結果はある意味予想通りであった。
「え.....それってどう言う.....?あなたには、その....」
「ハザードについて、もっと詳しいデータが必要なんだ。実験を手伝って欲しい」
ジプシーは一瞬きょとんとした顔をするが、悟られぬように直ぐに気を取り直す。
「あ、ああ.....そうですね。すぐにでも準備しますよ?」
部屋を後にしたジプシーの肩は、無意識に落とされていた。
エスとミナもクレッセント・ブルームーンにやって来、ブリッジに足を踏み入れた。ちょうど時を同じくして、メインモニターにニュース映像が流されており、他の面々と一緒に画面を見上げる。総理大臣が会見を開いているようだ。
「今日の仮想世界に於けます、現状は極めて異常な状況にあると言えます。国際条約である、仮想世界状況に反しているだけでなく、国際法にも抵触する物であると認識しております。そしてこの状況の中心に立つのが、我が国の誇る大企業の一つであった事は、誠に遺憾であります。仮想世界の軍事利用は、国も個人も関係なく、禁じられています。にも関わらず、戦争状態へと発展させたのは、国家転覆を図る狙いと見なす事ができます。日本国政府は、各所と連携し、総力を結集して捜査並びに――」
この場にいる一同は互いの顔を見、再びモニターに視線を移す。国が動き出そうとしている。この事件の裏で起きていることなど分からぬ彼らは、ただ呆然と会見を見ているしかなかった。
「国が、動くってもう.....そんな所まで来てたなんて....」
「このまま行けば、ダイバーズ自体封鎖されかねないですわね....」
最早一歩も引き下がれぬ状況。予てから覚悟はしていたが、いざ直面してみると平静を保てるものでもない。突如ブリッジをアラートが駆け巡る。すぐさまウォレスが応答し、レシーバーを耳に当てた。
「こちらクレッセント....なぁにぃ!?光学迷彩は完璧なはずだぞ!?分かった、すぐに出撃させる!」
彼の様子から察するに、全く穏やかな話ではない。それは他の面々も同様で、一斉にそれぞれの持ち場へと駆け出した。
「一先ず、用件は何だったのか教えて下さる?」
「こっちの位置が特定されてるんですよ!ステルスも光学迷彩もかけてたってのに....!」
「どうやら、誰も彼もが互いを潰し合う事態になったのですね....」
ふとした瞬間に、脳裏でレイに助けを求めようとする自分に気づき、リタは首を左右に振りシートから立ち上がった。
「全部隊に通達!クレッセント・ブルームーンはこれより、現空域を離脱します!いいこと?激戦区域への進入開始後直ちに、アーネスト勢力を全て排除しなさい!」
彼女の命令を聞きながらエスは、人の変化を感じ俄に驚いた。
「あの人も変わるもんなんだなぁ.....弘とスワンは早くに出ているのか?ならこっちがやる事はそう多くは無さそうだ....な!ストライクJOKER、出ます!」
クロノスストライカーVer.2をドッキングした、ストライクJOKERが飛び立つ。それから間もなくして、ミナのトライアンフヴィータも出撃した。眼下の景色を見る限り、美しい海岸線が目を引く、南国の島のようだ。しかし、そこかしこに立ち上る煙や、飛び交う光にミナは胸が苦しくなる。
「これがいつもの景色に見えない....」
「腕を競ってるのとは違うんだ.....惨たらしい.....来るぞ!」
眼前からガルバルディβが迫る。ストライクJOKERは素早く真横へ回り込み、側宙しながらバズーカを放ち撃墜した。だが。
「ッ.....!?どこから!?」
真後ろからビームの残光が通り過ぎ、エスは思わず振り返る。しかしそこには何も無く、青空のみが広がっていた。ところが、今度はまた背後から熱源反応が現れ、エスは咄嗟にレバーを倒す。
「こ、こいつ.....いつの間に!?」
全身から刃を生やした、まさしくハリネズミのようなモビルスーツ――アストレイブルーフレームDと対峙する。ブルーフレームDが両腕のブレイドラグーンを振り上げ、脳天から一撃を見舞わんと薙ぎ払った。それをストライクJOKERはビームシールドで受け止め、頭部バルカン砲を掃射する。ブルーフレームDはすかさず距離を取り、何かを空中へと解き放つ。エスには何が起こっているのか分からず、ビームピストルを連射しつつ相手の動きを封じる事にした。だがそれが思わぬ方向へと繋がってしまう。ブルーフレームDが直後に展開した、ビームキャノンドラグーンの砲撃だが、ストライクJOKERの進行方向とは大きく外れた方角に向けられていた。エスは何事かと訝しむが、時既に遅し。
「ビームが....曲がった!?」
光の軌道が突然直角に曲がり、ストライクJOKERを避けて先に進むではないか。そしてエスが振り向いた先には、トライアンフヴィータが。しかもこちらには背を向けている。
「ミナッ!?」
しかし彼の危惧は、呆気なく杞憂となった。背を向けたまま、トライアンフの肘からビームシールドが展開され、見事に奇襲を防ぎきった。
「私を誰だと思ってるの!」
「それもそうだな.....それじゃあ行くか!」
エスは一気にレバーを倒し、ストライクJOKERを突き進ませる。ブルーフレームDのガンブレイドの連射をすり抜け、急角度で旋回して逸れつつ相手の左側へ回り込んだ。ブルーフレームDが即座にブレイドラグーンを抜き放つが、それをエスは狙っていた。
「悪いが、押し通させてもらう!」
眼前へ迫りくるブレイドラグーン。ストライクJOKERは何と、剣の腹に手を置き飛び越え、勢い良く相手の後頭部に蹴りを見舞ったのだ。そのままバランスを崩して落ちていくブルーフレームDを振り返ることなく、エスは次の戦場へと馳せる。一方ミナは、次々と敵を薙ぎ倒しながらスワンとの合流を目指す。
「グフ・フライト程度なら....これで!ドッキングアウト!」
背後からくる殺気に構っている余裕はない。ミナはちらりとだけ見、コンソールをタップした。トライアンフからヴィータストライカーがパージされ、分離飛行に移行した。ヴィータストライカーの下部、アームドアームからビームサーベルが発振する。そして素早く相手の背後を取り、串刺しにして見事に両断してみせた。その間にトライアンフは、ザメルとガンダムマックスターを奇襲する。
「余所見なんて随分余裕なもんだね!」
手首からビームサーベルを射出、素早く着地すると手首を高速回転させながら2機の間へ滑り込む。そして文字通り相手の命を刈り取った。ヴィータストライカーも直後に帰還し、再びドッキングする。だがミナは、目の当たりにした光景に戦慄する事となる。遥か遠く、巨人の影が1つ、2つ――否、10にも20にも数を増やしながら、歩いていくのが見えた。
「何、あれ――」
モニターの解像度を最大にすると、更に信じがたい物を目にした。あの影は蜃気楼などではない。本物のMS、MAだったのだ。サイコガンダム、クィン・マンサ、デストロイガンダム、シャンブロ――枚挙に暇がない。あれ程の物を、どこから引き出してきたと言うのだろうか。挙げ句空を見てみれば、TR-5[ファイバー]の編隊までもが闊歩している。この光景はまさに、この世の地獄である。
「これじゃ、皆が危ない......いや、それどころじゃない....!」
ミナの手は無意識に前へと動く。今度ばかりは自分の力だけではどうにもならない。しかしそうも言っていられなかった。
「始まるよ。戦いが――人類の未来を選ぶ、最後の戦いが」
月の軌道上で、リボーンズガンダムに乗って徹は地球で起こっている惨状を監視していた。世界各国の部隊が送り込まれ、その上プレイヤー達までがこの戦争に乗り込んだ。全ては己が理想とする、"優良種による社会の管理運営"の為。自ら起こした仮想世界大戦でさえ、その優良種たる人間を選別する、作業の一つに過ぎない。
「あ〜あ〜あ〜あぁ。何てこった.....こりゃ本当に地獄だな」
グロックは戦場を眺め、呆れたように笑う。エミとリゲルに殲滅に向かわせ、グロック本人は暇を持て余していた。無論、こちらへ向かってくる敵は容赦なく、かつ手間を掛けずに屠殺しているのだが。アラートが鳴り響き、グロックは「ようやくか」と右に目を向けた。赤と白の旋風が直ぐそばまで来ている。
「あのカワイコちゃんか。いいだろう、暇潰しには丁度いい」
対するF91-Mのスワンは、ウヴァルスタークを目前にしてペダルを強く踏み込んだ。リアアーマーから装備したビームサブマシンガンを放ち、足止めを試みる。案の定ウヴァルスタークは肩のシールドで受け止め、F91-Mはミノフスキーブースターを展開、更に加速をかけた。
「はぁあああああああッ!!」
ビームサブマシンガンを放り投げ、居合に構えたグラビティエッジを振り抜く。シールドと激突し、ガキィン!と甲高い音が乾いた空に吸い込まれた。
「やれやれ。お前さんも真正面から来るしか能がないのかねぇ」
「私はいつだって、正面からぶつかって乗り越えてきました!あなたの様な人とは違います!」
F91-Mの頭部バルカン砲とメガマシンキャノンが火を噴く。ウヴァルスタークは相手の腹を蹴りつけ、強引に反撃を止めるとリアアーマーからチェーンソーを手にする。
「だったらこの俺も乗り越えて見ろ!」
チェーンソーを構えながら駆け出し、真横に一閃した。それをF91-Mは、グラビティエッジで受け切り押し返して、懐へ滑り込むと逆に居合で斬りつけた。だがウヴァルスタークも既の所で刀身を掴んでおり、両者ともに先手を打てずに終わる。
「前より随分動きが良くなったが.....まだまだだなぁ...?」
「こんな時にあなたは、何のつもりですか!」
「おいおい....素直に評価してやってんのに、それは無いんじゃないのか?」
F91-Mの腹に膝蹴りを刺し込み、左手のアイアンネイルでアッパー気味に劈く。
「ぐっ....!まだまだぁあ!!」
スワンの目には未だ闘志の炎が揺らめいていた。ミノフスキーブースターの出力を一気に引き上げ、光の翼を羽ばたかせ飛翔する。戦争を終わらせる為に、何より大切な者達を守り通す為に。この刀は、彼女自身の心を表していた。