※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius   作:JNEXEL

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File.55 PROMISEと黒い猫

ガンプラダイバーズは、未だ嘗て無い惨状に見舞われていた。バトルエリアでは原作世界以上に混沌とした戦火が、そして交流広場ではプレイヤー同士の闘争が繰り広げられている。誰も彼もが己が為に、血を血で洗う争いに乗り込んでいた。仮想世界でなら、本当に人が死ぬ事はない。その事実が、人の理性という箍を外してしまうのだろう。もはやガンプラダイバーズは、ゲームと呼ぶには余りに定義から逸脱した存在となっていた。この現状を終息させようと動く者は、ブルームーンとA.ν-Tを除いて他に居ない。

 

「まだ....まだまだぁああああッ!!」

光の翼を羽ばたかせ、F91-Mは天を駆ける。グラビティエッジにエネルギーが集束し、刃に青い輝きが灯る。急降下しては斬撃を加え、ウヴァルスタークとの戦いを優位に進めようと仕掛ける。だが当のグロックは焦り一つ見せず、未だに余裕を崩していなかった。

「一撃一撃が重いのは気のせいじゃなさそうだな?その剣に秘密があるってんだろ?」

一太刀を全てチェーンソーで弾き返し、上空へと飛び上がる。そこへF91-Mが突撃、袈裟斬りを見舞った。しかし。

「自分の腕を....?まさか!?」

スワンは弾かれるようにレバーを引き、グラビティエッジを止めた。グロックはその瞬間を見逃さなかった。

「お前の太刀の性質、良ぉく分かったよ。その刃には、重力を制御する機能があるんだろう?」

グロックの洞察に戦慄を禁じえない。しかしスワンはそれを表に出すまいと、呼吸を整える。今ここで何もかも看破されてしまっては、やられに行っていたも同然だ。

「黙っちまったって事は図星か。ま、どの道これで攻略法が出来そうだから、別に構わねぇんだけどよ」

ウヴァルスタークのチェーンソーが唸りを上げる。30000rpmを超える回転数によって発せられる、衝撃波は地面を削り取るには充分すぎた。

「ハザード」

グロックの宣言と同時にウヴァルスタークの全身を、黒い瘴気が包み込んだ。ゆらりとした動作から一変、電光石火の如く猛スピードで接近しチェーンソーを突き出した。F91-Mは咄嗟に、両腕のビームシールドを重ねがけして受け止めるが、チェーンソーの回転速度と剣圧に次第に押され始めた。

「ぐ.....うぅ.....!だけど、まだ、戦える....戦わな、きゃ.....!」

ミノフスキーブースターを最大点火、光の翼の出力を限界まで跳ね上げる。ズォアアアア!!とミノフスキー粒子の翼が、寧ろ嵐と言うべきだろうか。凄まじい勢いで噴出しF91-Mの背中を押してゆく。そして。

「視えた――」

スワンの脳裏に一滴の雫が落ちるビジョンが映り、彼女の感覚は鋭敏に研ぎ澄まされていく。不思議と今までの恐怖や焦りは、あっという間に晴れ渡っていた。これを形にすれば、きっと目指すべき高みへと到れるのではないか――そう確信するには、時間は必要なかった。

「全力を以て――貴方を討ちます!どうかご覚悟をッ!」

グラビティエッジを包む青い輝きが、より一層激しさを増した。やがてビームシールドもその形を変え、光の翼と同質の性質を手に入れウヴァルスタークのチェーンソーを、瞬時に粉砕してしまった。

「これは.....!全く予想外な進化だが、これだから面白い....人間ってのは!ハハハハハッ!!」

これ程の現象を目の当たりにしてもなお、グロックは微塵も不利を悟らなかった。F91-Mの光の翼が薙ぎ払われ、ウヴァルスタークは吹き飛ばれるもののライフルを撃ち返しながら、空中で受け身を取って着地する。だがF91-Mはすでにウヴァルスタークの背後へ回り込んでおり、グラビティエッジで突きを放った。ウヴァルスタークがシールドを向けて弾こうとするが、光の翼に阻まれ、逆にジョイントごと切り飛ばされてしまう。挙げ句、右肩のナノラミネートアーマーも焼け爛れており、その出力の異常なまでの強さをありありと示す結果となった。

「あんなもんがあったら攻略法どころじゃねぇな、こりゃ」

「せいやぁああああああ!!!」

だがグロックはこの時初めて、心底驚かされる瞬間に出くわす事となる。F91-Mから突きの一撃を受け止めたと思いきや、二の太刀、三の太刀が同時に襲いかかりウヴァルスタークをダウンさせたのだ。ビットの類を飛ばしているようには見えなかった。何故この俺が今の攻撃を見抜けられなかったのか。僅かながらであるが、スワン・マスターピースを警戒せねばと思わせるに至った。

「この女.....ただの可愛子ちゃんじゃ済まねえ、腹ん中に獅子でも飼ってるな、アレは」

グラビティエッジの追撃を受ける前に起き上がり、ライフルを放ちよろけさせると、左手のアイアンネイルを素早く振り下ろし斬撃を加えた。そこから立て続けにライフルを接射、後ろ回し蹴りを叩きつける。だがライフルが腹部に押し当てられる刹那、F91-Mは既に上空へと移っており、脳天から一閃。雷光をまとった袈裟斬りを見舞った。強力無比な一撃は、流石のウヴァルスターク言えど完全には耐えきれなかったようで、顔面に深々と亀裂を刻み付けられていた。

「うぐっ.....!?こ、この俺が....!?」

「今の私には視える.....!どうすれば勝てるか、その"道"がッ!」

スワンの両目に紅い光が灯る。どこに刃を通らせれば確実に仕留められるか、線となって相手の機体に浮かび上がって見える。絶剣とは是則、明鏡止水の境地に至る道程に他ならぬ。想う者達の為に。そして顔も分からぬ全ての命の為にこの剣が振るわれるのなら、その心は人を超えた領域へと踏み出すのだ。

「秘剣――"桜嵐次元斬"」

グラビティエッジを居合に構え、スワンの瞳に映る"線"を的確に捉えられる、"間"を見計らい一閃。光と稲妻、そして桜の嵐を纏った紫電は空間諸共、ウヴァルスタークを断ち切った。やがて空間は元通りに戻るが、ウヴァルスターク自体はハザードによる強化を超越した、途方も無い力の衝撃を受けて、装甲を吹き飛ばされながら海面に叩きつけられた。ミナも合流しようとするが、空間ごと斬られる瞬間を目の当たりにし呆然として虚空を見上げる。

「え......今の、何だったの....?ファイバーまでやられてるし....!?」

 

スワンは海に横たわるウヴァルスタークが、いつか起き上がるのではと観察する。装甲がほぼ消えたとは言え、フレームは深い亀裂が入っただけで五体満足である。あれだけの攻撃を受けていながら、完全な撃破に持ち込めないとは、ウヴァルスタークのタフネスさは計り知れない。様子を窺うこと数秒、ウヴァルスタークがムクリと起き上がった。

「今回ばかりは俺の負けだ、お嬢ちゃん。ここまでとは全く予想外だよ。それはそうと、急がなくていいのか?」

「どういう事なのですか」

スワンが静かに問うと、グロックは再び不敵な笑みを浮かべる。

「そりゃあ、シューインが真っ直ぐにお前らの艦に向かってんだぜ?お前がまだやりたんねぇってんなら、引き受けてもいいが他の奴が近づいてるから分が悪い。それじゃ、俺はここらで引かせてもらうぜ.....Ciao」

ウヴァルスタークが瘴気に包まれ、やがて消失した。それとほぼ同時、クレッセント・ブルームーンからの通信が入って来た。

「誰か近くに居る奴は合流してくれ!リョウマとA.ν-Tの連中で抑えてるが、まだ手が足りない!至急援護に回ってくれ!」

ウォレスの切迫する声に、スワンは本能的に危機を察知した。

「こちら、F91-Mのスワン・マスターピースです!直ちに向かいます、それまではどうか持ちこたえて....!」

F91-Mは既に限界状態だった。しかしここでダイブアウトして再合流するなど、悠長な事はしていられない。スワンは疲労で震える己の身体と機体に鞭打ち、救援へと急ぐのだった。

 

1時間ほど前。ガンプラダイバーズの地下――8つ程あるSECTORの内の一つ、SECTOR2。ジプシーはこの地に一人で潜入していた。パスの権限はまだ生きているらしく、何ら警備装置が起動すること無くトントン拍子に、奥へと進めていた。裏切り者の自分のパスを残したままにするなど、セキュリティがおざなり過ぎるのではと考えたくもなる。

「ここからだったのね....いつも入り口が変わるのは考え物、かしら」

真っ白なハッチの隣りにある、リーダーにカードを通し解錠した。真っ暗な通路を通り抜けた後、突然倍以上の道幅の"橋"に出た。景色はまるで、SF映画に出るような地下都市のそれである。ただ、人気は完全に消えておりここを通るのは巡回中のドローンと、自分だけ。20分も歩き、ようやく対岸に到達した。ハッチを開き、SECTOR-ZEROへと足を踏み入れる。

「ここがSECTOR-ZERO.....」

しかし彼女の侵入にいち早く気づいた者がいた。

「ジプシー・ノアール。お前がここに来るのは分かっていたぞ....クククッ」

薄笑いを浮かべながら、こちらに銃口を向けてるのはシューインだった。ジプシーはゆっくり両手を挙げ、さも平静を装い交渉を始める。

「少し前まで協力関係にあったと言うのに、これは手酷い歓迎じゃありません?」

「裏切り者の分際で何を言っている?本来ならばお前はあの場で殺されていたんだ。分かっているのか?」

「私は初めから、裏切ってなんていません。それに、一応契約はまだ残っているようですし。一定の誠意....と言う形でこれを受け取って頂けませんか?」

そう言うとジプシーは、スーツの胸ポケットから一本のUSBメモリを取り出した。それをシューインは試すような顔で手にし、彼女を強引に連れてコンピュータの前へと向かう。USBメモリのデータを読み込むと、見覚えのない設計図がモニタに表示された。

「こ〜れはぁ?」

「ビルドスパークルガンダムの、新装備のデータよ。向こうは私が戻ることも考えず、これのテスト要員に選んだものだから、これを渡されたの」

「ほ〜ぅ?高速戦闘に特化したウェアタイプ装備とは.....実に水崎らしい....ハハッ!ヒャハハハハハハハッ!!」

設計図を端から端まで舐めるように読み、シューインは発狂したように笑う。彼はいつからここまで狂気に染まっていたのか、ジプシーは知る由もないが元からそれに近い人間だったな、と自分を納得させた。

「ご満足頂けました?その装備は完成している様ですが、今回が初の実戦投入になるとの事ですが」

すると、シューインは獰猛な笑みを向け何も言わずに立ち去ってしまった。ジプシーはそんな彼の背中を見送り、眉間を押さえる。

「本当に何もかも、トントン拍子ね」

 

「くっ、何て数だ....!援護が増えないと対応しきれねぇぞ!」

リョウマもビルドスパークルでクレッセント・ブルームーンの護衛に出たが、途方も無い数の軍勢を相手取る事になってしまい、困惑した。カイ達の加勢により少し持ち直すが、所詮は多勢に無勢である。また状況が悪化するのは目に見えていた。

「ったく....!お前の協力者と言う奴らはどうしたんだ!」

カイはヴィダールフェンサーオリジンを駆り、向かい来る敵共に対し、無双じみた戦いを繰り広げる。

「弘もスワンも先行して道を開いてもらってるし、舞夜は手が足りてない所に向かってんだ!ジプシー・ノアールはどこに行ったか知んないけど!」

ビルドスパークルは右肩にハイメガカノンをビルド、すぐさま最大出力で薙ぎ払った。

「おい、危ねえだろプロフェッサー・リョウマ!ちったぁこっちにも気をつけろ!」

アントニオからの怒号が飛ぶが、リョウマは小さく「悪い」とだけ返して更に敵陣の奥へと進撃する。

「ビルドアップ!」

ビルドスパークルの右手、バクゥヘッドを形成し両側面からビームサーベルを発した。そして手首をグルグルと高速回転させると、自らもムーンサルトの如く飛び上がり、軌道内にいる敵を一層した。

「どいつもこいつも、深く考えずに戦いやがって....!」

「どっち見てんだコラァ!!」

どこからか声が聞こえ、リョウマはぎょっとして振り返った。

「何だ!?」

何と背後から真っ赤なデスティニーガンダムが襲いかかってきた。ビルドスパークルは左へロールしてアロンダイトを避け、フロントアーマーにビルドしたシザーアンカーを放ち拘束する。

「お前らはこの戦いで、本当に願いが叶うと思ってるのか!?こんな状況が正常じゃないって、何で分からないんだ!」

「ぁあ!?そんなの知った事か!全員ぶっ殺して、生き残りゃあいいって運営が言ってんだ!そんでテメェらを殺っちまえば、更にボーナスが作ってんだからよぉ!!」

「善悪の区別もつかないのか、お前は!」

「だからぁああああ、知らねぇつってんだろ!」

業を煮やしたデスティニーが、左手をグワッと広げ掴みかかってきた。掌底から光が漏れ出ている。リョウマはすぐに危機を察してビルドスパークルをステップさせて回避した。そして空振りした左腕を掴み、圧し折る。

「これ以上やられたくないなら、ここから立ち去るんだな」

ビルドスパークルの双眸がギラリと輝く。デスティニーのダイバーは硬直し、わなわなとビルドスパークルを凝視した。戦意を奪えたのならそれだけで充分である。ビルドスパークルはデスティニーを転ばせると直ちに行動を再開した。だが、その足を止めてしまう出来事に遭遇する。

「ネオ・ジオング....!?ノイエ・ジールにシャンブロまで....奴ら、何をする気なんだ....!?」

巨影がぬっとビルドスパークルの目の前を通り過ぎる。しかし、シャンブロがぐるりと向きを変えビルドスパークルを視界に捉えた。

「く、来る.....のか!」

ビルドスパークルは早急に、ビームマグナムとコピペシールドをビルドし、戦闘に備える。だがそうする間もなくシャンブロがリフレクタービットを展開、本体と共に全速前進した。両肩のメガ粒子砲を薙ぎ払うように放ち、時折リフレクタービットによる反射を利用して、空中にいるビルドスパークルを叩き落さんと迫る。ビルドスパークルはその軽快な機動性をフルに活かし、四方八方から襲い来るビームを掻い潜り、ビームマグナムの照準を合わせた。

「弾は5発....一撃で仕留めねえと泥沼だぞ...!」

リョウマの視線が狙撃用スクリーンに集中する。ところが、発射直前になって素早くレバーを引いたのだ。シャンブロの背部から夥しい数のミサイルが解き放たれ、ビルドスパークル目掛け突進していくではないか。ビルドスパークルは急速後退しながらビームマグナムと、バックパックにビルドしたジャイアントガトリングガンを駆使し、ミサイルの暴風雨を防ぎきった。

「ビームマグナムを見てりゃ、そうするよな....!ビルドアップ....!」

シャンブロの前面を覆い尽くす程の、サイコフィールドが生成される。リョウマはそれを見るや舌打ちし、ビルドスパークルのバックパックを換装した。白いフレキシブルバインダーを広げ、圧倒的な加速力を以てシャンブロの上空を飛び回る。両足にも追加でシナンジュ・スタインのスラスターユニットを形成し、機動力を更に底上げして撹乱に徹した。

「念には念を入れてやる!」

更にはミラージュコロイドまで起動させた。この行動は功を奏したようで、シャンブロが目茶苦茶な方向にミサイルやメガ粒子砲を吹き付け、容易く背後を取る事ができた。だがある重大なミステイクも犯していた。シャンブロが戦場の中心を迂回しようとする、クレッセント・ブルームーンを目撃したのだ。するとビルドスパークルには目もくれず、踵を返して艦を追いかけ始めた。

「なっ.....!?最悪じゃねえか....!」

リョウマは唇を噛み、即座に機体を飛翔させる。と同時、シルエットフライヤーとパーフェクトパックを合体させた物を造り上げ、直ちにクレッセント・ブルームーンへと急行させた。ビルドスパークルはビームマグナムから連結状態のツインバスターライフルに持ち替え、シャンブロの進行方向の僅か先に向け、最大出力で大地を穿った。ホバリングによる移動に依存する機体であれば、それが大型であれば有るほど非整地の移動が行えなくなる。シャンブロのように地面スレスレを浮いて移動する機体ならば、尚更だ。案の定、シャンブロは足を止めたが、充分に艦を落とせるだけの間合いに入ってしまった。首を大きく振り上げ、吻を獲物に食らいつく鰐の如くガバッと広げ――。

「間に合ってくれ.....間に合えッ!!」

望みをシルエットフライヤーに託し、リョウマは天を仰いだ。

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