創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
弘とスワンから追及の目を向けられるが、尚もシャノアールの視線はビルドスパークルの戦いに注がれている。
(後少し、後少しなのよ.....それまで耐えて....!)
モノクル型のデバイス越しに映る情報を見つつ、彼の戦いの行く末を祈った。
時は遡ること3時間前。ハザードに関する一つの結論を導き出した、リョウマと鉢合わせした時である。彼に頼まれる形で半ば強引に、ブルームーンから離れ別のバトルエリアにやって来た。
「やっと新型機をお披露目できると言うのに、まさか実験台代わりにされるなんて」
ゴールドフレーム天のマガノイクタチを、ストライカーパック化させた"マガノイクタチストライカー"を装備した、ブリッツガンダムが着地する。"SEED"のバリエーション機で言えばネブラブリッツなのだが、シャノアールの搭乗するそれはトリケロスを持たず、その代わりにノアールロータス時代から愛用する、黒い刀身の長剣と左腕にはビームキャノン兼ビームサーベルが、そして腰からは長い尾が伸びていた。ブリッツガンダムシャノアール。それがこの機体の名前である。
「まぁそう言うなよ。舞夜にやらせるよりはリスクが少ないんだ」
ビルドスパークルもほぼ同時のタイミングで降り立つ。リョウマの言う事が分からないでもなく、シャノアールは軽く嘆息した。
「成り行きとはいえ、分かっていましたがそこまで信じて頂けないのですね」
「今の所は、な。今の状況じゃ呑気に歓迎なんて出来る感じじゃねぇから、まぁ.....さて、実験を始めようか」
リョウマは早速、コンソールパネルを操作した。指は迷わずハザード起動のアイコンをタップする。ビルドスパークルから黒霧が吹き出すのを見たシャノアールは、何をこれから始めようというのか見当もつかず、身構えた。
「まさか....!?」
「違うって....!俺がハザードを使ってて気づいた事があったから、確かめようってんでしょうが。よし、少し近づいてみてくれないか」
ビルドスパークルが手招きする。シャノアールは恐る恐るレバーを前に倒し、ブリッツシャノアールを前進させた。一歩、二歩。そしてビルドスパークルの目の前に立った瞬間。
「うっ.....!?これは?」
バチッと弾かれる衝撃にシャノアールはビクリとした。ビルドスパークルは一歩下がり、ハザードを解除した。
「ダメージが入っているな?」
「え、ええ.....極微量ですけど」
「これで確定した。ハザードの霧は余剰エネルギーの塊だ」
リョウマの話を解せず、シャノアールは思わず聞き返す。
「どういう事なんですか?」
「ハザードを使った奴との戦いを始めてから、奇妙な違和感を感じてた。ハザードによる強化以上のダメージを受けてたもんで、気になってリプレイ見返してみりゃドンピシャだったんだよ」
「それをわざわざ確かめる為に、私を呼んだのですか?」
内心酷い男だと思いながら問うた。するとリョウマは「それじゃ本題に入ろう」と指を鳴らすのだった。
「リプレイの中にある、ウヴァルスタークとの戦いを全部見たんだ....そん中に、触れていないのにダメージを与えている場面があった。そんで、ハザードの特性について調べて見りゃ分かったのさ。あの霧は、ハザードによって生まれた余剰エネルギーだとね」
サンクトペテルブルクでの戦いが、全ての決定打となっていた。ハザード起動後のウヴァルスタークに対し、ドラグハートチャージドが殴りかかったものの霧に触れた瞬間に、弾き飛ばされていた。やはり霧による物で、リョウマはそこからハザードそのものを更に解析した。その結果、ハザードによって生み出されたエネルギーが噴出した物であると分かったのだ。ハザードを搭載する機体には、スペックに余裕を持たせなければならない。暴走に関する、本当の理由が余剰エネルギーにあるとしたら。ならば霧となって放出されるエネルギーを利用できれば、暴走の危険性を減らせるだけでなく機体その物の強化にも使えるのではないか。そして彼が導き出した結論が、今ここに現れる。
「さぁ、天っっ才の研究成果をここで披露するから、刮目してくれよ?ハザードビルドアップ!」
再びビルドスパークルから黒霧が噴き出される。更にリョウマはハザードの出力を最大まで押し上げた。
「オーバーフロー!」
「え.....自分から暴走させて.....?」
霧がさらに強くなり、ピリピリとした感覚がシャノアールの肌に刺さる。一体これから何が始まろうというのか。リョウマはと言うと、コートの中に潜ませていた操縦桿型のデバイスを取り出し、右手側のレバーと差し替えた。
「行くぞ.....!スマッシュブラスター!!」
ビルドスパークルが天に手を向ける。やがてどこからかパーツが集まりだし、掌の上で合体していくではないか。それだけではない。ビルドスパークルの四肢が粒子状に霧散し、それに代わる形で新たな鎧が現れる。それらはビルドスパークルとドッキングすると、ハザードの魔の霧を見る見るうちに吸い上げてしまい、装甲が真紅の光を帯びた。背面にもマントを模したウイングバインダがビルドされ、手元で作り上げられた物体も剣の形を成した。最後にビルドスパークルの頭部アンテナとツインアイが、赤一色に染まり"変身"が完了した。ビルドスパークルのあまりの変わりように、シャノアールは息を呑む。
「ハザードを、こんな形でモノにするなんて.....天才って話は嘘じゃなかったのね....!?」
「嘘とか失礼すぎるでしょ....ったく。ハザードのエネルギーは機体で抑えられなかったら、ダイバーにだって作用するみたいだからな。だったら強化パーツに全て回してしまえば、フルにその力を発揮出ると睨んだんだよ。....さて、唐突だが君に頼みがある」
「何でしょう?まさかこのまま模擬戦をやれとか言うんじゃ....」
「そんな危険な事は出来ねぇよ。奴らの所にこれの情報を流しといてくれないか」
「は.....?ちょっと待って下さい?今、何と....?」
リョウマの提案にシャノアールは耳を疑う。しかし彼の口振りからするに、全くの冗談ではなかったようだ。
「みすみす自分を不利にして、どうするつもりですか?」
「いや、これは俺達が更に優位に立つために必要な事だ。"片方"の情報を向こうにやれば、そっちの対策に集中する。その後で俺が"もう片方"を使えば確実に有利を取れる。ただ、俺がやるのは単に時間稼ぎにしかならねぇけど」
「時間稼ぎ?何かあるのかしら」
「アーネストに拉致されたままのガンプラダイバーがいる。しかも自我データ改竄までされていると来た。それだけじゃあない、俺と同じダイバーズの元開発者もSECTOR-ZEROに閉じ込められてるって話だ。一度舞夜が調べていて、いつか実行に移そうとは思ってたんでね」
話は現在に戻り、SECTOR-ZEROにて。舞夜は開けたままになっていたハッチから内部に侵入、左手首に埋め込まれたデバイスを使い、ミラージュコロイドを起動した。そして壁に沿う形で走り生命反応のある場所を目指す。
(あれが....アーネストの切り札なのか....?時計のようにしか見えない....)
ついでに左目のカメラモードを作動させ、終末時計を映像として記録した。やがてようやく生命反応が近くに現れ、舞夜は素早くそこへ滑り込んだ。しかし潜入した部屋は、彼女の想像を遥かに超えて凄惨な風景を見せた。廃病院の手術室を思わせる内装。それに加えそこら中に血痕やガラス片、刃物が散乱していた。
(こんな所に、人がいるのか.....信じられない....)
左目の機能を、カメラから照明へと切替え奥へと進む。しかし舞夜はある物を目にし、思わず立ち止まった。
「これは.....人.....!?」
ベッドの上で力なく座っている人影に目を疑うが、生命反応がここから発せられている以上、死人とは考え難い。更に近づいてみると、舞夜は大きく目を見開いた。
「直接、体と接続している....!?ここに置かれた鋸は.....彼女の腕と足を切り落とす為の道具...のようだ.....まさか.....この娘が....!」
頚椎から腰にかけてコネクタらしきものが取り付けられており、天井から伸びる管と接続されるのだと容易に想像がつく。しかも足下に転がっていた鋸で、この先で何をしようとしているのか否応無しに突きつけてくる。舞夜は目の前の少女が何者かをサーバーに照会したが、一秒とかからずに返答された。エミ・アルファインスその人である、と――。
ビルドスパークルとエヴィルイフリートの戦闘は未だ続いたままだった。相手に事前にデータを横流しした事もあって、最悪の状況だが上手く耐え忍んで持久戦に持ち込んでいる。
「対策さえ出来てしまえばこちらの物だ....結構持ったんじゃあないか?お前にしては!」
ビルドスパークルの飛び蹴りを往なし、ヒートサーベル2連撃を浴びせて一方的に攻撃を加えていく。リョウマはこれ以上防戦一方のままだと持ち堪えられる自信がなかった。エヴィルイフリートがズカズカと歩み寄って相手の顔面を踏みつけ、襟首を掴んで持ち上げると、ビームニードルを何度も叩きつけた。機動性と運動性に特化した形態故に、純粋な防御力に難がある。シューインにとって、カウンター戦法は苦手では無いからか、勝利を確信する。
「だがそれもここまでだ。やはりお前には世界を救えないか....クハハハハ!」
エヴィルイフリートがゆっくりとヒートサーベルの切っ先を、ビルドスパークルのコクピットに向けた。リョウマは刃先を睨みつつも、形勢逆転のチャンスをひたすら伺っていた。
(早く、早くしてくれよ....これ以上は、やりきれる自信がねぇぞ....!)
リョウマの危機に居ても立っても居られず、弘がドラグハートチャージドを向かわせようとする。
「このままじゃヤベえぞ....テメェ後で覚えとくんだな!」
しかしブリッツシャノアールにまたしても止められ、今回は足払いもされてその場で転倒させられた。弘が抗議してもシャノアールは一切耳を貸さず、舞夜からの連絡を待つ。そして、遂にその時が訪れた。
「シャノアール・エスプリーク。比良坂です。対象の保護が完了、これより帰投します」
舞夜の任務完了の連絡を耳にすると、弾かれるようにビルドスパークルに回線を繋ぐ。
「リョウマ、今よ!保護対象の回収が終わったわ!」
リョウマもその報せを受け、安堵の息を漏らした。
「ようやくか....長かった....なッ!!」
ビルドスパークルが突然エヴィルイフリートの腹部を蹴り飛ばし、スマッシュブラスターで斬りつけた。突然の挙動変化にシューインは苛立ちを募らせる。
「何を考えている....!お前の負けは確実なんだぞ?」
「それはどうかな?」
リョウマはハザードエクステンダのモードを切り替え、再度スイッチを押し込んだ。するとビルドスパークルの背後からファクトリー型の、巨大な装置が現れ内部より、やや大型のビットが飛び出してきた。それらは主を守るが如く一斉に砲撃を始め、エヴィルイフリートをダウンさせる。
「さて、これがもう一つの力だ。本邦初公開だから、大盤振る舞いしてやる!」
ビルドスパークルが纏っていた真紅の鎧が弾け飛ぶ。すると周囲に漂っていたビットがバラバラに分解を始め、ビルドスパークルの四肢フレームと合体した。真っ赤な外見から一変して、紺碧の外骨格を身に纏うその姿は、まるで重MSのようだ。スピード特化の紅が"ラピッドスマッシャー"ならば、出力特化の碧は"タフネスブラスター"であろう。
「アイツ、また姿変わったぞ....!?」
目まぐるしく姿を変えるビルドスパークルに、弘は目を白黒させた。スワンはリョウマが何かを待っていたのではないか、と思うようになりちらりとブリッツシャノアールを見た。一方のシャノアールも彼女の視線に気づき、ネタばらしを始める。
「ビルドスパークルガンダム"タフネスブラスター"。攻撃力と防御力に特化した、ハザードの派生形態、らしいわよ。向こうに流したのはもう片方の情報だけなの」
「え.....」
「彼に頼まれたのよ。ラピッドスマッシャーの方のデータを向こうに流せ....ってね。比良坂さんからの、SECTOR-ZEROで拘束されてる人がいるって情報があったから、それを助け出させる為に時間稼ぎが必要だった。だから私がアーネストにデータを寄越して、長期戦に持ち込めるよう仕組んできたって訳。いくら信用に乏しくても、助けてもらった恩を忘れる女じゃなくてよ」
「じゃあこれ、全部リョウマさん達のシナリオ通りって事ですか....!?」
「ええ、勿論。私も元々、彼らのやり方が気に食わなかったし....だからちょっとした仕返しが出来て良かったわ」
その言葉通りに上手く行ったので、シャノアールはエヴィルイフリートに冷たい笑みを送った。
「その程度の変化で勝てると思うなよ!何度同じ事を言わせる気だ!」
エヴィルイフリートが素早くヒートサーベルを振り下ろしたものの、ビルドスパークルは微動だにせず全く攻撃が通じていなかった。
「何ィ....?」
今度はビームニードルを集束させ、拳を叩き込むが結果は同じ。ビルドスパークルには傷一つ入らない。
「効かないのは当たり前だ。ハザードを暴走させてるんだからな!」
ビルドスパークルがヒートサーベルを叩き壊し、両肩に装備するキャノンを至近距離で放ちエヴィルイフリートを吹き飛ばしてしまった。これには勝ち誇っていたシューインはとうとう業を煮やし、自らもハザードを暴走させる。ビームバルカンを掃射しながら飛び上がり、ダートビットを交えた弾幕でビルドスパークルを封殺しようとする。しかしリョウマにはその手が読めており、一切の動揺を見せなかった。ビルドスパークルの両ふくらはぎから、履帯が展開。そのまま大地を駆け、空から降り注ぐ殺意の雨を掻い潜りスマッシュブラスターと両肩のキャノンを撃ち返した。ヒートサーベルで砲弾を斬り潰そうとするエヴィルイフリートだが、余りの威力に刀身が耐えられなくなり、逆に撃ち落とされてしまった。
「貴様ァ.....!!」
落とされても尚向かい来るエヴィルイフリート。ヒートサーベルの一太刀をビルドスパークルは受け流し、即座にラピッドスマッシャーへ変身。素早く背後に回り込みスマッシュブラスターで打ち上げ、再びタフネスブラスターに。そしてスマッシュブラスターと両肩のキャノンにエネルギーを集束させる。追加で両足とリアアーマーにもミサイルポッドをビルドして、一斉に解き放った。
「オーバーフロー・シュート!!」
極限まで高められたエネルギーと、無数の砲弾がエヴィルイフリートに襲いかかる。シューインはこれを全て弾き返そうとするが、予想を遥かに超える弾幕量に加え、その弾の速さに反応しきれず機体をスクラップにされてしまう。
「こ、こんな物が.....ジプシー・ノアールからのデータには無かった....!ぐ.....あの女狐め....!」
シューインはシャノアールに憎悪のこもった視線を向け、歯軋りした。しかも奥歯にひびが入る程の力で、だ。
「お前はまんまと俺達にはめられた訳だ。もう諦めるんだな....あ、おいっ....!?」
リョウマがとどめを刺そうとする寸前に、エヴィルイフリートがバトルエリアから姿を消していた。仕方なくハザードエクステンダを取り外し、元のグリップと差し替えてハザードを解除する。戦いが一段落した事もあり、自分が汗まみれになっているのにようやく気がついた。体も力を使い果たしたからか、ほとんど動けない。
「ハザードを完全制御するったって、まったく調整してなけりゃこうなるよなぁ....」
ドラグハートチャージドとF91-Mがこちらへやって来るのが見え、リョウマは安心するのと同時に気を失った。ビルドスパークルが一切動かなくなり、弘が何度も呼びかけるが応答が無い。
「おい、おい.....!どうしちまったんだよ!また暴走するってんじゃねぇだろうな....」
しかしF91-Mがビルドスパークルに触れ、彼の状態が分かるとスワンは安堵して胸を撫で下ろした。
「気を失って、寝ているみたいですね。良かった....!」
「あ?マジか?んだよ脅かしやがって〜....っしゃ!そろそろ戻ろうぜ、もう皆も居んだろ」
「はい!....あと、シャノアールさんには後で謝っておきましょう....」
「いや、謝るのはあっちだろ.....何にも知らねぇ俺たちを騙してよ...あぁもうどう考えりゃいいのか分かんねぇぞ」
遠くからビルドスパークルを眺めているミナは、無意識に「ヒーロー....」と呟いていた。どうして彼は、元凶の一部だと糾弾されても尚戦い続けられるのだろうか。世界中が敵に回っているこのダイバーズで、まだ何かを信じていられるのか。今の自分には、友人達の力になりたいと言う思いだけしかない。だが彼は、リョウマ・アルキメデスはそれを遥かに超越して、世界を信じて戦っている。何が彼を前に進める力になっているのだろう。ただ一つ、ミナにも分かる事はリョウマ・アルキメデスが、ガンプラダイバーズと言う"もう一つの現実"を救うヒーローになる、その未来だ。
「あなたも同じ事を考えてるようね」
ブリッツシャノアールがトライアンフヴィータの真横を歩き、この場から去った。