創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
弘達がクレッセント・ブルームーンに帰還するが、艦内は何故か人気を感じない程の静けさに包まれていた。
「誰も居ねぇのか?滅茶苦茶静かだぞ....」
「却って不気味ですね....取り敢えずブリッジに行きましょう」
スワンも各員のMSが着艦しているのを確認しながら、ブリッジへと歩く。人の往来が常に行われている印象があるだけに、不気味である。リフトで上りブリッジへの通路に出ると、グラハムが居た。彼もスワン達の到着に気づき、顔を上げる。
「君達で最後という訳だな」
「他の奴は皆居るんすか」
弘の質問に答える形で、グラハムは右の部屋を指差した。
「あの部屋に集まっているが、余り騒がないようにな」
「グラハムさんは行かないっすか?」
「結論を聞いたのでね。今はそれで充分だろう」
一足先にスワンが扉を開けた。大凡ブルームーンの面々の大半がそこに集まっており、物々しい雰囲気が立ち込めていた。一先ずすぐ近くにいたミサに声をかける。
「これ....どうしたの?」
「何でも黒さんの知り合いかも知れないんだってさ....んで、あっちにいる....教授の隣の人が、昔ZeuSに居た人だとか〜....」
「よしっ....これで浄化は完了っと....!後は丸一日安静にしてたら大丈夫!」
門松と同じく白衣を着た女が、エミの全身に取り付けていた電極を外した。
「しっかし、比良坂が救助したのが彼女だけじゃなくて、お前もだったとはなぁ〜...永峰ぇ...」
門松がエスに解析結果を記録したファイルを渡しながら、呆れ半分に溜息をつく。永峰、と呼ばれた女も頭を抱えながら椅子に座った。
「そう言わないでくださいよ〜....てか舞夜ちゃんが生きてるなんて、あたし聞いてないし....諒馬が何かやってるってことも!」
二人のやり取りを呆然と聞いているエスだったが、いつまでも要領を得ないままではいられず、口を開く。
「あの....さっきから気になってたんですけど、あなたは一体?」
永峰がキョトンとした顔で自らを指差すので、エスはぎこちなく頷いた。
「あーそっか、自己紹介まだだったよねぇ....私は永峰 亜樹子。今はアーネストの技術顧問....要はダイバーズの管理運営をしています!」
思いがけない肩書の人物だった事に、ブルームーンの面々は驚きを隠せなかった。リタは表情をますます険しくし、門松に目を向けた。
「でしたら、どういう経緯でこの方がここにいらっしゃるのか。説明して頂けますか?」
「それは、俺も今から話しておこうと思ってたところだ。永峰はかつての俺や水崎の同僚だ。奴さんほど気狂いじみた才能はなかったが、それなりに出来る技術者なのは違いねえ。恐らくそれを買われてアーネストにヘッドハンティングされてんだろう。そんで、技術部のてっぺんまで担ぎ上げられた挙げ句、徹=アルマーニュの手駒になっちまったって訳さ。どうも奴等が抱えている"最終兵器"っての?アレの調整までやらされたんだと」
「アレ?アレ、とは何ですの?」
リタの問に答えるかの如く、舞夜がミニウィンドウを送った。SECTOR-ZEROを貫く光の柱の中、幾重ものホログラム表示が映された巨大クリスタルである。その物体の中心に、これまた大掛かりな歯車と時計が埋め込まれていた。これは言うまでもなく、終末時計その物だ。
「門松教授」
と舞夜が確認するように問うと、門松も静かに頷いた。
「ああ、よく綺麗に撮ってきてくれたな。そいつが、奴等にとって必要不可欠な道具....奴らは終末時計って呼んでたな。2つ文字盤があるっつぅ事は、どっちかが残り日数だろうよ。こいつが全部ゼロになっちまえば、この仮想世界は一瞬にしてパァ、だ....恐らくな?」
側で聞いていたエスの脳裏に、何かが閃いた。気がつく頃には頭痛が襲いかかり、あわや転倒しそうになった。
(何だ、今のは.....けどこの感覚は....どこかで....いや、俺はこの感覚を知っている...!)
エスは居ても立っても居られず、素早くこの場から抜け出してドックへ駆け出した。途中でグラハムと弘に呼び止められるが、それすらも振り切り階段を駆け下りる。
「君だろ....君なんだろっ.....!?俺を呼んでいるのは....!どこに居るんだ、教えてくれ.....!」
朧げながら聞こえる声が、次第にハッキリしていく。頭が張り裂けそうだ。しかし、懸命に繋ぎ止めようという感情が、流れ込んで来るとその苦痛も平気のように思えてくる。
「レイ......そうだ、俺達が助けるから....それまで生きててくれ.....いや、絶対に生きるんだ....あの人の分まで生きるって決めたんだから....!」
エスはドックのハッチを僅かに開け、吹き込む風に目を細めながらクリスタルの大樹を見つめた。そう。彼女と共に戦い抜いた時の、たった一つの希望の象徴だ。
リョウマの意識が少しずつ鮮明になってゆく。体を起こそうにも、頭痛がして否応無しに諦めてしまう。
「今の.....何だったんだ....俺の身に何が起こってる....?」
彼もまた、エスと同じく何かを感じ取っていたようだった。しかしリョウマはν-Typeではない。とは言え今しがた脳裏に浮かんだ、青い光のビジョンは間違いなく記憶に残っている。それに誘発される形で目を覚ましたのだから、嘘偽りなくリョウマもあの感覚を味わったと言える。
「やる事がたんまり残ってんだ.....いつまでも病人やってる訳には行かねぇな」
ズキズキと痛む頭を押さえつつ、強引にベッドから立ち上がりウィンドウから呼び出した、水と鎮痛剤を服用する。頭痛が治まったところで部屋を出、ブリッジに向かおうとした矢先。エスとばったりぶつかった。
「もう大丈夫なんですね、良かった....!」
安堵するエスだが、リョウマからすると彼の方が具合が悪そうである。
「そう言うお前は吐きそうになってんぞ....何があったんだよ」
「この話を信じるかどうかはお任せします.....」
エスは一呼吸置き、起こった事をありのまま伝えた。
「俺は、彼女の――レイ・ブルームーンの声を聞きました」
しかしリョウマの反応は、エスが思っていたのとは趣が違うものだった。
「確かに俺も、何かが聞こえて目が覚めてんだよ。『私はここにいる』とか....アレは気のせいじゃなかったのか....!皆を集めてくれ。これは大きな前進になるぞ!」
リョウマはエスの肩を軽く叩き、ブリッジへと向かうのだった。
SECTOR-ZERO。徹は既に侵入者の事は気づいていたが、敢えて泳がせる為に手を下さず、最深部にある一室を訪れていた。透き通った木の根らしきものが幾重にも折り重なり、繭のような形を成している。内部にはモビルスーツが1機、鎮座しており根から何かを吸収しながら胎動の時を待っているかのようであった。
「ようやく、この時が訪れたようだよ。停滞するだけの世界を破壊し、新たなる世界を創り上げる.....そう、僕を創世神たらしめる神の器――ロストフリーダムガンダムMk-X」
脈動するが如く、装甲の表面を光が走る。徹の両眼もそれに呼応してぼうっと、翡翠の光を灯した。少し離れた所にグロックが立っており、ロストフリーダムMk-Xを横目で見つつ、これから更に激化するであろう戦争をどう動かすかを考えていた。
「大将のそいつが早目に目を覚ましゃあ、あとは勝手にゴロゴロと転がっていくんだがねぇ....まだかかるもんなのか?」
「全智全能の力を手にする為には、これではまだ足りない方さ。しかし彼女もしぶとい物だね...主人格を失っても尚抗うとは」
徹の表情が険しさを帯びる。
ブルームーンのブリッジに戦闘員の面々が集ったところで、リョウマは全員の到着を待ってからモニターの電源を入れた。最初に画面に映った景色に、ミサとアヤカがあっと息を呑んだ。
「これ、第4の....クリスタルの樹!?」
「そう。JOKER事件の記念碑的な物になってる、クリスタルの大樹だ。この真下は、SECTORに繋がる入り口になっている」
「それは、そうです!けどそれがどうかしたです?」
次にリョウマが画像を切り替えると、全員が目を丸くした。クリスタルの大樹の主根がいくつもの保護層を貫いて、SECTOR-ZEROと繋がっていたのだ。
「だがあそこへは我々は踏み込めない....どうするつもりだ?」
リョウマと門松だけが、権限を持っていると知っていたグラハムが問いかける。すると亜樹子が「はいはい!」と手を挙げた。
「それは、これからこの艦にインストールする、バッチで解決します!ほんの小一時間で用意ができるから、それまで待ってて!」
そう言うとポケットの中からUSBメモリ型の端末を取り出し、ウォレスの席――操舵席のモニタ下にあるスロットに差し込んだ。
「そいつでどうなるのか位説明しろよ」
「そうだった.....!」
リョウマに溜息をつかれ、亜樹子は慌てて皆に振り返る。
「えーっと、このバッチがあればブルームーン全体が開発者権限を持てるようになります。あの先へ入れるのは、開発者の中でもかなり限られた人のみなんですけど、これがあったらセキュリティも簡単に突破できます!」
それを聞いた弘は、何やら妙に明るい顔でリョウマに指差した。
「ま、マジか....よく分かんねぇけど、リョウマより凄えんじゃねぇか?」
「俺だってこの位やれる。けど俺はアーネストの技術者じゃないし、外野が勝手にやるのは犯罪行為だ。てか人を指差すんじゃないよ」
リョウマは弘の手を下ろさせ、作戦の説明に戻る。
「バッチのインストール完了次第、作戦を展開する。戦力を3段構えに配置し連中に対して、不利を背負わない形であの樹を制圧。後はSECTORで奴らを叩けば、大局を制する事ができるはずだ」
「ねぇ、ちょっと待って」
ミナが手を挙げ、席を立った。
「あの下にSECTORと言うのがあるとして、アーネストを倒せたとしても、レイさんとか常岡君の友達がそこに居るかどうか分からないんですよね。その言い方だと、そっちには目が行ってないように思えるんですけど」
リョウマは一呼吸置き、「舞夜」と説明を頼もうとするがミナに遮られてしまう。
「あなたの言葉で、説明してください....!」
エスに座らせられそうになるが、ミナの意思は固くリョウマも答えるしかなかった。
「弘の友達については、奴らの手に落ちたと言う事実から考えれば、SECTORに居るのは確かだろう。そしてレイ・ブルームーンについては....俺の幻聴でなければ彼女の"声"を聞いた。嘘だと思うならエスに聞いてみてくれ、そいつも同じ物を体験してんだ」
「"声".....」
ミナがちらりとエスを見ると彼は振り向きこそしなかったが、頷いた。
「間違いなく、あの人の声だった。彼女は今でもあそこで生きている」
静寂が広がったのを感じ取り、リョウマは咳払いして話を続ける。
「ただ、一度のアタックで成功するとは考えていない。少なくとも3回位トライしないと、突破すら危うい....つまりアーネストを殲滅する勢いでやるって事だ」
リョウマが珍しく"殲滅"と表現した事で、一同がゴクリと唾を飲み込んだ。全てが決まる戦いがこれから始めようというのを、肌で感じ取っていた。
会合が終わって、スワンは一人ビルドスパークルを眺めていた。眼下では、リョウマ達エンジニア陣が何やら慌ただしく動いているが、スワンが滑り込む隙は無いようだ。
「スワン。ここに居たのですね」
突然呼ばれ、振り返ると舞夜が歩み寄って来た。彼女から話しかけられる事が無く、スワンは妙な緊張を感じた。
「私から話しかけたのはほぼ初めてですから、無理もないですが身構える必要はありません。私からあなたに託しておきたい事があります」
「え....?何でしょう?」
舞夜は一度ビルドスパークルを見上げ、視線をスワンに戻した。
「あなたに、彼の事を頼みたいのです」
「彼って....リョウマさんですか?」
「はい。彼がいつまでも生き霊に拘っていてはいけない。今の彼は、私が存在する事で何とか立っていられるようなものです。しかし私の活動可能時間は残り僅か。滅多な事では彼は戦う意志を捨てたりはしないでしょうが.....支えが無くなってしまう。あなたには、諒馬の支えになって欲しい」
下で作業するリョウマを眺める、舞夜の目は心做しか不安が見え隠れしていた。だがスワンには、彼を迷わぬよう導けるのか自信が全く無かった。リョウマの背負っている物が、自分の想像が付かないくらいに大きいのだ。
「私で務まるのでしょうか......今は「はい」とも言えない自分が悔しいです...」
「そんな事はない。あなたは十分、強くなっている。何も代わりをしてくれという話ではなく、あなたがあなたのまま、彼を支えてあげればいいのだから....」
気がつくと、舞夜の手がスワンの髪を撫でていた。機械的な面持ちがこの一瞬だけ、優しさを持ったのを目の当たりにしたスワンは、むしろリョウマの隣に相応しいのは自分では無いのだと、自覚した。だがそれを口にしてしまえば、きっと舞夜を苦しめるだろう。何より、自らのリョウマへの想いをハッキリさせる為にも、この願いを聞く決心をした。
「承知しました。精一杯、その命を果たして参ります!」
突然、艦内を門松の声が駆け巡った。
「えー、突然で悪いが壮行会的なのをやる事になった。今からメッセージ流しとくから、各自読んでから返答する様に宜しく頼むぜ〜....そんじゃ」
プツリ、と音声が切れた。
「相変わらずですね、門松教授は。ZeuS時代から変わらずああ言う感じな所....懐かしい」
「前に研究棟にお邪魔した時も、こんな感じで学生さんを呼んでました...ふふっ」
この瞬間にして、二人の距離は大きく縮まったのである。
そして日が沈み切った頃、堂夢大学仮想世界工学研究棟の屋上にて。
「うわっ.....全員参加かよ」
諒馬がドアを開けると、既に宴は始まっていた。弘がスペアリブに齧りつきながら、大振りに手招きする。
「遅えぞ!早くしねえと肉なくなっちまうぜ?」
程なくして奏と聡も気づき手を振ってくれた。諒馬は照れ隠し気味に笑って、紙コップに緑茶を注ぎ入れた。
「主役は遅れてくるもんだろ?....ったく、こんな大事な時にパーティーやろうだなんて、無神経だな」
「いいじゃねぇか!パァーッてやって一致団結!だろ!?」
弘は笑いながら諒馬の肩を掴んで、ジョッキのビールを口にする。「何だよそれ」と諒馬は返しながら、網の上に肉を乗せた。炭火で炙られた肉からは、香ばしい匂いが。
「よぉ水崎。まさかお前まで来るとはなぁ」
諒馬が肉を取ろうとした瞬間、門松の箸が素早く標的を捉え敢え無く奪取された。
「あ.....!?今のは無しでしょ!?」
「何言ってんだよ。こう言うのは弱肉強食だろ?それはそうと、お前気になる事を言ってたよな。レイの声がどうとかって....黒浦の奴からも聞いてたが、まさかお前もとは....」
「そうやって区切ろうとするのは、あまり褒められた事じゃないですよ。ただ俺は、ありのまま起きた事を話した。それだけです」
「けどそいつは、今の人類には早過ぎる。だから区別するしかない。お前もν-Typeになった。その事実は変わらんだろうさ」
「だったら今の常識を塗り替える。俺がやらなければいけない事は、多分それでしょう」
諒馬と門松が話している所へ、聡もやって来た。
「けどきっとなれるだろうって思ってた。あの世界で人が変われるってのは、証明出来たんじゃないですか」
「....あそこは、仮想世界は人類が進むべき新しい道になる。今の人間には早すぎた代物かと思ったけど、そうじゃないのかもな」
ここに居るのは、殆どがν-Typeと呼ばれる存在だ。しかしそうであっても彼らはこうして、ごく普通の人間として生きている。それが当たり前なのだ。そんな当たり前を守る事が、今最も必要なのだろう。ν-Typeと言う言葉が必要無くなる世界を目指す。この戦いの後にすべき事を見いだせそうになった時である。
「諒馬ぁ!これ、食ってみろよ!超美味えぞ、マジパねぇ!」
いつの間にか離れたと思っていた弘が、桁外れのハイテンションでこちらまで来、諒馬の口元に串に刺さった、肉巻きおにぎりを押し当てて来たのだ。
「うぉお熱っ!?さてはお前酔ってんな....あ、美味い」
「だろぉ!?あの娘が作ってたんだ。よし、また貰いに行こうぜ!すぐ無くなっちまうかも知らねぇしよ!」
諒馬達を遠巻きに眺めながら、奏は美彩お手製の肉巻きおにぎりを口にした。これまでの彼なら、きっとこのような場には来なかっただろう。
「奏ちゃん、隣...いいかな?」
声をかけられ振り向くと、奈都がいた。やはり彼女の手にも所謂"肉巻きおにぎり串"が握られている。予想以上に好評だったようだ。奏がコクリと頷くと、奈都は隣に腰掛けた。
「紗綾ちゃん、もうすぐ合流するみたいだよ。あっちではウェルス....って言うんだっけ。あの人はまだ分からないみたいだけど、作戦が本格化する頃にはなんだって」
「そうなのですか?しばらく見なかったから心配してましたけど、また会えるなら何よりですね....!」
どうやら少し前に聡から聞いていたらしいが、言い出すタイミングが見つからず、已む無く奏に教えた次第だそうである。奏にとっても心強い仲間である二人の帰還は、願ってもない好機であった。しかし最後の戦いが近づくという事は、諒馬との別れも同様に訪れつつあるのを意味する。叶わぬと知っても、決着させたい想いがあった。
「あの、奈都さんは黒浦さんにどうやって想いを伝えたのか、教えて頂けませんか!?」
奏から飛び出してきた、唐突過ぎる質問に奈都は目を白黒させる。だが簡単に答えられるような話でもなかった。確かに二人は交際しているが、そこに行き着くための道程が普通とは違う。しかしはぐらかそうにも、奏の真剣そのものの表情を前にしては、奈都も折れるしかなかった。
「えー.....そんな事聞くかな....?でも私達なんて参考にはならないと思うよ。それに、言ったのは聡君の方だしね....困ったなぁ...」
「そ、そうだったのですか.....ごめんなさい、そうとは知らず失礼をしました」
「まぁでも、逆の立場でも変わらない気はする。あれこれ回り道をするより、素直に伝えた方が、たとえ駄目でも後腐れなくなるんじゃないかな」
「素直に、ですか.....私に出来るのでしょうか...怖いです」
俯く奏の頬を指で押し、奈都は笑いかける。
「大丈夫だって!一度振り切ってみたらなるようになるから!まぁ、私もあの人に酷い事言ったりしたし、一先ず謝らなきゃだけど。」
聡に呼ばれ奈都がベンチを立つ。奏はそれを横目に見送りながら、再び諒馬を見つめた。
「ここは、女の力.....って事ですよね....!」
宴も終わりを迎え、片付けが始まった。主役として扱われてしまった諒馬は何も手伝わせてもらえず、ただ遠くから缶ビールを飲みつつ作業風景を眺めるしかなくなった。しかしこうしてこれまでを振り返りながら、決意を固める時間は必要なようにも思える。バーベキューコンロを片付け終えた弘が、カクテルの入った瓶を片手にやって来た。
「何しみじみしてんだよ。これからだってのに」
「これから、だからだろ。こんな景色が俺にも見られるんだって思うと、何か悪い気がしなくてな」
「何だよそれ?はぁーあ.....これでこの馬鹿げた戦いも終わりになるんだな。望を助けられりゃ終わりだと思ったのに、色んな事が重なっちまって、気が付きゃ世界を救う!だなんてさ。人生何が起こるか分かんねぇもんだな」
ビール缶とカクテルの瓶を軽く打ち合い、遅すぎる乾杯をする。
「本当、よくこんな所までついて来ようと思ったもんだ。ありがとう」
「き、急にそんな事言うなよ....気持ち悪りぃ....まぁでも、お前と出会わなかったら俺もただ暴れ回ってただけかも知んねぇしな....こっちこそありがとうな」
弘がふと諒馬の方を見ると、街の夜景を楽しもうと振り向いていた。だがどうして弘には、彼が涙を堪えているように見えてならない。
「何だよ?もしかして泣いてんのか?」
「うるさいよ、泣いてる訳無いでしょうが。これで覚悟は決まったんだよ。俺は何としても、徹=アルマーニュを倒して戦争を終わらせる。俺の手でダイバーズを取り戻してみせる」
「まぁーたお前一人っぽくいいやがって、そうじゃねぇんだよ」
弘は向き直ると、右手を諒馬の顔の前まで上げた。
「"皆で"、だろ?」
「ああ.....お前の言う通りだよ.....ったくお前に言われるなんてな、どうしたもんだか」
二人の勇士の握手が再び固く交わされる。これから臨む最後の戦いに向け、それぞれの意思を一つに束ねる時が近づきつつあった。