創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
研究棟裏の倉庫で、木炭と着火剤を仕舞い込んでいた聡と奈都。二人の話題は諒馬についての事だった。
「聡君は、どうしてあの人を信じようって思った?」
奈都の質問に目をパチクリさせながらも、聡は脚立を設置して木炭を上の棚へと押しやる。
「理由なんて無いよ。ただそうしたいと思った....いつも通り直感な訳だけど。でも後から分かって来たんだ。水崎さんは、本当にダイバーズを救うヒーローになれるかもしれないってさ」
「ヒーロー.....やっぱり....そう思うんだ?」
奈都もダイバーズのニュースを通じて、世界が敵に回っても何かを信じて戦い続ける、諒馬の姿を知る事があった。ZeuSの技術者と言う出自は、社会全体からバッシングを受けたとしてもおかしくは無い。しかしそれでも彼は、最後までヒーローを張り続け、ダイバーズの全てを守るべく奔走したのだ。そしてビルドスパークルが進化したあの戦いで、奈都は決定的に理解した。彼こそが、ガンプラダイバーズと言う"もう一つの世界"を救う、最後のヒーローなのだと。
「ありがとう、聡君。迷い...晴れたよ」
奈都は聡ににこりと微笑むと、倉庫から駆け出して行った。無言で見送る聡だったが、その面持ちに安堵が表れていた。
諒馬が研究棟を去ろうとした時、奈都に呼び止められた。
「あのっ.....水崎さん!」
罵声を浴びせてきた相手でも、諒馬は一切態度を変えず「どうした?」と返す。その表情で、奈都の躊躇いが消えていった。
「こないだは、酷い事言ってごめんなさい。あなたが本当は、事件に関係がないんだって分かっていたはずなのに....ZeuSの人だったってだけで私、何も考えないで...」
「そんな事か....。謝る必要はない。俺の出自を知れば誰だって、ああは言いたくもなる」
諒馬も言われるだけの理由は分かっていた。
「関係なかったからと言って、そこで全てを止めてしまうつもりはねぇ。ZeuSで始めちまった事は、同じZeuSの人間がケリをつけるのが筋ってもんだ。ダイバーズをこれ以上、戦争の舞台にさせねぇためにもな」
また明日だ、と続けようとした矢先。奈都が駆け寄って手を差し出してきた。
「私、あなたを信じます。ガンプラダイバーズの、救世主になるあなたを」
しかし諒馬は、驚いたように奈都をしばし見つめるとそのまま連れ出してしまった。何事かと目を瞬かせる奈都。手を引かれるがままやって来たのは、諒馬のA.ν-T時代から使っていたラボであった。
「えっと......ここは....?」
「俺が昔使ってた拠点だ。最近また使い始めたんだけどな。上がってくれ」
諒馬に促され、奈都もラボへと足を踏み入れた。
「何だか、凄いですね....SF映画みたい」
時代を2つほど飛ばしたような機材がそこかしこに並んだこの景色に、やはり彼女もそんな感想を漏らした。
「最後の戦いが近いから、新しい機体を用意しようって思ってるんじゃないかと見たけど、合ってるか?」
頭の片隅で考えていた物を、読み取ったかのように問いかける諒馬に、奈都はドキリとした。
「どうして、それを...?」
「奏から聞いた。と言うより、そうなるのも自然な流れな気もしてる」
最後の戦いに向けて、奈都はトライアンフではなく新たなビルドストライクに着手しようとしていた。トライアンフでは、奈都の肌に馴染まなかったようで思うような活躍が出来ていなかった。諒馬は3Dプリンターらしき装置から、3mm径のハードポイントだらけのプラモを取り出し、奈都の前に置いた。
「新しい武装ユニットの試験用に用意していた、言うなればエグザミネイションタイプって奴だ。そいつに取り付けているのが、今回試してもらいたい物だ」
奈都はじっと目の前のプラモを眺める。確かに全身には青いクリアパーツを散りばめた、増加装甲と思しきものが装着されている。見ようによっては、拘束具のようでもある。一体これは何だと目で問いかけると、諒馬は電子ホワイトボードの電源を入れた。
「プラフスキー・エンハンシブ・デバイス、略してPED....内部に限界まで圧縮したプラフスキー粒子を閉じ込め、一気に解放することで機体性能を、理論値では10倍近くまで跳ね上げる代物さ」
「じ、10倍.....!?」
「ダイバーズではRGシステムを使っても、限界までやったところで5倍が限界だ。君だって酷い時はエス以上に無茶苦茶やるそうだな....少なくともこのPEDなら、そういった要求にも応えられる。さて、物は試しだ。専用のフィールドを用意してるから、テストを兼ねた操作説明をしよう」
「は、はい....!」
天原 奈都――ミナ・ツバクラメが目を覚ましたのは、よく知っているようで懐かしさもある空間だった。
「ビルドストライクのコクピット.....」
テスト用に素組のビルドストライクを用意されており、真新しいコクピットの空気を吸い込んだ。どこまでも広がる、方眼とブロックだけの空間にビルドスパークルも現れる。
「さぁ、実験を始めようか。今回は条件を緩和して、無制限にPEDを使えるようにしている....音声認識で起動するから、やってみるんだ」
ミナは多少の緊張を感じるが、物ともせず声を張る。
「RGシステム・インヴォーク!PEDオーバーライド!」
コクピットがモノクロへと変色した後、ターゲットのみが赤く表示された。そして肝心の機体はと言うと、青い光が全身を包み込み、プラフスキー粒子の衣を纏っているかのようである。右手にしたビームライフルも、バレルが伸長しており長身の銃となった。
「真っ暗に、なっちゃって.....」
呆気にとられミナに、リョウマはオーダーをする。
「次は圧倒的な性能を体感してもらいたいから....出てくる的を撃ち抜いてみてくれ」
ビルドスパークルが指を鳴らすと、至る所に円形の的が出現した。ミナは唇を舐め、レバーを前に倒す。ビームライフルから放たれる青い光弾は、凄まじい初速で風を裂きながら的を貫いた。更には、バースト射撃並みの連射性能まで有しており、ミナのベストだと思う時間で全てのターゲットの破壊に成功した。
「100個もあったのに、たった30秒で....」
ミナが驚いたのはビームライフルだけではない。PEDを解放したビルドストライクの挙動が、何から何まで自分の肌感覚その物に追従していたのだ。暗転した様なモニターだが、極限まで拡張されたミナの意識の前には、無用であった。
「暴走したハザードより出力が上げてたけど、まさかこんなに化けるとは」
製作者であるリョウマでさえ、PEDの性能に驚きを隠せない。何よりハザードより強化していると言うのだ。機体性能のインフレーションが更に加速しているようなものである。
「格闘戦にも、対応してるんですか?」
「丁度試そうと思ってた所だ。俺自身も少しは腕を上げる機会も欲しかったしな」
ビルドスパークルからハザードの魔霧が吹き出し、スマッシュブラスターとラピッドアーマーを装備。ラピッドスマッシャーへと変身した。これにはミナもワクワクしてしたらしく、より一層眼光を鋭くする。
「それなら、後悔はしないでね!」
ビルドストライクが跳躍し、ラピッドスマッシャーの眼の前に降り立つのと同時、ビームサーベルを突き出した。ラピッドスマッシャーも瞬時に斬撃軌道を抜け出し、スマッシュブラスターを薙ぎ払いビルドストライクを弾き飛ばす。だが同じタイミングでビルドストライクが膝で受け止め、再度ビームサーベルを振るった。ラピッドスマッシャーはスマッシュブラスターを滑らせ、ビームサーベルを押し留め腹を蹴りつけた。だがビルドストライクには一切通じていないようで、後ずさる事もなくそのまま押し出して突き飛ばしたのだ。
「うっ.....流石俺の発明品....パワーも桁違いだな....!」
「私にビルドストライクを寄越せば、大体こうなるの、知らない人が多いよ....ね!」
ビルドストライクがバーニアを全開にし、両手に構えたサーベルを振り下ろす。ラピッドスマッシャーは素早く反応してこれを避け、ドリルクラッシャーをビルド。二刀流でX字に斬りつけ、至近距離でスマッシュブラスターのビームバズーカを放った。流石のビルドストライクも無事ですまないかと思われたが、軽く吹き飛んだだけで倒れてすらなかった。
「マジか.....差し詰めノーリスク過ぎるハザードってとこだな」
しかしミナは、ビルドストライク内のアラートに目をパチクリさせた。
「何.....これ.....あっ.....!?」
ビルドストライクを包んでいた光の膜が、突然消え失せた。これにはリョウマも首を傾げる。
「おかしいな.....制限はかけてないはずだ。考えられるとすれば.....まぁそれは後で分かりゃいい事か。一先ず、どうだった?PEDは」
「こ、これだけの性能が出せたんだから....使いこなせるようになれば、どんな相手も目じゃない気はしますけど。でも、どうしてこんな凄い物を私に?」
「それは、これからの作戦で君とエスが要になるからだ。彼女を救い出すためのね。常識が通用しない連中を相手取るには、同じく常識破りで対抗するしかないって言うだろ?さて、誰かにバレる前に戻ろう」
こうして予期せぬ出来事で実験を終了したが、性能の実証は出来た。リョウマはそう判断してダイバーズから離脱する。
翌日。ガンプラダイバーズ、クレッセント・ブルームーンにて。医務室の椅子に腰掛け、何時間もの間舞夜はエミの目覚めを待っていた。朝日が昇り始める頃、舞夜は積層CPUのスリープを解いた。
「....脳波、正常値まで回復.....そろそろか...」
しばらくすると、布団が小刻みに揺れる。舞夜はまだ何もせず、遠くから様子を見ていた。そして。
「ここ.....は.......?」
エミは目を覚まして早々、見覚えのない景色に口をぽかんと開けて呆けていた。そこへ舞夜がやって来、ベッドの前の椅子に腰掛ける。
「クレッセント・ブルームーンの医務室です。あなたの身体は酷く衰弱しています。くれぐれもドクターの許可なく動かない様に」
無表情のまま、淡々と告げる舞夜にエミは要領を得ない顔で、ただ頷いた。しかしエミの脳裏である声が過り、再び舞夜を見つめる。彼女がまるで人間でないように感じられたが、それでも言いたい事を伝えねばと口を開く。
「私の思い違いじゃないとしたら.....あなたは、もしかして.....」
だが舞夜は、無言で首を横に振り席を立った。
「あなたがこうして、あなたとしてここにいる。それが全てです。今はそれでいい」
とは言えエミにはもう分かっていた。
「......ありがとう、ございます」
突然ドアが開いたかと思うと、亜樹子と門松にリョウマ、弘が続々と部屋に入って来た。
「あ、この娘もう気づいてます!よかった〜!」
亜樹子がエミの覚醒に気づき、その場にへたりと座り込みベッドにもたれかかった。「言われなくても見りゃ分かる」と門松が鼻で笑うも、彼も満更でもないないらしく、その面持ちはどこか安堵していた。
「無事に助かってくれたみたいで、何よりだ」
ベッドの反対側にリョウマが立ち、脳波測定機の波形を見て呟く。この声もエミにははっきりと覚えがあった。
「あなたは......!」
「あんな状況でも、きっちり記憶があるなんてな....」
「記憶だけは、消えてなかったみたいです.....」
何かを言い出そうとするが、エミは言葉が支えて口を噤んでしまった。リョウマはその理由を察して小さく頷き、何も言わず窓に目を向ける。
「助かっただけでも御の字だ。教授、すみませんが彼女を見ててください。舞夜と永峰はついて来てくれ」
そう一言断ると、二人を連れて部屋を出た。
「何か手伝い事?」
亜樹子が小首を傾げながら、白衣のポケットに手を突っ込んだ。リョウマはすぐに答えずドックの隅の、パーテーションで区切られた簡易的なラボへ二人を招いた。
「これは.........ジーニアス、システム....?」
舞夜は目の前のモニタに書かれた文言を読んだ。
「ハザードの上を行く、新たな力を生み出す為のシステムだ。とは言っても作り始めたばかりだから、まだ詳しい事は言えねえけど」
ハザード、と聞いた亜樹子はリョウマを凝視しあ。
「え、ハザードって、あのハザード!?何でリョウマがそれ知ってんの!?」
「今更言うなよ。もう使いこなしたから平気だ.....それより二人に頼みがある。これからガンプラダイバーズの中枢にアクセスして、サービス開始時点から登録された、全てのガンプラのデータをサルベージして欲しい。頼めるか?」
要件を聞いた亜樹子と舞夜は暫し互いを見、ゆっくりとリョウマに向き直った。
「いやいやいやいや!!無茶言わないでよ、そんな事出来っこないし!」
亜樹子が全力で抗議する。流石の舞夜も、彼女には顔を見られぬよう、モニターを眺めながら悩んでいた。しかしリョウマも、これが無理難題なのは理解していた。だからこそ、二人にこれを頼んだのである。
「ジーニアスシステムに一番必要な要素は、ガンプラダイバーズで遊んだ、全ての人達の記録だ。そして永峰は、全ての始まりから今に至るまでをその目で見てきたんだろ?お前が一番の適任者なんだよ」
亜樹子はここまで信頼されていたのかと、半ば勝手に感じて涙する。
「うん....分かった!あたしやってみる!」
「舞夜はしばらく、永峰を手伝ってやってくれ」
「了解しました」
この場を二人に任せ、リョウマはいそいそと別のドックへ走る。葉山を始めとしたメカニック陣が、弘の体にマーカーを貼り付けていた。
「おい、リョウマ....何だよこれ」
弘がジロジロとマーカーを見ながら、戸惑う。
「モビルトレースシステムの精度をより上げられるよう、予めお前の動きをトレースしたデータを入れようってのさ。要は、お前の動きを機体に学ばせて、更に戦いやすくするって事」
ふとドラグハートを見上げた。かなり長い間弘と共に戦場を駆け抜けた、相棒とも呼べる存在。リョウマとしては、代替機扱いにしてお下がりよろしく貸したつもりであったが、今やここまで戦い続けたのは非常に感慨深い。それだけドラグハートが、弘にしっかり追従出来ている証拠でもある。しかし今後の戦いにおいては、その限りでなくなる。ドラグハートに仕掛けていた"鍵"は、既に外されていた。ならば、すべき事は一つだ。
「ドラグハートの限界を、お前が超えちまったんだ。今後更にどうなるかは、天才の俺でも分かんねぇ。けど出来る事はやって行くつもりさ」
「俺いつの間にそんな所まで来てた?」
「今更何言ってんだよ。純粋な力ならとっくに俺を超えちまってる。ま、ここだけはどうにもなんねぇけどな」
リョウマが自らの頭を指差しながら、現場を離れようとするが弘に肩を掴まれる。
「お前はいつも一言余計なんだよ」
「そんな事気にしてどうすんだ、もうテスト始まっちまうぞっと」
リョウマから開発の引き継ぎを受けた亜樹子達。しかしかつてと同じ空気感とは行かず、亜樹子本人は妙なやり辛さを感じていた。その原因は、舞夜のガラリと変わった雰囲気にある。
「ねえ舞夜ちゃん、あれからずっと連絡取ってなかったけど、どうしてた?」
思い切って話しかけてみるが、舞夜からの反応は無い。ZeuS時代でも何かしらの諍いがあった訳ではなく、仲そのものは良好だった。一体この数年の間に何が起こったというのだろうか。しかしこれ以上聞くのは、亜樹子には憚られた。と言うより、怖かったのだ。数分の間を置いて、ようやく舞夜が口を開いた。
「ガンプラダイバーズを彷徨っていました」
「え?彷徨ってた?どゆこと?」
だが今度は舞夜の方が話すのを躊躇ってしまう。自分が実験台にされ、命を落とした事も。そして、リョウマの為に戦い続けるだけの存在となる道を選んだ事も。差し障りのない答えが見つからず、結局黙り込むしか無かった。