創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
現実時間で昼を過ぎる頃には、全てのメンバーが出揃っていた。そのタイミングに端を発して、作業も急ピッチで進み始める。無論リョウマも、葉山と共に総指揮を執る形で進行管理に当たっていた。
「これどうしますか?予備パーツなんてこんな所に置いたら.....!」
エスが作業車両で運んでいたのは、何やらMSの前腕と脚部らしき物体。彼の問を聞くやいなや葉山がメガホンを手に、
「それは予備パーツじゃない!つべこべ言わずさっさと運びなさいよ!」
と怒号を上げた。作業音が至るところから響く為か、声を張り上げるしかない。
「うわっ怖っ」
隣に立っていたリョウマも、思わず耳を塞ぐ。だがそうしている間もなく、ある物を目にした。
「なぁハッパさん。あんなのいつからあった?」
リョウマが指差す先を葉山は目で追った。ビルドスパークルから1つ開けて奥のドックに、青いグレイズらしきMSが収まっていた。
「コクピットの形式がグレイズ・アインっぽいなと思ってたら、あのAGE-1は偽装だったんですよ。視覚調整をして、自分達にはAGE-1に見えるようにした、と」
「あいつがダイバーズに干渉できるようになってから、凄まじいことしてんな.....」
着々と整備が進められ、いよいよ決戦へ向けての雰囲気が濃くなり始める。
一方、シャノアールはミサ、ミナと共にビルドスパークルの調整を手伝っていた。勿論作業を主導するのは、門松である。
「きちんと調整しておけよ、少しでも駆動係数が狂えば全部がた崩れになっちまうからなぁ。ったく水崎の奴、総指揮なんか引き受けやがって」
遥か上を見上げ、リョウマを発見するなり溜息をつく。その頃ミナは、ビルドスパークルのオプションとのリンクの確認を行っていた。ハザードエクステンダを、ノートマシンに外付けされたスロットに装填、そのまま内部にアクセスする。
「何だろ、これ.....アースリィ、ガンダム....?マーズフォー.....ヴィートルー....?ジュピター....ヴ?」
聞いたことがあるような、そうでないような名を口にしながら首を傾げるミナ。程なくしてミサがビルドスパークルの右肩から飛び降り、ずいっとノートマシンの画面を覗く。
「ねぇ、みぃちゃん。これ分かる?何だか知ってる気がするけど上手く思い出せなくて」
ミナの質問を、彼女の匂いを吸いながらミサはしばし考える。そして数秒後、パチンと手を叩いた。
「Re:RISEだよ!ビルドダイバーズの!まさかガンプラダイバーズに実装されようとは〜!?」
アースリィガンダムとは、"GBD-R"の主役機の一つで状況に併せて全身の装甲を換装させる、プラネッツシステムが特徴のガンプラである。しかしガンプラダイバーズでは、この機体を含め"GBD Re:RISE"のガンプラは未実装だった。ではこのビルドスパークルにオプションとして設定されている、パーツとはどこから来ていると言うのだろうか。二人のやり取りを見ていたシャノアールと門松も、気になったのか遠巻きに画面を覗いた。
「なぁ君。運営がそちらに回ってから、この作品の機体は実装してたのか?」
「いえ.....私も以前は開発チームと交流がありましたが、そんな話は聞いたことがありません。未実装のガンプラは動かせなかったはず....そうでしたよね?」
シャノアールは門松とビルドスパークルを交互に見、最後にちらりとだけリョウマを眺めた。
「でも彼の事ですし、もしかしたらテスト運用も兼ねて使っているかもしれませんね。だとすると.....え....!?」
シャノアールの中で行き着いた予想に、自分で驚いてしまい思わず声を上げた。やがて二人の存在に気づいたミナ達が、何事かと振り向く。門松もシャノアールの言わんとしていることを察したらしく、半ば呆れたように頭を掻いた。
「そもそもの話、ハザードエクステンダによって呼び出されたあのパーツ.....アレぁMODなのかも知んねぇな。しかも奴さんお手製の、な。恐らくこの戦いで得たデータさえも、アーネストの技術者連中に提供する気なんだろうさ」
「えぇと、アーネストって言ってしまえば敵ですよね.....どうして塩を送るような真似を....?」
話が掴めないミナは、思わぬ勘違いをして門松を唖然とさせた。
「いや、そうじゃないんだよ天原君......アーネストが敵だと言っても、俺達が倒さなきゃなんないのは徹=アルマーニュだけだ。会社で働いてる他の人らは、何の罪もない」
「それは、そうでしたね....」
「水崎が考えてるのは連中の討伐だけじゃなく、その遥か先もって事だろうさ。よし、作業に戻り給えよー」
門松が手をひらひらと振りながら、階段を降りていった。
首相官邸を後にした英梨は、素早く車に乗り込んだ。運転席にはユウが座っており、彼女がシートベルトを着けたのを認めると、アクセルを緩やかに踏み出した。
「どうでしたか、記者会見は」
「政府だけじゃなく、警視庁も公安も動き出して一斉捜査にって流れになってるね。珍しく記者クラブの制限が無かったのは、世界中に知らしめる意思の現れだと思う」
ユウに所見を伝えながら、ノートマシンに会見のレポートを打ち込んでゆく。あっと言う間に数ページを作らんとする勢いで、情報をまとめ上げていく様子は、流石記者だ。
「今はあなたの後輩になってる奴も、多方面からリークされた情報を探しています。流れは確実に変わって来ている」
黒いガムを口に投げ入れ、信号の前で停車させる。ユウも少しずつ世界が一つになりつつあるのを、実感しているようだった。しかしそれは、徹達が想像しているのとは遥かに違う方向でだが。
「付き合わせてる身で言うのも何だけど、紗綾ちゃんには何も言わなくてよかったの?あれから一度会ったきりでしょ?」
英梨はそう言いながら、ルージュを塗り直した。
「それで結局一人でブルームーンに戻らせちゃったし、あの娘私達が何をしようとしているのか分からずじまいなんじゃない?」
「話せば止められますからね。....いや、彼女なら察しているはずです。でなければ、すんなり戻る事を了承などしない」
信号が変わり、ユウは再びアクセルを踏む。
「気に入らないなぁ。若いのにさ」
英梨がくすりと笑う。ユウがわざと気にしないふりをし、車を右折させた。
「何だって言うんです、それが」
「二人ともその歳で熟年夫婦みたいな事出来てるの?そんな事ってある?」
「今はそれを気にしている余裕はありませんよ、神宮寺さん」
「何よ、しばらく話すようになってから。口が悪いぞ〜?」
ユウ達の車が向かった先は、何とアーネストホールディングスの地下駐車場だった。そこには男性社員が立っており、車を分かりにくい場所まで誘導してくれた。
「神宮寺 英梨様ですね?お待ちしておりました」
男性社員がドアを開け、ユウと英梨は社屋の中へと進む。どうやらアーネストホールディングス内部でも亀裂が顕在化しているらしく、経営陣と従業員達の間に深い溝が生まれているとの事だった。ストライキの決行も危ぶまれたが、徹の凶行をどこかで知った者達は、ガンプラダイバーの有志たちを支援すべく、運営を維持し続けていた。彼らはやがて地下へと潜り、サーバルームに足を踏み入れる。
「恐らくこのどれかに、アルマーニュCEOの機密文書がある可能性があります」
社員が照明をつけると、ガラスのパーテーションで区切られた部屋がいくつも姿を見せた。ざっと200台を超えるであろう、サーバの数に二人して唖然とした。社員に作業スペースを用意してもらうと、早速サーバへのアクセスに取り掛かる。
「それじゃ、エンジニアの人達が来るまでサーバーの調査よろしくぅ!」
英梨がウィンクしながらサムズアップした。ユウは彼程までのサーバ群を前に、脱力しかける。
「いや......どうやったって何日かかるか分からないだろうに.....!」
突然ブルームーンに、警報が鳴り響く。
「ポイントM7053で、アーネスト勢力の出撃を確認!数250!各チームから支援要請が入ってるです!」
アヤカの慌て調子の言葉に、緊迫感が生まれる。リョウマはすぐさまワイヤーガンを撃ち、ビルドスパークルの前に飛び移った。
「あ、危ないじゃないですか!いきなり飛んでくるなんて!」
そんなシャノアールの抗議を他所に、ビルドスパークルのコクピットに滑り込んだ。
「んな事言ってる場合じゃない。すぐに出るぞ」
「あなたって人は本当に.....!もう!」
いつも大人びた感じの彼女でも、不意に年相応の動きをするものなのかと関心を寄せつつも、ハッチを閉じてビルドスパークルを歩行させた。
「調整だってまだ終わってねぇってのにこれだもんなぁ....」
ビルドスパークルがカタパルトデッキに乗り、クレッセントブルームーンから勢いよく飛び立った。続いて、ストライクJOKER、Bm-8、ブレイヴ・サンダーバード、ブレイヴ一般用試験機と出撃する。
「交戦区域はこのすぐ近くだ!」
リョウマはレーダに映る、無数の熱源反応を見つけ機体を降下させる。背面にはエールストライカーをビルドし、機動戦を意識しての立ち回りで戦う事とした。
「リョウマさん、この数....何なんだ、一体!?」
激戦地と化した状況を前に、エスは歯を食いしばる。一目見ただけでも、アヤカの言う250機どころではなく、下手をせずともその2倍近くのMSが交戦していた。リョウマもこの様子に目を細めながらも、動揺せずにビルドスパークルを先行させる。
「そうは言ってもやるしかねぇんだ、行くぞ!」
ビルドスパークルが着地、スマッシュブラスターを放ちながらアーネスト勢力の機体を撃ち落とす。だが妙な違和感から、落下した残骸を足で押しやるとコクピットが存在しなかった。
「コクピットがねえってことは....モビルドールなのかよ....これじゃ泥沼になるの確定じゃねえか!」
やけにビルゴやトーラス、リーオーNPDやガードフレームばかりで構成されているようだが、リョウマからしてみれば、無尽蔵に生み出せる戦力だ。これではいくら撃墜させた所で、それを超える数のモビルドールが出てくるのは、火を見るより明らか。
「仕方ない、やるしかねぇ。ビルドアップ!」
ファンネル・ミサイルとΞガンダム専用の大型ミサイルポッドをビルド。一気に大量のミサイルをばら撒きながら進撃する。ストライクJOKERも現場に降り立ち、二振りのネクサスォードで敵陣に斬り込む。グラハム率いるブルームーン本隊も、空中からエリアの制圧に取り掛かった。
「たぁああああ!!」
エスの雄叫びと共にストライクJOKERがビルゴを貫き、左から来るトーラスを撃ち抜く。この状況での戦いは、無双系アクションゲームのようだと言えば聞こえが良いが、実際はそれ程心地の良い物でもなく、むしろ人を集合体恐怖症にさせてしまうような、そんな様相を呈していた。
「全く、キリがない!何でこんな事になるんだよ!」
次々と敵をなぎ倒していくが、無尽蔵に湧き出てくるモビルドールを前に、どこまで自分が保てるのか分からなくなっていた。戦い始めてまだ間もないが、いきなり地獄を見せつけられたような気分だ。
「仕方ないだろ!奴らにはまともな戦力がない!だから金に物を言わせて、物量で潰すって考えたんだろうぜ」
ビルドスパークルも手を変え品を変え、モビルドールを叩きのめしていくが、やはり手応えの無さからか動きに困惑の色が見え隠れする。
「前線を押し上げたい!エス、お前の力で何とかできるか!?」
「無茶言わないでくださいよ!あのサイコガンダムの腕だって、使い物にならなくなって捨ててるんですから!それこそビルドシステムで....!」
「あ、そうだ....こいつを使えば!」
リョウマが何かを思い立ったのか、ビルドスパークルを上空へ飛び上がらせた。すると背面にGNドライヴを、そして手元には12基ものGNホルスタービット、更にGNライフルビットⅡまで形成し陣形を作り上げた。コンソールにはマルチロックオン画面が立ち上がり、このエリアの6割に当たる範囲を同時に捕捉する。
「ああ、やってやるさ.....乱れ撃つぜぇえええッ!!!」
トランザムが起動、装甲を赤い輝きが包んだ。ビルドしたビット達が一斉に火線を放出。辺り一帯を火球が埋め尽くし、たった一瞬でエリアの半分まで前線を広げることに成功した。それだけに留まらず、ホルスタービットを菱形に配置、それ3列作り上げ極太のビームを放ちライザーソードの如く薙ぎ払い、更に制圧範囲を広げた。
「凄い......何だよそれ....」
空間跳躍を駆使しながら、最前線に到達するエスだが今の一瞬の出来事に、一切の現実味を感じられず首を傾げた。それでも歴戦のガンプラダイバーである。すぐに気を取り直し、更に奥深くへと突撃していく。
「第二波、到着しました!」
「待たせちまったな、リョウマ!」
赤いV2アサルトと、ドラグハートチャージドが駆けつける。
「お前ら....!ナイスタイミングだ....んで、そのV2は?」
ビルドスパークルがV2を指差すと、ミニウィンドウ越しにスワンが頬を膨らませた。
「人を指ささないでください。V2ガンダムセリシールトゥールビヨン。私の新しい刀....と言ったところでしょうか」
「F91と来て、次はV2か....まぁいい、前線は俺が一気に引き上げた、そのまま押し切るぞ」
「はい!」
「おう、任せとけ!」
ビルドスパークル、V2セリシール、ドラグハートチャージドの3機は一斉にバーニアを噴かせ、モビルドールの殲滅に再突入した。
「例えどんな数で来ようと!」
V2セリシールのバックパックから、刃状のデバイスが分離。素早く敵の喉元を貫きながら、進路を確保していく。そして二振りの長めの刃を手に持ち、桜の嵐に舞うかの如く斬撃の旋風を巻き起こし、モビルドールを次々と天に打ち上げた。ドラグハートチャージドは百烈の拳や蹴りで薙ぎ倒しつつ、敵の大将を探す。先程から知った気配を感じ取っており、それを目指して突き進む。そして。
「........おい、マジかよ.....」
指揮官機と思われるモビルスーツを見つけた弘。しかし、その姿を目にした瞬間戦いの手を止めてしまう。相手が四脚だからではない。相対する存在から放たれるプレッシャーに、弘が戦慄したのだ。更に止めと言わんばかりに、敵の言葉が胸に突き刺さった。
「久しぶりだね。弘。あれから変わってしまったのはお互い様か」
「望......お前なのか.......何で....何でこんなのに乗ってんだよ....!?」
四脚と魔獣の様な豪腕という異形にも関わらず、その装甲は石膏像のように白く美しい。ドラグハートチャージドのモニターには、"エンペラーブルート"と表記されていた。上半身は一見ギャン系の様にも映るが、それは顔面には縦に刻まれたスリットが一本のみで、胴体そのものはヴェイガン系MSの特徴を持っていた。その担い手たるガンプラダイバーは、弘の親友"藤堂 望"であった。
「何でって.....これが俺の望んだ力の形だからだ。俺達の敵を討つ為のなぁ!けど弘。お前まで邪魔をするんだ.....ならもう分かってるだろ」
「畜生....!望!お前は奴らに利用されてんだよ!こんなの絶ってぇ間違ってる!お前はそれでいいのかよ!そんなんで、親父さんにもお袋さんにも顔向けできる生き方が出来んのか!?」
確かに弘と望、それぞれの両親は秀晃の手により命を絶たれた。しかしながら弘は、長い月日を経て復讐心に負けることなく乗り越え、天国にいる親を悲しませぬよう今を生きている。それとは逆に望はトラウマに縛られ続け、復讐心を内面に滾らせ続けた。法で裁くのではなく、手ずから血に染まる道を選ぶしかなかったのだ。
「黙れよ.....そんなヒーロー気取りみたいな心の持ちよう、昔から大っっ嫌いだったんだッ!お前の唯一許せない所さ!何であんな事があったのに、平気な顔してられるッ?お前は何も感じなかったのか!あの日の出来事から、何も!?俺達は奴をこの手で殺さなくちゃいけない。そうじゃなきゃ、父さんも母さんも浮かばれない!」
エンペラーブルートが両手首の付け根から、雨あられの如く銃弾を放った。
「邪魔をするなら、お前から消えてもらうぞ!たとえ親友であってもッ!!」
ドラグハートチャージドは側転とロールで弾幕を避け、手甲からビームソードを発振させて懐へ潜り込む。しかしエンペラーブルートは素早く飛び退き、銃弾を執拗に撃ち込みながら左右に滑り、股間部に配されたメガ粒子砲を放出しようとした。
「弘ッ!」
メガ粒子砲が放たれる既の所で、ビルドスパークルのスマッシュブラスターが直撃。望は忌々しげに空を睨んだ。
「お前は.....お前が弘の目的を歪めさせたのか!」
エンペラーブルートが全速力で突っ込み、槍のようになった脚を突き刺した。ビルドスパークルは即座にスマッシュブラスターを薙ぎ払い弾き返すと、左手にビルドした高トルクモードを起動させて殴り返した。
「リョウマ.....!」
「コイツが敵将らしいな。あんなゲテモノ、一人でやろうたって危険過ぎるぞ....!」
だが弘は、リョウマの申し出を断る。
「――いや、俺にやらせてくれ。奴は、望なんだ」
「何だと?だったら尚更......」
しかしリョウマも彼が言わんとする事を察し、ビルドスパークルを後退りさせた。
「そうか、そこまで言うのなら任せる。けど、これだけは言っとく。やばくなったら遠慮なく呼べ、いいな」
「へっ....ようやく相棒っぽくなってきたじゃねぇか。もし本当にやばくなったら呼ぶからよ」
ビルドスパークルとドラグハートチャージドの腕が打ち合い、それを合図に二人はそれぞれの戦へと駆け出した。