創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
「抵抗軍が形成され始めたようだが、今ではもう遅いよ」
社長室で徹は仮想世界大戦を"観戦"していた。15ものモニターは、各バトルエリアでの様子が数分おきに切り替わりながら、戦闘の状況を伝える。終わりの見えない闘争の時代を迎えたダイバーズを、最早誰もがこれを当たり前なのだと受け入れてしまうだろう。部屋の前では、血溜まりが出来上がっていた。その周辺に死体が転がっている。
「おたくらも運が無い事で。事を荒立てるのが嫌な官僚組織の膿だな」
秀晃は独りごちると、サブマシンガンのマガジンを装填し直し、アタッシュケースの中に収めた。珍しくスーツ姿だが、返り血は全くついておらず新品同様のままだ。
「あの女、まだ死んじゃいなかったんだっけか。ま、それでまた殺し合いが広がる種火を用意できたと思えば楽なんだがな...ハハッ」
秀晃が見ている端末の画面には、政府の記者会見に参加したジャーナリスト達の名簿が表示されている。本来これは一般の目に触れる事自体がありえない物なのだが、やはり政府の中にもアーネスト寄りの考えを持った人物がおり、こちらへ極秘裏に横流ししていたのである。名簿の中には当然、英梨の名前もある。彼女を殺さなかった事を勿体無いと感じていた秀晃だが、今のガンプラダイバーズの環境に劇薬を投入すると言う意味では、まだ有用に扱えると踏んだ。秀晃にとってガンプラバトルとは、単なる手段に過ぎない。目的は唯一つ、依頼主の要求どおりに"仕事"を完遂すること、それのみである。
「入るぜぇ、大将」
秀晃の入室を認め、徹は一瞥するとシャンパンを口にした。
「突然の仕事、引き受けてくれてありがとう。このタイミングで警察が来るとは、想定外だったものでね」
「その割には随分平気そうだな?」
「そう見えるかな?確かに僕にとっては瑣末事のようなものだから、そう感じられたかも知れない。Anonymousが動き出したらしい....これで更に戦争が激化するだろうね。義憤に駆られるのは結構な事だが、その先を考えてないならやるべきでは無い。そう思わないか?」
「Anonymous......ああ、あのハッカー集団の?こんなザマになってりゃ、奴らも動くしかないだろうさ。けどこれは些細な問題なんだろ?大将にとっちゃあな?」
「勿論だとも。彼らの行動も僕のシナリオ通りのタイミングで発生した....それだけの事さ」
徹はこの時点で勝利を確信していた。最後の条件さえ満たしさえすれば、世界の変革は時を待たずして始まりを見る。果たして世界の命運は、彼の手に握られるのだろうか。
モビルドール軍団との戦いは泥沼の様相を呈していた。リョウマ達の消耗が激しく、全くの不利である。特にリョウマは体力に乏しい事もあり、視界が霞み始めていた。
「倒しても倒してもキリが....!引き下がりゃ他にまで影響しちまうなんて、タチ悪過ぎじゃねーか....!」
当然ハザードを使えるだけの力は無く、ビルドスパークル形態でエンドレスに戦い続けるしかなかった。ペースを崩さずに戦えるのは舞夜だけ。このままでは総崩れになるのも已む無しの状況だ。
「リョウマ、ここは撤退してください」
舞夜から一時撤退を促されるが、リョウマはそれを拒んだ。
「出来るわけ無いだろ。皆出払ってんのに、俺だけ戻るなんて!」
「あなたが倒れてしまっては、全てが台無しになります。エスも補給の為に帰還しています。あなたに求められているのは、冷静さです」
舞夜に諭され、リョウマは一言謝りビルドスパークルを飛翔させた。ブルームーンに着艦するとすぐにメカニック達に修繕を指示、リョウマはすぐさま開発スペースに飛び込み、デスクトップマシンの前に座った。
「リョウマ君、全機体分のデータは取り込んであるから!ビルドシステムとのリンクもそこそこに進めてるけど、後は何すればいい?」
亜樹子がリョウマの到着に気づき、報告と指示の要求をする。
「IPを後で渡す。それを使って俺のマシンに繋いだらビルドシステムのデータを全部、ビルドスパークルにインストールしててくれ」
「えぇえ!?そんな事したら、ビルドスパークルがパンクしちゃうよ!?」
「パンクなんかするかよ!皆で作ったビルドだぞ!そう簡単に壊れる様なもんじゃない、信じろ!」
技術面で言うと、ビルドスパークルのOSについてはハザードを使う都合上、かなりシンプルな構成にしていた。システム的ベイロードとも形容できる空間を確保していたのだ。しかしハザードをノーリスクで使用する為に開発した、ハザードエクステンダに全データを移行した事で、さらなる拡張性を手に入れている。故に、ジーニアスシステムを導入するだけの余裕はあるという事だ。
エルニアはと言うと、戻って来たエスに加えリタも交えて打ち合わせを行っていた。
「さっきまで俺がいたポイントにミナが向かってくれた。だから君は、リョウマさんが戦っていたポイントに出撃してくれ」
タブレット画面を操作しながら、エスは到着までの経路を示した。エルニアも画面をじっと見ながら、ルートを頭に叩き込む。
「ですが敵の頭数が、他の地点と比べ遥かに多いそうです。弘さんには先に指示をしていますわ。途中で合流次第、モビルドールの拠点と見られる製造プラントの破壊を。よろしくて?」
「はい!私だってブルームーンの一員なんだから、やって見せます」
そう意気込むと、エルニアは愛機フルーティストC"コネクター"に飛び乗り出撃準備に取り掛かる。GNアーチャーとダブルオークアンタを祖とする機体だが、過剰積載気味に装備されたビットの数々により、その姿は大きく変貌している。エルニアがもとよりビット兵器の扱いに長けていることに起因していると言う。
「貴様の機体だって折り紙つきの性能なんだ、やってやれない事はない!」
スピーカーからウォレスの激励が聞こえる。エルニアも「はい、もちろん!」と応えレバーを握る。
「エルニア、フルーティストC!行きます!」
フルーティストCから莫大な量のGN粒子が噴出、圧力に押し出される形でカタパルトから飛び立った。フルーティストCのレーダー性能は一級品で、出撃直後からでもスワン達が戦うフィールドの端が分かるほどだ。
「あそこね....!」
ペダルを強めに踏み、フルーティストCを更に加速させる。大小GNフィンファングも同時に飛ばし、制圧に取り掛かった。小型フィンファングがガードフレームの胸元を刳り、葬り去るとフルーティストCの着地位置を確保すべく、大型フィンファングを照射しながら敵の数を減らした。
「エルニアさん!?」
スワンの驚く声にエルニアは得意げに笑む。
「お待たせ.....!にしても凄い数だね...よくやるよ」
「これでもかなり減らした方ですけど....」
「キャプテンが言うには、この先にモビルドールの生産プラントがあるんだって。こいつらは私で押さえるから、座標まで急げる?」
「承知しました、ではご武運を!」
エルニアから送られた座標データを頼りに、V2セリシールが先行する。エルニアはそれを見送ると、敵の群れに向き直った。
「ここは女の力でぇええ!」
左手の複合兵"Fアームズ"から三日月状のビームを発射、腰のコンテナからもファンネルミサイルを解き放ち飽和攻撃を始めた。フィンファングも織り交ぜる事により、光の網となった弾幕を前にモビルドールは尽く消滅する。自身も大型の槍"GNスタッフ"を振るい、撃ち漏らした敵を仕留めていく。今まで殆ど戦えなかったのが嘘のように、縦横無尽に暴れまわる。これがエルニアなのかと問われれば、誰も信じ難いだろう。
(今はウェルスがいないんだから....!支えているだけの女でもいられない!)
その想いに突き動かされ、エルニアは操縦の手を速めた。無数のファンネルを操りながらも、格闘戦に対応する。こんな芸当が出来るのは彼女くらいの物であろう。
スワン、シャノアール、舞夜は敵の攻撃を受け流しながら生産プラントを目指していた。別方向からも味方機の反応が近づいている。
「ビルドストライクカミカゼ....P.E.D.?」
シャノアールがモニターの端に表示された名を呟くように読み上げる。途端にスワンがあっと声を上げたので、不意にシャノアールも驚いてしまう。
「どうしたのよ?いきなり声上げるなんて...!」
「あのストライク、ミナさんのですよ!でもいつの間に....」
生産プラントの上空に差し掛かる。海上の人工島に、工場施設がひしめき合う景色は、まさに名は体を表すと言ったところか。
「ミナ・ツバクラメからの通信です。西側へ迂回し突入を開始するとの事です」
舞夜が淡々と伝える。スワンもシャノアールも無言で頷き、機体を人工島の西側に迂回させて着陸した。
「その機体、ミナさんですよね?」
着地するとV2セリシールが、ビルドストライクカミカゼの右腕に触れる。ミナは暫し気を休めていたのか、突然の合流に面食らった。
「スワンちゃんかぁ.....びっくりしたよ。そんなに早く合流するなんて思わなかったし....」
「エスさんとバトンタッチしているんでしたよね.....お一人だからかなり危ないかと思ってたら....無傷って...」
スワンが見るに、ビルドストライクカミカゼは傷一つなく本当に戦いを切り抜けて来たのか、疑わしくもなる程だ。機体の特徴に触れると、ビルドストライクの本来赤い装甲をライトブルーに切り替え、各部に増加装甲と見られるリアクティブアーマーを取り付けていた。関節の周辺も干渉が起こりにくいよう、徹底してクリアランスが取られており運動性に注力した、カスタマイズを施している。刀身の無い、鍔のみの刀も目につく。頭もアンテナを新造しており、兜の鍬形に近づけられた意匠がとられていた。
「あー....あの場にいたの、実は私だけじゃなくて。エスも会ったって言ってたけど、真っ白なフリーダムが思いっ切り暴れ回ってさ....」
フリーダムは白いのに、とシャノアールが突っ込みを入れるがミナは「そう言う事じゃ....ないですけど!」と押し通した。舞夜は彼女らを気に留めず、モビルドールの出処を目視で探し始めた。一般的な工場施設では、モビルスーツを格納できる場所を確保できないのではと考えていたが、視界の奥でぼんやりと光る何かを見つけ、見立てを改める。
「クラックゾーンなのか....?他とはあまりに性質が違う.....何故.....?」
グレイズナイトシーカーが鉄塔から離れていくのをシャノアールは見、我に返る。
「二人とも行くわよ.....ここ、敵陣なんだから」
そう諌めた矢先である。
「シャノアール。一人だけここに残して撤退してください」
舞夜の唐突な指示にシャノアールは要領を得ない。
「どういう事です?それって」
「生産プラントではなく、クラックゾーンが置かれているだけの可能性があります。私なら間違いなく処理は行えますが、身動きが出来なくなるでしょう。その間の護衛があれば問題ない、という事です」
「それなら私が同行します。ここから退く時に、いずれにしても隠密行動が必要そうですし」
斯くしてグレイズナイトシーカーとブリッツシャノアールが生産プラントの破壊を、V2セリシールとビルドストライクカミカゼはエルニアの支援に向かう形で、作戦を変更した。
「しかし、生産プラントと言うだけあって監視の目がありますね」
門の隙間から覗き込み、内部の様子を見てシャノアールは目を細める。
「出払っていたはずのモビルドールも、侵入者を察知すればすぐに戻ってくるでしょう。異変を感知されぬようなるべく戦闘は避け、かつ速やかに最深部への到達が最優先目標です。よろしいですね」
グレイズナイトシーカーがちらりとこちらを見たので、シャノアールは頷き返し彼女の後に続いた。ティルトローターパックで飛行するNPDリーオーに目をつけた舞夜は、ウェポンセレクタを操作する。グレイズナイトシーカーの左肩にマウントした、チャクラム型のブーメランを手に取り、NPDリーオーが降下する瞬間を狙って投擲した。ブーメランがNPDリーオーの腰を斬り抜け、ほぼ同時にグレイズナイトシーカーが下半身を海に蹴り捨てた。そのまま立て続けに青く透き通る刀身のダガーで相手の首を奪い、今度はこれまた胴体も海面に放り捨ててティルトローターパックの奪取に成功。一足先に生産プラント内部への侵入を果たした。
「置いてかれた.....!?」
シャノアールがそう思った矢先、運良く別のモビルドールが頭上を通過した。ブリッツシャノアールは右手の長剣"シャ・ド・パラス"の電磁拘束を解き、鞭よろしく振り下ろす。勢いよく伸びる切っ先がモンテーロを背中から貫き、SFS"ダベー"から引きずり降ろした。その後アンカー的な要領でダベーに取り付き、見事に移動手段を手に入れる。
(警戒の薄いポイントを狙うのがベストそうだけど.....)
だが上空から見ても、警戒の目は密になっておりストレートに突入出来そうなエリアは見受けられない。このまま観測していても、いずれ見つかってしまうのが関の山だろう。シャノアールはミラージュコロイドを起動させ、賭けじみた行動に出る。ダベーの下部に備え付けられた、ミサイルを撃ち込んでガスタンクを破裂させた。大爆発が生じモビルドール達が一斉に現場に急行する。集まってきたのを頃合いにブリッツシャノアールがダベーを蹴り出し、群れの中へ飛び込ませ自分はマガノイクタチを広げ、滑空しながらガラ空きになった場所に着地した。
「これでばっちり、潜入成功....比良坂さんは先に着いたのかしら」
ミラージュコロイドは解かず、プラント敷地の奥へと歩みを進める。一方舞夜のグレイズナイトシーカーは、クラックゾーンのあるエリアの一歩手前まで到達していた。しかしそこへ、巨影が迫りつつあった。
「....レーダーに反応....どこかで割れたか....」
アラートマーカーの表示された方向へ振り向き、舞夜は言葉を失う。真っ白な装甲に身を包んだグレイズ、それに違いはないが機体サイズそのものが常軌を逸して巨大だった。全方位に伸びた装甲はさながら怪異そのもの。頭部の高精度センサーは初めから剥き出しにされており、眼球の如くこちらを睨む。
「機体名、グレイズフレズヴェルグ.....ガンプラダイバーに、DUMMY表記がされている.....これは一体....」
舞夜はモニターに表示されたガンプラダイバーの名が、"DUMMY DIVER"となっている事に要領を得ず、僅かながらに困惑する。グレイズフレズヴェルグがぐるりとこちらに向き直り、舞夜は身構えた。するとグレイズフレズヴェルグの両肩、計6門の砲門から一斉に砲弾が放たれる。ズドドドド!!とけたたましい音が空気を揺らす。グレイズナイトシーカーは側宙しながら背面より、ヘヴィグラビティエッジを手に取り弾幕をすり抜け敵の懐へ飛び込んだ。だが。
「ダインスレイヴ....!?」
グレイズフレズヴェルグの腕部側面に取り付けられた、装甲にカモフラージュした部位から突然鉄杭が飛び出して来た。舞夜の反応が間に合うか否か。辛うじて回避には成功したものの、左足を掠め体勢を崩し着地を強要された。
「障害は排除する!」
集中砲火を難なくくぐり抜け、ヘヴィグラビティエッジを逆袈裟に振り抜き相手の片足に創傷を刻む。グレイズフレズヴェルグは軽快なホバリングで素早く距離を取り、左右に動きながら砲弾を浴びせ続けた。グレイズナイトシーカーはヘヴィグラビティで弾を斬り落とし、壁を蹴って飛び上がると相手の顔面に取り付き、切っ先を振り下ろした。ところが既のところで叩き落され、また振り出しに戻されてしまう。
「あのタンクとパイプを爆発させてしまえば......チャンスはあるか....」
グレイズフレズヴェルグの頭上の直ぐ側に、ガスタンクと思しき物体とそこに繋がるパイプが見えた。舞夜はそれに狙いをつけるが、実現させるにはシャノアールが気づく必要がある。レーダーの反応では、ブリッツシャノアールはこの付近に来ている。だが彼女がグレイズフレズヴェルグを目撃しない限りは、この方法を試すことは叶わない。しかしやらねば、事態の打開には繋がる契機を掴めないままやられるだけ。
「やる価値ならある.....今の私は、一人ではないのだから」
ヘヴィグラビティエッジから刃をパージ、基部とプロトグラビティエッジに分離する。さらに基部のコネクターが反転し、グリップが露出。やがて中折すると内部からマズルが展開され、一挺のサブマシンガンと成った。舞夜の瞳がカシャカシャと動き、自らを精密射撃に最適化させる。この一撃に勝負を賭ける。彼女らしからぬ手に出るのだった。