創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
アメリカ、ホワイトハウスにて。大統領セオドア・ラグネシアンのもとに、一通の報せが飛んできた。
「大統領。これをご覧ください」
秘書が一枚の紙を差し出した。形式を見るに、日本国政府からの信書のようだが、セオドアにある胸騒ぎを呼び起こした。
「これは.....!我々....いや、世界はあの男の口車に乗せられていたと言うのか....!?」
その内容とは、仮想世界大戦を引き起こしたアーネストホールディングスCEO、徹=アルマーニュの真の目的についてのものだった。彼はこの戦争を通じて技術発展の加速を狙うだけでなく、疲弊した世界を導き徹自身の手によって管理社会を作り出すという狙いで、これまでの様な"死者なき戦争"に各国を引き込んでいたと言うのだ。
「日本政府からも、全世界に向けて公式見解を発表するそうです....大統領」
「分かっている!あの男め、これが事実なら...!」
そして時間が来たので、秘書がテレビの電源を入れた。日本政府の記者会見場が映し出され、会見の始まりを今か今かと待つ、そんな空気が画面からも感じられる。
アメリカへの信書が作られる、半日程前。首相官邸の前に一台のリムジンが停車した。SPと秘書官が降りた後に、ドアを開けられて降車したのは何と、英梨だった。普段は私服など比較的ラフな格好で動くことが多いが、TPOの関係もあってスーツ姿である。首相官邸の近くに来る事は仕事柄よくあるのだが、中にまで踏み込む機会は一度もなく最大の緊張感に、顔が強張りそうだ。ロビーに足を踏み入れると、何と首相自ら出迎えてくれたではないか。会見でしか会うことのない総理大臣と、非公式に面会する事になるとは、一体誰が予想したのだろうか。
「ようこそいらっしゃいました。神宮寺 英梨さん」
「お忙しい中時間を取って頂きありがとうございます、姫野首相」
会議室に招かれ、首相の姫野と秘書官そして英梨のみとなった。無論外にはSPが待機している。
「神宮寺さんから頂いた情報により、警視庁の捜査が一気に進展しました。本当にありがとうございます。それで、また新たな情報が出たと仰っていましたが...?」
「はい....最初にこちらをご覧ください。実は仮想世界大戦と並行して、現実でも紛争が発生してたんです。元々情勢が不安定な国まで、この仮想世界大戦に参加していました。それが刺激となって国家間の緊張を高め、実際に戦闘が行われ死者も出ているそうです」
英梨がROMANESQUE在籍時代に作り上げた、コネクションを駆使して世界中から、リアルタイムで情報を手に入れていた。その中に、仮想世界大戦から実際の戦争に繋がってしまった国の存在を、初めて知ったのである。国家間対立のみならず政府へのクーデターも、アフリカや中東諸国を中心として起きていた。仮想世界が、"もう一つの現実"である意味を如実に示す好例である。
「現にSNSでもこの惨状を世間に訴える人が沢山います。これは仮初めなんかではありません。本物の戦争になってしまった...私にはそう見えてなりません」
映像を見ながら姫野は平静を崩すまいとしたが、やはり悲痛さが滲み出ていた。
「これは仮想世界条約だけでなく、あらゆる世界の法を踏みにじる行為だ.....一刻も早く手を打たねば、最悪の場合第三次世界大戦になってしまう....」
「いえ。第三次世界大戦はもう起きてしまっています。舞台が仮想世界に変わったと言うだけで、本質は全く同じ。だけど今なら、今この瞬間なら引き返すチャンスがあります....!」
「.....では、今から動き出しましょう。アメリカに信書を送り次第、政府の公式見解を世界に向けて発信します。実はアメリカは、他の国に先駆けて仮想世界大戦その物から離脱しようとしているのです。上手く同調してもらえば、世界への訴求効果はより高くなるでしょう。後は、神宮寺さんの方から何か提案がございますか?」
「仮想世界からの避難勧告をお願いします....これから起こる戦いは、これまで以上に大きな被害が出るかもしれません。私の仲間達が、仮想世界の平和を取り戻す為に戦っています。彼らの力を最大限使えるよう、取り計らって頂けませんか...!」
英梨は初めて、外部の人間にブルームーンの存在を示唆した。望みを託せるのは彼らしかいない。ならば、彼らが何の心配もせずに徹=アルマーニュを討ち果たし、レイを救えるようにするのが一番の手助けではないか。英梨はそう考えたのだ。姫野もその意思を汲み取り、秘書官に指示した。
「その件も含め、全世界へ発信します。この戦いが終息しましたら、その"仲間達"の皆さんとお話させてはいただけますか」
この混迷極まる世界で希望となるべく戦う者たち。姫野とて興味が無いわけではない。
そして、会見当日。姫野が登壇し、マスコミに軽く挨拶をして本題に移る。
「国民のみならず、世界中の人々を恐怖に陥れた仮想世界大戦によって、本当に戦争行為が行われた国が出て参りました。これはもはや、仮想世界だけではなく、現実も含めた世界全体の危機と言わざるを得ません。国家としても緊急事態宣言を発令し、国民の皆様には仮想世界への立ち入りの一切を制限させていただきます。今後同盟国に対しても、同様の要請を行い、この仮想世界大戦の終息に向け連携していく所存であります」
記者の一人が手を挙げる。
「しかしゲームの中での事件であるなら、運営会社を直接捜査するだけで完結しそうですが?」
「先程も申し上げました通り、これを発端として戦争行為に発展した国や地域があります。幸いにも我が国では、暴動等は起きていませんが、他国で起きてしまった事を見過ごせるか。私はそれは出来ないと考えます。アーネストホールディングスへの強制捜査も行いました。その結果、社員の8割は無関係であると断定できる有力な情報も得られています」
またある記者は。
「仮想世界関連の仕事をしている人達からすると、かなりの死活問題のように取れますがどうお考えでしょうか」
「我が国や世界の未来を担う、仮想世界事業に従事される方々に対しては、避難期間分の生活を送れるよう補填を行います。閣議でも国会でも決定しております」
最も、補填予算に関してはこの会見の2日前に官房長官からも国民に知らせている事だった。英梨は会見を裏から見ながら、他社記者の質問に失望を覚える。
(話を聞いてないのかしら....そんな風に聞こえる質問ばっかり....プロのやる仕事じゃないでしょ....?)
勿論首相官邸での記者会見の様子は徹も見ていたが、まさか仮想世界へ一切の入場を制限する運びとなったのは予想外だった。
「これは......あの女のシナリオか....随分と味な真似をしてくれるじゃないか」
そんな彼を秀晃は遠巻きに眺めながら、コーヒーを一口。
「いよいよ大詰めって感じだなぁ、大将?ま、あんたが世界を手にする瞬間を見せつける事は叶わなくなったが、戦力は依然として有利。さて、俺も最後の一仕事やって来ますかねぇ」
カップを机に置くと、徹のみが知る地下への直通エレベータに乗った。
「もう会うことは無くなっちまうだろうが、元気でな大将」
「ここまで君がいなければ、成し得なかったことだ。感謝するよ、結城 秀晃」
ドアが閉ざされるのを認めると、徹自ら仮想世界へと赴いた。あの世界にブルームーン以外何も無いのならば、思う存分力を振るえる。そう考える、否そう考えるしかなくなったのだ。
リョウマは弘を見つけられず、ブルームーンに帰投したがいつの間にやら、彼が一足先に戻っていたようだった。
「よう、リョウマ!カレー食うか?」
「よう....じゃねぇし!お前いつの間に戻ってきたんだよ?」
「ついさっき、エスに拾ってもらった」
「エルニアを探しに行ったのにお前を拾ってくんのかよ....まぁいい、お前が無事なら」
その後、フルーティストCをお姫様抱っこで抱えたBLADET-Lが着艦した。珍妙な光景にその場にいた全員が唖然する。
「凄い事するんだなぁ....あの二人....」
エスとミナも呆然と見上げるが、
「いいなぁ....」
とミナが言い出し更にエスを困惑させる。"Gガンダム"で見た光景その物だが、自分でそれを再現する勇気はなかなか出てこない。斯くして主力メンバーの面々がブリッジに呼び出され、集結する。皆の前にリタと門松が立ち、状況の説明に移った。
「政府の発表で、緊急事態宣言がなされましたわ。つまりこの仮想世界大戦は、国家レベルの災害と言う認定をされたようなもの。この場合は人災と言うべきですわね。その上、仮想世界への一切の出入りを制限する政策も打ち出しています。私達は運良くその例外にあるそうですが....幸いにも罪のない人達を巻き込まずに、最後の戦いに臨めますわ」
そして門松が続ける。
「まぁアレだ。俺達にとっちゃ、本当に最後のチャンスって訳だ。ここにレイがいたらびっくりするくらいの、過去最強の面子が揃っている。奴らも馬鹿にならん位の戦力を投下してくるだろうが、所詮は数だ。一騎当千の強者がゴロゴロいる俺らなら、そいつ等を蹴散らすなんて訳無い。しっかし、ネットの力ってのも恐ろしいもんだなぁ....水崎。お前今や日本だけじゃなく、世界中からも期待されてっぞ。ヒーローとか何とかってな」
唐突に伝えられる話にリョウマは「はぁ!?」と目を丸くした。
「き、教授....!?それ何の冗談ですか?」
「でも、リョウマさんは世界を救うヒーローですよ!これだけは絶対です!」
スワンがリョウマの前に出、強気な笑みを向ける。リョウマはどうした物かと助けを求めるが、皆も同じ気持ちらしくスワンの言葉に頷いていた。
「お前ら....!あぁ分かったよ。だったら俺は世界を救って、正真正銘のヒーローにやってやろうじゃねえか!」
歓声が湧き起こる中、リタが手をぱちんと叩き我に返した。
「さて、ここからはいよいよ絶対に負けられない戦いですわ。いいこと?総力を以って、仮想世界に平和と安寧を取り戻しなさい!」
全員がリタに敬礼し、素早くブリッジを飛び出した。門松は堪えていたあくびが出てしまい、気不味そうにメインモニターに向き直る。
「失礼....ここまで来りゃ後少しだ。この後も大変だろうが、今はやれる事を全部やって行くだけだな」
「仰る通りですわ。ですが教授は暫く寝ていないのではなくて?艦長室開けていますから、そこで仮眠さなってくださいませ」
「そう言う訳にも行くかよ」
門松は不敵に微笑むとブリッジを後にした。酷く草臥れた背中だが、不思議と力強さが感じられる。本当に不思議な男だとリタは苦笑した。
リョウマはビルドスパークルに向かう道すがら、見たことの無い機体に目が釘付けになった。
「これ....もしかして、ドラグハートか?」
「みてぇだな。気がついたらこんな感じになっちまった。元に戻らねぇって教授が言ってたけどよ、俺は不便してないからいいだろ」
「確かにお前に合わせて進化するようにドラグハートを作ったけど、外観まで変わるなんて想定外だよ.....だからか!ジーニアスシステムにドラグハートのデータを突っ込めなかったのは」
「何だ、それ?」
「ジーニアスシステムはまぁ....お前に分かるように言えば超スゲェし超パねえ、ビルドスパークルの切り札だ」
弘の普段の言葉遣いと思考から、リョウマが説明を組み立てたが当の本人には通用せず。
「は.....あ?いや、分かるように説明しろ!」
「普段のお前に合わせて話してんだよ、理解しなさいよ」
「んだよそれ、無茶言うな!」
「つまるところ。お前とお前の機体は、常識や理論なんかじゃ説明が出来ない、そのくらいの存在になっちまったって事だよ。どんな不条理をぶっ込んだらこんなのが生まれるんだか」
「おい....それ褒めてんのか!?」
「褒めてるに決まってんでしょうが。元々俺とお前は対極に強くなっていくタイプ。俺は技術で強くなって、お前はセンスで強くなる。それぞれが行く所まで行ったら、今のビルドスパークルとドラグハートになるんだよ。そんでジーニアスシステムは、俺の集大成。ガンプラダイバーズに蓄積されたデータが、新たな力を創るのさ」
そうしてビルドスパークルのコクピット前に差し掛かった時、リョウマとシャノアールの目が合う。
「調整ならお手伝いしましょうか?」
「今更調整するものなんて無い。どうだ、お前の正義はちゃんと見つけられたのか」
シャノアールが手を貸す本当の理由。それはシャノアールの中にあるはずの、彼女なりの"正義"の在り方を見出すことにあった。
「お陰様で。あなたと、あの人の生き様で取り戻せた気がします」
「.....舞夜か?」
「はい。誰かの為に動き、そして救っていく。私の中の正義が一つ形を変えて、強くなっていく。そんな気がしました」
「お前の言ってる事はいまいちよく分かんないけど、目的が果たせたのならそれでよかった」
リョウマからの接し方が、シャノアールからすると多少ドライな物に感じられ、やや不服であったのでここでぶつけてみる事にした。
「あの。私にだけドライじゃありません?他の人とは楽しそうに話してるというのに、私だけなのはちょっと....」
「錯乱状態だったとは言え、アンタが俺にやった事を考えたら理由は分かる。安心しろ、信用はしている」
アーネストの地下牢獄での出来事が思い出される。確かにあの日、精神が破綻しかかったシャノアール――結利香が諒馬を襲った。当然誰しも傷つきもするし、して来た相手とはなるべく接したくない物だ。それでもリョウマは仲間として、ブルームーンの一員に迎えてくれた。それだけでも充分過ぎる。
「出過ぎた事を言いました....今のは忘れてください。....後、これだけは伝えておきたいんです」
リョウマがきょとんとする。だがシャノアールはそれに構わず、想いを告げた。
「私の気持ちはあの時とは違います。あなたを愛せたら、どれだけ幸せなのだろう....そう思えるようになったんです。ですから....」
だが答えは、予想通り。
「悪いがそれは、この先出逢うであろう人の為に取っとけ。俺には後にも先にも舞夜だけだ....悪く思うなよ。そもそもこの場で言う事じゃないでしょうが....変に空気読めない所あるよな、お前さんは」
リョウマが力無く笑いながらコクピットに滑り込む。シャノアールもどこか吹っ切れたのか、悲しい顔ではなくどこか清々しい。
「そうですね。そこは反省すべき所でしょうね。それでは、この戦いが終わるまで」
シャノアールが去っていくのを、スワンが物陰から見ていた。リョウマと交際を始めてしまう危惧はなくなったかのように思えたが、シャノアールの表情のせいで上手く読み取れず。
「でも、今言うのは....せめてこれをお渡しするだけでも!」
だがそんな儚い思いさえ、現実が吹き消してしまう。艦内をアラートが駆け巡り、デッキが慌ただしくなり始めたからだ。
「あ.....もう急がないと!」
最大のチャンスを逃した事を後悔している場合ではない。スワンは大急ぎでV2セリシールのもとに駆けつけ、コクピットに飛び乗った。
「スワン!ちゃんとキャプテンの事も宜しくね!」
ケイトがメットとお守り代わりなのか、V2ガンダムのメガビームシールドを模した、チャーム付きのブレスレットを投げ渡される。
「はい....!必ず!」
メットを被ると、衣装が切り替わりノーマルスーツとなった。第一波として、シローとソルブレイヴス隊、スワンとエルニアが出る事となる。
「久々の組み合わせだけど、覚えているか?」
ふとシローに聞かれ、スワンは暫しの間を置いて視線を戻した。
「大丈夫です!」
「それなら安心だな!シロー・アマダ、Bm-8出るぞ!」
カタパルトから飛び出すとバックパックを分離させ、リフターとなりBm-8を乗せて飛翔した。ブレイヴとグラハムのブレイヴ・サンダーバードが順次出撃し、これまた空中でフォーメーションを組んで戦場へ。
「ではお先に、エルニアさん」
「どうぞ!スワンの背中は任せて!」
ありがとう、と告げてスワンはペダルを強く踏み込んだ。
「スワン・マスターピース、V2ガンダム セリシール・トゥールビヨン、参ります!」
SECTOR-ZEROに降り立った徹は、終末時計の異変に目を疑った。
「針が.....凍っているだと....!?蘇ったとでも言うのか.....!」
衝撃に顔を歪めながら終末時計の内部へと向かい、中で拘束しているレイの様子を見に行く。そこで徹は、またしても予想外の出来事に出くわした。レイの胸を貫いていたはずの鎖が砕かれ、彼女の周辺には氷の分厚い壁が出来上がっていた。
「これは一体.....この女にはそんな力など残されていないはず....!」