創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
「エス達が出たか...!」
BLADET-Lのウェルスは、ストライクJOKER達が出撃するのを認めペダルを踏み込んだ。
「この位置からなら、クリスタルの大樹ははっきり見えるよ、ウェルス!」
エルニアのナビゲート通りの位置にBLADET-Lを向かわせ、両肩に刃を前に向ける形で展開した。
「了解した。本丸を狙い撃つ!」
刃先に粒子が収束し、臨界に達した瞬間に放出した。ライザーソードに程近い原理で放たれるビームは、モビルドールの行進を貫きクリスタルの大樹目掛け突き進んだ。狙いは彼女程とは行かないが、ウェルスとて心得がある。やがて粒子の剣がクリスタルの大樹を覆う、ヘクス状のバリアを突き破り風穴を空けた。
「このまま連中を分断する!はああぁああああああッ!!」
光の大剣を振り回し、モビルドールの濁流を堰き止め強引に消し去った。そしてシューターモードに切り替え、素早く戦線に戻る。
「リョウマさん達が到達する前にもっと数を減らさないと....!」
エルニアの思惟に従い、GNソードビットと大型GNファングが敵陣に切り込む。V2セリシールが合流した事で、前線維持はより強固な物となった。
「スワン、来てくれたんだ!?」
「第二波がそろそろ到達します!ソルブレイヴス隊の方達と入れ替わりになるので、その前に!」
「分かっている!」
V2セリシールに前を任せる形でBLADET-Lはやや後退し、アイファライフルと両肩のGNパーティクルカノンを駆使して援護に回った。再びLINKAGE-BURSTを使うには、もう少し時間がかかりそうだ。
「真上から来る.....エル!」
頭上にヴァイエイトが現れ、ビームキャノンの銃口を向けられウェルスはエルニアに警告した。
「分かってるけど....!ビットも減ってるから....これって....!?」
突然ヴァイエイトが動きを止め、エルニアは目を見開く。すると光の膜が解け黒いガンダムが姿を表した。ブリッツガンダムシャノアールが真っ先に、救援に駆けつけたのだ。マガノイクタチで相手を捕縛すると、鮮緑色の剣"クー・ド・シャ"でコクピットを穿ち、斬り抜けた。
「お待たせしてすみません。私でも少しは戦力になるはずですから、頼ってくださいね」
シャノアールからの通信に、エルニアは内心ホッとした。頼れる大人がいれば、この様な状況でも支えになる。
「ありがとう、シャノアールさん!」
「奇襲を頼んだ、シャノアール・エスプリーク!」
「ええ....もちろん....!」
シャノアールは機体にミラージュコロイドを定着させ、BLADET-Lに取り付こうとする敵を次々と落としてゆく。そしてようやく、大本命達がこの戦線を駆け抜けた。
「露払いも何も、この人達がこんなに倒してる....!けど、まだダメ押しが出来てないって事?」
カミカゼストライクのミナが唇をぺろりと舐め、獰猛な笑みを浮かべる。各部に取り付けられたP.E.Dが起動、青い輝きを発しながらカミカゼストライクを更に加速させた。両手に携えた、"ビームソードライフル"を連射して瞬く間に敵機を蜂の巣にする。ハイパーモードの出力は凄まじく、どれほど強固な陣形を組まれようとも瞬時にして突き崩せる程、強力なものだった。残像すら発しながら戦場を駆けるその様は、まさに神風そのもの。
「今まで動けなかった分....大暴れさせてもらうよッ!」
次々と標的を見つけては斬り、更に狙い撃ちにする。平時の性格とは全く真逆に、理性など感じさせない戦い方。これこそがミナの真骨頂とも言えよう。しかしそれでもミナは思考が止まっていないのだから、恐ろしいのだ。V2セリシールのスワンに、エスとの合流を指示してその場を引き継いだ。その間にも戦いの手は一切止めないどころか、ますます激しくなる。ハイパーモードが持続する間、出来る限りの数を削ろうと言うミナの意思がそうさせるのか。長い付き合いになるエスですら、よく分かっていない。
「やっぱり、ああなった時のミナは怖いや.....!スワン、こっちだ!」
ストライクJOKERとV2セリシールが合流し、戦線を迂回しながらクリスタルの大樹へと急ぐ。
「レイはあそこに.....いるんですね....!」
「ああ....感じるんだ。間違いない、レイはそこにいる!俺達で助け出すんだ!」
同じ頃。氷の壁の奥でレイが目を覚ました。その瞳は霞んでこそいるが、弱々しくも光を灯し始める。胸を貫く鎖はすでに消えた。もう残り僅かの力を使い、友に呼びかける。"私はここにいる"と――。エスはすぐに彼女の"声"を聞き、V2セリシールのスワンにある提案をした。
「俺の力で"跳んで"、バリアが塞がる前にレイをあそこから引きずり出す!」
「"跳んで"....!?どういう事ですか!?」
限られたν-Typeにしか与えられない力。無論スワンがその意味を知る由もないが、今は一刻を争う。エスは説明せずにストライクJOKERとV2セリシールの手を繋がせた。
「やるしかないんだ.....!跳べぇえええええ!!!」
エスの瞳が翡翠色に輝く。忽ちストライクJOKERとV2セリシールが姿を消し、数秒とかからずにクリスタルの大樹のすぐ目の前に到着した。スワンが刹那もしないうちの出来事に愕然とするのを他所に、エスはエストックをライフルモードに切り替え、壁を砕き内部へ侵入する。
「ここならブルームーンと同じなのか.....スワンはすぐに降りて!」
エスがストライクJOKERから飛び降り、樹洞の中へ踏み込む。氷で出来たような景色に息を呑むが、目の前の壁が溶けていくのを目の当たりにし我に返った。そして。
「レイ......レイ!?」
鎖に四肢を繋がれた青い髪の少女。レイ・ブルームーンその人を見た瞬間エスは、弾かれるように彼女の頬に触れ呼吸があるのか確かめた。スワンも後からやって来、急いで駆け寄る。
「レイ....!私だよ、スワン・マスターピース!ちゃんと生きてるなら、返事をして....!お願いだから....!」
スワンがレイを抱きしめる。耳元で声が聞こえ、思わず顔を離すとレイがじっとこちらを見つめていた。
「奏.....どうして.....」
「どうしてって.....親友だからでしょ....!私とミサと、レイがいなきゃ....誰かが欠けてもいけないんだから!」
エスに鎖を外してもらいながら、レイも弱々しくもスワンを抱きしめ返した。
「私.......そっか......自分で二人を遠ざけてたんだっけ......なのに、助けに来てくれるの....?」
「当たり前です!レイはいつもそうだよ.....素直に助けてが言えないんだから....!皆、レイの事を大切に思っているから....ブルームーンの皆でここまで来たんだよ....!」
スワンの一言でレイは初めて救われたと感じたのか、瞳から涙が零れ落ちた。エスも二人の様子に安堵しながらも、外の状況を鑑みて現実に引き戻させる。
「もう時間がない。スワンはレイを連れて先に帰還してくれ。俺はすぐにミナ達と合流しなくちゃいけない。スワンも落ち着いたら、クレッセントを守ってもらいたいんだ.....いいかな」
スワンはレイの肩を担ぎながらエスに振り向き一言、
「はい!お任せ下さい!」
と強気な笑みを見せてV2セリシールに乗り込み、光の翼を広げクレッセント・ブルームーンへの帰路につく。エスもコクピットに飛び乗り、ストライクJOKERを飛翔させ戦場に再び舞い戻った。
「クソッ.....邪魔するな!」
クリスタルの大樹の根本からもモビルドールが湧き出てくる。リョウマはラピッドスマッシャーに変身させ、敵を往なしながらSECTOR-ZEROを目指すが、吐気を催す程の密度ではそれも叶わぬ事だった。
「リョウマ、ビルドリンクを。アレなら突破出来ます」
グレイズナイトシーカーが敵を斬り伏せながら、ラピッドスマッシャーの前に流れる。リョウマは舞夜の提案通り、ビルドシステムを起動させた。するとグレイズナイトシーカーの両肩に円盤型のマウンターが現れ、そこから翡翠色の刃が解き放たれた。グレイズナイトシーカーとビルドスパークルには新たに、ビルドリンクなる機能が用意されていた。これはビルドシステムの一部を共有する事で、リョウマと舞夜の戦術バリエーションを更に充実させるものだ。
「一気に殲滅する!」
グレイズナイトシーカーの周囲を漂う"シグルマギアブレイド"を飛び込ませ、敵の頭を的確に落とし攻め込む隙を作り上げる。ラピッドスマッシャーもスマッシュブラスターでモビルドールを薙ぎ倒し、更に奥へと駒を進めた。
「これだけの数、相手にするのか....まるで、キリがねぇ...な!」
スマッシュブラスターとフラガラッハ3ビームブレイドの二刀流で、ビルゴを両断するがSECTORへの入り口に近づくに従って、ますます数を増やすモビルドール。リョウマは辟易していた。
「弘達とは違い、私達には殲滅力がありません。こうなるのは、ある意味妥当ですが」
グレイズナイトシーカーはアクロバティックな挙動で、メリクリウスを拘束しシグルマギアブレイドで八つ裂きにした。そのまま流れるような動きでプロトグラビティエッジを振るい、ラピッドスマッシャーを背後から襲おうとする、トーラスを斬り捨てた。
「何だ!?」
SECTOR-ZEROへ到達した矢先。どこからか光弾が撃たれ、モビルドールを尽く一掃してしまった。否、モビルドール諸共ラピッドスマッシャーを撃ち抜こうとしたのだろう。リョウマの目には、最後の関門とも呼べる存在が映っていたのだから。
「シューイン.....いや、東郷 純一....!」
エヴィルイフリートがゆっくりとした足取りで近づきながら、ヒートサーベルを抜き放つ。
「クックククク.....!ようやく、お前を葬りされるぞ....水崎ィイイイ!!」
グッと身をかがめ、全身のバーニアをフル稼働させラピッドスマッシャーに迫る。ラピッドスマッシャーは赤熱化した刃を、スマッシュブラスターで破壊するがエヴィルイフリートが続けざまに斬りつけてくる事もあり、距離を取るしか無くなった。二振りのヒートサーベルを破壊して、真後ろにロールしながら距離を作る。そしてスマッシャーモードに切り替え、エヴィルイフリートに撃ち込んで格闘戦を拒否した。そこへグレイズナイトシーカーが飛び込み、エヴィルイフリートの右肩を横薙ぎに斬りつける。
「死人がノコノコ出てくるかぁ!!」
エヴィルイフリートが左腕にビームニードルを発し、カウンターをぶつけた。だがグレイズナイトシーカーは、ヘヴィグラビティエッジで受け止め怯ませると、飛び上がって脳天から兜割りを見舞いカウンターをし返した。
「私が肉体的に死んでいるならば、あなたは人として死んでいる....初めから分かっていた事!」
「私が死人だと.....?ふざけた口を叩くなァ!」
エヴィルイフリートの周囲に黒い霧が噴出。黒い風となりグレイズナイトシーカーの背後に立つと、再形成したヒートサーベルを振り下ろした。しかし舞夜の反応が先んじた。ヘヴィグラビティエッジを開き、プロトグラビティエッジを抜き放ち斬撃を打ち消す。リョウマも舞夜の援護をすべくビルドスパークルを変身させた。
「タフネスブラスター.....コイツで!」
ラピッドスマッシャーの赤いアーマーが弾け飛び、入れ替わる形で青い鎧を身に纏う。そしてスマッシュブラスターで砲撃、グレイズナイトシーカーの攻撃の隙間を埋めた。
「戦況を優位に立たせるには、これが最優の手段!」
スマッシュブラスターが直撃してよろけたエヴィルイフリート。そこにグレイズナイトシーカーの蹴りが刺さり、更にシグルマギアブレイドがありとあらゆる方向から、エヴィルイフリートに斬撃を浴びせた。
「私の装備を真似するとは、貴様も落ちたものだなぁ!!」
エヴィルイフリートが空中で受け身を取り、サイドアーマーからダートビットを射出。シグルマギアブレイドと衝突させて無力化させると、猛烈なスピードでタフネスブラスターに迫り、交差したヒートサーベルを押し付けた。だがリョウマはそれを先読みしており、タフネスブラスターの目の前にバリアビットをビルドさせる。そしてスマッシュブラスターで斬り上げ、更に袈裟斬りを見舞い地面に叩き落とした。またグレイズナイトシーカーも落下位置に先回りすると、シグルマギアブレイドを再度展開し相手の再起を狙う布陣を作り上げる。
「ハザードに細胞レベルで順応した私が、何故こうもッ!!」
激昂するシューイン。対照的にリョウマは平静そのものであった。
「お前には守りたいものがないからだろ...!俺達はこの世界を守る為に、どんな力も乗りこなして来た!破壊するだけしか出来ない力でも、使い方次第で人を救える!そこが俺とお前の違いだ!」
スマッシュブラスターの砲口にスパークが迸る。それはやがて本体全てを走る様になり、限界までエネルギーを集束させ、放出した。メガバズーカランチャーに匹敵する粒子の圧力が、地面ごとエヴィルイフリートを灼く。
「反応が消失した.....?」
舞夜は妙な違和感に思考を巡らせた。完全に撃墜されたのであれば、その通知が来るはずである。しかしながら現状、エヴィルイフリートとの交戦状態は維持されたまま。何かが起こっていると考えるのは自然なことだった。そして、舞夜の"悪い予感"が形になろうとした。タフネスブラスターの背後に黒い霧が漂い始め、やがて一箇所に向かって集まりだしたではないか。霧は人の形を作り、血眼の鬼神へと姿を変え凶刃を振り下ろす。リョウマが背後から殺気を感じ取るが既に遅く、完全な回避はほぼ不可能。
「何だってんだ!?量子化まですんのかよ.....!?ぐあああああっ!!」
タフネスブラスターの躯体から激しく火花が散る。挙げ句スマッシュブラスターを手放してしまい、ハザードまで解除されてしまった。
「無様だなァ!!何が世界を守るだぁ?乗りこなせたとか何とか言ってたな水崎ィ......だが肝心のお前がこれじゃ話にならないッ!!」
エヴィルイフリートがビルドスパークルを何度も踏みつけ、グリグリと踵で押し潰す。だがそこへグレイズナイトシーカーが割り込み、サブマシンガンにより右肩を吹き飛ばされた。
「ぐっ.....貴様はまだ水崎に執心してるつもりか.....!これではただの犬畜生じゃないか!!」
嘲笑しながらエヴィルイフリートはビームバルカンを掃射する。ところがグレイズナイトシーカーが光弾を全て斬り潰し、意味を成さなくなった。
「貴方はその程度の認識しか出来ないのであれば、知性のかけらも無い動物と変わらない」
ヒートサーベルの太刀筋を全て見切り、サブマシンガンで刀身を砕いた。そこからシグルマギアブレイドを放ち、飽和攻撃を仕掛けながらリョウマの再起するための時間稼ぎに出る。リョウマも程なくしてビルドスパークルを起き上がらせ、新たな一手を形成した。
「再使用まで残り3分....持たせるしかない!」
ドリルクラッシャーとビルドブースターを装備し、真横からエヴィルイフリートを殴りつけた。10000rpmもの回転数から生み出される衝撃は、当て方によってはハザード相手にも十分に効果がある。エヴィルイフリートを突き飛ばしわざと注意を惹き付けた。対ハザードとしては、自殺行為でしかない手だがリョウマは、シューイン相手にはかなり使えるやり方を考えていた。
「ハザードも無いのに....クククッ.....いいだろう、嬲り殺しにしてやろう!」
「試してみるか?お前の弱点を作ってやる」
エヴィルイフリートが右手にビームニードルを発振させ、ストレートの要領で殴りかかる。しかしビルドスパークルはそこから一歩も動かず、じっとエヴィルイフリートの様子を見ていた。
「ビルドアップ!」
ビルドスパークルのアンテナが形を変え、テスタメントガンダムの物となる。その直後、エヴィルイフリートが突然ピタリと手を止め、弾かれるように飛び退くと頭を抱えるような動きでよろけ、藻掻き苦しみ始めた。
「な、何をした水崎ィイイイ!!ハザードも、私も蝕まれッ.....グアアアアア!!」
「当たり前だ!今俺が作ったのは、ハザードを抑制する為のプログラム――要するにお前にデバフをかける為の、ウイルスって事だ!」
ビルドスパークルとグレイズナイトシーカーが同時に駆け出し、それぞれの剣でエヴィルイフリートに斬撃を浴びせ、更に追い打ちをかける。シグルマギアブレイドに視界を奪われたかと思うと、スマッシュブラスターの光弾が飛来し起き上がる余裕すら奪われた。
「貴様ァァァアアア!!」
エヴィルイフリートは真横にロールして強引に再起し、これまた無理矢理ハザードを再起動させた。機体へのダメージが深刻化するが、シューインにはそれが見えていなかったのだろう。リョウマを味方に引き入れるはずが、彼を殺す為だけの修羅と成り果てるとは、本人でさえも予想出来なかったであろう。無論、それを考えるだけの知性さえも奪われてしまっていては、当然意味もない話なのだが。ヒートサーベルを放棄すると、自身の背丈を超えんばかりの長さの実体剣を形成。刀身を赤熱化させながら素早く間合いを詰め、猛烈な勢いで薙ぎ払った。ビルドスパークルの迎撃も虚しく、ことごとく無力化され両機共々跳ね飛ばされ、壁に激突した。
「なんてパワーだ....こっちの射撃を突き抜けやがって...」
「ヒャハハハハハハ!!どうだ水崎!!私の力は当にッ!お前の想像を遥かに凌駕しているッ!!お前と私の違いはまさにここにあるッ!ヒーローごっこもここまでだなァ!!」
エヴィルイフリートが切っ先を引きずりながら、不敵な足取りでビルドスパークルに迫る。グレイズナイトシーカーの舞夜は、リョウマを何としてもSECTOR-ZEROの最深部に到達させねばならないと、ある決意をする。
「いけない.....!彼を、先へ行かせなければ...!」
ハザード起動。グレイズナイトシーカーが鬼神眼前に躍り出、プロトグラビティエッジで斬り上げんと振るう。だが彼女の予想に反して、プロトグラビティエッジごと機体を断ち切られてしまった。大質量を伴ったヒートソードの一撃はあまりにも重すぎたのである。右肩のフレームが見事に断ち切られ、コクピットブロックにまで刃が到達した。
「何だァ....?半狂乱になって死ににでも来たのかァ!?」
狂喜するシューイン。一方の舞夜はヒートソードに接触した右腕が溶断されただけでなく、表皮が次第に焼け爛れ始めた。骨格フレームや人工筋肉が露わになり、視界にも緊急事態を示すアラートのウィンドウが次々と表示される。だがそれでも彼女は、恐怖などしなかった。たった一つの、叶えたかった願いをようやく果たせる時が来たのだ。愛する彼の命を守る為なら、自分の存在を失うなど大したリスクでもない。舞夜は今、自分の役割を果たすだけなのだとエヴィルイフリートを真っ直ぐ見据えた。
「あなたをここで討つ.....!私の存在と共に、消えてなくなれッ!!」
「自爆する気かァ?貴様とてただでは済まないのを分かっているのかァ!!」
エヴィルイフリートが更に力を加えようとした。その刹那。グレイズナイトシーカーは一歩踏み出し、左手に握ったシグルマギアブレイドでエヴィルイフリートのコクピットを貫いた。ほぼ同時にヒートソードもグレイズナイトシーカーを両断し、互いを刺し違える形で滅んでしまった。爆風に巻き込まれ、リョウマは目を細める。しかしその瞳は悲嘆の色に染まっていた。
「舞、夜........そんな......そんなの、許せるわけ無いだ、ろ......?」
脳が拒否する。舞夜が消えたなどと考えたくなかった。無理に笑顔を取り繕うとするが、もはやそれすらも満足に出来ず、酷く歪んだ表情になってしまう。モニターに生命反応が映し出され、リョウマは弾かれるようにコクピットから滑り降り、グレイズナイトシーカーのもとへと走る。
「舞夜ッ!まだこの位なら修理が出来る....!少し待ってろ、俺がすぐに....!」
グレイズナイトシーカーのコクピットから、半ばスクラップ化した状態の舞夜を運び出し、床に寝かせた。損傷が激しく、人としての原型を一応留めている位に酷かったが、リョウマにとっては修復可能な範囲である。しかし舞夜は、彼の手に触れて首を横に振った。
「リョウマ.....もう、必要ありません.....私は私の為すべき役割を、全うした....それだけですから...」
「何言ってんだよ....!?」
リョウマの瞳から零れ落ちる、一滴の雫。彼の想いは正しく本物であった。愛する人を2度も殺してしまう。それは誰にとっても堪え難い悲しみを背負わざるを得ないものである。舞夜にもその事は理解していた。しかし、一度死んでしまった人間が現世に留まり続ける事のほうが、残された者を更に苦しめてしまうのもまた事実。舞夜にはこの時が訪れる事が分かっていた。
「.....死人が生者に干渉しては、未来へ進めなくなってしまう。あなたには、私の屍を踏み超えて.....未来を作って欲しい....誰もが夢と希望を胸に生きて行ける世界.....それがあなたの願いなら....」
「もう何も言うな!....生きてようが死んでようが関係ない!失いたくないんだよ.......!俺は君を失いたくない!!」
慟哭を上げ、リョウマは舞夜を抱きしめる。しかし舞夜は、敢えて叱咤した。
「行きなさい!この世界はあなたにしか救えない....あなたの力でなければ、ダイバーズは新しい時代を迎えられない!あなたが未来に向き合わなくて、誰がすると言うのですか!その手で明日を切り拓きなさい....水崎 諒馬!」
「.....舞、夜......!?」
呆然とした面持ちで見つめるリョウマ。そんな彼の涙を手で拭い、舞夜は生前のような笑みを向けた。
「寂しがる事はないよ。りょう君には沢山の仲間がいる。だから、りょう君は一人じゃない.....大丈夫。いつもはああなのに、寂しがり屋なんだから....」
舞夜の瞳の奥の発光が弱まる。口の動きも次第に機械的な挙動に変わり、最期の時を迎えんとしていた。リョウマは無言で舞夜と唇を重ね、グレイズナイトシーカーのそばに安置し、決意を固めた面持ちでビルドスパークルに乗り込んだ。
(行ってくる。舞夜.....今までありがとう....愛してる。一生だ)
そしてレバーを握り込み一言、
「さて、天才が真のヒーローになる時が来たんだ。行くぞッ!」
ラピッドスマッシャーに変身したビルドスパークルが、SECTOR-ZEROの最深部を目指して飛翔する。その姿を舞夜は見送りながら、安堵するように瞼を閉ざした。
「愛してます....りょう君....」