創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius 作:JNEXEL
「さぁ恐れたまえ逃げたまえ!その自由は君たちの物だ」
ロストフリーダムMk-Xと終末時計のリンクが完了する。Mk-Xのバックパックからフィンドラグーンが分離し、やがてパック本体が内側から突き破られる形で吹き飛ばされた。がら空きになった背中からは、虹色の輝きが漏れ出している。これが何を意味するのか、その答えを知るのに時間は必要なかった。Mk-Xが終末時計から得たエネルギーを一度に解き放った瞬間、背中から視界に入り切らんばかりの翅を伸ばし、羽化したての蝶のようにひと羽撃きさせた。しかしその翅は触れるものすべてを瞬く間に消し去り、クラックゾーンを急速に拡大させていく、絶望の光であった。やがて翅からも光の渦が生じブルームーン、そして有志連合のMSに襲いかかる。
「月光蝶......」
クレッセントブルームーンからその様子を目にしたレイは、Mk-Xの持つ権能に唖然とした。徹=アルマーニュは是が非でも世界を終わらせようとしている。己の手で導く為の新たな世界を作り上げるために。創造は破壊から生れ出づる物。彼はそれをそのまま実行しているのだろう。しかし他者からすればそれは、単なる破壊行為にしか映るまい。光の翅から枝分かれするように、蔦が全てのMSに絡みつこうと飛び出した。
「ここに居たらヤバいよシロー隊長!」
ゼータプラスの真横でシルバースモーが光に飲まれ消失し、それを目にしたミサは本能的な恐怖に襲われる。シローもその光景を見ていたが、たじろぎこそすれペースを乱す事なく艦の護衛に専念した。
「怖いのは分かる!だが飲まれるなよ、もしそうなれば俺たちは一瞬で終わってしまう!レイを折角助けたのに共倒れなんて嫌だろ!」
Bm-8がワイヤーアンカーを伸ばして、蔦に絡まれそうになるマン・ロディを引き寄せ、脱出させた。
「うん....そりゃ、そうだよね....レイを助けたからには最後まで、やりとぉーーす!」
ミサは意を決し、ゼータプラスをメガバズーカランチャーから離脱させ、WR形態でマン・ロディを前線まで送り届ける。
「た、助かった.....!」
「皆で生き残るって決めたんだもんね!やらなきゃキャプテン代行に怒られるし!」
そしてクレッセントブルームーンからは、新たな戦力が飛び立った。
「行け、ファンネルミサイル!」
楔形の砲弾がBm-8の前に飛び出しては、モビルスーツを次々と爆撃した。シローが何事かと振り向くとそこには、辛うじて姿形を保っているクシャトリヤらしきMSが。
「君はもしかして....!」
「はい....エミ・アルファインスです!私にもお手伝させてください、シロー中尉!」
何と治療中であったはずのエミが、この戦いに馳せ参じたではないか。身体の至る所を包帯などで固定しているが、痛みは未だに治まらない。しかし彼女にはある思いがあった。
「あの人にもらった命だから.....ちゃんと使いたい....皆とこの世界を守る為に!」
機体の修復さえ万全ではない。しかしそれでも彼女は前に進むことを選んだのだ。
崩壊する世界。その様を目にしてエスは絶望する。自分と同じ"異能"を持ちつつも、それを遥かに凌駕する力を振るう存在。今までも恐ろしい力を持つ相手と渡り合った事があるが、やはり次元が違い過ぎると感じ始めていた。ストライクJOKERの隣にドラグハートオーフレイムが降り立ち、掌からプラフスキー粒子を発して損傷箇所を修復した。
「弘....?」
「一つだけ頼まれてくんねぇか。俺がリョウマを見つけるまで、奴と....!」
弘からの頼みだったが、エスには到底請け負えそうにもない話である。勝てる筋と言う物が見えていない状況で、立ち向かおうとするのは潰されに行くようなものだ。
「冗談じゃない......あんな奴に、どうやって太刀打ちすりゃいいんだ....!」
「他に道が無ぇんだよ!」
ドラグハートオーフレイムに肩を掴まれる。ここが"あの場所"で無い限り、敗北で自我を殺される事は無いにしても、エスの胸中は生存本能から来る恐怖心で埋め尽くされていた。しかし状況は更に彼らを窮地に追いやるのだった。クラックゾーンがとうとう、地面を本格的に侵食し始めていくではないか。Mk-Xの徹は世界の終焉を愉快そうに眺め、指を組んだ。
「ガンプラダイバーズのコアサーバーへのアクセス権は、もう僕一人の手に集約された。もうじき他の仮想世界にも影響が出始める頃だろう.....これで世界は僕の物になる」
徹の言う通り、現実にも破壊の影響が出ていた。社会インフラの基盤を仮想世界から制御するようになったこの時代である。ガンプラダイバーズ一つをとっても、ネットワークの許容量を超える負荷がかけられば当然、他方の仮想世界にも少なからず影響が及ぶ。それぞれが相補性の原理によって成り立つ故に、仮想世界は"もう一つの現実"と呼ばれるのだ。混沌とした価値観が渦巻く世界をリセットし、統一した上で導こうとする徹には正にうってつけのやり方だ。
「リョウマさえ戻ってくればどうにかなる....!それまでだ!」
弘に強く要望され、エスは恐怖心を強引に押し殺しながら受諾した。
「やってみる....!」
ドラグハートオーフレイムはビルドスパークルを探すべくSECTOR-ZEROへ。ストライクJOKERは彼の合流の時間を確保する為に、再びMk-Xのもとへ向かう。
「エス!これ使って!」
光の隙間から、僅かにミナのビルドストライクカミカゼの姿が見えた。何を託されるのかと思えば、機体から分離したP.E.Dが真っ直ぐストライクJOKERに取り付き、自動でドッキングした。
「....!けどミナが....!」
「この程度の連中なら大丈夫!あなたが無事に帰ってこれるように、お守り代わりだと思って!」
ビルドストライクカミカゼが戦いに戻るのを認め、エスはレバーを握り直しMk-Xに視線を戻した。
「ハイパーモード、起動!」
メインモニタが一瞬暗転し、モノクロームの景色を映し出した。ストライクJOKERに取り付けられたP.E.Dも内部から、青い輝きを放ち装甲そのものも忽ち光に包んだ。エスは己の心にむち打ち、ストライクJOKERを飛翔させる。
「チャンスは....必ず俺が作ってみせる!」
ストライクJOKERがこちらに向かってくるのを徹は、僅かながらに不愉快に思った。
「勝てぬと分かっていながら、また僕に歯向かうのか」
「さっきはそうだった!けど、まだ勝てないと決まった訳じゃない!」
不思議だった。エスの恐怖心がいつの間にか消え失せていた。ミナがこの力を与えてくれたのか、はっきりとした答えは無かったがそれでも充分だった。ただ、見えない力が背中を押してくれているのだと、感じるのみで良かった。ストライクJOKERはエレクトロストライカーから、エレクトロスラッシュを抜き放ち昇竜斬りを仕掛ける。Mk-Xが展開するバリアフィールドに阻まれるが、エレクトロスラッシュの電光のせいで視界を奪われた。
「その程度、何のジャミングにもなるまい!」
「そうかよ!!」
エレクトロスラッシュからの手応えが僅かに変わったのを感じ取り、エスは素早くレバーを倒した。雷撃を発する刃がバリアフィールドを突き破り、両断する。しかしこれは、出力が勝っからではないとエスも察していた。
「舐めてくれるな....そういう事なんだろ」
「察しが良くて助かるよ。君相手にこのロストフリーダムMk-Xの権能を、使ってやるまでもないのさ」
Mk-Xは月光蝶を緩やかに収束させ、瞬時に再生したバックパックからビームソードを引き抜き、ストライクJOKERに迫った。バチィイイ!と互いの刃が交錯し閃光が散る。傍から見れば互角のようにも見えよう。しかしエスからして相手の動きは、"自分の刃が届くまでに一瞬の間が生まれるポイント"を的確に突く、かなり嫌らしい攻め方であった。大物を振り回して居ては防ぐ事もできないと、エスは即座にエレクトロスラッシュを放棄させ、ネクサスォードに切り替える。
「こっちならどうだ!」
リーチは短くなるが、手数は単純に増え反応速度も同様に向上した。この手に出たエスに徹は期待外れと言わんばかりに、目を閉ざす。
「ν-Typeであっても、所詮人間程度の感性しか持たないのかい、エス・ブラックベイ」
Mk-Xが突然グルリとビームソードを薙ぎ払い、ネクサスォードの斬撃を纏めて打ち消した。
「まるでお前は違うみたいな言い方だな....!」
「当然だとも。僕は世界を導く者、その意味が分からないではなかろう!」
「分かってたまるか!」
Mk-Xのロストバスターライフル、メガフィンドラグーンによる集中砲火がストライクJOKERを呑み込む刹那、エスは再び己の力を開放した。死の光が通り過ぎた跡にはストライクJOKERの姿はなく、徹はエスの考えを察知する。
「分かっているさ....君がその手を使おうとする事くらいは」
Mk-Xの背後に光が集い、ストライクJOKERが姿を現しネクサスォードを袈裟懸けに振り下ろした。ところが。
「何っ.....!?見た目通りって訳か!!」
いきなりMk-Xの両腕が反転したかと思うと、ビームソードを振り上げてネクサスォードを弾き返してしまった。
「このMk-Xに死角などない!」
SECTOR-ZEROの入口付近にドラグハートオーフレイムが着地した。だが少し踏み込んで弘は、地獄のような光景を見てしまう。コクピットブロックのみ残して、原型を留めぬ状態で横たわるグレイズナイトシーカー。そして、焼けただれた状態で壁にめり込むエヴィルイフリートの姿である。
「アイツ......」
弘でもこの戦いの悲惨さを容易に想像でき、唇をかみしめて先に進もうとするが、その矢先エヴィルイフリートがドラグハートオーフレイムに手を伸ばそうとした。弘は咄嗟に臨戦態勢に移るが、彼の予想とは凡そ正反対の事が起こった。
「お前は.....確か、水崎の仲間だったか.....」
「だったら何だよ?」
「教えてくれ......私は何故ここに居るのか.....」
唐突過ぎる質問に、弘は耳を疑う。
「お前が自分でやった事だろ。とぼけてどうすんだよ」
「私がやった事なのか.....どう言う、事だ....」
「お前マジで覚えてねぇのかよ....!?あんだけ散々俺達の邪魔しやがって!周りの人間まで道具にしやがって!都合のいい事ばっか言ってんじゃねぇぞ!」
ドラグハートオーフレイムがエヴィルイフリートの胸ぐらを掴み、引き寄せた。だが当のシューインは、目を大きく見開き瞳を揺らした。
「ハザードを身体に取り込まれてから、何が起こったのか、記憶が無いんだ....!それに俺は....仮想世界の崩壊と言う結末は望んではいない....!」
「ンだよそれ....ふざけんのも大概にしろ!」
「これがふざけているように見えるか....?俺は奴の力さえ借りられればそれでよかった....!それが出来さえすればガンプラダイバーズは生まれ変われる....そう信じてやって来た!だが結果は徹=アルマーニュの、奴の為だけの計画を結実させてしまった!」
「そんな事を言う奴が、リョウマを殺そうとすんのかよ!?」
だが弘は一切抵抗の姿勢を見せないエヴィルイフリートを見て、言葉を詰まらせた。確かに許されるやり方ではないにしろ、シューインもまたガンプラダイバーズの救済を望んでいた。負の遺産を残そうとしたのも、彼なりの罪滅ぼしなのかも知れない。それが理解されるものなのかはどうであれ。
「頼む....奴に、水崎に力を貸してやってくれ.....もう水崎にしか、徹=アルマーニュを止められない。俺達が作り上げたガンプラダイバーズを....救ってくれ....」
「.....言われなくてもやるに決まってる。もうお前も辛いだろ....」
ドラグハートオーフレイムがフレイムソードでエヴィルイフリートのコクピットブロックを貫き、介錯とした。
「リョウマッ!!」
最深部に踏み込むとすぐにビルドスパークルを見つけ、駆け寄った。何か途轍もない力によって弾き飛ばされたのか、ビルドスパークルの躯体のあちこちがズタズタに傷を刻まれていた。
「リョウマ!しっかりしろ....おい!死んでるなんて言うんじゃねぇぞ!早く目を覚ませよ!!」
弘は衝動のままにビルドスパークルを揺さぶり、リョウマの返事を引き出そうとする。一方リョウマ本人はと言うと、突然襲いかかった衝撃で頭をぶつけ我に返った。
「痛てててて.....気を失ってただけか....にしても何だよ一体!?」
メインモニタが再点灯した瞬間、リョウマはビクリと身体を震わせた。ドラグハートオーフレイムの顔面が画面いっぱいに表示されれば、誰しも同じような反応をするだろう。
「お前何やってんだよ!気持ち悪りいんだよ!」
ビルドスパークルが咄嗟にドラグハートオーフレイムを押しのけ、立ち上がった。
「お前が倒れたまんま何も言わねぇから死んだかと思ったじゃねーか!ったく心配して損した!!」
「あ....まぁ、死んでなかったのは奇跡だと思う」
リョウマはそう返しながら、SECTOR-ZEROの天井を穿った穴から空を見上げた。終末時計の前で、Mk-Xが何かと戦っている。
「一体誰が戦ってんだ?」
「エスだ....お前を見つけるまでの時間稼ぎをしてもらってんだよ」
なるほど、リョウマは呟きレバーを握り込んだ。
「だったらこれ以上にないチャンスだな。奴の弱点を見出す隙が出来る」
「そんな悠長な事してられんのかよ」
すると、ビルドスパークルが向き直りドラグハートオーフレイムの肩を叩いた。
「Mk-X攻略の鍵はお前だ。言ったと思うが、お前の強さは技術や理論では証明できない。奴を叩くには、お前だけしか持てない強みが必要だ....とは言えこれ以上の犠牲は払えない」
「だから....どうするって?」
「いや、これだけ言ってたら分かるでしょうが!ドラグハートのデータを採るんだって!」
これまでのデータ採取の方法を知っていた弘は思わず身構えるが、リョウマは首を横に振った。実を言えば機体データを直接取得するには、その対象に触れるだけで十分だったのだ。
「これでジーニアスシステムを満足に扱えるように仕上がった。後は俺達の出番という訳だ」
「今のでいいのか!?ったく...今までのせいでビビっちまっただろうが!」
「流石にこのタイミングでやり合うわけないでしょうが」
「はぁ....まぁ、俺とお前なら奴にも負ける気がしねぇな。どういう事か分かんねーけど」
「そんだけ俺達がベストマッチだったって事だろ?さぁ、ちゃちゃっと世界を救おうぜ!」
ビルドスパークルの手元にスマッシュブラスターをビルド。ハザードを経てラピッドスマッシャーに変身した。そしてドラグハートオーフレイムは全身から火焔を噴き出し、轟々と輝きを放つ。
「行くぞッ!!」
「応ッ!!」
相反する2つの究極を持つ者達が、天空へと再び舞い上がる。独善の支配者を討つ為に。何より、全ての人々が夢と希望を胸に生きていける世界を取り戻す為に。世界の命運を賭けた、最後の戦いが本当に始まろうとしていた。
ブルームーンを始めとした有志連合、そしてリョウマ・アルキメデスの戦いは全世界に向けて中継されていた。首相官邸でも、英梨と姫野が固唾を呑んでこの戦いを見守っていた。
「神様.....!」
英梨が瞼を閉じ祈る。
「神宮寺さん。この戦いは、神ではなく我々人の力で乗り越えねばならない。そんな気がします。彼らになら必ず成し遂げられる。私達が信じなくて、誰が信じるのでしょう?」
「首相.....そうですね。あの子達なら、絶対に勝てる...信じるのは他でもない、私達なんだから....!」
Mk-Xと死闘を繰り広げるエスだったが、終始押され続けた挙げ句に体力も限界を迎えていた。しかし希望の火は消される事は無かった。
「エス!よくやってくれた!後は俺達に任せろ!」
2機の合間にラピッドスマッシャーが滑り込み、Mk-Xを蹴り飛ばしてストライクJOKERを救った。
「リョウマさん....!弘.....!」
「随分無茶させちまったみたいだな。そこは謝る。お前はすぐに戻って、大事な人を守ってやれ!いいな!」
リョウマの言葉から不思議な力を感じ、エスは力強く「はい!」と返してストライクJOKERを仲間達のもとへ急がせた。
「いくら誰に入れ替わろうと同じ事!」
ドラグハートオーフレイムの攻撃を往なしながら、Mk-Xはメガフィンドラグーンをロストバスターライフルの銃口に取り付かせ、極太のビームを放出した。
「それはテメエが決める事じゃねぇ!!」
ドラグハートオーフレイムが即座にプラフスキーフィールドを展開、ロストバスターライフルの射線を強引に突っ切り、メガフィンドラグーンの2基を掴み握り潰した。
「ドラグーンを....味な真似をしてくれるじゃあないか」
Mk-Xがクローアームを伸ばそうとした瞬間、ラピッドスマッシャーが割り込み基部を飛び蹴りで破壊した。
「ぐっ....!?この僕が、知覚できなかった!?そんな馬鹿な....!」
「今度はさっきの様に行かせるか!」
ビームソードとスマッシュブラスターが激しく打ち合い、凄まじい輝度の火花が散らされる。
「どこ見てんだよオラァ!!」
ドラグハートオーフレイムが真横からフレイムソードを突き入れる。Mk-Xは素早く反応してビームソードで押し返し、再び終末時計とリンクした。
「僕は面倒事が嫌いでね」
ビームソードに月光蝶の光が宿る。そしてドラグハートオーフレイムの胸部を斬りつけ、更に真上へ打ち上げた。
「あ....ぐぁああああああッ!?何だ、今の....!?」
プラフスキーフィールドを展開していたにも関わらず、いとも容易く斬り裂かれてしまった。月光蝶の力は文明を滅ぼすと言っても過言ではなく、粒子変容技術程度は事も無げに滅せるのだ。Mk-Xがその場からドラグハートオーフレイムの頭上に転移し、とどめを刺すべくロストバスターライフルを突きつける。
「させるか!お前の相手は俺じゃないのか!」
超スピードでラピッドスマッシャーが介入。ロストバスターライフルをスマッシュブラスターで叩き落とし、顔面を蹴りつけながらスマッシャーモードに切り替え、追撃をかける。
「ならば君から始末させてもらうよ。メインディッシュを今平らげてしまうのは、些か勿体のない事だと思うけどね」
Mk-Xが月光蝶を広げ、フィンドラグーンで相手の逃げ場を奪いながら追い込む。だがラピッドスマッシャーも距離を取らず、むしろ詰める勢いで突進した。
「ビルドアップ!」
ラピッドスマッシャーの装甲表面から全方位レーザーが放射され、Mk-Xの武器を全て奪うと続けてフォトントルピードを放った。Mk-Xが月光蝶を真正面に向けてこれを防いだ、かのように思えた。フォトントルピードはあらゆる物を対消滅させる効果を持ち、それは月光蝶のナノマシンに対しても有効であった。フォトントルピードが一瞬だが月光蝶を押し留めたのだ。そしてリョウマの計算がここで全て噛み合った。突如として空間を斬り裂く程の斬撃が徹の目に飛び飛んできた。それはやがてMk-Xの頭上を飛び越え進んだ先は――。
「な―――!?今のは一体......ハッ.....!?」
徹が弾かれるように振り向くが、時既に遅し。終末時計の文字盤に深々と刻まれた一文字。時針も分針も根本から折れ、大地へ真っ逆さまに落ちてゆく。そして空間が元通りになるのと同時に終末時計が崩壊し、クラックゾーンの侵食もそこで停止した。
「やれやれ、気絶していたフリをしてて正解だったな。スワンがあの剣を使うタイミングに合わせて再合流したのさ。あの時計を一発で破壊させるためにな!」
「この....人間風情がッ!!」
スマッシュブラスターとビームソードが再びぶつかり合う。互いに一歩も引かず、鍔迫り合いに移った。
「世界をたった一人の人間が導くなんて、時代逆行もいいところだ!一人に権力が集中すれば、それはただの独裁以外の何物でもない!何でそれが分からねぇんだ!」
「その気高き思想のもとに民主主義は生まれた!しかしそれぞれが利権を追い求めるから、やがて民主主義は腐敗する!ならば僕の手で世界のシステムをリセットし、新たなる時代の指導者にならねばならぬのだよ!救世主なんだよ、僕は!」
Mk-Xがラピッドスマッシャーを蹴り飛ばし、右手にロストバスターライフルを再生させ最大出力で照射した。
「世界を汚さぬよう人間たちは管理されなければならない!人類よりも優れた種によって!」
この一言に徹の思想のすべてが詰めこまれている。そう感じたリョウマは一切の躊躇いを捨て去るのだった。フィン・ファンネルをビルドし、正五面体の力場を形成。ロストバスターライフルを見事に防ぎ切ると、リョウマの指がコンソールをなぞりある項目をタップした。
「お前の描いてきた筋書きはここで終わらせる!」
ラピッドスマッシャーが解け、ビルドスパークルに戻る。そして高空へ上昇。背後に巨大なファクトリーが作り出され、光り輝く純白の鎧をビルドしてゆく。周囲からレーザーが照射され更に細かくディテールを刻み、鎧がビルドスパークルを取り囲む形で配された。
「ジーニアス・ビルドアップ!!」
リョウマの宣言と同時にアーマーが、虹色の輝きを放ちながらビルドスパークルとドッキング、新たなる姿へと進化させた。背中にはクリスタルの翼が作り上げられ、スマッシュブラスターを吸収して姿をはっきりとさせる。四肢はラピッドスマッシャーやタフネスブラスターに似るが、所々でクリアパーツに。更に両脹脛はフォトンバッテリーを備えたものに改められていた。そうでありながらも、赤と青の非対称パターンのカラーリングは残されており、正にビルドスパークルの正当進化系であると印象づける。その名もビルドガンダムジーニアス。空を覆い尽くす黒い雲も晴れ、太陽が顔を覗かせた。
「凄え.....!」
ビルドジーニアスへの進化を目の当たりにした弘は、この光景をうまく言い表せず単調な言葉を漏らす事しかできない。
「夢と希望を胸に生きていける世界を作る!それが俺の戦うたった1つの理由だ!」
ビルドジーニアスのバックパックにある、クリスタルの翼が回転する。そして左右に広がる形で展開、リアアーマーのクリスタルもそれに従う形で後方に起立した。
「お前が何度世界を破壊しようとも、俺がこの手でビルドする!!」
ビルドジーニアスを中心として青白い光が広がった。その光はクラックゾーンを押し留めただだけでなく、修復しながら完全に消し去り文字通り破壊された世界を、リョウマの手でビルドするのだ。
「この光は....!?さっきとは違う....むしろ恐怖すら感じない....どうして....?」
虹と共に駆け巡る光。シャノアールは何事かと周囲を見渡した。しかし隣りにいたスワンは、この光の正体を確信し、胸の前で手を握り合わせる。
「リョウマさんが最後まで作りたかった物。それが"希望の光".....そうですよね....!」
BLADET-Lの二人も、ビルドジーニアスの光に触れた事で、機体が突然万全の状態に再生したと言う状況に目を丸くした。
「この光.....あの人が....!」
「リョウマ・アルキメデス...天才の名は伊達ではないらしい...!」
モビルドールとの連戦に次ぐ連戦で消耗したミナとビルドストライクカミカゼ。エスのストライクJOKERも合流して対処するが、やはり怒涛の物量を前に簡単には切り抜けられなかった。しかしかの光によってモビルドールが尽く消し去られ、窮地から一転して平穏が訪れる。
「エス....あれ見て!リョウマさんが、世界をビルドしてる.....!」
ミナの声に従い、エスも空を見上げる。ビルドジーニアスがその力で世界を修復していく様子が見え、思わず涙がこぼれそうになった。
「ようやく.....俺達の願いが叶う時が来たんだな.....!」
更にクレッセントブルームーンのブリッジでも。
「どういう事ですの....世界が元通りになっていきますわ....!」
戸惑うリタとは対照して、レイは強い眼差しで遙か先に居るビルドジーニアスを見据えた。
(シオン....あなたが来ると言ってた真の救世主。その予言は当たったみたいね)
「今更何をしようと無駄だ!Mk-Xはすでにガンプラダイバーズのコアサーバーとリンクしている!再び破壊し尽くすのは造作もない!」
Mk-Xが天高く飛び上がり、月光蝶を発しながらビルドジーニアスに斬りかかる。しかしその刃はビルドジーニアスに届くことが無く、空しく風を斬っただけ。だが目の前にはビルドジーニアスが居る。徹は予想外の状況に愕然とした。
「攻撃がすり抜ける.....どういう事だ!?」
月光蝶を振りかざしても一切ビルドジーニアスを消失させきれず、徹の思考が一気に乱れる。僅かな間を置き、ビルドジーニアスの方から反撃が始まった。バックパックからビームサーベルを抜き放ち、ロストバスターライフルを貫通して斬り捨てた。さらに相手のアンテナを掴んで終末時計の残骸に飛び込み、ありったけの力を込めて叩きつけた。
「ぐがっ.....がふっ......!!認めるものか....この僕を....Mk-Xを超える者が現れるなどと!」
Mk-Xが起き上がろうとする刹那、ビルドジーニアスが目の前に降り立ちビームサーベルを向ける。事実上のチェックメイトだ。
「お前の攻撃が通用しないのは当たり前だ。ビルドジーニアスは兵器じゃない。世界中の人々が持つ、願いの象徴だ!お前と一緒にするな!」
「願いの象徴.....?そんなまやかし、何の意味がある!」
月光蝶でビームサーベルを掻き消し、立ち上がりながらビームソードで切り返した。それをビルドジーニアスは微動だにせず受け流して、逆に相手の顔面に火炎を纏わせた、鉄拳を叩き込んだ。
「お前が野望を捨てない限り、俺に攻撃が届く事はない!」
次に右手に、エスとミナの愛機"ストライクガンダムNX-Ⅲ"の主武装である、空のように青い刃を備える大太刀"F2ライキリ"をビルド。袈裟斬りを放ち立て続けに、ハジメ・アルファインスの愛機"ユニコーンガンダム零号機キマイラ"の刃型のビット兵器"アームドアーマーPF"を射出、敵を背面から斬りつけ身動きを取れなくした。月光蝶の力でアームドアーマーPFを消滅できず、徹が対応できぬままMk-Xはひたすらに攻撃を喰らい続ける。
「そうまでして僕を愚弄するか....下等な人類の分際でッ!」
Mk-Xが空間跳躍を使って攻撃の手から逃れたものの、リョウマには読めた事だった。
「そのやり方は見飽きたぜ、徹=アルマーニュ!」
Mk-Xのビームソードよりも速く、F2ライキリが命中し敢えなく反撃に失敗した。
「僕はこの世界を導き.....神に等しい...いや、神そのものとして君臨しなければならない....!こんな所で終わる訳には....!」
「逃げられると思っているのか。お前のその機体は、終末時計の力を使う為の端末に過ぎないはずだ。本体を壊された今、お前が満足に扱えなくなってんだよ!」
今度は左腕に巨大な鉄腕、ツグト・ルートの愛機"ガンダムAGE-1ギガイタス"の"ディストラクトナックル"を作り上げ、アッパーカットの要領で思い切り上空に突き飛ばした。そして弓型のビームバズーカ、レイ・ブルームーンの愛機"ガンダムG-アルケイン ルミナクェーサーⅡ"の"ホークカスケード"をビルド。銃口を天に掲げ引き金を引いた。ズドォオオ!!大気を凍らせる程の絶対零度の光弾がMk-Xに襲いかかる。
「僕に歯向かうこの業の深さ、なぜ分からない....!!君とて世界を歪めた物の一部だと言うのに....!」
機体が一瞬にして氷漬けにされ、最早一刻の猶予も残されなくなった。最も、徹が自分の勝利する未来しか予見しなかった、その傲慢さが招いた結果だ。そしてリョウマが稀代の天才科学者であった事を軽んじた事も、世界を自分の物にできると見下した事も全て、彼自身に跳ね返ってきたと言えよう。ビルドジーニアスはビームサーベルを発振させ、落ち行くMk-Xへと跳躍する。
「これでッ.....!最後だぁああああああ!!!」
袈裟に振り下ろされるビームサーベルが、氷諸共Mk-Xの装甲を灼き溶断する。コクピットに到達するのに時間はさほど掛からない。そして救世主を標榜するロストフリーダムを両断。徹の世界への執着さえも断ち切って、ビルドジーニアスは再び大地に立った。
「この罪は....いつか君に跳ね返るのだぞ....」
徹のこの言葉を最期に、ロストフリーダムガンダムMk-Xは爆発四散した。
「咎は受けるさ....全てが終わった後でな!」
突然ビルドジーニアスが解けるが、リョウマは気にも留めずにビルドスパークルをSECTOR-ZEROの最深部へ、再び歩かせる。まだ彼にはやるべき事が残っていた。
SECTOR-ZEROの中枢には、ガンプラダイバーズ全般を統括する"コアサーバー"と接続する為の、仮想インタフェースなる物が存在する。SECTOR-ZERO内部での戦闘行為が終わった事を受け、そのインタフェースとなるケージが壁面から迫り出してセッティングされた。そもそもこのフロア全体が未来的でありながら、古代の神話世界に類する装飾が施され、奇妙な程神々しい景色を生み出しているのは、当時のZeuS開発首脳陣が"神話として語り継がれる仮想世界にしよう"との思いで、この様にしているのだという。ビルドスパークルがコアサーバーへの、仮想インタフェースに近づくと周囲を走査線が巡り、ケージが重々しい音を立てながら開かれた。
「まさか俺が、ここに触れる事になるなんてな。世界を救う最後の一仕事だ....!ジーニアス・ビルドアップ!」
ビルドスパークルが背を向けてケージに収まると後ろから、バックパックのコネクタとインタフェースが結合した。そしてビルドスパークルは虹霓の輝きを放ちながらジーニアスへと進化、仮想世界規模のビルドを始める。ジーニアス・ビルドアップの真の使い道は、世界の修復にある。更にはコアサーバーとジーニアスシステムを連携させる事で、仮想世界が限りなく進化できるようにする意図も含まれている。リョウマがガンプラダイバーズと言う世界を、如何に愛していたかが分かるだろう。SECTOR-ZEROから発された光が、全ての区画に向かって広がってゆく。人々はこの光を見て涙し、或いは喜びを分かち合い、各々が祝福し合った。仮想世界と現実世界を巻き込んだ"戦争"が、今まさに終結したのである。
ジーニアスシステムとの連携が済めば、リョウマは機体から降りても問題はないはずだった。だが、コクピットハッチを解錠しようにもこちらからの操作を受け付けず、脱出は叶わぬものとなる。とは言えリョウマはこの事態を受け入れるつもりでいた。ガンプラダイバーズを救ったが、それ以前に同じ物で人々を苦しめて来た元凶でもある彼は、この戦いが終わる時自分もまた消え去らねばならないと、強迫観念のように心に刻んでいた。新しい時代を迎えるダイバーズに、自分が居てはならないのだ。
「これが俺に課せられた罰なら....安いもんだ....舞夜、お前の所に行けそうだ」
リョウマは静かに目を閉ざし、安らかに眠りについた。その拍子に、違和感を得て目を覚ました。するとそこは、見渡す限りの青空と草原が広がる、どこなのかも分からない場所だった。諒馬は飛び起きて周囲をきょろきょろと観察する。
「成程。ここは天国と地獄の境目ということか....俺は本当に死んじまったらしい」
天と地、それぞれに向かって伸びてゆく階段。彼の言う様に、天国と地獄の狭間と言うにはお誂え向きの景色である。
「となると....俺が行くべきは....」
諒馬が地獄へ足を進めようとした時。
「りょう君!?どうしてここに来たの!?」
聞き覚えのある声がして、諒馬は咄嗟に振り向いた。
「舞夜.....!と言う事はやっぱりここはあの世なのか....!」
異界に来たにもかかわらず、いつもの調子な諒馬に舞夜は呆れ半分に溜息をつく。
「それを気にしてる場合?それに、りょう君は仮想世界にいるんだし、この場合臨死じゃないかな...ってか、そうじゃなくって!何でりょう君がここに来てるのって聞いてたんだけど!」
「そりゃあ、ジーニアスシステムとコアサーバーを連携させたからだ。俺は機体から脱出出来なくなったと思いきや、ここに居る....なんでか知んねえけど」
「そ、そうなんだ.....でも、りょう君が行こうとしてたの...」
「ああ....俺が犯した罪を清算するためだ。どちら道、俺は死ななくてはいけない人間だからな。直接関わらなかったなんて、言い訳にもならないだろ」
諒馬がさも自然な事のように言い残し地獄への道を進もうとする。だが舞夜は納得出来ず、諒馬を無理やり引き戻した。
「そんなの過去の話だよ!私が実験で死んだのだって、あなたのせいじゃないのに、全部自分のせいだって言い切るつもりなの?....そんなの絶対に駄目!りょう君には、りょう君の未来を歩む権利があるんだよ。だから、ここに来るのはもっと先....!分かった?」
舞夜は諒馬には今を生きていて欲しかった。過去との決別が仮想世界大戦で果たされたならば、諒馬が目指すべきは自分にしか作れない未来なのだ。その為にはかけがえのない"今"を捨てる道を選ばせたくない。それが彼女の想いであった。
「俺が....」
「それにね、りょう君が帰って来なくちゃいけない理由がもう一つあるよ」
舞夜が空に手をかざすと、弘達の姿が映し出された。どうやら交流広場に皆が集まっているようだが、何かを待っているかのようにも見えた。諒馬の瞳がグラグラと揺れる。
「まさか、俺を.....何で.....」
「皆はもう、りょう君を仲間だと思ってるんだよ?だから、居なくなるのを信じたくなくて当たり前。皆りょう君の帰りを信じて待ってる」
舞夜がふと振り向くと、諒馬が明後日の方向に顔を背け俯いていた。これまでその様に思われたことが無かった彼にとって、この瞬間こそが全ての報いのように思えたのだろう。諒馬は袖で涙を拭い、晴れやかな顔で空を見上げた。
「最っ悪だ.....まだ生きていたいって思っちまったじゃねぇか.....でも、そう言うのも悪くないかも知れないな」
「うんうん。それでこそ私の愛した人だよ。またしばらくお別れだけど、今度本当にここに来た時は思い出話沢山聞かせて?」
「お前がうざったく思うまで話してやるよ....ありがとうな、舞夜」
二人は口づけを交わし、また長きにわたる別れをする事になる。しかし諒馬も舞夜も、かつての様な悲痛さはなくむしろ穏やかな顔をしていた。
「りょう君、頑張ってね。私はここでずっと見守ってるから!」
舞夜から声援を受けながら、諒馬は空に浮かぶ光の渦へ歩いた。まだ自分には生きたいと思うだけの理由がある。それだけでも幸せなのだと実感していた。
仮想世界交流広場第1区画。普段は多くの人々でごった返す場所だが、今は緊急避難命令が下されブルームーンと、有志連合の面々しかこの場には居ない。
「リョウマさん、大丈夫なんだろうか.....」
エスが忙しなく爪で机を突く。
「やめなよ、皆余計に不安しちゃうでしょ」
とミナが窘めるが、彼女もまた胸中を不安が渦巻いていた。しかし最も心配しているのは、最初から共に戦ってきた弘とスワンだ。
「リョウマさん......帰って来てください....!」
胸の前で手を握り、祈るように呟くスワン。そのまま沈黙が続く事数分。真っ先に静寂を破ったのは弘の驚く声だった。
「あっ.....おいっ!?」
弘が指差す先。奇跡だろうか、天から光が集い人の形を作ってゆくではないか。皆が固唾を呑んで見守る中、光から出て来たのは世界を絶望の淵から救った英雄――リョウマ・アルキメデス。一斉にどっと歓声が上がり、辺りが拍手喝采に包まれた。
「何か、凄いことになってんな....ちょっ!?お前ら何なんだよっ.....!?」
リョウマが一歩踏み出すのと同時、スワンと弘が飛び付いてきた。危うく倒れそうになるが、何とか押し留めて難を逃れる。しかし二人の感激っぷりを止めることも出来ず、抱き止めた。
「お前ぇ....!!どんだけ心配したと思ってんだ馬鹿野郎!けどよ.....良かったぁあああ!!無事でよぉ!!」
「リョウマさん....リョウマさん....!無事で何よりです....!消えたらと思ったら私、私....!」
泣きじゃくる二人を宥めながら、リョウマは帰ってきた事が間違いで無かったと安堵した。そして、この二人が仲間になってくれた事に感謝するのだった。
「そんなに俺を.....。お前たちが仲間で良かった。礼を言うよ、ありがとう」
だがそれをトリガーとして、弘とスワンがますます泣き出して止まらなくなった。
「言うのが遅すぎんだよ!」
「本当ですよ!私だって感謝してもしきれないんですから!」
程なくして、リョウマは皆のもとに。リタに支えられながらレイも彼の前に立ち、手を差し出した。
「あなたのお陰で、ガンプラダイバーズが救われた....ありがとう。リョウマ・アルキメデス」
「君がレイ・ブルームーンか.....!教授の娘さんだって聞いてたけど、全然似てねぇな....?」
握手しながら、突然不躾な発言をした。とは言うものの、レイもそれは自覚しているらしく軽く笑って流す。
「まぁ、それはよく言われる。て言うかお父さん、泣き過ぎ....」
二人から少し離れたところで、泣き顔を見せぬように座る門松だが、余りに盛大だったので意味が無かった。
「教授泣きすぎですって!歳で涙腺が弱くなりすぎたんじゃないですか!?」
「るっせぇ!いいじゃねえかたまには!娘の無事とダイバーズの救済が果たされたんだ!教え子まで戻って来たしこれが泣かずにいられるかってんだよぉ!!」
亜樹子が隣で宥めているので、それ程問題は無いだろう。
「ごめん。教授、私の事になるとああだから」
「あんな一面があったとは思わなかったけど....まぁいいんじゃねぇか。人情家だったってことで」
そしてウェルスとエルニア、ミナもやって来それぞれ礼を述べる。
「リョウマ・アルキメデス。あなたは、俺の見込んだ通りの英雄だった....この後の世界は、俺達に任せてくれ」
「もうウェルスったらよく分かんない事言っちゃってさ。兎にも角にも、私達が大好きだったダイバーズを救ってくれて、ありがとう!今度暇な時はウチのコーヒーでも飲みに来てねっ!」
「あの、色々文句を言ったりして...こんなんで言える立場なのかって思うかも知れないけど....!世界を救ってくれて、ありがとうございました....!やっぱりあなたは、本物のヒーローです!」
一気に来たのでリョウマも上手く対応できずに居たが、それでも"戦って来て良かった"と胸を晴れる気分であるのは変わらない。そしてエスとも言葉を交わす。
「ミナの言う通りですよ。リョウマさんは本物のヒーローだ.....俺の目指したい目標がまた一つ増えた気がするなぁ...」
「ま、俺は始めからヒーローを張ってるんでね。出来なきゃ大法螺吹だ。てか、俺を目指してどうしようってんだ?」
「俺が将来やりたい事が固まって来たんです。リョウマさんみたく天才にはなれずとも、仮想世界技術を支える科学者になるんだって」
「そう言えばお前ってアレか....仮想世界工学研究室に入ってるんだったな....それなら一つアドバイスがある」
エスの目指す道が決まったと見ると、リョウマは仮想世界工学を究める者の先輩として、ある事を伝える。それを聞いたエスは少し震えるが、俄然やる気が出てきたのか更に目を輝かせた。
「分かりました....この世界に踏み込んだら、一日でも早くあなたに追いついて、超えてみせます!それまで待っていて貰いますから、リョウマさん!」
「楽しみにしてるよ、エス。その時が来るのをな」
いきなり遠くから門松が大声でこんな事を口にした。
「世界も救ったし娘も救われた!堂夢大出身の連中に告ぐ!明日は打ち上げだぁああ!」
娘の帰還が嬉しすぎる余り、そして寝不足が手伝って普段の門松とは違うテンションだ。エスと弘はここぞとばかりに食いつく。
「ゴチになります、教授!!」
「あぁ!?しょうがねぇな、今回は特別だ!」
学生二人に持ち上げられる門松を遠目に眺め、リョウマは「何だよそれ」と苦笑した。彼の隣にスワンが歩み寄り一言、
「どうですか?本当にヒーローになったお気持ちは!」
するとリョウマは満面の笑みを浮かべ、フレミングの法則に形作った左手を、クイッと振った。
「最っっ高だな!」
この日、6年近くにも及ぶZeuSそして徹=アルマーニュとの戦いは幕を下ろした。ガンプラダイバーズに安寧の時が訪れることだろう。それを脅かす者が現れようと、彼らの様な心を持つ勇士達が居れば、再び混迷の世に陥る事はないと、そう信じたい。
-5日後-
アーネストホールディングス、本社社屋前。この日は朝から報道陣で埋め尽くされ、異様な雰囲気を放っていた。しかし当の取材対象はこの地には居らず、既に警視庁に身柄を移されていた。警官に連れられながら庁舎を出る徹。そこへ一人の女が現れた。
「これであなたの負けね、徹=アルマーニュ。どんな手を使っても、死刑は免れないわ。あなたがやって来たことに比べれば、これでもまだ足りないくらいだってこと....忘れないで」
「神宮寺 英梨.....これはすべて君のシナリオ通りと言う訳か」
徹が恨めしげに英梨を睨む。しかし英梨はそこに関しては見に覚えがなく、腕を組んだ。
「そんな事はしてない。ただ、水崎 諒馬と彼を始めとした人達があなたの計画を真正面から潰した....それだけよ」
徹を乗せた護送車が最高裁判所方面に向けて走り出した。英梨は深く息を吐き、ハンチングキャップを被り直す。
「同じ人であるにも関わらず、優劣種の概念を使い人を差別しようとした....やった事を調べていく度に時代錯誤甚だしいって感じ。そりゃ会社全体が付き従う訳もない、か」
間もなくして英梨の前に1台の車が停まった。窓がすっと開き、諒馬が顔を覗かせる。
「タクシー扱いにするなって言ってるでしょうが...何度電話するんだよ」
「ごっめ〜ん....!会社辞めちゃってるからお金厳しくってさ!」
「その後で首相官邸って、何なんだ」
英梨が助手席に乗るのを認めると、諒馬はアクセルペダルを踏み込んだ。
「あれ?聞いてなかった?今度の戦いであなた達に褒章を授与するんじゃない。忘れちゃった?」
「そういう事なら辞退させて頂きますって伝えといてくれ」
諒馬の一言に英梨が僅かに驚くが、すぐに理解した。
「あなたならそう言うと思ってた。そういう物に全く興味がないくせに、大きな事を成し遂げてく人、それが水崎 諒馬....でしょ?」
「もういいだろ。それはそうと、議事堂前で降ろすけど」
英梨の了解を取り付け、国会議事堂前に停車した。彼女が敷地の中へ行くのを見送ると次は、図らずもきっかけとなった監査法人に出向いた。
「お久し振りです、水崎さん。全ての報告は受けております」
下田が開口一番にそう告げるので、諒馬がキョトンとした顔で目の前に置かれたアタッシュケースを見つめる。
「え....誰がそんな事を?」
「報告。と言うより私を含めた従業員全体が、あの戦いを見ておりました。前金と報酬の合計3000万円ですが、それに危険業務手当諸々を上乗せして、6700万円をお支払いします」
「明細があるなら安心ですけど....こんなに出してしまって大丈夫ですか」
「問題はございません。正当報酬なので、気になさらずお受取りください」
とは言えかなりの大金だったので、預金するのにも一苦労だったのは言うまでもない。銀行の窓口で人の視線を集めるのは、強盗ぐらいだと思っていただけに居心地が悪く、咄嗟に逃げ出したくなった。
「今月きりだけど、確定申告面倒そうだ...最悪だ」
そして翌日。西へ車を走らせること1時間。舞夜の元の実家が引っ越したのを機に、諒馬が密かに用意した土地に墓を移していた。菜の花畑を挟んで向こう側には、海が広がる美しい場所に舞夜の眠る墓を置けたのはある意味幸運に思える。諒馬が花束を手にこの地に足を踏み入れると、先客がいた。やや低い背丈に、サイドテールの黒い髪。諒馬の記憶と合致していれば、白鳥 奏であろうか。
「あ....諒馬さん。お久し振りですね」
歳の割に幼げな顔つきはやはり、奏だった。
「しばらく。どこでこの場所を?」
諒馬は挨拶も程々に、墓前に花束を添え合掌し静かに目を閉じる。奏はしばらくして、諒馬が立ち上がろうとする頃合いに、答えを返した。
「神宮寺さんからお聞きしたんです。この場所に移されると....だから、一度来ておきたくって」
「あんだけ不信感募らせまくってたのに、今じゃ墓参りするまでになるとはな」
「実はあの戦いの少し前には、舞夜さんとは距離が縮まったんですよ?主に諒馬さんについての話で、ですけど」
「俺の話か....聞きたくねぇなそれ」
それから奏が舞夜から聞いたという逸話に、諒馬が一喜一憂しながら他愛もない話で時間を過ごした。そして、とうとう奏にとって運命の刻が訪れる。諒馬に送ってもらう事になり、東京に戻ってから駐車場を後にする時、奏は意を決して諒馬を呼び止めた。
「あのっ.....諒馬さん。少しお時間よろしいですか....?」
普段とは少し違う奏の雰囲気に、諒馬はある予感が過ぎった。春の風が二人の間を通り抜ける。奏は深呼吸して、
「私....!諒馬さんの事が好きです!お付き合い、していただけないでしょうか.....!」
束の間の静寂の後。諒馬はゆっくりと肩を押して、奏の顔を上げさせた。
「悪いが、それは出来ない。俺には今、やらなきゃいけない事があるんでね....言わせた後で言うのもアレだけど、そいつはこの先、出逢って好きになった人の為に残しとけ。それじゃ俺は行く。もう会うことは無いだろうけど、互いに頑張って行こうぜ」
諒馬が珍しくスーツを着こなしていた理由が、歩きながら引いているキャリーケースを見て、奏は察した。彼はもう、次のステップに進む為に生きているのだ。その先にはきっと自分はいないとも思えた。ただ、彼の言葉にはいつも不思議な力があり、奏は背中を押される感覚のおかげか涙を流さなかった。
「そうですね....お互い、良い人生になれるように頑張りましょう....!」
「おいおい、それで奏ちゃんを振ったのか?あんなにいい奥さんになれそうな娘、そうそう居ないってのに勿体無ねぇ事しやがって」
成田空港の展望室で門松は電話越しに、諒馬から事の顛末を聞き出して項垂れた。
「結局俺はどっちにしても、舞夜しか愛せそうもないですよ。彼女以外の女性には、中々興味を持ちづらいもので」
「そうかい、だったらしゃあねえな。んじゃ、フランスでの生活。エンジョイして来いよ」
門松のあいも変わらず軽い調子の会話に、諒馬は呆れ半分に笑う。
「まぁ...そのつもりでいれば少しは楽になるか。日本の天才が世界にどこまで通用するか....見物ですよ」
機内アナウンスが流れ、諒馬は携帯電話の電源を切り、窓の外に目を向けた。そして門松もまた展望室から、空に向けて飛び立つ旅客機を見送った。
「見せつけてやれよ。稀代の天才科学者、水崎 諒馬。お前が世界を変える瞬間を見届けさせてくれ」
皆様「創造戦士ガンプラダイバーズ Side:Genius」が今ここに完結しましたが、如何だったでしょうか。
かなり長きに渡り連載をして来たのですが、割と内部で色々あってここまで時間がかかってしまいました。その影響もあってか、中々満足の行く状態で制作することも叶わぬまま....何とかここまで進められたのは奇跡のように思えてなりません。これは偏に、Geniusを読んでくださった皆様の存在があってこそだと思います。
この場を借りて御礼申し上げます。
現時点では、連載中であります次回作をハーメルン版としてこちらに投稿する計画が進行中です。
Geniusに関しても、何かしらの企画が立っておりますので皆様に何らかの形でお伝え出来れば....と思います。
重ね重ねになりますが、創造戦士ガンプラダイバーズSide:Genius。これにて完結となります!ありがとうございました!!
自宅で激辛カレーに悶絶しながら
JNEXEL Neuro