どこにでもある光景だが、女性は男性にある、約束をされていた。
二人だけの秘密の約束を。
自作「手提げの約束」の女性視点を寄稿いただきました。
女性からはどう見えていたのか、お楽しみいただければと思います。
以下に掲載します
ピッ ピッ ...ピピッ ピピッ ...ピピピッ ピピピッ ───ガタン!
はちじ......今日は何曜日だっけ>
ねむい...予定...ん?ワンピース...
あっ!!今日は約束の日だっ!
ガヤガヤ「ねー本当にそうだよね~」 ガヤガヤ...「ところでさ~」...ピッ
「わっ!ごめんなさい...汗」
あ、危ない...ボケッとしてるからぶつかるんだよね汗
今の時間は9時過ぎ、約束の時間までは1時間弱もある。しかし、電車に揺られているであろうタバコ好きの男性は、約束の時間の10分ほど前に来ると思われた。
彼女はその前にする”こと”がある。
でもその前に、ココアが飲みたいなぁ...
その喫茶店は、消して人通りの少なくない駅の中、改札を通ったすぐ近くにあった。実はこの窓から、待ち合わせ場所が見える。ただし、よく目を凝らせば。だが彼女には得体の知れない自信があった。
うゔぅ...でもココアの前に、しなきゃ、ダメ...だよね。
そして彼女は目的の場所へ向かった。
戻ってきた彼女は、行くときに持っていなかった紙袋を持っていた。更に、心なしかほんのりと上気している。しかし、諦めた様子で足どりをしっかりさせて入店した。
ん~どれにしよう...?
彼女は数分悩み...そしてアイスコーヒーをブラックで飲みはじめた。なぜなら、タバコ好きの彼は恐らく、甘い味は嫌だろうと思ったためだ。...キスをする時に。
暫くの間、流れ行く人の波を虚無を見るが如くただ無心に見つづけた彼女は見つけた。慣れない様子で腕時計で時間を確認する彼の姿を。彼女はすぐに彼の元へ駆けつけたかった、だが、それを阻止する存在があった。スカートだ。
ど、どうしよう、めくれないとは思う...けど...
彼女はゆっくりと男に近づき...
えいっ! クイッ
袖をつかんだ。
しかし、目を合わせることができない。それに対して男性は、こちらを向き、真っ直ぐ見てくる。落ち着かないこと、この上ない。だから、申し訳ないと思いながらも、舌を向き伏し目がちになってしまう。このまま無言でいるのも、何だか忍びないのでなにか声をかけなければと思った矢先線───
「待たせた?ごめんね」
恐らく、彼の中で最上級に優しいほほ笑みと声だ。
答えなければ。
私はこくんとうなづいた。ワンピースが揺れる。
左手に下げていた手提げには、私の秘密、いや、私を彼の秘密が入っていた。
彼が受け取ろうとする。私は、無意識に強くなってしまう、袖をつかんだままの右手を見ながら言った。
「今は、ダメ、絶対見ちゃ、ダメ」
その手提げは、私のお気に入りの可愛いクリップで閉じている。中を伺うことができないように。しかし、彼の予測は当たっている。表情を見るまでもなく分かる。
なぜなら─
「約束、守ってくれたんだ。うれしいな、ありがとう」
──約束という名の彼の縛りがあったから。
「ばか、絶対に、ばか」
”絶対にばか”とはなんだ、と自分でツッコミそうになるが仕方ないと、結論に達するや否や、遅れた羞恥が襲う。そしてふと、彼の胸の辺りに目をやる。
この人の胸に顔を埋めて、火照っているのを隠したい。
すると、思いが伝わったのか抱き寄せられた。この人通りの多い駅構内で、抱き合う私たちは異様だろう。
しかし、それでも良かった。今だけは、彼と触れ合いたいから。
「約束、守ってくれたんだ。駅についてから、下着、脱いでくれたんだ」
彼は、私の耳元でわざと、息を吹きかけながら囁いた。ここまで言われてはじめて、顔をあげ、彼の目を見た。恥ずかしさと、怒り、ほんの少しの期待と、愛おしさを込めて。
彼は私の手を撮り歩き出した。
どこへ向かうかは分からない。でも、理解る。
お互い、どこへ向かいたいかは、通じているのだから。