愛おしそうに女性を見つめ、指先で。
お互い普通とは違うから、出来ること。
そんな掌編
多様性、グローバリズム、そんな言葉が広まっても、保守的な考え、体制、普通という言葉が消えるわけではない。
多様性を自己の常識と照らし合わせ、これは違うと拒否するのは、ごく自然なことだ。
四肢を固定し、口枷をして、全身をさらけ出している女性も、慈しみと喜びの笑顔を見せている男性も、普通とは違うのだろう。
薄明かりの元、女性は、日に少し焼けた健康的な肌の手足を、身体のどこも隠せないように固定されている。
口に嵌められているのは、穴が無数に開いたプラスチックのボール状の口枷だ。言葉を、意志の発露を防がれた口からは、透明の液体が本人の意志とは無関係に垂れ流されている。
「したいことは、されたいこと。教えてくれて、本当に嬉しかったんだよ」
女性の髪を撫でながら、優しく囁く。
朝に優しく起こすように、心からの愛おしさを込めて。
髪を撫でる手とは反対の手の指先は、恥ずかしさにもかかわらず止めることができない、口元の唾液を指先にとる。
男性は自分の指先を、女性の口元から顎先、喉、胸の先を触れるか触れないかの強さで、ゆっくりと動かしていく。
男性は、女性の表情を見つめ続ける。抵抗も、驚きも、小さな快楽が心を占めていく様も、全て見るために。
女性は、声を上げるのを耐え続ける。抵抗も、驚きも、快楽の声も、口枷に遮られて思いを出すことができない、
動くことも、声を上げることも、何も出来ないから、目を閉じる。
それだけが女性に許された、自分の意志で出来る唯一の行動だから。
「ここは、神経集まってるところの近くだし、気になっても、おかしくないんだよ」
男性は自分の願望を隠して、女性に語りかける。
興味があるのは女性だけではない。自分だってそうだと、必死に隠しながら。
それなのに、相手の要望を受け止めたように演出するのは、自分のずるいところだ。
これも、きっと相手の女性には気が付かれているんだろう。
それでも、知らないふりをするんだろう。
女性自身が持つ、好奇心と、快楽のために。
ゆっくり動かし続けた指先を、胸の先から臍に、その下まで、ゆっくり動かす。
何も身にまとわせていない姿では、動きを止めるものはない。目指す場所を覆うものも、無い。
足の間、快楽と喜びが集まった場所をわざと避け、少しだけ下、蜜溢れる場所との間、小さすぎる場所に、指を置く。
本来触れるべきでも、興味を抱くべきでもない場所に。
女性から告げられた場所。男性が興味をいだいていた場所。
その場所に、指を置く。
髪を撫でていた手で、口枷を外す。
自由になった女性の口から、弱々しい、艶と恥ずかしさ、そして快楽の混ざった、小さなうめき声が漏れる。
口枷からは透明の、女性が耐えた時間の長さを示すものが滴り落ちる。
もうこれ以上、女性の声が聞こえないことに、耐えられないから。
「…ばか」
罵声や、泣き言が溢れてくると思っていたが、聞こえてきたのは、か細い、いつもの声。
二人だけで通じる、意味通りではない、二人だけの言葉。
「知ってる、ばかだよ、俺」
言って、口づけをする。
舌を唇に割り入れ、口腔を犯す。舌の動きに合わせて、小さすぎる秘部にあてがった指先を動かす。
舌が、少しずつ絡み合う。
女性の方から、舌を動かし、男性の舌を求めてくる。男性と女性、お互いがお互いの口腔を犯しあう。
指での責めに対して抵抗するように、それとも、さらなる刺激の要求として、女性からも口を求める。
男性は、女性の抵抗を喜ぶように、要求に応えるように、更に口腔を求める。
もっと、欲しいから。
「もう、無理だよ…」
女性から囁かれた言葉を聞くと同時に、男性は指先に少しだけ、ほんの少しだけ、力を入れる。
嬉しかったから、心から喜んだから。
どれだけ趣味嗜好が多用化しても、本当に同じ考えを持つ人間を探すのは、できないと考えていた。
できないと、男性も、女性も考えていた。
どれだけ人間がいても、居るはずだと考えていても、出会えないのが普通だと、考えていた。
砂漠の中で、手に握ることが出来る砂は、ごくわずかだ。その握りしめた砂の中に、たった一粒、自分の本当に求めている物があると、誰が思おうか。
ましてや、お互いが、それを握りしめるなんて。
女性が痙攣したように震え、動きが止まる。
口腔を求めあう動きも、止まる。
「愛してる、もっと、もっと愛してる」
男性が女性にまた、ささやきかける。
その言葉だけに、今持っている全ての気持ちを込めて、囁く。
出会えたことの喜びも、応えてくれた嬉しさも、愛おしさも全て込めて伝える。
この歪んだ形の欲望が、組み合わさった相手のことをただ思い、ただ愛して、伝える。
このままの歪な形のまま、複雑な欲望を絡めあったまま、もっと、同じ時を過ごすために。