------------------------- 第1部分開始 -------------------------
【第1章】
序章 魔女の旅立つ先の戦火の行く末
【サブタイトル】
プロローグ 鬼の境界線を越える者
【本文】
【西暦二千三十年代後半】
――――夏――――正午
【日本国】
――――関西海峡の西側――――
【旧兵庫県域内、美味しいミネラルウオーターで有名な某山中】
……………………ズズズン
木々や草が生い茂る山中は昨夜未明から――――ヒューン――――ズズン――――砲声と着弾音が鳴り響き。
人影が蠢くあたりでは小さな閃光が生じ。
――――タタタ!
様々な口径の機関銃からは有効射程内であれば今や、セラミックプレートを装着したレベルⅣの防弾ベストすら易々と、初弾であっさり貫き。
その下に隠された皮膚を突き破り。
肉をズタズタに引き裂いて、骨を混ぜ合わせつつ粉砕し。
内蔵を運動エネルギーで抉りながらミンチに変えていく、進化した弾丸。
性質の異なる特殊合金の粉を、着弾効果を計算し尽くして配合した。
徹甲弾が豪雨の様に発砲されていく。
豪雨の如き勢いで発砲される銃弾の中に時折含まれた曳光弾は、火線を作りだし、戦場に彩りを加えていくようだ。
他にも小さな煙が所々同時に複数上がり――――バババシュシュシュン!
ドゴッォオオン!
連射式のミサイルランチャーからは、ハンドミサイルが白線の軌跡を描き、目標目掛けて無数に発射され。
飛び交う容赦ない…………戦場と化していたのだった。
敵も味方も今や、民生用も含めてドローンと単純に呼ばれる様になった、相手側の無人機を電波ジャミングやクラッキング等のソフトキルだけでなく。
物理的に潰すべく――――バババシュシュシュ――――ドドドォオオン!
大量生産で安価になった、ハンドミサイルを大量に使用するのは最早戦場の日常。
そんな容赦ない戦場でハンドミサイルに狙い撃ちにされながらも、高速で山中を駆け抜ける。
ひとつの――――――――黒い人影が在った。
――――――――ザザザッ!
俺は木々に覆われた斜面を、極めて高速で駆け抜け。
彼女から聞かされた、変わった神話を思い出していた。
その彼女こそ俺を――――――――ヒュ――――――――タタタ!
銃弾が危険な火線を作り出し――――――――バシュン!
カッ――――――――ドドドォオオン!
ミサイルが飛び交い炸裂する、この戦場を駆けるキッカケを作った。
張本人だからだろう。
なんでも昔々、彼女の故郷では…………神々の戦争があったらしい。
その戦争は激化して、多くの種族を巻き込み多くの命が失われ。
最終的には、生き残った最後の優しい神々の女神が黒い炎でその身を焼き。
世界に平和と新たな秩序をもたらしたそうだ。
はっきり言って、そんな神話は【こちらで】ググっても出てこなかった。
だが、その荒唐無稽に聞こえる話を俺は信じざるを得ない。
過酷でブっ飛んだ状況に先月からいるが――――――――タタタ!
命の連鎖を断ち切る刹那の瞬間が無数に訪れる。
戦場で、その神話に登場する【救済】の内容は――――――――タタタ!
魅力的であったりするのも――――――――バシュゥウウ!
カッ! ズズン――――――――事実だったりする。
『――――ひゃっほぉおおう♪』
機銃掃射の横殴りの豪雨とミサイル攻撃を訓練通りに回避できる、性能を発揮する高度な科学力の塊。
黒いパワードスーツを装着した俺の鼓膜には、インカム越しに――――――――センサーが捉えた、銃声や爆音をノイズキャンセラー機能で抑えつつ。
相棒の――――少女の様な陽気な声が鳴り響く。
この状況でも陽気でいられる相棒に反して、戦場初体験である俺のメンタルは…………危機的状況だ。
『ツバメぇえええ!』
『なんだい~新入り君――――』
故に発する言葉の声色も痛切だが――――ズドン!
『きゃははは!』
『うぉっ!』
俺が陽気な相棒のツバメに話しかけた直後――――俺は背中に衝撃を受け。
俺の体は――――木々の枝や葉っぱが混じった。
土煙と共に宙を舞い――――――――大空へと上昇していく。
もしかして、俺って死んだ?
これって死の瞬間…………などと俺が感じている最中にも――――
『ははは♪ 仕掛け爆弾でテイクオフ~♪』
どうやらツバメの陽気な発言からするに。
この衝撃の正体はIEDなどと呼ばれる仕掛け爆弾のようだ。
ああ……それにしても、爆弾の衝撃って思った程痛くないんだな。
などと悟りつつある俺の視界には――――夏の青空と――――――――この物騒な戦場ではまるで――――――――核爆弾でも落としたかのような、不気味な錯覚を覚えさせる。
白い入道雲が映り――――ストォン――――自由落下を開始。
自由落下を始めた視界に今度は、木々に覆われた斜面が変わって映り込み。
――――キラッ――――カカカァン!
『ツバメ! 【俺達】落下しながら撃たれてるぞ!』
新人の俺は思わず、相棒に危険を叫びで知らせるのだった。
その間も【俺達】は――――カカカカカカァン!
銃弾を撃ち込まれていく。
俺の耳元では、ビービーと警告音が鳴り響き。
心臓の鼓動をドクドクと高めていくのが、自分でも感じられる。
『このくらいでビビんじゃねー! 現に仕掛け爆弾は勿論、機銃掃射にも――――』
――――ドゴォン!
『――――ミサイル攻撃にも耐える! パワードスーツ――――――――』
――――グン!
『うぉおっ!』
地上に落下する寸前、俺の体には上空へ向けて――――――――グイッ!
突如として加速度と浮遊感が生じていく。
この感覚は間違いない――――――――先月から毎日のように。
――――――――訓練で味わった感覚である。
俺が装着したパワードスーツのコントロールを胸元のコクピットに搭乗した【小さな相棒】が――――――――飛行モードに切り替えた感覚だ。
大空へと再度上空を始める俺の耳には、ツバメの自信に満ちた言葉が鳴り響く。
『黒鉄の性能と! 飛行のプロである妖精のあたいと――――――――』
『分かってい――――――――うぉおおおおおお!』
モニターも兼ねた俺の装着したヘルメットのバイザーには、センサーが補足した敵が――――――――赤い三角のマーカーで続々と表示されていく。
脅威度の高い敵のマーカーが、点滅を激しく開始していくのも訓練と同じだった。
だからだろうか…………俺の左腕は敵に向けて――――――――スッ
無意識に伸ばし――――――――カッ――――――――シュパァアアン!
青く輝く【魔力】で構成された塊…………否。
弾丸を訓練通りに撃ちこんでいた。
不思議だ…………俺の中には敵を殺す罪悪感も高揚感も無い。
但…………俺の中には無意識下で必死に疼く。
生存本能と理性の葛藤、訓練で身体に染み込み始めた戦いの所作。
そして――――――――
『――――――――【鬼の境界線を越えた】自分を信じやがれぇえええ!』
――――――――ドゴォオオン!
俺をこの並行世界の日本に連れてきた彼女…………【魔女】の故郷である、異世界とも言うべき、更に別の並行世界。
そこで頂点に位置する女神の代理人とやらを目指す。
魔女のマギサに導かれた、並行世界で生き延びていく…………覚悟。
この黒鉄を相棒と共に装着して…………戦い続ける自信。
それらの自覚が芽生えるのを俺は…………自らが撃ち込んだ。
魔力弾が作り出した…………モクモクと立ち昇る土煙と、爆炎を青空と入道雲をバックに見つめ。
初陣の俺は、鬼の境界線を越えたその身で大空へ上昇しながら…………そんな事を感じ始めていた。
------------------------- 第2部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
プロローグ 炎が照らす出会い
【前書き】
【本文】
陽が落ち、流れ星が異常な程流れる星空。
そんな見慣れない星空には……………………木星と見間違う様な天体。
リングの付いた馬鹿でかい、この世界の月が輝いている。
そんな夜空の下で俺は――――――――
「はぁ! はぁ!」
――――――――息を切らしながら、周囲を見渡している。
「――っはぁ!」
草原の上に、黒いシャーシ部丸出しで……横転して、真っ赤と言うよりは、オレンジに近い輝きを放ち。
黒煙をモクモクと、夜空へと立ち昇らせ、炎上する。
……………………数台のトラック。
宛らその光景は、手足を引きちぎられた。
巨大な昆虫が腹部を晒し……燃上しているかのようだ。
それを見る俺の脳裏には、心配が横切る。
一体、生きている奴は……何人いるのだろうか。
俺は先程まで、急激にアドレナリンを分泌していた。
心臓の鼓動がバクバクと、鼓膜に響くのを感じるくらいに。
……もの凄く興奮していた。
今はだいぶ落ち着いた。
そんな気持ちに、なっているのだろう。
……………………徐々に頭が、冷えていく感じを覚えていく。
故に他人の心配も出来るのかも知れない。
俺が興奮した原因。
それは外部から急激な刺激を受け生じたストレス。
それも、自身の生存本能を最大限に、刺激する出来事。
戦い……敵の奇襲攻撃を受けたのだ。
生物として味わう、最大級に危険で刺激的な部類のストレス。
それは必然的に俺の内部で爆発的にアドレナリンを発生させる。
俺の心と体は、アドレナリンを燃料に唸りを上げ――――敵に抗った。
その結果、俺はなんとか……こうして生きている。
カチャ
頭が冷え始めた俺は両手でFNP90。
人間工学に基づいてデザインされた。
PDW(パーソナルディフェンスウェポン)と呼ばれる。
近接戦闘用の銃のグリップを握り締め。
銃床をしっかりと、右肩に当て。
射撃姿勢を維持している。
俺は冷えた脳を動かし、五感と思考を舌で舐めるように確認していく。
クンクン……臭いな。
俺の鼻腔には、急激な運動エネルギーを受け。
……………………上空に舞い上がった土の泥臭さの残滓。
燃え盛る、燃料の臭いや………………肉の焼ける匂いが、伝わってくる。
焼ける肉の中には先程まで、一緒にブリーフィングをしていた連中。
ついさっき、仲間になったばかりの連中も少なからず。
……………………混ざっているのだろう。
これだけ素早く死なれると、連中の死に対して涙を流す間もない。
いや、戦場で涙を流さないのは幸いだ。
涙でドットサイトを見れないなんて、シャレにならない。
それでは、連中の……仲間の敵を取れないのだ。
それにしても、もの凄く……焦げ臭い。
だが、一番燃えているのは俺の仲間だった『人間では』ない。
一番多く燃えている、死体、いや肉塊は革の鎧を身に纏い。
……………………手斧や片手剣を装備した。
豚のような人型生物で、何処からどう見てもエロゲやRPGでお馴染みのあの、モンスター『オーク』達だろう。
オーク達の燃え方は、フル勃起状態といった感じの仰向けの姿勢だ。
そんな状態で何体も、草原の上で燃えている。
正にキャンプファイヤー状態だ。
その光景は不謹慎だがまるで、オ✖ニーの団体戦ようにも見える事だろうか。
気になる勝敗は、参加者丸焼きで勝者無し。
そんなとこだろう。
パシュン! パァアン!
時折、トラック付近の業火の激しい中で――――――――
燃え盛るオークの立派な、肉棒が膨張してパンパン弾けていく。
脂や肉汁を飛ばしている様も、垣間見える。
ここは――――そんな異世界の熱く。
……………………焦げ臭い戦場だ。
巨木の森林に囲まれたこの小さな丘と…………草原の一角。
俺のいるこの場所では、銃弾で蜂の巣にされ。
臓物をぶちまけた。
……………………オークの死体が溢れ。
トラックから漏れ出した、燃料を火種にして豪快に焼けている最中だ。
どうせ燃やすというか、炙るならベーコンをカリカリに焼きあげ。
冷えたビールでも一緒に飲みながら、食べたいものである。
しかし、燃えているのは食えるかどうか、不明なモンスターだ。
「……………………」
俺はそんな事を思考しながらも、森林に突如飛来し――――――――
巨木を何本もなぎ倒し、草原のど真ん中で炎上中の――――――――
全長十メートル弱位の人型の人工物に…………銃口を向けている。
スタッ……ズシ
カチャ!
明確には、飛来した人型の人工物に――――――――
止めを刺した感じの、派手な登場をした存在。
正体の分からない…………人影に銃口を向けている。
ザ……ザザ……ザ……
人影は人工物から、スタっと猫のように華麗に降り立ち。
緑の抉れていない、地面に降り立つ。
そして、俺の前に――――――――徐々に近づいてくる。
ザザザ……
人影の草を踏む音が……俺の耳には一際、強く聞こえる。
ドクン……ドクン
自分でも分かる心臓の鼓動が、恐怖を増幅させていくのを感じながら、俺の脳は再び――――――――ドクン! ドクンドクン!
――――――――アドレナリンを噴出させそうな気配だ。
スッ……
俺はトリガーに添えた……指の感覚を強く意識する。
その刹那――――――――――――――――!
「怯えるなニホン人よ! 我が名はマギサ デルフォイ! 『魔族租界アルメナ現領主』です! あなた方を迎えに来たひとりの魔女よ!」
その人影は、透き通る様な少女の声で尚且つ、力強く。
…………流暢な日本語を話していた。
月明かりと、炎の輝きが…………彼女の真っ赤な瞳と炎の様に揺れる。
…………ブラウンのロングヘアーを、俺にゆらゆらと、見せつける。
スッ……
俺はトリガーに向けた、意識を切り替え。
意識をマギサと名乗った、少女に向けて思いっきり――――叫ぶ。
「貴様が俺達を……この世界に呼んだのかぁああああああ!」
ザッ……
マギサは、俺の目の前に近づいて停止。
力強く……赤い瞳で、俺を見つめてくる。
俺は銃口を下げ――――――――
「そうだ! ニホン人」
――――――――口から、なんとなく浮かんだ疑問を勢いで口にしていた。
「――――――――呼んだ目的は、なんだぁああああ!」
「天下布武だぁああああ!」
……………………約一年後、深夜。
【とある宿屋の窓際】
俺は…………すっかり見慣れた、この世界の馬鹿でかい木星の様な輪っかの付いた月が浮かび、流星群で輝く騒がしい秋の夜空を……………………宿の窓際から見上げている。
この部屋にひとつしかないベッドの上には……………………彼女が全裸で、可愛い寝息をたてながら寝ている。
さっきまで彼女は喘ぎ声を張り上げていたが、毎晩俺の勝ちで……………………まぁ宿屋に泊まると……いや屋外でも毎晩こんな感じである。
今ではベッドで、互いに見慣れた裸の体を晒す関係になった。
俺とマギサ……………………マギサは、初めて会ったあの時、両手を腰に当て…………天下布武とハッキリと言葉を打ち返していた…………だが、あの時、脳内でマギサの返した言葉の意味を迅速に変換できず、正直なところ、わけがわからなかったのは…………今でもよく覚えている。
恐らく、戦闘状態で脳内がまだ興奮気味だったのが、原因かも知れない。
呼んだ目的が天下布武だと気付いたのは、この数時間も後…………彼女の屋敷に着いてからだった。
初対面時のやり取りを見ていた、仲間の一人は今でも時折…………
まるでナントカ修造みたいな、雄叫び系カップル誕生の瞬間だったと、語ってくるが…………それはきっと、ナントカ修造みたいに燃え盛る熱気を放っていた、燃え盛る化石燃料の熱気による錯覚だと……………………俺は思う。
……………………遡ること雄叫び系カップル誕生の数時間前
【とある屋敷内】
バチバチ……バシッ……ゴトッ……
……………………少し冷えるわね。
暖炉で燃える薪が弾け。
崩れるのを見ながら……私は寒さを感じる。
まだ秋の始まりなのに、今年は……もう暖炉を使う位に寒い。
「……………………」
私は……日が沈み……夜になった、窓の外を見つめる。
大気も冷えているのだろうか……既に夜空は一面を覆い尽す……流れ星によって、秋の星空だ。
月の周りを覆う……縞々模様の輪も、今夜は鮮明に見える。
最高の……お月見日和な夜だ。
だが、今年の冬は……寒さなど、人々から吹き飛ぶだろう。
人々、特に腕に覚えがあり、野心のある戦士や魔術師達は己の心の暖炉に、様々な欲望を……薪の様にくべて、闘志という名の炎を盛大に、激しく燃え上がらせるだろう。
私は人々が……世界が、そうなる情報を知っているのだ。
既に、私の心の中の暖炉は、誰よりも先駆けて……盛大に燃えている最中である。
私の心に火を付けた火種は……今は亡き私の母だ。
今年の夏に……息を引き取った母から……私は、この世界に住まう、全ての人々が熱くなるであろう、情報を事前に聞かされた。
母はその情報と……ある魔術を私に授けると……静かに息を引き取った。
私は会った事がないが……母が愛した男性……私の父の元へと、母は旅立ったのだ。
母曰く……。
『――はぁ……はぁっ! という訳で娘よ……』
『今なら滅びの渦中にある……ゲホッ! ゲホッ! お隣の鉄火場の処理で……はぁ! はぁ! 世界中が忙しいから――』
『――を目指すなら、その魔術を使えば――ゲホッゲホッォオオ! きっとまだ……間に合うわよ……………………』
母は私にそう言い残すと……静かに息を引き取った。
死に顔は何やら……満足そうな笑顔だったのが、今でも心に残っている。
死因は……老衰だった。
母は私達の種族の最大寿命である……
二千年近い、天寿を全うしたのだ。
正に、大往生であった。
母の死後……私は悲しむ間もなく、母から受け継いだ、潮風が心地よい……この租界の領主に、自動的に就任。
その後……母の残した魔術の実在と、情報を事実と確信した私は、先ず初めに、授けられた魔術の制御を上達させる事に没頭した。
授けられた魔術は、魔力消費が激しく……制御が難しい術だった。
しかし、それも当然だと思う。
何故なら……その魔術は、神々が使用したと伝えられる……古の魔術。
世間一般では伝説扱いされ、存在しない事にされている『転移の術』だったのだ。
流石に私も初めて使うまでは、いたずら好きな母の残した、最後のいたずらと思っていた。
この術が嘘なら、死の間際に母が伝えた、世界中が熱狂する……『あの情報も』死に直面し、思考力の衰えた、母の単なる戯言ぐらいに……当初は考えていた。
しかし……母の授けた術は、実在していたのだ。
転移の術の存在を確認した刹那……私の心の中で何かが、熱くなる感じがした。
その瞬間は同時に、私のこれまでの常識が崩れ去った瞬間でもあったのだろうか。
私はその日以降、転移の術の習得に没頭した。
転移の術を使い初めた当初は、見た事もない道具が大量に転移陣に転移してきて、驚いた。
母の残した記録によると、それらは全て、異世界の武器だそうだ。
母曰く……。
『決して捨ててはいけない、穴を人に向けてはいけない、むやみに触ってはいけない、勝手に埋めてはいけない、火に近づけてはいけない――』等と延々と記されていた。
他にも色々と、注意書きもあったので、触れずに保管中だ。
今では屋敷の倉庫は……異世界の微妙に油臭い、武器でいっぱいである。
しかし、私が扱えない武器を大量に転移させても意味が無い。
母の記録を読み進めていくと、術を使って、悩んでいるであろう……私への伝言も書いてあって……少しだけムッとした。
母曰く……。
『その武器の類いは、ドジで可愛い~♪ 私の娘の手には、危険なので~使える連中の転移のさせ方を……なんと! ここに記しておきます♪ 頑張れわが娘! 母より』
正直なところ……何やら既に故人の母に、いいように使われている感じは否めない。
そんな感じを受けながらも……私は先週、油臭い武器を使える連中の転移に成功。
先程……もうひと組程、転移させたばかりだ。
しかし、使える連中か……それ以前に危険かも知れない。
そんな連中を屋敷にいきなり、転移させたくない。
そこで転移陣の代わりに使える……神々の残した遺跡が、この街の北部の森林に存在する事も……当然の様に母の記録に記されており、そこにどちらとも、遠隔転移させた。
遠隔転移は、もの凄く魔力消費が激しい。
今の私は……ヘトヘトだ。
しかし、あの遺跡の周辺は確か……。
お隣さんの領土内だけど……迎えも今夜中に送るから……問題ないかな?
バチィィイイ!
「ひゃっ!」
暖炉の薪が不意に強く弾けて驚き、私は声を漏らす。
「……ふぁ~」
転移の術で、魔力を大量に消費した影響だろうか?
或いは暖炉の薪が程良く燃えだし……部屋が暖まったからだろうか?
なんか……眠たい。
私は乳母で、私の部下でもある……彼女が報告に来るまで……少しだけ睡眠をとることにする。
何を考えながら眠りに就こうか……そうだ!
幼い頃、何度も母に聞かされ……私が憧れた話。
若き頃の母が、父と共に成し遂げ……これから私も目指す事になる…………最後の優しい女神様が残した仕組み…………【救済】を掌握して…………世界の頂点に立つ………………
むにゃ……。
スースースー♪
遡る事約三時間前……。
【とある並行世界の地球】
【西暦2010年代後半 沖縄近海 日本領空】
【八月初頭 正午過ぎ】
ヒィィィィィン――――ズズゥゥン――ズズゥゥン――――ズズゥゥン……
何本も白く、細い雲が弧を描き……交差する、南国の真っ青な大空。
白く細い雲の先では時折、火球が幾重にも生じ――――――――
――――――――閃光が輝いている。
その度に――――――――
描かれる、白い軌跡は次々と――――――――
――――――――オレンジ色の華を一瞬だけ、咲かせ。
軌跡という名の白い茎は、そこで成長を終わらせる。
華が散った後には、轟音が鳴り渡り。
大気を乱暴に…………何度も揺さぶっていく。
青く騒がしい、キャンバスと化した空には――――――――
超音速で白い軌跡を描き――――――――数値化された殺意と生物的な闘争心を積んだ――――――――合金と炭素繊維で造られた――――――――
鋭いペン先が何本も――――――――化石燃料と空気を混ぜ合わせながら激しく燃焼させ――――――――宙を舞っている。
…………ここは、数百発近い空対空ミサイルが飛び交い、何万発もの機関砲弾が容赦なく火線を作り出し…………何十機もの最新鋭の戦闘機とパイロットが、瞬時に散っていく…………過酷な空の戦場だ。
そんな超音速の戦場で舞う――――――――
――――――――ペン先の一つに搭乗する――――――――
…………ひとりの青年がいた。
【航空自衛隊 戦闘機コクピット 後部座席】
ビー……
ビー……
ビー……
シュコォオオ! シュコォオオ! シュコォオオ!
『ハァ! ハァ――!』
戦闘機動の度生じるGを受け――俺の視界は――何回もレッドアウト。
自分の血潮で真っ赤に、染まっていく。
視界から赤が消えると――――――――
――――――――青い空と、青い南の海のどちらかが!
俺の瞳に映り――――――――素早く流れていく。
そんな超音速の戦場で――俺は未だに、火の玉にならず――――まだ!
――――――――生きている!
俺の鼓膜は、危険を知らせる音色と――――――――
――――――――英語のアナウンスが、鳴り響いている最中だ。
ビービービー!
ビービービー!
ビービービー!
『warning! warning! warning!』
それにしても……
『warning! warning! warning!』
やべぇ――マジでヤバイ!
さっきから敵機に、ロックされっぱなしだ!
警告アラートが全然鳴り止まない――なっ!
キィィイイン――――カッ――ズゥゥウン!
また――ミサイルが横切って、後方で炸裂――もう嫌だ――こんなところで――!
死にたくないぃぃいいい――うげぇえええ――――!
俺の搭乗機に搭載された――――――――
――――――――三次元推力変更ノズルは、急激な戦闘機動を開始!
俺を乗せたまま――――――――再び急激なGを生み出していく!
人間に過酷なこの高機動は――――――――
――――――――俺の内蔵をかき混ぜ吐き気を覚えさせる。
うぉおおおおげぇえええ――――!
もういっそ――――撃墜され――――!
『――3、2――』
なんだ――――――――上官が何か言って――!
バァアン――――――――ボシュゥゥウウ!
『うぉおおおおおおお――――!』
【約二時間後】
ガサガサ……バキッ!
「はぁはぁ……」
一体ここは……どこなんだ?
どうやら俺は……遭難したようだ。
それは間違いない。
ドッグファイトの最中に、ベイルアウトさせられたのだから。
ここは……何処かの島のようである。
正直なところ、海上に不時着しなくて、よかった。
泳ぐのが嫌いな自分としては、一安心だ。
しかし、既に周りは……夜だ。
それにしても…………。
まだ警告アラートが……俺の頭から離れない。
吐き気はもう、流石に引いてくれている。
そう考えるだけで、今の俺は一瞬でも最高の気分になれる。
ここ二時間程……俺は信じられない光景を見るどころか、体験をしている。
だが……これは間違いなく、現実だ。
その根拠は、何度も自身の頬をつねり――生じた皮膚への触覚以上に――手にこびり付いた、泥臭さが、鼻腔を刺激した事で……確信を過剰に、意識へと上乗せしていく。
周囲に漂う、泥臭さを、鼻腔に感じながらも俺は――周囲の状況を確認する。
俺の不時着した場所は……巨木が、何本も生えている森林と湿地が……複雑に入り組んだ場所のようだ。
空を見ようとしたが……全体は見えない。
だが……太い枝の隙間から微かに……何回も、流れ星が見えた。
俺は姿勢を低くしながら、前方に脅威がないのを確認しつつ前進していく。
ここには、人間に向けて殺意を向けてくる脅威が存在する。
俺は既に『何体か』返り討ちにしている。
ここに来るまでの道中……俺は構えた――ガサッ!
パパンパーン!
ドサッ
FNP90PDWで――『モンスター』としか表現のしようがない、二足歩行の生物をこんな感じで、撃ち殺してきたのだ。
正直なところ、多弾数が利点のこの銃を装備していても残弾数が不安だ。
だが撃ち惜しみをすれば……自分の命が危ないだろう。
「一体、何体いるんだ……」
ジリジリ……
俺は愚痴を漏らしながらも、撃ち殺したモンスターに近寄っていく。
暗視ゴーグルを装着した、俺の視界には、革製の鎧を着込み――手斧を手にした――豚の様なモンスター『オーク』とでも言うべき死骸が、白黒の映像で鮮明に映る。
俺はオークの胸部、所謂デルタゾーンにダブルタップで撃ち込み動きを牽制。
止めはヘッドショットで仕留めた。
初めに仕留めたオークは、デルタゾーンに弾倉一本分、五十発の鉛弾をぶち込んだ。
だが、それでもオークは元気に笑いながら、ブヒブヒ突進してきやがった。
余りにも気持ち悪いのでつい、頭部をサイドアームのFN5,7自動拳銃で、ぶち抜くまで、その動きが止まることは無かった。
流石に男でも斧を持った、チ✖コ丸出しの変態が迫ってきたら、キモいどころか、貞操の危険を感じる。
このオーク達、下半身は丸出しで、ビンビンなのだ。
しかも、ドス黒くデカイ……残念ながら、何処ぞの漫画に出てくる、前しっぽ的な笑える代物ではないようだ。
ゲーム以外で実際に戦った事は無いが、まるでゾンビ並みのタフさである。
今思うとこれでオークが腐敗していたら、俺はパニクっていたかも知れない。
俺はゾンビゲームが苦手だ。
毛布を装着せずにプレイをしたら、禁断症状を起こすのは間違いないと自負している。
ギュル~ギュル~
正直、腹は唸りを上げる程減るが……
このモンスターを捌く気持ちには、まだ至らない。
さすがにバックパックに入った、レーションが尽きたら、こんな豚でもご馳走になるとは思う。
一応俺が食欲を向けるのには、それなりに根拠がある。
初めに撃ち殺したオークの死骸を、念入りに調べたが……人間が変装している可能性が、『皆無』だからだ。
首筋や顔に特殊メイクや、マスクを被っている痕跡もない。
つまり、人間以外の二足歩行する生物としか考えられないのだ。
こんな生物は、地球上に存在しない。
だが、食に適しているとも限らないから食べる時は……覚悟が必要だろう。
覚悟といえば、今起きている状況を認める事の方にこそ、一番必要かも知れない。
何故なら――
俺の時計は何度も確認しているが、基地から出撃して三時間も経過していない。
出撃した時間は、昼食前だった。
それに何度も携帯無線で呼びかけるが――
ザザ……ガガ……
雑音しか耳に入らない。
通信の送受信が出来ないようだ。
GPSの信号も受信できない。
それに一緒に脱出した……奴……上官も見当たらない。
何度も無線に呼びかけてみたが、反応がない。
「……嘘だろ」
一際大きく開いた木々の隙間から……
夜空が開けて、見えた。
「……あ」
この瞬間、恐らく無線に何度呼びかけても……無意味だと、俺は悟った。
夜空を見上げれば……流れ星が一面を覆い。
やけに馬鹿でかい月の周りには――――――――木星の輪みたいなものが、できている。
…………ここは、どう見ても地球じゃない。
オークなんて、モンスターがいる異世界。
俺は……そう確信した。
ガチャ……ジャキン!
俺は弾倉を交換し、コッキングレバーを引いて初弾を薬室へ装填。
「やっぱり、どう考えてもここは……地球じゃない」
そして…………一人呟き……心を落ち着かせる。
少し呼吸を整えると、胸元のポーチから、チョコ味のカロリーバーを取り出し齧る。
ボリボリ……
「……ふぅ」
糖分を補充して、血糖値を安定させた俺は、周囲の探索を進めていく。
そして数十分程歩いて、湿地と森が混在した場所を抜け、水深の浅そうな、二車線道路位の幅をした小川を発見する。
しかし出来れば……小川には、近づきたくない。
小川には俺が撃ち殺したのと、同じオークの死骸で埋め尽くされている。
よく見ると、武器は手斧だけでない。
質素な作りの短槍や……昔映画で見かけた、グラディウスと呼ばれるローマ時代の剣に似た片手剣。
昔の警官が装備していた、警棒を太くした感じの棍棒も混ざっている。
まさかここが、猿だらけならぬ。
豚だらけの世界とかだったら、最悪だ――いや。
よく見ると……武装した人間の死体も混ざっている。
それを見て、少しだけ俺は安堵してしまう。
人間の装備は豚どもより、かなり上等な装備といった印象だ。
なんか勇者っぽい雰囲気で、課金しまくりといった感じである。
どうやらここは、本当に……異世界、それもファンタジーな部類の、世界なのかも知れない。
ガサッ――!
俺は後方の物音に気づき――FNP90を構え――振り向く。
「撃つな!」
そこには、日本語を話す――サバゲーマーみたいな、格好の男達がいた。
彼らは自動小銃等で武装、数は十人弱だろう。
なかなか、手馴れた動きをしている。
だが、格好を見るに友軍では無い。
俺の脳裏には、近年武装決起した、右か左の元市民団体が浮かんでいた。
左だったらハズレ……自衛隊員は確実に殺され、装備を奪われる。
しかし、俺の立場を説明しても理解されないかも知れない。
などと俺が思っていると、男達の一人が両掌を上げて、近付いてくる。
俺も敵意がない事を……銃口を地面に向けて示す。
どうやら俺の運は、まだ尽きていないようである。
男は俺に話しかけてきた。
「我々は敵じゃない……近くに自分達のキャンプがあるから、そこで話そう……あんたも――」
話してきた男は小川を埋め尽くしている、オークや人間の亡骸を指差し――
「自分の置かれている状況を知りたい……そうだろう、パイロットさん」
確かに状況を知りたい。
なので、同意の返事と共に自己紹介もしてみる。
「そうだ。俺は✖〇✖〇、見たまんまベイルアウトして、ここに来た自衛隊員だ……だが、パイロットじゃない、単なる搭乗員だ……あんたらは、何者だ?」
俺の見た目は、武装したパイロットにしか見えないだろう。
実際パイロットスーツを着ているのだから、そう思われても仕方がない。
俺の任務は残念ながら、飛行する機内でしか、意味の無い任務だった。
正直なところ、あんな任務は無人機でやれと思った。
しかし、軍縮思考の極左政権の影響で、予算が無い。
よって技研の研究に混ぜる形で、俺は……実験配備の戦闘機に搭乗。
任務に従事させられ……この有様である。
そう……俺は二時間前まで。
上官が操縦する戦闘機に搭乗していた。
飛んでいたのは、空と青い海しかない……沖縄近海の上空のはずだ。
俺が搭乗していた戦闘機は……少々特殊な機体だった。
三次元推力変更ノズルなどという、米軍も構造の複雑さ故に、開発を放棄した、そんなぶっ飛んだ代物を搭載していた。
明らかに……
採算性と安全性無視な『特殊な偵察仕様』の実験配備中の戦闘機なのだ。
流石に新開発の耐Gスーツを着込んでも……あの高機動は最悪だ。
一番最悪なのは、操縦桿を握って無茶な機動を繰り返す。
何処かのパイロットさんだが。
何せフライト時には、ほぼ毎回バレルロールや、スプリットSなどの戦闘マニューバを、データ収集の名目で、フルコースで勝手にお見舞いしてくれる。
そんなサービス精神旺盛な上官だ。
残念な事に部隊内で、奴の操縦に耐えられたのは、俺だけだった。
他の正規のパイロットは【東アジア統合軍】相手のスクランブル任務で忙しい。
そこで、暇そうで尚且つ、頑丈そうな隊員を何人か上官の独断と偏見で選び。
戦闘機に搭乗させて、テスト名目で戦闘機動のフルコース。
唯一ゲロらなかった俺は、毎回奴と一緒に、空の上で、毎回特殊な任務に就くことになった。
俺は数機しか存在しない、レアな機体に、サービ精神旺盛なパイロットこと、奴と共に搭乗。
そして――領空侵犯を繰り返す、統合軍機相手のスクランブル発進に、何回も……同行していたのだ。
その任務の最中、不運にもドッグファイトに巻き込まれ、奴の判断で共にベイルアウト。
そして気付いたら――――俺だけ……木の枝に引っかかっていた。
本当に枝の下が池で良かった。
少し泥臭くなったが……骨も折れずなんとか動け……人間にも会えた。
「自分達は見ての通り、『自宅迎撃隊』の者だ……仲間には何人か、陸自上がりの連中もいる……安心しろ」
男も俺に続いて自己紹介をしてきた。
自宅迎撃隊……ネーミングセンスは何やら微妙だが、かなり有名な反政府団体だ。
近隣諸国との過剰な融和を唱える、左寄りの現政権は当然ながら。
自称平和主義者や反日国家から『極右』のお墨付きを貰った団体である。
一応この団体は平和だった数年前まで、コスプレ会場によく出現したミリコス集団と一切関係がない。
そのように連中の使用する、SNSのアカウントに、やけに念入りに記載しているのが、ニュースになったので、よく覚えている。
自宅迎撃隊は当初、ゲリラ的に極左政権への破壊活動の動画をネット上に投稿、中継したりしていた。
最近では脱柵や、公職追放された陸自の連中が合流。
電波ジャックをして、地上波でも同団体の活動を垂れ流す。
異色の極右武装ゲリラだ。
俺は仕方なく、有名な自宅迎撃隊の皆様と合流。
どうやら俺より、先にこの異世界に来ている、彼らを状況的に頼らざるを得ないだろう。
流石にずっと一人じゃ、まともに休憩も取れず、本当に危険だ。
その後、彼らに案内され――――
数十分程、小川沿いを歩いていく。
途中、何度かオークや人間の死体の山を目撃した。
どうも初めに見た、死体の山と、大差がない感じである。
オークの死骸が大半で、課金装備の勇者っぽい人間が少数混ざっているみたいだ。
おそらく人間がオークを従えて、戦っていたのだろうか。
その後、森の中に繋がる支流を見つけると――――
支流へ入り、進んでいく。
その流れを遡っていくと、そこには……小さな草原と丘があった。
夜空は一面が、流れ星だらけで……凄まじい情景だ。
昔偶々、夜更かしついでに見た……しし座流星群とかより……何倍も凄い。
極めつけは……異様にデカイ月と、その周りのリングだろう。
ここは地球じゃない。
一応もう一度、意識的に再確認して、心を落ち着かせる。
丘の周りには――英国のストーンヘンジの巨石の様な石柱が、規則正しく並び。
丘の上には……明らかに場違いな、フェンスに囲まれた近代的な建築物が建っている。
見たところ、大きい倉庫の様な感じだ。
パラパラ……
近づくと……どうも建っているというより――乗っかっているのが分かった。
駐車場とフェンスの一部が丘からはみ出して、崩れているのだ。
何台かトラックや、RV車が横転しているのも見受けられる。
どうやら、建物が敷地ごと移動したのだろう。
既に建物の周囲の草原には――――塹壕が掘られている。
塹壕内では、二脚を付けた、機銃装備の兵士が展開。
銃口を何が潜んでいるか分からない……巨木だらけの森林に向けているようだ。
その頃――――
【自宅迎撃隊と自衛官のいる丘から、南方約300kmの海岸地帯】
この並行世界には昨年まで、五大列強国に数えられた一つの帝国があった。
その名も……………………【神聖東ドルア帝国】
この帝国の野心に満ちた軍部は、一年前、軍事クーデターを実行。
現皇帝や皇位継承者を皆殺しにするも、クーデターは失敗。
当然のように、帝国内では内乱が頻発。
以降、周辺諸国には難民や、生息地を戦火で追われたモンスターがなだれ込み。
……………………混乱は拡大の一途をたどっていた。
遂に業を煮やした周辺諸国は、平和維持の為に連合軍の派遣を決定。
帝国南部に租借地を持つ、『とある種族』の協力を取り付け。
その種族の支配する、港湾都市に集結…………連合軍は今まさに、これから動こうとしていた。
【港湾都市アルメナ】
【市庁舎内 第三議事堂 東ドルア平和維持派遣軍 参謀本部会議場】
この都市の、市庁舎内にある議事堂は今現在、参謀本部として利用中であった。
ここは、とある種族が租借前にこの地を統治していた、人間の貴族が会議に利用していた施設である。
元々そういった会議をする目的で作られた半円状の議事堂内には、各国派遣軍の代表を収めるだけの容量があり、会議を行うには十分であった。
議事堂内には、人間は勿論、人間に近い容姿の亜人や……緑色の鱗をした爬虫類な、亜人の軍人もいるようだ。
そんな中、一際目立つピンクのロングヘアーをした……人間とよく似た、ある種族の女性は、一番後方の席に同じピンクの髪をした、数名のショートカットの少女を従え着席している。
ジィ……
ロングヘアーの彼女は……中央の壇上で説明をする、中年男性の騎士や――その他全ての参加者を見下ろす形で、話を聞いていた。
「…………」
「――以上が帝都進軍経路上に点在する、広域増幅器の座標だ。既に『オーク連合』所属の魔術ギルドが、帝国管理の広域増幅器への破壊を終え、多数の『対魔オーク』と傭兵を使い、残骸の回収を開始しているのが、『飛行竜』の偵察で確認されている。これについては、教会の騎士団が対処を――」
普段は商会の連中が会議や打ち上げに使う、この場所も今や…………
…………むさくるしい軍人だらけだ。
チラッ
私の視線の先――壇上後方の壁には、魔道具で航空偵察時に捉えた画像が、静止画で数枚出されながら……『西ドルア帝国』の騎士が説明中だ。
「――残骸の国外への違法な持ち出しは、国境に展開中の教会騎士団と『マウラーレ海軍』へ対処を任せ、我々連合軍の最優先目標は、帝都の制圧であるが、東ドルアの軍事政権は秘匿していた、『大ドルア帝国』時代の――」
「……」
正直なところ、連合軍の連中も大変だろう。
何せ我々と、教会しか……今では運用していない。
あの『兵器』を相手にするのだ。
「――『竜核搭載ゴーレム』を数十体規模で運用しており、帝都内を巡回しているのが、確認されている――」
まぁ……兵士諸君には、頑張ってくれとしか言い様がない。
犠牲が増えない事を祈るばかりだ。
正直なところ……仮に我が主のお嬢様の命令でも……大ドルア帝国時代の人間共の造りし、竜核ゴーレムと戦えと言われたら、遠慮したい。
アレを潰すのは、冷や汗ものだから……わたしも嫌だ。
「――よって激戦は避けられないだろう。竜核搭載ゴーレムへの対処は、連合軍に派遣された、教会の『対ゴーレム機動騎士団』と、魔術ギルド所属の『魔族』が受け持つ、我々の軍団は帝都周辺の各基地へ『有人ゴーレム機動部隊』と飛行竜で、日の出前に同時強襲、これを制圧していく段取りであるが――」
数十分後……。
ザワザワ……
ガタガタ
どうやら、作戦会議は終了のようだ……ん?
カツカツ……ピタッ
先程まで壇上で説明をしていた、西ドルアの騎士が私の手前で停止。
騎士は胸元に右手を当て、騎士式の敬礼をしてくる。
チラッ
両顎付近に鋭い切り傷が残る……銀髪で碧眼の中年男性だ。
見たところ……人間のようである。
人間を母に持つ、人間型のハーフエルフなら……耳に教会製のピアスを付け、耳に魔印が施されている筈だが、それがない。
……彼は、人間だろう。
この決まり事が出来て以降、識別は、割とここ数百年近く容易だ。
「ミリサ様、連合軍へのご協力感謝します!」
「お嬢様のご命令ですから当然です……それと昨日話した件ですが……伏せていただき感謝します」
反魔族感情の強い……西ドルアの騎士にしては、我々魔族に対して、友好的で協力的な男だ。
恐らく西ドルア内での少数派『女神派』の騎士なのだろう。
そうでなければ……西ドルアが東ドルアの魔族租界になど、軍を派遣しないか。
それ以前に我々に敵意のある、危険分子の入国は、教会からの要請でもお断りだ。
「我々への謝辞、大変恐縮でございます。ミリサ様」
やけに丁寧な騎士だ。
どうやら敬礼を解き……まだ、話を続けるようだ。
「ミリサ様、こちらが協力するのは当然です。何せ……この租界の領主様、直々のご要望なのですから……しかし、北部の森林地帯は現在、多数の対魔オークが展開し、危険な地域と部下から、報告が上がっています。私の部下で良ければ、ご同行させま――」
そんな事実は、既に知っている。
対魔性、所謂対魔力性能を備えた。
オークが何匹いようが…………我々、魔族には、さほど問題ではない。
所詮、我々からしたら、あんな人工生命は雑魚である。
何体いても、魔力でねじ伏せ、肉塊に変えるだけだ。
…………だが、素直に助力の申し出は嬉しい。
この騎士の人柄と姿勢は、素直に評価できるだろう。
「西ドルアの騎士様、ご安心ください……ここは我々の地元です……それに私は魔族です……ですが女の身としては、そのお気遣いは大変嬉しいです……気持ちだけ、素直に頂戴します」
ニコッ
ガタッ
「では、失礼します……西ドルアの優しい騎士様」
私は席から立ち上がり、指を胸元で動かし伝統的な謝辞を示す。
騎士は再度私に敬礼。
少しだけ頬を赤く染めている……可愛い坊やだ。
そして足早に私は、議事堂を出て、ある場所へと向かう。
私がお仕えする、この租界の領主で……お嬢様の屋敷だ。
【港湾都市アルメナ内 沿岸部のとある屋敷内】
コンコン……
キィ……
スヤスヤ♪
ノックをしてもお嬢様の返事がない。
私は執務室に、勝手に入室。
やはり……お嬢様は机に突っ伏して、寝ていた。
あれほど、寝る前は歯を磨いて、寝室で寝ろとしつけたのに。
油断すると直ぐに……これである。
もう少し……私が乳を飲まし……育てた、お嬢様の寝顔を見ていたい。
だが、仕事優先である。
ゴソゴソ……
一方その頃――再び。
【自宅迎撃隊と自衛官のいる丘】
【その丘に転移してきた建造物内 壁際】
パラパラ……
「一冊いくら?」
「千円なんだな……」
俺は今……好みの薄い本を買ったところだ。
購入の決め手は、触手攻めを受けている、表紙の少女。
何やら足に、プロペラの様な物体がついている。
空を飛ぶ者同士、なんとなく親しみが沸いたからだ。
どうも、この壁際のブースも……この世界に飛ばされてきたようである。
ブースの周りだけ、明らかに壁と床が異なっている。
まるでそこだけ、打ちっぱなしのコンクリートの壁と床に、無理矢理、はめ込み、溶接したかのようだ。
薄い本を買った俺の残金は既に……小銭だけと化した。
元々、スクランブル待機中に自販機でジュースを買うだけの金額しか、小銭入れに、入れていないのだ。
ホントは全種類買いたいが、不可――いや、いらない。
何故か……腐った人向けの本もあるみたいだ。
作品名は……
『妻が3人もいるんだから無理です!』
『お前の魔力だけじゃ足りない!』
『拙者と師匠!』
『妻よ許してくれ!』
『俺のイケメン魔術師と泥沼な関係』
――――――――――――――――などである。
主に表紙に載った、サングラスの怖そうなおっさんが、イケメン外人風の青年に迫る。
――――――――そんな内容であることが、十分に伺われる。
このサークルは色々と、手を出し過ぎな感じがする。
状況からして恐らく、売り子のこのメガネ君だけ、ブースと共に、不幸にも転移してきたのだろう。
しかし、そんな事件が在れば、ニュースになっているはずだ。
だが、そんなニュースは……見た覚えがない。
「…………」
一応聞いてみるか。
「あのさ……君はこっちに来て、どの位? 俺は約四時間位かな……地球時間で」
「…………」
おいおい……なんか言えよ!
売り子のメガネ君!
ったく! これだからコミュ障のオタ――――――――?
「三日なんだな……でも地球時間だと、僕は一年近く経っている……あ」
「よう猫!」
背後から、陽気な声を売り子のメガネ君にかけてくる男が一人。
先程俺が小川で話した男だ。
「矢島くん、お疲れ様なんだな」
彼は、矢島というようだ。
「猫よ……こんな異常な事態でも、売り子するとか――って売れたのかよ!」
矢島は俺の手にした薄い本を見て、驚きの声を漏らす。
「えっと……矢島さん――」
「ああ! 矢島でいいよ、空自の人」
――――――――空自の人。
今のところ俺は、そのように呼ばれ始めている。
しかし――――――――
「矢島、俺も✖〇でいいぜ、よろしく」
この状況だ。
付き合いが……長くなるかもしれない。
今の内に、信頼関係を築き上げる下地は必要だろう。
まずは、お互いに名前を知って呼び合う。
そこから始めよう。
「ああ、了解だ! それとそうだ、二人共ブリーフィングやるから、奥に来てくれ」
俺と猫は矢島に連れられて、奥の部屋に入っていく。
奥といっても、すぐ隣だ。
そこには、俺を含めて約10人弱ぐらいの――完全武装の男達がいた。
どうやら、会議用の長方形のテーブルを囲んで……既に待っている。
ん?
「おい、矢島……あの隅っこの子」
「ああ……可哀想に……コミバに来ていて……こっちに飛ばされたJCだよ」
コミバ、主に二次創作の作品を、夏と冬の年二回売り捌くイベント。
『コミックバザール』の略称である事は、俺も知っているので……少女の境遇に同情してしまう。
部屋の隅では、ひとりの中学生と思われる。
ショートカットの少女が、膝を抱えこんで座り込んでいる。
……………………表情は虚ろだ。
因みに……パンチラは見えない。
代わりに、チラッと黒いスパッツが見えた。
そんな少女の周りには、銃で武装した若いお姉さんが数名、いるようだ。
「つかさちゃん……私達がいるから、安心しなさい」
「そうよ、森の中にいる化物も、銃で殺せるから怖がらないで」
「自宅迎撃隊の男は、硝煙臭いだけでみんな、へ……紳士よ!」
「……」
少女つかさは、自宅迎撃隊の女性隊員から、励ましの言葉をかけられている。
だが、その表情が虚ろなのは……変わらない。
何故なら、つかさはこの時、自室に大量にある。
腐った書籍や、ディスク類の行方が――――――――
――――――――もの凄く心配で、仕方なかったのだ。
当然のことであるが、この腐った趣味は、家族には完全に極秘である。
この趣味が露見したら、緊急家族会議と、お小遣い減額の経済制裁。
最悪、大量のBLグッズの廃棄は避けられない。
……………………つかさは、そのように、シミュレーションしている。
中には……コミバ前日に補導覚悟と、おっきいお兄ちゃんに、貞操を奪われる……リスクは、やはり減らしたいので――――――――
植え込みに野良猫と共に、日の出まで……ダンボールで潜み。
徹夜組をしてまで、入手した貴重な戦利品もある。
未だに、未開封のコレクションも中には、あるのだ。
これでは、表情も自然と虚ろになり……………………
お通夜状態になるのは、至極当然だろう。
最もこの場で、彼女は別の事も心配しているが……
つかさは数日前で、21世紀の日本のどこにでもいる。
……………………ごく平均的な、腐女子の一人だった。
そんな彼女は、腐女子歴三年目にして、異世界へと見事に転移。
しかも好きな素材も、異世界作品が素材なのだから、ある意味幸せだろうか。
好きなカップリングは、アニメ化も8期程され、映画も昨年公開された。
ファンタジー作品の、登場人物のカップリングだ。
原作は何処ぞのWeb小説のランキングで、数年前まで一位だった作品。
つかさは、その作品に出てくる、妻子持ちのイケメン魔術師と……
グラサンが似合う、社長のカップリングが……大好きだ。
攻めは社長、受けは当然……妻子持ちの魔術師である。
それを想像するだけで……彼女は、毎日が幸せだった。
最もこの場で、つかさのBL趣味を知る者は皆無だ。
腐った証拠は全て、自室のクローゼットに置いてきたのだから。
……………………見事なまでに完璧な、人生のリセット状態である。
彼女の異世界デビューは、順調な滑り出しと言えるかもしれない。
「偶々……うちの女性隊員が、この倉庫にいたから……あの程度で、済んでる感じだ」
今のところ、彼女に向けられるのは、悲劇の少女を哀れむ。
このような、優しい視線なのだから。
そんな、少女の腐った趣味など知らない、男達は――――
虚ろな少女を横目で見ながら、テーブルに向かい、スタスタと歩いていく。
…………………………………………
空いているスペースに俺と矢島、売り子のメガネくんは入り込む。
既に待機していた男達は、俺達――――――
いや、どうやら矢島に対して敬礼。
矢島も軽く敬礼を返す。
矢島が敬礼を解くと皆、休めの姿勢。
この集団のリーダーは……矢島のようだ。
俺がそう感じていると、矢島が話しかけてくる。
「悪いな✖〇、本当は先にシャワーを浴びたいんだろうが、先にブリーフィング済ましてからな」
「ああ、構わないよ矢島、俺も情報が欲しい」
「そうか……」
俺との会話を終えると、矢島は周りを見渡し。
口を開く。
「諸君、見ての通り……新しい遭難者を発見した。では――」
「ブリーフィングを開始する!」
こうして、ブリーフィングが始まった――――しかし、この後。
俺は知り合ったばかりの仲間を――――多く失い。
その直後――――。
天下布武を目指す、彼女に出会った。
他の種族からは、『魔女』の通り名で呼ばれる。
魔族の女性……と呼ぶには、まだ幼い、少女のマギサに。
------------------------- 第3部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第一話 誓いあった者の旅立ちと別れ
【本文】
夕焼けに染まる海岸の砂浜で……。
そこで多くの人影が激しく動き――――――――
――――――――わぁあああああ!
……………………騒めいている。
多くの者は怒号を叫び……手に握る何かを振りかざし――――――――
――――――――振り下ろし。
ヒュ――――――――ガキィイイン!
或いは勢いよく突き出し――――――――
シュ――――――――ガコォオオン!
ギリッギリ! バチッ!
――――――――火花を飛び散らし。
甲高い金属音や、断末魔の叫び声を幾重にも鳴り響かせている。
仮にその行為を見る者が、現代を生きる日本人だとしたら…………
真っ先に合戦と言う、言葉を思い浮かべた事だろう。
まさに戦国時代の合戦と呼ぶにふさわしい行い。
それが、この夕焼けに染まる、海岸の砂浜で起きているのだ。
だが……全く日本の戦国時代と同じというわけではない。
そうここは…………
日本どころか、二十一世紀の地球では無いのだ。
しかしながら……人間が戦っているのは、間違いないようである。
片方の勢力は、全身を銀色の西洋風の甲冑で覆った――――――――
――――――――完全武装した姿だ。
その片手には、剣や短槍が握られ――――――――
――――――――もう一方の片手には、丸い金属製の盾が握られている。
盾の表面には、雪の結晶のような模様が刻まれ。
――――――――うっすらと赤く光り輝いている。
皆、ほぼ同じ装備をしていることから、兵士なのだろう。
兵士達の数は、百五十人近い編成だ。
陸軍の歩兵一個中隊に匹敵する、編成といったところだろうか。
一方、完全武装の兵士達と戦う者達も様々な――――――――
――――――――剣や槍などで武装している。
彼らや彼女達は、革製の服などを着た。
軽装な姿ながらも、手練の戦士の様な動きをしている。
まるで、ファンタジーな世界の冒険者を思わせる。
――――――――そんな姿をした若い男達だ。
数は百名弱ほどで、少し戦況的にこちら側が劣勢な感じだろうか。
その劣勢な側には、更に――――――――三十名弱の少女達の姿がある。
少女達は横に列を組んで、兵士達と距離を取り――――――――
――――――――両掌を兵士達に向け、必死に何かを叫んでいるようだ。
そして両掌から、『何かを』高速で撃ち出しているようである。
それらは火球であり――――――――氷の塊や――――――――
――――――――電撃を帯びた青白い光球だったりするようだ。
少女達は色とりどりの三角帽を被り。
帽子と同色のローブを羽織っている。
両掌から色々と撃ちだす行為もそうだが――――――――
――――――――まるでファンタジーな世界の魔法使いの様な格好だ。
ローブには様々な、雪の結晶のような模様が刺繍されている。
少女達が、ファンタジー世界の魔法のような攻撃を撃つたび。
その刺繍は、強い輝きを放ち出す。
少女達の攻撃は――――――――
火球や氷の塊、電撃を帯びた光球を撃ち出す者が、圧倒的に多いようだ。
だが少女によっては、青色に光り輝く――――――――
ヒュゥウウン! ドガァアアアン!
――――――――ビーム状のエネルギー兵器を思わせる。
攻撃を放つ者もいるようだ。
しかし少女達の放つ攻撃は、兵士達の盾に当たると瞬時に霧に変わり。
――――――――霧散してしまう。
どうやらこの兵士達は…………この手の攻撃を効率良く防ぐよう。
――――――――訓練されているようだ。
兵士達は笑いながら、素早い動きで盾を動かし。
少女達の攻撃を次々と――――――――霧に変えていく。
……………………とても幻想的な輝きに満ちた、光景である。
しかも少女達の前衛として、剣や槍を振るう。
先程の若い男達からの――――――――
――――――――太刀筋を捌きながらの余裕の動きである。
必死になって放つ攻撃が霧散する度に――――――――
――――――――少女達の表情は焦りに満ちていく。
逆に兵士達の口元は――――――――下劣な笑を含んだ。
――――――――不気味な形に歪んでいくようだ。
恐らく少女達を生け捕りにして、如何わしい――――――――
――――――――行為に及ぶのを考えているのは、確かだろう。
その証拠に……兵士達の股間のあたりでは、何やら。
膨らみがモッコリと、できているようだ。
内部で、だいぶ硬さと熱さも高まっているようである。
欲望を高めた兵士達は、少女達に向かう歩みを更に強めながら。
ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ!
――――――――砂上を進行していく。
一方の少女達の攻撃も決して無力ではない。
稀にだが、兵士の防御動作より早く。
兵士達の顔面に少女達の攻撃が直撃する。
直撃を受けた兵士は下劣な表情のまま――――――――
――――――――派手に燃え上がり、眼球が弾け――――――――感電死。
或いは、氷の塊の直撃で首をゴキリとへし折られたりするようだ。
中には、青白い閃光を放ちながら、頭部が物凄い勢いで炸裂。
砂浜へと崩れ落ちていく兵士もいる。
しかし少女達の顔には、常に焦りが感じられる。
それは、遠くからでも確認出来る程に、下劣な笑みと股間の膨らむ。
兵士達から、陵辱を受ける事を想像して……生じたものだろうか。
少女達の前には剣や槍などで武装した若く。
まだ恐れを知らない男達が――――――――
ガキィイン!
「ヒャッハー!」
「さっさと帝都に帰りやがれぇええ! 西ドルアの豚共がぁあああ!」
などと劣勢ながらも元気に雄叫びを上げ。
次々と兵士達と火花を散らせているのだ。
いくら劣勢であっても気弱過ぎるようにも感じられる。
どうやら少女達は時折、自分達の斜め後方の砂上を気にしているようだ。
そちらに向ける視線は、何かを強く焦っている……いや、何かを強く願っている感じが、垣間見える。
一方、少女達が視線を向ける、少し斜め後方では対照的に兵士達が、ガクガク震えながら、砂浜にうつぶせで――伏せていた。
この伏せた兵士の一団は、どうも数名の人影に対してかなりの距離を取っているようだ。
これでも一応包囲している最中のようである。
伏せた兵士達の周りでは、砂浜の砂が激しく弾け。
砂煙を幾つも上げている。
どうやら、兵士達は遠距離攻撃を受けているようだ。
包囲されている人影の背後には、夕焼けに染まる波の穏やかな海原が広がっている。
砂浜の波打ち際には、何やら青く光り輝き――回転を続ける――大きな円状の――魔法陣の様なものが、浮かんでいるようだ。
包囲されている何人かは、その魔法陣の様なものへと走り飛び込み――消え失せていく。
残った人影の中の一人は、兵士達に向けて黒い物体を構えている。
人影の攻撃は、少女達の放つ魔法のような攻撃とは違い――武器を使うようだ。
その物体は、規則正しい乾いた金属音と一緒に、何かが激しく弾け、空気を揺さぶる大音量を発している。
しかも周囲に連続して、鳴り響かせているようだ。
黒い物体の上部は、やたら激しく前後に動いている。
右側面からは、煙を微かに上げ――黄金色をした片端に少し括れのある金属製の小さな円柱状の筒や、黒い金属製の小さな爪上の金具等を凄まじい――速さで、大量に吐き出し続けていく。
辺りの砂上には、黄金色の筒と黒い爪を大量に散乱させている。
兵士達に向けられた先端部からは、小さな炎が点火と消滅を繰り返し、その先端を向けられた兵士達は、ガクガクと震え――砂浜に伏せているしかないようだ。
どうやら兵士達は、その先端から飛んでくる何かに極度に怯え……防御を強いられているのだろう。
一方、伏せている兵士達の前衛には、対照的にやけに目立つ
大柄なひとつの人影が、青い微かな――残光の軌跡を残す――物体を振り回している。
時折、黒い物体の放つ何かは極めて高速で、その大柄な人影に直撃する。
だが――効果が無いようだ。
兵士達を怯えさせる何かは、大柄な人影に直撃する度に――。
チィン! キキキキィン!
などと、甲高い音を生じながら……動きを止めその姿を顕にする。
それは……潰れた、小さな金属の粒だった。
力を失い潰れた小さな金属の粒は、ボトボトと砂上にこぼれ落ちていく。 高速で直撃する金属の粒をその身に受けても、平気な大柄な人影の正体、其れは――全体が青い大剣を握り締め構え――振りかざし、腰には茶色い皮製の腰巻を巻いただけの軽装で――スタイルのいい青い鱗で全身を覆われた長身の女である。
人間に類似した体躯を基本的にはしているが、明らかに人間とは違う種族のように見える。
頭部には頭髪が生えているが、その色も人間とは違いすぎる。
真っ青な青髪のショートカットで、瞳は猫を思わせるような瞳をして、口元では、不気味な笑みを浮かべているのだ。
これで角が生えて、武器が金棒だったら日本昔話に出てくる青鬼といったところだろう。
そんな爬虫類な姿をした好戦的な女は、笑いながら大剣で目の前の敵に何度も――斬りかかる。
だが、女の敵は難なくと砂の上を水上を駆け、まるで――ジェットスキーの様な高速機動で砂を巻き上げ、踊るように避けていく。
しかし……女の敵の姿は、どこからどう見ても……この異世界な場では……明らかに彼女以上に不自然な見た目をしている。
その姿はどう見ても地球人だ。
それもデジタルパターンの迷彩柄の戦闘服を着込み。
腕や脚の関節部に、黒い樹脂製プロテクターを装着した地球人。
しかも黒髪で東洋系の青年のようである。
顔立ちは整った感じの小顔で、無精髭が少々目立つがなかなかいい男だ。
青年は左手に刀を握り右太腿には、拳銃用ホルスターを装着している。
ホルスターの中には、45口径の大型自動拳銃を収めているみたいだ。
彼は爬虫類な女が、振り回す斬撃を難なくと避けている。
しかし、その表情は何かを覚悟した重い表情で……視線は鋭い。
青年は、砂上を疾走しながら斬撃を避けていく。
そして左手で握り締めた刀の刃の向きを素早く真上に向け。
右手で――右太腿のホルスターから、大型自動拳銃を素早く抜き――連続して引き金を絞る。
パンパンパンパンパーン!
乾いた数発の銃声が砂浜に鳴り響く。
彼の撃ちだした銃弾は……爬虫類な女の胴を撃ち抜き。
風穴を開けている。
爬虫類の様な女は、顔芸のような表情だ。
徐々に爬虫類の様な女は、千鳥足でよろけていく。
一方、彼は爬虫類な女めがけて砂を津波のように巻き上げ突進。
急接近して間合いを詰めていく。
そして左手の刀を銃創めがけて――突き刺す。
グサリ!
「ぐぎゃぁあああああ!」
爬虫類な女の凄まじい叫び声は、周囲に不気味に鳴り響く。
突き刺した刀を――グリグリねじり回しながら彼は――日本語を大声で叫ぶ。
「このっ! 脳筋がぁああしつこいんだよぉおお! さっさと逝きやがれぇええ! マギサの邪魔はさせるかぁああ!」
彼は爬虫類な女の断末魔の表情を見ても――両目や口から吹き出す―真っ赤な血を浴びても――刀を握る握力をさらに強めていく。
血まみれな刀身を――捻り回しながら彼は、『愛する人』へ向けて必死に大声で叫び続ける。
「マギサぁあああ! 日本へ行――!?」
グサグサグサグサ……グサ!
駆けつけた、爬虫類な女の仲間の兵士達は、短槍で彼を串刺しにしていく。
兵士達もただ震えて、砂浜に伏せていただけでは無いようである。
反撃の機会を伺っていたようだ。
串刺しにされた彼は、右手で握り締めた、大型自動拳銃の銃口を瀕死な状態の――爬虫類な女の眉間に――押しつけ……引き金を数回絞る。
パンパンパンパンパンパンパーン !
爬虫類な女は、頭部を拳銃弾で粉々に破壊され絶命。
彼と共に砂浜に崩れ落ちていく。
まるで昭和の任侠映画の死闘か、相手が大剣を振り回す爬虫類な女だと、特撮かインディーズ映画の様な光景である。
しかし、それはフィクションなどでなく……紛れもない、現実の出来事である事実を見せつけられ……ひとりの少女は絶叫する。
「いやぁあああああああ!」
絶命した彼の後方、約数十メートル先の砂上で……涙を流し崩れ落ちる一人の少女がいる。
絶叫を上げた少女だ。
少女は思い切り泣きじゃくり、錯乱状態のまま――串刺し状態の彼へと――駆けていく。
だが、背後から誰かに羽交い締めにされ、少女は後方へと引きずられていく。
手を伸ばすが――確実に彼との距離は遠ざかっていく一方だ。
少女の絶叫は、砂浜に鳴り渡っていく。
そんな少女には、必死な日本語の叫びがすぐ後ろから、向けられる。
「マギサぁあ! ダメだ! 彼の思いを無駄にしちゃいけないよ! うっううちきしょうぉおお!」
その声は、少女の名前をマギサの名を呼ぶ声だった。
必死な青年の声は、マギサの耳元に一番鳴り響いている。
何故なら彼は――錯乱状態のマギサを羽交い締めにしているのだ。
この青年は、多くの命があの世へと羽ばたく戦場でなんとか、彼女が無念を抱えたまま、羽ばたかないようにギリギリのところで……この世に残れるように繋ぎとめているのだ。
マギサをこの世に繋ぎとめる青年は、目の前で死んだ彼の言葉を思い出す。
『猫、マギサがバカをしようとしたら止めてくれ』
青年の格好も死闘を繰り広げ、戦死した彼とお揃いである。
デジタルパターンの迷彩柄の戦闘服を着用し、少し小柄でポッチャリ気味のメガネをかけた黒髪の日本人のようだ。
しかし、何故だろうか?
頭部には……黒い猫耳が生えている。
その猫耳は、彼の感情の起伏に合わせるかのようにピクピク動いている。
猫耳の彼は、タクティカルベストを身につけ、腹部付近には大量の散弾が装填された、黒い金属製のボックスマガジンを入れているようだ。
しかし……その傍らには、大きな衝撃を受け銃身が大きく曲げられた散弾銃が転がっている。
発砲は不可能だろう。
猫耳の彼は、暴れるマギサを羽交い締めにして、波打ち際で回転を続ける
魔法陣の様なものへ向けて引きずっていく。
しかし、時折悔しそうな眼差しで――徐々に遠ざかる……自分の壊れた散弾銃を見ながらも、自分に出来ることを考え――彼は必死に行動している。
猫耳の彼が羽交い締めにして、抱えても尚暴れるマギサ。
彼女は今や、絶叫を上げながら砂を耕す耕運機状態だ。
彼女が生み出す凄まじい砂煙は、偶然にも煙幕を生じさせ、敵の進撃を遅らせているようである。
暴れん坊な煙幕いや……最早小さな砂嵐だ。
猫耳な彼は、口の中まで砂まみれで息苦しい。
それでも我慢して投げ捨てずに猫耳の彼は、少し砂丘状になっている部分に近づいていく。
そこでは、ひとりの青年が軽機関銃を構え、撃ち続けているのだ。
ダダダダダダダダダダ!
「うぉおおおおおおお! 死にたい奴は立ちやがれぇええ! 直ぐに脳筋な上司と再開させてやるからなぁあああ!」
青年は立ち上がり、腰だめでラ✖ボーの様に撃ちまくっている。
実際、立ち上がった兵士は青年の宣言通り、蜂の巣にされているようだ。
死闘の末に死んだ爬虫類な女と、青年の亡骸の周りは、即効で無慈悲な銃弾を浴びた兵士達の骸だらけである。
ラ✖ボーな制圧射撃をする彼、格好までラ✖ボーなら……
リスペクトし過ぎだが、見た目は先ほどの青年達と同様の迷彩服の上下で、その上には同じく、タクティカルベストを着込んでいる。
装備に若干の違いがあるのは、彼の趣味か実用性によるところだろう。
目元には、黒いサングラスタイプのシューティンググラスを装着。
首元には黒地のスカーフが下げられ、腹部の大容量ポケットには、珍しい事にサイドアーム用のロングタイプの黒い樹脂製スペアマガジンを大量に
ギッシリ収納している。
背中には大きなバックパックを背負っているようだ。
そんな現代戦用に完全武装した彼は、険しい表情を口元に浮かべながら
兵士達を見て――思い出す。
彼がかつて……この世界に来る前……。
自らが銃口を向けていた敵の――姿を脳裏に鮮明に蘇らせていたのだ。
かつての敵の姿を思い出した彼は、脳内麻薬のバルブを全開――。
眼を見開き――怒りと殺意を滾らせ――真っ直ぐに伸ばした――人差し指を動かし――引き金を絞りきりながら叫ぶ。
「てめらぁあああ! 『統合軍』みたいでウザいんだよぉおおおお! 死にやがれぇえ!」
ダダダダダダダダーン! ガチッ……。
「ちっ! 弾切れか」
何やら、恨みに満ちた叫びを口にしながら、彼は軽機関銃による制圧射撃を終える。
彼が役目を終えた軽機関銃を砂上に投げ捨てたタイミングで……
彼に近づいてくる存在があった。
それは、砂嵐の発生源を抱えた……砂まみれな一人の青年だった。
アドレナリン全開の彼は、砂まみれな青年に激を飛ばす。
「おい『猫耳』! マギサを連れてさっさとゲートに飛び込め! うぉおお! 急げぇえええ!」
彼は右太腿のホルスターから――自動拳銃を素早く抜き構える。
彼が手にしているその自動拳銃は、改造を施しダットサイトを装着、マガジンもロングマガジンに変更したFN5,7ピストルだ。
狙いを定めた彼は引き金を絞っていく。
パンパンパンパンパンパーン!
「うぉおおおおお!」
彼は叫びながら一人、サイドアームで決死の制圧射撃を開始する。
弾を撃ち尽くすと彼は即座にマグチェンジ――射撃。
そのサイクルを繰り返す。
足元の砂上には、サイクルが繰り返されるたびに、空のロングマガジンが――砂上に次々と墓標のように突き刺さっていく。
その横では猫耳と呼ばれた青年が、砂嵐の発生源と化したマギサを抱えて
引きずり続ける。
マギサの服装は、白とピンクを基調とした、フリフリの
ミニスカート仕様の服装であるが、どことなく、民族衣裳的な雰囲気も
醸し出している服装だ。
だが……胸元が元々大きく開いていたのだろう。
彼女が耕運機並みに暴れた影響で形の綺麗な、白く透き通る……きめの細かい肌をした胸が……乳頭まで露出し揺れまくりである。
ただし、殆ど砂煙と言う天然のモザイクに守られ覆われているのでガードは完璧だ。
そんなマギサの顔立ちは、その整った目鼻立ちからも美少女と言っても差し支えがない。
髪は少し天然パー気味な綺麗なブラウンのショートカットだ。
眉毛もブラウンであることから自毛であることが伺える。
瞳は両目とも真っ赤な真紅の瞳だ、
その瞳からは、涙が溢れ続けている。
半裸で涙を流しながら、砂嵐を巻き上げるマギサを抱え、砂まみれな猫耳な彼は、サイドアームのFN5,7ピストルで射撃を続ける彼に話しかけるようだ。
「矢島くんも急いでなんだな!」
サイドアームで射撃を続ける彼の名前は矢島というようである。
「お前らがゲートに飛び込まないと急げないだろうが――!? うぉおおおお!」
矢島は敵と壮絶な死闘の末に相打ちをした……仲間の亡骸を視界に捉えると悔しさを強く抱く。
クソッ!
あの変態司祭、最後に私兵を送り込んでくるとか……。
やはり……西ドルアの帝都で潰しとくべきだったな。
矢島は、敵に向けて射撃を続けながらも、引きずられるマギサを
片目で見て思う。
仲間が何人も戦死して……マギサが錯乱状態じゃなきゃ、ポロリは最高だ。
ハッ!
矢島は気付く。
先に戦場から羽ばたいた仲間が、毎晩あれで楽しんでいたのかと
思うと思わず……悔しさを抱く。
チッ! と舌打ちしそうになったが、砂が口の中に入らない様に、堪えながらもマグチェンジをしてFN5,7ピストルを構えた瞬間。
自身の首元に防砂用の装備があるのを思い出す。
手を伸ばそうとして――矢島は、背中に背負うバックパックの『中身の重さを』感じるのだった。
矢島は、重さを生じさせている中身の存在に気づく。
いや、思い出したのだ。
首元に伸ばした手の動きをピタリと止める。
射撃を中止、両膝を砂上にめり込ます。
急いで自分の背負うバックパックを降ろし――中から灰色の四角い物体と
黒い『d』状の断面をした物体を取り出していく。
カチッ――ジャコッ!
その二つを装着。
右膝を砂上につき――首元に下げていた……防砂装備の其れはどうやら、スカーフなどでは、ないようだ。
人間の口元の白骨をプリントした……バラクラバだったようである。
バラクラバを口元に上げて、戦闘態勢を整えた矢島は……数十発近くのグレネード弾を装填した銃を……砂塵の舞う……砂丘上で構える。
矢島が構える銃は……半月型の大容量ドラムマガジンを装着し……『ホロサイト』をマウント部に装着した、『ブルパップ型グレネードランチャー』だ。
口元を不気味な白骨に変えた……その姿は宛ら……戦場で命を刈り取る機会を伺う……死神である。
そんな火力の充実した矢島に……起き上がった兵士達は、頭部を盾で
ガードしながら短槍を突き出し――。
「うぉおおおおお!」
雄叫びを上げ、砂塵を巻き上げながら全力疾走で向かっていく。
兵士達を視認すると矢島は、左手をハンドガードに添えて――狙いを定める。
「来いよ――」
ギリッ!
矢島は少し歯ぎしりをして――。
ホロサイト越しの射線上に映る……仲間の亡骸を見て怒りを高め――。
「――雑魚どもがぁああ! 喰らいやがれぇえええ!」
カチッ!
引き金を躊躇なく絞る。
ボシュ!
発射されたグレネード弾はジャイロ効果を伴いながら、時速数百キロで
飛翔。
最前列の兵士の構える盾に着弾。
高温のメタルジェットを浴びせ――兵士に致命傷を与えていく。
成型炸薬弾のメタルジェットの直撃を受けた兵士は――手と顔面を吹き飛ばされる。
そして崩れ落ちていく。
突進中の兵士達は、何が起きたのか分からないようだ。
一瞬……動きを止めてしまう。
しかし、矢島の動きは止まらない。
その間も――引き金を絞り続けグレネード弾を撃ちまくる。
ヒュン! ドカ! ヒュドドドドドドドドドドン!
「オラオラオラオラ! ぁあああざまぁあ見やがれ! クソ兵士どもがぁああ! お代わりいっとくかぁああああああ!」
兵士達は次々とグレネード弾を撃ち込まれていく。
瀕死の状態で砂浜に何人も崩れ落ちていく。
一分もしない内に兵士達の陣形は、崩れ落ち崩壊。
そこに――少女達の攻撃が殺到する。
少女達の攻撃は、兵士たちの頭部を次々に粉砕。
様々な炸裂音や、何かが潰される音が周囲に鳴り響いていく。
異世界の砂浜でひとり、射撃を続ける矢島は、その光景を見て――彼女たちに心の中で、感謝する。
ナイスフォローだ! 魔法使いの嬢ちゃん達よ。
マギサと猫がゲートに飛び込むのを確認した矢島は、撃ち尽くし、煙を
上げるグレネードランチャーを投げ捨てる。
彼はFN5,7ピストルを拾い上げ、握り締め。
全力で駆け――波打ち際で回転を続けている、魔法陣の様なモノに――飛び込む。
そして、矢島も消え失せる。
彼が飛び込んだ直後、回転を続ける魔法陣の様なモノは――回転を加速させ――ひときわ強く光り輝いていく。
天を貫き……青く光り輝く光の柱を一瞬だけ生じさせ……そして綺麗に消滅する。
それを見た冒険者のような一団は、歓喜の雄叫びを上げ始める。
彼らや、少女達は士気を兵士達以上に高め、仲間の旅路を見送りながら勢いを増して、戦闘を続けるのだった。
一方、敵の兵士達は士気を著しく落とし、敗走を始めている。
戦況は完全に逆転したようだ。
この戦闘における目的を達成したのは、冒険者の様な一団だろう。
先程までは、焦りに満ちた顔をしていた、少女達からも次々と、歓声が上がりはじめる。
その中の一人の少女は……涙を流しているようだ。
涙を流す少女は、光の柱の消えた、夕陽に染まる空を見つめている。
この世界では、涙を流すこの少女しか話す者がいなくなった……日本語で少女は、叫びはじめる。
「マギサ……私もこの世界で戦うから……諦めないで――!」
海から強く吹く潮風は……喜び歓喜する少女達の三角帽子と……纏うローブを空へと飛ばしていく。
潮の香りに満ちた風は……日本語で叫んだ少女の姿も顕にして……夕陽を浴びせかける。
彼女は、両手に傷だらけの真紅の金属製の手甲を装着し――其の身には、茶色い革製の冒険者用の衣服を着込み。
ハーフアップの髪型を好み、この異世界で戦い強くなることを決めた。
「――天下布武を!」
旅立ったマギサ達と、共に凱歌を歌う事を誓った、ひとりの日本人で、魔法使いになった、少女の姿だった。
------------------------- 第4部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第二話 衆愚政治の先にある世界で戦うプレッパーの二人
【本文】
数多くある、戦火の絶えない…………とある並行世界のひとつ。
【西暦二千十年代後半】
【日本国 都内某市街地 雑居ビル三階】
タタタタ……ターンターン……タタタタタ……
今日も相変わらず、遠くから鳴り渡る銃声をBGMにしながら、自分は思う。
こんな事になった原因は……なんだったのだろうか?
真っ先に思い浮かぶのは、昨年米国で発生した、全米規模での暴動だ。
そして、それに端を発し、今も続く同国の内戦だろう。
さて……暴動の原因は何だっただろうか。
人種間の対立に起因する暴力事件か?
異常なほど拡大し、数百万人の国内難民を生んだ貧富の格差か?
いや、決定的なのは――――
異常に多発する銃乱射事件を口実にした。
リベラルな大統領が米国民から銃火器を強引に取り上げようと、同国の憲法を改正した事だろう。
原因が何れにせよ、米国での動乱は、世界中に致命的な影響を与えた。
当然ながら、自分の住む日本も影響を受け無い訳が、ないのだが――
「ブラボーぉおおお! 残弾は!?」
ハッ!
冷たいコンクリートの壁に背を預けていた自分は、隣のバディ、所謂
相棒からの焦りを含む呼びかけで、空腹と疲労で……何処かに飛びかけていた意識を寸でのところで取り戻す。
チラッ……二本か。
腹部のマガズィンポーチの中身を確認すると自分は、弾層を一本指でつまんで、バディに手渡しする。
ガチャ……
5,56ミリ弾が入った30連マガズィンをバディが銃に装着。
その銃は、折りたたみストック仕様の89式自動小銃だ。
バディはスライドレバーを引き、初弾を薬室に送り込む。
ジャキーン
荒れ果てた室内には、バディと一緒に、C4爆薬で壁をぶち抜き作った。
銃眼と呼ばれる穴……ガンポートが二つある。
室内が荒れているのは、決して我々が爆薬の量を間違えた訳では無い。
元から荒れていたのだろう。
きっと、そうに違いない。
だってここは、戦場なのだから。
89式自動小銃にフル装弾したバディ。
彼はガンポートの一つに駆けていく。
カチッ タタタ! タタタ! タタタ!
銃声を奏で始める。
室内に空気を激しく揺さぶる、スリーバーストの旋律が鳴り響きだす。
しかし自分は、彼に伝える事を思い出し、話しかける。
「おい……ベータ、そいつでラストだぞ! セミオートに――」
「なにいってんだよブラボー! 統合派の奴ら、テクニカル無しのゲリラだけだぜ? 連中、殺るのに弾の出し惜しみは――お!」
カチッ ターン! ターン!
「ヒャッハー! お前も手伝えよクソッ……やけに数が多いな」
それもそうだ。
機銃を積んだ、テクニカル車両がいないのは、好機だ。
連中を統合派を殺す機会を……逃すのは惜しい。
自分も戦意と殺意でグッと……空腹を押さえ込み。
バディの隣のガンポートへと走り――小銃を構えたまま片膝をつく。
腹部のポーチに残された最後のマガズィンを――M4カービン銃に装着。 チャージングハンドルを引き――初弾を薬室に送り込む。
左手は、フォアグリップをしっかり握り締める。
ストックをしっかりと右肩に肩づけ、マウント部に装着した……ドットサイトを覗き……浮き出た赤いドットを敵に重ねて、引き金を絞る。
ターンターンターンタタタ――!
最早自分の体は、銃声を奏でるのに躊躇いはないようだ。
自然と体が動いてしまう。
敵は頭部をダブルタップでぶち抜かれ、路上に倒れていく。
自分のドットサイトの覗きこむ視界には、数人分の敵影と自分が放つ。
タタタ! タタタ!
制圧射撃の銃弾を避ける為にAK系の小銃を構えつつ、周囲の物陰へと散会していく、敵の姿が映る。
これで何人目だろうか……敵とはいえ生きた人間を殺すのは……確認できた数は、本隊に報告を上げているが、正直数えたくないものだ。
しかし、『ホウレンソウ』報告、連絡、相談を自分の感傷で怠っては……いけない。
自分だけだけでなく、共に戦う仲間まで……危険にさらしてしまい。
勝利は遠のいてしまう。
そうなれば我々や、我々の守るべき人達も敵に蹂躙されるだろう。
そんな事態だけは御免だ。
まだ、そう思える。
だからからこそ自分は……正気を保ち、戦えるのかもしれない。
「おいブラボー、統合派の連中数が多いだけでありゃ……動きが素人だぜ! サバゲー上がりの俺らからしたら……いい的だぜぇええ!」
ガチャ ターン! ガチャ ターン! ガチャ ターン! ガチャ
「泣いてやがるな……よちよち動くなよ……っと!」
ターン! ガチャ
「へっ! 売国奴の脳みそゾンビ共が! 舐めた真似するから――!」
ターン! ガチャ ターン! ガチャ ターン!
「脳みそ弾けさせて! 地獄行きになるんだよ! へっへっ!」
隣のバディは、銃をボルトアクションライフルの猟銃に持ち替えている。
彼は狙撃を楽しんでいるようだ。
統合派ゲリラを的にして……統合派ゲリラ其れは――『統合軍』に賛同している、主に元市民団体の成れの果てである。
いや、似非市民団体が野蛮な本性を現し、社会へ牙を向けてきたのだ。
中には自らの意思で、抜け出すこともできず、銃を強制的に握らされ、戦っている連中もいるのだろう。
だが同情の余地が無い、単なる敵で的である。
そう考えないと、自分は戦えない。
とは言え、彼らが隣のバディの射的の的にされるのは、自業自得といったところは、変わらない。
さて、野蛮な似非市民こと統合派ゲリラが、賛同する統合軍。
それは、日本の周りに存在する、よくネット上で特定ナントカと呼ばれ一括りにされ、批判される近隣の数ヶ国が、東西冷戦崩壊後に創設した国際組織の保有する常設の軍隊だ。
国際機関の正式名称は『東アジア統合推進機構』であるが、そこから縮めて、同機関の保有する軍隊は、統合軍と主に呼称している。
一応同じ漢字圏だから、その辺は日本も同じだ。
反日色の極めて強い国家だけが集まり、組織したこの連合体は、正直な所日本にとって、冷戦後の海の向こうに出来た、口煩いだけの存在。
当初は口だけ番長みたいな存在で、実害のない存在だった。
しかし、こいつらを日本に呼び込んだのは数年前、この国に誕生して昨年消滅した極左政権だった。
巧みなメディア戦術と、一部の経済団体から強力な支持を受け…………
あの極左政権は…………誕生と同時に、改革という名の売国を開始したのだ。
それこそ、治安の悪化や福祉コストの増大、日本国民との衝突など様々なデメリットや、欧州での移民政策で明らかになった、デメリットも完全に無視して――――――――凄まじい勢いで移民政策を進めていったのだ。
最も移民してきたのは何故か、反日国家の国民が異常な程多かった。
手始めに同政権は、東京一極集中の解消を掲げ、アジアに近い九州北部と、近畿に大規模な移民優遇特区を二つも設置した。
しかも、現地の県や市町村を強引に解体しての設置であり、完全に国民を無視した行為だ。
…………当然ながら多くの国民は怒り、極左政権や移民優遇特区へのテロを実行する者達も現れた。
政権側は、それを口実にして移民優遇特区への予算を増額。
更に移民優遇特区に対し、独自の警察司法権を認めるなどの改革を実施。
二つの特区を高度移民優遇特区へと改変したのだ。
極左政権曰く…………
『アジアの成長力を集中的に取り込み、日本が存続する為には至極当然の措置であり云々――』
などと当時のマスメディアは、延々と垂れ流していたのでよく覚えている。
しかも、それだけでなく、独自の『自衛組織』の設置までも認可してしまう。
当時の防衛予算を大幅に削減してまで、熱心に特区を支援したのだ。
流石に最新鋭の兵器の配備は、自衛隊や米軍から反対されて自粛。
自衛隊の中古装備を近代化改装して、配備させるなどの配慮をした。
だが何故か、米国は日本への批判と圧力を一層高めていった。
其れは何故か? 答えは簡単である。
高度移民優遇特区に創設された警察や自衛組織を日本人が構成して運用するなら、米国も表立って批判や圧力を強力にしなかっただろう。
そう、完全に中身は元隣国の人間が構成して運用を始めたのだ。
そのスピードは凄まじく――――――――事前に来日していた。
――――――――明らかに軍人としか思えない連中が大挙して現れ。
瞬く間に銃を手に取り――――――――高度移民優遇特区の治安維持と自衛を開始したのだ。
しかもそいつらの運用費用は、全て日本人の税金である。
この時点で多くの国民はヤバイと感じたのだろうが、時既に遅く。
特区内の日本人や、企業は身に覚えのない罪状で次々と逮捕起訴され、財産を没収されていった。
次第にその行為は、その周辺の県や市町村にも波及したが、従来の警察は上層部から、圧力を掛けられ目の前でたとえ、婦女子が暴行を受け連行されても見て見ぬふりを続けた。
だが、遂に怒りを爆発させた一部の警察官は、命令を無視。
銃を手に取り――――――――また新興保守系団体も呼応するかのように ――――――――武器を手にして、何度か強制排除を試みたが、その度に相手の軍隊並みの火力に負けて、文字通り消されていったのだ。
流石にこの事態を見かねた、周辺の陸上自衛隊が超法規的に出動。
特区の警察や自衛組織を粉砕した事もあった。
しかし即効で指揮官は、身柄を拘束されていく。
指揮官は即起訴で即裁判、即判決、判決死刑で法務大臣が即効で、ハンコを押し死刑を執行された者や、部下に慕われていた者は、完全武装した部下の強襲救出で拘置所を命からがら逃げ出し、米軍基地に逃げ込み亡命していった者もいただろうか。
その後、極左政権は…………
『自衛隊の内部に著しい問題あり! 云々――』
として、文民統制強化の名目で制服組の大規模な公職追放を断行していく。
更に極左政権曰く…………
『日本の安全を守るためには、日米安全保障条約以外にも枠組みを広げ、集団安全保障の更なる充実が必須である云々――』
として、本来なら国会での審議と採決を経てからしなくてはいけない、東アジア統合推進機構への加盟申請を首相の独断で提出したのだ。
国内の世論は勿論、米国も猛反発したが、加盟国内の大国が米国債の売却をちらつかせると、米国はダンマリ……そして日本は加盟国の進駐軍と統合軍を特区に受け入れていく。
それと同時に、統合軍の将校団を強引に、自衛隊の幹部にスライドさせていき多くの自衛隊員がこれに反発。
集団で銃火器等の装備を持って脱柵、要は脱走していったのだ。
この際に、米軍と繋がりの強かった海上自衛隊は、艦隊ごと米国の勧めで、米国へ大規模に亡命していった。
そして入れ替わる様に進駐軍と統合軍は艦隊を日本周辺へ派遣、なんとか駐留している米軍と睨み合いを続けて、今日に至るのである。
この戦争は一年近く日本では続いている。
最近の海外の情報は、通信衛星や海底ケーブルが破壊されたようで途絶えたままだ。
一体…………米国の内戦はどうなったのだろうか。
しかし未だに、核兵器が我々の頭上で輝かないのは…………
まだ人類に理性の残りし証だろうか?
或いは征服の野心が、残りし証かもしれない。
情報化社会に慣れきった現代人からしたら、ネットから断絶した状況に、恐怖を覚えるのは決して、自分やネット中毒者達だけではないだろう。
最も自分や仲間達にとっての一番の恐怖は、不確定な大量破壊に関する憶測や情報などでない。
目の前に現れ、銃を持ち立ち向かってくる肉体と殺意を持ったリアルな敵だ。
自分の所属する抵抗組織は、主に極左政権によって公職追放された元自衛隊員や、脱走した自衛隊員、そして銃火器を戦時に備え、海中に潜む潜水艦の様にひたすら、隠し持っていた過激で……極めて実践的で、実戦向きな軍事オタクなどによって構成されている。
危機管理が本格的な欧米では、後者のような者達はプレッパーと揶揄されているらしいが、この混乱の中、どれだけのプレッパーが生き残れているのか、戦後が自分に在れば、知りたいところだ。
脱走した自衛隊員、彼らは統合軍から自衛隊に派遣された、将校団が
自衛隊幹部にスライドした事に猛反発して、基地から銃火器を含む装備等を持ちだし、いち早く脱走した自衛隊法違反の凶悪犯罪者だ。
しかし同時に本気で日本を守ろうとする、戦いに慣れた猛者達の集団でもある。
凶悪犯として扱われた彼らはその後、日本中で警察や進駐軍、そして統合軍を相手にゲリラ戦を全国で展開していた。
仮に彼らが基地から持ち出した装備が銃火器だけなら、彼らはとっくに壊滅していただろう。
そう、何も彼らの持ち出した装備は銃火器『だけ』ではないのだ。
高性能の通信機器等も大量に持ち出していたのである。
正直、これが無ければ現代戦では、敵から一方的に嘘を含む致命的情報を流され、戦局を著しく不利にした事だろう。
彼らはゲリラ戦を展開しながら、其の戦闘を撮影。
動画サイトに投稿するのは勿論、ゲリラ的に地上波を余裕で電波ジャック。
これまた電波法違反を犯しながらも、お茶の間に少々ドギツくグロテスクな戦場の光景を、完全無修正のモザイク無しの状態で、赤文字は勿論、虹色のデカ文字もデカデカとふんだんに使い、強引に中継を割り込ませていた。 そうして極左政権や、統合軍の情報操作をこと如く、問答無用で叩き潰したりしていたのだ。
最も深夜アニメの時間帯や、日曜の朝八時半頃にそれらの映像を割り込ますと、激怒の上発狂した、一部のアニヲタやおっきいお兄ちゃん達にネット上で、潰されかけたりもしたようだ。
一部ではそんな深刻な? 衝突も少々、起きたが総じて特にネト✖ヨやひきニートなどと、馬鹿にされていた若者などは、率先して彼らを支持していき、中には自宅警備を放り出し、彼らに合流して共に戦い始めた者達もいたのだ。
其の中でも戦いをくぐり抜け。
生き延びた者は立派な戦士へと変貌を遂げていた。
自分の相棒も立派な変貌を遂げた、ひきニート其の類だ。
引きこもる前は、サバゲーをしていたそうで、戦場で動けるだけの潜在能力的なものは元々充分あり、それが戦場で開花したのだろう。
今でも彼の懐には、某美少女戦士の魔改造フィギュアこと、嫁さんがご同伴中のようで……自分にも熱弁をふるいながら、入門用にオススメだとして、別の嫁さんと御神体?
などと称した縞パンをセットで渡してきて、布教するなど、少々痛いところもある。
それでも戦えるので一応問題は、自分はないように思う。
因みに自分は、参戦一年弱である。
元は海外での射撃とサバゲー、FPS、ミリコス好きの元軍事ヲタクサラリーマンの成れの果てである。
自分が握り構えるM4カービン銃は、米軍基地に残されていた物で有効活用
させていただいている最中だ。
決して和製プレッパーの皆様のみたいに床下や、色んなところに平時から、隠し持っていたのではない。
在日米軍の皆様も流石に、本国が内戦状態になり、本国に続々と撤退して今は空母艦隊と亡命した海上自衛隊の一部を指揮下に置き、日本周辺に展開しているだけのようだ。
今の日本は既に一年近く、無政府状態に近いのだが、まだ幸いな事に日本と米国の利害関係が一致しているから、米軍を日本周辺で展開しているのだろう。
そういえば丁度、米国へ内戦前に訪米していた保守政党の幹部が三ヶ月程前に、亡命政府の樹立を宣言したらしいが、その後どうなったのだろか?
正直、脱冊した自衛隊員や自宅から飛び出したひきニート、ネト✖ヨの超法規的で無謀いや、勇気ある活躍がなければ、とっくにこの国は、占領され今頃は全土が、チベットやウィグルの様になっていた筈だ。
男は殺され、若い女は犯される……身の毛もよだつ民族浄化の渦中だった事だろう。
彼らが自らの犠牲を顧みずに法を超え、戦い続けていたからこそ、我が国の恥である極左政権の軍事支援を受け、正規軍並みの装備を使用する統合軍を相手にしても、我々はそれなりの戦火を上げているのだ。
最も琵琶湖から東側は、米軍の航空支配下にあり、統合軍は進行できないでいる。
自分達の抵抗組織は主に、統合軍に賛同する統合派ゲリラの機関銃積んだテクニカル車両や、ゲリラを相手にするだけだ。
だが、まだ戦えるだけ状況なだけ、『西側より』マシなのだろう。
琵琶湖を挟んでほぼ、戦線ができていると言う話らしい。
この状況は、『最低か』『最悪の』境界線が日本にくっきりと、出来上がりつつある事でもある。
以前入ってきていた西側の情報は、主にネット上のSNSや動画が多かったが、どれも酷いものばかりだ。
恐らく隠撮して、統合軍や進駐軍の非道を国際社会に向けて発信しているような動画や、日本人を虐げる側が自己顕示欲を発散せるためだろうか、匿名で上げた、正に民族浄化の最中といった光景が延々とUPされていた。
まさに最悪の状況で亡国寸前である。
だが、まだ最低な東側でもここ一年の戦闘の過酷さは凄まじく。
発狂して自殺した者、現実から二次元へと精神的に逃げ出す者。
民間人や仲間をリアルに襲撃して悦に浸る下衆もいた。
我々は其の度に引き金を絞り、悲しい銃声を奏でながら生き延びてきたのだが――
「あぎゃぁあああ――!」
なんだ? 遂にバディが発狂したのか?
「――ぁあぎゃああああブラボーぉおおタンクだぁあああ逃げるぞぉおおお!」
「なっ!」
自分は、バディのキーボードを破壊し尽くしそうなノリの叫び声を
間近で聞かされてしまう。
自分がガンポートから離れようとした時……バディに叫び声を
発せさせた――歩兵最大の敵をドットサイト越しに確認して恐怖を覚る。
陸戦の王者、戦車の御登場である。
それも皮肉な事に、冷戦時代に日本を守ってきた鋼鉄の老兵74式戦車が……敵として登場したのだ。
しかも、リアクティブアーマーと呼ばれる、爆発反応装甲付の装甲強化改造型で尚且つ、砲塔部に市街戦用のRWSリモートウェポンステーションと呼ばれる、無人操作の機関銃ユニットを搭載して、バリバリに近代化改装が施された統合軍仕様のタイプだ。
確かこのタイプは、味方同士のデータリンクが脆弱なので、逃げ切れる可能性がある相手のはずである。
敵は市街戦をやる気満々のようだ。
しかし、米軍の航空支配をくぐり抜けて、空と海の通過は、ほぼ不可能だろう。
唯一、ありえる手段としては、分解偽装して山間部を静かに抜けて、東側にわざわざ持って来るしかないのだ。
だが、第一手間が掛かりすぎるし、現実的では無い。
それ以前に、我々の組織の警戒網に引っかからない訳が無いのだが……奇妙な現れ方である。
まずい!
自分の視界には素早く旋回するRWSの動きが映り――こちらも猛ダッシュ。 後方に駆け――バディも同時に駆け出し――自分とバディは脱出用に壁を大きくぶち抜き、造成したロープを垂らす準備をした三番目の穴へとタッチダウンする――と同時に――
ダダダダダダ――!
室内の天井付近に機銃弾が豪雨の様に着弾。
ボトボトボト――パラパラパラ――
自分達が先程までいた、ガンポート付近は斜め下から、壁ごと撃ち抜かれ天井を抉られている。
間違いない12,7ミリ弾、敵が74式改に積んだRWSで建造物への掃討射撃を開始したのだ。
かなりまずい状況だ。
急いでこの建物内から脱出しないと、機銃弾で肉片になるか74式改の戦車砲で焼け焦げ気味のひき肉になるかもしれない。
或いは捕虜になり、拷問のフルコースを味わい締めは銃殺、いや……ブリーフィングで小耳に挟んだはずだ。
たしか東アジア統合平和維持軍は――ハッ!
ゲイが多いと……
ガクガクガク!
ヤバイ! このままでは、ノンケをやめて第二の人生を歩まされる
可能性が極めて高い。
実際、その手の戦利品? と化した元自衛隊員や我々の様な者がいるとの噂や真偽不明の動画や画像は、ネット上で拾えるどころか……今でも延々とUPされているそうだ。
自分は色んな意味で怖くて見ていない。
一部の腐った思考の者達の中でも、かなり『特殊な方々のオカズ』はジャンルによっては、枯渇せず不謹慎な事に、空前絶後の供給過多状態だそうである。
しかし、出来る事なら命だけでなく……ノンケとしても生き残りたい。
戦場では贅沢かもしれないが、心のそこから自分はそう願い――!?
「アッー! ブラボーぉおおお先に降りるぞぉおおお!」
「ア……ああ! 了解」
バディは戦車への危機感からだろうか、やけに必死な声色だ。
先にやけに手馴れた手つきでロープを使い……雑居ビルの裏口付近に降下して着地。
肩膝を地面について……小銃を構えながら、安全を確保すると片手を挙げてクルッと回す。
「ブラボー! カモン!」
降下に支障無しの合図だ。
多分そうであると信じたい。
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【サブタイトル】
第三話 三度目の戦火の行方
【本文】
「ブラボー! 行くぞぉおおお!」
「了解、慎重に抜けるぞ。ベータ」
それにしても今日は、バディがよく叫ぶ。
敵、それも戦車を盾にゲリラが迫っていたら、叫びたくもなるか。
そんな吠えまくるバディは、ビルの裏口隣にある。
まだローンが、三十五年……恐らく数千万円は、残っていそうな一軒家。
そちらへ、事前に用意していた、退路用の脚立で不法侵入。
74式戦車改から逃れる為、つまり緊急避難の為に仕方なく。
自分も後に続いて、脚立で登り、庭へと侵入する。
侵入するとバディは、玄関の方へ――――ダッシュで駆けていく。
そして――――ハンドサインで敵なしと、サインを送ってくる。
自分は、その間に脚立を片付け――――
――――素早くバディの方へ駆けていく。
キュッキュッ――――カチッ
バディは89式小銃に――――――――
06式擲弾、実弾を擲弾内部のストラップで受け止め。
飛翔する方式のライフルグレネードを銃口に差し込み装着。
どうやら、蘇った鋼鉄の老兵の裏に潜む。
統合派ゲリラを撃破できないまでも、攻撃を加え牽制する気だ。
実に頼もしいバディ――――――――?
「なぁ……ブラボー」
それは、意外な光景だった。
先程まで、統合派ゲリラを猟銃で撃ち殺しながら、笑っていた。
――――――――バディが、大粒の涙を流し……泣いていたのだ。
おそらく、彼も自分同様……色々と戦いの中で銃を撃ちながら。
悩んでいたのだろう――――――――
「嫁をビルに落としてきたみたいだぁああああ! 戻っても――」
ブチッ
自分の脳内で思考回路が、ブチ切れる音が聞こえた。
そんな気がしたかと思うと、自分は反射的に体が動き。
ヒュン――――パァーン!
「――ダメに決まってんだろうがぁあああ!」
バディを思わず、ジャブで殴っていた。
ボン――――ズシン
興奮冷めやらぬ、自分の体に空気の唸る――――――――
――――――――強い音と地響きが伝わってくる。
自分には、怒ると髪が金髪になり、ましてや空気を揺さぶり。
地響きを起こす、そんな超戦士なスペックは無い筈だ。
子供の頃に猿のような尻尾が、生えていた覚えもない。
どう考えても自分は、地球人である。
なんだ、この違和感――――――――!
ズドン!
ドゴーォオオーン!
バラバラバラバラ…………バチバチ……
――――――――その違和感の正体は、直ぐに判明した。
先程まで、我々のいた雑居ビルの最上部、三階付近。
その場所は、バディの立てた揺るぎない――――――――
――――――――フラグを一瞬で回収。
煙を上げて、吹き飛んでしまったようだ。
疑うまでもなく…………この咆哮。
…………現役に復帰した老兵、74式戦車改が主砲を発射したのだ。
発射されたのは、建造物への攻撃にも使用される――――――――
――――――――成型炸薬弾だろう。
残念ながら嫁の回収は、絶望的だ――――――――?
「あぁああああああああ嫁がぁあああ! 野郎ぉおおおおぶっ殺してやるぅううう!」
再び自分の体は、バディの叫び声に反応。
「この馬鹿がぁあああああああああ其れは――!」
――――――――ヒュン!
まるで、漫才のボケと突っ込み役のような状態だ。
自分は一瞬、そう思うが口は、もう止まらない。
「デスフラグだぁああああああああああ!」
そして、体も止まらないのだから、拳が放たれる。
放たれた右ストレートは、バディの顔面に直撃。
――――――――――――――――バキッィ!
これじゃ自分の体は、銃と変わらない。
引き金は、バディの音声認識という。
――――――――酷い仕様である。
もう叫ぶのやめてくんないかな。
殴る側も痛いし、変な癖つけたくないんだよ。
ズザァァアアアア……
やべっ! バディがぶっ倒れた――へっ?
ボシュン! ヒュ――――ン
危なかった。
錯乱状態のバディを殴り倒して、その勢いで06式擲弾が発射。
こっちに飛んで来なくて、良かった。
以後気をつけ――――――――
コチン……パァーン!
ダダダダダダ!
ぎゃぁぁあ……
なんだろう……少し大きい炸裂音の後に続く。
――――――――――――――――この独特の布を裂くような銃声。
これは、先程耳にした五十口径の……機銃音だ。
その後に続く、人の叫びこれは、敵の悲鳴か――――――――!
まさか――――――――
よろけながらも……立ち上がろうとする、バディ。
そんな状態にした自分は、彼に駆け寄る。
「済まないベータ、つい殴ってしまって! 怪我は――」
「ブラボー、この音……どう聞いても連中に……」
「ベータ、見事なホールインワンだ」
信じられないが、06式擲弾が74式戦車改、上部に着弾。
RWS(リモートウェポンステーション)を暴走させたのだろう。
そういった事態が起きる可能性も、ゼロではない。
この戦果は、奇跡に近い現象だ。
バディは、地面に座ったまま……06式擲弾が飛翔した。
上空に向けて――――――――――――――――右腕をグイッと掲げ。
――――――――――――――――ビシッと、中指を突き出し叫ぶ。
「へっ! してやったぜぇええ! 糞ゲリラがぁあああっ――ゲホッ!」
良かった今度は、殴らなかった。
これで変な癖が自分の体に染み込む事は、無いと信じたい。
バディはまるで、某ガンアクション漫画に登場する。
海賊に拉致された、サラリーマンっぽく叫び。
少しばかり、息苦しそうに口の中に溜まった血をペッと吐き出す。
そして、話し始める。
「素人共が……自分達の弾を自ら喰らいながら、死にやがれってんだ。なぁ、ブラボー」
なんだ? 一発やらせ……殴らせろ!
とでも言うのだろうか?
「サンキューな。嫁の敵に一矢報いるの……手伝ってくれてよ……あのフィギュアさぁ……俺が実家を飛び出す時に、部屋から持ってきた……唯一のフィギュアだったんだ」
彼にとっては、この戦場で唯一、家庭を思い出せる品だったのだろう。
感情的になるのも無理がない……ん?
じゃあ、自分に渡してきたこの嫁さんは、なんなのだ?
バディに聞こうとした疑問の答えは、自分が聞くまでもなく。
簡単に答えてくれた。
若干目を泳がせながら……であるが。
「その娘は拾い……そう――! 助けてあげたんだよ! オタク趣味に偏見を持った連中からのぉおお! 文化財への破壊行為からなぁあああ!」
何やら……………………
バディの歯切れが余り、よろしくない。
しかし…………。
彼の言っていることは、ここ一年間の世の中の流れと一応、矛盾は無い。
何せ文化を革命の名のもとに、破壊し尽くす実績。
そのハイスコアをお持ちで、更新中の国と同国の属国。
それらが連合を組んで、この国に軍を派遣して……………………
……………………やりたい放題の最中なのだから。
しかも日本への敵意と、フィクションをふんだんに盛り込んだ。
カルト宗教並の洗脳を歴史教育の名の下、支配者の都合で国を挙げて。
民衆に対して何十年も延々と、幼少時から自国民に施してきたのだ。
……………………かなり質が悪い。
正直な所、そんな嘘と狂気に満ちた、牙先を向けられる側の我々。
日本人としては、背筋に寒気を覚えずにいられない現実である。
バディが先程述べた、そういう文化財への大変許しがたい暴挙。
それだけでも……戦時下という状況と、東アジア統合推進機構勢力圏内の教育事情を併せて考えれば、数え切れない件数になるだろう。
……………………それは火を見るよりも明らかだ。
最も一番許せないのは、連中に日本人を蹂躙され。
虐殺されている現実である。
「まぁ……そういう事にしといてやるよ。ベータ、統合派を足止めできている内にずらかるぞ」
これ以上、深く追求しない方がいいだろう。
命を預けるバディ同士、相互の信頼関係は重要だ。
信頼の低下は、戦場で其の身に降りかかる。
……………………死との邂逅を高めるのだから。
「了解ブラボー、基地に帰るか……痛」
約二時間後……夕刻
【都内 都市複合型マンション郡敷地内】
富裕層が住んでいたであろう、高い塀に囲まれた高層マンション郡。
恐らく数千万円では、部屋どころか、玄関すら買えないと思われる物件。
ここはかつて、大学の敷地だった土地を中心に再開発した場所だ。
商業娯楽エリアと居住エリアを備え、新たに私鉄の高架式線路を敷設。
駅も直結させ、緑や住民用の菜園スペースなどもある。
……………………なかなか魅力的な物件だ。
この危険な状況下において、立て篭るには……………………
最適な条件を兼ね備えているようである。
宛ら…………この物件は、中世ヨーロッパの時代に存在した。
城塞都市と同様の機能を発揮している。
…………そう言っても、いいだろう。
日本の東側を占領する勢いで、今も尚勢力を増しつつある。
統合派ゲリラに抵抗する者達を中心に、この地には……………………
……………………コミュニティが築かれていた。
さて――――――――そんな、自らの寝床でもある。
抵抗組織の拠点に帰還した――――――――ブラボーとベータの二人。
彼らは直ぐに、ある場所に向かうよう、命令を受けるのだった。
【地下街最深部 ブリーフィングルーム内】
この街は建設当初から、ある施設と機能を秘密裏に備えていた。
それは核攻撃に耐え、長期間避難できる『核シェルター』の存在である。
かつて、その秘密を知っていたのは、今はまだ、戦火の及んでいない。
豪州や南米に避難した富裕層の住民達と……………………
この都市複合型マンションを運営する。
不動産会社と、一部のタカ派な元官僚くらいであった。
だが、一年以上前に極左政権の首相が、官邸で謎の自殺。
それによって生じた、憲政史上未曾有の政治的混乱以降。
この国から、逃げ出せるだけの財力を持った富裕層は、不動産を中心に資産を処分。
同時に国外へと、大挙して避難していく。
不動産価格は、史上空前の大暴落。
…………だが、そこに目をつけた者達がいた。
それは海外の投資ファンドなどでなく。
危機に敏感で、少しばかりお金に余裕が、ある者達だった。
それは、逃げ出した富裕層より愛国心が強く――――――――
――――――――危機意識の強い、若者達だった。
彼らは、自らの事を欧米にも存在する。
危機意識の高い市民達への俗称、プレッパーと互いのことを呼び合い。
彼らの元に集った者達も含め、その自覚と結束を日増しに強めていった。
そんな彼らは、政治的混乱以降暴落した、不動産を積極的に買収していく。
そして独自に管理を開始。
同時に機能の低下した、行政の目をくぐり抜け…………。
銃火器の大規模な密輸を開始。
脱走し、ゲリラ化していた自衛隊員を匿い。
公職追放で失業中だった、元自衛隊員を積極的に自社で雇用。
何やら、凄まじい速さで彼らは、備え始めたのだ。
この危機を見通した彼らの動きは、見事に的中して今日に至る。
ガヤガヤ……ガヤガヤ……
ブリーフィングルーム内では、硝煙の匂いをその衣服に染みこませた。
多くの者達が集まっている。
皆パイプ椅子に座り、緊急ブリーフィングを行っているようだ。
ガタガタン! ガタガタガタン!
内容は至って、簡潔である。
米国の内戦終結と、亡命政府に関する報告だ。
ドカッ! ガチャーン!
突如として皆、勢い良く起立。
いや、乱暴に立ち上がったようだ。
皆その表情は、怒りに満ちている感じである。
続々と、パイプ椅子を壁ドンして怒声を張り上げる者達が登場。
大変ご立腹のようである。
「ふざけんなぁああ! 認めないだと! ヤンキーがぁああ!」
「思いやり予算返せやぁああ!」
「まるでハルノートみたいな要求じゃないか! 飲めるかボケェ!」
「何のために紙屑を税金で、買ってきたんだぁああ!」
そう、三ヶ月前に米国内で樹立を宣言していた。
日本の保守政党中心の亡命政府。
これを米国政府が、認めないと声明を発表。
しかも、同国の内戦集結と同時にである。
どうも話は、それだけでないようだ。
「それになんだ! 日本は政府が機能停止の無政府状態だからぁああ! 日米安全保障条約は、機能停止だとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! そもそも米軍が、極左のバカ閣僚満載した、政府専用機をぉおお撃ち落としたのが、原因だろうがぁああ! 亡命政府を認めないとか――」
ガチャーン!
「舐めんなごらぁああああああああ!」
「この状況で、日本周辺から艦隊を引き上げるとか、あの大統領は正気かぁあああ!」
「あの大統領は、ポピュリストだからな……チッ! 生きてやがったか……」
「統合軍が日本を占領したら……太平洋を自由に動き回るんだぞ! そのリスクはガン無視かよ!」
日本にかなり不利な事を海の向こうから、言ってきたようである。
その後も、ブリーフィングルーム内では怒声が飛び交っていく。
――――――――数分後
ブラボーとベータの二人が、ブリーフィングルームへと到達。
キィ……
「失礼します――うぉ!」
「なんだ。こりゃ……」
自分とバディの視界には、散乱したパイプ椅子と凹んだ壁が映る。
ポン!
「おう! 鬼沢と龍澤じゃないか。偵察ご苦労と……言いたいんだが――」
自分は陸自の迷彩服を着た……上官に肩を叩かれ話しかけられる。
今日は珍しく、コードネームのブラボーでなく、本名で呼ばれた。
鬼沢は自分の苗字である。
バディの本名の方は、名字が龍澤だ。
「温水三曹、一体何があったんですか」
自分の上官の温水さん、彼は元陸上自衛隊の三曹である。
メガネをした45歳、頭は短髪、筋肉ムキムキマッチョだ。
コ✖ンドーみたいな人であるが……声もそんな感じである。
極左政権時代に彼は、上官の若い三尉を部下と共に拘置所から救出。
その後脱柵した、猛者である。
バツイチで娘が一人いるそうだ。
「まぁ、見ての通り大荒れさ……お前ら、飯は食ったか? 特に龍澤、お前は、よく食うからな」
「はっはい! 歩きながらカロリーバーをかじってましたが――」
ギュルギュル~
お腹の虫を盛大に鳴らしたのは、龍澤である。
「はっはっはっ! まぁこんな荒れたところで話もなんだ、食堂に行きながら話してやるよ。お前ら――」
そう温水さんは言うと、ポケットに突っ込んでいた。
A4サイズの折りたたんだ書類を数枚、我々に渡してくる。
「その書類に目を通して歩けよ。お前らまで暴れたら適わんからな」
それから、現在は食堂になっている。
大手飲食店の地下街の店舗に移動する道中。
温水さんの説明も交えながら、大体の事情は分かった。
米国の内戦は、政府側が完全勝利。
非合法な武装集団への容赦ない空爆を実行。
暴動を先導していた――――――――黒幕
――――――――カルト宗教の全米の拠点に戦術核を数十発撃ち込み。
……………………勝利したようである。
戦術核兵器を使用した大義名文は、カルト宗教が、生物兵器の製造散布。
そして何より、密造した核爆弾の使用を計画していたのを事前に掴み。
……………………大規模な被害を事前に、阻止する為だそうだ。
同時に、内戦終結の声明を発表する際……………………。
現在はハワイに集結しているらしい。
日本の保守政党幹部と、真珠湾に避難している。
海上自衛隊が、共同で樹立を発表した。
亡命政府を米国政府が、認めない趣旨の声明を出したこと。
更に我々や――――――――
温水三曹の様に、日本国内で銃を手に取り――――――――
――――――――統合軍を相手に、独自に戦闘を継続している。
陸海空自衛隊の残存部隊や元警官、民間人の武装集団に対して速やかな。
全面武装解除と今月末までに――――――――――――――――
――――――――――――――――統合軍への投降を呼びかける。
無茶苦茶な声明を発表したようだ。
流石に最後の部分には、自分と龍澤もブチギレる。
しかし、温水三曹は何故か至って冷静だった。
よく人の話は最後まで聞けというが……………………
正にその通りで、この話で重要なのはどうも、声明の解釈みたいだ。
……………………
「――つまり、来月の始めまで持ちこたえたら言い訳ですね」
「そうだよ! 鬼沢、お前らは、まだ脳筋じゃないから助かるぜ! いや、これほんとマジな! 流石に数年間も戦闘している連中は――どうも怒りっぽくて、説明するのも大変だったわ」
温水三曹は笑いながら、そう言っている。
よく見ると、彼の手には、傷ができているみたいだ。
おそらく、興奮したメンバーを押さえ込む際に負傷したのだろう。
「あの鬼沢さん……」
「どうした? 龍澤改まって」
「どういうことでしょうか……米国は今月末までに、我々に武装解除と統合軍への投降を促してきたんですよね? なのに来月の始めまで持ちこたえたら、どうして我々の……勝ちなんですか」
「勝ちってわけじゃないが、よく文面読めよ。今月中は、亡命政府を認められないし、我々の様な独自に戦闘を継続している自衛隊や、武装した民間人の存在も、今月中は認められないって事だ……どこにも来月以降の事は書いていないし――」
自分は先程、ブリーフィングルームで温水三曹にもはや音楽と動画を見るだけの道具に成り下がった。
スマホにぶち込ませて頂いた米国政府の声明発表時の映像を再生。
龍澤に見せながら説明していく。
「言ってもいない。ほら、ここな……日米安全保障条約は、機能を停止しているが……消滅とは、一言も言っていないだろう? この報道官は現在、日本の現状と詳細を確認中とかなんとか言っているが……つまり」
ポン
温水三曹は龍澤の肩を軽く叩くと話し始める。
「統合軍相手の時間稼ぎと、連中への外交メッセージだよ龍澤くん! わかってくれたかな?」
「はい! 大凡ですが……」
おいおい、自分のバディの龍澤はホントに理解しているのだろうか。
……………………少々不安である。
「豪州や南米に避難した、富裕層や企業の連中が、政情の安定している国の政府や、米国の在外公館相手にロビー活動してきた成果が、米国の内戦集結で、出始めたみたいだからな……しかし、まさかカルト宗教相手に戦術核使うとか、内戦の幕引きとしては、超以外すぎだが……」
確かに戦術核兵器の使用も、その使用された対象も意外であった。
いや、米国の核兵器の使用が……………………
今のところ戦術の範囲で収まっているのは、奇跡的だ。
その後も温水三曹の話は、続き色々と世界の変化が分かった。
最近復活した衛星通信で判明した、海外の変化。
それは、凄まじいものである。
以前から危惧されていた、中近東周辺諸国の衝突。
その衝突は、最悪の結末を迎えているそうだ。
米国の内戦が激化した頃、衛星通信がダウンしたのは、この地域で核が使われたのが、原因のようである。
意図したのかは、もはや不明らしいが、核ミサイルの一部が宇宙空間で炸裂。
人工衛星を大規模に破壊したのは、確実との事だ。
爆心地の軌道によっては、日本もEMPと呼ばれる電磁パルスの影響で、コンピューター機器に致命的な、打撃を受けたかも知れないだろう。
そうなれば、未だにパソコンの前にかじりついている。
引きニートは終了だ。
本当に終了したのは、核攻撃を受けた者達なのは、言うまでもない。
米国の場合は、使用されたのがカルト宗教の拠点である。
同情の余地は無いように思う。ただし、それが事実ならだ。
しかし中東近東諸国では、軍事目標だけでなく。
戦略目標、都市や宗教上の聖地なども核攻撃を受けたそうだ。
限定核戦争の予見は、見事に的中したといえるだろう。
流石に敵国を全て焼き払う程の核は、互いに撃ち込まなかったらしい。
それでも、政府機能を互いに破壊するには、充分すぎる破壊力だったみたいだ。
今はその余波で……………………数千万人の難民が発生。
EU圏内では、大問題のようである。
何やら、武装難民も多数紛れ込んでおり。
難民がなだれ込んでいる陸続きの欧州では、危機的状況にあるらしい。
核で死んだ者達は大半が即死か、直ぐに死ぬだろう。
生き残った者達は長く苦しみながら死んでいくのだろうか。
……………………こうなると、どちらも地獄だ。
しかし、かなり意外だったのが……………………
ロシアの動きである。
ロシアは未だに核攻撃を受けてもいないし、実行もしていない。
この知らせは人類否、地球にとっては、幸いであろう。
ロシアが日本に侵攻して来ないか、心配だったが、今は世界的な混乱だ。
他国に侵攻する余裕は、流石になかったみたいである。
とは言え……………………
偵察機は無人有人問わず、頻繁に北海道方面に飛ばしていたみたいだ。
話からすると、北海道方面の自衛隊残存部隊は、そのように報告している。
この世界的な混乱の最中、ロシア国内では、一部のナントカ原理主義者が武装テロを多数実行。
しかし目つきの鋭さと、独特の存在感で、日本でも動画サイトや掲示板で、一部ファンがいる。
同国で長年、指導者をしている御仁。
彼はテロに対して、嘔吐と痙攣、呼吸困難を伴う。
非常に強力なガスを、積極的に使用させたそうだ。
まるで、ゴキを駆除するかの如く。
当然だが、民間人にも犠牲者が続出。
だが、遺族への保証を徹底して行い遺族対策は万全。
尚且つ、遺族と涙を流しながらハグする指導者。
テロの現場へ涙を流しながら花束を備える指導者。
軍や警察へ力強く演説をする指導者。
そんな映像を国内向けに何度もバンバン放送しているそうだ。
今現在、国難に立ち向かう指導者像を全面に押し出しつつ。
支持基盤強化に使用中のようである。
ついでにこれ幸いと、言わんばかりに国内の不穏分子も駆逐。
あまり変化が無いようだ。
話からすると、ロシアは平常運転なのだろう。
温水三曹の話では上層部が今まで、伏せていたみたいである話も出てきた。
何でも…………
我々の武器弾薬、燃料、食料や医薬品の一部は、海外に避難した。
愛国心の強い富裕層や企業の一部が支援してくれていたみたいだ。
確かに補給面を考えたら、一年近くも海外からの補給無しで、島国が戦える物質的根拠がないのだ。
なんとなくだが、薄々みんな感じていた事でもある。
未だにオージービーフが手軽に食えるのは、妙だった。
これで、我々の食卓の謎は解けた。
だが、青いチートなロボが未来の道具を使い。
背後から我々を支援しているという、自説は否定され。
……………………少し残念である。
やはりというか…………
我々を支援してくれている事が判明した、富裕層や企業。
謂わば、スポンサー達は、日本に残る選択をした者達に、この手のゲートコミュニティ型のマンション等を戦争が始まる前に格安で…………
反統合軍の抵抗組織に、優先的に売却したりしていたみたいだ。
「どうも、海外連中の足並みが米国の内戦集結前くらいから、乱れたらしい……戦後の復興を各々がもう、思い描き。考えて動いているのだろうが……全く困ったよ」
温水三曹は、少しだけ困った感じで呟く。
やはり、人間には……………………欲がある。
……………………だが、其れは我々も同じだ。
欲があるからこそ、戦っている側面もある。
流石にこのご時世、食料や安全を確保するには、戦うしかないのだ。
反対に欲が、『やる気が』無ければ、とっくに特区に巣喰う。
統合軍やその下僕に殺されるか、捉えられ。
……………………何かに目覚めていただろう。
それは、嫌である。
うん、絶対に嫌だ間違いない。
色々、上官と話しながら自分達は、硝煙をその身に染みこませ。
更に染み込ませる覚悟と、同時に死を覚悟した連中の胃袋を満たし。
体を戦場へと羽ばたかせ、力を漲らせる場所へ、足を踏み入れた。
その店は、ブラックな事で有名になった某牛丼店のテナント跡だった。
ブラックな職場で有名な某牛丼店と、今自分のいるこの戦場。
果たして、どちらがブラックなのだろうか。
毎回、ここに足を踏み入れる。
――――――――その度に自分は、何故か考えてしまう。
完全武装の補給万全な状態で、仲間と戦場に行く?
それとも強盗の貯金箱で、非武装のボッチで働くのとどっちにします?
そう言われたら自分は、迷わず前者を選ぶだろう。
どちらが詰んでいるかは、視野の狭い精神論者でないなら明らかな筈だ。
――――――――クンクン
漂ってくる……牛丼の香りが、自分の腹を唸らせ始めたようだ。
一方その頃……
今や完全に米海軍の指揮下で動く……海上自衛隊護衛艦隊。
同艦隊は、第二次大戦以来の熾烈な激戦を米海軍と共に…………
東アジア統合軍艦隊を相手に、日本周辺海域で繰り広げていた。
そんな戦火に包まれた日本列島周辺から遥か遠くの海域。
【沖ノ鳥島近海】
民間の商船が日本周辺での戦火を避けて、最近では航行をする。
そんな事も以前よりかなりある、この海域の上空は…………
頻繁に飛行する物体の数を更に増しつつあった。
其れは――――――――米軍が飛ばしている。
無人偵察機や哨戒機、その手の軍用機も、その範疇に含まれる。
だが、米軍以上に飛行物体を飛ばしている――――――――
――――――――『勢力』がいた。
その勢力の飛ばす飛行物体は――――――――
――――――――航空機や船舶のレーダーに映ることもなく。
この海域の上空を、我が物顔で飛行する。
米軍のレーダーや、センサー類にも補足されず。
それどころか、乗組員の肉眼に映る事も無く。
頻繁に飛行物体を、飛行させていた。
その勢力の活動範囲は、この海域の上空や海中は当然ながら。
地球全土は言うに及ばず、遥か上空の更にその上に広がる。
黒き静寂の世界、『宇宙空間』にすら活動範囲を広げていた。
そう、この海域には『明らかに』地球の科学技術を超越した。
……………………勢力が活動拠点を置いていた。
そんな勢力が活発に活動している事を、この時。
地球上の如何なる国家も全く、気付いていなかった。
…………………………………………
「ふぅ……もう起きる時間か…………」
一人の男が感慨深さに浸りながら言葉を漏らし、眠りから目覚める。
声を漏らした男は――――――――――――――――全裸だ。
男は、モダンなデザインをした灰色のソファーの上で横になっている。
床も――壁も――真っ白な空間に一人ぼっちであるようだ。
男の視線の先には、正方形に区切られた青い――――――――
――――――――雲一つない空がある。
男が目を覚まし、空を眺め出してから、一時間もすると青い空には、何本も白い、直線の飛行機雲が描かれていく。
その雲の伸びる先には、彼の故郷が存在していた。
――――――――男は思う。
この場所から見上げるこの光景は、井の中のナントカみたいだと。
ナントカの部分を思い出せないことに少々、イラつきを覚えた男は、感情の微かな膨張に無意識に反応。
自分の気持ちを静かに口から、言葉にして吐き出す。
「もう戻って来て、どのくらいだ…………」
その言葉に応える、もう既に男が聴き慣れた存在の声が、すかさず。
――――――――――――――――周囲に鳴り渡る。
『正確には本日で、地球時間で二年半と三日目です』
その声は、男性の声のような、低い音質の人工音声だ。
「そりゃどうも……ところで、各工作の進捗はどうなっている? 報告せよ」
男がそう言うと、人工音声は反応する。
『はい報告します。豪州及び南米に避難した、日本人富裕層と企業への資金面での支援工作は、複数のタックスヘイブンを経由して資金洗浄を念入りに行い、現在順調に推移、まだ機能している各国政府、及び米国の在外公館を通じたロビー活動を行うには、充分な額を供給しています。また、東アジア統合推進機構加盟国の各相場への仕込みは現在、83,7%まで完了していますが――――――――工作報告を一旦中止します』
人工音声は、男への報告を数秒間中止、その後直ぐに報告を再開。
『偵察報告、紀伊半島沖で作戦行動中の米海軍空母にミサイル着弾。画像を表示します――――』
人工音声は報告内容を切り替え、偵察報告を告げる。
ソファーで横になっている、男の視界から青空は消え去り。
上空のアングルから捉えた、船体中央から黒煙を上げ――――――――
――――――――既に傾斜を始め、乗組員が海に飛び込み。
――――――――艦載機も海中に沈んでいく。
撃沈中の米海軍原子力空母の動画が、リアルタイムで映し出される。
ソファーで横になっていた男は、床に足をペタリと付ける。
彼の足は現在、裸足だ。
足の裏には、ひんやりとした冷たさが伝わりっていく。
床の冷たさは、彼の意識を刺激する。
「クラウゼ! 全員をブリッジに招集、それと俺の朝食も用意しておけ」
男は人工音声の主、【クラウゼ】に命じると壁に向けて歩き出す。
その間もクラウゼは、残りの報告を続けていく。
そして、男が壁に到達して白い壁の一部に手を触れる。
ペタ……
男の掌には、冷たい感触が伝わり、次の瞬間――
カッ――――!
壁の周囲は青い線状に光り輝き、彼を囲む様に、長方形を瞬時に構成。
左右に開いて――――出入り口が完成する。
『――以上で各工作の概要報告を終わります。ですが――――』
クラウゼは最後に重要な事を男に告げる。
『司令官矢島、既に皆様ブリッジにて、昼食を取りながら戦況をモニター中です』
司令官の矢島は、寝坊していたのだ。
この瞬間、嫌な予感が彼の脳内を横切ったが一応、時間を確認する。
「今は何時だ……」
『PM12時05分で――マスターからメッセージです。お前の飯カップ麺な。以上です』
そう矢島は、地球へと戻ってきていたのだ。
数分後……【ブリッジ】
ズル……ズルズルズル……カタッ
「ご馳走様でした」
そこには、黒いスーツの上下を着て『カップ麺味噌バターホタテ満載版』なる、高カロリーなカップ麺を食べ終え、手前のデスクに空の容器を置く、矢島の姿があった。
彼は先程自身がブリッジと呼称した、場所の最上段とでも言うべき場所にいる。
今は床に固定された、高そうなリクライニングチェアに腰を掛け、目の前の映画館のスクリーンクラスのモニターに映し出される、映像に見入っていた。
そんな彼のいる場所から下には、合計で五段くらいの段が存在する。
ザワザワ……ザワザワ……
ピッピッピッ……
ザワザワ……カタカタ……
各段には、数名の若い女性がチェアに腰掛け、手前の固定端末のキーボードを手動でタッチ。
操作しているようだ。
彼女達が確認した様々な情報は、上で食事を終えた彼女達の司令官の矢島にも若い女性の声でマイクに入力され、矢島のそばのスピーカーに伝達されていく。
『米海軍 イージス駆逐艦7隻撃沈! 海上自衛隊 イージス護衛艦9隻撃沈! 米海軍空母艦載機87機の撃墜と墜落を確認! 米海軍と指揮下の護衛艦隊は、戦力の45%をロストしました! 現在米海軍と海自は、紀伊半島沖から撤退中――――報告! 統亜公共放送が統合軍連合艦隊が海戦に勝利と速報を流しています! まもなく上海の東アジア統合推進機構本部で報道官が緊急会見を開始――――』
『報告! 関西地区で工作中の第四魔女小隊が、統合軍の交戦区域に展開完了! 攻撃の許可を求めています!』
別のオペレーターの声が、関西地区での状況を報告する。
それと連動して映像は、市街地を映した画像に瞬時で切り替わる。
矢島はすかさず、デスクの脇にあるマイクを取り、指示を出す。
『攻撃を許可する。隠蔽工作は――――』
プルプル……プル……
映像を見る矢島は、マイクを握る握力を強めていく。
彼の見入るモニターには、見慣れた日本の市街地が映されていく。
ただし、黒煙と燃え上がる炎が大量に追加された悲惨な状態だ。
モニターに映る統合軍の装輪装甲車が市民をひき殺す。
統合軍が民家を襲撃、略奪しているところも映し出される。
泣いて懇願する市民を民家から無理矢理路上に引き摺り出す。
ギリッ……
矢島は感情が昂ぶり、無意識に歯軋りをする。
衣服の破れた若い女性が無理矢理、軍用トラックに担がれていく。
ギリッ……ギリッ……
女性が担がれた軍用トラックは、ギシギシと不自然に揺れ始める。
ギリッ……ギリッ……ギリッ……
旦那だろうか、若い男性が包丁を持って泣きながら兵士達を襲撃。
包丁を持った男は数人の兵士にリンチされ――――――――
――――――――血達磨へと早変わりしていく。
笑いながら兵士達は、男を――――――――拳銃で撃ち殺す。
そして――――――――揺れている軍用トラックに集まり――――――――笑いながら列を作っていく。
そんな映像を見た矢島の頭では、何かが――――――――
――――――――ブチッ!
……………………盛大にブチ切れる。
その直後、彼の口からは凄まじい言葉が――――――――
――――――――弾けさせた、怒りと殺意を推進力に変え――――
弾丸の如く放たれる。
『一切不要だぁああ! 統合軍を皆殺しにしろぉおおおおおおおお! 地獄を見せてやれぇえええ以上だ! 絶対に殺してこい!』
『了解しました! 第四魔女小隊に告ぐ! 攻撃許可が――――』
…………クソッ! 今の日本は地獄だ。
異世界でモンスター相手に戦っていた、俺から見ても酷い有様だ!
まるで統亜に民族浄化された、旧チベットや、今も細々と抵抗を続けるウィグルみたいじゃないか!
だが、そんな絶望的な状況でも、自らの意思で銃を手に取り…………統合軍相手に戦う者達…………現代のそして、これからの日本の防人達を俺は…………誇りに…………いや、希望と思える立場にいるだけ…………まだマシだ。
正直なところ、自分の立ち上げたレジスタンス組織【自宅追撃隊】以外にも、日本を守る為に戦う者達が続々と現れていたのを…………地球に戻って来て確認できた時は…………感極まって泣きそうになった。
ん?
コツコツコツ……
ああ……やっと彼女のお出ましか。
黒いスーツを着た若い女性が下段から登ってくる。
綺麗なリズムを鳴り響かせ最上段に登りつめる瞬間。
カッ!
立ち止まる時は、音を強くうち鳴らし止まるようだ。
そんな彼女は甘い声を……矢島にかける。
「どう、目は覚めたかしら? 司令官殿」
その声の主は、矢島のよく知る人物だ。
身長は160から165くらいの女性にしては長身の方だろう。
髪は真っ黒で肌は少し、白く透き通る感じである。
出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるパッと見美人な……大和撫子といった日本人女性のようである。
だが、彼は彼女が……日本人ではない事を知っている。
何故なら彼女は――――
「ああ……目が覚めたよ。しかし、背が伸びたなマギサ」
「まだ成長期なのよ……もう寝坊しないでよね。誰も起こしにいけないでしょう」
「なんで?」
魔術が幅を利かす異世界の住民で魔女なのだ。
「どうせまた、全裸で寝ているんでしょう?」
------------------------- 第6部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第四話 とある魔女達の交戦と名乗りを見る者
【本文】
紀伊半島沖では、米海軍と海上自衛隊の艦隊が、統合軍艦隊に敗北。
残存した、米海軍と海上自衛隊の艦船は遂に……………………
……………………日本から、全面撤退を余儀なくされていた。
その事実は、即座に東アジア統合推進機構の傘下に存在する。
公共放送局、統亜公共放送が速報で流し。
統合推進機構加盟国本土では――――――――
――――――――空前絶後の戦勝ムードに湧いていた。
加盟国本土内では、興奮した民衆による暴動が頻発。
暴徒は米国大使館をはじめとした、在外公館の焼き討ちを実行。
武装警察が機銃掃射と、戦車で暴徒を轢殺して暴動を制圧。
そのくらい同機構内の民衆は――――――――
――――――――熱狂と歓喜……否、狂気に包まれていた。
当然其の知らせは、同放送局に吸収された、日本の公共放送も放送。
統合軍に占領された、西日本の地にも即座に知れ渡っていく。
しかし……多くの日本人には、希望を打ち砕かれた…………
最悪の知らせであり、地獄の始まりでもあった。
【関西地区 高度移民優遇特区 近隣の市街地】
ターン……ターン……タタタ……
ガシャン……
ガヤガヤ……ガヤガヤ……ガヤガヤ……
キャァァ……ぃゃ……ンセー! デー……ング!
普段なら、統合軍兵士や加盟国からの進駐軍兵士が、市民を無言で威圧しながらも粛々と、街頭警備をしていた市街地…………
そこは、今やある種のお祭り状態であった。
其処らから聞こえるのは、渋滞気味に走行する車の走行音や…………
……………………街の喧騒などでは、無い。
女性の悲鳴に銃声、ガラスの割れる音。
笑い声や雄叫びが、複雑に混ざり合った音が、街の喧騒になり代わり。
……………………盛大に奏でられている状況だ。
その狂った音色は、勝者の側に歓喜と優越感を味あわせ。
敗者には絶望と恐怖を味あわせながら、死を告げる旋律が…………
……………………見事なまでに成立しているようである。
その光景を見て、恐怖以上に怒りを感じ…………
…………その身を震えさせる一人の少女がいた。
だが、少女は…………この国の人間ではない。
そんな少女は、全身を紫色のローブで覆っている。
ローブの生地には銀糸で、紋章の刺繍を施しているようだ。
時折、そのローブの隙間から微かに覗かせる髪の色は、金髪の髪である。
同じく時折、隙間から垣間見えるその肌は、白い肌だ。
シルエットの輪郭から浮き出る…………
モデル風のスタイルの良さからも…………
少女がこの国の人間でないことは、十分に伺い知れるだろう。
今現在この少女は、歩道橋の手摺に仁王立ちして震えている。
ただし、少女は高所恐怖症ではない。
そもそも高所恐怖症なら、そんなところで危ない立ち方はしないだろう。
最も肉眼で見ても、そんな格好をして、仁王立ちをする。
……………………少女が、存在する事は、誰にも分からない。
この少女は、少々特殊な方法で…………
直接自分を認識できないようにしている。
……………………ただそれだけの事だ。
だが、携帯かスマホのレンズを少女の方向に向け…………
カメラ越しに見ればその姿は、容易に見られる。
しかし、少女のいる方向に、レンズを向ける者は皆無だ。
今この場でカメラを使っているのは、通りに面した。
ガラス張りのバーガーショップに並んでいる。
統合軍や進駐軍の兵士達くらいだろう。
ブルパップ型の自動小銃を店の前のガードレールに立てかけ。
…………皆、余裕の行動だ。
周囲からは、既に銃声や爆音も常に鳴り響く。
戦場なのに、死ぬ危険を冒してまで…………
ハンバーガーが、食べたいのだろうか?
彼らの表情は、両目は血走り口元の息は荒く…………えらい興奮状態だ。
因みに彼らは、昼食を食べに来ているのではない。
何故ならこの店内で、別の欲を満たす為に並んでいるのだ。
……………………その欲とは『性欲』である。
その欲を満たすべく店内には、周辺のオフィスや学校から…………
『兵士達が拉致してきた』若い婦女子が運び込まれていた。
この列は、その為の順番待ちの…………列なのだ。
ガラスの向こうは、既に満員状態。
盛大に悲しい喘ぎ声が、BGMの音楽以上に鳴り響いている。
レジの周りや厨房では、武装した兵士達が勝手に、食事中だ。
バーガーやポテトを作り、食べ。
…………ドリンク類を、ガブガブ飲んでいるようだ。
やはり、お腹も空いているのだろう。
しかし、動いている、店員の姿が見えない。
店内を見渡すと、ゴミ箱にケツ丸出しで、血まみれな。
男性店員の死体を押し込んでいることから、無銭飲食は確実だ。
兵士達は、自分達が捉えた女にむしゃぶりつく前は――――――――
――――――――セ✖ズリをコキながらフルボ✖キ。
汁男優並みに、ゾロゾロとスタンバイしていく。
列に並ぶ間も兵士達は、仲間がむしゃぶりついている。
――――――――『様々な』婦女子に、携帯やスマホのカメラを向けて
写メや動画を幾つも――――――――撮っている。
…………生臭く、野蛮すぎる撮影会だ。
兵士達の中には、近隣の家電量販店から略奪してきた。
8K画質のビデオカメラで記念撮影して、仲間達から――――――――
――――――――『こっちも撮影してくれ!』と、頼まれている。
チワワみたいな感じをした、眼鏡の若い兵士が、やけに忙しそうだ。
彼は、様々なアングルで――――――――念入りに――――――――
――――――――兵士達の行為と、その顔を高画質で撮影中だ。
歩道橋の手摺で、仁王立ちする少女の数十メートル先で――――――――
――――――――繰り広げられるこの下賎な、振る舞い。
例えこの少女が、魔術が幅を利かせ、モンスターが日常的に人を殺す。
過酷な世界の出自である、少女の倫理感からしても…………
それは、絶対に許せない類いの行いであった。
この少女の正体は、マギサと同じく――――――――
――――――――異世界の住民である。
マギサと同じ『魔女の通り名』で呼ばれる。
ある種族の女として、生まれた少女にとって、姿を見せなくするくらい。
……………………造作もなかったりする。
この場でその力は、彼女とその貞操を守るのに……………………
十分な力を発揮しているようだ。
少女の世界でも……………………
人間同士の殺し合いや、勢力間での戦争は、存在する。
だが、それらの戦争行為は、『教会』によって厳格に監視され。
民に対して私欲に基づき、殺戮や略奪陵辱を行えば――――――――
――――――――『教会の騎士が救済の名の元に』駆けつけ。
問答無用で、裁きの刃を下すのだ。
故に今更ながら、痛烈に少女は思う
あんなに内部が、腐った教会でも、世界の役に立っていたのだろう。
しかし――――この世界には、人間以外に知的な種族が存在しない。
そのような特殊な事情は、一応事前に聞かされていた。
どうせ、この世界での私の仕事は――――――――
人間の地方領主達が、私の故郷の世界で年中やっている。
紛争のように、兵隊同士で殺し合う。
そんな、楽な戦闘に駆り出される。
その程度の仕事なのだろうと、私は先入観で考えていた。
だが、これでは――――――――
――――――――話が全然違うではないか。
…………マギサ!
正直なところ、戦場に身を置いてからの、ここ数年は専ら。
主に人間の兵士達を相手に戦ってきた、この少女にとって…………
この手の下賤で、野蛮な連中との戦いは、生理的に一番苦手だ。
何故なら、少女の眼前で繰り広げられる、その光景。
それは、モンスターや野盗が人間の村を襲撃しているのと大差のない。
殺戮と略奪陵辱の、オンパレードであるからだろう。
とても少女の価値観基準からしたら、目の前で蛮行に及ぶ。
連中を…………
兵や戦士いや、それ以前に人として、認められない。
それ故に、少女は色々と思い、考え。
……………………気持ちを整理していく。
こいつらはまるで、魔術ギルドが千年前に生み出した野蛮なオーク。
いや…………どちらかと言うと、神々の時代から水辺に住み。
オークの様に、他種族の雌を苗床にするわけでもないのに…………
人間やエルフの婦女子を集団で襲い、犯し、殺すだけの存在。
…………凶暴な水性ゴブリン共みたいな連中だ。
ホント反吐が出そうな連中ね。
……………………吐き気がするわ。
少女は、そのように何度も、痛烈に感じていた。
……………………故に少女は待っている。
自分の属する、組織の上層部が、命令を下す、瞬間を祈りながら。
ピピピッ
「ん……」
少女は、左耳に装着したインカムから、着信音が流れるのを耳にする。
着信音を聞いた瞬間、少女は白く細い腕を素早く――――
……………………ローブから出して動かす。
綺麗な指でインカムに触れ、通信をオンにする。
カチッ
『此方鬼頭、司令官が攻撃を許可した。統合軍や進駐軍を皆殺しにしていいそうだ、以上』
少女の耳には、若い男の声で鬼頭を名乗る人物から通信が入ってきた。
「了解しました。鬼頭達は突入して、敵を誘導してください」
少女は鬼頭と名乗った男に指示を出す。
『此方鬼頭、了解した。全員配置についたら、状況を開始する』
少女の頭には、先程の鬼頭の言葉が鳴り響く。
皆殺しにしていいそうだ以上…………
今日ほど、この物騒な言葉が、喜びを与えてくれた。
……………………そんな事は、私になかった。
そして今日ほど…………。
こんなに眼前の敵を仕留めるのに、体と心が疼き。
正義感と憤怒が漲り、侮蔑が湧き上がり、そして何より――――
闘争心と殺意が、私の中に芽生える事は、なかっただろう!
バサッ!
そんな衝動を溜めに、溜めた少女は、ローブを脱ぎ捨てる。
少女が脱ぎ捨てたローブは、宙を舞いながら…………
紫色の輝く霧に変わり、消え失せていく。
その微かな輝きを目にした者達がいた。
なにアレ……紫の光……
無理矢理拉致され、バーガーショップのテーブルの上やソファーに押さえつけられ、兵士達にレイプされている、彼女達だ。
もう死にたい。
誰か助けて……。
相反する感情に満たされた彼女達は、自分達に何回も挿入される粗末な部類の異物を何回も陰部に挿入され、体も心も傷だらけである。
一番兵士達の列が長いのは、店の一番奥のテーブルの上で、兵士達に正常位でレイプされている近年、絶滅の危惧が懸念されるポニーテールの髪型をした、巨乳の女子高生だろう。
その次に若く美人な順に女子大生やOLにナースといった感じだ。
生臭い列が、幾つもできているようである。
床には目を開いたまま、顎が外れ、息が絶え着衣やストッキングが破れ、魂が抜けて間もない。
傷だらけの亡骸が何体か、無造作に転がっている。
「チッ! もう逝きやがったぜギャハハ!」
ゴトッ……
ああ……隣のお姉さん死んだんだ。
大人気のポニーテールな、巨乳女子高生の視界には、初めは必死に抵抗していた、強気な感じの眼鏡美人で、セミロングヘアーのOLの死体が、新たに床に転がるのが映る。
最後の方は、凄まじい悲鳴と言うか、喘ぎ声を自身の派手なピンク色のパンツを脱がされ、口に押し込まれながらも、張り上げていたのを……彼女は印象として、強く覚えている。
ギシギシ! ギシギシ!
そんな彼女は、豚みたいな顔をした油ギッシュな眼鏡デブにテーブル上でブヒブヒ犯され……喘ぎ声を漏らしながら、記憶の走馬燈で頭を満たされ……目の前の豚を見て、思い出す。
就職した兄の部屋を掃除していたら出てきた……古い猥褻なPCゲーム。
そのパッケージに印刷されていた、豚のような化物……あの豚みたいな化物の名前……なんだっけ……確かお――――
ヒュン――――!
「あぎゃぁああ――――!」
ガシャン!
油ギッシュな眼鏡デブは突如、ビデオの巻き戻しの様に引き剥がされ、壁に激突。
グシャ――――パーン!
ズシャ……ズルリ……
頭部が破裂して、股間の粗末なイ✖モツも破裂させる。
死に絶え、床に崩れ落ちていく。
シュパーン!
その直後、店内には一瞬、閃光と大音量が生じ――――
ズドン! ズドン! ズドン!
店内に轟音が数回鳴り響く。
轟音の正体は、単発射撃の銃声だろうか?
店内で腰を振り、レイプ中の兵士達と――――並んでいる兵士達の頭部は、轟音が鳴り響くと、次々に真っ赤に弾けていく。
「きゃぁあああ!」
「うわぁああああ!」
女も兵士達も、叫び声を上げる。
危険を察知し、まだ生きている兵士達は、店から逃げ出し――――ガードレールに立てかけた、自動小銃目掛けて、駆けていく。
ジャキーン!
店の外では、小銃のスライドレバーを引く音が、幾重にも鳴り響く。
兵士達の大半は、チ✖コ丸出しで銃を構え、散開して店を包囲。
キィーン!
突如として、甲高い音が周囲に、鳴り渡る。
ブシャー! ボトボトボト……ゴロッ……
「ぎゃぁあああ!」
「うっうわわわわわわ!」
音の発生直後、数名の兵士が、後方から攻撃を受けたようだ。
攻撃を受けた兵士の頭部は、路面に椿の様にボトリと、こぼれ落ちていく。
首元からは、まだギリギリ動く心臓によって、ドクドクと血しぶきが湧き出ている。
兵士達は、恐怖の渦に飲み込まれていく。
銃を構えつつ、素早く後方を向き、数十メートル先の歩道橋の手摺に立ち尽くす、セクシーな人影を発見、視認すると銃口を向け――――
カチッ
一斉に引き金を絞る。
タタタタタタ!
数が減ったとはいえ、一個小隊規模の兵士達が一斉射撃を開始。
兵士達は、不意を突かれたとはいえ、各々勝利を確信。
同時に引き金を絞った、刹那の瞬間、色々な思いや欲望に満ちていた。
我々は、敵を仕留めたな。
おそらく、偶に自爆テロをしてくる、日帝右翼の残党だろう。
さっさと逃げればいいものを……馬鹿な日本人だ。
あの人影は女か?
数年前から、日帝軍国主義の亡霊とでも言うべき……悪鬼の様にゲリラ化した、元自衛官達相手に死闘を繰り広げ、生き残った我々が、負けるはずがない! 我々は、米帝を撃ち破った最強の民族である!
大多数の日本人は、平和ボケした家畜以下の民族だ。
我々の様な偉大で、強大な民族が負けるはずがない!
これからも日本人の男は殺し、女は犯す! それだけの事だ。
この戦争が終われば本国と違い、この新天地で更にやりたい放題だ!
略奪した金品をどうやって、本国に持ち帰ろうか。
中には……。
みんながやるから仕方なかったんだ!
もうやりたくない……本国に帰って酒を飲んで忘れたい。
生き残るには仕方なかった……だがもう二度としないだろう。
仲間が敵以上に怖い……早く軍を満期除隊したい。
家族にはバレたくない。
様々な後悔に苛む兵士達もいる。
どうせ日本人相手だからどうでもいい。
もっと犯したい!
まだ金品を略奪し足りない!
更に強欲を漲らせ、救いようのない兵士達もいる。
この刹那の瞬間、凄まじく、強力な思いと願いが、この鉄火場に渦巻き。
その多くを占めようとしていた。
だが、再び勢いを増した甲高い音が、鉄火場に鳴り渡る。
キィキィキィキィーン――――!
兵士達が胸の内に懐く、それらの思いや願いは、彼らが銃口を向けた存在が、指一本を動かし、指先から生じさせた――――紫色に光輝く。
無数の光線が文字取り、光速で駆けていく。
光線は、ミサイルの軌跡の様な、通常の光線では、到底有り得ない軌道で、ジグザグに曲線を描き、伸び――銃弾ごと――その首を刈り取っていく。
ブブブブブシャ――――!
ボトボトボトボトボトボト……
残念ながら、この鉄火場には、兵士達以上に戦闘能力を持った者達が、存在する。
そして同じく、その者達の願いが、存在していたようだ。
その願いは、この場にいる野蛮な振る舞いをする、統合軍と進駐軍将兵の『全員を殺す』事が、お望みのようである。
兵士達の強欲や後悔は、彼ら以上に強力な力を持ち、躊躇わず行使する者達によって、強欲や後悔を生み出し認識する、脳を粉砕されていく。
或いは、首元を斬られ、頭部は熟れた果実のように溢れ落ち、首元の切断面からは血を噴き上げ……戦場に咲く真っ赤な華へと早変わりしていくようだ。
結局のところこの兵士達は、襲撃者に一発の弾丸を撃ち込むこともできず、それどころか正体を知ることもなく、一方的に倒されていくのだった。
古今東西、戦場で己を見失い、快楽に溺れる者達が死神の目に映り。
この世から、テイクアウトされていくのは、どの時代も変わらない、戦場の光景のようである。
白いガードレールは、血しぶきで真っ赤に染め上げられ、路上には血だまりがいくつも出来上がり、血だまりには、宙を舞った金色の薬莢が、次々と落ちて、沈んでいく。
スタッ……
舞い降りたのは金色の薬莢『だけ』では無い。
戦場に真っ赤な華を生けた、金髪の魔女も舞い降りたのだ。
舞い降りた彼女は、路面スレスレの宙を浮きながら今や、真っ赤な華として生けられた、兵士達の華の上を舞うように生臭い、店内へ入店していく。
さてと……どうしましょうか。
入店した魔女の視界には、頭部が吹き飛ばされた、チ✖コ丸出しの兵士達の死体やらが、飛び込んでくる。
同時に魔女の鼻腔には、戦場を構成する様々な『香り』が容赦なく流れ込んでくる。
それらはスタンダードな、血の匂いに始まり、精液や膣液の混ざった生臭く野蛮で悲しい、エロスを含んだ臭気に混ざり……微かに硝煙の匂いも混じっているようだ。
戦場の野蛮すぎる香りを嗅ぎながら、異世界の魔女は宙を舞いながら、歩みを進めながら――――床に転がる、彼女達を見て思う。
あらら……可愛いのに殺されちゃって……かわいそう。
この子達は……人間だから歳は、十代から三十代くらいかしら?
まるで、この世界の戦場は、伝え聞く神話の世界や……ネリサ救済皇の時代……『あの子の』お母様、ネリサ様が戦った時代の戦場の様子と何ら変わらないわね。
あらっ? 鬼頭達と……生存者かしら?
「はい……機材がないので『メッセージ』に関しては、代用できそうな物で対処。オーダー通り、記しておきました。それと『ストレージ』の人体への蓄積率は、関西地区で異常なレベルです……了解しました――――」
ピピピッ
再び魔女である彼女のインカムに通信が入る。
『エルーナ、生存者の一部を連れて撤退するぞ』
魔女は自分の名前を呼んだ、『全身黒ずくめの』フルフェイスヘルメットを被った、ライダーの様な数人の隣へ移動。
スタッ……
微かに着地音を響かせ、浮遊を止め歩き出す。
魔女エルーナは『全身黒ずくめ』の数人の内の一人に近づく。
エルーナが近づいた男は……身長180くらいの長身のようだ。
彼だけ唯一、他の数人と違い両手に何も持っていない事からリーダー格なのだろう。
他の数人の内半数は、大型拳銃を構え、周囲を警戒。
残りの半数は、生存者に話しかけたり、怪我の応急処置をしている。
生存者の女性たちは、殆どが放心状態みたいだ。
「鬼頭……この地域の魔力汚染は、深刻なようね」
エルーナは、自分が近づいた男の名前を呼び話しかける。
鬼頭はヘルメットを被ったまま、エルーナの方を向き、スピーカーから若い男の声を漏らす。
「そのようだ。クラウゼが警戒レベルを最大値に引き上げた。生存者の中でストレージ濃度の高い『個体』を早急に救出せよとの命令だ……ゲートを開くぞ」
鬼頭は腰のポーチから、円柱状の筒を一本取り出す。
それは全体が、銀色をした、小さなヘアスプレー状の缶のようだ。
彼はその筒の片側を引っ張り、青い穴を出すとエルーナに手渡しする。
「分かったわ。さっさとこんな物騒なところとも、オサラバしましょう」
「ああ、頼んだぞ。エルーナ」
エルーナは再び浮き上がり、店の外に出て行動を開始。
浮遊しながら、路面に青く丸い円を描いていく。
彼女が片手に握る缶は、路面に向けられ、青い塗料状の何かを吹き出している。
やはり鬼頭から渡された筒は、スプレーの一種のようだ。
エルーナは、完成させた円に両手を向けて、その周りをくるりと一周。
周り終えたその刹那の瞬間、円は紫色に燃えるように輝きだす。
その直後、店内からは鬼頭達が、一部の生存者を連れて離脱。
放心状態で歩けない女性もいるようだ。
歩けない者は、『全身黒ずくめ』の者達におんぶをされて、運ばれていくようである。
鬼頭達が、燃え盛る様な円に入ると、最後にエルーナが、円の内部に入り輝きは、一段と増していく。
数秒で円の内部の存在を輝きが、包み込む。
そして、一際強く輝くと内部の存在ごと……消え去るのだった。
路面には、ハリウッド映画のサイボーグ戦士のタイムスリップ時のような抉れた跡も無い。
エルーナが描いた、青く丸い円の痕跡も一切が消えている。
そこには、どこにでもあるアスファルトの路面が、ただ存在しているだけだ。
一方、その頃――――
魔女達が消え去った、現場の北部約10km先に位置する。
統合軍と進駐軍が合同で駐屯する、元は自衛隊施設だった場所。
そこから、猛スピードで駆け出す――車輌郡があった。
車輌は主に、軍用トラック8割、残りは四輪駆動の装甲車だ。
同時に全ての車両には『MP』とペイントを施されている。
または、横断幕が貼られているようだ。
車輌郡は、真っ赤なパトライトを点灯。
サイレンを唸らせ――猛スピードで市街地へ向けて、走り抜けていく。
このMPの表記は『ミリタリーポリス』の頭文字である。
軍人の犯罪行為を取り締まる『軍警察』の車両郡のようだ。
統合軍や進駐軍は、かなり遅いが、自軍の統制に乗り出したようである。
そんな猛スピードな、車輌郡の先頭を走る――――――――
――――――――装甲車内では二人の男女が、会話をしていた。
一人は運転をしている、筋肉マッチョでスキンヘッドの中年男性。
――――――――顔には切り傷が目立ち、ヤクザの様な顔つきだ。
彼は、盛大に笑いながらハンドルを握っている。
車内では、彼の大声が――――――――満ちているようだ。
「がははは大尉! お見事でしたぞぉおお!」
助手席に座るのは、彼と親子ぐらい歳の離れた感じのする。
ショートカットの髪型をした、若い女性将校のようだ。
そんな彼女は、手にタオルを持ち――――――――
顔に付いた返り血を拭い終え、首をコキコキ鳴らし――――――――
――――――――口を開く。
「あんな屑どもは……上官や同胞以前に、女の敵だからな。始末して当然だ」
「全くその通りです大尉! 見ていて清々しい限りでしたぞぉおお!」
大尉は、血まみれのタオルを足元に転がす。
タクティカルブーツで、タオルをグリグリ踏みつけ。
ブーツの底に付いた血糊も、ゴシゴシ落としていく。
汚れを落とした彼女は、口元に爽やかな微笑を浮かべ……口を開く。
「曹長、現在関西地区で暴走中の統合軍と、我が国の軍将兵だが……遠慮はいらんぞ」
曹長も微かに笑いながら、口を開く。
「本当によろしいのですか大尉……連中は馬鹿ばかりですが、一応リン将軍直属の部隊ですぞ」
大尉はクスッと、少し笑う。
彼女は胸元のポケットから、一枚の紙を取り出しヒラヒラさせる。
「だからこそだよ。曹長……先程本国から、リン将軍も含めて、連中を反乱分子に認定したと、通信が届いたからな。これで堂々と連中を粛清できるぞ……牢にブチ込む手間が省けて、幸いだ」
その後……。
自陣営の恥である『女の敵』を破竹の勢いで駆逐。
死体袋を軍用トラックに満載した、この女大尉の率いる部隊は黒煙が立ち上り、銃声と悲鳴が鳴り響く……市街地の中心部へ到達する。
しかし……遠目からでも『明らかに異様な』現場を発見すると、大尉は指示を素早く出す。
『偵察班は降車、偵察開始。歩兵小隊は偵察班を援護しつつ前進せよ!』
大尉の指示で、後続の車両から、兵士達が降車。
ブルパップ型の小銃で武装した偵察班が真っ先に降車、偵察を開始。
その後を軽機関銃やカービン銃、グレネードランチャーで武装した歩兵小隊が、市街戦用のフォーメーションを組み、ジリジリと続いていく。
続いて曹長も指示を出す。
『各員に告ぐ。死体には触れるな! 爆発物が仕掛けられている可能性がある。馬鹿どもを詰めた袋は……そうだな――おっ! ちょうどガラ空きのコインパーキングがあるから、そこに集めて燃料をかけて燃やせ!』
曹長は、飛ばしている小型の回転翼型無人機のカメラが、捉えた映像を手元のモニターで、何回もチラ見する。
彼の額からは、冷汗が生じ幾重にも垂れていく。
冷や汗を片手で拭いながら、彼は声を漏らす。
「大尉……ここは戦場ですよね」
車内には、偵察班が順調に進行している状況が、逐一リアルタイムで、車載無線のスピーカーから、流れている。
「曹長……ここでハリウッド映画の撮影があるとか、そういった知らせは、聞いていないか?」
「いえ大尉……自分は聞いていませんが」
二人の前方数十メートル先には、歩道橋がある。
更にその先数十メートル先には――真っ赤に染まった、ガードレール。 その周囲の路上には、血だまりができているようだ。
血だまりの周囲には、兵士達の生首や体が数十体は、転がる。
兵士達の亡骸の手には、ブルパップ型の自動小銃が、握られたままだ。
更にその先には、経営危機に陥った挙句。
統合圏内の大企業に買収されかけた。
大手ファストフードチェーン店のテナントが、入っているようだ。
店の入口には、『肉汁滴る! プリプリ食感のモビアック肉バーガー降臨!』の旗が、立てられたままである。
…………旗の隅っこには、小さな文字で『モビアック肉は昆虫を使用しています』と控えめな表示がされていたりするようだ。
まだ、ストレートな昆虫食材に慣れていない日本の消費者向けの苦肉の対策感が伺える表示の仕方だ。
『こちら偵察班、店員の死体を確認…………信じられない…………こいつら、ゴミ箱に死体を詰め込んでやがる…………酷いことを! 店員は全身アザだらけです!』
店内には、民間人の死体が、確認できるようだ。
死体の中には、全裸や着衣の乱れた、女の死体に混じって…………
チ✖コ丸出しで、頭部が吹き飛んだ。
無様な、兵士達の死体も転がっている。
……………………なんとも奇妙な状態である。
「曹長……コレは、かなり妙じゃないか」
「やはり殺され方ですかね……大尉」
「ああ……それもそうだが――――偵察班に告ぐ! 店内に民間人の生存者を確認、発砲は禁止、保護して衛生兵の到着を待て。死体は後で後続の部隊に処理させる。爆発物処理班は降車準備に入れ」
大尉は曹長に残りの指示を出すよう命じる。
曹長は手馴れた感じで、指示を次々と出していく。
戦場での経験も職業軍人としての経験も豊富なようだ。
「衛生兵に告ぐ、民間人の応急処置が完了しだい、トラックに民間人を搭乗させ、軍の医療機関に向かいレイプ検査を行え! 何人不名誉除隊が直属の兵から出るか~リン将軍閣下に――――」
チラッ
「我々の姫様が、青筋立てて報告せねばならんからなぁあ! しっかり対応しろぉおお!」
曹長が指示を出している間、大尉はモニターを見ながら思い出していた。
昔見た、前世紀末に作られた映画で異星人の戦士が、地球上の戦場に降り立ち、武器を手にした人間を延々と狩り殺す映画を……。
しかし……あの映画のように敵が、容易に姿を見せないのは、同じだ。
だが……。
「大尉……死んでいる兵士達は、路上で軽く千発以上弾いてやがりますよ。それに壁の文字は、どういう意味でしょうか?」
指示を出し終えた曹長が、モニターに映る店内の映像を見て、不安げな声を漏らす。
経験豊富な職業軍人でも、この現場の惨状は、かなり理解しがたいのだろう。
「アルファベットと……漢字で『参上』とあるから、個人いや、組織名の略称だろう」
その文字を見た時、大尉は感じていた。
今後『こいつら』とは、長い付き合いになりそうだ……と。
軽装とはいえ、武装した兵士数十人を皆殺しにして、忽然と消え去る。
そんな、優秀な連中だ。
恐らく敵は、無傷だろう。
これだけの戦火……否、一方的な殺しを成し遂げるのだから。
こんな敵を短期間で殲滅する事は、できないだろう。
――――――――何せ。
『NEET参上』などと血文字を書いて――――――――
――――――――消え去るくらい余裕なのだから。