※この作品はR-18です。

魔女の天下取り マギサの戦い   作:hidenyan

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------------------------- 第7部分開始 -------------------------

【第2章】

第一章 魔女が拾う者達の行き先

 

【サブタイトル】

第五話 世界の広さを知る者と教えた者

 

【本文】

【西暦二千三十年代後半】 

 

 夏……正午

 

 

 よく手入をされた、緑の芝生で満ちた――――――――

 ――――――――緑の海に、堂々と一樹だけ。

 

 

 樹齢数百年くらいの楠が、ポツリと……………………立っていた。

 

 ……………………

 

 複雑に枝を伸ばし、陽の光を大量に自ら取り込もうと――――――――

 ――――――――緑の葉を茂らせ、風で揺れる。

 

 その姿は――――――――大空をバックに描かれた。

 

 ……………………種の存続への、軌跡と言えるだろう。

 

 楠は茶色の枝と、緑の葉で複雑な……………………美しい軌跡を描く。

 

 そして…………木漏れ日が優しく差し込む。

 涼しい木陰を、作り出していた。

 

 この木陰には、昼食の頃合になると、付近のオフィスから。

 自然と昼食を持参して、ランチや昼寝を楽しむ者達が、集まってくる。

 

 束の間だが、のんびりできる空間が、そこには出来上がっていた。

 そんな安らげる空間で、一人横になり……………………。

 

 ペーパータイプの端末を操作する。

 ……………………一人の青年がいる。

 彼は、ここ十数年の出来事を…………文章や動画で眺めているようだ。

 

 眠気を感じながらもこの後、人と合わねばいけない事を思い出し。

 少しでも、頭を動かす為、彼は再び意識を強くして――――――――

 

 ――――――――画面を眺めることにする。

 

 

 ……………………

 

 

 眠たいけど……少しでも頭動かして『この世界の』お勉強だな。

 

 どれどれ……………………。

 

 俺の視線は――――ペーパータイプの端末画面に映る。

 ――――――――文字の列に向けられていく。

 その内容は、ざっとこんな感じである。

 

 

 十数年前……。

 

 

 世界的な混乱を引き起こした、きっかけになった米国の内戦。

 内戦は、米国政府側の完全勝利で幕を閉じ。

 その後……世界情勢は、徐々にだが、安定――――――――

 

 ――――――――世界各地では、新たな国境線が出来上がり、時折、戦火を繰り返しながらも、総じて復興が進んでいるようだ。

 

 十数年前の、米国内戦による世界的な混乱。

 今では、『第三次世界大戦』として教科書にも載る……………………歴史の一部になりつつあるみたいである。

 この時代の、日本の教科書にも…………そのように記載されているようだ。

 

 他にも日本では――――――――

 

 米国内戦前発生の、数年前から続いた。

 極左政権の時期も、第三次世界大戦史の範囲として扱われ。

 それまでの日本国における――――――――

 ――――――――民主政治の完全敗北を象徴付ける、衆愚政治の時代。

 

 ……………………そのように、苦々しくも詳細に記載がなされている。

 

 しかし、第三次世界大戦の爪痕は、様々な形で世界中に残り、当然だが、日本にも人口構成の変化や、自治体の再編などといった。

 

 ……………………マクロな社会の動向の変化がある。

 

 それこそ書物を調べ、ネット上で検索をすれば、ミクロな部分まで丸分かりであるが、更に大きく変わった事が、幾つか存在するみたいだ。

 

 一つ目は、日米安全保障条約の消滅と……………………在日米軍の撤退による、安全保障環境の変化。

 

 第三次大戦末期、米海軍と――――――――

 ――――――――その指揮下の海上自衛隊は、統合軍連合艦隊に敗北。

 

 その直後――――――――米国政府は、それまでの対日姿勢を一転。

 

 日本政府は『完全消滅した』と、表現を切り替え。

 日本政府の消滅を完全に確認したと、発表。

 並びに、日米安全保障条約は完全に、消滅したと公式に表明。

 

 ――――――――当時、ハワイに集結していた。

 

 日本の亡命政府要人は、身柄をFBIに拘束され。

 後に、戦争犯罪人として、東アジア統合推進機構のお膝元…………。

 

 ……………………上海で裁かれる、手はずだった。

 

 だが、結論から言えば――――――――

 

 ――――――――彼ら亡命政府の要人は、裁かれなかったようだ。

 

 米国政府がそれらの、手のひら返しをした直後――――――――

 ――――――――統合軍が占領している、関西地区で謎の大爆発が発生。

 

 大爆発は、数十回近く継続――――――――

 ――――――――京都や大阪は完全消滅。

 

 爆発後の同地域には、大規模なクレーター郡による……………………新たな海峡が誕生していた。

 

 まるで、統合軍を消し去る代償か、或いは――――――――

 ――――――――それまでの日本国民の衆愚政治のツケを、汚れを払うかの如く…………神々の逆鱗にでも、触れたかの様に本州は、二つに分断されてしまったのだ。

 

 

 この状況を知った、多くの者は……………………唖然。

 

 

 だが生き残った者達は、SNSやネット上に、色々と情報を書き込み。

 玉石混交とも言うべき、記録を残していたようである。

 その記録は幸いにも、この世界にも存在した某掲示板。

 

 その掲示板系の更新の止まったままである、外部まとめサイトの残骸に残っていた。

 

 

 どれどれ……一通り、目を通してみよう。

 

 

 …………………………………………

 

【悲報吉報一体どっちだ!? 201✖年8月✖○日 関西地区ごと侵略者統亜一同の消滅!】

 

 

 ……………………

 

 

『米国の核攻撃キター!』

『いや隕石か彗星だろマジで』

『ロシアのプーさんが怒ったな。地球詰んだぞ』

『統亜ざまぁあああメシウマWWW』

『仏像盗むからだよ!』

『ああ、大仏運ぶ準備中だったんだよな。たしか』

『目立ちすぎだろうWWW』

『しかも行き先が統亜の半島地域とかクソッワロタWWW』

『数年前の対馬の仏像盗難でも祟り凄かったのにもう詰んだな』

『御神木に除草剤入れてきた祟りだろコレ』

『八百万の神がブチ切れた!』

『大仏量産して配備したら最強の抑止力だよな』

『アホか日本が地上から消えるだろうが』

『いや世界中の都市に一個ずつ』

『爆発の直前に関西地区で、謎のライダー集団が動いていたらしいが』

『ああ、統亜のウピしたFG2動画の最後に出てくるアレな』

『あの光学迷彩本物なら欲しいW』

『絶対合成だろあの動画の最後はWWW』

『いや、俺はあそこでバーガーを学生の頃よく食ってた! 実在する店だ』

『あれはお兄様が平行世界から降臨なさったのよ!』

『↑ 並行世界じゃね?』

『確かに突然な吹き飛び方もあの小説の設定みたいだなW』

『↑ 場所が違うけどな』

『魔法って実在するんじゃないか?』

『いや神がいたとしか思えん!』

『兄より妹が降臨しろよ』

『いや俺はキモ妹より友達の方が好みなんだが』

『↑ 貴様は凍りづけになれ! そして砕けろ』

『統亜連中の野蛮さはベトナムの頃から変わらんな』

『だってレイプと売春は統亜の国技だろWWWあと嘘と謝罪要求かWWW』

『統亜でも半島の連中の国技な』

『いや待て! あのチワワは内部告発って事で動画晒してたぞ』

『ファックナ✖ドあの動画でブチ切れた人権団体がテロして経営危機らしいなW』

『NY市場は取引再開だったがファックの目柄だけ爆下げしてたな』

『爆下げどころか上海や香港は取引停止だぞ』

『陸海空の大部隊が消滅したからな。そりゃ金も逃げるW』

『逃げるといえば統亜の役人逃げて無政府状態間近らしいW』

『なんじゃそりゃWWW』

『アレは8K画質でグロすぎたが前半で抜いた』

『↑ みたいな売国奴なクズは統亜に逝け! そして氏ね』

『バカ宗教戦争になるぞってなった後だったWWW』

『中東や欧州はイ✖ラム国みたいな状態だな』

『ドイツでは大学に市民が避難して武装難民相手に篭城戦してたが、落城したな』

『市民がジハードされた! 南無(人)』

『ネ✖ナチが自爆テロしてるぞ』

『スイスは平和だな…………国境付近はFPS状態で死体の山だがW』

『要塞ボッチ国家最強じゃん!』

『↑ 俺はスイスフランで爆死して家売ったからな。あの国は怖い』

『米軍が動き出して欧州では空輸で食料投下してるぞ』

『日本は見捨てたのに……やはり人種かな』

『本当に日本どうなるんだろう』

『なんか近所でNEETとか名乗る武装集団が炊き出しとる。久しぶりの野菜と肉うめー』

『↑ 詳細希望』

『↑ おけNEETの意味が違いすぎる! National Eenemy Eliminate Teamとかテントや装甲車にペイントしてたWWW』

『↑ なんという中二病全開の連中WWWミリコスやサバゲ上がりの連中が発狂したか、新手の欺瞞工作か?』

『みんな日本人っぽい。野性化してた近所の陸自とは感じが違うけどな』

『↑ せめてゲリラ化と言えよ! 防人に失礼だろう』

『うちの近所にも野性化した陸のやつらいたな。う✖い棒あげたらレンジャー!って泣き叫びながらダッシュで去っていったよ……大丈夫かな』

『NEETの中に魔女みたいな格好した少女もいる』

『ガタッ!』

『なんだとガタッ!』

『ガタッ!』

『可愛かった。ハーフっぽい子多いけど、みんな日本語ペラペラ』

『↑ だよな! 水色の髪の子とかいるけど自毛っぽいぞ』

『↑ 嘘つけ長引く戦乱で錯乱したか』

『NEETと言っても昔存在した、何処ぞのコスプレ集団と違い、本物の銃持ってるぞ!』

『↑ 何故本物と分かる?』

『↑ 馬鹿か今時、銃なんて其の辺で拾えるだろうが』

『流石に未使用の実弾は少ないが』

『↑ 売国統合派ゲリラ様の死体から分捕れW』

『おらは統合派ゲリラを竹槍満載の落とし穴で捕まえて弾余ってます』

『↑ ベトコンかW』

『統合派は雑魚すぎるよな。数がゾンビ並みに多いから堪らんが』

『銃刀法が厳しかった頃がなつい』

『↑ 法律は残っているけど無政府状態で機能停止だからな』

『↑ いや無政府だから法律とっくに死んでるよ』

『おいおいNEETの連中、銃どころか戦車や装甲車に戦闘機やヘリ、輸送機もバンバン飛ばしてるぞ! これは欺瞞工作とかじゃないぞ!』

『どの車両も航空機も見たことない感じだよ……ステルスで未来的な感じ』

『どこの金持ちNEETが仕掛けた? ドッキリだったらヌッコロス!』

『海沿いだとNEETの艦船が物資揚陸しているみたいだな』

『その話題のNEET達が米軍基地や空港、港湾施設や原発、ともかくめぼしいポイントの占領を開始したみたいだぞ。永田町周辺は既に制圧済みとかWWW』

『↑ 自衛隊のチャンネル覗いたら、先にいた自衛隊の残存部隊とかと、少しドンパチしたが、残存部隊が譲歩したみたいだな。物資支援とかと引き換えに』

『装備がなんか整い過ぎてるし……見た事ない型のヘリとか乗ってるし、訳わからん!』

『おい! NEETって例のチワワの動画の最後で無双してた連中じゃないか!』

『確かに! 統亜のレイプ兵の死体から、手首切り落として壁に血文字書いていたなNEET参上ってか惨状がスゲースゲー』

『え! コレは謎の第三勢力登場みたいな感じですかね!』

『米軍去ってNEET来るとかどうなるのやら』

『核シェルターないんで地下道でホームレスやるわW』

『いや地下鉄か地下街が無難だろ』

『日本列島はあの漫画のように二つに分断してしまった!』

『いや核だと死の灰があるだろ! 何故放射性物質が降らない』

『流石ですお兄様!』

『あの爆発異世界帰りの俺が犯人な。誰も信じないだろうがソースは俺』

『純水爆かな?』

『神の杖とかいう衛星兵器か?』

『手口、小惑星帯から43発ほど岩をぶち込んだだけです。By異世界帰り』

『↑ 不謹慎だぞ。異世界に帰れ』

『純水爆も神の杖も未だに開発中か構想だけだぞ』

 

 

 ……………………

 

 

 一部、某漫画や某ネット小説を読んでいると思われる。

 そんな者達の、書き込みも散見された。

 ……………………それにしても、こっちのNEETの意味は凄いな。

 National Eenemy Eliminate Team……………………一体どんな連中なんだ?

 

 

 最も爆発直後、一番多かったのは、大戦末期の情勢や、爆発に関する。

 憶測、故郷を失った者達の……………………嘆きの書き込みだった。

 

 

 この大爆発の数日前――――――――

 ――――――――統合軍連合艦隊は、米軍と海自に海戦で勝利。

 関西地区には――――――――統合軍と加盟国進駐軍の、陸海空の大規模な部隊が集結。

 

 それは、米国が日本周辺から、完全に手を引き始めた時期でもあった。

 それに併せての、大挙襲来である。

 生じた力の空白に漬け込むべく。

 軍を動かすのは、この並行世界も変わらないようだ。

 

 おそらく東アジア統合推進機構は、日本列島の完全制圧に乗り出そうと……………………準備中だったのだろう。

 故に、この爆発を神風が吹いた。

 などと言う者も…………いたみたいだ。

 

 今ではNASAや、各国の宇宙機関が発表した情報。

 隕石ないし、彗星が数十発規模で、数回に分けて偶々――――――――

 ――――――――日本やその周辺に衝突したという見解が、定説のようである。

 最も一部のオカルト研究家や、陰謀論者はその発表を信じていない。

 そんな……『この世界』の歴史を俺は、彼女といっても恋人でない、とある少女から今朝渡された、ペーパー端末をいじりながら覚えていた。

 

 そう、ここは…………

 

 俺のいた日本とは少し違う世界。

 所謂パラレルワールドとか『平行世界』もしくは『並行世界』と呼ばれる。

 

 別の宇宙の……………………地球だ。

 

 違うと言えば、俺のいた世界より十数年程未来という点も違う。

 当然ながら、俺のいた世界と、今日に至るまでの歴史も微妙に違う。

 因みに俺をこの世界に連れてきたのは、この下敷きのような、薄い端末を渡してきた……………………少女でもある。

 

 

 

 約一時間後――――――――

 

 

 

「……起きたみたいね」

 

 一人の女子高生の様な格好をした少女が、俺を見下ろし。

 ……………………微笑んでいる。

 俺の視界には……見下ろしている少女の胸の谷間が映り。

 

 ……………………意識と股間の辺りが、覚醒していく。

 

 自分のジュニアが屹立する、その前に急いで立ち上がり、少女と向き合う。

 少女はどこから見ても、長くツヤのある黒髪を束ねた――――――――

 

 ――――――――可憐な大和撫子である。

 

 しかもモデル並みに、顔もスタイルも……………………いい。

 はっきり言って――――――――好みである。

 

「おはよう……」

「もう正午も過ぎているんだけどね。眠気覚ましに、コーヒーでも飲みましょうか」

「ああ、そうするよ」

 

 目覚め始めた俺の脳裏に、目の前の少女の情報が色々と浮かんでくる。

 ……………………この少女こそ。

 

「当然奢りだよな?」

 

 ――――――――クスッ

 

 少女は少し笑うと、口を開く。

 

「あらっ? 財布に諭吉が5枚もあるのに~女の子に奢らすの」

 

 俺も少しだけ笑うと口を開く。

 

「万札が紙屑になる、そんな世界に連れてきたのは……君だろ。マギサ」

「分かったわ。じゃあ今日は、奢りでいいわよ♪」

 

 

 俺をこの世界に連れてきた張本人。

 自称異世界の魔族で、未熟な魔女のマギサだ。

 

 

 

 

------------------------- 第8部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第六話 新世代の子供達と来訪者は何処から

 

【本文】

 チリンチリン……。

 

 

 俺とマギサは楠から歩いて、約百メートル下った先にある。

 ……………………カフェに入店していた。

 俺達の座った席は、壁際の席だ。

 

 壁はガラス張りだが、程良く茶色い布地の日除が日光を…………和らげ。

 ……………………利用者が安らげる、空間になっているようだ。

 

 ここからは――――――――

 ――――――――俺が昼寝をしていた。

 楠を見上げるような、位置だ。

 少し緩い丘の一面は、青い夏の芝生で覆われている。

 

 傾斜の感じがなんとなくだが、昔使っていた某OS画面のような。

 そんな情景だと、感じを受け……………………

 楠とこの場に、親しみを覚えてしまう。

 

 

 最もここは、周囲に――――――――高層ビルが幾つもそびえ立つ。

 ――――――――オフィス街のど真ん中である。

 

 少し視線をずらせば視界には、高層ビルの摩天楼が飛び込んでくるのだ。

 ……………………また違った風景の見方が、楽しめるだろう。

 

 カツカツ……

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

 ウエイトレスの少女が元気な声で、注文を取りに来る。

 ピンク色の髪で、ショートカットをした十代半ばくらいの少女だろうか。

 髪だけでなく、眉毛やまつげもピンク色だ。

 

 自分はこの世界に来た時、髪を――――――――カラフルな色に染めている。

 ――――――――若者が異様に多くて、驚いた。

 

 正直、幼児や赤子まで、この少女の様に、ピンクやブルーなど。

 多彩でカラフルな、色の髪をしている時点で、かなり弾けている。

 そんな世界だと思ったが――――――――

 ――――――――親子連れだと、親は黒髪やせいぜい。

 

 茶髪くらいだった。

 

 やはり、大人は仕事も在るから、染めないのだろう。

 初めは、そのように思った。

 しかし、我が子の毛根を弄ぶのは、許しがたいと感じ、そんな眼差しで見ていると……或事に気付いた。

 よくよく、親に抱かれている赤子の眉毛や、睫毛を見ると――――――――髪と同じ色だったのだ。

 他の赤子や、幼児を改めて見ても、其れは皆同じだった。

 

 この時点で自分は、彼らのカラフルな髪が――――――――

 ――――――――自毛であると確信した。

 

 しかし、一瞬だけ…………。

 

 この世界では、我が子の毛は全部染め上げるのが流行か、定番なのかも知れないと思ったが、可能性としては…………流石に低いだろう。

 

 

 自分はこの世界に来てまだ、一週間も経過していない。

 このウエイトレスの少女の様に、アニメキャラが現実化したような若者達。

 初めはこの世界特有の人種で、赤子や幼児は、外国からの養子の類いか。

 若者は留学生かと思っていた。

 

 だが、どうも日本語は普通に話せるようだったし――――――――

 ――――――――『何やら』違うようだ。

 

 自分が見た範囲では、この世界のご老人で髪がカラフルなのは大阪弁を話すおばちゃん達ぐらいだった。

 

 

 

 

 何度かマギサに尋ねたが……その内全部説明するから、とりあえず。

 まずは『この世界に慣れろ』と言われ、今日が――――――――

 ――――――――その日だと今朝伝えられ。

 好奇心が疼いてしょうがない。

 おそらく、このウエイトレスも自分の推測だが――――――――

 

「あらっ……マギサさん! もしかしてそちらが以前から口にしていた――」

「はい。ストップ! 結衣ちゃん、そこまでね」

 

 何やら、ウエイトレスとは知り合いのようだ。

 しかし、本当にこの世界に来て、良かったと思う。

 だって、アニメキャラ風の美少女が、其処らにいるのだから。

 

 しかも、その手のカラフルな少年少女は皆――――――――

 ――――――――美男美女でハズレ無しである。

 

 この世界に転移して、この状況に興奮しない奴は、元の世界で人生を謳歌していたリア充で、未練が生じる者達位だろうか。

 

 残念ながら自分は……元の世界では、人生を謳歌出来なかった者だ。

 そんな身の上だったからだろうか? 

 この並行世界に来てからは、興奮しまくりである。

 

 何せ某SF作品の様に、ゲルでゼリーな状態にならず、生きて平行世界に、移動できた事実もより一層、自分を興奮させている、強烈なスパイスだろう。

 

 マギサに会う以前の自分なら、この手の美少女が居る世界に行くには、よく読むウェブ小説の主人公の如く、トラックに轢かれて、運良く記憶を持ち越して転生する事を狙うか……効果不明のオカルトな手法の類いしか、頭に浮かばなかった。

 

 つまり実現可能か、生きて確認出来ない類の事象であり、夢や妄想に近い、そんな事柄だったのだ。

 しかし……今にして思うと、自分の居た世界の日本で起きていた…………『奇妙な事件』の真相は、自分が置かれている……この状況が、真相の一部なのだろう。

 

 

 

 

 一週間前……とある並行世界の日本……。

 

 

 

【西暦二千十年代後半……冬……名古屋市内】

 

 夕刻……。

 

 太陽も半分くらい落ち、寒さを増し始めたこの季節。

 大気は……淡く薄いオレンジ色に染まっていく。

 そんな闇に染まる寸前の夕刻の冬空には、数機の報道ヘリが旋回している。

 其の内のとある機内では、新人の女性レポーターが――。

 

『――視聴者の皆様ご覧ください! 遂にここ名古屋でも――』

 

 ヘリのローター音に抗うかの如く――。

 

『爆弾テロが起きましたぁああ!』

 

 声を張り上げている。

 彼女の姿は全国に生放送で流れている最中だ。

 

『――――今回のテロで爆破された、ムーンバックスの日本支社や、各報道機関には犯行声明などが未だに届いておらず、今のところネット上にも声明が発表された形跡が無い事から、警察は現在、首都圏で市街戦を繰り広げている、武装ゲリラ化した似非市民団体や、新興保守系市民団体の関与も視野に入れ、捜査を開始と発表! なお死傷者の数は――――』

 

 彼女は警察が近年、急速に銃火器で武装化して一般人を巻き込みながら、市街戦を繰り返す、ゲリラ化した元市民団体の関与も視野に入れて、捜査を開始した事を興奮気味の口調で伝える。

 

 レポートを続ける彼女の横では、ベテランの中年男性カメラマンがロケランを構えるかの如く、業務用のカメラを構えている。

 大型のレンズは地上に向けられ、撮影を続行しているが――――

 

「なんだ……アイツ等!」

 

 地上を撮影するカメラマンは、放送中にも関わらず、自身が構えるカメラが捉えた映像に驚き……声を漏らしてしまう。

 

 

 ――――――――数分前。

 

 

【爆発現場 外資系カフェムーンバックス店舗内】

 

 

 つい先ほど、それも数十分前まで外資系カフェムーンバックスの店内は、ごく普通に利用客で溢れていた。

 しかし……今は多くの警官達で溢れ返り、現場検証が行われている。

 

 ガラス張りだったカフェのガラスは見事に吹き飛び。

 ガラス片等を外部へと大量に撒き散らしている。

 壁や柱は壁紙どころかコンクリートを砕かれ、鉄骨を所々微妙に剥き出しにしている。

 

 撒き散らされたガラス片のいくつかは、その鋭さから街路樹の枝や葉を切り裂き。

 街路樹の幹にも多くのガラス片が深く突き刺ささり、爆発の凄まじさを物語っている。

 

 周囲の破片の拡がり方から、店内の爆心地付近と思われるカウンター席付近では、警察官が生存者と思われる男性店員から、事情を聞いているようだ。

 しかし店員は、かなり興奮している。

 

「だからぁあああああ! 何回いわせんだぁあああ! いいかんげんにしろよぉおおお! 防犯カメラ調べたら丸分りだろうがぁあああ!」

 

 爆発に巻き込まれ、興奮していると思われる。

 しかしその割には、冷静な判断力があるのだろうか?

 自身の体験した状況を確実に確認できる、防犯カメラを確認するように警官促しながら店員は、怒声に近い大声で叫んでいる。

 

 一方、興奮した店員から事情を伺い続ける警官は――。

 

「店員さん……人間が『消える』なんてね……映像なんて簡単に合成できますからね。署まで御同行願えませんかね?」

 

 どうやら、この店員は警官が同行を求めるのも、無理が無い証言を延々と繰り返していたようだ。

 

「あ!? ふざけんなぁああ俺が犯人みたいな言い方だなぁあああ! この――!?」

 

 警官に対して更に興奮した店員が、怒りをぶつけそうな其の瞬間。

 

「なんだ! 貴様らぁあああ――!?」

「……」

 

 数人の警官が大声を上げ、『誰かを』威嚇しているようだ。

 

 ヒュン――ガシャン! ドサッ!

 

「うわ~!」

「ママー!」

「ぎゃぁああああ!」

「アッー!」

「かぁ~ちゃん!」

 

 誰かを威嚇する警官の声は、途中から叫び声に変わっていく。

 そして警官は宙を舞い、放物線を描きながら店外の植え込みに落下する。

 

 植え込みに落下した警官は……手足をピクピクさせている。

 警官は完全にノックダウンしたようだ。

 さて、ノックダウンさせた思われる者は――。

 

 

 いつのまにか出現した――黒服姿でサングラスを掛けた。

 筋肉マッチョで――スキンヘッドのM×Bな黒人達だった。

 

 何故か彼らはその場で――。

 

「シュッ! シュッ!」

 

 微かに口から息を吐き、入り口付近でシャドウボクシングを始めている。

 警官達への威嚇だろうか?

 

 其の直後、数台の黒いバンが警察の封鎖を強引に破り到着。

 駅前広場の白いタイル上でドリフトを決めてタイヤの跡を無数に擦りつけ――数台の黒いバンは、店の周りを取り囲むように停車する。

 

 バン! バン! バン! バン! バン!

 

 停車と同時にバンのドアは勢いよく一斉に開かれる。

 車内からは、黒服姿でサングラスを掛けた筋肉マッチョな一団が降り立つ。

 黒服は店内に続々と入っていく。

 皆、手にはバックの類をもっているようである。

 入店した黒服達は無言でバックの中から――機材を取り出し、何やら作業を開始。

 当然ながら、こんな連中が突然現れたら警官達は黒服たちを止めようとするのだが――大半の警官は、瞬く間にノックダウンさせられ昏倒していく。

 

 ノックダウン済みの警官達は強引に肩に担がれ、店外へと次々にテイクアウトされていくようだ。

 

 さて、入り口付近でシャドウボクシングをしていた黒人の一人は動きを止める。

 彼はカウンター席付近で店員から、事件当時の状況を伺っている……いや、既に口を開きポカーンとしている警官に向けて、鼻歌混じりのノリノリなテンションで再びシャドウボクシングをしながら接近していく。  

 

 そんな危険な人物の接近に対して警官は――ハッ! と意識を取り戻し、警告を発する。

 

「キサマァ! 公務執行妨害で――!?」

 

 黒人の黒服は、警官に全ての警告を言わせず、軽やかなステップで警官に接近――――――――

 

 そして鮮やかなフォームで――――

 ――――素早く右ストレートの一撃が胸部にヒット。

 

 警官を悶絶させる。

 黒服の黒人は颯爽と肩に担いで警官をテイクアウトしていく。

 店内の警官はこれで、品切れになったようだ。

 

「あ……あ」

 

 近くにいた店員は、テイクアウトされた警官同様に口をパクパク開けている。

 放心状態になっているようだ。

 丁度其の時……黒人の黒服と入れ替わりで店内に別の黒服が入ってくる。

『彼女』は、黒いスーツに身を包み耳元にグレーの通信用インカムを装着した小柄で、黒髪のショートカットをした若い女性のようだ。

 

 彼女は手をパンパン叩きながら、周囲に指示を飛ばす。

 

「みなさん! さっさと調査を済ませてください!」

 

 黒服達は一斉に彼女に返事を返す。

 

「イエス! メム!」

 

 英語で返事を返す辺り、どうやら彼女を除く黒服たちは日本人ではないようだ。

 彼女はカウンター付近で口をパクパクさせている、店員に近づいてく。

 懐から黒い手帳を取り出し、彼女は店員に提示する。

 

 手帳は旧警察手帳に似たデザインだ。

 金色の文字で、中央に文字が描かれている。

『財務警察』と縦書きで……。

 彼女は手帳を開き、自身の顔写真と所属部署の記されたページを開く。

 そして店員に話しかける。

 

「初めまして『財務警察特殊捜査隊』の里中と申します」

 

 里中は笑顔で声を掛けるが――。

 

「大丈夫ですよ。民間人、ましてや貴重な目撃者を傷つけるような行為は

上から禁じられていますので、ご安心を」

 

 里中は店員を安心させようと、更に笑顔で話しかけるが、店員は斜め後ろに後ずさり、完全にドン引きして逆効果のようだ。

 この店員はかなり怯えているようだ。

 

 しかし、それも当然の反応だろう。

 

 いきなり黒服で筋肉マッチョな、サングラスを掛けた集団が登場。

 警官に暴行を加えテイクアウトしていくのだから……。

 ドン引き中の店員はチラッと、片目で外を見て更に不安を募らせていく。

 

 店の周囲から警官は、既に消えうせている。

 

 変わりにコンパクトカービン銃で武装した黒服たちが店を囲み。

 黒服達は警察に変わり現場を封鎖。

 野次馬の群集に向けて『ファック!』『ジャ✖プ! ゴーホーム!』などと、汚い英語を叫びながら制している光景が映る。

 

 そんなドン引き状態MAXの彼に、里中が再び笑顔で話しかけようとするが――里中は向きを変え、話を中断して耳元に手を触れる。

 

 どうやら……通信が入ったようだ。

 

「そうです……『連中』が姿を現した初めての事例になるかと……金の流れと防犯カメラの映像の照合も急がせます……はい。承知しました」

 

 里中は店員の方を向き、再び話しかける。

 しかし……その顔からは先ほどと違い『笑顔が』完全に消えうせている。

 彼女の表情は凛々しさを通り越し、特に眼元は何やら……凄みを秘めた鋭い眼差しになっている。

 

「いくつかお伺いしたい事がございますので、あなたの身柄を一時的に拘束させて頂きます。こちらの指示に従わない場合は……警察の皆さんみたいに容赦しませんが……よろしいでしょうか?」

 

 おいおい、さっきと言っている事違うぞ。

 などと店員は思うが……言えるわけもない。

 店員は全身に鋭い眼差しを向けられながら、ただひたすら頷くしかなかった。

 

 里中は黒服の一人に店員を連れて行くように指示する。

 店員は警官のように、手荒にテイクアウトされずVIP待遇で連行されていく。

 

 

 その頃……上空で中継を続ける先程のレポーターは、新たな情報を読み上げていた。

 

『たった今入った情報です! 財務省財務警察当局は今回の爆破事件に昨年から続いている【連続振り込み失踪事件】の犯人が関与していると発表しました! 同時に今後はこの事件の捜査を財務警察が、全面的に執り行うようにと、首相からの命令が下されたと官邸で官房長官が緊急発表! 現場から警官を排除したのは、犯人に繋がる手掛かりを失わない為の措置であり、県警や警察庁からの抗議に対して財務大臣は――』

 

 

 約一時間前……。

 

 

 

 爆発前のムーンバックス店内では、一人の青年がコーヒーを飲んでいた。

 彼はここで、一人の少女と出会い……世界の本当の広さを知る事になる。

 

 

------------------------- 第9部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第七話 とある無職の住む世界

 

【本文】

【西暦2010年代末】

 

【名古屋市】

 

 

 名古屋市内某駅前のムーンバックス店内。

 その店内の壁には、大型テレビが設置されている。

 

 それは…………

 

 高コストで、メーカーが一般向けモデルの生産を中止した代物。

 有機EL液晶を使用した、大型テレビである。

 サイズは、学校の黒板くらいのサイズだ。

 

 当初は従来の液晶テレビに比べて、極薄かつ。

 省電力で動く事から、将来を期待された新製品だった。

 しかしメーカー側の思惑は外れ、売れ行きは伸びず生産は中止。

 一部マニアにとっては、そんなマニアックなテレビを置いている

 そんな事もあって、このムーンバックスの店舗は有名であったりする。

 

 そんな話題を……某掲示板のまとめサイトで見つけ。

 

 大画面の有機ELテレビを視聴できる――――――――

 ――――――――カウンター席に座る、ひとりの青年がいた。

 

 

 彼は来月で、完全なる無収入で無職という。

 恥ずべき、クラスチェンジが約束された存在。

 所謂失業者であり……企業の歯車の成れの果てというやつだ。

 彼は今月最後の失業給付を何とか――――――――

 ――――――――受給して、生き延びていた。

 

 だが、それも今月で終了である。

 職業訓練の応募もしたが、全部落とされた。

 職がなければ、詰んでしまう。

 淘汰されそうな社会的に脆弱な存在。

 

 そんな儚い存在は、コーヒーを飲んでいた。

 

 彼の傍らには、求人誌のフリーペーパーが…………数冊開かれている。

 その中には、幾つか✖印がマジックで描かれ。

 …………今も✖を記している最中だ。

 

 

 キュキュ……。

 

 

 …………最悪だ。

 

 十代のガキだった頃に起きた……世界的な金融危機。

 あの頃はまだ、コンビニのバイトぐらいには、ありつけた。

 

 …………しかし今回は全滅だ。

 だが……それもそうだろう。

 

 コンビニのバイトは、今や隣国の外国人だらけである。

 しかも日本語ペラペラで、日本人より若干安くてもバリバリ働くのだ。

 

 …………そりゃ日本人が雇用されないわけだ。

 

 何故こうなったかというと、答えは簡単である。

 来年、東京では世界的な……『あのスポーツの祭典』が開かれるのだ。

 その需要を取り込むべく動いた経済団体の要請を受け。

 数年前、政府は外国人への単純労働者ビザを全面的に解禁。

 

 GDPはそれ以来、毎年3%以上の伸び率を示している。

 実際自分も給料が上がって、少しだが恩恵を受けもした。

 

 その時は喜び、将来に希望を持てたが――――――――

 ――――――――直ぐに希望は、色あせ砕け散り。

 不安へ急速に変わり、絶望に成り果てるのに、そう時間は要らなかった。

 

 だってこうして失業して、絶賛失業中なのですから。

 ……………………ホント選挙じゃ何も変わらない。

 社会の何もかも、悪くなるばかりである。

 

 そんな、世の中を絶望で満ちさせた。

 最大のファクターは…………なんなのだろうか。

 

 

 分かりやすいところだと…………

 

 

 法改正で企業は、簡単に人員整理を行えるようになった。

 これが、一番だろうか。

 

 こうなると、生死に直結する。

 正社員でも、将来は不安だろう。

 

 色々と法改正には、反発もあったが……

 まるで一番五月蝿い、ナントカ世代が社会の第一線から退いたのを見計らったかのように与党は、法改正を強行成立させた。

 

 ナントカ世代に対しては、年金を前倒しで支給する。

 そんな『黙らせ』方をさせる、念の入れようだ。

 

 

 そして、当然ながら――――――――

 ――――――――解雇された者達も続出していく。

 

 そんな解雇された者達の中には――――――――

 ――――――――銃火器を国内に持ち込み。

 

 市街戦を、首都圏を中心に展開。

 右も左も対立する団体は勿論、政府や政治家――――――――

 ――――――――マスメディア、言論人相手に拉致暗殺などのテロを実行、いつ終わるのか不明なFPS状態に突入。

 

 民間のテレビ局は、社員が多数死亡、若しくは逃走しすぎて何社か倒産。

 空いた周波数は、新設された公的な機関が、現在使用中だった筈だ。

 確か……財務省系の新組織だったと記憶の片隅にある。

 こんなご時世に流れる地上波は国営化され、自衛隊に守られた、何処ぞの元公共放送くらいである。

 ついでに言うと、受信料が法改正で廃止されたのは純粋に嬉しい事だが、それ以上に国民は経済的に苦しいので、焼け石に水だ。

 

 そんな訳で、テロが終わる気配は微塵もない。

 日増しに犠牲者は増加していき、首都圏を中心に治安は悪化。

 だが、それでも『あのスポーツの祭典』だけは――――――――

 ――――――――国家の面子もあるからだろうか。

 

 自衛隊を治安出動させてでも、強行する構えのようだ。

 

 今やこの国には、一千万人以上の隣国の人間が労働者として押し寄せ。

 更にその数を増している。

 職によっては、移民政策を進めてきた欧州同様に日本人は、外国人労働者に既に職を完全に奪われる。

 皮肉で深刻な状況も発生した。

 全くこの国の政治家や官僚は本当に、公僕として働いているのか疑わしい限りだ。

 

 それら国民の生存を脅かす、状況と連動するかのように……

 この国では『奇妙な事件』が、昨年から起きている。

 

 丁度その奇妙な事件のニュースをやるようだ。

 ――――――――俺は大画面に目を向ける。

 

 ザワザワ――――――――

 

 

 ――――――――ガヤガヤ

 

 

 どうやら俺だけでなく……店内の多くの客も何やら、携帯電話やノートPC、タブレット端末、スマートホンの操作を止めてテレビに注目。

 

 

 ――――――――周囲は一瞬……静かになる。

 

 そして真っ先に報じられるニュースを見て――――――――

 ――――――――多くの人間は『だろうな』といった表情で…………

 テレビへと視線を向け続ける。

 

 

 ……………………

 

 

『本日新たに76名の行方不明が警察により、確認されました。これで当局が確認した【連続振り込み失踪者】の総数は――――』

 

 

【連続振り込み失踪者】

 

 

 当初は主に現役の自衛隊員が、口座に多額の入金を何者からされる。

 そして、いつの間にか行方不明になるという前代未聞の事件であった。

 それだけでも前代未聞の事件である。

 しかしながら、振り込まれる金額も前代未聞の金額だ。

 

 入金される金額は、複数回に分けられており、一人あたり千万単位。

 多いもので、億単位という凄まじい金額が振り込まれている。

 

 今のところ…………

 

 演習中に部隊単位や艦船単位で行方不明には誰もなっていない。

 よって戦国時代や先の大戦中のミッドウェー海域に転移している。

 

 SFな可能性は、早期に排除された。

 

 今現在ネット上では異星人によるアブダクション説、異世界転移説、秘密結社や某国工作員による拉致、政府による陰謀説、多くの真偽が疑わしい様々な説が、飛び交っている状態だ。

 

 最近では、その手の議論の加熱具合に合わせるかのように、大手掲示板や大手SNSのサーバーは、ダウンを繰り返していたりする。

 

 当初は規模こそ、現役の自衛官が数十人程度だった。

 しかし今では既に、自衛隊経験者も行方不明となり――――――――

 

 

 

『先月時点で失踪者は、十万三千人を突破しており――――』

 

 

 

 総数十万三千人弱が、極めて短期間で行方不明になっているのだ。

 こんな行方不明事件は、世界的に見ても全く前例がない。

 ハイスピードで、大規模な行方不明事件である。

 この事件は、各国の諜報機関は当然ながら、多くの人々から注目されているのだ。

 

 

 まぁ……それも当然だろうか。

 しかし、事件発生当初は――――――――

 

 

 日本人拉致に定評のある。……某国の関与が真っ先に疑われた。

 当然ながら某国は『日帝の陰謀云々!』で否定する。

 だが、規模が拡大するに連れて……同国の関与は逆に否定された。

 

 流石に某国が――――――――

 

 世界最大規模の特殊部隊を要しているとはいえ、海の向こうの国外で、数万人も外国人を拉致するだけの戦術能力以前に……某国の場合は金が無い。

 

 ガス欠で満足に動けない状態である。

 

 そもそも拉致事件が明るみに出た後で、自衛隊関係者を中心に日本人を拉致するメリットがない。

 

 今では、この事件をネタに国交正常化と経済援助を水面下で狙っている。

 ――――――――との、一部報道もある。

 

 

 ザワザワ…………

 

 

 アナウンサーが読み上げる。

 最新の情報によると、失踪事件に変化があったようだ。

 

 行方不明になる人間のカテゴリーが変化――――――――

 ――――――――民間人それも、サバイバルゲームが趣味の人間やFPSゲームが趣味の所謂、軍事オタクなどに変化――――――――

 

 既に自衛隊関係者を上回る勢いで行方不明が続出。

 振り込まれる金額も、既に総額が数十兆に近づき。

 昨年の一般歳入の額に近づきつつあると伝えている。

 

 しかし、明らかに尋常でない規模の金が急激に動いている。

 国会でもこの事件は、度々問題視はされていた。

 そして本日遂に与党と野党は、この事件の議論から――――――――

 

『ご覧頂けるでしょうか! 国会前に集結した――――――――

この救急車の数を――あ! い、今! 幹事長がストレッチャーで運ばれています! 顔面がアザだらけです――――』

 

 ――――――――殴り合いの乱闘をしてしまったようだ。

 憲政史上最大の異常事態である。

 

 国会前には大量の救急車が駆けつけ。

 既に某掲示板やつぶやき型ブログで政治家は、再度。

 ボロクソに叩かれている有様である。

 

 負傷した議員にとっては、精神的にも叩かれた格好で自業自得だ。

 落選のフラグが何本も、小選挙区を中心に立った事だろう。

 本当に議員連中は仕事しろよ。

 などと、失業中の俺が思うのも……なんか変な感じである。

 

 既に乱闘国会の中継映像を素材にしたMAD動画は、大量にアップ。

 ニュースによると各動画サイトランキングの上位を占めているようだ。

 併せて、各動画サイトのサーバーでは緊急事態も発生。

 

 ニュースによると某動画サイトのサーバーは、非常に深刻な。

 サーバーダウンを起こし、復旧が絶望的なようである。

 多くのニ✖厨が絶望している様子が記された。

 某掲示板の書き込みがニュースでリアルタイムで隅っこに引用されている。

 

 

 他にもニュースでは――――――――

 

 数年前から対立が激化していた。

 ゲリラ化した右や左の市民団体が、この連続振り込み失踪事件に対する。

 双方の集会や、デモを双方が襲撃したようだ。

 

 

 ニュース映像を見る限り――――――――

 

 

 タタタ! ターン! ターン!

 チュィ――――――――ン!

 

 

 両陣営共にその手には、様々な――――――――

 

 ――――――――銃がごく普通に握られ、撃ち合っている。

 

 

 急遽息を切らしながら登場した軍事評論家が、解説を加えながらニュースは進行していく。

 解説によると、ゲリラ化した市民団体が使用している銃火器は、3Dプリンターで作った粗雑な、使い捨てのリベレーターと呼ばれる単発式の拳銃に始まり、暴力団から入手したと思われるトカレフなどの各種拳銃、猟銃系の散弾銃やライフル銃は勿論ながら、どこから密輸したのか――――――――

 

『あー! これはヤバイですよ! 遂に日本でも出ましたね! 紛争地域でお馴染みのAK47! AK47! しかもカスタム仕様ですね~視聴者の皆様はくれぐれも、何処ぞの量産されたアイドルと名前を間違えないように! おっぉおおおこれはARー15ですね! これだけ揃えば、機動隊も余裕で皆殺しにできる火力でしょうね! しかし一体何処から――――――――』

 

 何やら大変興奮気味の、軍事評論家の不謹慎な解説によると、AK系銃火器、サイドパーティ製の米国産AR-15ライフル銃なども使用しているようだ。

 

 当然ながら銃撃を含む激しい市街戦となり、死傷者は続出。

 東京では、機動隊が催涙弾やゴム弾等を大量に発砲、実弾も使い制圧中だそうだ。

 大画面には、パトカーや一般車両、店舗もかなりの数が焼かれている過激な映像が、映つしだされていく。

 

 他にも血まみれの機動隊員が担架で運ばれている様子や、火炎瓶の直撃を受けて火達磨になる機動隊員など、デモ隊との乱闘や銃撃戦が繰り返し映される。

 路面には生死不明の血まみれの人間が、ごく普通に倒れているようだ。

 そんな過激な映像が、モザイクなしで垂れ流されていく。

 

 動画がアップされている、前世紀の学生運動や、ナントカ空港闘争。

 或いは数年前まで、ロシアに併合される前の黒海周辺の国々の内戦の様な感じだが、やはり戦車や装甲車、榴弾砲、ロケット弾、戦闘ヘリとか兵器類が出てこないと、単なる暴動にしか見えない。

 それ以前に軍事教練や徴兵制が無く、銃規制の厳しい国の銃撃戦は、参加者の動きなどから視聴者も無意識に、不自然さと違和感を感じ、迫力に欠けるのだろう。

 

 しかしながら自分も含め、多くの人々は危険への感覚がマヒしているのだろうか?

 或いは数年前まで、許可証なしに出入りができた首都圏のイメージが未だに人々の意識下には、未だに強いのだろう。

 どうせ、その内この手のテロ活動も終息して、元に戻る。

 

 

 きっと、そのように考えているのだろう。

 

 

 それはこの国の平和ボケ教育を受けた、多くの人々が抱いている気持ちだろう。

 この国も大分物騒になったが、人々の意識はまだ至ってお花畑のど真ん中だ。

 今はまだ、首都圏だけだが…………どうなる事やら…………ん?

 

 何やらニュース速報で、自衛隊の治安出動を都知事が、外遊先から泣きながら要請と表示が流れている。

 

 

 …………流石に泣きたくもなるか。

 

 

『――続いて財務警察の特殊部隊が先週、携帯ミサイルを使用して日本海上空で撃墜した、プライベートジェット機の残骸の大半が、海保の協力を得て回収を終えたようです。同機には脱税額数百億越えの第一級財政テロ容疑と、警視庁から痴漢容疑数十件をかけられ、国外逃亡を企て逃走中だった、【北東アジア絶対友愛財団法人】理事で元外務省次官の――』

 

 そうだ、新設された公的な組織は、財務警察だ!

 周波数の使用で総務省相手にかなり揉めたのを思い出した。

 しかし、脱税はいけないな。

 今では脱税額に応じて脱税は、立派なテロ行為だ。

 五段階でランク分けされ、第三級から上が殺処分対処である。

 高額脱税者は最近、逮捕より財務警察の特殊部隊に襲撃されて死ぬ。

 

 ある程度、滞納額を回収出来る見込みが出来ると、裁判無しでこの世から『強制排除』する方針は、国際的なテロ資金とマネーロンダリング殲滅運動の影響だろう。

 

 数年前に創設された財務警察は、やんちゃしすぎではないだろうか。

 脱税して国外逃亡を企てた馬鹿が、撃ち落とされたのはメシウマだが。

 こんな状態が続けば……ゲリラ化した市民団体の動向と合わせて、その内、本格的に内戦になるんじゃないか?

 そうなれば、戦国時代の再来だ。

 就職どころの話ではない。

 

 それにしても失踪事件の犯人は、どこの誰だよ。

 金バラマキすぎだろ。

 犯人さんよ……俺にも金ばら撒いてくれよ。

 まっ……こんなところにリッチな犯人さんはいないか。

 

「くしゅん!」

 

 気のせいだろうか? 背後でくしゃみを聞いたような気がした。

 風邪やインフルエンザも出始めているみたいだから、気をつけなくてはいけない。

 昨年は、インフルエンザで死にかけたからな……もう感染するのは嫌だ。

 きっとそういう、病気予防の虫の知らせかも知れない。

 

 さて……。

 

 俺は思考を切り替えコーヒーの残りを飲み始める。

 その時、一人の女性が隣に近づき声を――かけてくる。

 

「すみません……お隣よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

 

 店内は丁度混みだしたようだ……。

 俺の隣の席に一人の若い女性が……ひと声かけてから座ってくる。

 他人に無関心な都市部では、珍しい。

 声や見た目からするに……黒髪を腰まで伸ばした女子高生の少女のようである。

 

 しかし……このあたりでは見たことない制服だ。

 コスプレのような感じは……全然しない。

 普段着のように気慣れた感じを彼女から感じるからだろうか?

 いや……何よりこの少女は、小顔で目鼻立ちの整った顔立ちでスタイルもいい。

 つまり似合っているから違和感が無いのだろう。

 

 しかし俺の脳裏には一抹の不安がよぎる。

 

 もしや……悪質なキャッチセールスや宗教の勧誘をされないだろうか?

 だが、ここは店内でカウンター席だ。

 いざとなれば、店を出て行けばいいだけの事である。

 などと俺は、逃走経路を微かにシミュレーションする。

 

「あなたは、どう思いますか? この失踪事件」

「え?」

 

 ああ、なるほどね。

 このお嬢さんは好奇心が旺盛なようだ。

 

「そうだね――」

 

 キャバに行く金もないから丁度いいな。

 会話くらい楽しむか。

 

「どこから金を用意したのかとか……自分もサバゲーとかが、本格的に趣味だったら行方不明になっていたのかなんて……思いながら、このニュースは毎回見てるよ……しかしホント」

 

 俺はコーヒーを飲み干す。

 

 カチャ……。

 

 カップを置き……どうしてもこの事件で気になる要素を幾つか思い浮かべ。

 その中から自分の意識が、掴み取った要素を言葉にする。

 だが、こんな時でもネガティブな事を思い出し……心ここに在らずの俺の心に自己嫌悪を覚え……更に嫌悪感を覚えそうになり……苦しくなるが、人前なのが却って嫌悪感を上回る『恥』の気持ちが打ち消していき……俺の言葉を口にする。

 

「行方不明になった皆さんは、『何処に』行ったのか……これが一番気になるね」

 

 この事件で行方不明になった失踪者達は、未だに生存者はおろか、死体や体の一部すら見つからない。

 それどころか……行方不明になる『瞬間』すら、確認できないのだ。

 一部では、犯人は人間では無いと言われているが、実際に金が動いているのだから俺はその可能性は低いと思う。

 恐らく警察は、犯人に関する情報を伏せていると考えるのが筋だ。

 

 正直これだけ派手に注目を集め逃げ切れる犯人は、神隠しの天才だろう。

 何処かのチートな猫型ロボットか、光学迷彩でも使っているんだろうか?

 

 クスッ

 

 少女は、微かに笑う。

 何故だろう? 

 俺は変な事を言っただろうか。

 などと思っていると……少女は口を開く。

 

「あなたは……皆さんが『何処』に行かれていると思います?」

「え? 銃弾飛び交う何処かの戦場」

「ひゃっ!」

 

 ズルッ――ガタン!

 

 次の瞬間……何故かこの少女は、少し声を漏らし、バランスを崩して倒れそうになる。

 そんなに驚くような答えだろうか?

 

「だ、大丈夫?」

「ええ、すみません――そのつい、バランスを崩しまして……それにしても即答ですね。そう考える根拠は?」

 

 何故だろう……この少女の驚きぶりは妙だ。

 しかし、そう考えるだけの根拠は出揃っていると思うので口にしてみるか。

 

「え? だって行方不明者って自衛官やサバゲーマニア、FPSユーザーとか、みんな銃に関連する人物像が浮かぶからね。それに――」

 

 俺は画面に映るニュース映像を指差し――。

 

「口座に大金を入金されているみたいだから、その対価として何処かでデス・ゲーム中なのかもね。本人の同意があるかどうかは、不明だけどさ……警察だって本当の情報は、逮捕の為にも流さないんじゃないかな」

 

 気のせいだろうか?

 この少女は、なんか俺の答えに驚いているようだ。

 

「ところで……あなたは幾らなら、もしくはどのような『願いを叶えられる』のなら……別の世界で戦う決意をしますか?」

 

 この少女が俺に向けて発した、この言葉を聞いた瞬間。

 俺の中で何かが、変わるのを微かに感じた。

 その感じはまるで、何かに心を撃ち抜かれる様な強烈な感覚でもある。

 

 俺の心に浮かんでくる様々な考えや気持ちには、ある要素が追加されていた。

 希望という名の儚い要素が……しかしどんな希望も常に絶望と隣り合わせだと自然と自戒出来る自分の警戒心も忘れずに俺は……この少女と会話を楽しむ事にするのだった。

 

 しかし……。

 

 ああ……俺は女子高生相手に何を興奮しているんだ。

 さっさと就職したいよ。

 

 

------------------------- 第10部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第八話 舞う者と兄弟と青き炎の水面

 

【本文】

西暦二千三十年代末……夏……早朝

 

 

 

【日本列島中部地域 三河方面の山中】

 

 

 

 後一時間もすると太陽が昇り……暑い日差しが降り注ぐだろう。

 そんな暑くなる前の……この『世界の』夏の空気は涼しく……いいものだ。

 

「う~ん! 気持ちいい朝だぁああ~♪」

 

 私は思わず、背を伸ばし空気を目一杯肺に吸い込みながら……空を見上げる。

 上空には数羽の若い燕が、グラつきながらも互いにじゃれながら既に飛行中だ。

 

 そうだ!

 

 いいといえば、もうひとつ……今日は『嬉しい事』があるのを忘れていた♪

 『向こう』から長らく空白だった、私の『ファクター候補』が到着するのだ!

 

「こうしちゃいられない! てぇやっ♪」

 

 私は座っていた枝から、『飛び立ち』――――上空へ垂直に舞い上がる。

 高度は燕達と同じくらいにしようか――!

 

 チチ! チチ!

 

 私より少し小さい燕達は――――私めがけて飛んでじゃれついてくる。

 こいつら~♪ 何回か私の飛行力場で遊んだ燕だな。

 ったく……ここは、空を翔る先輩としての威厳を示さねばなるまい!

 

「ちょっと! じゃれんなぁ鳥類共! 墜落するぞ」

 

 ホントはもう少し、こいつらと遊びたいが先を急がないと……

 

「朝食に間に合わないぃいいい~♪」

 

 バッ――――ヒュン!

 

 

 一時間後……。

 

 

【名古屋市内 特別軍事法人NEET支社 最上階】

 

【社長室】

 

 

「ご馳走様でした♪」

 

 自分の目の前には……米粒を頬に付けた……フィギュアサイズの少女の様な……黒髪で透明の羽を生やした妖精がいる。

 決して自分は、危険なドラッグを使用しているわけではない。

 そのはずというか、自分は生身の人間なので、その手の薬物はダメ絶対である。

 

 

「なんだよ~矢島弟♪ お前は米と味噌汁に鰯の缶詰かよ。矢島兄と違って弟は健康的だね~♪」

 

 この妖精さんは……兄の知り合いだ。

 先週、兄に我が社の機密を教えると言われ……紹介されたばかりである。

 しかし……ホントによく食べる生き物だ。

 自分は、目の前の大食らいな妖精さんにどの位食べたか、訪ねてみる。

 

「ツバメさん……ご飯は何杯食べました……五杯目までは、数えたのですが」

「ん? 十五杯だよ♪ やっぱコシヒカリは旨いね~♪」

 

 十五杯かよ! 

 しかも丼だぞ……一体どれだけ燃費が悪いんだ。

 しかし兄の話だと、確かエネルギーと言うか……魔力を大量に消費するので、大量の食事が妖精族には必要らしい。

 

 チラッ

 

 自分の視界には、宙に浮きながら少しばかりお腹を膨らました、ツバメさんの姿が写る。

 彼女は、普段着である妖精族の民族衣装を着ている。

 その衣装は、踊り子さんの衣装っぽく……露出の際どいビキニな感じの衣装だ。

 実際その衣装は、美少女フィギュアなスタイルのツバメさんに似合っていると思う。

 

 それにツバメさん達、妖精族は空中を極めて高速で、飛行するので水着のような衣装でないと、生地が持たないのだそうだ。

 

 しかし、十数年前に統合軍相手にゲリラ戦を仕掛けて……行方不明だった兄が、謎の武装集団を率いて戻って来た時も驚いたが……。

 まさかそれ以降、よく冗談で言っているものとばかり思っていた……あの言葉がそのまんま真実だったとは……。

 

 

『弟よ……俺達には、妖精さん達が味方しているから安心するがいい!』

 

 

 驚くのを通り越して、逆に凹むわ!

 凹むと言えば、もうひとつあった。

 機密であるはずのツバメさんが、急遽自分に紹介された経緯だ。

 其れは結論から言えば、兄の行いが原因だっ――――。

 

「おや~♪ なにジロジロ見てんだい~弟くん♪ やはりあいつの弟だね」

「ツバメさん、私だって……まだ【あなた方の存在】に驚いていてるんですよ。それと自分は、兄と違い変な酒癖はないので、ご安心を」

 

 そう……兄が泥酔したのが原因なのだ。

 

 兄は当時、自室で同居していたツバメさんを……『大人のおもちゃ』のテ✖ガと間違い、股間に無理矢理押し付けてしまったのである。

 この供述もツバメさんの紹介と同時に……兄の尋問を担当した、マギサさんから聞かされ……その時、自分は暫く思考が停止してしまった。

 この時の兄は、全裸状態で正座をした……全身アザだらけの……非常に情けない姿だったので、今でもよく覚えている。

 

 プルプル! 

 

 デスクの傍らにある固定端末に内線が、入ったようだ。

 自分は少しばかり、ため息をつきながら、そっとタッチパネルに指で触れる。

 

 ピッ

 

『社長、マギサ様が到着されました』

「ああ、通してくれ」

 

 噂をすれば影ありである。

 といっても、この時間に彼女がここに来るのは、事前に知っていた。

 ことわざ的には、当てはまるか微妙なとこだろう。

 

「おはよう矢島くん」

「おはようございます。マギサさん」

「あ! マギサぁあああ! 今日はホントに頼むよぉおお~♪」

 

 ツバメさんは目を輝かせながら、マギサさんの周りを旋回し始める。

 旋回といっても腹が出ているので、涅槃の様なポーズでグルグル回っている楽な姿勢だ。

 

 マギサさん、一見どこにでもいそうな……夏用の制服を着た、女子高生の様なこの少女。

 この人の正体も先週、御本人と兄の口から聞かされた。

 彼女は……異世界の住民で魔族だそうだ。

 なんでも兄は、彼女の世界に迷い込んでいたそうで、その際にマギサさんに助けられ、色々と互の目的も一致して、行動を共にして……今に至るそうだ。

 

 正直なところ……彼女と先の大戦末期に出会ってから、十数年経つが……未だに少女の姿のままである事や、その他の疑問点も全て解けた。

 

 兄が大戦末期に謎の最新兵器を運用する……謎の武装集団、現在の特別軍事法人NEETの前進になった組織を率いて、現れたのもこれで納得がいった。

 

 それに……会社のパーティーに来る、アンチエイジングに熱心なご婦人達とは、全然『違う意味』でマギサさんが、若々しいと以前から違和感は、感じていたが……その違和感の正体は『寿命』と言う時間の流れが、彼女だけ根本的に違っていた事に対する、感覚だったのだろう。

 

 因みに魔族の寿命は、最大で二千歳だそうだ。

 マギサさんは、既に50年は生きているらしい。

 魔族の成長速度は、誕生から十代半ばまでは人間と変わらないらしいとの事だ。

 その後はゆっくり身体的に成熟して、若々しいまま二千歳近く生きる、不老長寿な状態が続くらしい。

 

 それも機密解除をされた資料が本当ならだが……。

 

「マギサさん……兄は、今どのような状態でしょうか」

「あいつは、厚木基地で謹慎中、エルーナが鍛え直しているところよ」

「そうですか……色々とご迷惑をおかけします」

 

 ん?

 何やら涅槃状態のツバメさんが自分の肩に止まる。

 

「弟くんよ♪ 私はあいつが深酒した理由も分かっているし……もう許しているから君がこれ以上気を病む必要はないぞ~それにゴニョゴニョ~♪」

 

!?

 

「な……何を言ってるんですか! ったく……分かりましたよ。もう気にしないように心がけますので、ご容赦を」

 

 全く意地悪な妖精さんだ。

 気を使って接していたのが……馬鹿らしくなるような事をサラっと口にする。

 ホントに意地悪で……天真爛漫な妖精さんだ。

 

「ところで矢島くん、ゲートの準備は大丈夫?」

「ええ、問題ないです。クラウゼのチェックも昨日中に済ませましたので……もう行きますか」

「そうするわ」

「では、また後でマギサさん」

 

 マギサさんは、ゲートへ向かうため部屋を早々に退室していく。

 室内にはツバメさんと、自分だけだが残った形だ。

 自分は……秘書に食後のコーヒーを持ってくるように内線を繋ぎ、その際……自分の肩に乗るツバメさんが毎朝飲む飲料も頼んでおく。

 それは……ガムシロップ×二十個をぶち込んだ、人体に有害なレベルの砂糖水と化したカフェオレである。

 

 自分と妖精さんの一日は……大体こんな感じで、今日も始まるのだった。

 今日も……朝日が眩しいな。

 

 

 数分後……。

 

 

【特別軍事法人 NEET名古屋支社 地下最深部】

 

 

 公式には何も存在しないことになっている、地下数十階目に相当する地中には……。

 とある施設が存在していた。

 

 その施設は、水を張り巡らせた数百メートルサイズのプールとそのプール全体を見渡せる防弾ガラス性のモニタールームと、完全武装した戦闘要員の詰所から構成されているようだ。

 

 プールの中央には、鏡のように表面を磨き上げられた……金属製の六角系の島が設置されている。

 その島に向けて一隻のゴムボートが接岸して……一人の少女を降ろす。

 少女を降ろすとボートは、無人のまま島から離れていく。

 

 金属の島に降り立ったその少女は……耳元にインカムを装着したマギサだった。

 服装は先程までの夏服の様な制服と違い、冬用の制服に着替えているようだ。

 

 少女が島の中央に立つと突如照明は、真っ赤な警告灯へ変わる。

 辺りには警報音がビービー鳴り響き、アナウンスが流れ出す。

 

『全スタッフは、全員配置につけ。繰り返す、全スタッフは配置に――――』

 

 アナウンスが流れ出すと、モニタールーム内ではモニターに表示される項目のチェックを開始。

 オペレーター達が次々とチェックした項目を読み上げていく。

 

 

「ストレージ活性率99%で推移――――」

「海中を移動するニュートリノ発生源の原潜数の確認完了。観測誤差を修正――――」

「太陽活動、太陽風共に問題なし――――」

「注入ストレージの分子モーター回転数問題なし――――」

「ストレージ制御ユニット異常なし――――」

「転移先の座標のスキャン完了。質量反応等なし――――」

「ワームホールの形成問題なし。エキゾチックマターの生成――――」

「転移先の電波通信とGPS信号の解析完了。西暦二千十✖✖年✖月✖日の日本国、愛知県名古屋市✖✖区と確認――――」

 

 

 オペレーターの報告を聞きながら、自身が持つA4サイズのペーパー状の端末の表示を確認する……。

 一人の男がいた。

 彼は全ての項目が、異常なしと表示されると……口元にヘッドセットのマイクを当て、施設全体に鳴り響く様に設置された、スピーカーに自身の声を流す。

 

『此方モニターリーダーの鬼頭……全チェック項目の確認終了。転移者は魔力放出の準備を開始せよ』

 

 ピピピッ

 

『此方マギサ了解……』

『此方鬼頭了解した』

 

 マギサは両目を閉じ……息を静かに吐き……両手を水面に向ける。

 

 パァ――――!

 

 マギサが両手を向けた刹那の瞬間――――水面に青い光を発する霧が燃えるように現れる。

 光は揺らめき……輝きを増していく……数秒後、マギサは口を開く。

 

『カウントダウン開始9,8,7,6,5,4――――』

 

 その声はスピーカーを通じて、施設全体に鳴り渡り――――。

 

『――――3,2,1、0――――』

 

 マギサの足場の金属製の島は、それ自体が……濃く青い輝きを帯び始める。

 その光はマギサごと包み込み――――強く輝くその瞬間。

 

「待っててね……」

 

 マギサはそう一言、優しげに呟くと……島ごと光に飲み込まれ消え失せる。

 

 プールは輝くのを止め……微かに水面が揺らいでいるだけだ。

 モニタールーム内では、オペレーター達が報告を読み上げ始め……再び騒がしくなる。

 

 モニターリーダーの鬼頭は、ヘッドセットを操作して通信を上司に繋ぐ。

 

 

 そして再び……。

 

【名古屋市内 特別軍事法人NEET支社 最上階】

 

【社長室】

 

 

 プルプル!

 

 

「私だ……そうか。君達『転移担当隊』は、マギサとファクター候補の帰還に備えろ。以上だ」

 

 カチャ

 

「おっ! 弟くん~マギサはどうやら、上手く転移できたみたいだな~♪」

 

 ツバメさんが、部下からの通信を聞き終えた私に陽気に話しかけてくる。

 

「そのようです。後は無事に……ツバメさんのファクター候補を連れてこれるかですね」

「マギサなら余裕でしょ♪」

 

 やはりこの妖精さんは、飯と糖分を補充した後は……かなり機嫌が良くなるようだ。

 この事はツバメさんを紹介された際……『念入りに』アザだらけの兄と、マギサさんから言われたので注意している。

 

 所謂、『禁断症状』という状態を妖精族が起こすと……自分のような生身の人間は、非常に危険だそうだ。

 先程、禁断症状を先週起こして、兄をアザだらけにした張本人から『あの時は、私も正常じゃなかったからお互い様さ♪ テヘッ』などと言われて、呆れてしまった。

 しかし……何故それなら『兄は』無事だったのだろうか……其の辺もその内説明されるのだろうが、正直……また驚くのを通り越して、凹みそうな予感が脳裏を横切ってしまう。

 

 自分は、カフェオレ風砂糖水のお代わりを秘書に直接頼む、ツバメさんを見ながら手元のホットコーヒーを啜り……気分を切り替え、手元の有機ELペーパーに表示されるデータに目を通していく。

 

 コーヒーの香りは、今日も……自分に仕事の始まりを伝える香りである。

 

 

------------------------- 第11部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第九話 戦火の先にある新たな秩序と緊急事態

 

【本文】

 

 第三次世界大戦終結から、十数年が経過した……

 西暦二千三十年代後半の……………………日本。

 

 その様相は、劇的とも言える、変化を遂げていた。

 隕石郡の飛来による、関西地域の消滅と琵琶湖の海洋化。

 ……………………そして、そこに新たに誕生した、日本海と瀬戸内海を結ぶ海峡、今では、関西海峡と呼ばれ……………………海図にも正式に載っている海峡だ。

 

 それら、地形の変化は当然ながら、そこに住む者達の境界線や、社会秩序に至るまで、諸々の要素が……新たに誕生した、海峡によって分けられ、日本列島には、主に三つの勢力が、新たに誕生していた。

 

 第一の勢力は、壊滅した日本政府の残存勢力が結集して発足した新政府。

 支配エリアは、北海道から沖縄と広範囲で……………………かつての日本国、その流れを受け継いだ、勢力である。

 名称は変わらず『日本国』政治体制としては、大戦前と同様に民主制度を採用している。

 

 だが……………………

 

 省庁の再編成や道州制の導入、そして……………………新憲法の公布、国防軍を保持するなど、かなりの変貌を遂げ、大戦前に存在した、様々な『足枷』を取り払い、今や常識的な対応の取れる国家の一つだ。

 

 しかしながら、九州の北部地域と、旧山口県の西部を旧統合軍の軍閥に占領されているが、この勢力が今も昔も変わらず、日本列島内における、最大の勢力である事は、大戦後も変わらない。

 

 総人口は、従来の日本国民は減少して約八千万人。

 これは大戦中と戦後の混乱期に、人口構成の中で、大きな割合を占めていた、高齢者を中心に従来の日本国民が、大量死した影響である。

 他に大戦後に新設した、市民制度により市民権を得た移民が約二千万人。

 密入国者や不法滞在者が、海峡の西側、西日本を中心に約五千万人が居住。

 総人口は約一億五千万人で大戦前より、若干人口規模を大きくしている。

 

 

 第二の勢力は、同じく壊滅した、東アジア統合推進機構の保有していた軍事組織、統合軍と同機構加盟国の残存勢力の一部が、『奇跡』を売り物に急速に勢力を伸ばしていた、『新興宗教』と結びつき誕生した新国家。

 

 ……………………『九州共和国』だ。

 

 同国に関して日本国は、領土の一部を占領する『武装したカルト勢力』として徹底的に扱い、絶賛武力衝突中である。

 

 両国の武力衝突は、統合軍に蹂躙された記憶が鮮明に残る、日本国民の圧倒的な支持を背景に、継続中だ。

 九州共和国側は、何度も停戦の申し入れと和平工作を展開、しかし…………そのどれもが尽く失敗している。

 

 日本周辺の『台湾共和国』『中華連邦共和国』両国による、和平へ向けた、必死な外交上の説得にも……………………日本側は、国内の圧倒的な民意を無視できず、応じれないでいる。

 よって、日本国と九州共和国の間に、正式な国交は存在しない。

 

 尚、同国の国教にもなった、とある新興宗教。

 その宗教は、公式にはキリスト教の流れを標榜している。

 ……………………しかし、欧州南部と北アフリカ全域を支配する新国家。

『神聖ヴァチカン教皇国』からは、『邪教』として扱われている。

 

 九州共和国の支配エリアは、九州北部の高度移民優遇特区を中心に、九州北部地域と対馬、半島地域と大陸の一部沿岸部を支配エリアに収めた、新国家だ。

 

 総人口は約三億人である。

 

 

 そして第三の勢力は、米国側が放棄した安保条約を『強引な解釈で』受け継いだ、特別軍事法人NEETを中心とした、勢力。

 

 ……………………多数のPMC『民間軍事会社』である。

 

 この勢力は、日本列島内最大の勢力、日本国に『様々な特権』を認めさせ、西日本エリア全域を復興名目で、実質的に『植民地化』した勢力だ。

 構成員の大半は、大戦中に統合軍相手に、ゲリラ戦を経験した民間人。

 

 ……………………所謂プレッパーな人々の生き残りである。

 

 中には、極左政権の命令に従わなかった、正義感の強い元警官や、大戦前に公職追放された元自衛隊員、進駐してきた統合軍へのゲリラ戦に参加すべく、集団脱柵…………所謂、集団脱走した、元自衛隊員も含まれている。

 

 彼らもプレッパーな、民間人同様、法を超える己の葛藤と恐怖を、理性と闘争心そして、圧倒的な――――――――使命感でねじ伏せ。

 

 銃を手に敵に抗い、多くの仲間を失いながらも郷土……………………日本という社会を守る為に戦ったのだ。

 そんな元公僕の彼らも、新政府や国民感情的にも正しく……………………恩赦の対象だ。

 

 彼らはかつての法体系下の罪、警察官職務規定法違反、自衛隊法違反、銃刀法違反、発砲罪、凶器準備集合罪、殺人罪、内乱罪等の罪を、一切問われなかった。

 

 一度政府が断絶、壊滅したのだから、或る意味当然の対応である。

 逆に新政府から国防軍等へ参加するよう、ご丁寧に要請が来たくらいだ。

 

 だが、彼らの大半は……………………その要請を断った。

 

 政府と距離をとり、敢えて、政府へ参加しない。

 かつての政府機関の現実と、醜態を知り、大いに幻滅していたのだ。

 正に……………………『限界』を知った者達、故の厳しい選択であろう。

 彼らは、体と心が傷つきながらも……………………それでも自らの意思と決断で、銃爪を搾り続ける事を望んだ。

 この生き方を選んだ、各々の理由は様々だろうが……………………自己の犠牲を顧みず、今も過酷な銃火の中を、自ら選んだ存在、もうひとつの『防人』達の受け皿にPMCはなっている。

 

 そのような成立の経緯がある、大戦後の日本のPMC。

 

 PMCに従事する人員の規模は、業界全体で約六百万人。

 この規模は、余裕で日本国防軍を凌駕、必然的に軍事産業とも、国防軍以上に関わりが強く、世間的には色々と、週刊誌が喜びそうな、ネタの宝庫、真偽不明の……………………黒い噂の絶えない勢力でもある。

 

 しかし、多くの日本国民はその必要性を認めざるを得ず、近年では決して低くない、死亡率にも関わらず、高収入とスリル、不逮捕特権等に魅力を感じた若年層を中心に、業界の構成員を年々増やし、社会への影響力を着々と強化している。

 

 尚、特別軍事法人NEETなどの一部、PMCの使用する兵器や装備、その性能は、国防軍や先進各国の最新装備を……遥かに凌駕している。

 高性能で、謎の多い装備の存在も、日本の対外抑止力として機能、同時にPMCに多くの利権と、特権を与える源泉となっている。

 

 同勢力が支配する人口規模は、西日本エリアの総人口のほぼ全て、日本国籍を有する日本国民が約二千万人と、市民が一千万人とその他に、日本の法的には、不法滞在者や密入国者に分類される約五千万人、それらを合わせて、約八千万人だ。

 

 尚、同勢力の運営する西日本域の植民都市、それらの一部は『都市国家』として独立、正式に国連に加盟している。

 

 

 そんな三大勢力が戦いを繰り広げる、日本列島の中心部に位置する中部地域、かつての愛知県と岐阜県、三重県を統合して誕生した『中部州』には、日本政府との折り合いや、政治経済、軍事、所謂地政学上の様々な事情により、数多くの民間軍事会社が、拠点を置いていた。

 

 その中でも、最大勢力のオフィスでは……………………会議の最中である。

 

 西暦二千三十年代後半

 

 夏、夕刻。

 

【特別軍事法人NEET 名古屋支社】

 

【会議室】

 

【西日本域 植民都市運営 定例報告会議場】

 

 

「――以上のように、各都市からの徴税は、順調に推移しており――――」

 

「また、不法滞在者等の暴動も、年々低下していますが――――」

 

 社長の身分である自分は、毎週一回、この映画館の様な、薄暗い。 ……………………広大な会議室で、我が社の各部署の責任者から、報告を聞かなくてはいけない。

 

 自分の目の前には、馬鹿でかい……………………

 有機ELディスプレイが広がり。

 次々とデータが、映し出されていく。

 正直なところ、この時間はそれらのデータの閲覧と併せて、報告を聞くだけで基本……暇である。

 

「――――今現在、厚労省の疾病対策部隊と一部PMCが、偶発的に岡山山中の難民バラックで交戦する事案が、上がってきており、山火事の発生で損害が――――」

 

「――――麻取の方から協力要請のあった、国境地帯での治安業務の一部は、PMC『壁外猟兵隊』へ引き継ぎを完了しており――――」

 

「――――各植民都市では、新型麻薬『修羅』俗称シュラの拡大と中毒者の暴走が増加傾向にあり、これにつきましては、麻薬取締隊及び特に被害の深刻な州の『九州特別州政府』と連携して、密売組織の資産凍結と同時に幹部の拉致、暗殺、拷問を現在進めており――――」

 

 しかし、この会議は出席しないと……会長の兄が五月蝿いからな。

 

「――――『ストレージ被災者』の二世が、拉致される事案も海峡を越えて東側でも発生し、本件につきましては、日本政府からも協力要請が出ております。拉致を依頼した宗教団体幹部は、無人機のミサイル攻撃で処分が――――」

 

 あ~あ。

 自分も妖精さんみたいに毎日、遊んで暮らしたいな……。

 

「――――拉致に関与したPMCの名義は、何れもダミーであり――――」

 

「――――先月領海内で、我が社が拿捕した米軍のSSGN、特殊原潜は、そのまま接収で問題なく、特殊部隊員と乗組員は、台湾経由で強制送還となりますが、その際に外務省と、米国国務省の担当者が――――」

 

 しかし……働かざる者は、食うべからずと言うが。

 

「――――追跡は困難で現在、警察省と法務総省にも、容疑者と思しき、該当人物の社会保障番号、戸籍等の照会を要請、確認中です。万が一、都市国家や九州共和国に、犯人が逃走していた場合、法的に――――」

 

 自分のところに転がり込んできた。

 大飯食らいの妖精さんが、働いているところは……………………

 未だに見ていないが……本人曰く。

 

『飛んで食べて、寝るのが妖精の仕事だぁああ!』

 

 との事だが、それじゃ猫と変わらない。

 

「――――『ホクジラ』所謂、巨大化したイノシシの大群を率いている、新たな武装集団も西日本では現れており、現地では五十口径弾が、不足気味です。同弾や更に大口径の弾種は、生産が追いつかず――――」

 

「――――輸入による値上げで、民間人からの抗議がメーカーやア✖ゾンに殺到中です。同勢力の構成員と思われる白人集団の姿が、先週確認され現在、ICPOと各国政府に照会中ですが、同勢力と繋がりのあると思われる、環境保護団体を装ったテロ組織の構成員を拉致して現在、尋問を進め――――」

 

 いや、猫より燃費が悪い上に、意地悪なところもあるからな。

 

 ……………………どうなんだろう。

 

 そういや……ベーコンが最近安いのは、デカイ豚が原因かよ。

 今度、農林水産省に……ん?

 

 壁際で待機していた秘書が……インカムで通信をしている。

 通信を終えた秘書は、自分に近づき……報告を小声で耳打ち。

 

「社長……マギサ様の方で、トラブルが発生したようです」

「分かった」

 

 自分は同席していた、副社長に残りの報告を聞くのを任せる。

 秘書には残りの会議のデータを後で、上げるように指示を出す。

 急いで会議室を出て……とある場所へと、向かう。

 

 

【特別軍事法人 NEET 名古屋支社】

 

【地下 危機管理センター】

 

 危機管理センターに詰めるオペレーター達は、大慌てで作業をしていた。

 本来なら定時を過ぎ、反対直と交代すべき昼勤務要員の責任者は皆、強制的に残業状態である。

 危機管理センター内では、激を飛ばす一人の男がいた。

 

「どんな些細な変化も見逃すな! 直ぐに岡崎の駐屯部隊を名古屋に展開させろ!」

 

 其れは午前中、マギサの転移を担当した、鬼頭の姿だった。

 髪は短髪で少し顔にシワができているが、しっかりした。

 筋肉質な体躯をして……少しばかり目つきの鋭い彼は、宛ら。

 世界的な狙撃暗殺者で有名な、某漫画の主人公の様な風貌である。

 

「――ハイウェイが駄目なら輸送ヘリを使え! ファクターの転移座標の予測を急げ――」

 

 ……………………だが、よく喋る点は違うようだ。

 

 プシュー

 

「社長!」

 

 矢島は少々息を切らしながら入室していく。

 

「状況はどうなっている」

「最悪です……ファクター候補が、約三時間後に『遅れて』こちらに転移してきます」

 

 マジかよ……遅れてだと確か、『オマケ』で色々と、引っ付いて来るんだよな。

 

「マギサさんの方は?」

「無事に帰還しています。現在我が社の特殊部隊と『魔女の弾丸便』の部隊と共に、前線指揮所で待機中です」

「直ぐに、厚木基地と通信を繋げ」

「了解、厚木基地と回線を繋げ!」

 

 鬼頭はその後も、指示を出し続けていく。

 社長の矢島は、今のところやる事がないので、近くのイスに座って。

 ……………………通信を待つ。

 

 数分後、女性オペレーターが報告の声を上げる。

 

「厚木基地と通信を開始します」

 

 矢島は手前の席のヘッドセットを装着。

 ……………………通信を開始する。

 彼の耳元には、彼の聞き慣れた、兄の声が鳴り響く。

 

『ただいま留守にしておりま――痛っ! ちょっとエルーナ痛いよ! 俺の方が偉いんだぞ! 逆らうと――――』

 

「兄さん……今は、ふざけている状況ですか……エルーナさんに、代わって下さい」

 

 ったく……………………兄さんは、何をしているんだ。

 もう少し、性根を鍛え直してもらった方が、いいかもしれない。

 ……………………彼女に念入りに。

 

『はい~エルーナですよ。弟くん、もう少しコイツ鍛えていい?』

 

 本当に何故かそう思ってしまう。

 しかし、兄への罪悪感は、微塵も感じない。

 昔は、お兄ちゃん子だった自分も無事に……兄離れが出来たのだろう。

 

「ええ、もっと鍛えて下さい。其れより今回は、ファクター候補が約三時間後に『遅れて』転移してきますので、至急エルーナさんの部隊を名古屋に展開して下さい」

 

『あらら、それって……マギサの連れて来るファクター候補って、相当な大物ね……分かったわ。直ぐに向かうわ……ああ、それとスピーカーに繋いでもらえるかしら』

 

「ええ、構いませんが」

 

 なんで繋ぐんだ?

 

 ♪~♪~♪

 

 なんだ、室内に流れる、この陽気なメロディは……………………!

 確か日曜の朝から、ツバメさんが、ハイテンションで見ている。

 

 ……………………あの美少女アニメのオープニングテーマだ。

 

 誰だ、スマホをマナーモードにしない輩は――――

 

『は~い! 鬼頭くん元気かしら?』

 

 鬼頭……ああ、彼か。

 しかし、なんであんなに――――――――

 

 

 ……………………ガタガタ震えているんだ?

 

 

 矢島が疑問を抱いていると、その答えはスピーカーに流れるのだった。

 

 

 

『会長ぉおお! なんで自分の配属先を『奴に』教えたんですかぁあああ!』

 

 

 

 その声は、ガタガタ震える――――――――鬼頭の絶叫だった。

 彼はその場で、泣きながら崩れ落ちる。

 いい年をした、ゴ✖ゴな男が号泣していく。

 周囲のオペレーターは皆…………ドン引でポカーンな状態である。

 

『だってさ、鬼頭くん……第四魔女小隊の生き残り……もう君しかいないじゃん?』

『そういうことよ~まさか、私の命令を聞けないとか、言わないわよね?』

 

 第四魔女小隊……………………あ!

 

 矢島弟は、何処かで聞いた事のある、部隊名だと感じ。

 ……………………直ぐに脳裏に、思い出していた。

 其の部隊に関する機密資料を先週、兄とマギサに見せられたのだ。

 そして再びスピーカーには、鬼頭の声が流れる。

 

 グスッ……グスッ

 

『会長……武器庫から勝手に、装備は持っていきますよ』

 

『おお! そのくらい構わんよ。ってか、さっき武器庫のロックと……君のパワードスーツのロックは、解除したんだけど……もしかして、そのプリキュンなメロディを着信音にしてたの?』

 

『はい……心臓に悪すぎですよ会長……次からは、事前に教えて下さいよ。それと給料を上げて下さい……でないと、エルーナさんの下では、絶対に働かないです』

 

 

 矢島弟は、機密資料の第四魔女小隊の記述を思いし……彼に同情する。

 第四魔女小隊は先の大戦末期、とある『異形の敵を』殲滅した。

 しかし、隊長と部下の計、二名のみが生き残り……………………

 解散した、光学迷彩やパワードスーツを装備した極秘部隊だ。

 

 恐らく鬼頭の中では、一番会いたくない人物だったのだろう。

 エルーナと言う名を持った。

 マギサと同族の魔族で……………………此方の世界でも魔女と呼ばれる。 彼女との再会は、彼にとって辛いものなのだ。

 

 矢島弟がそう考えていると……………………

 鬼頭は部下の女性に、この場の指揮を引き継がせ。

 彼は社長の矢島に敬礼をすると、武器庫へと足早に走って行くのだった。

 

 ♪~♪~♪

 

 陽気なメロディを、スマホから鳴り響かせながら。

 

 

 

 

------------------------- 第12部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第十話 未熟な魔女の願いと兄弟に迫る危機

 

【本文】

 特別軍事法人NEETの矢島社長や鬼頭達が、ファクター候補の転移対応に奔走している頃。

 並行世界のもう一つの日本から、急遽帰還した……マギサ。

 彼女もまた、対応に追われていた。

 

 

【名古屋市内 特別軍事法人NEET関連施設】

 

【地下駐車場 前線指揮所】

 

 普段なら民間人の車両も駐車している大型地下立体駐車場。

 今は関係者以外の車両は、撤去され……入口や非常階段付近や曲がり角には、コンクリートのバリケードが置かれ各所に……全身黒ずくめの戦闘服を着て、自動小銃や機関銃、グレネードランチャー等で、完全武装した特別軍事法人NEETの特殊部隊が……銃を構え、警戒に当たっていた。

 

 そんな厳戒態勢の地下駐車場に駐車している、装輪走行型の指揮通信車両の車内では、一人の魔女が……己の心の葛藤と向き合っていた。

 

 

【指揮通信車内 後部搭乗員用スペース】

 

 

 最悪だ……。

 私は彼に軽く……探査術式用の魔力を放射しただけなのに……。

 まさか……事前に込めていた、転移術式を強制発動させられるとか。

 

 ……………………やっぱり私は未熟な魔女だ。

 こんなに未熟だから私は、愛する彼を失ったのだろう。

 

 ……………………ダメだ気分を切り替えよう。

 まだ、あの世界の『彼は』死んだわけじゃない。

 

 グッ…………

 

 私は右手を強く握り締め……気持ちも自分の心に。

 ……………………言い聞かすように念じる。

 

 彼はまだ、救えるんだ……それにここは……あの砂浜じゃない!

 武器も仲間も十分すぎる程揃え……。

 『この世界』……彼の故郷で、私は有効な武力を手に入れたのだ。

 もう……………………あの頃の私とは違うんだ!

 

 バン!

 

 私は右拳の裏拳で壁を殴りつけ……体に衝撃を入れる。

 気持ちを切り替えるきっかけを作り出そうと、私の心の衝動は……

 世界と自分自身に、干渉してみる。

 少し痛いが……クッション材の上からなので、問題はない。

 

 ガタッ!

 

 私は勢い良く壁際のシートから立ち上がり、車両の外に出ていく。

 行き先は、隣に駐車している我が社『魔女の弾丸便』が、新設した部隊。

 その隊員が搭乗している装甲車である。

 

「ん? ……」

「あっ社長~! みんな準備完了ですよ~」

 

 市街戦迷彩柄のパワードスーツを装着して……脇にフルフェイス型ヘルメットを抱えた一人の少女が、駆け足で私に近寄り。

 元気な声で報告をしてくる。

 この少女は、私の部下であるが……同時に赤子の頃から私達PMCが、支援してきた戦災孤児院で育てられた。

 

 ……………………戦災孤児の一人だ。

 

「春菜ちゃん……いえ、春菜分隊長……今は勤務中です。もう少し緊張感を持ちなさい」

 

 春菜はビシッと姿勢を整え……私に笑顔で敬礼をしてくる。

 思えばこの子も……大きくなったものだ。

 正直なところ私は、春菜達の様な……戦災孤児には、戦場と無縁な……幸せな生活を過ごして欲しい。

 

 その考えと気持ちは、孤児が成長していくに従い……強くなっていった。

 私は……そのように感じている。

 当初は、将来の兵を確保するための先行投資だと考えていた。

 だが……どうやら私もこの国の空気を吸い……。

 この国……私の愛した、彼の祖国の民と共に生きて……考え方が変わったのだろう。

 

 思い返せば……彼と出会った当初の私は、彼の印象を……戦場で敵兵、特に人間やエルフ、亜人を殺すのを躊躇う。

 偽善者などと一括りにしていた。

 しかし、今では彼がそんな風に育ったのも……

 この国で十数年程過ごして、ようやく……理解できた。

 

 同時に彼を愛せた理由もなんとなくだが、感じ取れたように思う。

 この十数年は、私の長い人生の中で恐らく……

 

 忘れることのできない期間だ。

 その気持ちは、今もそして……これからも変わらない事だろう。

 

「社長……マギサ姉ちゃん――」

 

 どうしたのだろう……春菜が私を見てキョトンとしている。

 春菜は敬礼をやめると、ポーチから……彼女の髪の色と同じ色の――

 ハンカチをそっと手に取り……

 私に差し出すと春菜は……………………口を静かに開く。

 

「泣いてるよ……」

「え……ああ……」

 

 私は春菜に渡されたピンクのハンカチ……毎年、孤児たちの髪の色に合わせて、私が贈った無地のハンカチだ。

 私は渡されたハンカチで目元を拭う。

 

 ピンクのハンカチは……私の涙を多く拭き取っていた。

 自分でも気付かなかったが……思いっきり泣いていたようだ。

 

 私は自身の涙に気づけないほど……『更に』情に脆くなったのだろうか。

 

 春菜や他の多くの戦災孤児は……日増しに募る私の願いと違い。

 PMC入りを望んだ。

 当然だが、私は反対した。

 もう愛しい者達を失いたくないのだから、当然だ。

 私は必死に春菜達を説得しようとした。

 

『わざわざ、危険なPMCに入らなくてもいい』

『金銭面や就職先、進学先も私が支援する』

 

 しかし、反対する私に春菜達は口を揃えて、皆反論してきた。

 

『マギサ姉ちゃんの会社に入るから支援して!』

『私達だってマギサ姉ちゃんを守りたい!』

『弟や妹達を守りたい!』

 

 などと言われた私は……反論できず。

 その場で、春菜達と共に泣き崩れていた。

 やはり赤子の頃から支援してきたのだ。

 情が移ったのだろう。

 

 だが……春菜達に出会った当初の……愛する人を失い……冷たかった時代の私の思惑は、皮肉にも実現したと言えるだろう。

 

 自分の過去の冷たく鋭い思惑が……。

 今の私の心には、辛く突き刺さってくる。

 私はそんな思惑に……自分の弱さに負けたくない。

 もう、無力感に苛まれたくないのだ。

 

 春菜達と泣いたその日……私は決めた。

 この子達を……立派な戦士へと育て共に戦い抜く覚悟を……。

 

 

 その頃……。

 

 関東方面では、動きがあった。

 

 

 かつて在日米軍が、駐留していた米軍基地などの軍事施設。

 これらの施設は、第三次大戦中に米軍が撤退して以降。

 安保条約を少々強引な解釈で受け継ぎ。

 思いやり予算も毎年兆単位で、日本政府から湯水の如く支払われている。

 ……………………日本国内最大の民間軍事会社。

 特別軍事法人NEETの基地として、その全てが接収されていた。

 

 

【特別軍事法人NEET 厚木基地】

 

 

 同基地では今現在、空中給油用のプローブを備えた黒塗りの大型輸送ヘリのタンデムローターが激しく回転を始め、滑走路脇から飛び立とうとしている。

 その数は全部で六機だ。

 既に上空には、十機以上の同型機が目的地の名古屋市に向けて飛行を開始。

 離陸待機中のとある一機の機内後部では、黒い戦闘服姿で丸刈りの髪型をした男が、二人シートに腰掛けヘッドセット経由で会話をしている。

 

『隊長、特別調査室戦闘要員 第二陣百五十名、輸送ヘリに搭乗完了です』

『離陸しろ』

『了解! 全機離陸せよ』

 

 大型輸送ヘリは、彼らの会話に合わせるかのように離陸を開始。

 目的地への飛行を開始する。

 

 隊長は、部下にこの場で待機するように命じると、機体中央部へと進んでいく。

 

 

【機体中央部搭乗員シートエリア】

 

 機体後部とは変わり、防音措置の取られた中央部では、特別軍事法人NEETの会長である矢島兄と、その会長を鍛え直している。

 ……………………魔女のエルーナが搭乗していた。

 

 

 

「……いい加減機嫌直してくれないかな~」

「フン!」

 

 矢島兄は、自分の隣に座るエルーナの……ご機嫌を取ろうと必死だ。

 彼はエルーナの方を何度も……チラ見している。

 

 実際、エルーナのその姿は、男なら……チラ見せざるを得ない程、露出が激しい代物だ。

 その姿は、先週彼をアザだらけにした……。

 大食らいな妖精さんとよく似た、民族衣装風のビキニスタイルの衣服を纏い……金髪のツインテールの少女なのだから。

 

 エルーナは……腕を組み、頬を膨らませているようだ。

 機嫌が悪いのだろうが、その顔は何処か可愛げのある表情である。

 

「エルーナ……君に鬼頭の配属先を隠していたのは、彼からの個人的な要望だけじゃない……仕事上の理由もあるんだ」

 

 矢島兄は、シートに備え付けたドリンクホルダーから、ミネラルウォーターの入った、ペットボトルのキャップを開けて飲む。

 

「どうかしらね……ところであんた、先週ツバメを襲っちゃたんでしょ……気をつけなさいよ」

 

 矢島は飲んでいた水を吹き出しそうになり、咳き込んでしまう。

 彼はゲホゲホと息を漏らし……呼吸を整えると再びエルーナに話しかける。

 

「マギサから聞いたのか……」

 

 おかしい……どういう事だ。

 マギサが話すわけ無い。

 彼女は、思いっきり呆れていたが、我が社の新製品の新型装甲車十両をフルオプションで引き渡す事で、口止めに応じたはずである。

 

「ツバメからのメールよ……あんたマギサに感謝しなさい」

 

 エルーナは、そう言うと左手首に装着した腕時計型の端末を起動。

 ツバメからのメールをその場に立体投影する。

 

 その文面は……『エルーナ! エルーナ! どうしよう♪ 遂に矢島に押し倒されちゃったよ……長かったけど遂に私にも春が――――』

 

 要は、女として一種の勝利宣言であろうメールの文面だ。

 

「な……」

「その様子だと……妖精族がどうやって繁殖しているか詳細は、知らないみたいね」

 

 俺の記憶では……無性生殖で増えていると、聞いた覚えがある。

 ……………………確かに詳細は知らない。

 どうせアメーバや、プラナリアみたいに分裂でもするんだろう。

 さっきまで……………………そう思っていた。

 

 クエスチョンマークが、脳裏に浮かぶ矢島に対してエルーナは、疑問を打ち消す言葉を口にする。

 

「繁殖期になると、人間やエルフの男を監禁して……搾り取るのよ」

 

 ガタッ!

 

「なんだって!」

 

 エルーナの発言で矢島兄のクエスチョンマークは、ビックリマークへ変換。

 彼の中に色々と、薄く淫らな衝撃が駆け巡る。

 

「最近、ツバメの従者達が消えているでしょう……」

 

 確かに以前は、ツバメの従者とも言うべき同族が数十人いた。

 かなり賑やかな連中だったが、最近見ていない。

 

「これを見て、矢島」

 

 先週まで十数年……。

 本人には言えないが、なんとなく猫を買う感覚で同居していた……妖精族の衝撃的な事実を今更聞かされた矢島兄……。

 彼は、エルーナが続けて端末に表示した、動画を見せられる。

 

「あ……あぁああ! あいつら何写ってんだよぉおお! エルーナこれ、いつのニュースだ!」

 

 矢島兄が驚くその動画。

 

【衝撃! 厚労兵が妖精に集団拉致される衝撃の瞬間!】

【撮影場所 六甲山】

 

 ……………………そんなタイトルである。

 

 サムネは、森林の何かに引きずられていく……【厚生労働省 疾病対策部隊】と漢字のロゴの入った、白い防護服を着た兵士と……それをロープで縛り上げ……引きずる羽の生えた、小さな覆面姿のゲリラ風の妖精さんが……数体、写された画像だ。

 

 撮影したのは、夜間だったのだろう。

 妖精さん達は、フラッシュを当てられ……。

 ライトを片手で塞ぐ仕草をカメラ目線で、偶然にもしている。

 犯行の瞬間を捉えた、見事な一枚だ。

 

「三日前のニュースよ。明確には、武装難民相手のゲリラ戦を動画配信して、アフェリイトで稼いでいる……ニ✖厨PMCコントラクターの動画に偶々写っていたのよ。この放送主は……なんとか逃げ延びたみたいよ」

 

 エルーナは、他にも某掲示板は当然ながら、既にマスメディアや……身内が拉致された厚生労働省が、動き出している事も矢島に伝える。

 

「今のところ、私の部隊の暇な連中に偵察と監視を現地で、させているけど……お役所の動きは、完全に止めれないわ」

 

「だろうな……対応ご苦労、ファクター候補の件が片付いたら、この事案は迅速に処理しないと、マズイな」

 

「そうね……最もマギサが連れて来る、ファクター候補が使えないと六甲山の事案は、穏便に処理できないわよ。其れこそ……核でも撃ち込む覚悟をしないとね」

 

「其れは、どういう意味だ――――」

 

 矢島がエルーナに話しかけたタイミングで、機体中央部エリアに人が入ってくる。

 其れはヘッドセットを付け、後部で作業をしていた先程の隊長の姿だった。

 彼は矢島に近づき敬礼をして報告を開始する。

 

「会長……少々後部の通信室に御足労頂けますか……社長から通信です」

「エルーナ、六甲山の件も含め後で、マギサやツバメも交えて会議だ。少し外すぞ」

「分かったわ」

 

 矢島は席を立ち、機体後部の通信室に移動する。

 隊長から、空いているヘッドセットを渡され、矢島は装着。

 空いている席に着席して、通信を開始。

 

『どうした弟』

『やばいよ。兄さん……クラウゼがファクターの転移を再計算したら、出現場所が――――』

 

 再び矢島兄に衝撃が走る言葉が今度は、弟の口から容赦なく彼に浴びせかけられる。

 

『先月我が社が、買収したばかりの、名古屋市内のショッピングモールだよぉおお!』

 

 弟よ……ど忘れしすぎだぞ。

 あそこには、テロ保険をたっぷり掛けたではないか。

 社長といってもまだまだ、俺の中では子供だな。

 よし!

 ここは……兄らしい威厳を示すとするか。

 弟も大好きな何処ぞのクールで、マッドな科学者さんっぽく決めるぞ!

 

『弟よっ! 沈まれぇええ! こんな時の為にぃいい~! 海の向こうのデラックスなテロ保険を掛けといたでは、ないかぁああ~だから大丈夫――』

 

『兄さん……その保険会社、海の向こうの会社だよね……さっき経営破綻したみたいだよぉおお!』

 

 

 特別軍事法人NEETに危機が、迫っているのが確定したこの瞬間……。

 其れは……この世界に一人の青年が、強引に送り込まれた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

------------------------- 第13部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第十一話 ファクター候補の到着

 

【本文】

【西暦二千三十年代後半】

 

 金曜日のまだ、青空の残る夏の夕刻寸前の時間……

 

【名古屋市内 ショッピングモール】

 

 民間の大手小売業者が開発して、開業五年目に突入した。

 地上五階建て、吹き抜け構造をした、大規模なショッピングモール。

 開業当初から黒字続きで、多くの近隣住民が日用品を買い。

 ショッピングから、様々な娯楽を楽しむ、ここは正しく。

 

 ……………………憩いの場であった。

 

 しかし、色々と複雑な理由が出来た、日本最大のPMC。

 特別軍事法人NEETによって、先月、少々強引に買収済され。

 今は、同社の系列会社によって、運営されている。

 本日は、金曜日という事情も重なり。

 

 ……………………多くの人々で賑わっているようだ。

 

 正に稼ぎ時の時間帯である。

 そんなモールでは、非常ベルが鳴り響いていた。

 その原因は、時を遡る事……………………数分前。

 

 

 ガシャーン――――!

 

 

「うわぁあああ――――!」

 

 

 

 

 一人の青年が、吹き抜けの天窓に、上空からダイブして直撃。

 防弾仕様の天窓を、容易く木っ端微塵に粉砕。

 絶叫を往年の香港映画スター並に、あげながら――――――――    

 

 ドシャ!

 

 ――――――――緑の茂った植え込みに落下。

 位置エネルギーを喪失して……………………その動きを止める。

 

 ジリィィイイ!

 

 周囲に鳴り響く非常ベルと――――――――

 ……………………彼の周囲に群がる群衆達。

 近くには、カメラマンも、メガホンを持った監督もいない事から。

 アクション映画の撮影で無いのは、明らかだ。

 

「なんだ……飛び降りか」

「どうやって進入したんだ」

「まだ、若いのにカジノで、借金でも抱えたか――――ぉおおお!」

 

 

 群がる野次馬は、驚きの声を上げ始める。

 落下した青年が……………………立ち上がったのだ。

 

 

 

 やべぇ……頭の中が……揺れてやがる。

 一体……何が起こったんだ。

 

 

「痛っ……どこだよ、ここ」

 

 俺は起き上がり……………………周囲を見渡す。

 

 おかしいぞ……俺はさっきまで、名古屋のムーンバックスに居た。

 ……………………その筈だ

 そして……女子高生と、話していた。

 

 それになんだ……ここは、どっかのモールだろうか。

 周りの人は皆……………………夏服か? 

 ここは、日差しが強いし……なんか冷房も効いている感じがする。

 

 理由がわからないぞ……。

 一体この状況は、それになんで……………………昼になっているんだ。

 さっきまでは……………………夕方だった筈だ。

 

 そうだ……。

 

 ゴソッ

 

 俺は……ジャケットのポーチに入れていた。

 林檎のロゴマークの付いた、黒いスマホと、左腕につけた。

 タフな事で、有名なメーカー製の腕時計で、時刻を確認する。

 

「……………………」

 

 どちらとも同じ時刻と日付、そして西暦をしっかりと表示している。

 時計もスマホも異常は……………………いや、アンテナの表示が圏外で電波が無い。

 ……………………やはり、キャリアをキャッシュバック期間中に変えておくべきだった。

 もしかしたら俺は、薬か何かで眠らされ、その際に、眠らされた当時の状態で……………………上空からここに、落下させられたのかもしれない。

 

 などと、一応状況から考えられる、推論を考え。

 この状況と、自分の確認した時刻を疑いながらも、周囲を見る。

 ……………………既に野次馬の群衆でいっぱいだ。

 俺は直ぐ傍で、こちらを興味深そうに見ている野次馬。

 その中でも、比較的話しやすそうな……アロハシャツを着た。

 ……………………メガネの中年男性に声を掛けてみる。

 

「すみません……ここは、何処でしょうか?」

 

 中年の男は、俺に近づき……驚いた感じであるが、答えてくれる。

 

「ショッピングモールだよ……君、大丈夫」

「ええ、なんとか……それとすみません……ここは、何県何市でしょうか」

 

 中年の男は、俺の言葉に少し驚いているようだ。

 

「県って……君は、若いのに懐かしい事を言うね」

 

 懐かしい? どういう意味だ。

 

「ここは……中部州の名古屋市だよ」

 

 中部州? いや……名古屋市は、分かる。

 でも中部――――!

 男の言葉を聞きながら、俺は……………………周囲を見渡し。

 近くのテナントに貼られたポスターを見て……言葉を一瞬失う。

 

 そのポスターには……………………。

 

 

【日本国防軍兵士募集! 203✖年度 夏期入隊兵士募集開始!】

【連絡先は下記地方連絡部まで御連絡――――――――国防省】

 

 

 などといった文面が、デカデカと記載されているのだ。

 更にそのポスターには、自衛隊の迷彩服に酷似する、迷彩服を着用した。 ……………………アニメキャラも一緒に、プリントされている。

 それによく見ると、ポスターの下部の文字の部分は、自然と動き。

 ……………………本日のニュースなどを、文字で知らせている。

 

 電子ペーパーとかいう、代物だろうか。

 

 こんな広告媒体は、俺の記憶では、まだ手軽に普及していない筈だ。

 俺の置かれている状況は……信じられないかもしれないが。

 ある結論に達し、興奮を抑えられぬまま。

 ……………………再び男に話しかける。

 

 

「す……すみません! い……今は西暦何年何月でしょうかっ!」

「君大丈夫かい? かなり興奮し……今は西暦二千三十✖年八月……あ! ……隊が来たよ――――ぉ……ぃ」

 

 あれ……おっさ……の言葉……と……目が……。

 

 バタン……。

 

 

 数分後……。

 

 

【地下駐車場 前線指揮所】

 

 マギサは、自分が代表を務める民間軍事会社

『魔女の弾丸便』の部隊長クラスと、自分の指揮下に現在置かれている。

 特別軍事法人NEETの特殊部隊隊員の一部を集めて。

 ……………………ミーティングをしていた。

 

 会議は駐車場の空きスペースを使用。

 円形の簡易テーブルを一つ置いて、十名弱が囲む形で行われている。

 先程まで、一緒に話していた春菜以外にも……………………

 カラフルな髪をした、若者が数名、混ざっているようだ。

 彼らや彼女達も、春菜と同様の装備。

 市街戦迷彩色のパワードスーツを身に付けている。

 フルフェイス型ヘルメットは、皆一様に、腰の金具に引っ掛けている。

 

「そうね……ここだと、民間人の避難に、手間どうかしら」

「もうすぐ、帰宅ラッシュの時間ですから、オフィス付近の人の移動が――――」

 

 会議を続けるマギサ達の耳には、通信用のインカムが装着されている。

 だが、一斉に会話を中止。

 インカムから流れてくる……………………通信に耳を傾ける。

 

『此方、NEET危機管理センター、イレギュラー発生。前線指揮所の各員に告ぐ。ファクター候補の転移を確認。場所は、市内✖✖区の我が社のショッピングモール、NEETランドHIKIKOMORI三号店。 現在、警察から委託されたSWATパトロール業務を遂行中の当社の隊員が、現場に急行中! 至急――――』

 

 

 因みに買収前のショッピングモールの名称は、大変爽やかだった。

 森林浴時に、大量に吸える大気中の成分的な、名称だったのだが。

 ……………………今や見る影もない。

 

「みんな出動よ!」

 

 マギサは指示を出し、全隊員が装輪装甲車へ向けて走り出す。

 既に隊員を搭乗させた装輪装甲車は、走行を開始。

 次々と駐車場から発進していく。

 

「社長、我々も現場に向かいますか」

 

 春菜は、マギサに緊張した声色と、表情で尋ねてくる。

 追先ほどまでの予測なら、到着先は市内のオフィスエリア。

 まだ、到着まで二時間以上の余裕が、あるはずだった。

 民間人も避難させた上でファクター候補を救出。

 そして、一緒に付いてくる……………………存在。

『オマケ』を排除する手はずで、作戦を進めていたのだ。

 

 春菜は、本日が初陣である。

 故にマギサは、彼女の状態には……………………特に注意していた。

 急激な状況の変更とスケジュールの繰り上げ。

 初陣の春菜が、緊張と不安を抱くのも、状況的には当然だろうか。

 マギサは経験上、そのように判断していた。

 鉄火場に慣れたマギサは……………………

 初陣の春菜に、サラっと言葉をかける。

 

「当然よ。春菜の分隊は……NEETの戦闘を援護しなさい。それと――」

 

 マギサはヘルメットを被ろうとした……春菜のピンクの髪で覆われた。

 頭を撫でながら……………………春菜に語りかける。

 

「少し緊張しすぎよ……力を抜きなさい」

 

 春菜の顔には笑みが宿る。

 マギサはその笑顔を見て、自身も微笑む。

 

「春菜……突っ込み過ぎない様にね。訓練通りやりなさい」

「はい! 社長」

 

 春菜はビシッと敬礼をして、ヘルメットを被ると装輪装甲車に乗り込む。

 春菜を乗せた装輪装甲車は、駐車場から発進していく。

 マギサも指揮通信機能を備えた、装輪装甲車に搭乗。

 全ての装輪装甲車は、エンジンの唸りを上げて、現場へ発進していく。

 

 マギサは自らが、この世界に強引に、送り込んだ存在。

 ファクター候補の青年を迎えに……………………

 ショッピングモールへと向かうのだった。

 

 

 一方その頃……。

 

 

【特別軍事法人NEET 名古屋支社 地下一階 武器庫エリア】

 

 

【同階層 特殊装備保管エリア】

 

 

 ♪~♪~ピッ

 

 そこには、スマホから流れる、陽気な音楽を止める。

 ……………………ひとりの男がいた。

 

 彼は、先程まで、泣いていた……………………鬼頭である。

 

 かつての上司である、魔女エルーナに配属先が、発覚した鬼頭。

 彼は武器庫エリアで……………………自分専用の特殊装備。

 特殊な出処のパワードスーツを、自分専用の武器庫から取り出し装備。

 腰の金具部分には、フルフェイス型ヘルメットを春菜達と同様に、引っ掛けている。

 

 しかし、彼の装備している……………………パワードスーツ。

 春菜達のスーツよりは、デザイン的に薄い感じだ。

 ウエットスーツとライダースーツの中間に近い印象である。

 

 逆に春菜達の装備しているパワードスーツは、胸部や腹部など。

 人体の急所に相当する箇所を分厚くした。

 ……………………鎧の様な感じである。

 

 鬼頭は、同じく特殊な出処の武器を腰や、腹部のポーチに装着し。

 丁度、一般兵向けの武器庫エリアへ続く入口の『T時路』の分岐に、差し掛かった……………………ところであった。

 

 パン! パン! パン!

 

 突如鳴り響く乾いた炸裂音。

 完全武装間近の彼に降りかかるのは、鉛弾などの物騒な代物でなく。

 カラフルな紙で出来た細長い糸状の物体。

 パーティー用のクラッカーの中身であった。

 

 周囲には火薬の香りが漂い……鬼頭の鼻腔を刺激する。

 

 クラッカーを浴びた鬼頭は、動きを止め。

 まるで、その動きを見計らったかのように、通路の両角から。

 

 ……………………男達が現れ、通路を塞いだ。

 

 立ち塞がる男達は、皆……白色のナウい、感じなツナギを着た。

 筋肉マッチョで、ガンオイルの匂いを、指先に染みこませた。

 ……………………スキンヘッドの皆様である。

 皆様、祝いの言葉を次々と、鬼頭に機銃掃射の如く、浴びせていく。

 

「きぃいい鬼頭くぅん! 現場復帰おめでとぅうう!」

「あぁあんな美人の下で戦えるなんてぇええ~羨ましい限りだなぁああ!」

「ちゃんとぉおお~定期整備は、会長の命令でしっかりぃいい念入りにしといたからなぁああ!」

 

 ある意味……今の鬼頭には、クレイモア地雷の直撃並みに。

 ……………………キツイ言葉の波状攻撃である。

 

 カラカラ……。

 

 そんな心が傷だらけな彼の前に……………………

 キャスターを動かす音と一緒に、心の傷を癒す存在が。

 ……………………曲がり角から、かわいい姿を現す。

 

 其れは……かなり『痛い仕様の手押し台車』であった。

 鬼頭の大好きなアニメ『美少女戦士プリティキュンキュンⅧ』

 そのアニメキャラがプリントされた、電子ポスターを側面に装着。

 電子ポスター下部の文字は、横にスクロールしていく。

 

【絶賛日曜朝八時半放映中!】

【アダルトバージョンは深夜絶賛放送中だぞ!】

【限定版BOXの予約は明日まで!】

 

 などといった、内容が流れる、宣伝仕様でもある。

 

 そんな痛い、台車の上には、米国のパーティーなどに出てくる。

 四角い長方形のシンプルなケーキが載せられている。

 クリームの色は、薄い……………………ピンクのようだ。

 ほのかに甘い香りが、周囲に漂っていく。

 ケーキには、平仮名で一生懸命書いたと思われる……………………

 鬼頭宛のメッセージが描かれていた。

 

【きとうさんいつもありがとう。おしごとがんばって! はるなねえちゃんたちをまもってください!】

 

 そのサプライズケーキを載せた。

 台車を押してきた……………………存在もまた、可愛かった。

 ケーキのクリームと同じ色の……薄いピンクの髪をショートカットで整え。

 お揃いの白いワンピースを着た三人の可愛い、十歳未満と思われる少女達。

 顔立ちがソックリな事から、おそらく三つ子だろう。

 少女達は、鬼頭の前に出て瞳を潤ませ。

 上目遣いで見つめながら……………………言葉を発していく。

 

「おじちゃん……はるねーちゃんたちをまもって!」

「きとうおじちゃんは、すごくつよいんだよね……がんばってください!」

「うっうっ……うわーん! おぉおおじちゃんねえねをたちゅけてぇええ!」

 

 最後に言葉を発しようとした少女は、泣きながらも。

 ……………………必死に言葉を、口にしようとしている。

 

 この三つ子たちは、春菜と同じ戦災孤児だ。

 同じ孤児院で育った、春菜達の妹的存在である。

 少女達は、鬼頭と顔見知りであり、ほぼ毎週会っている関係だ。

 

 しかし、知り合いとは言え……まだ幼いこの子達が何故。

 特別軍事法人NEET名古屋支社のましてや、武器庫エリアにいたのか。

 どうやら鬼頭は……………………事情をだいたい、察したようだ。

 

 鬼頭は片膝を床に付き……目線を少女達に合わせる。

 鬼頭が腕を広げ……その腕の中に少女達が駆け寄り、ハグをする。

 少女達は、三人共に泣き始めるが……………………

 それでも鬼頭に言葉をかけようと、必死のようだ。

 

「うっ、うぅうおじちゃんも……ないているのぉおお!」

「おじちゃんもしなないでぇえええ!」

「ないたときは、まぎねーちゃんやはるねーちゃんもぎゅっ! としてくれるよ。だからねぇ、わたしもするよぉおお!」

 

 鬼頭は再び、号泣していた。

 しかし……その涙は先程、危機管理センターで滝のように流した。

 ……………………悔し涙では無い。

 

 その涙は、少女達の思いに触れ、魂を揺さぶられた。

 再び戦場に立つ存在理由を見つけ、覚悟を決めた漢の涙だった。

 そんな鬼頭に先程、クレイモア地雷の様な言葉を浴びせた男達。

 彼らは、抑揚を付けた声を鬼頭に掛ける。

 

 

「きぃいい鬼頭ぉおおよぉおお絶対にぃいい! 我々ぇええ!」

「銃火器整備班のぉおおアイドルぅううう!」

「春菜ちゃんをぉおおお! 救ってぇえ~ええこぉおおお~ぃいいい!」

「そんなぁああ! 貴様にぃいいこれをぉおお~授けよぉおおおお!」

 

 ガラガラ……。

 

 今度はケーキを載せた痛い台車が来た反対側の角から……。

 別の台車が登場する。

 その台車は、ごく普通の金属製の無骨な、シルバー色の手押し台車だった。

 そして、その上に載せられた物は、更に無骨で角張ったデザインをした。

 

 ……………………黒い物体である。

 

 それも機関部の大きさからして、機関銃、若しくはグレネードランチャーを連想させる、大型の銃火器のようだ。

 そんな無骨な銃の側面には、アルファベットが刻印されている。

 

 …………『soldier crusher』

 

 ソルジャークラッシャー、兵士を粉砕するといった意味だろうか。

 crusherは本来、岩盤などを粉砕破砕する工具や機械等を意味する。

 人体のような水分を大量に含む、対象には本来、不適切な表現だ。

 しかし、昨今の兵士達は勿論、犯罪者ですら高性能の防弾装備で……。

 

 ……………………防御面を強化している。

 

 時勢の変化も考えると、ニュアンス的には、ぴったりかも知れない。

 鬼頭は以前から、そのように感じていた。

 其れは、この銃を運んできた『彼女も』同じく。

 …………思っていることでもある。

 

「私達、銃火器整備班からの選別です。鬼頭さん……どうかご武運を」

 

 彼女も他の筋肉マッチョな連中と同様に、ナウいツナギを着用。

 胸元辺りが、パンパンの巨乳のロングヘアーの、眼鏡っ子だ。

 

「ありがとう。美咲ちゃん――――」

 

 鬼頭が美咲に謝辞を述べた瞬間、スピーカーから緊急放送が鳴り響く。

 

『緊急放送! 名古屋市内〇✖区ショッピングモール、NEETランドHIKIKOMORI三号店で、暴徒と武装集団がゲリラ戦を展開中! 戦闘待機中のSWAT要員は輸送ヘリに搭乗せよ! 戦闘可能な要員は武装開始! 各エリアの警戒を強化せよ! 繰り返す――――』

 

 ピピピッ

 

 鬼頭のインカムにも、同時に通信が入る。

 

『此方危機管理センター。イレギュラーが発生、ファクター候補が五分前に転移、救出に向かった、我が社のSWATパトロール要員が、NEETランドHIKIKOMORI三号店内で、暴徒と武装集団から襲撃を受け交戦状態、民間人に死傷者多数発生! 至急屋上のヘリポートまで移動せよ』

 

「此方鬼頭、了解」

 

 鬼頭は少女達へのハグをやめて……………………立ち上がる。

 彼は美咲が運んできた、ソルジャークラッシャーを抱え。

 …………周囲を見渡し、口を開く。

 

「行ってきます。それと――――」

 

 彼はケーキを指差しながら、照れくさそうに言葉を口にする。

 

「自分の分を、残しといてくれると……嬉しいかな」

 

 鬼頭は、そう言い残すと……エレベーターのある方向へと走っていく。

 

「きぃい鬼頭ぅううよぉおおお~」

「ケーキぃいいいは~我々がぁああ~」

「全部ぅうう~頂くぅううう――――痛っぁああ!」

 

 少女達がナウい、筋肉マッチョの脛を軽く蹴り、言葉を叫ぶ。

 

「おじちゃぁああん! ケーキのこしとくからぁああ」

「マッチョが、ぜんぶたべないようにみはっとくよぉおお~」

「みさねぇもまっているからね~」

 

 鬼頭は、片手で手を振りながら駆け、曲がり角へと姿を消す。

 筋肉マッチョな方々は、脛を抱え床に転がり。

 ウンウンと唸りながら、反省中だ。

 

 

 そんな中、美咲は……鬼頭が過ぎ去った方向を見つめている。

 かつて、自分を助けてくれた鬼頭が再び、あの時と同じ姿。

 黒いパワードスーツを着た、背中を見て……彼女は思う。

 

 

 ……………………ありがとう。

 地獄から救ってくれて……。

 

 

 それは、かつて鬼頭の属していた部隊。

 エルーナ率いる第四魔女小隊に、地獄から救われた。

 ポニーテールの髪型を好んでいた…………少女の姿だった。

 しかし美咲は、大戦後十数年経つが、その容姿は若々しい。

 

 ……………………少女の姿だ。

 

 その理由を知る者は、美咲と彼女達を助けた者達の…………。

 ごく限られた、者達しか知らない、秘密である。

 

 

 

 その頃――――

 

 

 

 

【名古屋市内〇✖区】

 

【ショッピングモールNEETランドHIKIKOMORI三号店】

 

 

【一階 飲食店エリア】

 

 

 タタタタ!

 

 

 ターン……ターン……ガシャーン!

 

 名古屋市警察から、SWAT業務を受注していた。

 特別軍事法人NEETの六人編成のパトロール隊は…………

 警察無線に入った、飛び降り自殺未遂の報を受け。

 

 ……………………現場に駆けつけていた。

 偶々、事件現場となった。ショッピングモールの周囲を……   

 

 SWAT装備でパトロール中だった。彼らSWAT要員のチーム。

 関西海峡東側のこの地は、西日本と違い基本…………平和である。

 

 それでも、ここ中部州内には、ゲリラの発生する地域。

 三河地域などを抱え、やはり油断のできない、土地柄でもある。

 それ故市警察も、練度の高い。PMCにSWAT業務を外注していた。

 

 それでもここ数年は、市内でのテロやゲリラ戦も無く。

 PMCにとっては、楽なイメージが、できつつあった…………

 

 名古屋市内のSWAT業務。しかし、そのイメージは、今まさに――――

 ――――――――百八十度塗り替えられようとしていた。

 

 

 …………………………………………

 

 ターン! ターン!

 

 銃声と警報が、鳴り止まない……戦場と化したモール内…………。

 

 その片隅で…………ほんの数分前。

 

 SWATチームは、まだ息のある、自殺未遂者と思われる……。

 意識不明で尚且つ、身元不明の青年を、無事保護していた。

 青年を自走担架に乗せ、応急処置と搬送準備を終えた直後。

 

 ダッダッダッダッ……ザッ……ジャキーン!

 

 突如上のフロアから、私服姿で覆面をした――――――――

 

 カチャ! カチャ! カチャ!

 

 軍用火器で武装した――――ギャング風の数人の男女から――――

 

 ダダダダダダダダ! ダダダダダダダダ! ダダダダダダダダ!

 

 容赦のない――――――――銃撃を浴びる。

 流れ弾は――――周囲の野次馬にも直撃――――死傷者が多数発生。

 

 同時に――――――――

 

 護身用に武装していた――――民間人も拳銃や――――――――

 PDW型の銃火器で応戦を、各自が開始していく。

 モールを警備していた、自前の警備隊も駆けつけ――――

 

 機関銃やカービン銃で応戦――――――――

 

 モール内は一瞬で、銃声が鳴り響き――――――――

 

 銃弾が飛び交い、火線が交差する。

 命のバーゲンセール会場……戦場へと早変わりしていた。

 

 このアンブッシュ、待ち伏せ攻撃でSWAT要員の一人が死亡。

 上半身をミンチにされ、一瞬で殉職。

 残りの四人は、青年を乗せた自走担架を守りながら、飲食店エリアへ避難。

 コンパクトカービン銃や、軽機関銃…………

 フルオート仕様の散弾銃で、反撃をしながら、現場からの離脱を開始。

 しかし、突如としてモール内に――――――――

 

 ブォオオォオオン!

 

 ……………………空間を揺さぶる、不快な音が連続して鳴り響く。

 

 ガシャガシャガシャーン! 

 

 その直後、天窓の残りをぶち破り――――――――

 人型の何かが――――――――

 

 ズズン!

 

 ……………………大量に舞い降りてくる。

 

 それは緑色で、ツルツルの肌をした、二足歩行の生物だった。

 

 その数は軽く――――――――

 …………数十体を超えている。

 

 舞い降りた、緑色の生物は、猫背気味で…………デカイ目をしている。

 太い両腕には大きく――――――――黒い鋭い爪も生え――――――――

 

 ヒュ!

 

 

 その直後、銃声と警報に負けないくらい、人間の――――――――

 

 ――――――――ザシュ! ブシャー!

 

 そこら中から――――――――――――――――!

 

「ぎゃぁあああああああああ!」

「うわぁあああああああああ! モンスターだぁああああ!」

「撃て! 撃てぇえええええええ!」

 

 パン! パパパパーン! タタタタターン!

 

 ――――――――悲痛な叫びが、鳴り響くのだった。

 

 モンスター達は、爪で仕留めた。買い物客を――――――――

 大きな口で――――――――上半身を咥え――――――――ゴクリ!

 

 バリバリグチャグチャ…………ペッ――――ベチャ!

 

 食い殺した、客の亡骸の血や…………骨、内蔵を周囲に撒き散らす。

 そんな、食欲旺盛な個体も見受けられる。

 

 一番初めに銃撃を開始した。ギャング風の男女達…………。

 この武装集団は、そのモンスター達から、攻撃をされることもない。

 むしろ化物達は、ギャング風の男女を、守るかのように素早く―――― 

 

 ザッザッザッザッ。

 

 ……………………布陣していく。

 

 陣形が整うと、モンスター達は、銃で応戦している。

 民間人や――――――――警備隊に向けて――――――――疾走!

 

 ギシャァアアア!

 

 モンスター達は、不気味で不快な雄叫びを上げ――――襲撃を再開!

 武装集団も、上のフロアから援護射撃を加えていく。

 

 だが、化物は警備隊や、武装した民間人に脳天を撃ち抜かれ。

 ――――――――次々と、倒れていく。

 

 しかし、直ぐに倒した数を上回る――――――――

 数のモンスターが――――――――上空から降下して、補充を完了。

 

 しかも、その色彩も赤や青、緑、黄色と多彩で、倒すたびに…………

 

 

 まるで――――――――ぷ✖ぷよの如く、もはや落下してくる有様だ。

 

 

 降下してきたモンスターも、自らの敵に向けて、疾走や跳躍を開始。

 そんな状態で、多数の化物も戦場に、続々と加わっていく訳で。

 

 …………意識不明の青年を、運び出そうにも、運び出せない。

 そんなSWAT要員の彼らは、トイレ付近に移動して…………

 

 

 今現在……………………篭城戦を開始していた。

 

 

 ダダダダダダダダ!

 

「畜生っ! 菊池を殺りやがって……ちきしょぉおおおおお!」

 

 叫び声を上げながら、壁際の地面に伏せて。

 軽機関銃で弾幕を張る隊員は、涙を流しながら、銃爪を絞っていた。

 

 …………彼は銃爪を、絞りながら思う。

 

 まだ此方には、あの化物は余り来ないようだ。

 早く応援が来ないと、幾ら警備が厳重な――――――――

 NEETの関連施設でも…………被害がヤバイ!

 

 ズドドドォン! 

 

 彼の斜め後ろでは、フルオートの散弾銃で――――――――

 モンスターを、弾けさせ――――――――ミンチに変える隊員がいる。

 

 ピピピッ

 

 ――――――――二人のインカムに、通信が入る。

 

「平野! クレイモア地雷を通路にセット! トイレ内部に後退しろ! 綾部は機銃で援護に回れ! C4で壁をぶち抜いて患者を運び出すぞ急げ!」

 

 散弾銃でフルオート射撃をしていた平野は――――――――

 少し後ろに下がり――――――――背中のバックパックを床に降ろす。

 彼は、中から――――――――クレイモア地雷を三個取り出す。

 ――――――――平野は匍匐前進を開始。

 軽機関銃を撃つ綾部は、匍匐する彼を支援する配置を取りつつ――――

 

 ダダダダ!

 

 ――――――――射線を維持、頭上射撃を続ける。

 

 ピーン……カチッ……

 

 ワイヤーと組み合わせて前から、順に壁際に沿って、交互に――――

 ――――――――クレイモア地雷を設置。

 

 トイレ内部に素早く後退を開始。

 彼らがやけに曲がり角の多い――――トイレ内部に後退を終えた――――

 ――――――――その直後。

 

 バァーン! バァーン! バァーン!

 

 クレイモアが炸裂していく。

 トイレの奥で、配電盤の様なパネルを操作していた。

 メガネの隊員が――――――――叫ぶ。

 

「爆発ボルト点火ぁああ!」

 

 ボ――ン! ズシーン! ブチッ!

 

 トイレの入り組んだ、曲がり角の――――上の階に――――

 非常用に、仕込まれていた――――コンクリートの塊が落下していく。

 何体か侵入を試みた化物をプチッと潰して、分厚い壁を構築する。

 トイレの奥で、パネルを操作していたメガネの隊員は、再び口を開く。

 

「よし……神谷! C4は足りそうか?」

 

 小便用の便器の傍らで、粘土の様なC4爆薬を設置していた……

 黒髪ロン毛の神谷は、何やら壁に円柱状の――――筒を当てている。

 その筒には、伸縮自在の、有機ELディスプレイが付属しているようだ。

 神谷と呼ばれた隊員は、紙のような薄いディスプレイを見ながら……。

 …………報告を開始。

 

「松沢班長、壁は壊せますが……ミリ波探査で確認したら、化物が回り込んで、モールを…………既に囲んでいます」

 

「信管を外して、爆薬を回収しろ」

「了解」

 

 神谷から報告を受けた松沢班長は、壁際に移動してメガネを取り。

 壁に背をあずけ、もたれて…………姿勢を楽にしていく。

 松沢班長は、洗面台に小型の通信機を置いて…………

 

 …………操作する隊員に、声を掛ける。

 

「和田、無線の方はどうだ」

 

 

「駄目です…………警察無線は妨害を受けています。我が社の近距離通信インカムには、モール内の警備隊の通信が入ってきますが…………どうもこちらから、外部に繋げなくなっています」

 

「そうか、引き続き通信を試みろ」

「平野、患者の容態はどうだ……」

 

 患者…………マギサが送り込んだ、青年の事だ。

 彼は今、カプセル内で――――――――人工呼吸マスクを装着している。

 

 シュコォォオ…………シュコォォオ…………

 

 どうやら……………………意識がないようだ。

 

 カプセル型の担架は、自走式のストレッチャーも兼ね…………。

 生命維持用の人工呼吸器や、点滴に人工血液で、輸血も自動で行える。

 一種のハイテクロボットである。

 平野は、ストレッチャーのモニターに表示される。

 …………バイタルの表示を見て、報告。

 

「今のところは、大丈夫ですが……容態が悪化したら、自分達の手では、対処できなくなります」

 

 ……………………まずい。

 

 このままじゃ、患者や自分達も全滅だ。

 そんな最悪の想定が、松沢班長の脳裏に浮かんだ瞬間。

 無線を操作していた和田が、吉報を知らせる。

 

「無線への妨害が止みました! 市警と会社の応援がモール周辺に展開を開始! 装甲車計、三十両が展開完了! 武装集団と化物は……東棟に移動しています。買い物客の一部を人質に取って…………東棟で篭城戦を開始!」

 

 

 チームのいる場所は、西棟だった。

 その後、応援に来たNEETの特殊部隊が、壁を外部からぶち壊す。

 今現在、カプセル内で意識不明に、陥っている。

 並行世界から、マギサが連れて来た青年は――――――――

 

 ……………………助かったようだ。

 

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