※この作品はR-18です。

魔女の天下取り マギサの戦い   作:hidenyan

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------------------------- 第14部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第十二話 曲者SWATの面々と異世界を知る者の集結

 

【本文】

 

 ショッピングモールNEETランド HIKIKOMORI三号店。

 ここは、日本最大の民間軍事会社。

 特別軍事法人NEETが、先月買収したばかりの物件であった。

 

 ただ、残念な事につい先程、海の向こうで……

 同物件の多額のテロ損害保険を請け負っていた、保険会社が倒産。

 テロが起きた場合、この物件の損害は、無保険になってしまい。

 今や……非常に、危険な状態と化している。

 

 そんな危険フラグは、新たに、不吉なフラグを続々と立てていく。

 即座に天窓をぶち破り、わざわざ並行世界から失業者が、ダイブを強行。

 植え込みに奇跡的に落下して、なんとか立ち上がるも、即ぶっ倒れ。

 

 ……………………意識不明の重体と化していく。

 

 そんな患者を市警察から、SWAT業務を請け負った。

 NEETのパトロールチームが、搬送しようと駆けつけたら。

 突如として出現した、ギャング風の武装集団が――――――――

 

 ガチャ ガチャ ガチャ ガチャ ガチャ――――――――スッ

 

 ゴツイ軍用銃火器で――――――――カチッ

 ――――――――ダダダダ! ダダダダ! ダダダダ!

 

 大音量のフルオート射撃で、SWATにドッキリアンブッシュ! 

 ――――――――SWATチームの来店を、大量のマズルフラッシュと、銃弾の豪雨で大歓迎する。

 

 チューィイ――――――――ン!  チュィイン――ボォス! ボォス!

 

 武装集団は、SWAT要員や、買い物客の民間人を、容赦せず。

 ――――――――次々と殺傷していく。

 しかし、ここは日本最大の民間軍事会社関連施設である。

 自前の武装した警備隊と、今や日本中どこにでもいる。

 

 ガチャガチャ! ジャキーン!

 

「テロリスト共がぁああ! この瞬間を――――――――」

 

 護身用の銃を、オープンキャリーで装備した――――――――カチッ

 

 パパパパーン!

 

「待っていたぜぇえええ! ヒャッハ――――やっぱりぃいい――――」 

 

 パパン! パパパパーン!

 

「正当防衛の瞬間ってぇええ最高ぅ――――――――ううううう!」

 

 危機意識の高い、プレッパーな民間人も、各個で反撃を開始。

 高濃度な、ノルアドレナリンとドーパミンが、脳内でシェイクされ。

 血走りがちな瞳で、尚且つ――――――――

 ――――――――気持ちよさげな表情で――――カシャ!

 

 ――――ジャキーン!

 

 「リロードだぜぇえええ!」

 

 カチッ――パパパパーン!

 

 マグチェンジを繰り返し、銃爪を絞込み、発砲を続けていく。

 

 モール内は即座に、銃弾飛び交う戦場に早変わり。

 命のバーゲンセールは、盛大に盛り上がっていく。

 しかし、そこに新たな参戦者が……血の匂いを嗅ぎつけ。

 

 上空から――――――――

 

 ガシャガシャガシャーン! ズズズゥドスン……。

 

 ――――――――天窓の残りを突き破り、続々と降下、着地する。

 

 新たな参戦者は、買い物客に――――――――ダッ!

 突進して――――――――大きな腕を振りかざし――――――――シュ!

 

 グシャ! ザシュッ――――――――ブシャァアアア!

 

 ――――――――ビチャァアアアア!

 

「きゃぁああああああ!」

「バケモンがぁああ! 死ねやぁああ!」

 

 パパパン!

 

 鋭く大きな黒い爪で、強烈な一撃を加え――――――――

 ――――――――血飛沫を水圧洗浄機並に、周へ撒き散らす。

 

 こちらは、観客席へモッシュダイブするが如く――――――――!

 

 キシャァアアア!

 

 ノリノリな叫び声を上げながら、ハイテンションで乱入。

 武装の有無に関わらず、人々から無理矢理にでも――――――――

 ――――――――悲痛な悲鳴を搾り取る。

 極めて残酷で――――――――野蛮なスタイルのようだ。

 

 野蛮な参戦者は…………

 

 緑色をはじめとした、カラフルな色でツルツルな、肌をした――――――――猫背気味で不気味な姿をしている。

 

 …………モンスターの登場である。

 

 その瞳も、もの凄くデカく…………不気味である。

 そんなモンスターの瞳が捉え、爪で仕留めた――――――――

 

 人々の亡骸を――――――――

 

 モンスター達は、大きな口でモフモフと咥え始め。

 

 ――――――――ゴクン! ッぺェ――――ベチョ!

 

 血混じりの骨や、内蔵の残滓を、周囲にまき散らしていく。

 捕食を繰り返しながら、各フロアの制圧を開始。

 こうして、命のバーゲンセールは更に、残酷な盛り上がりを…………

 高めていくのだった。

 

 

 数時間後……夜

 

 

【NEETランド HIKIKOMORI三号店 包囲網】

 

 

 NEETランド HIKIKOMORI三号店の東棟。

 そこでは、今現在、化物とそれを従えているであろう。

 数名の武装集団が、非武装の民間人を多数人質に取り……篭城戦を開始。

 

 モールの周辺には、市警察の機動隊は勿論ながら……

 この施設のオーナーである。

 特別軍事法人NEETの戦闘部隊が、包囲を完了していた。

 

 ……………………包囲網後方の市民公園。

 

 そこには、数多くの野戦テント郡が設置され、軍隊並みの武装をした。

 特別軍事法人NEETの戦闘部隊が、集結。

 既に最悪のケースも、想定しているのだろうか。

 

 

 車輌の中には、トレーラーに載せられた……………………

 ……………………戦車と歩兵戦闘車も、部隊規模で混ざっている。

 

 

 そんな、野戦キャンプになりつつある…………。

 公園の片隅には、カービン銃を装備した。

 市警察の機動隊が、警備をしているテント郡があった。

 …………かなりの数の、一般人が灰色のテント内に、出入りを繰り返し。

 出て行く時は、泣き喚く者や、倒れて機動隊に担架で……………………

 医療機関へと、搬送される人もいるようだ。

 

 灰色をした、そのテントには……………………

 ……………………赤い十字のマークが、大きく貼られているようだ。

 

 

 

 

【臨時遺体安置テント内】

 

 

 うっうっうっうっ……

 

 

 

「いやぁああああああああああ! 耕太がぁあああああああ!」

「法子ぉおおおおおおおおおお!」

「なんで母さんが……い嫌ぁあああぎゃぁあああああああああ!」

「ねぇ~お母さん~お父さん……なんで寝てるの? なんか生臭いよぉ~」

 

 赤い十字のマークが貼られた、灰色のテント内…………。

 

 そこは――――遺族の嗚咽や、叫びが鳴り止まない……

 

 ……………………壮絶な場所と化していた。

 

 床には、黒いボディバックに入れられた、遺体がズラリと並び。

 遺族の中には、思わず絶叫中を上げる――――――――

 

「あんたぁああああああ! なんでそこで――――――――」 

 

 虎柄の衣服で上下を決めた――――――――香水臭い。

 ――――――――パンチパーマの、熟女もいるのだった。

 

 

 熟女は思わず両膝を、床につき――――――――ガッ!

 背を反りつつ、両腕を思いっきり、頭上に掲げ――――――――ヒュ!

 

 

「――――――――『生首に』なってんやぁああああ!」

 

 

 それは偶然にも…………プラ✖ーンな姿勢を再現していた。

 まるで、ここだけ前世紀のベトナムの戦場と化そうと――――――――

 

 ――――――――バキッ!

 

 ……………………しないのだった。

 

 この熟女は、その場で両膝の半月板を綺麗に……………………

 コンクリートの床にぶつけ、真っ二つに割り。

 ……………………プラ✖ーンな、イナヴァウアーを決め。

 

 ギックリ腰になると同時に、意識を失ってしまった……。

 その後、即効でテント内に待機していた。

 市警察の警官が、白目をむいた状態の熟女を外へ搬送。

 熟女を搬送する、警官は……思う。

 

 突然の悲報に取り乱すのも、仕方ないだろう。

 何せ、こんな…………………………………………地獄なのだから。

 

 

「嘘だ……嘘だ……嘘だ……嘘だ……嘘だ……こんなのぉおおおお!」

「あぎゃぁあああああああああ! なんで娘の『腕しか』ないんだよ!」

 

 

「なんで! 妻の首から『上が』ないんだぁああああああ!」

「ああああああああ! 姉さんの上半身がないよぉおおおお!」

 

「……………………」

 

 

 そんな中…………

 

 悲観にくれる、遺族が圧倒的に多い。

 この場所に…………一人のスーツ姿の…………

 サラリーマン風の中年男性が、無言で…………とり乱す事も無く。

 

 …………存在していた。

 

 彼は大戦中に、戦闘経験のある元警官だ。

 かつて、極左政権の言いなりになり、民族浄化を放置した組織。

 旧警察組織の腐りきった、現実に愛想を尽かし、組織を大戦中に抜け。

 同じ境遇の者達と共に、ゲリラ戦を戦い…………生き延び。

 

 ……………………終戦直後。

 

 家族全員を大戦で亡くした……まだ幼なさが残った、十代半ばの少女。

 

 現在の妻に出会い…………今日まで一緒に生きてきた。

 

 残念ながら、二人の間に子供はいない。

 その分、近所のスラム街近くにある。

 戦災孤児の住む公的施設へ頻繁に…………ボランティアとして足を運び。

 大戦で親を失い…………施設に放り込まれた。

 愛情が不足しがちな、子供達に愛情を持って、夫婦で接してきたのだ。

 次世代を担う、子供達が人の道を、間違わないように願いつつ。

 笑顔で接し……時に厳しく……長年、我が子の様に…………。

 

 ……………………

 

 それは、第三次世界大戦という地獄と…………

 それ以前の平和な時代を知る。二人だったからこそ出来た。

 夫婦での静かな…………共同作業かも知れない。

 

 それ故に………… 

 

 戦場という名の、生き地獄を見てきた。

 

 …………元防人である彼。

 

 その非常事態への精神的耐性は、常人より明らかに強い。

 彼自身も、日頃からそのように…………自負していた。

 会社帰りに、愛する人の悲報を知らされ。

 息を切らしながら、この場に走って…………駆けつけ。

 

 そして、床に両膝をつき…………変わり果てた妻と対面している。

 

「……………………」

 

 彼の愛する人は…………

 

 凄まじい形相の頭部と、下半身を残して…………ほぼ肉片と化していた。

 妻の遺体を見て……かつての戦闘経験と、そして何より――――

 元警察官の立場から、違和感と疑念を、直感的に強く感じていた。

 

 

 ふざけんな…………犯人は本当に…………武装集団なのか!

 これじゃまるで――――――――

 

 

 

 ――――――――猛獣に喰われたみたいじゃないか!

 

 

 

 彼は、疑念と怒りの混じった絶叫を、心の中で張り上げていた。

 

 そして…………

 

 昨夜、激しく愛し合った…………妻の遺体にすがりつき。

 強烈な怒りと悲しみに、心と体を飲み込まれ。

 そのまま――――――――――――――――

 

 

「ああああああああああああ!」

 

 

 ……………………泣き崩れていった。

 

 このテント内には、このような遺体の一部しか存在しない。

 …………ボディバックもあるのだ。

 それでもなんとか、安全の確保されたエリアから回収され。

 身元の判明した、遺体の一部が…………丁寧に、納められていた。

 

 しかし――

 

 遺体の一部でも、回収され。素早く身元が、判明した者は――――

 ……………………まだマシだろう。

 近隣の警察署や、PMC関連の施設には、約千名以上の肉片が集められ。

 

 …………被害者の特定作業に、追われているのだから。

 

 そんな大量の犠牲者の、特定作業に追われている。

 市警察の警察署には…………。

 

 

 

 仲間を失った、SWATチームの姿があった。

 

 

 

 

【名古屋市警察 第八番分署】

 

 

 

【三階 SWAT隊員待機所】

 

 

 

 ドガシャァアアア――――ン!

 

 

 

「ちっきしょぉおおおおおおおお!」

「落ち着け神谷! 何回もデスクを殴るんじゃねええ!」

 

「班長! なんで俺達だけ、署内で待機なんですか!」

「さっき、ハゲ眼鏡経由で……本社から、指示が来たんだよ」

「…………」

「箝口令だよ……あの化物を目撃した俺達や、他の連中にも出ているそうだ」

 

 ……………………

 

 待機所内には、異様な静けさが――――――――ガシャーン!

 …………篭る余地は、全くないようだ。

 

 バラバラ…………

 

 何やら、窓際の事務用デスクの中央には、不自然な窪みが……。

 …………大量に出来ている。

 そのデスクの、周囲の床には事務用品や、栄養食品の空箱が散らかり。

 …………後掃除が大変そうだ。

 そんな、荒れ果てたデスクにドカっと。

 黒いタクティカルブーツを履いた…………足を、神谷隊員は乗せている。

 

 

 

 他の隊員は皆、普通に着席して、栄養ドリンクを飲み。

 手元のペーパータイプのスマート端末を操作したり。

 自分達のチームが遭遇した、ニュースを閲覧中だ。

 

 さて、さっきからイラつきまくっている。

 ……………………このSWAT隊員。

 

 

 神谷隊員 25歳。 性別男性、独身 

 趣味は、屋外射撃とバーベキューである。

 

 トレードマーク、黒髪のロン毛。

 

 ――――補足事項、若いので今のところ特に無し。

 

 

「松沢班長、あんたは菊池が殺られて…………悔しくないのか」

「…………和田、俺だって悔しいよ。だが――――」

 

 

 和田隊員 43歳 性別男性、 離婚経験が三回 

 趣味は、愛犬と戯れる事である。

 

 トレードマーク、致命的な猫アレルギー。

 因みに元陸上自衛隊普通科上がり。

 

 ――――補足事項、離婚経験が多いが一応常識人で特に無し。

 

 

「化物が出たんだぞ! それもゲームでしか、見た事ないような……しかも――――」

 

「統制された、動きをしていた……知能も高いでしょうね。あの化物」

「そうだ…………平野」

 

 

 平野隊員 48歳 性別男性、 特定の女は要らない派 

 趣味は、クレー射撃とハンティングである。

 

 トレードマーク、ワインとブルーチーズが好物。

 私生活でも常に、特注のナイフ数本と、大口径リボルバーを好んで装備している事。

 昔なら、即檻の中にぶち込まれそうな、プレッパー上がりの男だ。

 

 ――――補足事項――――

 

 こんな自由奔放な感じだが、平野はボランティア活動を毎月欠かさない。

 ――――――――中々、社会奉仕派な男である。

 

 州内の、とある公立中学の部活動の外部顧問は、彼の生き甲斐でもある。

 三ヶ月に一回は、三河地域での野外実習を、一週間丸々使い実行する。

 

 因みにその部活動と野外実習は、一部の人権団体からもの凄く。

 

 

 ……………………目の敵にされている。

 

 

 彼は、目の敵にされる事について――――――――

 

 ――――――――訳がわからないよ。

 

 ……………………常日頃から、そのように思っている。

 しかし、彼が顧問を務める部活名を見れば、人権団体が喚くのも明白だ。

 

 

 その名も――――――――『対ゲリラ戦技術実践機動部』である。

 

 

 野外実習は当然、本物の廃墟や、山間部での技術の実践だ。

 弾代も部費でガンガン落とせて、うまくすれば何倍にもなって……。

 …………とある貢献をする事で、回収可能な実益要素もある。

 社会貢献的な側面も併せた、公益性もある部活動だ。

 高校では、単位も取得できる、その様な立派な対象である。

 

 唯、名称だけを見れば、幾ら合法的な活動だろうが。

『少年兵を育成してる!』などと…………。

 言いがかりを付ければ、どんな人権団体も動き易い。

 …………そんな、ところだろうか。

 

 尚、この手の部活動は…………

 

 特に九州共和国のお隣、西日本では、かなり本格的に行われている。

 

 

 その光景は――――――――

 

 

 陸では! テクニカル車両や、軍とPMC払い下げの――――――――

 ――――――――弾痕だらけな、装甲車や戦車が疾走! 

 

 海では! 中古の哨戒艇や民間船舶を魔改造して――――――――!

 ――――――――離島や沿岸部で、微妙にノルマンディーな揚陸!

 

 空では! 中古の軍用ヘリが飛び回り――――――――!

 ――――――――練習機を改造した、軽攻撃機での対地攻撃も行う!

 

 

 など完全に、硝煙と砲声が轟き、大地が抉れる。

 ……………………立派な戦場である。

 

 

 この部活動…………スリルな青春が過ごせ。単位も取れる。

 何やら、偶に小遣いも手に入ると、学生達には大変好評だ。

 但し、生存している学生の間では…………と、但し書きがつく。

 …………正に、死人に口なし状態である。

 

 最も、入部前に入部書類内には、部活動中の――――――――

 死亡は自己責任であるとの、記載がデカデカとされている。

 しかし、それでも人権団体からの視線は、厳しい部活動でもある。

 

 そんな――――――――外野の視線などお構いなしに――――――――

 

 毎年入学シーズンは、部員勧誘という名の、欠員補充が…………

 西日本の各中学、高等学校では、もの凄ぉおおお~く! 盛んである。

 

 ――――――――さて

 

 そんな戦闘技術の実践には、当然のように『的が』必要である。

 しかも、その的はわざわざ、設置しに行く必要がない。

 決して、ハイテクな仕様の的という、訳では無い。

 寧ろ、社会的には是非とも、迅速に破壊すべき、『対象』なのだ。

 

 その対象とは…………

 

 

 

 

 ――――――――正真正銘のゲリラである!

 

 

 今や完全にゲリラ化した、元似非市民団体の残骸――――――――

 旧統合派ゲリラの残党を筆頭に、大戦中に脱獄した元凶悪犯は勿論。

 大戦後に罪を犯し、逃走中の、国内外の凶悪犯罪者達が――――――――

 ――――――――ほぼ毎年、万単位で西日本に補充されている!

 

 

 今のところ、これら『懸賞金対象』のゲリラの絶滅は、先ず心配ない!

 最早西日本の現状は、治安崩壊なんて生温い。

 

 ……………………そんなレベルでは、ないのである。

 

 但しPMCが支配する植民都市は、分厚い壁と多数の兵器に守りを固められ、ゲリラ程度では、攻略が出来ない…………要塞都市である。

 

 そんな植民都市内部は…………

 

 平和な時代の…………日本が再現されている、楽園と言えるだろう。

 そのような、最高の生活環境に住んでいるのは、日本国民や正式な市民権を持つ、法的にも経済的にも、恵まれた一部の者達だけである。

 

 壁の外に住む人間は、大戦後の日本の法的には、不法滞在者や密入国者に、該当する者達である。

 彼らのほぼ全ては、大戦後のドサクサに紛れて、住み着いた部類だ。

 因みに、出生率は日本人以上で、局地的な人口爆発も懸念されている。

 

 

 さて…………。

 

 

 平野の教える部員の生還率は、創部以来90%代とかなり高水準で推移。

 教育委員会と、保護者からの受けも……今のところは、概ね。

 

 

 …………まだ良好である。

 

 

 カタカタ…………カタカタ…………カタカタ

 

 

「班長、あの時間帯にモールの上空を、飛んでいた航空機は皆無です。ったく、あの死に損ないのVIPは、どうやって飛び降りたんだよ……」

 

「綾部、他に周囲の防犯カメラや、州軍の準天頂偵察衛星から、当時の情報は、入らないか?」

 

「ちょっと、待って下さい……アッ……あ~ダメだ! 完全に国防軍が回線ロックしてますよ! お手上げです! 一応自動検索掛けて引っかかるの待っときます」

 

 美少女アニメキャラのグッズで溢れかえった、デスクでキーボードを叩く、このPCオタクと、スーパーハカーな香りのする男…………。

 

 綾部隊員 38歳 性別男性、童貞でノンケ 

 趣味は、料理と銃器改造、PC製作にアニメ鑑賞と多彩。

 

 トレードマーク、美少女戦士プリティキュンキュンが大好き。

 初代から全員オナペ…………嫁にしている。

 

 或る意味、変態紳士と魔法使いの究極形態に到達した、希少で数少ない存在だ。

 

 ――――補足事項――――

 

 元引きこもりだったが、中坊時代のサバゲ経験と、影の薄さを生かし、大戦中に統合派ゲリラを背後から度々襲撃して、動画配信していた。

 …………恐るべき、元ネ✖ウヨである。

 何故か、動画のタグは職人によって、度々ナウい編集をされ、当時の仲間達から、ホモ疑惑を何度も指摘された……………………かなり辛く、苦い経験がある。

 

 …………だが、それも仕方ない。

 敵に接近するときに思いっきり、アノ手のナウい。

 アッ――――――――! な叫び声を、上げていたのだから、弁護の余地がない、完全に自業自得…………身から出た錆である。

 

 当然のようにコメント欄は、大量のWと、アノ顔文字でいっぱい。

 …………草不可避の大草原状態である。

 時間が経つと、統合派ゲリラにも次第にネット上でホモ扱いされ……………………度重なる精神攻撃で戦意喪失で敢え無くダウン。

 

 失意の中、自家製シェルターに引きこもる寸前……。

 奇跡的に終戦となった。

 

 因みに今は、頭髪が薄くなり始めているのが悩み。

 市警察婦警の間では、密かにハゲキュンの愛称で呼ばれている。

 だが、彼はその事を知らない…………他の隊員は知っているが…………公然の秘密である。

 

 

 コンコン…………キィー…………バタン。

 

「入るぞ~NEET共」

 

 

 ……………………

 

 

 待機所の入口に一斉に――――――――隊員達の視線が集中する。

 そこには、市警察の黒い制服を着た…………頭部のてっぺんが輝く。

 眼鏡を掛け、小太りで褐色な肌をした。やけに白い歯が目立つ…………体脂肪率の値が高そうな、ハゲ眼鏡の中年男性がいた。

 胸元には、金ピカな階級章を付け、管理職な雰囲気を漂わせている。

 

「なんすか…………署長」

 

「松沢、お前達にお客様だ…………署長室まで全員ついて来な~」 

 

 

 

 さて、その頃…………

 

 

 

【NEETランド HIKIKOMORI三号店 包囲網】

 

 

 

 

 モールを包囲する部隊の中には当然、彼女達もいる。

 そう……………………魔女の弾丸便の、春菜達の姿もあるようだ。

 春菜達は、再び作戦の変更を余儀なくされ……今は車内で、待機中のようである。

 

 

 …………………………………………

 

 

【魔女の弾丸便 装輪装甲車内後部 搭乗員スペース】

 

 

「ねぇ~春菜隊長、私達って出番あるんですかね」

 

 春菜の隣に座る、真っ赤な髪をした長髪の少女は、陽気な声で…………。

 

 春菜に話し掛けている。

 

 真っ赤な髪の少女は、背筋を伸ばして……あくびを始める。

 余程、退屈なのだろう。

 あくびをしたこの少女は、目の前のシートに座る。

 何やら、クールな感じを漂わせる。

 …………オレンジ色の髪をした少年に、声を掛ける。

 

「ねぇ~誠は、どう思う?」

 

「どうだろうね。マギサ社長の話じゃエルーナ教官の部隊が、厚木から来たみたいだし、もしかして……出なくて、いいかもしれないよ、紅菜」

 

「え~! あのババァ来てんのかよぉおお~最悪なんだけど!」

 

「紅菜、あなたがそんな事を言うから、私達の分隊だけ、訓練が特別ハードになるのよ」

 

「春菜の言う通りさ。君は、何でも直ぐに口にする。そこを直さないと、折角の美人が台無しさ」

 

「なによぉ~二人共……」

 

 紅菜は誠に、美人と言われたのが嬉しいのだろう。

 …………モジモジして、頬を染めている。

 

 実際、彼女は美人だ。

 

 私より胸も大きいし、モデル並みに顔も…………全身のスタイルもいい。

 街中に出れば、ナンパもほぼ毎回されている。

 何故か私には…………スケベなおっさんが、指を立てて、寄ってくる。

 そしてスラム街のホテルに、股間を膨らませ…………誘って来るのだ。

 

 その度に私は…………両手の指を全部立てろと思う。

 

 そうすれば、その汚い指を全て、前蹴りで一度にへし折れる。

 正直なところ、堂々とナンパもしない輩には、そう思ってしまう。

 最も最近は、そんなスケベなおっさんの殆どは、私を見ると…………

 

 猛ダッシュで、逃げていく。

 

 実際何度か、しつこく絡まれ。

 連中の指とスケベな心をへし折った、そんな経験が、私にあるからだ。

 

 私はどうやら、連中のブラックリストに載っているのだろう。

 いつか拉致されて、如何わしい行為をされないか怖いので…………

 

 カチッ……。

 

 常に拳銃は携帯している。

 

 こんな私と違い、紅菜の性格は、基本的に前向きで明るい。

 故に後先考えずに、突っ込むところもあり……………………

 仲間としては訓練や、実習で苦労することも、多々ある。

 だが、紅菜の魔術の腕前は、マギサ社長やエルーナ教官ですら、認める。

 

 ……………………威力だ。

 

 だから、力押しの傾向になりがちで、そこは私達がカバーしている。

 

「春菜、暇だからテレビ見てもいいかな?」

 

 誠がそういうので、私は少し横にずれて、紅菜との間に空間を作る。

 誠はその間に、入ってきて…………シートに座る。

 

「まっ! 誠」

 

 紅菜は、慌ててしまう。

 どうやら……私達の会話を聞いていなかったのだろう。

 

「テレビ起動、音声リモコン起動」

『認証します。番組は何がいいかな~はるなちゃん』

 

 私がそう言うと、大戦前に流行った。

 ボカロとやらの音声で、返事が返ってくる。

 このシステムは、マギサ姉ちゃんの古くからの知り合いのが作った。

 ……………………愛情のこもった自家製だ。

 作ってくれたのは、黒い猫耳と尻尾の生えた、優しいおっさんだ。

 

 おっさんは、私達の孤児院で、私達の面倒を今でも見てくれている。

 何やら、おっさんも色々と事情があり…………住んでいるのだ。

 因みに、おっさんの調理の腕前は、最高である。

 

 特にイタリアン関係は、最高の味。

 

 反対に、マギサ姉ちゃんやエルーナ教官の腕前は、単純に拷問だ。

 残念ながら其れは、二人も認める弱点である。

 故に、みんな触れないようにしている事だ。

 ……………………ローカルルールと言うやつである。

 

 

「中部州のニュースでお願い」

『はいな~』

 

 ウィーン……カチッ。

 

 私がそう言うと、誠の座っていた壁際の天井から――――――――

 薄い透明なスクリーンが床目掛けて降下。

 床に触れると…………停止する。

 有機ELスクリーンが発光して、ニュース映像を表示。

 トップニュースは当然、目の前のモールでのニュースである。

 

 

 …………………………………………

 

 

『え~私の居るこのビルから、南に見える。巨大なHIKIKOMORIの看板のある、あの施設。つい先月、特別軍事法人NEETによって買収されたショッピングモールになります。あそこが……今回、武装ゲリラ篭城事件の現場になった場所であり、本日は週末という事も重なり、同モール内に店舗を構える。Wマートの半額セール目当てに、多くの――――――――』

 

 

「やっぱり……オマケ、いやモンスターの事は、伏せているね」

 

 誠が、レポーターの中継を見て、静かにつぶやく。

 確かにオマケの事は、国防軍とPMCくらいしか知らない存在。

 そのように、上司としてのマギサ姉ちゃんに教えられた。

 今回みたいな事件だと、隠蔽工作も大変そうだ。

 

「しっ! 仕方ないんじゃないかな。一般人が混乱するだろうか、から……そっそうだよねっ! 春菜」

 

 紅菜も言葉を噛みながら口にする。

 余程、誠を意識しているのだろうか。

 

「そうね紅菜…………でもWマート半額セールだったんだ」

 

「…………みたいだね春菜、あ~あ先週買いに行っとくんだった…………今度3人で行く?」

 

「いっ! いいわよ誠、はっ春菜もいいわよね!」

 

「ええいいわよ。どうせ、暇だし……でも、三号店は無理っぽいから、二号店が近場かな」

 

 誠が紅菜の事をどう思っているかは……私には分からない。

 少なくとも、嫌っていないのは、誠の紅菜への態度から伺える。

 

 紅菜は…………チラッ

 

 誠に見えないような角度で『ウシッ!』とガッツポーズをしている。

 きっと、服装のコーディネートで、脳内が忙しいに違いない。

 

「二号店…………ああ、真希さんの研究所の直ぐ下だから、泊まり掛けで行くのが……いいかな」

 

「!?」

 

「そうね。電車代も高いから、月曜日にNEETの部隊移動に同行して、こっちに戻れば、安全で安上がりかしら。ねぇ紅菜――――――――?」

 

 ――――――――ゴン!

 

 紅菜は、誠の提案した泊まり掛けプランで――――――――

 完全に頭が……沸騰したようだ。

 壁に頭をぶつけ、いつものようにボッーとしている。

 ほっとけば、その内治るので、私と誠は紅菜をそっとしておく。

 ……………………きっとそのほうが、デレデレした。

 彼女の顔と同じ状態の、脳内にもいいだろう。

 誠絡みの事になると、緊張気味し易い紅菜。

 今の彼女には、程よいドーパミンの放出は、極めて重要だ。

 

 

「それにしても……さっきのマギサ姉ちゃん、ヤバかったよな」

 

 誠が私と紅菜も気にしている事を、サラっと話題に振る。

 …………確かに誠の言う通り、数時間前に見た。

 

 マギサ姉ちゃんは、泣き崩れてヤバかった。

 

 矢島会長と、エルーナ教官が付き添っていたから――――――――

 大丈夫だと思うけど……。

 

 ……………………どうなんだろう。

 

 

 その頃……

 

 

 名古屋市内の、特別軍事法人NEET傘下の医療機関。

 そこには、マギサと彼女に付き添う、矢島兄の姿があった。

 流石に、エルーナは実働部隊の指揮官である。

 彼女は途中で、現場のモールへと引き返していた。

 

 

【NEET関連医療施設】

 

【VIP入院室】

 

 

 警備も軍事施設並みに厳重な…………。

 NEETの医療施設、そのVIP専用の入院室。

 ここには、十数年ぶりに同じ顔ぶれが……揃っている。

 

 一人目は、特別軍事法人NEETの会長を務める矢島兄だ。

 彼の命を狙う者は今や……国内外に数多くいる、超大物の人物である。

 

 

 二人目は、この世界に転移して来た青年の存在を知らされ。

 急遽この場に来た黒い猫耳と、黒い尻尾を生やした…………おっさんだ。

 彼は矢島兄から猫、もしくは猫耳と呼ばれている。

 おっさん猫は……春菜達、戦災孤児の面倒を今でも見ている。

 特に孤児院のちびっ子達に、人気者だ。

 

 猫模様の白黒スウェットと、三毛猫柄のエプロンを身につけたまま。

 ……………………颯爽とご登場である。

 きっと、家事作業中だったのだろう。

 

 

 三人目は、先週まで矢島兄と同居していた。

 ……………………一人の妖精族の女の子。

 発情期に突入したばかりの、妖精族のツバメ嬢である。

 因みにツバメさん、従者の妖精さん達も、めでたく発情期に突入。

 しかし、海峡の向こう側の六甲山に、従者の妖精さんが集団逃亡。

 ゲリラ化して、下克上待ったなしの、詰んでいる状態にも突入。

 少しピンチだが、大飯食らいで、明るい性格の妖精さんである。

 

 今は、矢島兄の肩に乗っかって上機嫌なご様子だ。

 

 

 そして残りは…………ひと組の男女だ。

 

 マギサは、矢島兄に着せられたっぽい。

 NEETのロゴ入りの、青い防弾パーカーを羽織っている。

 

 片方は、異世界の魔族で魔女のマギサだ。

 彼女は今現在、民間軍事会社『魔女の弾丸便』の代表を務めている。

 業界内は勿論、政財界やネット上でも、意外と有名な存在だったりする。

 

 そして最後の一人は数時間前、この並行世界に転移してきた人物。

 パラシュート無しで、ダイブを決めた。

 失業中のガチで、無職の青年である。

 

 今は、真っ白な入院着に着替えている。

 …………残念ながら、彼は意識不明だ。

 

 最も彼自体、マギサ達と同席するのは『今回』が、初めてである。

 マギサは……青年の眠るカプセルの横に椅子を置き、静かに座っている。

 彼を見つめ……マギサは、十数年前……。

 もうひとりの『彼と』過ごした…………時間を思い出していた。

 

 

 

------------------------- 第15部分開始 -------------------------

【第3章】

第二章 異世界の軌跡

 

【サブタイトル】

マギサ達の軌跡 序 救済の地に集いし者達

 

【本文】

 

 

【十数年前……異世界のとある歴史的聖地】

 

 

 私は、久しぶりに、この坂道を歩いている。

 まだ私が幼き日に、母が率いる……大勢の従者達に囲まれ、この道を歩いたのを私は…………今でも覚えている。

 そんな私は、母に聞かされた…………この世界の神話を思い出していた。

 

 …………遥か昔の神々の生きた時代。

 

 神々は、自らに似せて様々な【人】を創造していた。

 神々は競うように、多くの世界に自ら創造した人々を送り込み、他の神々の創造した人々と競い……戦わせ……喜びに満ちていた。

 

 しかし、神々の中には、その行いを是としない。

 

【こころ優しい神々】もいたそうだ。

 

 そんなこころ優しい神々は、自らに似せて創造した人々を自らの住まう。

 

 楽園のような――――――――喜びと幸せに満ちた。

 ――――――――世界に住まわせ、我が子のように愛でていた。

 

 だが……こころ優しい神々に愛でられていた人々の中には、こころ優しい神々の言いつけを守らず、【賢い神々】の言葉に耳を傾け、多くの知識を得ていき、やがて……知恵を身に付けてしまう……非常に好奇心の強い、賢き者達がいた。

 

 其の者達の中からは、次第に神々の秘技であった【魔術】を扱う者達が現れ始める。

 其の者達は、こころ優しい神々の怒りを買い、こころ優しい神々の住まう楽園のような、世界から追放され…………この地上に降り立ち【魔族】の始祖となった。

 

 だが……こころ優しい神々は、魔族の持つ――――――――

 ――――――――知識と知恵、魔術を非常に恐れた。

 

 心優しい神々は、魔族の住まう地上に――――――――

 ――――――――自らの血を分けた存在、【人間】の戦士で構成された……………………軍団を送り込む。

 

 こころ優しい神々は、恐怖に駆られ…………魔族を滅ぼす決断を下したのだ。

 

 しかし、その戦いを知った…………別の神々がいた。

 魔族に知識と知恵を与え、魔術を使えるようにした神々――――――――賢い神々である。

 

 

 賢い神々は、魔族を哀れみ。

 魔族を助けるために【自らに似せた】様々な人々の軍団を地上に送り込んだ。

 それは、エルフや竜人などをはじめとした。

 ……………………大規模な亜人達の軍団であった。

 

 戦いは激化し、多くの血が流れ――――――――

 ――――――――その血の流れの源と同じ数だけ、命が失われていった。

 

 こころ優しい神々の世界も、戦火によって焼き払われ。

 多くの神々が、死に絶えていった。

 ……………………こころ優しい神々の生き残りは、激しく後悔する。

 

 そこで……………………

 

 こころ優しい神々の生き残りは、争いを鎮める為に一つの決断を下す。

 それは、人々の魂を覆う決して、目に見えることのない。

【黒き炎】の数と同じ数である【108回】だけ等しく、神々が各々の人々に予め定めた、寿命の期間内であれば、生き返る機会を得る事が可能になる術であった。

 

 こころ優しい神々の、最後の一人である若き女神は……………………その術を完成させるために、その身を【黒き炎】で焼き払い。

 女神の身から生じた、光り輝く灰で地上を覆った。

 

 それは、新たな秩序を世界に組み込む……………………最後のこころ優しい神々の行いだった。

 

 

 それ以降地上では、魔族以外の種族も神々の秘技である、魔術を使えるようになり……以後、若き女神が完成させた術を施される、その機会は【救済】と呼ばれるようになった。

 

 

 ……………………

 

 

 私が歩きながら思い出しいていた話は、一般的に……常識に分類される。

 ……………………そんな類の情報だ。

 この世界の歴史、それも神話と呼ばれる類の話で軽く。

 一万年以上前の出来事である。

 しかし……その語り伝えられてきた。

 その全てが事実であるかは……………………定かでない。

 

 

 ――――――――私、否……私達は――――――――

 

 

 幼き日に母から聞かされた、神話の概要を思い出しながら、その神話の舞台になった、場所の入口へと歩いている。

 道は綺麗に舗装され……薄い灰色をした石畳の坂道だ。

 

 道の両脇には、ギッシリと白い壁と屋根で統一された――――――――

 ――――――――商店が立ち並んでいる。

 

 この街を遠くから見たときは、赤茶けた荒地に――――――――

 ――――――――白い島が浮いている様に見えた。

 

 私の仲間は、茹だるような暑さの影響からだろうか――――――――

 

 彼らの故郷の氷を使った、デザートの話題を頻繁によくしていた。

 このメンバー内に、氷系の魔術を使える者がいない。

 その厳しい事実も、話題を盛り上げるのに一役も二役もかっていた。

 

 そんな訳で、この街についた直後――――――――

 ――――――――私達は真っ先に、飲食街に直行してデザートを貪った。

 

 行き先は、私が昔ここに住んでいた頃に友人と行った店だった。

 愛想のいい女主人のエルフが、私の事を覚えていてくれたので、色々とサービスしてくれて、みんな満足できた。

 

 女主人の話によると、当時の友人もここで、先日大量にデザートを食べて、腹を膨らませ……売上に貢献していたようだ。

 おそらく…………後で、嫌でも顔を合わせるのだろう。

 

 ザワザワ――――――――

 

 …………チラッ

 

 ――――――――ガヤガヤ

 

 両脇に並ぶ商店には、この地の特産品は勿論ながら。

 生活用品や食料、巡礼者の護衛をしている。

 傭兵向けの武器、防具などを扱う店も並んでいる。

 商店の多くは買い物客で賑わい……活気に溢れているようだ。

 

 私は丘の下の宿場町から――――――――

 ――――――――私を含む四名の仲間達と、この坂道を歩いている。

 

 元々この地域は、日差しが強い――――――――

 ――――――――大陸内陸部の荒地に位置している。

 

 私と仲間もこの地の住民が、日常的に外出時に纏う。

 茶色いローブでその身を覆っている。

 しかし、この地の暑さは慣れないもので……仲間たちも暑そうだ。

 汗をローブに滲ませている。

 道すがら、何人も私達と同じ様な格好をした者たちが、すれ違っていく。

 地元の巡礼者や世界各地からこの地に来た……巡礼者達だろう。

 その中でも身分の高い女性と思しき者は、黒をベースとした布地に各々の家の紋章を金糸や銀糸で、刺繍したローブをその麗しき身に纏っている。

 

 その手の高そうなローブには大抵、冷暖房術式が組み込まれている。

 ローブの内部は快適そのものだろう。

 残念ながら、私達にそのような金銭的余裕はない。

 故に我慢するしかないのだ。

 

 そんなローブを身に纏う者の周囲は、当然ながら……。

 数名から多い者で数十人の屈強な護衛に囲ませている。

 護衛は【魔斬撃】を放つ大剣や、手軽に【魔力弾】を撃ちだす短槍、同じく魔力弾を撃ちだすのには、少々慣れが必要な腕に装着した【魔手甲】などで武装した。

 

 人間や亜人の戦士達だ。

 おそらく傭兵の類が、大半だろう。

 その中でも一際……悪い意味で目立つ者達もいる。

 

 護衛に多数の【新オーク】単純にオークと呼ばれる。

 人工生物を使っている連中だ。

 

 オーク達は、其のたくましい筋肉質の身に革製の鎧を着用し素足だ。

 手には片手用の剣や斧、棍棒を握り締め武装している。

 そんなオーク達は、薬漬けにした性奴隷の人間やエルフの娘を鎖に繋ぎ。

 

 わざわざ……民衆に見せびらかす様に――――――――

 ――――――――露出の多い薄着で歩かせている。

 

 時折、オーク達は娘達の尻を触ったり……興奮した者は、胸を強引に揉みしだいたり……その汚い舌で娘を舐め回したりしている。

 

 そのような悪趣味を持つ、オーク達をわざわざ雇用する物好き。

 悪趣味に理解ある雇用主は、冷暖房術式を組み込んだ――――――――

 ――――――――かなり値の張る天幕で覆った。

 

 御輿をオークに担がせている。

 

 雇用主は、御輿に優雅に乗りこみ――――――――

 ――――――――両隣にオーク同様に奴隷の女を侍らせている。

 

 かなり悪趣味な、人間やエルフの貴族連中である。

 

 日陰になっている路地の裏では、そんな連中に雇用されている。

 数体のオークが、性奴隷の娘達を抱え――――――――

 ――――――――性交に興じながら休憩中のようだ。

 

 性奴隷の娘たちは白昼堂々、喘ぎ声を張り上げていく。

 オークたちは、その様子に興奮し――――――――

 ――――――――更に動きを激しくする。

 

 彼女達は、更に喘ぎを――――――――激しくしてしまう。

 ――――――――娘の大半は、オークに両手でしがみつき。

 

 甘い声を漏らし、行為を徐々に…………楽しみだしている。

 その身を自ら揺らし……娘達は甘い声を、何度も漏らす。

 

 中には……性奴隷にされて間もない人間の娘がいたようだ。

 娘は……通行人に助けを求める。

 

 だが、その望みは……オークの舌で口を塞がれ――――――――

 ――――――――声を出せないように強引に弄ばれてしまう。

 

 今後も彼女が助けを求めようと考える度に……オーク達は楽しみながら、彼女達が壊れて動かなくなる。

 その日まで……何度も弄び続けるのが、お決まりのコースだ。

 

 道行く人々は例え、同種族の者であっても――――――――

 ――――――――彼女たちを決して、助けようとしない。

 

 貴族連中のオークに手を出せば、殺されるからだ。

 最もオーク自体は、それ程強くない。

 

 少し腕に覚えのある者なら、剣一本あれば余裕で殺せるのだから。

 しかし、数十体となると勝敗は明白だ。

 数は力なりという事だろう。

 死者蘇生の救済が当たり前のこの世界でも、一個人が背負う危険は変わらないと、私の仲間達が感慨深く言っていたが、正にその通りだ。

 権力に下手に楯突けば、最大で108回殺されて、この世からおさらばであろう。

 結局のところ救済の回数は、相手が強かったり組織的に動いたり、上手なら無意味なのだ。

 

 

「……ちっ!」

 

 

 私の隣を歩く彼の口元が、やはりイラつきを帯びる。

 彼は微かに舌打ちをしているようだ。

 彼や後ろを歩く仲間は……この手の蛮行に昔なら憤慨し。

 オーク達をその手に持つ武器で、容赦なく皆殺しにしていただろう。

 それどころか、その雇用主の貴族も容赦なく。

 

 その手で殺していたはずである。

 救済ができないくらいに……念入りに死体も潰してだ。

 

 だが今の私達には成さねばならない目的があるのだ。

 それを成さない事には、すれ違った性奴隷の娘の様な境遇の者達を……

 本当の意味で、救えないのだ。

 その現実を隣の彼や、後ろを歩く仲間は理解してくれた。

 

 

 ――――――――故に皆耐えている。

 何度も、見捨てる罪悪感に…………。

 

 

 それから暫く歩いて――――――――私達は目的地の入口に到着した。

 

 

 入口前で少しばかり巡礼者の列ができている。

 私達は順番を待ちながら、最後尾で少し休憩中だ。

 暫くすると人影がひとつ、入口の門から近づいてくる。

 

 

「順番のようだな」

「そのようね」

 

 隣の彼が、私に話しかける。

 入口の門の方から、ひとりの兵士が近づいてきた。

 

 隣の彼は……忍ばすように隠蔽した――――――――

 ――――――――武器を使えるように操作する。

 

 カチッ……。

 

 周囲には微かに何かが、擦れる音が静かに鳴り響く。

 

 この時代、この地は全ての種族から――――――――

 ――――――――畏敬の念を込めて、或る呼び方をされる。

 

「ようこそ救済教会本山へ。あなたも『第三十八次救済権争奪戦』への参戦者ですか?」

 

 

 そう、ここは…………救済教会本山と呼ばれる聖地。

 同時に救済を司る、組織の拠点への入り口。

 その救済を司る組織、救済教会最大の拠点なのだ。

 その拠点の範囲はこの大陸全てである。

 

 

 私に近づき、話しかけてきたのは、銀の鎧を身にまとった。

 ……恐らく人間かエルフの兵士だ。

 兵士がその身に纏うその鎧は、【対魔力弾及び魔斬撃対策】を念入りに施された【教会工廠】製の特殊兵装の一つだ。

 冷暖房機能の術式を組み込んでいる優れ物である。

 

 他の国であれば、騎士団や軍の精鋭が装備する。

 高価な装備に分類される物になる。

 兵士の腰には、同じく【教会工廠】製で強力な魔斬撃を行える。

 …………剣が携えられている。

 

「そうよ。本殿はどちらになるのかしら……」

「こちらになります……自分の後にお続きください」

 

 私は兵士の後に続き再び歩き出す。

 直ぐ後方に控えていた私の仲間達も私を取り囲み、護衛する体制で動き出す。

 他の仲間も先程の彼と同様の武器を装備している。

 後ろのふたりは、宿での打ち合わせ通り後方を警戒するのが担当だ。

 最も彼や彼女の仕草を見ても……後方を警戒しているようには、見えないだろう。

 ごく普通に前を向いて歩いている、だけなのだから。

 

『こちらヤマネコなのだな。本殿周辺に敵影や不審な熱源無し、僕はこのまま待機するのだな』

 

 私の耳に装着した異世界の通信具に聴き慣れた仲間の声が鳴り響く。

 その言語は、彼らの母国語だ。

 ヤマネコは……私達とは別行動中である。

 自らをヤマネコ呼ぶ彼、当然ながら偽名だ。

 彼は私達を支援する為に救済教会総本部を見下ろせる、近郊の丘の廃墟に潜みながら……私達の周囲を他の仲間達と共に警戒してくれている。

 

『こちら〇✖、異変があれば直ぐに報告を頼む』

『了解なのだな』

 

 一応、私も彼らの母国語は理解できる。

 異世界出身の仲間との連携に問題はない。

 念の為通信には、彼らの母国語で通信を行うようにした。

 万が一にも異世界の通信技術に使用される……通信波を傍受解析される可能性が、完全にないとは言い切れないからだ。

 そこは、念入りに警戒して彼らの母国語を使用している。

 

 私の生まれ育ったこの世界では、【魔力波】を使い通信を行う。

 故に異世界の技術を使用した通信具を使い、念入りに敵に動きを悟られない様にするのだ。

 

 

【数分後】

 

 

 私達は兵士に案内され本殿の入口に到着。

 私がここに来るのは……久しぶりだ。

 幼き頃母に連れられ……ここに来たとき私は、泣きじゃくり……母にしがみついていたのを覚えている。

 

 泣いていた理由は……流石に忘れてしまった。

 

 本殿の外観は、私の記憶と変わりなく……大理石を使用した綺麗な白だ。

 だが神殿の高さは、私が成長したからだろうか……思っていたより低く感じる。

 これが時の流れということなのだろうと私が感じていると――。

 私の仲間は、神殿の大きさに些か……驚いているようだ。

 

「ほぉ、間近で見るとでかいな。マーシャ」

「ですね。コマンチさん……」

 

 どうやら後ろの男女は観光モードに入って、辺りを見渡すのに没頭している。

 【マーシャとコマンチ】この呼び名は、この男女の本名ではない。

 彼や彼女の世界の軍事組織は、戦闘時に偽名を使う風習があるようだ。

 ヤマネコやマーシャ、コマンチは偽名を戦闘時に使うが……私の隣を歩く彼、O✖だけは、戦闘時も本名を使う。

 彼曰く使い分けが慣れないから嫌だそうだ。

 

「ここが本殿の『女神の間』に続く入り口でございます……門を開けます」

 

 観光モードに入っていた後ろの二人も兵士の言葉を聞き、我に返る。

 二人は警戒を再開。

 私達を案内してきた兵士が……白い門に左手で触れる。

 その直後、門は地鳴りを上げながら静かに左右に開く。

 門の下に隠れていた床が顕になる。

 その床には無数に刻まれた何かを打ち込んだ跡があるようだ。

 本殿の中に大勢の【参戦者】がいるのが……徐々に視界に映り出す。

 

 その顔ぶれも人間やエルフに竜人、その他多くの亜人で満員状態だ。

 だが『ある種族』に関しては、恐らく『まだ』参戦していないだろう。

 

「どうぞお進みください。どうか優しき女神のご加護を……」

 

 私は案内してきた兵士に謝辞を示す……伝統的な指を使った動作を行う。

 そして本殿内部へと歩き出す。

 その直後、すれ違うように本殿内の入り口付近に控えていた、数名の兵士が入口に駆けていく。

 私も仲間もその場に立ち止まり……視線で兵士達を追う。

 その内の一人の兵士が、空に向かい宣言する。

 

「これにて! 第三十八次救済権争奪戦の参加を締切る! 女神の懐は閉じられた!」

「閉じられた! 閉じられた! 閉じられた!」

 

 他の兵士達が続いて三回ずつ閉じられたと叫び終える。

 兵士達は皆、鞘から剣を抜き……入口付近に突き刺すと待機していた場所に駆け足で戻り……そして全身が【黒い槍】を持ち。

 歩哨に立つ為に再び入り口付近へと戻る。

 

 どうやら私達で参戦者は……最後のようだ。

 

「大事な事を三回言うのはこちらも同じかぁ」

「ですねコマンチさん、入り口付近の床の傷跡、あの剣を刺した跡だったみたいですね」

「ああ、歴史を感じるな。マーシャ、ヤマネコにも生で見せてやりたかったな――?」

 

 ヤマネコが通信を使いコマンチとマーシャの会話に割り込んでくる。

 

『二人から送られてくる映像でこちらでも見たのだな。生解説お疲れ様なのだ』

『だよな。で……マギサに同行するとかダダ捏ねていたお姉さまは?』

 

 コマンチが笑を含んだ声色で言う人物は私の乳母である。

 私にとって姉の様な存在でもある大切な人だ。

 

『【ミリサ】さんなら、隣で映像をご覧になって【ウリックス】師匠とご一緒に男泣き中で……話しかけられないのだな』

 

 ミリサや彼、ウリックスさんも心の底から喜んでくれているようだ。

 私の通信具にも二人の泣き声が聞こえてくる。

 私は参戦に間に合った事や仲間のおかげで、ここまでたどり着けた事に安堵する。

 そして自然と少し目元が……潤んでしまう。

 

「マギサ……泣いているのか」

 

「感極まってね……先を急ぎましょう。O✖」

 

「そうだな。マギサ」

「行きましょう――! えっちょっとぉおお」

 

「急ぐぞ。マギサ」

「うん……」

 

 彼は笑顔を私に見せ……私の片手を握り歩いていく。

 だが私はそれを拒まない。

 私の表情は隣にいる彼、O✖に見られていたようだ。

 彼に出会った当初の私だったら、涙を悟られたら今みたいに肯定はしなかっただろう。

 むしろ否定し……険悪な雰囲気を作り出した事だろう。

 

 だが今の私は違う。

 

 私は心臓の鼓動が高まるのを感じながら……昔、母と共に歩いた神殿の床を彼と……歩いていく。

 最後のこころ優しい神々の生き残りである……若き女神がその身を黒き炎で焼き尽くし……今もこの地上で唯一、黒き炎が燃え盛る聖なる祭壇へと私は……O✖と共に歩いていく。

 

 ここはかつて……私の父と母が初めて出会い……歩いた場所でもある。

 その時……手を握られていたのは母の時も一緒だったそうだ。

 そしてその当時……母は今の私みたいに人間の青年……私の父に手を握られ参戦したそうだ。

 この話は……私が母から聞かされた話である。

 ちなみ彼にはまだ話していない。

 彼に話す時が楽しみだ。

 

「やっぱりマギサは……笑顔がかわいいな」

「えっ!」

「すぐ気持ちが顔に出るな……マギサは」

「もう……」

 

 彼が笑顔で私に語りかけてくる。

 彼が指摘する通り、母と父の若き日の話を思い浮かべると私はニヤついてしまう。

 

「お二人さんもうすぐ祭壇ですよ~マギサさん準備してください」

「あっ! ありがとうマーシャ」

 

 マーシャがタイミングよく話しかけてくる。

 私は参戦の契約を行うために仕方なく……O✖の手を離す。

 

「マギサ、いよいよだな」

「でもこれからが本番よ」

「ああ……望むところだ」

 

 私は彼と軽く会話を軽く澄ます。

 祭壇にひとり歩いて私は向かう。

 会話の際……彼は笑顔だった。

 私の心は幸せに満ち……歩みも軽やかだ。

 

 祭壇の周りの区切られた空間には……非常に身分の高い一部の参戦者たちが椅子に座り居並んでいる。

 其者たちの周りは、各国の騎士団や軍の精鋭が護衛について固めている。

 彼らや彼女達は……国家を代表して参戦する者や王家……その血筋に連なる者たちである。

 他の一般参加者と違い参加は『義務』である。

 つまり選ばれし者達ということだ。

 このように一同に会しているが――この救済権争奪戦と呼ばれる行為は『戦争』である。

 

 人によっては、単に救済戦争、救済戦と呼ぶが……紛れもない戦争行為だ。

 最もこの戦争が発生するのは、実に数百年ぶりであり義務として参戦する者達は、実に運がなかったとも言えるだろう。

 この戦いがなければ……優雅な一生を過ごせたのだから。

 この世界の神代以降の人の歴史において……この戦争は各国の存亡を賭けた戦争である。

 この戦に負ければ文字通り国が消滅しかねないのだ。

 そうして何度もこの世界の地図に描かれる国境線は、何度となく書き換えられてきた。

 例え……女神の残した救済の術があろうと、戦争の度に容赦なく無慈悲に変革していったのだ。

 

 なぜなら……この救済戦争の期間中だけは、極めて救済が行いにくくなるからである。

 まず、平民は確実に一度死ねばそれで終わりだ。

 そんな状態で人が死ぬ戦争を延々と行えば、国家が傾いたり滅びたりするのは必然である。

 故に各国とも本気で……この戦に臨む。

 

 この期間の呼び名は、各地の教会や多くの国では『女神の休息』と伝統的に呼称している。

 しかし過去にこの戦争で……多くの人々が死に絶えた地域や国では、『滅びの季節』と呼ばれる。

 地域によって、この期間の受け止めかたも様々だ。

 魔族はこの期間のことを伝統的に『女神の里帰り』と呼んでいる。

 なぜそう呼ぶ様になったか……理由は不明だ。

 私が気持ちよく……軽やかな歩みを踏みしめながら色々とこの戦争に関する事を脳裏に思い浮かべていると、視界にとある国の代表が映る。

 

 彼女は確か……中央海域の島国の姫君で美人と評判の姫様だ。

 

「なっ……」

 

 私は驚く。

 今し方脳裏で注目していた人物と視線が合い笑顔で……微笑まれたのだから。

 いや、どちらかというと向こうから私に視線を意図的に合わせて微笑んできた感じだ。

 私の気にしすぎだろうか……。

 などと感じながらも私は歩き、祭壇の前に立つ。

 

 私の目の前には、黒く燃え盛りながらも光り輝く……黒い炎がある。

 明確には、炎の様な姿をした……全ての魔力の根源が具現化したとも

伝えられてきた未知の存在だ。

 私は両手を広げ、掌を上に向けて、目の前の……黒い炎にそっと静かに入れる。

 炎と言われるが……全く熱さは感じない。

 今でも魔術を研究する者達は、この黒き炎の本質に対する答えを導き出せていない。

 

 何故、炎のようなのに熱くないのか? 

 何故、数千年もここに存在しているのか?

 何故、この黒き炎を死人に浴びせると生き返るのか? 

 何故、生き返る回数が108回に制限されているのか?

 何故、この炎を維持するのに数百年に一度は戦争が、必要なのか? 

 

 多くの人が黒き炎に対して抱く疑問は多い。

 だがそのどれも人々が、自らの力で本質を解き明かし……未だに真実を導き出せていない。

 唯一、真実に近いのは……神々の足跡を残した神話くらいのものだ。

 

「ああ……これが『救済石』」

 

 私は突如重みを増した両掌を……静かに黒き炎から引き抜く。

 それは……母から聞かされていた通りの人の頭部くらいの大きな結晶だった。

 その両掌に載っている塊を……目にする事ができる角度にいる者達は……次第に騒ぎ出す。

 特に私の周りの選ばれし者達や……その取り巻きはかなり驚いているようだ。

 

「そんな……青い救済石だと! しかもあの大きさは――――」

「何をボケっとしている! 直ぐに本国に連絡を入れろ! あの参戦者は――――」

「馬鹿なぁああ! 何故、参戦しているんだぁああ! 奴らの『本国』は不参加を表明していたはずだぞ!」

 

 本殿内は次第に騒がしくなる。

 そしてある種族の話題を交えながら私とその仲間に皆、視線を注ぎはじめる。

 これはもう隠す必要もないかなと思い始めると――――透き通るような女性の美声が本殿内に力強く鳴り響く。

 

「静まりなさい! 勇気ある参戦者達よ! 女神の祭壇の前であるぞ!」

 

 その声は祭壇のはるか真上……本殿内を見渡せるテラスから発せられた。

 

 「おお……『救済皇』様がお言葉を発せられたぞぉおお!」

 

 選ばれし者達の周りから。そのような言葉が漏れる。

 次第に本殿内はざわつきだす。

 しかし……直ぐに静寂を取り戻していく。

 それだけ彼女の言葉と存在は、人間をはじめとした各種族に重く受け止められている事を分かりやすく示している。

 

 私の周りでは……信心深いと思われる選ばれし者達の取り巻きが、片膝をつき胸に手を当て救済皇に向けて頭を深々と下げていく。

 その中には、涙を流しながら頭を下げる者達もいる。

 その光景は……どの国も他の参戦者達も同じようで……感極まってすすり泣く声が……そこら中から静かに漏れだし、鳴り響いている。

 

 救済皇……救済教会の最高指導者が発した言葉で徐々にざわつきが収まりつつある。

 私は……人の頭部程もある青い救済石を手にして立ち尽くしたままだ。

 重さはそんなに思った程ないので……もう暫くは私でも持てそうである。

 

『こちら〇✖、マギサ【インカム】をオンにしているなら顎を動かせ』

 

 彼から……異世界の通信具インカムを作動させているか確認が入る。

 私は彼の方を向いて事前の打ち合わせ通り無言で顎を軽く動かす。

 彼の顔つきが凛々しくなっている。

 そんな時の彼の顔は最高だ。

 

『OKだ。マギサはまだ口を開くな。目立つからな……【レッドジュース】発生、以上』

 

 私は彼が伝えてきたレッドジュースの意味を理解し、思わず口を開きそうになる。

 レッドジュースこれは……事前に決めた符号だ。

 彼の属していた軍事組織も似たような符号を使っていたそうである。

 因みにレッドジュースの意味は【敵襲アリ】である。

 

 どうやら既に本殿の入り口付近では、歩哨に立つ兵士達が騒ぎ。

 動き出しているようだ。

 

「貴様ぁあ! 止まれ! ここが何処だか分かっているのか!」

 

 本殿入口で歩哨に立つ兵士達は手にした黒き槍を構える。

 兵士達の視界には駆け足、いや……それ以上の速さで駆けてくる……ひとつの人影が映る。

 其の身は明らかに暗殺者を思わせる……動きやすそうな黒装束で身を包み。

 その手には――――!

 

「気をつけろぉお! 『魔剣』を顕現させたぞ! こいつは――――」

 

 本殿に向けて駆け足で向かう、暗殺者を思わせる者は、素手だった両手に

 高密度魔力で作り上げた――――高度な魔術に分類される魔力で構成された武器……魔剣を握り締め跳躍する。

 

 その魔剣は諸刃で全身が……濃い青色だ。

 刃の周りには……うっすらと光り輝く青い霧を帯びている。

 跳躍した者は、手馴れた動きで刃を兵士達に向けながら思う。

 お前ら……緊張感なさすぎ。

 門番失格だ。

 

「死になぁああ!」

 

 その声は……女の声だった。

 彼女は剣を数回……振り終える。

 青く光り輝く線が瞬間的に数回……兵士達に浴びせかけられ消え失せる。

 兵士達の手前、上空数メートルに跳躍した彼女は、兵士達の眼前に着地。

 そして自らが魔斬撃で切り刻んだ……兵士達の血飛沫を着地と同時に微かに浴びる。

 

 彼女の視界には……祭壇付近に立つローブ姿の動く人影が映る。

 その人影の見慣れた動きで、彼女は確信する。

 そこに自分の敵がいるのだと……。

 敵がいると確信した彼女は……その心の内から沸き上がる敵への凄まじい憎悪を身に纏い……真っ直ぐ敵に向けて、凄まじい加速で駆けていく。

 

「――――!」

 

 彼女は敵の攻撃を察して左の壁に向けて回避する。

 次の瞬間、本殿内に連続した炸裂音が鳴り響く。

 彼女の進もうとした床付近は……敵によって撃ち込まれた攻撃の跡が無数に刻まれる。

 この敵の攻撃で……彼女は敵の正体を更に確信。

 彼女は更に殺意を沸き上がらせ……戦意を高揚させる。

 

 敵の持つ『黒い武器』の側面から金色の小さな筒が、攻撃の最中飛び出るのを確認――――――――

 

 ――――――――間違いない奴らだ!

 

「うらぁあああああ!」

 

 戦意を凄まじく高揚させた彼女は宙を舞いながら、本殿内で絶叫。

 彼女が壁に少し斜めで激しく着地した刹那の瞬間、彼女は凄まじい速さで壁を踏み潰しながら疾走。

 彼女が駆けた軌跡には、二本の青い光の筋が生じている。

 その光の筋の源である……彼女を追う様に、敵の攻撃の証である連続した炸裂音が本殿内に鳴り渡っていく。

 

 参戦者の多くは……その炸裂音と迎撃する者が手に持つ武器は、魔力弾を撃ちだす魔槍と判断、身をかがめたり……防御の体制を取る。

 しかし、魔力弾の様に派手に炸裂しない事に驚く者も……見受けられる。

 

 その間も敵の攻撃は壁へと……殺到する。

 攻撃は壁面を砕き。

 破片を参戦者の頭上にパラパラと降らす。

 壁に無数の跡を刻み込んでいく。

 

 先程までの歓喜に満ちた雰囲気は、彼女によって……完全にぶち壊されていた。

 本殿内からは、野次や罵声が乱入してきた彼女に向けられる。

 多くの参戦者は明らかな不審者が本殿内に侵入してきたのに……反撃をしない。

 

 何故ならこの救済教会の総本部と、其の周りに広がる市街地は、この世界で唯一の中立地帯だ。

 特に教会内で自衛以外の戦闘を行えば……教会の精鋭騎士が駆けつけ瞬殺される。

 基本的に一般人は、武器を本殿内に持ち込めないのだ。

 そんな中、彼女に狙われている者達の一人が母国語で叫ぶ。

 

「この野郎ぉおお! ゴキみたいな動きすんじゃねぇええ! うぉおおお!」 

 

 彼は自分の故郷の世界で恐れられている、昆虫同様に壁を素早く駆ける乱入者をその名で吐き捨てながら……その手にした武器の先端を乱入者に向ける。

 敵に向けた武器の先端では、攻撃の度に閃光が明滅を繰り返す。

 明滅と同じ回数の炸裂音を本殿内に反響させている。

 彼が乱入者に向ける武器は……この世界の武器ではない。

 

 その姿形は全体が四角い感じであり、色は黒が多くを占めている。

 真ん中からは溝の入った湾曲した灰色の薄い箱のような物が、地面に向けて突き出ている。

 彼は両手でしっかりその武器を握り締め……武器の片側を右肩にしっかり当てる。

 その武器の上に設置された黒い円柱状の筒を……両目を開いたまま右目で覗き込む。

 彼はそこに浮き出る赤い点を乱入者に素早く合わせる。

 真っ直ぐに伸ばした右手人差し指で……黒い小さな爪のような突起に触れ……引き絞る。

 

 ターン!

 

 彼がその黒い爪のような突起を引き絞るたびに……その武器は炸裂音を鳴り響かせていく。

 それとほぼ同時にその武器の中央上部右側面からは、うっすらと煙を上げながら……全体が金色で片端が細く……くびれた円柱状の筒が勢い良く続々と飛び出していく。

 その黒い武器を扱う彼の脳内は……驚愕に満ちている。

 

 乱入者の異常な『防弾性能』に驚愕しているのだ。

 

「くそっ! ライフル弾が効かないだと……矢島ぁあ! スタンを用意離脱するぞ!」

「そんな暇ないぞぉおお! 〇✖もう殺るしかない! それと交戦中はコマンチと呼べ!」

「了解した! 矢島」

「ああ! もうどっちでもいいよ」

 

 コマンチこと矢島は、仲間の応答に呆れたぞとツッコミを入れて、射撃を再開する。

 彼らが【自動小銃】で乱入者に攻撃を加えている間も乱入者は、最早奇声に近い絶叫を叫びながら……壁を踏みつぶし……彼らに向けて壁伝いに駆けていき確実に距離を詰めていく。

 壁の向きが変わる数歩手前で乱入者は、思い切り……壁を踏み込む。

 乱入者である彼女は……盛大に壁を砕き青い刃を宙に大きく伸ばし、敵の名を叫びながら、自らの敵に向けて勢いよく飛び込んでいく。

 

「マギサぁぁあああ! 死ねぇぇええ!」

 

 乱入者に名を叫ばれた……マギサは微かに微笑む。

 マギサの周囲にいる選ばれし者達や、その取り巻きの一部はその名を聞き

明らかに表情を驚きへと変える。

 それは先程マギサへ意図的に笑顔を向けてきた……中央海域の島国の姫君も例外ではないようだ。

 

 しかし他の驚く者達と比べて、姫君の驚きは……何やら嬉しさを含んでいるようだ。

 その事は彼女が……笑顔で目を見開き……マギサへ熱い視線を向けていることからも明らかだろう。

 そんな熱い視線を向けられるマギサは、静かに口を開く。

 

「マーシャちゃんお願いね……」

「了解ですよ!」

 

 既にマギサの仲間は彼女の周りに布陣して……彼女を守る体制だ。

 マギサの後方に控えていたマーシャは……ローブを脱ぎ捨て宙に投げ捨てる。

 参戦者は宙を舞う茶色いローブに一瞬注目するが……直ぐにそのローブの主を視線で追う。

 そのローブでその身を隠していた彼女は、素早くマギサの前に立つ。

 着用した衣服は、この世界ではよく旅をする者が着用する丈夫な茶色っぽい革製のジャケットと衣服の組み合わせである。

 しかし、その姿はこの世界では珍しい黒髪でありサラサラとしている。

 彼女の肌は……この世界の温帯地帯に住む人間やエルフの娘達のように

きめの細かい綺麗な色白の肌をしている。

 それを見た……周囲の選ばれし者達の男性陣の中からは、勢い良く席から立ち上がり……瞳を見開き、歓声を上げ彼女を熱く見つめ始める者達が……数名現れ始める。

 

 そんな熱い視線をマギサ同様に、向けられる彼女は向かってくる乱入者に向けて両腕を突き出すと掌を開く。

 その両腕には、真紅の金属で作られた手甲が装着されている。

 彼女は息を大きく吸い込むと、この世界の人間には存在しない瞳の色である……黒い瞳に力をいれる。

 乱入者を視界に捉えると彼女は、力強く日本語で叫ぶ。

 

「こっちに来ないでください! ゴキ見たいな変態さん!」

 

 彼女がそう日本語で叫ぶと乱入者はまるで、映像を巻き戻したかのように

足場にしていた壁にズドンとYの字状にめり込む。

 乱入者の魔剣は青い霧になって消え失せ……周囲の参戦者は唖然とする。

 

「見事な壁ドンだ! 壁ドンマスター松沢」

「マーシャ! こいつには何を言っても無駄だ! 敵を『念力』で押さえ込め」

「了解です矢島さん! それと念力じゃなくて一応『魔法』ですから」

「お前もその名で呼ぶかぁああ!」

 

 〇✖と矢島は、Y字状に壁ドンした敵へのタコ殴り的な制圧射撃を緩めない。

 既に二人の足元の床には……十本近い弾倉が転がっている。

 必然的に空薬莢は……かなりの数が、床に大量に散蒔かれてしまう。

 マーシャこと松沢……彼女はひとりの十代の日本人の少女として思う。

 

 コマンチこと矢島は、大変いじりがいがある。

 マギサの恋人であり、同じ日本人の彼、〇✖は天然気味で面白い。

 

 そして彼らと、この世界で出会ってからは毎回……こんなノリで多くの敵と戦い……未だに私達が生き残れている事に感謝を抱きながら……彼女は、敵を魔法で押さえ込む。

 

「うぎゃぁああ! マギサぁああ!」

 

 乱入者ことマギサを殺しに来た暗殺者の彼女は激痛の中、マギサの名を叫ぶ。

 松沢の目に見えない念力のような、魔法による攻撃はかなり効果があるようだ。

 光景を見て矢島と、〇✖が銃口をY字な敵に向けたまま……射撃を停止する。

 矢島はニヤつきながらマギサに話しかける。

 

「もぅ~マギサさん、モテモテですね~」

「あんなのにモテたくないわよ。二人共続けなさい」

「了解コマンチ、エンゲージ!」

「もう矢島でいいだろう。〇✖、エンゲージっと!」

「まだその名で呼ぶかぁあああ! なぜだぁああ!」

「めんどい。以上」

「もうめんどいから……矢島でいいよ!」

 

 〇✖と矢島はマギサの射撃指示に従う。

 松沢の攻撃で凄まじい叫び声を上げ続ける、Y字状に壁ドンされたままの敵に向けて、射撃を継続。

 〇✖は、その手に握るドイツ製の自動小銃、HK416の弾倉を交換。

 矢島がその手に握るのは、M4カービン銃だ。

 彼も弾倉を交換。

 即座にマグチェンジをする。

 

 二人は壁にYの字状に壁ドンした乱入者に向けて射撃を再開。

 二人共セミオートで撃ちまくり銃弾で乱入者をタコ殴りにする。

 

 徐々に……乱入者の忍者の様な装束が破れ、その下に隠れた姿が顕になる。

 その肌は青い鱗で覆われているようで、その鱗に命中する銃弾は何れも命中の瞬間に……青く微かに光り輝くとマッシュルーミングと言われる現象を起こし、キノコ状に潰れ……床へとボタボタと大量に落下していく。

 

「ったく……これじゃキリがないな〇✖」

「ああ、まるで……射撃練習か……いい音してるから屋外でのプリンキング射撃みたいだ」

 

 プリンキング射撃、裏庭などで手軽に射撃をする行為の名称で、米国などでは、手軽な射撃である。

 

「撃ち方止め!」

 

 マギサが叫ぶ。

 射撃を続ける二人は、狙いを鱗が顕になった敵に定めたままだ。

 マグチェンジして射撃を中止する。

 

「【つかさ】ちゃん、片手で敵を押さえ込んでみて」

「もう! マギサさんまで悪乗りしないでくださいよ」

 

 マーシャこと本名、【松沢つかさ】であると判明した少女は、恥ずかしながらも片手で魔法を敵に向けてかけ続け……敵を締め上げ更に悲鳴を搾り取る。

 

「うぎゃぁああ! ハァハァ!……マギサぁああああ!」

 

「つかさちゃん、そのまま外に放り投げて」

「了解です!」

「ぁあああ!」

 

 乱入者こと壁ドンされたY字状の最早、戦えないマギサの敵は突如

勢い良く宙に、Y字状態でつかさの魔法で強引に引き抜かれる。

 つかさや矢島、〇✖、日本人の彼らは思う。

 

 ホラー映画でこんなシーンがあったなと……。

 

 そのままクルリと回転し救済皇の方を見上げさせる。

 敵をペコリと一礼させて、そのまま猛スピードで入口へ向けて、ぶっ飛ばす。

 

「ぎゃぁあああああ! てぇめぇええ! おぼぉおお!」

 

 敵は先程自身が切り刻んだ、兵士達の亡骸も越えてその先にある。

 白い大きな壁に再び派手に壁ドンして気を失い。

 頭をダランと垂れる。

 

 その直後……その周囲には、体格のいい兵士達が駆けつける。

 兵士達は乱入者の意識がないのか、刃を向けながら慎重に確認する。

 意識がないと判断したのだろうか。

 兵士の一人が乱入者を壁から引き抜きまず床にベタンと叩きつける。

 両腕を二人の兵士で持ち上げ、身柄を確保する。

 

 両腕を持ち上げ足をズルズル引きずりながら……何処かへ連行していくようだ。

 

 その光景はまるで、諜報機関のエージェントに両腕を持ち上げられ、連行される写真で有名な…………宇宙人のようだと遠目に見ながら、地球出身の三人の日本人は内心、思うのだった。

 

 

------------------------- 第16部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

マギサ達の軌跡 乳母と獣人

 

【本文】

 第三十八次救済戦争の正式な開始により、救済教会本山周辺の市街地に存在する飲食街は多くの参戦者や、巡礼者によって賑わいを見せていた。

 

 …………路上には屋台も多く出ているようだ。

 同地の特産品である牛肉によく似た味の茶竜の串焼きや、世界各地の様々な食材を使用した。

 …………料理やデザートが飛ぶように売れている。

 

 通りには食欲をそそる……いい匂いが漂い。

 多くの客で…………賑わいを見せている。 

 空が暗くなると上空では、色とりどりの花火が上がりだす。

 だがこの世界では…………火薬が実用化されていない。

 よってこの世界での花火は……………………魔力弾を使用した代物だ。

 

 幾重にも鮮やかに炸裂し輝き……多くの見物客が夜空を見上げている。

 …………夜空は花火の輝きで明るい。

 だが花火の閃光が照らす。

 街の灯りも負けないくらいに…………明るい。

 この世界では当然ながら、火薬同様に電気を手軽に使用していない。

 しかし…………魔力と呼ばれる力を魔術として手軽に使用できる。

 ここはそんな…………異世界なのだ。

 

 そんな異世界の夜の酒場内は魔力を利用した照明で昼間のように明るく。

 多くの客で賑わっている時間帯だ。

 

 天井に設置した、一般家庭でもよく使われる発光術式で天井自体が発光。

 まるでLED照明……いや、それ以上の性能を発揮している。

 この世界で当たり前な、魔力を源にした明るい光に照らされた。

 とある酒場のテーブルには…………マギサ達一行の姿があった。

 

 

【救済教会本山周辺の市街地 飲み屋街】

 

 

【冒険者御用達の酒場の一つ】 

 

 

 ワイワイ……ガヤガヤ……

 

 俺のすぐ隣には矢島が座り。

 端に松沢ちゃんこと…………つかさが座っている。

 既にこの二人でバクバクと、串焼きを何十本も食べている。

 串焼きといっても、日本の焼き鳥と違い。

 肉は…………分厚いステーキみたいな肉を切り分けた感じだ。

 味も牛肉と遜色のない味で、脂ものって大変美味である。

 俺も数本食べたが、既に腹がいっぱいだ。

 隣の二人はフードファイターみたいなノリで、次々と食べていて…………なんか凄い。

 

 俺は何処かのサービスエリアで、昔食べた牛串を思い出し。

 …………少しだけ日本が恋しくなってしまう。

 そんな故郷を少し懐かしむ俺の向かいには…………マギサが座っている。

 いつもなら俺がマギサの隣にいるのだが……今夜は彼女に譲ろう。

 何せ彼女にとっては娘である、マギサのおめでたい日なのだから。

 

 マギサの隣に座る彼女は黒いチャイナドレスの様な服を着ている。

 露出が際どい服で…………彼女は頻繁に街の外で野性化したオークに絡まれ。

 オークをミキサーに掛けるかの如く。

 …………ミンチにするのが得意な。

 ピンクのツインテールをしたボンキュッボンなお姉さんだ。

 

 

 マギサの隣にはそんな魅力的で、ミキサー機な攻撃が得意な美女が一人。

 ミリサがドカッと、陣取っている。

 

 …………ミリサは、マギサの乳母だ。

 

 乳母といっても話を聞く限り、マギサの生みの母のクローンの改良型で遺伝的に親子関係があるようだ。

 遺伝的にも積み重ねてきた関係からしても、ミリサはマギサの母ちゃんである。

 マギサの種族ではごく普通にクローンを作り。

 

 …………一緒に暮らしている。

 

 実際にその光景を見た時は…………隣のフードファイター達と一緒にもの凄く驚いたのを…………昨日のように覚えている。

 

 最もラノベやアニメで俺も隣のフードファイター達も、その手の話や設定には慣れているので生理的な拒否感は皆無だ。

 

 

 むしろ、俺達は――――

 

 

 

『シスターズがいっぱいだぁああ!』

 

 

 

 …………などと歓喜していた。

 

 ミリサは某ラノベに登場する、とあるクローンなシスターズ以上に姉妹を数多く持ち。

 この世界で某日本メーカーのハイブリッド車の生産台数並の大姉妹だそうだ。

 そこまで大規模だと某ハリウッド映画のクローン兵士並みの規模であろうか。

 ミリサの姉妹の多くは彼女の故郷で公務に従事したり。

 一部は他国の騎士団や政財界要人の警護にも派遣され活躍中である。

 一部の国ではミリサの姉妹だけで構成された。

 

 …………軍隊もあるそうだ。

 

 そんなミリサは泣きながら酒を飲み。

 …………マギサに絡んでいる。

 

 

 ……………………

 

 

「マギサ様~参戦おめでとうございます! うっうっ……ミリサは、嬉しゅうございます!」

 

 ミリサは、木製のジョッキに注がれた白い濁り酒を飲むのに夢中だ。

 その喉元が動く度――白く豊満な胸元も合わせて、揺れている。

 男性客、特に人間やエルフの男達は、彼女をチラ見中だ。

 

「店員さん! 酒を樽ごとお願いします♪」

 

 酔いが本格的に回りだしたミリサは、無謀とも思える注文をする。

 今日ぐらいは、ミリサも浮かれていいだろう。

 いつも仲間を気遣う、母ちゃん属性を発揮しているのだから。

 

 ミリサの隣で飲んでいるもうひとりは、一際目立つ姿をした者だ。

 その姿は、全身を薄く茶色い毛で覆われた存在。

 イノシシを人化させたような大柄な男。

 否……漢を連想させる、がっちりした獣人の男性である。

 彼は黒っぽい、革製のズボンを履いているだけの軽装だ。

 そんな彼は、呆れた感じで……隣のミリサに話しかける。

 

「ミリサ……飲みすぎだぞ」

「そんな~師匠だって~飲んでいるじゃないですかぁ~」

「お前ほどじゃないぞ。そうだろ猫耳……」

 

 獣人の男性、ウリックスが猫耳と呼んだ存在。

 猫耳は、ミリサと一緒にウリックスを挟むような位置関係だ。

 向かいの席には、つかさが座り串焼きを食べている。

 彼も端っこで、酒と豆料理を食べて酔いを回しつつあるようだ。

 頬を赤く染めた、典型的な黒髪をした日本人である。

 

 猫耳は日中、マギサや俺達を無線でサポートしていた、存在だ。 

 外見は少し、ポッチャリしている感じだろう。

 目元には、度の強そうなメガネを掛け、服装は他の参戦者や冒険者と大差無い、革製の衣服を着ている。

 だが、その上から黒いタクティカルベストを着込み。

 ベストのポーチには、無数の赤や青をしたショットシェル。

 ハンドガン用のロングマガジン。

 サバイバルナイフを装着。

 

 猫耳の傍らには、ベネリM3散弾銃が置かれている。

 太腿には、レースガン仕様のガバメントクローンのカスタムハンドガンを装備。

 

 地球出身を匂わせる猫耳の頭部には――――――――

 ――――――――文字通り、『猫耳』がピョコんと生えている。

 

 頭部の猫耳は、まるで感情に合わせるかのように、ピクピクと動く。

 猫耳の呼び名の由来は、この耳から来ている。

 ミリサの様にガブガブ酒を飲んでいるが、猫耳は…………

 …………余り酒に強くない。

 彼は酒臭い息を漏らしながら、ニャーと鳴き、猫のようにウリックスに絡み始める。

 

 「ウリックスさんは~酒強いにゃ~♪」 

 

 酔っ払い二人に挟まれた、ウリックスの心境は……少々複雑だろう。

 人間やエルフの子供達は、彼の種族の毛並みをよく好み、スリスリする。

 街中で油断していると、彼はいつに間にか、託児所状態になってしまい、身動きが、とれなくなってしまう。

 太陽に干した布団のようで、芳しくスリスリしたくなる毛並みなのだ。

 人間やエルフの子供には、人気がある種族である。

 故にウリックスの種族達の毛で作った、ぬいぐるみが、この世界には存在し、この種族の特産品である。

 大抵は、別種の獣毛の割合が多い、ぬいぐるみが一般に多く出回っているが、ウリックスの種族の毛だけで作ったぬいぐるみは、大変希少だ。

 オークションで、高額で落札される品である。

 この世界でのテディ✖ア的な、存在だ。

 

「猫耳よ……大丈夫か」

「う~ん♪ やっぱりウリックスさんの毛並みは~最高なのだな♪」

 

 どうやら猫耳は、かなり酔いが回り、隣に座るウリックスの胸元に満面の笑みで、スリスリしているようだ。

 猫耳はピーンと立ち、彼の満足感を表しているかのようである。

 

「私も師匠~♪」

「はぁ……」

 

 ミリサもウリックスの胸元の毛並みに満面の笑みでスリスリ。

 ウリックスの二人を見る眼は、まるで……わが子を見るような、優しげな感じの眼差しだ。

 

「ウリックスさん、二人のことをお願いします」

「うん? そうか……マギサ達はお姫さんに呼ばれているのだったな」

「流石に一国のお姫様を待たすのは、気が引けるわ」

 

 マギサは、酔いつぶれ気味なふたりをウリックスに任せるようだ。

 彼女は立ち上がり、テーブルを離れる。

 マギサの姿は白とピンクを基調とした、フリフリで涼しげな服だ。

多くの男性客は、ミリサとマギサをチラ見している。

 特に胸元や顕になっている、細く引き締まった白い太腿付近を舐めるように見ている。

 そんな男達を惹きつける服装は分りやすくいうなら――

 

「いってらっしゃいなのだな~プリキュンピンク」

「いってきます~キュン♡ ちょっと何言わすのよ!」

 

 マギサは反射的にウィンク。

 独特のポーズと語尾の返事を返してしまう。

 それは、彼女の体に染み付いた、動作のようである。

 

 マギサの服装、それは猫耳や日本のおっきいお兄ちゃん達が大好きな、ある深夜アニメに出てくる、メインキャラのミニスカート仕様の服装だ。

 そのアニメとは、2010年代末の日本の某地上波深夜枠で絶賛放映中のアニメ。

『プリティキュンキュンVS堕落したお兄ちゃん達との戦い』である。

 その中でも非常に露出が多いと好評な、メインキャラのコスチュームだったりする。

 

 先程のポーズとセリフは、俺が夜のベッドの上で、マギサに教えこんだ。

 

 ふぅ……

 

 公衆の面前で、そのポーズとセリフをつい発した事で、彼女は少し赤面しながらも、店を後にする。

 きっと下の方も大変だろう。

 今夜が、非常に楽しみだ。

 

 マギサに続き、俺や矢島、つかさも立ち上がる。

 俺達の服装は、昼間と変わらない。

 茶色いローブを覆っているが、その傍らには、銃が置かれている。

 俺の傍らには、HK416自動小銃が昼間と同じく一丁。

 矢島の傍らには、サイドパーティ製のパーツで組まれ、銃身下部にM203グレネード弾発射筒を備えた、折りたたみストック仕様のM4カービン風にしたARー15ライフル銃が一丁。

 そして、つかさの傍らには、俺の装備するHK416自動小銃によく似た銃が一丁、各自太もも付近にサイドアームの拳銃や、ナイフ類を装着、以上の武装である。

 

「さて、行くか」

「ああ、行くか」

「行きますか。お姫様のところに」

 

 各々の銃を手にした俺達は、赤面気味なマギサに続いて酒場を後にする。

 

 

【マギサ達が去った酒場のカウンター付近】

 

 酒場の客達、とりわけカウンター付近で飲んでいる傭兵や参戦者達は、先程までいた、〇✖達の武器、銃の話題を口々に話しているようだ。

 カウンター付近を陣取る、彼らのそばには、使い込まれた大剣や、魔槍が無数に立てかけられている。

 なかでも、傭兵仲間と思われるエルフと竜人、人間などの若い男の集まりは、酔も程良く回っているようだ。

 時折、肉汁が滴る熱々な茶竜の串焼きを食べながら、その話題で持ちきりのようである。

 

「あれって……魔族の少女と、旅している噂の異邦人達だよな?」

「だろうな。あの武器、魔槍と違い連射が容易で射程も長いらしい……」

「威力は、魔力弾程じゃないらしいが、逆に言えばそれが強みだよな」

「どういう事だよ?」

「魔力弾の余波で、巻き添えの心配がないってことさ」

「そんな武器で戦えるのか?」

 

 ザワザワ……

 

 傭兵達の中で、一番年長者と思われる中年男性に注目が集まる。

 若手から注目を集める男は、銀色の騎士風甲冑で、首から下を包んだ。

 銀髪の長髪をしたナイスミドルである。

 男は、手にしたジョッキの酒を一口飲み、話し出す。

 

「魔手甲使いや、魔術師が似たような攻撃をするが……そんな手練の連中は、著しく少ないな……なんでも、あの武器は対魔力弾、魔斬撃対策を施した鎧を、金属の粒でぶち抜くらしいからな……」

 

 グビグビ……ドン!

 

 男はジョッキの残りを飲み干すと、ジョッキをカウンターにドンと置き、話を再開。

 

「しかも魔力を使わない……それが本当なら、便利な武器だよ。どこの工房で作っているのか、聞きたいぜ! はっはっはっ――」

 

「おおおお!」

 

 男は笑い声を上げながら、話を締め、近くを歩くウェイトレスのエルフの少女に酒を注文。

 手元のツマミの豆類を口に入れ、バリバリ食べ始める。

 

 男の話を聞いていた、カウンター付近では、歓声が上がり、盛り上がっているようだ。

 その中でも、酔いが回り過ぎた一人の若い人間の傭兵は、千鳥足でふらつきながら――

 

「それならヒッ! 残っているお仲間にでも、聞くかぁ~? ヒッ!」

 

 彼は、ミリサ達のテーブルへと向かっていく。

 

 

【店外】

 

 

「店に入る前より賑やかだな。マギサ」

 

 俺の視界には、すっかり日が落ち……夜になった街並みが広がる。

 屋台も入店前と違い、多く立ち並び……クンクン……いい匂いを辺りに漂わせている。

 通りには、多くの種族の人々が行きかい、賑わっている。

 子供を連れた、家族連れの姿も見える。

 夜空には、花火が幾重にも炸裂し輝いていく。

 何度も大気を揺さぶっている。

 なんとなくだが、日本の花火大会と似たような雰囲気であると、俺は感じていた。

 しかし、この祭りは救済戦争の開始を世に知らしめる、大規模なお祭りでもあるそうだ。

 最もここ数百年は、戦争と関係なく、毎年やっていると聞いた。

 人が祭り好きなのは、どの世界も変わらないようである。

 などと考えていると、マギサが俺に話しかけてくる。

 

「そうね〇✖……今年も綺麗だわ……」

 

 マギサはそう言うと、夜空を少しの間見つめ――

 

「マウラーレ王国の大使館まで、行きましょう」

 

 マギサが俺に返事を返す。

 今の彼女の服装それは……所謂、コスプレ用の衣装だ。

 この衣装は、本来俺の上官に着せるべく、俺が部隊を代表してアダルトショップで購入したものである。

 

 残念ながら上官の消息は、不明だ。

 マギサの話だと、此方には転移した反応が無いらしいとの事。

 無事に、救難隊のヘリに救助されている事を祈りたい。

 

「行くか……みんなインカムをオン、偽装開始」

 

 俺は、インカムをオンにするよう指示を出す。

 同時に銃を今更ながら、魔槍に偽装する。

 

 カチッ カチッ カチッ

 

 偽装は至って簡単、魔槍の穂先に似せた銃剣を装着するだけだ。

 魔槍の発射は、基本的に次弾の発射が遅い。

 偽装する事で、敵の判断を一瞬でも遅らすのが、偽装の目的だ。

 流石に昼間は、救済教会の神殿に入る関係上、魔槍だと入れないので偽装は、敢えてしなかった。

 

 陣形は、先行する形で前衛に壁ドンマスターのつかさを配置。

 後衛にグレネードランチャー付きのARー15ライフル銃装備で、フットワークの軽い矢島を配置。

 俺とマギサは、真ん中で片腕を組みながら、イチャつかせて頂く算段で、暫くその配置で歩いていく。

 

 

『こちら矢島、真ん中の腕組んでイチャついているお二人さん、道順はあっているのか、どうぞ』

 

『こちらマギサ、このまま通りを真っ直ぐに進んで左折すればマウラーレ王国の大使館が見えるわ。矢島は、後方の警戒をお願い』

 

『こちら矢島、了解だ。さっさと用事済ませて宿に戻ろうぜ』

 

『こちらつかさ、左折します……大使館が見えました。周囲には警備の兵士と――え!』

 

 俺の位置からでも視界には、白い……立派な屋敷の屋根が見える。

 先行したつかさの報告では、館の周囲を魔槍で武装した、教会の兵士が、大量に配置され更に――

 

『マギサさん、市街戦用の【ゴーレム】を配備していますよ……罠じゃないですよね?』

 

 つかさが驚きながら報告したゴーレム。

 俺達を何回も襲撃してきた、この世界の人型兵器だ。

 その姿は、ずんぐりとした人型のシルエット。

 両腕に数本の魔槍を束ね、魔力弾の連射力重視のゴーレムである。

 こちらの世界の対歩兵用兵器だ。

 地球の機関砲を搭載した、歩兵戦闘車みたいな兵器と違い、魔力弾の威力は、戦車砲並みである。

 こいつにシールド無しで狙われたら、終わりである。

 正直、このゴーレムを正面切って相手にするのは、手持ちの武装では分が悪いどころか、不可能だ。

 つかさの報告をオープンチャンネルで聞いた矢島が、マギサに即で進言する。

 

『こちら矢島、マギサ、宿に戻ってハンドミサイルを持ってこようぜ』

 

 その声色からは、若干の焦りと緊張感を感じさせる。

 ゴーレムに苦戦した経験があるのは、矢島も同じだ。

 

『こちらマギサ、そのゴーレムは、教会が救済軍に配備している兵器で、通常の対応よ。各国に警備隊を指揮する権限は、一切ないわ。警備隊は救済皇の直属だから、敵対の危険性は無いわよ。つかさは門番に私の到着を伝えなさい。以上』

 

 警備が厳重すぎる。

 そんな事をマギサは、隣の俺にボソリと漏らしていた。

 しかしながら、過去の要人警護の際、そういう事があったのを、マギサは知っているとも言っている。

 最終的には経験上、罠でないと判断したのだろう。

 

『こちらつかさ、了解です。門番に接触します』

 

 つかさの報告を待つ間も夜空には、まるで対空砲火の如く。

 魔力弾を使用した花火が、無数に継続的に炸裂している。

 花火の閃光や炸裂音と振動は、緊張と不安を煽り……銃を握る右手の握力を強めるような、感覚を覚えさせていく。

 実際この花火は、救済ができるきっかけになった、戦いの壮絶さを後世に伝える為に当初は……戦死した者たちへの鎮魂と、戒めの意味も込めて行われていたそうだ。

 故に出来るだけ、多くの人々に閃光や炸裂音、振動を伝える為に夕方から、日の出までの間延々と、魔術師達が総出で上空に向け、魔力弾を撃ちまくるそうである。

 この話は、魔術師の一人として実際に参加した、隣のマギサから聞いた話だ。

 彼女曰く、この祭りは魔術師達の腕試しの場でもあるとの事。

 世界中の魔術師の憧れるお祭りでもあるそうだ。

 今年は、マギサの後輩達が、気合いを入れて撃ちまくっているらしい。

 彼女が参加した年は、彼女のライバルで同族の【魔女】と激戦を繰り広げ、魔術師の間では、語り草になっているそうだ。

 そういえば、魔族の女性は古くからの慣習で他の種族から、魔女と呼ばれているんだった。

 マギサも魔族であり、また……魔女の一人なのだ。

 俺が色々と物思いにふけっている間も隣のマギサは、上機嫌で俺と腕を組んでいる。

 その表情は、その身に纏うかわいい女の子なコスチュームによって色気も追加され……男としては、最高だ♪

 

『こちらつかさ、姫様が大使館内で、お待ちだそうです』

 

 その後、俺達はマウラーレ王国の大使館へと入っていった。

 

 

【その頃】

 

 

【救済教会本部 牢屋】

 

 

 薄暗い牢屋では、二人の人物が相対していた。

 片方は所々破れた黒装束に身を包んだ――昼間の暗殺者の彼女。

 今現在、彼女は壁に両手足を鎖で固定され、再びY字状態だ。

 牢屋には、時折鉄格子の隙間から、花火の色とりどりの閃光が差し込み

、閃光の後には、ズシンズシンと振動が、しきりに伝わってくる。

 

 そんな彼女はボソリと、力なく呟く。

 

「花火がうるさいな……ったくウルデリックの野郎遅すぎだ……」

「……」

 

 そんなY字状態の彼女を無言で見つめる者がひとり。

 彼女に一歩ずつ、静かに近づいていく。

 時折、花火の閃光が照らし出すその姿は、正に白銀の鎧で全身を包んだ、白銀の騎士というべき姿をした者である。

 

 だが、白銀の騎士は丸腰のようだ。

 白銀の騎士は、両手を広げながら……彼女に話しかける。

 

『いい加減、白状したらどうだ……【亜魔族】の娘よ』

 

 その声は、男とも女とも判別がつかない無機質な声だ。

 この声の正体は、魔力によって作られた合成音声である。

 救済教会の騎士が装備する、鎧の標準機能でもある。

 出力を弄れば、スピーカーにもなる、優れものだ。

 そんな無機質な声を浴びた彼女は、ボソボソ呟く。

 

「ひとを壁に張り付けて……眺める変態野郎が……ようやく口を開きやがったよ……ったく……さっさと保釈金出せよ、クソ司祭……」

 

『娘よ……白状する気になったか?』

 

 白銀の騎士は、亜魔族の娘に向けて、歩む速度を変えない。

 静かにだが、確実に彼女へ近づいていく。

 

 ドドン! ドドドン――――パァ――!

 

 花火が一際激しく輝く。

 その後、微かに訪れた静寂の刹那、彼女は白銀の騎士を口汚く罵る。

 

「ったく……うぜぇええんだよテメェ! 夜になって花火が上がりだしたから! オークみたいに興奮したのかぁああこの変態!」

 

 ピクリ……

 

「……」

 

 白銀の騎士は、ピタリと歩みを止める。

 そして数十秒と間を置かず、再び花火が激しく輝き。

 振動が牢内へと伝わる刹那――

 

 ブチッ――ミシッ――ダダダダァ――ン!

 

「ぐへっ! うげぇえええ」

 

 白銀の騎士は、亜魔族の娘の腹に拳を数発打ち込んでいた。

 彼女の腹は……うっすらと青く光り輝いているようであるが、嗚咽を漏らし、息切れしている状況を見るにノーダメージでは、ないようだ。

 

 フルフル……ギリッ

 

 白銀の騎士は、震える左手で彼女の喉元を握っている。

 右手の拳も同じく震えたまま、構えられているが――騎士は口を開き――亜魔族の娘を汚く、罵り始める。

 

『もうやめだぁああ! 折角、私が騎士らしく振舞ったのに……それをオークだぁああ!』

 

 ギリギリギリ……ミシッ!

 

「がはっげほっはぁ! はぁ!」

『この亜魔族風情がぁあああ!』

 

 騎士は左手を喉元から、素早く離すと、両拳で彼女をボコボコに殴り始める。

 その殴り方は、何処ぞの七つの傷を持つナントカ神拳の継承者のようで、豪快だ。

 殴られる方からしたら、堪ったものでは無い。

 

『この私がぁあああ! 朝まで相手をしてやるからなぁああ! 死ぬんじゃねぇええぞぉおお!』

 

 牢屋内には、青く光り輝くY字な亜魔族の娘と…………

 花火の閃光が照らし出す…………ひたすら拳を彼女に打ち込む。

 狂気に満ちた白銀の騎士が…………いるだけだ。

 

 

 

------------------------- 第17部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

マギサ達の軌跡 王女との出会い

 

【本文】

【救済教会本山 大使館通り】

 

【マウラーレ王国大使館】 

 

 

【王族執務室】

 

 

「さて、どうしたものでしょうね……爺」

「姫様、彼女達が、取引に応じない可能性は……著しく低いかと思われます」

 

 執務室内では、祖父と孫娘ぐらいに歳の離れた男女が会話をしている。

  爺と呼ばれた男は、背筋の伸びた長身の白髪な老紳士だ。

 青を基調とした、スーツ状の衣服をスラリと着こなしている。

 

 老紳士が着こなす衣服の袖口や襟元には、同国王家の紋章である月と、地球の恐竜の首長竜によく似た、生物のシルエットの紋章が銀糸で刺繍されているようだ。

 

 老紳士の腰には、鱗で作った銀色の鞘に納めた細身の短剣が左右に一本ずつ装着。

 短剣の柄には、真紅の色をした宝石が埋め込まれているようである。

 

「そうね……彼女たちの目的地は、我が王家の『聖域』ですものね」

 

 姫様と呼ばれたこの少女は、綺麗な黒髪をポニテ状に束ね。

 色白できめの細かい肌をした。

 小顔で青い瞳の……目鼻立ちの整った……かわいい顔をしている。

 歳は十代半ばの少女のようだ。

 

 そんな少女は……正に姫君といった格好である。

 

 モデル並みに美しく引き締まったスタイル。

 その引き締まった美脚を顕にするスリットの入った……白を基調としたチャイナドレスとウエディングドレスを混ぜた感じの……何やらセクシーなドレスを着ている。

 

 この姫君がその身に纏う、ドレスの袖や襟元には、金糸で王家の紋章である月と、海竜を組み合わせた意匠の紋章が、刺繍されているようだ。

 美しいと言えば、姫君の胸元も大変美しく実っていると言えるだろう。

 豊満で張りのある、発育のいい胸元には……青い希少な魔真珠のネックレスが身につけている。

 

 そんな美しい姫君は、執務室内の椅子に座っている。

 姫君の眼前の机上には、ドカッと置いた、白い書類の束が山積みだ。

 姫君は、書類の山から、数枚を手に取り……目を通していく。

 

 書類に真剣に目を通す、姫君の顔や胸元には、汗が滲んでいるようだ。

 

「ところで爺……『石』やそれに関連する相場の値動き、ならびに我が国が、現在までに確保した石の総量は、どうなっていますか?」

 

 爺は軽く一礼をしてから、報告を開始する。

 

「はい……救済石の相場は、魔族であるマギサ様の参戦により、目下急騰中でございます。相場の急騰により、救済石は予定の四割程しか、確保できておりません……他にも魔術、魔術兵器、傭兵、船舶、ゴーレム関連、飛行竜、築城関連、食料を扱う『ギルド』関連の債札が目立って、上昇中でございます」

 

 報告を聞いた姫君は、読み終えた書類を机の脇に置いた箱に入れる。

 そして、新たに山積みになっている書類の中から、一枚取り、目を通していく。

 姫君は、書類に目を通しながら、疲れた感じで言葉を吐く。

 

「そうですか……また国庫から金を出さないといけませんね。貴族院の連中への工作も大変ですわ……これじゃ、金がいくらあっても足りませんね」

 

 コホン。

 爺は少しだけ息を吐き、再び報告を再開する。

 

「姫様、資金に関しては、そうでもありません……各国資産家の一部は、我々の予測を超える規模で、種族を問わず、我が国の南部諸島域に点在する、無人島や南部地域の屋敷などの不動産の購入と併せて、永住権申請を多数申し込んできております」

 

 報告を聞いた姫君は、読んでいた書類を脇の箱に入れる。

 そして、少し呼吸を整え考えると口を開く。

 

「救済戦争に巻き込まれない為に、わざわざ島国である、我が国に逃げてきますか……いいですね。その動きを利用しましょう」

 

 姫君の言葉を聞いた爺は、少し満足そうな笑みを姫君に向ける。

 姫君も笑顔で応え、嬉しそうだ。

 まるで、生徒が問題を解いたのを共に喜ぶ。

 教師と生徒の様な感じで、微笑ましい光景である。

 姫君は、自身の決断を爺にスラスラと話しながら伝えていく。

 

「一定額を国庫に納めた者には、永住権を迅速に認可、更に倍の額を収めた者には、名誉爵位を与える準備を直ぐに始めなさい。ただし……『オーク連合国』の連中や関係者は、オークでなくとも、安全保障上対象から全面除外しなさい」

 

 何やら、最後の部分だけ姫君は、声色を強めていたようだ。

 それに合わせて、彼女の表情や爺の表情も凛々しくなっている。

 

「承知しました。しかし、既にオーク連合国関連の資産家、主に……魔術ギルドの連中が購入した不動産等は、如何しましょう?」

 

 姫君は凛々しい表情のまま、胸元の前で腕を組み少し考える。

 

「外患誘致防止を口実に、該当人物の関連資産を凍結、不動産に関しては軍を使い、速やかに没収しなさい」

「身柄の拘束は、如何しますか?」

「現段階で特段危険人物に該当しないなら、国外追放で十分です」

「承知しました。速やかに本国に連絡を入れます……入りなさい」

 

 コンコン……

 

 扉をノックする音が数回、執務室内にコンコンと鳴り響く。

 姫の傍らに立つ爺が、入室を許す。

 すると、扉が静かに開いていく。

 

 執務室の入口には、爺と似たような制服の黒色バージョンを着た者がいる。

 若い人間の男のようだ。

 男は深く一礼をしてから、入室。

 頭を静かに上げると、口を開く。

 

「姫様、マギサ様御一行が、御到着しました」

「分かりました。爺……応接室に行きますよ」

「承知しました姫様」

 

 

【マウラーレ大使館】

 

【応接室】

 

 

 応接室には、マウラーレ王家の紋章にも使われる海竜を描いた豪勢な絵画や、他国からの贈り物と思われる、壺や彫刻が綺麗に飾られている。

 博物館の一角を思わせる、ここはそんな場所だ。

 マギサ達一行は、客人として、無事に案内されていたようである。

 

「おい! つかさ、この絵画凄いぞ! 恐竜だぜ!」

「矢島さん! こっちの絵画や彫刻には妖精がぁあああ!」

 

「なぁ……マギサ、いいのか? 二人共警備そっちのけで、デジカメで撮影しているぞ」

 

 俺は少々、不安になり隣に座るマギサに話しかける。

 しかし、矢島とつかさ、この二人。

 

 どうやら、大使館内の応接室で、昼間以上に観光モード全開のようだ。

 今は、手にしたデジカメで撮影に夢中なようである。

 しかし、主武装である小銃は、二人共スリングでしっかりと装着。

 つかさは、両手に真紅の手甲を普段通り装着しているから、警備面は大丈夫だろう。

 

 真紅の手甲は、元々マギサの実家に代々伝わる家宝だ。

 といっても宝物庫で埃を被っていたらしい。

 その由来は、かなり古いようでもある。

 

 何でも、この世界に残された、神々の武器の一部だそうだ。

 そのような遺物の類は、この世界に結構溢れているようで、何度か見た事もある。

 それに殺されそうになった事も、見た回数とほぼ同じだ。

 要は、そんな使い方がメインの危ない物なのである。

 

 つかさの使う真紅の手甲は、念力としか思えない、魔術を繰り出すのが特徴だ。

 残念ながらこの手甲は、マギサには扱えなかったようである。

 しかし、何故かこのメンバー内で唯一、使えるのは松沢つかさ、彼女だけだ。

 それ故に、つかさに進呈された武器である。

 未だにつかさが、使える原因は不明だが、今は大変重宝している武器だ。

 

 さて、そんな手甲の使えなかった、自他共に認める未熟な魔女で、俺の彼女は、俺の左腕に抱きつき……満面の笑顔で上機嫌である。

 

 上機嫌なのは、俺の股間のジュニアも変わらない♪

 

「いいじゃない~♪ 〇✖、おかげでこうして、いちゃつけるでしょ~♪」

「……そうだな」

 

 俺はそう一言、マギサに言葉をかける。

 そして彼女の胸元を――――見ながら、もの凄く思う。

 早くめんどくさい話を終わらせて――――マギサと滅茶苦茶やりてぇえええ!

 因みに俺のジュニアは、既に立派に屹立している。

 いつでもぶち込める状態だ。

 ギンギンのスクランブル状態である。

 昼間路地裏で見た、エロ豚のオークに負けない位、今夜はいい勝負ができるだろう。

 

 ぐへへへへ♪

 

 しかし、特殊でもっこり防止な道具を宿で急遽自作して、股間に装着。

 紳士としての面目は、守れるようにしている。

 

 コンコン……

 

 などと、深夜のスケジュールを考えていたら、扉をノックする音が鳴り響く。

 

 キィ――――

 

 黒い制服を着た職員数名が、一礼してから扉付近に立つ。

 その動きに合わせるかのように、観光モードだった二人はデジカメを懐にしまう。

 二人は小銃を握り、銃口を天井に向ける。

 俺とマギサの座る、ソファー状の座席の周囲を囲む。

 隣のマギサも顔つきが笑顔から凛々しい、仕事の顔へと変わる。

 マギサは俺の腕から離れ、背筋を伸ばす。

 俺も少し背筋を伸ばし、両手を膝の上に置いて姿勢を自然と整える。

 こういったマナーは、マギサやミリサの話だと、地球と変わりがないとの事だ。

 

 カツ……カツ……カツ

 

 何やら、遠くから軽快に鳴り響く足音。

 まるで、ヒールを床に打ち鳴らす様な感じだ。

 

 カツ……カツン……カツン

 

 徐々にこの部屋へと近づいて来るのが分かる。

 入り口付近に視線を向けると、その軽快な足音の主が姿を現した。

 そして、彼女はニコリと、微笑み口を開く。

 

「お待たせしました。マギサ様」

 

 目の前の美少女は……この大使館の主だ。

 マウラーレ王国の姫君である。

 名前は、残念ながらまだ知らない。

 この世界で生まれ育った者達なら、マウラーレ王国のお姫様の名前を尋ねれば、各種族の子供から、老人まで即答できる。

 

 かなりの有名人らしい。

 しかし、この美少女なお姫様、ハッキリ言って……美人だ。

 隣のマギサには悪いがつい、一発お願いしたいなどと、感じざるを得ない、見事な美貌と、色気を既に備えた美少女である。

 日本のグラドルやAV女優と……ダメだ、どちらも、お姫様も最高だ!

 だが、今の俺にとっての母港は、隣のマギサである。

 彼女の美貌もかなり……へへへへ♪

 

 しかし、そんな美少女お姫様の護衛だろうか?

 腰に短剣を装備した老紳士を一人、従えているようだ。

 

 なんとなくだが、老紳士の身のこなしを見るに……只者ではない。

 この世界での自分の経験上、この手の人物は、かなり腕の立つ人物である。

 そんな感じが、老紳士の雰囲気からも出ている感じだ。

 

 チラッ……

 

 それにどうも、わざとそんな雰囲気を敢えて、放っているようである。

 向こうも、こちら同様に我々を警戒しているのだろう。

 その眼差しは笑顔だが、なんか怖い。

 老紳士を見て、俺のジュニアが少しだけ、縮んだ。

 

 お姫様は、俺達の前に置かれた、王族用の黄金で装飾が施された椅子に移動。

 そして、静かに腰をかけていく。

 お姫様の着ているドレスは、何というか……セクシーすぎる。

 

 俺達の仲間のミリサもそうだが、この世界の女性の衣服は、男の股間をもの凄く、刺激するデザインが、非常に多いように思う。

 特に南ドルア帝国の貴族令嬢など、ローブの下が下着同然でヤバかった。

 だから、オーク達も日本のエロゲーやラノベのテンプレ通り、お盛んなのだ。

 

 俺はそう思う。

 いや、確信したね。

 

 それにしても、このお姫様。

 彼女が歩く度に……俺の視界には、白い美脚どころか……純白でヒラヒラした、布地に守られた三角地帯が飛び込んでいた。

 お姫様が椅子に座る際は、偶然だろうか? 

 豊満な胸元の谷間を見せつけられた。

 そして、こちらに向ける笑顔で――俺の息子は、再び固さを増していく。

 

 男としては嬉しさ半分と、名誉が失われるかも知れない、危うい状況だ。

 だが……まだ大丈夫だと思う。

 隣の老紳士をチラッと見れば、直ぐに縮むのだから。

 

 爺さん……そんなにこっち見ないで!

 ほらっ! 隣に女の子いるでしょ? 俺はノンケですからね!

 などと、心の中で老紳士に向けて、静かに叫んで緊張を解してみる。

 

 しかし、俺が自分の息子を必死に押さえ込んでいる事など、この可愛く絶賛色気増強中のお姫様は、きっと知らないのだろう。

 いや、知らなくていいことだ。

 知られたら、それこそ隣の老紳士に殺されかねない。

 そんなお姫様は、口を開き可愛い声で話し出す。

 

「改めて自己紹介いたします。マギサ様、私はマウラーレ王国、第一王女のアルテナージャです」

「恐縮です。アルテナージャ姫殿下」

 

 

 これが、俺達とアルテナージャとの出会いだった。

 

 

------------------------- 第18部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

マギサ達の軌跡 ベテラン魔女と妖精の花火を見つめる二人

 

【本文】

【救済教会本山近郊の荒野】

 

 

【救済教会騎士団 第三演習場】

 

 ワイワイ……ガヤガヤ……

 

 救済教会の騎士団が、魔斬撃や魔力弾の攻撃演習を行う荒野。

 そこには、例年なら数ヶ月先に、ここ集まる集団が世界各地から集結。

 その集団は夜空を眺め――――或いは、両掌を夜空に向けて――――

 

 バシュッ――――カッ――――バゴォーン!

 パラパラ……

 

「ぉおおお!」

 

 魔力弾を次々と撃ち上げていき、夜空に色とりどりの華を咲かせていた。

 紫色に光り輝く、一際派手な花火が輝き終えると、夜空は静かになる。

 静けさを取り戻し、夜空の下に広がる――荒野には、男の声が鳴り響き、星の輝きとは別の明かりが、魔力弾を撃ち上げていた集団を照らしていく。

 

『第一撃ち上げ隊の魔術師諸君、今から一時間程休憩に入るぞ~』

 

 その声を発したのは、両肩に発光術式を発する小型の魔杖を装着した、騎士である。

 騎士は、銀色の鎧に組み込まれた、音声増幅機能を使用して、撃ち上げ会場での進行役と照明係を勤めているようだ。

 

 そんな魔杖の明かりが、照らす先には――――色とりどりのローブを着た、多くの魔術師達がいる。

 或者はその場で寝転び、また或者は、汗をダラダラ流し荒野に倒れていく。

 倒れた者の傍には、軽装な兵士が近寄り――――回復魔法を掛け、水魔法で飲み水を作り、宙に水球を浮かし――――魔術師達は、それを千切り――口にいれていく。

 大半の魔術師は、こんな感じでヘトヘトである。

 

 だが、一人だけ疲れを感じさせない魔術師がいる。

 最後に紫色の華を――――夜空に咲かせた、魔術師だ。

 

 この魔術師は紫色のローブを纏い、一人だけ宙に浮いた状態である。

 どうやら、あぐらを組んでのんびりしているようだ。

 浮き出る胸元のシルエットから、どうも女性のようである。

 

 彼女は自ら指をヒュヒュッと動かし――――

 紫色の光輝く霧を生じさせ、水球を作り出し宙に浮かす。

 他の魔術師同様に水球を千切り、口にパクパク入れる。

 キンキンに冷えた水が、彼女の喉を潤す。

 一通り喉を潤わすと彼女は、ボソリと呟く。

 

「今年も……派手に花火を撃たせるな~救済皇様は……」

 

 その声は、まだ少女の声のようである。

 

 ゴソゴソ……

 

 少女の胸元辺りで何かが蠢き――――

 ピョコン!

 

「ぷはぁあ~疲れたぁあ~エルーナ~あたしにも水頂戴~♪」

 

 胸の谷間で蠢いていた正体は、小さな少女のようだ。

 小さな少女は、谷間の持ち主である、エルーナに水分補給の必要性を陽気に伝える。

 顔のサイズから、全体の大きさは美少女フィギュアと同じくらいだろう。

 髪は綺麗な黒のロングヘアーで、瞳も黒い東洋人の様な容姿の美少女だ。

 

「あらっ? もう降参かしらツバメ」

 

 エルーナに名前を呼ばれた存在、それは胸元で顔を出している、この小さな少女みたいだ。

 ツバメはフワフワと近づいてきた、水球に食らいつくと――――

 

 ズズズー!

 

「プハァー!」

 

 一気に水球を吸い付くし、水分補給を豪快に完了する。

 

「エルーナ~あんたは妖精の扱いが、過酷すぎるんだよ~わたし位しかあんたの相棒は、できないだろうな~♪」

 

 妖精のツバメは、エルーナにニヤニヤした笑みを向けながら陽気に言い放つ。

 その笑顔はまるで、何かを懇願する様な、気持ちを含ませた笑顔である。

 

「はいはい、ツバメには後で好きなだけ~屋台の食い物食わせてあげるから――」

 

 エルーナは両掌を夜空にかざし――――

 

「ちょ!」

 

 ツバメは驚きながらも急いで再び、エルーナの谷間に潜り込み――――

 

 ゴソッ――

 

 バシュッ――――カッ――――バゴォーン!

 

 エルーナは、再び花火を一人撃ち上げ始める。

 

 紫色や、それ以外の色とりどりな魔力弾の華を一人で――――――――

――――――――何個も、夜空に咲かせていく。

 

 それを見た…………

 

 周りで休憩中の魔術師達は、エルーナ達を見つめ。

 …………次々と鳥肌を立て…………心を震えさせながら。

 

 …………言葉を漏らしていく。

 

「流石に魔女は、魔力量が凄いわ……」

 

 ドドドドドド――――カッ――――ズズズン!

 

「一応ここって、『広域増幅器』の『範囲外』でしょ……」

「あいつらに範囲とか、関係無いよ」

「あんなに、ボカスカ魔力弾撃つとか……なんなの」

「私……絶対に『魔族』とだけは、戦争したくないわ」

 

 

 …………この祭り本来の目的は、正にこの状態が狙いだ。

 

 表向きには、神々との戦いで死んだ者達への鎮魂の意味と、戦いの凄惨さを伝える為のお祭りと言われているが、本来の目的は別である。

 因みにエルーナは、その本来の目的を『実行する為』に、正式に魔族を代表して、ここに来ている。

 

 世界中に張り巡らせられた、広域増幅器と呼ばれる装置。

 この装置は最後の優しい女神が造り、魔族がほぼ全てを管理する装置だ。

 大抵はオベリスク状の金属の柱であり、特殊な属性を持つものは神殿に安置された、光る球体の物体である。

 こちらは管理する勢力が、厳重に代々守っている。

 

 基本的に、この装置の範囲内でしか、人間を始め多くの種族は、魔術を上手く扱えない。

 どんなに、魔術に手練れた者でも、範囲外だと直ぐに魔力切れを起こすのだ。

 

 しかし、魔族にそのような縛りは無い。

 

 魔族は生まれつき、魔力を大量に生成する臓器を備え。

 制御するのに長けた種族だ。

 彼らにとって魔力を使用するのは、ごく当たり前である。

 単純に魚がエラで呼吸をし、鳥が空を飛ぶのと同じく。

 数多くある先天手的な要素のひとつ、ただそれだけのことである。

 

 一方他の種族は後天的にしか、魔術を扱えない。

 この差は、絶望的な力量差だろう。

 

 この祭りは、魔力を破壊力へと容易に転換できる存在。

 魔族をこの世界の、全種族に忘れさせない為…………

 数千年近く続く、力を背景にした…………威圧外交でもあるのだ。

 

 

 こうして、何千年も抑止力を積み重ね。

 獲得した魔族の地位は、他の種族を圧倒してきた。

 しかし……偶に、この均衡を崩そうと試みる。

 野心家が歴史上何度か、現れた事もある。

 

 

 野心家は大抵、国家の指導者達だった。

 

 

 それらの野心家達には、救済戦争の開催の有無など関係ない。

 彼らは国家の命運をチップにして、覇道の実現に臨んでいった。

 しかし、その度に魔族の怒りを買い。

 野心と共に散り、国境線を書き換える機会を……………………

 この世界の歴史に作り出すと、尽く消えていったのだ。

 

 この世界に生きる、人々の社会秩序の礎である……………………

 ……………………魔力や魔術

 

 それらの使用に縛りのある種族、縛りのない種族は……………………

 今回で三十八回目にもなる、世界規模の戦争を迎える。

 

 最後の優しい女神の残した、完璧な蘇生術の掌握を掛けて戦うのだ。

 

 しかも今回は、魔族が自らに課す。

 不参戦の禁忌を破り、魔族の少女が参戦した戦争である。

 

 勝利の女神は、誰を選ぶのだろうか。

 何れにせよ、勝利するのは……一人だけである。

 

 そんな、威圧外交の花火をマギサは、マウラーレ王国大使館のテラスから、一人の女性と見つめていた。

 

 しかし、その女性は大使館の主、アルテナージャ第一王女では無い。

 マギサを大使館に呼ぶように、アルテナージャに要請を気安く、出せる立場の存在。

 

 

 種族も国家の垣根も越えて、この世界の頂点に君臨する一人の女性。

 

 現救済皇……その人であった。

 

 

------------------------- 第19部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

マギサ達の軌跡 女神の代理人の憂鬱その1

 

【前書き】

 

 

【本文】

【マウラーレ王国大使館 テラス】

 

 

 ヒュ――――カッ!

 

 

 私は久ぶりに再開した知り合いと――

 

 ズドドド――ン!

 

 色とりどりの、魔力弾花火を見物している。

 気のせいだろうか……輝きの違いから、なんとなくだが。

 属性の切り替えが、速い感じがする。

 おそらく……よく一緒に遊んだ、彼女が打ち上げているのだろう。

 

 見ているといえば……チラッ

 

 ワァアアア……

 

 私達も、見られているところだ。

 既に、テラスから見える通りには――――多くの人々が詰めかけ。

 涙を流し――――黄色い歓声を、私の隣の――――御方に向けている。

 

 

「猊下! 猊下! 猊下!」

「猊下ぁあああああああ!」

「女神様ぁああああああ!」

「猊下に栄光あれぇええ!」

「教会は偉大なりぃぃいいい!」

 

 

 流石、この世界の頂点に立つ現役の――――

 

 

『女神の代理人』だ。

 

 

 やはり、そのカリスマ性は……凄まじい。

 集まっている人々も多彩だ。

 

 一番多いのは当然、数で多い人間だろう。

 だが、その人並みに負けないくらい――――エルフや竜人などの亜人種も集結。

 皆一様に涙を流しながら……歓声を張り上げている。

 通りの端では……興奮の余り、卒倒した人々を救済教会の兵士達が何人も介抱している。

 

 さて……そんな民衆を卒倒させた――――当人。

 

 お隣の救済皇様は、集まった群衆へ向けて――――――――

 笑顔で手を振りながら、優しい口調で、私に話しかけてくる。

 

「……今年も、花火が綺麗ですね……マギサ」

 

「……そうですね」

 

「今年は……エルーナが打ち上げているんですよ……マギサ」

 

 こうなる事は……薄々分かっていた。

 しかし、こうして実際に顔を合わすと……

 

 ガタガタ!

 

 やはり私の体からは、震えが止まらない。

 

「ネリサが亡くなって、もうすぐ一年になりますか……」

 

「はい……葬儀の際は使者を送って頂き、ありがとうございます。猊下」

 

「当然です。三代前の救済皇……いえ私の戦友、ネリサが……天に召されたんですもの……それはそうと、マギサ――」

 

 ドドド――――ン!

 

 一際派手な花火が輝き――――私達の事を照らす。

 

「私は在学中、何回も言いましたよ…………魔族である貴方が、参戦するのは、ダメだと」

 

 その閃光はまるで、猊下の言葉を顕にするかのように…………警告を私に感じさせる…………赤い閃光だ。

 

 確かに在学中……猊下からは、何度も言われた。

 もし、救済戦争が起きても……魔族の掲げる、不参戦の掟を破らないようにと…………。

 

 私は数年前まで……救済皇の住まうこの地。

 

 本山のお膝元に設置された、魔術師を育成する学院に留学していた。

 三代前の救済皇の一人娘という立場もあり、私は頻繁に、教師として自ら教鞭も採っていた猊下に呼び出され、アルメナの領主として、魔族としての誇りを持って生きろと……………………よく言われたものだ。

 

 その当時はそれでいいと…………私も思っていた。

 しかし――――

 

 二年以上前に起きた、東ドルアの内乱は――――私の気持ちを揺るがし。

 

 一年前……。

 

 母が死の間際に、私に託した古の魔術と――――

 この世界の秘密に迫る…………情報は私の心に、火を灯したのだ。

 

 だから絶対に――――

 

「…………猊下に反対されるのは、分かっていました。それでも私は――――」

 

 

「この世界が――――」

 

 ヒューン――――ドドドン!

 

 再び花火の閃光が、私達を照らしだす。

 今度は鋭い刃のような……………………青い閃光だ。

 一瞬、故郷のアルメナの海と――――母に聞かされた話を思い出し、私は心の中に、力が満ちるのを感じながら――――――――

 

 

「――――されるのを、黙って見ていられません!」

 

 

 …………女神の代理人の猊下に向けて、言葉を出し切っていた。

 

 

「そうですか……ネリサから、『全て』聞いたのですね……お連れの仲間から察するに、転移の術も教えられているようですね……東ドルアの難民を救いたいとか、上辺だけの口実を言うなら、あなたの参戦を認めないつもりでしたが……フッ♪」

 

 猊下は口元を緩め。

 私の方を見ると…………静かに口を開く。

 

「……この花火の輝きの様に……マギサには、まだ青く……未熟なところが見受けられますが、存分にやりなさい」

 

「はい。存分にやらせていただきます……アナスタシ先生」

 

 この時――――。

 

 猊下、アナスタシ先生に初めて、私が認められた瞬間だった。

 

 

 

 その頃――――

 

 

 

【西ドルア帝国大使館】

 

 

【大使 執務室】

 

 

 本来なら、誰もいない時間帯の執務室。

 そこには……この大使館の主である、大使と……数名の人影があった。

 数は、十人にも満たないだろうか。

 

 

 そんな執務室内では、大使の怒声が――――盛大に鳴り響いていた。

 

 

「一体どういう事だ! ウルデリック!」

 

 

 西ドルア皇帝から、全権を委譲されている大使の彼。

 この大使館の主である彼は…………大変ご立腹であった。

 

 

 大使の剛腕な右腕は、天に向けて突き上げられ――――

 

 ズゥウウン!

 

 謎の衝撃波で、天井は豪快に抉れ。

 

 パラパラ…………

 

 白い破片の雨が、執務室内に降り注ぐ。

 青いグラスを持った、大使のプルプル震える左手には――――

 太い血管が浮き出ている。

 

 そんな感じで…………

 

 ソファーに座る一人の男を――――物凄い剣幕で怒鳴りつけていた。

 

 怒鳴りつける大使のその姿は、2メートルは超える長身。

 筋肉ムキムキのマッチョマンで、スキンヘッドだ。

 そんな筋肉質な、体躯と併せて。

 ……………………西ドルア皇帝より賜りし。

 紫色のマントを身につけている事で、その迫力を増している。

 

 大使の胸元には、金銀に輝く、多くの勲章が付けられ。

 その顔にも多くの傷跡が、決して消えぬ勲章として、刻まれている。

 この大使が……多くの戦場を駆けた、軍人上がりなのは明白だ。

 

 

 迫力と威圧要素満載の大使に怒鳴られても、ウルデリックと呼ばれた。

 ……………………この人物。

 ――――平然とソファーに腰掛けている。

 

 

 彼の周囲には、黒いローブで身を隠した。

 ……………………数名の従者が付き添っているようだ。

 それにしても、この男……デカイ……と言っても体格が、だが。

 まるで、力士の様な巨体だ。

 そんな巨体のウルデリックは、笑いながら大使に言葉をかける。

 

「ふぉふぉ! マエロル殿は心配症ですな~」

 

 ガシャーン!

 

「ふざけるなぁあああ! 誰が猊下の御前で――――」 

 

 ヒューン――――バリィーン!

 

 

 

 

「マギサを『殺せ』と言ったぁあああ! 貴様らの任務は、マギサの参戦を『事前に』阻止する事の筈だ! おかげで『上が』お冠だ!」

 

 

 

 

 お冠……要は怒っているという事だろう。

 

「しかも任務に、尽く失敗した上に……貴様は――――」

 

 プル……プル……プル――――カッ!

 

 ヒューン――――パシッ!

 

「部下の保釈金を出せだとぉおおお! 舐めんじゃねぇえええ!」

 

 ガシャーン! パラ……パラ……

 

「マエロル殿~こんな時の為に~『裏金』を作ってきたのでは~ございませんかの~」

 

 ピクッ

 

「…………幾らだ、ウルデリック」

 

「そうですな~猊下の御前で……しかも……数百年ぶりの『開戦の儀』の最中に~やらかしましたからな~トリーナよ~幾らだったかのぉお~」

 

 周囲のローブを纏った一人、トリーナがウルデリックに近づき耳打ち。

 

 ボソボソ……。

 

「……ウルデリック司祭、教会からの最低提示額は2億です。それと――――」

 

 その声は、甘い匂いを漂わす……若い女の声のようだ。

 

「ふむ~そうですか~マエロル殿~2億――――」

 

 ドガッシャ――――ン! パラパラ……

 

「金庫から勝手に持っていけ……それと、貴様の部下が受け止めたグラスは、置いて行け!」

 

 ヒューン――――パシッ

 

「さっさと失せろ……糞司祭!」

 

「ふぉふぉ~では、失礼しますぞ~」

 

 

 バタン……………………ズドォオオン!

 

 ギリッ……ミシッ……

 

「オーク趣味の糞司祭が……何を企んでいる――――」

 

 パキン!

 

 部屋に鳴り響く――――

 

 一筋のガラスの割れる音。

 

 それは、マエロル大使の左手で握り締めた、真っ青なグラスに。

 

 ……………………ヒビが入った、音だった。

 

「ちっ! 大ドルア帝時代の貴重なグラスが……今日は最悪な日だ」

 

 ズボッ……パラパラ……

 

 ウルデリックへの不信を抱きながら、マエロル大使は、壁に打ち込んだ。 ……………………拳を引き抜き。

 執務室の床に、白い壁の破片をパラパラと落としていく。

 

 

 心が怒りと不信に満ちた、マエロル大使。

 彼のその姿は、典型的な人間の外見である。

 

 

 しかし――――彼の耳にはピアスと――――

 

 自身が魔族に次いでこの世界で魔力に長けた存在。

 

 人間とエルフの間に生まれた『ハーフエルフ』である事を示す魔印が、彼の怒りと憎しみに、呼応するかの如く……………………真っ赤に輝いていた。

 

 ポタ……ポタ……ポタ

 

 まるで彼の左手から、流れ落ちる真っ赤な血に……負けないくらいに。

 

 

 

 

 

【西ドルア帝国大使館 一階ロビー】

 

 

 カツカツ……カツカツ……

 

 

 ウルデリックは従者の内、3人に。

 西ドルア帝国の紋章が、金色で大きく刻まれ。

 全体が黒く四角い、アタッシュケースに酷似したケースを運ばせている。

 

 …………その数は、全部で6個だ。

 

 ウルデリックとトリーナ、残りの従者は手に何も持っていない。

 トリーナや、残りの従者が手ぶらなのは…………

 ウルデリックの警護も兼ねているからだろうか。

 

 何やら裏金を手に入れ、満足気なウルデリックは…………

 上機嫌な口調で、トリーナに話し掛ける。

 

「さて~トリーナよ~『最終的な提示額』は~幾らなんですかの~」

 

「はい。ウルデリック様、即日の保釈で在れば、第一級の不敬罪も含みますので……計6億になります。2億で在れば、べルーシャ彼女を――――」

 

 

 チラッ

 

「…………」

 

 ドクン……ドクン……ゴクッ

 

「保釈するのは早くて一週間後、救済騎士団の尋問を一通り受けてからに――――」

 

 その時、トリーナの説明を遮るかのように――――

 

「それは困る! ウルデリック、貴様がなんとかしろ! 仮にもべルーシャ様は! ――――」

 

 手ぶらな従者の一人が、ウルデリックに詰め寄り――――

 

「我が一族の『姫様』だぞ!」

 

 …………声を荒らげていた。

 

 その声はトリーナより、若い印象を受ける、少女の声だ。

 しかも、かなり力のこもった……………………必死な声色である。

 

「ふぉふぉ~オルーシャよ……貴方達、『亜魔族の貴族階級』が領土を出て~外で破壊活動に手を染めている事が~貴方達の『本国』に知られても~貴方のお友達は~お姫様で、いられますかな~」

 

 ブチッ! 

 

「貴様ぁああ――――!」

 

 シュパァア――――!

 

 一瞬の出来事だった。

 オルーシャは瞬時に、両掌に生じさせ、握り締めた。

 緑色に強烈に光り輝く、霧を纏った緑の刀身の刃――――片刃の双剣。

 魔力剣で、ウルデリックに斬りかかろうと――――刃を振り下ろす。

 

 

 だが…………ウルデリックの巨体は、血飛沫を上げない。

 

 

 オルーシャの刃は――――ウルデリックに届かず。

 甲高い金属音をロビーに、鳴り響かすだけのようだ。

 

 ガキィイイン!

 

 ギリッ……バチッ! ギリッ……バチッ!

 

 ロビーに金属音を鳴り響かせた要因。

 それは――――オルーシャの間合いに、瞬間的に割り込んだ。

 

 ……………………トリーナだった。

 

 トリーナは、両掌で双剣の刃を受け止め――――

 バチバチと火花を散らしている。

 軽々と刃を受け止める、トリーナの両掌は何やら。

 ……………………うっすらと、白い光に包まれている。

 

「おお~トリーナよ~オルーシャを黙らせなさい~」

 

「御意――――フンッ!」

 

 ヒュン! 

 

 トリーナは即座に、両腕を時計回りに回し――――

 オルーシャの魔剣を両掌から振り落とし、消し去る。

 瞬く間に、双剣を緑の輝く霧に変え――――思いっきり、床を踏み込み。

 

 ミシッ! 亀裂を走らせ――――

 

 ボォオン!

 

 霧を貫く、鋭い一撃を右腕から繰り出し。

 …………オルーシャの腹部に打ち込んでいた。

 

「ぐはっ!」

 

 オルーシャは悶絶して……その場に崩れ落ちていく。

 

 ドサッ……

 

「…………き、貴様」

 

 

 薄れゆく意識の中で、オルーシャは『初めて』その瞳で、『実物』を見てしまった。

 

 自分の斬撃を軽々と受け止めた。

 トリーナの手の甲に――――

 

 ……………………光り輝く。

 

 『赤い双翼の生えた刃』の刻印を。

 

 

 その刻印は、この世界で戦いに身を置く者達なら。

 誰でも、その意味を知っている、戦場で裁きを下す存在。

 戦場を駆ける最強にして、恐怖の存在。

 救済騎士団の精鋭騎士『女神の斬撃』である証だった。

 

 

 その頃……

 

 

 割と近所の西ドルア帝国大使館で、そのような動きがあった事など、知る由もない者達が、マウラーレ王国大使館の一室で――――

 

 

 互の故郷の話に華を咲かせていた。

 

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