------------------------- 第20部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
???並行世界の世界地図を眺める者と珈琲
【本文】
西暦2010年代末
【霞ヶ関 地下某所】
「これが押収した、特別危険監視対象【M】の世界地図だそうだ……」
「……」
「里中捜査官、君はコーヒーでも飲みながら、その地形図を頭に叩き込んでおけ」
カツカツ……バタン。
私はこの時、上司から初めて……連中の情報を開示された。
やはり連中は……この世界の人間では、なかったのだ。
ズズズ……
紙コップに入ったコーヒーを飲みながら、私はこの地図を眺め……思う。
何故連中は、わざわざ……。
日本国内で、百兆円近くの大金をばら撒き。
自分達の必要とする、人間。
自衛隊員や、軍事オタクを半ば強引に、スカウトしていくのか……。
それら、一連の動きの背景が判明するのは、公安の連中が身柄を拘束した。
やけに装備の整った連中。
……ステルスな不審船に乗っていた、NEETを名乗る、乗組員の協力次第だろう。
話によると、自称NEETは、東シナ海で追跡してきた――――
海保の巡視船10隻、海自の艦艇3隻を撃沈後、更に――――
戦闘機8機、支援戦闘機6機、哨戒機3機、無人機26機を撃墜した連中だ。
本当によく……こんな、滅茶苦茶な連中を、生け捕りにできたものだ。
自衛隊や海保、公安は今頃、関係機関への説明で大変だろう。
流石にメディアにも、動きを気づかれたようだからな……
何れにせよ……
尋問の結果が出るまで私は、この部屋でコーヒーを飲むことに決めた。
ズズズ……
コーヒーと言えば、名古屋のムーンバックスカフェで、監視対象Mに話しかけられ。
その後消滅もしくは、別の世界に消えたと、科学者連中が大真面目に考えている。
…………青年は一体、どうなっているのだろう。
まさか、この地図のもはや、異世界としか形容できない。
並行世界へと、連れて行かれたのだろうか……。
------------------------- 第21部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
マギサ達の軌跡 女神の代理人の憂鬱その2
【本文】
【マウラーレ王国大使館 迎賓室】
ワァアアア……
モシャモシャ……ゴクン。
「矢島さん~外の盛り上がり方、尋常じゃないですね~」
ゴクゴク……プッハァ~!
「ああ、まるでワールドカップで日本が勝利した時の、某繁華街みたいだ。救済皇様……マギサの先生なんだよな? 確かに既に、盛り上がり方が尋常じゃないよ……昼間の神殿も、あの後、凄かったよな、つかさ」
「ですよね~神殿中で、泣き崩れたままの人や、流石に泡吹いて倒れている人が…………わんさか、担架で運ばれていくのは――――」
ゴキュ……ゴキュ……
「プッハァ~ありゃ! 絶景でしたね! アハハハハ!」
大飯食らいな二人は、先程運び込まれた。
…………マウラーレ産の新鮮な魚介類の料理と、追加の酒に夢中なようだ。
マウラーレという国は、マギサの故郷アルメナの南方に位置する。
温暖な島国という事は以前、マギサに聞いていたが……まさか。
この異世界で刺身を…………しかも、箸で食えるとは思わなかった。
但し見た事もない、馬鹿でかい。
……………………未知の魚ばかりだが。
それでも……
コリコリ……ゴクン。
白身で脂ものっていて、歯応えもいい。
魚の食べている物の影響だろうか?
微かに…………柑橘系のフルーティな香りがして、臭みも少ない。
むしろ、その香りが食欲を増してくれる感じがする。
…………醤油に似た味の、薄い緑色の液体調味料。
これもピリッとする……何やらワサビな感じも伴って、マッチして旨い。
これで、白いご飯が在ればいいが…………サ✖ウのご飯は、三ヶ月前に。
……………………地球組一同で、泣きながら食べた。
最後の一粒まで、丁寧に……………………グスン。
さて……。
俺達は急遽、マギサに話があるという事で、大使館に来た超VIP。
……………………救済皇の登場で、マギサと姫様の会談は中止。
そこで、俺達は迎賓室で姫様と一足先に、本日二度目のディナーとなった。
……………………
初めは軽く、白ワインに似た酒を、透明なグラスに入れて一同で乾杯。
その後は、料理が運ばれるまで、酒を軽く交えながら……
互の故郷の話題で、盛り上がった。
特にアルテナージャ姫は……彼女から見て、異世界である。
……………………俺達が話す、地球の話に聞き入っていた。
矢島が持ち込んだ、私物でプロジェクター機能のある、ビデオカメラ。
それで地球の地図や、ニュース映像等を、壁に映し出すと、もの凄く。
……………………興味深く見ていた。
他にも、魔力を使わないで、映像を映し出したり、撮影する。
ビデオカメラや、機械の仕組みを軽く説明すると、かなり驚いていた。
この世界には、魔力を使った機械の様な物は、日常にかなり溢れている。
照明器具や、手のひらサイズの立体映像投影機、ゴーレム、言語翻訳機。
そして……明らかに、エネルギー兵器の魔術兵器などだ。
SFじみた性能のものばかりで、今でも地球組の俺達は驚く。
しかし、その内部構造には、一部の兵器等の例外を除き。
……………………機械的な仕組みは、何故か存在しない。
そんな内部構造不要な、代物が日常に溢れていたら…………。
地球の家電製品とかは、珍しくも見えるのだろう。
話の流れ上、必然的にアルテナージャ姫に、地球では魔力の存在自体が、空想の産物であると、説明せざるを得ず。
産業革命など、文明の発達過程の歴史資料や、魔法少女系アニメなどを使い。
丁寧に説明すると…………更に驚いていた。
さて、そんな姫様曰く。
もう一つ、驚いた事があるそうだ。
それは…………
壁が分厚いはずの、この部屋にも救済皇目当てで、通りに集結した民衆。
民衆の歓声が、こうも鳴り響くのは…………初めてだそうだ。
故に姫様も、従者の老紳士も驚いていた。
老紳士は姫様に、何やら命じられ……………………今はここにいない。
「その魚のお造り、お気に召したようですね。○✖様」
「ええ、美味しいです。自分達の故郷も島国でして、生魚はよく食べるんですが……ここまで、色彩豊かで――――」
そう、この刺身になった魚達――――カラフルなのだ。
原色丸出しの何やら、遺伝子操作でもして、ナスやトマト、ピーマン、オレンジの色素などを、ありったけぶっ込んだ感じの鱗をした――――
……………………馬鹿デカイ魚だ。
この世界の創造主は、きっと原色好きなのかもしれない。
地球の神様の繊細さを今更だが、もの凄く感じてしまう。
この魚達の大きさは、那覇基地でよく見かけた。
……………………戦闘機用の外部燃料タンク位の大きさだろうか。
そんな怪――――否、大魚がお造りになって、長方形の何やら……
裸の妖精の絵が、金で淵に何体も描かれた。
お値段の高そうな…………陶磁製のでかい皿に、何匹も乗せられている。
因みに、お造りになった魚の頭部には――――――――
ドスっと、豪華そうな柄をした、短剣がさり気なく。
……………………ぶっ刺さっている。
ピチピチ!
パクパク…………
お造りになった魚は――――それでも、まだ元気なようだ。
……………………凄い生命力である。
そんなお造りの盛られた皿は、更に――――海竜の彫刻を施された。
これまた高そうな……馬鹿でかいサイズの円形のテーブルに。
他の料理と一緒に、ズラリと並べられている。
何やら、テーブルの脇には…………ただならぬオーラを放つ。
銀髪で長髪の筋肉質な男が、両腕を胸の前で交差して待機。
しかも、その腰には――――使い込んだ感じの長い。
……………………包丁を何故か、鞘に入れて、二本装備。
服装からして、料理人なのは分かる。
しかし……………………ずっとこっちを見ている。
ああ、そうか!
…………チラッ
俺の隣には、アルテナージャ姫がいるからだろう。
きっと、そうだろうと、俺は納得して姫様との会話を再開。
「――――自分の国でよく食べる魚は、ここまで大きいのは、少ないですからね…………驚きました」
「まぁ、それじゃ民が食べていけるんでしょうか…………」
「足りない食料は、他国から輸入していますよ。貴国も島国ですから、同じなのでは?」
「大半は植民地から供給されていますので、輸入の割合は少ないですわ」
「植民地ですか…………」
少しばかり、21世紀の教育を受けている俺は、返す言葉に悩む。
現代の価値観…………地球の価値観で、この世界を杓子定規に測るのは…………
無礼だろうか――――――――
「○✖様の世界では、察するに…………植民地は、余りいい扱いを受けていなかったんでしょうか」
……………………しまった。
どうやら、顔に出ていたようだ。
やはり、酒が入ると……俺はポーカーフェイスが出来ないようだ。
それは、奴……上官や同僚、マギサ達にも言われて気をつけていたが……。
「……ええ、余りいい扱いを受けていなかった。そんなところが大半ですね…………解放後も紛争や貧困の火種が残りましたが、多くの人間が文明の洗礼を受けた。その一点は、個体レベルで非力な人間にとって――――――――」
「――――――――唯一幸いだった。この世界に来て、もの凄く実感しましたよ」
この世界に来て俺は、人間の個体レベルでの弱さを思い知った。
特にこの世界で……出会った瞬間に俺が、貞操の危険を感じ。
思わず、ヘッドショットで射殺した。フル勃起が目印なモンスターのオーク。
今でこそ、連中を街中で見て、即ヘッドショットを撃ち込む。
…………本能的な、衝動を抑えこめるが……。
あのエロ豚共に、人間や亜人の娘が鎖に繋がれ。
一番多く見たのは、無政府状態になり、故郷を追われた。
……………………東ドルア難民の人間の娘だったか。
それらの人々が、ごく当たり前に性奴隷にされ。
路地裏で堂々と……………………オーク達が白昼から、青姦に興じ。
オークの子供を孕み、産まされる家畜として、扱われているのを、旅の道中。
何度も見て……………………もの凄く、人間の弱さを感じた。
同じ位、それらの蛮行をスルーする。
この世界の人間や、亜人を見て……怒りも覚えた。
旅を始めた当初、憤慨してオークを撃ち殺し。
奴隷を助けた事もあった。
だが、お忍びでここ、救済教会本山を目指して、旅の途中だった。
マギサや俺達が助けても……。
……………………余りいい結果には、結びつかなかった。
それ以降は、俺達もオークや奴隷達を、スルーする事にした。
流石に手持ちの銃火器や、弾薬の残りと…………
オークとの、交戦回数を併せて考えると、キリがないのだ。
この厳しい選択は、仕方なかったと思う。
そんな中……。
……………………逆に真逆な人々を見て、尊敬の念も覚えた。
その人々は……。
北からはオーク連合に年中攻められ、小競り合いや自国民の拉致が絶えず。
東からは列強国の中でも、大国で知られる存在、西ドルア帝国に挟まれ。
それでも、最後の優しい女神の教えを、五千年以上、厳格に守り貫く。
……………………女神派が多い、歴史ある小国の【南ドルア王国】
そんな南ドルアで俺達が世話になった……貴族の領主。
双子のご令嬢が、かなりの美人で……奥方も美しく優しかった。
御子息の坊やになつかれて……南ドルアを離れる時は、本当に辛かった。
そんな理想的な、家族に囲まれた領主様は――――――――
オークの蛮行を、決して許さず。
オークを狩り殺し、その主人を法で厳格に裁き。
人間や亜人に関係なく……奴隷を解放し、領民として保護していた。
その行動を、女神派の領民は、支持しているようだが……
彼の仕える南ドルア王家と、オークの所有が合法な隣国。
オーク連合と西ドルア帝国との関係は、先の東ドルア崩壊以降。
……………………最悪な状態のようだ。
政治や外交的には、過激でリスクの高い対応だが。
…………領主の彼は、尊敬に値する人物だ。
それに、この世界と対局とも言うべき世界。
人間が唯一の知的生命で、地上の覇者だった。
地球でも…………。
紛争地帯や発展途上国での人身売買や、奴隷の発生は勿論。
残念な事に……日本でも似たような、問題を抱えている。
日本の高度移民優遇特区やその周辺では、尋常ならざる。
カルト宗教並みの、フィクション満載の洗脳教育を受けた。
反日国家からの移民による、婦女子への暴行、誘拐、一般人への様々な襲撃が、日常的に横行しているのだ。
正に日本人へのオークの如き、野蛮な暴挙は、完全に放置され……。
極左政権は勿論、警察組織、マスメディアも、人権団体もガン無視状態だ。
そんな異常事態で、まともに機能した。既存の社会システムは、唯一つ。
東西冷戦時代に、核攻撃でも破壊できない様に、米国で考案された。
情報通信網が起源のシステム……………………ネットぐらいだった。
日本の社会全体が、機能不全寸前だった状況下で…………
今ではすっかり、仲間になった矢島は、極左政権の進める。
事実上の民族浄化に対して、武力抵抗していたレジスタンス組織。
自宅迎撃隊の中心メンバーだった。だいぶ後で、俺は気付いたが……。
よくよく矢島の顔を見れば……………………
交番には、コイツの顔写真のポスターが、デカデカと貼っていたのだった。
やはり、何処かで見た顔だと、頭にピーンとくる訳である。
今にして思うと、矢島達が自らの社会的立場を顧みず、法を超え。
銃火器を密輸して、武装蜂起をしたからこそ…………。
正義感の強い警官は、絶望して拳銃自殺への道を選ぶ事も無く。
微かな希望と、使命感を持って……腐りきった組織を抜け。
同じく、公職追放された元自衛隊員や、集団脱柵した自衛隊員達にも。
社会を守れる拠り所と、銃という名の最終手段が残されていたのだ。
矢島達の果たした役割は、亡国の窮地における。
正に、正義の受け皿とも言うべき、偉業である。
そこまで、堂々と己の正義を貫ける、矢島や……
領主の彼が、俺にはもの凄く――――――――
……………………眩しく見える。
所詮俺は、偶々上官だった奴のそばに…………居ただけだ。
沖縄の青い大空に、毎日いたから地上の、本土での悲惨さを……
毎日のスクランブル任務への、同行任務に忙殺され。
……………………感じ難く、なっていたのだろうか。
或いは米軍のお膝元で、本土以上に平和な沖縄だけしか……
俺の目には、映らなかったのかもしれない。
それでも俺は……
旅の道中、何度も湧き上がる疑問と、葛藤を感じながらも、ようやく……。
……………………ここまで来た。
流石に頭では…………もう解っている。
いたずらに、目の前の敵と交戦しても、無意味な現実を…………。
幾ら、マギサの最終的な目的が……………………
あのオーク達を生み出し、世界に放った連中、この世界の裏で暗躍して更に。
俺達の故郷、地球へ……その薄汚い触手を、伸ばそうとする。
……………………魔術結社【賢い神々の使徒】の殲滅だとしても。
一体、それまでに何人、見殺しにすればいいんだよ。
……………………マギサ。
「……○✖様は、優しいんですね」
アルテナージャ姫は、そう囁くと。
スッ……。
……………………俺の頬に綺麗な指で、触れてくる。
「…………あ」
この時、俺は自らが涙を流しているのに気づいて――――――――
…………ポロポロポロ――――――――!
「うぉおおおおおおおおおおおおお!」
初めてこの世界で、思いっきり泣いた。
------------------------- 第22部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
マギサ達の軌跡 女神の代理人の憂鬱その3
【本文】
【マウラーレ王国大使館内部】
カツカツ……カツカツ……
私は猊下……アナスタシ先生との話を、丁度終えたところだ。
何も、テラスで目立つように――――――――
民衆の前で、やらなくてもいいと思ったが……恐らく。
――――――――私を試したのだろう。
……………………厳しい先生の事だ。
私の覚悟が半端なら、その場で参戦を取り消す秘術。
現役の救済皇のみが扱える、特殊魔術――――――――
――――――――『奇跡の封印』を施す、構えだったのだろう。
ワァァァ……ワァァァ……
未だに外…………大使館前の通りからは――――――――
猊下をひと目見ようと、集まった。
ワァァァ……ワァァァ……
民衆の歓声が、未だに鳴り止まないようだ。
大使館の大分、奥に入った筈だが…………これでは…………
…………外がどんな状態か、丸分かりである。
一体今日だけで、猊下としての先生は、何人の人々を卒倒させたのだろう。
母の時も凄かったらしいが、直に見た事がないので、残念ながら比較は出来ない。
今日は、色々と大変だったが…………
先生に私の参戦を認められ――――――――
――――――――なんとか、一安心といったところだ。
或る意味、認められるか否か…………これが最大の不安要素でもあった。
先生の反対が生じなくて、今の私は――――――――肩の荷がスッと下りた感じだ。
しかし――――――――
――――――――チラッ
「……アナスタシ先生」
「なんですか、マギサ……」
「そのドレスって、もしかして…………」
「フッ♪ 気付きましたか…………貴方の母、ネリサから譲られた物です。大変重宝していますよ♪ 最も私はハーフエルフなので、魔族であるネリサの様に…………完璧に扱えませんが♪」
何やら先生は、上機嫌である。
さぞや、母から譲られたドレスが、お気に入りなのだろう。
私の在学中には、一度も着ているところを見なかったが……
言葉から察するに、明確にはドレスの機能が、えらく気に入っているみたいだ。
なるほど、通りで…………
民衆があんなに――――――――
――――――――涙を流し、熱狂しながら…………
泡を吹いてぶっ倒れる訳だ。
それにマウラーレ王国の兵士や、職員も目元に――――――――チャキッ!
――――――――チラッ
対魔力メガネを、装着済みな訳である。
彼らまで泣き叫び、ぶっ倒れたら大変だから当然の対策だろう。
そんな危険な効果を秘めたドレス。それは――――――――
――――――――【魔光ドレス】と呼ばれる物だ。
魔族が神々との、戦の時代に作り出した。
魔力繊維を特殊加工して、製作された一種の防御兵器だ。
敵を殺すのではなく、戦う意思を奪う精神攻撃の一種である。
最も近年では、この魔力ドレスの事を知っているのは…………
…………魔族かその知人、マニアックな魔術ギルドの関係者くらいだ。
それ故に消費する魔力の量も膨大で、他の種族での運用は困難である。
唯一の例外と言っていいのが、人間とエルフの間に生まれた存在。
ハーフエルフである。
ハーフエルフは、魔族に次いで魔力生成や扱いに先天的に優れている。
何故ハーフエルフだけ、極端に魔力に優れているのかは、諸説あるが…………。
最も短命で非力な種族、人間の中から希に生まれる。
魔族と遜色のない魔力生成、操作に長けた者達が生まれるのと、関係していると言われている。
何でもエルフの因子が、人間の潜在的な魔力の因子を開放とか――――――――
大ドルア帝時代の天才の考えた、やたら難しい理論を学生時代に勉強したが…………。
……………………う~ん。
――――――――すっかり忘れてしまった!
先生にバレたら、大変だから余計な事は…………言わないでおこう。
「…………あらっ『彼』が、来ているようね。マギサ」
私は先生に促されて――――――――
――――――――応接室の扉の両脇に、視線を向ける。
そこには、海竜の紋章と言えば……この王家と言われる存在。
マウラーレ王家の紋章旗が、堂々と掲げられているのを確認する。
両脇に詰めている、黒服の兵士が、猊下である先生に深く一礼。
キィイ――――――――ゴゴゴ
――――――――大きな扉が徐々に開いていく。
それにしても、おかしいな?
さっき、ここを通った時…………紋章旗は…………なかった筈だ。
大使館で、王家の紋章旗を掲げる。その意味は――――――――
「父上! お待ちください! その殿方は――――――――」
「いや! 余は決めたぞぉおおおおお!」
――――――――国家元首、マウラーレ国王が来客を、直々にご接待中という意味だ。
私は久しぶりに、陛下…………マウラーレ国王を見た。
しかし何やら、アルテナージャ姫が顔を真っ赤にして慌てている。
確か以前、陛下を見た時は…………
幼少時代、母の外遊に付き添って、マウラーレ本土に行った時だった。
以前より、顔のシワが増えて――――――――ナイスミドルな、銀髪になっている感じだ。
…………さて
そんなナイスミドルな陛下は、何故か――――――――――――――――
――――――――――――――――私の彼を抱きしめていた。
その周囲は、対魔力メガネを装着した、黒服の兵士達がズラリと並んでいる。
一体、何事だろうか。
――――――――おや?
私の彼の目元には……………………泣いた跡がある。
……………………何があったのだろう?
まさか、陛下には男色趣味が、在ったのだろうか?
…………だとしたら、大変だ。
娘のアルテナージャ姫様も、顔を真っ赤にする訳だ。
私や――――――――先生、猊下もいるのだから…………
国際問題になるかもしれない。
しかし、流石にこの状況は……………………訳が分からない。
……………………誰か一から、説明して欲しい。
そんな私の気持ちを察してか、知らないが…………
仲間達が一斉に私に注目して、話しかけてくる。
「おっ! マギサなんかヤバイぞ――――――――」
「マ、マギサさん! おっさんが急にアッ――――――――」
矢島が何かしら、私の彼のピンチを伝えようとしたのは分かる。
しかし、つかさは表情が妙だ……………………。
酒も入っているのだろうが…………何やら喜んでいる感じが――――――――!
「そこの女ぁああ! 陛下に無礼だぞ――――――――」
「――――――――構わぬ! 余が許す!」
「ハハッ!」
近くにいた兵士が、つかさを怒鳴りつけた。
しかし即効で、つかさは、陛下に許されていた。
兵士は深く礼をして、壁際に下がっていく。
…………良かったね…………つかさちゃん。
国王相手に不敬罪なんてしたら、死体になっちゃうわよ。
いや、可愛いから側室にされちゃうかしら?
「アルテナージャ!」
「はい! 父上…………」
「どうやら、お前は……この異邦人の男が……気に入ったようだなぁああああああ!」
……………………え? 今なんて言ったのかしら?
「私もこの男をぉおおおおおおおおおおお! もの凄くぅううう気に入ったぞぉおおおおおおおお!」
それは、陛下が抱きしめているから……………………私にも分かる。
私の彼は今――――――――グィッ!
両脇を抱えられ、赤子のように掲げられた。
掲げられる彼の表情は、完全に……………………沈黙しているようだ。
「南ドルアのエレオス公爵! あいつが気に入るわけだ…………貴様の事は、あいつから、しかと聞いておるぞぉおおおおお! アルテナージャよ――――――――!」
エレオス公爵…………ああ、あのカッコイイ領主様の事か。
まさか、陛下とお知り合いだったとか意外だ。
しかも、私の彼の事を、陛下に連絡済みですか。
確かに、エレオス公爵も彼の事をかなり、気に入っていた。
…………それなら、話題の一つにも登るだろうか。
「こやつで良いな! 貴様の『旦那』にする男は!」
――――――――ちょ! 何言い出すのよ! この――――――――!
私が陛下のとんでもない発言にキレそうになり。
前に飛び出そうとした、その時だった。
私は先生に肩を優しく掴まれ――――――――キラッ!
――――――――ビカァアアアアア!
隣にいる先生――――――――いや――――――――猊下が強烈に光り。
虹色の閃光を周囲に――――――――放ちだしたのだ。
――――――――バリン!
バババババリィイン!
閃光を受けた、兵士の対魔力メガネが、音を立てて次々と割れていく。
「ぎゃぁぁあああ!」
「猊下ぁああああ!」
などと叫びながら、次々と兵士達が泡を吹いて。
バタバタと――――――――床に倒れていく。
どうやら…………魔光を高出力で急激に放出したのだろう。
これでは――――――――対魔力メガネも無意味だ。
結構なお値段がするメガネなのだが、見るも無残である。
そして輝きを緩やかにした…………猊下が――――――――口を開く。
「…………お待ちなさい! マウラーレ国王パテラスよ…………」
「むっ…………その輝きは…………アナスタシ猊下! ではございませんかぁあああ!」
「…………相変わらず、お元気そうですね。パテラス」
「それはそうと…………猊下ぁああああご覧下さいぃいい! 先程我が息子にした異邦人でござい――――――――あ!」
そう、パテラス陛下の抱える、彼も魔光を浴びていたのだ。
見事なまでに、白目をむいているのが丸分かりである。
……………………既に、息子扱いかよ…………油断できないおっさんだ。
私の彼はパテラス陛下の逞しい腕で、赤子のように抱えられている。
いや…………まるで、子供に引きずり回された人形の様に…………
…………グッタリしている。
彼も含めて、矢島とつかさも魔光の直撃を受け――――――――
――――――――他の兵士達同様に…………おや?
「マギサさぁん~なんか、その隣のエルフさん眩しいです!」
「まっぶしぃなぁ、おい! スタングレネードかと思ったぜ……って、つかさ、あの人救済皇さんだぞ……」
「え! そうなんですか?」
「お前…………人の顔くらい覚えろよ。昼間、神殿で真ん前に居たじゃね――――――――」
…………原因は不明だが、どうやら。
この二人には、魔光が効かないみたいだ。
効かないと言えば――――――――
「父上! 落ち着いて下さい! その殿方は既に…………マギサさんの恋人ですから!」
「な! なんと…………それは初耳だぞぉおおおお!」
――――――――この親子にも効いていない。
確か、マウラーレ王国の人間…………
特に王家は代々、対魔力性に優れた血筋だからだろう。
というか、陛下は人の話をよく聞け。
娘のアルテナージャ姫が、可愛そうだ。
「完全に父上の勘違いです…………ちゃんと、エレオス公爵様のお話を、お聞きになりましたか…………」
アルテナージャ姫は、顔を真っ赤にして少し…………。
……………………頭を抱えている。
何故だろう…………なんかこちらが、申し訳ない。そんな気持ちになってしまった。
だが、私の愛すべき彼を差し出す気は、微塵もない!
「むむむ…………マギサちゃん! 不愉快な思いをさせて申し訳ない! それと猊下ぁああ!」
…………ああ、思い出した。そういえば……………………
この人は…………確か、こんなノリの人だった。
昔見た時も、取り巻きの従者さんが、慌ただしく。
動いていたのを、今更だが思い出した。
「…………ええ、その者への回復ですね…………どれどれ」
…………カツカツ。
「…………あらら、この逝き方だと、魔光を浴びる前にも、かなり感情的になっていたんじゃ…………ないのかしら?」
――――――――まさか!
私は先生の言葉に驚き、彼に――――――――近づく。
「…………安心なさい。マギサ、私が誰かお忘れ?」
先生は私に微笑みながら、話しかけると――――――――
――――――――泡を吹いて変わり果てた、私の彼を床に降ろさせ。
――――――――スッ
手を向けて――――――――カッ!
先程までの…………虹色の輝きと違い。
昼間、神殿で私が手を突っ込み…………
馬鹿でかい救済石を創り出した、黒く輝く炎。
黒き炎を腕から迸らせ――――――――彼を覆い尽くしていた。
今日は…………この奇跡を二度も…………目にしている。
一回目は昼間…………神殿で馬鹿な、亜魔族の襲撃者に殺された。
……………………兵士達を生き返らせた時だ。
周囲の参戦者達は…………見た者に、幸福が訪れるとも言われる。
猊下が、直々に行使する…………救済の黒き炎を見て大感動。
その時は、私が見る限り…………魔光ドレスの機能は使っていなかったのに…………
…………大量に人々を、卒倒させていた…………流石、先生だと思った。
通常の司祭が行う救済は、術式を施した。『復活の棺』に入れた状態で行う。
三千年前に当時のドルア人の司祭、今は聖人として祀られる人物が開発した方式だ。
この方式を使う事で…………各司祭に分火された。
貴重な、黒き炎の消費を少なく抑え。
同時に…………救済時にかつて、希に起きていた致命的な現象。
…………ある異常事態の発生を、確実に防ぐのだ。
最も、救済の最高統括者である。猊下自らが行う救済。
そこには、一切の異常など皆無だ。
寧ろ、この世界では猊下直々に、救済を施される。
それだけで……………………大変な名誉である。
「う…………ん。あれ…………」
「目が覚めましたか…………異邦人の青年よ」
黒き炎が消え失せ…………すっかり、私の彼も元通りだ。
一方その頃――――――――
【オーク連合域内】
オーク連合…………この国家、近年では、多くの魔術ギルドが…………
影からスポンサーとなり、成立している事や、悪い意味で色々と有名である。
その名のとおり、人工生命オークが主体の国家だ。
正式名称は【オーク連合共和国】である。
この国に住む人間は、この国家の成立以来二つに…………分かれる。
一つ目は、スポンサーである魔術ギルド関係者達だ。
彼らが近年、事実上この国の支配者である事は、世間的には…………よく知られている。
そして、二つ目は――――――――
――――――――ぁぁん…………ぁっ! ぁっ! ぁっ!
「はぁ! はぁ! うぉおおおおおおおお!」
――――――――ギシギシ!
ギシギシ――――――――ミシッ!
ぁっ! ぁっ! ぁっ! ぁぁああ!
ドピュッ! ジュポッ…………
「…………ふぅ~気持ちよかったぜ~」
男として一方的に満足した、この男は思う。
――――――――やっぱり肉便器は、南ドルアの女に限るな!
「…………ううっ」
…………そう、性奴隷にされた各種族の女性たちだ。
大半は、人口が多い人間の娘と、種付け用の若干名の男で構成されている。
オーク達は数百年前…………かつて、自分達の支配階級であった存在。
この地に住んでいた、大ドルア帝国の臣民を帝国崩壊時に捉え。
家畜化に成功。その後数百年近く……苗床件、性奴隷にしていた。
しかし近年、謎の疫病で家畜化した、臣民の子孫がほぼ全滅。
これによって、彼らの担っていた、外貨収入源の一つである。
危ない性癖のセレブや、過激な娼館向けの性奴隷が、輸出出来ない。
建国以来未曾有の、国家財政上最悪な状態に突入。
亡国まっしぐらの危機的状況に、陥っていたのだ。
当然のように、人間にとっては迷惑極まりない、同産業は消滅寸前。
しかし…………急激な需要と供給の崩壊は、深刻な事態を誘発していた。
特に変態貴族が多い、西ドルア帝国や南エルフ王国では――――――――
――――――――謎の婦女子行方不明が、多発。
当然のように、一般人の間で思い浮かぶ、犯人像も完全に一致。
普段から、奴隷を侍らせていた貴族の一部が、焼き討ちに合ったりもした。
実際、焼き討ちにされた、一部貴族の邸宅からは、数多くの…………
…………行方不明の婦女子が発見されたのだから、言い訳無用である。
さぞや、変態貴族の面々も、煩悩と股間が危機的状況だったのだろう。
オーク連合内から、甘く悲痛な喘ぎ声は途切れ…………
…………自慢の肉棒は行き場を失い。
膣内という名の、貴重で淫らな海は消え去り…………
…………このまま世界から、全てのオークが消え失せる。
そのように思われたが…………
――――――――だが!
陵辱の神は、オーク達を見捨てなかった!
彼らが絶滅寸前になった、その直後…………
長年愛用している、肉便器的存在の原種族、人間最大の国家。
神聖東ドルア帝国が、軍事クーデターの失敗で、あっさり崩壊。
同国は無政府状態になり、やりたい放題の無法地帯と化したのだ。
だが、いざ動こうにもこの時――――――――
――――――――既にオーク連合は金欠であった。
これでは、淫らな占領統治が大好きな、オーク海兵隊も派遣できない。
…………オーク達にとっては非常に歯痒い、残念な状態だった。
そして、そこに手を差し伸べたのが――――――――
「オタノシミイタダケデショウカ? 魔術師ドノ」
「締りが全然違うな! 最高だっ!」
――――――――多数の魔術ギルドである。
明確には各国で、過激派として扱われている。
常軌を逸した非合法な、行為を繰り返した外道。
多数の非正規魔術ギルドの連中だ。
魔術ギルド側としては、丁度各国での取り締まりも、厳しさを増していた。
…………そんな時期でもあった。
故に、互の利害関係が見事なまでに一致したのである。
今ではかなりオーク達と…………ご覧のように、ウィンウィンの関係だ。
そして、新たに世界中で『ある事業』を展開中だ。
それは――――――――
「――――――――で、南エルフ王国方面から、子豚は届いたか?」
「ハイ。偽装輸送船ガ3隻程、マウラーレ海軍二撃沈サレマシタガ、一番純度ノ高イ個体ヲ載セタ船ハ、無事デス。保存状態ハ良好デ、既二、プラントデ『魔液』ノ精製二ハイッテイマス」
魔液…………主に魔術兵器等を、広域増幅器の範囲外で動かす際に、必要な液体だ。
原材料は…………各国地下に埋蔵している…………『魔鉱油』である。
一般的には、人工生成は困難と考えられている、貴重な液体…………
その筈だが…………。
「なら、問題ないな。で、お前の名前は?」
「私デスカ? 私ハ下級個体デスカラ、固有名ハ、ナイデス」
「名前があるのは、中級からだったか…………まぁでも、お前は俺の部下だ。俺が名前をさずけてやる…………ドゥラークだ、覚えとけ」
「アリガトウゴザイマス。マイマスター」
「よし、ドゥラーク。俺はさっさとギルド本部に行くから、その娘達は……お前が処分しとけ」
「…………承知シマシタ」
…………カツカツ…………バタン。
「サテ…………」
ドゥラークと魔術師に名付けられた、このオークの視線の先には――――――――
――――――――数人の少女が、ベッドの上で、全裸で泣きじゃくっていたのだった。
室内には、精液と膣液、唾液の臭いが…………満ちている。
…………先程の魔術師は、かなり楽しんでいたのだろう。
ブヒッ!
ドゥラークは、鼻を鳴らすと…………処分を開始する為に少女達に近づいていく。
------------------------- 第23部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
マギサ達の軌跡 女神の代理人の憂鬱その4
【本文】
【オーク連合内 都市部 某所 地下施設】
今では、すっかりオーク達が我が物顔で支配する。
オーク連合の支配地域。
この地がまだ、人間最大の帝国…………大ドルア帝国だった時代。
この地の地下には、大規模な軍事研究施設が密かに建造されていた。
その施設からは、高効率な魔術兵器など、数多くの革新的な兵器が、生み出されていく。
新たに生み出された、兵器の中には、後に…………
この世界の戦争を一変させた兵器。
竜の臓器を取り出し、特殊な措置を施した上で搭載した兵器。
攻撃力、防御力、機動力が遥かに向上し、魔力弾の前では泥人形同然だった。ゴーレムのイメージを一新した機動兵器。
竜核搭載ゴーレムや、後にこの地を支配する存在。
労働用に開発された人工生命が起源である。
戦闘用歩兵オークも含まれていた。
これら、大量の新兵器を手にした。
当時の大ドルア帝国指導部は…………
その圧倒的な戦力を持って、各国へ電撃的な侵攻を開始。
最盛期には、ほぼ全ての大陸を制圧。
植民地化や、属国化を急速に推し進めていた。
しかし…………
残すは救済教会本山と、魔族の住まう大陸と残り数ヶ国になったところで、その壮大な野望は、魔族の盛大な反撃を受け…………頓挫する。
かつての大ドルア帝都は、魔族が秘匿していた。
神々の時代の兵器による、戦略攻撃で壊滅。
大地は赤く溶け。
抉れ、海水がなだれ込み。
跡地は完全に、海洋と化してしまう。
その後、幾度か、魔族から同様の戦略攻撃を受け。
大ドルア帝国は崩壊。
後に大きく、三つに分裂する事となる。
帝都跡地の海洋の東側には生き残った皇族出身である、一人の男性軍人が皇帝に即位、人間主体の神聖東ドルア帝国が誕生。
西側には大ドルア帝国の貴族が、同じく生き残った、幼い皇族幼女を祭り上げ、帝政を表面上維持して支配階級に収まった、西ドルア帝国が誕生。
そして更に、その西側の範囲と、かつての大ドルア帝都同様に、魔族の戦略攻撃によって、生み出された南ドルア海。
南ドルア海西側の大陸北端部と南半球に位置する、南エルフ王国南部近海の島嶼部を支配する。オーク連合共和国が誕生。
オーク連合の地に残された、強者共の遺産を受け継いだのは…………
大ドルア帝国崩壊時に、帝国を離反した。
近代魔術ギルドの前進になった組織。
大ドルア帝国魔術軍団の残党と…………
同軍団傘下の研究機関が生み出した。
――――――――人工生命体のオーク達だった。
その後…………
大ドルア帝国崩壊以降、割と太平の世が数百年近く。
世界的には、続いていたのだった。
コンコン……キィー……バタン
「失礼します」
「…………空いている席にかけなさい。同志ナルディック」
…………良かった。
あの気難しい、糞ババアが怒っていない。
自分はどうも…………
知り合いの武闘派オーク共から先週、献上された。
獲りたて、完全天然の肉便器。
クスリ漬け前の、貴重な南ドルアの娘に…………夢中になりすぎたようだ。
今週だけで、何人を自分の趣味趣向で問答無用で抱いただろうか。
生きが良すぎる娘は、頭が弱く、見た目が醜悪なオークに犯させ、眺め。
…………いい酒の肴になった。
他の娘たちへの、いい威嚇と座学的な調教にもなった事だろう。
しかし、クスリ漬けで虚ろな反応より…………自然な反応は、自分の嗜虐心を程良く。
…………刺激してくれる。
自分のような性癖を持った存在には、今の世の流れは最高である。
毎日が、酒池肉林のお祭り状態だ。
今や、人間の娘は東ドルア崩壊以降、余っているのが現状だ。
何故か、先週献上されたのは、お隣の国。
南ドルアの娘だったが、国境付近でオーク達と揉めているから、その絡みで手に入れたのだろう。
我々の様な、金と力のある者は…………
生きるべき糧と、故郷を失った対象を、殺さずに愛でているだ。
…………何も問題ないだろう。
西ドルア帝国や南エルフ王国の貴族だって、年中している嗜みだ。
だが…………古臭い人権問題に煩い連中。
女神派の多い南ドルア王国や、マウラーレ王国からの…………我々への視線は厳しい。
寧ろ、穀潰しの娘達を保護して、何度も絶頂へと導いているのだ。
私財と愛情を注いでいるものとして、寛大に見ていただきたい。
女神派の馬鹿共も、難民共を本当に助けたければ…………
貴様らで、食い扶持を増やせばいいだろう。
無政府状態の東ドルアを放置して、何が女神派や人権だ!
偽善者共は本当に最低だ。
現実に目を向けろと言いたい。
…………とは言え、自戒しないと、このままだと自分の股間が危険だ。
ギルドの仲間内では、オーク由来の精力剤でオーク並に楽しんでいる。
馬鹿者もいるが…………あの精力剤は副作用が強いから、改良が望まれるところだ。
しかし…………
今回は、会議になんとか…………遅刻しなかったようだから、いいが。
…………今後も、気を付けないといけない。
次からは、ドゥラークに時刻を知らせに来る様に躾けるか。
あいつは…………オークにしては、流暢に人語を話す。
少し鍛えれば、簡単な雑用はこなせるだろう。
…………チラッ
上座には…………自分が属する、ギルドの長を務める、かなり意地悪な老婆が…………黒いローブを頭から被り…………座っている。
ギルド長の周囲には――――――――白い仮面を付けた。
性別も種族も不明な――――――――
――――――――赤いローブの連中が、三人程張り付いている。
何でも、この三人は護衛らしいが…………敵対ギルドが送り込んできた。
手練れで有名な元東ドルア特殊部隊上がりの軍人で構成された百名近い。
ハーフエルフの傭兵を瞬殺したらしい。
その話が事実なら、流れ者の魔族か…………
伝統的に【準魔族】扱いをされている。
先天的に魔力に優れた人間の類が、白く不気味な仮面をつけた…………
この護衛三人の正体だろう。
自分も含めて、この会議に出席する全員…………護衛の三人を除く。
全員がギルドの正装である、黒いローブ姿である。
正装で来るように指示が来るのは、かなり重要な案件である証拠だ。
…………上級幹部クラスの席には、何席か空席も見える。
緊急招集だから、仕方ないだろう。
「さて、何席か空席もありますが、彼らには…………別の任務についてもらっているので、事後報告でいいでしょう…………さぁ…………緊急会議を始めますよ…………何せ――――――――」
カタカタ! ギリッギリ…………!
何やら、ギルド長の手が震えている。
それに…………シワと染みが目立つ、口元が大きく歪み。
…………怒っているのが丸分かりだ。
少しは、美容に気を使えよ。
仮にも魔術ギルドの長なら、若返り位できるだろう。
「――――――――『予定が』大幅に狂い! あの…………忌々しい魔女の娘…………マギサが参戦したようですからねぇええ!」
ああ…………三代前の救済皇の娘の事か…………ん?
その頃――――――――
【マウラーレ王国大使館 通信室】
通信室では、アルテナージャ姫に命じられ。
本国への命令を伝え終えようとした。
アルテナージャに仕える…………老紳士の姿があった。
彼の傍らには、マウラーレ特産の地酒が入った、ガラスのボトルが置かれている。
中身は、綺麗な琥珀色の液体で…………見る者が見れば。
…………年代物であると分かる代物だ。
彼はこの後自室で、一人でチビチビ飲むのが…………
救済教会本山に来てから、ここ最近の楽しみだった。
『――――――――以上が、姫様からの命令です。早急に取り掛かりなさい。では、私はこれで――なんですか?』
『侍従総長、たった今海軍から、不審船撃沈の報告が上がりましたので、陛下に報告を――――――――』
【同大使館内 控え室】
…………俺は今、ベッドで横になっている。
宿のベッドと違い、ふかふかで最高だ。
流石、一国の大使館内の設備は違う。
地球のリゾートホテルとかと、比べ――――――――るのは、そもそも間違いだろう。
採算性という、概念が感じられない…………何やら、金ピカで見事な芸術的な装飾が施されている。
「…………ありがとうマギサ、死ぬかと思ったよ」
「何言ってるの…………短時間だけど、本当に死んでいたのよ…………直ぐに先生に生き返らせて、貰えたからいいけど――ああ! まだ動いちゃダメよ! 『復活酔い』が抜けていないんだから」
確かに体が、動き難い感じだ。
そういえば…………猫の野郎も復活時、フラついていたな。
猫が『再度』柩から、自力で出てきた時は、猫耳と尻尾が生えてて、驚いたものだが、今ではすっかり見慣れた姿だ。
しかし、復活を担当した、ベテランの司祭が腰を抜かしていたくらいだ。
かなり、希な現象だったのだろうか…………
周囲の氷漬けにした死体袋や、棺を引きずった――――――――
復活待ちの冒険者や傭兵の列も、相当な驚き方をしていた。
何故か、俺達の後列の連中は、急いで別の教会へ移動――――――――
――――――――マギサも慌てて、俺達を逃げるように連れ出していた。
しかし…………あの後、あの司祭と教会は…………どうなったのだろう。
あの件に関しては、マギサやミリサの歯切れが悪過ぎる。
その頃――――――――
【救済教会本山 飲食街の外れ】
少しばかり、治安の悪いスラム街に近いエリア。
そこは、ガラの悪い連中が生息する、エリアへの入口である。
その先では、違法な改造を施された危険な魔力兵器や、違法な薬物、奴隷も手に入る。
――――――――この世界の醜い部分が、凝縮された場所だ。
政治的にも特殊な、救済教会本山の城下には、この様な場所は幾らでもある。
本格的に取り締まらないのは、そこに各国から逃れてきた。
政治難民等の弱者も、コミュニティを形成するなどの、複雑な事情もあり、安易な武力行使は却って救済教会の威信と、信頼低下に繋がるとの判断から、行使できない。
…………そんな複雑な事情を利用して生きている。
不届きな悪党達は今日も元気なようだ。
悪党の大半は、大ドルア帝国の負の遺産とも言うべき存在。
日差しの強いこの地に、適応すべく。
真っ黒な肌を獲得した人工生命。
野性化したオーク達だ。
オークも人間や亜人同様に、個体や世代レベルで環境への適応力が存在する。
しかも、大ドルア帝国が徹底的に作り上げた、生体兵器が起源だ。
その適応力は、中々のものであると言えるだろう。
野性化した粗暴なオークは、捕らえた性奴隷の人間やエルフの娘を…………
この日差しの強い、内陸部に適応した――――――――
――――――――その太く、黒い筋肉質な腕で抱えこみ。
ギシギシと青姦に興じている。
オークの中には、媚薬の過剰投与で壊れかけた娘に売春をさせる。
…………かなり商売熱心な、個体もいるようだ。
値段は正規の娼館と違い、かなり割安だ。
当然だが、性病の危険も半端では無い。
だが、仮に性病で死んでも問題ない。
何故なら、金を積んで、教会での復活をサポートする。
便利な商売もあるので、一般人程度の死亡率なら生涯問題ないのだ。
流石に、死亡回数が増えると利用料金も上がるようだが、馬鹿は死ねば治るといった…………そんなところだ。
既に、違法な野外売春スペースには、各種族のドスケベなおっさんが集結。
金を片手に長蛇の列をなしている。
一般民衆の救済がほぼ不可能な状態が続く、救済戦争が始まる前に抜いておきたいのだろう。
カッ――――――――ドドドン! パァアアア!
そんな野蛮な光景も、とある魔女と妖精のコンビが打ち上げる。
……………………魔力弾花火は、関係なく照らしていく。
偶に救済騎士団が、手入れに来る時以外は、基本やりたい放題。
そんな野蛮な場所は、歴代の救済皇が何回潰しても、複雑な事情を更に抱え込み、潰しにくいように復活した、ガン細胞の様な存在であろうか。
ここは…………そんな人々の欲の強さが、顕現した空間だ。
花火の明かりは…………一人の酔いつぶれた人間の男も照らしだす。
「ヒック! あ~もぅ酒が、ないや…………」
本当に…………忘れたいことでいっぱいだ。
酒でも飲んでいないと…………正気でいられない。
何せ…………あの、旅人を生き返らせてから…………。
自分の教会は、悪評が立ち。誰も来なくなったのだ。
…………妻は男を作り、子供達を連れて家を出ていった。
でも…………なんで!
――――――――カッ!
「――――――――復活の柩を使ったのに『亜人化』してんだよぉおおお!」
ドドドン!
お陰で自分の代で…………先祖代々受け継いできた。
教会は、お取り潰しになってしまった。
自分は絶対に…………あの猫耳の異邦人一行を許さねぇええ――――
ビチャビチャ!
「うげぇえええええええ!」
見事なまでに、没落していたのだった。
------------------------- 第24部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
マギサ達の軌跡 女神の代理人の憂鬱 終
【本文】
【マウラーレ王国大使館】
【特別応接室】
今日は……疲れた。
私自ら……救済を行うのは、随分と久しぶりの事だからだろうか。
今は久しぶりに、元教え子と、その父兄との三者面談の様な状態で、酒や料理をつまみながら……
軽く雑談中だ。
口の中に微かに残る……酒の強い香りは……私の疲れを幾ばくか……かき消してくれる。
出来るなら……隣の部屋の彼らと食を囲みながら、浴びるように……この香りと程よい甘味の酒を飲みたいものだ。
だが、私の立場上……今は無理だ。
別の機会に楽しみはとっておこう。
先程まで、私達がいた隣の部屋では、私の別の教え子とその仲間である。
異邦人男女が、追加の料理を色々と頼んで、食べているようだ。
マウラーレ産の海鮮料理のフルコースを頼んでいたのが、少しばかり羨ましい。
こんな時は、あんな立ち位置は最高だと、ネリサに言われていたのを今更だが、思いだし。
…………ネリサや仲間たちと、天下布武を目指していた頃を思い出す。
私も昔は、あの異邦人達の様に……自由だったのだ。
だが、楽しかったあの頃には……もう、戻れない。
今の私は――――――――
「猊下、マギサちゃんも……大きくなりましたなぁ~」
――――――――救済皇なのだから。
「……そうですね。パテラス……しかしマギサやエルーナ達には、もの凄く苦労しましたよ。授業をサボって下町で、派手に遊んでいるんですから……それに引き換え、私が教えた生徒で一番手間が掛からず、優秀な生徒はアルテナージャ、貴方ぐらいですよ」
「恐縮です。猊――」
「先生と呼びなさい。アルテナージャ」
「はい、アナスタシ先生」
アルテナージャ、彼女は学業優秀で人望もあった生徒だ。
私はそのように覚えている。
彼女が在学中に始めた、生徒による、スラム街の貧困層向けの慈善行為は、代々受け継がれ。
…………今年で、もう十年近く続いている活動だ。
それまで、良くて横ばいだった貧困層の犯罪は、年々減少傾向にある。
流石、南ドルアに次いで、教育熱心な女神派の多い国のお姫様だ。
王族の肩書きに恥じない、立派な功績と言えるだろう。
それに引き換え……アルテナージャの卒業後に入学してきた、マギサとエルーナ。
この二人は、全く逆だった。
スラム街で市街戦をしたり、郊外で怪しげな実験をして地割れを起こしたりと…………
…………尻拭いが、毎回大変だった。
しかし……今にして思うと、二人の在学中、私に退屈な時間は、なかっただろう。
――――――――その頃
【救済教会本山】
【留置施設の一角】
…………全くもって、最悪だ。
こんな事の為に、またコレを使うとは…………
そんな気持ちを抱きながら、私は両手の甲を掲げ――――――――
魔力を僅かに注ぎ込む。
「……確かに丁度、6億で――――――――!」
現金を数え終えた、受付業務をこなす役人。
二百歳位と思われる、中年エルフの男性役人が、顔を上げて――――――――
私の両手の甲で赤く輝く…………刻印を両目で見る。
役人の顔は、驚きへと変わっていく。
流石に事務方の役人でも、女神の斬撃の意味は理解しているみたいだ。
そして――――――――
――――――――ドン!
私の部下が、机に残りのケースを置き、中身を見せる。
パカッ
「追加の2億だ。これで本件は終了だ……お仕事ご苦労様」
「きょ! 恐縮です! 拘留者はあちらの控えの間で――――――――」
こんな時は、女神の斬撃の称号を得て良かったと思う。
これが、民間人や他国の役人なら、面倒な書類に何枚もサインさせられ。
これ以上の金額を積むのだから、手間も金も掛かり過ぎだろう。
…………計8億もの汚れた、この大金。
はっきり言って、罪人を釈放して…………罪を不問にするには安い金額だ。
そんな金を…………馬鹿な亜魔族のお姫様の殴り込み案件を不問にする為に…………
自分の古巣の救済教会へ、支払いに行く羽目になるとは…………正直思わなかった。
先程のオルーシャもそうだが、戦い好きの亜魔族は感情的で、後先考えない。
脳筋バカな連中が多すぎる。
逆に――――――――西ドルア帝国【聖人教会】の司祭は、ずる賢く油断できない。
そんな事を実感させられた一日だった。
ウルデリック司祭…………こいつに仕えて二年近くになるが、一体何者なのだろう。
どうも…………救済教会の内情に詳しすぎる。
保釈金の三分の一の額を上乗せして、刻印持ちの現役か元救済騎士が支払いに行くと…………
不起訴になる事を知っているのは本来、救済教会本山側だけの筈だ。
他国の大使館関係者や民間人には、保釈金の数倍の額が提示される。
最も、今回のような襲撃事件の場合、救済教会本山の対応は本来厳しい筈だ。
しかし、今回私は西ドルア帝国の関係者を名乗り、尚且つ。
元女神の斬撃時代の証である、刻印まで使ったのだ。
これで釈放して、罪を不問にしない可能性は低いのだが…………
ウルデリックがその仕組みを、特に刻印の効果を知っているのは…………気懸りだ。
救済教会本山の内部か、若しくは私のように元救済騎士でも刻印持ちの…………
元女神の斬撃上がりの者が、情報を漏らしたのだろうが…………嫌な感じだ。
まるで、誰かが…………盤上の駒を動かすかのように私も…………
べルーシャも動かされた…………そんな感じを覚えながら私は、両手の刻印を輝かせていた。
――――――――更にその頃
救済教会本山で……魔力弾花火が打ち上がり。
マウラーレ王国大使館テラスに突如姿を現した。
救済皇を見ようと、集まった民衆が……大量に卒倒し終えていた頃。
救済教会本山の南に大海を挟んで存在する。
南エルフ王国の王都でも――――――――
――――――――夜にも関わらず、王都やその周辺は明かりに包まれ。
群衆の様々な声が…………鳴り響いていた。
但し……その明かりや、群衆の声の意味は、ここでは全く異なっている。
熱狂さと熱量ではこちらが…………圧倒的な盛り上がりであろう。
――――――――何故なら、この時――――――――
ひとつの国家が崩壊の瞬間を迎えていたのだから…………
【救済教会総本山から約三千キロ先 南エルフ王国の王都】
【南エルフ王国 国防省 地下指令施設】
緑色の軍服を着た多くのエルフが、集まる指令施設の一角…………
そこでは、多くの立体映像や文字が浮かび上がり。
映像や文字が浮かび上がる度に――――――――
「――――――――報告! 敵が広域に渡り魔力波妨害を展開したようです!」
「報告! 王都を中心に魔術、魔術兵器の発動が出来なくなったと――――――――」
「――――――――報告! 王都を中心に魔力波通信が使用できなくなっています!」
「有線通信で首都警察本部の陥落と長官の戦死を確認――――――――」
「――――――――貴族院を暴徒が制圧! 王宮の炎上も確認しました!」
「沿岸警備隊より通信! 国籍不明の多数の不審な艦船郡を南エルフ海で確認――――――――」
次々と飛び込んでくる戦況が、訓練通りに若いエルフの軍人達によって報告されていた。
報告を受けるお偉方――――――――
「一体、軍は何をしているんだ!」
「陛下や王族の所在はどうなっているのじゃ!」
「救済教会本山に出向いた王族は無事だろうが…………こんな事なら、側室の王女などを参戦させるべきでなかったな!」
「貴様! 不敬だぞ!」
「参謀長ぉおおお! 状況を説明しろ!」
その多くは如何にも、貴族っぽい格好をした年配のエルフ達である。
但し…………参謀長と呼ばれた、この男だけはエメラルドグリーンの甲冑を身につけた、エルフにしては珍しい…………大柄で筋肉質な軍人のようだ。
参謀長は自分の後方でわめき散らす、国務大臣達の方を向き――――――――
「ガタガタ喚くな! このゲス共がぁあああああ! 民衆が蜂起した原因の大半はキサマらだろうがぁあああ! 貴様ら国務大臣の中で東ドルアの難民や誘拐した婦女子で遊んでいない奴が一人でもいるのか! 申してみよ!」
…………国務大臣達は何も言い返せないようだ。
辺りには…………気まずい静寂が満ちていく。
国務大臣達は互の顔を、チラチラ見合い…………かなり気まずそうだ。
どうやら…………この大臣達。
みんなエロが大好きな典型的な、スケベな政治屋のようである。
そんな気まずい静寂は、即座に悲痛な報告が打ち消していく。
「南エルフ海沿岸監視所より有線通信で緊急報告! 沿岸警備隊艦船が多数の不審艦船より、魔力弾を受け撃沈! 同時に多数の不審船が接岸! 南エルフ海沿岸部へオーク兵の揚陸を開始! 市街地で警官隊と交戦開始!」
オーク兵揚陸の報告を上げた、若い女性エルフは顔が青ざめていく。
オークの野蛮さはエルフ…………否、種族を問わず全ての女性が幼い頃から聞かされている事柄だ。
他の女性エルフの中には、その場で泣き崩れる者も現れる。
揚陸地域に身内や知り合いが居るのだろう。
何やら、国務大臣達はザワザワし始める。
その内の何人かは、かなり表情が気まずい感じ――――――――
「――――――――そんな馬鹿な事があるか! 再確認しろ!」
「ですが! 中尉――――――――」
戦況報告をしている男性エルフの中尉が、驚きのあまり声を荒げてしまう。
彼は部下からの…………有り得ない報告に驚き、再確認を命じる。
中尉は何度も脳裏に思い返す。
奴らは王都内から、数百年掛けて、百年前。
自分が准尉に任官した年に、最後の一匹を狩り殺したのを最後に現れていない。
…………その筈だと報告を聞いてから、何度も思い返していた。
いや、それ以前に部下の報告に含まれていた…………幼少時代によく聞いた、大昔のおとぎ話みたいな展開が、中尉には心底信じられなかった。
まだ幼さの残る、部下の若い女性エルフはオロオロ…………狼狽し始めているようだ。
「構わん! そのまま報告しろ」
そのやりとりが偶々目に入った、参謀総長は指示を飛ばす。
中尉は重い表情をしながらも…………部下の女性エルフの肩を軽く叩き。
報告を許可…………女性エルフは緊張を抑えながら、唾を飲み込むと口を開く。
「ほ、報告! 突如現れた魔法陣から多数の武装魔術師とオーク兵が出現! 同時にゴーレムと思しき機動部隊も出現しました! 既に最終防衛線を突破! 官庁街へ侵攻を開始――――――――」
――――――――数時間後、早朝。
昨夜…………南エルフ王国で起きた事の詳細を、この世界で一番早く聞いた者達の一人が…………救済教会本山にいた。
【西ドルア聖人教会関連施設 幹部用の屋敷】
その報告を受ける…………力士並みの巨体の持ち主。
ウルデリック司祭の傍らには昨日、西ドルア帝国大使館で…………
手に入れた、西ドルア帝国の紋章が刻まれた、黒いケースの残りが置かれている。
…………中身は当然、裏金である。
ウルデリックは余裕の笑みを浮かべながら、ソファーに腰掛け。
日除け用に水で一面を覆った…………巨大な天窓から朝日を浴び。
まるで、水中にいるかのように思わせる、白い大理石の広間で…………数枚の書類に目を通している。
…………片手には、ほのかな甘みと香りが評判の薄黄色の液体。
この地の特産品である、茶竜のミルクが入った白いコップを持っている。
白いテーブルには茶竜のチーズを溶かし、フォンデュ状にした液体を収めた木製ボウルや、丁寧に切り分けた…………焼きたての白いパンが皿に並べられ、湯気を微かに登らせている。
他にも、西ドルア本土から、輸送用の飛行ゴーレムを使い運ばせた。
大好物のハーブや葉物野菜を使い、分厚くカットした生ハムてんこ盛りのサラダが並んでいるようだ。
ケースに刻まれた紋章には…………三つ目で双頭の飛竜が刻まれている。
西ドルア帝国皇室の紋章と、世界的には認識されている紋章だ。
元々のデザインは数年前まで存在していた大国。
神聖東ドルア帝国皇室の紋章がベースである。
神聖東ドルア帝国皇室の紋章、それは…………
三つ目の飛竜をあしらった黄金の紋章である。
この紋章は、大ドルア帝国時代の皇室も使用していた…………
…………由緒ある紋章だった。
そんな…………滅んだ隣国の紋章で赤い判が押された。
書類に目を通しながら、ウルデリックは自分好みの赤く、際どい服を着せた、スタイルのいい…………金髪をした若い人間の女性秘書から、報告を聞いていた。
「そうか~南エルフ王国は、やはり滅んだかの~オーク連合からは何か言ってきたかの~」
「いえ。今のところ、新たな指示はありません。それと、ウルデリック様…………こちらをご覧下さい」
コトッ
テーブルの隅には金色の筒が数本と、溝が入った黒く平たい箱が乗せられた。
銀色の金属製トレーが置かれる。
金色の筒の半分には、乾いた泥が付いているようだ。
「――――――――これをどこで見つけた!」
何やら思わず素に戻り、秘書に尋ねるウルデリック。
その表情からは…………余裕の笑みが消えている。
「泥が付いている方は先週、アルメナ北部の遺跡近郊の森林地帯を偵察していた傭兵が発見、回収した物です。昨日の飛行ゴーレムで運ばれてきた物になります。残りは昨日、参戦者に金を払い。工作員が回収した物になります。こちらは――――ウルデリック様!」
ウルデリックはソファーから立ち上がり、コップの中身をグビグビ飲み干す。
そして、一回大きなゲップをする。
この時…………
ウルデリックは、銀色のトレーに乗った物体の意味を理解していた。
彼は、それがどのような経緯で開発され、どのように使用されてきたかも――――――――
…………非常によく知っていたのだ。
トレーの上に置かれた物体の価値を知っている、ウルデリック。
故に彼は焦り気味になりながらも、次に自身がなすべき事を思い浮かべ。
――――――――口を開くのだった。
「直ぐにゴーレムに乗りますぞ! 今日の予定は全部後回しですぞ!」
「承知しました――運転手は直ぐにガレージへ、司祭様が外出されます」
秘書はペンダント型の魔力波通信具を使い、指示を出す。
ウルデリックは急いで、とある魔術ギルドのロッジへと向かうべく――――――――
秘書と共に移動用ゴーレムの置いてある、ガレージへと向かうのだった。
――――――――同じ頃、マウラーレ王国大使館周辺――――――――
昨日深夜、救済皇アナスタシが姿を見せた同大使館周辺…………
そこには多くの群衆が集まり――――――――ワァアアア!
「猊下ぁあああああああ! おはようございますぅうううう!」
大音量のモーニングコールを張り上げていた。
大使館の周辺は昨夜以上に、救済教会の兵士達が取り囲み。
…………警備を強化しているようだ。
警備隊の中には、今では…………救済教会と魔族しか、製造と運用が出来ない機動兵器。
竜核搭載ゴーレムも数体規模で尚且つ、等間隔で配置されている。
魔力合金の装甲で覆われた、竜核搭載ゴーレムは…………
まるで凱歌のような、群衆の声が鳴り響く中…………
その美しい流線型のデザインフォルムと、鏡のような…………
真紅の装甲を…………陽光を浴びながら輝かせていく。
しかし既にこの時、救済皇アナスタシは救済教会の極秘施設で、円卓を囲み――――――――緊急会議をしている最中だった。
アナスタシは諜報機関の責任者から、日付が今日に変わる頃。
究極緊急の知らせを受け、酒席を中断。
元々は大使館用に救済教会が用意した…………緊急用の地下道を使い移動。
…………報告会議に臨んでいた。
……………………
どうも私の気分が優れないのは…………酒席を中断されたからだろうか。
数百年前…………
前回の救済戦争の際、一冒険者で独り身だった私は…………開戦当初。
祖国の北エルフ王国が、南エルフ王国に武力併合されても、特に感じなかったものだ。
しかし、立場が変わると…………
やはり色々と感じが違うのだと、私は実感していた。
「そうですか、南エルフ王国は崩壊しましたか…………」
アナスタシは救済教会の諜報機関の責任者から、報告を受けていた。
報告をする彼は、竜人特有の緑色の鱗を纏った逞しい体つきをしている。
彼は竜人族出身の救済騎士の精鋭、女神の斬撃出身者だ。
今は、その頭脳と忠誠心を飼われ。
諜報機関の責任者を任されている。
顔にも一部鱗が見受けられるが、その顔つきは…………殆ど人間と変わらない。
違うのは…………頭部に緑色の角が二本、まるで鬼の様に生えている点くらいだろう。
「そのようです猊下、現在、南エルフ王国の大使館も本国と連絡が取れず、混乱しているようです。生き残った軍部と貴族の一部が、紛争地として有名な、エルフ海峡東側の南ドルーシャナア島の植民都市に、臨時政府を樹立との情報もありますが…………それよりも、こちらをご覧ください」
円卓の中央に立体映像が映し出される。
時刻は昨日深夜の時間帯が…………表示されているようだ。
撮影場所は南エルフ王国王都と表示。
その映像には燃え盛る炎と廃墟を背景に、多数の完全武装したオーク兵の隊列と同じく、完全武装の魔術師達がゾロゾロと映っている。
しかし、そこには大きな…………人型のシルエットをした物体も映りこんでいるようだ。
「…………なんの冗談ですか、この映像は…………」
「猊下、残念ながら既に事実であることを、飛行ゴーレムと飛竜の偵察で確認済みでございます。恐らく…………形状からして、東ドルア崩壊時に流失した、竜核ゴーレムの一部も紛れ込んでいると思われますが、どうも数からして大半は――――――――」
「――――――――量産に成功したみたいね。オーク連合は…………」
竜核ゴーレムの量産に…………
「そのようでございます。更に悪い知らせが…………南エルフ王国崩壊時、王都を中心に魔力波通信への尋常ならざる妨害と、魔術や魔術兵器の発動が出来なかったとの情報があります。更に――――――――」
映像の一部が拡大表示される。
拡大表示された映像には、魔力兵器で武装した――――――――
「――――――――オークが魔力兵器を使っているとか、これこそ、なんの冗談ですか!」
アナスタシは思わず、声を荒らげる。
映像を見た他の幹部達も驚きのあまり、ざわついているようだ。
オークなどの人工生物は魔術や魔術兵器が扱えない。
使えるのは、広い意味で【人だけ】の筈だ。
この人の中にはミリサの様に、魔族のクローンも含まれている。
ここにいる救済教会の幹部たちも含めて、世間的にはそのように、認識していた。
…………その認識も、ついさっきまでだが。
「――――――――静粛に! 報告を続けなさい。スメラルド諜報局長」
ああ…………なんてことだ。
「承知しました猊下。続きまして、違法魔術ギルドの魔液密輸船をマウラーレ海軍が、多数拿捕、撃沈したとの情報が――――――――」
こんなに憂鬱になったのは…………初めてだよ…………ネリサ。
――――――――その頃、救済教会本山のとある魔術ギルドロッジ。
そこには――――――――急いで駆け込んできた。
ウルデリックと女性秘書の姿があった。
このギルド、表向きは合法な魔術ギルドで通しているが、ここは――――――――マギサ達の敵である、あの組織。
魔術結社、【賢き神々の使徒】の強い影響下にある場所だ。
【魔術ギルド通信の間】
薄暗く…………微かに青白く光る球体が、四隅に配置された空間。
ここは高度な暗号処理がされる、長距離魔力波通信の間。
同型の設備は各国の軍や、大使館でも使用されている代物だ。
その空間の中央には、息を切らしながら――――――――
【誰かに】報告を告げる…………ウルデリックの姿があった。
どうも女性秘書は、別室で待たせているようだ。
彼の通信先は――――――――
『――――社へ緊急報告! こちら側でメタルカートリッジ等の存在を確認! 銃で武装した集団が、この世界へ侵入した模様! 目的は今のところ不明ですが、生存期間や移動距離を考慮すると、組織だって動いていると判断、通常の漂流者の可能性は、低いものと考えます! 既にこちら側の魔族の一部と結びつき、軍事行動に出ている痕跡を確認! 至急、【該当するそちら側の組織】の洗い出しを進言します!』
その口調は普段の彼からは、想像できない丁寧な口調だ。
そんなウルデリックの声に応える声が通信の間に鳴り響く。
…………男の声のようだ。
『なるほど…………君の提出した資料によるとM855と呼ばれる小銃弾をばら撒く集団か、ほぅ…………M193小銃弾、5,7ミリ弾も混ざっているのか、実に興味深い…………こちらでも、該当する組織の調査を開始する。しかし、こちらへの報告が遅いのは、どうゆうことだ? 答えよ』
『はっ! こちらの部下の一部が、排除対象に対する報告を…………その、排除対象に対する個人的な怨みで伏せていたようです! メタルカートリッジとボックスマガジンにつきましては今朝、別ルートで確認しました!』
ウルデリックの顔からは、かなりの焦りが感じられる。
…………何かを、恐れているようだ。
『――――確か、君のそちらでの立場は、宗教団体の幹部だったな?』
『はっ! その通りです――――』
『ふむ。君のこれまでの働きは上も高く評価している。これまでの様に――――』
この言葉を聞いた瞬間、ウルデリックは緊張から解放された。
彼の脳内には、ドーパミンが溢れ出していく。
それは同時に、彼の性欲を刺激。
彼はこの後、別室で待たせている女性秘書を抱く事に決めた。
『――――――――絶対にその【侵入者を】その世界から、【生きて外に】出すな。今回の連中は組織だって動いているのだろう? 自前の私兵だけでなく、君が使える現地の兵力は惜しまず動員しろ。命令は以上だ』
『はっ! 承知しました』
――――――――通信終了後
ウルデリックは気持ちを高揚させながら、部屋を出て行く。
すぐ外には、魔術ギルドの警備兵が二人立っている。
二人はウルデリックに敬礼をするが、ウルデリックは普段通り無視。
彼はここの常連さんだ。
ウルデリックは調教途上の女性秘書が待つ部屋へ、股間をギンギンにさせて、直行していくのだった。
その後ろ姿を見る二人の警備兵は、それとなく雑談を開始する。
何故なら――――――――
「なぁ、あのデブ司祭は一体どこと、通信していたんだろうな」
「さぁな…………結構ないい年だろ? ウルデリック司祭様は…………きっと…………ボケて、いるんだろう」
「だろうな。通信先はノイズだらけの魔力波帯域だぜ?」
「あんな帯域使えるギルドなんてあるのかね~それにあのデブ司祭、聞いたことない言葉を喋っていたよな」
「ああ、俺たちには、念の為使用者の魔力切れ対策で、声と魔力が微かに感じられるからな。どこの言語だろうな? 感じからしたらマウラーレ語に近いが…………翻訳魔術でエラーが出たからな。翻訳バンクに意図的に未登録にしている、おそらく西ドルアの軍事用人工言語だろう…………人様に言えない悪事を女神様に懺悔でもしていたのかね~」
プッ!
「西ドルア聖人教会の司祭様が、女神様に懺悔とか有り得ないだろ!」
「だよな! あそこは救済教会と仲悪いもんな!」
その言語をマギサたち…………何より、地球組達が聞けば、明確に理解した事だろう。
なんて流暢な日本語だと…………。
【後書き】
第二章 異世界の軌跡 完
------------------------- 第25部分開始 -------------------------
【第4章】
第三章 コラテラルダメージの先にある邂逅
【サブタイトル】
第十三話 愚者からの謝辞とソルジャー達の衝突
【本文】
第三次世界大戦後…………
日本列島に新たに出来た関西海峡の西側で、軍事活動を中心に手広く、様々な活動を行うPMCと呼ばれる…………日本の民間軍事会社。
海外ではクリーンなイメージを持たせるために、この手の会社は自らを…………大戦前から、PMSCs民間軍事警備会社などと、後に呼称する様になったが…………大戦後の日本では真逆だ。
…………ストレートにPMCと昔の呼称で呼んでいる。
単に日本人的に呼びやすい、などの合理的な理由もあるだろうが…………やはり、長い期間に渡り、軍事力を防衛力…………軍隊を自衛隊などと言い換え、言葉で実態を包み隠してきた事や…………様々な存在や出来事を言葉で包み隠す事で生じた、かつての歪な平和な時代へ大衆が無意識下に抱く反発と…………歪な平和によってもたらされた、衆愚政治と…………その結果生じた…………第三次世界大戦中の直接の戦闘や、コラテラルダメージと言われる、間接副次的な被害で死んだ死者も含めると、五千万人を超える…………大勢の日本国民の戦死者への鎮魂と反省も…………その振る舞いに…………きっと反映しているのだろう。
日本のPMCの性質は、特別軍事法人NEETの様な大規模な組織になると、陸海空の私設軍隊を大規模に保有運用する事からも、大戦前から存在した、イメージを大切にする海外の民間軍事警備会社とは…………全く別物だ。
敢えて類似例を挙げるなら…………前世紀末に大国の圧力を受けて消滅した…………アフリカ南部の某国に存在した民間軍事会社が類似するだろう。
その民間軍事会社は旧ソ連製の兵器で大規模に武装し、北大西洋条約機構、通称NATO圏の…………10万人以上に及ぶ退役軍人等と契約を結び、自前の私設軍隊を使い。
アフリカ諸国の紛争にビジネスとして、片方の陣営に介入していき…………獲得した資源利権を先進国の多国籍企業相手に売り捌き、第三次世界大戦前に存在し栄華を極めたのだ。
この会社は大戦前のフィクション作品の世界でも、作中に登場するPMCのモデルとしてよく使われる。
そんな今は無き、某民間軍事会社や更に古い先例を上げれば、かつての帝国主義の時代に植民地を支配した。
東インド会社などに限りなく近いと言えるだろう。
最も先例と幾つか、違う要素がある事で、日本のPMCが今後どのような道筋を辿るかは不明だ。
特別軍事法人NEETなどのPMCは…………その圧倒的な武力で日本国を敢えて解体せずに、その武力を内外にちらつかせ。
逆に新政府の樹立を影から支援して…………様々な特権を日本国から享受している。
それらが日本人同士で、日本国内で行われていることから他国も、多くの国民も極めて、介入や反発しにくい構造が巧みに作り上げられている事が、違う要素の一つには該当するだろう。
逆に何れの例にも一致する要素は…………圧倒的な技術格差や武力差から生じた現象である事ぐらいだ。
しかし…………実際、その活動範囲や公権力への影響力を鑑みれば…………先程の先例等を日本の民間軍事会社は…………既に超えている。
徴税や治安維持、教育、各インフラ、物流、都市経営など、事実上の植民地支配を復興名目に西日本を中心に行い…………中には国連加盟の都市国家を意図的に作り上げ、自社の利益拡大に勤しむPMCもいるのだ。
何故、大戦後の日本でPMCが何故肥大化したかについて…………とある社会学者は分析し、一つのメッセージを世界へ向けて発表していた。
社会学者本人曰く、万人に分かり易いように、簡単な文面を用いたそうである。
そんなメッセージは大戦後、数年目の新憲法施行日に合わせて、ネット上で発表され…………注目を集めていた。
……………………
『――――――――第三次世界大戦後、これほどまでに我が国で民間軍事会社、所謂PMCが肥大化したかについては、その賛否は別として興味が尽きない社会的現象である。
その現象を発生させた要素として絶対に外せないのが、日本国民に馴染み深く悩ましい存在で、結局一度の改憲をされる事もなく。
新政府と生き残った多くの国民の民意と投票により、巨大過ぎて全容が見えない粗大ゴミの如く扱われ。
一文も残らずこの世から廃止された『旧憲法』の存在である。
今はもう存在しない旧憲法であるが、ここでは未だに旧憲法は有効と主張する一部特殊な意見への言及は、主題から著しく脱線するので敢えて触れない事とするのでご了承頂きたい。
かつての憲法、その正体は左翼系の人々やマスメディア、しかしその実態は隣国の右翼勢力である者達や、その強い影響下にある者達が、積極的に世界に誇る平和憲法と意図的に日本国民への悪意と征服の欲望をその内にひたすら隠しながら、叫んでいた美辞麗句、偽り、恫喝を含む。
凄まじい遅延性の毒とも言うべき効果を秘めた。
時を越えて『心を蝕む』恐るべき呪詛、否『言葉の弾丸』であった。
その危険性は旧憲法下で生まれ育ち、生き抜き。
旧憲法を巧みに扱うことも、自ら改めることもできず、無効の名の下に廃止した、旧日本政府の潜在的構成員である、我々日本国民が民主制度を無責任に運用してきた結果として大いに証明し、これを体験している。
ただ残念な事に多くの日本国民は第三次世界大戦前から今に至るまで、政治に凄まじく無関心でありながら、選挙で選出された国会議員や、官僚の無責任さ、無能さを批判するが、それら日本国民の政治への無責任な性質が旧憲法やそれを悪用しようと企む。
先に指摘した勢力の放った、凄まじい数の『言葉の弾丸』を国民の脳髄に何十年も撃ち込まれた結果だとしても、我々生き残った日本国民は同胞を直接の戦闘やコラテラルダメージで、五千万人以上失った過酷な現実と、国民国家の国民としての同義的責任からは、決して逃げ切れないのだ。
残念ながら死んだ命は二度と戻らない。
仮に死者を完全に生き返らす、そのようなオーバーテクノロジーが存在しても、そんな無粋なテクノロジーは、既に学生時代に某RPGの教会に何回も足を運び、それに費やした時間が原因で、現実世界の受験戦争で盛大に爆死し、浪人を三回経験した者の一人として、既に腹いっぱいである。
さて、旧憲法内に存在した『用意された複数の足枷』が深刻な『矛盾』を際限なく現実世界へ生み出した事で、我々日本国民は『自らが思う』民主的な選挙で選んだ、政治家の権力の行使によって、民族浄化の危機を招き、悪意ある法の支配を誠に遺憾ながら、極めて文明的に洗練された、物理的な力である『銃』の行使、即ち古今東西国家の興亡に際して用いられてきた『暴力』ないし『武力』とも言うべき実力の行使で解決した。
残念ながら、どんなに素晴らしい理念や理想を掲げる人間も、銃弾の前では無力である。
これは逆に言えば、どんなに危険で野蛮な思想や悪意も行使する者が人間であるなら、その意思ごと、銃弾で撃ち砕ける事を証明しているのだ。
その証明は既に、前世紀の冷戦終了後に激化した、紛争地域で如実に証明されている。
一例を挙げれば、90年代に出現した、正規軍並みの戦闘機、攻撃機、攻撃ヘリコプター、戦車や歩兵戦闘車などの主に旧ソ連製の兵器や西側製の暗視装置などの近代兵器で武装した、アフリカ南部の革新的な某民間軍事会社がビジネスとして、アフリカの紛争地域に介入したことにより、場所に寄ってはそれまで、二十年以上続いていた内戦を僅か一年で終結させた事例などは、当時の日本のマスメディアが意図的に報じなかっただけで、現に存在しているのだ。
報じなかったと言えばもう一つある。
同民間軍事会社の介入により、紛争終結、ないし終結の兆しが見えた地域が、その後どうなったかであるが、残念なことに先に挙げた二十年以上続いた内戦の地は、我々が国連と呼んでいた国際組織の介入の失敗により、紛争が再開、その後今世紀初頭までその内戦は続いた事も付け加えておこう。 これは同社の介入により紛争解決の兆しが見えた他の地域でも起きた事例であり、極めて興味深い現象である。
自分は国連が何をしたいのか『わけがわからないよ』とつくづく思う。
その後、同社がどうなったかも我が国ではマスメディアが何故か余り大っぴらに報じなかったので、ここに記しておこう。
その後、同社を語った詐欺事件が多発、同社は四面楚歌となり、また同社の様なビジネスとして、正規軍並みの武力を保有し、運用する民間軍事会社の影響力拡大を恐れた、大国の圧力により同社は消滅したのだ。
この際、同社との契約を打ち切られた、PMCコントラクターは、元NATO圏退役軍人だけでも、その数は一説では10万人を超えるとも言われている。
平和をもたらそうと己の技能を使い戦い、しかしその成果を尽く大国や国際機関の介入で潰され、収入源を絶たれ、尊厳を踏みにじられた彼らが再び戦火が拡大した、かつての勤務地の惨状を知った時の気持ちがどのようだったのかは、第三次世界大戦を経験した今の日本人になら少しは理解できる事だろう。
皮肉にも同社消滅の数年後、米国の中枢において同時多発テロが発生、その後同社のような存在への需要は、今では人間が住めないほどに荒廃した、クレーターと劣化ウランだらけの中東地域で爆発的に増大し、その後、第三次世界大戦の発生と同地域への核攻撃により、需要を欲する巨大市場の一つが丸々消滅したのは記憶に新しい。
さて、『ペンは剣よりも強い』とよくいうが、結局のところ、その言葉に含まれるペンや剣も何かしらの『武力』や『権力』と、結びつかないとその強さは、全く発揮できないのだ。
これは、先の消滅した某民間軍事会社に関しては、武力という剣はあったが権力、サイン一つで組織を動かせる国家の権力、特に大国と結びつかず、対立したが故に潰されたとも言える一例だろう。
では、日本においてはどうであっただろうか。
我が国においては参政権という『権力』が主に投票権と言うペン先から生じる『刃』として多くの日本国民のその手にあったが、それを正常に機能させ、権力を握った者達の『暴挙』を防ぐだけの『抑止力としての武力』言い換えれば刃を効果的に使えるように研ぎ、結集し武力を構成し、抑止力という切れ味を手元の権力に付加させ、維持させる『個別の手段』と何より『志』が多くの日本国民になかったのだ。
結果的に言うならば、かつての我が国の参政権や投票権は『ナマクラな刃』の『バラバラな集合体』であるのが、その残念な実態であった。
反対に権力を握った側には暴力装置としての組織が複数あったのだ。
力無き正義は無力というが、力無きところに正義も悪もそれらを望む志や欲望が芽生えない事を、私が指摘したこの二つの事例は結果として示しているのだ。
正義と悪、その原理について詳細に触れるのは主題から脱線するので、ここでは敢えてこれ以上触れないのでご了承頂きたい。
さて、多くの国民の痛切な民意が反映されたのか、或いは銃火器が国内に溢れる現実に併せたのかは、各々の戦中の体験により受け止め方が違うだろうが、新憲法には旧憲法で禁じた国防軍の保持や、交戦権、極めて文明的に洗練された、物理的な力である手段の銃等を民間人が保持使用する権利や、国民の政府への革命権と併せて明記されている。
民間人の武装や革命権の条文は、アメリカ合衆国憲法を参考にしているのが、丸分かりであるが、それは我が国が再び、米国に追従しようという動きとは真逆の覚悟の現れである事に疑いの余地はない。
事実、我が国はかつての同盟国にして、所謂友達とは終戦直後から、国交断絶中であることはご存知であろう。
さる高名な自称平和主義者の、作家の言葉を部分的に引用すれば、『まるで魔法に掛かったかのように、何故か猛烈に友達と信じさせられていた』そんな関係が、かつての我々日本国民の多くが、その友情を信じ疑わなかった、その友達との関係である。
更に明確かつ、その状態を具体的に指摘するなら。
第二次大戦以降の日米関係は、心理学で言われる犯罪者へ被害者が共感を覚えた状態のストックホルム症候群とも言うべき状態だったのだ。
国家も人によって構成運営される以上、人々の心理の挙動の波からは逃れられない宿命なのだろう。
犯罪現場での心理現象を国家間での現象や関係へ当てはめるのは些か強引かも知れないが、第二次大戦以降の軍事同盟を主軸にした日米関係は、或る意味ストックホルム症候群的な状態の中でも世界最大規模の現象で、症例ではなかろうか。
私は心理学の学位は取得しなかったが、説明を分かりやすいものにするべく、心理学上の症例を引用させてもらう事をご了承頂きたい。
さて第二次大戦時の米国による日本の都市部へのナパーム弾を用いた無差別爆撃や、広島、長崎への核攻撃、双方の陣営で捕虜に対して行われた虐待や殺害行為。
その後の占領下や同盟国として駐留する、一部米軍兵士による凶悪な横暴。
極左政権下から第三次大戦の戦中まで、多数の統合軍進駐軍兵士による、民間人への凶悪な横暴が、戦争犯罪や犯罪行為である事の識別は出来る。
また、同胞が虐げられてもゲリラ戦やテロリズム等で抵抗もせずに、強者や敵に共感と恭順の意を示し流され。
自己の存続を狙う行為がストックホルム症候群的な事である事や、それが如何に人間として恥ずべき行為かの識別が出来る、その程度の判断力は、今の自分は持ち併せている。
かつて、欧州のとある大統領が指摘したように同盟とは『何れ枯れて散る有限の花』である事を我々日本国民は、自ら痛烈にこれまた体験したのだ。
かつての友との友情の証である同盟と言う名の花が枯れ果て、散ったその後、我々は極右テロリストとして当時、世界的に有名な矢島氏が率いる新たにして未知なる存在NEET達から、強力な『華の種』を渡され、共に育てることになった。
そのNEET達から渡された種は今では元気に芽吹き。
華は多種多様に、日本中でかつての戦国期の武将が家紋にするほど愛でた、野花のように力強く咲き誇り、何度散っても強く咲き誇る。
PMCという名前の華である。
この華は、我々日本人の働きの中から咲き続ける、華である。
この華が咲かなくなる時は、きっと我々日本人がこの地球上から消滅した時か、旧憲法に記された崇高な理念に基づく、理想郷が完成した時であろう。
残念ながら、後者の理想郷は一部の特殊な思考形態を持った方々の脳内の狂った花畑で盛大に今も、その狂い咲く花弁が舞う中で今も建造中だ。
その狂った花畑の飛散した花弁が、現実世界へ悪影響を与えないか、自分は心配である。
馬と鹿を合わせた言葉で表される人の特殊な状況は、他者へ移るというが、彼らと接する際は用心していただきたい。
さて、その華を我々に手渡し、日本に広めた存在であるNEETは謎が多く、多くの日本国民にとって未だに未知の存在であり、一部では萌えの対象である事は、NEETの炊き出しに並び、魔女の様な少女達から食事を手渡され、涙した私も肯定しよう。
因みにかつての友から渡された、友情の証である花の維持に我々は、OMIYARIという名を付けた花瓶へ毎年、数千億に及ぶ血税をつぎ込んでいたが、その努力もむなしく、花は枯れ果て、元々有料だった友情の延長はそれ以上できず、友達も実家に帰ることになったのだが、それでも共に統合軍相手に戦い、友達も実家が修羅場と化していた事情は、我々日本人も知っているのでやむを得ない撤退なら、我々日本国民の多くは彼らへ『ありがとう』『世話になった』『そちらも頑張れ』くらいは口に出さずとも微かに思えた事だろう。
だが流石に我が国の将来を憂い、恥ずかしながら亡命政府としてその友達の軒先に友達の承諾を得て居候していた、我が国の衆院選で落選した浪人中の保守政党幹部や元議員、自衛隊の幹部を戦争犯罪人としてFBIに拘束させ、あまつさえ統合軍に身柄を引渡そうとした挙句、一方的に戦争犯罪人扱いされた彼らの大半が、ロスの拘置所で謎の首吊り自殺を遂げれば、心の底からは『ふざけるな』といった噴石が、火口と化した口から盛大に吹き出すというものだ。
そんな、統合軍に蹂躙される亡国のフラグが、友達の裏切りで立った、あの頃、宇宙から降り注いだ、あの壮絶な神風の前後に彼ら、現在の特別軍事法人NEETの前進になった、謎の武装集団NEETは矢島氏に率いられ、颯爽と現れ、西日本全土を占領した統合軍や、統合派ゲリラの残党を九州北部まで封じ込め、今も尚戦っているのだ。
彼ら特別軍事法人NEETやPMCは、西日本全土を復興名目で事実上の植民地に変え、様々な特権を享受しているが、それは今では自称九州共和国を名乗る統合軍の残党から、かつての友達に変わり日本を守っている対価と言ってもいいだろう。
その対価が高いか、安いかは経済学の視点が必要であり、私の専門外であり、この場では言及しない。
少なくとも、日本人自身で国家の自主防衛が可能になったのは、多くの国民が望んだ国家の理想像であり、その実現は喜ぶべきことである。
ただ、NEETの使用する兵器の科学技術は、文系の私から見ても常軌を凄まじく逸した高度なレベルであり、一部では例の魔女っ子達は本物の魔女ではないかと噂されているが、その真偽のほどに言及するのは、陰謀論やオカルト系へと、やはり脱線するので言及しない。
だが、もしかしたら先に挙げた、高名な小説家の言葉から引用した一文のように、既に我々日本人は『魔法に掛かっているのかもしれない』などと、NEETの超絶した科学技術を見ると、つい考えてしまう。
我々日本人はかつての足枷を捨て去るのに、多大な犠牲を払い、一度法治主義を銃で否定した。
この事実は我々の行ってきた民主政治の敗北として記憶し、語り続け、繰り返さない為の『あらゆる考えと備えを怠らない』責務が国民国家の構成員として、生じている事を意味している。
片手に新たな新憲法と、もう片方に文明的に洗練され男女や子供、腕力の有無を問わず、極めて平等に敵を葬れる文明の利器、銃を手にした、我々日本国民は、この両方をうまく扱い、生き延びられるのだろうか、自分は心配である。
歪とは言え、力の均衡が生み出した平和という産物が、崩れ去る事態に凄まじい程に鈍感で、我々多くの日本国民の観察力や危機意識は無力だったからだ。
それは統合派ゲリラに目の前で、妻子を犯し殺され失い、まだローンの残った築十年のマイホームを焼かれた私も同じであるが、社会学者の一人の端くれとして、否何より、日本という社会へ、この日本という国家へ帰属する一人として、以下に挙げる彼らと日本国民へ伝えるべき言葉がある。
自らの社会的な立場を顧みず、私財を投じて私設軍隊を作り上げ、指名手配をされてもめげずに尚、極左政権下の旧日本政府や統合軍へレジスタンス活動を繰り広げた、先見性と覚悟の強い、特別軍事法人NEETの代表である矢島氏やその同志諸君、正義感の強さから組織を抜けた元警察官の皆様、また、日曜朝八時半のプリキュンの時間をスプラッタな映像に切り替え、今は亡きわが娘を泣かせた、自衛隊を脱走してゲリラ戦を繰り広げ、電波ジャックを繰り返し、脱柵及び、公職追放された後も戦った元自衛隊員の皆様、密かに武装していた民間人のプレッパーと呼ばれる、実践的なミリタリーオタクの皆様、そして私がレイシストや穀潰しと小馬鹿にしていた、一部レジスタンス活動に参戦し戦った、勇気あるネト✖ヨの諸君や元無職の方のニートへこの場を借りて謝辞を述べたい。
……………………妻子の仇を取ってくれてありがとう。
彼らが、自らの意思で銃を手に戦った事を私は生涯忘れない。
自分は彼ら、これからの日本を守る『防人』達を誇りに思う。
かつて、プロイセンの大帝ビスマルクは『賢者は他者の経験を自らのものに出来るが、愚か者は自ら経験しなければ学べない』といった言葉を残している。
第三次世界大戦で同胞から五千万人近い死者を出した我々、日本国民は確かに愚か者だ。
その中でも、かつての平和憲法を盲目的に崇め、備えを怠り、妻子を目の前で惨殺され、自らの体験により考えを改めた私は、凄まじく愚か者である。
どうか、これからこの国を担っていく者達の歩む道が、賢者に近い事を祈りながら、以上を私の発表とさせて頂きたい――――――――』
……………………
第三次世界大戦の勝者達にして、日本国内で或る意味特権階級に成り上がった存在が、プレッパーの集合体である、PMCである事は、PMCへの賛否は別にして、自他ともに認める公の事実だ。
それは…………この『妻子を失った一人の元護憲派の遺言』として世間的には有名な、右側へ急激に思想面が転向直後、自ら自決した事になっている…………社会学者のやたら、長いメッセージからも伺える。
しかし何故か、死体は未だに見つかっていないので、都市伝説の元ネタにされたりもしているようだ。
このメッセージを残した、当人の真意は不明だが、一部PMCでは、夢作文と併せて社員教育の座学に利用されていたりもするメッセージだ。
最近では、学校教育に復活した『修身』の時間の中に組み込まれているのだから、その影響力は、中々のものであると言える。
そんなPMCの拠点の多くが、中部州に置かれた事で同地の繁栄ぶりは、戦前の水準や、大戦での被害が軽微だった首都圏を上回り…………更なる成長を続けようと、同州内の都市部は大戦で誕生した廃墟群やスラム街を貪欲に飲み込み、急速に拡大を続けていた。
真新しい摩天楼は何本も天に伸び…………大戦前以上に徹底して区画整理は行われ…………地面には、センサー類や無人銃座を惜しみなく取り付けた、ゲリラ対策の分厚く高いコンクリートの壁を何キロにも渡って作り上げ、都市を取り囲んで毎日、成長を続け…………首都圏など、従来の日本の姿を色濃く残した、都市とは真逆の都市形態を選んだ中部州の要所、名古屋…………ここは繁栄を続ける要塞都市として日々、変貌を遂げているのだ。
そんな変貌に飲み込まれたスラム街の一つには、大勢の人々が…………続々と集まり始めていた。
【ショッピングモールNEETランド立てこもり事件発生の前日…………深夜】
…………ネオン輝く違法な売春宿や、無許可の飲み屋が集まるスラム街の繁華街エリア。
普段なら路上には――――客引きの店員や…………飲み潰れ、身ぐるみを剥がれた、パンツ一丁のカタギの人間がゴミ捨て場でゲロまみれになりながら、寝息をたてて、寝ている…………そんな時間帯だ。
しかし、今夜は客引きの店員や…………哀れな裸族と化した…………泥酔者は見当たらない。
変わりに――――――――
『PMC! 解体! 解体! 解体!』
『軍閥NEETの横暴を許すなぁああ!』
『少年兵育成反対!』
『戦争犯罪人! 矢島にぃいいい死をぉおおおお!』
拡声器を使い罵声を上げ、コンクリート片や火炎瓶を投げまくり――――何やら…………『平和』や『友愛』などのペイントを施した、奇妙なヘルメットを被り、口元をマスクや布で隠し…………角材や鉄パイプ等で武装した、前世紀の過激派を彷彿とさせる数百人規模の集団と――――
『――――デモ隊諸君に告ぐ! こちらは名古屋市警察です! 速やかに――――』
向き合う、カービン銃を装備した――――キーン!
『――機動隊の連中ぅうう! なぁにたらたら! してやがんだぁああさっさと制圧しろ! 俺が飲みに行けねーだろうが! 三分だけ時間をやる! 以上だ――――ガチャ!』
……………………完全武装の市警察機動隊が同じく、数百人規模で対峙していた。
そんな一色触発寸前の暴動現場へ、警察側の拡声機に回線から割り込み、油を注いだ当人は…………市警察機動隊側の後方約三百メートルの路上に駐車した、分厚い装甲で守られた車両内で…………イラついている最中である。
【市警察所属の装輪装甲車内】
…………全く機動隊の連中は鈍臭い。
連中は我々にヘイトなデモを繰り返す、反日暴力集団…………あのP特会だぞ!
憤りが湧き上がる相手とは言え…………今の我々は市警察当局から、業務でSWAT業務を委託されている…………PMCである。
この手に持つ自動小銃で…………単に気に食わないからといって…………個人的な感情で撃ち殺すわけにはいかない。
それでは、社会的な生産性皆無の殺人鬼と変わらない。
少なくとも『一殺多生』へと全く結びつかない…………戦いはしたくないものだ。
しかし…………個人のPMCコントラクター、所謂フリーランスの連中なら、こういう時は気楽だ。
気に食わない敵は、さっさと撃ち殺し終了…………次の仕事を選べばいい。
但し報酬は前金のみで、次回から同じ依頼主の仕事は来ないだろうから…………修羅の国とかと、かつては呼ばれていた九州北部…………今では九州共和国と呼ばれる近辺の国境地帯や近辺の州で、国防軍や州軍の下請けでゲリラ戦を一年近くこなせば…………立派な家が建つ金は稼げるだろう。
…………最も飛び交う銃弾や砲弾に…………ミサイルは勿論、炸裂するIEDなどの仕掛け爆弾の数も半端ない。
死んだら意味が無いので、あの辺り…………特に【修羅の境界線】と呼ばれる、九州北部の国境地帯は…………組織的じゃないフリーランスの連中は殆ど近寄らない。
逆にフリーランスの連中は…………
駆け出しで練度の低い、戦後生まれのフリーランス連中などは、他の地域や都市国家での依頼警護や、犯罪の私設捜査など、治安維持などをメインの仕事にしている。
他にもフリーランスの連中の携わる仕事には、脱獄した上に…………九州共和国の工作員の手引きで密入国してきた…………隣国の武装凶悪犯や、多種多様な武装ゲリラを刈る仕事もあるが、コチラは手練れた連中の仕事であり、殆ど別次元の戦いである。
特に…………40ミリ機関砲の徹甲弾や、HEAT弾等を数千発近く、ゼロ距離で撃ちこまれても、搭乗員が無傷で無事なだけでなく、ダメージによる性能の劣化も伺わせない…………高機動で動き回る…………異常な性能の『パワードスーツ』を装備した、NEET選抜のPMCコントラクターによる『対装甲刀』などと、呼ばれる兵器類を使用した戦闘は…………最早普通じゃない。
防弾チョッキやセラミックプレートどころか…………NEET以外の通常の戦車や、装甲車両の複合装甲を簡単に何回も、大戦前に自分が夢中だった、某ダンボール系潜入アクションゲームに登場する…………サイボーグ並みに動き回り…………ぶった斬るのだ。
…………噂じゃ、修羅の境界線沿岸部で九州共和国のミサイル艇から撃ち込まれた、76ミリ速射砲の直撃弾を受けても、そのパワードスーツも搭乗者も無事で、逆にミサイル艇を撃沈させたとか言う…………とんでもない戦場伝説が、以前からチラホラ聞かれるが、真偽のほどは不明だ。
そんなNEET特製のブラックボックス満載の兵器を使った戦闘の一部は、全世界へ向けて、特に…………似たような新型兵器を運用する、九州共和国への威嚇の意味もあるのだろうか…………ネット上で動画中継も配信されている。
九州共和国と言えば…………
数年前に、九州共和国が日本へ放った、凶暴な外来生物の駆除も、フリーランスを問わず…………PMCの重要な仕事だ。
農作物や家畜への被害や、疾病防止は当然ながら…………最近では公園で遊んでいた児童が中型犬並にでかい、アフリカ原産のネズミに集団で捕食される、悲しい事件も西日本では…………多数起きているのだ。
やはりワニガメやピラニアで世間が騒いでいた…………大戦前とかとは違い、意図的な…………『悪意ある兵器』としての外来生物の放流は、繁殖や移動が伴う分、地雷以上の脅威だろう。
そんな事象もあってだろうか、地域によっては…………世紀末軍団とネット上で揶揄されている、厚生労働省の疾病対策部隊が、火炎放射器の使いすぎで山火事が問題になって、怒った一部のPMCが、疾病対策部隊と交戦したとかしないとか…………そんな噂も流れている。
世間的に我々PMCは…………不逮捕特権を持っているから、やりたい放題なイメージが付いて回るが、全く逆である。
逆に…………会社の業務命令は『絶対』だ。
逆らえば、会社独自の私設裁判に掛けられるのだから…………その実態は正規軍と大差がない。
但し…………戦場では正規軍と違い、捕虜としては扱われず、当然のように九州共和国軍に殺されるのだから、高額な報酬でも貰っていないとやっていられない仕事が…………この国のPMCだ。
そんな訳で、俺は少しでも平和な日常に近いこの地…………名古屋で市警察のSWATを派遣先に選び、戦後をのんびり過ごしたいのだが、今夜のように――――――
『菊池ぃいいい! テメェ! 無線に割り込んで遊ぶなよ! 殉職者が出たら面倒――――』
…………偶に忙しくなるくらいは仕方ない。
このSWAT隊員…………
【菊池 性別男 35歳】
趣味は飲酒と宴会と…………先程のように無線で遊ぶ事である。
トレードマーク 射撃や接近戦が得意なソルジャータイプ。
……………………
また上司が…………無線越しに怒っているが、彼も気持ちは…………俺と同じはずだ。
何せ…………残業代が支払われるとは言え…………既に残業が7時間を過ぎて、日付が変わっているのだから…………何やら上司の口調からも、余裕が消えて――――
タタタ! ワァアアア!
…………何やら外が騒がしくなってきたようだ。
車載無線のスピーカーにも…………銃声やヘイトな連中の叫び声が聞こえ始める。
他にも車載モニターには、機動隊や無人機のカメラが捉えた複数の映像も、警戒レベルの引き上げに伴った警告表示や『戦術コンピューター』が解析した…………デモ隊の脅威度や人数、武装の種類、数値などと併せて、次々とズームアップされ…………映し出されていく。
その映像の中には、我々NEETのボスである、矢島会長の若き頃の写真。
…………それも、旧警察に広域指名手配されていた頃の写真をプリントした、プラカードが映っているが…………何やら、チョビ髭や逆卍のマークが追加され…………彼らから相当目の敵にされているのが、よく分かるというものだ。
そんなプラカードには『我が社へのヘイトな事案』などと表記がなされ、続々と戦術コンピューターへ『ヘイトな証拠』として記録され、本社のサーバーへ転送されていく。
『――――PMC特権を許さない市民の会に告ぐ! 速やかに武装解除して投降せよ! これ以上の違法デモと準ゲリラ行為は、中部州非常事態法修正第34条に基づき――――グシャ!…………ゴトッ…………』
何かが弾け…………落ちる音の後に続く、警察側の暫しの沈黙…………
逆に――――ワァアアア!
…………盛り上がるヘイトな市民団体、『PMC特権を許さない市民』の会サイド。
そして――――タァーン…………。
遠距離射撃特有の発砲音が…………スピーカーから微かに聞こえ――――
――――キーン!
『ガチャ――全員撃て! 撃てぇええ! 排除ぉおおおお! 連隊長の仇を取れぇえええ――――! デモ隊の諸君に告ぐ! 諸君はたった今! 中部州非常事態法修正第192条の適用により! 武装ゲリラと認定された! 繰り返す――――』
タタタ! タタタ! ボヒュボヒュボヒュボヒュ――――チュドドォオン!
…………どうやら機動隊に殉職者が出たようだ。
同時にこちらの車載モニターにも、デモ隊は州の非常事態法修正第192条適用で『武装ゲリラに認定』と表示がリアルタイムで情報が反映され――――『ゲリラ部隊を殲滅せよ』と州政府の『自動警戒危機管理システム』から、自動で命令が下されてくる。
ったく…………初めから俺達に指揮権を渡していれば、死ななくて良かったのに…………馬鹿だ。
ボヒュボヒュボヒュ――――ン!
――――今更グレネードをポンポン撃っても後の祭りだ。
最後まで、穏便に事態を収めようとした…………連隊長は生き返らないんだぞ。
どうせ撃ち込むなら、催涙弾じゃなく炸裂弾を使えよ。
…………また、死人が出るぞ。
やはり、旧警察の脱走者や自衛隊上がりの中でも、実戦経験の少ない残存組や後期脱柵組の連中は…………こういった場面での対応と何より…………敵を葬る決断が遅過ぎる。
先程殉職した連隊長の出身は知らないが、敵を前に油断しすぎだ。
これが、実戦経験豊富な初期の脱柵組などなら、殉職した連隊長とは真逆の…………無慈悲な対応がデモ隊に向けて、数時間前の段階で既に取られていた事だろう。
まぁ…………市警察の連中は、腐りきった旧警察を母体とした【州警察】の屑どもよりは…………俺達PMCと、まだ仲がいいから、仇くらい――――
『菊池! 機動隊が撃たれてブチ切れた! 神谷達と一緒にデモ隊を――――チュィーン――――バタン! ざけやがってぇえ神谷ぁあああ! ミニガンで掃射だ! 撃て! 撃てぇええ!』
『神谷了解! ヒャッハーぁああ!』
カチッ――――ブゥウウウウン!
『神谷! P特会の連中を生ゴミに変えとけ! どうせ明日は市の燃えるゴミの日だから問題ない!』
『了解です班長! ハハハ! 班長見てくださいよ! まるで人がゴミのようだぁああああ! おい! デモ隊共ぉおおお逃げんじゃねぇえええ!』
ブブブブブブゥウウウウン!
ああ…………松沢さんよ、P特会に狙撃されてブチ切れたな。
ハッチを開けてデモを見物とか、悪趣味以前に不用心だろ!
しかし…………本当に、この班長は悪運が強い。
これで、今年に入ってから松沢班長が、狙撃を回避したのは何回目だろう。
確か…………百回を超えたら内の隊全員に酒を奢るとか言っていたな。
ここ数年、これでも平和な名古屋で、その記録を更新するのは…………まだ先になるだろう。
それにしても神谷の野郎、ミニガン掃射とか楽しいだろうな。
その美味しいボーナス増大ポジション変われや!
いや、それよりも今は――――
ピピッ!
『こちら菊池、松沢班長、P特会を始末して――――』
俺は手に持つ――――レミントンACR、6,8ミリ弾仕様のカービン銃の薬室に――――ガチャ――――ジャキーン!
初弾を装填…………時代遅れな反日ヘイトな連中を合法的に狩り殺し…………報復する準備を完了。
俺は…………高まる殺意と戦意を――――スゥ――――空気を吸い込み、落ち着けると…………口を開き…………インカムのマイクに言葉を当てる。
『――――閉店前する前に飲みに行きましょう!』
『おっしゃぁあああ! みんな聞いたかぁああ! 今夜は菊池の奢りみたいだぜぇええ!』
『な!』
『神谷了解! うぉおおおおお!』
『ククク…………平野了解だ』
『こちら和田、愛犬達の散歩があるのでNG』
『こちら綾部、プリキュンのスペシャル放送を見たいので同じくNG』
…………………………………………
翌朝……………………P特会と市警察機動隊が壮絶な銃撃戦を終えた、スラム街の一角…………何やらビルが、何棟か倒壊しているが、そこには『KEEPOUT!』と黒文字で表示された、黄色いテープが……………………何本も貼られていた。
そんな一角には……………………上空から、カラスが――――――――
バサバサ――――――――カァアアア!
自主的に鳥葬を行う為に、何羽も肉片目掛けて舞い降りていたのだったが――――――――
――――シュボォオオ! バチバチ!
何やら、焼き鳥どころか…………消し炭にされているようである。
カラス達を火葬するのは――――――――白い防護服に身を包んだ集団だ。
まるで、冬季迷彩を思わせる格好のその集団は、その一角を89式自動小銃などの国防軍払い下げの銃火器で武装した…………同じ格好の者達で封鎖、肉片と化したデモ隊の亡骸を一箇所に集めて…………火炎放射器で焼却と――――――――バシュゥウウウ!
鎮火用の消火剤を浴びせる、作業を…………繰り返しているようだ。
黙々と…………コラテラルダメージが発生した現場での作業を繰り返す彼らの背中には――――――――【厚生労働省 疾病対策部隊】とロゴが大きく入っている。
そんな、後始末が行われる封鎖エリア近郊の安ホテルは…………観光目的のバックパッカーや観光客で…………溢れかえっていた。
……………………
【封鎖エリア近郊の安ホテル】
冷房がガンガンに効いた一階のバイキング形式の食堂では――――――――中国語が飛び交い、早朝から…………かなりの活気があり…………賑やかである。
この安ホテルは、主に中華連邦などからくる、海外のバックパッカーがよく利用する…………民間の施設だ。
既に夏に突入した日本列島のこの場所において、外国人がいても不自然でない場所の一つと言えるだろう。
そんなホテルの一室では、食堂に降りることもなく。
昨晩のうちに買い置きした、コンビニ弁当を食べ終え、600ミリサイズのアルミ缶に入ったエナジー系飲料を飲み終え…………アロハシャツを着た、愛想の良さそうな、軽装なメガネを掛けた中年の男がいた。
「…………」
彼は両手でパッド型の端末を握り締め…………ベッドの端に座り…………そのモニターを凝視しているようだ。
但し、その傍らのサイドテーブルには…………箱ティが置かれているが、彼がそちらに手を伸ばす気配は…………ない。
そのモニターに映る光景はどうも、他の観光客が見入る…………和製アダルトな動画ではないようだ。
このアロハシャツを着た男は…………苦々しい思いを抱きながら、パッド状端末のモニターに映る映像を見ている。
モニターには、高度や時刻、速度、GPSの座標やバッテリーの残量――――――――が片隅に表示されながら――――――――白い防護服を着た者達の姿が映っているようだ。
そう…………この男の見ている映像は、封鎖エリアの今現在のリアルタイムの映像である。
……………………
「ちっ!」
…………最後のカラスタイプの偽装無人機が電池切れで路地裏に墜落か。
追加の無人機は…………もう飛ばせないだろう。
上空は既に…………州軍やNEETの無人機や航空機で溢れかえっている。
恐らく…………遠方に事前に配置した、無人機を遠隔操作で飛ばすのも…………危険だ。
銃撃戦から、まだ数時間後で…………既に日中である。
敵に動きを察知されれば、直ぐに通信圏内を封鎖して…………我々の様な工作員の掃討を開始するだろう。
しかし、全く持って…………NEETの連中は恐ろしい。
デモ隊が先に発砲したからといって――――――――――――いきなりミニガンで掃射するか!
連中が市警察のSWAT隊に紛れ込んでいる情報は…………本国から、先程届いたが――――――――バキッ!
―――――――いくらなんでも遅すぎだ!
そう言った重要な情報は…………直ぐ現場に回しやがれ!
P特会を使った、市警察への威力偵察は…………大失敗だ!
お陰で…………日本側で、自分が育てた工作部隊の一つが全滅したじゃないか!
ついでに言うと、自分の手に握る…………お高い最新型の情報端末も亡くなってしまった…………これもコラテラルダメージの一つだ。
決して自分が、悪いわけじゃないだろう。
イライラ…………それにしても――――――――バキッ!
上の連中…………昔からの直属の上司を除く、更に上の連中は危機意識が低すぎる!
未だに本国で反日至上主義に固執する――――――――時代遅れの『強硬派』や、建国時に国教化せざるを得なかった――――――――新興宗教の幹部どもは、事態の深刻さを理解していない!
これでは…………こんな馬鹿げた任務ばかりでは! 日本との和平など――――――――!
ミシッ…………ミシッ!
――――――――バキィイイバァアリィイン! ヒューン!
「不可能だろうがぁあああああ!」
――――――――ガチャン!
「あ!」
この直後、アロハシャツを着た男は猛ダッシュで、バックパック片手に非常階段へ走り…………チェックアウトを済ませずに、安ホテルを後にしたのだった。
男の立ち去った部屋には…………割れた窓ガラスと…………男が発揮した、人間離れした握力で二つに割れた…………PMCや軍も使う、防弾仕様のタフな最新型の軍用端末の残骸が転がっているだけだった。
…………………………………………
――――――――その頃【名古屋市警察第八番分署】
【地下壕件 SWAT隊専用仮眠室】
……………………
アレ…………俺はいつの間に檻の中に入って…………ああ、ここは署の仮眠室だ。
留置所だった頃の鉄格子が、半分だけ残っているから、寝ぼけた俺への寝覚めとしては…………最悪だぜ。
月末にでも最近、リニューアルしたショッピングモールのホムセン辺りで、板でも購入して棚を作るか…………隣の平野は…………ガンラックを自分が外部顧問として教える、部活の生徒共に部活動の名目で作らせたからな。
ガンラックは、平野みたいに要らないから…………ボトルが置ける棚を自分で作るか…………考えたら、部屋飲みなら、酔いつぶれても問題がない。
ついでに言うと、安上がりだ。
だが…………女の子がいないので、寂しくなるだろうから、やっぱりヤメだ!
寂しい酒は飲みたくないのが、戦後の俺のこだわりだったのを…………危うく忘れそうだった。
ああ…………忘れるといえば、数時間前まで、スラム街での銃撃戦が激化して…………飲みに行けなかったのを思い出した。
結局最終的には、ダンプやブルドーザーを改造して鉄板を貼り付けた…………テクニカル車両をゲリラ側が繰り出してきて…………それで戦闘が激化して…………内の班長が偶々持っていたチラシに広告を載せていた、元空自の連中が創ったPMCに宅配ピザを頼むノリで空爆を依頼。
COIN機の精密爆撃でゲリラの生き残りをテクニカル車両ごと…………吹き飛ばしたんだった。
確か最近出来たPMCで…………法人名は【小牧空爆デリバリー】…………だったか。
ポイントが貯まると、最新型の精密個別誘導型クラスター爆弾やバンカーバスターが割引価格か無料で選択でき、更に…………空軍から払い下げられた『F/A―2改』による本格的な空爆が割安で選択出来るとか、ナントカetc…………などと、空爆中も無線のオープンチャンネルで…………熱心にアニメ声で可愛らしく宣伝と、営業をしていたのが印象的だった。
こんな無慈悲なデリバリーが開業するとか…………この国も物騒になったものだ。
しかし…………。
あの空爆が無ければ…………未だに、スラム街で朝日を浴びながら、銃撃戦をしていただろう。
やはり対地攻撃機は、COIN機の様な軽爆撃機でも…………味方地上部隊からしたら…………戦場の神である。
機動隊の連中も…………空爆の度に雄叫びを上げていたが、あの興奮は癖になりそうだ。
そんな訳で…………
小牧空爆デリバリーを大変気に入った、我が班長は…………今後も同デリバリーを使用していく方針のようだ。
それは残業軽減策として、正しい方針だと思う。
お陰で俺のアフター5は…………充実しそうな気配だ。
しかし、ビルを何棟か空爆で吹き飛ばしたが…………始末書とか、其の辺は大丈夫だろうか?
…………………………………………
【名古屋市内 某高級マンション】
高級マンションの上層部…………そこにはアニメオタクな痛い一室が存在する。
因みに表札には『鬼頭』と記されているようだ。
……………………
…………追先ほどまでこの辺りは…………ジェット機の爆音が酷かった。
いくら自分がセレブな身の上とは言え、目覚まし替わりにアクロバット飛行を注文した。
…………そんな記憶は無い。
パリッ…………もしゃもしゃ。
自分は焼きたてのトーストを齧り。
パリッ…………ズズズ…………ゴクん。
…………カプチーノを飲みながら、眼を覚ましている最中の…………おっさんだ。
今年でもう、四十歳になるが…………嫁は二次元の嫁が大奥並に大勢いるので、寂しくない。
大戦終結以来、久しぶりにアフターバーナー全開の爆音を目覚まし替わりに聞かされ…………就寝時、耳栓を愛用している自分でも…………今朝は問答無用で、自分の目覚ましより先に目が覚めた。
早起きは三文の得とか言うが…………果たして、こんな目覚め方で割に合うのだろうか、疑問だ。
そんな疑問を抱く自分の視界には…………壁一面に貼り付けた有機ELディスプレイに映る、ニュース映像が映り…………爆音で目覚め、まだ余韻が残る耳には…………スピーカーから流れる、若い女性ニュースキャスターの声が…………優しく鳴り響いてくる。
……………………パリッ。
『――――――――昨夜から本日未明まで続いた、名古屋市内✖○✖区のスラム街で発生した、PMC特権を許さない市民の会の、一部による違法なデモは本日未明、市警察機動隊の連隊長がデモ隊に射殺された事で『中部州非常事態法修正第192条』の適用により、武装ゲリラと中部州の『自動警戒危機管理システム』に認定されその後、機動隊により強制排除されました。その際、PMCによる爆撃が行われ、ビルが数棟倒壊しましたが、これについて、名古屋市や中部州は――――――――』
…………ズズズ。
『――――――――と声明を発表しました。尚、構成員が武装ゲリラ認定された、PMC特権を許さない市民の会、通称P特会の関連施設へ、各州政府は本日未明、内務副大臣の命令で、ほぼ同時に、警察やPMCを動員、強制家宅捜索を実施、その内、都内の関連施設では、警視庁の特殊部隊、SAT三個小隊が、自動車爆弾や仕掛け爆弾、自爆テロで全滅し――――――――』
…………ゴクん。
『――――――――続いて、次のニュースです。スイスで現在、第三次世界大戦後初となる、日米国交正常化交渉に臨んでいる、外務大臣の――――――――』
…………………………………………その頃
中部州上空で飛行訓練を繰り返す、三機のCOIN機がアフターバーナーを全開にしていた。
------------------------- 第26部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十四話 様々な思惑と空飛ぶ機密
【本文】
かつての東アジア統合圏内の半島地域にして、日本のすぐ隣の地域…………。
今では北部が日本の関西地区同様に、第三次世界大戦の末期に大量の隕石が降り注ぎ…………その地形は大きく変わり、ひとつの島となっていた。
この変化は半島民にとって近代以前まで長年、無慈悲な宗主国であり半島民の民族性へ多大な影響を与えた、お隣の大陸からは完全に切り離される大変化であった。
かつての半島に住む民もまた、第三次世界大戦で打ちのめされた日本人同様に変化への対応を余儀なくされ、そこに住む民も変化を受け入れ…………正に変わりつつある…………その途上である。
……………………
今では、九州共和国を名乗る統合軍の残党勢力が、要塞化した首都を同島の南部に設置、また同国の建国時に国教化された…………元は奇跡を売りに、西日本で勢力を伸ばしていたその勢力を…………半ば無理やりに取り込んだキリスト教を装った…………非常に悪質な新興宗教を母体とした国教の大衆煽動と、従来の反日教育が絶妙にマッチ。
九州共和国の人民…………特に人口爆発中の大多数の半島系住民にとっては…………この変化は極めて好評であった。
恐らく大戦前から変わらなかったのは、フィクションだらけの反日思想や…………人類の中では、獣並に旺盛な半島民の繁殖行為等から発生する問題行動が、他国にとって治安維持上、極めて有害なレベルでお盛んな点くらいや、大半の民衆が残念なことにフィクションと現実の区別が、未だに識別出来ない、そんな事ぐらいだろう。
そんな九州共和国は…………
占領した対馬や九州北部、内海化した対馬海峡や玄界灘に、大規模な陸海空の前線基地、海上基地、要塞都市の建設は当然ながら…………大変お得な自由貿易経済特区を建設して、ブラツクな経営を余裕で行う多国籍企業や、恐らく母国語の読み書きも出来ないと思われる、多数の外国人労働者を世界中に、今でもしつこい油汚れの様に残る紛争地域や、危険な無政府地帯から…………優先して同国へ誘致していた。
…………また、そんな企業に解雇させられた後に当然誕生する。
多数のニートや、解雇した企業へのアフターケアも、九州共和国は同国の関与が分からないように、巧みに工作員を使い行っている。
ニートの抱く企業への怨みは反日プロパガンダと、薬物を使った洗脳で日本への恨みへと変換させ、誘致した多国籍企業に恨みが向かわないように、入念にケア。
また、恨みを反日に変換した多国籍ニートの皆様にはカタコトの日本語を仕込み。
タフで安く、人によっては、何処か懐かしく…………扱いなれた小火器を持たせ。
遺伝子操作した凶暴で繁殖力旺盛な生物と一緒に、日本側に放流する使い捨てのゲリラ要員として再利用する、日本にとっては何とも…………最悪なサイクルが出来上がっていた。
これら一連の動きは、九州共和国が日本側…………特に大戦末期に同国の前進組織である、統合軍を壊滅させた仇敵のNEET…………現在の特別軍事法人NEETや、その他PMCを非常に恐れている証と世界的には認識され、大戦後の国際社会で各方面から一応問題視はされている。
このように特別軍事法人NEETが大規模な軍事行動に出ないように封じ込めようと、九州共和国指導部は多数の侵攻防止策を念入りに講じ…………更に同国の掲げる国是である。
『憎き日帝の子孫に奪われた九州の全面奪還!』…………とやらに向けて、国民を宗教や反日思想でガチガチに団結させ、ハード面とソフト面を整え。 …………その矛先を日本へと向けていたのだった。
そんな半島地域は隕石が降り注ぐ少し前に…………IRBMなどの中距離弾道ミサイル等を数万発近く。
数回の波状攻撃で…………日本へ向けて死に物狂いで発射していた。
そんな馬鹿げた数を撃ち込まれた日本側は…………全て撃ち落とせる筈もなく。
撃ち漏らした数だけ…………国内で被害が生じる事となる。
不思議な事に落下した弾頭には、弾道ミサイルに搭載するのがテンプレな存在である、大量破壊兵器の核や生物化学兵器等は積まれていなかった。
しかしながら…………第二次大戦時のナチスドイツのロンドン大空襲を上回る規模の弾道ミサイル攻撃は、戦後の科学技術の進歩と日本側の軍事用の地図並みに詳細な民生用の地図データも相まって、当然のようにその命中率を向上させており…………多くの建造物が密集する市街地の攻撃目標へ……………………正確に着弾していたのだ。
それらの弾道ミサイルには…………日本で製造された民生用の電子機器や半導体製品、その他材料、技術が大量に使われていたのは、正に皮肉としか言い様がない。
さらに言うなら、それらの弾道ミサイルを製造した費用は、日本国内で旧警察のお目こぼしで、グレーゾーンな扱いを長年に渡って受け。
事実上の賭博産業と化していた…………特殊な遊戯産業に根を張った一部の人々。
東アジア統合圏の支持者や、工作員からの違法な送金で製造されたのだから、撃ち込まれた側の長年の無防備が招いた、自業自得と言っても仕方ない被害だろう。
この弾道ミサイル攻撃時に…………多くの国民が目標外と思われる、山間部の過疎地や射程外と考えられた、日本の東側に疎開や避難。
その後、無人化した市街地では入れ替わるかのように…………統合派ゲリラや工作員に先導された者たちが、続々と海の向こうから――――――来日していた。
彼らは…………焼け野原から駅前、一家の大黒柱が不在の民家や、非武装な日本の一般家庭、日本海の無人島まで、ありとあらゆる場所の不法占拠や住民の洗脳と奴隷化が得意な…………半島民中心の自称政治難民を声高に主張する…………非常に迷惑な皆様達だった。
彼らはレーダー探知が困難な船、木造のボロ船に片道分の燃料だけ積みこみ。
すし詰め状態で大量に乗り込んで…………日本海の荒波を乗り越えての過酷な来日である。
当然のようにその手には――――――――ジャキ!
開発者の意図に反して拡散した『小さな大量破壊兵器』として有名な銃。
AK―47自動小銃のコピー製品が握られ、身につけた弾帯入れやバックパックには――――――――殺傷能力の高い7,62ミリ×39弾を装填した――――――――大量のボックスマガジンや予備の弾薬と、主食である真っ赤な刺激物を入れた壺やタッパが入れられた状態で…………殆ど着の身着のままで、ボロ船に乗り込んでいたのだ。
更に言うなら――――――――
その脳内には、凄まじいまでの――――――――日本人への殺意と征服の欲望を生まれてから、脳髄に念入りに東アジア統合圏内の反日教育で…………刻み込まれていたりもする。
…………正に対日本人専用の殺戮兵器とも云うべき集団の武装難民が、上陸してきたのだった。
後に――――――――
特別軍事法人NEETから、機密指定が解除された大戦時の情報を元に、戦後に創設された、日本国防省が詳細な分析をしたところ。
この大戦末期に日本に上陸した、武装難民の総数は…………場所によっては一度に上陸した総数が、あの第二次大戦時の欧州戦線における…………世界最大の揚陸作戦として有名なノルマンディー上陸作戦時の連合軍の揚陸兵力を上回っている事が判明。
揚陸作戦の世界記録を木造船舶で、見事に塗り替えていた事実と、弾道ミサイルを陽動にわざわざ数十万発も使い。
市街地から人が少なくなった隙に、武装難民で上陸して制圧する。
その型破りな戦術を構想し、実行した敵に…………国防軍上層部は衝撃を受け…………ドン引きしていた。
更にそれら武装難民や統合軍の大半を撃破して、九州北部へ封じ込めた。
特別軍事法人NEETの実力に…………更なる戦慄を覚えるのでもあった。
最も、国防軍上層部が一番衝撃を受けたのは、その上陸作戦で水死体になった、脱落者の数の多さと、それらを詳細に記録したNEETの映像である。
日本海の一部が脱落者の流血で赤潮並に赤くなっている映像や、沿岸部に打ち上げられた武装難民の水死体の山だったりするのだが、コチラは閲覧した者達が皆…………掌を静かに合わせ、震えながら黙祷していた。
そんな無謀な民族移動の如き規模で、日本に上陸してきた武装難民は…………。
上陸した先の市街地を歓喜の涙を流し――――――――
「ア✖ゴォオオ!」
「マ✖セェエエ!」
…………などと不気味に叫びながら、必死になって制圧を開始。
流石に日本海の荒波に殺されそうになったら、泣き叫びたくもなるのだろう。
そして生き残った興奮冷めやまぬ武装難民は、日本人の避難先の過疎地までわざわざ出向いて文字通り――――――――
ヒャッハーな! 何やら香辛料臭い世紀末軍団に早変わり。
非武装の日本人を見つけ襲撃――――――――発見次第、とりあえず家財は略奪して、後は殺すか――――――――犯してから、拉致していくのだった。
ひと月もすると、武装難民が制圧した地域は――――――――町中に刺激効果のある事で有名な――――――――香辛料の香りが辺りに漂い…………こびりついたエリアが完成。
そこは…………レイプと売春、薬物売買…………捉えた日本人奴隷を売買する、奴隷市場などの、最悪なこの世の地獄が…………出来上がっていたのだ。
市街地の深刻なスラム化は、特に西日本を中心にその動きを加速させ…………日本側の戦後処理を複雑にさせていた。
そんな経緯で誕生した…………廃墟と化した市街地やスラム街は、中部州にもかつて…………幾つか存在した。
しかし、今では州軍や国防軍…………特にプレッパー上がりの者達が大半を占めるPMCの無慈悲で容赦ない働きによって、一部の武装ゲリラが名古屋のスラム街や、三河地域の山間部を中心に偶に出るくらいにまでに関西海峡の東側では…………その勢力を削ぐことに成功。
そんな事情もあってだろうか…………中部州の特に平野部の放棄された、再開発前の市街地は軍やPMCの演習場として…………頻繁に利用されていた。
……………………
【中部州東部の放棄された市街地上空】
この空域では――――――――
昨夜から、本日未明まで…………名古屋市内で精密爆撃を実施した、PMC小牧空爆デリバリー所属のCOIN機が三機、訓練をしている最中だ。
幾ら練度が低いパイロットでも戦力化出来るのが利点のCOIN機パイロットでも、それなりに訓練は必要である。
COIN機が訓練を続ける、その上空では一機の航空機――――
旧式化して空軍から払い下げられた…………E―2D早期警戒機改が旋回を続けている。
早期警戒機は――――廃墟へ突っ込みそうな軌道を描く三機のCOIN機を…………ゆっくり旋回しながらまるで、親鳥の様に高高度から光学機械やレーダー、データリンク機能を使い――――――――見守っているようだ。
そんな親鳥に見守られている側は――――――――T―4ジェット練習機を改造した――――――――COIN機と呼ばれる種類の軽爆撃機である。
かつて、日の丸がペイントされていた機体には――――――――PMCと、新たにペイントが施されているようだ。
改造により、ジェットエンジンも高出力のエンジンに換装。
廃墟の上空で存分に唸りを上げていた。
そんな唸りを上げる機体には、レーダーは勿論、FCS(火器管制装置)も新たに搭載、パイロットが操作するFCSが命令を下す先のハードポイントはストレート方式から、トリプル方式の三股形状へと変更され――――――――ブルーカラーの弾頭をした小型ミサイルを両翼に計6発装着して、機体への搭載量と火力を増加させているのがよくわかる。
しかしながら、このミサイルは所謂キャプティプ弾頭、要は炸薬なし。
推進剤なしでシーカーだけ積んだ…………訓練弾頭である。
青い訓練弾を積んだ三機は、廃墟の上空やスレスレを――――――――アフターバーナー全開で爆音を轟かせ――――――――急降下と――――――――急上昇――――――――ブレイクの一連の攻撃機動に必要な飛行訓練を何度も繰り返していた。
そんな対地攻撃の猛訓練を繰り返す三機が――――――――急上昇――――――――ブレイクしようとした刹那――――――――キラッ――――――――!
――――――――バッヒュ――――――――ン!
この時、COIN機に搭乗するパイロット達が、頭部に装備した…………ある装置が機敏な反応を示す。
その装置は特別軍事法人NEET工廠製の高性能センサー類を多数使用した、ブラックボックス満載のHMD(ヘッドマウンテッドディスプレイ)であった。
HMDは高速で尚且つ、小さな飛行物体に瞬時に反応、瞬時にドッグファイトモードを起動、ターゲットの画像をディスプレイ上に表示、追尾を続けるのだったが――――――――
『――――――――♪』
『うわぁああああああああああ!』
『――――――――メーデー! メーデー! リーダー機より――――――――!』
その姿を初めて見た事で飛行経験の浅い、若いパイロットは驚き――――――――――――――――絶叫を上げてしまうのだった。
そして操縦を誤り失速、きりもみ状態になり――――――――機体の姿勢を飛行制御システムが素早く反応して回復させ――――――――バッァアン――――――――ポォン!
…………なんとか緊急脱出に成功。
だが、彼の愛機は――――――――今は無人のマンションに激突して――――――――ボン!
…………その役目を無残にも終えてしまう。
『リーダー機よりホークアイ! 例のチビがニアミスしやがった! 繰り返す――――――』
『こちらホークアイ、状況を確認した。 リーダー機と僚機は操縦を誤った新入りの捜索に移れ。こちらホークアイ、小牧ベース応答せよ。至急コンバットレスキューを―――――』
…………何やら、ニアミスした小さな飛行物体の事を知っていると思われる。
ナイスミドルな声をしたリーダー機のパイロットと、もう一機は訓練を中止。
脱出したパイロットの墜落地点付近で旋回を開始――――――そして、通電していない電線に引っかかって、無事な新人パイロットを確認して、無線で呼びかけるのだった。
……………………
『おい! 新入り無事か! 応答しろ!』
『――――――はっ! はい! 隊長、聞こえています!』
『お前後で、指令室に行って大量の書類にサインする事になるから、覚悟しとけ!』
『そ! それって始末書で――――――』
『バーカ、ちげーよ! 機密保持の誓約書だよ! 空の秘密をその眼でバッチリ見たんだから、これで晴れて――――――』
『――――――お前もこれから、一生秘密を共有する側になったんだよ! ようこそ秘密だらけの硝煙臭い大空へ! ガハハハハ!』
……………………
「あちゃ~ニアミスしちゃった! でも~♪ パイロットも脱出したしセーフっと♪ 早くあたいのファクター候補に会いたいな~♪」
深刻なニアミスをかましても陽気な、この妖精さんは住処が存在する、名古屋市内の高層ビル群へ向けて――――――バッヒュ――――――ン!
…………高速で飛翔を続けるのだった。
そんな妖精さんの行き先では、一人の男が丁度…………出勤してきたところだった。
------------------------- 第27部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十四話 その2
【本文】
【特別軍事法人NEET 名古屋支社一階ロビー】
カツカツ……
日本最大の民間軍事会社、特別軍事法人NEET名古屋支社のオフィスビルの一階ロビー内には…………一見すると普通の壁にしか見えない様…………巧妙にデザイン的に偽装された。
……特別な空間が存在する。
その壁の向こうは……地下駐車場の専用通路からしか出入りができない関係上、一部の人間しか存在を知らされていない。
…………所謂重要人物しか出入りができない様に区切られた空間だ。
巡航ミサイルの直撃にすら余裕で耐える、対爆用の特殊で薄い壁で仕切られた、その壁に守られた内側を……数名の黒服姿の護衛と女性秘書を連れて歩く。
…………コンビニのビニール袋を片手に持った、若い一人の男がいた。
一見するとメガネをかけ、グレー色のビジネススーツを着た優男のように見える、黒髪のこの男性こそ…………ここを毎日通過して、自分の執務室へ向かう…………存在である。
そんな立場の男性は、女性秘書から口頭で報告を聞きながら……歩いている最中だ。
…………
「――――昨夜のスラム街でのゲリラ事件の市警察からの報告は以上ですが、麻取から先程届いた肉片の検査結果は……やはり陽性でした。二次被害防止の為にも、既に疾病対策部隊が現場で肉片の焼却処分中との事です」
「……他には?」
「はい。昨夜から今朝未明に内務省主導でP特会の強制捜査が行われた際、警視庁が我が社の軍事顧問団の警告と忠告を無視、警視庁の独断でSATを動かし、三個小隊を全滅させたそうです。内務省から我が社に対して、首都圏に特殊部隊を増派するように要請が来ていますが――――」
「――――軍にでも泣きつけと言っておけ……次の報告は」
「はい。スイスで米国側と交渉中の菅原外務大臣が、我が社提供の米軍原潜拿捕の情報を記者団に公開、予定通り、日米国交正常化交渉を無事に終わらせました。米国国務省がワシントンD、Cの日米民間交流局経由で、我が社に対して抗議。他にも与野党の親米派議員や民間の経済団体から、我が社に対して抗議がありましたが――――」
「――――上陸した米軍特殊部隊が殺害した、非武装の民家人の遺体映像と証拠を世界へ向けて、公開する準備と……いつでも『オレンジ色の囚人服を着せた残虐な殺害犯一同を』我が社でいつでも処刑する用意があると、国務省に伝えておけ。それで米国政府は黙る筈だ……未だにアメポチ気質の抜けない政財界の馬鹿共に不審な動きが無いか……引き続き諜報部に調べさせろ。残りの報告は私の端末に上げておけ」
「承知しました。矢島社長」
――――数分後。
【特別軍事法人NEET 名古屋支社 社長室前】
――――――ウィーン。
ペコリ。
「おはようございます。矢島社長」
見慣れた若い女性秘書がお辞儀をして、自分へ挨拶をしてくる。
自分が兄に代わって、社長に就任したのは半年位前であるが…………既にここから見る眺めは――――――随分見慣れた光景の様に…………思う。
分厚い防弾ガラスの向こう側に広がる摩天楼は――――――何本も天へと伸び。
数百メートル下の地上には――――――何キロにも渡って要塞都市と化した象徴である。
――――――対ゲリラ対策の分厚く、高い数十メートル級の分離壁が――――――
摩天楼を取り囲んで今も尚、周辺の廃墟を更に取り囲みながら…………成長を続けている。
最近では分離壁に…………低高度を飛ぶ無人宅配機の衝突防止と、誘導を兼ねた赤や青の誘導灯を取り付け。
分離壁に沿って無人機が高速で飛び回り、無人機も取り付けた色とりどりのライトを点灯させ。
まるで…………カラフルな川の流れの様に光り輝き。
幻想的な軌跡を見せる、この要塞都市の夜景は中々…………綺麗である。
何やら感慨深くなるのは…………自分が名古屋支社での勤務に慣れてきた…………精神面での兆しなのだろうか。
いや、今はそんな自分の内面ではなく――――――
「おはよう……ところでツバメさんは?」
「はい。ログを見たところ…………日の出前に東部方面へ散歩に出かけられたみたいです」
「そうか…………ところで、米は炊けているかね?」
「既にツバメ様の朝食準備は整っていますが――――――」
ガサッ…………
「矢島社長、皿に出して温めましょうか?」
「ああ、後で頼む」
自分は秘書へ先程、コンビニに立ち寄り購入した鰯の缶詰を手渡す。
そして――――――カチャ――――――キィ――――――パタン。
トットッ――――――にゃぁあ~♪
「おはよう。君達の御主人様は……お空をお散歩中だそうだ」
……数匹の猫たちが私の足元に擦り寄ってくる。
この猫達は…………ツバメさんの保護した元野良猫達だ。
流石に窓の外で猫が飛んでいるのを見たときは…………口に含んでいたコーヒーを吹き出しそうになったのは…………今では苦く…………いい思い出になりつつある。
一応、この部屋の主であるツバメさんから、ここに入る承諾は事前に得ているので問題は無い。
――――――ヒューン!
自分の頬に微かに風が当たる感触が生ずる。
…………この感触にも、自分は既に慣れつつある。
風を巻き起こしたツバメさんは通風口を改造した出入り口から、勢い良くこの部屋に帰還。
速度を落とし……スパイラル降下をしながら――――――自分の前に来て笑顔で――――――無風のホバリングをしながら……陽気に笑顔で口を開く。
「ただいまぁ! おっ! 矢島くん弟♪ おはよう~♪」
「ツバメさんお帰りなさい……これはいつものです」
自分は手に握ったビニール袋を掲げる。
そして、ツバメさんは自分のビニール袋に飛びながら近付き、中身を確認すると―――――
「きゃぁああああ! お菓子と猫缶サンキュぅううう♪」
可愛い声を上げながら、差し入れに大興奮のツバメさん。
彼女は自分の周囲を高速でビュンビュンと……飛行をする。
何でも、機密資料や…………本日お会いする予定のマギサさんの話によると、妖精族特有の友好を示す習性らしい。
決して彼女の前では口にしないが…………今も足元で擦り寄っている、
猫達と同じスキンシップの一つであると、自分は認識している。
「ツバメさん、朝食を食べましょうか?」
「うん♪ でもコイツらにも朝食上げないとね~♪」
「ですね……でも、猫缶だけだと―――――」
な~な~♪
……足元に数匹の猫がじゃれついてくる。
彼らも私がビニール袋から取り出した猫缶…………朝ごはんが欲しいのだろう。
「え~コイツらはあたいの家族だよ! 旨いものを食わせたいの~♪」
「ツバメさん……そんなんじゃ……貴方のご家族の猫達は太りますよ……」
この部屋のスケルトン仕様のゴミ箱には―――――大量の猫缶の空き缶が入れられている。
見る限り……昨日より中身が増えているようだ。
自分は丸々太った……灰色のラグドールの背に乗っかった。
妖精さんにそう言いながら、猫缶の蓋を開け――――――カチッ
なぁ~ごぉおお~♪
次からは…………カリカリを買ってこようと思うのだった。
――――――その頃
【名古屋市内 某駅前】
これから、会社へ出勤しようとする人々や学校へ通学しようと行き交う人々で溢れかえる駅前……そんな駅前のファーストフード店内では朝食を求める人々で賑わっていた。
【外資系ファーストフード店内】
…………
「二人とも~こっち、こっち!」
学校指定の女子の夏用制服と…………ミニスカートをキレイに着こなし、男性受けのいい…………大きな胸で尚且つ、モデル並に容姿がいい私の友人。
私の友人である彼女は、人混みの中でもひときわ目立つ存在だ。
何も彼女が目立つのは…………彼女の胸やそこに注がれる、周囲の男性の視線に限った事ではない。
彼女の綺麗な長髪は…………炎の様に真っ赤に輝き…………朝日を浴びてまるで…………ルビーの様に輝いている。
美しい真紅の髪を、ひと振りの刃のように束ねた彼女は窓際のテーブルで…………私達を笑顔で手招きしている。
私達三人は学校へ通学する途中に朝食を取る……その最中だ。
私の隣には――――――
ニコッ
「紅菜、ナイス席取り」
「うん。どういたしまして誠」
オレンジ色の髪をした彼もまた、夏用の制服をきれいに着こなしている。
私の隣には……長身で笑顔の誠がいる。
今日はモビアック肉抜きの少し高い、ビーフカツバーガーをトレーに3個も載せて……………………誠は満足そうだ。
彼を見る私は――――――
チラッ…………。
自分の持つトレーに載った……透明なプラスティック製の容器に詰められた甘い液体。
ストロベリーシェイクの様な髪をしている…………この二人の家族だ。
「春菜さっさと飯食って駅に行こうぜ。今日はマギねえが、教壇に立たないからって、油断できないよ」
「そうね。誠」
私達は同じ施設で育った……戦災孤児だ。
そんな私達は皆…………実の親の顔も知らない。
まだ赤子の頃に……マギサねえちゃんに保護された間柄だ。
私達の特徴的な髪の色は……第三次世界大戦終結のキッカケになった出来事である、隕石落下後に生まれてきた子供である事を示している。
戦争を体験したのは……母親の胎内にいた時だが……国家間の戦闘終結後も数年間は激しい戦乱が続いていた。
…………よって私達も戦災孤児に分類される。
未だに私達と同じように親の顔も知らない。
妹や弟が増える状況からしても…………この国で芽吹く人々の命の連鎖が、危険な戦火に晒されたままなのは…………明らかだ。
しかし既に…………この国の西半分では日常の光景であり。
確固たる現実だが、大戦前の平和な時代とやらを知る大人の中には…………この現実を認めたくない。
そんな変わった人々もいるようである。
昨夜未明、そんな人々の一部は…………この要塞都市名古屋のスラム街でも市警察を相手にド派手な市街戦を行ったようだ。
その市街戦の巻き添えで、砲弾が逸れて直撃したスラム街近郊に位置する。
公設の戦災孤児院が半壊。
幸いにも全員無事だった戦災孤児が私達の施設に避難してきた関係で、私達の住む施設の食堂やホールは…………カラフルな髪をしたかわいい妹や弟達で満員だ。
私達は避難してきた戦災孤児の対応に奔走するというか、子供達に既に懐かれもみくちゃにされつつある、イタリアンが得意な猫耳と尻尾を生やしたおっさん。
施設に昔から住む謎の多い、優しいオタクなおっさんから朝食を外で取るように息切れした状態で言われ。
普段なら帰宅時に寄り道する場所である。
駅前のファストフード店へ急遽朝食を取る為に駆け込んだのだ。
私達や避難してきた戦災孤児の様にカラフルな髪の色をした子供達は…………関西海峡周辺や西日本。
更にその先に存在する日本の敵国…………九州共和国にも多いようだ。
こんな私達は従来の日本人や、その流れを汲む多くの者達から…………特徴的な髪の色や生い立ちに因み。
侮蔑や様々な感情を込め…………ストレージチルドレンと呼ばれている。
------------------------- 第28部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十四話 その3
【本文】
【名古屋市内 某駅前外資系ファーストフード店】
【フードコート】
…………
『――――視聴者の皆様ご覧頂けるでしょうか! このビルから数ブロック先のスラム街では市警察機動隊がP特会と――あ! 爆撃です! 火柱が上がり閃光が物凄いです!』
「やっぱり爆撃してたんだ~」
「これだけ派手なのに……紅菜は気づかなかったのかい?」
「春菜に叩き起こされて、地下のシェルターに行ったの~」
私の向かいの席では、誠と紅菜がビーフカツバーガーをパクパク食べながら。
…………店内の大型モニターに映る――――ニュース映像に見入っている。
先程自分の携帯端末でも確認したが…………今朝はP特会関連のニュースばかりのようだ。
…………
『――――しかし、以前から問題視されていたP特会ですが、やはりゲリラ化していたようですね。小林さん』
『ええ、そのようです。映像を見る限り名古屋市内で市警察とPMCに殲滅された。このP特会のゲリラですが、火砲を搭載したテクニカル車輌や、何よりデモ隊の統制された動きと、銃火器の装備からして、彼らが軍事訓練を受け尚且つ…………明確な目的を持って動いているのが伺えますね。これだけの人員と兵器を動員できる資金の出処や、明確な背後関係が今回の内務省主導の一斉強制捜査で判明すれば――――』
…………モニターには有名な軍事評論家が出演してコメント中だ。
その間も画面の左下には爆撃時の――――――――スラム街での戦闘を捉えた、ドローンからの映像が流されている。
ビルやテクニカル車輌が爆撃で粉微塵に吹き飛び。
その度に市警察機動隊はカービン銃を片腕で掲げたり――――――――
『イヤッッホォォォオオォオウ!』
――――――――雄叫びを上げ。
中には支援爆撃に興奮し過ぎたのだろうか。
COIN機の飛び去った空に向かって――――――――タタタタタタ!
祝砲を撃ちまくっている隊員や、吹き飛んだ飲み屋の残骸から割れてない。
ビールやシャンパンのボトルを見つけて栓を開け。
互いに酒を浴びせ――――――――隊旗を残骸の山の上に突き刺している。
…………
『――――ところで小林さん…………この映像は刺激的ですね』
確かに刺激的な映像であるが…………社会の正義が暴力に勝った。
その瞬間の勝利の映像であるはずなのに…………ニュースキャスターの表情は何やら、気まずい感じだ。
『ええ…………これは九州共和国が黙っていないでしょう。しかしながら、そもそもの原因は、自称九州共和国を支持するP特会側が、市警察機動隊の連隊長を射殺した。この明確なテロ行為が原因ですからね。この映像が今後、九州共和国の反日プロパガンダに利用される可能性も――――』
少し驚き気味と言うか、恐怖を感じているニュースキャスターの男性。
その反応に軍事評論家も同意を示しながら、今後予測される。
九州共和国の動向への懸念も添えてコメントを返し、番組は進行していく。
『――――さて、次にお見せする映像について、我が局はマスメディアとしまして、視聴者の皆様に真実をありのまま伝えるべきと考え、また放送の時間帯も考慮して、一部の映像をサーモグラフィに切り替え放送します。無修正の暗視映像はwebサイトから、15歳以上の準成人や成人であればご覧に――――』
紅菜と誠、それに店内の他の視聴者も画面の左下に流れだした。
新たな映像を見て…………不安を含む空気が生じた事からも、先程のニュースキャスターの表情の意味を理解した。
途中から左下の映像が一部、暗視画像からサーモグラフィの映像に切り替わり。
デモ隊が凄まじいスピードで…………肉片に変わっていくのだ。
テロップで『市警察SWATによるゲリラへの掃射』と表示されている。
しかも――――
残った暗視画像の部分には丁度、燃え始めていく――――
或ものが…………鮮明に写りこんでいた。
それは九州共和国の国旗と同国の国教や取り巻きのカルト宗教が、日本側の人間の中でも未だに発生する存在。
社会から孤立している引きこもり等を取り込む為に、異世界の来訪者のエルフ扱いをする笹穂耳の少女。
…………【奇跡の少女達】が映っているプラカードだ。
世界的には、戦災孤児の少女に耳の整形を施し行う。
悪質な九州共和国のプロパガンダという事で認識されているが…………エルフや異世界が実在するのは、事実だったりするんだな~これが。
因みに私の住む施設には猫耳と尻尾を生やした。
異世界帰りのケモナーなおっさんがいます!
最もそんな事を公言していたら、マギサねえちゃんに殺されかねないので言えない。
しかし…………。
恐らく西日本や九州共和国の国境地帯、修羅の境界線では今後、テロが多発するだろう。
いや、関西海峡の東側の中部州も最早安全でないかも知れない。
流石に、高く分厚い分離壁と多数のPMCに守られた日本最大の要塞都市。
名古屋の内部でこれ以上のテロやゲリラ行為は不可能だろと私は思う。
精々、スラム街や州内東部方面の山中を中心に。
小規模なテロやゲリラ戦をするのが関の山だ。
『――――続いて、スイスで米国と国交正常化交渉中だった。菅原外務大臣は交渉が破談に終わった事について、米国側の不誠実な行いによる当然の結果であるとコメントを述べており、更に、今後の米国側の対応によっては、米海軍原潜の領海侵犯や拿捕、米軍特殊部隊の拘束以上の情報を世界へ向けて発表する用意があると、異例のコメントを述べました。続きまして…………カルト宗教団体摘発のニュースです。カジノ都市として有名な関西海峡南部の人工島【SIBORITORU5号】の近海でカルト宗教【あの頃に戻りたい】の信者が海面下数十メートル下に沈む。旧大阪の都市部で違法なサルベージ作業をしていたのを、関西海峡を管理する、NEETの沿岸警備隊が摘発しました。尚宗教団体、あの頃に戻りたいは、第三次世界大戦の無い世界線に戻れます。人生がやり直せます。などと一般人、特に戦中に家族を失った人や、世間知らずの引きこもりを集中的に騙し、また九州共和国による日本人拉致にも多数の関与が伺われ、先月も同団体から分派した一部のグループが起こした、児童誘拐事件が多数発生し、この際にハイウェイ上でNEETのミサイル攻撃で幹部が処分されるなど――――』
…………
この時…………春菜達の席から離れたソファースペース。
そこでもひと組の男女が、このニュース映像を見ながら。
…………微妙に違う意味の不安を抱いていた。
……………………
モニターに映るこの映像。
これは、今後の活動への影響を考えると色々と不安になるが――――
「なんで…………貴方がここにいるんですか」
大戦中から今でも、変わらず自分の上官である。
…………この女性がこの場にいる。
この場違いな状況の方が余程不安だ。
そもそもこの人は、今では本国でデスクワークが主体のはずだ。
現場に来る筈が無い…………いや必要が無い、そんな立場の人間だ。
「一応観光だ。それにしても…………この映像はヤバイな。連中が動く上で様々な口実に利用するだろう…………そうそう連中といえば、狙撃を命令したのは別口で動いた連中の派閥の要員だ。よって今回の作戦で君に落ち度は全くない」
そう優しくサラッと言い終えると彼女は…………アイスティーにガムシロップとミルクを注ぎ。
綺麗な唇で白いストローを咥え…………ミルクティーを吸い始める。
こうしていると、茶髪のショートが似合う。
巨乳美女とデートをしているようだが…………大戦末期は彼女の美貌に騙され。
…………もの凄く酷い目にあった。
当時の彼女は軍警察の大尉だった。
立場的には自分の上官の…………そのまた上の上官で、自分とは特に接点はなかった。
そんな雲の上とも云うべき存在で、美人の命令に自分と…………入隊以来。
当時世話になった妻子持ちで、面倒見の良い上官や自分と数名の同僚は従い。
結果的に新兵だった自分だけが…………生き残った。
今も自分は彼女の命令に軍人として従っている。
無駄かも知れないが…………一応言っておこう。
「落ち度がないなら、本日中に台湾経由で帰国して、来週中に報告書を提出しますので――」
「待て…………帰国はキャンセルだ。貴様は連中の残りを指揮下に置いて、追加の作戦に入れ。詳細は…………端末はどうした?」
「壊れたので処分しました」
「そうか――――」
自分は彼女から…………追加の作戦等の概要が記憶された、100テラの容量をした。
メモリーカードを胸元から取り出され、手渡しで渡される。
微かな温もりがなんかエロいと、いい歳ながらも思ってしまう。
「今回は経費で処理しておくが、次からはイラついて壊すなよ」
「ええ、そうし――――!」
「弛んでいるぞ…………気を付けろ。特に…………その『力』は無意識に使うな、NEETやPMCの魔女達に悟られるぞ」
「ご忠告どうも。では、失礼します部長」
店を後にして、自分は歩きながら。
メモリーカードを予備の端末である、腕時計型の端末に差し込む。
腕の端末と同期させている、メガネ型のディスプレイに追加の作戦情報を表示させながら、そのまま人混みを…………歩いていく。
やはり、自分がP特会のゲリラを使い。
昨晩から早朝にかけて、実行した威力偵察の影響だろうか。
いつも以上に自動小銃やPDW(パーソナルディフェンスウェポン)等で武装した。
市警察の警官やPMCの連中が、路上や街角を数人単位で彷徨いている。
その周囲の上空には数機の――――ドローンが低高度を静かに浮かび。
行き交う市民や車をカメラや各種センサー類を使い。
……………………監視しているようだ。
路上には機関砲を搭載した装輪装甲車や、クワガタを思わせるシルエットをした。
二連装自動装填式の120ミリ迫撃砲を砲塔部に搭載し、都市迷彩を施した。
PMC所属の装輪装甲車なども市警察のパトカーと合同で巡回している。
それ以上に多いのは――――――――
男女問わず、十五歳以上と思われる者達の多くがオープンキャリーで堂々と護身用の拳銃等で武装している事だ。
しかも、その大半が銃本体へのダットサイトやフラッシュライトなどのアクセサリー類は、ごく当たり前に装着済みである。
この光景を見ると敵国ながら、この国も大戦後は逞しく変わったのだと思う。
流石に自国民を五千万人も、先の大戦で亡くせば、生き残った者達も変わらざるを得ないのだろうが…………自分の国は大戦後に建国した新国家だが、此処まで見事な衣替えは、我が国においては統合圏時代から、出来ていない様に思う。
そう思うのはあい変わらず…………
嘘と虚構に満ちた反日思想で、民衆をまとめているからだろうか。
そんな嘘や虚構など、国外にでなくても、共和国のネット規制の網から度々逃れ、日本や世界中の物好きなハッカー達によって、我が国の閉じたネット環境でも公開される。
意図的に統制されていない…………世界の新鮮で自由な情報に接し、考えれば見抜けるが、素直に多くの民衆にそうさせないのは、敵への嫉妬や劣等感が集団の同調圧力として、強力に作用している証左なのだろう。
などと、考えながら歩いていると、すれ違う市民の中には…………非常に強い警戒心の表れだろうか。
コンパクトカービン銃を装備して、警官やPMC要員に職質をされている市民もいるが、PMCライセンス持ちか、武装許可証があると確認されると、暴発防止用に目立つ色をした。
オレンジ色のセーフティラグを渡され。
チェンバーに入れると、即座に解放されている。
こんな状況下で撤退命令を下さず――――作戦を続行するとか。
…………本国の馬鹿どもが、馬鹿なのは相変わらずだが。
その馬鹿に今回は抵抗もせず、従う部長は…………一体何を考えているんだ。
この要塞都市がつい数時間前のように、銃弾やグレネードが飛び交い。
砲弾やミサイルが飛び交う、硝煙と血なま臭い…………匂いが漂う。
危険なコンクリートジャングルに変わるのは、時間の問題だ。
こんな危険な場所からは、さっさとおさらばしたいのだが。
自分はここを危険なジャングルに変えて、作戦を成功させ、生き延び。
本国に自力で帰還し――――――――
「――――ちっ! …………最悪だ」
作戦地点は、残念なことに――――――――
日本国防軍以上に、警戒すべき対象組織の管理する施設。
…………最近、特別軍事法人NEETが買収した商業施設。
名古屋市内の大型ショッピングモールである。
あのモール内はNEET買収後、ワンフロアぶち抜きでBLグッズや、年中無休で薄いBL本を売り捌く。
非常に入りにくい…………腐ったフロアが出来た。
その腐ったフロア以外は特に問題がないので、頻繁に来日中も利用している施設だ。
近くに私鉄の駅があるので利便性もいい…………そんな場所だと覚えている。
最も客として利用するのと、テロリストになる覚悟で利用するのでは…………例え常人以上の力がこの身体に有っても、不安になるのは、ここ何年にも渡って…………経験済みだ。
しかし…………久しぶりに会うまで、忘れていた。
今や部長…………彼女の眼は今朝、自分が端末をへし折った時に無意識に使ったこの身体に宿る力。
その存在を数キロ先から捉え――――――――識別できる眼だった。
それも多国籍軍事企業の特別製の人工眼球だ。
自分の今朝使った力はセンサーとしても使えるが、我が国においてこの力は…………。
国教の取り巻きの宗教団体が奇跡の力や…………魔力などと、神秘性を喧伝しているようだが、その実態はナノマシンと思われるナノサイズの媒介を使った。
主に外傷などへ、発光現象を発生させながら行う。
超高速治療などの現象で…………明確な医療行為だ。
其の辺の詳細は日本側、特別軍事法人NEETが基礎技術の一部を世界に公開しているので世界的には常識だ。
このブラックボックス満載だが、確実に使える。
高度なナノテクノロジーのおかげで、第三次世界大戦時に劣化ウラン弾が飛び交った地。
米国や欧州などでは、大戦後に大量発生が懸念されていた生態系への悪影響や、今ではクレーターだらけの地と化した中東地域で、前世紀や今世紀初めに行われた戦争の湾岸戦争や、イラク戦争後に湾岸戦争症候群などと問題になった。
…………深刻な奇形児や癌などの健康問題が殆ど発生しなかった。
残念なことに我が国においては、国民が触れる情報が制限されている関係や…………統合圏時代から続く反日教育に国教の煽動…………昔から色々と問題のある、国民性の影響でこれらの事実や、変化は歪んで受け止められ。
大戦後も自分達の属する民族の優越と、反日の糧へと変えていく。
そんな偽りと傲慢に満ち、一部の多国籍企業と支配者層が労働者の生み出す利益を貪る国家が…………九州共和国だ。
こんな最低な国家でも大戦後に出来た、自分の属する国家である。
そこに住む者達の中には、自分が守るべき。
か弱い者達もいるのだから…………自分は絶対に…………PMCや何より、再度…………あのNEET達に敗れるわけにはいけない。
正直なところ、NEET達との自分のファーストコンタクトに関しては複雑な気持ちだ。
今では海峡になった大阪の地で…………自分は当時、軍内部で問題のある部隊への潜入捜査中だった。
あの最低な戦争犯罪の現場に奴らは…………突如として現れたのだ。
全身黒ずくめ姿のパワードスーツを装備したNEET達が乱入して、馬鹿な軍規違反のレイプ犯共を皆殺しにしたのは、敵ながら見事だったと今でも思う。
だが、その際に一緒に潜入捜査中だった。
世話になった上司や同僚達も…………NEET達に殺された。
我々の内部の事情など知らないNEETからしたら、同じ敵なのだ。
状況や戦時下という事情を考えれば、上司や同僚が殺されたのは…………仕方がないのかもしれない。
自分は現場で当時市販品では、最高画質だった。
8K画質のビデオカメラを回しながら、馬鹿な脳筋レイプ犯達には撮影会を装い。
証拠集めを進め、其の惨状を今は亡き上司の命令で急遽FG2動画で中継していた。
そんな自分は…………NEETに蹴り飛ばされ。
クソデブでブサメンな死体の下敷きに偶然なって生き残った。
NEETの容赦ない働きはあの頃から…………今でも変わらない。
変わらないと言えば、NEETの目的というか真意が不明なところも相変わらず。
…………未確認だ。
工作員の一人として、色々と特別軍事法人NEETに長年接してきたが、コイツらは明らかに持っている科学技術の水準が不自然な程高度で、それまで存在し積み重ねてきた科学技術の水準と違うが…………何よりその存在のあり方や、登場の仕方が、そもそもおかしい。
当時…………レイシストや極右組織のリーダーと目されていた。
矢島という人物の資金力や人脈では、実現不可能な陸海空の大規模な戦力は勿論。
現在では、NEET製ナノマシンの軍事や医療分野等への実用的な使い手であると認識されている。
カラフルな髪の少女…………通称魔女達を多数従え。
NEETを名乗り、大戦末期に突如現れると、瞬く間に統合軍を壊滅させ。
西日本全域を奪還したのだから、このNEETや魔女達は凄まじく。
…………この世界にとっては異質な存在だ。
確か…………特別軍事法人NEETの現会長の矢島は大戦中に行方不明だった時期があるそうだが、その頃に例の魔女達や何らかの…………強力なバックボーンを得たのだろう。
其の辺の情報は何故か、厳重に管理され。
自分では知る余地も無い領域だ。
だが…………レイプ犯と一緒に名誉も奪われ殺された。
潜入捜査の仲間の仇だけは――――――――絶対に取りたい。
アロハシャツを着た人の良さそうな、一人の中年男性はそう願いながら、駅舎へ向かう人の海へ…………今日も紛れ込んでいく。
------------------------- 第29部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十四話 その4
【本文】
【西暦二千三十年代後半】
既に第三次世界大戦から十数年経過した世界…………
人類は三度目の大戦で再度…………核兵器を使用。
その際、世界の火薬庫とも言うべき…………中東地域や宗教上の聖地を核の業火で永遠に失った。
それでも……聖地や多くの信徒を核の業火で失い。
最終戦争を経験した…………それらの宗教が滅びる事は、大戦から十数年たった後も決して無かった。
それらの宗教は大戦前から、世界中に広く拡散し――――――――増え続けていた、多くの人々の脳髄へ…………様々な形でインストールされ。
人々を制御するソフトウェアの一つとして受け継がれ…………その機能と性質は未だに、人々を惹きつけるにはまだまだ、十分なようである。
そんな多くの人間の脳髄へインストールされた情報の発信源であった、聖地やその周囲の地域は、放射線を放つクレーターと放射線物資や劣化ウランに汚染され…………遂に人が住めなくなっていた。
当然だが…………壊滅した中東地域以外でも、戦闘とその被害は数多く存在する。
その多くは戦術核兵器を使用した米国を除けば、非正規戦を含む泥沼な市街戦という点は大方、展開が同じだった。
東アジアの地では、海上での大規模な海洋航空戦も行われ。
世界は巨大な戦場へと…………急速に変わっていたのだが、特に変化がなかった地域も存在する。
特に変化がなかったのは、普段から麻薬カルテルや反政府ゲリラが幅を利かす。
大戦前から、戦火の燃え盛る中南米地域や、アフリカの紛争地帯。
謎の突然変異で筋肉マッチョと化した、新種の大型有袋類が群れをなして、大地をピョンピョン飛び跳ね時折、住宅街やドラッグストアを襲撃する豪州の地。
新種の凶悪な有袋類は一般人を気まぐれに集団リンチにして、血祭りに上げ。
ドラッグストアのプロテインコーナーから、プロテインを略奪する事が日常となり、同地の住民は銃火器で応戦して、赤き大地での過酷な生存競争を余儀なくされている。
そして…………そのお隣の羊がいっぱい飼われ。
異世界を舞台にした、映画のロケ地にも使用された島国ぐらいだった。
地球全土を核の業火が焼き払わなかったのは、単純に冷戦終了による対立構造の変化や、核兵器の配備数削減による、火力不足が影響したのだろうか?
或いは第二次大戦後以降、長年に渡って行われ。
時には、反社会的勢力にも利用され。
イデオロギーや胡散臭さを含みながらも、言葉の弾丸に変え。
人々の脳髄へ向けて、下手くそな機銃掃射の様にバラマキながらも行われてきた。
反核運動や各種平和活動により…………大破局へ一定のブレーキが掛かったのだろうか。
結果的に考えると、それら多くの清濁含む、行動や思いの積み重ねが…………人類を三度目の大戦を乗り越えさせ、存続させた要因なのかもしれない。
この結果をもたらした因果が何れにせよ…………人類は、復興を着々と進め。
大戦中の激しい戦闘で荒れ果てた都市…………その中でも、政府機関が残っていた国家や、新たに国家や、それに準ずる勢力の支配が成立した地域の都市部では、再建のラッシュに沸き。
景気は大戦終結の十数年経つ今でも…………上昇を続けている。
多くの物資や労働者、サービス、金が再びミサイルや兵士、陸海空の戦力に変わって…………大規模に世界を行き交い。
世界は…………文明の進歩と経済規模の終わりなき拡大を、戦火の残滓を燻らせながらも、再開していた。
そんな復興に勤しむ地域の中でも、右肩上がりの成長を続けている地域があった。
第三次世界大戦で最低でも、五千万人以上の人々が死んだ地…………日本列島である。
今では日本国と対立する、九州共和国が九州北部に出来た影響や、日本国と共に円共同体を構成する。
複数の都市国家が西日本に建国され、陸上の国境地帯と紛争地域が同時に出来た。
世界の新たな火薬庫と認識されつつある…………何ともホットな地域である。
直接の戦闘によって、日本列島で死んだ者はこの戦没者五千万人の内訳の中でも、恐らく…………一番少ないと考えられている。
その死者の大半は…………戦火によってインフラが途絶えた影響による、コラテラルダメージの犠牲者。
高齢者を中心にした…………多数の餓死や、医療行為が行えなかった為の病死が大半を占める。
その次に多いのは、隕石落下で壊滅した関西地区に居た非戦闘員の人々だ。
今でも、再開発を進める過程で、廃墟とかした住宅街ではミイラや白骨化した。
かつての日本国を作り上げた国民の亡骸が…………度々見つかっている。
数千万の戦没者の亡骸の大半が未だに埋葬されず。
放置された日本列島は…………日々、多くの人々の想いと多くの組織の思惑が渦巻く地と化していた。
そんな多くの思惑が複雑に渦巻き、成長と対立を続ける。
日本国の高度300メートル以下の低高度は今や――――――――
――――――――多くの無人機が飛び交っている。
空を翔る無人機の数は、大戦後の技術革新や、新政府樹立の際になされた。
法体系の一新による規制撤廃の影響や、労働者の不足した物流業界を中心に活用が爆発的に増大。
その数は日増しに――――――――膨大になり。
既に一説では、日本列島の上空を飛び交う、無人機の年間の総数は大戦中に飛び交った。
ミサイルの数千倍を超える数がほぼ、無事故で飛び交う。
世界的に見て…………非常に特殊で活気に溢れた、環境になっていた。
日々、日本列島の上空を飛び交う無人機の中で一番多いのは…………やはり、宅配便を運ぶ無人機である。
最早…………注文のボタンをクリックした、その日のうちに届くのは当たり前。
場所によっては宅配ピザを頼むのと大差がないくらいである。
近年では、宅配ピザなども無人機での宅配が主流になりつつあるくらいだから、当然の結果だろう。
マンションやアパートのベランダには…………無人機対応の宅配ボックスが設置され、再配達の手間も、大幅に省かれている。
当然だが大戦後の一戸建ての家でも、無人機対応の宅配ボックスの設置は辺り前だ。
中には煙突型の宅配ボックスを設置して…………聖地を失った巨大宗教が取り込んだ。
ゲルマン人発のお祭り騒ぎの、年末の性…………聖夜には多くの子供達にプレゼントが、高性能で機動力…………ノイズキャンセラー搭載で静音性に優れ、赤い三角帽子や、トナカイ風の角を付け、スピーカーから微かに鈴の音を鳴り響かせ。
丸く赤いライトを時折、トナカイの鼻の様に真っ赤に輝かせた。
サンタのファンネ…………下僕達から、夢を壊さない様に届けられる。
ファンタジーなイベントが実現していた。
そんな年末の世界的な性…………聖夜の大イベントを、私財を投じて行う。
PMCが本業の会社が存在する。
今では同社の収益は無人機を使用した宅配事業が大半を占めているが、本業が銃弾と砲弾、ミサイルを敵に届け、この世から葬り。
地獄へと送り届け、一殺多生を実践するのが…………本業のPMCである。
そのPMCは、現在の特別軍事法人NEETの前進になった組織。
NEETの一部隊として…………主に輸送等の任務に従事する、一人の少女を中心とした、特殊部隊だった。
大戦終結後、特別軍事法人NEETの結成に際して、少女を中心とした特殊部隊は独自にPMC化の道を選んだ。
しかしNEETの創設者、矢島氏にとって…………この少女は頭が上がらない存在であった事も…………今では【魔女の弾丸便】通称、魔弾と呼ばれる。
PMCの創設を決定づけた要因だろう。
最も一番の要因は彼女…………マギサの意思である事に変わりは無い。
……………………
かつてベッドタウンとして、開発され。
大戦後に放棄された…………名古屋市近郊の丘陵地帯。
そこには、数年前まで火炎放射器を愛用する。
モヒカン系ゲリラのグループが複数、住み着いていたが、今では完全に駆逐され。
ゲリラ対策の分離壁で…………周囲を六角形で二重に囲み。
再度、壁に囲まれたベッドタウンとして生まれ変わっていた。
そんなベッドタウンの中心部の丘の上には…………森に囲まれた。
……………………ひとつの屋敷がある。
森の周囲の草原には敷地を取り囲むように…………濃密な地雷原が構築され。
更にその先の森の中には…………ベトコンもよく使った、ブービートラップが満載。
その先にある…………屋敷の屋上には、大型輸送ヘリが数機同時に離着陸を行える。
ヘリ空母の様なヘリポートと…………艦橋のような管制塔とレーダー施設は勿論。
各種対空兵装や、暴徒やゲリラ対策の拠点防御用に装甲を強化した。
戦車や装甲車…………完全武装の自社の兵士で守りを固めた…………一人の少女にして、故郷の世界では、魔女と呼ばれ恐れられる。
魔族に生まれた、マギサが故郷での天下布武を目指す。
この世界での拠点である、屋敷が存在している。
【マギサ邸 大広間】
この屋敷の主であるマギサは、朝食を終え。
…………食後のティータイムの最中だ。
故郷で彼女が慣れ親しんだ、茶に比較的よく似たアップルティは…………彼女のお気に入りだ。
マギサお気に入りのアップルティは、同じくお気に入りのティーセットを使い。
ピンクの髪をした…………マギサとよく似た顔立ちをした、メイド服姿の少女が注いでいる。
マギサは小さな焼き菓子をつまみながら、少女と会話をしている。
…………
「お嬢様…………昨日から今朝にかけての市内でのゲリラ戦による、我が社関連施設への被害は皆無ですが、我が社の運営する孤児院へ…………近隣の半壊した州営孤児院の孤児が、全員避難してきていますが、今後の処遇は如何いたしますか?」
「…………引き続き保護しなさい。それと早急に半壊した孤児院の再建を支援。州政府が適切に寄付金を使用しているか、随時報告するのを忘れないように…………他には?」
「はい、関西海峡で例のサルベージをしていた宗教団体【あの頃に戻りたい】が、旧紙幣の出処なのは間違いないようです。しかし…………そこから先の流通ルートは現在、NEETの特別調査室も動いていますが…………あちら側での、旧紙幣の異常な流通に関しては室長のエルーナ様から、調査報告のメッセージが届いています」
「…………読み上げなさい」
「はい…………『特に大規模な魔術的工作の痕跡は皆無だ。心配する必要は無い。目的は対立する勢力への嫌がらせだろう。但し敵の正体は以前不明、引き続き警戒されたし』…………以上です」
「…………エアル、市内に出掛けるまで、後どのくらい時間があるかしら」
「約一時間ほどです」
「そう…………暫く一人にさせて」
エアルと呼ばれた少女は軽くお辞儀をすると、広間から退室。
広間には…………この日を二年前に、彼の存在を知ってから待ち望んだ。
彼女が一人…………笑みを浮かべながら――――――――
「あちっ!」
猫舌である事を忘れるほどに…………片思いに呆けた。
ロングの黒髪がよく似合う。
女子高生の様な格好をした…………マギサが頬をほんのりと、染めながら。
ニヤついて…………アップルティを口にしているのだった。
------------------------- 第30部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十四話 その5
【前書き】
読者の皆様、お待たせしました。
来週も頑張って投稿できるように頑張ります!
暑さと湿気で、自分の職場は地獄です。
この時期、クーラー全開の自宅から殆ど外出不要な職業。
……小説家は自分の憧れです!
ヽ(´▽`)/
【本文】
【名古屋市内 商業地区】
ゲリラ化した似非市民団体が市警察とPMCによって殲滅され。
十時間程が経過して、もうすぐ昼食時といった頃合いの時間帯。
雲一つない夏の青空の下で…………オレンジ色の棒が数十本は納められたであろう。
円筒状の黒い筒を…………グレーのスリングを左肩から斜めに掛けて腰にぶら下げ。
真新しい高層ビルが乱立する、市内の商業地区を歩く。
弓兵の様な一人の男を先頭にした――――数人の男達がいる。
先頭の弓兵の様な男がその手に持つ武器、弓ではないが、何故か行き交う通行人も、彼自身もこの姿はどことなく弓兵のようだと感じていたりする。
それは男の持つ武器が弓と同じ飛び道具である事も、人々の無意識に影響しているのかもしれない。
弓兵の様な男達の一団のその頭上、数十メートル上には高性能のセンサーとデータリンク機能を備えた。
世間的にはドローンと呼ばれる無人機が編隊を組んで漂い、ドローンから送信される。
肉眼の届かない先や、周囲の状況を警戒しながら、男達は慣れた足取りで市内を歩いていく。
男達の直ぐ横の車道には――――徐行運転を続ける。
三台のグレー系の塗装を施した装輪装甲車が――――自車両二台分は最低限。
…………車間距離を開けて随伴中だ。
随伴する装甲車には今や市街戦用の戦闘車両に必須兵装である。
RWS(リモートウェポンステーション)を積んだ砲塔も旋回――――機関砲と二連式自動装着迫撃砲とセンサー類も独自に――――旋回を繰り返し。
周囲を警戒中のようである。
こんな強力な火力を随伴させる男達の目元には、モニターも兼ねたサングラスタイプのシューティングゴーグル。
耳には通信用インカム。
グローブを嵌めた手には使い込み、よく手入れがされた。
自動小銃や自動散弾銃、軽機関銃、コンパクトカービン銃が握られている。
そんな男達の服装は黒と青をベースにした――――戦闘服やタクティカルブーツ。
銅の被甲が施されたFMJ(フルメタルジャケット)のライフル弾なら、近距離でも数百発は余裕で防ぐ事ができる。
特別軍事法人NEET提供の技術の一部を流用して、民間企業で大量生産された。
動き易さ重視の軽量タイプで、最新式の液体式防弾ベストとボディスーツ、それらの装備で屈強な肉体を、敵の銃弾から守っているようだ。
この男達が防弾ヘルメットを被らない一番の理由は、単に暑いからだったりする。
他にも民間人溢れる市街地での銃撃戦では、瞬時の判断と行動が生死を分ける。
故に極めて目立つ存在である、防弾ヘルメットは敵の的になりやすい。
男達に支給される防弾ヘルメットは、防弾性能よりデメリットが多いといったところだろう。
そのようなPMCとしての、経験則もあるからこそ。
男達はこのスタイルで――――職務に臨む。
男達が装備する防弾ベスト等と同様の性能や、それ以上の性能を持つ防弾ベスト、ボディスーツは国外への輸出規制が存在するが、第三次世界大戦で東アジア統合推進機構によって実行され。
…………結局、約四千万人近い民間人をコラテラルダメージで死に追いやりながらも失敗に終わった。
民族絶滅を狙った、民族浄化を経験した日本国内では、一般向けへも民間防衛の観点から販売されている。
市販されている防弾製品の中には、カスタムによって、人工筋肉等のパワーユニットを付ける事が可能で、純粋な軍用程ではないが、準パワードスーツ化といった。
改造が可能な拡張性の高いモデルも存在する。
準パワードスーツ化が可能な防弾製品は、追加の防弾板、NBC防護機能やFCS(火器管制装置)、自動マグチェンジシステム、セントリーガン、小型の低反動迫撃砲等を装着可能で今や、日本国内のホームセンターでごく普通に販売され。
ミリタリーオタクから、危機意識の高い…………プレッパーな一般人向けによく売れている。
価格はフルセットで、新車の乗用車一台より安いくらいだ。
最も流石に身元不確かな者や、凶悪な前科、精神科への通院歴のある者、反社会的勢力への販売はされないが、闇ルートやグレーな中古業者が多い、西日本では誰でも購入可能だ。
但し、海峡の東側や都市国家への持ち込みはPMCの警備隊や、NEETの沿岸警備隊、準海軍化した海上保安隊によって毎日のように水際で摘発されているので、西日本以外の地域や都市国家は至って平和である。
今や、軍用の銃火器や兵器も金さえあれば、堂々と買えるようになった。
こんな時代の日本国内でも、やはり金で買えない存在もある。
そんな金で買えないモノのひとつをこの男達は、今日も背中に背負って…………歩いていた。
……………………
昨日のP特会とのゲリラ戦の影響だろうか。
今日はカービン銃などの長物を持った。
用心深い民間人への職質案件が…………多過ぎる。
腰に下げた、暴発防止用のツール。
矢のようなオレンジ色のセーフティラグも飛ぶように売る勢いで配っているが、足りなくなるかもしれない。
先程機動隊の連中が、対物ライフルのバレットや64式自動小銃を持って神風のハチマキを額に締めた。
旧陸自の迷彩服を着込んだ、愛国心の強そうな老人数名を保護していたが…………野次馬や動画中継をやる輩も沸いて、大変そうだったので俺達のチームは放置してきた。
機動隊の連中からの視線が、何となく痛かったが仕方ない。
と言うか、俺達は独自の判断で動ける。
そんな面倒な事は無視できる、自由な立場だ。
一応派遣とはいっても市警察の――――――――
「はいはい、君達、ちょっと待って」
「なんですか? SWATのお兄さん達」
――――――――そう、俺達は背中に強さを表す証を背負っている。
青い防弾ベストの背面には、SWATと白文字で記され。
市警察の精鋭部隊としての視線が、向けられる立場だ。
「…………」
俺達の目の前には…………気まずい感じの表情をした。
黒髪の三人の女子高生がいる。
真ん中の子はツインテールでメガネをかけた子。
左の子はセミロング。この子が、一番背が高い170くらいだろう。
残りの二人は同じ160くらいの身長だ。
右の子はショートカットである。
そして――――――――皆、巨乳だ。
この女子高生達は俺達が職質をしている対象だ。
なにも彼女達が、ミニスカで巨乳の美少女だからという。
けしからん理由で、職質を口実にナンパをしている訳では無い。
今では、この年頃のかつて未成年者と呼ばれた男女は【準成人】として扱われる。
準成人は個人の希望や状況によっては、二十歳より前に成人として認められる立場だ。
参政権の一部、投票権は一五歳から市町村の地方選挙に関しては付与される。
州や国政選挙の投票の場合は十八歳から、立候補は共に二十五歳からだ。
PMCライセンス、自動車免許等の取得や就職も本人の意思で可能な年齢である。
婚姻に関しては大戦前と違い、親の同意は不要だ。
十五歳以上、二十歳以下の準成人が婚姻を当局へ届けた段階で親権は消滅。
以降、自動的に法的にも成人として扱われる。
最も飲酒と喫煙、ギャンブル、キャッシング、ローンに関しては一定の制限が掛かるがその代わり。
給付型の助成金の受給と、一定の講習を定期的に受ける義務が生ずる。
他にも国防軍やPMCに入れば、親権を本人の意思で消滅させ。
一足先に大人の仲間入りを果たすことも可能だ。
これらの政策は大戦前から問題視され遅々として進まなかった。
少子化対策の一部として、新政府が熱心に取り組んでいる政策でもある。
要は人口増大を加速させる為に、国民の成人する期間の短縮と婚姻奨励策だ。
出生率向上策としては、大戦前から諸外国や更に遡る事、大日本帝国時代に効果があった。
子供を出産する度に祝い金が支払われる、策が採用された。
最も第三次大戦前の日本国では、市民団体やリベラルな学者、マスメディアなどに浸透した東アジア統合圏の反日勢力の妨害によって、単に封じられていただけの事である。
その妨害勢力は今や纏まって、九州共和国となり。
ソフトキルの比重から、ハードキル重視の直接的な軍事行動へとその比重を大きく切り替え。
日本側へ様々な攻撃、工作を行っている。
人口増加策としては、他にも審査は厳しいが、移民制度の導入と市民制度も国交断絶中のアメリカ合衆国の制度を参考に、大戦後に改めて制定された。
こちらは移民第一世代から第四世代目まで、社会で真面目に働き。
健全に過ごさないと、日本国民としての帰化は一切認められない。
帰化が認められるのは、第四世代目の市民からである。
これは大戦前にいい加減な運用を行った。
帰化制度のせいで、多数の反日帰化人を政治家や官僚、司法、マスメディアなどの、国家や社会の中枢を担う立場へ浸透されたスパイ等による。
間接侵略への反省と、民族浄化を受けた苦い経験から、新政府により徹底されている事だ。
凶悪な犯罪行為に市民や帰化した元市民が手を染めれば即、市民権や帰化の剥奪と国外追放処分は当たり前。
スパイ行為が発覚すれば、死刑も下される位に徹底されている。
今や世界一厳しいと諸外国から評されるのが、日本の移民、市民制度である。
尚、日本国民と市民が結婚した場合やその間に生まれた子供、市民側の連れ子は、ケースによって法的な事情が異なるが、基本的な対応は他の市民と同じだ。
さて…………
ドローンの容姿解析で、この女子高生の身元を紹介したところ。
名前や年齢、成績やスリーサイズは勿論、前科や補導歴の有無、SNSの利用履歴、通販で買った下着類の種類や電動マッサージ器具や、女性用雑誌の裏に乗っている小さくピンクな振動器具の購入履歴も、NEETのデータベースで瞬時に丸分かりだ。
この女子高生達は親も日本人で、正真正銘の大和撫子のお嬢様のようだ。
しかも数年前に設立された、私学のミッション系女子高。
そこに在籍する、正真正銘のお嬢様女子高生だ。
どれどれ、親の年収は――――――――
『こちらは市警察SWATです。通行人の皆様は、立ち止まらずに移動してください!』
通行人の野次馬が出来そうになったので、松沢班長が無線を通じて装甲車のスピーカーを鳴らす。
年頃の娘さんが、大戦前のコミバ会場に行ったまま。
行方不明になった松沢班長は、十代の女子には優しい。
一人残った息子は徹底的にソルジャーとして鍛え上げ。
PMC壁外猟兵隊に放り込んで、シャブ中の武装ジャンキー共相手に修羅の境界線で、バリバリ働いているそうだ。
さて、俺達は女子高生の乙女達が、人生の道を間違っていないか。
チェックしているだけであり、純粋に職務に励んでいるのだ。
…………下心など微塵も――――――――チラッ。
彼女達の綺麗にくびれた腰の先に伸びる――――――――
引き締まった健康的な脚線美の脚には、ロングマガジンを装着した。
フルオート仕様のグロック自動拳銃が――――――――セクシーでフリフリなレース柄のガーターベルトを模した、レッグホルスターに納められている。
グリップは思いっきりキラキラのデコレーションを施し。
全体のカラーリングは実用性疑わしきピンクでお揃い。
一応ここまでは、合法的な範囲だ。
しかし――――――――
「君達、学生鞄をこちらに渡しなさい。理由は分かるね」
「…………はい」
俺達のチームは学生鞄を開き。
その中身に後方の仲間と俺は驚き――――――――
――――――――ヒュー!
思わず口を鳴らしていた。
「やべ~マジで現物見たよ、本当にいるんだな。神谷!」
「菊池さんこの三人、セミオートのソードオフショットガンや、コンパクトカービン銃に――――――――おいおい! 小型のグレネードランチャーまで仕込んでいるとか…………これじゃ、テロリストと間違われますよ」
そう…………神谷の言う通り、この女子高生達は革製の黒い学生鞄に小型の銃火器を仕込んでいたのだ。
最もドローンのセンサー類に見破られる、その程度の素人の雑な仕込み方だ。
所々に手作り感がある、そんな未熟な仕込み銃である。
最近女子学生の間では、凶悪な路上犯罪への防犯対策でこの手の隠し武装と、三人単位での登下校が流行っているという。
何やら物騒な報告は、先週のミーティングの際に知っていたが、実物を見たのは初めてだ。
しかし残念なことにこれは、補導しないといけない。
強力な銃火器の隠匿携帯(コンシールドキャリー)は、軍や警察機関、現役のPMC要員にしか認められない、責任の伴う危険な行為なのだ。
素人や、単に不安で警戒意識が高いと言う理由や――――――――好奇心などだけでは、認められない行いである。
逆に堂々と民間人が銃を持ち歩くのは、今や防犯対策として当たり前だ。
この際に発砲を記録する、ボディカメラの装着と自動通報機能を備えた。
専用端末の携帯、銃撃保険への加入も義務付けられる。
まだ学生という事を考えると、学校への報告も必要だろう。
もし、不意に暴発したら重大な惨事になっていた。危険で無謀な行いだ。
「あの! 学校への連絡はその…………」
俺は泣きそうなツインテール女子高生の声を無視して無線にコール。
ピッ
『こちら菊池、違法な隠匿武装をした女子高生を保護した。後続車両は停止せよ』
キッ―――パッ―――ウィイイン
無人運転中の装甲車の後続車両が、パトライトを真っ赤に点灯させながら停止。
後部ハッチが自動で開き、路面にゴンと音を立てて当たる。
そして――――――――
「外は暑いし、冷房の効いた車内で君達の取り調べをするから。その前に――――」
――――ススッ
女子高生達は恥ずかしそうな顔をしながらも…………渋々、両手を挙げるのだった。
三人とも抵抗の意思も、伺えず…………ワキ毛処理も問題ないようだ。
実に健康的な女子高生と言えるだろう。
「ごめんね。一応こういう規則だから協力してね」
「…………はい」
ペタッ
俺はこんな時の為に用意した。
吸盤付きの冷えたマットを装甲車の装甲に貼り付け。
簡単な火傷対策を施す。女子高生達は手を挙げたまま歩き。
装甲に貼られたマットの前に来ると、手のひらのマークに合わせて――――――――ペタッ
両手を当て、肩幅くらいに足を開いてケツを突き出してくる。
まずは…………ゴクリ。
ペタペタ…………サワサワ。
上からボディチェックをして、凶器の有無を確認していくのが決まりだ。
どうしても、原始的な武器であるナイフ、爆弾も素材や…………隠し場所によってはセンサー類を欺けるから、ボディチェックは未だに必須である。
人払いをしたのも、少女達への心情への配慮や、要らぬ誤解を生まない為の措置であると同時に…………最悪の事態が発生した時のコラテラルダメージの軽減策である。
未だに戦時下のこの国では、潜伏したテロリストやスパイなど、どこにでもいるのだから、油断できない。
感情より現実への対処を優先しないと、どんなベテランでも簡単に死ぬのだから。
――――――――その頃
黒い猫耳と尻尾を生やした異世界帰りのおっさんも、熾烈なボディチェックをされていた。
【後書き】
本当に会社内で一番面倒なのは、人間関係だと痛感した一週間でした。
後、女は謎だらけだと悟ったよ。
正社員になったリアルな鬼頭くん、部署異動頑張れヽ(*´∀`)ノ
ラーメンの食い過ぎには注意だよ。
自分も久しぶりに腹周り見て、野菜不足を実感したW
------------------------- 第31部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十四話 その6
【本文】
人間とは地球生命、四十六億年の歴史の中でも…………非常に変わった生物である。
人間の他の生物との違いの一つに道具を生み出し、使うというのは非常に分かり易い人間の種族としての特徴の一つだろう。
だが、道具を使うと言う点においては小枝などで巣を作る、鳥類が類似するかも知れない。
しかし、形無きある要素を鳥の巣以上に、複雑に織り交ぜながら…………創造的な
行動を続けている生物は、人間を置いて…………この地球上には他にいないだろう。
人間が織り交ぜる、ある要素の土台は多くの生物が持っているが、それらは他の生物にとっては、生存環境やその形態によって、著しく制限され。
結果的に――――――――
【性欲と食欲】生存本能を支え、動かす欲の両輪へと、大きく集約される事となる。
誕生以来、おそらく地球上で唯一の知的生命体である人間は性欲、食欲以外の【多様な欲】を生み出し。
多くの欲を貪欲に求め、同族同士で競い争う…………少々変わった生物だ。
その行動の結果として、ほかの生物には行えない創造的活動を行い。
その身をこの宇宙に縛りつける、二重螺旋の塩基の縛りを超え。
多様な道具を…………言語と思想を創り、後世に伝え…………改良を続け。
…………宗教と文明を複数生み出してきた。
人間は様々な欲望を実現する為に道具、宗教や文明を動員して争い。
一万数千年後――――――――
欲望と進歩の絡み合った、高度な産物の一形態である。
機械文明や多様な文化を獲得して尚、進歩と欲を求めて止まない。
人間は――――――――より強く速く。
大量に…………精密に欲求を実現する道具である。
兵器と――――――――欲望の産物である薄い本を日夜、生み出し続け。
――――――――数十回の祭典と、三度目の世界大戦を経験していた。
幸いにも、人類は文明と自らを滅ぼす事を避けて生き延び。
進歩と争い、薄い本の製造を続けながらも……………………次世代を担う子供達を、様々な思惑を持って、陣営ごとに…………日々、育てていた。
それはこの要塞都市と化した、名古屋市でも同じ…………光景である。
【名古屋市内のとある施設】
「アッ――――――――!」
一人のおっさんの悲鳴が木霊するここは…………
決してナウい者達の集う、特殊な公衆便所などでは無い。
まだ、ナウさに目覚める前のノンケの男の子や…………未来の男の娘候補は勿論。
腐った思想に目覚め、薄い本を製造、愛読する。
まだ、孵化…………否、腐化前というべきだろうか。
未来の腐女子候補の女の子が集い…………玩具を片手に元気にドタバタと走り回る。
多数の民間企業の中でもとりわけ、多数のPMCの支援を受けて運営される。
……………………民間の孤児院内の一角だ。
一体この中から、何人がナウさや男の娘、腐女子として目覚めるのかは誰にも分からないし、知りたくもない…………おそらく、どうでもいい類の情報だろう。
我が子を持つ親であろうと、なかろうと、この光景を見た大人は子供達のわんぱくさに、きっと…………懐かしさを覚えるだろう。
同時にこの場で子供達に激しくボディタッチを受けている。
エプロン姿の一人の中年男性の苦労と、その風貌に…………少々違和感を覚える筈だ。
【遊戯ホール】
ワイワイワイ~♪
まだ幼い子供達が、一人のおっさんに笑顔で…………群がっている。
その光景は藻掻く虫に群がる、アリの大群のようだと――――――――
黒い猫耳と尻尾を生やしたおっさんは、既に恐怖を感じ。
――――――――ギブアップ寸前だった。
キャキャ♪
「そのしっぽちょうだい!」
――――――――グイッ!
「尻尾を引っ張るのはやめて欲しいんだなぁあああ!」
「ねぇ~おじちゃんは、ねこさんなの?」
「僕は人間なんだ――――――――」
グィッ!
「アッ――――――――!」
ダメだ! このままじゃ幼児達に弄ばれ――――――――
「こら! みんな、おじちゃんをいじめないの!」
エプロン姿のロングヘアーの女性が幼児たちに大声を向ける。
その声色は力強さと、母性を感じさせる大人の女性の声だ。
その声を聞いた幼児たちは、猫耳のおっさんから引き波の様に引いていく
「あっ! おばちゃんだ!」
「誰がおばちゃんだぁあああ――――――――!」
逃げそびれ、おばちゃんと叫んだ男の子が一人。
おばちゃんと呼ばれた、まだ女盛りで見た目はまだまだ。
二十代を自負する、三十代の彼女に背後から捕まり。
頭をグリグリされていくが――――――――
しかし、男の子も共に彼女も――――――――笑っている。
自然と他の子供達も、彼女の元に波のように集い。
皆、笑顔ではしゃぎ…………なんとも微笑ましい光景である。
その光景を見る…………息切れしたおっさんは、猫耳と尻尾をピクピクさせながら思う。
…………どうやら、僕は助かったんだな。
「ハァ! ハァ! ありがとうなんだな。人妻さ――――――――」
「日下部さん…………いい加減、人の名前くらい覚えて下さいよ。それと、子供達の教育上、今の呼び方は宜しくないですから…………私の名前は桜田詩織です。後、息が荒いからここは私に任せて、職員室で落ち着いて下さい」
「これは面目ないんだな」
ペコリ――――――――スタスタ。
詩織嬢に幼児たちを任せ、職員室に向かいながら…………おっさんは思う。
きっと向こう側も、この場と同じ位に騒がしいだろうと。
…………ザワザワ。
【職員室前】
昨夕からこの職員室には、昨夜未明から早朝の爆撃の最中も地下シェルターに避難せず。
職員が篭って、未だにデスクワーク中である。
それは、彼女たちの使命感に満ちた声が漏れている事からも、明白だ。
一応ここの職員は皆、PMC魔女の弾丸便の要員である。
恐らく、昨夜未明に行われたゲリラ戦関連の処理が忙しいのだろうか。
…………などと、事情を察した方の大半は…………思うかもしれない。
「……………………まだ、やっているみたいなんだな~」
――――――――ガラガラ。
「先輩たいへんです!」
「どうしたの!」
遊戯ホールと違い、ここでは少女達の声が…………銃声の様に鳴り響いている。
ここは、そんな空間である。
その声の主達は、デスクに座り。
明らかにオーソドックスな、魔女の格好をベースにした。
ミニスカ仕様の服装をしている
…………数名のカラフルな髪をした、十代くらいの少女達のようだ。
おそらく、春菜達と同じく。
【Nストレージ】と呼ばれる、ナノマシンが活性状態で胎内にいる時に定着した。
ストレージチルドレンなのかもしれない。
作業を続けるその傍らには、魔女の様な少女達には不釣り合いな――――――――
銃剣を着剣済みの――――――――カービン銃がガンラックに納められている。
銃本体は、この時代の日本のホームセンターでも大量に販売されている6,8ミリ仕様のセミオートの銃で、売れ筋の商品だ。
アフターマーケットに存在するパーツだけで、銃が自作PCの様に作れる。
M4系のカービン銃でガンラック内は統一されているが、細部は所々違うようだ。
だが、何れのカービン銃にも着剣した銃剣の刀身は長く。
…………何故か鞘に納められた状態だ。
鞘には…………緑色に輝くLEDが宝石のようにはめ込まれ、点灯した状態。
全く部外者には訳がわからない仕様である。
そんな少女達は、部外者には更に…………理解不能だったりする。
言葉を延々と口から…………銃弾の如く撃ちだしていた。
……………………
「腹筋の割れ目の数が前後のページで違います!」
「バカものぉおお! 貴様らの練度不足だぁあ! 作画チェックを――――――――」
「――――――――ダメ! もう一回乳首と胸毛をチェック――――――――あっ、お疲れ~猫くん」
「少し休ませて欲しいんだな~」
おっさんの視界にはデスクの上でタッチペンを握り。
操作をしながら、モニターを見つめる。
……………………魔女のような格好をした、少女達が――――――――ズラリと映る。
デスクの隅には栄養ドリンクの瓶や、お菓子の袋が無造作に避けられて堆積。
整理整頓の欠片も全く感じられない空間だ。
特におっさんのすぐ手前のデスクに座る。
この腐った集団のリーダーで、青髪の少女というよりは…………既にグラマナー女性に近い容姿をした彼女の机は――――酷い有様だ。
ただ、彼女が――――積み上げた菓子箱の残骸。
それは彼女が…………きのこ派である事を証明している。
それは猫耳の生えたおっさんも同じだったりするので、職場内での関係は良好だ。
……………………
そんなデスクで、よく薄い本を作れるものだと僕は呆れていたりするんだな。
だけど昔、無理矢理所属させられた腐ったサークルも同じだった。
だから、経験上放置が無難なんだな。
そんな、腐った室内の壁には『締切まで死ぬな!』と書かれた横断幕があるんだな。
彼女たちはこんな格好だが、単なるコスプレイヤーじゃないんだな。
一応これでもここの職員であり、本物のPMC要員で――――――――
「あぁ~暑い! 誰か氷作ってよぉ~冷蔵庫にイチゴシロップあるからかき氷食べたい~」
ヒューン――――――――!
突如、奥のデスクに座る一人の少女の掲げた掌から氷の塊が顕れ飛翔。
飛翔した氷塊は掌をかざし――――――――パシッ!
髪と同じ色の――――――――青く輝く霧を生じさせた。
リーダーの少女が氷塊を回しながら、霧で包み込む様にキャッチ。
他の少女達もチラッとその光景を見終えると、作業へと意識を向け直し。
薄い本を作り続けるべく、その麗しい手元を戻していく。
「おっ! ナイス精製~♪ 流石~南国のマウラーレ式の氷魔術は発動が速いね~」
「たく…………リオン先輩、みんなの分も氷削って下さいよ」
「わかったよ~セロスちゃん♪ 猫ちゃん、買い溜めした紙コップが冷蔵庫の上にあるから頂戴な~」
「分かったんだな~」
パタパタ――――――――パカッ
「それと、シロップはイチゴ以外にもレモンと抹茶が奥にあるんだな。練乳と小豆、白玉もあるからご自由に――――――――」
その時――――――――ガタッ
「きゃぁあああああああああ!」
「抹茶ミルクぅうううううううう!」
「イチゴミルクにぃいい白玉ぁああああ!」
「静粛にぃいい! 練乳と白玉は平等に分けるわよ!」
…………腐った室内には糖分を欲する、悲痛な雄叫びが木霊する。
その叫びは徹夜明けの彼女たちのテンションを爆上げして、執筆スピードを加速していく。
そう――――――――彼女たちは、本物の魔女である。
因みに甘い物の前では、少し暴走気味になるのも、異世界人。
特に妖精族と魔術に携わる者達の特徴である。
そんな光景を見ながらおっさんは、500ミリサイズの紙コップをリーダーのデスクにそっと置くと…………職員室の奥にある。
自室へと、コソコソと避難していくのだった。
------------------------- 第32部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十四話 終
【前書き】
最近筋肉痛や腰痛が酷い。
健康面を考えると、転職や投資(投資は無謀だ!)を真剣に考え始めた作者です。
【本文】
【日下部氏こと猫耳のおっさん自室】
猫耳の生えた、日本国内では少数派である、きのこ派のおっさん。
最も猫耳がニョキッと生えたきのこ派など確実に少数派であろうことは、疑う余地もない。
そのような稀有な存在の自室は、職員室の奥に位置している。
明確には地下シェルターの一室をマギサによって与えられ。
この孤児院の職員として、地下シェルターの管理業務をこなしながら、孤児達と戯れ。
住み込みで働くのが……彼の表向きの立場だ。
彼は腐った空間と化した職員室を抜け。
核爆発時の爆風対策と侵入者対策のために――――何度もL字型に曲がった。
強化コンクリートで覆われた地下通路を抜け……自室へとたどり着いていた。
……………………
未開封のエロゲーが積み上げられ。
――――本棚には男性向けの薄い本が――――分厚くギッシリ詰め込まれた。
この室内で猫耳と尻尾を嬉しそうに動かすおっさんは――――
「――――晩御飯は何にしようかなんだな~」
独り言いや……………………誰かと話しているようだ。
『残りの食材からすると、米を主体にした和食が無難だろう。足りない食材はマスターの会社に栄養バランスを考慮して、発注を掛けておいた。夕食の仕込みを始める時間も考慮して、一部の野菜はカット済みにしておいた』
おっさんと話す相手のその声は室内のスピーカーから漏れ出してくる。
何やら…………無機質な男性風の人工音声だ。
「気遣いありがとうなんだな~クラウゼくん」
…………
地球に戻ってきてから、初めの二年位は彼……クラウゼ君の本体が納められた。
特殊な空間に存在する施設を拠点にして、マギサや矢島くん達と篭っていたから、僕の存在も特に問題にはならなかった。
しかし僕の存在が問題になったのはその後、僕達が日本国内に上陸してからだ。
初めはすぐ真上で――――薄く腐った本の製造を行う腐女子。
マギサと同じ世界から来た魔術師や、マギサと同族の魔族で魔女の皆様と同様に、自分も亜人化した、この悩ましい容姿に関しては、コスプレで押し通す気だったが――――失敗した。
直ぐにマギサと対立する陣営や、真性の変態ケモナー。
悲しい事に、自分の実家の放った刺客にも僕は度々狙われ。
…………結果的に、この要塞並みの備えがある。
孤児院の地下シェルターに引きこもる事になった。
以降は全く僕が狙われ事も無く。
…………平和な日々が――――――――続いているんだな。
――――――――その頃すぐ真上の腐った空間。
…………
腐った本を製造する作業は――――――――甘い香りを漂わす。
「んまぁ~ぃいいいいぃいいい~♪」
赤や緑に黄色の液体で覆われ、白い練乳や白玉と小豆を載せた。
削られた柔らかい氷の塊を貪る為に一時中断。
中にはアイスクリーム頭痛を発症して苦しむ者も現れるが、総じて皆。
甘味と氷の冷たさに満足しているようだ。
コンコン――――――――ガラガラ。
「あっ! 詩織さんもかき氷食べますか――――――――」
「リオンちゃん! 机の上に足を開いて置かない!」
「すみません詩織さん、見苦しいところをお見せして」
「あ――――――――何よ~セロスぅうう~あんたまで」
「詩織さん、ご要件はなんでしょうか? 見たところ――――――――」
セロスは詩織と知り合ってまだ半日弱だが、彼女は詩織に憧れている。
それは童顔で大人っぽくない、少女体型のセロスからしたら魅力的な容姿だ。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込み。
立ち振る舞いからも、大人の女性の詩織は彼女が目標とする目指すべき。
……………………理想の女性像である。
それに今朝方見かけた詩織の配偶者の――――――――
ナイスミドルな伴侶の旦那さんも、昔祖国で王国軍に在籍していた時。
隣国との合同軍事演習で知り合い。
結局憧れるだけに終わった、西ドルアの男性騎士と似ており。
セロスからしたら少々…………複雑な気持ちになってしまう。
しかし公私の区別や礼節は軍人上がりのセロスは、弁えている。
すぐ隣のデスクで、グラマナーな姿をだらしない状態で晒す。
魔術ギルド上がりのリオンよりは、確実にしっかりしている。
よって、自然と訪ねてきた詩織に要件を察し、尋ねるのだった。
「――――――――お出かけですか?」
「ええ、子供達の足りない服とかをモールに買いに行こうと思って、荷物持ち要員が欲しかったんだけど…………日下部さんはお出かけかしら?」
「猫――――いえ、日下部さんは、地下シェルター内の自室でシフトの関係上休憩中です。あの…………詩織さん、私でよければご同行しましょうか?」
「助かるわ! ええと…………セロスさんよね。宜しく♪」
「はい!」
セロスは思わず声のトーンが高くなってしまう。
もしかしたらもう一度、あの格好良い旦那さんに会えるかもしれない。
などと期待した気持ちの顕れだろうと、セロスは自分で感じるのだった。
そんな会話を横で聞いていたリオンは雑用を思い出し――――
「ああ、そうだセロスちゃんや~」
「なんですか、リオン先輩?」
「次いでに店の状態の確認と、コリンプのセール中だから私の下着も買ってきて――――ちょ! 無視すんなぁああ!」
「店の状態は見てきますが、下着くらい自分で買って下さい! 行きましょう。詩織さん」
ガラガラ――――――――ピシャ!
――――――――その頃
詩織とセロスが買い出しするべく、向かう先のモールに隣接した。
私鉄の駅構内では、少々騒がしくなりつつある途上であった。
キッカケは駅構内で、許可を得て募金活動をしていた学生達に絡んだ。
黒い特攻服を着たスキンヘッド筋肉マッチョな集団との、口論がキッカケのトラブルである。
学生達に絡んだ集団は常日頃から、少々特殊な思想に基づいて動いていた。
その事を相手の風貌や言動から察した、学生達の側も口論がエスカレート。
その周りには野次馬が徐々に集まり――――――――
「おい…………あれって、ヤバくないか。学生の大半は女子だぞ」
「先頭に立っているガリ勉くん、泣いてるぞ警察に――――――――」
「学生に絡んでいるのって――――――――」
「間違いない。奴ら――――――――」
『――――――――諸君の行動はぁあああ統亜の野蛮な国技で生まれた糞ガキに養分を与えているぅううう! テロ支援行為であるぅうううう!』
『即刻中止せよぉおお!』
『今こそぉおおお日本人による日本人の為の国家をぉおおお――――――――』
スッ――――――――カチャ
『取り戻せぇえええ――――――――ちょっとぉおおおええぇええ!』
バシーン――――――――バキッ!
「げっほぉおお! 何しやがる――――――――モゴモゴ!」
カチャカチャカチャカチャカチャ!
「動くな! 両手を挙げて膝を床につけろ!」
実に…………見事な奇襲であった。
通行人を装った――――――――私服姿の援軍の到着だ。
銃口を向けられたのは、筋肉マッチョな一団である。
この援軍が学生側なのは言うまでもない。
中にはランドセルを背負った格好をした。
小柄な少女や少年の姿も混ざっている。
援軍の手には隠匿武装としては、PMC以外の一部民間人にも認められている。
グレーゾーン内の改造が施された――――――――
コンバージョンキット内に組み込んでカービン銃風になった自動拳銃。
他には分類上は拳銃扱いだが、6,8ミリライフル弾を撃てる。
少々値段が張る、マニアックな大型拳銃にストックとフォアグリップを追加した。
違法スレスレの大型拳銃――――――――などで武装しているようだ。
しかし、それにしてもよく訓練された動きであるが、皆――――――――
「ありがとうございます! ゲリラ部の皆様――――――――」
そんな名称の部活動を行っていれば、余裕の動きのようだ。
そして――――――――
「いいって事よ。生徒会の皆様、これも単位になるからな――――――――そこぉお動くな!」
――――――――同じ学校の生徒のようだ。
それにしても、恐ろしい時代になったものである。
武装した学生達が筋肉マッチョな集団を市街地で制圧して、単位を貰うとか。
一体どんな学校で部活だよ。
そんな物騒な武装をして行う部活のメンバーを束ねる。
ゲリラ部部長の立場にある一人の少女は――――サイドアームの拳銃やナイフをゲリラ部の面々に押収されていく、最中の男達を睨みつけながら――――――――口を開く。
…………
「はぁ…………全く今回は、やけにむさくるしい大所帯で邪魔に来ましたね。あなた方は毎度毎度、ストチル関連の慈善活動に絡んでくるようですが一体…………何処の団体ですか?」
「…………」
「無言ですか…………どうせ市警察に身柄を引き渡して、屋外実習は終わりで――――――――あ!」
その時、部長の少女の視界には特徴的な髪をした三人組が映る。
真ん中の少年はオレンジ色の髪、右側のスタイルのいい少女は真っ赤なロングヘアー。
そして左にいる少女はピンクの髪をした少女であった。
この三人組は部長の少女の中では――――――――クスッ!
やった! 優秀な幽霊部員発見~♪
「――――――――春菜達こっち来て手伝いなさいよ!」
「げっ! 麻美がなんでここにいんの」
「春菜ご指名だよ。行きなよ」
「誠…………達がついているから、紅菜とあなたも一緒にご指名よ。それに麻美が指揮官じゃ、ほっとけないでしょ」
「あ、だよね春菜。まだ怪我人が出る前みたいだから…………仕方ない。助太刀するか紅菜」
「しゃ~ない! 単位にもなるし、何より――――――――」
春菜、誠、紅菜の三人組は軽く腕を回しながら同時に――――――――幼き頃から母親の様に接してくれる、彼女から教え込まれたある事を口にしていた。
それは戦場を駆け、この世界に来る寸前に愛する人を失った――――――――
「――――――――仲間は絶対に見捨てない!」
マギサの矜持でもあり、マギサの求める理想でもあるのだった。
【後書き】
作者の想定以上にサブキャラや、準レギュラーが生まれた章になり始めました。ここからが作者の踏ん張りどころなんだろうが……健康面を第一にしないとぉおおおお!
読者の皆様も健康面にはお気をつけてください。
------------------------- 第33部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十五話 交差する男達と蠢く欲望の片鱗
【前書き】
第十五話投稿です。それとシフトの変更で今週から昼勤務です。
鬼頭くんと同じ直だヽ(*´∀`)ノまた帰りにうどんでも食って帰ろう!
【本文】
正午を少し過ぎた、要塞都市の名古屋。
その市内を第三次世界大戦後も毎日のように走る。
私鉄車輌内は通勤通学のラッシュを過ぎ、夕刻のラッシュまで暫し。
静けさと快適さを多くの乗客に提供していたようだが――――――――ガッ!
「きゃあ!」
一部車輌においては、不愉快さを提供していたようだ。
それは青い髪が特徴的なストレージチルドレンの兄妹。
それも10歳前後の兄妹が、黒い特攻服を着込んだ。
スキンヘッドのデブ男達に絡まれている。
そんな世紀末な状態からも明らかだ。
……………………
「暴力はやめて下さい!」
兄の彼は男達に向けて、必死に声を絞り出していた。
彼の背後では、二つ年が離れた白いワンピースを着た妹が――――――――ガタガタ震えながら兄の背中にしがみつき。
涙で兄の背中を濡らしている。
「ふざけんなゴラぁああ! このクソガキがぁあああ!」
「妹がぶつかったのは謝ります! だか――――――――ぐえっ!」
少年の白い喉笛を男は丸太のような腕で掴みあげ。
勢い良くグイッと持ち上げると――――――――その勢いで妹は手を離し――――――――床に叩きつけられ――――――――ドサッ!
「うぇええぇえん! お兄ちゃん!」
盛大に泣き始めるのだった。
反対に男達は表情が歪み、ニヤつき笑みを浮かべていく。
「へへっ!」
いい年をした男達が、子供相手に情けない構図である。
一番情けないのは、最低な行為に喜びを見出した。
この男達の未熟な精神であろう事は、疑う余地もない。
何故…………こんな暴挙がまかり通るのか?
答えは簡単である。
残念なことに…………この車輌内には彼らしかいないのだ。
それが事態を此処まで悪化させた一つの要因だろう。
他にも車輌内には未だに防犯カメラがないことや、車掌の巡回が次の駅まで来ない状況。
そして――――――――この兄妹の髪の色と、世間一般に流布している。
ストレージチルドレンへの間違った認識が、この兄妹の状況を決定づけた要因だろう。
そんな様々な状況の積み重ねが、この兄妹を苦しめる歯車として機能する限り、この悪夢は続くのだろうか――――――――ガラッ――――――――チャキッ!
「!」
「貴様らぁああ! 動くなぁあああ――――――――!」
車輌連結部の扉から潜むようにしていた男は現れ、開口一番に叫ぶ。
叫んだ男は、ビジネススーツ姿の中年男性だ。
その両手で何やら、一つの黒い塊を握り締めている。
スゥ――――――――カチッ!
タァン――――――――グシャ――――――――カチッ!
タタタタタン――――――――グシャグシャ――――――――バキン!
カチャン――――――――ジャキ!
彼はスライドがオープン状態になるまで、握り締めた。
45口径大型自動拳銃の弾倉内の弾丸二十発を素早く撃ち尽くし。
即座にマグチェンジして、スライドを戻して射撃体勢を維持する。
射撃体勢を維持する男の背後からは――――――――ササッ
「もう大丈夫だ! 坊や達」
アロハシャツを着た。
メガネをかけた男が素早く現れ…………兄妹を保護していた。
……………………約三十分後、最寄駅
「うちの子供を助けて頂き、ありがとうございます!」
「おじちゃん達! お兄ちゃんを助けてくれてありがとう!」
助けられた兄妹は次の駅で待っていた。
祖父母に連れられ、手を彼らに向けて振りながら――――――――駅を離れていく。
大戦後に建造された新築のマンションが建ち並ぶ。
駅の周囲には市警察のパトカーや護送車が到着して――――――――ボカッ!
「ぎゃっ! それが国士たる我々への態度か――――――――ぐへっ!」
「さっさと歩け! この似非右翼共が! てめーらが九共の密入国者なのはバレてんだよボケ!」
捕まった黒デブ共を縛り上げ、機動隊員が護送車に蹴り上げている最中だった。
黒豚否、黒い特攻服を着た政治団体の構成員、八頭――――――――いや、八人をブチ込むとパトライトを赤く輝かせながら、護送車とパトカーは去っていくのだった。
その光景を見つめる二人の男は、それとなく口を開き…………会話を始める。
「しかし、最低な連中でしたね~」
初めに口を開いたのはアロハシャツを着たメガネの男だ。
それに答えるかのように、ビジネススーツ姿の中年男性も感慨深い感じを滲ませながら、口を開く。
「あんなに品性が酷い連中を見たのは、終戦直後いらいですよ…………この中部州だと、ここから少し南の旧豊明市のモヒカン連中が数年前に、PMCに討伐されて以来、人口密集地には出てないんじゃないでしょうかね…………さっきの助太刀感謝します」
「なんのことでしょうか…………ああ! 起き上がったブタの脚を払った事ですかね~ハハッ! 一応自分も大戦中は後方とは言え、軍事基地で勤務していたので護身術くらい嗜んでいますよ~しかし、身体に染み込んだ動きは意外と咄嗟に出るものなんですな…………あなたの戦闘射撃も中々のものでしたよ。全員急所を外して動きを止めた、全弾命中のミラクルショットだ。もしかしてPMCの方ですか?」
「いえ…………大戦中に職場を放棄した元警官ですよ。今は輸送機器メーカーのサラリーマンですがね…………どうしても、コイツだけは女房に反対されても手離せないんですよ。これを持っていないと正気でいられなくなる…………そんな感じがするんです」
ビジネススーツ姿の中年男性は悲しげに言いながら、右腰にオープンキャリーで装備した。
45口径の大型自動拳銃のホルスターのストラップを…………静かに締める。
「そうですか…………」
「ええ…………では、自分はこれで失礼します。それと、一発だけ外して床に当たりましたから、ミラクルショットじゃないですよ。そうそう…………観光に来たなら、五日後の海峡花火大会は絶景ですから、見ないと損ですよ。では――――」
そう言うと、やけに戦闘射撃の上手い。
プレッパー上がりの元警官でメーカー勤務のサラリーマンは去っていく。
ピピピッ――――ピッ
この場に残ったアロハシャツ男の端末に着信が入る。
……………………
再度口を開きながら駅舎へ、自分は歩いていく。
自分が向かうのと反対のホームへの改札口には、先程まで話していた。
元警官の男の背中が見える…………彼は上りのホームへ向かうようだ。
警官から事情聴取を受ける際、幸いにも彼は護身用に銃を持つ人間が付けるのが常識のボディカメラをしっかり作動させていたので、そのデータを警官に渡して、後は簡単な書類に警官のパッド端末上でサイン。
当然だが、スパイの自分は偽造した身分証と変造した指紋でサインする。
末端の警官程度には簡単に摘発される恐れはない代物だ。
本来なら痕跡は残したくないが、むしろここで、強引に立ち去る方が危険である。
今は昨日のデモ隊の一件で警戒レベルが高いから尚更だろう。
その後は、手続きが終わるまで、二人で雑談。
その際に発砲した彼は今回の社会貢献で当局から、予想外の報奨金が出て驚いていたようである。
そんな訳で彼は、即効で有給を端末から申請。
仕事上の書類を会社にさっさと置いて、部下に仕事を引き継がせ。
有休を使って、年下の妻とイチャつくのだと笑顔で語っていた。
独身の自分からしたら、ちょっと羨ましいと思う。
しかも一回りも年が離れた妻とか、マジでリア充過ぎる。
「…………もしもし」
『フフフ…………トラブルに巻き込まれたようだな。状況を報告しろ』
「部長、全部見ていたんですか…………状況を報告します。馬鹿な政治団体構成員がガラ空きの車輌内でストレージチルドレンの兄妹に因縁を付けていたのを発見。居合わせた民間人と一緒にこれを制圧、市警察に引き渡しました。以上です」
『…………それだけか?』
「それだけです」
『まぁいい、作戦開始時刻までにはポイントに集まれ以上――――ピッ』
「ふぅ~」
――――どうやら、バレなかったみたいだ。
自分が個人的に仕事上のコネクションを使い。
入手したネットバンクの口座、当然だがこれも違法な代物だ。
そこに先程まで一緒にいた彼から、報奨金の半分を振り込んで貰った事を、部長にはバレなかったみたいである。
バレたら、今朝へし折った軍用端末のバカ高い金額に全額持って行かれてしまうだろう。
因みに俺が受け取った金額は一万円だ。
デノミ前の円に換算すると約百万円くらいである。
先程の彼曰く、自分と二人で分けるのが筋との事らしいので、ここは素直に有り難く頂戴する事にした。
スパイをしていると嫌な事が圧倒的に多いが――――偶にはこんなのもいいと思いながら自分は改札口を抜け。
目的地に向かう支線に乗り換えるのだった。
ちょうど、自分が乗ろうとしていた電車が到着したようだ。
駅舎内にアナウンスが鳴り響いている。
『ありがとうございました~北モヒカンヶ丘でございます。お降りの際は足元にご注意ください。もうまもなく~急行NEETランド引きこもり行き~急行が3番線から発進しま――――』
ったくこの駅は…………とんでもないDQNな駅名だ。
自分が乗った電車は急行だが、行き先も引きこもりとかDQNネームである。
しかし、この急行に乗れば…………現場に文字通り、急行できるだろう。
スパイの自分を乗せて電車はスピードを上げていくのだった。
DQNな駅に向かって。
【後書き】
腰はだいぶ良くなった作者です。
どうもギックリ腰じゃないみたいですが、今週末に病院に行きます。
しかし、自分が移ったこっち番は人が辞めすぎたり、怠けたりするとか聞いて少しショック!
上手く馴染めるといいんだけど、よく考えたら年末迄こっち番だったW
読者の皆様も体の健康管理には気をつけて下さい。
------------------------- 第34部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十五話 交差する男達と蠢く欲望の片鱗(その2)
【前書き】
久しぶりの投稿です。後書きに作者からの本作についてのお知らせがあります。
【本文】
パパパシュン
微かに鳴り響く連続した破裂音。
実際にその場所にいる人の耳には、破裂音も聴こえるだろう。
だが、それ以上に破裂音の発生源である。
トゲトゲした印象を見た者に与えるであろう黒い塊が奏でる音。
何やら 規則正しく金属が駆動する旋律とでも言うべき音の方が、人間の可聴域には強く残るだろうか。
そんな旋律を黒い塊が奏でた直後、無造作に倒れる――――ドサッ。
数体の人影…………その数は5体を越えている。
倒れた人影はPDWやカービン銃で完全武装をした…………黒尽くめの者達だ。
彼らはここ、大手民間軍事会社施設内の武器庫周辺を普段通り警備していた警備要員、この時代の人生の勝ち組を意味する意味で、社会ではPMCと分類される者達でもあった。
更にその中でもNEETと呼ばれる者達で圧倒的にPMCの中でも勝ち組と言えた存在。
そう、倒れた人影の正体は正式名称特別軍事法人NEETに属する者達だった。
ただ、それも絶命した今となっては…………この硝煙臭い日本列島の片隅で、今も雨粒のように何発も撃たれる銃弾のように過ぎ去った。
…………過去の出来後である。
そんなNEET達の亡骸をズルズルと冷たいコンクリートの床の上を引きずる者達の姿もまた、同じく。
黒尽くめの者達のようだが、どちらかというと軽装で忍者な感じである。
しかし、骨格や体格からするに日本人というよりは欧米のニンジャな感じが、その黒装束の下のシルエットから、どことなく伺えるだろう。
ニンジャ達の手に握られている…………黒い塊。
亡骸を作り出した黒い塊は…………静かな凶弾を吐き出す為に生み出され。
銃身全体をサプレッサーで覆った代物だ。
こんなマニアックな銃を好んで開発製造、運用する国は…………日本の北側の島嶼部を前世紀から軍事占領する、あの国くらいだろう。
しかもこの手の銃に使用される弾は…………少々特殊だ。
弾薬の配合を調整して音速を超えて生じる。
ソニックブームによる轟音を発生させないように亜音速で弾丸を吐き出し。
銃声を可能な限り抑えながら、亜音速で飛翔して敵に気付かれないように撃ち抜く。
主に暗殺を目的に生み出された、弾薬と銃である。
正に暗殺目的の為に生み出された銃は刺々しい薔薇の刺か……或いは獣の角を連想させるデザインの銃である。
そんな暗殺に特化した銃を片手に握っている者達は亡骸を引きずりながら。
ピピピッ
『こちらカラーズ、無職を排除。塗装を開始する』
インカム越しに…………通信を終えたところだ。
……………………
ニンジャ達は仕留めた亡骸を武器庫の片隅に隠すと、背負っていたバックパックから各々のサイズの衣服を取り出し、一般人に偽装を開始。
中には若い女性もいるようだが…………恥らいを感じさせない動きで素早く着替えていく。
――――その頃、その動きをリアルタイムでモニターする者達がいた。
【同時刻 九州共和国内】
今や日本海への出入り口の一つである。
対馬海峡や九州北部海域の制海権を握った九州共和国。
当然のことであるが、この周辺の海域や上空を安全に航行出来る船舶や航空機は同国と友好関係にある国である、帝政へと変貌を遂げた新ロシア帝国や中華連邦に属するものだけである。
一時期は米国の船舶や航空機も自由に航行出来たが、米国側が日本側との国交樹立に向けて動き出すとそれも不可能になった。
当然ではあるがその動きに米国は反発する。
本当のところは、かつて駐留していた日本に米国は軍隊を駐留させたいが、既に米軍の古巣である沖縄は言うに及ばず、かつての在日米軍施設は全て、特別軍事法人NEETによって接収され、NEET達の軍事的影響力を内外へ向けて強化するのに一役買っていたりするのだった。
米国は今では外交交渉の末になんとか、台湾に米軍を駐留させている。
そんな米国は在台米軍の空母機動部隊を展開したりと、第三次世界大戦後も大戦前程ではないが、何かと、世界の警察官として忙しいのは相変わらず変わらない。
それら、米軍の慌ただしい動きをモニター、または巡航ミサイルの管制や日本向けの特殊な有人兵器の戦闘管制も行う施設が今では島となった。
旧半島地域の南部に浮かぶ、統合軍時代やそれ以前から海軍戦力の拠点が整備され、元はかつての半島のリゾート地だった、同島の地下には存在する。
【同島地下軍事施設】
……………………
薄暗く広大な一室で大型モニターを見つめながら椅子に座り。
「…………」
モニターを見つめる男が二人並んでいる。
彼らの前方ではオペレーター達が同国内に接近してきた不明機への迎撃指示や、別の地域で行われる。
その中でも優先順位の高い対NEET戦の戦闘管制が行われているようだ。
そんな彼らはこの室内でも一番大きい中央のモニターを見つめている。
片方の男は白髪まじりの老紳士なスーツ姿の男だ。
もう片方はメガネをかけた、金髪オールバックの若い白人男性のようだ。
老紳士はサイドテーブルに置かれたコーヒーを一杯飲むと、静かに口を開く。
「作戦は順調のようだな」
「ええ、モール内へ地下からの侵入経路を作るのに少々金が掛かりましたが…………この作戦が成功するなら安いものですよ。リン将軍閣下」
「そうだな。ところで…………今回の作戦に投入されている部隊だが」
チラッ
「なんでしょうか、リン将軍閣下」
「全員…………ストレージチルドレンのようだな」
画面にはモザイクなしで着替え中の男女が映し出されていく。
皆、頭部や眉毛など露出した部分の体毛は黒であるが…………陰部の毛だけは各々がストレージチルドレンである事を示していた。
「はい、その通りです。今回のような作戦では身体能力の高いストレージチルドレンの部隊を投入するのが作戦成功の可能性を上げるためにも必須であり、何より現地の社会状況を考えれば、この偽装処置は適切です」
「ほう…………現地の社会状況は、どのようなものだ?」
「はい、貴国と違いまして、日本側ではストレージチルドレンは軍による強制的な隔離措置が取られておりません。また、ストレージチルドレンは目立ちます。彼らが一般社会で無難にトラブルを避けて暮らすなら…………まぁ、髪を染めたりするのは地域にもよりますが、ごく普通のようです。最も下の方の毛まで染めるかは不明ですが」
「そうか。それと…………大尉いや、今は特務大佐のお嬢ちゃんからも先程、現地に展開していると私に珍しく報告があったが、一体どれだけの機関がこの作戦に関与しているのだね。Mr.ボブ」
リン将軍は隣のボブにそう言うと、ボブの報告を聞きながら。
残りのコーヒーを飲み始める。
今回の作戦に関与している機関に関しては軍の諜報機関、陸海空軍の偵察局や一部の特殊部隊までは、リン将軍の予想範囲内だったので特に驚かなかった。
しかし――――
【国教親衛隊 戦闘布教旅団】
【国教親衛隊 異教徒改宗促進旅団】
【国教親衛隊 異教徒調査及び内部破壊推進工作局】
【国教親衛隊 異端審問局】
【国教親衛隊 対日隠密布教局】
――――この手の機関が関与しているのは全くの予想外だった。
「げほっげほっ! Mr.ボブ…………なんでそんな頭のイカれきった連中が絡んでいるんだ!?」
リン将軍は還暦の近い老体だが、コーヒーを驚きのあまり盛大に吹き出してしまう。
それもそうだろう。何せ九州共和国建国以来、旧統合軍出身の軍部とは対立を続ける。
カルト宗教を母体にした、国教の危ない事で有名な非公開組織が多数関与していたのだから。
しかも、一部の国や宗教からはテロ組織扱いをされている。
問題児とも言うべき、非常に危険な機関が関与しているのだ。
その驚きと衝撃はかなりのものであろう。
「詳しくは分かりませんが、どうも国教の末端から漏れてきた情報を整理しますと、宗教上の動機が濃厚なようですね。しかし動機や作戦時の損耗率の高さはともかく、相変わらず彼らの動きは速いものですな! そこだけは我々も見習いたいものです」
「宗教上の動機だと! 一体どこにそんな動機につながる存在があるんだ!?」
リン将軍は…………思い返す。
今回の作戦は何かと日本側、主にPMCやNEETの送り込んできた工作員対策で最近忙しい内務省対外諜報局から頼まれ、NEET関連組織上層部でも少しばかり、脇も警備も甘い人物の子息を拉致するだけの簡単なミッションだった…………その筈だと。
「リン将軍、今回の作戦はそもそも貴国の内務省対外諜報局から回ってきた作戦でしょう。あそこも…………今回の作戦のように、不確定要素の多いヒューミント関連の作戦、特段重要人物の捜索、拉致や暗殺では動きが…………異常な程正確で速いですよね」
「何が言いたい…………」
「情報の出処が同じではないかということですよ。リン将軍閣下」
「勿体振るなMr.ボブ、君達に幾ら出していると思っているんだ」
「これは失礼しました…………過去に内務省対外諜報機局が動いた情報のソースと今回、やけに動きが激しく素早い国教の関連組織を動かしているソースが同じだと我々は情報解析の結果、結論づけています。そして動機ですが…………閣下も一度くらいは聞いた事があるのではございませんか…………【女神への道標】という言葉を」
「確かその道標…………国教の信者達が信じている嘘臭い予言に出てくる救世主だったか。私も詳しくは知らないが」
「ええ、私もあの予言自体は嘘臭いと思うのですが閣下、あの予言が流布しだしたのは大体、現司祭の就任した五年程前からです。その頃から内務省対外諜報機局も動きが良くなったでしょう? その頃から国教は内務省を後ろ盾に武装親衛隊を整えそして…………」
「…………本格的に動き出したのか。すると…………あの司祭が情報の出処か。しかし、内務省はともかく、奴には喜んで死を選ぶ狂信的な信者は何万人も配下にいるが、真面に諜報活動を行う基盤が無いはずだ」
「ええ、そうなんですよね。我々も随分とその点で困惑しましたが…………彼らはどうも――――」
――――更にその頃――――
【九州共和国内】
【九州北部玄海灘の島に存在する国教施設】
元々この島が日本だった頃は漁業が盛んでそれなりに島民が住んでいた。
しかし、それも過去の話である。
旧日本政府は移民特区の設置に伴いこの地の島民を半ば強引に用地買収の名目で金を渡して、追い出していた。
その後は、旧東アジア統合圏資本がカジノリゾートを建設。
施設の建設自体は終了していたが開業は第三次世界大戦の勃発で中止となっていた。
大戦終結後この島は一時期、創設間もない九州共和国軍が駐留していたが、国軍の再編に伴い撤退。
その後は残されていたカジノ施設を国教が独自に改修、宗教施設として運用していた。
……………………
この玄海灘の中に浮かぶ絶海の孤島ともう言うべき島の国教施設では、日々活動に熱心な信者たちが出入りを繰り返していた。
大半の信者は先の大戦で亡くなった者達への祈りを捧げるなど、その辺りはごく普通のようだ。
だがこの島には…………九州共和国軍からは目の敵にされている、親衛隊が駐留。
カジノのアトラクション施設を改造、捉えた異教徒や内務省から提供された受刑者を生きた標的にして、実戦形式で市街戦訓練をしていたりする。
また、親衛隊の異端審問局などは密かに当局の目を欺き捉えた。
国内外の異教徒を改宗すべく、言葉による説得は勿論、脅迫、強要、薬物投与や性的暴行を加え、勧誘というよりは……………………どちらかというと、まぁ色々と信仰や組織の実益というよりは、各々の性癖重視で密かに楽しんでいたりする。
ここは明らかに典型的なカルト宗教の施設…………そんな施設の最上階。
そこには元々巨大プールがあった、その場所には……………………水面に浮かぶ。
そんな感じが漂う白い神殿が増築されている。
【神殿内部】
日光が窓から降り注ぐ神殿内部。
そこには白いドレスを着た一人の銀髪の幼い少女と、アングロサクソン系の一人の屈強な体躯の中年男性が対峙していた。
少女は玉座に座り、男は片膝を白い床につき、まるで姫と騎士を連想させる。
そんな感じの光景である。
本来のキリスト教なら祭壇が設置されているべき場所付近には、金銀で装飾された。
豪勢な玉座が設置され……………………少女はそこに座っている。
玉座の両端にはマリア像に酷似した身の丈二メートル弱の白い像がまるで、仁王像か狛犬を配置するかのように置かれている。
この宗教に敢えて残されたキリスト教的な要素はこの位で、十字架は見当たらない。
他にも信者たちが座るべき椅子も見当たらないようである。
そんな異質な空間で二人は陽光に照らされながら……会話をしていた。
「姫様、名古屋で起きた市警察との衝突で我が教会の隠れ信者が数百名程死亡……………………それと現地で指揮を取っていた騎士団員が三名……女神の懐へと旅立ちました。遺体は回収不可能との事です」
男は姫様と呼んだ少女に屈強な体躯を震わせながら報告をしている。
「ウェイド、貴方が気に病む事はありません。私の【予知】も完璧ではありませんからね……………………この世界では色々と前提条件が違いすぎるんですよ。しかし【女神の道標到来】の大筋の流れは先程見ましたが、問題ありませんわ……あらっ、これじゃまるで私が弱音を吐いているみたいだわ……ごめんなさいね。ウェイド」
「滅相もございません! その謙虚さと慈悲深さ、姫様こそやはり女神の代理人になるべき御方です!」
「ありがとうウェイド。もう……こちらに来た仲間も随分と減りましたね」
「姫様……」
ウェイドは声色から姫が泣いているのに気づき顔を上げてしまう。
「構いません。許します」
「はっ!」
「ウェイド……私はこの後、司祭様に合わねばなりませんから」
「…………御意」
涙を流す少女と彼女を姫様と慕い屈強な体躯を震わすウェイドは……陽光の中で暫く互を見つめ合い。
互の決意と覚悟を陽の光を浴びて徐々に温まる体温の様に……静かに強めていた。
【後書き】
次章で完結させて本作の新シリーズを執筆する予定です。
予定なので変更が在れば活動報告等でお知らせします。
読者の皆様、今後も本作をよろしくお願いします。
次話は某大賞応募用作品の執筆が終わった後の十月末を予定。
応募用の作品は本作を改稿した作品です。
落選したらなろうに投稿しますヽ(´▽`)/
------------------------- 第35部分開始 -------------------------
【サブタイトル】
第十五話 交差する男達と蠢く欲望の片鱗(その3)
【本文】
ワイワイ……ガヤガヤ……。
多くの買い物客が行き交う、ショッピングモール内の一角によくある空間。
そこは葉の大きな熱帯原産の観葉植物に囲まれた憩いの空間。
ジャングルの密林の一角を、長方形のケーキの様に丁寧に切り抜いた休憩スペース。
そこには、白いクリームの様に白いソファーが置かれ。
多くの買い物客が、腰を掛けていく。
そんなこの場所から見上げる、反対側の壁上半分は全て。
滝の映像を凄まじく高精細に映し出す有機ELモニターだ。
映画館以上に配置を計算して設置された、高性能の音響機器は大量の水が流れ落ちていく音色をこの場所に出力していく、その光景は宛ら。
滝を創り上げる光と音色を空間に響かせていく、機械の合唱のようだ。
滝の落ちる先からは白いミストが吹き出され…………涼しさを最大限に演出している。
そんな絶景が拝める緑に覆われた、断崖の様なこの休憩スペースには、バックパック等の荷物を持った……若い数名の黒髪の男女が集っていた。
この若者達の服装は如何にも、夏服な感じで動き易い感じだ。
だが何処となく、銃火器の所持や運転免許が認められたばかりの十代の若者達に人気の強いレジャー、最早意味と実態が変わり果てたが、見た目と読みだけは未だに同じである。
通称『サバゲ』を行う為に分厚い分離壁の外に広がる、緑に覆われた郊外の廃墟群へでも出掛けていく。
そんな感じが随所に伺えるミリタリーな機能性を基調とした格好だろう。
既に夏休みに突入した、西日本以外の州内外の一部中等部から高等部の学校生徒は、肝試し感覚とゲリラ狩りによって得られる、懸賞金目当ての小遣い稼ぎ。
単純に実戦での射撃の腕試しや、女子へのアピールも兼ねて、親に内緒で西日本よりは、まだ安全で民間人の出入りも自由な…………この地。
中部州内の都市部郊外の廃墟群へ銃火器や鉄板を貼り付けたテクニカル車輌で武装して、この時代の実弾を撃ちまくる、実戦と大差無いサバゲに出掛けていく。
そんな若者の中からは毎年、お約束のように数十人は危険な郊外でゲリラに殺され…………若い命を散らしていく。
更にその数倍の人数が拉致され、男女問わずクスリ漬けにされてしまい。
ゲリラ達の肉便器になるのも、レジャーと化した。
危険地帯への侵入行為の様式美としては、当然の結果であろうか。
それでも、この危険なレジャーが若者達の間から廃れる程に…………この国の鉄火場もそこに生きる人々の闘争心も、その手に握る銃火器の銃身内が、未だに冷える気配がないのは――――モール内を行き交う。若者達の姿を見ても明らかだろう。
若者達の多くは、手押しカートに大量の戦闘用携行保存食を詰め込み。
他にも防弾チョッキ、ガスマスクは勿論。小銃用弾薬やグレネードランチャー、散弾銃、半自動小銃、特売のクレイモア対人地雷、サバイバルナイフ、各種手投げ弾詰め合わせパックなどを。
米国西海岸の某州知事にまで上り詰めた、筋肉マッチョな俳優が演じた、ハリウッド映画のダイナミックな買い物のワンシーンの如く大量に載せ。
ダットサイトを装着した自動拳銃を堂々とオープンキャリーで武装して、これから『どの廃墟群に遊びに行くか』『何処に行けばゲリラを効率よく殺れるか』…………笑顔で無邪気に話していたりする。
故にモール内には夏の危険な思い出作りを満喫しようという目的を持った。
無謀な若者のグループが多数買い出しに来ていたりするので、ソファー周辺に陣取っている、この若者達も決して、不自然というわけではない。
但し、長いソファーの中央部で両脇に女子を侍らせ。
サングラスを装着した一人の少年から滲み出る、イラつきに満ちた。
若さ故に未熟な…………その殺気だけは明らかに不自然だった。
……………………
『――――よって、カラーズは待機だ。汝らに女神が微笑まんことを。交信終了――――ガッ』
「…………ちっ!」
ソファーの中央で殺気を放つ…………少年と青年の中間に位置する年齢でありながら、その身に余る闘志をその心に秘めた、一人の学生は口元を微かに歪ませ、強烈に思う。
なんで国教の親衛隊が…………この現場に展開している。
これじゃ予定通り作戦が進ま――――ドサッ!?
「やぁ、待たせたね」
コクッ
少年は向かいのソファーに腰を掛けたばかりの男性。
先程、硝煙を浴びたばかりの男性、メガネをかけ、アロハシャツを着た笑顔の中年男性に会釈。その直後、中年男性は中指を動かし。
クイッ――――少年を手招きして――――ガッ!
少年の首筋を勢いよく、獲物を捕らえた猛獣の口元の様な手で掴み。
耳元に頭を近づけ…………口を開き――――ボソボソと囁く。
『…………無駄な殺気を立てるな。敵に捕捉されるのは貴様だけじゃない…………いいな』
コクッ
少年は静かに虎子の様に頷く。
男は猛獣の口の様な手を解き、首筋を離し――――ニコッと微笑む。
「さて、みんな課外授業の準備はいいかな~」
「はい先生!」
少年の両脇に座る少女達は、笑顔で元気よく返事を返すと素早く立ち上がり移動を開始、それに続いて少年も立ち上がり――――敬礼をして口を開く。
「了解です! 神林顧問」
少年はスパイとして、日本側で数々の破壊工作に従事してきた、手練れの工作員として、部隊内で有名な存在であるこの男。
少年の目指すべき…………理想像を体現した、男の偽名を呼ぶのだった。
神林率いるストチルチームは、密林に潜みながら獲物を探す、肉食獣の群れのように、殺意を隠し。
訓練通りに警戒しつつ、観葉植物に囲われた一角を後にして……買い物客の蠢く密林へと…………消えていく。
そこには入れ替わるように、両手に荷物袋を抱えた。
二人の女性が――――ドサッ!
「はぁ~疲れた~」
買い物で消耗した心身を癒しに来ていた。
……………………
「――――セロスさん、買い物に付き合ってくれてありがとう」
「とんでもないです詩織さん、私も丁度買い物をしたかったので」
私は結局、しつこく通信用アプリでメールを送り付けてくる。
リオンの下着を買わされてしまった。
しかもスリーサイズが……詩織さんと同じだとか、ぬけぬけとアプリ上で抜かしやがったから、リオンと私もアカウントを互いに登録したばかりの、世話好きの詩織さんが、下着選びに乗り気になったから……仕方ないか。
ったく……あのバカは少しくらい、遠慮という事を覚えろ。
その胸と尻に回った栄養を頭に回せと、下着選びの際に何度も思った。
同時に自分は胸にもう少しばかり……栄養が回ればいいと思わされ。
なんだか…………体力以上に気力が磨り減ってしまった。
「それにしても助かったわ。セロスさんの勤務先の会社割りで子供たちの服が安く買えて……しかも当日中にラッピングして、配達してくれるなんて最高じゃない!」
「ええ、マギ――うちの社長は子供には優しいですから」
「もしかして……マギサさんと顔見知りなの!?」
「…………ええ一応、自分の上司ですから――――」
私はソファーから見える吹き抜けの先にある滝。
いや、壁を見てつい……声を漏らしかけた。
白い壁の上半分の一面は、それまで表示していた滝の映像を切り替え。
今まさに話題になっていた、その人物を映し出していた。
こんな状況を表す、噂をすれば影ありとは、こちらの世界の諺であるが。
私の世界ではこの様な時『噂をすれば女神が導き引き合わす』などと、神話の時代から生死の境を行き来する戦闘に巻き込まれやすい、立場の冒険者達の間では言ったりする。
私も王国軍時代に任務でリオン達と出会い、その数年後。
退役後に諸国を旅する道中、偶然立ち寄った酒場で私の話題でゲラゲラと大声で盛り上がっていた、リオン達やそのギルドメンバーに再開した。
その時はこの言葉と酒に酔わされ。気付いたら…………リオン達と共に戦い。
この異世界に来ていたりするから、世の中何があるか分からないものだ。
「あっ! マギちゃんのCM流れているじゃないの」
詩織さんは何やら、白い霧でスカートの中身が見えない様に演出された。
マギサの出ているNEETのCMを見て、テンションが高くなっている。
逆に私はいい年をした、魔族のお嬢様がフリフリした服を着て、何をやっているのだと思ってしまう。
しかし、元々マギサはアルメナの領主で正真正銘のお姫様。
母は…………あのネリサ救済皇だ。
最近、私はNEETの横田基地に出向いた際に話した、魔族の貴族エルーナにマギサの更なる素性を聞かされ……納得した。
マギサの家系は神話の時代から一万数千年以上も尚経過して、今も生きている。
魔族の最高権力者にして世界の理性や、世界の守護者とも呼ばれる存在。
初代魔皇帝『二キティス』に連なる系譜だそうだ。
どうりで、千年以上鎖国体制下にある魔族本国の貴族のエルーナがわざわざ、救済教会の魔術学院に留学をしたりして話題になったり、噂で聞くマギサやその周囲の動きは何やら妙だと、当時から私は思っていた。
それに二キティス帝の系譜に連なるのなら、神話時代の魔術である。
異世界を行き来出来る、転移の術が使えるのも納得だ。
「……はまり役かな」
「でしょ! あの年齢であの衣装を着こなせるのは彼女しかいないわよ!」
私は詩織さんと壁に映る、笑顔で微笑むマギサのCMを見ながら。
最近知った上司の素性を思い出しながら……何故かそんな言葉を口から自然と出していた。
私達の休憩所の隣では、そんなマギサの素性を知らないであろう者達がこの映像を見て騒ぎ始めている。
それもCMを流している、特別軍事法人NEETに所属すると丸分かりの小さな者達一行だ。
小さな者達は透き通る羽を背中につけた、独特の小さな体躯のシルエットを緑の葉の間から垣間見せ、既にこの世界でも騒がしく、賑やかな存在として定着しつつある。
そんな別世界からの来訪者達の会話は……甘い香りを漂わせながら、盛り上がり始めていた。