※この作品はR-18です。

魔女の天下取り マギサの戦い   作:hidenyan

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------------------------- 第36部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第十五話 交差する男達と蠢く欲望の片鱗(終)

 

【前書き】

予定より順調なので、先行投稿します。

戦闘シーンは次話になります。

 

【本文】

【九州共和国 旧移民優遇特区内 洋上】

 

 かつて旧移民優遇特区へと改変された、九州最大都市の……沿岸部。

 そこから洋上に向けて伸びる一本のハイウェイ……その先には広大な海原が拡がる。

 海原の上には人々が作り上げ、主に青い色彩のガラスに覆われた。

 コンクリート製の巨木が何本もそびえ建ち、今も尚新たに巨木の建造が続いている。

 ここは……高層建築のオフィスビルが建ち並ぶ、碁盤目状に区画整備された区画だ。

 

 元々、第三次大戦前の旧日本政府が税金を注ぎ込んで作り上げた、海上都市だった。

 

 この都市内には危機管理対策を特に入念に行い、旧日本政府が創り上げた官庁街が存在する。そこに通勤する人々は創設当初こそ、各々の思想信条はともかくとして一応、日本国籍を持った日本人の官僚が大半だった。

 しかし、東アジア統合推進機構に懐柔された、政治家や役人の影響力が強まるにつれ、露骨に一部在日外国人が、銃火器等で武装した状態でなだれ込み、官庁街の機能を掌握。

 

 この結果は当時、日本で長年に渡って燻っていた政治不信や、米国の急激な内政不安から不安定化した国際情勢と相まって、内戦への懸念を人々の脳裏に強烈に描かせ。

 

 これまで日本国内で燻ってきた、政治不信が生み出した不安と言う名の摩擦が生み出す熱量は、日を追うごとに増していた。

 

 人間には元来、予め外部からの脅威に抗うべく、発熱や発汗、出血時に血液が凝固するなどの様々な身体的機能がある。それらの機能は束ねて単純に『生存本能』と呼ばれる。

 規模こそ桁違いだが、一億数千万近い人間が有機的に結びつき、構成される日本という国家の巨人(ネフィリム)は本来であれば、外部からの脅威に抗う牙である、承認された暴力装置としての『軍隊』を第二次大戦以降、生存本能に備えていなかったのも、事態を悪化させた要因だろう。

 

 暴力装置としての軍隊が脆弱だった国家が歴史上どうなるかは、至極単純。

 滅びるか、強者に咀嚼され、組み込まれる以外になかっただろう。

 其れは第二次大戦で敗北した、日本も決して例外ではなかった筈だ。

 

 だが、その後、人類史に登場した核兵器の登場など、東西冷戦等の様々な新要素は結果的に、この国に歪な形態で暴力装置を残す事になった。

 

 特に歪だったのは、装置が国家から承認される形もさる事ながら。歪な都合に合わせて装置を作り上げ、とても軍事行動を取る暴力装置には似つかわしくない仕組みと、縛りの多さと不都合の多さだろう。

 それでも勝者の事情によって、歪に作られたこの歪な戦力は誕生以来。

 一度も暴走する事も無く、日本を静かに守っていた。

 次第にそんな歪さも、日本という国を構成する細胞である、人々の多くが時代と共にその装置の存在を認め、変革を望み、他の国家に基準を合わせようとしたのは、互いに間にあって人間と言える存在にとって、至極当然の判断であろう。

 

 だが、そんな事情は国家の枠組みが変われば、外交の基本である『近攻遠交』に照らし合わせれば、遠くの同盟国でもなければ、そんな動向が国家の本能として、脅威に映るのも仕方ない。

 故に日本の周辺国の中でも、長年に渡って安易に反日政策を採ってきた国家は、東西冷戦崩壊後真っ先に。『東アジア統合推進機構』と同機関の保有する通称『統合軍』を創設。

 欧米と比べ危機管理が甘かった日本国内で、様々な工作を行ってきた。

 其れは冷戦期以上にスパイ天国と呼ばれた日本国内での、スパイ工作の基盤作りや各種工作は勿論、中にはカルト宗教の創設を支援して、他国と比べて圧倒的に無防備な民間人の誘拐、殺害。戸籍や企業の乗っ取り、違法薬物の密造や販売、中には一般市民への毒ガスの散布、銃火器で武装した信者を使い、統治機構への襲撃を行った、過激な作戦も存在した。

 

 ……とは言え、そこまで蹂躙されても、この日本という国は結局。

 第三次世界大戦を迎えるまで、大きく変わらなかった。

 

 歪な暴力装置を軍隊に変える事もせず、挙句の果てには売国奴と化した政治家の言葉巧みな話術に惑わされ、政治権力の暴走を招いてしまったのだ。

 だが幸いにも、法を超えた自浄作用が一部の人々に働いた事で、この国は生き延びる事が出来た。第三次世界大戦の日本列島では、戦う意思と武器を持った者達、プレッパー達が、法の枠組みを超えて戦ったのだ。

 法の枠組みを超えて戦った者達は、最終的に『勝てば官軍負ければ賊軍』で言うところの官軍とでも言うべき立場の民間軍事会社(PMC)を作り上げ、様々な特権を享受して事実上、日本の支配層になった。

 逆に言えば賊軍とは言えないが、敗者の側に近いのは売国奴に乗っ取られた法に従った多くの国民だ。

 だが生き残った者達は敗者といっても、民主的選択で敗北しただけである。 

 その後、フランス革命や文革みたいに大粛清があった訳ではない。

 逆に新政府による、配給制度の切り替え時に、生活に必要な現金の国民への支給策。

 

 近代国家で史上初になる『ベーシックインカム』の実施や、民間人に米国並みの銃火器の保有を認め、時の政府への革命権を新憲法で得るなど、経済的自由と、迅速な暴力行使の自由を手にしたのだ。

 国民としての立場を或る意味、爵位にまで押上げられたのだから、多くの国民にとっては、この状況は棚ぼたといったところだろう。

 最も、爵位化した国民の立場にある人々の頭の中に、ノブレス・オブリージュと呼ばれるソフトがインストールされているかは、全く別問題である。

 

 当然だが、ベーシックインカムに関しては基本的な理念である、全国民へ無条件で現金支給といった理想は無駄が多い上に、効果が薄いであろう、一定以上の高額収入や資産が存在する者達は対象外になった。その他の社会福祉は一部を除き、全て原則として廃止である。 

 とは言え大戦中や大戦後の混乱期には、日本列島では五千万近い日本国民が老人を中心に死んでいる。強者に咀嚼された敗者というべき立場にいるのは、今は物言わぬ先人の死者や、統合軍に蹂躙されて殺された、か弱き女子供達が大半だろう。

 寧ろ生き残った日本国民の中には、それまでの社会の様々な『弊害や負担』がリセット出来たと、考えている者達もいたりする位だから、勝敗の見方も善悪や品位はともかく、様々だろう。

 そんな経緯がある、日本側からしたら、九州最大の都市の洋上に浮かぶ。 コンクリートの巨木の森は、何とも因縁深い……戦略目標でもあった。

 

 

 …………………… 

 

 

【海上都市 官庁街】

 

 

 この海上都市は、多数の国際機関の施設が巧みに誘致されていた等の政治的な理由で、既に政治家の露骨な売国行為によって、文民統制を離れ超法規的に軍事行動をしていた、当時の一部自衛隊や民兵。日本に空爆などで限定的に武力介入していた米軍が、本格的に破壊出来なかった。

 

 何とも幸運な都市でもある。

 

 戦災も軽微だったこの海上都市を含む旧移民優遇特区は大戦後、その地政学的な位置づけと、先の旧日本政府による莫大な投資とインフラ整備によって、東アジア地域の国際都市として発展していくのは当然だが、半島の民族主体の連邦制を採用した、九州共和国連邦政府の国是と言うよりは、どちらかというと、同国建国に尽力した組織。

 既に同国の国教へと驚異的な発展を遂げた、新興宗教の…………悲願である。『九州制圧』へ向けた橋頭堡として、新たに機能していたのだった。

 

 …………

 

 官庁街の高層ビル屋上のヘリポートに近付くヘリが一機。

 その機体はメタリックグレーの塗装をした、欧州製の最新鋭ステルス高速輸送ヘリ。

 ヘリは軽やかに……ヘリポートへ着地。

 そのヘリが運んできたのは黒いスーツを着込んだ屈強な体躯をした人種も様々な男達数名と、彼らが護衛すべき対象である。同じく欧州ブランドの白いワンピースを着こなす。

 銀髪の少女と……その少女の傍らに盾の様に寄り添う者。

 日焼けした小麦色の肌が彫刻の様に美しく、その体躯を白いスーツで包み込んだ。

 スキンヘッドが黒スーツの護衛以上に似合う、一人の騎士。

 少女に絶対的な忠誠を誓った従者の……ウェイドだった。

 

 

 ……………………

 

 

【内務省庁舎 内務大臣応接室】

 

 高そうな調度品の壺や絵画を配したこの部屋は、内務大臣が来客を応対する為の空間だ。

 その中央に配された黒いソファーでは、二人の男が向き合い。

 数十分近く続いた、会話を終えようとしていた。

 

「では、アソオス司祭。自分は支社で会議があるので先に失礼します」

 

「ええ、スペンサー内務大臣。ではまた後ほど」

 

 ソファーに座っていた高そうなグレーのスーツを着た、黒人男性は部屋から出て行く。彼こそ、この内務省の主である……スペンサー内務大臣だ。

 半島国家の頃から相変わらず、内政が民衆の暴動で度々、混乱しがちな九州共和国では国の運営上、必要であれば要職である大臣職ですら、海外の民間警備軍事会社(PMSCs)に業務委託している。

 

 最近はロシア帝国の後ろ盾を得て、中華連邦から分離した新国家。

 北中華共和国が九州共和国の大陸側領土へ度々、武力侵攻を繰り返し。

 日増しに激しさを増す戦闘と比例して、PMSCsの九州共和国内での役割は拡大している。

 

 特に政情が安定し、欧州圏で需要が減ってきた、欧州系PMSCsは、九州共和国や中華連邦へ多国籍軍事産業と共に、積極的な介入と投資を行い。 徐々にその影響力を極東地域で拡大、特別軍事法人NEETを中心とした、日本側PMCを相手に、戦場という名の市場で競合を競い合う、世界一過激な企業活動に熱心だ。

 そんな欧州系PMSCsの上層部に位置するスペンサーは、スイス製のカービン銃で武装した、黒服のSPを引き連れ、屋上のヘリポートに到達していた。

 

 

「――――やぁ、ウェイドくん。久しぶりだね」

「相変わらず厳重な護衛だな。スペンサー内務大臣」

「其れはお互い様だろう。下では変態アホ司祭が待っているぞ」

「そうか」

「……安心しろ。前回の粗相については我が社と内務省からも、国教へ強く抗議しておいた。だから、今回は性奴隷を連れてきていない。其方の姫君が不愉快な思いはしないさ」

「ああ、助かる」

「では、自分は其方のヘリに乗らせてもらうよ。何やら支社の方にリン将軍が出向いてきているみたいだからな、忙しくてたまらないよ」

 

 そう言うと、ローターを回し始めた輸送ヘリの中へと、スペンサーはSPに誘導されて搭乗。

 ステルス性能と高速性能が売りの輸送ヘリは、高層ビルの遥か上へ素早く上昇。

 速度を上げて――――洋上へと飛び去っていく。

 ヘリの後方には陸上の基地から飛んできて、摩天楼の遥か上を旋回していた。

 欧州製ステルス無人戦闘機が高度を落とし――護衛機として、三機程随伴していく。

 

「……後でスペンサー内務大臣には、礼を申し上げないといけませんね。言いそびれましたわ」

「姫様、後で自分から、彼に一報を入れておきます」

「助かりますわ。ウェイド……行きましょうか」

 

 

 …………

 

 スペンサー内務大臣の去った応接室では、一人残った黒いローブを着こなし、全ての指に嵌めた真っ赤な宝石が目立つ指輪をした中年男性。

 アソオスがソファーに深く腰掛け、携帯端末越しに会話をしている。

 だが……端末のスピーカーからは、相手側の若さを伺わせる怒声が、室内へと静かに漏れていた。

 

 

『――アソオス三級聖司祭! 貴殿も北部エルフの貴族連中が昔から、奴隷制に嫌悪感を抱いているのは、貴殿も知っていた筈だろう!? それ以前に性奴隷と遊ぶのは自宅だけにしておけ! いい加減公私の区別位弁えろ――――』

 

「デリック様、其れはもう~関係各方面から、猛烈な抗議が在りましたので、このアソオス、重々弁えております故に――」

 

『――ったく! なんで自分についさっきまで報告がないとか、くそっ! 貴様の寄越した部下は、本当に使えんな! それと『次は』無いからな! ガチャ――ツーツー』

 

「おお若いのに怖い~怖い~」

 

 全く……貴様が、そんな気性だから、報告が迅速に上げられないのだぞ。

 それにしても、あの若造は言い方がいちいち怖い。

 のほほんとした、あのウルデリック大司教の甥っ子なのに……えらい違いだ。

 きっと……オーガを斬り殺すのが趣味だった、ドルーシャ王国出身のおっかない、母親の女騎士に似たのだろう。流石に救済教会の学校に通っても、血の猛りまでは矯正出来なかったと見える。

 その証拠に奴のこちら側の屋敷には、こちらで獲得した。

 大量の性奴隷がいるのだから。オーク使いで有名な、変態のウルデリックの甥も我が結社、賢き神々の使徒。通称『神々の使徒』に入ってから叔父以上の変態ぶりだな――――コンコン。

 

「入りなさい」

 

 カチャ――キィ――バタン。

 

「失礼します。アソオス司祭、国教親衛隊本部から参りました、ウェイドです……以前は部下がお世話になったようで……」

 

 アソオスはソファーから立ち上がるとウェイド達の方を向き、両手を広げて、満面の笑顔で迎える。

 

「ハハハ! 其の説は誠にこちらも申し訳ございませんな。何せ……先方が北部エルフ貴族のご令嬢とは知らず、失礼しました! ああ、身体偽装は解いても――」

 

「――――この耳はこちら側で整形したものです。偽装術式負荷の心配はご不要ですわ、アソオス司祭様」

 

「……なるほど」

 

 このエルフの娘……貴族の誇りどころか、種族の誇りまで……捨てたか。

 しかもこちらの世界の、医学的処置で人間に容姿を似せるとは……ふむ!

 

 スゥ――――ペタッ

 

 元の世界で経験豊富な聖ドルア聖人教会の司祭職にある、アソオスは片膝を付き。

 自らが覚悟ある救済戦争参戦者と認めた、目の前のエルフの少女へ最大限の敬意を示す。

 その仕草の意味は、元々地球出身のウェイドには正確には理解できなかったが、何らかの敬意を自らが使える……姫君に、この変態アホ司祭が示している事は、何処となく感じ取っていた。

 

「このまま立ち話を続けるのも、時間の無駄ですから、メディカルルームへ行きますか。ユーナ姫、貴方様の覚悟しかと、聖ドルア聖人教会のアソオス見させていただきました」

 

 アソオスは顔を下げたまま、言葉を言い切るとユーナの返事を待っている。

 

「…………表をあげて下さい。黒き炎の使い手よ」

 

 ユーナはアソオスに向けて、聖ドルア聖人教会の司祭への敬意を示す言葉をかける。

 アソオスは無言のまま、静かに…………表を上げる。

 

「…………」

 

 少しばかり、ユーナの白いパンチラが隠す三角の片鱗が見えた。

 しかし、場の雰囲気が屹立を無効化。

 ユーナは少しばかり白い美脚を前後に開き…………指を下腹部付近で動かす。

 それはエルフ式の教会全般へ向けた、敬意を表す仕草だった。

 仕草を終えたユーナは美脚を戻して、パンチラは閉じるが口を開く。

 

「私の魔力回路の調整をお願いします。アソオス司祭様」

「承知しました。ユーナ姫……貴方様こそ、女神の代理人に相応しい御方だ」

「えっ!?」

「…………」

 

 アソオスの口にした言葉に一瞬驚いたユーナは、思わず声を漏らしていた。

 だが、アソオスは嘘偽りのない本音を…………数百年ぶりに口にしていた。

 既に亜魔族の限界寿命の千歳に近いが、精力旺盛で後百年は、現役で生きる気が余裕である、この男はこの瞬間思い出していた…………前回の救済戦争の参戦者にして、勝者になった者達の中にいた……あの少女。

 

 一人の元気な、ハーフエルフの少女を思い出していた。

 

 そう、かつて自分が魔力回路を調整したハーフエルフの少女にして、現在の女神の代理人である…………アナスタシ救済皇の若き日の姿を思い出していた。

 

 

「…………ユーナ様達は先にどうぞ、私は準備がありますので」

「ええ、そうします。では」

 

 

 この時偶然にも、アソオスの脳内ではもう一つ思い出した、情景が再生されている。

 その時のアナスタシの美脚と紐パン……紐パンの内に隠された片鱗を鮮明に思い出していたのだ。

 故に屹立無効化が消え去り、もう暫くこの姿勢でいようとアソオスは思うのだった。

 

第十五話 交差する男達と蠢く欲望の片鱗(終)

 

------------------------- 第37部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第十六話 鉄火場で踊り始める者達

 

【本文】

【中部州東部】

 

 第三次世界大戦後の中部州内東部は、関西海峡の東側で唯一。

 武装ゲリラが蔓延る……膨大にして危険な、再開発予定エリアを抱えている。

 そのエリア内には、世界的な自動車メーカーの工場等が大戦前から点在し、それら重要な産業拠点は大戦終結後真っ先に、安全の確保と再建が優先され……現在も稼働中である。

 

 戦火を生き残った、それらの施設は周囲をコンクリートの防壁でぐるりと囲み。

 銃火器で武装した警備員に守られ、要塞化している。

 その多くは数十トンクラスの戦車もキャタピラで走行可能な、専用の高架式ハイウェイで結ばれ。

 施設への出入りに関しては、部外者は接近ですら事実上、不可能に近く。

 今や完全に、陸の孤島と化している有様だ。

 

 それらの工場などでは相変わらず、戦場でテクニカルな扱いをされる宿命の機械。

 ピックアップ仕様の四輪駆動車両が日夜、生み出され。

 高度に進化した内燃機関が、力強い産声を上げていく。

 最近では顧客からの要望で防弾板や、銃座が取り付けやすいように予め。

 車体にネジ止めなどの工夫が凝らされた、車種が製造されている。

 特に中部州内や西日本では、それらの車両の需要が圧倒的に多い。

 そんな、いざという時に役立つ車種の方が、今や主力商品になっても。

 時代の流れに合わせて、企業も絶えず変革し、日夜生き残りに必死だ。

 ただ……工場の立地場所によっては、戦災で破壊された堤防がそのまま、警備上の都合で敢えて放棄され。

 氾濫した河川の影響で、湿地や水辺に囲まれる形になった工場などは、本当の意味で孤島になってしまい……その出入りは、非常に困難だった。

 

 ……………………

 

 ポチャン――――ガサガサ。

 

「…………」

 

 水面の上に何本も突き出る、灰色の柱はかつて電力を送電していた電柱。

 電柱によっては、台風時の豪雨で流されてきたのだろうか。

 塗装が剥げ落ち、サビだらけになった、ハイブリッド車の残骸の衝突によって。

 斜めに折れ曲がった、電柱も幾つか見受けられる。

 水の流れの弱い場所には、様々な瓦礫が堆積し……葦や水草が覆い茂り。

 水鳥や魚達の住処になっているようだ。

 そんな自然に還りつつある、文明の残滓の影に潜み――――スッ――――数十近い。

 黒く細い筒を大空へ向け、カチッ――――タタタタタ! 引き金を一斉に絞る者達がいた。

 筒から一斉に飛び出したのは、刹那に何度も輝く閃光(マズルフラッシュ)と小銃弾(フルメタルジャケット)。

 大空をジャイロ効果で回転しながら、飛翔する銃弾が向かう先には――――カカン!

 青い一機の救難ヘリが水面に波を打ち立てながら、低空飛行の最中だった。

 

 カカカカカァ――――ン!

 

『――――くそっ一斉射撃だ! 回避機動に――――』

 

 最悪だ……クソッタレが!

 新入りのパイロットが、安物のCOIN機(軽攻撃機)を墜落させやがって!

 小牧からわざわざ、コンバットレスキューに来たら、やっぱし――――カカカ!

 

『銃弾でタコ殴りとか、ふざけんなぁあ! もっと高度を――ピッ――ガガッ』

『その必要は~ないってのぉ♪ エンゲージ!』

『――――!?』

 

 突如、救難ヘリの飛行する遥か上の高度から、ヘリのメインローターをスレスレに掠め。

 高速で白煙の軌跡を伸ばしながら『何か』が流れていく――――その軌跡は数十近い。

 それは――――70ミリロケット弾の一斉射撃だった。

 着弾先の水辺には、水柱が何本も立ち昇っていく。

 自動小銃で対空射撃をしていた、約二個小隊規模のゲリラは瞬く間に……肉片になって、水辺を真っ赤に染め上げていく。

 

『はぁ~ぃこちらワイバーン~だよぉお♪ 敵ゲリラを殲滅完了~♪ 引き続き救難ヘリを支援する――――』

 

『――――バカ野郎! お前の後輩が肉片になったらどうすんだ!?』

『あっ――! 酷い~そんなのだから、嫁さんに逃げられ――』

『余計なお世話だ! このアニメ声の爆撃ジャンキー! てめぇは上空で警戒継続だ――ガッ』

 

「――ったく。あれじゃ嫁の貰い手いないわな……おっ!」

 

 爆撃ジャンキーの撃ち込んだ、ロケット弾の着弾点後方の電柱に……緑のスモークが視える。どうやら新人は、肉片にならなかったようだ。

 

 

 …………

 

 

「おおお――――おーい!」

 

 マジで――――し――――死ぬかと思った!

 

 それにしても――――ブンブン――――腕が動きをやめない。

 発煙筒を振りまくる俺は、腰まで水浸しになって、水に流されないよう。

 電柱にしがみつき、発煙筒を握った片腕を無意識に振りまくっている。

 

「は、早くぅうう助けてくれぇええ!」

 

 叫びを張り上げる――――喉元と胸の動悸も、声も止まらない。

 こんな興奮状態は昨夏行った、マギサちゃんのライブ『まぎフェス』以来だぞ!

 あの時も、緑色のサイリウムを本能で、ぶん回していたが――――!?

 

「嘘だろぉおおおおおおお!」

 

 俺は発煙筒を投げ捨てると、必死になって――――バシャバシャ!

 しがみついていた電柱を離れ、クロールで魚雷の如く泳ぎ始める。

 そんな必死な泳ぎを続ける俺の横の水面を、小さな水柱が駆け抜けていく。

 

「じょ――――冗談じゃない! 撃ってきやがった――――げほっげほっ!」

 

 そう、この小さな水柱は救難ヘリに搭載された挽肉製造機、ミニガンが作り出している。

 救難ヘリは速度を上げながら、ドリフトに近い機動を開始。

 俺の背後を取るようにホバリングを開始、後方の水面に向けて、銃弾の雨を降らせていく。

 そのまま射撃を続けながら、救難ヘリは静かに俺の真上へ、横滑りで来てホバリング。

 ホバリング中も銃声が、ゲリラ豪雨の雨音や雷鳴の様に鳴り響いている。

 救難ヘリからは、弾薬(ガンパウダー)を分速数千発の速度で食い散らかす、大飯食らいのミニガンが使用済みになった、金色の薬莢(エンプティーケース)をその喰らいっぷりに見合った大きさをした、黒い円柱状の排莢口から吐き出し。

 機体左翼側からは、超音速の初速で吐き出される弾丸とは対照的に、金色の薬莢が緩やかに宙をクルクル舞いながら落ちていき、一筋の流れになった、黄金色の滝を創り出していく。

 そして機体右翼側からは、茹でたパスタの様にロープを垂らし。

 機体のスピーカーから――――声が漏れてくる。

 

『――――迎えに来たぞ、さっさと掴まれ!』

 

 俺は無言でロープを握ると、水面からつま先が出る程度に軽くよじ登る。

 後は懸架装置が作動して、俺を回収してくれた。

 機体の反対側には、備え付けのミニガンとその射手がいた。

 眉毛が白髪まじりになっているが、それが返って猛禽類の様な迫力を付加している様に見え、ヘッドセットが似合う――――筋肉質な初老の男。

 俺のサバイバル教官がいた。

 教官は俺が登り終えるとミニガンから、グレネードガンに切り替え。

 発砲を再開、何かをポンポンと、グレネード弾で攻撃しているようだ。

 水面が何度も水柱を上げ、真っ赤に染まるのが視える――――恐らく。

 水中に逃げた、ゲリラの残党を攻撃しているようだ。

 

「よう! 神谷訓練生。基地に帰るぞ」

「了解です、温水教官!」

「機内での敬礼はいい、さっさとシートに座れ」

 

 俺はシートに座って、備え付けのヘッドセットを装着。

 こちらの動作を確認した温水教官は、パイロットに命令。

 ヘリはホバリングをやめて、飛行しながら高度を――――上げていく。

 射撃をやめた温水教官は俺の方を見ると、ヘッドセット越しに話しかけてきた。

 

『神谷訓練生、窓からお前がしがみついていた、場所を見てみろ』

『…………了解』

 

 なんだろう、先程まで先輩パイロットがロケット弾を撃ち込んだ水辺や、温水教官がミニガンやグレネードを撃ちまくった上流付近から、真っ赤な死体や――――白い腹?

 

『…………ワニですか。しかも馬鹿でかい上に、数匹もいたのかよ』

『そうだ。なんでも付近の工場から、脱走した従業員が喰われて問題になったとかで、労働基準局から、駆除要請があったからな。まぁ……ついでだ。それとお前腰のポーチ、ピラニアついてる』

 

ピチピチピチピチ!

 

『……デカイですね』

 

『良かったな。それ、お前の晩飯だぞ』

『?』

『流石に入社早々、機体を丸ごとスクラップにしたんだ。営倉にぶち込まれるより、マシだろう』

『ええ! きょ、教官! 俺だけ『飛騨牛食い放題のバーベキュー抜き』ですか!』

『当然だ。この馬鹿! 基地に戻ったらそのまま司令室に行け――――なんだ、機長?』

『温水教官、昨夜のゲリラ事件への対応で、NEETの航空制限が、名古屋市内上空全域で始まりました。少しばかり飛行コースを変更しますが……さっきの戦闘起動で、燃料がギリギリです』

『あ~マジかよ。タイミング悪いな~まぁ仕方ないか……市近郊のサービスエリアのヘリポートに着陸しろ。本部と司令には、自分から通信を入れておく』

『了解』

『神谷訓練生、サービスエリアでなんか食っとけ』

 

 ――――ゴソゴソ。

 

『……すみません。財布落としたみたいなので、戻って――――』

『おーい! 今から神谷がヒモなしで、途中下車するみたいだけど燃料どのくらい浮く』

『余裕で帰投できますね。どうします? このまま飛行――――』

『機内の皆様、好きなだけ俺の給料で飲み食いしてください!』

 

 歓喜に包まれた救難ヘリは、着陸態勢に移行する。

 着陸場所は名古屋市郊外の直線になっている、ハイウェイ沿いのサービスエリア。

 このサービスエリアの周囲は、夏の力強い……緑の蔦や草に包まれ。

 緑線のコーティングが施され、緑に覆われた廃墟の海が広がっている。

 場所によっては時折、鯨の潮吹きやトビウオの代わりに。

 煙や爆発、曳光弾の弾道がボチボチ見受けられるのは、PMCや銃火器を持ったばかりの学生が、ゲリラ刈りをしているからだろう。

 このサービスエリアは、そんな危険を抱え込んだ緑の海原に浮かぶ。

 オアシスという名の安全地帯だ。ヘリは徐々に高度を下げ。

 空いているヘリポートへと、ダウンウオッシュを巻き上げながら、降下していく。

 

『やっぱり、一般のハイウェイは昨夜のゲリラ事件で渋滞しているな。特に下りは市警察や、NEETの検問が厳しいから、ありゃ酷い有様だぜ。そういや神谷訓練生、お前の叔父の松沢は市警察のSWATにいるんだよな?』

 

『ええ、叔父は確かにSWATですけど、今朝のニュースで叔父の叫び声を聞いた時は、紅茶を吹きそうになりましたよ。ついでに言うと従兄弟も同じ部隊ですけどね』

 

『松沢の部隊にいるのか。アノ曲者揃いの中で働いているとか、その従兄弟すげーな』

 

『ミニガンで肉片量産したのが、従兄弟です。今朝アプリに動画付きで、メール送ってきましたよ。しかも動画のタイトルが、『ミンチを最速で作る実践編(無修正)』とかですもん。朝飯前に危うく開きそうになって、危なかった』

 

『…………そいつも変わり者だな』

 

『いやいや、そんな従兄弟も少しは、いい所あるんですよ。バーベキューは大好きで、よく振舞ってくれました。自分もその影響でPMCに入っちまった感じです』

 

『なるほど~うちの司令と同じで、旨い肉食わせて新人を釣ろうとしたら……』

 

『当然、飛騨牛食い放題のバーベキューを月一でやっている。飯の旨い小牧空爆デリバリーに入りますよ。と言うか、従兄弟はバーベキュー時に酒飲み始めると、『俺の弾除け候補の性能確認だ!』とか言いながらから、拳銃撃ってくるトリガーハッピーだから自分は毎回、防弾チョッキ着込んでバーベキューですよ。だから市警察入りは、絶対ないですね』

 

『…………よし、着陸だ! 各員機体チェックを済ましたら休憩だ』

『了解』

 

 

 温水はお前もかなり頭のネジが、緩んでいると神谷訓練生に言いそうになったが。

 ヘリが着陸した機体の揺れに、その言葉は思考回路内でかき消され。

 次の行動の指示を出しながら…………ハイウェイの伸びる先の壁に囲まれた、摩天楼のジャングルを見ながら思う。

 

 今も出会った当時と変わらず、コンクリートジャングルの中で銃を片手に戦っているであろう、かつての仲間である。

 松沢との戦場での……出会いを思い出していた。

 

 

------------------------- 第38部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第十六話 鉄火場で踊り始める者達 (終)

 

【本文】

 【西暦二千十年代】

 

 日本で内戦が本格的に始まる決定的な契機になった、一部の武装在日外国人による、移民優遇特区の乗っ取り行為。

 そんな愚行が成立した背景には、旧日本政府が防衛予算を削ってまで、軍隊並みの武装を施した『特区警備隊』の存在は後の世代や歴史家が、この空前絶後の愚行を考察する上で欠かせない、パズルのピースの一つだろう。

 

 そのパズルのピース、特区警備隊は何故か反日国家からの移民が主体となって構成されていたのもまた、重要なパズルのピースと言えるのだろうが……この特区警備隊。

 一部武装外国人の違法な武装決起の動きに、当然のように呼応して、特区内外の日本人へ『承認された暴力装置として』銃口を向け始めた事で、日増しにその活動は過激化していった。

 

 その後、周囲の県警なども指揮下に置いた特区警備隊は、法的な立場は勿論ながら。

 幅広く承認された暴力を柔軟に行使できるという点に置いては、自衛隊や在日米軍を除けば、日本列島内で最強の組織であった。

 更に付け加えるなら、元々、反日国家の影響が強かったマスメディアの『自主的な報道上の配慮』や、一部自治体の人種差別禁止を表面上装った異常な条例による。超法規的な事実上の『思想弾圧等』の協力もあり、やりたい放題だ。

 

 特区警備隊は当初こそ、その矛先を金のある企業をメインに絞込み。

 言い掛かりを付けて、逮捕を繰り返し。罰金名目や資産差し押さえなどで、幹部が私腹を肥やしていた。しかし、徐々に末端の隊員の不満も溜まり始め。

 その捌け口として、日本人婦女子への隊員による性的暴行が、反日国家寄りのマスメディアによる報道上の配慮は勿論、公的機関の怠慢によって……数多く黙認されていた。

 

 それらの暴挙に対して、一部の行動的な日本国民は当初、腕に覚えのある者は助けに入り。

 また或者は、その状況を動画やミニブログのリアルタイムの配信で対抗したが。

 助けに入った者は容赦なくリンチで終わるなら、まだマシだろう。

 中には特区警備隊によって、射殺される者達もいた。

 運良く現場から離脱出来た投稿者は、人種差別を理由に令状無しで、逮捕拘束されるだけでなく。自宅へ県警によって先導された、創設して間もない、特区警備隊所属のやけに手馴れた――――戦術を行使する。

 特殊部隊に強襲され――――殺害されたりもしていたのだ。

 そんな無秩序が蔓延り……法治国家の皮を被った、人治国家へと変貌を遂げ始めた……かつて、日本国の存在した地……日本列島。

 既に現場レベルでは、上層部に愛想を尽かした一部の元警察官や新興保守系の市民団体が雑多な武器を手にして、侵略者と化した特区警備隊とその指揮下に組み込まれた警察組織を相手に、不利な戦いを――――開始していた…………そんな時期でもあった。

 

 

 

 ……………………

 

 

 

【西暦二千十年代 首都圏】

 

 

 近畿と九州北部の移民優遇特区から離れた首都圏には、在日米軍がいる関係上、移民優遇特区は設置されなかった。

 故にこの地では、移民優遇特区や周辺で幅を利かす。

 特区警備隊や武装した一部在日外国人は、警察活動や自警団活動を名目にした。

 日本人や企業からの資産強奪、一般人への殺害、強姦を含んだ本格的な民族浄化といった侵略活動には、まだ着手していない。

 しかしながら、それに呼応する者達は強力な『後ろ盾』を『無事に』国内に招き入れた事で、徐々に暴力行使のハードルを下げ…………その活動を活発にさせていた。

 

 だが、其れはネット社会へ変貌を遂げた社会においては、それに対立する陣営である。

 特区警備隊や武装移民の横暴や暴挙に、抵抗を始めた日本人達にもそれらの情報は素早く拡散され、活動を活発化させ。

 本来日本国の主権者であり、圧倒的多数を占める各々の日本国民の中にも、特区警備隊とは対照的に皮肉にも、法を超えて正義を実行する。

『覚悟』を決めさせる事も…………意味していた。

 

 

【都内の収容施設】

 

 

 数多くの容疑者が収容される、この施設には特別裁判所を持たない組織。

 自衛隊を統制する法律、自衛隊法を犯した、一人の若い隊員も……極秘裡に収監されている。

 彼が幸いだったのは、先に収容された隊員達の多くが正式な手続きを経ずに処刑され、彼自身が処刑される前日に、その事実が米国の諜報機関によって暴かれ、世界へ向けて公開された事だろう。

 この情報公開の直後、この一人の隊員を救出するべく。

 後にプレッパーと呼ばれる事になる者達の一部が、この施設を盛大に襲撃していた。

 

 ――――ジリリリリィイイ――――!

 

 鳴り響く警報や、赤い光を撒き散らす警告灯。

 そんな空間の調和を揺さぶるのは――タタタターン!

 屋外でも今や蝉の鳴き声以上に五月蝿く。

 数え切れない程に増えた、銃声の響きとスピーカーから流れる。

 

『全職員は侵入者を射殺せよ! 繰り返す、全職員――――グシャ――――ぎゃぁああああああああああああああ腕の骨がぁあああああ――――折れ――――ガガガ――――ザザ』

 

 職員の断末魔と化した、警告放送だ。

 この鉄格子を張り巡らせた、数多くの個室を内包した施設はつい先週までは宛ら、弾薬をフル装弾した弾倉の如く……フル稼働下にあった。

 その光景は牢獄という名の弾倉内に『様々な人々』を無理矢理押し込み。

 法的手順を無視して、絞首台という名の薬室と砲身を兼ねた、迫撃砲ならぬ『迫害砲』とでも言うべき、魂の飛び立つ空間へ人々を送り込み。

 皮肉にも迫撃砲弾と同じく、位置エネルギーを起点にして。

 あの世へ人々とその魂を次々と撃ち出していた。

 ここは法治国家の抜け殻にして……民主政治の敗北を象徴する。

 最低最悪な施設だ。

 

 この屈辱に満ちた空間を自由に行き交うのは最早。

 腰に牢獄の鍵を下げ、制服を着た……職員ではなかった。

 

 職員の多くは逃げ出すか――職務に忠実な職員は床で、ニューナンブ拳銃や散弾銃を片手に血まみれの――――死体になっている……何とも残念な状態だ。

 まるで警告灯の規則正しい振る舞いは、空間内を薄い流血の霧で真っ赤に染め上げ。

 死体を染め上げた血潮の黒に近い色を、赤い光と音で覆い隠そうと必死な様にも見える。

 

 そんな真っ赤な状態を作り上げた一団の行き交う、其の姿。

 それは明らかに、多くの日本人に見覚えがあり。

 また其の迷彩服の袖に腕を通す資格が在るのも、日本人だけなのは言うまでもない。

 

 彼らは海の向こうの友達から、珍しく正確な情報提供を受け、行動を起こしている一団。

 その手には89式自動小銃や、9ミリ拳銃、自前の散弾銃等で武装している者達だ。

 つい数時間前まで、陸上自衛隊普通科のとある部隊に所属していた……元隊員達。

 彼らは――――助けに来ていた、自分達の上官である一人の男を。

 

 ポン――――ズドン!

 

『各員に告ぐ。目標の救出は完了した。逃げる者は殺すな、抵抗する者だけ射殺しろ。これより撤退する』

『うぉおおおおおおおおお! 了解ぃいい――――ガッ』

「……千葉三尉、一本吸いますか」

「ああ、助かる」

 

 カチッ――――スゥウ――――!

 

「げほっ! 済まん……久しぶりの葉巻はキツイな。温水三曹」

 

 タバコを吸ってむせ、涙ぐむ無精髭の生えた。

 ボサボサな長髪をした、この男こそ。

 自分達の上官……千葉三尉だ。

 歳は改造車でのドリフトに失敗して、崖から下に落ちて死んだ弟と同じ25歳。

 だからだろうか……どうしても自分は彼をイデオロギー抜きでも……助けたかった。

 

「温水三曹、移動しながらでいい。状況を説明してくれ」

「了解です」

 

 自分は武器庫から掻払ってきた予備のサイドアーム。

 9ミリ拳銃を千葉三尉に、予備の弾倉数本を入れたバックと一緒に渡し。

 状況を説明しながら、この場を離脱していく。

 

「三日前に首相が官邸で首吊り自殺。現場は糞まみれで封鎖中。その後閣僚が全員揃って、政府専用機に機密資料満載で統亜に亡命しようとしたのを、在日米軍が撃墜、在日米軍の司令官は会見で号泣議員を思い出させる泣きっぷりで、撃墜を全否定しながら、会見中にぶっ倒れました。今は政府機能が事実上の機能停止寸前で、移民優遇特区では――――」

 

 ポンポン――――ズズン!

 

「クリア――――統合軍と加盟諸国の連合軍の進駐が、邦人保護を名目に、なし崩し的に始まっています。市ヶ谷は統幕長が先日、永田町で爆殺、陸自と空自の幕僚長は二週間前から行方不明。それ以下の幹部も陸海空合わせて、数百人規模で一週間前から行方不明か事故死、他殺体で発見されています。内局は潜入していた帰化人職員が勝手に進駐軍の将校団を市ヶ谷に招き入れ、警視庁の公安がSATや機動隊、銃器対策部隊を引き連れて市ヶ谷に乗り込んで来て、統合軍の将兵相手に銃撃戦。市ヶ谷は蜂の巣状態で大混乱。海自は米海軍の支援で幕僚長以下、艦隊総動員でハワイとグアムに亡命。以上」

 

 カシャ――――カチャカチャ――――ジャキン!

 

「ところで温水三曹、そのグレランはどうした?」

 

 どうも、千葉三尉は自分の装備している。

 ブルパップ型のXM―25グレネードランチャーが気になるようだ。

 一応、こいつの取得経緯は話しておこう。

 

「こいつですか? SATの連中が数年前に潰した、暴力団から押収したのを譲ってくれました」

 

 タタ――ン!

 そう言うと、三尉は曲がり角に潜み、銃口を向けていた職員を撃ち殺し。

 何か考える顔をしながら、マグチェンジを終えると……口を開く。

 

「なるほどね……ちょっと寄り道していいか?」

 

 ――――数分後――――

 

「三尉、ここは?」

「まぁ、見てみろ」

 

 キィ――――ボソボソ…………

 

「――――をするぞ! しょしょしょ~♪」

 

 …………バタン

 

「…………ああ、なるほど有名人だ」

 

 自分の目の前には、前世紀末頃に毒ガスの散布や、自動小銃で武装した信者を動員して、各都道府県の警察本部を襲撃して、世間を賑わせた。

 カルト宗教の開祖にして、毛むくじゃらの教祖が座禅を組んで何やら、不気味に体を揺らしながら、ブツブツ呟いている。

 最もこの物体が教祖だと気付いたのは、扉の前のネームプレートをよく見てからだが――――グイッ

 

「ちょっと、そのグレラン貸してくれ――――」

「ええ! ちょ――――」

 

 パタン!

 

「なんだ!? 飯の時間か (空腹)」

「おい! 糞教祖ぉおおお――――」

「ドッキリカメラか!? (驚愕)」

「残念! FCS(火器管制装置)だよ」

「なんだそれ!? (好奇心)」

「ググれば分かるよ!」

「どうすればいい!? (疼き)」

「…………それはね~」

「それは!? (期待の眼差し)」

「……………………クスッ♪」

 

 

 

「解脱(げだつ)すれば分かるよ――――カチッ」

 

 

 ポン――――ズドン!

 

 三尉は自分からランチャーを奪うと、グレネードを覗き窓からブラインド射撃の姿勢で、撃ち込んでいた。爆風が扉を微かに揺らしたが、25ミリグレネード弾の爆風ではビクともしない。

 まるで昔、演習で搭乗した89式装甲戦闘車のガンポートからの射撃のようだ。

 

 一応中を見てみるか…………チラッ

 

「…………挽肉まみれだぜ…………って! 三尉いきなり何――――」

 

 クィクィ――――シュボ。

 

 三尉はジェスチャーでタバコを求めてきたので一本銜えさせ。

 ジッポで火を点け…………暫く味わう様に吸い終えると吸殻を足元に落とし。

 踏みつけると、再度口を開く。

 

 

「前から何度も思っていた…………毒ガスの散布、自動小銃の密造や武装蜂起、覚醒剤の密造と密売、その他数多くのテロ行為に手を染めてきた、この馬鹿を殺さないのは法の怠慢だと…………それに、流石にこんな状況でもないと、殺せないだろう? そのヘッドカメラの記録はどうせ後で、ネット配信するんだろうから――――」

 

「――――すみません三尉…………既に配信中です」

「え? マジで」

「マジです…………あ、再生数がミリオン突破しました――――ピピッ」

 

『え~こちら本庁舎が自爆テロで吹き飛び失業した、元SATの松沢。えーと陸自の温水三曹、だっけか? さっさと拘置所から離脱してくれ。お宅らの援軍で駆けつけた特科が、砲撃出来ないらしい。それとその三尉さんGJだぜ、歴代の法務大臣の出来なかった事をあっさりしたんだから、マジ最高だ』

 

『こちら突入班の温水了解、直ちに離脱する。それと提供してくれたグレランも最高の働きだ。感謝する』

 

『そりゃどうも、早くしないと昨日深夜、新潟に電撃上陸した、中国軍の機甲部隊が首都圏目指して、攻めてくるぞ。特区の統合軍の進駐はどうも囮っぽいな。既に富山と新潟の県境で、プレッパーが中国軍相手に戦闘状態だ。こちらも増援部隊を編成しないとヤバイな。すぐに合流だ』

 

『了解』

 

「三尉、新潟方面で中国軍とプレッパーが交戦開始、急いで離脱しましょう」

「了解だ。ところでプレッパーとは何だ?」

「危機に備えて武装していた民間人が自称している名称です。何でも欧米のサバイバリストや民兵(ミリシア)の日本版みたいな連中ですよ」

 

 こうして、自分達は拘置所から離脱。

 失業したばかりの元SATの松沢と合流して、戦火の中を駆けていく事になる。

 

 

------------------------- 第39部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第十七話 科学の申し子と空を舞う十字架

 

【本文】

【西暦二千三十年代後半 夏】

 

 ――――中部州内――――

 

 昼下がりのその日は……異様に暑い事もあり、多くの人々は昨夜から早朝まで続いた。

 名古屋市内スラム街で発生した、空爆も伴った市街戦に起因する。

 州内全域への戒厳令などに関係なく……涼しさを求め。

 冷房の効いた屋内に足を止めていた。

 だが、それでも社会が動く為には、人々が働き。

 物が実際に動かないといけない以上、都市の喧騒は相変わらず。

 多くの人々や車両、上空には運搬用ドローンが流れるように行き交い。

 …………さほど変わりがないようだ。

 

 

 ――――名古屋市近郊のハイウェイ路上――――

 

 

 市警察やPMCの厳しい検問が始まっている下り車線と違い。

 上りの車線がガラ空きなのは、大戦後に出来た郊外のゲートコミュニティ型居住エリアからの通勤利用者で混雑する。

 通勤ラッシュの時間帯を過ぎたのも、関係あるだろう。

 そんなガラ空きの上り車線を、グラサン型シューティンググラスを装着し。

 夏服を着込んだ筋肉マッチョな、黒人ドライバーの運転で快適に進む。

 今やごく普通に、日本列島内を走り抜ける車種になった。

 戦闘車輌が数台車列を組んで走行していた。

 

 その数台の車輌は防弾板を貼り付け、メタリックグレーの塗装を施し。

 所謂テクニカル仕様に分類される、ピックアップタイプの四輪駆動車だ。

 

 テクニカル車輌の荷台には、野球帽を被った筋肉マッチョな黒人が備え付けの重機関銃のガングリップを握り締め、口の中でガムをクチャクチャ噛み。

 時折、ガムを膨らませながら陽射しを浴びて、黒い砲塔の様に黒光りしている。

 そんなテクニカル車輌は―――海原を行き交う艦隊の如く。

 上り車線を順調に走行していく。

 テクニカル車輌の車窓から時折垣間見える、車輌の生まれ故郷である工場の幾つかは――――火の手がボンボンと上がり、次々に火柱と黒煙が立ち昇っていくようだ。

 

 今まさに、火元の現場では企業が自前の消防隊を動員して、消火活動をしているのは勿論。

 資金に余裕のある企業の中には、自前の『自衛隊』を動員して、火の手を工場に放った『元凶』を強制排除する為に自衛活動を行っている事業所もある。

 最もその手の自衛組織の中でも一番危険な歩兵等は、ほぼPMCライセンス持ちの人間が期間限定で傭兵契約を結ぶのが、普通である。

 自衛組織が強制排除する対象は、ベーシックインカムの支給対象外に成り下がり。

 恩恵を享受出来ない三等国民の扱いを受け、低賃金でこき使われ続ける存在。

 

 主に降伏して刑期を終えた元統合派ゲリラや、不祥事によって公職追放された元公務員。

 契約を打ち切られた……元難民系非正規労働者のデモ隊が相手だ。

 

 大抵のデモは企業側が暴徒の人権停止を行政に確認後……速やかに終了を迎える。

 数十トンクラスの拠点防御用の装軌車両で、暴徒を轢殺するのだ。

 

 その後は必要な員数、特に市民権が欲しい元難民を派遣会社から集め。

 NEET提供の肉体と知能を一時的に強化する、時限式ナノマシンを投与。

 所定の動作や知識を脳や脊髄に高速インストール。

 ナノマシンを定期的に投与しながら、労働者として使用するのである。

 

 最もこのナノマシン、色々と倫理面や軍事機密も絡み。

 民間に向けて供給される物の機能は限定的だ。

 

 感情制御などの洗脳に近い安全装置にもなりうる機能は、民主国家の倫理面(ポリシー)から排除されている。

 故にこのような暴動発生も人々が行動の引き金を握っている以上、頻繁に起きてしまう。

 

 逆に物を基本運ぶだけの物流業界等はドローンの発展で、飛躍的な無人化を遂げた。

 しかし、未だに複雑な組み付け作業のある、機械関係の製造業などでは人の手が欠かせない。

 そのような事情もあるが、一番の要因は雇用の確保、消費層や市場の維持といった。

 マクロ経済学的な理由や政治的、治安維持的な理由であろう。

 大戦後も内需の割合が高い日本列島内では一部の都市国家を除き、消費や雇用を適切な規模で維持しないと、社会システムが破綻を来す。

 ベーシックインカムの実施を成し遂げたとはいえ、それら社会破綻への懸念だけは相変わらず、不安が先走り芽生え易いのに霧散しやすい。

 宛ら桜の花弁の様な気質を持った、多くの日本人の無意識下に…………先走っていると言えるだろう。

 

 そんな日本人の中でも少々、頭の中が特殊な一人の白衣を着た女性は、黒人艦隊の如き車列の車窓から、眼鏡越しに火柱が立ち昇るのを……冷房の効いた車内から、呑気に眺めていた。

 

 

 ……………………

 

 

「攻撃機がミサイルで空爆とか、相手はどんな暴徒よ~」

 

 私は車窓から視える……郊外の工場が空爆されているのを見て。

 つい……言葉を漏らしてしまう。

 

 空爆自体は見慣れた光景だが、攻撃機によるものは久しぶりに見た。

 だから私の感情も疼き……言葉を漏らしたのかも知れない。

 

 やはり研究所近くのスラム街や、山間部でよく見かける。

 駆け出したばかりのフリーランスのPMC要員や武装ゲリラ達による。

 改造したドローンを使った、手榴弾やプラスチック爆薬、IEDを使った手作り感のある『ホームメイドボミング』と違い……軍用機それも攻撃機による爆撃は……迫力満点だ。

 

「…………なるほどね~」

 

 手元のペーパータイプのネット端末に表示させた掲示板の『ゲリラ速報』には暴徒が戦車を強奪とある……そりゃ爆撃もされるか。

 私は指先をスイスイ動かし、ネットサーフィンをしながら。

 ラジオの流すニュースに……耳を傾けていく。

 

 

『――今回の名古屋市内全域に発令中のレベル3の戒厳令解除の見通しは未だ不明であり、既に州政府の危機管理センターが、戒厳業務委託先の特別軍事法人NEETの指揮下に入るレベル4の移行、若しくは日本政府から同社へ委託されているレベル5までの、治安出動と防衛出動の発動も止む終え無いとの一部情報に関して、州政府の報道官は、否定的なコメントを正午の緊急会見で述べました。また同時に、州軍の緊急出動態勢は万全であるとの――』

 

「センセイ。マモナク、サービスエリアデス」

「う~ん、少しばかり遅いが昼食だ」

「イエス、メム!」

 

 ドライバーのボブは……嬉しそうだ。

 今朝方マックで『モビアックバーガー照り焼き味』を十個食べた筈だが……育ち盛りなのだろう。

 私は端末を折りたたみ、白衣のポケットにねじ込むと、昼食を何にするかイメージしながら……車窓を眺め。

 私が見とれていた攻撃機が、無数の赤外線追尾ミサイルを回避するために、フレアを吐き出し――――エッジの効いた回避機動を行う。

 必死な光景が飛び込んでくるのだった。

 

 

 ……………………

 

 

 人類が超音速の領域に踏み込み……超音速の翼が戦場の空で主流になりつつあった。

 前世紀の冷戦時代に……この無骨な攻撃機『A―10』は登場した。

 この無骨な翼が誕生した当初の目的は、超音速機では不向きな作戦である。

 空気密度の高い低空を飛行して、密林に潜むゲリラへの航空攻撃。

 近接航空支援の必要性からだった。

 しかし、泥沼と化した密林での代理戦争は、この無骨な翼を投じる事無く終結。

 その後この無骨な翼は、共産勢力の有する、膨大な数の機甲部隊を欧州の地でなぎ払う事を想定して、抑止力という名の一翼を担いながら冷戦を終え。

 その後発生した、地域紛争で数多くの戦場伝説を生み出す、タフな活躍によって生き延び。

 第三次世界大戦も、そのタフな活躍で戦い抜き――――今も戦場の空を舞っている。

 

 ……………………ビー! ビー!

 

『warning! warning! warning!』

「――――くっ!」

 

 私は主翼を何度も垂直にして旋回――――回避機動(ブレイク)を行い。

 青い空へ――真っ赤なフレアを撒き散らし。

 空に白く輝く――曲線を乱暴に描いていく。

 

『warning! warning! warning!』

 

 警告音がコクピット内に何度も鳴り響く度に。

 毛穴からは――――汗が噴き出していく。

 

 既にブラとショーツも…………グショグショの汗塗れだ。

 ここまで本数の多い――――対空ミサイルで狙われたのは、久しぶりだからだろうか…………健全な身体というのは、正直な反応を示してくれる。

 

 これが以前乗っていた『F―2改』とかなら、旋回幅や旋回距離。

 何より戦場では一番貴重な――――時間を掛け過ぎ。

 最悪、6G以上のGでレッドアウトしていたか。

 短小の携SAMに撃墜(ファック)されていた状況だ!

 

 だが――――コイツは違う!

 地べたを這いずり回る肉片予備軍(ミンチ)や――――車輌(かんおけ)を蹂躙する。

 その為に生まれてきた翼だ!

 

 私はミサイルをフレアと旋回で躱し――――ループで高度を取った!

 経費を考えると、第二次大戦時の急降下爆撃機の様に急降下して。

 機首の30ミリバルカン砲で叫びながら――――敵を仕留めたい。

 だが――――それ以上に、空の戦場で牙を出し惜しむ。

 その判断は――――無粋で危険だ!

 不適切な削減策は搭乗機諸共――――火達磨(ウェルダン)になり兼ねない愚策(バッドチョイス)である!

 

『warning! warning! warning!』

「へっ! 騰きやがるな」

 

 もうその距離じゃ長さの足りない、携SAMは当たらないぜ!

 ファーストアタックで私を撃墜(ファック)出来なかったのに――――往生際が悪い。

 

『ワイバーン――――』

 

 HMDには――――私がロックした敵の真っ赤な輝点が映っている。

 だがその輝きも――――カチッ――――これで終わりだ!

 

 この瞬間、青空へと舞い上がった――――宛ら十字架と見間違う様な翼の中で、一筋の少女のようなアニメ声が…………詠唱の様に響き始める。

 其れは複数の数値化された殺意と、破壊力を秘めた牙が解き放たれた事を知らせる。

 

 

『――――FOX2!』

 

 友軍への言葉(コールサイン)だった。

 翼からは後光の如く放たれた牙が、白線を描き伸びていく。

 

 この直後、舞い上がった十字架へ炎と黒煙に満ち。

 銃弾が飛び交い、ダース単位で死体を生み出す地上から。

 殺意を向ける者達が――――放たれた牙の弾頭に詰められた。

 数十キロのTNT爆薬で粉微塵に吹き飛ばされたのは、言うまでもない。

 

 

------------------------- 第40部分開始 -------------------------

【サブタイトル】

第十七話 科学の申し子 続

 

【前書き】

久しぶりの投稿です。

なんか、恥ずかしい!

 

【本文】

 

 

 ――名古屋市近郊サービスエリア――

 

 多くの車輌がその歩みを止める、サービスエリア。

 その中でも一番多い車輌、それは物流関係のコンテナを積んだ。

 無人のトラック郡だろう。

 燃料の補給を終えた無人トラックは隊列を組み。

 静かに出口へと走行を開始していく。

 逆に入口からは、砲台の様な筋肉マッチョの黒人機銃手を積んだ。

 テクニカルな車輌の隊列が、サービスエリアへ進入していく。

 その瞬間――バシュン!

 

 無人トラックのコンテナから、何かが上空へ白煙を曵き――――垂直に上昇していく。

 その光景を見た、テクニカルな車輌の後部座席に乗っている……白衣の女性。

 彼女は仲間にして、良き友である一人の女性の名前を口から漏らしていた。

 

 …………

 

「マギサの会社は相変わらず、儲かっているな~」

 

 私はマギサの会社の無人トラックから、ドローンが次々と打ち上がる。

 ミサイル発射と見間違いそうになる光景に遭遇。

 だが中に詰められているのは、先程見た攻撃機が放ったミサイルと違い、爆薬などの危険な物質ではなく。

 

 

 エロゲや薄い本の類いだろう。

 

 

 たしか前日、私の研究所にいるオタク連中が本日発売である。

『プリティキュンキュン』の同人エロゲ関連の話をしていたのを立ち聞きした際。

 魔女の弾丸便との宅配コラボで、この変わった宅配方法の選択で、限定品が手に入るとか……言っていた。

 

 既に青い空には白煙が糸を引いて、今夜名古屋市内で不特定多数のオタク達によって行われる。

 自家発電を盛大に予告していると言えるだろう。

 

 とはいえ……この少々乱暴な宅配方法、名称は『ブッコミ便』や『ぶっかけ』などと言われているが、正式な名称は長くて忘れた。

 日本周辺限定だが、今や近所の戦場でも使える……格安な宅配方法の一つだ。

 

 実際に研究所周辺の山間部や、スラム街で戦うPMCも戦闘中に補給品の補充で頻繁に利用しているので、私もよく知っている。

 偶に間違えて、私の研究所に防弾チョッキやレーション、弾薬の類いが誤爆宜しくな誤配送で飛び込み、焦って取りに来たと思われる。

 宅配先である、戦闘中のPMC要員が毎週、地雷原で吹きとんでいる。

 しかも毎回、警備用のドローンに積んだセントリーガンで丁寧に射殺されているから、笑えない。

 この宅配方法がそもそもの原因だと思うが、一部PMCやゲリラの間で、私の研究所は何故か『魔王城』扱いをされている……いい迷惑だ。

 

 先月なんて、何を勘違いしたのだろうか。

 大剣で武装をした上、正門に仁王立ちをする。

 騎士の格好をした金髪の外国人女性……女騎士の類いが押しかけてきた。

 

 やけに日本語が流暢だったが『私は日本人じゃない。異世界から来た勇者よ!』などと言い張り。

 私が研究所の所長で責任者だと自己紹介した途端、『魔王覚悟!』とか電波な発言を連発で叫び。

 

 大剣をブンブン振り回し、正門前の駐車場で大暴れ。

 

 職員のマイカーである、多数の痛車仕様のテクニカル車両を次々と、斬撃で廃車にしていったのだ。

 私はマジギレした所員と共に女騎士をゴム弾でタコ殴りにして、ノックダウンさせた。

 そして即効で――――手足を縛って、檻に放り込んだ。

 目が覚めてからは女騎士の嗜みであろう『くっころ!』を可愛く連発していたが……とりあえず。

 

 

 

 明らかに不法入国や不法滞在っぽいので、移民局に引き渡した。

 

 

 

 引き渡す際に女騎士は『奴隷商人に売り飛ばされるとは何たる屈辱!』とマジ泣き。

 ドナドナの子牛状態で、収容所へ連行されていった。

 因みに女騎士の武具一式は、私の部屋で贈り物の鎧兜や刀と一緒に飾ってある。

 しかし、愛車を廃車にされた恨みを偶に思い出すので、ネットオークションで先週売りに出した。

 だが、未だに落札されないから残念だ。

 

「さて、みんな昼食だぞ~」

「イエス、メム!」

 

 私達はサービスエリア内の、モール型のフードエリアに直行。

 そこは完全武装のPMC要員や、市警察の連中でいっぱいだ。

 特に向かい合って二店舗もある、ファーストフード店の店内はやけに客が多い。

 

「ん? やけに片側のお店、人垣が出来てないかボブ」

「先生ソンナコトヨリ、ランチデスヨ。テリモビ~」

 

 特に片方の店内は、人垣が出来ている程だ。

 カメラのフラッシュが何度も輝き。

 何やらイベントの最中なのだろう。

 そんな事を思いながら、私達は食いしん坊のボブに急かされ。

 モビアックバーガーを売る反対側の店へと――――カメラのフラッシュを後光にして――――入店する。

 

 

 ――――人垣の中――――

 

 

『お集まりの皆様、本日当店の一日店長になった、アゲハさんです!』

 

 カシャカシャ――――パシャ!

 

 マイクを握る店員が紹介する、一日店長のアゲハさんはカメラのフラッシュと注目を浴びていた。

 その小柄な体には特注品であると思われる、女性用店員の制服を纏い。

 トレードマークと自負する、黒髪はポニーテールだ。

 美少女アイドルと見間違いそうな、その可愛らしい容姿を複数のカメラのレンズと――――フラッシュに照らされ。

 頬を少々赤らめて、緊張しながらもその場に…………アゲハは『滞空』していた。

 

 それもその筈、何故ならフィギュアサイズの彼女は宙に浮き。

 背中の羽をパタパタさせている――――妖精さんだからだ。

 そんな彼女は今朝スタッフと、打ち合わせをした通りに挨拶を開始。

 その声は店員の向けたマイクで拾われ。

 フードエリア内のスピーカーから、小川の様に流れ始める。

 

 ……………………

 

 ドクンドクン!

 

 

 どうしよう――――緊張する。

 でも……言うしかない。

 

 この瞬間、アゲハの脳内ではこれまで食べたお菓子が走馬灯のように再生。

 地球に来てから、某チョコ菓子のタケノコ派に目覚めた彼女の脳内は、只今タケノコが豊作だ。

 タケノコの舌触りを思い出し、心臓の鼓動が一層高まったアゲハは…………覚悟を決め。

 口内に溢れた、唾をゴクリと飲み干すと……口を開く。

 

 

 よし――――私は――――『ドローン』――――を演じきるぞ!

 

 

『どうも! NEET工廠生まれの無人機アゲハでげぇえええす!』

 

 少し噛んだが気にしない!

 そう……私は急遽、此処に来ることになった。

 

 一人の哀れな……妖精!

 

 これは私達『妖精族』の正体を隠す大切な行為。

 所謂情報操作の一環!

 そのように、エルーナ様と矢島会長から直々に聞いたのだから!

 そもそもの原因は……アイツ等だ。

 

『只今当店ではぁああああ! ホクジラ駆逐キャンペーン中でぇえええす!』

 

 私はこうなった原因である、連中の顔を思い浮かべ。

 私の気持ちは自然と昂ぶっていく。

 おそらく……怒りがこみ上げているのだろう。

 

 この瞬間、アゲハは怒りを追い風にして緊張を振り切り。

 無意識のうちに声量を上げ。

 理性を少しばかり……麻痺させてしまった。

 スピーカーから流れるその声。

 それは既にダムの放水の様な勢いだ。

 

『肉汁滴る本物の肉を食いたい奴はぁあああ――――』

 

 そう、アイツ等の店になんて……行くな。

 本物の肉が食える…………こっちに来いやああああ!

 

『――――虫ばっかり食わしやがるぅううう! 向かいの虫の巣よりこっちにこいやあああ――――』

 

 ゴトン――――キーン!

 

 これには思わず、店員もマイクを床に落としてしまう。

 完全に商売敵への宣戦布告である。

 何やら店員はバックヤードへと全力疾走。

 

 ジリィイイイ!

 

 サイレン音と同時に店内の警報ランプは赤く輝き。

 店員の緊急アナウンスが流れ始める。

 

『ご来店のお客様、特に非武装のお客様は速やかに当店裏口より退避して下さい!』

 

 そのアナウンスに続いて店の周りの床からは、何やら百戦錬磨といった感じが漂う。

 傷だらけで表面が凹んでいる、防弾板がせり上がり。

 店の防御力を上げていく。

 防弾板には十字状の銃眼、ガンポートが空いていたりするので攻撃も出来るようだ。

 裏口からは非武装状態だった、スーツ姿の客やメディア関係者がハンバーガーやポテトを食べながら数十名程――――散弾銃で武装した、数名の店員の誘導で離脱していく。

 さり気なく避難客にはランダムで、バーガーやポテト、クーポン券などが手渡されている。

 最早これも、店側の手馴れたサービスだ。

 

 避難誘導を終えた店員の半数は万が一に備え。

 その場に戦闘態勢で展開。

 脱出ルートの確保を完了。

 残りの店員は姿勢を低くして、店内に早足で戻っていく。

 彼等はバックヤードにいた店長と合流。

 戦況を確認する。

 

 

 ……………………

 

 

 第三次世界大戦後も未だに、一部地域で内戦状態にある日本国内。

 この時代の日本では民間防衛の観点から、不特定多数の人々が集まる場所には、シェルターの設置が義務付けられている。

 特に利用者が多い都市部の飲食店等は、トーチカに近い造りの塹壕を備え。

 弾薬や銃火器を常備して、素早く篭城戦が出来る様になっている。

 中部州や西日本では、要塞都市型の復興が法令で義務付けられている関係上。

 その造りは非常に頑丈だ。

 

「店長、奴は動きましたか……」

「いや、奴はまだだ……」

 

 店員はモニターに映る、防犯カメラの映像を覗き込む。

 モニターにはオドオドしながら宙を舞う、妖精型無人機とその取り巻き達の姿が映っている。

 アゲハの同行者である取り巻き、特別軍事法人NEETの社員が忙しそうに、拳銃片手に端末で外部と連絡を取っているようだ。

 部外者がこの映像だけを見たら、完全に彼らは身代金を要求する強盗やテロリストにしか見えないであろう。

 

 そして残っている客は、完全武装のPMC要員や市警察の皆様。

 食事を終えた皆様は、ガンポートに近付き。

 ブラインド射撃の姿勢を取る。

 今時こんな状況での照準や射撃はゴーグルに映る、ガンカメラの映像越しにやる。

 体を射線上に晒さないので、反撃されてもある程度は安全だ。

 だが、みんな何故か…………笑っているようだ。

 

 

 …………

 

 

 モビアック食品がゲノム編集や養殖技術の進歩、何より調理技術の劇的な進歩で一般に普及し始めた、第三次世界大戦後。

 この時代……虫ばかりを食わす店に衣替えを遂げた。

 とあるファーストフード店がしぶとくも、第三次世界大戦を生き残り。

 

 世界規模で事業を展開していた。

 

 そのファーストフード店は大戦前、消費期限の切れた鶏肉を使ったりして、消費者の不評を買い、店員がSNSにアップした、マウスな画像で客が離れたりなどして、評判や売上も波乱万丈であった。

 他にも少々怖さも備えた、マスコットキャラで有名だったっりもしただろう。

 

 ある時は某国の企業活動を監視する消費者団体から、小児肥満を促進しているとして抗議をされ。

 しかも、そのマスコットを名指しで広告活動の自粛を要請される、何やら苦い過去を持っていた。

 最もそんな事を覚えているのは、そのマスコットのランランでルールーな、MAD動画を見るのが趣味な輩か、一部の長生きしている。

 暇な投資家(トレーダー)ぐらいであろう。

 

 とはいえ、モビアックと言えばこの店舗を何となく、万人が思い浮かべる程にこの企業は知名度。

 それに見合う価値は……世に生み出していた。

 

 

 ――――向かいの店舗――――

 

 

 客で溢れる店内を駆け抜ける、一人の若い女性店員がいた。

 彼女は厨房からスクランブル発進。

 愛機へ向かう戦闘機パイロットの如く、店内を疾走。

 

「うぉおおおおおお!」 

 

 その口からは、ジェットエンジンの排気の様な唸りを搾り出し。

 客の列を完全無視して、自動ドアを抜け――――華麗に宙へ跳び上がり。

 一筋の飛び蹴りを――――要塞と化した、向かいの店舗に放つのだった。

 

 ドゴン!

 

「おらぁあああ!」

 

 機銃弾ですら防ぐ、強固な防弾板を蹴りで凹ませた、女性店員は体を宙で捻り、スタッと着地。

 地に降り立った彼女は上半身をボクサーの様に激しく動かし。

 束ねた金髪をかつて握っていた『刃』のように振り回す。

 彼女は只ひたすら――――ガガガンガガガン!

 鋼鉄の壁を「アタタタタタ!」叫びながら拳で殴り続けていく。

 

 

 

 その姿は剣を捨てた、一人の女騎士の姿だった。

 

 

【後書き】

次の更新は某大賞への応募が終わる、八月の連休中を目指しています。

その時には、最終章、人物紹介、最終話まで出来ていると...いいんだけどな(汗)

公私ともに落ち着くといいのだけど...

読者の皆様、今後も本作をよろしくお願いします。

 

 

【免責事項】

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このファイルは「小説家になろう」の小説バックアップ機能を用いて作成されました。

作成日時: 2018-07-30 23:36:19

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