お得意さんへの寿司を宅配中あまりの空腹につまみ食いをしてしまう。しかしそれがバレてしまう。しかもそれはお得意さんの大好物だった…。
 
=====
 
キャプションが改変の余地もない程つまらないんですが、許してください、なんでもしますから!
ラブライバーのみなさまには申し訳ないことをしたと思う。しかし、私は謝らない!

1 / 1
職場猥褻白書 ~寿司職人見習いVSエセ関西クレーマー

 ◆ ◆ ◆

 

 松田(まつだ)大(まさる)が人生初めての職場に寿司屋を選んだ決め手。それは別に、寿司職人としてこれからの人生を全うしたい…と云った目標意識ではない。

 ただ単純に、お寿司を食べるのが好きだから――たったそれだけの理由である。

 

 大は高校卒業後、進学も就職もせず、所謂"ニート"として2年間を過ごした。

 在学中には取り立てて打ち込むことも見つけられず、部活動にも所属せず、かと言って勉学に励むワケでもない。ただただ惰性でその日その日の生活を送るだけの毎日を過ごしていた。

 留年ギリギリの状況でやっと3年生に進級できたころ。家族からも進路指導の教師からも「将来の事を真剣に考えるべきだ」と耳にタコが出来るほど言われたものだが。その言葉は大の骨身に響くことなく、惰性は卒業式を終えても止まることはなかった。

 「これがこの子のペースなのよ。他人(ひと)よりノンビリしてるとは思うけど、やれば出来る子だわ」

 在学中からずっと、母親はそう言って大の事を庇(かば)ってくれた。しかし、弟が大学進学を推薦入試で決めた事を期に、彼女の態度も一変した。

 「もう2年も考える時間があったんだから。そろそろ何かしたらどうなの?」

 父親は諦観した様子で大のことを冷たく見下し、沈黙を貫いていたが。母の態度が変わったのと同時期、彼の堅い口からもトゲトゲしい言葉が飛び出すようになった。

 「父さんは、いつまでも脛(すね)を齧(かじ)り続けるニートを、何時までも飼う気なんてないからな。

 この家から追い出してでも、お前を社会に放り込んでやる」

 自堕落な生活を愛する大にとって、家を追い出されるのは望むことではない。只でさえ外界の諸々への興味は薄く、やる気がないのだ。一人暮らしをさせられて、身の回りの全てを自己責任で管理するなど、想像するだに恐ろしい。

 ――何とか、この苦境を打破できないか?

 焦燥と苦悩に苛(さい)まれていたある日。回転寿司屋で外食することとなった時のこと。

 奔流を飲み込む滝壺のように、次から次へと寿司を腹の中に収めてゆく大を見て、家族が苦笑を浮かべた。

 「大ってば、お寿司を食べることだけには情熱があるのよね」

 「そんなに寿司が好きなら、寿司屋にでもなれば良いだろうに」

 その言葉を耳にして、大はハッと閃く。

 ――そう、寿司屋だ!

 大好きなお寿司に囲まれれば、テンションは上がりっぱなしになるはず! 多少嫌な事があっても、お寿司と一緒に居られると思えば、乗り越えられる気がする!

 それから大はすぐに従業員を募集している寿司屋を探し、正社員登用性のあるバイトスタッフとして現在の職場に就職したのである。

 

 …しかし、大はすぐに痛感する。

 服を着るのが好きなものが、服を販売することも好きとは限らない。同じ"服"と云うキーワードで繋がっているように見えても、両者は全く別種の行為。前者をファッションを楽しむという観点から娯楽と捉えるとすれば、後者は1円単位の計算違いも血眼になって見直す商売である。

 それと同じく…寿司を食べることと寿司を提供することは、全く別種の行為であるということを。

 確かにいつでも寿司を目にすることは出来るものの、それを食べるのは飽くまで客。美味しそうに頬張る姿を横目に、大がやることと言えば、食器洗いやら出前配達ばかり。まかないで寿司が出ることはあっても、偶(たま)の偶(たま)さか。しかも、口に出来るのは商品に出来ないクズにも等しい部分だけ。

 仕事内容だけでも楽しみが少ないと言うのに、親方や兄弟子達の厳しさが日々の苦痛に拍車を掛ける。

 「その程度の洗い物、とっとと終わらせろよ!」

 「チンタラ走り回ってンじゃねーぞ! 出前は時間との勝負なんだぞ!」

 逐一の指示を罵声のように喚き散らす、完全な体育会系の職場。打たれ弱いとされるニートには酷な職場であるものの、大は欠勤することなく3ヶ月間勤め上げていた。

 

 大がストレスの多い環境下でも、辞職することなく仕事を続けられた理由。それは、彼の惰性的な性格による。

 辛く苦しい状況だろうが、自分から何かを変えようと動くことは決してない。「こんなものなんだ」とぼんやり自分に言い聞かせ、2年間ニートを続けた図太い神経で説教を右から左へと聞き流す。そんな剛胆とも言えるマイペースが幸いしてのことだ。

 本質的に鑑(かんが)みれば、誠に志が低いこと極まりないのだが。家族を含めた周囲が、勝手に好意的な解釈をしてくれたのもプラスに働いた。

 「やれば出来るんじゃないか。弱音も吐かずにキチンと続けているなんて、偉いぞ」

 「このまましっかりと修行すれば、独立してお店を持てるかも知れないわね! お母さん、大の握ったお寿司を食べてみたいわ~!」

 両親はそう言って褒めちぎってくれるし、職場でも親方が笑いながらこう評価してくれる。

 「直ぐに音を上げて、一週間とも保たねぇもやしが多くて困ってたんだがよ。お前は見た目によらず、根性ある奴じゃねぇか!」

 怒られるよりは褒められる方が当然、気持ち良い。大は褒め言葉を素直に受け取りながらも、低い志を是正することなく、内心では愚痴りながらも、外観ではロボットのように淡々と日々の仕事をこなし続ける。

 

 そんなある日の事。正午間際に、大は親方から呼び出しをくらった。

 (…今朝の食器洗いの手抜き、バレたのかな…?)

 そんな事を考えながらも、ビクビクするでなくボンヤリした様子で親方の元に向かう。

 待っていた親方が憤りの表情をするでなく、普段通りの厳(いか)つい面持ちで大を迎える。用件はどうやら、手抜きに関する叱責ではないらしい。

 「出前だ」

 「はぁ」

 覇気なく大は応える。今日は出前に出突っ張りで、うんざりと疲れている。そこに改まって「出前」と言われると、力が抜けて仕方ない。

 「なんだ、その腑抜けた顔は。不満か?」

 そう問われると、大は後頭部を掻きながら、良くも悪くも素直に胸中を晒す。

 「朝から出突っ張りだったんで…。またか、と思っただけです…」

 すると親方のこめかみにビクリと青筋が浮き上がる。

 「仕事ってのはな、やりたいことだけやれるってモンじゃねーぞ! やりたくなくても、やらなきゃならん事がある! それやり遂げて、初めて金が手に入るンだよ!

 3ヶ月も勤めてンのに、そこンとこまだ理解してねーのか!」

 「はあ…すみません」

 謝罪の言葉を口にするも、大の態度はやはり覇気がない。彼の褒められない特技、"耳に痛い話は左から右へ"が実践されている証拠である。

 親方はそんな大の性質(さが)を理解しているようで、はぁー、と深い溜め息を吐いて首を左右に振る。それでも、直ぐに辞めてしまう根性無しよりはマシだと結論付けたのだろう。すぐに表情を改めて、話を続ける。

 「お前は"またか"と言っていたが、今回の出前は一味違うぞ。この3ヶ月間勤め上げたお前だからこそ、任せる仕事だ」

 「一味違うって、どんな風ですか?」

 熱意のこもった親方の口振りを無視できるほどに、大は無味乾燥な人間ではないようだ。流石に聞き返すと、親方は鼻の下を人差し指で擦りながら答える。

 「今回の出前先は、ウチの店でも"超"が付くようなお得意様だ!」

 それの言葉を聞いた途端、大の顔が夕立の空模様のように曇る。

 ――なんだ。相手は違えど、突き詰めれば結局のところ、ただの出前じゃないか。

 胸中でそう一蹴した事を見透かしたのか、親方が片眉を跳ね上げ、少々早口でまくしたてる。

 「本来ならな、お前程度のペーペーの新人に任せるような相手じゃないんだぞ! 東條さんはな、ウチの店を大層気に入ってくれてな! 特上寿司だけを、週に数度も頼んでくれる方なんだぞ!

 店の売り上げに直接響くような、重要なお客様だ!

 そんなお客様への出前を任せるということが、どれほど重大な仕事か! 店の全信頼をお前の肩に掛けているということなんだぞ! 分かるか!?」

 「…分かります…」

 俯きながら返事する大の態度は、やはり、露骨に覇気がない。

 親方の熱意は分かる。だが、仕事に対してやりがいを一切見い出さず、純粋に惰性で続けている身の上としては、そんな熱意は少々うざったいだけだ。

 (そんな説教よりも、とっとと道順教えてくれよ…。

 そろそろ昼飯時じゃんか、腹減って来たし、早く終わらせたいんだよ…)

 そんな思考も表情にダダ漏れしていたのだろうか。親方はますます顔を怒らせて、仕事のことのみならず、社会人としての自覚だの労働者としての責任感だのについて言及し始める。

 …まぁ、毎度のごとく"左から右へ"聞き流すだけなのだが。

 親方も仕舞いには、騒ぐだけ時間を浪費するだけだと覚る。疲れ切ったように、はぁー、と深い深い嘆息を吐くと。兄弟子から道順を聞くように、と大に言いつけて、出前の寿司を握り始める。

 数十分後。見事な漆塗りの器に、庭園の花々のように握り寿司を飾り並べたものを、ラップでパリッと封をすると。もう一度大を呼び寄せ、両の手でしっかりと手渡しする。

 「良いか。失礼のないようにするんだぞ」

 親方は、大の揺れ動く双眸を見据えて、堅い口調で語る。

 「別に、素晴らしい敬語を使う必要はない。ですます口調がちゃんと出来さえすれば、それで問題はない。

 ただ、明るく、元気良く振る舞うこと! これだけは絶対に忘れるな! 多少のボロが出ても、好感の持てる態度さえ出来ていれば、お客様は許して下さる!」

 「はあ、分かりました」

 大は返事した直後に、胸中で付け加える。

 (いつもの話じゃんか。聞き飽きたっての)

 

 こうして、大は出前に出発する。

 

 高校卒業から就職までの空白2年間の間、完全に自堕落な生活を送っていた大は、自動車はおろか原付の免許も取得していない。ゆえに出前は、自転車を用いて行う。

 多少揺れても落ちないよう、荷台に寿司をシッカリと括(くく)り付けてから、ペダルを漕ぐ。

 この移動方法は3ヶ月の間ずっと続けて来たのだが、その度に「原付の免許を取っておけば良かった」と後悔する。というのも、店の周囲は坂道が多いからだ。加えて、親方からは「出前迅速!」と厳命されているので、必死にペダルを漕がねばならない。

 お陰で、この3ヶ月の間に脚周りの筋肉は付いた気がするが…どれほど脚が鍛えられようとも、疲労は付いて回る。

 しかも今回の出前は、普段よりも距離が長く、坂道も多い。大は額に玉の汗を光らせながら、眉根を曇らせつつ、ペダルを漕ぎ続ける。

 (…これから毎回、こんな道のりを自転車で走るなんてゴメンだな…。

 今度こそ、自動車学校に行こう…)

 そんな文句を胸中で呟き、ペダルを漕ぎ続けること十数分。兄弟子に教わった出前先のマンションにたどり着く。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 そこは、少々古くさい外観のマンションである。

 毎度毎度、高価な特上寿司を頼む客の住む場所なので、どんな煌びやかな建物かと期待していたのだが。実際に目にしたのは、古びて色褪せたコンクリートの外壁を持つ、面白味のない建造物である。

 エントランスには、特にセキュリティシステムが設けられていない。何かと物騒な現代においては、誠に不用心な造りであると言わざるを得ない。古ぼけた外観から鑑(かんが)みるに、管理組合がセキュリティシステムの設置費用を出せない程に貧弱なのかも知れない。

 目的地は、このマンションの高層階だ。迷わずエレベーターを使おうとするが…大は思わず「ゲッ」と口に出してしまう。

 エレベーターは修理工事中で、使用不可能なのだ。

 ”大変ご迷惑をおかけしますが、階段をご利用下さい”と書いてある看板が、嫌らしく視界に映る。

 「ホント、迷惑だっての…!」

 舌打ちしながら呟いた大は、ペダルを漕いで疲れた脚に鞭打ち、階段を目指す。

 

 ダンダンダンダンッ!

 苛立ちを写し取ったような喧(やかま)しい足音を立てながら、大は駆け足で階段を昇る。

 ゆっくり昇っても差し支えないはずなのだが、ダラダラと階段を昇ってしまうと気が滅入ってしまい、接客時の態度が悪くなってしまうだろうと自己判断したのだ。加えて、親方の「出前迅速!」の厳命も脳裏を過ぎる。

 目的地まであと3階…と云うところで、大の脚が止まる。全力で階段を駆け上がったために、脚がパンパンになってしまったのだ。

 「フゥー…」

 踊り場に立ち尽くし、荒くなった息を長い深呼吸で整えながら、白い[[rb"割烹着>かっぽうぎ]]の袖で額を拭う。"玉"の状態を通り越し、ベタベタに濡れ広がった汗は、袖をグッショリと濡らす。

 「…腹減ったな…」

 疲労への怨恨を込めながら、大は呟く。本当は「疲れた」と言いたいところだが、やはり気が滅入りそうだったので、別の言葉を口にしたのだ。

 それに、普段ならばとっくに昼休みを迎え、まかないを口にしている時間なのだが。今日に限って休む間もなく、いつものより倍以上も疲れるような仕事をやらされている。腹が減るのも当然と云うものだ。

 大は、両手に抱えた寿司の器をマジマジと見やる。疲労と空腹が現実から逃避するかのように、視線を動かしたのだ。

 見事な漆黒の漆塗りの器の中には、花束を思わせるような寿司が美しく隊列を組んで並んでいる。

 その光景を眺め、大はゴクリと生唾を飲む。

 (すげぇ美味そう…)

 鮮魚の赤や白の切り身が、プリプリに乗った脂で虹色の輝きを呈している。程良く締められた酢飯のツヤは、器を夜空に見立てれば星々のように煌びやかだ。

 舌の上に乗せなくとも、視覚だけでも十分に味わいが伝わって来る光景だ。

 …ぐぅ~、と大の胃袋が情けない音(ね)を上げる。親方が握った芸術的な作品が、彼の空腹神経を刺激して止まないのだ。

 

 空腹…つまりは食欲は、動物の本能に基づく生理欲求である。人間はそれを理性で抑え込める動物ではあるものの、その実現には多大な努力が必要だ。

 自堕落な性質(さが)の持ち主である大に、そんな努力を求めるのは、"酷"と言うよりも"愚行"と言うものだ。

 

 「…一つくらい、食べてもバレへんか…」

 大は関西出身ではないものの、逸(はや)る食欲に気圧されてか、はたまた一握の罪悪感を感じてか、妙な関西弁が口から飛び出す。

 その言葉を口にしてから、もう一度ゴクリと咽喉(のど)を鳴らすと。意を決して、器をピッチリと守るラップをメリメリと暴力的に引き剥がす。

 露わになった、彩り豊かな握り寿司達。その脂の乗った具材に舌舐めずりしながら、さて何を口に運ぼうか、思案する。

 朝露に濡れたバラの花のようなトロが良いかな? 初雪のように煌(きら)めくヒラメが良いかな? 真夏のヒマワリのように健やかでプリリとしたウニも良いなぁ! いやいや、それとも桜のように甘い美しさを放つエビも良いだろう!

 目移りしながら品定めしていると、なけなしの理性が、ちょっと待てよ、と胸の内をチクリと刺す。

 しかし、理性は大の食欲を引き留める程に強靱ではない。食欲には完敗しつつも、こんな事を助言する。

 (あまり目立つ物を食べてしまうと、客にバレてクレームを受けることになるぞ)

 そこで大が目を付けたのが、花々のように美しい寿司の顔ぶれの中で一つだけ、洋風の荘園の中にポツリと置かれた日本庭園の岩のように異彩を放つ存在。――いなり寿司だ。

 (こんな安物の一つ無くたって、特上寿司の名に傷なんてつかないさ)

 大は独り頷いて納得すると、迷うことなくいなり寿司に手を伸ばし、ムンズと掴み上げる。

 そして、大口を開けて、いなりを一気に半分、噛み千切る。

 直後、大の双眸が感激の輝きを放ち、ギュッと収縮する。

 (美味ッ!)

 程良く甘辛に味付けされた、ジューシーな油揚げ。そこに絶妙の度合いで締められた酢飯が絡み、口の中一杯に甘みが広がる。

 最近のスーパーで売られている総菜のいなり寿司では、酢飯にゴマが混ぜられて風味を豊かにしているが。親方が精魂込めて作り上げたこのいなりでは、ゴマは却って不純物になってしまうだろう。そう思える程に、油揚げと酢飯だけで完結させられた世界がそこに在る。

 (親方も、こういうのをまかないにしてくれりゃ良いのに…! 寿司屋のくせして、いっつもうどんばかり食べさせやがって…!)

 そう毒づきながらも、舌を蕩(とろ)けさせる美味は、大の表情をニタニタとした微笑みに緩ませる。

 もう一口で残り半分を胃袋に収め、大は幸せな嚥下で咽喉(のど)をゴクリと鳴らす。

 ここまで来ると、熱いお茶が欲しくなってくるが。出前の最中にそこまで望むのは贅沢に過ぎる話だ。

 (…あ、そうだ! 出前、サッサと終わらそう!)

 空腹を美味で紛らわし、ひとまずの満足を得た大は、蘇った理性に急かされる。外したラップをぞんざいに器に被せると、両手でシッカリと抱え、再びダンダンダンダンッ! と喧(やかま)しい足音を立てて階段を昇る。

 

 ――この時、大は思いも寄らない。

 目立たないと思っていなり寿司を選んだ事が、却って裏目に出てしまったという事を。

 思慮深い者ならば、少し考えて覚(さと)ることだろう。普通、特上寿司の顔ぶれにいなり寿司は入らない。握り以外の寿司で存在するとすれば、鉄火巻きくらいなものではないだろうか。

 だとすれば、ここに在った"いなり寿司"の存在は、至極異質なものと言えよう。

 そして、その異質な存在を警戒心ゼロで飲み下してしまった結果、幸か不幸か判し難い騒動の火種となることも、大は知る由もなかった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 マンション内の通路は外観同様、古ぼけた印象が強い。

 コンクリート製の壁は薄汚れていて、ヒビを補修した痕が幾つも見て取れる。元は小綺麗だったはずのタイル張りの床は所々が剥がれ、砂屑のようになった破片が不衛生さを醸(かも)し出す。

 個々の部屋の扉は緑塗りの金属製だが、塗料を裂いて錆が盛り上がり、悪い意味での年季の入りようが窺(うかが)える。

 とてもではないが、週に何度も特上寿司を頼むような富裕層を想起させる内装ではない。

 とは言え、客がこんな場所に住んでいるのは可怪(おか)しい…とは言い切れない。最近になって俄(にわか)に事業に成功した者かも知れないし、長年住み着いていて深い愛着が沸いていて転居する気になれない者かも知れない。

 ――しかし、大にとっては客の事情などどうでも良い。さっさと仕事を終わらせて、店の中で一息吐きたい…という事ばかり脳裏に浮かんでいる。

 小走りに通路を走ると、やがて"東條"と云う表札の書かれた扉を見つける。目的の場所だ。

 (よしっ)

 大は早速呼び鈴を鳴らすと、軽快なピンポーン、という音が扉越しに響き渡る。

 呼び鈴は勿論、モニター付きのような高性能なものではなく、単純にチャイムを鳴らすだけのものだ。故に、部屋の主のパタパタという足音が直ぐに聞こえてくる。

 ガチャンッ、と鍵を回す音が響くのと同時に。

 「は~い」

 と、柔和な声が聞こえてくる。声の主は、若い女のものだ。ちょっと間延びしたようなおっとりした調子は、口に含んだマシュマロを思わせる和やかさがある。関西出身者を思わせる独特のイントネーションがあるが、それが却って田舎風情のある母性を添えている。

 「毎度ー、寿司屋でーす」

 大は努めて明るく、元気良く挨拶する。すると、ギイィッ、と錆びた音を立てて扉が開き、部屋の主が姿を表す。

 「ごくろうさ~ん。はい、どうぞどうぞ~。入って、入って~」

 一言目と同様に関西系のイントネーションで歓迎を口にする、部屋の主。その姿を目に焼き付けた大は、思わず口がポカンと開き、頬が熱くなるのを感じる。

 そこに居るのは、女神だ。

 ――いや、本当の意味で神話の世界の住人が居るワケではなく、勿論例えなのだが。彼女の"女神"と呼んだとして、拒絶する者が果たしてこの世界にどれほど居るだろうか? …そんな疑問が沸くような美少女が、眼前に微笑んでいる。

 古びた内装の中で尚輝いて見える、艶やかな長い髪。抱き締めると、腕が何処までも沈み込んでゆくような柔らかさを思わせる、少々ぽっちゃりした体型。陽の光の元でたわわに実り、はちきれんばかりの瑞々(みずみず)しさを呈する、胸の双丘。大地の豊穣の女神が具現化した御姿(みすがた)が、そこにある。

 そして印象深いのは、顔だ。美人というより可愛い系の面立ちは、バラやユリというよりも、可憐ながらも力強く咲き誇るスミレを思わせる。特に目を引くのは、ぽってりと膨らんだ下唇だ。紅を引いたようなハッキリとした桜色をした唇は、通路の電灯の輝きを神格の後光に変えて照り返す、神秘にして艶ややかな、完璧な唇である。

 (すげぇ…ヘタなアイドルだとか、モデルだとか、目じゃねぇよ…!)

 茫(ぼう)っと見取れたまま突っ立つ、大。そんな彼を部屋の主――東條希は小首を傾げて眺めていたが。すぐに大が両手に抱えた寿司を見つけると、ポン、と両手を叩く。

 「わぁー、お寿司やん! ありがとう、ありがとう!

 あれ? ということは、新人さんやのん? 見たことへん顔やけど?」

 希の声に大はハッと我に帰ると、見入っていた事実に恥じて照れ笑いを浮かべながら答える。

 「はい、まだ見習いなんです」

 「そうなんや~!

 そちらのお寿司屋さん、いつもおじさんばかり来るやん? だから、若い店員さんが来るの珍しくて、ついつい声かけてしまたん。

 いくつなのん?」

 純然とした関西弁とは明らかに趣の異なった、ちょっと可笑(おか)しな話し方だが。これが却っておっとりとした口振りと良くマッチして、希の魅力を引き立てている。

 早春に吹く、清涼な冷たさを含んだ微風のように耳をくすぐられて、大の顔はだらしなくニヘラと崩れる。

 「まだ、二十歳(はたち)なんです」

 「へぇ~! ウチとあまり変わらないやん! ウチ、18やから、2つしか変わらんやん!

 それなのに、こんなに立派にお仕事して、偉いわぁ~!」

 「い、いや、そんな…」

 大は物心ついてからと言うもの、これほど褒めちぎられた記憶はない。あまりにも恥ずかしくなって、後頭部に手を回しそうになる。

 そこで、自分の両手が配達の寿司を抱えていることに気付く。

 「あ、これ、ご注文の特上です」

 「はい、ありがとう!」

 大が寿司を渡す時、希の指先が大の手の甲に触れた。

 なんてきめ細やかな触感か! 瑞々しさに溢(あふ)れた体型に見合った、はちきれんばかりの柔らかさ! そして、吸い付いてくるようなしっとりとした指先!

 (こんな娘(こ)と一週間に何度も会えるなら…出前も、悪くないよな…!)

 自堕落で惰性的な大であるが、この時ばかりは脳裏に活発な理想が…いや、妄想が膨らむ。

 ――今の会話を鑑みる限り、初対面での印象は上々だ。年齢が近いということも好感に一役買ってくれたようだ。このまま毎回顔を合わせていれば、もっと打ち解けていけるはずだ。その内、こちらに興味を持ってくれて、プライベートでも関係が持てるかも知れない。そして…こんな美少女を彼女に出来る好機が訪れるかも知れない!

 グフフフ、という下心丸見えな笑いがもうちょっとで口から飛び出すところだったが。そんな汚点を晒さずに済んだのは、希の何気ない動作である。

 「頑張ってねん!

 はい、これはお代や。丁度用意したはずやけど」

 希が硬貨を幾つか乗せたお札を差し出す。そこで大は再びハッと我に帰り、少々マゴついた手つきで代金を受け取る。

 「頂きます!」

 "どんな事があろうとも、金勘定はしっかりやること! 商売の世界は何と言っても金だ! 金勘定を間違えば、どんなに努力して築いた信頼も一瞬で崩れるぞ!"というのは親方の言葉だ。しかし舞い上がった気分の大の心に、この言葉は響かない。ロクに数えもせずに、腰元のポーチに収めてしまう。

 事実、希の渡した金額は丁度だったのでこの時点では問題にならなかったが。一歩間違えば、店長直々に詫びを入れる事態にも繋がりかねない状況であった。

 そんな自省など露とも考慮せず、大はヘラヘラとした笑みを浮かべながら、軽い足取りで踵を返そうとする――。

 その時だ。手渡された寿司に視線を投じていた希から、語気の強い声が放たれたのは。

 

 「ちょっと待ってん!」

 

 大はビクッと体を硬直させて、動きを止める。それまでのおっとりとした希とは打って変わった、雷撃とも比喩できるような声に鼓動が跳ね上がったのだ。

 「お…? どうしました?」

 平静を装い、笑みを絶やさずに振り返り――ギクリ、と表情が固まってしまう。

 大の視界に映った、希の表情。それは柔らかな頬がプクッと膨らみ、垂れていた眉尻がキッと上がった、鋭い表情。どう見ても、怒りのそれである。

 「何やの、これ!?」

 希は寿司を突き出し、指差しながら荒げた声を上げる。

 「いなりが入ってないやん!

 どうしてくれんのん、これ!?」

 いなり。この言葉を聞いて、大の表情がますますギクリと強張る。

 絢爛豪華な握り寿司の花園の中、端役だと一蹴したその存在が、ピンポイントで名指しされた!? その事実が、思慮浅い大に滝のような冷や汗をブワリと誘発する。

 「や…すみません」

 余りのバツの悪さに口ごもる、大。そこへ希は憤りの表情を張り付けたまま、荒い語気で畳み掛ける。

 「ウチの注文通ってなかったん!?

 毎度同じもの頼んどるのに、入れ忘れたん!? アンタんとこの店、ウチの事軽く見てるとちゃうのん!?」

 希の頬を膨らませた怒り顔は、傍(はた)から見ると、膨れたお餅のような和やかさが在って可愛らしい。大も疚(やま)しささえなければ、希の表情をホンワカとした気持ちで楽しめたというのに。

 額をジットリと流れる汗の玉をそのままに、どぎまぎした吃音気味の声で言い繕う。

 「い、いえ、そ、そ、そげなことは、ないですけど…」

 あまりに気が動転して、妙な喋り方になってしまう。鼓動は狂ったように速く打ち、制服越しにも胸の上下が見て取れそうなほどだ。

 「だけど無いやん、いなりが!

 いなりを食べたかったから、わざわざ特注したんよ!? 何で無いやん!?」

 そう、いなりは端役などではない。特上の顔ぶれの中で異質に見えたその存在こそ、漆塗りの舞台の主役であったのだ!

 (ど、どうする…?)

 大は唇をモゴモゴと動かしたり、拳を開け閉めしたりして、状況の打開を考える。

 …だが、思慮浅い大が、窮地の中で上手い打開策を考えつくワケがない。それよりも、考えれば考えるほど、墓穴を掘ってゆく自分の姿ばかりが思い浮かぶ。

 店の所為(せい)にして、この場を切り抜ける策が真っ先に考えられる。だが、希が即座にクレームをつけようと店に電話した時点で、事実の齟齬(そご)が明るみに出てしまう。すると客からの怒りだけでなく、店からの信頼も失ってしまう。盗み食いの罪状に加えて、嘘吐きのレッテルまで張られてしまう。こうして大の店内での信頼は致命的なまでに失墜し、職場どころか家庭にまで波及してしまうかも知れない。…地獄のような毎日が始まってしまう。

 そんな最悪の事態になるよりは…素直になる方が、よほどマシだ。

 そう結論付けた大は、覚悟もそこそこに怖ず怖ずと唇を震わせながら、真実を口にする。

 「僕がさっき…食べちゃいました」

 「食べたん!?」

 希の悲痛な叫びが鼓膜をつんざく。大は反射的に腰を曲げて、謝罪する。

 「すいません」

 「ウチのいなりを食べたん!?

 この…中の、中で!?」

 "中の中"と云う言葉は客観視すれば意味不明な言葉だが、ニュアンスを掴むことは容易であった。"配達先のお客が住むマンションの中、お客の部屋が目と鼻の先に在るような場所の中で、厚顔無恥にも人様の物に手をつけたのか!"という非難が込められている。

 「はい…」

 大が俯きがちに認めると。希は眉尻を上げたまま、はぁーっ! と吐き捨てるように溜め息を付くと。ミニスカートのポケットの中から、スマートフォンを取り出す。年頃の女の子の例に漏れず、可愛らしくデコレーションされたカバーと、大きなマスコットのストラップが目を引く代物だ。

 希は慣れた素早い手つきで画面を操作しながら、桜色の唇から辛辣な言葉を浴びせる。

 「親方に連絡させてもらうかんね」

 「!!

 や…! それだけは!」

 希の言葉のトゲに電撃でも受けたように、大は土足のままで希の部屋の廊下に上がると、希の細腕を掴んで電話させまいと奮闘する。

 しかし希も激しく身をよじったり腕を振り回しながら、大を振り払おうとする。

 「何やのん!

 いなり食べたのは、アンタやん! 電話させてもらうんやから!」

 「親方だけには…! クビになっちゃうんで!」

 「良いやん! ウチのいなりを盗(と)ったんやから、クビになったら良いやん!」

 「それだけは!」

 「これだけは許せへんし!

 いなりを盗っただけでなく、乱暴まで働くしっ!」

 「いや…!」

 「もういいやん、離して!」

 2人の奮闘が続き、埒(らち)は明きそうにない。それに、希の言った"乱暴まで働く"という言葉が、大の胸中深くにグサリと突き刺さった。

 確かに、このまま暴れてお客に怪我までさせてしまえば、社会的どころか物理的な罪状まで増えてしまう。

 それでも、親方に連絡されて、折角なんとか上手くやれている職を失ってしまうのは避けたい!

 一体どうするべきか。考えあぐねた大が導き出した答え、それは――。

 「すいませんっ!」

 玄関口まで戻ると、その場で正座をし、地面に額を擦り付けて土下座することであった。

 誠心誠意を尽くして謝罪し、情に訴えることが出来れば、お客は思い留まってくれるのではないか!? その算段は不確定極まりないが、これ以外に縋(すが)れる方策など、思い付かなかった。

 酷く無機質に断じれば、大の行動など希に何の益ももたらさない。食べられたいなりの分の代金を返してもらうからと言って、それはマイナスがゼロになるだけだ。今この場で食べたかったという希望を無為にされた事実は消えないし、埋め合わせられもしない。

 だが、大のなけなしの考慮による行動は、幸いにも希の心に届いたようだ。

 「そんなん…土下座されても…。

 なんだか、ウチの方が悪者みたいやんか…」

 眉根を寄せて溜め息を吐く希の言葉からは、荒々しい覇気が消えて、代わりに萎(しぼ)んだ戸惑いが露わになっている。

 「…顔を上げてやん」

 バツが悪そうに希が指示すると、大はキビキビした態度で上体を起こし、ジッと希の顔を見据える。

 大としては精一杯、真摯な表情を作ったつもりだ。その努力が届いたのか、希はちょっと視線を逸らしながら、唇を尖らせて問う。

 「アンタ、いなり作ったことあるのん?」

 「いや、僕はまだないです」

 「作ったことないのに、つまみ食いしたん!?」

 希の物言いは、まるで作った経験さえあればつまみ食いも許すかのような言い分だ。しかしこれは、激情の勢いに任せて口から出た言葉であって、決して真に受けたり、ましてや揚げ足を取ったりしてはいけないものだろう。

 思慮浅い大でも流石にその辺りの空気は読めたようだ。目を伏せて黙(もだ)す動作で、非を認める。

 すると希は、呆れ果てて憤りを通り越して滑稽さでも感じたのか、ハンッ、と鼻で笑う。

 「仕方ない人やねー。

 そんならなー、これから一緒にいなりを作ってくれたら、今回の事は親方に内緒にしてあげるわー」

 「え…!?」

 想像だにしない和解の条件に拍子抜けした大は、思わず頭を上げる。

 「そんな事で良いんですか!?」

 訊き返すと、希は見下すような嗤(わら)いを湛(たた)えて首を縦に振る。

 「ちゃんと一緒に作ってくれるん?」

 「はい!」

 大の声が弾んでいたのは、安堵だけでなく、"しめた!"という下心ある喜びによる。

 愚かで自堕落な大は、希の提案をこんな風に安易に捉える。

 (いなりなんて、油揚げにご飯包むだけだろ? 握りみたいに魚の鮮度だの切り口だの気にすることないし!

 楽勝じゃんか!)

 しかし、高(たか)がいなりだが、されどいなり、だ。本当に美味しいいなりを作るには、それなりのセンスと技術が必要だ。鮮魚に劣らぬ旨みが染み出す揚げを作ることも、揚げの味を引き出す歯ごたえのある酢飯を炊き上げることも、一筋縄ではいかないものだ。

 冷や汗で真っ青になった顔色からケロリと一変、泣き顔に飴を差し出されて笑う幼子のように目尻を垂らして頬を緩ませる大の表情を見れば、誰にでも底の浅さが覚(さと)れるというものだ。

 しかし希は、そんな事を知ってか知らずか、ちょっと機嫌を直すと、豊かな双丘を見せつけるように胸を突きだして人差し指を立てる。

 「うん、それなら良いわ。

 中入り」

 「はい!」

 大は即座に希の部屋の中へと駆け込もうとするが、ここでなけなしの理性が働いてハッと冷静になる。

 (折角機嫌を直してくれたんだし、印象悪くしちゃダメだよな)

 玄関に一歩踏み入ると、すぐにクルリと踵を返し、乱暴に脱ぎ捨ててしまった靴を揃えて置く。

 (こういった細やかな心遣いが、お客さんに良い印象を与えるんだよな)

 散々印象を損ねておいた身の上だというのに、ベテランにでもなったような気分で自分に言い聞かせ、独りで納得する。

 そして改めて踵を返し、いざ部屋の主の後を追おうとして…。

 「…?」

 大の頭の上に疑問符が浮かぶ。

 振り向いた視界の先にあったのは、スプレー缶の射出口のドアップだ。

 (え、何これ…)

 状況を把握するよりも早く。射出口はプシューッ! と音を立てて、無色透明な気体を噴出する。呼吸とともに鼻孔へ吸い上げると、ドギツい柑橘類にも似た粘膜を痛めつける刺激臭が鼻の奥から頭蓋にまで突き抜ける。

 「うっ…!」

 思わず呻いて頃には、大の四肢から完全に力が抜けていた。

 視界が急激にグニャリと歪み、暗い陰に覆われてゆく。思考が泥のように溶け、脳内は強烈な眠気一色に染まってゆく。

 消えゆく視界の中で、大は希の三日月のように細く曲がった、妖艶なる笑みを見たような気がした…が、その記憶は暗黒の忘却の底へと追いやられてしまうのであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 神に赦(ゆる)しを請うために捧げられる生け贄は、往々にして手足を縛られて吊し晒されるものだ――丁度そのような状態で、大は荒縄で堅く両腕を縛られ、ベッドのヘッドボードに括り付けられていた。

 生け贄との違いを挙げるとするならば、拘束されておらず、"人"の字のように大きく開かれた両脚だ。

 拘束者は、何故に彼の脚を自由にしているのか。腕力に比べて力強いとされる大腿筋が本気で暴れ回れば、怪我を負うことは必至であろう。

 しかし、拘束者――東條希の欲望は、脚を束縛していては満たせないのだ。

 「ふふふ…こうなってしまえば、可愛いものやん」

 ベッドの上で静かな寝息を立てて昏倒している大を見下し、希がぽってりした唇を舐め回しながら独りごちる。

 今の希の表情は、常軌を逸した妖艶さに満ちている。頬はりんごのように紅潮し、瞳は溢れんばかりの情欲に潤んでいる。魅惑的な唇の隙間からは、粘膜の色を写し取ったような桃色の吐息、そしてネバァ…と糸を引く唾液が漏れる。

 その有様は、餓え果てた末に獲物にありつき、恍惚の至福を満喫する雌豹そのものである。

 「じゃあ、見習いさん。一緒にいなり作ろうねん~」

 桃色の喘ぎを吐きながら、雌豹が背伸びするような動作でベッドの上を四つん這いになって伸び、大の脚に手を伸ばす。

 「い・な・り…」

 大の穿(は)いている、ゆったりとした寿司職人装束のズボン。その合間に手を突っ込み、脹(ふく)ら脛(はぎ)や脛(すね)をネットリと撫で回す。

 「はぁ~、ツルツルしてるやん…。すごいわぁ…」

 大は全体的に体毛が薄い。故に、脛(すね)毛は和毛のように柔らかで滑らかだ。

 加えて、二十歳という年齢の若さがもたらす、パリッとした皮膚の張り。それらの要素が相まって、希の掌(てのひら)を楽しませる。

 「はぁ~…。

 いなりはどこやろ…? ここやろか…?」

 希は装束から手を引き抜くと、右手を大の左脚に沿って這わせ、掌を大の股間へと滑り寄せてゆく。

 遂に掌が股間に達した時。希は装束の下にある男性器を探し、揉みしだくようにして指を動かす。

 「いなり…どこやろ…」

 暫くいかがわしい手つきで股間を撫で回すと。ピタリ、と指の動きが止まる。大福でも優しく包むような格好になった掌の下には、プニュリと柔らかい肉の感触がある。

 「いなり…あったやん…」

 希は唾液でテラテラに濡れた唇をニヘラと緩ませて、柔らかな肉を掴む。

 脚よりもジンワリと熱を帯び、コリコリとした部分が手の中で踊る"それ"。――大の陰嚢だ。

 「はあぁ~…いなりぃ~」

 ネットリした口調で独りごちながら陰嚢を、その中にある睾丸を弄(もてあそ)んでいると…。

 「…んん…」

 大の唇から、小さな呻き声が上がる。同時に彼の瞼が痙攣するようにピクピクと動くと、ボンヤリ…とゆっくり眼が開(ひら)いてゆく。

 「あれぇ…?」

 状況も飲み込めず、意識も朦朧としている大は、間の抜けた声を上げながら周囲を見渡す。しかしながら、彼を昏倒させた薬物の影響で感覚は未だはっきりしておらず、視界は激しく波立った水面のように歪みまくっている。

 「あー、おはよう」

 大の意識が戻ったことを覚った希は、艶然と微笑みながら彼を見下す。

 「もっとゆっくり眠ってると思ったんやけどね。あの薬、即効性な分、効果時間も短いんやろか?

 まぁ、でも、まだ力入らんやろ?」

 そう言うが早いか、希は試すように手にした大の陰嚢をギュウッと握る。

 「…ッ!」

 大の顔が、中途半端に潰されたイモムシのようにゆっくりと、大きく歪む。感覚の大部分はまだまだ麻痺しているものの、性器への刺激は敏感に感じ取れるらしい。

 金縛りに合っている時には、丁度今の大のように性的な刺激に敏感になると言う。今の大も丁度そのような状況なのだろう。

 「ちょっ…何してんスか…!」

 舌がうまく回らない中でゆっくりとした口調で抗議すると。希は唇を真紅の舌でベロリと舐め回してから答える。濡れた桃色の粘膜が、妖しい輝きを放つ。

 「一緒にいなり作ろうって言ったやん?」

 そして、もう一度ギュッ! と睾丸を握り潰す。再び苦悶の表情を浮かべる大だが、拘束されていないはずの脚はバタバタと暴れることはない。まだ薬が効いているのだ。

 それを確認した希は満足そうに頷くと、大のズボンを掴み、スルスルと脱がしに掛かる。

 「や…ちょっと、やめてください…!」

 抗議するものの、希は耳に届かなかったかのように独りごちる。

 「はぁ~大好物なんよ」

 スルスルスル、とズボンが脚を伝って下る。露わになるのは、伸縮性のある布地で作られたボクサー型のパンツと、体毛の薄いツルリとした両の脚である。

 ボクサー型のパンツは、テントを張る程ではないが、モッコリと隆起している。勃起していない状態ながらも、中々に体積のある男性器がその中に収まっている証拠だ。

 ズボンを踵の辺りまで脱がせたところで、希は四つん這いで大の体をよじ登り、股間の膨らみの間近に可憐にして妖艶な顔を寄せる。

 布地越しに男性器をくすぐる、甘い吐息。普段ならば布擦れ程度にすら感じない微弱な刺激なはずなのに。脊椎に電撃が走り、総毛が逆立つような快感が脳天までをも貫く。

 ヘナヘナと萎(しぼ)み寝ていたムスコに勢いよく血流が流れ込み、海綿体がムクムクと立ち上がる。

 淫乱な美少女に弄ばれるというのは、ある種の男にとっては夢のような出来事だ。しかし、薬を盛られたと云うおぞましい事実が大の胸深くに刺さり、素直に悦べない。

 「や、やめてください…!」

 最初よりは多少マシになった呂律で、精一杯語気を強めて抗議する。しかし、希は聞く耳持たず、テントを張る男根の根元で、フカフカの枕を堪能するように陰嚢に頬擦りする。

 「いなりが大好物なんやから、仕方ないやん。

 でもな、ウチ…」

 陰嚢から頬を離した希は、プックリとした桜色でパンツの裾をハムッと咥える。そして、布と唇の隙間から、蕩(とろ)けた艶声を漏らす。

 「いなりと同じくらい、"コッチ"も好きなんよ」

 そして、パンツの裾を咥えたまま顔を動かして、スルスルと布地を下げる。

 見る間に露わになる、大の陰部。八割方勃起したペニスの先端は、約半分が皮を被っている。完全に勃起すれば、赤く腫れた亀頭が露わになることだろう。そして、熱を帯びてダルダルに広がった陰嚢には、クッキリと2つの睾丸の膨らみが見て取れる。

 「や、やめてくださいって…!」

 大は童貞だ。異性に自分の性器を見られるのは、幼い頃に母と風呂で入った時以来である。

 それ故に、自分の意志にそぐわぬ形で異性に――しかも、アイドルにも劣らぬような美少女に性器をマジマジと見つめられ、顔から火が噴き出しそうな程の羞恥に苛まれる。

 そんな初々しい様子も手伝ったのか。希はニッコリと笑って、勃(た)ち上がったペニスをツンツンと突ついて感想を口にする。

 「すごいやん。可愛いやん」

 そして、広がりきった陰嚢を掌ですくい上げ、睾丸を転がしながら語る。

 「おいなりが…2つもあるやん」

 「ちょっと、いい加減に…」

 何とか抵抗できないものかと、両脚に力を入れようとした、途端――。

 「!!」

 大の体がビクンッ! と大きく震えたか思うと。

 「…あはぁぅ…っ!」

 恥辱と恍惚の入り交じった上気の表情を見せて、大は脱力する。

 一体何が大の力を奪ったのか。答えは一目瞭然である――希が、手ですくった陰嚢を、睾丸を、唇と舌で愛撫し始めたのだ。

 「ンチュッ…レロレロ…チュルチュルル…ンチュル…」

 生暖かな唾液に濡れた粘膜が、ダルダルに伸びた皮膚を舐め取り、吸い付き、転がす。

 更には睾丸を口の中に頬張り、全方位からの蕩けた粘膜での愛撫をしてみせる。

 「ぐうぅ…!」

 津波のように打ち寄せる快感に、大は瞳孔を見開いて歯を食いしばり、呻(うめ)く。ただでさえ熱を帯びた金玉が口腔の熱気を帯びて灼熱し、溶けてしまいそうだ。

 「おいひぃやん…」

 頬張りながら希が語る。

 「塩気も良いあんふぁいやし…この匂いもひゃまらんわぁ…。

 ジュルル…チュルル…」

 希は大口を開いて2つの睾丸を一気に口に入れ、舌を用いてジャグリングする。口腔は2つの睾丸には流石に狭く、歯が当たってキュンとした鈍痛が何度も押し寄せる。大はその度に眉をしかめるものの、苦痛さえも蕩けかすような悦楽に飲み込まれ、恍惚とした表情で希の愛撫を楽しむ。

 やがて大のペニスは血管がクッキリと浮き出るほどにギンギンに勃起し、予想通りに亀頭が露出する。鈴口からは抑えきれない欲情がカウパーの蜜となってプクリと沸き上がり、やがてトロトロと肉茎を伝って希の可愛らしい顔に到達する。

 「あひゃう…!」

 顔を伝う粘液を知覚した希は睾丸を1つ吐き出しながら、声を上げる。そしてそそり立ったペニスの先端と、そこから流れ落ちるカウパーを見て、ニンマリと笑う。

 「いなりのシロップ掛けやん…。美味しそう…」

 希はもう1つの睾丸も吐き出すと、舌と唇で陰嚢を滑り、肉茎に到達する。そして、チロチロと粘液の痕を舐めとりながら、さながら蝸牛(カタツムリ)のようにゆっくりと頂上を目指す。

 やがて亀頭の先端に達した希の唇は、愛おしい存在を扱うかのように、鈴口にキスをする。

 そればかりか、パックリと開いた尿道の中に、舌先をチロリと入れてみせる。

 「っ!!」

 大が声にならない悦楽の悲鳴を上げて、首を仰け反らせる。

 精道を下り、睾丸の中の精子どもを叩き起こすような強烈な刺激! 精巣のマグマのように暴れ出し、濃厚な精液の生産を始める。

 「フフッ…。どんどん溢れてくるやん、シロップ」

 希はそう言うが早いか、口を広げると陰茎を頬張り、ストロークを開始する。チュパチュパ、という粘水音が卑猥に室内を彩る。

 「あ…あぅ…ふぅ…! す、すご…」

 初めて経験するフェラチオの快楽。大の顔はリンゴのように真紅に染まり、呼吸は荒く熱を帯びて速まる。

 グラグラと煮だつ精巣からグゥーッとこみ上げてくる、粘っこい切なさ。それが肉茎の根元に達し、痛いほどの膨満感を示した…その時だ。

 ペチョリ…一際大きな水音を立てながら、希が大きく口を開くと。何本もの銀糸を引きながら、陰茎を吐き出してしまう。

 「え…」

 そのまま達せると思っていたのに、生殺しにされた大は、思わず失望の声を漏らす。

 そんな大などお構いなしに、希は口に溜まった唾液をゴクリと嚥下してから、腕を組んで首を捻る。その眉間には皺が寄り、何やら悩んでいる風体だ。

 (もしかして…オレのチンポのサイズとか、形が気に入らないとか…?)

 大の性器はアダルトビデオの男優に比べれば、確かに見劣りするかも知れない。だが、一般人としては特に落ち度のないイチモツのはずだ。

 しかしながら、その所作から性的経験が豊富と見える希からすると、何か気に入らない要素が在るのかも知れない。

 不誠実なことに、いなりの摘まみ食いの発覚よりも不安に駆られている、大。そんな彼を傍目に、希は暫く腕組みしたまま「う~ん」と唸り、最後にポツリと漏らす。

 「いなりにしては、のど越しがなぁ…。

 モサモサして、舌に絡んでくるし…その度にオエッてなるし…」

 この言葉で大は希の不満を覚る。陰毛だ! 希はフェラチオに邪魔な陰毛を嫌っているのだ!

 (や…でも、普通、チン毛剃ってる奴なんてそうそう居ないだろ…!)

 そんな言い訳を胸中で叫んでいると。希の顔が不意に、曇天から急に顔を出した太陽のようにパッと明るくなる。そしてポンッ、と手を打ち合わせたと思うと、「そうや!」と言い残して早足で部屋を去ってしまう。

 この状況でセオリーを考えれば…ハサミとカミソリを用意しに行ったと考えるのが妥当だろう。風俗店で言うところの、剃毛プレイと言うワケだ。

 しかし…持ってくるだけの割には、希は中々姿を見せない。

 それどころか、微風に乗ってふんわりと、何だか甘ったるい香りが鼻孔をくすぐる。べっこう飴を焦がしてしまった時のような、妙な香りが…。

 (何してるんだ…? 何か、料理でもしてる…? オレのガン勃ちのチンポそっちのけで…?)

 このまま取り残されてしまう事への不安が胸を満たすと、折角の勃起がヘナヘナと萎え始める。亀頭は赤みが取れて皺を帯び、半ばほどまで包皮で覆われてしまう。尿道に溜まった精はやり場を失い、精巣の中へ戻ってしまったように感じる。ただただ、尿道に溜まったカウパーだけが空しくペニスを下る様が情けない。

 (ど、どうなっちゃうんだろ…)

 天を衝いていた陰茎が遂にヘナリと倒れてしまった、その時。ようやく希が姿を現す。

 同時に、室内に充満する、あの甘ったるい香り。その香りの源は、希の手の中にある。

 そこには、湯気を立てる小さなホーロー容器がある。容器からはくすんだ赤色の柄が飛び出しているが、これは匙か何かのようだ。

 「お待たせやん」

 ニッコリと微笑んだ希は、ベッドの上を這いながら進み、大の股間の隣に座る。そして手に持っていた容器を、ベッドの上に静かに置く。

 首を巡らして、ホーロー容器の中身を覗き込むと。そこには、ピーナッツバターを透明にしたような色の粘液が、熱々の湯気を放って鎮座している。その中にドップリと浸かっている柄の正体は、幅広のヘラだ。

 この物体の正体は何か。自問するまでもなく、大の胸中にふぐりが縮み上がる怯懦が生まれる。

 ニートの時分にインターネットの動画を漁っていた頃、見かけたことがある。"それ"を使って戯れていたのは、主に外国人達だ。彼らの動画は馬鹿笑いと阿鼻叫喚で彩られていた。傍観者であった大は馬鹿笑いの側に付いて手を叩いて大受けしていたものだが…。いざ受ける側に回ると、上気した頬が一気に青ざめ、額には冷たい汗の玉がブワリと浮かび上がる。

 怯える大など気にも止めず、希はスカートのポケットを漁ると、もっさりした白い固まりを取り出す。それは、一枚一枚が湿布薬のような大きさをした長方形の布だ。

 これで大の怯懦は、確信の恐怖に変わる。

 (脱毛ワックスだ…!)

 ガムテープを張って引き剥がすという脱毛方法がある。脱毛ワックスとは、謂(い)わばこの方法をもっと効果的に、強烈にしたものである。

 「ウチな、脇とかVラインとかの処理に使おうと思って買ってみたんよ。処理の間隔が長くなって楽になると思ったんよ。

 でもな、いざ使ってみると、痛くて痛くて。一度だけ脇に使っただけで、仕舞ってたんよ」

 そんな身の上話をしながら、希はホーロー容器の中身をヘラでネチャネチャとかき混ぜると。ドロォリと粘っこく糸を引くワックスをタップリと掬(すく)い取り、縮んだ竿の根元にモシャモシャと茂る陰毛にベチョリ…と塗りたくる。

 「熱ッ!」

 ワックスはまだ十分に冷め切っておらず、デリケートな陰部の皮膚にビリリとした刺激を与える。しかし、薬の影響はまだ両脚に効いていたため、バタバタと暴れることは出来ない。

 「ンフフフ~、そぉれ、塗り塗り~」

 鼻歌を交えながら、ドンドン陰毛にワックスを塗りたくる、希。黒々とした陰毛はやがて、飴細工のように光沢を放つ塊へと変わる。

 そこへ希は布を被せ、ゴシゴシと擦りつけてワックスに固着させると。

 「それじゃ、行くからね。

 いち、にぃの…」

 「や、やめ…!」

 脳裏に再生される、阿鼻叫喚の動画。そこから予想される苦獄を想い、大は泣き出しそうな声で抗議するが。

 「さんっ!」

 聞く耳持たない希は、元気一杯に声を上げながら、一気に布を引き剥がす。

 ビイィッ! 凄惨な皮膚の悲鳴。肉ごと引き千切るのような、強烈な張力。そして、思い切り平手で叩かれた時のような、バシッとした激痛。そのすべてが一斉に、大の股間を襲撃した。

 「ッッッ!」

 強すぎる衝撃を見に受けた時、人は叫ぶよりも耐え忍ぶ事に必死になる。この時の大もその例に漏れず、歯を食いしばって苦痛を耐え抜く。

 …やがて。

 「…ッハァ…!」

 衝撃が徐々に収まり、食いしばった顎の力を抜いて吐息すると。股間を苛むヒリヒリした疼(うず)きに混じって、火照った体に染み渡るようなヒンヤリとした清涼感が現れる。

 恐る恐る首を巡らして股間を見やると…。そこには、体毛を毟(むし)り取られて真っ赤に染まりつつも、幼子のようにツルリとした無垢な皮膚が露わになっている。

 そこに希が、フゥー、と悪戯っぽく甘い息を吹きかけると。ゾワリと鳥肌立つ、くすぐったいような冷たいような快感が肉竿の中を突き抜けてゆく。

 ムクリ…酷い辱めを受けたはずが、男性器は興奮を覚えて起き上がる。

 「見習いさん、やっぱりウチが睨んだ通り、Mっ気があるんやね~」

 可愛らしくクスクス笑いながら、まだ残っている陰毛に布を張り…またもビリリッ! と引き剥がす。

 衝撃、苦痛、灼熱。そしてジンワリと後追うように現れる、安堵、清涼感、快感。その極端な感覚の波に何度も何度も揺さぶられる内に…大の股間からはすっかりと茂みが消え失せ、卵のようにツルリとしたイチモツが露呈する。

 ちなみに、脱毛ワックスの処理は陰嚢にも及んでいた。陰嚢にはほとんど体毛は無かったものの、どうせやるなら完璧にとでも考えたらしい。希は熱々のワックスをふぐりにも塗りつけ、容赦なく布を引き剥がしていた。

 柔軟でよく伸びる陰嚢の皮膚は、竿の付け根と違い、ワックスが中々剥がれない。餅のようにビローンと伸びた所を、希がさらにグイグイと引っ張るのだから、皮膚が剥がれて睾丸が露出するのではないか、と心配になったほどだ。

 お陰で陰嚢は、唐辛子でもまぶしたように真っ赤に染まっている。加えて、所々の毛穴からプツプツと鮮血が粒のように噴き出している。

 「綺麗になって、いなりらしくなったやん。

 それに、真っ赤っかなお猿のお尻みたいで、可愛いなぁ~」

 希は大の太股の上に顎を乗せてイチモツを眺めながら、ツンツンと金玉や竿を指で突く。

 皮膚はまだ衝撃から立ち直っておらず、突かれる度にピリピリとした痛みが電撃のように走り、大は苦悶の声を上げる。

 「痛いん? 当たり前かぁ、敏感なおちんちんの毛を無理矢理引き剥がしたやんからね。

 よく頑張ったやん。それじゃあ、ご褒美してあげなあかんね」

 希は愛おしむ手つきで真っ赤なふぐりを撫でる。滑らかな掌が敏感な肌をゾワゾワと刺激すると、大は再びピリピリした痛みを感じながらも、肉茎がガチガチに勃ち上がってしまう。

 その有様は、空腹の末に大好物のカエルを目の前にして、舌をチロチロ覗かせながら鎌首を上げるヘビのようであった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 「まずは、痛み止めと消毒やな」

 希が再び顔をイチモツに近づけると。唾液でたっぷりと濡れた舌と唇で、真っ赤な陰嚢を愛撫する。

 「んはぁ…!」

 大は恍惚の声を上げて、ぐったりするように仰(の)け反り、瞼を閉じる。

 ヒリヒリする皮膚に塗布される唾液は、その生暖かさで優しく痛みを包んでくれる。人も含めて動物が傷口を舐めて慰みとする理由が身に沁(し)みてよく理解できる瞬間だ。

 「ンフフ…。のど越し、よくなったやん。やっぱりいなりは、食べやすくないとあかんね。

 それに、余計なモジャモジャが無いと、味も香りもしっかり楽しめるわぁ。この塩気…この臭い…はぁ…堪らんねぇ…」

 希はツルツルの陰嚢を容赦なく淫猥に舐め上げ、睾丸を頬張り、陰茎に唇を這わせる。見る間にイチモツは唾液にまみれてテラテラと輝いてゆく。

 「ああ…すごく、良いです…」

 瞼を閉じたまま、うたた寝するような表情で大が夢見心地な口振りで呟く。

 再び激しく機能を始める、生殖機能。熱を帯びた睾丸の中で精巣が蠢き、一度は引っ込めた精を尿道へと送り込む。竿の根元には粘っこい切なさがグググ…と溜まり、徐々にこみ上げてくる。それに先んじてトロトロとしたカウパーが鈴口から溢れ出す。

 「気持ち良いんやね?

 でも、この程度で終わらさへんよ?

 ご褒美やからね、もっともっとえっちに、気持ちよくしてあげるやん」

 亀頭を舐め回していた希は顔と共に状態を起こすと。上着の裾に手をかけると、一気に服を脱ぎ捨てる。布擦れにひっかかった豊かな乳房が、ブラジャーの中でブルンブルンと上下に大きく振動する。

 希は更にブラジャーを外して、ぞんざいに放り捨てる。これで胸元を隠す物は何一つなくなり、完全な乳房が大の視界に飛び込む。

 「うわあ…」

 薄く瞼を開いた大は、視界の中央にとらえた双丘に対して、桃色に染まった感嘆の声を上げる。

 掌に収まりきらないほどのボリュームを持ちながら、重力に負けることのない、瑞々しい張りのある膨らみ。その頂点におわすのは、可憐なピンク色をした、乳輪の少し大きな乳首。その両方ともがピンピンに堅く勃起している。

 「おっぱいはウチの一番のチャームポイントなんよ。

 これでおいなりさんを包んで上げる」

 言うが早いか、大の上に倒れ込んだ望みは、ボリュームのある双丘でツルツルのおちんちんを左右からギュムッ、と挟む。

 「…ふぅっ!」

 何という快楽! マシュマロのような柔らかさに、鏡のように滑(すべ)らかな肌触り! それが敏感な無毛の陰部を包み込むと、竿の根元の熱源がグググッ! と尿道をせり上がる。

 「本番はここからなんよ。

 …動くね」

 たぷん、たぷん、たぷん…! 上下を始める、豊満な乳房。その柔らかな肉塊が優しく睾丸を弄び、肉茎を愛撫する。

 (と、溶けそう…!)

 大は再び瞼を閉じて恍惚に浸り、顔を上気させて仰け反る。雄々しく堅固に勃ち上がった陰茎は、この暖かい柔肌の奥深くに沈み込み、溶け混じって消えてしまいそうだ!

 希は更に舌と唇で鬼頭の愛撫を始める。敏感なカリを甘噛みしたり、尿道に舌先を割り入れたり、唇で鬼頭を包んでみたり…。ぽってりした唇が妖しく蠢き回る姿は、アイスキャンディーを夢中で貪る幼子と形容できるかもしれない。

 だが、それにしては欲情に潤んだ瞳や、カウパーの混じった唾液をトロリと流す口角は、あまりに淫靡で大人びすぎている。

 (あ…! や、やばい…!

 キツくなってきた…! そ、そろそろ…!)

 大がピクッと眉根に皺(しわ)を寄せる。決して不快感によるものではない。むしろその対極の感情だ。

 昂った快楽が灼熱のマグマとなって、亀頭の先端にまで迫っている。――もう、限界だ!

 「で…射精(で)るぅ…ッ!」

 叫んだその時、肉茎がブルリと震えて、希の口の中で亀頭が膨らむ。同時に希は、素早く亀頭を吐き出すと――。

 ドビュルルッ! ビュクビュクビュクッ! 盛大な白濁の噴出が、大の先端から爆発する。

 その奔流は粘っこい奔流となって空に飛沫き、希の可愛らしい顔をベッタリと汚してゆく。

 「あ…あ…あ…!」

 穢れゆく美少女の姿に、大は一抹の罪悪感を覚えたが。美少女は白濁に濡れた顔でニッコリと微笑むと、ぽってりとした下唇を穢した粘液を舌でベロリとすくい舐める。

 「いなりの練乳掛けやね~。

 あ、でも、練乳言うには、少し甘みが足りないやね。むしろ、ちょっと苦いやん」

 「す、すいません…その、顔にブッかけちゃって…」

 大が俯きがちに真顔で謝るが。希は自身の頬に五指をなぞらせて白濁をすくい上げ、チュパチュパと舐めとりながら語る。

 「気にする必要なんてないんよ。

 ウチ、顔にかけて欲しかったから、わざと浴びたんよ。見習いさんの練乳。

 暖かくて、プリプリしてて…ええなぁ。最近はおじさん相手ばかりやったから、こんな新鮮なのは久しぶりで、嬉しいんよ」

 "最近はおじさん相手ばかり"――この言葉が大の胸にチクリと突き刺さる。

 (やっぱりこの娘、見かけと違って、スゴいビッチなんだ…)

 男性器を前にしても物怖じしない態度。慣れた手つき、舌使いでの性器の扱い。それを見て経験豊富だとは思っていたが、本人の口から聞かされると微妙な気分になる。

 この美少女を独り占め出来るのは自分だけでないのだ、という嫉妬。そして…もしかして"おじさん"とは、職場の兄弟子の事ではないか、という危惧。

 ――なんとかして、この娘にとっての唯一無二の存在になりたい――!

 生クリームでも頬張るように精を舐め上げている希を見て、大の独占欲がムラムラと沸き上がった時の事。不意に、下半身がブルリと震える。

 (こ、こんな時に…!?)

 何が起きたかと言えば、尿意を催したのだ。盛大な射精をして気が緩んだ所為か、膀胱(ぼうこう)までも緩んでしまったらしい。

 「あ、あの…ごめん、こんな時にムード壊しちゃうんだけど…。

 ちょっと、おしっこしたくて…」

 大は薬の影響は抜けてきたものの、両手が縛られているので、トイレに行ってもうまく放尿できそうにない。そこで、暗に解放して欲しいと頼んだワケなのだが。

 希は唾液と白濁が混じり合った舌をチロリと見せてクスリと笑う。

 「ええよ。ここでしちゃって」

 「え…!?

 そ、それじゃ、ベッドが大変なことに…!」

 「大丈夫大丈夫。

 ウチ、丁度のどが渇いておったからね」

 そう語ると、半勃ちにまで萎んだ大の肉茎の先端に口づけてから、頬張る。

 「ほれへひゃいひょぶや」

 "これでダイジョブや"と語ったようだ。そして再び、ニッコリと笑う。

 つまり…飲み下すから、口の中でしろということだ!

 「そ、そんな事…」

 口では良識的な事を言いながらも、体は正直だ。再び口腔の中に閉じこめられた肉茎の快楽と、自らの汚物を飲み下させるという背徳的興奮。それが射精したばかりの肉茎をビキビキに勃起させる。

 口の中で希は、せがむように大の鈴口を舌先で刺激する。めくれ上がった尿道の粘膜を直接刺激される電撃的快楽は、やがて膀胱の理性を剥ぎ取った。

 「…す、スンマセン!」

 一応、申し訳程度に謝罪の言葉を口にした途端。ジョボボボボッ! 尿道を濃い黄色の奔流が驀進し、希の口内に炸裂する。

 「んふぅっ!」

 咽喉(のど)の奥深くに放出がブチ当たった希は、えずきそうになって目を見開き、唇と肉茎の隙間から悲鳴を上げる。しかし、やがて勝手を知った彼女は、目をトロンとした半閉じにして、ンク…ンク…ンク…と尿を飲み下す。

 やがて…大が排泄の開放感に浸り、ハァー、と息を吐くと。

 「ぷはぁ…っ」

 希が肉茎を吐き出し、大きく息を吐く。

 「いなりだけやなくて、食後のお茶までご馳走になって…満腹やわぁ…」

 「オレも…色んな意味で、腹一杯です…」

 大がやり遂げて一息吐いたような、達成感に満ちた虚脱の表情を見せていると。希はニヒッ、と悪戯な嗤(わら)いを浮かべる。

 「でもな、満腹になったのは上の口だけや。

 女の子にはもう一つ、お口があるんよ?」

 「え…?」

 大がキョトンと聞き返している中に。希は膝立ちになると、ミニスカートをめくって「ここにあるやん」と語る。

 露わになった、希の股間。そこには、陰部を隠す布地は一枚もない。茂みのないツルリとした恥丘と、果肉のようなピンク色を呈する陰唇が見える。

 「もうずっと、こっちの口は涎(よだれ)が収まらんのよ」

 希は左手でミニスカートをめくり上げたまま、右手で秘裂をクパァと開く。すると、ネチョリと愛液の銀糸を垂らして、瑞々しく熟れた産道が露わになる。

 「え、え、え…?

 ま、まさか…?」

 大の陰嚢が期待に膨らむ。

 希が頷(うなず)き、応える。

 「今度は、こっちのお口を一杯にしてな?」

 

 ◆ ◆ ◆

 

 希は霰もなく大股を開き、大の上に跨(また)がる。そして少しずつゆっくりと腰を下ろすと、赤く腫れた亀頭と濡れた秘裂がピトリ、とキスする。

 「行くかんね。よく見てて…」

 希はニッコリと微笑みを向けると。更に腰を下ろし、秘裂の中に亀頭を飲み込んでゆく。

 ズプププ…女性の胎内へと姿を消してゆく、雄々しい男性。大にとっての、童貞卒業の瞬間である。

 「はぁう…っ!」

 産道が亀頭をすべて飲み込み、めくれた陰唇がカリをプルリと弾きながら包み込んだ瞬間。大は思わず声を上げてしまった。

 なんて柔らかくて…暖かくて…トロトロしていて…キツくて…イヤらしい感触!

 「まだ全部入ってないのに、声を上げるやなんて。ウブで可愛いわぁ」

 上気した頬を緩ませてクスクスと笑う、希。そして更に腰を沈み込ませてゆく。

 ズプゥ…! クチュクチュクチュ…! 亀頭は膣道へと分け入る。灼熱の粘液に濡れた、クニャクニャとした肉襞に覆われた胎内が、四方から男性をギュウゥッ! と締め付けてくる。

 「はああぁぁ…スゲエぇ…!」

 顔を紅葉のように紅潮させた大が、苦しそうにも、嬉しそうにも聞こえる恍惚の声を上げる。

 大は勿論、自慰の経験はある。中には、オナホール等の器具を使ったことすらある。そうした器具を用いることで、本物の女の胎(はら)の感触を知った気でいたのだが…それはとんでもない知ったかぶりだったと、自省する。

 あんなシリコン製の玩具(おもちゃ)とは、次元が違いすぎる…!

 女の膣は、雄を悦(よろこ)ばせる事に最適化した器官なのだと、脊椎が震えるほどに痛感する。

 もっともっと、この悦楽を貪りたい…! 貪り尽くしたい…!

 「ああ…! ああ…!

 東條…さぁん!」

 大は仰向けの格好のまま、腰をガクンガクンと上下に激しく振る。雄を優しく包み、悦ばす肉襞に満ちた膣の摩擦を味わうために、希の体を揺さぶるのだ。

 この時、大はようやく薬の影響から完全に解放されていたが。拘束された事実など、もうどうでも良かった。提供された"まぐわい"を楽しむこと――そればかりしか頭の中に浮かぶ思考はない。

 自由になったこの体は、女体の淫肉を味わうためにだけ、使うのだ…!

 「あはぁん…!

 ええわぁっ! 子宮にぶつかるぅ!

 もっと、もっと、突いてぇ!」

 唾を飛沫(しぶき)にして飛ばしながら乱れる希は、自らも腰をガンガンに上下に揺れ動かし、大のガチガチのペニスを膣で摩擦する。締め付けときたら万力のようで、大は快楽だけでなく痛みすら感じるほどであるが。経験豊富で淫乱な希はその程度では到底満足できないようで、自らの胸を掌で揉みしごいたり、乳首をつねり上げたり、あげくの果てには豊満なボリュームを駆使して自らの唇で乳首を吸い上げたりしている。

 「あぁんっ! もっとぉっ! もっとぉ、奥までぇ!

 子宮をブチ抜く位、強くぅ…!」

 希のボルテージはいよいよ上がり、更なる快楽を欲求するが…童貞を卒業したばかりの大では、奈落のような希の欲情を満たすことは不可能であった。

 「あ…っ! く…っ!

 で…射精(で)る…!」

 大が苦悦の声を絞り出したが早いか、膣内でドクンッ! と肉茎が膨張すると。愛液にまみれて怒張した亀頭の先端から、ビュクビュクビュルルルッ! と精が噴出する。

 プリプリとした若く活きの良い精は、弾力のある奔流となって子宮口を叩き、渦巻いて対流し、膣の襞々の奥までジュクジュクジュク! と浸透し、泡立ちながら男女の接合面から漏れ出す。

 産道は白濁と肉棒でギチギチに膨張し、張り裂けんばかりの状態だ。

 女体を貪り尽くし、穢(けが)し尽くした大は、達成感と恍惚にまみれた表情を浮かべて脱力し、ベッドの上に四肢を投げる。膣内では疲れた肉棒が早くも縮み始め、接合面からドロリと白濁が流れ出す。

 大は、やり遂げた男の満足感を得ていたのだが。

 ――希の方は、そうではなかった。

 「ええ…! なんやのん!?

 もう、終わりなのん!?

 ウチ、まだイッてないんよ!?」

 紅潮した顔のまま落胆の陰に染まった希は、大の揺さぶってせがむ。

 「見習いさん、もうちょっと頑張って! イッた女の中に射精(だ)すのが最高に気持ちいいんよ!? ここまで来たら、最高のモノを味わおうやん!」

 希は大のイチモツを再び奮い立たせるために、"暴れ回る"と云う表現がピッタリくるような勢いで腰を振るう。しかし、いくら膣の襞でなぶろうとも、産道で締め付けようとも、大のペニスはヘナヘナと縮んでゆくばかり。遊びをせがむ子供に対して無視を決め込み、グッスリと眠りに突く大人のような態度だ。

 このまま欲求不満のまま終わるという選択肢は、希にはない。疼(うず)きまくった子宮の切なさを、自慰程度で紛らわせるなどと云う惨めな事はしたくない!

 ――こうなったら、意地でも寝た子を起こしてみせる!

 希は決意すると、萎えた肉棒を胎内に咥え込んだまま、腰を捻って腕を伸ばし、大の尻の舌に右手を差し込む。

 そして、だらしなく弛緩した大臀筋の割れ目に無理矢理五指を進入させ、グニュグニュと暴れ回る。汗を掻いた尻の割れ目がヌルヌルと指に絡みつく。

 希の目的は、大臀筋を刺激することではない。探しているのだ…臀部にある、最大の性感スポットを。

 そこを探り当て、人差し指でプニィッと粘膜を押すと…。

 「くぁっ!

 ちょ、ちょっと…!」

 電撃に打たれたようにビクンッと大の体が跳ね上がる。転瞬、胎内の肉棒がビクビクと海綿体を膨張させて、ムクムクと勃ち上がってゆく。

 希は悪戯っぽくニヒヒ、と笑って、粘膜に囲まれて締まったその穴――肛門に、ギュッ! と人差し指を潜り込ませる。

 「ひがぁぅっ!」

 大は妙な声を上げ、苦悶に眉根を寄せながら、荒い呼吸を吐く。

 排泄器官を固形物が逆流してゆくだけでも違和感があるというのに。その固形物――指はウネウネと活きの良いイモムシのように直腸を引っかきながら、ギチギチと内臓深くへと進み、遂には指の根元までスッポリと収まる。

 そして、生暖かい直腸の壁を通して、希はくすぐるように前立腺を刺激してやる。

 「あはぁぅっ!

 と、東條さぁん!?」

 「ニヒヒッ、耐えられへんよね?

 男はウチらみたいに前の穴はなくても、後ろの穴はシッカリ付いとるもんね。

 こっちの快感の虜になって、お尻にモノを突っ込むようになる男の人って、結構おるらしいやん。

 それはともかく…」

 ズポリ…ッ! 希は大の肛門から指を引き抜くと。排泄物で穢れた色に染まった人差し指をピンと立てて、大の鼻先へと持ってゆく。

 ムワッとした下ってゆくものの臭いに、大は顔をしかめて首を横に振り、断固とした拒絶をするが。跨(また)がる希から逃げられはせず、そのまま穢れた指を自らの口にくっつけられてしまう。

 「んげぇっ!」

 舐めないようにと口をしっかり閉じたはずなのに。唇の隙間から伝ってくる、苦い味。そして、口腔から鼻孔に突き抜ける、汚臭。

 「自分の臭いやろ? そう嫌わんでね?

 そんな事より、ウチの指、汚くなっちゃったやん。舐めて綺麗にしてね?」

 「そ、そんな事、出来るワケ…」

 最後まで言い掛けて、大はビクンッと体を震わせて言葉を飲み込む。

 希が大の上に倒れ込み、薄いブラウンの乳首をぽってりした唇と舌で愛撫し始めたのだ。更に、強制的に勃起させられたペニスを、これまで以上の圧力で膣が締め付け始めたのだ。

 「んぉ…ぉ…!?」

 くぐもった苦悦の声を漏らしているところへ、希が人差し指を大の口の中へと滑り込ませる。

 乳首からテロリと銀糸を引きつつ唇を離した希は、上目遣いに大を見やって強請(ねだ)る。

 「指、綺麗にしてね…?

 出来たら、ウチが消毒してあげるから…」

 そう言って、可愛らしい肉感的な唇をペロリと舐めてみせる。

 その仕草があまりに小悪魔的で、可愛らしくて…寝転がっていた大の欲情がバッチリと目覚める。

 あの"下の口"でモノを優しく咥えられながら、"上の口"同士を絡み合わせたらどうなるか…! 想像するだに、興奮が前進に這い回る! 情けなく縮んだ陰嚢が、ブワリ、と膨らむ。

 チュパ…チュパ…。希が再び粘膜による乳首の愛撫に戻る。その行動に呼応したように、大は希の人差し指を頬張り、グチュグチュと舌を絡めて汚物を舐めとる。

 気分の悪くなるような苦みが咽喉(のど)の奥まで刺激してくるが、そんな味覚程度で今の大は止められない。絡みつく女肉は心臓を燃え上がらせる燃料となって脊椎を焦がし、理性の螺子(ネジ)を吹き飛ばす。

 「ンバァ…! こ、これで、どうですか…!?」

 大が希の人差し指を吐き出す。希の人差し指は唾液でベタベタで、ヌラヌラと輝いている。

 それを拭うこともせず、希は一度上体を起こしたかと思うと、有無も言わさず大と唇を重ねる。

 触れあう、柔らかな粘膜。ナメクジの交尾のように求め合う、互いの舌。グチュグチュと音を立てて唾液を吸い合うと、唇同士の接合面からは小さく泡だった唾液がジュルジュルと漏れてゆく。

 濡れるのは、"上の口"だけでない。ペニスとオマンコの接合面もまた、淫らな汁に溢れて大洪水上体だ。大の臀部を愛液とカウパー、そして精が混じった汚濁がグチュグチュと流れ下り、ベッドの上に染みをジンワリと作る。

 大は今、希の体の中に溶けてしまったような感覚に襲われる。唇も、舌も、男性器も。そして、胸の上をマシュマロのようにポヨンポヨンと転がる乳房も。すべての女体の熱が自分の体温と混じり合い、どこからどこまでが自分自身なのか、判断が付かなくなる。

 一心不乱に腰を振っている気がするが、一体どんな風に暴れているのか、自分でも見当が付かない。ただ、亀頭と思われる先端の感触に、ギュウギュウと押し返してくる圧力は感じる。それが子宮口の感触だとは判断できず、ひたすらそれを突き破らんと激しく腰を上下させる。

 「んふぅ、んんんっ! んぶぅっ!」

 「んはぁっ! 東條さん、東條さん…っ!」

 絡み合う声も、鼓膜にはほとんど届かない。語感は背徳的な快楽に支配され、それを貪るのにひたすら夢中である。

 ――そんな最中。大は身が軽くなった感覚を覚えると同時に、ペニスにつぶれそうな程の膣圧が掛かったのを感じる。

 希がビクンッ! と仰け反り起き上がり、天を向いて――叫んだのだ。

 「アヘェェッ! イクウウゥゥゥッ!」

 瞬間、ビクビクビクンッ! 膣が最高の圧力でペニスを絞り、ジュワワ! と体液を噴き出して男性器を絡める。

 この刺激で持って、大もまた、絶頂に達する。

 「東條さあぁんっ!」

 万力のように締め付ける膣圧に抗い、堅く勃起したペニスはギチギチと産道を押し広げて膨張すると…ドビュルルルビュルビュルビュルッ! 先にも増して勢いの強い穢れた粘体が先端から発射され、突いていた子宮口をビュクビュクとブッ叩く。

 精の奔流は子宮口の堅い口を分け入り、胎内の空洞を渦巻きながら満たす。かき乱される卵床の感覚は、希の絶頂に更なる快楽を植え付ける。

 「んはあああぁぁぁんっ!」

 希は白眼を向いてだらしなく口を広げてアヘ顔を晒すと、部屋の壁を突き抜けるほどの大きな嬌声を上げる。

 

 こうして、"いなり"を巡るまぐわいは終焉を迎えたのだった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 「やっぱり美味しいねぇ、いなりは」

 性感を更に煽(あお)るような扇情的な下着姿に身を包み、火照った皮膚の大半を晒してベッドに腰掛けた希は、未だに快楽の余韻から腰が砕けたままの大に微笑みながら声をかける。

 「はい…」

 忘我と陶酔の境地に立っている大は、ぼんやりとした声を上げる。

 むき出しになった大の下半身は、萎えて縮み切っているものの、そこを盛大に濡らす穢れた白の粘体が、恍惚の勲章だとばかりに室内照明を受けて輝いている。

 「また今度作ろうね」

 希はそう言うと、縮んだ大の陰嚢を優しく人差し指で弾く。

 大は返事こそしなかったものの、ニヤケ切った笑みで快諾の意を示すのだった。

 

 それから暫くして。ようやく立ち直った大は、弾むような足取りで自転車を漕いで店への帰路につく。

 これまでの大は、出前の度に面倒臭さか疲労感を感じて、眼が淀むばかりであった。しかし今の彼の眼は、月夜の元で尚(なお)明るく輝く明星のようにキラキラとした活気に満ちている。

 (最高じゃんか、この仕事!)

 脳裏によぎるのは、希と体を重ねた記憶ばかり。彼女の巨大なマシュマロのような乳房の柔らかさや、暖かく優しい唇、そしていやらしく貪欲な陰部。その全ての味が脳内にプレイバックされ、ツンとした興奮が脊椎を通って股間に響く。

 タップリと精を搾取されたはずの性器が、再びムクムクと膨らんでしまう。

 膨らむのは、股間だけではない。胸中の期待もまた、はちきれんばかりに膨らんでいる。

 (初対面であんなにエロい事が出来たんだ…!

 今後、もっともっとお近づきになれば、もっとスゴい事になっちまうんじゃないか!?

 そんで、うまく行けば、あんな美人と恋仲になれる…!

 いや、恋仲でなくとも、セフレでも十分だ! あんな美人のセフレがいるだなんて、高校時代の同級生どもにも自慢出来るぜ!)

 行きとは逆に下り坂の多い帰路を、風のように加速しながら進む。

 耳元でビュンビュンと通り過ぎる涼風の、なんと総会なことか!

 (よっし! これからも頑張ろう!)

 自堕落で受け身なばかりの大が、人生で初めてやる気の炎を魂に灯した瞬間であった。

 

 ――だが。船出が順調であろうとも、航海の全てがうまく行くとは限らないものだ。

 時には嵐に遭い、暴虐な雷撃がマストをへし折り、難破どころか沈没の憂き目に逢うことすらある。

 丁度そのように…大に待ち受けていたのは、悲惨な結末であった。

 

 「クビだ」

 店に戻ってすぐ、親方は開口一番にそう伝えてきた。

 目を丸くした大は、いなりを摘まみ食いしたことを希が告げ口したのかと訝(いぶか)しみつつ、ワケを訪ねる。

 すると返って来た答えは、大の予想とは違ったものの、あまりにも全う至極な意見であった。

 「出前一度に何時間も掛けるような無能は要らないんだよ」

 ――そう、希との行為に没頭していて気が回らなかったが。大が希の元に出前に出てから、相当な時間が経過していた。

 大は当然、言い訳をしようと頭を巡らせる。――しかし、浅慮なる大の頭に名案など浮かびようがなかった。

 希に言われてセックスをしていました、など正直に言えるワケがない。ものスゴく道に迷っていましたと答えようにも、"迷ったらすぐに店に連絡を入れろ"と厳命されているため、この言い訳は自分の落ち度を強調するものでしかない。

 大はワタワタとした態度でなんとか取り繕うとするが。親方は、ハァー、と深いため息を吐くと、悲しげな顔をして告げる。

 「ちょっとは期待してたんだがな。

 やっぱり、ダメな奴はいつまで経ってもダメなんだな…」

 

 大はニートに戻ってしまった。

 職場は自己都合退職ということにしてくれたため、経歴に傷が付くことはなかったが。家族は大が自身の仕出かした過ちによって辞職に追い込まれたことを感じ取り、落胆と呵責の視線を投げかけるばかりとなった。

 大は童貞卒業と引き替えに全てを失い、部屋に引きこもるばかりの"家族のお荷物"と化してしまったのであった。

 勿論、希と出会うことは二度となかった。

 

 「ああ~、やっぱりいなりは最高やね~」

 大と同じ空の下、部屋の中でいなり寿司を頬張る希は、ウットリと艶やかな顔で独りごちながら、揚げと酢飯の醸し出すハーモニーに舌鼓を打つのであった。

 

 ― 了 ―




「寿司」と「淫夢」の組み合わせって、結構あるんですよね。
 「出前」と「淫夢」の組み合わせについては、前者以上にたくさんあるんですよね。特に、関西クレーマーつながりで。
 ホモは寿司と出前が好きだった…? つーか、関西クレーマーは出前スタッフが好きだった…?
 
 ところで、筆者がラブライブ! での推しキャラは、今回のヒロインであるのんたんです。あの下唇の描写とか、似非関西弁とか、ほんわりした態度とか、最高ですよねぇ。
 そんな彼女をこんないかがわしい作品のヒロインにしてしまったのは、天啓があったからです。
 仕事中、頭の中でのんたんが「いなりが入ってないやん!」と騒いでる光景が浮かんでしまったんですね。
 奇しくも関西クレーマーと関連性の深い口調でしたしね。すんなりとマッチしてしまったワケです。
 
 しかしながら、本編執筆中は、いろいろな苦悩がありました。
 と言っても、推しキャラを汚してしまう事への罪悪感ではなく…(笑)。
 えちぃ行為の展開にいろいろ悩みました。うーん、今一エロさが足りなかったなぁ。どうにもおにゃのこが攻めるシチュは得意ではないようです。登場人物も少なかったしね。
 依然書いたRAIL WARS!みたいにおにゃのこがヤられる展開が好きなんですよな。

 …まぁ、何はともあれ。楽しんでいただければ幸いでございます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。