神様×人間(女装)。
多分に女装成分を含んでいます。
ケモミミもしっぽ成分もあります。
【 ご注意 】
!ムーンライトノベルズからの再掲です(本編のみ)
【 備考 】
BLOVE
http://blove.jp/novel/11398/
ムーンライトノベルズ
https://novel18.syosetu.com/n8303bx/
ハーメルン(ここ)
https://syosetu.org/novel/171431/
に掲載しています
■神様と人間の恋愛噺であり、作中に性的表現を含みますのでご注意ください。
多分に女装成分を含んでいます。
ケモミミもしっぽ成分もあります。
※勢いだけで書き上げました。場面転換が非常に多いので、読みづらいかもしれません。
2018.10.10
母と狗
――それはある冬のことだ。町外れにぽつりとあるその民家の母親が姿を消した。今年小学校に入学するその小さな男の子を残して。
数時間後にその家にやってきた男は、布団のなかから顔を出して「お母さん?」と問う男の子を見て笑みを浮かべた。
「見つけた。私の――」
それはまるで、獲物を見つけた猛獣のようだと、一緒に来ていた男のうちの一人が小さく呟いた。
□■□■
ぱちりと目を開けた
「病院……?」
「起きましたか?」
「……
頭上から聞こえてきた声に起き上がれば頭がふらつき、次郎と呼ばれた男が吉春を支える。解らないとその意味を込めて瞳を遣れば、ベッド脇に腰を下ろしている次郎は吉春の肩に掛かる髪を掬った。
「倒れたんですよ。バイト先で。いましがた帰りましたが、店長が来ていましたよ」
「そうか……」
「解った」と次郎に告げた吉春は小さく息を吐いて、次郎の肩に躯を預ける。
「寝不足と栄養失調だと言っておりましたね。点滴で大分よくなりましたが、今日はこのまま過ごすようにと」
「……そう」
まだ頭が重い。だからなのか、瞼も重くなる。
「眠たいなら寝ても構いませんよ」
「ああ……。もう少し寝るな」
「はい。私の可愛い吉春」
額に口付けられた吉春は、重い瞼をそのまま閉じた。
□■□■
きっとこれは悪い夢なのだと、誰かが言ってくれないものだろうか。
まさか自分の母親がいなくなるとは、夢にも思わないだろう。
「お母さん」「お母さん」と吉春は誰かにしがみ付きながら泣いていた。母親がいなくなったと告げられ、不安になったのだろう。
小さな肩を震わせてむせび泣く吉春の背中を、男は優しく撫でている。
「心配はいりません。私があなたの家族になりますから」
「家、族……?」
「はい。あなたの母となり父となり、兄弟姉妹になります。――いますぐにでも。だから泣かないでください。私の可愛い可愛い吉春」
額に口付けられた吉春は目を丸くさせたあと、嬉しそうに笑った。
男は目を細めながら、今度は瞼に唇を寄せる。
「泣かないでください」と紡ぎながら――。
□■□■
そしてあるとき、吉春は気が付いた。次郎は人間ではないと。その証拠を、吉春はバイト帰りに見たのだ。
横断歩道の青信号のなかに突っ込んでくる車があった。そしてちょうど、次郎がそこを歩いていた。
危ないと角から駆け寄る間もなく、いましがた起きたことも理解しきれない。
次郎は車に手を翳し、そうして車を横に滑らせた。回転しながら電柱すれすれに止まる車に皆が目を見張る。
いまの次郎の姿は、纏っていたスーツ姿ではなく、宮司などが着る白い水干に袴だ。そして短い髪は腰まで伸びて煌めいており、頭には動物のミミがある。しかも、ふさふさのしっぽが揺れていた。
「神を殺める気か。愚か者が」
響くのは冷たい声だ。しかし確かに、次郎の声でもある。
「――さて。吉春を迎えにいかなくては」
その後ろ姿はほどなくしてスーツに変わった。足取りは軽く、反対側の角へと消える。
吉春はその角で息を飲んだ。
『神』と言った次郎。そして本当に、この世界には神が存在する。その姿はこの町で崇められる『
□■□■
「ん……」
「吉春、おはようございます」
躯にかかる重みに瞼を押し上げた吉春は、覆い被さる次郎にはっとする。
「……じ、ろ……」
「はい」
「なに、してんだ……?」
「可愛い可愛い吉春を前にして、我慢ができるとお思いですか?」
「ちょっ、と!」
『狗神』に気に入られた家は栄え、『狗神』に気に入られた者は伴侶となると伝えられている。しかし吉春の家は栄えるどころか、母をも失った。――大好きな母を。そして生きているのかも死んでいるのかも解らない。
次郎が使う資金がどこから出ているのか定かではないが、世話になりっぱなしは嫌だと吉春は高校に入学してすぐにバイトを始めた。だが、掛け持ちをしていたバイトは次郎にやめさせられてしまい長くは続かなかった。それと同じ時期から、次郎は吉春を求めるようになった。ふざけんなと暴れていたが抵抗なんてなんのそので、情事に事欠かない。そうしていつも吉春は、次郎の腕のなかで朝を迎える。
そんな次郎がこのバイトだけは許すと、女装バーの店長を連れてきたのは高校卒業間近である。その頃から吉春は次郎によってなぜかレディースの服を着させられていた。そして袖を通す度に可愛い可愛いと口付けられ、嫌みのひとつもドロドロに溶かされてしまえば、吉春は負けるしかないだろう。
なぜ女装バーなのかと次郎に尋ねたことがあるが、理由は可愛いからと単純だ。女装をさせるのもそういうことらしい。高校生ということで初めこそ裏方をしていたが、いまでは店の売り上げに貢献できているほどである。
女装バーと謳われてはいるが、それなりに広い店内の内装は明るく、どちらかといえばファミレスに近いだろう。だからなのか女性客もよく訪れていた。ソフトドリンクもアルコールも種類が多く、賑わう店に誇りさえある。店長も仲間もいい人であり、やめたいとは思わない。
「次郎っ、ふざけんな……!」
「そうですね。吉春は倒れたわけですから、抜くだけにしましょうか」
「へぁっ!? んっ……! 次郎っ、嫌だって!」
胸元にキスを繰り返していた次郎はそれをやめ、フリルで縁取られたスカートに手を伸ばす。
そういうことじゃないと絞り出そうにも、唇は次郎に塞がれ、スカートの下を蠢く手に力が入らない。唇が離されればすぐに手を添え、声を出すまいと耐える吉春の首筋にかかる髪を払い、次郎はそこに噛み付いた。ペロリと歯形と共に鬱血の痕を舐め、震える吉春の目元に唇を当てる。
「んん……っ」
次郎が付けたキスマークは吉春の躯のいたるところにあるが、次郎にとってはまだまだ足りないようだ。首筋からチリチリと痛みが走ってくる。
「んっ……んー!」
「私の吉春」
「ぁ……、あ……、じろ……っ」
「はい。気持ちいいですか?」
吉春に囁けば、ぎこちなく頷いた。次郎はその顔に笑みを浮かべながら緩く動かしていた手に緩急をつけ始め、吉春を絶頂へと導いていく。
「ふぅうぅ……! じ、ろ……っ、じろっ、も、出る……!」
ぎゅっと目を閉じれば頬に涙が流れていった。それを次郎が舐め取った瞬間、吉春は白濁を吐き出した。
「じ、ろ……、手、汚れ――」
乱れた呼吸で薄目を開ける吉春に口付け、舌を合わせる。響く水音に羞恥が湧いた吉春はふたたび目を閉じ、次郎から与えられる快楽に身を任せた。
キスが終われば、目尻から溢れる涙も口端から滴る唾液も舐められ、吉春は乱れた服を直している。赤くなる顔を俯かせ、ティッシュで軽く手を拭く次郎を横目で眺めながら。
「……次郎……」
「はい」
「変態。ここ病院だろ」
「はい。知っていますよ」
「もういい。喉渇いたからなんか買ってこい。あと、手洗えよ」
「はい」
にこにこと笑う次郎に舌を打ちドアを指す。次郎はゴミ箱にティッシュを捨てたのち、吉春にキスをして部屋をあとにした。
残る吉春は窓の外から見える景色に瞳を閉じる。母親が消えたのは、木々が枯れて冷たい風が吹く季節だった。そう、いまの時期のような。そして、その姿は朧気で儚い。
「――母さん」
どこにいるのか。なぜ自分を置いていったのか。邪魔になったのか。だから置いていかれたのだろうか。
――もしもそれが正解なら、どうしたらいいだろう。
「私の可愛い吉春」
「次郎……、早いな」
「母に――
「会えるの、か……?」
「明日」と紡いだ次郎は、顔を上げた吉春の額にキスをして、買ってきたジュースをサイドテーブルに置く。
「ですから、泣かないでください。私の可愛い可愛い吉春」
「こ、これはお前が悪いんだよ!」
「はい」
拭う手を取りながら涙を舐めて、次郎は小さく笑った。
□■□■
吉春はその家の前で蒼白する。この家は地主である『九白』の家だ。『九白』に嫌われては、この土地で生きていくのは難しい。
しかし吉春は『九白』に縁はない。同じ名字だが、それは佐藤やら鈴木やらと同じことだろうと思っていたのだ。だから一々機嫌を窺うことはないが嫌われたくはないし、自分には一生用はないのに、なぜ次郎は容易く門の向こうに行くのだろうか。
玄関もズカズカと入りやしないかと心配して、吉春は次郎の手を引いた。
「じ、次郎!」
「はい?」
「この家と母さんとなんの関係があるんだ?」
「九白晴子――と言えば、解ってもらえますか?」
「く、しろ……、はるこ」
もしかしなくとも、母はこの家の生まれなのか。なら、次郎とこの家の関係は――『狗神』と『気に入られた家』。栄えるのも道理で、母との関係は『伴侶』ということだろう。
なら自分は――次郎の子供に当たるのだろうか。優しくするのは、そういうことだと。しかし本当に子供であれば、躯を重ねる意味はない。
次郎はなにを思って、そうしているのか。
じっと次郎を眺めれば、にこりと笑い、吉春の唇を塞ぐ。
「嫌だ!」
ぶわりと湧いた嫌悪感に肩を押せば、ガラリと横開きの玄関が開く。
「あらあら、騒がしいと思ったら吉くんじゃない! 今日もかぁいいわね」
「て、店長っ!?」
「言っていた通り、晴子に会いに来たのね」
現れた店長に目を丸めて唖然とすれば、聞き流せない言葉が聞こえてきた。目の前の長身の男は、笑みを浮かべながら吉春を見ている。
「え……? な、に……? おわっ!?」
「――こちらへ」
次郎に担ぎ上げられた吉春は、顔を引き締めた店長を初めて見た。――これはきっとよくないことが始まると、その空気で察しがついてしまった。
□■□■
次郎に連れてこられた先は、ひとつの和室である。奥には簾がかかり、その向こうには一組の布団が敷かれていた。その上に下ろされた吉春は逃げようと暴れるが、次郎の手に封じられてしまう。力の勝てない相手に押し倒され、ネクタイでがちがちに手首を縛られてしまえば、逃げることなどできないだろう。
「ひっ……、や、次郎っ」
胸をまさぐられながら首筋を滑る舌に躯が跳ねてしまう。しかし親子だ。この行為は、タブーとされていることである。「嫌だ」と頭を振れば、次郎の躯が離れていく。
「嫌がる意味が解りません」
「っか……、母さんに、会わせてくれるって、言った、だろ」
「言いましたが、すぐに会わせると言った覚えはありませんよ」
「んっ……、でもっ、お、オレはっ」
「昨日は私も我慢をしたのですよ。今日も我慢をしろというのは、無理があります」
「んん……! ……っん、だけどっ、オレはぁ……、じろ、と、母さんの子供っ、で……次郎はっ」
「――違いますよ。私は晴子を孕ませたりはしていませんよ。ですから、なにも心配はいりません」
「そ、れ……本当?」
「はい。私の可愛い吉春」
唇を塞がれるが、さきほど湧いた嫌悪感はない。次郎の子供ではないと解ったからだろう。
次郎に与えられた温もりが、タブーにならなくてよかった。きっとそうなったら、ぎこちなくなる。それは嫌だ。ひとりしかいない家族と、距離をおかなくてはならないのはどうしようもなく辛い。
ふたたびよかったとほっとして、涙が溢れてきてしまう。
「じ、ろ……っ」
「はい」
「次郎」「次郎」と紡げば紡ぐほど、与えられる温もりが強くなった。
繋がりを深くすれば、乱れた呼吸や水音が部屋を満たす。声を聞かれるのは嫌だと時折布団やネクタイを噛む吉春は、その度にそこから離され、深いキスをされてしまう。
「っあ……、あ……じろっ……、も、逃げない、から……」
「無理ですよ。私が吉春を離すわけがありません。たまにはこういうのも好きですよね?」
「好きじゃない」というその言葉は、当たり前に溶かされてしまう。
顔を綻ばせた次郎のキスによって。
□■□■
少し寝て体力を回復した吉春はいま、次郎に抱き抱えられていた。変わらず手首にはネクタイがあるが、緩めてくれているようだ。
「着きましたよ」
「着いたって……、どこに? オレ疲れてんだけど……」
「母屋です。大事な話がありますからね」
「わっ!? じ、次郎、お前っ」
母屋の障子が向こう側から開き、なかに足を踏み入れた矢先、次郎からバチバチと高い音がした。刹那、はらりと艶やかな髪が宙を舞う。
服装は前とは違い、白い着物だ。一見で高級だと解るそれは、次郎によく似合っていた。頭には変わらずに動物のミミが生えていたが、ここからではしっぽは見えない。
「き、着物……、似合うな」
「ありがとうございます」
「『狗神』様、どうぞこちらへ」
障子を開けたらしい女が立ち上がり、奥へと進む。あとを着いていく間、吉春は次郎の胸に躯を預けていた。とくとくと流れる心地よい心音に、うつらうつらと瞼が揺れる。しかし寝てはいけないとブンブンと頭を振った。
「吉春?」
「なんでもねーから! ほら、ちゃんと歩けって」
「はい」
そうしてまた躯を預ければ、すぐに瞼が踊り出す。知らず知らず頬を擦り寄せていたことにも気付かずに。
次郎は眠気に負けそうな吉春の額に唇を落とした。
「――私の可愛い可愛い吉春」
コホンと女が咳払いをしたのは、四度目の口付けを終えたときである。
□■□■
襖の向こうに並ぶのは、『九白』の重鎮たちだ。厳かな空気が流れ、誰もが固い顔をしていた。そのお蔭で、吉春の眠気は彼方に飛んだ。
次郎と和室を交互に見遣り、座るうちのひとりの店長に視線を遣るが、ただ笑顔を返されて終わりだった。
奥に掛けられた簾は上がり、座布団が鎮座されている。刺さる視線をもろともせず、次郎はそこにあぐらをかいて、そのまま吉春の肩に手を回した。引き寄せるその耳に噛み付く。
「うひゃっ!? 次郎っ!」
「はい」
「な、なにすんだ! あ……、しっぽあったのか!」
揺れるしっぽが目に入り、吉春はそれを追う。
「ありますよ」
「って違う! しっぽ追ってる場合じゃないし! 次郎、母さんは?」
周りを見渡すが、女の姿はない。女装している男の姿はあるが。
「晴子は亡くなりました。私たちが晴子を見つけたときには、もう末期だったのですよ」
「なんで……? 会わせてくれるって、そう言っただろ!?」
「はい。言いましたね。私は吉春に希望を残しました。泣き顔は見たくなかったのです。許してくれとは言いません。殴るにしろ蹴るにしろ、好きにして構いませんよ」
優しい声が降るなかで、手首を縛るネクタイが解かれる。残る赤い痕は涙に滲んだ。
「会えないなら会えないで、仕方がないって思うのに……。なんで……ちゃんと言ってくれないんだよ……。次郎のアホ! オレがっ、次郎を殴ると、思ってんのか……っ」
泣きながら次郎の胸元を叩く吉春は、「アホだ」「バカ野郎だ」と何度も繰り返す。パタパタと揺れていた次郎のしっぽは、いつしかぺたりと床についていた。
「吉春」
涙を舐めとり、「いまから晴子の話をしますが、いいですか?」と紡ぐ次郎に吉春は小さく頷く。額に落ちる唇を払う気にもなれない。次郎は優しく笑っているのだ。こんなときでさえも。横髪を梳きながら。
「私が知る限りの話です。晴子が――」
吉春の母・晴子が恋に落ちたのは、大学生のときであった。同級生のその男は、呪術の家系である『九白』にも拘わらず、晴子の想いを受け入れた。
あの小さな一軒家は、『九白』の関係者が建て、ふたりは仲良く暮らしていた。のだが、男は事故に遭い命を落としてしまった。男の家の者は晴子を責め、晴子は自身の家から出ていった。晴子が二十二のときだ。
そして、晴子は思い出が残るあの家に住みながら呪いをかけた。『九白』に呪いを。しかし未熟ゆえ、呪いは跳ね返ってきてしまう。
これはマズイと晴子はすぐにやめてしまったが、躯は徐々に蝕まれていたのだ。吉春を身籠っていたと解ったときには、もう遅かった。
子供になんらかの影響があればいけないと、なんてことをしてしまったのかと、晴子は悲しみに明け暮れたが、それでも吉春を産み、育てていた。――あのときまで。
晴子は倒れていたところを発見された。
治療に全力を注いだが、三ヶ月後に晴子は逝去した。
「吉春。あなたの母は、あなたを捨てたりしていませんよ」
「うん……、解った……。じろ、とこの家の、関係、は……?」
「私は神です」
「え、あ、ああ……?」
神は人の世に現れるという。そして次郎は、暇潰しに来たと言う。
街をブラブラと歩いていたそんなとき、『犬神』に出会ったらしい。犬の生首は次郎に襲いかかったが、神の力で跳ね返した。しかし怨念は残ったままで、次郎の隙をついてそれらは体内に侵入したようだ。
危うく死にかけたところを『九白』の者に助けられ、お礼としてその家に富と繁栄をもたらすようにしたという。
長い長い年月を怨念とともに過ごした次郎は、その影響で犬ミミとしっぽを持つ『狗神』になってしまったということだ。
「は、伴侶、の話は? 『狗神』に気に入られた者は、伴侶になるんだろ?」
「人の言葉は変わるものです。私も男ですから、女体に反応します。ですから、何人もの女と一夜を明かしました。ときには神の子を宿したいという物好きな女もいましたね」
「子供は、できたのか?」
「ええ。しかし神の血は強すぎるのか、母体はほぼ壊れました。精神も肉体も含めて。神であっても、してはいけない領域があります。自然の摂理を乱してはいけない。壊れたものを直すことは、私にはできません」
次郎はそのときを思っているのか、寂しげに笑いながら吉春の手を握った。
「私と『伴侶』になろうとすると壊れてしまいます。あんな姿は見たくないのでもう何百年も交わっていませんから、受け継がれている神の血は薄くなっているはずです」
「オレは……? 次郎としてるのに、変わったことはないぞ? その……さっきはゴム、着けなかったしさ……。だから中じゃなくて、外に出してくれた、けど」
「それは私が吉春を愛しているからです」
「は……? な、なにそれ。どういう意味なわけ?」
「そのままの意味ですよ。魂ごと愛しています。そう愛したいと感じたのは吉春が初めてです。そして吉春を愛して解ったことですが、女たちが壊れてしまったのは、表面上を愛していただけにすぎなかったからでしょう」
「あ、愛っ……えっ、ええっ!?」
「私の可愛い可愛い吉春。あなたが死んでも、私はあなたを愛しますよ」
真っ赤な顔の吉春は、美しく笑う『狗神』様に唇を奪われた。
□■□■
数日後、吉春は次郎と共に、母の墓参りへと出掛けていった。立派なそこに眠る母に手を合わせた帰り道、次郎の我慢が切れたお蔭で、こうして店にも顔を出す。
もちろん父の墓参りも希望したが、相手方に断られてしまったと『九白』の主に言われてしまった。「まだ許していない」と――。
次郎は「人間の恨みというものは、犬神の怨念と同等に恐ろしいですね」と呆れていた。ミミとしっぽを出しながら。どうやらスーツ姿であろうと、それぞれ出し入れは可能らしい。それは力を誇示する為に行われているようだ。その後にキスをされ、吉春は次郎を蹴飛ばしたのは言うまでもない。
「ちょっ……、抱きつくなっ!」
「私の吉春」
「んっ! ば、バカ! 耳を噛むなって」
抱きついた瞬間から、次郎を引き剥がそうと肘で押していたが、うまくいかずに体力が消耗するだけである。はーはーと息をあらげる吉春に対し、店長がカラカラと笑う。
「吉くん、ジロちゃんを見てみなさいよ」
「は?」
「ジロちゃんのしっぽ、すっごいわよ!」
促されて肩越しに次郎のしっぽを見てみれば、それは犬のようにはち切れん張りにブンブンと振られていた。
次郎が使うお金は『九白』から渡されていることを知ったいまも、吉春はここでバイトをしている。
ちなみに店長は『九白』の分家であり、昔から次郎を知っていたようだ。ここのバイトだけは許してくれている理由はそこにあるという。次郎は吉春に恋愛感情を抱く人間がいないことに安心したいのだ。自分だけ想うことに、自分だけが想われていることに、次郎はあぐらをかいている。
吉春からは『狗神』様と呼ばれたくはないと相談され、名前を付けてあげたのも店長だ。「次郎でいいんじゃない? 『狗神』様はなんとなく次男っぽい顔してるし」と。「それでいいです」と納得してしまった次郎も次郎だが、呼びやすいのでこれはこれでよかったのかもしれない。
「次郎……!」
「はい。私の可愛い吉春」
「ばっ……キスすんな!」
顔を背けながら脛を蹴飛ばす吉春の手を取り、次郎は顔を綻ばせる。
「帰りましょうか」
――あの家に。
吉春が望めば、『九白』での生活は容易い。しかし吉春はそれを断った。次郎と共にあの家に住むからと。
――母と父と次郎との想い出が詰まるあの家で。
母となり父となり、兄弟姉妹に変わる次郎とこれからも一緒に。
『見つけた。私の――愛する人。可愛い可愛い吉春』
ー『母と狗』了ー
【 あとがき 】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
神様ネタはもうひとつ考えているので、完成したらどこかにあげようかと思います。
みつあみお下げの女装癖の神様と人間の男のお話を!
2014/1/9