から、どうしてこうなったのか分からない。
耳元を擽る声音は、どこまでも優しく。
鼻腔を擽る匂いは、どこまでも心の音を弾ませる。
首元を擽る髪は、どこまでもいたずらに体を揺さぶってくる。
視界に映る彼女の首元は、仄かに赤く肌を彩っていた。
ぴちゃ、ぴちゃ、と耳を舐め上げる音と熱い吐息が心臓の鼓動を逸めていく。
時折、こちらを伺うような鈴の音のような声音で「しきかん……」と耳を震わせていた。
そんな彼女とは別に、それを他人事のように眺めている誰かがいる。自分以外ありえない答えに、自傷気味に自分を笑ってみせた。
生まれはどこだったか、物心が付き始めた頃にはすでに親はこの世界にいなかったし、それを知るすべも当時の俺は知らなかった。
ただ、どこかの辺境の町というのも烏滸がましいゴーストタウンで、
親が死ねば誰が俺を育てるのか、幼い知識に委ねても朝日が拝める訳もなく、自分の暮らしに精一杯な町の住人に俺を養うほどの蓄えなんてものは当然ない。軍に守られることのない辺境の町を生き抜くには自分で食料を得なければいけない。それが、外側に暮らすモノの常識になっていた。幸いにして、自分以外にもそういった残された者、捨て子となったものが沢山いたおかげで食料を
そんな右も左も分からずじまいの俺を見かねたもの好きな一人がいた。
みすぼらしい姿に無精ひげを生やし、ひどく濁った目つきをしたそんな人が……俺にとっての、一人目の親代わりになった人だった。
生きたきゃついてこい、と付いて行った先で言われた言葉をこんな年を重ねた今でも何故か覚えている。
『あそこの人達から食料をもらってこい。みすぼらしいお前の姿を見て何も感じないほど摩れちゃいないさ』
そう言って、その時の俺は生きるのに必死に、食料を貰いに行った。
両腕に抱えてなけなしの食料を持って帰ってきたとき、手元に残った食料は一割にも満たないモノだった。
それでも、拾ってもらえた喜びにそんなものは霞んで見えていて、幼いながらにもここで捨てられたらもう誰もいないなんて考えていたからなのかも知れない。必死に親代わりを盲目的に慕っていた。
そんな日が続いていくある日、親代わりが死んだ。
また一人。またしても一人。奇跡はそう起きないと思っていた矢先にまた僕を、俺を拾ってくれた人がいた。
ここから出よう。そう言って俺に手を差し伸べてくれた人の瞳もまた、酷く濁っていた。
どうして、今こんなことを思い出している?
――分からない。
……わからないことが、酷く頭を痛ませる。
「おれ、は……」
「しきかん?」
それは多分、きっと、彼女らに触れることが多くなったからなのかもしれない。
――彼女ら、戦術人形たるコイツらに……。
こちらを見上げる茶色い瞳が、心配そうに揺れ動いているのが見えた。それを安心させようとしてか、両の頬に触れる彼女の暖かな手に手を添えて、頬を摺り寄せた。
「っ……、ど、どうしたの?」
「僕は……」
「しき、かん……?」
微かに驚きに開く彼女の瞳孔が揺れる。
俺はいま何を――。
冷ややかに体が冷めていく感覚に、ハッと我に返った。
「いっ――」
未だ昨夜の酔いが残っているのか、頭に走る痛みに視界を歪まされる。
「あぅっ!?」
「くっ!?」
痛みに反射的に頭を下げたのがいけなかったのか、眼前にいたナインの額に見事にクリーンヒットしていた。
まさかまさかの追い打ちに響く頭に、今度こそ頭を抑えて小さくうめき声を漏らす。
「すまん。大丈夫か?」
「随分と熱烈な愛だねぇ~」
「平気そうだな……」
「結構痛いんだよ?」
唇を尖らせて抗議の目を向けられているが、ことさら痛そうに見えないのは彼女の言動ゆえか、じんわりと痛む額を抑えながら空いた手で彼女の額へ触れるも、たんこぶらしいものもなにもない。そのまま流れるように頭を撫で上げれば、困惑を含む声音を上げた。
「え、と……?」
「あぁ、すまん……」
先ほどから、どうにも思考と体がチグハグで上手く纏まらない。
やはり昨夜の酒瓶を数本ほどカラにしたのは、体には良くなかったか……、存外大丈夫と思っていても、こうして体に痛みとなって現れるとやはり浅知恵は浅知恵だったという他ない。
なんだか体も重いしで、まったくもって体を動かす気力が沸いて出てこない。
背もたれにどっかりと体重をかけて天井を見上げる。
シミ一つもない天井を見て、ナニカが降って湧いてくるわけでもなし、別段なにかを求めて天井を見上げたわけでもなし、そのまま息を吐き出しては、数秒目蓋を閉じた。
不意に、カチャカチャとベルトが揺さられている音が響いた。
「男の俺が言うのもなんだが、こうムードが霧散した状況で続けるかね……?」
「……ダメ?」
「ダメ以外の言葉が聞けると思うてか……」
「うんしょっと」
うん、聞いてないね。最早、そういった空気も跡形もなく霧散したと思ったのだけど、彼女は違うらしい。
可愛げに首を傾げたのち、またベルトを緩める作業を開始しては、俺のイチモツを引っ張り出すのに夢中になっている。
「いや、だからやめてねって」
「私はヤリたい」
「俺はやりたくない」
「我慢してきたのに~?」
「そうは言ってもだ」
「散々AR小隊の子らとヤってたのに?」
「…………」
言葉も返せず、半眼でそれでもやりたくないと訴えるも彼女の行動は止まらない。
毎回思うけど、ナイン含め他の404小隊の面々って俺の情報を余すことなく握っているような気がしてならない。というか、握られているだろと確信さえしてる。部屋に隠しカメラしかり、他にも俺の行動を探る何かがあっても可笑しくない。さしもの俺も、流石にプライベートを覗かれるのはどう考えても頭の中の会議で満場一致でノーと結論が出るレベルでいやなので、即刻取りやめていただきたいが、それこそ今更である。過去に……指揮官になる前にそれを言ったが全員からもれなくノーと返されたのを覚えている。
霧散してしまった空気に構わず続けれる彼女の豪胆さにあっぱれと称えるべきか、僅かな抵抗でもって手を差し出して振り払われる悲しき男を嘆くべきか、どちらにせよ嘆くヒマも与えられないままにあっさりとイチモツが大気に晒されてしまう。
彼女の眼前に力なく項垂れるは我がマイサン。最早ムードのへったくれもないこの状況で、息子様が存在を主張することはなく、なんで俺は外に出されたん? と訴えているようにさえ見える。分かるよ息子よ。俺もまさかこんな状況で息子さまにお目にかかるとは思わなかったからな。
そんなマイサンを興味深げに突っつくナイン。頭を右に傾け左に傾け、何が楽しいのかひたすらに突っついている。
「今はこんなのでも、勃つとすんごいんだもんねぇ~」
そんなまじまじと見ないでいただきたい。隙を見てはズボンを上げようと手を伸ばすが、邪魔しないでと言わんばかりに手を払いのけられる。しまいにゃ半眼で「邪魔しないでよ」と唇を尖らせている。いやいやと、そうはいかんよと先程から半眼で睨み返しているものの差し当たって効力は見受けられない。
「どうしてもやめないのな……」
「どうしても抵抗するんだね?」
――AR小隊の子とヤったのに。
と、また非難がましそうに付け足して、マイサンを突っついていた。
色々と言いたいことはある。別段AR小隊の子たちとヤリたくてやっているわけでもないわけで……いや、まぁ、確かに? 彼女らの見目麗しい姿に何も感じないという訳ではない。だが、それでも、それが理由でヤっているわけじゃない。そもそも、ヤっているというかヤられているが正しい。なんだったら襲われているという言葉にしたほうが正しい。襲われる度に思うことだけども、なんで俺はこうも襲われるのかと……、恋ってもっとこう清いものではなかったか? 無警戒に差し出されたものをAR小隊も飲んだものだしと安心して感覚共有ナノマシンなんて飲んでしまって、急な眠気にすやぁと目が覚めてみればペロリとされたわけだが、こう恋的なものって手を繋ぎたいとか、色々とあったような気がするが、差し当たって恋に興味を抱かなかった人生だったせいで、そういったことにはとことん疎い。なまじか少年だった頃に大人の汚い部分を見て生きてきたことも手助けして、そういったものにはいい色を示せなかった。だからといってそれを理由に人様の恋をどうこう言うつもりもない。そんなことを含めて、昨夜はM4とAR-15に言っていたと思うが、本当に言えただろうか。今更になって不安になってきた。
閑話休題。
話が逸れた。
結局のところ、何が言いたいのか。
ナインにそれを言われてしまえば、どう取り繕っても、なんど同じ言葉を投げかけても、そんなことを言われてしまえば言葉に詰まらざるを得ない。
今の俺に出来るのは、せいぜい日にちを変えようだとか問題の先延ばしぐらいしか逃げ道がない。
最悪、本気で拒絶の意を示すという手もある。だけど、それは多分俺には選べない選択肢でもあって、それを選んだ場合の後が怖いというのを知っているということも重なって、そうそう選べそうになかった
「なぁ、ナイン……」
「なに?」
「おいで……」
「ッ――!!」
だからこそ、幼い頃から根付いて離れない悪癖と言ってもいい諦めの選択肢を選んだ。
逃げた先に出口などないと知っているのに、それでも問題の先延ばしを、その
喜色を多分に含んだ茶色い瞳が見開かれる。
両の腕を広げて小さく微笑むと、それを合図と取って胸元にナインが飛び込んでくる。
自分の意志ではなく俺の意志で招かれた場所に、ナインは喜びを滲ませた声音で――。
「指揮官! 好き!!」
感極まったが如く、胸元で彼女はそう言った。
椅子が軋みを上げるのも構わず、俺に全体重を預けるように首を回る腕の力がこれでもかと強くなっていく。
「くっ、ちょ、ちょっと……ナイン?」
「あ、あぁ……ごめん。嬉しくて……」
えへへと、執務室を訪れた時のような笑顔ではなく。正真正銘心から覗かせる笑顔がそこにはあった。
これで良かったのかと、チクリと痛む心に蓋をして。
「それじゃ、指揮官を気持ちよくさせちゃうぞ~」
ふんす! とやる気を出して、未だに事の顛末に興味なさげなマイサンへと対象を定め、優しく手を添えた。
自分の持ちうる熱とは違う人の熱にピクッと体が僅かに反応する。
そのまま手でするのかと思えば、つまむように持ち上げたままにイチモツを口に含んでいた。
「くっ……」
暖かく、ぬめりを覚える口内に加えられる我が息子は、徐々に熱を蓄え膨張を開始する。
男とはなんとも単純なものか、少なくとも彼女もまた客観的に見ても可愛いと評されるほどに、その容姿は優れている。
そんな子が、自分の汚いと言ってもいいところを喜びに口をあけ迎え入れている光景を見て、男が反応しないわけがない。
口の中で徐々に形を膨らまし、硬さを増していくものを加えたままにナインはそのままニコリと笑った。
「
そうなふうに言っていたような気がする。
ぷはぁ、と口から開放される我が息子にナインの口内より幾分か冷えた空気が息子を冷やした。
そして、そのまま少しずつ硬さを増していく肉棒にナインが裏スジへと舌を走らせていく。
逃がす先もない快感に、小さく喘ぎが漏れる。
反射的に両足を閉じようとして、がしっとナインによってそれが阻止される。それでも腰から駆け上がる快感に体が思うように動かずに、快楽から逃げるために行くあてもない両の手をナインの頭へと置いていた。
与えられる快感に、ピク、ビクンと動く手に嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
「気持ちいい?」
「ぁっ……」
返す言葉は虚ろで、返ってくる快感は鮮烈に体に刻んでくるから困る。
チロッと舐め上げたあと、チュッと亀頭にキスをして、また裏スジを舌が這う。
ゆっくりとツツーっと、下へ下へ泳ぐように竿の裏側を降りていく舌の感覚に情けないほどに声が出ていく。
竿の下まで降りかかった舌先がピタッと止まったかと思えば、また上へと舌が這っていく。
「あっ、くっ……ぁ……」
堪らず声があとを追うように漏れ出た。
「ナイン……」
無意識の内に飛び出たのは彼女の名だった。
肉棒への愛撫をやめ、こちらを穏やかな顔で伺うナイン。
その瞳はなにかを懐かしむようで、それでいて酷く興奮をありありと伺わせるような吐息を交えていた。
「ホント、指揮官は、変わらないね……」
興奮のせいか、合間合間に息が漏れ出るのも構わずに彼女は言う。
左手で肉棒を包み込むと、ぐっとこちらへ顔を寄せて舌でまた首元をくすぐり始める。
肉棒を扱いだままに、ちゅっ、ちゅるっと淫猥な音を響かせ、断続的に快感が体を襲う。
ふわふわと、体がさらに快楽を得ようと彼女を向かい入れようと手が動いて、寸でで手を止めた。
いやいやダメだと。理性ではダメだと理解しているはずなのに、体はどこまでも正直にさらにさらにと快感を欲している。
ナインに与えられる快楽一つ一つに体がバカ正直に反応を返すせいで、ナインはそれを嬉々としさらに快楽を与えんと手を、舌を使い体を愛撫してくる。
マズイ、とナインの体を押し返そうと両肩に手で押し返そうとするも、自分でもわかるほどに力が入っていなかった。
「ダメ、だ……」
「おいで、って言ったのは指揮官だよ?」
だとしても、それでもダメだと頭を横に力なく振るう。
そんなこともお構いなしに与えられる快楽は、あざけ笑うように呆気なく俺を絶頂へと導いていた。
「はぁ、はぁ……」
「気持ちよかった?」
息もまとまらぬままに、返答も返さずにナインの肩へと頭を預ける。
見下ろした先に僅かに上下する胸があった。息をしている。呼吸をしている。視界に映るのは人間のソレだった。
彼女の息遣いも身近に感じる体温も、等しく全てが人間だった。
不本意ながらでも
――やっぱりだめだ。
「え、ちょ、指揮官……?」
彼女の背中に両手を回して抱きしめた。
手繰り寄せるように、その熱を求めて両腕に抱えるように、逃がさないように抱きとめた。
あたふたと、突然の指揮官からの行動に「あっ、うっ、えぇ……と……」と、言葉にならない音が零れている。
「なぁ、どうしてSOPMODにキツくあたったんだ……」
腕の中にいたナインが、動きを止めた。
「どうして今、他の子の名を呼ぶの?」
冷たい声音が疑問を投げ返す。
両腕で抱きとめてる温かみが嘘のように冷たく感じた。
「ねぇ、どうして?」
「……俺にとって、ここで出来た家族だからだよ」
指揮官として配属されて数日、司令部本部にて研修を受けている俺の初めて対面した人形が、彼女たちAR小隊だった。
右も左も、素知らぬ人間、人形ばかりのなか……俺の部下として配属された彼女たちとの最初の任務は交友関係を持つことだった。
そうした小さな積み重ねがあり、今の俺がある。
銃の持ち方を知っていた。
敵の殺し方を知っていた。
でも、実戦経験の少なさが彼女たちの唯一と言っていい足りない所だった。
それを補うための指揮官として俺はそこに配属されている。
僅かばかりの数ヶ月を得て、こうして同じ飯を食っていくそのあり方を家族と称したのは他でもなく――。
「私たちは、いらなくなったんだ」
驚く程に冷たい声音に反して、俺の背中を回る彼女の手は優しかった。
「違うそうじゃない……ただ――」
「ねぇ、指揮官。私たちじゃ、満足出来なくなった?」
「だから、違う……そうじゃないんだよナイン」
「ねぇ、私たちも怖いんだよ?」
反射的にでかかった言葉が、喉に深く突き刺さったように口をついて出なかった。
「指揮官が、それを受け取るのが怖いように……私たちもこの気持ちが幻なんじゃないかって、与えられたものなんじゃないかって……、怖くて怖くて怖くて、それを確かめるために指揮官が欲しくて、それで、指揮官から与えられるもので安心したいの、これは本物なんだって」
彼女の手が、体が震えている。
ちゃんとそこにあるのを確認するかのように、少しずつ力が強くなっていく。
「でも、安心した」
いったいなにに……?
「
だから、ね? 指揮官……。
耳を冷たい冷気がなぞる。
いつだったか、俺は彼女のことを蛇みたいだと揶揄したことがあった。
その時思わず口にこぼしてしまって彼女に詰め寄られた記憶が想起される。
あぁ、俺は蛇は好きだぞ? と、そう返すと満足そうに彼女は俺を開放してくれた。
あくまでも、それは見る側としての感想だった。
時には食料にもなりうるからこその非常時に役に立つだとか、舌を覗かせる顔が好きだとか、そういった意味で答えていたはずだ。
今はどうだろう。今まさに体に絡みつくように大口を開けてこちらを飲み込まんとする蛇を見て、好きだと言えるだろうか?
「私は、
ねぇ、指揮官。
幾度となく耳を擽る声音は落ち着いていた。
「これは小耳に挟んだことなんだけどさ。指揮官、そろそろ異動するみたいだよ? S09地区ってところに……」
一体どこで小耳に挟めるのか。彼女たちの情報網はどこまで伸びてるのか……。
「今度こそ、
それを知るすべは、きっとこの先も知れることはないだろう。
寄りかかっていた壁すらも崩れていく感覚が、体に僅かに浮遊感を与えて冷たい底へと堕ちていくような感覚が
開幕、エロから始まるかと思ったら独白だったでござる( ˘ω˘ )
CV能登さんで再生して、「ひぇっ」てなってる
別に、彼女は最初から狂ってるわけじゃなかった(過去形)
9「あれ? この感情なんだろう?」
指揮官&SOP「キャッキャッ!!」
9「恋だわ(確信&殺意)」
まるで『猫が、後からやってきた犬っころにスペースを取られて怒ってるみたいだぁ』と最大限のほんわか表現で次回は忠犬に会いにいく。
正直、一番ナインちゃんが書いてて難しい。