※この作品はR-18です。

少女前線~大乱闘指揮官略奪戦記~   作:屋根上猫

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インフルエンザには勝てなかったよ……(´・ω・`)
皆さんも流行りモノには気をつけましょうね。

というわけで、遅くなりましたがこちらをどうぞ。


ただし、エロはない模様
後編に続くのじゃ……
後編に、エロを蓄えるのじゃ……。


第六話『飼い犬は、時に思いを馳せる・前』

 どこか薄暗さを感じさせる研究棟の一角に、二つの影がテーブルを挟んで座っていた。乱雑気味にテーブルの上に所狭しに置かれている何に使われているのかさっぱりな部品をどうにかどかして確保したスペースにマグカップが互いに一つ。傍らにはこれまた何が書かれているのか分からない書類が数枚、そこから視線を外して、仄かに薫る芳しい香りに心を穏やかに保ちながら、立ち込める湯気の向こうに寝癖を放ったらかしにした、なんとも開放的な姿をした女性に目を向けていた。

 

「まさか、指揮官が直々にここに来るなんて、私は思わなかったよ」

「まさかは、こちらの方ですよ。正直こうして会話を交わす時間が取れるとは思わなかったです」

 

 一体どれほど会話をしていたのだろうか。他愛もない小さな会話を、二杯目ともなるコーヒーを置いてテーブルの向かいに座るI.O.P社の技術開発部門“16Lab”の主席研究員である所のペルシカさんが、未だ湯気の立ち込めるマグカップに両手を添えて、ふーふーと唇を尖らせていた。

 猫舌か? と、頭にピコピコ動く猫耳を視界に収めながら、俺もまた一口コーヒーを喉に流し込んだ。うん。うまい……。

 その猫耳は飾りではないのかなんなのか、今じゃ技術レベルも格段に上がってるこの時代。今時、ピコピコ動く猫耳らしきナニカが頭から生えてるぐらいじゃ驚きすら湧いてこない。そもそもAR小隊や、他の第二世代戦術人形の基礎部分を作った産みの親とも言うべき人なのだ。本名をペルシカリア。彼女らI.O.P社の支えあってこそ我々G&Kが成り立ってると言ってもいいほどの人たちだ。こちら側にとっても最重要人物の人間にこうして対面出来たのは、俺の僅かばかりに残った幸運が頑張ってくれたおかげだろう。

 ただ、そんな最重要人物の姿はと言えば、少なくとも大衆の面前にそのまま出ようものなら間違いなく俺はストップを掛けること間違いなしな姿をしている。異性である俺が同室にいるというのに恥ずかしくもないのか、白衣の下に着ているのは鈍色のワイシャツに、随分と丈が短いスカートという出で立ちだった。むしろ最新の技術よりかは一番驚いたポイントかもしれない。もっとも、その惜しげなく晒された不健康そうな柔肌はテーブル下に隠れているが。

 

「それで、件の面白指揮官君は私になにようかな」

 

 ニヤニヤと、それはもう一転して口元を歪ませる対面の女性にジト目を返しながら、二口目を喉に流し込んでいく。いや、ほんとに美味いな……。

 

「単刀直入に言いますが、あの薬の解毒薬はないんですか?」

「ないよ。そもそも解毒薬を作るつもりは無くてね」

 

 キッパリと、ニヤニヤ顔のままに彼女は言ってのけた。

 何が楽しくてこんなことを――とは言わない。こんな半ば地獄に近い世界において、娯楽なんてそうそう降って湧いては来ないものだ。そんな彼女が、目の前にある娯(・)楽(・)を逃す訳もなく。それこそ、娘たちの恋(・)愛(・)事(・)情(・)を前にする母(・)親(・)の気持ちなど考えるまでもない。それでも、自分がそういった対象として多かれ少なかれ不満を抱いているのだから、自然と顔に不満顔が張り付くのは仕方のないことだろう。

 

「そんな顔をされても解毒薬は作らないよ。もし私に解毒薬を作って欲しくば、彼女達……M4達に納得の行く解答を寄越してあげることだね」

 

 さながら四天王を倒した先に待ち受ける裏ボスが如く、悠然と彼女は言った。

 裏ボスが彼女なら四天王はAR小隊だろうか、なんて余所で考えながら、まだ温かみを覚えるコーヒーに口を添えた。

 では、この半ば突発的に起こる他人の温もりイベントはどうすれば終わるというのか。この前だってそうだと思わず思い出しかけた記憶を振り払うように四口目をその身に流し込んだ。

 

「まったく。君は何を悩んでいるんだい?」

 

 くっくっ、と口端をヒクつかせながら彼女は問うた。

 何に? そりゃ言わずもがな彼女らの日頃の行いがヒートアップしてることだと口にする前に、ペルシカさんはさらに言葉を重ねる。

 

「君は、好きな人でもいるのかな?」

「はい?」

 

 何を唐突にと、思わずペルシカさんに視線を向けて。

 

「いないですよ」

「なら、M4たちの愛に答えてやればいい」

「簡単にいいますけどね……」

「実際、簡単なことだろう。もうすでに一夫多妻制やらなにやら、今ではすでに生き残ることが最優先な世界さ。それこそ戦術人形達の愛を受け止めるだけに過ぎない。そこになんの障害がある」

「仮にも、我々は上官と部下の間柄だ。そこに――」

「上官と部下の間柄でも恋は成立するさ」

「そもそも――」

「君は、何から逃げてるのさ?」

 

 ピシャリと、空気を断ち切るような声音が耳朶をうった。

 気付けばマグカップに満たされていたはずのコーヒーは何処へやら、気づかぬ間に飲み干してたらしい。

 ペルシカさんへと視線を向ければ『コーヒー、お代わりいるかい?』と、何の気なしに問うてきていた。無言のままに首を振るって、息を吐き出していく。

 

「分かってますよ。結局は、自分が逃げているんだってのは……」

「ならば、それこそ一度、彼女らの気持ちを受け取ってしまえばいいじゃないか」

「怖いんですよ。それを受け入れるのが……怖いんです……」

「怖い……か……彼女達もまた、君に対してどう行動すればいいのか怖くて分からないって、私に泣きついてきたことがあってね」

「彼女達が……?」

「あぁ……、お生憎様、恋愛感情なんてものは専門外でね。一先ず当たって砕けてしまえって言っちゃってね」

「自分が砕けそうな要因が目の前にいることに驚きですよ。それに加えて――」

 

 コトっ、とマグカップが置かれる音と共に、言葉を遮り気味に彼女は言葉をさらに重ねた。

 

「404小隊……」

 

 ――彼女達もまた、君を好いている。そうだろう? と、彼女は口にした。

 

「そういえば、416が感覚共有ナノマシンのことを知っていましたけど……あれは」

 

 あまり思い出したくない事柄と共に思い起こされるHK416の言葉を思い出すように呟けば、なんとも罰の悪い顔で頬を書きながら彼女は答えた。

 

「あぁ……、そうだねぇ。言葉巧みに誘導されて、ついポロっとね」

「あの……、なら、まさかと思いますが、彼女達もそれを飲んだりなんてことはないですよね?」

「それなら大丈夫さ。彼女はそれだけ聞いて満足して帰っていったからね。それに、作り方はこの頭の中にしかないから作られることもない」

 

 そう言って、自分のこめかみに人差し指を当てて『悪用されると困るからね』とニヒルな笑みを浮かべた。

 確かに悪用されると、色々と面倒だ。突然みしらぬ人間から足を切断される痛みが送られでもしたら、間違いなく混乱が生じる。改良が重ねられればショック死を与えれる可能性だってあるはずだ。飲んだ感じ、エナジードリンク風味と言ったが、味だって今なら変え放題だ。適当な味に変えて飲ませて、適当な輩に飲ませて、強制的に感覚を送り込んで、死を与えてやればめでたく完全犯罪が完成されるだろう。よく考えなくても恐ろしいなおい。

 まぁ、画期的な暗殺方法についてはさておいてだ。

 

「それじゃ、俺はここらで帰るとしますよ」

「おや、帰るのかい? まだ、悩み事は解決してないように思えるのだがね」

「お悩み相談に来たわけではないので」

 

 もっぱら、解毒薬に付いて話を聞きに来たというのに、否と返答されてしまったのだ。これ以上食い下がっても得られるものもないのに長居してもあれだろう。そもそもの休憩時間を邪魔してはなんだと、身を引くしかあるまい。

 それに、悩み相談なんて――。

 

「先ほど、俺は言いましたよね。彼女らの好意を受け入れるのが怖いと……」

「あぁ、そう答えていたね」

「実際のところ……俺は、」

 

 そこで、ふと俺は扉の方へと視線を向けた。その行動に理由を求めるのであれば、きっとなんとなく、勘がそうさせたのだ。

 俺の視線につられ対面に座る彼女もまた扉の方へと首を向けると、ノックが部屋に小さく響き渡った。

 

「ペルシカさん。今、お暇でしょうか?」

 

 扉の向こうから聞こえる声音が見知った声であることに、心のどこかで安堵を感じつつ、ペルシカさんに目を向けた。

 

「俺は、これで……」

 

 席を立ち際にごちそうさまでしたと告げて、扉へ向かう。

 もとより、こちらが告げるべき話は終わっているのだ。なればこそ、これ以上ここに留まっていても仕方ないだろう。

 こちら側から扉を開けてやると、扉前に待機していた人形が驚きに目を見開いているのが見えた。

 まさかここにいるとは思っていなかったのであろう。小さく「しき……かん……?」と紡ぐその唇が震えていた。

 その姿に思わず微笑み返して、後ろを振り返る。

 

「それでは、失礼しました」

「あぁ、またなにかあれば来るといい。私にとってもいい暇つぶしになる」

「流石にもう来ないですよ。今度はモニター越しに話を通させてもらいます」

「それは残念だ」

「では……」

 

 そう言って、こちらを見上げる震える褐色の瞳を持つ少女の横を素通りする。

 

「指揮官ッ!」

「もし、用があるなら俺の自室に来い……」

 

 それだけを端的に告げて、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

     +     +

 

 

 

 

 

 何故、そこにいるのですか? とか、どうやって、ここに来たのですか? とか、今日の副官担当だったAR-15は何をしているの? だとか、色々と浮かび上がってくる言葉が、喉から出てくることもなく。代わりに出てきたのは指揮官という言葉だけだった。

 私の姿が可笑しかったのか、柔らかな笑みを残して後ろを振り返るのと同時に、私もまた部屋の中へと視線を向けた。

 

「それでは失礼しました」

「あぁ、またなにかあれば来るといい。私にとってもいい暇つぶしになる」

「流石にもうこないですよ。今度はモニター越しに話を通させてもらいます」

「それは残念だ」

「では……」

 

 ここでいったい何を、どんな、私の知らない話をしていたのだろう。少なくともそれを指揮官に聞くことは難しそうだ。

 再度こちらを振り返った指揮官の表情を見て、ゾワリと背筋を這う嫌な感覚に、喉をつまらせた。

 隣を過ぎ行く指揮官の背中に慌てて声をかければ、彼は用があるなら自室に来いと、短くそれだけを告げて廊下を歩いていった。

 その背中が徐々に遠くに離れていくほどに、胸の内の鼓動が強くなっていく。

 どうして、どうしてそんな悲しそうな表情をしていたのですか……? 指揮官……?

 

「M(・)4(・)、いつまでそこに突っ立っているつもりだい?」

「あっ、えと、すみません」

 

 そういえばとここに来た目的を思い出すように振り返れば、いつの間にか湯気だったマグカップを二つ携えたペルシカさんがコトリと片方テーブルに置いている姿が見えた。

 

「ほら、こちらに座りたまえ」

「あ、はい……」

 

 半ば流されるように促された席に座ると、そこはどこか暖かさを残していた。

 

「あぁ、そういえばそこは指揮官が座っててね」

「……そうですか」

 

 妙な居心地の悪さに目を伏せて、逃れ気味にコーヒーを一口呷ると、クククと笑みを零す声に視線を向けた。

 

「なにかありましたか?」

「いや何、指揮官が使ったコップのお味はどうだったかなと思ってね」

「――ッ!! ケホッ!! ケホッ!! ペルシカさん!!?」

 

 してやったりと、声高にハハハと笑うペルシカさんに言葉も出ずにテーブルへと突っ伏してうぅと、なんとも得がたい感情から声が漏れ出る。

 

「さぁて、幸せを噛み締めてるところ申し訳ないが、こちらもこのあとすぐにでも仕事に取り掛からないといけないのでね」

「えと、その……」

 

 目的、とは言ったが、差し当たってそう大きなものではない。言ってしまえば悩み相談。さらに軽く言ってしまえば指揮官に付いて話をしていたい……なんて、そんな他愛のないものだ。ペルシカさんの貴重な時間を割いてまでと思うと申し訳なさに頭が上がらなくなる思いだけれども、それでもこうして誰かに話していないと溢(・)れ(・)て(・)し(・)ま(・)い(・)そ(・)う(・)で(・)私は怖いのだ。

 思いを一つ一つ解きほぐすようにしないと、いずれどこかで溢れるんじゃないかと、怖くて仕方がない。

 私は、その全てを手放したくなどないのに。

 だからこそ、姉妹全員でつなぎ合わせた受け取り皿(キャパシティ)だというのに。ここ最近では、それですら足りなくなって来ている。

 皆が皆、指揮官から与えられる些細な、僅かな、小さな行いだけでも、多大に幸福感を得ていることを、それをあまつさえ隙あらば皆に感覚の共有をしてくるのだから、堪ったものではない。指揮官が目の前にいない時にそんな感覚を送られてしまったら、今すぐに欲してしまうではないかと、AR15が口を尖らせていたのを覚えている。対して、始まりはお前だろうとM16姉さんが小突いていたのはもう数週間ほど前なのかと、流れる時の速さを憂うべきか良しとするか……それは別の問題か。

 小さく息を吐き出せば、湯気が揺れ動くようにその輪郭を変えて空(くう)へと消えていく。

 喋りたいこと、それはもちろんいっぱいあったはずだ。一口、二口、適当に言葉を並び立てればきっとすぐにでも溢れ出る思いをこれでもかと口にしていたはずだ。

 なのに、なんで、この口は開いてはくれないのですか? ヤケクソ気味に飲み干したコーヒーの味は、ただただ熱かった……。

 

「君のそういった表情が見れて私は満足だよ」

「え……?」

「ほれ、さっさと指揮官のもとに行くといい。今度来た時にでもまた話を聞かせてくれたまえ」

「あ、あの……」

「あぁ、それと。このコーヒーのパックも一緒に持ってくといい。随分と気に入ってたみたいだからね」

「いや、あの……?」

「一応言っておくが、解(・)毒(・)薬(・)は作ってはいないから、その辺は安心してくれたまへ」

 

 矢継ぎ早にあれそれと私の言葉を待たずに指揮官が気に入っているというコーヒーパックを無理矢理気味に手に持たされ、席を立たされた後、気付けばパタリと扉が閉まる音が背後から聞こえてくるのでした。

 

「……えっ?」

 

 どこかひんやりとした風が肌に触れていく感覚と共に流れ出た間抜けな言葉を吐いていた。

 

「え? ペルシカさん!?」

 

 いや、え? っと思わず扉を叩いてみても、自分が奏でるノック音だげが虚しく廊下に響き渡るだけだった。

 えぇ……、この溜まりに溜まった思いの捌け口はどこに向ければいいのですか。姉妹ですかっ……姉妹にすればいいんですか!? いや、違う。落ち着け私。

 別に焦る必要性が一体どこにあるというの、そもそもの話だ。思い返すのよ私。指揮官は言っていたわ。自室で待つと……。

 そう、自室で……。自室で? あれ、自室……自室ですか、自室かぁ……。はて、それはいいのでしょうか。いやまぁ、確かにM16姉さんとかSOPMODも指揮官の部屋に半ば強引に入ったとは聞き及んではいるのだけれど、なかなか幸せな空間だったと……羨ましい。

 いやでも、でもでも、流石に強引に入るのは私のいままで保ってきた体裁が崩れるのは、そのまずい気がする。何がと言われると困るのだけど、なんかまずい気がする。散々M16姉さんに、いい加減楽になれと言ってくるけれども、そう易々とこの性格がうんと頷くはずもない。ことこれに関してはAR15も同じような悩みを抱えているはずだ。多分、きっと、うん。まだAR15からそういった指揮官の部屋に入ったという報告は受けてないから、ないはずだと思う。メイビー、きっと、暫定的に。

 

 流石にいつまでも、扉前に居座るのもなんだし……どこか、どこに行けばいいのでしょうね。なんの用もなしに指揮官の自室に出向くというのは些かよろしくない。こう、せめて作戦事でも何か報告事があれば、楽しい楽しい会話でも出来るのにと。きっとこれもまたM16姉さんに言わせれば、考えすぎだと小突かれるのでしょうね。

 結局のところ私は、何か理由がなければそこに立っていられる気がしないのだ。恥ずかしくて。それはもう恥ずかしくて……。会う理由があるからこそ、そこに自分を留めて置ける。そんなメンドくさい女なんだと客観的にも思えるソレは、今となってはもう染み付いて離れない性分であった。

 そして、こうしてつらつらと嫌な予感がするものから逃れるように考え込んでしまっているのも……、私の悪い癖なんだろう。

 

 

 

 

 

     +     +

 

 

 

 

 

 歩くこと幾数分。指揮官の部屋まで残り数分の距離に差し掛かった時、曲がり角から現れた人影がこちらに気づき声を上げていた。

 

「M4、どうしてここに……、いや、そっちから来たってことは、またペルシカさんのところにいたのね」

「えぇ、そうよ。AR15こそどうしてここに?」

「あ、あぁ……私は、その、指揮官に隙を付かれて逃げられちゃってね」

「逃げられた? そう……」

 

 嫌な予感が、加速度的に増していく。まさか、あって欲しくないと願っていた思いが嫌が応にもその思いへと目を向けてしまう。

 

「ところで、M4は指揮官を見なかったか?」

 

 まだ何も知らないAR15に、これを告げていいのか……。数俊の間もなく、零すように漏れ出ていた声は、どこか低かったかもしれない。

 

「見ましたよ。ペルシカさんのところで……」

「なっ!? そんな、まさかっ!?」

 

 驚愕に目を見開くAR15。私もその情報を聞いたのであれば、同じような反応を示すでしょうね。

 落ち着いて、と一拍の間を置いたのを見計らうように返事を返した。

 

「大丈夫。解毒薬は作ってはいないと、ペルシカさんが言っていたから……」

「そ、そうか……」

 

 どこか安堵の色を滲ませた表情が映る。良かった。とそう口にする唇が綻びかけた瞬間、ハッと何かに気づいたようにAR15震える声音で呟いた。

 

「でも、指揮官はペルシカさんのとこへ向かった……のよね?」

「そう……ですね」

 

 その行動の意味するところを理解できないほど、私たちの脳は不出来に出来てはいない。いっそ脳天気なほどが嬉しいほどに引っかかるそれを解くように、ゆっくりと流れる時に身を任せ、AR15が答えを口にする。

 

「指揮官は……解毒薬を欲している」

 

 その事実に、その言葉の持つ意味に気づいた時、ざわりと……不快な感覚が体を包み込んだ。

 解毒薬を欲している。私たちでも404小隊の奴らでも、ましてや指揮官に付き従うほかの人形でもない。指揮官本人が欲している。その事実が、あるのかすら分からない心に深く突き刺さっていた。

 この感覚共有ナノマシンなる効能を指揮官は嫌がっているからこそペルシカさんの場所へ向かったのだろう。

 嫌がっている。言い換えれば、それは拒まれていると言ってもいいかもしれない。

 私たち側からの一方的な思いで、ペルシカさんに頼んでヘリアンさんづてに飲ませてしまった引け目はある。それはひとえに、怖かったからに他ならない。

 拒絶されるのが怖かった。拒まれてしまえば、自分を保てるのかさえ分からない。直接的に、拒まれてしまったが最後、足の力は抜け落ち、地面に膝を落とし、嗚咽を漏らすだろうことは想像に難くない。

 だが、たった今、間接的にとは言え、その行動を知ってしまったのだ。目撃してしまったのだ。ペルシカさんに解毒薬を頼んだのは間違いなく、少なくともその効能を迷(・)惑(・)だと思っているからで、その事実は間違いなく――。

 

「嘘よ……そんな、私たちを……」

「AR15……」

「嘘だといって、M4……指揮官が私たちを、っ……」

 

 拒んでいる。と口にするのだけは絶対にしたくなかったんだと思う。悲痛な面持ちのまま、自分の体を抱くように肩に手を回して、その場に塞ぎ込むように膝を落としていた。

 震える彼女になんて声をかければいいのか、咄嗟に言葉に出てこない自分が恨めしい。不意にゾクリと、氷の中に閉じ込められ暗い海に沈んでいく感覚に崩れ落ちそうになるのを堪えて……、いやこれは私の感覚ではない。この感覚は、とそこまで考えてAR15の肩に触れようと手を伸ばした時、一瞬の静寂が感覚を溶かした。

 

「指揮官は……どこ?」

「AR15……?」

「M4、指揮官は、どこにいるの?」

 

 のろのろと立ち上がった彼女の面持ちを見て、今度こそ初めて自分の体に震えが走っているのを覚えた。

 碧色の色をしているはずの瞳が、どこまでも暗く見えるのは私の目が不調を訴えているからなのか、今貴女はどこを見ているの……?

 

 私から返答が返ってこないことをどう思ったのか、私から興味をなくしたように反対側へと歩いてく彼女の後ろ姿に、手を伸ばすように声を掛けた。

 

「し、指揮官なら、自室にいるって……言っていましたよ」

「そう……」

 

 尚も、こちらを振り向かない。どこまでも冷たい背中に、私は掛ける言葉を失っていた。

 

「……私も行きます」

「…………」

 

 AR15に当てられた感覚に包まれるように、どこまでも静かな水面のような感情を……、この感覚は間違いなくM16姉さん達にも伝わっているソレを、ほぐす事も出来ないままに、私は彼女の背中に付いていった。

 

 ごめんなさい。指揮官。

 

 ごめんなさい。

 

 私たちがこれ以上の幸福を求めてしまったことを……どうか、許してください。

 

 

 

 

 

 ~後・続く~




なんとか年内に漕ぎ着けた……。


えぇ、なんとか……。
ただまぁ、なんと言いましょうか。
年始からちょいとばかし仕事にて忙しくなる時期に差し掛かるので、ちょっと不定期気味に投稿していこうかと思います。

また、しばらくしたら投稿感覚を2.3日が難しくとも、週一に持ってこれたらなと。
では、皆様良いお年を。

今回の要点

☆ 指揮官君、解毒薬貰えなかったよ(´・ω・`)

☆ M4ちゃん現場を目撃

☆ おや、AR15ちゃんの様子が?

☆ おやおや、M4ちゃんの様子も……?
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