プロットはもっと綿密に組まなければ…
――いや馬鹿じゃないか?
「退却退却!害虫どもも帰らせるように砲撃密度増やす要請送って!」
指揮下十数名の花騎士を伴い、後方からの援護砲撃の下をくぐりながら全速力で後退していく。
服のサイズが合わなくなってしまった。ズボンのすそを何度も踏む。とても走りづらい。追いついてきた花騎士たちに体を支えてもらって、どうにか先へ進む。
全く想定していなかった甚大な被害を負ってしまった以上、この場で戦いを続けるわけにはいかない。いやしかし、重篤な負傷をしたものも、ましてや死者も出ていないのだからそこは幸運だっただろう。
「まさか害虫相手に花騎士を投入するのが仇になる時が来るとは……!」
「団長ちゃん!早く早く!」
視線の先、手を上下に思いっきり降ってこちらを呼ぶのはサラセニア。別ルートでの害虫侵入の恐れがあったため、落とし穴などを中心とした罠を複数張り巡らせてもらっていた彼女は、どうやら無傷らしい。こちらに現れた特殊な害虫の影響も受けていないようで、ひとまず安心できそうだ。
どうやらこちらの狙い通り害虫も退却してくれたらしいという報告を受け、騎士団以外からの目が届かない場所まで移動してから、ようやく一息つく。かなり慌てて全力疾走してきたせいだろうか、体がとても火照っている。
「それで……その、団長ちゃん?この状況は一体……?」
「……俺にもはっきりは分かんないけど」
耳慣れない、高くなってしまった声でそう言って、自身より酷く害虫による何らかの……攻撃?にさらされてしまった彼女たちの方へ視線を向ける。
視線を逸らす。
冷静になるため一度深呼吸し、再度思う。馬鹿じゃないのかと。
「性転換する蟻酸とかどんな進化してんだよ害虫はッ!」
――害虫とは、大まかに言ってしまえば人類へ害をなす虫のことである。基本的に頑丈で、小さくても体高は大人の腰ほどまではあり、身体能力の延長で勝たれるものから、虫らしく毒や酸の非常に強い種類を分泌するもの、果ては光線を幾条も放つものから、噂では空間転移までするものまでいるという。
世界花の加護を受けた花騎士以外が直接の戦闘で害虫に勝利することは非常に難しく、各地の騎士団が取りこぼしたところから人々の命が次々と失われているのが現状だ。
だが、時折妙な害虫が現れることもある。マイドアリ、という名前だっただろうか?ウインターローズ所属の花騎士がペットとして飼っているその害虫は人類に敵対の意思を一切示さないという話だし、自分たちもそこまでとはいかずとも、被害が出そうにないような行動や、非常に回りくどい行動をとる奇妙な害虫には遭遇した経験がある。
今日遭遇した害虫も、そこに分類できるものではあるのだろう。ただ、もっと馬鹿な存在であるような、馬鹿げたほど恐ろしい存在であるような気もする――いや、ちょっと思考がまとまらない。正直、まだ混乱している。
こうしている間にも、とりあえずとばかりに大量の男物の服を抱えてきたサラセニアが「団長ちゃんがほんとに団長ちゃんになっちゃった……」などと言っているせいで非常にいたたまれないのだ。いやしかし、実際に精神的に効いているのは彼女たちの方か。
「ご、ご主人様……その……」
サイズの大きな男物の服を急いできて近づいてきたのは、普段から騎士団において副団長とメイド長の二役をこなしてくれているスイレンだ。何時になく申し訳なさそうな顔の彼女は、やはり戦いながら最適な指揮を出せなかったことに責任を感じているのだろうか。
「早めの退却指示を出せなくてすまない。
「と、とにかく一度帰るぞ。ここまで滅茶苦茶な状況では害虫討伐どころじゃない……」
他の騎士団に負担をかけることになってしまうが、いつもはこちらから造園を送ることが多いのだから今回くらいは無理を通させてもらおう。まず彼女たちの命が優先だ。
何より、ごくごく純粋な懸念として、「男の肉体で世界花の加護を発揮できるのか」というものがある。こんな前線ではなく、安全が確保された場所できちんと調査しなければならない――ちゃんと元に戻るのか、ということについても。
◇◇◇
「所属の花騎士六十四名の内、十九名がその……男体化した、ということですね。すでに概要は他騎士団にも伝えてあります。数日以内に国内の他二騎士団より六名ずつ、十二名の花騎士が派遣される予定です」
どうにか本拠まで帰って数日後、ブロッサムヒル王宮内にまで審議の場所が移されてしまったらしい今回の事件は、ようやく現場に空いた穴を埋めるめどがついたという知らせがもたらされた。しかし、国内とはいえ他所の騎士団が花騎士を派遣することを決定したと考えればむしろ早い方か。更に、外国から害虫や薬品研究のできる花騎士まで数名派遣してくれるらしい。――しかし今回現れた蟻型害虫の名称が、いつのまにか「トランスセクシャアリ」と名付けられていたとは……特徴をうまく表せているのかもしれないが、被害を受けたこちらとしてはおちょくられているの有とも思ってしまった。
そして、俺を含めた性転換組には療養が命じられた……が、今のところ兆候が見られないとはいえ、もしもこの現象が感染するものであったらいけないということで、とある貴族の保養地……の更に外れにある屋敷を一つ臨時で貸してくれることになったらしい。
ありがとうアマリリス。今の君が言う「貴族ですから!」はまごうこと無きノブレスオブリージュのそれだ。性転換の被害に合わず、いつもの仕事へ戻っていく直前の自慢げな彼女の顔を頭に浮かべながらそう思う。
報告を終えて使者が帰ってから数分後、扉がノックされ、外からスイレンが入ってくる――自分用に誂えたらしい燕尾服を纏って。
いやはや、目を見張るほど絶世の美男子である。すらっとした、それでいて筋肉も詰まった長身の体、少し長めの、自分からほんのりと光を放つような金髪、
「お茶を淹れに来ました。少し休憩しましょう」
礼を言って、二人で一息つく。いつも、スイレン自身の仕事がひと段落付いたところでこうして休憩を誘ってくれるので、ある程度気兼ねなく一緒に過ごせるのが嬉しい所だ。
――彼女と自分が、まあ、いわゆる恋仲にあるということは、まだ騎士団の皆にも伝えてはいない。察しがいい数人はほぼ事実としてとらえている節があるが、確定情報じゃないことをうわさとして広めたりはしなかったらしい。
「害虫退治は本当に大変だな……なんて、毎週くらいの頻度で言ってる気はするけど、今回みたいなことまで起こるとはさすがに思ってなかったよ」
「そうですね……。世界花の加護も、多少の個人差はあれど弱まってしまっているようです。害虫との戦いも、入念に準備していてなお、ひらけた場所では小型害虫に一対一、というのが限界かと」
「じゃあやっぱり、全員害虫と出くわす心配のなさそうなアマリリスの別荘まで非難しなきゃだめそうだな……この町だってたまに害虫に襲われるくらいだし」
ただ、あるていど工程を組んで仕事をしているとはいえ、緊急時の指示は俺とスイレンで出していたから、ここを離れて静養するというのは少し不安でもある。
そんな俺の表情を読み取ってか、スイレンはにこやかにこう言ってきた。
「みなさん、むしろ張り切っていらっしゃるみたいですよ。訓練場から聞こえてくる声も、いつもより気迫がこもっているようでしたし。何より、頼りっぱなしをよしとしない方たちが多いのですから」
……まあ、スイレンの言うとおりである。さらに言うのなら、気持ちだけでなく実力も十分備えている者だって多い。
「そもそも、昨日からの基本的な仕事は、私を含めた性転換中の方は手伝ってもいません。私も、もしこの症状が感染するのではいけないということで、同じ症状のみなさんと、ご主人様のお手伝いのみを行っております」
「……俺たちが抜けてもそこまで問題もなく仕事を勧められるだろうとは思ってたけど、想像以上だな。『団長』って肩書きにばっかり考え方が縛られたかもなぁ」
「全くです。いくらご主人様といえど、見くびられていると思えばみなさんもいい気持ちはしませんよ?」
それに――、と呟いて、スイレンはこちらの耳元へ口を寄せそっと囁いた。
「また当分は無理ですけれど、『戦いが落ち着いたら一緒に』という約束も果たしてもらわなければいけませんもの♪」
「あ、ああ……」
――こちらとしてはプロポーズに近い気持ちで口にした言葉で、正直な所聴くたびに恥ずかしいのだが、スイレンは日々こちらを弄ぶようにこの言葉を使ってくる。今も彼女の顔を真正面から見つめられない程度には頬が紅潮し、動悸も早まってしまった。啜る茶も相まって、体中火照ってしまっている。
だがまあ、将来の目標、あるいは予定としてこんなに素晴らしいものもそうはあるまい。美しく、優しい、そして何より一緒にいて楽しい彼女と共に歩む人生。いやはやまったく、想像するだに甘美なものである。
とはいえ団長と花騎士という立場なのだ。状況を無視して職を離れるなどもってのほか。特に、彼女の実力は非常に高い。引退させることになれば周囲からの反対意見も多いはず。今の騎士団が請け負っている場所にある害虫の巣の破壊、出来れば国内においても広範囲でそれを行えられれば、新婚生活の間くらいなら一時引退、ということも可能だろう。幸い、害虫討伐に関しては騎士団に大きな主導権が与えられている。
他国からも害虫は侵入してくるが、ブロッサムヒルは幸いにも――という言葉を使うべきではないかもしれないが――害虫の総本山、コダイバナからは離れている。さらに言うと、最近非常に大きな戦果を挙げ続けている騎士団も国内にあるのだ。人類側の勢いは大きく伸びている。
むしろ、いざ騎士団を止めるとなれば居を移す可能性の高いバナナオーシャンの方が害虫の危険度は高いだろう。しかしまあ、結局のところは安穏とした生活を送る余裕を得ることが目的にある。第一目標を達成することを優先しようではないか。
「――少し余裕が出てきたのでこんなことも言いますが、ご主人様、ずいぶんとお可愛らしくなられましたね?」
「そういうスイレンはとんでもない美男子だよなぁ……」
男性の体と比べて、今の俺は背が縮み、髪が伸び、肌が艶やかになって……言葉を濁すが、色々と女性らしい体つきになっている。風呂の鏡で見た結果、可憐な女性の揃った花騎士たちには劣るものの、実家の田舎町ではあまり見かけられないくらいには整った顔立ちだった。ちなみに、元から女性としては背の高い方だったスイレンの身長はさらに伸びているので、こうして近くで話していると見上げる形になる。
「まあ、何はともあれ仕事の引き継ぎが終わり次第、皆を連れて移動だ。染色は最低限にしろって言われたから、書類をまとめ終わり次第すぐにでも出発しよう」
「それなら、荷物は先にまとめておきます。と言っても、今のお体に合う服は皆さん少ないですし、物資も割安で先に準備していただけたようなので、かなりの軽装で向かえそうですね」
――そんなこんなで、目的の別荘地へと向かう。
『最悪の場合民間人が性転換の症状に感染したとしてもこちらで対処する』というありがたい(少し恐ろしい)お触れまで頂けたので、出来る限り民間人との接触を避けつつも主要街道を通って向かう。人通りの少ない道を進んで害虫に襲われたらたまったものではないからだ。
道中、馬車の中ですれ違う人に見られるたび、遠くから「あの子、あんなにたくさんの美男子ばかり囲って……どんなお金持ちかしら、妬ましい」なんて声が聞こえてきた。
まあ確かに、これだけの美男子に囲まれるなんてことがある筈もないか。そもそも女性が誰も狙わない筈がないくらいには美男子なのだし……そう思うとまた恥ずかしくなってきたな。まるで俺が美男子大勢囲っている
「休養中の護衛として、サラセニアさんも後からいらっしゃるようです。彼女はあの時一番早く私たちと接触していましたし、症状がないとはいえ護衛としては最適ということでしょうか」
「あー、それならより安心だな。まあもともと、貴族の別荘地だけあって害虫の発生数も少ない場所にあるうえ衛兵までいるっていうし、そこまでのリスクもないだろうけど……」
スイレンとここからの予定や日程について話していると、馬車の中の花騎士が一人、こちらへ近づいてきた。
赤髪で、スイレンとは違う意味で男物の服装がどこかにあっている彼女の名はホシクジャク。――普段から男の子に近い口調で喋っているため、なんというか、見ていてとても違和感が少なくて安心できる。
「団長さん、その……目的地に到着してから、僕たちは何をしてればいいのかな?」
「ん?」
「だって、普段もお休みは多かったけど、こんなに長期でお仕事がないっていうのは久しぶりだからさ。それこそ、騎士団に正式に配属されてからはなかったでしょ?」
「これは団長さんもだけど」と続けられ、少し思い返してみる。――なるほど、確かにそうだ。普段から忙しい仕事だし、害虫退治がなくたって特訓を自主的にする子ばかり。
一度、ブロッサムヒルで行われた祭の警備職を割り当てられなかったことがあり、三日間ほどまとまった休暇を取ろうとして頑張ったこともあるのだが、あの時もいざ出かけたまつりで害虫が現れて防衛に参加、後始末などにも参加した結果あまり休暇と言えるようなものではなくなってしまったし……。
「いろいろ不便なことが多いというか、制限は多いけど……よし、ここは心機一転、大手を振って休暇をとれるというふうに考えよう!」
ホシクジャクだけでなく、馬車の中の花騎士たちにもそう伝える。
――スイレンやホシクジャクはそうでもないようだが、義務感・使命感ではなく害虫への憎しみで花騎士としての仕事を続けている花騎士は多い。
この場でいうのなら、キヌサヤが顕著だろう。最近は少し視野が広くなったようで、以前より柔和な表情を浮かべることだって増えているのだが、村を襲い、父の命を奪った害虫への恨みが消えるはずもない。彼女の剣術が世界花の加護を考慮して編み出された我流であることも考えれば、『害虫と戦うための力を奪われた』という感覚は人一倍強く抱いていることだろう。
今も馬車の外、遠くの山並みを見つめたまま。すっかり黄昏ている。こちらの声を無視しているとかではなく、純粋に頭に入っていなさそうだ。こんなキヌサヤ初めて見る。
すると、彼女は俺の視線に感づいたのか頬杖をついていた腕を外し、慌てたようにこちらへ向き直る。
「す、すまない団長。聞き逃してしまった」
「ああ、大丈夫。そんなに気を張らず、急用を取れるいい機会だと思おうって話だよ」
この症状が治る、という根拠を示すことができれば彼女もある程度気を抜けるのではないかとも思うのだが、これに関しては全く管轄外。派遣される研究者たちによって解明されることを願うしかない。加護が戻らないかもしれない、という不安は時間を追うごとに大きくなるだろうし――というか、前提として体が元に戻らないのが大問題だ!何故か思考から抜け落ちていた。
まあとにかく、自室からの外出を最低限にとどめられるような状況と比べれば改善されることは間違いないはず。ある程度のびのび過ごすことができる場所でならストレスも抑えられる。キヌサヤについては重点的に気に掛ける必要があるだろうが、すぐさま何かが起きるわけでもないだろう。
その後は、いつもは食事をとりながら交わすような談笑を続けながら、馬車に揺られて目的地へと一路進んでいった。食事も部屋に運ばれる形をとっていたし、話したいことも増えていたのだろう。俺が馬車の真ん中にいたのもあって、皆非常に距離が近かった。
しかし、今年の夏は暑いな。丁度トランスセクシャアリに襲われたあたりから体がカッカしているように感じてしまう……。
◇◇◇
どうにか到着、御者を務めてくれた衛兵(この暑い中感染対策として口元を分厚い布で覆っている。本当に申し訳ない)へ礼を告げて見送った後、届けられていた物資の確認と、周辺の地形、屋敷の間取りなどを確認していく。
荷物の山には十分な食料も用意されており、同封された手紙によれば野菜などを後から新鮮なまま届けてくれるらしい。妙に酒が多いのは気になったが、おそらくはサラセニアのためと、多少の気晴らしに用意されたものなのだろう。
そういえば、毎朝経過観察のために医者が派遣されるというし、それと同時に食材も運ばれるということだろう。
大まかな情報を頭に入れて、荷物を搬入……それぞれの部屋へ運んだあと食事をとる。
「少し遅めの夕飯になったけど、今日は荷物の整理と簡単な相似が済み次第お風呂に入って早めに休もう」
料理も簡素に、長時間かけて作る必要のないようなサラダなどを中心にあっさりと終える。
俺の荷物は少ないので先に浴場の掃除をしてくると伝えたところ、湯を沸かした後最初に入ってもいいと伝えられた。……掃除、湯沸かしの時間となると結構な時間がかかる気はするのだが、まあありがたく一番風呂に浸からせてもらおう。
掃除を終え、釜から少し熱くなりすぎた湯を浴槽へ流しつつ、周囲を見渡す。……二十人くらいが一斉に入ってもゆったりと過ごせそうな広さの風呂だ。この別荘、あまり使わないし周囲に人もいないという理由で貸してもらっているわけだが、ひょっとしなくてももっと豪華な別荘を持っているというのだろうか。税金も別に重くないというのに貴族ってすごい。
浴槽に湯をある程度満たしたところで、体を洗うためにも外で服を脱ぎ、桶に湯を汲む。思ったより早く準備ができた。筋力や体力が女性の体になって以降落ちているので不安だったが、皆を待たせることもなさそうだ。いつの間にか浴室には湯気が充満し、非常にリラックスできる環境になっている。
「ん……よし」
ゆっくりと体をほぐして、一枚だけ備え付けてある大きな鏡の方へ行き、木製の小さな椅子に腰かけて桶の湯をすくい、体を洗う。
……洗い残しがある方が問題だから鏡の前に来ているわけだが、こうして一糸纏わぬ姿の自分見ることは全く慣れない。というか、初めて目にした異性の裸が自分のもの何てことありえるか?よくもまあ正気を保てているものだ……と少し大げさに自分をほめてみる。
さて、こんなところで一人悶々としていても誰も得をしない。皆も早くさっぱりしたいだろうし、さっさと風呂を済ませるとしよ――ん?
背後、浴室の外へつながる扉から……つまりは更衣室から、何か物音が聴こえたような気がした。
いや、そんなはずはない。風呂の準備はむしろ早く終わったほうで、皆が入り出すにはまだ早い……というか脱いだばかりの服もかなりわかりやすく置いてあったはず!それを見つければきっと待ってくれるだろう。
「ご主人様、お背中を流しに来ました♪」
「うーん、そっかぁ……お願いする……」
スイレンの自由さが俺の常識程度に収まりきらないことを再確認しつつ、鏡の端に他の花騎士たちの姿まであることに気が付いた。おかしい、誰もこの行動を止めようと思わなかったのか……?
そもそもこちらとしても困ってしまう。スイレンには密着されるし、皆かが身の回りで体を洗うから目のやりどころに困る。ああ、湯気のせいで少し頭がくらくらするようだ。まだ湯船につかっていないというのにのぼせてしまいそうなくらいである。……スイレンにはあっさりと見抜かれていそうで恐ろしいが、隠しきれるとはそもそも思えない。恋慕とは別に、これだけの絶世の美男子、しかも全裸のそれに囲まれれば本能的に興奮もするし、それをおくびにも出さないなんてとても……
「ん?」
待て、何か……やっぱり何かおかしい。
落ち着いて考え直そう。俺は男、男だ。変な表現だが、あくまでも女性に対しての性的興味を持っているはずで、だからスイレンと恋仲にあると言えるわけだ。ここまではよし。
現在、性別は反転している。俺の肉体は女性に、スイレンを始め、花騎士たちは男に。だがしかし、精神はそのままの性別であり、性的興味も異性の体に抱くべきものの筈である。だが俺は今、背中を布で拭ってくれているスイレンの腕のたくましさや、鏡に映る花騎士たちの引き締まった体に目を奪われ、あまつさえ興奮していたではないか。
こんなことがあっていいはずない。ないのだが、よく見てみれば心なしか、皆の視線もこちらに向いているような……その瞳が熱っぽく湿っているように見えるのは湯気で鏡が少しぼやけているからだと信じたい。
「そ、そろそろ湯船に……」
「団長さん、ちょっといい?」
「……どうした?ホシクジャク」
こちらへ数歩近づいてきたホシクジャクは、俺の両肩へそっと手を置いて屈んだ。
「ちょっと心配事があってさ。
団長さん、当たり前だけど女の子の体に慣れてなんかないでしょ?だったらやっぱり、体を洗うのだってちゃんとできてないところがあるかもしれないって思ったんだ。
――だから、僕たちがちゃんと手伝ってあげた方がいいかなって」
え?
「いや、ちょっとそれはまずいんじゃ」
「いえ、一理ある意見だと思います。ホシクジャク様の言うように不潔のままの場所があり、それが原因でご主人様がお病気にかかってしまったら、私悔やんでも悔やみきれません。
ご主人様、少し恥ずかしいかもしれませんが、ここは私たちに身を任せていただきたく存じます。勿論、何も痛いようなことはありませんし、隅々まできれいにいたしますとも。ええ」
まさかスイレンまでそちら側に回るとは!正直な所これはかなりショックだった。いや、確かにうまく洗えていない箇所はあるというか、
だがしかし、清潔にしないといけないという常識や、何より団長として花騎士たちに恥ずかしがっているような姿を見せることでそもそも少ない威厳がさらに薄れてしまうのは避けるべきなのでは?という思考回路がその行為を否定させない。
「それではご主人様、この布の上に寝転がっていただけますか?」
「う、うん……」
いつの間にか風呂場の床に敷かれていた非常に大きな布の上に寝転ぶ。厚めの綿生地でできたそれは、多くの湯を吸っていて床の硬さを背中にあまり伝えない。寝転ぶにはちょうどいい……のだが、こんなタオルを風呂の中で使うことはまずないはず。妙に手際が良くないだろうか?まるで、そもそも話が通っていたかのような……、
「もし洗う場所のせいでくすぐったくなった時、あまり腕や足を大きく振られると少し困ってしまうので、どなたかご主人様の両腕両足、押さえておいていただけますか?」
「……いやちょっと待ってよスイレン。それはおかしい…って…」
言い終わる前にもう優しく、しかしがっしりと押さえつけられてしまった。痛くはないが、複数人に押さえつけられているという状況はひどく圧迫感をもたらすものだった。
ホシクジャクは腕に体を絡みつけるように固定しているし、キヌサヤに至っては足を抑えつけたまま俺の……その、いわゆる秘所へ視線を固定してしまっている。昼間の憂鬱そうな君は何処へ行ったのか。どうしてそんな鼻息荒く一点を凝視しているのだ。さすがに居た堪れない。というかなんでこんなに足を開かされているんだ!こんな卑猥な……!
などと現状に狼狽えている間に、自分の手の中で石鹸を泡立て終わったスイレンがそっと、俺の腹部へ撫でるように右手の指を這わせた。ゆったりと、円を描くように。へその少し下から、脇腹、胸に触れないように体の上部へと泡を引き延ばしていき、腋を
「んっ……」
――即座に、スイレンの手から視線を逸らす。
い、今の声はなんだ?そんな声を出しちゃ駄目だろ俺……。これはあくまでも体を洗ってもらっているというだけの話。それで、せ、性感なんて得るわけない!
「……ご主人様?どうかなさいました?」
「な、何でもない。そのまま続けて、大丈夫」
なかなか楽しそうな声じゃないか……。狙ってやったのかまでは分からないまでも、絶対に俺の心境は理解しきっているだろうに。今日はなかなか悪戯が激しい。
そうだ。少し目をつぶっておくことにしよう。自分で洗っているときはこんな変な気分にならなかったのだし、皆がそこにいるということを意識しなければただ洗ってもらっているというだけにすぎない筈。
「夏は垢が溜まりやすいですから、入念に……」
首のあたりを入念に現れる。
そうして、また指は下へ降りていき――胸、へ。
一瞬、一瞬だけ驚いたが、実のところそこは、自分で触ることに引け目を感じてしまい、他と比べれば入念に洗えたとは言いづらい部位。このまま洗ってもらえるのならそれもいい、だろう。むしろありがたいくらいの話で
「あっ、…ぅ」
唇を噛んで、必死に声を抑える。
――急に両手で、しかも撫でまわすなんて!これなら目を開けてそれに気が付けるようにするべきだった。しかも、今までは洗うという目的をちゃんと感じられたのに、垢なんて落ちる訳もないほど本当にやさしい、体験したことなどないが、まるで愛撫のようにねちっこく撫で続ける。
どう考えたって他の場所より時間をかけられている。あからさまだ。だが文句を言おうにも漏れかける声を抑えるのが精いっぱい。暴れられもしないしされるがままだ。
気が付けば、俺を取り囲んでいる花騎士たちの息も非常に荒くなっている。興奮されているのか?な、なんて状況だ。
そのまま十数秒、ようやく胸から手が離れる。少しだけ安心できた。まあ、いくらなんでもこれ以上のことをするなんて事はないだろう。皆ちょっと調子がくるっているんだろうし、変に怒ったりすることなく、何事もなかったかのように――
「……へぁ?」
今、……なんか一瞬、意識が飛んだ、ような。
「ひ、いっ!あ、待っ、て!駄目!なんで舐めっ…はぐぅ…」
あまりの刺激に目を開いてみれば、スイレンが乳首を舐めていた。もう体を洗うという体裁を整える気すらないじゃないか!こんなことならもう最初からきっぱりと断らなければいけなかった。……後悔先に立たず。もう成す術はない。そもそも、俺の心がどこかでその快楽を欲しているような、逃れがたい感覚を強く感じてしまっている。
「ん…フフ♪駄目ですよ、ご主人様。ちゃんと隅々まできれいにしますから……」
「そうだよ団長さん。でも嫌なのかな?だったらできる限り早く終わらせてあげる」
「そうだな……。私たちも協力しよう。浴槽に浸からずに長い時間を過ごせば体も冷えてしまってよくない」
「それがいいでしょうね。それではみなさん、よろしくお願いします」
……う、こんな言い訳の仕様もなく性的なこと、スイレンから他の花騎士にもさせるように言うなんて、ちょっと複雑……。
などと考えている余裕は即座に奪われる。
周囲、俺の手足を抑えている花騎士たち以外も含め皆手の中で石鹸を泡立て始める。まさかとは思ったが全員で、全員でまさぐるというのか!?と、というか……何で下腹部のそれ、大きくしてるんです…?
――だめだ。諦めよう。ここまで持ち込まれた以上もはや何の抵抗もできない。それに、あれはあくまで興奮してしまっているから大きくなっているだけ。生理現象。俺自身も不意にそうなることくらい多々あったし……スイレンに恋人を複数人で犯したい願望かなにかがなければ、最悪の事態にはなるまい。
もはやこちらが感じてしまっていることも隠せていないのだ。すべて身を任せる。耳慣れぬ嬌声は面白いほど浴室で反響し、両足を抑えられているせいで強い快楽の刺激に対し胴体が激しく上下する。次第に、手足の先ではなく根元の方を触られるようになり、皆胸や太腿を好き勝手にいじるようになっていた。しかも、先ほどのスイレンのように舌で舐めまわしてる子もいる。全身に石鹸を塗りたくられているのに何が楽しいんだ……。
スイレンに至っては……完全に性器へと触れている。しかもたぶん、尋常じゃなく
「……もう少しで終わりますので、ラストスパートと参りましょう」
スイレンがそう言うと、一度みんなが手を引いたのち、性感帯のみを責めるのに十分な腕だけが再び愛撫を始める。だがもう、正直な所何をされても変わりはない。情けない声を出しながらビクンビクンと体を震わせることくらいしか出来やしないのだから、もうなんでもすれば「えい♪」お゛っ……。
◇◇◇
意識がよみがえった時、俺は風呂の中、スイレン委後ろからやさしく抱きしめられた状態だった。
「……すいません。少しおふざけが過ぎました」
そういうスイレンの顔は……まじめに反省しているようだ。俺は気絶してしまったみたいだし、全くもって妥当だろう。
みんなは先に上がってしまったのだろうか?先ほどまでいたはずの鏡の近くにはすでに石鹸の泡もタオルも残っておらず、どうやら片付けには十分すぎる程度の時間意識を飛ばしていたらしい。だがまあ、湯船はこの火照った体にもまだ暖かく感じられる温度を保っている。
「……なんであんなことしたの?」
自分で思っていたよりずっと弱弱しい声しか出なかった。というか、まだ全身脱力状態である。一人で立ち上がれるかも怪しいが……まあ、今のスイレン相手になら身を任せても問題ないだろう。
以前も一度、疲労から気絶してしまった状態でスイレンに体を洗ってもらったことがあった。あのときは何もしていなかったというが、こんなことをされては疑ってしまうではないか……。
しかし、さっきのは一体何だったんだ。多分強すぎる快楽に耐えきれなかったのだと思うが――この推測自体がそもそも嫌になる――、あれか、本などで伝え聞く陰核とやらを刺激されたのだろうか。
「その……急にこんなことをするつもりは全くなかったんです」
「言い訳でしかありませんが……」と続けたスイレンの顔を見ていると、どうしても強く何かを言う気が薄れてきてしまう。惚れた弱みとも言うが、これはあっさりと尻に敷かれてしまいそうだ。
「その、皆様と話し合っていたことはあったのです。しかし、誰もこんなことまでしようなどとは全く考えていなかった……筈、なのです」
スイレンは全くいやらしさを感じさせないよう、そっと優しく俺の腕を撫でる。
「……大丈夫ですか、なんて言えません。怖がらせてしまいましたよね」
「うん……結構、怖かったかな。というかもう若干現実逃避してたんだけど」
何と言っても、あんな美男子に体を触られるなんてこと、望んだって起こりうるはずもな……また、思考がおかしかった気がする。
これ、気の迷いがどうこうとか言う段階の問題じゃないだろう。外的要因によって思考が歪められているとしか思えないような内容だ。というか、肉体にこれだけの変化がある時点である程度察するべきだったかもしれない。
「情報を伝えて調査してもらわなきゃ……」
とりあえずは明日の朝、こちらの容態を確認しに医者が訪れる手はずになっているから、そこで分かる限りの情報を伝える。……今あったことも、恥ずかしいが伝えるしかあるまい。
それを――また少しとろんとした瞳になりかけたスイレンを無理やり正気に戻して――伝える。協力者なしでは明日の朝まで守り切れる気がしないのだ。何かを。
「分かりました。それでは、まず早く浴場から出て、ご主人様のお部屋まで移動するべきでしょう」
「そうだな……。またいつ欲情されるか分かったものじゃない。浴場なんて密室空間にいたらスイレンが味方でも脱出には無理がある」
と言いつつ、そそくさと体を拭きながら脱衣所へ急ぐ。幸いにも誰もいなかったようで、すぐに脱出できた。
「……今です。ご主人様の部屋がある二回につながる階段の上まで誰もいません」
その指示に従い、スイレンとともに一気に駆け上がる。部屋は奥の方だが、一本道になっている廊下には誰の姿もない。このまま部屋へ駆けこもう――。
「あ、団長さん。良かった、目が覚めたんだ」
背後から扉を開けて廊下へ出てきたホシクジャクに声をかけられる。……が、止まって話し込むわけにもいかない。このまま走る。
「あ、ちょっと!団長さん!ご、ごめんよ……」
申し訳なさそうというかもう情けないような声が後方から響くが、とりあえず明日ちゃんと話そう。今は自分を隔離したい。
扉を開き、中へ滑り込む。
「スイレン、隣の部屋だったよね…?」
「はい。怪しまれない程度に監視をさせていただきます。……もう少しはここで直接。今の足音で出てくる方もいらっしゃるでしょうし」
「助かる。俺もできる限り起きてるけど、正直倦怠感が抜けないからいつ寝てしまうかわからない」
我ながら情けない発言ではあるが、半年ほど前、丸二日寝る暇もなく山奥で害虫の群れから逃げ続けていた時よりも疲れているようだ。……女性になってから格段に体力が落ちているからだろう。
扉を閉じると部屋は真っ暗闇。しかし、特に足元に障害物はなく、直進すればベッドがあるということは覚えている。
……体が誘引される。このまま倒れて、何も考えず朝を迎えたい。ああ、そうしよう。スイレンならきっと守り切ってくれるし、そもそも皆もまたなりふり構わず襲いに来るようなことはないだろう。あんなに申し訳なく感じているのだから……。
ぽす、と乾いたベッドに倒れこむ。……あぁ、さすが貴族の別荘。こんなにたくさん部屋があるのにどれもこんなに質のいい寝具をそろえているのだろうか。
騎士団のベッドも実家のものと比べれば店土地の差だがこれは格別。雲に包まれているかのようだ。……ああ、どこかもう意識が薄れてきた。このまま朝を迎えよう……。
「……ん?」
気のせい、だろうか。気のせいだと信じたい。
今、このベッドの下で何かが動いたような物音がした気がするのだ。
外での物音か、そうでなければ一回の部屋から聞こえた音だろう。そうに違いない……いや違った時が危なすぎる。スイレンに助けを呼ばなければ……。
「……すまない団長。少し、おとなしくしていてくれ」
「ふぃ、ふぃぅはぁ?」
キヌサヤ、キヌサヤだ。ベッドの下から現れたキヌサヤが俺の口に指を突っ込んだうえ背中にのしかかってきた!
……こ、怖い。こんな暗闇の中では表情もわからないじゃないか。
俺が必死に体を動かして振り払おうとするが、体格でも体力でも負けている現状では何の効果もないようだ。
「団長、こんなことになってから、私も色々と考えていたんだ」
スケベなことをだろうか……?
もう行きに馬車の中で黄昏たように外を眺めていたのさえ、いやらしいことを考えながら呆けていただけにすら思えてしまう。
だが、キヌサヤは想定よりもずっと真面目そうな声音で語り出した。……もちろん、俺を組み敷いたままではあるが。
「世界花の加護は完全に消えたわけではない。しかし、この状態では害虫と戦うのに十分な力があるなんてこと、とても言えない。
害虫はこちらに都合よく動いてくれはしない。……私は、良く知っている。団長だってそうだろう?やはり、立ち止まっている時間はないんだ」
鼻息を荒らげながら何を言っているのだろう。
俺に何かを言わせるつもりは特にないのか、突っ込んだ指を抜かないままキヌサヤは熱っぽい吐息を俺のうなじに浴びせる。
「――だから団長。私の子供を産んでほしい痛ッ!」
指を思いっきり噛んでやった。
一瞬腕を話してのけぞったキヌサヤの隙をつき、うつぶせの状態からあおむけへ、勢いよく起き上がりながらスイレンに助けを求めるために叫び声を――出せない!
「なんだ、まだまだ元気じゃないか……。やはり私の見込んだ男だ」
あおむけの状態で押し倒され、口には布切れのようなものを突っ込まれる。……声を出せないどころか呼吸も少し辛い。ここまでやるのか。いや……これ以上のことだって、皆やりかねない状態にあるのか。
一体何時、何処に見込みがあると思われてしまったのだろう。少なくとも妻にしたいと思われるようなことだけは絶対になかったと思うが。
扉の方に意識を向けるが、スイレンはどうやら外で別の花騎士と話をしているようで、さっきのキヌサヤの声に気が付いた様子もない。自力で扉を叩くなりなんなりしなければ脱出不可能。
「私がもし戦う力を奪われたままだとして、それでも、父のように子を育て、自分や周りの者を守れるように鍛えることはできる。
だから……団長には母として、ともにその未来を歩んでもらいたいと思ったんだ」
「んー!んー!」
思いが一方的なうえ妙に強い!冗談なんかじゃないのは分かるが、湧き上がる性欲を自分の中で正当化できる理由が確立されすぎているのも非常にまずい。風呂場で俺が気絶したときは皆罪悪感か何かで手を引いてくれたようだが、今のキヌサヤには俺が抵抗しなくなるだけで都合のいい状況としか映らないぞ……。
「ほら、あまり抵抗するな。……その怒った顔、どこか故郷の母に似ているな。やはり団長、あなたしかいないようだ」
俺にはスイレンがいるんです!などと叫べはしない。いつの間にか服越しにキヌサヤからそりたつ強直の熱と硬さが押し付けられ、いよいよ余裕がない。まさか最初から服を脱いだ状態で隠れていたのだろうか。
器用なことに、キヌサヤは足の指先で俺の下着を脱がしにかかった。完全に脱がされはしなかったが……ああ、きっと挿れるには十分なのだろう。
キヌサヤは音を鳴らしながら唾をのみ、胸板をこちらへ押し付けながら耳元で囁くように語り掛ける。
「なぁ……団長は、スイレンのことが好きなんだろう?」
『……ふぁ、ふぁんふぇそえ』
いつ知ったのだろうか。
「ああ、私は察しが悪かったみたいだな。今ここにいる連中を集めて隔離されていた時にスイレンから聞いたよ。
……だが、ここは無理を通させてもらう。少し前まではここまでしようなんて思っていなかったが、それでもだ。団長――貴方が、欲しい」
……暗闇の中、鼻先が掠めるほど近づいたキヌサヤの目は、情欲に突き動かされながらも、ただ性欲をぶつける相手ではなく俺を欲しているのだと強く訴えてきた。
今はおかしくなってしまっているが、今の状況を切っ掛けに大きく変わってしまっているだけで、元から、俺に対してそういう思いを抱いていたという事なのか。……だとすれば、それは決して無下にできるものではない。キヌサヤの目をじっと見つめ、呼びかける。
「ふぃ、ふぃふふぁ」
「いいんだな。なら、始めるぞ」
「ふぉふふぁい!ふぁめへ!」
やめてと言ってやめてくれる強姦魔などいない。脳内で現状の彼女に対する評価を崩落させつつ足をばたつかせて必死に抵抗する。
「えぇい、じっとしていないとこちらも優しくできる自信なんてないぞ……!」
などと言いながらキヌサヤは視線を下半身に向け、右腕で強直をつかむ。そしてすぐさまその先端を俺の秘所へと擦り付けてきた。
「とはいえ、挿れてしまえばもうどうとでもなるだろう。ほら、少し力を抜け」
――片腕の拘束は外れた。しかし、今暴れたとしてもまたすぐ取り押さえられるだけだ。もっと効果的な方法を……あ。
「ふぉっ!」
「ひうぅっ!?」
気合を込めて腕を伸ばしそれを掴むと、キヌサヤの体がビクンと跳ね、硬直する。
「な、何を……」
ナニを握っていることくらい、彼女自身にもわかっていることだろう。とはいえ、ここからは主導権を握りっぱなしでなければいけない。そう、この雄々しく反り立った主導権を……何を馬鹿なことを。
とにかく、キヌサヤが戸惑っているうちにどうにかもう片方の腕も無理やり開放し、口に詰められた布切れを掴みだして投げつけてやる。
「立って」
「な」
「折るよ?」
そういうとキヌサヤは可愛そうなくらいしょんぼりとした顔で上体を起こし、ゆっくりと――
さて。
「大人しくしなさい」
「……はい」
どうやら彼女を手中に収めることはできたようだ……ようだが……ここで即部屋を脱出したとしても、結局キヌサヤはすぐ追ってきそうな気がする。少なくとも明日の朝まではまともな解決策が取れない以上、ある程度はしっかりと時間を稼げるようにした方がいいのではなかろうか。
例えば、そう、せっかくどうとでもなる状態で手の中にあるのだからこの棒を使って……。
「ッ…!」
全力で握りつつ手で扱き始めてみれば、キヌサヤは一瞬のけぞったのち、ゆっくりと歩きだし、壁に両腕をついて膝を微振動させ始めた。感じているのだろうか。だとすればこちらにとって全く都合がいい。
「あ、だ、団長。やめないか、こういうのは私が思っていたのとは……」
「やめたらまたさっきみたいに襲ってくるでしょ?」
だからやめない。このまま足腰立たなくしてやる――という意気込みだったのだが、少し悩んでしまう。――私がキヌサヤの性処理をしているという状況は、さすがにおかしくないだろうか?と