寝る前に済ませておいたつもりだったのだが……深夜、我ながら不覚にも目が覚めてしまった。いささか情けない事態ではあるが、ひとりで勝手に夜営を抜け出すわけにもいかない。
「どうしたヴィータ、眠れんのか。見張りを交代するか?」
「いや、ちょっと……」
言い淀んでしまった態度で、ガープはすべてを察してくれた。
「フン、夜中に催すとは子供か」
刺々しいのはいつものこと。そして、
「あまり遠くには行くなよ」
こうしてさり気なく心配してくれるのも、いつものこと。しかし、用件が用件だけに気恥ずかしい。
「わかってるよ……」
まるで親に反抗する子供のようだな、などと自戒したりする。
そして俺は、少しだけ離れたところで成すべきことを密かに成していたところ――
「おい……ソロモン王」
「ぐわっ!?」
ちょ、ちょっと待て! このタイミングで声をかけるヤツがあるか!? 少しは様子を察してくれよ! 途中で止めるのも難しく……とりあえず出すものを出し切って、そそくさと俺を仕舞い込む。だが、こんなことをやらかすのは……モラクスか!? にしては口調がどこかおかしい。誰だ? どこにいる!? 声は確かに聞こえたのに、周囲は暗すぎて何も見えない。
だが、ようやく……
「私だ」
「誰だよ!?」
乾燥ワカメのような髪をなびかせる女が、いつの間にか俺の目の前に立っていた。しかし、その姿は初めて見る。こんな夜中に、それも突然変異体がうじゃうじゃ蔓延る森の奥だぞ? どうやってここまで来たかわからないが……その風貌から、何となく只者ではない雰囲気は伝わってくる。
そして実際、只者ではなかった。
「おっと、少し登場が早すぎたか」
「何の話!?」
登場が早いって何と比べてだよ! まるで、すべてを見通しているかのようだ。
「まあ良い……貴様、ソロモン王だな」
「そういうアンタは誰なんだよ」
敵か味方か……どちらにしても、放っておける相手ではない。返答によっては召喚も必要になるだろう。
しかし。
「嘘をついても、その『イレズミ』を見ればわかる」
話がまったく噛み合わない。こちらの質問に答える気はないのか。
「半端な偽物だが、どうやら一応ソロモン王として機能しているようだ」
「本物だよ!?」
いきなり出てきて偽物扱いって何なんだ。いや、自分で入れた覚えはないのだけれど、洗っても落ちないし、何を貼り付けたわけでもない。
「用件を話すぞ、ソロモン王。いますぐ『アンチャーター』を私に渡してもらおう」
「え!? いや、ア……チャータって何……?」
いきなり知らない単語を出されては、こちらとしても困ってしまう。
「フン、とぼけた顔で……ああ、しまった。まだ遺跡に着く前だったか」
「遺跡ってどこのだよ!?」
着くも何も、そんなところに行く予定さえないのに。
「まあ、構わんか。いいから寄こせ。さもなくば殺す」
「ちょっ……ちょっと一方的すぎないか!? いきなり寄こせとか、殺すとか」
せめて、俺の知ってる物であって欲しいんだけど!?
「ヴィータごときが、メギドと対等を望むな」
「アンタ、やっぱりメギドだったのか!」
ヴィータの女性が、こんなところに現れるはずがないしな。だが、そういうことなら誰かが知ってるかもしれない。起こしてきた方がいいのか?
「即決もできんのか、愚鈍な豚め」
「できるわけないだろ。そもそも、その、何チャーター? ってヤツのことまったく知らないんだから」
コイツがソレを探しているってことはわかった。事情によっては協力しないこともない。でも……いきなり殺すってのはナシだろ!
「なら見つかるまで探せ。私の要求は『アンチャーター』を『渡せ』だ、覚えたな?」
「待ってくれ。だから、先ずは『アンチャーター』ってのが何なのか教えてくれよ」
外観がわからなきゃ目の前にあっても気づけない。
「そんな面倒事は私の役割ではない。パイモンにでも頼め」
「新キャラ!? どこの誰だよ!」
お願いだから、これ以上知らない人を増やさないでくれ!
「チッ……まだヤツとも会ってないのか。愚鈍な豚め」
「いや、さっき自分で出番早かったって言ってたよな? 俺が遅いんじゃなくて、アンタが早すぎるんだよ!」
頼み事しに来るなら、手順くらいわきまえてくれ。
「だからといって、後で出直すつもりはないぞ。この場できっちり終わらせていく」
「いや、だからアンチャーターもパイモンも持ってないっての」
「パイモンはメギドだ、馬鹿者め」
あ、ゴメン。さっき自分でパイモンのこと新キャラって呼んだのに。
「これではアンチャーターについて何も得られんな。代わりに……ふむ、貴様がどの程度のソロモン王かを確認させてもらうことにするか」
ようやく俺にも応えられそうな要求が来たぞ。
「どの程度も何も……これを見ろ!」
握り拳を突き出せば、そこに並ぶのは王たる証のソロモンの指輪。これ以上の証明はないと思っていたのだけれど。
「そんな『代替品』などどうでもいい。私が指したのは『イレズミ』だ」
「『代替品』って!?」
何だかこの人の言うソロモン王って別人な気がしてきた。
「とりあえず、その『イレズミ』が本物かどうか確かめてやる。脱げ」
「脱げって……嫌だよ! 見えてる部分で充分だろ?」
模様が映えるように切り込み入れた特注品なんだぞ、この服。
「いや、先程の放尿の最中、ありえない部分に黒みがあったのが見えたからな」
「覗いてたの!?」
うわぁ……これは恥ずかしいし、コイツも痴女かよ。
「わざわざこちらから出向いてやったというのにあの洗礼だ。いきなり『偽物』と対面してしまったこちらの身にもなってみろ」
「それは……不可抗力とはいえ悪かったよ。で、でも、こっちもこっちで本物だからな!?」
どうしてこの人ナンでもカンでも偽物扱いしたがるの!?
「イキがるなよ、童貞風情が」
「どっ……」
俺ってそんなに童貞臭い?
「フン、女を知らぬチンポなど、偽物にすぎぬ」
この女いま……ナチュラルにチンポって言い切ったぞ!? なのに、全然違和感がない。ある意味すげーよ、この人。
「おっ……お前だって、男を知ってんのかよ!」
突然のチンポ発言を受けて、思わずデリカシーのないセクハラ発言をぶちかましてしまったものの……
「フッ。こちとら何百年生きていると思っている」
「アンタ何歳なの!?」
メギドって歳取らないんだっけ!?
「その間、若い肉壺を持て余してきたのだ。跨った男の数など両手の指に及ぶわ」
「何百年で一〇人程度!?」
この際、肉壺についてはもういいよ。むしろ、何百年も生きていると豪語しながら人数の少なさの方にビックリだ。
「クッ……こっちは黒き門から動けんのだ。貴様と一緒にするな」
また知らない単語が出てきた! けどもうツッコまねーよ。
「俺だってヒマじゃないから! 第一、ほら……若いし」
まだ輝ける未来への道半ばってことで。
「若いというのなら貴様、メギドといえども同年代の異性と共に旅を続けているのだろう? 何故夜這いのひとつもかけん」
「ナニ言ってんの!?」
いまさらだけど、倫理観の欠片もねーな!
「フッ、それを理解できんから、貴様は童貞なのだ」
「無理矢理襲わなきゃいけないのなら、俺、一生童貞でいいよ!」
……そこで、ふと嫌な予感がよぎる。
「ところでアンタ、仮に一〇人の男と寝てきたとして……もしかして、前科一〇犯ってこと?」
男に
「フン、女が男を犯したところで法には触れまい」
「触れるよ!」
あ、なんかこの人、ナニしに来たのか解ってきた。
「てか、いきなり脱げとか言い出したり……もしかして俺の身体が目当て、とか?」
「…………」
おい、黙るな!
「……男と女が夕闇に紛れて他に何をする?」
暗に認めてんじゃねーか!
「ゆえに、貴様が一一人目の男となる。大人しく混沌に飲まれろ!」
「ガッ!? グッ……!」
やっぱコイツ……只者じゃない! 片腕一本で地面に押し倒されて……や……やめて……ホントに……こんなとこで服ちぎられたら……いや、マジで困……
ビリィィィィィ!!
「…………!!!」
口を塞がれてるので叫び声も上げられない。が……どーすんだよコレ! 股間丸出しじゃ、この先調査も続けられないぞ!?
「おい豚、チンポを
「こんな状況で
頬骨を握り砕かんばかりの手は外してもらえたものの、抵抗しようとすれば……今度こそ頭が真っ赤なトマトになりそうだ。縮み上がるのも当然だろ。俺の所為じゃない。
「ふ……ならば……っ」
ん? 自分の胸を自分で掴んで……それ、凹凸を強調したセクシーポーズのつもりか? むしろ、そこから砲弾でも飛んできそうなんだけど。
「むんっ!」
「なっ……!?」
コイツには服を脱ぐって文化がないのか!? 何でもかんでも引きちぎりゃいいってもんじゃないだろ! なのに……クソ……っ。
「フン、
「アンタそれでよく
と、口では反論しつつも……目を逸らしたら負けな気がするし、直視すればしたで……コイツ……どうして胸だけはこんな立派に……!
「ん? この胸を豚扱いする気か? ならば……その偽物チンポを萎えさせてみよ」
おっ、おい……恥じらいもなく近づけるなって! というか……わ、わぷ。柔らかい……何でコイツ、これで……女なんだよ……!
「これで、貴様の貪欲さは言い逃れもできまい」
「貪欲って……だったらそんな男を襲ってる方はどうなんだ!」
あ、黙った。おそらく、いま反論を考えていると思われる。
「……私はこれでいいのだ。なにせ、七つの大罪における色欲を司るのだからな」
「何だよそれ!?」
自分の存在を色欲の権化と言い切ったぞ!?
「キリスト教も知らんのか。無知な豚め」
「知らないよ!」
どこの宗教だ。もしかして、メギドラルで流行ってんのか?
「クク……その身をもって教えてやる。熟れた蜜壺というやつをな」
まるで金玉を握るように自分の股間を掴むと……あぁ……やっぱビリリとイクんだな。恥部だけ露出させて間抜けにもほどがあるのだが、そんなことは間違っても言えない。ちなみに、下の毛も髪と同じく根本が銀で先だけ赤。染めてるんじゃなくて自毛らしい。
「さて、これからお前の偽物チンポを本物にしてやる。ありがたく思えよ、淫蕩なオス豚め」
偽物偽物と……俺の身体は最初から本物だって! だが……こうして反応してしまっては説得力もない。為す術もないまま、俺の……俺のカラダが……!
「ぐ、ぁ……なんだコレぇ……!?」
温かくてヌルヌルしたものが、隙間という隙間に絡みついてくる……!?
「フン、私の膣はミミズ千匹。貴様のような童貞豚チンポには勿体ない逸品と知れ」
「も……もう、童貞じゃないだろ」
こんなヤツに筆を下ろされた現実に、自分でゆってて情けなくなってくるが。
「急くな豚が。
「避妊は!?」
というか、コイツで知った女って、絶対一般的じゃないよな。
「まあ、大丈夫だろう。ここ数百年、孕まされたことなど一度もない」
「行き当たりばったりだな!?」
てか、この女だったら股間から自分で腕突っ込んで胎児を引きずり出しそうで怖い。ホントにやりそう。
「ゆえに、安心して
「何も安心……え、な……何だ……っ!?」
「フン、私くらいになれば腰を上下させる必要すらない」
本当に膣圧だけでこんな……こんな……!?
「や……な……おかしいだろ……コレは……!」
コイツの上体は微動だにしていない。なのに、下腹部の中身はとんでもないことになっているようで、みるみる俺を追い込んでいく。
「ククク、
屈するとか勝ち負けとか、そういうのはあまり考えたくなかったのだけど……こんな女に
「さぁ……混沌に飲まれよ!」
ビュクッ! ビュルッ! ドクン、ドクン……
「あ、あ、あぁ……」
耐えきれなかった……チクショウ……こんな……こんなことって……
「フン、偽物の分際で、チンポだけは『本物』になれたようだな」
「人の身体に、本物も……偽物も……」
勝ち負けは考えたくないと思っていたけれど……いまの俺は、敗北感でいっぱいだ。こうして、跨がられて見下されていることもあるかもしれない。
奪われるだけ奪われたことで、俺からも活力が抜けていくようだ。
しかし……!?
「おっと、この程度で逃げられると思うなよ?」
なっ!? 何だよコレ……す……吸い込まれる……ッ!?
「私とて精液が欲しいわけではない。チンポさえ
ちょ……ちょっと待て……いましがた
「クク、膣肉の愛撫に悦んでいるな? サカリのついたオス豚め」
「ちがっ……こんなはずは……!」
確かにこの女の
「自分だけ満足して休めると思うなよ? 私が
「何も満足してないのに!」
こんな一方的な性的搾取じゃ満足からは程遠い。というか、コイツ
***
永遠とも思えるような拷問の末――
「フン、やはり『本物』になったとはいえ、日が浅すぎたか」
結局この女が
「次に会うときまでに、もっとチンポを鍛えておけ」
捨て台詞を吐きながらズルリと引き抜かれた俺のモノは、今度こそ完全に力尽きている。どんなに激しく
「フン、アンチャーターだけでなく、早漏の治し方もパイモンから教わるがいい」
結局パイモンって何者なんだよ。泌尿器科の医師か?
夜空を覆う木々を眺めることしかできない俺には、ヤツがどこへ去っていったのかもわからない。ただ、股間を放り出したまま呆然と天を仰ぐだけだ。
そこに……
「……すまなかった」
この声は……ガープか……? 剥き出しのアソコを見られてしまっているが、俺にはもう隠すこともできない。
「貴様がヤツに襲われていることには気づいていた。が、しかし……俺に太刀打ちすることなど……」
そうだな、よくわかるよ。責めるつもりはない。あの女に
「せめて……」
俺のズボンを引きずり下ろして……まさか、ガープまで……? だとしても、抵抗するだけの気力も残っていない。
が、足から脱がしただけで、俺の身体に何をすることもなかった。
「破れたところは俺が朝までに繕っておいてやる。無論、このことを他言するつもりもない。だから……それで、許せ」
夜なべして服を直してくれるのかよ。お前が俺の母親か。