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今、目の前で起こっていることは夢なのか?それとも現実なのか?
もはやその判別すらできるほどの正常な思考もまともに働くなくなってしまったイグニスは、ただ与えられる快感にただただ喘ぎ耐えるしかない。
ベッドに寝かせられ、何処で覚えたのか彼の手をロープで縛り上げベッドの支柱に縛り付け動かないようにさせている。用意周到と見せかけて、初めてイグニスの男根を取り出した時は「これが、ペニス……おっきい…」と感心の声をもらして興味深そうに突かれたり先端を指で撫でられたり両手全体でさすられたりした。
彼女の手ずからによってはだけさせられた白のワイシャツと中途半端に擦り降ろされたズボン。最初は肌寒く感じた素肌も彼女が行う愛撫によって迸るような熱に侵されたイグニスはされるがまま彼女の前で醜態をこれ見よがしに晒す。
互いに衣服を乱し、いや彼だけだろうか。
彼女は恥じらっている様子で衣服を脱ぎ始めた。今は下着だけのようでイグニスの中で劣情が沸いて仕方ない。
オレの手で脱がせたい、全てを露わにさせてやりたいという衝動が沸き上がるのだ。
―――そんなイグニスはなぜ、抵抗しないのか。たとえ手首を縛られたとして、所詮それは女性の力で締められる範囲の力だ。本気で逃げようとしたら逃げられる。
だが彼はそうしない。
そう、このシチュエーションに興奮しているのだ。これらすべてがイグニスの為だけに行われていること。今、彼だけに意識を向ける彼女を独占していること。ノクトやプロンプトや他の男でもない。イグニスを蹂躙しようとしているのは、レティなのだ。
「…ん、っちゅ……。いぐにす、きもひいい?」
息が直に当たって軽い電流が体に流れイグニスは少し体を仰け反らせる。
「!、くわえたま、ま…喋、るな」
「……ごめん……」
すまなそうに謝ってレティはまたはむっと口に銜えチロチロと舌を動かし始める。
あられもない姿で好きな女性の前でフェラをしてもらい勃起させている一人の男は仲間の誰もが想像できないほど乱れていた。
だが今のイグニスは快楽の園に身を堕としている。ほかならぬレティの手によって。
慣れぬ舌遣いで男根を銜えて懸命に奉仕する姿がイグニスの瞼の裏で再現され、ドッと溢れ出そうとする。
「……は、ぁ………ん」
こんなはしたない声がオレの口から漏れるなど、考えられない。いや、確かにオレは女性経験がないとは言わない。流石にレティの婚約話がなくなった後はそれなりに付き合いもあったし、体の関係もあった。だがどうにも長続きせずオレは今までの彼女にレティの面影を知らぬ間に重ねていたのかもしれない。
いつも別れ際に言われる台詞はこうだ。
『貴方が見ている人は一体、誰なの?』
その時はハッキリと誰とは言えずに答えられなかったが、今なら素直に言えてしまう。
彼女と似ている部分を探しては違うと落胆し、相手を傷つけていた。自分の中にある忘れられない彼女の姿を押し付けて相手を否定していた。申し訳ない気持ちとやはりオレはレティだけがいいのだと改めて思い知らされる。
背徳感に包まれながら、イグニスはレティとの許されない行為にただ身を費やす。これは、きっと夢だ、夢なんだと言い訳をする。
「レティ、レティ……!!」
ついにイったイグニスは勢いよく射精してしまった。
「っ!?」
どうやらレティの顔にのっぺりと付い多様で驚いた声が漏れた。
「苦い……」
「す、すまない!?」
「いいよ。顔にかかったくらいだから」
光を失ったオレは、夢の中で彼女と淫らな行為に及ぶ。
たまりにたまった欲求不満が見せる、背徳感に溢れた夢。
ここなら、オレは乱れてもいいのか。
軍師の仮面を脱ぎ捨て、一人の男として好きな女性に尽くしてもいいのか。
ああ、嬉しいよ。レティ……。
縛られていたはずの手首を拘束する縄がイグニスが動いたことで少しずつ緩んでいたらしい。元々女の手で締められる程度の力だ。緩まるのも時間の問題だったのだろう。いとも簡単にほどけイグニスは片方の手首を縄から外した。
「……!?」
「レティ……」
これにはレティもぎょっと驚いて慌てて声を上げて制止を求めた。
「あ、…ま、待って!」
「すまない、無理だ……」
だが聞く耳を持たないイグニスはレティの肩を掴んで荒いキスをした。後頭部を掴んでしっかりと離さずにさり気ない動きでサッと背中に手を回しプラジャーのホックをぷちりと取る。
そして器用にキスをしながら自分と彼女との位置を入れ替える。レティをベッドに押し倒したわわに実っている乳房をやんわりともみだした。
「ぁあ、んぅ」
「柔らかいな、レティの胸は」
「そんな、ちがっ!」
羞恥心から顔を赤く染めるレティ。
「手に余るほどの大きさで弾力があり滑らかで、―――思わず吸い付きたくなる」
そう言ってイグニスはピンク色をした乳首に吸い付いた。
「やぁっ!」
恥じらうレティをイグニスの手で一つ一つ花開かせる。じっくりと愛撫をし、まるで生身のような彼女を隅々まで堪能する。
最後の砦となるパンツをするりと抜かれてしまう。
処女であるレティは豹変したイグニスが怖くて仕方なかった。だが歯を食いしばって耐えた。耐えるしかなかった。
全ては自分が招いた責任なのだと自分を極限にまで追い詰めて。仰け反りそうになる体はすぐイグニスが逃すまいと腰元をガッチリと固定する。
「夢だ、これは夢だ」
「い、ぐにす」
体が半分に裂けるような鋭く激しい痛みがレティを襲い、決して痛みだけではない生理的涙が瞳から溢れ出す。繋がる局部と次第に訪れ自分を飲み込むイグニスから与えられる快楽の波。
「はっ、は」
「ぁっ、―――ぁああぁぁあ」
行為の最中にイグニスは何度もこれは夢なのだとうわ言のように口にした。たとえ両目が見えなくとも全身でレティの全てを手探りで感じ敏感なところを周到に攻めた。それは事前に得た知識ではない。男の性。押し隠してきたイグニスの、雄である獣の本性。
ガクガクと何度も下から執拗に突きあげられ意識が果てそうになる。喘ぎ声を幾度となくあげ、もう声はガラガラだ。
早く朝になれ、早く!
そう急かす思いとは裏腹にまだカーテンの向こう側は暗いままだ。
痛い、怖い、自分が自分でなくなりそう。
「……く、と……」
行為に夢中になっているイグニスには聞こえていなかった。
レティのつぶやきを。
ノクト。
想っちゃいけない。他の男に抱かれながら別の人を想っちゃいけない。だが、頭と心はベツモノで彼を思い出さずにはいられない。
ノクト、私、女になったよ―――。
もう、ノクトが知ってる少女のままのじゃない。
だから、私の事、軽蔑して。嫌いになって。罵って。
綺麗なままのレティはもういないの。
悲しみを含んだ一筋の涙をレティは瞳から零した。
【きっともう、彼の隣には並べない】
※
すれ違いな二人の行為は終わり朝を迎えた。
お互いに寄り添うように生まれたままの姿でレティはイグニスのしなやかで鍛え引き締まった胸板に頭を乗せていたところ、目を覚ます。
「………」
わたし、やったんだな。
違和感ある下腹部の痛みから無事に繋がったことを感じたとる。それは逆に言えば処女を失ったということ。恋愛感情で繋がった関係ではないことを現していた。意識が途切れる前、我武者羅にケアルガを何度も唱えていたのを思い出す。無事に成功したのだろうかと、不安になった。
「……ん…ン…」
「……イグニス……」
少し頭を持ち上げてゆっくりと瞼を開いていくイグニスの顔を見上げた。イグニスは、まだ夢から覚めていないようだった。
「……レティ?……まだオレは夢の中にいるのか……?」
「夢じゃないわ。私はここにいる」
レティはイグニスの手を取って自分の頬に当てた。イグニスは信じられない表情でレティの頬をなぞる。ゆっくりと、目の前のレティを確かめるように。そして、小さな震える声で名を呼んだ。
「レティ?」
「イグニス」
レティも彼の名を呼ぶと、イグニスは大きく目を見開いた。
これは決して夢ではないこと。レティが目の前にいて、昨夜の行為も実際にあったこと。
「……ああ、君が」
見えるよ――。
レティは純粋に嬉しくて、瞳を潤ませ喜びをあらわにした。
「……良かった……」
自分の身を捧げて間違いはなかったと確信を得られたのだ。手入れされる前の下ろされた前髪をそっと横に反対の手で払いのける。その手もイグニスに取られ、唇が触れ合えるくらいの距離で見つめ合う。だがさきに視線を逸らしたのはイグニスの方からだった。ハッと我に帰ったかのように顔色を青ざめた彼はレティの手を離し身を起こして両手で顔を埋めた。
「……イグニス?」
「オレは、君を傷つけてしまったのか……?無理やりこんなことを……!?」
その声は悲哀に満ちていて彼も朧げに覚えていたのだろう。レティとの行為を。夢だからと言い訳していたが、実際には現実にレティと繋がった。だからこそ、自分が許せないのだろう。取り返しのつかないことを彼女にしてしまったと自分を攻めずにはいられないのだ。だがレティは首を横に振って否定する。
「違うわ。施術よ。そうしなければ貴方の目は視力を取り戻せなかったの。こうやるしかなかったの」
「だが!」
それでも納得いかない様子のイグニスに対してレティは声を荒げた。
「謝罪の言葉なんか聞かせないで!」
「!」
イグニスは目を見開いてレティを見つめた。
今更昨夜のことを無かったことにしたいのかと激高したくなったのだ。決めたのは自分でイグニスはただ自分の我儘に突き合わされただけの被害者。ただ甘んじて受けていればいいだけだ。それに伴う報酬は両目の治療。
「私の為だというのなら謝らないで。生半可な覚悟で貴方とこうしているわけじゃない!」
侮辱するな、私の押し殺した気持ちを否定するな。
レティの怒りを感じ取ったイグニスは、今にも泣きそうな顔をした。
「レティ」
「イグニス、貴方はノクティスにとって欠かすことのできない人よ。だから自分を責めないで」
あくまで合意の上だと押しきるつもりのレティにイグニスは何も言えなくなってしまう。恐る恐るイグニスは、レティの頬に手を伸ばし
「ありがとう」
と瞳を潤ませ礼を言った。こういうしかなかった。他になんと言えというのだ。自分の所為で彼女を傷つけた。だがそれを言えば彼女は怒る。だったら、全てを受け入れて礼を伝えるだけ。
「うん」
彼女が自分の為に体を差し出してくれたこと。
彼女がノクトの為に決断したこと。
ノクトへの罪悪感とレティが少しでも自分に好意を抱いていてくれたら期待し様々な感情に彼の中で苛まれながら、彼はついに一筋の涙を零し、抑え込んでいた感情を吐露した。
「本当は、怖かったんだ……。もう、何も見えないことが。口に出して言いたかった。……けれどオレの立場はそんな弱気な発言なんて許されない、言っちゃいけないんだ……だから、だから」
溜め込むしかなかったと、イグニスは涙ながらに語る。
自分の押し通そうとした弱気な部分をレティの前だけ曝け出した。軍師の仮面を一時脱ぎ捨て、一人の男として愛しい女の前で。
レティはなにも言わずイグニスをそっと自分の胸に抱き寄せて包み込むように彼の頭を抱いた。
もう大丈夫だと安心させるように。
まるで母の愛のように。イグニスは無我夢中で縋りつく。子供のように、温もりを求めてレティの体を掻き抱く。
彼女の為に、ノクトの為に、最後までこの命燃やし切ろうとイグニスは決めた。たとえどんなことが待ち受けていようとも。
【ここから二人の歪な関係は始まる】