pixivより転載
さて、その前後のことは曖昧である。とにかく私は、自身の住むマンションの、屋上へと続く扉を睨んでいた。
扉の前に立っているのだ。やることはひとつ、その扉を開くことである。しかし、なぜか自身はそれを渋っていた。そもそも、なぜ扉の前に立っているのか。5階の自宅から、なぜここまで来たのか。そこが判然としなかったせいかも知れない。
ふと思い出したのは、自身が体調を崩していたことだ。数日前から寝起きに眩暈を起こすことが続いていたが、この日は昼食に回転寿司に行ってきた帰り、ひどいめまいを起こし――さながら乗り物酔いのようだった――ややもどし、蒲団で休んでいた。そのはずだった。なぜ自分はここにいるのだろう。そもそもここに来るまでに鍵は閉めてきただろうか。スマートフォンも財布も持ってきた覚えはない。最低限、鍵があれば――ポケットを探ろうとした矢先、扉の向こうから音が聞こえてきた。
『――』
それは、人の声に聞こえた。疑問が首を擡げる。そういえば、屋上の鍵は飛び降り自殺防止のために大概は閉まっているものではないか――そう思いながらも、自身はドアノブに手をかけた。扉は開いた。
青だった。
「――」
思い切りよく開いた扉の先。そこは地平線の先まで続く青空、そして草原だった。青空は雲が薄く棚引いている。とても明るい野原だ。しかし太陽は見えない。なにより目を瞠らせるのは、空の異常な青さだった。こんな青は今まで生きてきた中で見たことがない。透き通るようで、それでいてのっぺりしている。
なにより、ここは屋上のはずだ。地面に広がるべきはコンクリート、気が利いていればタイルでも敷かれているはずだ。なのに扉を開けた先にはフェンスも見えない。ここが8階建てマンションの屋上だということを忘れさせる。風がさやさやと吹いて、その度に草むらが靡いた。
明らかに異状。引き返すべきだ。脳裏で危険信号が鳴る。
しかし、自身は足を踏み入れてしまった。あまつさえ、扉から離れるという愚行をした。
それは、偏に聞こえてくる声が気になったからだった。
振り返ると、もう扉は閉まっていた。コンクリートの塔屋はこの草原の中そのまま建っていた。まるでこれ自体が独立した建物のようだった。そう思いながらも、声のする方へと回り込む。はて、この声は随分大きいようだ。それなりに大きい塔屋の向こうから聞こえてくるなんて――そして、それを見て納得した。
青々と続く草原。塔屋の向こうにもそれはどこまでも広がっていた。隔たりというものがどこにもない。ただ、その中で――女がいた。あれは女だろう。遠目にも、明らかに3メートルはありそうだったが。
それは交合をしているようだった。
草の上に仰向けに横たわる女。女はテレビの時代劇で観るようなけばけばしい着物を着ている。遠目にもわかる、金糸が使われているようだった。それをあられもなくはだけさせ、巨大な乳房がこぼれている。女の体は前後に揺れていた――女の上には、真っ黒な影が覆い被さっている。女の股を開き、白い両脚を抱えたその影は、ヒトの形をしていた。3メートルはありそうな女に対し、こちらはそれを更に上回っている。女に覆い被さったそれは、激しく腰を打ち付けているようだった。
「――あっ……あっ、ああっ……」
声の正体がわかった。女の喘ぎ声だった。女にしては低めの声は、しかし、弦楽器のような艶がある。生唾を飲んだ。自身はこの声に惹かれて来たのだ。塔屋の陰から、その異様な性交を見つめ続ける。女の体が揺れる。影が腰を打ち付ける。
それが唐突に終わったのは、自身が身を乗り出すあまり、草むらの中に隠れていた石を踏み砕いたときだった。
影がこちらを見てくる。否――目はない。そもそも見たと思ったのは、顔らしきものがこちらを向いたからだ。息を飲む。
「……あっ……」
影は、ふい、と女から離れた。両脚から手を離し、股から退く。名残惜しそうに、あるいは物足りなさそうに手を伸ばす女を振り向きもせず、影は塔屋の反対側へと歩み去っていった。
あとに残されたのは、女と、塔屋から身を乗り出してしまった自身だった。
女は、草むらに転がったまま、不意にこちらを見る。身を強張らせた。不興を買っただろうか――しかし、女は自身を上から下まで見て――そして、ある1点で目線を定めると、にっこりと、微笑んだ。
手招きされた。その意図を一瞬で悟る。女は、自身の股間を見たのだ。そして、自分自身がいきり立っているのに気付いた――女は、「続き」を求めている。喉が鳴った。
私は白い手に手招かれるままに、ふらふらと傍へ寄った。
――やがて辿り着いたとき、女はその身を起こしていた。はだけた豊かすぎる乳房が、赤地の帯の上に乗っていた。横座りする女の前に立つと、女は微笑みながら膝を叩く。意図を察して膝の上に乗る。女は私を軽々と膝に抱えた。恐怖は一瞬。目の前に自分の顔ほどもある乳房がぶら下がっていた。先端は突起が大きいものの、意外にもほのかな桃色である。女の体からは甘い香りがした。私は女の腕に腰を支えられたまま、その左の乳房にむしゃぶりついた。
「あっ……あっ、あっ……」
女の声が震動で伝わってくる。私は女の香りの中、無我夢中で乳首をしゃぶった。さながら赤子のようだったろうと思う。しかし赤子に乳を与えるにはあり得ないものがあった。女の喘ぎ声だ。
まるで大粒の飴玉だ。柔らかだった女の乳首は、舌で転がしていくとみるみるうちに強張った。それを解きほぐすように、肉の皺に舌を這わせる。その度に女の嬌声が上がった。
思い出して、右手を伸ばす。伸ばした先は、空いている右の乳房だ。手で触れると、ビーズクッションよりも柔らかに指が沈み込む。やはり柔らかだった乳首は、自身の右手の中で強張り、また喘ぎ声が上がった。
左の乳房に顔を埋め、右手を右の乳房に埋める。夢中だった。今にも甘い母乳が垂れてきそうな乳首をひたすら吸う。舐る。女が自身の腰を支える手を強くし、女の腹に自身の逸物がデニム越しに強くこすれた。私は今にも解き放たれそうな自身を堪えながら、さらに強く吸った。女が高く喘いだ。
……女の、腰を支える手が弱まる。私は女がやや気をやったのを見て、するりと膝から降りる。
「あっ……」
女の切なげな声。それに内心で猛る気持ちを抱きながら、自身のデニムの前をくつろげた。そして女の膝をつつくと、了解したように女は草むらの上に仰向けに転がった。そして、女は、女に比べれば小柄な自分を労ってか。自ら股を開いた。
そこで、女の香りの正体を知る。女の秘部。この女の蜜の匂いだったのだ。
自身は女の両脚を裏腿から押し上げる。女が心得た様子で、自ら膝を抱えた。露わになる女の秘部――自身は女の裏腿を掴むと、自分自身をその中に突き入れた。
「ああっ――」
女が喘いだ。
女の中は、あまりに甘く、柔らかで、そして熱かった。女の中はあまりに大きく、あっという間に自身が根本まで埋まってしまう。それが堪らなく、一気にぎりぎりまで腰を引いては、女に腰を打ち付けた。それを繰り返す。
「あっ、ああっあっ」
女が喘ぐ。しかし足りない、と思った。何がかはわからない。とにかく腰を打ち付ける。熱い。溶けそうだ。ずぶずぶと埋まる自身。堪らない。引き抜いては、入れる。引き抜いては、入れる。女の乳房が揺れた。乳首のつんと立った、形の良い乳房だ。足を抱え、乳房にむしゃぶりつく。女の香りの中、甘い味がした気がした。太股を両脇に抱き込む。引き抜いて、入れる。心なしか、女の嬌声がどんどん高くなっている気がした。
思う。なぜ、自分は乳房にしゃぶりつけているのだろう。なぜ、自分は今、女の足を小脇に抱えていられるのだろう。なぜ自分は、座して女の中に挿入できているのだろう。
そして気付いた。女が自分と変わらない体格になっていることに。
違う。自分が大きくなったのだ。
ふと、うなじをなぞる感覚がした。女の手が、自身の首に纏わり付いてきたのだ。異変に気付いても腰を打ち付けることをやめられない自身に、女は艶然と微笑んだ。
「大きくなったね、坊や」
女の中で、自身が弾けた。
気付くと、蒲団の中にいた。時計は夕方を指し、窓の向こうの空は茜色をしていた。
そこは見慣れたマンションの一室だった。自身は飛び起きる。するとまだめまいを起こしていた。咄嗟に、蒲団の脇にあるテーブルに身を凭れる。
夢だったのだろうか。それにしては、やけにスケールが大きかった気がする。
ふと予感がして股間を確かめた。しかし、予想に違い、そこには射精した痕跡は欠片もなかった。だから疑問に思う。夢精をしていてもおかしくなかった。なのにその痕はどこにもない。盛り上がってすらいなかった。
だから、気になった。気になったので、部屋を出て、きちんと鍵を閉めて、それからエレベーターで最上階まで上がる。
屋上の扉まで、半ば駆け寄った。果たして、鍵はかかっていた。
やはり夢だったのだろうか――釈然としない気持ちで視線を下ろした先。
そこに、毟られた草が落ちていた。たった1本の草だった。
何気なくそれを拾う。ハーブでもなんでもない、ただの雑草のはずだった。
それからは、夢の中で嗅いだ甘い匂いがした。
End.