その日、医大生をやっている薬師寺藤也こと薬研藤四郎は、東都大に程近いカフェで、前田冬至こと前田藤四郎、
因みに全員大学生だが、一応前田は一回生、薬研は二回生、光世兄弟は二卵性双生児と言うことで三回生と言う事になっている。
取り敢えず、逃げ出せないよう角のボックス席で、蓋として大典太と前田を座らせ、自分とソハヤとが正面から向かい合う形になった。
見目良い男達に、周囲の注目が集まっているが、当人達は一切気にしていないが。
さて、角に追い込まれる形になった彼らの主、現在吉野景光と名乗っている人物は、本気で事態が判らない様子で眉を八の字にして座っている。
「あの、吉野さん、僕達が今何に怒っているのか、判らないですか?」
「え? あ、うん。最近はそんな、怒られるような事は」
「おいおい、本気で言ってんの!?」
前田の問いに頷くのを見て、ソハヤがガチで驚いている。
そりゃあ、己の主君がガチ社畜――自分達の周辺では、基本的にへし切長谷部がそう言うキャラなのだが――な生活に突っ走っていれば、驚くのも仕方がないだろうと薬研は思う。
だから、頭掻きつつこう言ってやる。
「たーいしょ、最近大島の旦那方と擦れ違いがちだからって、飯と睡眠減らしてやがるだろう?」
途端に眼を反らすのに、普段は余り自己主張しない大典太ですらじと目になった。
「否、眠くなれば寝るし、食事は摂ってるよ、まあ、手軽なのだけど」
「いや、大将、ソファーで一、二時間仮眠とるのは寝たうちに入らねえぜ」
「ゼリー飲料は非常食であって、日常食になさらないで下さい」
「後、又移動操作を使っているだろう。以前よりは回数を減らしたようだが、酷使するのはいかがなものかと思う」
三人の言葉に、吉野は眉を下げたまま視線を逸らしている。
それに向かって、薬研は最も強く『九頭龍大神』の力を受けた九振りの内に居る、自分の兄弟の一人である信濃藤四郎と、刀派上叔父に当たる鳴狐とお供から漏らされた事を口にしてみた。
二人と一匹は、それを一番心配していたのだが。
「大将、まさかたあ思うが、仕事詰めて人間の部分を擂り潰そうって魂胆じゃねえよな?」
「いや、そんな。そんな事は」
「オーイ大将、目が泳いでるぞー」
「あ……吉野さん。何て事を」
「……補佐役殿達にも悪影響が出るだろう、止めた方が良い」
大典太のぼそりとした一言に、吉野景光はあからさまに反応した。
「え」
「補佐役殿達と主の縁は、彼らと『諸伏景光』と言う人間との記憶と情から成り立っている。
あんたが『諸伏景光』を磨り潰すと言う事は、彼等との縁も潰すって事だ。
その場合、彼等に何らかの影響がでないと言う保証はないし、最悪彼らを人としての情を失った『大神』が、霊力を補うため食ってしまう可能性もある」
「え……」
「補佐役殿達は、あんたから霊力を結構分けられてる。
本来才能はあっても霊力が無かった小松殿や、人並みだったが審神者に向かなかった彼岸殿、大島殿が部隊を率いることが出来るのもそうやって分けられた霊力故だ。
その分けた理由を忘れれば、多分九頭龍は分けた霊力を戻す為に彼らを食い殺すだろう」
思っても居なかったのだろう、大典太の指摘にテーブルを見詰めながら吉野景光はカタカタと震え始めた。
だが、そんな吉野に向かって、何時の間にか寄って来ていた三条宗近――三日月宗近が口元ににたりと笑みを浮かべてこう言った。
こいつは、染井吉野の本丸の中で『要監視』とされている問題男士の一人で、これまでも何度も吉野の『神婿』の地位を狙って行動を取っては、古参達と補佐役達に何度も叩きのめされているものの、全く懲りる様子が無かった。
「良いではないか。
現世との縁等、神たる主には紙切れに等しい。何ともはや喜ばしい、己で捨てる気になったのであろう?
案ずる事は無い、人などとの縁は消えても、主には我らがいる。何も困らぬであろ」
皆まで言う前に、左右からのゲンコツが三日月の後頭部を襲った。
「はい、アウト」
「ヨッシーに言っとくねー、やっぱり三日月は矯正不可だったって」
「あなや!?」
ジャージ(何時もの堀川ジャージではなくファッショナブルな方)の上からウィンドブレーカーを羽織った山姥切国広と、今時の学生と言った感じの、ラフなカジュアルスーツ姿の加州清光の二人が、所謂チベットスナギツネ顔で拳を構え、そのさらに後ろに呆れ返った顔で立つ東西名槍二人と、額に青筋を立てた三条の兄弟大太刀が立っていた。
「おー、行くぞー」
「はいはい、仕舞っちゃおうなー」
「取り敢えず、今剣には話したからね」
「あなやーーー」
担ぎ上げられ、そのまま運ばれる、二二〇〇年代では「最も美しい」と言われた刀剣の分霊――但し、駄目審神者によって増長し快楽殺人に走った落神すれすれだった代物で馬鹿役人に押し付けられた事故物件だったが――を見送り、何事もなかったように薬研は己が主と定めた青年に向き直る。
「取り敢えず、大将。あんた少し、三人と話す時間を持った方が良い。
あんたがどう思ってるかは知らないが、自分達の知らないところで友人が自殺しようとしてたなんて、三人もきっとキツいだろうよ」
「そうだぜ」
「吉野さん」
俯いたままの
「主、降谷零が味わった絶望と寂寥感を、今度は三人に与え、その後二度目の死を与えるのか? あんたは何の為に此処に来た? 任務を投げ出すだけならともかく、友人を死なせる気か?」
「っ、」
「旦那、そこまでだ。
大将、こう言う細かなところに頭が回らないくらい、今のあんたは疲れてる。
これから最低一週間、固定任務と木場殿からの仕事以外は一切手を付けず、ゆっくり考えちゃくれねえか?」
薬研の言葉に声無く頷く青年を、四人は気忙し気に見守る事しか出来なかった。
『愚痴部屋』
小松乙女
「おーい、やげっちからの見たー? (`・_・´)オコダヨ!!」
江戸彼岸
「みた。あんの大馬鹿はーーーっ!!
(щ`皿´)屮キィィィィィィィィー!!!!」
大島
「全く、あいつは (-ω-;)ウーン」
江戸彼岸
「自分自身を磨り潰す気だったって、あー、全くあの馬鹿」
「本気で信じられない!」
大島
「まあ、大典太から、俺達を死なせる可能性って奴を指摘されたんだ、少しは落ち着けばいいんだが」
小松乙女
「だったらいいけど、今一信用出来ないよねー、これまでの経緯考えると」
江戸彼岸
「俺達の安全さえ確保出来たら、とか言い出しかねないものな」
大島
「取り敢えず、俺達は折角拾った命を無駄にしたくはないんだがな、あいつの分も含めて」
小松乙女
「じゃあ、そろそろ主席殿をこっちに引き篭もっか」
「まずはお近付きとして、飲み会誘って、何回か交流持って最終的に『奥』に連れ込もう」
大島
「それが、安全ではあるな」
江戸彼岸
「まあ、あいつにも安全に寝られるセーフハウスって奴を提供出来るようになるから良いんじゃね?」
「つう訳で、萩原、取り敢えずあいつに連絡」
小松乙女
「へいへい、二人も話合わせてな?」
大島
「判ってる」
江戸彼岸
「移動するぞ」
『緊急連絡網』
小松乙女
「おーい安室くーん、あむぴー、いるー?」
小松乙女
「おーい」
東錦
「どうかしました?」
「と言うか、あむぴは止めて下さい」
小松乙女
「メンゴ_(_^_)_」
小松乙女
「いやねえ、今夜焼肉行くんだけど、来れそうならおいでよ。
吉野の奴を餌付けするから」
東錦
「え? 良いんですか?」
「と言うか餌付け?」
江戸彼岸
「おー、来い来い。どうせなら、人数多い方が良いし」
大島
「俺は明日朝からだから酒は飲めんが、肉は食いたい。
何処で喰うんだ?」
小松乙女
「警察庁から徒歩十五分の某店」
東錦
「え、確かそこ、有名な高級焼き肉店」
小松乙女
「吉野のバイト先の人から、お食事券二十万円分頂きました」
江戸彼岸
「∑(゚Д゚; )マジッ」
大島
「Σ(゚∀゚ノ)ノキャー」
東錦
「本当に?」
小松乙女
「ここで、悲しいお知らせがあります。
俺達が知らないところで、また吉野が不摂生してやがりました」
「このお食事券は、奴の上司からの俺達への活動費です」
「飯喰わせて寝かし付けろと言う」
江戸彼岸
「ああん?」
大島
「まさかあいつ」
東錦
「あの、『ポアロ』では賄い、ちゃんと食べてましたが」
小松乙女
「うん、まともな食事はポアロの賄いと俺らと家で喰ってる物だけ。
ここ半月、仮眠一、二時間にゼリー飲料で生活してやがりました」
江戸彼岸
「( *゚Д゚)・;'.、グハッ!!」
大島
「あーあ、仕方が無い奴 σ(-ε-` )ウーン」
東錦
「なにやってんだひろ」
小松乙女
「@東錦 つうことで、今晩職場の人にあいつ捕獲して貰って、お礼の為ご馳走するついでにあいつにたんぱく質喰わせてアルコール飲ませるから、良かったらどうかな?」
東錦
「判りました」
LINEで指定された待ち合わせ場所に行くと、先に来ていた萩原もとい小松研二と、伊達もとい大島航が待っていて、降谷零は立ち止まった。
昔見た光景そのままの立ち姿に、思わず名を呼びそうになったのだ。
電子煙草を咥えている大島が、近付いていた降谷に気付き手を挙げた。
「よ、急に呼んで済まなかったな」
「いえ、丁度空いてまして」
正確には、行く予定だった非合法パーティが行きなり中止になったので――主催者の一人が急病で入院、もう一人は奥さんに浮気がばれて修羅場突入(入り婿で立場が弱いのに浮気してた馬鹿だった)の為だとか――、これ幸いと参加した降谷が居る。
……もちろん、裏から『葛の葉』に依頼して、パーティを潰した三人がいるのだが。
彼が来て程無く、松田もとい桜田陣平と、彼に片腕を拘束された諸伏もとい吉野景光、そしてその後ろに、見覚えのある顔を見いだし、思わず降谷は凍り付いた。
四〇代だろうその男性は、降谷の顔を見出し暫く考えた後、にかっと笑ってこう言った。
「昔、友達が誘拐されたのを勇敢に追っかけてた坊主だな、でっかくなったなあ。
俺の事、覚えてるか?」
「っ、はい、カズさん、いや、強さんの方ですよね、あの、安室透です、ご無沙汰してます」
「おう、元気そうで何よりだ」
かんらと笑て、降谷が名乗りやすいように話を振った中年男性は、逃げようとした吉野の肩を押さえて待っていた二人に向かって頭を下げた。
「警視庁生活安全課から『特殊案件調査班』に出向中の、新條強だ。まあ、ただのおっさんだ、よろしくな」
ごふっ
「あ、よろしくお願いします、俺、警視庁警備部機動隊爆発物処理班所属の小松研二です」
「さっきも言いましたが、俺は桜田陣平です。小松と同じ部署です」
「……大島航、です」
「おう、よろしくな」
小松が安室こと降谷と新条とで吉野を拘束しているのを見計らい、微妙に目が泳いでいる大島に桜田は近付いた。敢えて声を使わず、感応術で話し掛けた。
『おい、どうしたよ』
『あの人、
『え? あの人生活安全課って』
『元々は捜査一課でバリバリやってた警部だったんだ、目暮さんより古株の。ただ、何か俺の指導期間が終わったら交通課に移って、その後生活安全課に行ったらしいんだ』
『へえ?』
『俺の教育係になる前に、何か事件に巻き込まれて怪我したらしいんだが、詳しい事は俺も知らないんだ』
穏やかに笑う年長者を見つめ、大島は何とも言えない表情を作る。
それを横目に見つつ、桜田は頬を掻くしかなかった。
高級店ゆえの敷居の高さに、思わず小松、桜田、大島の三人は躊躇したが、潜入捜査官上がりの吉野と現役潜入捜査官である降谷、そして意外にも新條は臆せず入店して、オーダーその他を済ませてしまった。
「新條さん、慣れてますねえ」
「あー、親父や兄貴がなあ。俺はこんなとこ来るほど金ねえよ」
「そうなんですか?」
小松が聞き返すと、新條は苦笑いしてこう言った。
「車につぎ込んでるから。
でも俺はましだぜ? 一つ下の従兄弟はバイクキチでな、カスタマイズに一千万くらい注ぎ込んだって言ってたし」
「わあお、どうなってんです、それ」
「一千ccクラスをフルチューンして、カウルとかを防弾対爆仕様にしたとかで、総重量一トン近いとか言ってなかったかな。
最もあいつ、何年か前にそのヘビー級でマンハッタン橋から、河の上逃走中の貨物船に飛び降りやがったらしいけど」
「マンハッタン橋って」
「まさか」
一応、橋その物を見た事があり、その眺望を知っている降谷と吉野が蒼褪める。
「最上部の道路からだから、八〇メートルだったかな。バイクは大破したけど、当人はその後の乱闘で作った傷の方が酷かったってゲラゲラ笑って、叔父さんに叱られてたけど」
席について、注文を通しつつそう言った新條に、思わず全員で注目してしまう。
「でも、何で又そんな」
思わずそうぼやいた大島に、新條強はにかっと笑った。
「そりゃお前さん、あいつも
「「「「「え?」」」」」
「まあ、FBIって言うと警察庁みたいなもんだけど、犯罪も犯罪者も許さない、絶対償わせるってのがあいつのスタンスなんだ」
一杯目のビールを飲み干し、周囲が見つめるのに向かって、新條はこう締め括った。
「その時、あいつが急襲を掛けた貨物船は、人身売買組織のものだったんだ。結構な人数を保護したそうだよ」
横で話を聞きつつ、吉野――諸伏景光と降谷零とは、各々ネームドになる前に耳に挟んだ、とある人身売買組織を思い出していた。
それは、『黒の組織』ともそこそこ交流のあった組織で、上がりのメインは『不法臓器売買』と言う血生臭い組織だった。世界各国でその組織の拠点は見つかるものの、肝心な不法医療行為の現場が見付からない状態で、なかなか捜査の進展が見られないと公安でも手を焼いていた相手だった。
だが、その組織はICPOとたった一人のFBI捜査官によって、一晩で壊滅に追い込まれた。
本拠地である、貨物船に偽装した医療船が特定され、それをICPOの警察隊が鎮圧したと。
船の中には何十人もの『臓器提供者』と、『臓器』の生きたストックと、丁度製品を作ろうと準備を進める闇医者の一団とその護衛達がいて、全て制圧され、保護されたらしい。
そして、その医療船を特定したのがFBIの
確か、コルンとキャンティが何度も暗殺を試みながら、異常なまでの『偶然』に守られ、殺害出来ずにいるFBI捜査官で、ジンは一度ならず彼に捕まってその都度内通者によって脱出しているとも聞いた。……その内通者が、二度と連絡して来る事がないのも有名だった。
この、『東海岸の百舌』と呼ばれている男は、潜入捜査官として優秀なばかりでなく内部監査としても有能で、FBI高官を過去に三人首を飛ばした事で――外部で特に知られていた。
『どれほどうまく取り繕っても、必ず罪を『百舌鳥の速贄』の如く暴き出す』と。
そんな人間がまさか。
「新城さん」
「何だ?」
「カズさん、何やってんですか?」
「当人は、窓際捜査官だーって、ほけほけ笑ってやがったけどなあ。まあ、基本書類裁いてばっかりだから、現場仕事になった途端大暴走するってんで、現場からは敬遠されるってぼやいてたな」
しょうがない奴だろう? と、笑われ、降谷も諸伏も、そして他の三人もそれ以上問う事は出来なかった。
新しい肉を焼く為に、袖をまくった新條の右前腕には骨迄行っただろう大きな傷があって、それが刀傷と気付いて四人はそっと眼を逸らしたが、降谷の方はぎょっとして目を見開いた。
「強さん、それ」
「うん? ああ、捜査一課の頃に、事件絡みでヤクザの事務所に突っ込んだ時に、高い所から落ちてきた刃物から頭庇った時にな。ヤクザ者が隠して忘れてた刃物だったらしくて、ボロボロの刃物だったお陰で骨で止まったが、治るのに時間掛かってな。
筋とか神経は何とか繋がったんだが、銃を撃つのにちょっと支障があるんで捜査一課から交通課に移って、生活安全課に更に移ったんだ。日常生活には困らないが、やっぱり銃と捕縛術に支障が出ちまうとなあ」
傷痕を叩きつつ笑う新條に、降谷は俯きそうになるのを必死に堪え、「回復して良かった」と笑って見せた。
その横で、実際の怪我の理由を聞いている諸伏は黙々と肉を食んだ。
実際は、張り込み中の事故と言うべき事態だった。
親子連れを襲おうとした、穢刀の乙短刀二体を相手取った結果の傷だった。
そして、その時襲われそうになっていた親子連れが、毛利小五郎と妃絵里、毛利蘭の家族だった。
恐らく、工藤新一が『江戸川コナン』として活動する為の下地を潰そうと考えた歴史修正主義者がやらかした事なのだろう。
自分達が介入するより前に、既に歴史修正主義者の工作が始まっていた事に、話を聞いて眩暈を感じたものだったが。
一瞬、新條と目が合った。
気にするなと言うように目を細めて笑い掛けられ、諸伏景光は落ち込んだ猫のように目を伏せる事しか出来なかった。
唯川、いや、君には『ヒロ』って呼んだ方が判り易いんだっけ。
僕達と彼は凄く違うって気付いてる?
ヒロにとって、『諸伏景光』も『スコッチ』も『唯川洸』も彼が着ける仮面でしかない。
だから、潜入していた時分ヒロは何時も苦しんでいた。
『スコッチ』として行っている事に『諸伏景光』としての仮面がひび割れ、『唯川洸』としての仮面に替え切れず、セーフハウスで何時も苦しんでいた。
ヒロは、優しいから。
うん、知っている。
でも、僕らはヒロと違う。
ヒロが能楽師や京劇役者なら、僕らは寧ろ君に別人が乗っかっている、否取憑いているって言うのが正しい気がする。
え?
そうだなあ。『ビリー・ミリガン』を知っているかい?
解離性同一性障害?
そう。俗に言う多重人格。
でも、それと僕らは違うのも判るね。
君の主観で、睡眠以外で記憶が途切れている瞬間はない筈だ。
僕達は、『君』が眠ってしまえば肉体に干渉する事は出来ない。
それは、僕らがあくまでも
……うん。
ヒロは、
君は、
『降谷零』は、十歳の時、ヒロを助けてくれた刑事さん達に憧れ、刑事になりたいと思って生まれた人格。
『バーボン』は、組織に潜入してそこで成り上がる為に創り出した人格。
そして僕、『安室透』は、今でこそ私立探偵兼『ポアロ』の店員だけど、最初は『スコッチ』、そして『唯川洸』を構う為に造った人格だった。
どう言う事?
……それだけ、ヒロは追い詰められていたんだ。
犯罪を犯している事、自分より優秀なスナイパーとチームを組んでいる事、俺の、足を引っ張るんじゃないかと言う焦燥。
僕は、『スコッチ』がライに負けているなんて、一度も思った事は無い。
でも、ヒロにはあいつと一緒に組む事は、常に戦績を並べられる事で、同時に『殺す』ことを強いられる事だった。その事実に、何時も苦しんでた。
これは、『
僕には理解出来ないけど、ヒロはライ――赤井秀一の事を個人としては買ってたし良い奴だと捉えていたから、猶更苦しんでいたようだし。
……ひろ。
そして、まるで犯罪組織にどっぷり染まったような『バーボン』の姿にも、ヒロは不安を感じていた。
『バーボン』自身は、ヒロを自分のものだと主張する事で、組織に牽制を掛けようとしていたんだけど、ヒロ自身に伝えるのに失敗しちゃったから。
だから、その不安を少しでも和らげる為に、……君が僕を生み出したのを、もしかしなくても忘れてるよね。
もう、四年も前の話だし。
飛び起きる。
時計は未だ夜明け前で、静まり返った空気は深々と冷え込んでいて、飛び起きた為に布団から温もりが逃げて行く。
「あれは……」
考えるが良く判らない。
久し振りに構えずに飲み食いした所為か、食べ過ぎたし飲み過ぎてしんどい。
降谷零は、もう少し睡眠を取るべく、もう一度布団の中に戻った。