諸伏高明は夢を見ていた。
お囃子が聞こえる、神社の境内を走っていた。
視線から鑑みるに、どうも小学生ぐらいだろうか。
犇めいている大人達の間を、必死に走って自分は探している。
……何を?
「おう、コウメイ、弟は居たか!」
敢助君の声で、弟――景光を探していたと得心する。
自分が小学生なら、まだ弟は幼児の筈。両親と共にいるなら良いが――いや、敢助君がああ言うなら、両親とも逸れているだろう。
人波の向こうで、「向こう見てくる」と、振られた敢助の手があった。
それに「頼む」と声掛け、走って、走って、走って、走って。
何時の間にか、見覚えのある場所にいた。
「九頭龍社? ここは戸隠神社だったのか?」
夢故の飛躍に、笑い出しそうになったその時だった。
シャンっと、鈴が鳴る。
はっと拝殿を見れば、奥から人々が出て来る。いや、人の姿をした、『何か』が出て来るのを見た。
一見すると、十代から三十代くらいの年齢に見える男性達は、和装だったり洋装だったりするが、一人残らず日本刀で武装している。
それだけではない、紋様のようなものの横に皆桜の代紋を並べて着けており、そしてあるものは大きく、あるものは腕章の形で、九頭一尾の龍――九頭龍の刺繍が入っているのが、何故か判った。
かれこれ五〇人は、そんな存在が出て来ただろうか。
再び鈴の音がしたと思うと、一際鮮やかな九頭龍の刺繍が施された衣装に身を包んだ青少年九人に囲まれ、純白の狩衣を纏った四人の青年が現れた。
一人は、緋色の飾り紐を着けた少し長めの黒髪の青年。
一人は、紺色の飾り紐を着けた癖の強い髪の青年。
一人は、黒い飾り紐を着けた硬骨漢であろう大柄な青年。
そして彼ら三人に守られている、深紫の飾り紐を着けた人物の顔に、高明は言葉を失った。
「ひろ、みつ?」
純白の絹地に絹糸と銀糸で九頭龍と龍鱗紋を施した狩衣を纏っていたのは、かれこれ五年音信不通だった弟の顔を持つもの、だった。
雨が続くお昼時、降谷零はとある駅前のコーヒーショップのカウンター席にいた。
部下に命じていた、吉野景光の身辺調査に関する報告を受ける為だ。
本来なら、何より組織の工作員を疑うべきなのだろうが、降谷にはどうしても吉野景光を組織の人間と思う事が出来なかった。
長患いの痕のある身体に、もしやと言う思いを捨てられないのだ。
もしや、彼は一命を取り留めた『諸伏景光』なのではないか、と。
調査対象である吉野の写真を見た時、年上の部下が僅かに動揺したのに気付いた。
聞けば、初めて新人指導を担当した後輩に瓜二つだと答えた。
「ヒロ、いや諸伏の教育を受け持ったのは風見だったのか」
「諸伏をご存じで? ……ああ、そう言えば同じ組織に潜入……」
「警察学校の同期で、小学生からの幼馴染みだ、あいつは」
一瞬黙った部下に、昔から知っている相手であると明かす。
風見裕也曰く、言葉少なく表情もあまり動かない諸伏景光は、その実同時期に配属された人材の中でも一番勤勉で、そして一番まめに走り回っていたらしい。
警察学校卒業と共に公安に配属された事に、天狗になり指導者の言葉に反発する者も何人か出る。そんな中成績上位者で、こと射撃技能に置いてオリンピック競技に向けて特別訓練をと言う話が出た事もある諸伏と言う男は、ひたすらに指導を仰ぎ技量を磨き結果として新人内で一番の即戦力と見做され、そして潜入捜査に投入されたと。
「吉野景光の勤務先と在籍証明が出ました。
元々は警察学校希望だったのを取り下げ、こちらに入社したとの話ですが、ただ、此処を警備保障会社と称していいものか」
「どう言う事だ?」
年上の部下は、報告内容をかなり悩んでいるらしい。
「
「そんな会社なのか? だが余り耳にしたことは」
「降谷さんがご存じないのは当然です。葛葉と言う会社は、」
『貴方方が人の
日常から逸脱するのは、犯罪者のみで結構』
不意の声に、思わず飛び退りそうになりつつ、何とか耐える。
何時の間にか、降谷の前に隈取りを施した子狐が一匹、ひたと彼の目を見て座っている。
しかも、周囲の人間はこの狐が見えていない様子で、こちらを見る人間も気にする様子も無い。
『黒の組織などと言うものと、我ら葛の葉は関わり御座いません。寧ろ、あの連中はこちらが相手取っている組織に、色々武器やら薬物やらを流している相手、我々としてもさっさと解体して頂きたいのですよ。
当然ながら、吉野景光は黒の組織などと言うものの手先などではありません。完治すれば、こちらに復帰して頂きたいと思っていますよ』
そう言い放って、小狐はすっと姿を消した。
「降谷さん?」
「いや、良い。ご苦労だった。後は書類に目を通しておく」
「はい」
どうやら、風見はあの狐に気付かなかったらしい。
『葛葉保障』と言う会社がどんなものかは、報告書を読んで考えねばならないが、第三者から「吉野景光は組織と関係ない」と言われた事に、降谷は無意識のうちに胸を撫で下ろしていた。
部下が店を出て行くのを見送り、降谷零は自身のスマホを仕舞い外に向かう。これから『バーボン』として、組織に戻らねばならなかった。
店を出て、部下と逆の方向へと歩み去るのを、観葉植物の陰から見ていた人影がある。
少し厳つい、こういう場所に似つかわしくない風貌の男は、大島こと伊達航である。
かつての同期の主席が、自分に気付かず出て行った事に些か複雑に思いつつ、大島は椅子に座り直す。
彼の手元には、先程降谷に話し掛けた管狐――大島専属のこんのすけ、『蘇芳』が尻尾を振っている。
『降谷殿は納得して頂けましたでしょうか?』
「まあ、完全に信用するって事は無いだろう。俺達みたいに、問答無用でオカルトと科学のど真ん中に投げ込まれた訳では無いからな。
だが、吉野の話し振りじゃ、とばっちりでオカルト体験はしたみたいだから、頭っから否定もしないだろう」
『では、今回の話は失敗で?』
しゅんっと、項垂れる自分付きのこんのすけの頭を、周囲に判らないように撫でてやる。
「そうでもない。
今回は、奴が追っている組織と吉野は無関係って話をして、あいつに掛かるストレスを減らすのが目的だったからな。その為だけに、二二〇〇年代の『葛の葉』から二〇〇〇年代の『葛の葉』に渡りを付けて貰って、そこの構成員と言う記録を作って貰ったからな」
そう言うと、大島も懐にこんのすけを隠したまま職場――現在の彼は、本庁捜査一課一係の新人刑事だった――へと戻って行った。
大通りの方が騒々しい分、裏手の細い路地は静か――と言う訳でもなかった。
怪盗KIDと警察の騒ぎに紛れ、事を起こそうと言う女が一人。
「ここで、ここで一発事件が起これば、警察の面目は丸潰れ、あの人が捕まる未来も無くなる……」
目に異様な光を宿し、カタカタと震えつつ女は大通りに設置されてる爆弾を炸裂させようと、スマホを取り出した。
だが、そんな女の真後ろ、それこそ耳元で声がした。
「残念だけど、爆弾は解体撤去させて貰ったよん」
はっと振り向くと、肩に顎を乗せるような体制で一人の男が立っている。顔を隠すミラーグラスの、少し長めのさらっとした黒髪の男は、にっと人好きのする笑みを浮かべた。
ばっと距離を取った女に対し、男の方は背を伸ばしからりと笑い掛ける。
「そう言う訳だから、このまま大人しく有るべき
かつかつと歩く男――小松乙女は、これはくっと表情を引き締め告げる。
「あんたの恋人はテロリストだった。今回あんたが使った爆弾で、もっと多くの人を殺そうとしていた愉快犯だ。だから逮捕された。
悪い事したら、お巡りさんに捕まるのは当然でしょ?」
「うるさい! 私の邪魔するなら!」
そう言うと、女は何やらスマホをいじり出す。
不穏を感じ、咄嗟に『右目』で見た小松乙女は、己の武器である封魔筒の栓を外した。
「風精『
筒から飛び出した、緑色に光る鳥が女の手首にぶつかり、その手からスマホが飛んだ。
一メートルの高さから落ちたスマホは画面に亀裂が走り、その亀裂から……刃物が生えた。
「え?」
「逃げろ‼」
女に向かって、小松が叫ぶ。
刃物は、亀裂から二本、三本と増え、そして物理的にあり得ない事に、そこから二メートルはありそうな大男が這い出してきた。
それも、一体のみならず、二体、三体と緑色に光る大男が、抜き身の刃物を持ってスマホから這い出てくるのを目にして、精神的に脆かった女は、霊切る悲鳴と共に人のいる方へと走り出した。
「あー……。いや、逃げろって言ったけど。まあいいか、
「了解であります!」
ぽんと、軽い音を立てて小松の肩に現れた管狐――本来は時の政府が審神者に付けているこんのすけと呼ばれる個体だが、代紋本丸のこんのすけは九頭龍の霊力を分散させる意味で数頭配されており、個々に名前を付けられている。ついでに、九頭龍の霊力に晒された結果、色々カスタマイズが進んでいる。
薺は、小松乙女専任の結界特化のこんのすけだ。
コーンと、長く響く声で管狐が鳴くと同時に、光害で霞んでいた夜空がそのまま白い天蓋と化し、同時に外で続いている筈の怪盗キッドと警察の捕り物を始めとする全ての音が止まった。
「よし、それじゃあ、お仕事始めちゃいましょうかね!」
壊れたスマホに仕込まれていた呪式で、現世に顕現したのは穢太刀三振りと穢大太刀二振り、穢短刀が一振り。皆丙なのは恐らく事態を起こした女を殺し、そのついでに虐殺が出来れば良いと言う事か。
すうっと息を吸って、小松乙女は己の率いる抜刀隊を呼び出す。
「
汝ら『斬るもの』、『分かつもの』、『削ぐもの』、『抉るもの』、『断ち落とすもの』、『薙ぎ払うもの』、主が怨敵を屠る事を務めとし、意義とするもの、汝ら刀剣男士也!」
次の瞬間、小松乙女の周囲に二振りの打刀、一振りの鍛刀と脇差に太刀、そして大太刀が突き立つ。
「汝らが主、染井吉野に仇成し、害成し、脅かすものを『斬れ』、蜂須賀虎徹、『分かて』、同田貫正国!」
「「おう!」」
打刀二振りが、戦装束を纏った美丈夫と偉丈夫に変わって走り出す。
「九頭龍の神威に逆らうものを、『削げ』、愛染国俊、『抉れ』、浦島虎徹!」
「おうよ!」
「行くぞー!」
小松乙女に向かって突っ込んでくる敵短刀を赤毛の少年が迎え討ち、先を走る青年達を追って、高校生くらいにも中学生にも見える金髪の少年が走る。
「人の世の理を、二千年に渡り積み上げた人の営みを我欲を持って砕き、踏み躙り、灰燼に帰さんとするものを、『断ち落とせ』、鶴丸国永、『薙ぎ払え』、次郎太刀!」
「待ちかねたぜ!」
「はいはーい、あたしに任せておきな!」
太刀を純白の影が、大太刀を華やかな装束を纏った美丈夫が掴み、敵の大太刀へと襲い掛かった。
それを見ながら、小松乙女は周囲に目を配る。
『今日、この日警察と怪盗キッドの盛大な追いかけっこがあった。』
それ以外の事件を、起こさせない為に。
梅雨も終わりの、ある晴れた日の事。
安室透こと降谷零の機嫌は、天気の真逆で傾いでいた。
トリプルフェイスを使い熟す公安のエースであり、役柄とはいえ接客業に就いている事もあり、『それ』を顔には出していないが。
降谷の視線の先で、友人だと言うAPP18超えの美男子――クトゥルフの邪神様と言われた方がスッキリするような男が四人、吉野景光を捕まえ話し込んでいる。
本日は、榎本梓が午後遅いシフトの為、店内の従業員は奥で休憩しているマスターを除けば、降谷と吉野の二人だけだ。
時間はランチタイムを過ぎ、客も彼らくらいしかいないし、追加注文を入れてくれているのでコーヒー一杯で粘られている訳でもないから、店的には文句を言う立場ではない。その筈なのだ。
だが、このムカつきに降谷零は覚えがあった。
幼馴染みが、『スコッチ』と言う名前持ちとして潜入捜査官をして居た時、彼に情報収集とハニトラ――要するに男相手のあれそれだ――を命じられた事がある。
バックアップの為同行した自分の目の前で、幼馴染みは一見可もなく不可もなく任務を果たしたが、セーフハウスに戻った際には心労で一晩寝込んでいた。翌日には取り繕い、不調を見せなかったのは我が友ながら立派だったが。
寝込んだ理由は簡単で、実は人見知りの気がある彼には、不特定多数の人間にベタベタ触られたり触る事はかなりの負担だったのだ。
ある程度面識があるか、初対面でもきちんと線引きしてくれる人間相手で、……自分が側にいれば打ち解けるのに時間は掛からない――同期の三人とは、そうやって友人関係を築いたのだ――が、いきなりボディタッチするような輩は、幼馴染みにはストレスでしかない。
あの時とほぼ同じようなシチュエーションで、吉野景光は手を掴んで離さない三条と言う男――その横の
その顔が、標的以外の人間に言い寄られるのを必死に躱してた幼馴染みに、余りに似ているのだ。
「だから、今バイト中で、」
「良いではないか、客など我らしか居らぬではないか」
「おい、宗近、止めろ」
「そうだよ、黄桜は体力ないから座って休めば良い。お前もそう思うよね、唐揚げ丸」
「俺は吉常です、兄者」
一瞬合った目が、あの日あの時の幼馴染みとしか思えなくて。
取り敢えず引き離してバックヤードに匿おう、そう思い降谷がカウンターを離れようとした、その時だ。
カランっと、ドアベルが鳴ったと思うと、スルッと小動物のような身のこなしで入って来た小柄な青年――マスクで顔半分判り難いが、こいつもAPPが高い事は間違いない。――が、つかつかとやって来たと思うと肩に掛けた大きなバッグから張り扇を取り出し。
スパーン‼
「おうっ」
スパーン‼
「あたっ」
スパーン‼
「んなっ?」
三条と源兄弟を、派手な音を立ててしばいた。言いたくはないが超絶美形の顔面を、それはもう容赦なく素晴らしい音を立ててぶっ叩いた。
それはもう、爽快なくらいに。
「あーあ、やったか」
「あーもう、もう午後の講義始まるぞ、四人とも」
「やはりここだったか。何時までも帰ってこないと思えば」
こちらが驚いている間に、新たに三人の来客、金髪の今時の学生――片方はちょっとヤンキーが入ってて、もう一人はロックシンガーっぽい――らしいのが二人に、確実に何かの武道を遣っていそうな強面――でもAPPは多分13オーバー――が、揃って呆れたと言いたげに四人を見る。
ポカンと、成り行きを見るしかない降谷の前で、源弟――源吉常が口を尖らせる。
「何で俺まで……光世は殴られなかったのに」
「光世は止めようとしてた、お前は何もしてない。叩かれて当然」
フッと鼻で嗤う、張り扇の持ち主の向こう側で、ロックシンガーっぽいのが四人が来てからテーブルに突っ伏した光世の肩を労るように叩く。
「お疲れ、兄貴」
「……次からは、絶対この三人と一緒は御免被る」
「あー、源弟が思った以上にポンコツだったしな」
この間に強面と金髪の片方が、吉野をカウンターの方に連れて来て降谷に向かって頭を下げた。
「お騒がせして申し訳無い」
古風な言い回しで強面が言う横で、金髪の方が吉野に笑い掛ける。
「バイトの邪魔して御免な、悪気はないんだ、吉野が病み上がりなの気にしててさ。だからやらかしたんだろうし」
「うん、判ってる。でも止めてと言ったら止めて欲しかったなあ、……安室さんの見てるとこだし」
「ああうん、バイト先の先輩がガン見してるとこでサボり奨められちゃ困るよな!」
ふうと溜め息を吐いた吉野のぼやきに、慌てた様子で金髪が答える。
が、ピリッとマスクの男が反応し、同時に後から来た面子と光世が蒼褪めた。
「止めてと言ったのに止めなかった?
……三条、源兄弟、今晩は甥っ子達と夜間演習三連。陸奥と大島さんには言っておくから」
「あなや!?」
「ありゃりゃ」
「Σ(゚◇゚;)」
そして、マスクの青年は三条宗近と源兄――確か切友と言ったか――を両肩に担ぎ上げ、そのままノシノシと歩いて店から出て行った。
その背中を、慌てて源弟が追い、その後ろを更に光世と金髪ロッカーが張り扇を持って追い掛ける。
「……友人が本当に失礼を、自分は本多村正、こちらは
「はあ……源?」
聞いたような姓だと降谷が眉を潜めると、金髪の小柄な青年は苦笑いを浮かべた。
「あー……、俺、切友と吉常の又従兄弟に当たるんで」
「そうなんですか」
「ええ、普段はもう少し腕っぷしに自信のある奴らに切友と三条の面倒見させてるんだけど、今回予定が合わなかったもんだからあいつら野放しにしちまって。
本当にすみませんでした」
そして四人の飲食代を払って、残りの二人も帰っていった。
扉の向こうに友人が消えたのを見届け、吉野景光はバイトの先輩に頭を下げた。
「今日は、本当にすみませんでした」
「いや、君が悪い訳じゃないよ。さ、遅くなったが奥で休憩を取っておいで」
「はい、お先に」
吉野が奥にひっこんで程無く、江戸川コナン、灰原哀と少年探偵団の面子が押し掛けてきた。
「安室の兄ちゃん、こんにちわ‼」
「コンチャー‼」
「「こんにちわー」」
「……どうも」
「はい、こんにちわ」
賑やかに入って来た子供達に、お冷やを運んで来た降谷は、子供達の言葉に眉を潜めた。
「あー、やっと着いたね」
「何だったんでしょうねえ、さっきの」
「ここに行く道、何で見付からなかったんだろうな!」
「見付からない? どうしたんだい?」
不穏を感じ、眼鏡の少年――江戸川コナンに問うと、少年も本気で不可解に思っている様子で口を開いた。
「うん、僕達さっき、十五分ほどポアロまでの道が判らなかったんだ」
「え?」
コナン曰く、慣れた道――コナンにすれば現在下宿中の(幼馴染みの)家への道でもある――を歩いていた筈なのに、曲がり角で何度もどちらに曲がれば良いのか、五人が五人とも判らなくなったのだと言う。
(どう言うことだ? まさか薬品!?)
子供達の話に、そんな事を考えていた降谷は、だからバックヤードの入り口で心底困った顔で額を押さえている吉野と、彼の肩に乗って不機嫌そうに尻尾を振っている隈取り入りの小狐に気付かなかった。
降谷零は夢を見た。
何処かのバーの一角で、『バーボン』として、『ライ』と共にもう一人を待っている。
ああ、昔の夢か。
別経路で先に潜入し、狙撃手としてネームドに成り上がった幼馴染み。
総合成績は上位十位以内と言うところだったが、遠距離射撃実技だけは三対二の確率で自分に勝っていた彼。
今の自分は、そんな彼と
ふと気が付くと、自分達のテーブルの横に奇妙な人影があった。だが
顔を上げて目に入ったのは、鮮やかな蒼の着物と甲冑、そして黄金作りの太刀。そしてその顔は、昼間に吉野景光の手を掴み、彼を困らせていた三条宗近と言う男の顔だ。
……但し、その瞳の中に、まるで三日月のような紋様が浮かんでいる。その事に気付いた瞬間、一気に背筋が凍った。
コイツハニンゲンジャナイ‼
男は己にニタリと嗤い掛け、何事かを言おうとした。
その次の瞬間、後ろから延びた手に目を隠され、『スコッチ』、否幼馴染みの声が男の声を打ち消した。
『ゼロ、此処には何もいない、誰もいない。
だから何も聞かなくて良いんだ』
そして手を離し、『スコッチ』の顔で「よっ」と挨拶した。
先程まで聞こえなかった、店内の騒々しさと周囲の話し声も戻り、自分達は店を出るべく立ち上がる。
視界の端で、ぼろ雑巾のようにされて子供三人に引きずられる青いものが見えた気もするが、夢はそこで終わってしまった。
こんな事、一度もなかった筈なのに。
江戸彼岸 松田陣平
探偵・警察官(自衛官)・デビルアームズ
大島 伊達航
番長・探偵・修験者
小松乙女 萩原研二
警察官(自衛官)・技術者(医者)・式神使い
原作内で各々爆死、事故死、爆死した。が、諸伏景光を自分達に都合良く使うために人質にする事を狙った――兄である諸伏高明、幼馴染みである降谷零は生存しており、ホワイト陣営に気取られないようにする為手が出せなかった――ブラック陣営に寄って二百年未来に拉致られ蘇生される。
痩せ細り、拷問を受けたかつての同期の姿に三人とも憤激し、又諸伏を怪物呼ばわりする下衆の物言いに、警官としての正義感も小削ぎあげられる事になり、手近にあったお札だらけの刀剣を鈍器代わりに大暴れした。又、暴走し掛けた九頭竜の力を分割し押さえ込むため、自らの意思で眷属となる。
自分達が死んだ事、元の時代には帰れないことは理解しており、だからこそワンチャンある諸伏景光を降谷零の元に帰してやりたいと思っている。
例の大捕物の際、ブラック陣営の銃弾で萩原は右目、松田は右手、伊達は左足を負傷し、各々九頭竜の血を受け再生された。結果、眷属としての姿になると、萩原は右目が金眼、松田と伊達は血を受けた手足に九頭竜の鱗が生じる。
特命のため元の世界に戻るに辺り、各々小松研二 、桜田陣平、大島航として戸籍を作り、警察学校に入り警官になる。『時の政府』には、スムーズな情報収集と情報撹乱の為と称しているが、本命は諸伏景光の復帰後の立場造りである。最終的に内調の特案班へと移動になる。
尚、『奥』の玄関をゲートに連動させ、米花町にある家の玄関に繋いである為、本丸の事もちゃんと回している。刀剣男士達は本殿側の特設ゲート(米花町のとある独身者用アパートの出入り口その他に繋がっている)を利用している。
ボロボロの景光の姿を見てきた事、自分達以外に知己も身内も居ないことが合間って、過保護モンペと周囲に見なされているが、「それがどうした」「だったらどうした」「それが何」と開き直っている。