※この作品はR-18です。

九頭龍は桜の代紋を背負っている   作:怪傑忍者猫

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日常への帰還  (登場人物紹介兼小話、第三三話迄)

 掃討戦から一週間。

 長閑な春の日差しの下、駐車場に愛車を留めて降谷零は歩いていた。

 

**

 

 正直、生きて帰った以上は事後処理の書類地獄を覚悟していた。

 だが、ICPOから参加していた松本蓮捜査官が中心になって七割近くの書類を捌いてしまって、三日後に帰って行った。

 滝から、『ICPOでも有名な事務の名人』とは聞いていたが、此処までとは思っていなかった降谷が居る。話によると、過去二回程とある事情で降格したものの、すぐにその事務処理能力で元の階級より上に昇格していたような人物だそうだ。

 帰還後、上司の一部に鬱というかノイローゼの症状を訴える人間が居たらしいが、風見他部下達から、

 

「書類の山にうんざりされたそうですよ。普段は部下の皆さんが片付けてたのが、人手不足で直接ご自分に来たそうなので」

 

と、ばっさり切り捨てられてしまった。

 首が嫌なら降谷__自分に余計なちょっかいを掛けるなと、FBIとICPOから圧を掛けられたんだと教えてくれたのは、別部署にも関わらず書類整理を手伝ってくれた新條強警部だった。

 

「実は、俺も後から知ったんだが。カズの奴が長期の潜入捜査から帰った後、三年ばかり消息不明になっててな、てっきりすぐ新しい任務に入ってたんだろうと思ってたんだが。

 実際はFBIの駄目上層部とCIAと軍部の戦争大好き祖国狂信者に吊るされ掛けて、死刑寸前まで行った所為だったそうでなあ。

 後から事態知った松本さんがブチ切れそうになったし、お袋が号泣したんで兄貴がアメリカで色々やって裁判沙汰になったそいつら全員刑務所に送り込むしで、結構大変だったんだよ」

 

 書類整理の片手間にそうさらっと語られ、面食らった降谷が居る。

 

新條強  捜査官(自衛官)、探偵、民俗学者

 負傷を理由に捜査課から生活安全課に移っていた、警察一家の次男坊(四八歳)。

 現在警視庁から警察庁の『特殊案件調査班』に出向しているが、実は内閣調査室国内部長とは元学友で、今でも酒を飲む仲。今後はこのまま、内調の出先機関を兼ねる『特殊案件捜査課』の課長補佐として残る予定。

 おそらく無理を繰り返すだろう、課長とゼロの切り札の監視とブレーキを務める予定。

 母方の義叔父である松本蓮には、大学進学や就職の際に助言を貰っていた。

 実は最近、とある女性とお付き合いしている。

 

**

 

「いや、頼ってくれるのは嬉しいんですけど、俺監察医! こう言うのはきちんとした病院受診してくださいって!」

 

 掃討戦終結後、降谷が治療もそこそこに仕事に出ようとした為に、協力者に登録していた九条貴利矢が呼び出された。

 夜勤明けで寝ていたものの、緊急電話で叩き起こされた形になった貴利矢は半泣きで、それでも基本的な検診を行ってくれた。

 

「全く、一応簡易検診ですから、絶対、ぜっっタイ、総合病院でのきちんとした診察受けてくださいよ! 先輩そうじゃなくても、これまでどんだけ病院行かずに素人手当で済ましてきたんですか、この傷、自分で縫ったとか言いませんよね!?」

 

 いびつな縫い目の縫合痕にぷりぷり怒っている後輩に、降谷は頭を低くするしかなかった。

 

九条貴利矢  ドクター、探偵

 大学生時代に友人関係になった監察医。一度縁が切れたが、最近たまたま潜入捜査中に倒れていた降谷を保護した事から友誼を復活、また九条自身が殉職警官について疑念を感じ調べていた事から命を狙われ、協力者として保護された。因みに、彼を狙っていたのは未来政府側だったが、『葛の葉』に撃退されている。

 以後、大学病院のコネなどから降谷に協力している。

 恐らく、これからもこの関係は継続の予定。

 

**

 

 その頃。

 百舌鳥は久し振りに会った兄を前に、平身低頭している状態である。

 

「あのね、和海(かずみ)。兄ちゃん別に怒ってないから」

「だってえ」

 

 兄は、彼の家では所謂『能力無し』とみなされ、過去の栄光に縋りがちな年寄りに見下されていた。能力の高い自分と姉――双子で自身と互角の能力者である――が守ってきていたものの、仕事に忙殺されている間に爺ィ共に売り飛ばされる形で、瑕本丸に放り込まれたのだ。

 しかも、今回で二度目である。

 爺ィ共の粛清を姉に任せ、慌てて迎えに行くと意外にも瑕本丸は普通の本丸にしか見えず、出迎えた刀剣男士達も皆ごく普通の、当たり前の存在に見えた。

 

「本当だよ、今回は黒本丸じゃなかったしね?」

「え?」

 

 兄の言葉にきょとんとなる。

 自分の手元に来ていた書類では、過去に何人か審神者を殺している、最悪の本丸だった筈だ。

 

「何でも、俺が来る直前に、そこに問題を起こしていた存在を掃討した人が居たそうだよ。残念な事に、俺が来た時にはその人はもう元凶を追って出て行ってしまってたそうだから、俺は会えなかったけどね。大丈夫、皆さん正気だったし、その人に感謝してるから、俺にも好意的だったよ」

 

 兄の言葉にホッとしつつ、そのまま審神者に就任まではともかく、そのまま管理部の書類整理を手伝っていると聞いて、ひっくり返った彼が居る。

 

百舌鳥  ハッカー、自衛官(捜査官)、サイコメトラー

 本名木場和海。内閣府時空管理局監査部強硬制圧班班長、及び代紋本丸(出雲国い百十番本丸)担当役人。そして当代の『葛の葉』当主。

 今回の事で、ある意味大きくババを引いた人物。政府も、そして自分自身も『過去に干渉する』と言う事がどれだけリスキーなのかを痛感した。

 誤解しないで欲しい。本当に優秀ではあるのだ、只先祖が怪物だっただけで。

 

**

 

 内閣調査室から警察庁への働きかけで、『特殊案件調査班』は四月から『特殊案件捜査課』へと格上げされる。内調側の特殊案件課の、警察側の窓口を兼ねる事になる。

 尤も、内容が内容なので配属されるのはごく数名、そして課長になるのは警部から警視に昇格して警察庁へ移動する事になった、諸伏景光である。

 

「結局、警察に帰しちゃうんだ、当代様」

「ご当人がそれを希望されたからなあ。とは言え、こちらとしても完全にこちらとの接点を無くすのはどうかと思うし、こっちも以前から要望出してた部署がやっと発足するから、そこに収まって貰う事にしたんだ。どっちにしても『ポアロ』のバイトと言う名目で、あっちの結界中心に居なきゃならんし、月半分出てきて書類を裁いて貰う事になりそうだな」

「国家公務員って、バイト駄目なんじゃ?」

「これは公務で神事だから、文句は言わせんよ。尤も文句言う奴が居たら、須らく御先代が祟るだろうよ」

 

 オフィスに顔を出した幼馴染みのサマナー兼ハッカーの問いに、木場恭介は軽く肩を竦めて答える。

 

「本当なら、つよさんに課長をやらせたかったんだけど、あの馬鹿準キャリアならまだしも完全にノンキャリア枠に収まってるから、階級上げるのが面倒で」

「あー。『交番勤務希望』だったってえのに、うっかり指名手配犯捕まえて、当時の鬼警部に気に入られて引き上げられたってか。でっかいやらかしだねえ」

「まあ、あの『覇王』の血筋なのに平凡を愛してるのは、多分母方の血なのかもな。滝警視は警察庁でも指折りの穏健派だったって有名だし、目立つより目の前の業務って性分だったそうだし」

「それが一転して新條派に着いたのは、後見人になった虐待されてた青年の為ってところは、立派なお巡りさんだよねえ」

「まあ、その温和な滝警視の実子が、今を持って闇の全勢力を震撼させる『恐怖の夫婦《歩く時空振動弾》』の亭主だって言うのが信じられないんだがな」

「あー」

 

 かれこれ三〇数年、ありとあらゆる闇の勢力が討伐、捕獲を狙う『神殺しの巨漢』と『科学の魔女』の『恐怖の夫婦』と呼ばれている存在が居る。

 この二人が日本人である事は、極一部でしか知られていない。……高笑いしつつ、召喚されたクトゥルフを召喚門の向こうにワンパンで送り返すような人間を、人類だと思いたくない闇勢力の人間が意外に多いだけの話であるが。

 

「そう言えば、未来で言うところの『本来の歴史』と何処が一番変わったんだ?」

「そりゃ、本来降谷零とすれ違って終わる筈だった滝和也、新條強の両名が関わったお陰で、FBIの一人勝ちになる筈だった合同会議からの掃討戦が日本主導になった事だな。

 つよさんの従兄弟だけあって、表立った言動は破天荒でも、常識と自分の肩書が何処まで外国で受け入れられるかをきちんと理解している当たり、伊達に二〇年以上現役やってないわな」

「ああ、ブラック班は日本を属国だから何やっても良いとでも考えてそうだったものね」

 

木場恭介  ハッカー、忍者、上級捜査官(コマンダー)

 一見二十代、実は高校生の息子がいるアラフィフ。

 内閣調査室国内部部長兼特殊案件課課長兼、退魔組織『葛の葉』現当主。

 今回の事もあり、以前から設立を進めていた警察機構内の出先機関が、正式発足した事にほっとしている。

 葛の葉を掌握する前、一族郎党が滅びかねない大魔術戦争を経験しており、幼馴染のハッカー兼召喚師はその頃からの戦友である。

 近々、ここ一〇年程音信不通だった妹から、特大の爆弾を投げ込まれる予定。

 

**

 

 掃討戦終結三日後、あれこれ礼を言おうと滝の自宅を訪れた降谷を迎えたのは、家じゅうにあふれんばかりの大猫の集団だった。

 最低でも一.二メートル、最大は二.八メートルあるのではと言う大猫が二〇匹、大型犬用のエサ皿に頭を突っ込んでいる。

 

「こら、ワーシカ、お前は食べ終わっただろう? カーシャの分取っちゃ駄目だって。マルシク、ノルヴィス待たせてごめんな」

 

 肩に猫二匹、足元には三匹猫が纏わり付く状態で、両手にエサ皿を持った滝が猫達に接待している。皿の中身は、ささみや白身魚、カボチャやイモなど猫が食べられるものを蒸して作った、滝お手製の猫飯のようだ。

 

「あ、あの」

「よう、怪我、大した事なかったって? タフだなあ、お前さん」

 

 次々とすり寄る猫達を捌きつつ、滝は居間に降谷を案内した。

 居間のソファーは、食べ終わって寛いでいた猫達が長々と伸びていたが、滝に言われて二人の為に空間を作った。尤も、滝が座った途端、彼の膝にどっしりとヘビー級二匹が鎮座ましましたのだが。

 

「滝さん、それは……」

「ああ、気にすんな。俺は慣れてるし、こいつらも納得したら降りるから」

 

 そう言ってから、滝は降谷に頭を下げた。

 驚く降谷に、頭を掻きつつ滝はこう続ける。

 

「すまねえ、ヒロ坊とお前さん、『財団』に登録される事になっちまった」

「は?」

 

 聞けば、元々あの魚面人(インスマス)野郎が、『ハイドラ』としてヒロ、諸伏景光を登録申請出していた為に審査が入っていたのだそうだ。で、この間の掃討戦中の騒動で、景光と共に降谷零にも――ペルソナ能力が、向こうさんの目に留まったらしい――審査が入る事になったらしい。

 

「一応、こっちからも調書は出しておいたから、いきなり拘束だの何だのと言う事にはならんし、ヒロ坊をどうこうとなったら『葛の葉』との全面戦争になりかねないから、それはないと思うんだが」

「はあ」

 

 話している二人の向こう側で、何時の間にか滝の上着のポケットから出て来た生後三か月くらいの子猫達がころころと転げ回っていた。

 

滝和也  捜査官(自衛官)、ガンスリンガー、探偵

 米国連邦捜査局(FBI)異常事件課所属、及び財団特別渉外部担当職員。過去のあれやこれやで、ICPOにもかなりのコネ、伝手を持っており、また世界中に協力者や顔見知り、友人が居る人望の鬼。真正の人誑し、怪異誑しと一部に知られており、財団の口の悪い者からは『未登録ケテルクラス』と囁かれている。(尤も、言った奴は偉い目にあっているが)

(例の宝石に一切左右されない為、滝さんはサルことブライト博士の天敵である)

 

**

 

 降谷零が滝和也に面会している頃、赤井秀一、ジョディ・スターリング、アンドレ・キャメルの三人はアメリカ大使館でFBI人事部長と対面していた。

 人事部長であるマイケル・ソレルは、深々と溜息を吐きつつ、三人に向かってこう告げた。

 

「本部に出頭して反省したかと思えば、全く自分達の問題点に気が付いて無かったとはな。

 何故こんな行動に出たのか、一応申し開きがあるなら言いたまえ。特に赤井捜査官。自分自身が捜査チーム参加を言い出した癖に、チームから抜け出して未成年者略取に迄手を出したとはどういうつもりだったのか、勿論説明してくれるんだろうね」

 

 金髪碧眼の、見るからにエリート然としたソレル部長を前に、滝や大使館駐留チーム責任者には噛み付いて見せたジョディやキャメルが委縮する中、赤井は渋々と言った感じに答える。

 

「ブラック捜査官からの指示だった事と、坊や、いや江戸川コナン君の希望だった事、後、あの作戦には狙撃手が足りないと思いましたので」

「ほう? 再研修時に作戦指揮官の適正不可寄りの可だった人間が、随分と上段から言ってくれるな。

 君は、滝捜査官の指揮下に入る事を前提に合衆国を離れる事を許可されたんだが、その辺りは理解出来て無かったと言う事で構わないのかね? ついでに言うと、ジェイムズ・ブラックは二月二〇日付で捜査官としての全権限を凍結され、拘束されている。

 君達は、FBIに所属する捜査官であって、ジェイムズ・ブラックの私兵ではない筈だが」

「わ、我々は、」

「アンドレ・キャメル捜査官、君は受けるべき研修を受けないまま、しかも出国厳禁とのFBI本部からの指示を無視したのは、ジェイムズ・ブラックからの指示だったからと言う事かね」

「え、あ、」

「実に素晴らしい忠誠だ。だが、君が忠誠を誓うべきはブラック個人ではなく、合衆国市民と正義だと思うのだがね?」

 

 淡々と説かれ、ドイツ系捜査官は黙り込む。

 

「君達は、今夜一〇時の便で合衆国に強制送還になる。三人とも、一年間の強制研修を受けて貰う。

 はっきり言わせて貰おう。君達を免職にしないのは君達への慈悲だ。本来ならブラックと共に免職、および安全保障に関する幾つもの罪状の為、そのまま監獄送りにするという話も出ていた。

 それを止めたのは滝捜査官からの一言があったからだ、君達も捜査官としての矜持があるなら真面目に取り組みたまえ」

「な、何よあの男、万年窓際の癖に偉そうに!」

「……ほう? 証人保護プログラムで守られていた立場にありながら、勝手にシャロン・ヴィンヤードを追い回し挙句に何度も目も当てられないような失敗をしておきながら、先輩捜査官をこき下ろすとは良いご身分だな、スターリング捜査官。君も、赤井秀一も、あの組織の被害者である以上、本来この件に関わる事は厳禁の立場だと判っていないようだね」

「え?」

「犯罪被害者が、加害者に関われば過剰暴行に走る傾向が多々見られ、君達も事前のカウンセリングでアウト判定が出ていた。……ブラック元捜査官は、そんな君達の妄執が利用出来ると判断して自分の捜査チームに君達を取り込んだのだろう。それで成果を出せばどうとでもなる、一度死刑判決を受けながら復職した滝捜査官のように、あわよくば何処かの役職に就けるとでも思っていたんだろう。

 冗談じゃない。滝は自分一人で全て成果を出した上で、今の立場にいるんだがな。

 現実問題として、君達は失敗続き、しかも国際問題を幾つも起こしておきながら全く報告もしなければ、尻拭いを在日駐在チームに押し付けていたと言うじゃないか。

 ああ、言っておくが大使館駐在チームの仕事は大使と大使館勤務職員の警護、および日本国内で事件に巻き込まれた合衆国市民の警護と捜査がメインで、けっして報告も申し入れも連携も取れないような鉄砲玉の後始末じゃあないんだ」

 

 吐き出すようにそう言うと、典型的な白人男性は戸惑いつつそれでも自身は関係ないとばかりに立つ複雑な生まれの男を見た。

 

「そして、一番滝に救われたのは君なんだがね、赤井捜査官」

「……どう言う、意味でしょうか」

「二月に本部へ招聘された際、君はどうやって帰ってきた? 焼き焦がした身代わりの遺体まで用意して、合衆国に死亡報告が入っていた君が、『赤井秀一』として入出国出来た事に疑問は無かったのかね?」

「それは、ジェイムズが」

 

 赤井の言葉に、ソレル人事部長は思いっきり有り得ないとばかりに肩を竦め、息を吐いた。

 よくもまあ、ここまで盲目的に慕わせたものだと思いつつ、三十路に入りながら子供のようなこの男の精神状態が本気で心配になってくる。

 が、同時にだからこそ、この男達を放り出して社会から叩き潰される事を、良しとしなかった元相棒の人の良さにも頭が痛くなったのだが。

 

「何もかも未報告、もしくは事後報告で済ましていた君達の元上司が、死んだ赤井秀一が移動する為の手段を講じていたと思っているのかね? 君の生存が判った時点で、滝が手を回して復籍その他の法的手段を講じていたから、君は成田の税関でもケネディ空港の税関でもスムーズに通過出来たんだ。

 あのままなら、死んだFBI捜査官のパスポートを使う身元不明の人間として、拘束されていてもおかしくなかったんだがな。

 勿論、君として埋葬された遺体も掘り出して、日本に返す為の処理を行っている。本来なら君達がやらねばならない事だったんだがね、『押し付けられたと言えども仕事なら、きちんと片付けるのが筋だろう』と滝捜査官が全て処理したんだ」

「っ」

「それから、色々誤解が深いようだが、滝捜査官は昇進出来ないのではなく、FBIと『財団』との折衝の関係で部署の移動が出来ないんだよ。

 それに、これは人事の都合だが、彼には各州におけるFBI支部の監査を手伝って貰っているんだ。彼の監査で、過去に三人ほど支部長と次官補が首を斬られたんだが、聞いていないかい?」

 

 お偉いさんからの種明かしに、真っ青になっている女性捜査官とやっと中堅になったドイツ系捜査官の横で、何とも言えない表情のまま『銀の弾丸(SilverBullet)』と呼ばれていた男は立ち尽くしていた。

 

沖矢昴改め赤井秀一  ガンスリンガー、気功拳士

 FBI捜査官。組織からは『銀の弾丸(SilverBullet)』と呼ばれ、その能力を恐れられていた。

 但し、その実態は潜伏とか、隠密とか言う、潜入捜査官としての素養はかなり低い。(年末年始のサンデー本紙ェ……)

 父の死を追う為に組織潜入を希望したが、事前審査その他ではねられていたのをジェイムズ・ブラックに拾われる形で任務に就き、それ故にブラックへの信頼が強かった。

 今回の失態により、内勤と狙撃隊どちらかのみに未来が絞られる事になる。なお、二月の接触後に滝が処理を行っていたので、ダゴン教団の騒ぎの後『赤井秀一』として入出国をしているが、本人は全く判っていなかった(ジェイムズ・ブラックが何とかしたとしか思っていなかった模様)。

 

**

 

 因みに、工藤新一こと江戸川コナンは、迎えに来た毛利蘭に号泣され、毛利小五郎に盛大に拳骨を落とされた。

 連絡を受けて飛んできた江戸川文代が平謝りしているところを、警官達が目撃していた。

 尤も、見ていた警官曰く、彼の少年に反省の色は殆ど見られなかったようだが。

 

江戸川コナン改め工藤新一  探偵、民俗学者

 『神様』の前で色々謀り続けた事から、運気が下がり未来政府の想定した『本来』の立ち位置からずり落ちた少年。しかもそれを未来政府は、一切予想していなかったという大失態。現代の葛の葉の方は、もしかするとと思っていたが、色々行動が鼻についたこともあり――一番はもちろん、FBIと称するテロリストを闊歩させた事――、静観するに留めていた。

 シャーロック・ホームズを尊敬する割には、その正義感はかなり独りよがりで、自身の違法行為は『探偵だから』と全肯定だが、他人が自分を怪しんだり、隠し事をする事に関しては全力で否定し暴きに掛かる事を公安のみならず、『葛の葉』こと内調と代紋本丸全体から駄目出しされている。

 今回の事、および吉野景光の正体について、彼に真実が掴める日は永遠に来ない。

 

**

 

 降谷零が事後処理に追われる中、『代紋本丸』の方も今回の防衛戦に関して色々後処理に追われていた。

 何しろ、未来政府の高官が過去に介入していたという事実と、更に時空管理局のお偉いである陰陽寮のお歴々が過去の『葛の葉』を抑え込もうとして殴り返され歴史修正を食らったりで、色々混乱しているのだ。

 また、作戦中に持ち場を離れた『染井吉野』こと諸伏景光に関しては、元凶が高官であったRUMこと『空須磨』の謀略の方を言い立てた二〇〇〇年代の『葛の葉』からの圧に圧し負けた――『お前らの生殺与奪はこっちが握ってんだがな?』と当主に凄まれ、尻尾撒いて逃げた未来政府の工作員が居たとか何とか――結果、これと言ったお咎めは無かった。作戦自体も、指揮官は動いたが他はほぼ滞りなく動いた結果無事作戦終了となった為、作戦完了と報告されたのだ。

 

「あえて言うと、こっちの想定より遡行軍が少なかった気がするんだよなあ」

「そだね。もっとこう、四方八方から攻撃される想定だったもんね」

「蓋を開ければ、他本丸の支援があったとは言え、十分俺達で回し切れたからなあ」

 

 本丸の執務室で書類を裁いていた、江戸彼岸こと松田陣平と小松乙女こと萩原研二、大島こと伊達航の三人のぼやきに答えたのは、書類のバックアップを取っていた小松付きの管狐《こんのすけ》である薺《なずな》だ。

 因みに、今日は小松の方が健康診断を理由に休みになっており、出動が掛かる迄書類整理の為に、彼岸の方は管狐に依り代を動かさせて本丸に居る状態だ。大島はと言うと、早出の勤務が終わって戻って来たばかりだ。

 

「ああ、それは丁度同じ時間帯に、二〇〇〇年代の『葛の葉』からのリークで、歴史修正主義者の潜伏先を幾つか別の本丸が襲撃を掛けたからですね。

 あと、どうも数ヵ所なんですが、あちらさんの拠点が検非違使の襲撃を受けたらしくて」

「検非違使!?」

「ウェ? マジで?」

「そいつは……」

 

 驚く補佐役三人に、心なしか遠い目をしつつ薺は言葉を続ける。

 

「本当に、タイミング良く検非違使が結構大規模な拠点を襲撃したそうで、一部戦場で遡行軍の存在が見られない箇所が出たとか。まあ、一時間ほどで出現するようになったそうですが、以前より若干弱体化していることが確認されたそうで」

「うわぉ」

「つまり、それなりに錬度が上がってる敵方の拠点が潰されたんで、そこより劣る拠点から送り込まれるようになった、と」

「そう言う事らしいです」

「戦況的にはありがたいけど、怖いな、それ」

 

 思わずチベットスナギツネ顔になっている補佐役三人を前に、その検非違使を派遣させたのも上役らしい神様を脅し上げた現代『葛の葉』当主の意向だったらしいと言う、管狐の間で囁かれている噂をそっと仕舞い込む薺が居る。

 

萩原研二/小松研二/小松乙女  技術者(医者)、捜査官(自衛官)、式神使い

松田陣平/桜田陣平/江戸彼岸  捜査官(自衛官)、探偵、魔匠

伊達航/大島航/大島  捜査官(自衛官)、番長、修験者

 三人揃って『代紋本丸』審神者補佐であり、九頭龍大神の眷属。二〇〇〇年代の警視庁の爆発物処理班と捜査二課に所属している。

 今回、小松と彼岸の二人は『類は友を呼ぶ』を体感した。一〇〇〇ccオーバー特大バイクで、オフロードトライアルをやる人間の後ろに乗って軽く死ねた。幾ら何でも、吹きぬけ三階層を真っ直ぐ飛び降りそのままウィリー状態で爆走され、挙句にバイクで八艘飛びされて魂が無事な訳無い。流石は降谷の関係者と二人で戦慄した。後ろから追い掛けてた刀剣男士達は、もっと真っ青だった。

 一人別方面で指揮を執っていた大島に結構な比重が掛かったものの、上記の通りの事情から作戦そのものは滞りなく進行した。

 今後二〇〇〇年代に滞在出来るのは良いが、地味に仕事がハードになっている事に気付いて三人でげんなりする。

 

**

 

 ちらほらと、桜が花開いているのを眺めつつ、降谷零、いや安室透は歩いていく。

 【バーボン】と【安室透】は、今暫く継続する事が決定した。

 後始末がごたついている事もあり、また残党掃討の為に動き易くする意味も込めて、『フリーになった探り屋』と『兼業探偵』と言う顔は都合が良かったのだ。

 それに、理由はもう一つ。

 

 カランカランッ

「いらっしゃませ、あ、安室さん!」

 

 一週間振りに喫茶店『ポアロ』の扉を開けば、カウンターの中で何かしら作業していた榎本梓が笑顔を向けてきた。

 

「探偵のお仕事お疲れ様です。今日から復帰で良いんですか?」

「ええ、一週間済みませんでした」

「大丈夫ですよ、二日はこっちも水道工事で臨時休業でしたし、その後はずっと吉野さんが出てくれてましたし」

 

 その言葉に答えるように、バックヤードから入ってくる人間が居る。

 勿論、吉野景光こと、諸伏景光だ。

 

「あ、吉野さん、安室さんが復帰しますよ!」

 

 テンション高めな梓の言葉に、景光は笑顔と共にこう告げた。

 

「そうですか。

 お帰りなさい、安室さん」

「⁉ そうですね、お帰りなさい、安室さん!」

 

 景光の言葉に、それもそうかと頷き梓も続く。

 そんな二人に、表に出ている【安室透】も、その下で出待ち状態の【バーボン】と【降谷零】も表情を緩め、そして代表するように主人格《ゼロ》がこう告げた。

 つまり。

 

「ええ、ただいま。これからもお願いしますね、吉野君、梓さん」

 

 満面の笑顔と共に。

 

諸伏景光/吉野景光/染井吉野  弓術家、ガンスリンガー、龍/世界蛇

 『代紋本丸』担当審神者であり、戸隠山の九頭龍大神の現身。大結界構築を目的に二二〇〇年代から二〇〇〇年代に出向中の元拉致被害者。

 人間として、そして日本と言う島国を背負う巨竜の意識体として存在する生き神様。今回、正式に某財団に『ハイドラ』と言う名でSafe存在として登録された。(危険度としてはKeterだが、滝和也の報告により、現状維持ならSafeとカウントされた。)

 未だ辞令は受け取ってないので当人は知らないが、四月から警察庁公安部に開設される内調の出先機関事、『特殊案件捜査課』課長になる予定。

 

降谷零/バーボン/安室透  上級捜査官(コマンダー)、ボクサー、ペルソナ使い(トリプルフェイス)

 警察庁警備局警備企画課(ゼロ)所属の潜入捜査官であり、犯罪組織で暗躍する『探り屋』と喫茶店ポアロの店員兼探偵と言う三つの顔を使い分ける。また、染井吉野こと九頭龍大神となった諸伏景光の神婿となり、『代紋本丸』四人目の審神者補佐として登録された。

 各人格毎にペルソナを持つ特殊な能力者ととして、今回某財団から『狼王』の名前でEuclid存在として仮登録される。(限りなくketerに近いとされるが、滝の報告で現状経過観察、後にSafeに登録される見込み。)

 なお、彼に『狼王』と名付けたのはとあるKeter存在で、「妻を取り戻したカランポーの王はきっと彼の様だろう」との事。

 これから暫くは、安室透として指令待ちしつつ書類を裁く予定。

 

**

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

**

 

 薄暗がりの中、子供の泣き声が響く。

 やっと、見付け出す事が出来た。

 

「ヒロ、景光、ここにいたんですね」

「にいちゃん」

 

 広げた手の中に、五歳の小さな身体が飛び込んでくる。

 

「にいちゃん、ぜろがいない、ぜろがいないの」

 

 喘ぐように泣きながらそう言う幼子を抱き締め、こう告げてやる。

 

「ゼロ君なら、向こうに居ましたよ、兄ちゃんが連れて行ってあげましょう」

「ほんとう!」

 

 涙に濡れていた、薄青い灰色の瞳が大きく開く。

 

「兄ちゃんがお前に嘘を言った事がありましたか? 少し眠りなさい。寝て起きたら、隣にゼロ君が居ますからね」

「うん!」

 

 目を閉じる寸前に、腕の中の愛しい存在はこう言った。

 

「あのね、ぼく、ぜろが大好きだけど、にいちゃんの事も大好きだよ?」

「おやおや、そんな事、ずっと昔から知ってますよ」

「えへへ」

 

 目を閉じた小さな存在は、身に纏っていた青海波の着物を残して空気に溶けて行った。

 

「お休み景光。

 ……たった五年しか生きられなかった、そしてもう生まれてこれない、二〇〇年後《みらい》の弟」

 

 諸伏高明として生きている存在は、着物を抱え立ち続けていた。

 

諸伏高明  捜査官(自衛官)、探偵、龍

 長野県警本部捜査一課の警部。諸伏景光の実兄であり、唯一血の繋がった家族である。

 同時に、諸伏家の祖霊神である先代九頭龍大神だった存在。たまたま縁のあった僧侶が生まれ変わったのに合わせて、意識の一部を人間に降ろしていた結果、『弟』を得てその人生を見守っていたが僅か二五歳で早世した事を人知れず悲しんでいた。

 二〇〇年後に、再び弟として生まれて来た事を喜んでいたところを、例の空須磨とその一族によって殺され、あまつさえ遺体迄食い尽くされたと知って憤激、更に『竜の血』を求めて殉職した『弟』を浚って来てまた死なせかけた事に完全に激怒し、弟に『世界蛇』としての龍神の座を明け渡す。

 力こそ往時の三分の一以下と弱体化したが、長い時間九頭龍としてあった為能力の操作などは現九頭龍を上回る。

 尤も、人間に意識を封じ込んでいる為、この先彼が力を振るう事は無い、筈。

 

ヒロ  ???

 単純に、幼児化した諸伏景光かと思われていたが、実は二〇〇年未来に生まれ、僅か五歳で夭折した諸伏家次男の意識体。

 本来は死んだ筈の諸伏景光が未来にて蘇生された為、存在しない事になった事もあり過去の自我と同化し切れず、ひたすらに『ゼロ』を探し続けていた。

 兄によって導かれ、諸伏景光の深層意識下へと還って行った。

 

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