※この作品はR-18です。

九頭龍は桜の代紋を背負っている   作:怪傑忍者猫

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社蓄撃退法

 まだまだ残暑は厳しいが、世の中は九月に入っていた。

 小松研二、桜田陣平、大島航、そして高木渉の四人は、監査部からの急な呼び出しを受け、本丸へと集まる事になった。

 政府施設でなく本丸なのは、高木こと『衣笠』をあまり政府(むこう)の関係者に会わせたくない事、また二〇〇〇年代の政府関係者も来る為、と言う事情がある。

 

 事件の調書を纏めて提出しなければならなかった為遅くなった高木が、独身寮のクローゼットの奥に設置したゲートを潜って本丸に入ると、直ぐに夜警番の短刀達に皆が集まっている小会議室を兼ねた洋間に通された。

 が、そこで見たものは、小さくなって正座するこの本丸の最高責任者兼神様である染井吉野と、彼の目の前で怒髪天の形相で仁王立ちしているかつての教育係と、その横で電子煙草を噛み締め斜に構えて立つ佐藤刑事の元同僚、そしてスーツ姿の良く似た青年二人と一緒に応接セットで頭を抱える、嘗ての――ついでに現在の爆処エースの姿だった。

 普段は狩衣姿の面々だが、どうも全員帰宅直後らしく染井吉野すらスーツ姿だ。

 と、そこで高木は変な事に気付いた。

 染井吉野こと吉野景光(よしのかげみつ)、本名諸伏景光(もろふしひろみつ)は現在、日本中に九頭龍の霊力と大地に走る竜脈(レイライン)を併用した大結界を形成するべく、その中心点でありエネルギーの起点にに重なる喫茶店ポアロに居続ける為に、バイトとして入り込んでいると高木は聞いている。

 で、喫茶店のバイトとして諸伏の通勤着はライトカジュアル系のハイネックシャツとジーンズが主だった筈なのに、何故か今は自分達警官組と同じスーツにネクタイなのだ。

 途惑っているうちに、先輩によって尋問が始まった。

 

「……何をやっている?」

「いや、月末で忙しそうだったし」

「今、俺達は監査側の業務止めて、特命中だったよな?」

「でも」

「お前、最近やたら疲れるし、こないだポアロでも倒れたし、自力招喚如きで陸奥守が背負ったって話だったよなあ」

「いやそれは、たまたま疲れてただけで」

 

 何やらボソボソ大島こと伊達航に返事していた諸伏に、桜田改め松田陣平が追撃する。

 それに対して更にしどろもどろと返答するここの主の姿に、高木はこめかみを押さえて痛みを堪えているっぽい小松改め萩原研二の側に寄った。

 

「あの、一体何が」

「あーうん、俺らの主で同期のお馬鹿が、一日を三〇時間以上にしてくれてたのが判って」

「は!?」

 

 奇妙なパワーワードに、ポカンとなった高木に、この本丸に最初に連れてこられた際に色々話してくれた担当官の百舌鳥《もず》が、やはり頭痛を隠せない様子でこう言った。

 

「こちらの本丸に設置したゲートは、二〇〇〇年代に行く為に結構微細な時間移動が可能なんです。

 例えば、一〇時一〇分にここに戻って、三時間経過した後に一〇時一五分にあちらに戻るとか、逆もしかりですね。まあ、九頭龍大神の莫大な霊力があればこそで、普通の人間にはまず無理なんですが」

「はあ、凄いですねえ」

「で、染井吉野様はそれを利用して、ポアロに詰めてる予定の時間を、監査部の書類整理に当ててたんですよ」

「へぇー……って、ハァ!?」

 

 驚く高木に、これは本気で頭が痛いと萩原は呻く。

 

「だからね、こいつ、ポアロのシフトに行く振りして監査部の方に顔出して書類捌いて、時空移動の時に時間調整してポアロに行って辻褄合わせしてたの、最近変に疲れてると思ったら!」

「いや、でも月末決済が大変なのは良く良く判ってたし」

「「そんな話はしてない(ねえ)!」」

「染井吉野様、お願いですからこちらに一言なく新人教育を始めないでください。確かに、仕事が出来る人材を増やしてくださるのはありがたいんですが、査定の時に困るんです、あなた今監査部休職扱いなんですから!」

 

 同期兼眷属の怒りにも、担当役人の懇願にも、何処と無く『何でそんな事聞くの?』と、物問いたげな顔をしている諸伏を見て、高木はふと事件現場を闊歩する小学生達を思い出した。

 

(そう言えば、あの子達もこちらが説教しているのに対して「何でそんな事言うの?」と言う反応だったな)

 

と、高木が塩(しょ)っぱい気持ちになっているうちに、ポアロから臨時シフトの依頼を受けて諸伏は走っていってしまった。

 後に残された高木以外の面子は、盛大に溜め息を吐いた後、各々ソファーへと腰を下ろした。高木も、丸スツールを取ってきて座った。

 

「あんの馬鹿は」

「あー、降谷とニコイチだった時は、何だかんだで互いが互いを見張ってるようなものだったから、オーバーワークだけは阻止しあってたもんねえ。あの社畜精神はもしかして潜入先で身に着けたの? 黒の組織って実態迄ブラックなの?」

「……まあ、警察も勤務体制に関してはブラックと言えばブラックだが、あれはあいつが逃げ道を構築した結果だな」

「……やっぱり、降谷に黙ったままでいようとしてんのが、あいつは」

「あー、俺達の事も未だ後悔してるっぽいもんね。こっちが選んだことだっつうのに」

 

 電子煙草のマウスピースを噛み締めつつ松田が唸ると、天井を仰ぎつつ萩原もぼやく。

 自身も電子煙草を出しつつ、伊達が呻く。

 

「やっぱり、降谷をこっちの協力者に引き込むか?」

「協力者、つうか、事態理解したら押し掛けてくるでしょ、あのゴリラ」

「俺達三人、後で五、六発殴られそうだけどな」

「あいつ諸伏が絡むと、ただのモンペだったよね。諸伏の事けなした相手は、例え女の子でも容赦しなかったし?」

「そうなんですか?」

 

 高木がおずおずと聞けば、三人はこう、所謂チベスナ顔になった。

 

「まあな。諸伏はあれで人見知りの激しい性質でな、コミュ障とまでは言わないが良く良く馴染んだ人間以外と、話すのが苦手なんだ」

「何か、そうなった原因があるらしいけど、そこまでは俺達も知らない。降谷があいつの事で、過激になる一因らしいんだがな」

「警察学校の交番実習くらいだっけ? 成績は程々だけど可愛いって言われてた他所の教場の女子が、降谷に告白した時に諸伏の事軽くディスったんで、その子の生活態度その他を駄目出しした上で、二股かまされる予定だった男のところに『恋人だったらちゃんと見ておけ‼』って投げ込んだって」

「ああ、『人の大切な親友を、意味なくけなすような女から好きと言われても信じられるか!』、だったっけか。まあ、一理あるけどな」

「諸伏は表情があまり動かないってのが周囲の反応だったけど、あれは人見知りが発動して表情筋が凍り付いてただけだったよね。現に、同じ班になって打ち解けた俺達とは猥談や馬鹿話で大笑いしたし、一杯じゃれて遊んだし、今だって降谷がいた頃よりは固まりがちだけど、表情動くし」

「そこのところ、潜入捜査官やってた時分は無理やり表情筋を動かしてるんで、余計に疲れたとか言ってたな」

 

 そう言うと、萩原は今までずっと黙っている男に向き直った。

 

「木場さん、諸伏景光の戸籍は今、どうなってるの?」

「……失踪死亡の処置が行われないよう、内調の方で抑えています。ああ、三年前から警視庁公安から此方に出向と言う命令書も作ってあります。こっちで保護して、匿う替わりに仕事をさせてるって言う事で」

 

 百舌鳥によく似た、彼より若く見える――二〇代前半に見えるが、これでも四〇代後半だとか――木場と言う男は、そう言ってファイルケースを振って見せた。そこに、その命令書やら何やらのコピーを入れているらしい。

 それを聞いて、三人は良しとばかりに目配せした。

 

「取り敢えず、あの馬鹿を大人しくさせる意味でも主席殿を引き込むか」

「悲鳴上げて逃げ回りそうだがな。やれやれ、奴にはもう少し後に、種明かしの予定だったんだがなあ」

「後、あいつが勝手に仕事増やしてしまわないように、かっちりとした職分決めちゃった方が良いね。お願いしても大丈夫かな、百舌鳥殿、木場殿」

「お任せ下さい」

「こちらもある意味万年人手不足ですから、働いて頂きましょうか」

 

 疲れた様子で頭を下げる百舌鳥と、ペキパキ指を鳴らす木場を横目に眺め、高木はこの後大きな騒ぎになりそうだと遠い目になった。

 勿論、それを目の当たりにする事も、渦中に引き込まれる事も、何となく理解して本気で頭が痛くなったのだ。

 

 

 江戸川コナンと毛利親子が、『鎌鼬が出る』と言う旅館に出掛けているので平和な昼下がり。

 

「じゃあ、そろそろ俺、上がりますから」

「ああ、お疲れ様、吉野君」

「お疲れ様、吉野さん」

 

 午前中の勤務を終わらせ、吉野景光は帰り支度をしていた。

 彼と入れ替わりで入った安室透こと降谷零と、夕方までの勤務である榎本梓に頭を下げて、店を出ようとしたその時だった。

 

「良し、間に合った!」

「おー、吉野ー、一緒に飯食おうぜー」

「こら、お前ら。すいません、四人で」

 

 カランと、ドアベルが鳴ったと思うと吉野景光の両脇をがっしりと掴む二本の手がある。

 その客人の顔を見て、降谷の手の中で洗っている途中のティースプーンがぺったんこに潰れた。

 

「お、お前ら、何で」

「いやもう、今日は上手く三人で時間調整効いたからさ、お前のバイト先で飯にしようって決めたんだよ」

「お前午前だけで、午後時間空いてるもんな、たまには外食しようぜ」

 

 右腕を掴んで、萩原が笑う。左手から鞄を取り上げつつ、松田も歯を見せる。そして、そんな三人を困ったように見ながら、苦笑いしつつ伊達が梓に声を掛けている。

 二人に手を引かれ、景光があからさまに驚き、焦っている。

 

「お、お前ら、ここには来ないって」

「おう、お前が普通にバイトしてるんだったら、来るつもりなかったよ?」

「聞いたぞ、お前バイトの合間に前の職場手伝って、お偉いに悲鳴上げられたって?」

「え、それは」

「はいはい、今日も行く気だったんでしょ、それはさせられないかなー」

「お前は未だ、体重も筋肉量も戻り切ってない事を忘れんな」

「ほら、飯にしよう。和泉兄弟に連絡入れたから、後で迎えに来てくれるそうだから」

 

 ガン見している降谷の前で、景光を左右から抱えて爆処の二人が歩き、角のボックス席に移動すると、奥に景光を押し込み蓋するように伊達を座らせると、二人はその対面側に座った。

 お冷とオーダー表を携えた梓が、四人の方に行く。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「この店に来たら、ハムサンドは外せねえよな」

「職場でも有名だしな」

「あの、俺は軽くで良いから」

「はいはい、吉野君は出されたもの食べようなー」

「すいません、ブレンド三つ、ミックスジュース一つ、ハムサンド四つにビーフカレーライス。お前らは?」

「ナポリタン気になるからそれで。あ、大盛りって出来る?」

「俺はボンゴレかな、俺も可能なら大盛りで。あ、すいません、フォークと取り皿余分に持って来てくれます?」

「はい、ブレンド三つ、ミックスジュース一つ、ハムサンド四つにビーフカレー、ナポリタンとボンゴレが大盛りですね」

「よろしくー」

 

 オーダーを聞いて、降谷はコーヒーの準備とハムサンドを用意しつつ、四人の会話に耳を欹てる。

 

「ここから本庁って、それなりに距離あるだろうに」

「あれ、知らないの? ここ美男子二人と美人さんがいる店で有名だよ?」

「そうそう、捜査一課とか交通課の人間が度々来てるって」

「は?」

「そうそう、野郎は榎本さんだっけ、彼女目当てで女の子達はお前とあそこの色男目当てだって」

 

 暫くパカパカと口を開け閉じした後、景光は全力で首を左右に振った。

 

「ないない、それはない!」

「ああうん、お前はそう言う奴だよねー」

「大丈夫大丈夫、騒いでるのは肉食系より腐女子だ」

「……は?」

「お前とあの兄ちゃんが並んでるの見たらプメエとか、あの兄ちゃんがお前見てる眼が熱いとか、お腐れ達が騒いでる」

「……ごめん、何それ、判らない」

「良い、判らなくていい、小松、桜田、お前らも止めてやれ」

「「へーい」」

 

 声を揃えて返事した後、二人は腹を抱えて笑い転げる。

 そんな二人の頭に伊達が拳を落とし、景光は疲れたようにお冷やを飲む。

 

 

 降谷零にとって、失った筈の光景がそこにあった。

 

「お待たせしました、ブレンドとミックスジュース、ハムサンドにビーフカレー、ボンゴレとナポリタン大盛りになります」

「取り皿とフォークも、お持ちしました」

 

 運ばれて来た料理を受け取ると、三人はミックスジュースとハムサンドを景光の前に置くと、ボンゴレとナポリタンを二口分皿に盛って並べた。そして、同じく添えられていたもう一本のスプーン――梓が気を利かせて添えていた分だ――で一口すくうと、伊達が景光に差し出した。

 

「ん」

「……え?」

「だからほら。これとパスタとハムサンドを食って、そのジュース飲んでしまうなら、俺は何も言わん」

 

 お父さんの風格と共に伊達に言い渡され、盛大にキョドっている景光の姿に、思わず足を止めて降谷は振り返った。

 その横で、さっそく自分のノルマに手を着けている萩原がこう言って寄越す。

 

「お前さあ、前の職場で何やってたの? 食事摂らない睡眠摂らないで書類仕事に没頭って、あそこそんなブラック企業じゃないじゃん、何やってんの」

「それな。お前やっと体重五キロ戻ったって言ってたのに、こないだの健康診断で三キロ落ちてるって、担当医切れて俺達に鬼電して来たぞ」

 

 美味いと言いつつハムサンドを食べる松田が言葉を足せば、言われている方はか細い声で反抗を試みる。

 

「だって、月末は大変だし、今回色々任務が立て込んでるから事務方戦争だったし」

「だからって、お前が寝食削って手伝ってどうする。瀧さん困ってたぞ、給料の支払いどうするんだって」

 

 反論を一蹴して、伊達はカレーを食べている。

 色々聞き捨てならない事を聴いて、降谷は意を決して四人に近付いた。

 

「あの、ひ……吉野くん、何かあるんですか、この間仮眠中に魘されてたようでしたし」

 

 降谷の問いに、景光がぴゃっと飛び上がる。

 他の三人はと言うと、目配せあった後伊達が口を開く。

 

「ああ、どうもここのバイトでそれなりに動けると思って、前の職場に顔出して修羅場の手伝いしてたんだ、こいつ」

「労災でPTSD患って、それの治療で仕事辞めたのにって、元上役が胃を壊しそうになってさ」

「ま、一つ屋根の下に居たのに、気付くのが遅れた俺達も偉そうに言えた義理はないけど、先に身体治せと言いたいんだ、俺達は」

「ちょ、皆!?」

 

 萩原、松田と口を開き、慌てる景光をおいて三人は各々のスマホを取り出した。

 

「兄さん、連絡先交換しない? 俺ら仕事上時間バラバラだけど、取り敢えずこいつ一人にしないようにしたいんだ」

「今回、てっきりこっちで延長して手伝ってるんだとばかり思ってたら、古巣で書類作ってたって聞いて本気で腹立ったんだよ、俺達」

「だいぶ改善されたと思ったのに、又魘されてたのか、お前。……こう言う、俺達がいないところでの情報が欲しいんだ、お願い出来ないか?」

「……そうですね、そう言う事ならLINE登録しましょう。そう言えば吉野くんも一緒にいいですか?」

「え、あ? ……はい」

 

 アドレス交換して、改めて三人が降谷に笑い掛ける。

 

「改めて、俺小松研二、今年から警視庁の爆発物処理班で働いてるから」

「桜田陣平、小松(こいつ)とは腐れ縁で、職場も一緒」

「大島航だ。俺は捜査一課にいる」

「あ、安室透、です。よろしく」

「……おっと、俺はそろそろだな」

 

 時計を見て、伊達――大島が最後のコーヒーを飲み切り立ち上がる。その大島に、萩原改め小松、松田改め桜田が二千円づつ差し出す。

 

「俺らも食べ終わったら出るから、先に払っといて」

「ん」

「判った、すみません、お勘定」

「はーい」

 

 大島が出て行くと、それぞれパスタとサンドを食べ終えた二人も立ち上がる。

 

「良し、食べ終わったな、吉野。俺達仕事に戻るから」

「和泉兄弟来るまで動くなよ。

 安室サン、こいつふらふら歩かないよう見てて貰って良いか? 今日は来させてくれるなって、前のとこの上役から俺らも泣きつかれてるから」

「え、ええ、判りました」

 

 降谷が頷くと、手を振って小松と桜田も出て行く。

 溜息を吐くと、吉野景光はテーブルの上の皿を纏めてカウンターへと運んだ。

 

「吉野さん、今はお客さんなんですから、そんな事しなくて良いんですよ?」

「いや、その、何か居た堪れなくて」

 

 梓にそう答え、皿を運び終えた吉野は、鞄を肩に掛けて店を出ようとした。

 その手を、降谷は咄嗟に掴んでいた。

 

「え?」

「ご友人達が言っていたでしょう、迎えが来るまでここにいるようにって」

「あ……いや、家に帰るだけだし」

「そう言って、そのまま仕事に出かけられたら、僕が彼らに怒られてしまいますから。それに、体重が落ちていると言うのは、僕もどうかと思いますよ」

 

 そう言いつつ降谷が腕を引けば、何処となく途方に暮れた眼をしたまま吉野はソファーに腰を下ろした。

 そして、件の和泉兄弟が来るまで、彼は大人しく座り続けていた。

 互いに、互いの視線が向いていない時を見計らうようにして相手を見ている二人の事を、女性客がガン見している事に関しては、どちらも気付いていなかったが。

 

 

「すみませ、あ、いたぜ之定!」

「外では兄さんと呼べと言ってるだろう、兼定。

 ああ、ちゃんと待っててくれましたか、吉野さん。てっきりすっぽかされるかと思いましたよ」

「いやその」

「次から店から出ないでいて貰おうぜ、炎天下探し回るの大変だもんよ」

「うぅ、その節は」

「この人も大概、『喉元過ぎれば』なところがあるからね。では、これで。主治医から連れてこいと言われてますので」

「あ、はい、お大事に」

「……」

 

 

グループ名『緊急連絡網』

 

〉小松乙女が『安室透』さんを招待しました。

〉安室透さんが入室しました。

 

小松乙女

「いらっしゃーい」

 

江戸彼岸

「これからよろしくな」

 

大島

「たのむ」

 

安室透

「それは良いんですが、えーと、江戸彼岸と言うのは、桜田、さんかな?」

 

小松乙女

「あったりー」

 

安室透

「何でまた」

 

大島

「何、桜の品種名に小松乙女、大島、染井吉野とあっただろう?」

 

江戸彼岸

「どうせなら品種名で揃えようって話になったんだ。だから俺は江戸彼岸な」

 

安室透

「ああ、そういう。

 じゃあ、僕も桜の名前にしましょうか?」

 

小松乙女

「良いんじゃね?」

 

江戸彼岸

「俺も良いぞ」

 

大島

「安室さんの好きにしてくれればいい」

 

安室透

「じゃあ、一旦出ますね」

 

〉安室透さんが退室しました。

 

 

〉東錦さんが入室しました。

 

大島

「成程、サトザクラか」

 

東錦

「これからお願いします」

 

小松乙女

「おーよろしくー」

 

江戸彼岸

「頼むな」

 

大島

「こちらこそだな」

 

 

 知らない男に、ヒロが連れていかれて、その車を必死に走って追いかけてたけど追い付けなくて。

 転んで泣きそうになった時、両脇抱えられて立たされた。目の前には、そっくりな二人の大人の人。

 

「どうした坊主、あの白い車がどうした」

「友達が」

 

 その一言で察した二人は、一人はヘルメットを被ってバイクで走り、もう一人は僕を抱えて赤い車に乗ると、バイクを追って走り出した。

 そうやって、町外れの一軒家まで来た時だった。

 

「いやぁああ、助けてお兄ちゃん、ゼロ、ゼロぉ‼」

 

 聞いた事も無い、怯えきり泣き叫ぶヒロの声に、お兄さんの手を振り切り、僕は小さな家に飛び込んだ。

 そこで見たものは、まごうこと無い変質者に生まれたままの姿で組み敷かれ、全身舐め回された挙げ句に強姦される寸前のヒロだった。

 

「な、何だこのガキ」

「ヒロを離せ‼」

 

 咄嗟に飛び掛かった僕は、男に振り払われて。ガラス戸に叩き付けられる寸前、僕は車に乗せてくれた男の人に助けられ、そして変質者の方は。

 

「そこを動くな、ロリペドど変態がぁ!」

 

の、一喝と共にバイクに乗っていた方のお兄さんに蹴り飛ばされて、真後ろに吹っ飛んでいた。

 

「坊や、これであの子包んで、そのまま抱っこしてあげて」

「え?」

「知らない大人に怖い思いさせられたから、友達の君が傍にいてあげないときっと怖いままだから」

 

 そう言って、お兄さんが渡してくれたバスタオルでヒロを包んで抱き締める。

 

「ゼロ、ゼロォ」

「ヒロ、遅くなってごめん、ごめんよ」

 

 泣きじゃくりながら腕の中にいるヒロから、嫌な臭いがする。あのおっさんが擦り付けたんだと思ったらむかむかした。

 一発殴りたいと思ったら、変態(おっさん)は逆海老状態で二本の手錠で固められて、お兄さん二人に踏み付けられていた。背中側で手錠で腕を拘束された後、両足に掛けられた手錠を首に掛けられ、動けない状態にされていた。

 

「ひ、ぐ、げ、ご、」

「うるせえな、午後四時三分逮捕、現職警官の目の前でやらかしたんだ、誤魔化せると思うなよ」

「だあ、足に掛けた手錠はともかく、それをそのまま首に掛けるなカズ! 間違って息が詰まったら、蘇生処置で調書を作る間が無くなる!」

「そう言うならお前もこいつ踏むの止めとけよ、強」

「こう言う奴は強かに逃げようとするから、押さえとくのは常識!」

「たく、おっと」

 

 つよしと呼んだ相手に軽く嘆息して、かずと呼ばれた青年がこっちに来る。

 自分が来ていたジャケットを脱ぐと、それでぼくとヒロを包んで抱え上げた。

 

「ひゃ」

「わ!?」

「こんなところじゃなくて、車に居ような。お湯で絞ったタオル持って来てやるから、友達を拭いてやれ、な?」

 

 そう言ってカズさんは、他の大人の人が来る前にヒロの身体を拭く為の暖かいタオルと、あの変態にびりびりに切り裂かれた服の代わりを買って来てくれた。

 

 

「そうだ。あれが、俺が最初に警察官がかっこいいと思った時。

 あの人達みたいに、犯罪者をやっつけて、被害者を助ける事が出来る警察官になりたいと思ったんだ。あの変態から諸伏を助けてくれた、あの人達のように。

 ……まあ、今は夢とは違う立場になってしまったがな」

 

 何時の間にか、降谷零(おれ)が立っていた。

 

「唯川(ヒロ)が、人前で表情が動かし難くなったのも、この事件の所為でしたね。知らない人間が怖くて、僕と一緒じゃないと感情を出すのも一苦労で。だから僕から離れられなくなって。

 その事に、僕は優越感を感じてしまった。唯川に必要とされているんだって」

 

 心なしか寂し気な声音でそう言ったのは安室透(ぼく)で。

 

「そう、あのクズの所為で発症したPDST。それを誤魔化す為に、陽気な猫みたいな男としてスコッチ(かれ)は生まれたんですよ。僕の可愛い灰色猫。演技を重ねて重ねて、何時もボロボロになって僕の手の中に逃げ込んでたんですよ、愛しいったらありゃしない」

 

 何か、目一杯ヤンデられたが笑ってるのはバーボン(ボク)だ。

 でも、何で出て来たんだ、こいつら。

 頭で思った事が抜けたのか、三人がじっと視線を向けて来る。

 

「諸伏が途方に暮れている」

「唯川は、感情を出す事が苦手ですから」

「スコッチは、泣き虫だから笑仮面を着けているんですよ」

 

 

「またか」

 

 目覚ましを止めて、頭を押さえる。

 何だか、解離性同一性障害じみているのが怖い。

 

「カウンセリング、受けた方が良いのか?

 ……ああ、そんな暇、無いか」

 

 公安と組織の任務(しごと)の合間に、色々突っ込んでいる現状では、とてもじゃないが呑気に心療クリニックの待合室に行く事も出来そうにない。

 頭を一振りして、特に違和感がない事を確かめてから立ち上がった。

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