本作は某大賞への応募フォームの操作に手間取り、応募出来なかった作品です。あらすじなども応募先向けに……今読むと雑だなこれ!((´;ω;`))になっており、ネタバレ状態です。

かつて神々が戦った世界で、神々の残した救済の術を軸に人々が動く、そんな世界で生きる魔族の少女マギサは、異世界の住民である地球人の矢島や妖精族のツバメ達と共に地球に向かい。マギサを救済の術を統べる存在、女神の代理人にするべく。第三次世界大戦後の日本国内でPMC(民間軍事会社)を結成して、軍事力を蓄え。女神の代理人になるための活動を行っていく。その過程でマギサが転移直前に敵のガルーシャに殺され失った恋人。別の人生を歩んでいた並行世界の住民である、遠近義明を謎の失踪事件が起きる並行世界の地球、日本国内で発見して転移させて身柄を確保しようと試みる。だが、名古屋市近郊のスラム街に紐無しバンジージャンプで転移してピンチ。事態に気付いた矢島のPMCがSWATの鬼沢、龍澤、ガンナー美奈、ドライバー真美を引き連れ急行。その後、マギサの実験部隊員である誠、紅菜、春菜、ツバメと葉菜は別ルートで現場に急行。その後はゴブリンに囲まれた義明を葉菜が救い。屋上に避難。その後は誠、紅菜、春菜、鬼沢達のSWATチームと合流後。ゴブリンや異世界から来た敵相手に戦い。最後はガルーシャの送り込んできた刺客を矢島やツバメの活躍、義明とツバメが矢島から渡された特殊な回転式拳銃で倒し光の柱。マギサは光の柱を見て涙。義明と紅菜、葉菜、ツバメ達は義明救出用に用意した救命カプセルに入って、筋肉痛に耐えながらも義明は、前向きに考えて、ハーレム状態を楽しみながら、終わりです。





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備考(何とか某大賞用に原稿仕上たけど、応募フォームの時間オーバーで南無~別のレーベルに応募しますW作家を目指す皆様もご注意をw)この時間帯だとどのレーベルかバレバレですねw


魔女の弾丸が貫く先

<神代から始まるプロローグ> 

 

 

 かつて神々が戦った、過酷な世界があった。

 その戦いを終わらせたのは、一柱の優しい女神の犠牲。

 女神は自らが属する陣営の神々。

 優しい神々が創造し、その存在に恐怖を覚え、地上に追放した種族。

 魔族の軍勢と、魔族を哀れみ、手を差し伸べた神々。

 賢き神々が送り込んだ援軍、多様な亜人種を相手に長く続く戦い。

 

 戦争の早期終結を願い……最前線で戦っていた。

 

 だが、女神達の陣営は魔族に敗北。

 女神達の世界は、賢き神々の導きと支援を受けた者達。

 魔族の中でも戦いに秀でた、戦士達の総攻撃で滅ぼされてしまう。

 

 地上で唯一生き残った女神は、自らの血を分けた眷属の戦士達。

 人間が魔族の手によって、自我に目覚めた事で、女神に反旗を翻し反乱。

 女神は人間と魔族に捕まり、激戦地となった決戦の場所。

 

 戦場に佇む丘の上で磔にされ……最期の時を迎える事になる。

 

 魔族と賢き神々は、世界を静かに燃やす見えない炎。

 本来なら決して、人々の目に見えない、黒き炎を束ねて顕現させ。

 磔にした女神を燃やし尽くし、世界に光り輝く灰を撒き。

 世界に新たな秩序を生み出す礎とした。

 

 その後、戦争を勝利で終えた賢き神々は、この世界から立ち去る際。

かつて神々が協力して生み出し、争いの火種になった建造物。

 異界を互いに繋げる、空の果てにある巨大な門を封じる事にした。

 だが、賢き神々は万が一に備え、門を開く鍵と、神々の残した膨大な兵器。

 神々の世界の知識を若き魔族の皇帝に託し。

 

 神々の世界の側から門を封じ、この世界から神々の姿は消え去った。

 

 その後、人々は手に入れた秩序を中心に据え。

 人々が生み出し、抱える業と戦いながらも……独自の歴史を紡いでいた。

 

 

 ――女神の犠牲から一万数千年後――

 

 

 とある並行世界の宇宙空間。

 その中でも生命が誕生、生存可能なハビタブルゾーンなどと区別される。

 

 ……宙域のとある恒星系。

 

 そこには大気を一切纏わない、剥き出しの岩石と砂で覆われた、灰色の塊。

 衛星サイズの天体があった。

 その天体の周囲には……漂う小惑星の群れが作り上げた、円環が拡がり。

 この二つを重力で捉えるのは、ここがハビタブルゾーンである証。

 地表の大半を液体の水で満たされ、生命が繁栄を謳歌する……舞台。

 

 一つの青い惑星だ。

 

 そんな青い惑星を捉える、恒星の陽光が届かぬ夜の側。

 そこは幾つもの流れ星が軌跡を描いていく、漆黒のキャンバス。

 

 描かれる軌跡の正体、その大半は青い惑星の引力が、円環からもぎ取った。

小惑星である。

だが……中には遥か昔。

 この青い惑星やその周辺で戦った人々が、宇宙に残した遺物。

 

 兵器類の残骸(デブリ)の……最後だったりもする。

 

 そして円環から飛び出す――――矢尻のように鋭い影。

 竜を思わせる、数十メートル級の巨大生物の群れが。

 流星群になって――――幾重にも流れていく。

 ここは進化の末、宇宙空間に進出した生命体。

 

 彼らの生存圏の一部でもある。

 

 そんな様々な軌跡が向かう先。

 そこは生命が生まれ、育まれた場所……大海原だ。

 

 

 ◇◇

 

 

 ――――青い惑星の赤道付近――――

 

 

 満点の星空とそこに添えられる、流星群の軌跡。

 点と線の輝きに包まれた、夜の海原。

 その一角には、表面を砂に覆われ。

 大小様々な形状をした、島々が点在。

 

 島々の縁に響き渡るのは、波打ち際に当たっては弾ける。

 波の音。

 潮の香りを伴う風が吹く度に奏でるのは、乾いた砂粒が擦れる。

 微かな音色。

 

 休まず繰り返す……自然の織り成す旋律。

 

 それは地殻変動で、海底が隆起した事により誕生した空間。

 この砂の島々で一万数千年近くも、自然界が繰り返してきた営みだ。

 

 その島々の中でも、一際大きい島。

 まるで丁寧にホットケーキの生地を垂らしたかのような、円形に近い島。

 その島の北端の砂浜。そこに今夜は似つかわしくない……雑音が混ざっていた。

 

 ◇

 

「どこを触っているのよ! 馬鹿!」

 

 波打ち際をぱしゃぱしゃと歩く人影の中から、元気な少女の声が響いた。

 人影の大半は纏ったローブが所々破れ。

 肌が露出して砂まみれではあるが、魔法使いを思わせる格好をした少女達だ。

 

 先程から少女達は――必死に身体と口を動かし。

 自由を奪った者達に抵抗していた。

 

 少女達の背後では、少女達を縛り上げた黒い腰縄を握る者達。

 銀色の甲冑を纏い、腰に片手剣を携えた完全武装の兵士達数名が。

 少女達に罵倒されながらも、波打ち際を歩き。

 目的地である、連絡艇の止まる波打ち際に向かっている道中だ。

 

 だが、流石に頭にきたのだろう。

 兵士の中の一人が、語気を強めて言い返した。

 

「この盗掘目当てのクズどもが! 聖地を派手に荒らしたのに、殺されないだけ有り難く思え! お前たちで生存者は最後だから、さっさと連絡艇に乗り込め! この命知らずどもが!」

 

「何がクズだ! 私達は『冒険者』だ! 出来て数百年程度の帝国の兵士風情が偉そうに――」 

 

兵士達は、高値で売れる古代兵器の残骸を盗掘に来た者達。

神々の戦争の時代から存在する職業。

自ら危険と寄り添う宿命を背負い。

高額な報酬を求めて冒険者になった、ある種の無法者達をこの島々。

 この世界で生きる人々が聖地として認める、この地からつまみ出している最中だ。

 他にも、内陸部の砂丘の麓付近では、足元の砂上に転がっている……遺体や肉片の回収も兵士達が行っている。

 

 要はこの場所で行われていた、戦闘行為の後始末が兵士達の任務だ。   

 

 既に冒険者の大半は武装解除を終えて、沖に浮かぶ輸送船に移送され。

 簡単な取り調べの後。この聖地を管理する、国際組織の『教会』に引き渡し。

 そこから所属する、各冒険者ギルドの迎えを待つだけだ。

「よし、出してくれ!」

 最後に乗り込んだ、兵士が指示を出した。

 

「変態! 人の尻を触るな!」

「ふざけんな! 貴様らが素直に乗船しないからだろうが! マジで海に放り込んで海竜の餌にでもするぞ!」

 

 連絡艇はジタバタと抵抗する、冒険者の少女達と兵士達を乗せ。

 沖に浮かぶ輸送船に向けて、白い軌跡を海面に刻み。

夜の海を進んでいく。

 その頃、内陸部に幾つかある砂丘の一つ。

 

 その麓では兵士達が集まり……別の任務を遂行していた。

 

 ◇

 

「あ、あぁあああ!」

 

 砂上で仰向けになり、苦痛に悶え。

 ギシギシ小刻みに動く……女がいた。

 女は徐々に呼吸を荒げていく。

 

「あっ! あっ! ああぁあああぁああ!」

 

 悶える女……その周囲は人影で包囲されていた。

 その人影の主達は皆、銀色の甲冑を纏い。

 短槍を片手で握り締めた者達。腰に片手剣を携えた兵士達が、半々の割合であった。

 兵士達に包囲され、悶える女の傍。

 そこには片膝をつき、女に手を向け、白い光を当てる……若い兵士がいた。

 

 若い兵士は額に汗を垂らし。

 空いた方の手で汗をぬぐい。

 口元を動かし。

 ブツブツと何かを呟いている。

 

 その呟く言葉……それは彼や、この世界に住まう人々が、信仰の対象にする存在。

 この世界に絶対的な秩序をもたらした、女神を称える祈りの言葉であった。

 

 だが、その祈りの言葉。

 それは傷ついた人々を癒す技術を包み込んだ、単なる様式美に過ぎない。

 癒しをもたらす技術の正体。

 それは太古に神々が、この惑星で多くの種族を巻き込み行った戦いの末。

 この世界に残された、魔術と呼ばれる技術の一部だ。

 

 その中でも、習得と得られる成果に個人差が大きい回復魔術。

 それを扱える若い兵士は、周囲の兵士達も認める。

 

 将来有望なエリートだ。

 

 若い兵士は回復魔術を起動させる詠唱をやめ。

 徐々に起動した回復魔術を、停止状態に移行させていく。

 それに併せて、女に向けた手の輝きは薄れ。

 緊張の糸が切れた……若い兵士は口を開いた。

 

「よし、これで治療は完了――――!?」 グシャァアア!

 

 

 女神を称える祈りの言葉を閉ざした。

 将来有望な若い兵士。

 彼は次の瞬間、何故か。

 

 …………宙を舞う肉片になった。 

 

 若い兵士が肉片に変わり、宙を舞う前後。

「うがぁあああああああああ!」

 何かが弾けるように叫んだ。

 それは若い兵士が治療を続けていた……女だった。

 

 女はその手の爪先に生やした『ナイフのような爪』を乱暴に振るい。

 傍らにいた若い兵士を瞬く間に――肉片に変えていたのだ。

 

「ああぁあああぁああ!」

 

 立ち上がった女は何度も叫び。

 爪をブンブン振う。

 爪の生み出す斬撃は砂を巻き上げ。

 砂煙を生み出していく。

 

 ベチャベチャ! 

 

 砂上には瀕死の重傷を負っていた――女の傷を回復魔法で癒し。

 癒した相手の手によって、肉片になった。

 ……若い兵士の真っ赤な血潮と臓物、肉片が降り注いだ。

 

「くそっ! 衛生兵が殺られたぞ! 距離を取れ!」

 

 兵士達の中でも、少数の部下を持つ者は回避行動を指示。

 兵士達は回避行動を開始。

 手に握る武器に力を込めていく。

 兵士達が仲間の衛生兵を殺した脅威。

 

 女に殺気を向け始めた……瞬間。

 

「このっ! 蛮族がぁあああああああ!」

 

 

 顔面にX状の刀傷を刻み込んだ、一人の中年男性が怒りを爆発。

 ザワッ――兵士達は一瞬動揺した。

 何故なら怒りを爆発させた中年男性。

 

 彼は兵士達を指揮する、隊長だったからだ。

 

 兵士達からは、冷静沈着な人柄で、取り乱す事もない。

 経験豊富な指揮官として、部下から信頼されていたから、尚更だろう。

 とはいえこの隊長が、上層部から受けた命令。

それは戦闘狂で有名な異種族の女。

 この聖地へ国教の司祭が非公式に海外派遣していた、特殊部隊の生き残り。

 

 隊長が蛮族と罵倒した……女の救助だった。

 

 だが、自分の娘と同じ年齢の衛生兵。

 それも新兵の頃から、面倒を見てきた。

 笑顔が可愛い…………青年を目の前で殺され。

 隊長の怒りは軍人としての使命感。

 責任感を超越したまま、口を開いた。

 

「構わん! その蛮族! ガルーシャを始末しろぉおおお! 総員戦闘用意!」

 

 怒りに震え、涙を流す隊長。

 彼は救助対象である、ガルーシャの救助を止め。

 目の前の敵(ガルーシャ)を倒すことを優先。

 上層部には錯乱した、ガルーシャを自衛上。

 やむを得ず処分したと、正直に報告するだけである。

 

「応!」

 

 仲間を殺された兵士達。

 彼らは指揮官である、隊長の命令に呼応。

 短槍を装備した兵士はそのまま短槍を構え。

 残りの兵士の半分は、一斉に腰から――片手剣を抜刀。

 中段や上段で構えつつ。

 

 ……ガルーシャとの間合いを取り始める。

 

 更に残りの兵士は腰のポーチから、銀色をした金属製の筒を左手で取り出し。

 握り締めたまま、前方に突き出していく。

 

 カチャカチャ!

 

 兵士達が突き出した筒は自動変形。

 銀色の金属製の短弓が瞬くに――兵士達の手元に握られていた。

 弓を手にした兵士達は、ガルーシャと距離を取り――弓を構え。

 手馴れた手つきで弦を摘み、赤く輝く光の矢。

 

 殺傷能力を秘めた、魔力矢を生み出し――弦に添え。

 ガルーシャに照準を定めていく。

 

 カッ――! 

 

 弓兵の兜に備え付けた、照明術式も一斉に起動。

 回復魔法以上に強力な光線が、何本も女を照射していく。

 照明が照らす、砂煙は徐々に薄れ。

 大柄ながらも女を思わせる、人影が…………砂上に顕れた。

 

 それは返り血で全身を染め上げた、おぞましい……姿のライトアップ。

 

 全身は紫色の鱗で覆われ、二本の角と赤色の髪を頭部に生やし。

 猫のような形状の瞳……先端の割れた長い舌。

 明らかに、人とはかけ離れた異形の姿。

 それはこの世界では、戦闘狂で有名な種族。

 竜人族の戦場での姿だった。

 ガルーシャは、興奮気味の呼吸を整え……兵士達を睨みつけ。

口を開いた。

 

「帝国の雑兵如きが……この私に逆らう気か?」

 

 罵倒された隊長は怒りに――殺意を添えて――口から放った。

 

「この蛮族がぁあああ! 俺の部下を殺しやがって! 攻撃開始!」

 

 かくして、怒りに震える隊長の号令で、戦いは始まった。

 辺りには暫し――斬撃音と爆音――雄叫び。

 断末魔の声が……鳴り響いた。

 

 

 そして――数分後。

 

 

 砂上に残ったのは、兵士達だった肉片。

 甲冑だった金属が歪な形状でひしゃげ。

 肉片や砂と混ざり合った、グチャグチャの残滓。

 へし折れた剣や短槍、無残な姿へ変形を遂げた短弓。

 

 そして、救助に来た兵士達を一方的に殺戮した…………無傷のガルーシャだけだった。

 

「はぁ! はぁ!」ドサッ! 

 

 ガルーシャはたちくらみ……両手と両膝を砂上に着いた。

 その身は兵士達の返り血を浴び。

 更にドス黒く……その身を染め上げている。

 

 ギロッ「はぁ! はぁ……………………」

 

 ガルーシャの視界には、あるものが映った。

 それは彼女に致命傷を与えた、敵の武器が吐き出した物。

 

 黄金色をした円柱状の物体だった。

 

 ガルーシャに敗北を味あわせ、膝を屈させた憎悪の証。

 敵の痕跡を見つけたガルーシャの脳裏には、数時間前までここにいた敵。

 自らが仕留め損なった、対象の姿が再生され……憎悪を生み出していた。

 

 ドクドクドクドク

 

 時間と共に進む回想は憎悪を増幅させ。

 それに併せて高鳴る――ドクンドクンドクンドクン! 

 

 ガルーシャの心臓の鼓動。

 

 憎悪の回想が今に追いついた瞬間。

 彼女は――その口から怨嗟を含む――言葉を漏らし始めていた。

 

「――絶対に! あの魔女だけは『女神になる前に』私が――!」

 

 ガルーシャの脳裏。そこには憎悪を突き立てる対象の姿。

 名前で満ち溢れ――――憎悪が――――身体を震わせ。

 

――――ガルーシャは両腕を突き上げ叫んだ――――

 

「――――『マギサ』ぁあああああああ! 貴様だけは私が絶対に殺してやるからなぁあああああああああ!」

 

 憎悪と殺意を纏ったガルーシャは、陽が落ちる数時間前に仕留め損なった獲物。

マギサへの憎悪と殺意を夜空に咆哮させていた。

 

 

<第一話 マギサに託された輝き>(約9154文字)

 

 

 紫のローブで全身を覆い隠した、一人の少女が青空の下。

 白い砂浜の先に広がる、真っ青な大海の先。

 

 水平線に瞳を向けて、眺める先で揺れる海面の如く。

 ……己の感情を揺さぶっていた。

 

 少女の感情を揺さぶる源は、鎖とでも言うべき言葉の羅列。

 太古から語り継がれ、人々を動かす為、或いは縛る為に生まれた決まり事。

 人々が世界を形作るのに必要な掟だった。

  

 ◇

 

 私の生きるこの世界、ここには遥か昔から引き継がれ。

 人々が幼き頃から聞かされる……『女神の掟』と呼ばれる、決まり事がある。

 そして、その掟に基づき、世界と人々は動き出そうとしている。

 ただ残念なのは、その掟が適用される状況は、人々が争う時。

 

 ――世界の覇権を手に入れる者(女神の代理人)を決める戦争が起きる時だ――

 

 だからこそ、こんな内容なのだろう……私は教えられた掟の暗唱を静かに始める。

 

 ――女神の奇跡を統べたい者達よ――

 

 <女神の奇跡を統べたい者達よ。武器を携え、黒き炎が生まれた、始まりの丘に集え>

 <女神の奇跡を統べたい者達よ。黒き炎に両手を入れ、汝の輝きを受け取れ>

 <女神の奇跡を統べたい者達よ。汝が手にした輝きには、戦いの軌跡が鎖として紡がれる>

 <女神の奇跡を統べたい者達よ。戦いの期間中の奇跡は行い難いものと心得よ>

 <女神の奇跡を統べたい者達よ。女の参戦者は女神に敬意を払い、魔女を名乗れ> 

 <女神の奇跡を統べたい者達よ。一つの陣営で女神になれる魔女は108人までだ>  

 <女神の奇跡を統べたい者達よ。参戦する陣営の数は108までしか許されない>

 

 他にも掟はあるが、私には好きな掟がある。

 それは昨日、母にも言われた次の掟だ。

 

 ――女神の奇跡を統べたい者達よ――

 

「汝の手にした輝きを……最後まで守り抜け……か」

 

 少女は昨日の早朝、母を亡くした。

 母は亡くなる間際、この世界ではおとぎ話の題材にもなる魔術。

 古の時代から残された、特殊な魔術を一人娘である、少女に託した。

 託された魔術は、少女に悲しみに暮れる暇も与えず。好奇心を与え。

 少女の心に、ある決意を生み出していた。

 

 ――お母さん――

 

 生まれたばかりの決意が、少女の思考の表層に浮かび上がり、口から出そうになった瞬間。

 少女の耳元に装着した、真っ赤なイヤリングから、女性の声が優しく……流れた。

 

『マギサ様、民衆が広場に集まりつつあります。念の為、今のうちに控え室へお越し下さい』

 

 その声の主は、少女がよく知った女性。

 乳母であり、姉のように慕う女性の声だった。

 マギサは彼女の笑顔と名を思い浮かべ……口を開いた。

 

「直ぐ行くわ。ミリサ」

 

 マギサは足跡を残し……白い砂浜を進んでいく。

 心の中に生まれたばかりの、赤子の様な決意を抱えたマギサ。

 その頬を潮風が優しく撫でた。

 マギサはくすぐったい感触に促され。

 笑顔になって言葉を漏らした。

 

「……お母さん、私も女神になります」

 

 マギサは女神に近付く決意と理想を抱えたまま。

 笑顔で白い砂浜を去っていった。

 

 この日の夕刻、マギサは夕日を背にして、民衆に演説を行い。

 鳴り止まない声援の中、マギサは母が残した領地。

 海辺の小国を受け継いだ。

 

 

 ――約二年後――

 

 ◇◇

 

 

 夕焼けに染まる、海辺の砂浜。

 そこでは多くの人影がざわめき。

 手に握る何かを振りかざし、或いは勢いよく突き。

 それらの動きの交差点では、火花が何度も勢い良く飛び散り。

 金属の衝突音を幾重にも鳴り響かせ。

 

「うがあぁあああぁああ!」断末魔の叫びと、血飛沫を敗者から絞り出していく。

 

 片方の勢力は、全身を銀色の西洋風の甲冑で身を固め。

 その片手には剣や短槍が握られている。

 もう一方の片手には、丸い金属製の盾が握られた、完全武装の状態だ。

 盾の表面には、雪の結晶のような模様が刻まれ。

 何やら、うっすらと赤く輝いている。

 

 皆、ほぼ同じ装備をしていることから、兵士のようだ。

 兵士達の数は、数百名近い。

 陸軍でいうところの、歩兵中隊に匹敵する、編成といったところだろうか。

 

 そんな完全武装の兵士達と最前線で戦う者達。

 その手には、使い込まれた感じの漂う、様々な武器が握られている。

 それは長さや形状も、更に様々な剣や斧、槍、などの雑多な武器だ。

 

 しかしながら、軽装な姿ながらも、各々に合った武器を使い。

 それなりに戦い慣れた彼らの姿。

 それは、21世紀前半の日本人が好きな異世界小説に登場する者達。

 手練れた冒険者を思わせる、ファンタジーな姿だ。

 この雑多な武器を手にした者達を擁する、その武装集団の規模。

 

 その総数は百数十名弱程だろうか。少し戦況的にこちら側が、劣勢な感じではある。

 この両勢力の規模の違いから、冒険者を思わせる武装集団を攻める側。

兵士達を指揮する者が、攻者三倍の法則を意識して、軍事的に攻めているのも。

冒険者を思わせる武装集団の側から、劣勢な感じが漂う原因であろうか。

 

だが、冒険者を思わせる武装集団も、集団戦に関して兵士達に劣るわけではない。

 

彼らは後方の砂丘の一部に材木や土嚢を積んで組み合わせ、簡易ながらも陣地を構築。

 陣地の中や周囲では、兵士達と距離を取り、何やら両掌を輝かせて、兵士達に向け。

 必死に何かを叫びながら、一定の間隔で主に火球、光球、氷塊を連続して生じさせ。

 兵士達に向けて発射する、魔法使いの様な攻撃をする繰り出す者達。

 

 若い顔立ちの少女達もいる。

 

 少女達は色とりどりの三角帽を被り、帽子と同色のローブを羽織っている。

 ローブには様々な、雪の結晶のような模様が刺繍され。

 少女達が魔法のような攻撃を放つたび、その刺繍は輝きを放ち出す。

 少女達の両掌から発射されるのは、圧倒的に火球、光球、氷塊が多い。

 だが、少女によっては、光り輝く青い光の矢。

 ビーム状のエネルギー兵器を思わせる、そんな攻撃を両掌から発射する少女もいる。

 

 そんな少女達の両掌から発射する、攻撃の効果は凄まじい。

 

 火球が砂上に着弾すれば、火炎瓶を連想させる炎を生み出し。

 光球が砂上に着弾すれば、着弾地点を中心に空間に電撃が走る。

 氷塊が砂上に着弾すれば、着弾地点に深くめり込み。

 

 そして――青い光の矢が砂上に着弾すれば――着弾地点には大穴ができる。

 正に魔法と呼ぶにふさわしい。

 

 強力な攻撃だ。

 

 だが、少女達の攻撃の大半は、兵士達の盾に当たると、瞬時に赤い霧に変化。

 無残にも霧散してしまう。必死になって放つ攻撃が霧散する度に。

 少女達の表情は焦りの色を強めていく。

 

 

 それでも極まれにだが、兵士達の防御動作より早く。

 無防備な兵士達の顔面に攻撃を撃ちこむ、事態も起きる。

 撃ち込まれた兵士は、頭を派手に炎上、感電、頭部が弾けたりしていく。

 或いは氷塊が当たり、首をへし折られ、運が悪い兵士は直上から氷塊が直撃。

 頭部と首が潰れて、砂上に崩れ落ちていく。

 

 そんな地獄絵図が、時折垣間見える。

 だからこそ、兵士達の防御動作も、必死なものだ。

 

 だが、今からでも、全ての兵士達の顔面に、確実に攻撃を撃ち込むだけの余力。

 余裕が少女達にあるのなら、その顔の焦りの色は、ここまで強くないはずだ。

 何やら自分達の余力への心配以上に、何かを強く。

 

……焦っている感じが伺える。

 

 一方、完全武装の兵士達の一部は、波打ち際に聳える、一際高い砂丘に陣取る人影。

 数名の人影をジリジリと慎重に包囲していた。

 

 人影の背後には夕焼けに染まる、波の穏やかな海が広がっている。

 正に背水の陣とでも言うべき、状態だ。

 だが、この砂浜には、そんな逃げ場なき場所に漂う、独特の悲壮感。

 それらは包囲されている側、人影には皆無のようだ。

 

 波打ち際には、何やら青く光り輝き。

 回転を続ける、大きな円状の魔法陣の様なものが展開されている。

 包囲されている何人かは砂丘の斜面を急いで下り――魔法陣へ飛び込み消え失せていく。

 

 

 包囲され残った人影の中の一人は、兵士達に向けて黒い物体を構えている。

 その物体は規則正しく駆動を続け。

 小さな乾いた金属音と一緒に、何かが激しく弾けて生み出す大音量。

 空気を切り裂く音も、周囲に鳴り響かす。

 

 それらの激しい音を連続して放つ、黒い物体の上部。

 その駆動部分は、やたら激しく前後に動き。

 右側面からは、煙を微かにあげる物体。

 黄金色をした、金属製の筒を大量に吐き出し。

 駆動を続けて空気を揺さぶり、切り裂く唸りを上げていく。

 

 兵士達に向けられた黒い物体の先端部からは、小さな炎が点火と消滅を繰り返し。

 その先端を向けられている兵士達は姿勢を引くし、砂浜に伏せ。

 先端から飛んでくる何かに極度に怯え。

 盾を無防備な顔面を守るように構える、防御体制を強いられているようだ。

だが、それもそうだろう。

 既に包囲している兵士達の前任者達は、顔面を何かにズタズタに貫かれ。

 頭部が粉々に砕け、脳漿と血潮を砂上に散乱。

 死体の仲間入りを、部隊単位で果たしている、無残な有様だ。

 唯一の救いは血潮と脳漿の臭いを和らげる、潮風の香りと、火葬のような夕陽の陽射しが、この無残な光景を包み込み。夜へと移り行く事だろうか。

 

 少女達の魔法以上に、死骸を量産する、強力な飛び道具。

 強力な破壊力を秘めた武器を手にして、兵士達に立ち向かう人影。

 

 そんな恐るべき人影を包囲している、兵士達の最前列。

 そこには、戦友達の亡骸に隠れ。砂浜に伏せている兵士とは対照的に。

 やけに目立つ、大柄なひとつの人影が、身を隠せるほどに巨大な塊。

大剣を握り締め。振り回していた。

 

 大柄な人影の正体、それは腰に茶色い皮製の腰巻を巻いただけの女。

 軽装でスタイルのいい、長身の女だった。

 ただし、その女の見た目は肌からして、人間とは明らかに違う。

 

 真っ青な鱗がビッシリ全体を覆い、真っ青な肌をしているのだ。

 頭部には頭髪が生えているが、その色も人間とは違いすぎる。

 紫で肩にかかるくらいの短髪だ。

 瞳は猫を思わせるような鋭い瞳。

 口元では、先の割れた爬虫類を思わせる舌で、舌なめずりをし。

 不気味な笑みを浮かべている。

 

 宛ら、マッドサイエンティストが生み出したキメラ。

 爬虫類と人間の混雑種を連想させる女は、敵が放つ攻撃の豪雨を、天然の甲冑である鱗と。

 大剣の刀身で防ぎながら、敵の武器の唸りに負けない声量で、乱暴に叫んだ。

 

「異邦人ども! 逃げんじゃねぇ――チッ!」

 

 女は顔面に高速で飛んできた何かを、空いている片手で受け止め。

 握り締めた掌を開き、捕まえた物体を一瞬視て。

 

 ――砂上に投げ捨てた。

 

 それは大きく変形して、花開いた形状の金属の粒手。

 その姿はこの物体を生み出した、こことは違う異世界。

 女が異邦人と呼んだ者達の世界で生み出された、武器の放った物。

 その正体はマッシュルーミングと言われる、着弾後の状態になった銃弾。

 

 小口径高速弾(フルメタルジャケット)軍隊等で使われる、銃弾の類いだった。

 

 女は若干痺れが残る、手と腕で顔面を銃撃から守りつつ。

 大剣を砂上に突き刺し。

 激しさを増した砂丘頂上の攻撃。

 銃撃から身を守る為に、大剣の陰に隠れ。

 叫びを上げた。

 

「いい加減お前たちも女神の加護無き! この聖地での死を素直に受け入れろ! これだけ骸の山を作って、無事に逃げられると思うなよ!」

 

 その叫びに反応したのだろうか。

 女への銃撃は、旋律を複数の機銃掃射(クロスファイア)に変えて、激しさを増していく。

 掃射に切り替わった銃撃の猛攻は、砂上に転がる死体や肉片を無慈悲に砕き。

 血肉と骨、砂とを混ぜ合わせていく。そんな無慈悲な掃射を始めた一人の男。

 

 彼は黒髪短髪で年齢は三十代前半位だろうか。

身長は180センチ弱、砂漠戦用の迷彩服や防弾ベスト。

デザートブーツなど、現代戦用の装備をしている、東洋人男性だった。

 

この場では明らかに自他共に異邦人と認めるこの男は、異世界の砂丘の頂上で。

敵に向けてカービン銃を構え。

 銃爪を引き絞り、銃声を奏でつつ。

 舞い上がる砂塵を口に含み。脳内のアドレナリン分泌を全開にしたまま。

 男は日本語で叫んでいた。

 

 ◇

 

「このクソアマがぁあああああああああああああ! さっさと逝きやがれぇええ!」

 

(なんだ、あの化物は……翻訳魔術が機能しない言語とか、こっちで蛮族の扱いを受けている類の種族か!?) 

 

 射撃の最中、一瞬だけ冷静になった男の意識。

 その微かな思考の余裕は、敵をカービン銃で狙いつつも。

 銃爪を引き絞りながら、インスタントに状況の解析を開始。

 

(手持ちのカービン銃だけでなく、ドローンに積んだ機銃。ミニミの一斉掃射も開始したが、動きを止めるので精一杯かよ! サイボーグでも相手にしている感じで、気味が悪いぜ! この――)

 

 男はカービン銃に装着した、バンプファイヤーストックの摘みを捻り。

 

「クソッタレがぁああああ!」

 

 古典的な擬似連続射撃を開始。

 乱暴な擬似連続射撃(バンプファイヤー)は瞬く間に――黄金色の薬莢数十本を男の眼前で乱舞させた。

 弾倉も吐き出される薬莢乱舞に合わせ、空になっていく。

 

「リロード! テイクカバー!」

 

 男の声に反応して、射撃をやめていたドローンの一部が射撃を再開。

 砂の中からもカニのような形状をした、数機のドローンが現れ。

射撃の戦列に加わっていく。

 

 男はリロード時の隙を減らす為。

 少し屈みながら、砂まみれのドローンに近付き。

 ドローンを盾にする。

 カービン銃を右手で構えたまま。

 空になったカービン銃の弾倉を、左手でリリースして掴み。

 左腿のダンプポーチに押し込む。

 そして、胸元の予備弾倉を左手の指先で摘み。

 カービン銃へタクティカルリロード。

 リアサイトの下にある、チャージングハンドルを引き。

 初弾を薬室に送り込む。

 今度は銃爪を一回引き絞る度に、乾いたセミオート射撃の銃声を響かせていく。

 

(もう、胸元の予備弾倉も残り少ない……だが落ち着け)

 

 男は殺意と興奮で焼け付きそうな、思考回路を動かし。

 自らの目的を、舌の上でザラつく、砂塵の感触と共に再確認した。

 

(俺はここで、銃爪を引き絞り続けなくては……いけない!)

 

 タタタ! 

 

(少なくとも! 眼下の砂上で戦っている仲間、その中でも、波打ち際で青く輝くゲート。転移陣に飛び込み、俺達のいた世界に行くべき者達……仲間の地球への転移……それだけは!)

 

 カチッ――ガチャ――ジャキン。

 

(その瞬間までは、絶対にこの弾幕を維持してやる!)

 

 タタタタタタ!

 

「うぉおおおおお!」

 

 男の視界には、夕陽に照らされた砂浜。

 着弾して舞い上がる砂塵。

 自ら作った敵の死体、散乱した肉片と血潮に臓腑。

 銃口付近で何度も輝く閃光(マズルフラッシュ)と乱舞する薬莢。

 

 そして砂丘の直ぐ下の砂上で銃を使い。

 苦戦しながらも敵と戦う……仲間の姿が映っていた。

 

 ◇

 

「くそがぁあああ!」

 

 

 悪態を吐きながらも、砂上でPDW(パーソナルディフェンスウェポン)に分類される銃。

 ドイツ製の短機関銃をセミオートで撃ち。

 小刻みに弾丸と薬莢をばら撒く、東洋人の青年がいた。

 彼もまた、砂丘の頂上で銃を撃つ男と同じく。

砂漠戦用の迷彩服、防弾ベストやデザートブーツを履いている。

 ……だが、彼の動きは妙だった。

 彼は砂上をホバリングし――時速数十キロの速度でジグザグに疾走。

 

 しかも射撃をしながら、後ずさりの姿勢でも疾走する有様だ。

 砂上で砂の波を巻き上げ疾走する、その姿と近代兵器である銃火器の組み合わせは、素直に奇妙と言わざるを得ない状況だろう。

 

 彼は短機関銃を片手撃ちに切り替え。

 セミオート射撃で――砂中に潜む敵に向けて継続。

 空いた片手で、装着した無線機。

 インカムのスイッチを押し。

 口を開いた。

 

「こちら義明! マギサ聞こえるか! このままじゃ俺や矢島、ドローンの弾薬が尽きてしまう! お前だけでも先にゲートに飛び込め!」

 

 マギサと呼んだ人物へインカムで呼びかけた義明。

 彼は空になった弾倉を砂上にストンとリリース。

 

『こちら矢島! 義明とオチビのコンビも戦闘継続がやべぇ状態だ。マギサ!』

 

 砂丘でドローンを従え射撃を継続する、矢島も砂上で疾走する義明と。

 その相棒である、オチビと認識する存在の戦闘状態が、危うい事をインカムで伝える。

 既に砂上には、義明のリリースした弾倉が、十数本も突き刺さり。

 

 宛ら位牌か、小さな墓標の様になっている。

 

 そんなモニュメントを砂上にもう一本増やした義明。

 彼は短機関銃のコッキングレバーを引き。

 連続射撃をしながら――口を開いて、傍で共に戦う相棒に呼びかけた。

 

「なぁツバメ! もっと早く機動できないのか!?」

 

 義明は機動射撃の最中も首の裏。

 うなじにガッチリとしがみついた、小さな美少女フィギュア。

 否、透明な羽が生えた、ロングの黒髪が似合う。

 生きた相棒に話しかける。

 その直後、義明の装着している骨伝導スピーカーには、美少女を思わせる。

 相棒の声が響いた。

 

「無茶言うな! 大体ここは聖域だから! 魔力が扱いにくい場所なの! お前の射撃の腕前で、この状況を何とかしてくれよ!」

 

「それこそ無茶言うな!」

 

 義明は相棒との会話を終えると素早く――牽制射撃で弾倉一本を使い。

次の行動に移った。

空になった弾倉をリリース。

 

 腹にある弾薬ポーチから、弾薬が40発装填可能な弾倉を短機関銃に装着。 

 左手でセレクターレバーを操作。

 そのまま両手で短機関銃を構え。

 砂中を素早く動き――砂上に飛び出す形で――姿を顕した『敵の生き残り』に向けて発砲。

 タタタタタタ!

 砂上にフルオート射撃の銃声が鳴り響いた。

 

「グギャァアアアア!」

 

 フルオート射撃は不気味な叫びを砂の中から捻り出し。

飛び出した敵を仕留めていた。

 敵は身体に数十近い銃創。

穴を空けて、砂上に緑色の体液と臓腑を散乱させ。

 ……ピクピクしていたが。ガバッ――砂中から死骸と同じ姿をした、生物が数体顕れ。

 死骸に群がり、グチャグチャと口元を動かし……貪り始めていく。

 それは砂漠戦仕様の迷彩服以上に、細かい迷彩パターンを肌にする生物。

 子供くらいのサイズをした、人型生物。

 

ザバッ! その内の1体が義明目掛けて跳躍。

 

 タタタ! だが義明に射殺されて頭部が粉砕。

 砂上で転がる死骸の仲間入りを果たし。

 

グチャバキグチャバキグチャ! 生き残った仲間達のディナーに早変わりしていく。

 

「クソッ! 西ドルア軍の放ったデザートゴブリンはまだいるのかよ! 急げぇえええマギサぁあああ!」

 

 西ドルア軍。この世界で列強に数えられる帝国の軍が、品種改良の末に生み出した砂漠戦用の対人生体生物兵器。デザートゴブリンが戦場で遺憾無く、凶暴に暴力と脅威を振りまく姿だった。

 

 ガシャ! 既に残りの弾倉を装着した義明。

 彼とツバメは死骸に群がる、デザートゴブリンを掠める様な軌道をジグザグに描き。

 フルオート射撃を再開。

 その直後、義明の数百メートル先の左翼側後方陣地。

そこで魔法を放っていた少女達。その集団の中から……一人の少女が押し出された。

 

 

 ◇

 

 ドスッ!

 

「マギサ! 彼氏が待っているわよ!」

「でも! それじゃこの陣地のみんなが!」

「ふざけるな! あんたは女神になるんでしょ!」

「さっさと転移陣の先に行け! 馬鹿マギサ! 絶対……女神になれよ!」

「……うん!」

 

 一人の少女が仲間に励まされながら、陣地を離脱していく。

 それはこの陣地から、青い光の矢を撃ち出す射手。

 女神になる事を仲間達と誓い合った、一人の魔族の少女。

 マギサが離れる事と……同義だった。

 

「はぁ! はぁ!」

 

 マギサは胸元の動きを、片手で抑えながら斜面を降る、走りのペースを上げ。

 胸元のインカムのスイッチを押し、呼びかけた。

 

「こちらマギサ! 陣地を離脱! みんな……私……絶対……女神になってやるから! だから――!?」

 

 マギサのインカムと大気を伝って、耳に聞こえてきたのは――仲間達の咆哮。

 勢いを増した――詠唱の叫びと爆音――彼女が向かう先にいる男。

 マギサが愛している男の奏でる銃声だった。

 

「はぁ! はぁ!」

 

 マギサは走った。

 愛する男が銃声を奏でる場所へ、全力で駆けていく。

 一瞬だけ、マギサの視界に砂中から飛び出した影が複数映り――飛びかかってきた。

 だが、その影は瞬時にして――見えない壁にグシャっと衝突。

 飛びかかってきた影は、青い閃光を放ち。

粉々に砕けながら燃え尽きていく。

 

「くっ!」

 

 マギサはこの世界の魔族が、命の危機に際して扱える防御魔法。

 他の魔法と違い、詠唱や事前詠唱による装填が不要な魔法。

 自動発動する、防御魔法の反動を直に、痛みとして受けとめていた。

 本来なら、幼少時に事前装填される中和魔法で、反動は完全に相殺が可能だ。

 だが、この場所が魔術の扱いにくい『聖域』である事が、それを一切許さなかった。

 マギサは激痛と共に走りながら、ここが聖域である事。

 ほぼ全ての魔法を使いにくい、環境である事に再度……歯がゆさを感じていた。

 

(デザートゴブリンの群れ如き……ここが聖域じゃなければ……辺り一帯の敵を纏めて駆逐出来るのに!)

 

 僅か数百メートルを走るだけだが、マギサは飛び掛るデザートゴブリンを数十体。

 追撃してきた帝国兵、数十人を防御魔法で強引に葬りながら、額から真っ赤な流血を流し。

 愛する男の前に到達していた。

 

「はあ! はぁ! 義明……行くわよ。あなたの故郷へ!」  

 

 マギサは息を切らしながらも。

砂上でホバリングをして銃を構える……義明に声を掛けた。

 

「ツバメ着地してくれ……」

 

 義明はホバリングをやめるよう、ツバメに伝え砂上に着地。

 既に元気に飛び回る事が取り柄の妖精であるツバメも、息切れ寸前で無言の状態だ。

 義明はマギサを左手で軽く抱きしめ……………………離すと口を開いた。

 

「なぁツバメ……マギサを頼んだぞ……」

「え? お前何言って――ムギュ!」

「きゃっ!」

 

 義明はそう言うと、うなじにしがみつくツバメを左手で掴み。

 疲れきったマギサの胸元に押し付け。

 短機関銃に最後のロングマガジンを装填。

 コッキングレバーを引き、初弾を薬室に装填。

 射撃体制を整え、セレクターレバーはフルオート。

 

 そして、短機関銃を構えたまま――――叫びながら駆けていく。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!」

 

 向かう先は矢島が陣取る砂丘の斜面から、機銃掃射を背中に受けつつ。

 激痛に耐えながら、鬼のような形相で下ってくる。大剣を両手で構えた人影。

 鬼と表するに値する、化物と衝突する軌道の交差点だ。

 続いて矢島の泣きそうな叫びと、機銃掃射も響く。

 

『お前ら逃げろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』

「ぐがぁあああああああああああ!」

 

 機銃掃射を浴びる鬼も咆哮。

 背中の鱗を何枚も砕かれ。

 真っ赤な流血を吹き上げつつ。

 構えた大剣を目の前に迫ってきた敵――義明に向けて振り下ろした。

 

「死ねやぁああああああああああああああ異邦人!」

 

 鬼の放つ斬撃に付随した効果。

 聖地でも、何とか使える魔力由来の剣圧が砂を巻き上げる。

 

 そして剣圧で――後方へ吹き飛ばされる義明。

 

 彼の視界には大剣を構え直し。

 自分を切ろうと、バッターの様に大剣を水平に降ろうとする敵。

 鬼がスローモーションで映った。

 

(いいフォームだ……だが悪いな……デッドボールの嵐だ)

 

 カチッ――タタタタタタ! 鳴り響く乾いた連続射撃音。

 

 義明の視界に映るのは、銃口のマズルフラッシュの輝き。

 黄金色の薬莢の乱舞。大剣を振り切る鬼の姿と斬撃の軌跡。

 銃弾が顔面に殺到して鱗が砕け、タコ殴りになる鬼の形相。

 眉間と片目に着弾した銃弾が、鬼の形相に風穴を空け――崩れ落ちていく光景。

 

 グシャ!

 

 そして左側面から、身体に衝撃を受け。

 歪む景色と、急速に近付く砂上。

 反射的に瞼を閉じ――生まれた暗闇。

 

「がはっ!」

 

 そして衝撃と激痛で声を漏らし。

 再度開いた――眼には夕焼けに染まる空。

降り注ぐ自分の流血と――駆けよってきた――マギサとツバメの必死な顔だった。

 

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 斬撃と甲冑の衝突する金属音。

魔法の生み出す、炸裂音や爆発音が響く中。

 黄昏と流血に染まった砂上。

そこには、女神になる事を誓った魔族の少女。

 マギサの声にならない叫びが……鳴り響いた。

 

 <第二話 アブダクション>(約5920文字)

 

 ――近未来の冬――時刻――夕方

 

 ――愛知県 名古屋市内 某駅前――

 

 ……ザワザワ……

 

 平日は通勤や通学に利用する人々が行き交う、とある私鉄の駅。

 だが、季節が年末だからだろうか。

 行き交う人影の中に、本物の学生服を着た少年少女の姿は少ない。

 代わりに私服を着た若者や、本日まで市内で開かれていた大規模な催し。

 同人イベントの影響だろうか。コスプレ姿の者達が増えている。

 宛ら過ぎ去ったハロウィンな感じすら、覚えさせる光景だ。

 そうなれば、年末特有の浮かれた雰囲気を色濃く。

 駅前に生み出しているのも。自然な流れだろう。

 そんな人々の流れの一部が留まる、入江のような空間が、この駅前広場の一角にあった。

 

 そこは駅前に店舗を構えるカフェ。

 その店内のカウンター席の端には……一人の青年がいた。

 

 青年は灰色のニット帽を被り、黒いジャケットを羽織っている。

 何年も着ている感じの漂う、色が所々落ちた青いジーンズで足を覆い。

 靴底が磨り減った白黒のスニーカーを履いた、身長175センチ弱の一人の青年だ。

 彼は数日物の無精髭を、片手のスラっとした指で時折触れつつ。

 上機嫌で……コーヒーを啜っていた。

 

 ◇

 

「ふぅ~」

 

 俺は気持ちを落ち着かせようと……白いカップに注がれ、白い湯気の柱が立ち昇る。

 真っ黒な輝きと、その内部に熱量を凝縮した存在。

 小宇宙とでも言うべき、黒い液体。

 ブラックコーヒーを少しずつ……飲んでいる。

 

 何故なら俺は小一時間前、大金を手にいれたのだ。

 興奮が冷めやまないのも、無理はないが……落ち着くのが先決だ。

 

 しかも俺は夏季連休前に、会社に人員整理の名目で解雇された。

存在を否定された、クソッタレな身の上だ。

 今月で失業給付も終了する、やばい状況下での大金ゲットである。

 因みに手に入れた手段は、馬が走る公営ギャンブル。

 財布の中だけでも、諭吉が百人程軽く入っている。

 

(さて、どうしたものか)

 

 とりあえず俺は、スマホを左ポケットから取り出し。

 指をスイスイと動かし送金用のアプリを起動。

 先月、お金を貸してくれた兄夫婦の口座に先ずは返済だ。

 使うのは最近拡がり始めた、ネットでの送金手段。

自称サトシさんが十数年前に公表した、ブロックチェーンとやらを応用したサービス。

金融と情報技術の融合した、フィンテックサービスを使い。

 

俺は諭吉を何人か秒速で兄夫婦の口座に送り込んだ。

 

 次は通販サイトのアプリを起動。

 兄夫婦の甥っ子と姪っ子に……密林な通販サイト経由で何か。

 プレゼントを贈ってやろう。

 

「童話の詰合せと……」

 

(お菓子の詰合せがいいかな。童話は桃太郎に一寸法師、浦島太郎、マッチ売りの少女。こんなところかな……)

 

 先程コンビニでPETボトル飲料一本、カロリーバー、板ガムを買うついでに。

 数万円分のギフト券を購入して、アカウントにチャージ済みだからプレゼントも余裕だ。

 まだ余裕がありそうだ。俺は指先を動かし、プレゼント用のラッピングを選択。

 少し口元がニヤっと動く感触を覚えつつ、注文を完了した。

 

(さて、どうしよう……兄夫婦への借りは返したし、一応、叔父らしい事も出来たかな)

 

 そうだ、このまま夜の街に向かい。

 いい女を侍らせ。勝利の宴を楽しむのも……悪くはないか。

 

(そう、先程目の前の雑踏を優雅に歩いていた、黒髪ロングの女子高生の様な女を――!?)

 

「お隣宜しいでしょうか?」

「ど! どうぞ」

 

 何という事だ。

 混みだした店内に、自分が脳裏に思い浮かべた人物。

 先程目の前を歩いていた、黒髪ロングの女子高生が登場。

 しかも隣に来て、話かけてきたじゃないか!

 

 俺は昨晩読んだWEB小説の主人公の如く。

 召喚スキルでも、身に付けてしまったのだろうか?

 いや、召喚出来ても使役出来な――マズイ! 

 

 俺の脳裏に一瞬だけ浮かんだ、如何わしい光景。

 それは股間のジュニアが元気を通り越し。

 暴発するかもしれない危惧を生み出し。

 俺の危機意識を起動。

 席から離脱する事を促し、俺の足を駆動させた。

 

(仕方ない! このまま店を出て風俗街にでも――?)

 

 俺が出口に視界を向けようとした刹那。

 

「すみません……少しだけお話よろしいでしょうか?」

 

 隣に座った、女子高生に笑顔で話しかけられていた。

 俺は速やかに着席……状況を読み。

 言葉を急いで装填――ジェスチャーも交え。

 口を開いた。

 

「いいけど、もしかして……お嬢さんも、このニュースが気になるの?」

 

 俺がジェスチャーで指さした先は、通行人が行き交うガラス壁の少し上。

 そこには、学校の黒板サイズに匹敵する、大型有機ELモニターがあった。

 この巨大モニターと、カウンター席の組み合わせも、このカフェが賑やかな要因だろう。

 

 実際、俺もこの巨大モニターを眺め。

 馬券を選ぶのが、失業期間中に習慣になったのだから。

 その客寄せ効果はかなりのものだろう。

 

「はい。とても気になりますね……特に失踪事件への各々の見解が、気になるのですが……毎週、掲示板やSNSのサーバーがダウンしていたら、つい……話が合いそうで、話しやすい感じのする方、あなたに話しかけてしまいました」

 

 女子高生は俺の質問に笑顔で答えてくれた。

 そして俺は気付いた。

 

(このお嬢さんはアレだな……冬休みで暇だから、おそらく背伸びがしたいのだろう。仕方ない、話を合わせてあげるか! 幸い俺は懐が豊かで上機嫌だからな~だが)

 

 流石に淫行条例が怖いので、この子が18歳以上でない限り。

 俺は紳士モードで望む事を強く意識して、口を開いた。

 

「なるほど。では、何か飲みながら話そうか……」

 

 俺はそう言うと、手を上げて店員を呼び。

 お嬢さんの分と合わせて、飲み物を頼んだ。

 俺はエスプレッソを一つ。

 お嬢さんはブラックコーヒーを頼んでいた。

 俺はコーヒーを飲むお嬢さんを片目で見守りつつ。

ニュース映像を眺める。

 

 スピーカーからは、見慣れた女性アナウンサーの声が漏れてきた。

 

『――本日、警察から発表があった、連続振り込み失踪事件の失踪者は、今週だけでも、百数十名弱が失踪しているものと思われ、金融庁は該当する口座の――』

 

【連続振り込み失踪事件】

 

 事件の発生当初は主に、現役の自衛隊員が口座に多額の入金を何者からされ。

 行方不明になるという、前代未聞の事件であった。

 それだけでも前代未聞の事件であるが、振り込まれる金額も前代未聞の金額だ。

 入金される金額は、複数回に分けられ、一人あたり千万単位。

 多いもので億単位という、凄まじい金額が振り込まれている。

 なお、演習中に部隊単位や艦船単位で行方不明になっていない点から。

 戦国時代や、先の大戦中のミッドウェー海域に転移している可能性は早期に排除され。

 今現在ネット上では、異星人によるアブダクション説、異世界転移説など。

 秘密結社や某国工作員によるアブダクション説など、多くの真偽の疑わしい。

 様々な説が飛び交っており、最近ではその手の議論の加熱具合に合わせ。

 某掲示板や大手SNSのサーバーは、増強を繰り返してもダウンする。

 焼け石に水の状態である。

 当初は規模こそ、数十人程度だった。だが、今では既に自衛隊経験者も行方不明になり、約十万人弱が極めて短期間で行方不明になるという、世界的に見ても全く前例がない事件。 これが日本で起きている、連続振り込み失踪事件に関して、一般人が知り得る概要だ

 

 当然ではあるが、世界中のマスメディア、諜報機関。

 国内外の各種人権団体、政治団体もこの事件には注目している。

 

(なんだ……アナウンサーの表情がおかしいぞ?)

 

 何やら引きつった表情になった、アナウンサーが読み上げる最新の情報によると。

 どうもここ最近、行方不明になる人間は警戒レベルが上がった自衛隊関係者から変化。

 

 サバイバルゲームが趣味の人間や、FPSゲームが趣味の所謂。

 軍事オタクなどに変わり、既に先程の自衛隊関係者を上回る勢いで行方不明になっており、振り込まれる金額も既に総額が、数十兆円に達し。

 行方不明者の総数が百万名に近づき――ん?

 

(ちょ……失踪者多すぎ!)

 

 だからだろうか。アナウンサーの声色までも、震え始めている。

 急いでADに渡された、手書きのメモを持つ。

 マニキュアで彩られた指先や手元も震えている。

 

 失踪者の劇的な増加。

 それに伴い、失踪者関連の特別措置法で警察庁に設置された、特別捜査本部の名称も【自衛隊関係者振り込み連続失踪事件対策本部】から【自衛隊関係者及び軍事オタク等振り込み連続失踪事件対策本部】に変更されたようだ。

 放送は別の特設スタジオに変更。

 専門家っぽいおっさん達の解説が、参考映像と共に流れていく。

 

(てか、捜査本部の名称長すぎだろう!)

 

 しかし、明らかに尋常でない規模の国民が失踪。

 それと同時に莫大な金が、不自然な形で急激に動いている状況。

 流石に国会でも、この事件は度々、問題視はされていた。

 そして本日遂に与党と野党がこの事件の議論から、殴り合いの乱闘をしてしまう。

 異常事態になってしまったそうだ。

 既にその国会中継の映像を素材にした、MAD動画が既に大量アップロード。

 ランキングの上位を占める緊急事態に突入。

 動画サイトのサーバーも、非常に深刻な危機的状態である事も、速報で何故か伝えている。

 この状況でもダウンしないのは、先程俺が送金したフィンテックサービスにも使われているブロックチェーン技術を応用して、先祖返り的に復活を果たし。

サイバーポリスが血眼になって潰そうとしている、違法扱いを受けるP2Pソフト。

ファイル共有ソフトと、その繋がりが構成する群れぐらいだろう。

 

 一体犯人はどこの誰だよ……金バラマキすぎだろ。

 それにしても、失踪した人達。

 彼らは振り込まれた金を使えない。大変残念な状況だろう。

 いや、それ以前に自分のものじゃない、大金を手にいれても使う気にはならないか。

 

(それって、一体どんな状況だ……まぁ、失踪者が誰ひとり、未だに発見されてないのも、想像が膨らむ要素ではあるが……今の俺は自由に使える金を手に入れ、こうして、逆ナンしてきた女子高生とカフェで、会話を楽しめる立場だから――おっと!)

 

 俺は下衆で甘い悦に入りそうだった、思考を切り替え。

 エスプレッソの残りを……少しずつ飲む。

 隣のお嬢さんも、白い湯気の昇るブラックコーヒーを飲み。

 白いソーサー、皿にコーヒーの入ったマグカップを置き。

 口を開いた。

 

「あなたはどう思いますか? この失踪事件で消えた人達がどこにいるか……」

 

 何やら、お嬢さんの顔は笑顔だが……雰囲気が違う。

 だが、この感じに俺は覚えがある。

 リストラされた会社にいたオーク。いや、女上司が休憩時の雑談中。

 更に上の上司が来たら、こんな張り詰めた空気を放っていたのを、今更だが。

 ……思い出してしまった。

 

 まさか、このお嬢さんは社会人……いや。

 顔が若すぎる。だが、街中でよく見かける女子高生よりは落ち着いた雰囲気だ。

 服の感じや、着こなしなどから察するに。

 数日前から駅前に大量発生した、コスプレの偽女子高生とも違う感じを受ける。

 

 それに何より、他人に無関心な都市部で逆ナンをしてくる。

 女子高生という構図……それ自体も珍しい事だろう。

 

 しかし、この制服は……この辺りでは見たことがない制服である。

 それに駅前に溢れる、コスプレをした人達のような感じはしない。

 なんか普段着のように気慣れた。

そんな感じを……このお嬢さんから感じるからだろう。

 

 それに何より、このお嬢さんは小顔で目鼻立ちの整った顔立ち。

 スタイルもいい……つまり似合っているからだ。

 

 何かしら矛盾や違和感があるが。

 流石にこのルックスで、悪質なキャッチセールスや。

 宗教の勧誘はしてこないだろう。それにここは……そもそも店内だ。

 

(しかもカウンター席だからな。いざとなれば、店を出て行けばいいだけだ!)

 

 などと微かに、最悪なケースを想定した直後。

 俺も画面を見ながら、言葉を繋いだ。

 

「そうだね……」

 

 俺の会話に合わせてお嬢さんは軽く頷き。

 再びコーヒーを飲み始める。

 俺もその動きに合わせて、昨日某掲示板で見た情報を交え。

 言葉を紡いだ。

 

「未だに失踪した人々は誰ひとりとして、発見されていない……まぁ、自称失踪者で、今は異世界で、わがままな魔法少女達と女神の座を手に入れるために戦っているとか、某掲示板で主張している人々もいるけど、実に嘘臭い――」

 

 そういや昨晩は、そんな電波な輩がいる事をサーバーダウンの前に発見したな。

 久しぶりに掲示板を見て、哀れみを抱き。

 俺は笑いながら床についたのだった。

 

「ぶっ!」

 

 だが何故だろう? 

 

俺が言葉を全部出し切るその前に、お嬢さんはビクッと身動ぎ。

 コーヒーを吹き出しそうになっていた。

 

「お嬢さん、大丈夫?」

「ゲホッゲホッ! 失礼しました……どうぞ話を続けてください」

 

「……じゃあ、続けますね。後はどこから金を用意したのかなぁ~とか、自分もサバゲーが本格的に趣味だったら、行方不明になっていたのかな~なんて、考えながらこのニュースを見ていたよ」

 

「よく調べているようで驚きました……貴方はこの事件に興味があるんですね」

 

「まぁね。毎週テレビで特集も組んでいるし、ここ一年くらいは、この話題で某掲示板のサーバーダウンも恒例の現象だから、どうしても気になるかな」

 

「ところで……お尋ねしますが」

 

 お嬢さんはそう言うと、ブラックコーヒーの残りを飲み干し。

 真っ白な底が顕になった、カップをソーサーに置き。

 数秒の間を置いてから……口を開いた。

 

「あなたは幾らなら、もしくはどのような願いを叶えてくれるのなら……別の世界で戦う決意をしますか?」

 

「別の世界で戦う? ああ、行方不明で音沙汰ないってことは、そういう状況かもしれないね。そうだね~」

 

 

 俺は引き続き例の行方不明事件の特集をしている、モニターを見ながら考える。

 

(このお嬢さんはアレだ。少し中二病気味だな。失業中の俺は暇だし合わせてやるか……)

 

「最高の装備と互いに信頼できる仲間と上司、金は手に入るなら億単位で欲しいし、健康で若く長生きできて、毎日うまい食事に酒が飲めて、いい女が手に入れば最高だね」

 

 最後の部分は、女性相手には失礼だったか。

 ……でもないようだ。

 何やら真剣に考えている顔つきになっている。

 

 これが本物の中二病なのだろうか?

 しかし、目の前のお嬢ちゃんは可愛いから

 まだ許せるのだろうなと、ふと俺は思う。

 

「他にも何かありますか……その願い事は?」

 

 どうもお嬢さんの中二病は深刻なようだ。

 だが、懐が諭吉達で豊かになって優しい俺は、話を合わせてあげる事にする。

 

「そうだね、戦うって前提なら、死んでもゾンビや吸血鬼とかじゃなく、人間として若く元気に無制限で何回も復活できる、そんな特典があればいいかな~」

 

 俺がそう言うと、お嬢さんの目は何故か。

 パッと見開き、俺を見つめている。

 お嬢さんの中二病を刺激しすぎたのだろうか?

 俺は何か……お嬢さんにとって、意外なことを言ってしまったのだろうか?

 なんかのってきたので、今度は逆に俺が質問してみよう。

 

「君が仮に、願いを叶える側の立場だとしよう。君は他者の願いを叶える事で何を望む?」

 

「女神になる事、それ以外望まないわ」

 

 女神って、それじゃ昨日の掲示板の書き込みと一緒――?

 俺の質問に即答すると、お嬢さんは口元に微笑を浮かべ。

 ……再び口を開いた。

 

「気に入りました採用です」

 

 はい?

 

「貴方のその願い事も一緒に叶えましょう」

 

 お嬢さんがそう言うと耳鳴りが始まり。

 次の瞬間、目の前は……真っ白に輝き。

 

 

 ――俺の視界は光で塞がれた――

 

 

<第三話 レスキュー>(約9901文字)

 

 

 ――西暦2030年代末の夏、正午――日本国内――

 

 ――名古屋市近郊 ハイウェイ上――

 

 朝の通勤ラッシュの渋滞が過ぎ去った、正午過ぎのハイウェイの路上。

 そこを行き交うのは、主に物流関係の無人車両。

 赤い赤色灯、パトライトを輝かす有人車両。

名古屋市警察とペイントが施された、市警察所属の装輪式装甲車輌の車列だ。

 そして、その上空20メートルを漂う無人機(ドローン)の編隊。

 

 更にその上空、50メートルから200メートル付近。

 その高度では、何百機もの物流関係のドローンが飛び交い。

 都市部や郊外を行き交っている。そんな日常が当たり前になっている者達。

 その一部が……装甲車の中で昼食を取っていた。

 

 ◇

 

『――続いて、次のニュースです。昨夜未明から今朝まで、名古屋市内のスラム街で続いていた、自称市民団体『PMC特権を許さない市民の会』による暴動は、市警察当局の要請で介入した、PMCの軽攻撃機による空爆で鎮圧が完了しました。また先程、州政府の報道官からあった発表によりますと、州知事は本日正午、正式に州軍へ緊急待機を命じ、即戦予備役の呼集を開始し、国防軍も警戒態勢を引き上げ――』

 

 耳元に聞こえる、男性アナウンサーの声を聞き。

 ため息混じりで、己の気持ちを吐き出す……男がいた。

 

「どのチャンネルも報道ばかりかよ~」

 

 装甲車内の後部搭乗員乗車スペース。

 そこでは車内モニターに映る、メディアのニュース映像。

 何度も聞かされる、似たような解説に嫌気を覚えた男が……愚痴を吐いていた。

 

 男はグレーのニット帽を被り。

 全身を市街戦迷彩柄のグレーを基調とした、特殊部隊仕様の装備で固め。

 右太腿にはレッグホルスターを装着、その中には一般警官が装備する9ミリ拳銃と違い。

 50口径の銃弾を撃ちだす、大型自動拳銃が収まっている。

 だが、この特殊仕様の装備も当然だろう。

 

 この男が乗っている装甲車、その砲塔部にはミニガンとグレネードランチャー装備の無人砲塔が搭載され、その車体側面には『名古屋市警察 SWAT』とペイントされているのだから。

 

 男は左手で胸元のポーチから、カロリーバーを取り出してボリボリ食べ始め。

 右手で握った、500ミリサイズのPETボトルの飲み口を口元に運び。

 ゴクゴクと飲むミネラルウォーターで……喉元を潤す。

 

「仕方ないだろ。どっかの馬鹿達が暴動を起こすからさ」

 

 もうひとりの男が軽やかに応えた。

 彼もまた特殊部隊特有の充実した、装備を身につけている。

 灰色ベースの市街戦迷彩柄のブーニーハットを被り。

 上下共に同じ柄の市街戦迷彩服を着用。

 右太腿には、カロリーバーを食べる男と同じく、レッグホルスターを装着。

 その中にはダットサイトを装着した自動拳銃。

 PDW(パーソナルディフェンスウェポン)用の銃弾、5,7ミリ弾を撃ちだす自動拳銃が収まっている。装填している弾倉はロングマガジン仕様だ。

 腹部のマガジンポウチには10本近い、予備弾倉が収まっている。

 

 そんな二人の視界には、夜空を輝かす爆発の閃光や飛び交う銃弾。

 瓦礫の上で隊旗を突き刺し、カービン銃を掲げて叫ぶ。

 市警察機動隊員達のニュース映像と……アナウンサーの解説が耳元に淡々と流れていく。

 

『――また州政府は、引き続き市当局、州政府の戒厳業務委託先である【特別軍事法人NEET】との連携体制を万全の体制で取っており、市民には落ち着いた行動を呼びかけています。続いて国境方面のニュースです。昨日、九州方面の国境線付近の難民キャンプで、連続自爆テロが発生した事について、国防軍広報部は、自称九州共和国側の国教の殉教者、若しくは工作員による、破壊工作との見解を発表しました。また国防軍は、来月に九州での開催を控えた、国防軍主催の第三次世界大戦終結15周年の慰霊行事の警備体制強化を、警察当局やPMC各社と協力して進めて行く方針を発表しました。続いて台風65号がグアム沖で発生し、週末には沖縄に到達する見込みが――』

 

 ニュースを見飽きたのだろうか。

 カロリーバーを食べる男が、車内モニターの電源を落とし。

 口を開いた。

 

「鬼沢さん、あんたも戦闘データは見ただろ……スラム街の一件は暴動じゃないぜ。銃どころか、ダンプに機関砲や火砲を積んだ、テクニカル車両で大暴れ……これは戦争だぜ!」

 

「戦争か……確かに龍澤の言う通りだな」

 

 鬼沢は龍澤の指摘に納得して頷く。

 鬼沢と龍澤は共に第三次世界大戦を経験していた。

 

 その当時、鬼沢は二十代前半のサラリーマン、龍澤はサバゲー好きな元引きこもりの十代後半だった。

 

 二人が駆けた戦場は、今も銃声が鳴り止まないここ。

日本列島だ。

 日米関係の悪化で起きた在日米軍の撤退や、第三次世界大戦のきっかけになった内戦。

 南北戦争後初となる、米国の内戦の影響が重なった結果。

 

 日本国内では、複数のカルト集団が武装蜂起。

 行政機関を襲撃して、無政府状態へまっしぐら。

それに合わせて、周辺国が邦人保護を名目に武力介入を大規模に開始。

ドロドロの内戦状態になっていった。

 

 否応なしに戦場が日常生活になった二人は、比較的マシなモラルを備えた組織。

 数多くあった民兵組織の一つに入り込み。

 そこで出会い、ペアを組まされて戦った戦友だ。

 

 二人は何とか大戦を生き延び、終戦後は新政府の発足に伴い。

 雨後の竹の子の如く増えた民間軍事会社。

 日本国内では、PMCの略称で呼ばれる、会社でのお勤めを選んだ。

 その後、鬼沢は十年近く国内外で軍事活動を行い。

 数年前から、名古屋市警察に派遣され。

 

 常勤のSWAT要員として働いている。

 

 対照的に龍澤は昨年まで、日本国内で国境線がある九州で軍事作戦に従事していた。

 警察活動と軍事活動の違い。

 経験や立場の違いからくる、感覚や判断に相違があるのも、仕方ないなと鬼沢は思い。

 鬼沢は昔を思い返しながら……静かに口を開いた。

 

「そういや龍澤、もうすぐ終戦記念日だけどさ、お前は鎮魂祭には――」

 

 鬼沢が全て言葉を言い切る前に、車内の照明は赤い警告灯に変貌。

 サイレンが煩く。ビービーと鳴り響いた。

 

 前線車両の警告灯と、サイレンを鳴らす原因は少ない。

 車載センサーやレーダーが捉えた、対戦車ミサイルや自爆ドローンの接近。

 照準用のレーザー照射を浴び、装甲車が挽肉を詰めた棺桶に変わるか、否かの瀕死の瞬間。

 若しくは――自分達を市警察に派遣している雇用主。

 

 そこから直接下される任務『急ぎの用件』だけだ。

 

「ちっ! 本社からか」

 

 鬼沢は緊張感を急いで纏い。

不愉快な感情を口から素早く排莢。

 ガンラックにある自分の銃。

 5、7ミリ弾を撃ちだす、カービン銃タイプのPDWを掴み。

 装着している各種装備の点検も開始。

 

 そして――スピーカーから――女性オペレーターの声が流れ始めた。

 

『本部より緊急指令! コード033発令、至急SWAT第四分隊は郊外廃墟郡の指定座標へ急行せよ! 繰り返す――』

 

「龍澤仕事だ。装備のチェックを済ましておけ」

 

「あいよ。鬼沢さん――おっ! そうだ」

 

 龍澤はPETボトルの中身を飲み干し。

 ゴミ箱にボトルとカロリーバーの包装用紙を放り込む。

 そして、手馴れた感じで装備のチェックを済まし。

 インカムと本部の通信をデータリンクで繋いだ。

 龍澤は想定されるケースを考えながら……口を開いた。

 

「こちらSWAT第四分隊龍澤、オペレーター聞こえるか。任務内容の開示を求める」

 

 緊急時に発令されるコード033が、緊急度の高さを示す。

 その意味を龍澤と鬼沢は理解していた。

 だが、任務内容の幅は広い。

 それは銃撃戦やテロ攻撃、工事用の大型ドローンの暴走。

 昨日あった、スラム街の騒動程ではないが、暴動に近い乱闘。

 野生動物が人の居住エリアに侵入する事や、家畜の逃走劇。

 その中には近年、軽装ながらも銃火器で武装を開始した、一般のレスキュー部隊ですら、救助出来ない……危険な環境にいる、対象の救助も含まれている。

 

『こちら本部、任務内容は人命救助との事。最優先コード033で実行命令がNEETから――えっ』

「どうした? 応答し――」

 

『こちら戒厳本部長の鬼頭だ。SWAT第四分隊は速やかに指定座標へ急行せよ。任務内容は人命救助だ。繰り返す、任務内容は人命救助――』

 

 ◇

 

 同時刻――郊外廃墟郡――上空

 

 

「うぁああああああああああああああ!」

 

 一人の青年が大空で叫びを上げていた。

 その姿は宛ら、真っ青な大海で溺れ足掻く――瀕死の遭難者。

 或いはこの世に生まれ、産声を上げる赤子であろうか。

 だが、この青年が一定の高度に留まる事は許されない。

 

 何故なら青年には――――翼も無ければ揚力もない――――人間だからだ。

 

 それ故に青年は引力に掴まれ、所々砲爆撃の跡が残る灰色の底。

 廃墟郡へ沈んでいく。否――――直撃していく運命だ。

 そして――――――――ガシャァアアアアアン! ガラスの砕け散る盛大な音が響いた。 

 

 音源は廃墟郡の中でも、その中央に位置する一際大きな建造物。

 ショッピングモールの吹き抜け構造のホールだった、場所の天井。

 

 かつては多くの利用客が行きかった天井の下。

 そこは行き交う人々を見守る、白い女神像に見下ろされ。

 白い円形の噴水を中心にした、人々の出会いが交差する。

 憩いの空間だった。

 

 

 だが、噴水だった白い空間は女神像だけを残し。

 噴水の周囲ごと真下に数メートルは陥没。

 

 

 今では木漏れ日が差し込む。底が見通せる程に透明度の高い。

 ……泉となっていた。

 

 ドボォオオオン! 

 

 泉に舞い上がる水柱と水飛沫。 水面に波打つ波紋。

 そして、水面に顔を出す……一人の青年がいた。

 

 ◇

 

 バシャバシャ! 「げほっ! げほぉお!」

 

(やべえ! 死ぬマジで死ぬ!)

 

 俺はともかく足掻き。

 空気を求め――陸を求め――ガシッ! 岸をその手で掴んだ。

 

「いてええ!」

 

 身体の痛みや、ずぶ濡れた不快な状態は本能が無視。

 俺は肺呼吸を獲得した、両生類の様に陸に這い上がって、ペタリと床に倒れ込んだ。

 

「はぁ! はぁ! はぁ!」

 

(なんだよ! これ!?)

 

 徐々に呼吸が落ち着き。

 思考が冷静さを取り戻した俺は――思考を開始。

 

 

(俺は何をしていた……確か駅前のカフェで女子高生と話していた……その筈だ。それに何だ……俺は落下したのか?)

 

 俺は寝そべったまま――周囲を見渡す。

 場所は……何処かの廃墟のようだ。

 造りからしたら、ショッピングモールだろうか。

 

 

「……青いな」

 

 

 俺の視線は、ガラスの破片がパラパラと落ちる円形の穴。

 青空を切り抜いた天窓の様な場所に向いていた。

 

(俺はあそこから落ちたのか? それに陽射しが強いし……セミの鳴き声?)

 

 青年の脳内は『あり得ない』の言葉と聞こえてきた、セミの鳴き声で溢れ返っている。

 だが、不思議と……慌てる感情は湧いてこなかった。

 

 

 ――その頃――

 

 

 ――廃墟郡の周囲――

 

 

 真っ赤な警告灯を光らせた、警察車両とドローンに囲まれた廃ビル。

 そこでは実に分かりやすい。危険な状況が出来上がっていた。

 

 

 ◇

 

 

『警告する! 速やかに人質を解放し、全員投降せよ!』

 

 人質を取って立て篭る犯人達へ向けて。

 警察車両やドローンのスピーカーから一斉に鳴り響く。

 ……投降を呼びかける警官の声。

 

 だが、それに応じるのは、犯人の怒声ではなく。

 乾いた銃声の連なりだった。

 

 タタタタボボボボォオン! 犯人達の放った銃撃の嵐。

 

 その中でも強力な一撃。

 グレネード弾の直撃で爆破炎上する。

 多数の警察車両。

 

 燃え盛るその内の一台が、衝撃で宙に向けて――盛大に跳ね上がった。

 爆破炎上する車両が、警官隊に向けて、中指を立てかのように直立し。

 バタンとひっくり返って、火の粉を振りまいた――次の瞬間。

 

『テメーらふざけんな! 撃て撃てぇええ! 全員射殺だ!』

 

 警官隊はカービン銃やグレネードランチャーを構え。

 銃爪を引き絞り、銃声を一斉に奏で始める。

 警官達は訓練、そして経験通りに戦闘行動を開始。

 鉄版を貼り付けた、ピックアップ型のパトカーは赤色灯を真っ赤に輝かせ。

 土煙を巻き上げ、回避行動を開始。

 

『うぉおおおおお! 正義最高ぉおおおおおおおお!』

 

 荷台に備え付けた12、7ミリ弾を撃ちだす銃。

 重機関銃を発砲する一部の警官達は、勤務前に服用した興奮剤の影響もあるのだろう。

 次々と叫び声を上げ始める。

 

 飛び交う12、7ミリ弾は射線上のバリケードを貫き。

 背後に潜む敵を無残に引き裂いていく。

 

 ――銃撃戦が始まって数分後――

 

 その現場を、装甲車の上部ハッチから身を乗り出し。

 双眼鏡で目撃する男。

 灰色ベースの市街戦迷彩柄のブーニーハットを被った男。

 鬼沢が思わず……言葉を漏らした。

 

「今日も機動隊の連中は派手にやっているな……」

 

 だが、何人か機動隊にジャンキーっぽいのが……混ざっているのは気のせいか?

 鬼沢が機動隊の挙動に、一抹の不安を覚えた瞬間。

 装着したグレー色の通信機、インカムに声が流れた。

 

『こちら龍澤。鬼沢さん、廃ビルの人質は別件ですね。自分達の目標は更に数ブロック奥のショッピングモール跡地です。ドローンからの空撮情報だと、最短ルートになる、廃ビル横の大通りは地雷原です。このまま迂回すると、救助対象が死体になっているかもしれないです』

 

 車内の端末を使い、データリンクで周囲の情報を確認した龍澤が、インカムで鬼沢に報告。

 

「たく……廃ビルの奴等、昨日のスラム街の食べ残しかよ……仕方ねぇ行き掛けの駄賃だ」

 

 手元の端末のデータリンクで状況を把握して、一言漏らした鬼沢。

彼はインカムのスイッチを入れ、微かに空気を少し多く吸い込み。

口を開いた。

 

「聞こえるかガンナー! 廃ビルに催涙弾をぶち込んで強行突破するぞ!」

 

『はひぃ? はっ! おはようございます!』

 鬼沢のインカムに響いたのは、幼さが残る若い女性の声だった。

「いい加減起きろ! グレランと催涙弾の準備だ! 鉄火場に突っ込むぞ! ドライバー! ともかく真っ直ぐに突っ込む準備だ! ルートと障害物を確認しておけ」 

『ドライバー了解、それと足元のガンナーがまた寝そうなので、お早めに準備を』

 今度は落ち着いた、大人の女性の声が鬼沢に響いた。

 

「頭に蹴りを入れて起こせ!」

 

『あああ! なんですかそれ! 私の頭はボールじゃないですよ~』

「ボールにされたくなかったら起きて仕事しろ!」

 

 鬼沢はインカム越しに聞こえる音。

 布の擦れる音から、ガンナーとドライバーである女子だけの花園と化した空間。

車両前部のタンデム座席で、二人が下着姿で寝ていたであろう事に呆れていた。

 だが、昨夕の退勤直前に車内に全員が緊急搭乗して、そのままなのだ。

 ある程度の乱れは仕方ないと、割り切って、指示を出した。

 

「龍澤、地雷処理のプローブを積んでいるドローンを何機か指揮下に入れておけ。車載しているドローンも戦闘開始と同時に3機単位、全機セムテックスのトッピングをしてから5分間隔で投入だ」

 

 鬼沢はピザの注文感覚で指揮を下していく。

 そんな彼が昼食で注文するピザは対照的だった。

シンプル過ぎて、今では龍澤やガンナーとドライバーに横槍を度々入れられ、魚介や肉、野菜とチーズの全載せになっている。

 最近では馴染みのピザ屋に『いつもの』と言えば、直ぐにそれっぽいピザが来る様になったくらいだ。価格がその分割高なのは既に諦めている。

 

どんなに手練れ、装備が良くても、いつ死ぬか分からない稼業なのだ。

 飯ぐらい好きなものを平らげたいのは、皆の共通認識でもある。

 鬼沢がそんな日常生活を思考の片隅に整理していた直後。

 威勢のいい、龍澤の声がインカムに響いた。

 

『了解、ああ、ドンピシャで何機か現場上空に来ているぜ。今3機程指揮下に入れた!』

「よし、俺も中に戻るぞ」

 

 鬼沢は車内に戻り、ハッチを閉めた。

 車内に戻った鬼沢の向かう先は、後部搭乗員乗車スペース。

 

 そこでは完全武装の龍澤が、人工呼吸器や人工血液パック、人工心臓、人工肺、遠隔治療用のロボットアームなどの生命維持に必要な医療機器を組み込んだ、人命救助用のドローン、自律型ストレッチャーの準備をしていた。

 

 お値段がこの装甲車より高かったりする、ハイテク満載の医療機器。

 そんな貴重な代物を扱えるのも、特殊部隊故の贅沢か。

 いや、一番贅沢なのはこんなに充実した装備で、人命救助される輩だろう。

 

「鬼沢さん、人命救助だと人手が足りないぜ。機動隊の連中から使えそうな奴を適当に拾っていこう」

 自律型ストレッチャーの立ち上げを完了し。

端末で自律型ストレッチャーの項目チェックを進める、龍澤が鬼沢に進言。

「いや、最優先コードならその必要は無い。わざわざ戒厳本部長が直で命令を伝えてきたからな……援軍が現場に来る筈だ……」

 

「援軍ですか?」

 

「…………ああ、一応な。最も俺達が援軍かもしれないが」

 

 鬼沢は何やら嫌そうな顔を思い浮かべたが、ハッとして口を開いた。

 

「と、ドライバーとガンナー、準備はいいか!」

『ガンナーOKです! いつでも挽肉を作れますよ~』

 

 おいおい、射撃は料理の仕込みかよ。

 てか、お前は料理の腕前を上げろ。

 

「鬼沢了解、くれぐれも人質は挽肉にするなよ」

『ガンナー善処します』

『こちらドライバー、いつでも飛ばせます』

 

 そう言えば、お前も料理が下手くそだったな。

 ドラテクはドライブ用の人工知能以上に一流なのに。

 

「鬼沢了解、敵は何体も轢殺すな。肉片と臓腑でスタックする可能性がある。注意しろ」

『ドライバー了解、出来るだけ善処する』

 

 二人とも料理の腕前も善処しろよ。

 食わされる連中と……何より、食材が不憫だ。

 

 グロな業務内容の応答を終えた鬼沢。

 彼は龍澤と向かい合って、頭部保護も出来る防護シートに着席。

 シートベルトを締め。互いの状態を確認するとハンドサインでOKの合図。

 そして、鬼沢は大きく息を吸い……口を開いた。

 

「戦闘開始!」

 

 次の瞬間、装甲車は速度を上げて疾走を開始。

 車体後部の上部に埋め込まれる形で収まっていた、ドローンも飛翔を開始。

 銃撃にも耐えるコンバットタイヤは、経年劣化や砲爆撃で割れた路面。

 

 アスファルトを踏み砕き。

 粉塵を巻き上げ、銃撃戦の現場へ向かっていく。

 

 その光景を上空数百メートル上から、周辺情報のデータリンクと比較しつつ。

 タンデムローターを搭載した人員輸送ドローンの中から……見守る者達がいた。

 

 ◇

 

 ――人員輸送ドローン機内――

 

 私はヘルメットのバイザー越しに……地上の状況を確認している。

 人員輸送ドローンに搭載した、カメラやセンサー類からの情報。

 データリンクで手に入る、リアルタイムの周辺情報は貴重だ。

 私の役目は任務達成に必要な新鮮な情報を収集して咀嚼。

 状況に応じた戦術を組み立て、脅威を排除し。

 

仲間を率いて任務を達成する事だ。

 

……そんな忙しい私の耳元。

 そこにはチームメイトである、彼女の楽しそうな声が……骨伝導スピーカーから響いた。

 

『下を見て春菜! おっさん達のチーム突っ込んでいくよ!』

 

 真っ赤なパワードスーツを着た、女豹を思わせる。

シルエットの仲間。

 彼女は窓際にへばりつき。地上を目視で監視中だ。

 私は彼女の名を思い浮かべ、口を開いた。 

 

「紅菜、はしゃがないの……私達の任務は何でしょうか。復唱してみて」

『え? 脅威の排除とマギねえちゃんに捕まった哀れな男、異世界からの来訪者のお迎え!』

「ぷっ!」

 

 その時、私の隣で感情を抑え。

 吹き出す声を微かに漏らした……もうひとりのチームメイト。

 刀を抱えた仲間、オレンジ色のパワードスーツを着た、彼が口を開いた。

 

『春菜、因みに今回お迎えに行く男で、マギ姉ちゃんの何番目だろうね……』

「誠、いくらなんでもそれは言い過ぎよ。まぁ……今回は異世界から連れてきた、相棒のパイロット候補が毎回逃走か、殉職する事に痺れを切らした、ツバメさんも現場入りするから……あ」

 

 春菜は自分で言っていて、ある事に気付いた。

 

「…………ねえ、ツバメさんって…………誰か見た?」

 

 誠と紅菜は首を左右に振り否定。

 

「あのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! チビ先に行きやがったなぁあああ!」

 

 春菜はイレギュラー要素に叫びを上げてしまう。

 だが素早く思考を切り替え、呼吸を整えると、静かに口を開いた。

 

「こちら春菜、高度を上げてください。これより降下の準備を開始します」

『こちら機長、了解した。上昇する』

 機長を名乗る音声の主は、このドローンに搭載された人工知能。

 因みに音声は、春菜の趣味で渋いおっさん声だ。

「ちょ! 春菜落ち着いて!」

 紅菜は手をあたふたさせながら、春菜に冷静さを求める。

 だが、あたふたしながらも、パワードスーツの点検を行う様は、ぱらぱらと踊っているかのようだ。

「仕方ないか……ツバメさんには、仲良しなキャベツも同行している、その可能性が高いけど、最悪に備えよう」

 誠はパワードスーツの点検を素早く終え。

 武器である刃が収まった、ハイテク感が漂う鞘を背中のマウント部にセッテイング。

 左右の太腿に装着したホルスターに収まっている銃。

 自動拳銃のスライドを引き。初弾を薬室に装填してホルスターに戻していく。

 

 そして春菜も誠や紅菜と同型色違いになる、ピンク色のパワードスーツの点検を開始。

 春菜は自分の武装である、誠と同じくハイテクな感じが漂う武器。

 銀色の穂先以外全体がピンク色をした、短槍の点検も素早く終え。

 短槍を伸縮させ、ハイテクな鞘に納め。腰にセッテイングすると……誠に声をかけた。

 

「誠、キャベツってあの子の髪の色から? それとも――」

「両方さ――おい、自分で疑問を尋ねて不機嫌になるなよ!」」

 誠の隣では、ピンク色のパワードスーツのヘルメットを脱ぎ。

 ピンク色の髪をした、少女が頬を膨らませていた。

 

 ――その頃――廃墟郡ショッピングモール内部――

 

 ◇

 

「身体は動く……傷も無いか」

 

(それに痛みも、思ったほどないな)

 

 俺は全裸だ。特にそんな趣味がある訳ではない。

 ここは弾痕だらけで、ファストファッションな店舗の跡地にある個室。

 俺は試着室の割れてない鏡で、全身の傷の有無を確認。

 確認を終えると少しだけ絞った、ずぶ濡れの衣服に袖を通していく。

 

 しかし……セミの鳴き声が聴こえるということは……ここは夏なのだろうか。

 

 そして、銃声や爆発音が聴こえる場所である事。

 それはここが、かなり危険な場所である証だ。

 

「やはり圏外か……時刻や日付はカフェにいた頃から、数十分は経過しているのか」

 

 使い慣れたスマホの画面を眺め、表示された日付や現場の状況の矛盾に俺は悩んだ。

 だが……先ずは持ち物の確認か。

 俺が持っている物、装備と言えるのは身につけた衣類。

 トランクスにTシャツ、黄色いヒヨコの様なネトゲのマスコットキャラクターがプリントされた灰色のトレーナー、靴下、黒いジャケットとジーンズにスニーカー。

 安物だがお気に入りだった、グレーのニット帽は紛失か。

 アイテムと呼ぶにふさわしい物は、今使っている圏外になったスマートホン、ジャケットの内ポケットに収納していた少量型のPETボトル飲料、カロリーバー数本、板ガムくらいだ。

 

(それにしても……一体、何が起こっている)

 

 その答えを瓦礫やガラス片を避けて、歩きながら考え出した時。

「――あ!」

 俺は気付いた。ようやく気付いたというべきだろうか。

 

「まさか……俺も」

 

(――失踪者なのか――)

 

 俺がひとつの結論にたどり着いた瞬間。

 更にあり得ない事が起きた。

 店舗の入口の空間が微かに波打ち。

 宙から『何かが』降り立ってくる。

 それは人の形をした、緑色の小柄な物体が数体。

 

「ぐるるる!」

 

 しかも唸り声を発し、瞳が真っ赤で全裸だ。

 だが、店内のファストファッションな衣服は、店舗の廃れ具合から察するに。

 何年も前から恐らく……品切れだ。

 流石に客でもないだろう。

 それに何より、あの姿……人間ではないだろう。

 どう見ても――!?

 

「ぎしゃあああああああああああああああ!」

 

(――やばい! 目が合ってしまった! 逃げなきゃ――!?)

 

『聞こえますかぁ~店の中にいる男性? 今から閃光弾を投げ込むので目を閉じて、伏せてくださいね5、4、3――』

 

 突然聞こえてきたのは、拡声器で増幅されたであろう、少女のアニメ声。

 俺は咄嗟にその声に従い――両手で耳を押さえ――床に伏せた。

 目を閉じ床に伏せても分かる、空気の振動と閃光の余波。

 そして不気味な叫びの連なりが複数と、連続した銃声。

 

「ぎゃぐぉおおおおおおおおお!」

 

 暫しの静寂。そして再び聞こえる、少女のアニメ声。

 

『もう起きていいですよ。両手を頭に置いて、ゆっくりと店の外に出てください』

 

 俺は声に従い……目を開け、立ち上がって両手を頭に置き。

 ゆっくりと歩いていく。

 スニーカー越しに足の裏へ伝わる感触。

 細かい瓦礫やガラス片の感触を噛み締めるように味わい……俺は店の外に出た。

 

(……マジかよ)

 

 俺の目の前には、緑色の汁と中身をぶちまけた。

 ピクピク動く、手足の生えた物体。

 緑色の肉袋が転がっている。

 そして、メタリックグレーの何やら、フルフェイスのヘルメットを被った人。

 同じ色のライダースーツの様な服。

 SFに出てくる、パワードスーツっぽい服を着込んだ、明らかに女性と分かるシルエット。

 胸のふくらみを携えた人が、片手に真っ黒な自動拳銃を持って……立っていた。

 

『ええと、遠近義明さんでよろしいでしょうか?』

 

 声はどうも、スピーカーで増幅されているようだ。

 恐らくヘルメットにそのような機能でもあるのだろう。

 

 ――だが、何故知っている――

 

「ええ、でもなんで俺の名前をご存知で?」

 

『――貴方のお名前は事前に資料で拝見しています。それはそうと……ご自分の置かれている状況を大体、察しているかと思われますが、それはまた後ほど、責任者が説明しますので、今は――』

 

 突如、目の前の彼女は俺に突進。

 

「うぉっ!」

 

 俺を肩で担いで、廃墟の中を走り出した。

 

『今はここからの離脱を優先します。こちら葉菜、救助目標と接触。現在、転移する敵の反応を多数補足、繰り返す――』

 

 急速に遠ざかる、女神像と俺の落下した泉。

 そこには上空から何かがこぼれ落ち。何本も水柱を上げていく。

 そして俺と同じように岸に這い上がっていく、緑色の物体が複数。

 だが、奴等には俺と違い目的があるようで、俺達目掛けて疾走を開始。

 その光景に寒気を覚え、俺は確信した。

 

 ――これはどう見ても、群れたモンスターの――

 

 俺の思考にとあるモンスターの名称が浮かんだ瞬間。

 俺を抱えた女性のヘルメットから、微かにその名称が漏れ聞こえた。

 

『――敵はゴブリンの群れ! 繰り返す! ゴブリンの群れの転移を確認!』

 

 やはりゴブリンの群れのようだ。

 

<第四話 キャストオフ>(約4599文字)

 

 

 ――廃墟郡ショッピングモール屋上――

 

 

「……」

 

 女性は俺を抱えたまま。

 ゴブリン達から逃れた先にある、別の吹き抜け状のホールに到達。

 十数メートル近い跳躍を数回程繰り返し。

 ロフトを伝って上層階へ昇降、屋上へ到達。

 屋上へ通じる扉前の踊り場は女性が投げた、手投げ弾の様な物体が弾け。

 一瞬で白い泡が周囲を包み込み。

 マシュマロ状態で封鎖。

 その後、俺は女性から双眼鏡を渡され……上空を見上げていた。

 

「見えますか、ポッカリと開いているでしょ」

「……」

 

 俺の視線は女性が指し示した先。

 青い空を覗いていた。

 その先には自分が、落下してきた。

 

 ……穴があるそうだ。

 

 俺が覗く双眼鏡のレンズには昔遊んだ、戦闘機ゲームのHUDの様なサークルや変動する数字が緑色で表示されている。

 本来は双眼鏡以外の用途に使う、そんな物なのかもしれない。

 

「ん?」 

 

 表示されるサークルが何かを補足したのだろうか。

 急に双眼鏡の望遠倍率が変わり、黒い物体がズームアップされ。

 赤いサークルで補足された。

 

「あ、アレか!」

 

 そこにはゴブリン達が落ちてくる、ポッカリと空いた……黒い穴があった。

 よく見ると、穴は渦のように回転を続け、穴の縁からは白い煙の様なものが見える。

 

「今は時間経過で黒くなっていますが、あの穴から『貴方達は』この世界に落ちてきたんですよ。義明さん」

 

 ――なんか、まるで――

 

(俺がカフェで飲んでいたコーヒーのようだ)

 

 ん?  

 

 俺はもしやと思い、聞いてみること事にする。

 この場合の貴方達が、ゴブリンを含むのか、或いは――

 

「貴方達って事は他にも、この世界に来た人間がいるのか?」

 

 女性は無言のまま頷き、会話を再開。

 

「正確に申し上げるなら、あの穴、転移ゲートと同じ性質を持った、別の穴から、貴方の世界で所謂、連続振り込み失踪者になっている方々の転移を一部、我々は確認しています」

 

 何ということだ、やはり俺も失踪者のようだ。

 他にも、色々と聞きたいことはある。

 

 ――だが、その前に――

 

 俺は双眼鏡を女性に手渡し、口を開いた。

 

「あのさ」

「何でしょうか?」

「君の名前は?」

「…………申し遅れました。私は葉菜です」

 

 そう言うと葉菜は顔を隠している、バイザーを開放。

 俺に素顔を見せてくれた。

 

「……君は外国人なのか」

 

 ――でも、髪の色と瞳が緑色って――

 

「抱いている疑問は大体分かりますが、ここは危険です。私の指示と誘導に従ってください」

「わかった」

 

 俺は葉菜の整った、美少女といえる顔立ちに見とれそうになったが。

 先行する葉菜の誘導に従い、屋上の端にある――古びたヘリポートに向かう。

 

「義明さん、これを耳元に付けてください」

 俺は葉菜に緑色のインカムを渡され、耳元に装着。

『義明さん聞こえますか?』

 俺は頷き大丈夫だと葉菜に伝える。

 葉菜も頷きを返してくれる。

 先行する葉菜は太腿のホルスターから、自動拳銃を抜き。

 構えたまま、インカム経由で指示を飛ばしてくる。

 

『止まってください。義明さんは、姿勢を低くしてその場で待機』

「了解」

 

 俺は返事を返し、指示に従い。

 ヘリポート手前で停止。

 そのまましゃがみこむ。

 所々、錆だらけの手摺とコンクリートの階段が俺の視界を埋める。

 

『クリア、こちらに来てください』

「了解」

 

 動き出した俺の視界には青空と――グレー色のパラシュートを開き。

 降りてくる人影が三人分映る。俺は思わず、動きを止めそうになったが。

 

『義明さん、味方なので大丈夫です。こっちに来てください』

 

 良かった、味方のようだ。

 俺は葉菜の傍に向かい。ジェスチャーで促され、姿勢を低くする。

 俺の耳元には葉菜達が話す、交信内容が聞こえてきた。

 

『こちら春菜! 葉菜! ツバメさんの状態は?』

『こちら葉菜、多分寝ているんじゃないかな。今朝方まで報道特番見ながら、九州の友達と悩み相談していたから、睡眠不足だね』

『こちら紅菜~やっほぉおお~葉菜!』

『やっほぉおお~紅菜』

『こちら誠、ゴブリンは団体でモール内を彷徨っている。たった今、ゲートの消滅を確認。ゴブリンの総数は約600体』

 

 なんか……俺の出る幕はない感じだ。

 それに、お腹もすいてきたな。

 俺はジャケットの内ポケットに収めていた、カロリーバーと。

 赤い液体が入った、長方形型のPETボトル。

 トマトジュースを取り出した。

 トマトジュースを飲むため。白いキャップを捻った――刹那。

 

『ちょっと待ったぁああああああああああああああああ!』

 突如、耳元のインカムから、大音量の少女の声が響いた。

「うるせー! 誰だよ! 叫んだやつは!?」

 俺は思わず、インカムを外して床に投げ捨てた。

『ああああああ! そこのバカ! 葉菜ちゃんカラーのインカムを捨てんなよ!』

 

 俺は声のした、葉菜の方を見る。

 だが、妙だ……この声は葉菜の声では無い。

 明らかに別人だ。まさか腹話術系女子か?

 葉菜はバイザーを外し、顔を真っ赤にして。

 俺の方を向き、何やら申し訳なさそうに……口を開いた。

 

「義明さん! 今の声は私じゃないです! その――」

 

 ガシャン! 春菜の胸元付近で何かが弾け、閃光が走った。

 

「うぉっと!」

 

 俺は眩しさで目を閉じ。

 トマトジュースとカロリーバーを握った左手に、不自然な重みを感じ。

 姿勢を崩しそうになった。視界にはひび割れたヘリポートの緑色の床。

 そして、トマトジュースにしがみつく。

 

 虹色に輝く透明な羽の生えた人影。

 美少女フィギュア?

 いや、小さな少女というか。 

 

 黒髪ショートヘアーの妖精さんが……満面の笑みでいた。

 

 着ている服はメタリックグレー色をした、ウェットスーツの様なピチピチの服だ。

 浮き出る身体のラインから、胸元も豊満な美少女と言える。

 そんな小さな美少女が……陽気な声色で俺に話しかけてきた。

 

「よっ! 転移者くん! 先ずはこのトマトジュースをあたいに譲渡してくれると……物凄く~君の好感度が上がるけど、どうよ?」

 

 俺は無言のまま……トマトジュースを手放した。

 妖精さんは宙に浮いたまま。

 笑顔でトマトジュースを豪快にラッパ飲み。

 

 そして俺はカロリーバーの包み紙を破って、中身を齧り。

 

 これが夢じゃない事をチョコ味と一緒に確認する。

 一体、この妖精の様な生命体、いや……馴れ馴れしい物体はなんなのか。

 俺が葉菜に視線を向け、話を聞こうとした瞬間。

 

「――あ」

 

 俺の視界には豊満な胸元をポロリとさらけ出した。

 …………緑色の髪と瞳をした美少女。

上半身裸の葉菜が飛び込んできた。

 

「きゃああぁああぁあああああぁああ! 見ないでぇええぇええ!」

 

 ヘリポートには、増え始めた銃声や爆音が届き。

 上空には近付いてきた、人員輸送ドローンのローター音をバックミュージックにした。

 葉菜の甲高いボーカルが響いた。

 

 ――その頃――

 

 ――名古屋市近郊の軍事区画――

 

 

 廃墟に囲まれた名古屋市。

 その近郊には行政機関から警察業務、軍事業務を受注する業者。

 民間軍事会社(PMC)の関連施設が集まる区画が幾つかあった。

 その中でも特に大きな区画を丸ごと一社で使用する、民間軍事会社の施設。

 滑走路を備えた、基地と呼ぶに相応しい施設へ……ひとりの男が空路で到着していた。

 

 ――特別軍事法人NEET 中部方面総司令部 滑走路――

 

 ステルス性を備えた有人、無人の大小様々な航空機が駐機する滑走路脇。

 その近くの車道を走る、一台の黒塗りのリムジン車内。

 その後部座席には、黒いスーツを着込んだ中年男性とインカムを装着した女性。

 若い女性秘書が乗車。

 中年男性は髪を短く刈り込んでいるが、所々白髪が混ざっている。

 だが、筋肉質な体格と……整った顔立ち。

 何より、見る者に好印象を与える、力強さと優しさを備えた目元が。

 男に実年齢の五十代を思わせない……若々しさを漂わせていた。

 

 走行中のリムジンの車窓からは、基地内の赤色灯が赤く輝き。

サイレンの響きが入り込んでくる。

ずらりと立ち並んだ防爆格納庫では、自社製の最新鋭ステルス無人戦闘機が翼を休め。

作業用ドローンの手によって――ミサイルやガンポッドなどの――爆装を施されていく。

防爆格納庫に隣接する基地施設の一部からは、盛大に大空へ向けて打ち上がる蒸気。

――――白い水柱と虹が垣間見える――――

 そんな自分の庭を眺めている、中年男性の耳元には女性秘書の報告が響く。

「会長、マギサ様が地下の転移施設にご帰還されました。マギサ様が直々に出迎えた転移者は、イレギュラー転移を起こし、マギサ様の実験部隊と、転移関係の機密情報を扱える、我が社のSWAT分隊が救援に向かっています」

 

 女性秘書は中年男性、自分の雇用主である会長に用件を淡々と伝える。

  

「……他の転移者はどうなっている?」

「他の転移者は予定通り全て、キャンプ内へ転移。チュートリアルを終えた順にメディカルチェックを受け、合同説明会までの間、外部との情報遮断をした、キャンプ内の宿舎で待機させています。今回の転移者は324名です」

 

「そうか……マギサの方は、私が出迎えよう」

 

 ――十数分後――

 

 ――同施設 地下区画 最深部――

 

 

 パッと見は巨大なプールだろうか。

 だが、プールと呼ぶには水深が異様に浅い。

 精々、一人の少女の足首が……浸る程度だ。

 

 ◇

 

「……相変わらず、ここは冷えるわね」

 

 私はずぶ濡れで全裸だ……だがそれも仕方ない……それは私が魔族だからだ。

 魔族は他の種族と違い、別世界に移動する際、転移の後始末に手間が掛かる。

 特に魔族特有の魔力量の多さは、転移を著しく制限する。

 

 それは身につけている衣服を消滅させ。

 魔力量の多さは世界を越える代償として、転移先や帰還先でランダムに自然災害。

 特に変化の生じやすい、気象現象を引き起こす。

 

 今だからこそ分かる、私の世界で伝わる神話の中に出てくる話。

 女神様の故郷を魔族が滅ぼしたのは……多分事実だ。

 転移の術が真っ先に、禁呪として葬られたのも納得だ。

 台風を何個も継続的に生み出されたら、惑星環境そのものを破壊可能だろう。

 

 ……実に恐ろしい事だ。

 

「お帰りマギサ」

 

 長靴を履いた、白髪まじりのおっさんが白いバスタオルと。

 白いバスローブを持って、立っている。

 私はおっさんと化した、仲間の名を呼んだ。

 

「矢島、タオル頂戴」

「あいよ。マギサ、今回はどっちだと思う?」

 

 私はタオルで身体についた水滴を拭き取った。

 体にバスローブを羽織って、今回はどちらか考え。

 経験から感じた答えを……口にした。

 

「…………向こう側かな?」

「残念、こちら側だ。我が社の偵察衛星郡も台風65号の発生を確認した。だが、その前後『計画に無い転移を複数』確認した」 

 

「転移の出処はどこかしら……」

「…………」

 

 矢島は頭をわしゃわしゃと掻き……口を開いた。

 

「観測所の連中の話だと、ニュートリノ放出量のパターンから……君の故郷だ。マギサ、どうする……他の参戦者に、地球の存在が知られたかもしれないぞ」

 

「動揺しないで矢島。いつかはこんな日が来ると思っていたから……」

 

「確かに慌ててもしょうがないな。この十五年で、お前が女神になる、その準備は整ったからな。一気にケリをつけるぞ……死んでいった、あいつらの為にも」

 

 死んでいったあいつら。

 私と矢島も……矢島達の故郷である世界。

地球に到達、帰還するまでに多くの仲間を失った。

 

 彼らや彼女達は私が女神になる為に、死んでいったのだ。

 だから、絶対にこの戦い。

 

 ――女神の奇跡を統べる、代理人を決める戦争に勝利する――

 

 私は再度、一本に束ねた頭髪をバスタオルで包み。

 刃を研ぐように水気を拭き取り……口を開いた。

 

「……それと、私の帰還に合わせて私が直接迎えに行った、人物のプロフィールデータが、貴方に届いた筈だから、今夜……眠りにつく前にでも、見ると面白いわよ」

 

「そうさせてもらうよ、まぁ、今度のツバメの相棒はどんな奴かな……いい加減、あいつの相棒が決まらないと、お前の故郷での決戦が大変だからな」

 

「そうね……本当に大変だわ」

 

 マギサは矢島からバスローブを渡され。

 羽織ると、口元に微笑を浮かべ。

光の差し込む出入り口へ歩いていく。

 

「一体今度は、どんな奴を連れてきたのやら」

 

 矢島は一言そう言い残すと、彼もマギサの後に続いて出入り口へ歩いていった。

 

 

<第五話 コンタクト>

 

 

 所々ひび割れ、緑の草原を思わせる、風の強い場所。

 ヘリポートで俺は一人の少女と、俺が与えたトマトジュースをゴクゴクと飲む生命体。

 小さな妖精っぽい存在の三人で、青空の下……何とも気まずい状況だ。

 

 俺と少女の間には少女が上半身に身につけていた、パワードスーツの残骸。

 そしてその下に着込んでいた衣服。

 ウェットスーツっぽい黒地のインナーや、薄い緑色をした花柄をした生地。

下着の残骸が転がっている。

 

 なんか、このままではマズイ。

 

「葉菜さん、こいつで胸元を隠してくれ」

 

 俺は自分の着ているジャケットを脱ぎ。

 葉菜に手渡し、胸元を隠すように促す。

 

「……ありがとうございます」

「気にするな」

 

 葉菜はジャケットを羽織って、申し訳なさそうにしている。

 とりあえず、大丈夫なようだ。

 

「ぷは~! ご馳走様」 

 

 さて、このラッキースケベの使徒……否。

 変な登場をした元凶が、羽をパタパタさせ。

 満面の笑みで、俺の視界に入り込んできた。

 

「やるよ。これでも齧っていろ」

 

 俺は食べかけているカロリーバーの掴んでいる部分。

 包装用紙に包まれた端部を差し出し。

 欲しそうな妖精……に与える。

 

「やったー!」

 

 妖精は嬉しそうに食べ始めた。

 その直後、俺は足元に投げ捨てた通信機。

 インカムを拾い装着、すると……すぐに声が聞えてきた。

 

『――応答して下さい! 聞こえま――』

 

「聞こえているぞ。どうぞ」

 

 おそらく、パラシュート降下をしている、三人の内の誰かだろう。

 この落ち着いた感じの声だと、春菜とかいう女の子か。

 

『ええと、遠近義明さんですね。仲間へのご配慮、感謝します』

「そりゃどうも、ところでこれから、俺はどうすればいい?」

 

 本当にどうすればいいのだろう。

 マジで分かんない。だって、コンクリートジャングル否。

 コンクリートの海の上で……孤立しているのだから。

 

『その場で待機してください。人員輸送ドローンから救命用の――!?』

「どうした?」

 

 突然、会話が途切れた。

 だが、その直後から、下の方からボンボンと振動と爆発音。

 不気味な叫び声が聞こえ始めてきた。

 

『こちら春菜! 各フロアに放ったスマート地雷が起動! 屋上にゴブリン達が向かっている! 人員輸送ドローンは回避行動を開始せよ。繰り返す――』

 

 いつの間にそんな物騒な物を放ったんだよ!

 あ……だから、わざわざ俺を抱えて此処まで来たのか。

 

『――葉菜とツバメ、二人とも迎撃体制に移れ!』

 

 俺は葉菜とツバメを見る。

 すると、葉菜はジャケットを着込み。

 腕を動かしたりして、着心地を確認しているようだ。

 ツバメは食べ終わった、カロリーバーの包装用紙を投げ捨て。

 

「こちらツバメ了解! 葉菜のパワードスーツが壊れたから――あたいは偵察を開始する!」

 

 ツバメはそう言うと、飛翔を開始。

 ゴブリン達のいる、下の階へ偵察に向かうようだ。

 よく見たらどうやら、ツバメも超小型のインカムを装着して通信が可能なようだ。

 思った通り、葉菜の着ているSFっぽいスーツは、パワードスーツのようだ。

 

『こちら誠、フロア内に降下完了。ゴブリンの掃討を開始する』

『こちら紅菜! 反対側の屋上に着地! 援護射撃を開始する!』

 

 確かに反対側の屋上にパラシュートが着地して、赤い人影がピョンピョンと飛び跳ね。

 こちらに軽く片手を振っている。

 そして、真っ赤なパワードスーツを着た女の子。

 紅菜が――腰から何かを取り出し。

 

 真紅の弓を作り出して構え。

 赤い光の矢を何本も下に向けて、素早く撃ち始めた。

 

 何やら、下の方からの爆発音や振動が激しくなってきた。

 それにしても、あの弓矢はエネルギー兵器の類いだろうか。

 なんかカッコイイな!

 

『誠了解、紅菜はそのまま雑魚を潰してくれ』

『紅菜了解! ツバメさんは敵をマーキングして!』

『ツバメ了解!』 

 

 あのチビ――否、ツバメさんの小柄な体。

 そして機動力を考えれば、適切な役割分担だろうか。

 

『頼むぞ、二人とも。俺は――クソッタレ!』

 

 インカムには誠の罵声と金属の衝突音。

 まるで、剣で打ち合っている斬撃音が聞こえ。

 そこで通信が途切れた。

 

『春菜了解、私は降下して誠の援護をする! 各員、葉菜達のいる屋上がLZだ――ちっ!』

 

 微かに聞こえた春菜の舌打ちと、数発の銃声の後。

 春菜達の通信は終了した。

 下が騒がしいのは、戦っている証拠。

 誠や春菜が生きている事を……示しているのだろう。

 

「義明さん! 貴方の資料は読んでいます。拳銃は扱えますよね!? これを――」

 

 葉菜は俺に――予備の拳銃と思われる、黒い自動拳銃とスペアマガジン数本を――急いで渡してきた。

 見た感じはグアムで撃った事がある、9ミリの自動拳銃っぽい。

 だが、予備マガジンから覗かせる、弾頭の形状が鋭い。

 薬莢もライフル弾に似ている。おそらく、PDW系の弾薬だろう。

 だが、今はそんな事に思考を集中すべきではない。

 

「了解だ。俺達は――うぉっ!」

 

 突如、葉菜が――素早く動き。片膝をついて、射撃を開始した。

 射線の先は、屋上に通じる場所。俺達が入ってきた出入り口だ。

 

『ぐぎゃああぁあああぁああああ!』

 

「嘘でしょ……もうここまで!」

 

 入り口付近では、白いマシュマロなバリケードを食い破り。

 這い出てきたゴブリンが、さっそく何体か――肉袋になっていた。

 

「義明さんも撃って下さい! 早く! モグラ叩きよりは簡単ですから!」

「分かった!」

 

 俺は葉菜の横に並び。

 片膝をつき――手に握った自動拳銃のスライドを引き。

 初弾を薬室に装填――安全装置を解除――銃を構え。

 照門を覗き――両目を閉じない様に意識して――照星を飛び出してきたゴブリンに合わせ。

 

 銃爪を引き絞った――タァアン! 

 

 輝く閃光と鳴り響く銃声。

視界の隅で宙へ跳ね飛ぶ、黄金色の薬莢の残像。

そして俺の視界には倒れる……ゴブリンが映った。

 

「いい感じです義明さん!」

 

 俺と葉菜はゴブリンに向けて、射撃を開始した。

 

 ◇

 

 ――廃墟郡ショッピングモール内部――

 

 

 紅菜の放つ援護射撃の魔力矢。

 宛らグレネード弾の空爆に匹敵する猛攻は、ゴブリン達を次々と爆殺していく。

 その一方、紅菜の援護射撃で、ゴブリンとの戦いから開放された誠。

 彼が握る刀は、新たに顕れた敵を何度も斬りつけていた。

 

「クソッタレ!」

 

 その敵は余裕で、誠の斬撃を刀身で受け止め。

 片刃の刃を――誠目掛けて振り回す。

 

 数十体規模の異形の姿。

 

 だが、ゴブリンとは体格も段違いに大きい。

 身長2メートル弱はあるだろう、 筋骨隆々とした体躯。

 全身は緑色の鱗に覆われ、瞳は鋭く。

爬虫類っぽい……特徴的な姿。

 モンスターの中でも斬撃に強いと、誠は何度か戦った経験から学んでいた。

 

「まさか、武装したリザードマンが団体で……追加のゲートで登場とか……あの転移者は、どれだけやばい――んだよ!」

 

 誠は後方にバックステップ。

 リザードマンの繰り出す、重い斬撃を回避していく。

 手馴れた動きで、斬撃の間合いから逃れた誠。

 

 彼は中段で刀を構え直し。

 切っ先の狙いを定め。

 向かってくる……敵を見据える。

 誠の視線と切っ先の狙う先には――早足で間合いを詰め。

 上段から斬りかかってきた、一番手前のリザードマンが一体。

 

 一瞬だけ映った。

 

 ザシュ! 誠の斬撃で素早く切り捨てられ。

 リザードマンの腹部から飛び散る――真っ赤なブラスト。

 

 飛び出す臓物をバックにして――誠はリザードマンの間を駆けていく。

 誠が駆けた軌跡には、鱗を砕く斬撃音、飛び散る火花。

 真っ赤なブラストが刻まれていく。

 

「グギャァアアア!」

 

 誠は十体近い、リザードマンを無傷で斬殺。

 だが、誠の目の前には、弾痕だらけのコンクリートの壁が立ちはだかった。

 

「ギシャァア!」

 

 リザードマンが誠目掛けて殺到する。

 だが、誠は刀を背中に背負った鞘に戻すと――口を開いた。

 

「春菜! 吹きとばせ!」

 

 誠はそう言い放つと――数十メートルは垂直に跳躍。

 彼の視線の先には階下のリザードマンに向けて――槍の穂先を向ける仲間。

 春菜が映った。

 

 

『春菜了解!』

 

 

 春菜が握り締めた槍の穂先の空間が歪み。

 歪みの中から、火球が数発飛び出し。

 リザードマンの群れに着弾。

 

 閃光が走り――爆風と熱風がリザードマンを喰らっていく。

 

 誠は体を宙で捻り、テラスに滑り込み――滑走しながら着地。

 向かいのテラスでは春菜が、片腕を掲げ勝ち誇っている。

 

「春菜、ファイヤーボールの数が増えたな」

『当然よ! マギサ姉ちゃんに合宿で鍛えられたから!」

 

 勝利の余韻に浸る、二人のインカムにツバメの声が響いた。

 

『こちらツバメ! 屋上にゴブリンが殺到しているぞ!』

『こちら紅菜だよ! なんかゴブリンの反応が下でも増えているよ!』

 

 援護射撃を続ける、紅菜の困った感じの報告も続いて響いた。

 このチームのリーダーである春菜。

 彼女は報告された戦況から、自分達の取るべき行動を考え。

 口を開いた。

 

『こちら春菜、紅菜は階下のゴブリン掃討を優先! 屋上の出入り口に魔力矢を撃っちゃだめよ。ゴブリンが溢れるだけだからね。屋上には私と誠が向かう』

 

 春菜は紅菜の魔力矢が爆発系の力である事、仲間の危機を見ると感情的になる紅菜の弱点を熟知していたので、念を押す形で紅菜に指示。

 

『紅菜了解!』

 

 紅菜も訓練で指摘された、自分の弱点。

 仲間を助けに飛び込みたい、衝動を春菜の指示で押さえ込み。

 援護射撃から制圧射撃となった、魔力矢による爆撃をゴブリン相手に継続。

 

『春菜、それじゃ死角に逃げたゴブリンを始末出来ないぞ』

 

 誠が懸念を春菜に伝える。

 だが、春菜はクスッと笑うと口を開いた。

 

『大丈夫、掃討のプロがたった今、到着したわよ』

 

 誠が何のことかと、思った瞬間。

 モール内に一両の装甲車が、砲塔のミニガンで弾幕を貼りながら突入。

 ゴブリンを次々に――挽肉へと変えていく。

 今度はミニガンから、グレネードランチャーの射撃に切り替え。

 瓦礫や遮蔽物に隠れた、ゴブリンを紅菜と同じく。

 

 容赦なく爆殺していく。

 

 威力としては紅菜の魔力矢の方が若干、爆風などが――強い感じだ。

 春菜が屋上出入り口への、紅菜の援護射撃を禁止したのも当然だろう。

 出入り口が広がれば、拳銃二丁で戦う。

義明と葉菜をゴブリン達に殺させるようなものだ。

 

『おいクソガキども! 援軍に来てやったぞ』

 

 装甲車のスピーカーから、鬼沢の声が漏れた。

 その直後、装甲車の後部ハッチがバタンと倒れて開放。

 装甲板の坂道ができると、そこからはカービン銃や散弾銃で完全武装した者達。

 

 市警察機動隊員が数名、銃を構え。

 突入体制で装甲車の内部からゾロゾロと降車。

 それに続いて、鬼沢と龍澤は自走する、救助用自律型ストレッチャーの側面を守りながら降車。

 

 タタタタタ! 

 

 先に下車した市警察機動隊員が射撃を開始。

 遮蔽物から飛び出してきた、ゴブリンを射殺していく。

 

 

 ◇

 

 

『各員に通達する。諸君が相対している敵は、九州共和国が送り込んできた『生体兵器のキメラ』の一種である。その個体類の国防軍、並びにPMCでの個体識別呼称は、見たままのゴブリンである。繰り返す――』

 

 遮蔽物から飛び出してきたゴブリンを射殺する、市警察機動隊員。

 そしてSWAT隊員である、鬼沢達のインカムには戒厳本部長。

鬼頭の声が響いていた。

 

『本日未明、九州共和国で国教の親衛隊と特殊部隊がクーデターを実行、同国の大統領を南シナ海上空で専用機ごと爆殺、クーデターを成功させたようだ。そして数分前、休戦条約の破棄の宣言と同時に、日本へ宣戦布告と攻撃を開始した。そのゴブリンは九州共和国が送り込んできた生体兵器だ。子供っぽい体格だが、容赦せず殲滅せよ――』

 

 市警察機動隊員の一人は片膝をつき。

 援護射撃の弾幕で護衛され。

 腰のポーチから片端にフィンの付いた、数本の円筒形の筒を取り出し。

 装備するカービン銃の銃口に――ガチ――ライフルグレネード弾を装着。

 

 ポォン――ズズン! 遠くにいるゴブリンの群れを攻撃していく。

 

 ライフルグレネード弾が放物線を描き。

 ゴブリンを殺傷している間も、鬼頭の声は淡々とインカムに響く。

 

『――既にレベル5の防衛出動がONDS『自動国防システム郡』から発令され、全国規模の戦時体制に移行している。よって機密情報の一部を市警察の諸君にも開示するものである――』

 

 鬼沢達がドローンの爆発プローブで地雷原を処理。

 付近のビルに立てこもる犯人達をドローンで偵察したところ。

犯人達が人質を処刑している場面を確認。

その後、鬼沢達は迅速にミニガンとグレネードランチャー、プラスチック爆薬を積んだドローンの自爆攻撃で犯人達を殲滅。

そのまま、モールに装甲車で突入しようとした直後。

 

 戒厳本部から市警察機動隊員を数名、装甲車に乗せて目的地に向えと、追加の命令が下った。

 同時に第三次世界大戦後に建国した、日本の敵国。九州共和国でクーデターが起きた事。

 

 その関係で鬼沢達、PMCや国防軍が隠蔽工作で世間から隠してきた存在。

 

 機密情報の中でも『表向きは』生体兵器という事になっているキメラ。

 ゴブリンなどのモンスターの存在を、公表した事をあっさりと知らされ。

 驚く間もなく、危険すぎる人命救助の続きを行っていた。

 

 ◇

 

 市警察機動隊員と鬼沢達は姿勢を低くし。

 紅菜の魔力矢に当たらない様、壁沿いに進軍。

 鬼沢は構えたPDWのセミオート射撃で、紅菜の魔力矢の死角に逃れた敵。

 ゴブリンの眉間にダブルタップで銃弾を撃ち込み。

 手馴れた手つきで、射殺しながら口を開いた。

 

「龍澤! お前もエネルギー兵器を扱う、クソガキの同類を知っているクチか!?」

 

 タタタ! 龍澤も構えたカービン銃でゴブリンを射殺し。

 会話を続けた。

 

「そうだよ! 機密情報の開示がされたのなら言うけど――国境線付近の非正規戦闘とか! まるで別次元の戦い。まるで『異世界』だぜ!」 

 

「――勘が鋭いなお前!」

 

 タタタタタタ!

 

「なんだよ! 銃声で聞こえないぞ!」

「気にするな!」  

 

 鬼沢はゴブリンへの射撃で会話を打ち切ると、周囲を見渡す。

 前衛は市警察機動隊員。

 その後方には自律型ストレッチャーの側面を守る、自分と龍澤。

 そして、自分達の後ろでは――ガチャ――ダダン!

 

『ちょっと! なんであたしらも装甲車から出なきゃいけないんだよ』

 タタタ! ダダン!

『先輩~突入要員の人手が足りないから、しょうがないじゃないですか。一応私達もSWAT隊員です――しね!』 

 

 タタタ! ドラムマガジンを装着した自動式散弾銃と軽機関銃を撃つ。

 完全武装の二人の女性がいた。

 

『こちら鬼沢、二人とも後衛を頼むぞ。帰りは生きていたら、本社からの輸送ヘリだ』

 陽気な短髪のガンナー少女が素早く返事を返した。

『こちらガンナー! 了解~』 

 軽機関銃でゴブリンを射殺する、陽気な短髪のガンナー少女は急いで着込んだ装備。

タクティカルベストの腹部ポーチをゴソゴソとまさぐり。

黄金色の弾帯を掴み。

汗ばみ、揺れる胸元に視界を邪魔されながらも。

軽機関銃への給弾を行い、制圧射撃を再開。

 

その横ではドラムマガジンを取り外し。

予備のボックスマガジンを自動式散弾銃に装着する、長身の女性。

『こちらドライバー! 隊長、装甲車はどうする――』

 二十代前半を思わせる大人の女性。

ドライバーが勝手に第二の住処としている、装甲車内部。

そこに残してきた私物の類いを心配して、言葉を発した直後。

 

 ドガァアン! 装甲車が盛大に爆発して吹き飛んだ。

 

 ――数秒前――

 

 ゴブリン達は車輪のついた、見慣れない金属の箱から漂う。

久しぶりに嗅ぐ……人間の女の臭いに興奮していた。

 

「ギャハハ!」

 

 ゴブリン達は我先にと、臭いのする金属の箱に群がり、中へ入って行く。

そして、その先でゴブリン達は発見した。

人間の女の臭いが染み込んだ下着類の山。

使用済みの生理用品、壊れたアダルトグッズが乱暴に詰め込まれた、ゴミ箱。

 その他、飲食物の容器や包装用紙。

 散乱した、お菓子のクズ。

 

「ギヒャァアア!」

 

 ゴブリン達は宝を見つけたと換気。

ヨダレを垂らし、高揚感のまま本能で、生臭いゴミの山へと群がっていく。

 このどこかに、臭いの主である、人間の女が怯えながら隠れている筈だ。

 そして、自分達がその女を犯して楽しむのはもうすぐだ。

 

だが……その願いは叶わなかった。 

 

ピピ! 微かに鳴り響く電子音。それに続くのは――閃光――と爆発。

 

ゴブリン達は、鹵獲防止様に装甲車に設置されている自爆装置。

起爆した高性能爆薬、オクトーゲンの爆風に蹂躙されたのだ。

 恐らく、痛みを感じる間もなかっただろう。

 装甲車は瞬く間に、ゴブリン達の棺桶と火葬場。

墓場へと早変わりした。

 

 ――そして現在――

 

「私の家がぁああああぁあああ!」

「勝手に家にするな!」

 

 ドライバーの叫びに鬼沢はツッコミを入れ。

飛び跳ねて来たゴブリンに蹴りを入れ、そのまま壁に押さえ込み。

眉間に銃口をゴリッと押し当て――カチッタタタン! 

銃爪を絞って、壁に生臭い染みをペイントする、作業をしていた。

 

『先輩~新しい万年床をまた作りましょう!』

 後輩であるガンナーが、ドライバーを陽気な声色と機銃掃射でフォローする。

 だが、ドライバーはゴブリンを散弾でミンチに変えながら不満を漏らす。

「何言っているの! 今年で私達のチームは装甲車の廃車が三両よ! 絶対に署長や本部長が怒るわよ!」

『消耗品だから仕方ないですよ~それに戦時下になったドサクサだから、お咎め無しかも――なんですかぁああ!?』

 突如として激しく揺れるモール。

「地震か!? 全員進軍停止! 何かにしがみつけ!」

 鬼沢達は進軍を停止。

 それにゴブリン達の様子もおかしい。

 何かに怯えきった感じでガクガクと縮こまり……震えている。

 

 ――その頃――

 

「義明さん!」

 屋上では葉菜が上空から現れた敵に銃口を向けていた。 

「がはっああぁあ!」

 

 敵はゴブリンの湧き出る屋上出入り口付近を粉砕して塞ぎ。

 跳躍して義明に接近――義明を掴むと屋上床に叩きつけ。

 今は……無言でアイアンクローの最中だ。

 だが、義明は何とか言葉を吐き出した。

 

 ◇

 

「……てめぇ……何しやがる!」

 

(いてえぇええぇえ! もう理由が分からない! なんだよ……この展開はぁあああ!?)

 

 俺は本日二度目の落下で死にそうだ。

 と言うより、真っ黒な牛みたいな被り物をした。

黒い甲冑を着込んだ、不審人物に殺されるかも知れない。

 俺を睨みつけるトンボの様な複眼の目元が……真っ赤な宝石っぽいのもなんか。

――怖すぎだ――

 

『コノ反応、オマエ、コノ世界ノ人間ジャナイナ? 聞キタイ事ガアル。答エレバ殺サナイ』

 

(話しやがった!)

 

『オマエハ、サトシカ? 答エロ』

 

(そんな奴、知るかボケ!)

 

「……違う……俺は遠近義明だ! ゲホッォオオ!」

 

 俺は血反吐を吐き――視界が真っ赤に染まっていく。

 そして不審人物の言葉を途切れそうな、ぼんやりとした意識で聞き。

 

『チガウノカ。元ノ世界二未練ハナイカ? アルナラ――――』

 

 俺の意識が途切れそうになった瞬間。

 突如として、不審者は俺から遠ざかり――――俺の眼前を赤い光線が通過。

上空に逃げた不審者を追尾して――――直撃――――ズガァアアン! 

閃光と爆発を生み出していた。

 

<六話 ドッキング>

 

「うぉおお! 逃げるなぁあああああ!」

 

 紅菜はブチ切れていた。

 目の前で救助対象が、突然現れた不審者。

おそらく敵対行為を行う、未確認の転移者に襲撃され。

殺されそうになった事が……絶対に許せなかった。

 其れ故に紅菜の撃つ魔力矢は――――豪雨の如き勢いで――――発射。

 上空で回避行動を行う、黒い甲冑を着込んだ不審者を追撃している。

 

『こちら春菜! 聞こえる紅菜! どうしたの!?』

『未確認の敵(アンノウン)を発見! 現在上空に逃走した敵を迎撃中! うぉおおおぉおおお落ちろぉおおお!』

 春菜は紅菜がブチ切れている事に戸惑い。

 どうしようか悩み始めた刹那――誠が言葉を発した。

『こちら誠。紅菜は敵への対空攻撃を継続してくれ。俺と春菜は葉菜達の屋上に向かう』

誠と春菜が屋上へ向けて動き始めた直後。ツバメも言葉を発した。

『こちらツバメ! あたいも屋上に向かう!』

 

 その頃、屋上では義明に葉菜が寄り添い。

 救命行為を行っていた。

 

 ◇

 

「義明さん! 大丈夫ですか!?」

「いて!」

 

 俺は葉菜が両掌から放つ緑色の光を浴び。

 出血と痛み、動悸が軽くなるのを感じ。

 肉や――骨が動き――繋がっていく。

……奇妙な感覚。

 

――回復魔法的な現象を体験中だ――

 

「まだ声を出さないで下さい……後、数分で動けるようになりますから、そのままの姿勢で」

 葉菜はそう言いながら、まるでサウナに入っているかの如く。

……………………汗をだらだらと垂らし。

 必死に光を放って……俺を癒そうとしているようだ。

 

 因みに汗と尿…………その成分は殆ど変わらないらしい。

 つまり、少女の搾りたての汗を全身で浴びる俺は、聖水プレイの最中と言えるかもしれない状況だ。

 変な性癖に目覚めないか。精神面での後遺症が心配だ。

 

 ――その頃――

 

――名古屋市警察本部 通信指揮管制室――

 

 通信指揮管制室では、オペレーターがハンバーガーやポテトを食べ。

 エナジー系の炭酸飲料を飲みながら、昨夜から交代で作業をこなしていた。

 床には普段以上にエナジードリンクの空き缶が空薬莢の如く……転がっている有様だ。

 

「――ああ!? 夫婦喧嘩なんか知るかボケ! 今は非常事態だから――」

「事件ですか!? 事故ですか!?」

「――ええ、お隣さんが庭で射撃練習をするから、お宅の飼い犬が流れ弾で死んだと……それは、お悔やみ申し上げます。ええ、盆栽も棚ごと木っ端微塵に――」

「――え? お隣さんが庭に地雷原の造成をしているから、止めてくれと、兵器類のご近所トラブルは軍警察かPMCにご相談して――」

 

ここも情報が弾丸のように行き交う意味では、戦場と言えるかもしれない。

そんなゴミだらけの空間にデカデカと鎮座する、巨大有機ELモニターには、名古屋市近郊のスラム街で行われる、戦闘状況がドローンの捉えた映像。

各種情報がリアルタイムで転送――生中継され、その映像を防弾ガラスで囲まれた……VIP室から眺める者達がいた。

 

 シンプルな調度品のソファーとテーブルが置かれた一室。

 そこには白いスーツを着こなす、丸坊主で筋肉質。

 猛禽類の様に目つきの鋭い男が、防弾ガラスの前に立っていた。

 その少し後ろのソファーには、市警察の黒い制服を着た男。

 市警察本部長が……腰を下ろしていた。

 

◇

 

「――まさか戦時下になるとは……市警察本部長」

「なんですか。鬼頭戒厳本部長」

「おそらく、明日未明までは我々……NEETが市警察を指揮下に置くことになるので、ご容赦願いたい」

 

 市警察本部長は座ったまま、少し身体を解してから口を開いた。

……彼もまた、昨日から市警察本部で対応に追われていたからだろう。

 その目元にはうっすらと……くまが浮かんでいる。

 

「それは決まりなので構いませんが、お宅から派遣されている、SWATチームの廃車にした装甲車……アレは市警察の装備ですから……その市長がね、いい加減にしろと、名指しで毎回派手に立ち回る、鬼沢分隊をどうにかしろとね。圧力がきましてね……」

 

「……我が社から最新鋭の装甲車をフルオプションで数両用意しよう。市長には我が社から穏便に働きかけておきます。もうすぐ選挙ですからね……それこそ市長も、無茶はしないでしょう」

 

「ですな。では、私は先に失礼しますよ……」

「ええ、ゆっくり休んで下さい」

 

 市警察本部長は少し疲れた足取りで、部屋を後にしていく。

 代わって入って来たのは、鬼頭の女性秘書だった。

 秘書は市警察本部長に会釈を済ませ。

 少しばかり、焦った感じを漂わせ。早足で近づくと――報告を開始した。

 

「鬼頭本部長、本社から命令です。『現在、未確認転移者と交戦中のマギサ様の実験部隊、並びに要救助者の救出を最優先しろ。手段は問わない』以上です」

 

 おそらくミイラ取りが、ミイラになるといった、危険な状況だろうか。

 転移者絡みの事案は偶然の要素。不確定要素が多すぎて悩ましい。

 そのように鬼頭は思いを巡らせ……思考を解し……口を開いた。

 

「了解した。君は引き続き、本社からの連絡に備えて待機。それと州知事、州軍司令官にも、私の名前で応援要請を非公式に打診してくれ」

 

 秘書は会釈を済ませると、速やかに退室していく。

 そして鬼頭は胸のポケットから黒いインカムを取り出し。

 耳元に装着すると、口を開いた。

 その声は防弾ガラスの向こう側。

通信指揮管制室で業務をこなす者達に、スピーカーを通じて届いた。

 

『戒厳本部長の鬼頭だ。直ちにSWAT鬼沢分隊の展開地点に増援を送れ。繰り返す。増援を送れ。これは戒厳権限に基づく命令である。繰り返す――』

 

 鬼頭が眺める巨大モニターにはスラム街の上空で炸裂する赤い軌跡。

 紅菜の魔力矢による対空攻撃の猛攻。

その猛攻を躱す人影が、リアルタイムで映っていた。

 

 ――そして――スラム街上空。

 

◇

 

 追尾してくる赤い軌跡を容易く避け。

回避行動を続ける不審人物。その姿は宛らドッグファイトを行う戦闘機。

いや、最早それ以上の旋回性能を戦闘機の戦術機動が困難な高度。

空気密度の濃い、低高度で発揮していた。

 だが、逃げるのに飽きたのだろうか……紅菜の魔力矢の射程外に逃げ切ると。

 不審者はスラム街のビルの谷間に滞空して――無音無風のまま――留まって不気味な瞳を光らせていた。

 その様子は高度を上げた、人員輸送ドローンのセンサー類が捉え。

 春菜達の端末に送信して、ヘルメットのバイザーに表示されている。

 

◇

 

「……義明さんは大丈夫っぽいですね。動けますか?」

 俺はピンク色のパワードスーツを着込んだ少女。

 春菜に話しかけられている。

 

 俺の横では――葉菜と紅菜が魔力の使いすぎで――倒れていた。

 先程まで二人は軽く、春菜に説教されていたが。

 今はそれどころじゃないと、誠が止めていた。

 

 紅菜は誠、オレンジ色のパワードスーツを着込んだ少年。

 何やらカッコイイ刀を装備した彼が、かっこよく。

向こう側の屋上から抱えて運んできた。

 

「鬼沢さん~ゴブリンはどんな感じですか」

 誠、彼は今現在、春菜に代わって指揮を取っている。

 会話から察するに元々、このチームの指揮は先月まで誠が取っていたようだ。

 経験が長いのだろう。見ていて連携を取るのが上手い様に思える。

『おう! 全部処分しといたぜ。瓦礫を爆薬で吹き飛ばすから衝撃に備えろ』

 そして顔はまだ見ていないが、どうも警察の鬼沢さんとその仲間達がもうすぐ。

 担架を持ってここに到着するようだ。

 

 ズドン! 粉塵が出入り口のあった場所で舞い上がった。

 

 そして人が瓦礫を乗り越えてくる、音が聴こえ。

 カービン銃を背負った機動隊風の男が5人登頂。

 素早くカービン銃を構え――周囲の安全を確保していく。

 それに続いて、ガシャガシャと瓦礫を8本の脚で登ってくる。

 自走式の救命カプセル的な担架が登頂。

 

「うへぇえ! ガスマスク持ってくれば良かったね。美奈!」

「先輩~それは後の祭りですよ~」

 

 何やら賑やかそうな少女と大人の女性が二人。

軽機関銃と――恐らく。

 フルオートで撃てる自動式散弾銃を抱え……汗だくで埃まみれで登頂。

 

「クリア」と言いながら、器用に銃を片手で構え登ってくる二人。

 一人はニット帽を被った男だ。

機動隊員っぽい男達と同じカービン銃を装備している。

 もうひとりは、ブルパップ型っぽい銃を構えている。

 ブーニーハットを被った……ムチが腰に似合いそうな男だ。

 俺と視線が合ったが、彼は周囲に銃口を向けて安全確保に余念がない感じだ。

 そんな彼は俺に近付き、口を開いた。

 

「あんたが要救助者か……龍澤、容体を確認後、歩けそうなら、そこのお嬢ちゃん二人を担架に放り込むぞ」

「了解、鬼沢さんは坊や達をまとめて、離脱の準備を進めてくれ」

 ブーニーハットを被った男。

 鬼沢は俺と紅菜、葉菜以外のメンバーを集め。

 話を始めるようだ。

「兄ちゃん、ちょっと身体を触るぜ……」

 俺は身体をペタペタと医者に診てもらう感じで確認されていく。

「腕や足も動くか……外傷は無いな。一応、基地で医者に診てもらうみたいな流れだが、あんたは運がいいな。そこの緑色の髪をした嬢ちゃん、葉菜ちゃんに感謝しとけよ」

「……そうですね」

「それと一応、身分証明出来る物とか……あんたが向こう側来た人間か確認がしたい」

 俺は財布の中から免許証や保険証を取り出し。

 ……確認してもらう。

「懐かしいな平成の元号か……ん? あんた昭和の生まれか」

「それ、職場でもよく言われましたね……童顔だって」

 

 だから前の職場では、オークみたいなババアに絡まれ。

 苦労したものだ。まぁそんな古巣も低賃金の外国人労働者を大量に雇う為。

 雇用の調整弁として、少しばかり高い賃金の日本人の非正規労働者を大量解雇。

俺も大量解雇された側、存在価値を否定された……者。

 

――世界から否定された者なのだろう――バシッ!

 

 俺は背中を軽く叩く衝撃でハッとして――床に向いていた視線を戻す。

「そんな暗い顔して勿体無いぜ!」

 いけない。気持ちが顔に出ていたか。

「でも……あんた、義明さんよ。あんたは髭剃った方がいいぜ。 そっちの方が女の子にもてるぜ。そうだ。おい真美、聞こえるか。こっちに来い」

 目の前のニット帽の男。

 龍澤さんが一人の女性を呼びつけた。

 それは自動式散弾銃を持った……黒髪短髪眼鏡の二十代前半の胸元が豊満な大人の女性。

 三十代前半の俺から見たら、お嬢ちゃんになるか。

「なに龍澤~」

「この兄ちゃんどう思う?」

「どうって……マギサさんが捕まえてきた、パイロット候補だろ? そういやあのチビはいないね?」

 

 パイロット候補……何のことだろう? 

あのチビ……ツバメの事か? などとあの妖精っぽい。

陽気な生命体の事を考えた刹那。

インカムにツバメの焦った声が響いた。

 

『こちらツバメ! 現在滞空中の襲撃者を監視中だけど――あああああぁあああぁあ!』

 

 チュドォオオン!  突如として上空で爆発が発生。

 何かが燃え尽きながら落下してくる。

その光景の意味はツバメの解説で直ぐに判明した。

 

『――遅かったかぁあああああ! 襲撃者が迎撃術式の詠唱を長く続けていたけど!? 嘘でしょぉおおおおぉおおおぉおお!』

 

 次々と空を真っ赤な軌跡が駆けていく。

それは紅菜のエネルギー兵器を思わせる攻撃。

否――話からするに攻撃魔法だろう。その赤い軌跡は空の彼方で火の玉を幾つも。

ズドドドドォオオン――咲かせていく。

 おそらく速度だけでなく、射程や威力も桁違いなのだろう。

 

『まさかの倍返しで連射式ですかぁあああぁあああぁあ!』

 

 流石にこの騒ぎをプロの皆様は、黙って見ていない。

 俺達はモール内へ降りていく事になった。

 

 ◇

 

『邪魔ハサセナイゾ! 人間ドモ! フハハハハハ!』

 

 正体不明な謎の襲撃者は両腕を大空に伸ばし。

 両掌から赤い光線――魔力矢を放ち――先ず始めに春菜達の乗ってきた、微かに魔力反応が残る、人員輸送ドローンを撃墜。

 

 続いて、この場所に集まろうと鬼頭が送り込んだ航空部隊。

 市警察の偵察ドローン数十機。人員輸送ドローンを撃墜し。

 今は民間の物流ドローンを撃墜するのに、夢中になって――悦に入っていた。

 

 ◇

 

 ――名古屋市警察本部 通信指揮管制室――

 

「馬鹿な! 全機撃墜だと!?」

 鬼頭は驚きのあまり、防弾ガラスに詰めより、叫んでいた。

 既に民間の物流ドローンまで無差別に撃墜され、被害が拡大している。

 そして即座に彼は、一人の男に――この事態の解決をしてもらう判断をした。

 

 ピピッ! 彼はインカムを手元の端末で操作。

 秘匿回線に繋ぎ、通信状態の暗号化を確認後。

口を開いた。

 

「戒厳本部長の鬼頭だ。大至急、NEET社長特別調査室に繋いでくれ!」

 

◇

 

――特別軍事法人NEET 中部方面総司令部 滑走路――

 

『――対空戦闘用意! 繰り返す! 総員に告ぐ!  対空戦闘――』

 

 屋外に設置されているスピーカーからは対空戦闘を開始する、緊急放送が流れる。

 防爆格納庫に収容可能な機体は収容され、基地の中に隠れていた近接防空火器の20ミリ機関砲、対空ミサイルポッドを搭載した、軽自動車サイズのドローンや。

大型ダンプぐらいのサイズをしたレーザーユニット、電柱並に長い使い捨ての砲身型のレールガンユニットを束ねて搭載した、自走式のドローンが――滑走路脇に間隔を空けて――次々と展開していく。

 

 そんな迎撃兵器類の展示場と化した空間の傍を歩く男がいた。

 彼は真紅の甲冑……それも、SF作品やゲームに出てきそうな存在。

ハイテク化された、サムライを思わせる風貌だ。

腰には誠が装備している武器、ハイテク感が漂う鞘に納めた太刀が一本。

 そして右足には装甲と一体化した固定式のレッグホルスターに収められた銃。

 銀色のロングバレルが特徴的な回転式拳銃が収まっている。

 だが、バレルの下部にはアクセサリーの一種だろうか。

 銀色のボックスを装着する、改造がされているようだ。

 彼が無人になった、滑走路まで歩くと……彼の耳元には聴き慣れた女性秘書の声が響いた。

 

『矢島会長、特別調査室の回線に鬼頭本部長から救援要請です』

「ははは! やはり来たか。彼は決断が速い。だが、私にはまだまだ及ばないようだが、鍛えがいがあるな」

 真紅の甲冑を着込んでいるのは、矢島だった

『鬼頭本部長と会長では持っている情報と権限も違いますから、比較対象にするのは如何かと思いますが?』

 

「まぁ、それもそうだな。失敬、部下の成長に浮かれすぎたようだ。それで無差別に魔力矢をぶっぱなす、転移者はどんな感じだ?」

 

『はい。航空偵察は不可能に近い状況です。偵察衛星郡は機能していますので映像、センサー類の情報をリアルタイムで送信可能です。ですが、民間ドローンの残骸墜落による二次被害や、空港に民間機が離発着出来ない影響が、交通網にダメージを与えつつあります。ではご武運を』

 

「了解、さっさと片付けて、クソガキどもと反省会だな」

 

 矢島はそう言い終えると、ヘルメットのディスプレイに表示されたルートを確認。

 地上スレスレに近い高度。巡航ミサイルが地形追従飛行を行うルートを選び。

 インカムを秘匿回線に繋ぎ……口を開いた。

 

『こちら、NEET社長特別調査室エージェントナンバー44、出撃準備完了』

 因みに矢島の音声は音声処理され、誰か分からないようになっているからだろうか。

 彼の顔には微笑が浮かんでいる。

『こ、こちら! 戒厳本部長の鬼頭だ! 対象の抹殺を迅速に頼む!』

『了解。抹殺を開始する。全てのNEETに栄光あれ』

『全てのNEETに栄光あれぇえええぇえええぇええ!』

 

 次の瞬間――矢島は飛翔――速度と通信ラグの関係で、鬼頭の返答が伸びた様に聞こえた事に、満足した彼は設定した、巡航ルートを亜音速で飛翔。

 抹殺対象へ向けて接近していく。

 

◇

 

 ――廃墟郡ショッピングモール内部――

 

「その場で待機だと! 正気か!?」

 鬼沢達は銃を撃ちながら、戒厳本部からの通信に吠えた。

『そうだ。そちらに対転移者の特殊部隊が急行中だ。それまで生き延びろ』

「了解だ! 全員動きながら撃ちまくれ!」

 

 既に魔力矢を乱射する、襲撃者は航空目標を落とし終わり。

 鬼沢達を狙い。わざと――ズドン!

 威嚇で爆撃をしながら、不気味な笑い声を響かせている。

 

既に市警察機動隊員は、魔力矢の直撃で粉微塵に殺された。

爆殺ではドッグタグの回収も不可能に近い。

その事実も、鬼沢に怒りを注いでいた。

 

残る戦力はSWAT隊員である鬼沢、龍澤、真美、美奈。

マギサの実験部隊である誠、春菜。

 

そして戦力外である、自走式救命担架で百合状態な寝息を立てる二人。

紅菜と葉菜。要救助者の男。

 

そして要救助者の――相棒になるであろう。

今現在、囮として逃げまくって、スラム街を壊している――ツバメだ。

 

「もう嫌ぁああああぁあああ!」

 ツバメは襲撃者に追われていた。

『フハハハハハ! 妖精族ノメスヨ! 逃ゲルダケカァア! 貴様ノ戦闘力ハソノ程度ハアルマイ! 』

「こいつキモィイイイ!」

 

 グサッ――ツバメの放った一言を何故か――聴覚以外の第六感で聞き取った襲撃者。

 彼の中では何か、種の様な物が輝き――パァン――弾けた感じがした。

 

『ウォオオオオオォオオオ!』

 

 襲撃者は赤い霧を纏い――動きが加速していく。

 魔力矢の発射速度も上昇するが、ツバメが小さすぎるのだろうか。

 ……全く当たらないようだ。

だが、廃墟にはボカスカと命中していく。

 

『何故ダ! アノ妖精ガ憎イ! トテツモナク憎イゾォオオオォオオオ!』

 

 そして廃墟にまっすぐ――突っ込むドジな襲撃者――ズドォオオン!

「ひゃっほぉおおざまぁあああぁああ!」

 

 ツバメは廃墟の手前でホップアップ。

 だが、加速しすぎた襲撃者は上昇出来ずに衝突した。

 事実関係はただ、それだけである。

 

「やったぁあああああ!」

 

 喜びの余り上空でビュンビュン飛ぶツバメ。

 ツバメのインカムにある男の声が響いた。

 

『ツバメ! 久しぶりだな』

 ツバメの元に一人の男が速度を落として、空から接近してきた。

「あ! 矢島ぁぁああ!」

 矢島である。

『どうだ。元気にしているか?』

「うん! 新しいパイロット候補も来たし! これで……あたいもマギサと一緒に戦えるよ!」

『そうか。じゃあ、そいつと一緒に下の馬鹿にトドメを刺すか? 多分もうすぐ動くぞ』

 

 ズガシャ! 矢島の言ったとおり、襲撃者は瓦礫の中から這い出てきた。

 

『ウォオオオ! 許サナイゾォオオ!』

 当然だが、ご立腹である。

「いやぁああああああああ!」

 ツバメはこの場から、本能で緊急離脱していく。

『ツバメ! パイロット候補を連れてこい! そいつに渡したいものがある! トドメはお前達で刺せ! それまでは俺が適当にここで遊んでおいてやるからな』

 

 数分後、鬼沢達と合流後。

矢島と合流したその直後の経緯を話したツバメ。

彼女は並行世界で別の人生を歩んでいた、もうひとりの相棒。

義明のうなじに、実に十数年ぶりにあっさりと……ドッキングしていた。

 

◇

 

「――という訳で、君の身体を借りるぞ!」

「ふざけんなぁあああ!」

「だってパワードスーツが壊れちゃったから、あんたをあたいが動かす。ただそれだけの変化だよ! 本来は逆だけどまぁ、大丈夫だよ!」

「おい! パワードスーツは葉菜ちゃんの下着ごと、お前が壊したんじゃねぇかああ!」

「あ、一応発言の自由はあるけど、飛行中は舌を噛むからご注意を!」

 

 そう言い終えるとツバメは義明を連れて飛翔準備を開始。

「兄ちゃん、えっと義明さんか……まぁ達者で――ボソボソ」

 龍澤が哀れみの視線を向け、義明に接近。

 そして小声で『何色だった?』と、真顔で聞いてきた。

 義明は呆れ顔で濁しながら答えた。

 

「答えは屋上に散らばっていた残骸の色の中にあるぜ」

 

 その直後、義明とドッキングしたツバメは飛翔。

 義明と一緒に矢島が、斬撃音を響かせる場所へ向かっていく。

 

<エピローグ 兆し>

 

「お! やっと来たか――!」

 

 矢島は切っ先諸刃の刃。

小烏丸に酷似した太刀を抜き、剣戟音を響かせ。

火花を散らしている。

 襲撃者は全身を覆う甲冑が、打撃武器も兼ねているのだろう。

 矢島にボクシングに近いスタイルで殴りかかっているが。

 難なく回避されて、遊ばれている。

 矢島は太刀を振るいながら、ツバメが操縦する。

義明に何かを投げた。

 

「受け取れ。お前たちへのプレゼントだ!」

「あいよ!」

 

◇

 

(あの人すげぇ! 刀であの化物を遊んでやがる! てか、俺の握ったこれって――回転式の拳銃――にしてはバレルの下の箱はなんだ? レコーダーか?)

 

 義明は奇妙な感覚を体験中だ。

 今度は自分の身体を勝手に動かされて空を飛び。

 銀色の刃を思わせる銃を右手で構え。

バレル下部の箱を慣れた手つきでツバメがパカっと左斜めに開き。

自分の財布から――全ての万札を取り出し。

 

「――ちょっと待てぇえええ! 財布を捨てるなぁあああぁああ!」

「もう遅いっての!」

 

 箱に納めた――その枚数と金額は人の煩悩の数とされる。

108枚にして、108万円ジャスト。

 

 カチャ――キィイイイン!

 

 ツバメが箱を閉じた直後。

 銃を青い輝きをした……霧に包まれた。

 

(なんですかぁああああ! この光は!?)

 

『貴様マサカ! 己! ガルーシャ様アアァア! バンザイィイ!』

「やはり、あの爬虫類女の刺客か……ツバメ! さっさと撃て!」

 語気が荒くなる矢島。

 彼は更に言葉を乱暴に放つ。

 

「どうせ見ているだろガルーシャ! 今度は地球最大火力で相手してやるぜ! こそこそせずに堂々とカチ込んでこいや!」

 

「いくぞ! 義明……これからあたい達と一緒に……救世主になってみないか!?」

「え!?」

 

 ――カチッ――バァン!

 

 ツバメが操縦する義明の人差し指が――ダダダダダァン! 

銃爪を数回――引き絞った。

 

 50口径の銃弾が襲撃者の眉間の同じ箇所に命中。

 それを初弾発射前にツバメが動かす。

義明の挙動で予測した、矢島は上空に退避。

 ツバメも急速離脱。

 

 ――その直後――

 

 ズドォオオオン! 襲撃者は白い光の柱に飲み込まれ。

 ……この世界から消え去った。

 

 その頃、この光の柱を感慨深い気持ちで見る者が……涙を流していた。

 

 ――特別軍事法人NEET 中部方面総司令部 賓客室―― 

 

◇

 

 マギサは着慣れた、大戦前の平和な時代を謳歌した存在。

女子高生風の制服をイメージした。

ブランドの服に着替え終え……眺めのいい。

この部屋から義明とツバメが撃ち。

この世界に生み出した、白い輝きの柱を眺め……自然と涙を流し。

言葉を漏らしていた。

 

「……お帰りなさい。義明……いえ、彼と重ねちゃダメね。でも良かった」

 

彼もまたあの人と同じ素質……聖剣を扱い、救世主になれる者。

 

――勇者の宿命を背負った、私の愛した彼――

 

「うぁああああああん!」

 

 マギサは嬉しかった。

そして力の限り泣いてから部屋を出て、基地を後にした。

 

 

 

 ――そして数時間後――

 

 夕陽が破壊したスラム街の残骸を包み込む。

 既にこの周囲は州軍によって封鎖され、現場は国防軍と特別軍事法人NEETの調査部隊が。

 調べている最中だ。

 

 ◇

 

「で、なんで俺もカプセルの中!?」

「仕方ないですよ……義明さん……こうした方が、魔力の回復が速いですよ。実際」

「だよね~葉菜~良かったじゃないで・す・か。しかも美少女と後、数時間は密室で添いが寝出来るんだから~」

「そうだぞ。義明~お前は今日、何回も死にかけた……これはご褒美だ! 素直になれ!」

 

 だが、俺は極度の筋肉痛で動けないので微妙な感じだ。

 

 それに……これから俺はどうなるんだろう。

 謎が解けたりもしたが、更なる謎の方が増えた感じが圧倒的だ。

――でも、だからこそ謎を解き。前に進んでいく人生は楽しいのかも知れない―― 

 

 俺はそう前向きに思いながら、このハーレム状態を鎮痛剤替わりに暫し。

 楽しむ事にした

 




さて、次回作はどうしようか悩ましい~

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