【完結】オレがカノジョでカノジョがアイツでアイツがオレで。 作:白千ロク(玄川ロク)
オリジナル:現代/恋愛
タグ:R-18 ボーイズラブ 性転換 TS 精神的BL もとに戻る終わりかた 現代もの
【 ご注意 】
!ノクターンノベルズからの再掲です(本編のみ)
!男女の精神入れ替わりネタです
一部凌辱(的な感じ)注意
!最終的にはもとに戻ります
!本編完結済みですが、続編をひっそりと考えています。BLかTSか悩む(続編を書くかは不明です)
【 備考 】
モバスペBOOK
http://book.xmbs.jp/detail.php?ID=novelplace4&server=mbbook&guid=on
個人サイト
ノクターンノベルズ
https://novel18.syosetu.com/n0392bo/
ハーメルン(ここ)
https://syosetu.org/novel/176424/
アルファポリス
https://www.alphapolis.co.jp/novel/254189682/498062529
に掲載しています
■男女の精神入れ替わりネタです
一部凌辱(的な感じ)注意
2018.12.04
怪しいとは思っていた。店の雰囲気も、小瓶も、その中に入れられた薬品の色もなにもかも。
オレ達は――というか、オレはなにが起こったのか解らなかった。
「どういうこと?」
耳に響く声はひなちゃんのもの。視界に映るのはオレとアイツだ。
「だから入れ替わったんだろ」
「みたいだね」
なんでそんな冷静なのか。意味が解らない。
どうやら、オレこと
事の起こりは三十分ほど前になる。オレ達は通学路にあった怪しい店に興味本意で入ってみた。店構えは今にも潰れそうな感じに見える。洋風なその店の看板は『薬局工房』。だけど中は普通だった。いや、外観から見て中はそうだっただけで、置いてあるものは普通じゃない。
骨格標本とかホルマリン漬けの蛙とか、ここは薬局というより理科室に近い。というか、ほぼ埃を被っているんだが、店はやっているのだろうか。
「ひなちゃん危ないよ。早く出よう」
蛍光灯がついているが不気味だ。床だってギシギシいってるし、いつか抜けそうで嫌だ。
「大丈夫だって。和人は怖がりだよねぇ。恵太なに見てんの?」
「ん、あぁ。薬、かこれは」
「薬ってなんの?」
ひなちゃんが言えば、アイツは小瓶をこちらに向けた。小瓶の中には濁った色をした液体が入っている。そしてそれには色褪せたハートマークのシールが貼ってあり、その中には『入れ替わりしてみる?』と丸文字で書かれていた。
「入れ替わり!? なにそれ、面白そう!」
「面白そうって、怪しいだろ!?」
「なんだ、お前はやっぱビビりか」
「バカ言うなっ。ビビってねーし!」
コイツに言われるとムカつく!
「比奈子、買うぞこれ。割り勘しようぜ」
「オッケー」
オッケーって……。
「え、それ本当に買うの?」
「楽しめそうだし」
「面白そうだろ」
二人ははっきりとそう言う。さすがいとこ同士。恐怖心はないらしい。
レジまで行けば、いつの間にか若い男の人がいた。店に入った時はいなかったんだけど。まぁ、奥から出てきたんだろうけど。
「ご購入で?」
「はい」
「こちら古いですから、新品と交換させて頂きます。こちらへ」
二人は店の奥へと通され、オレは一人残される。
「――マジで!?」
こんな怪しさ満載の店に残されるのはごめんだ。というわけで、オレは店から出た。怖いんだよ!
店の外で待つこと五分弱。二人は上機嫌で店から出てきた。ひなちゃんの手には淡いピンクの可愛らしい袋がある。あの店にこんな袋があったのか。
「掘り出し物だね、これは」
「かもな」
恵太はオレを認めて口端を上げた。
「ビビって外か」
「だからっ、ビビってねーよ! 埃臭かったからだしっ。つか、い、幾らしたんだよ?」
聞けばひなちゃんが手を広げた。
「五千円?」
「違う。五百円」
「安くね?」
五百円とか。いやまぁ、五百円以内で買える薬もなくはないけど。
「店主がそれでいいって言ったんだよ」
オレの頬をつねながら恵太が言い放つ。お前後で殴るぞ。
「変な顔」
手で腕を払えば奴はなにが面白いのかにやにや笑っている。その態度がムカつくんだよ!
「ね、さっそく飲まない?」
「それ、飲むの?」
その怪しさ満載の薬品を。オレは嫌だ。というより、無理だよ。思わず顔が固まる。
「新品だよ? それでも嫌?」
ひなちゃんは瞳を潤ませながら上目遣いで問うてきた。
オレはひなちゃんのその顔に弱い。なぜって、可愛いから。
ひなちゃんは学校内外でモテているから、ライバルも多い。でも、オレの友達――というより勝手にオレの周りにいる恵太のいとこだから話すことも多いし、一緒に昼飯を食べたりこうして登下校をしたりしているので役得だろう。
ついでに、恵太自身もモテていたりもする。告白されるぐらいには。
「……っ」
顔を逸らして口元を押さえた。だからひなちゃんがしたり顔なのは知らない。
「――わ、かった。飲むよ」
ひなちゃんを泣かせたくないし。
オレが小さく頷けば、ひなちゃんはオレ達の手を取り歩き始めた。近くの公園の休憩所で止まり、手を離す。
「じゃあ、飲もうか!」
ひなちゃんはそれはそれは楽しそうに言った。
ベンチに座り、青紫色の液体が入った小瓶の中身を、それの蓋に付けられた小さなプラスチックコップで回し飲む。ひなちゃん、オレ、奴の順で。味はブドウみたいな味で不味くはない。ついでにひなちゃんと間接キスできて嬉しかったり。
奴が飲み終えた瞬間、ふわりと記憶が飛んだ。
目を開ければ――。というわけだ。
まさか本当に入れ替わるとは。どういう原理なんだ、これは。意味が解らない。
「じゃあ、あたしは男の生活を楽しんでくるから!」
ひなちゃんは動じずに立ち上がる。あぁ、完全に楽しんでるな。
「おい、比奈子! ヤるのはありか?」
「え~、そうだな。ちゃんと避妊してくれるならいいよ」
いいんだ! ひなちゃんは猛者だな、猛者。
「それはもちろん。手首の拘束プレイはありか?」
「避妊してくれるならあり」
奴は頷いて「解った」と呟く。
「お前、要は避妊するならなんでもありなんだな」
「そうでもないよ。SMプレイは嫌だしね」
そういう問題じゃないと思う。というか、奴の顔でそんなこと言わないでくれ!
「ね、もういい? あたし――じゃなかった、俺もう行くな」
ひなちゃんはさっさと走り去ってしまう。もう成りきっているのか。その行動力は凄すぎる。
そうして奴は振り返り、不敵に笑う。オレの顔で。見ていられないので顔を逸らせば、恵太はオレの手首を掴んで立ち上がった。
「なに?」
「ホテル行くぞ」
「なんで?」
「聞いてなかったのかよ。ヤるのはありだからヤるんだよ」
聞いてたけども、それは違うだろ。
「これはひなちゃんの躯だ。好きにできない」
「だから確認しただろ。何回も言わせるな」
「――いっ!」
手首を掴む手に力が込められ、引き寄せられる。
「お前は俺と比奈子以外から見れば比奈子だ。女なんだよ。比奈子に欲情したことなんてねぇけど、なんも
近づく顔に顔を背けるが、空いた手で無理矢理元に戻される。
「煽るなよ」
「誰がっ――!」
奴はオレの顔でにやりと笑い、オレの反論も聞かずに唇を塞いだ。オレはオレにキスをされているのか、これは。いや、中身は恵太で外見はオレ、中身はオレで外見はひなちゃんだけど。
「――っ!?」
口を開けていたところの不意打ちのキスだ。舌を入れることなんて容易い。ということで、すぐに舌が絡まった。
思わず胸を押すが離れてはくれず、反して角度を変えた口づけは深い。なす術もなく荒く蹂躙され続け、ワザとらしく漏れる水音が鼓膜を犯す。
おいおいマジか。マジでか! オレはコイツに犯されるのか!?
「んっ――」
嫌なのに。それなのに漏れる吐息は甘い。コイツの舌に翻弄されてしまう。
ヤりたいなら女の子とヤればいいだろ。いや、いまはオレも外見上は女の子だけどさ。それは置いておいても、お前なら選り取り見取だろーが。
「――ぁ」
満足したらしい奴は舌を緩めて唇を離した。糸をひく唾液が艶かしい。濡れた唇も光っている。
「っ……な、にっ、すんだよ……」
がくりと膝が折れ、バランスを崩しそうなところをすぐさま支えられてしまう。だから、ムカつくんだよ。些細なところも完璧なのがっ。
「キスだけで骨抜きか」
「ちが……う」
荒い息を整えていれば、奴の手が突如太股を撫で上げた。
「な、なにっ」
「青姦だよ。解る? ホテルが嫌なら外しかないよな」
「はぁっ!? や、やめろよ! 冗談だろ」
外で、とか。絶対に嫌だ。
「残念ながら俺はいつでも本気だ」
太股を撫でる手はスカートを捲り上げ、下着へと伸ばされる。途端、ぞくりとしたなにかが背中を這い上がり、ぎゅっと奴の制服を握りしめた。
下着の上から割れ目をなぞる指にびくりと躯が竦む。
「んっ!」
「なにお前、感じてんの?」
「っ……、違うっ」
頭を振れば、髪を掴まれてもう一度唇が落ちた。また口内を蹂躙され、今度は下半身も攻められる。
「ん、ぁ……ふ……ぁっ……や……、あっ」
ぞくぞくと這い上がるこれは、多分快感だ。そうして、すぐに躯が熱くなってくる。
口づけの余韻に震える肩を撫でて、奴は口端を上げる。
「素直になれよ、和人。お前は一時的に女になったんだよ。声も、躯も。――俺の女に、な」
オレの声で囁き、オレの躯で攻める。最悪だ。オレはオレに堕ちるしかないなんて。
「外にするか、ホテルに行くか。どうする? お前に選ばせてやるよ、和人」
「い、じ、わる……っ」
意地が悪い。オレを苛めて楽しんでるんだから。
「意地悪? 人聞きの悪いことを言うなよ。俺はお前を目一杯可愛がってるだろ」
奴は浮かぶ涙を舌で拭い、なぞる指をそこへと入れた。下着の上からなので深くはないが、それでも躯は正直者だ。
「――んぁっ!」
「和人、お前濡れてるよな」
言うな。ちょっとはそうかなと思っていたんだよ。男と女で躯の構造がまるで違うし、勝手が解らないけど、感じているんだ。コイツの指に。
「や、違う、……違う、違う……!」
「好きにできないとか言っときながら、この様かよ。結局愛撫に感じてんじゃねぇか」
恥ずかしさに頭を振りながら否定して、きゅっと唇を噛みしめれば、恵太はにやりと意地悪そうに笑う。
「まぁ――生理現象だからしょうがないよな。俺以外が触れてもこうなるわけだしな」
オレの頭を撫でながらそう言えば、みたび口づけをかわされた。今度は触れるだけのキス。
意地悪なのに時々優しいとか、なんだそれ。アメとムチの使い方が手慣れているのもほどがある。これなら、女の子が落ちるのも解る。――ムカつくけど。
でもオレは落ちないからな。そこらの女の子と一緒にすんなよっ。つっーか、男だしな。
「和人?」
胸を押して恵太を見遣れば、奴は目を見開いていた。
「オレは男だ」
「いまは女だろ。紛れもなく。あ、少し違ったか。少しの愛撫に濡らす女、だな」
その言葉にスカートを押さえ、奴を睨み付けた。言っていいことと悪いことがあるだろ。
「――ばっ……、バカやろう。それを言うなよっ」
一瞬で顔に熱が
「それ――」
煽ってるようにしか見えねぇよ、と紡ぎながら奴はオレを担ぎ上げる。突如浮く躯に目を見張った。
「っわ、なにっ」
「このままいても
いや、それ、埒が明いてるからな。確実に。
「あ、あっ、青姦っ、じゃなかったのかよ?」
いままでの行動からして、てっきりそれだとばかり思っていた。絶対に嫌だが、流されかけたオレもオレだな。
「なにお前、青姦がよかったのか?」
「違うに決まってんだろ!」
「違うわりに感じてたのはどこの誰だろうな」
「だから、言うなよっ。お前嫌い、大嫌い」
背中を叩けば、楽しそうに声を出して笑う。笑うな。笑いどころじゃねぇし!
「ムカつく!」
今度は暴れてやろうと思ったが、耳元で囁かれた。
「落ちたらケガするぞ。忘れるな、それは比奈子の躯だ」
「――うるさい、バカやろう」
完全に読まれてるし。悔しさに俯きながら唇を噛みしめたオレは、奴が優しい目でオレを見ていることに気づかなかった。
◇◆◇◆◇◆
どうしよう、といまになって慌ててしまう。
「もっとこっち来いよ」
ラブホの一室のベッドの上で、攻防戦を繰り広げている。
「無理。嫌だ」
伸ばされる手を払ってベッドの端へと後退り、睨み付ける。先程からこれの繰り返し。――もう後がないけど。
大体、エロイことをされると解っていて近づく奴はいない。いや、いるかもしれないけど、オレは近づきたくはない。
「和人」
痺れを切らしたらしい恵太は小さく名前を呟いて、再度腕を伸ばした。
「いまは、なにもしないから」
「ずっとなにもするなっ」
『いま』と限定されても困る。『いま』なんて短いから。どうせならずっとなにもしないでほしい。いつくるか解らない、無事に戻れる日まで。
それに、いくらひなちゃんがオッケーを出したって、やっぱり性行為は戸惑う。百パーセント確実に避妊ができるわけでもないし、万が一なにかあってからでは遅すぎるのだ。
「解った。……抱きしめるのはいいか?」
「え?」
ポソリと紡がれた言葉に首を傾げた。聞こえない、と意思を示すために。
「後ろから、抱きしめたい」
今度ははっきりと言い放つ。真顔でだ。どうしてそこで真顔になるのか。
「いいけど」
抱きしめるぐらいなら害はないし。返事をすれば、恵太はベッドへと上がる。揺れるそれに身を任せていれば、背後から腕が伸びた。
「名前、呼んで」
「え、恵太?」
いきなりなんだ。疑問系になってしまったじゃないか。
「もっと」
「恵太」
「――うん」
なんなんだ一体。というか、この雰囲気はなんだ。男同士だからヘドが出そうなんですけど。
「和人」
「なんだよ?」
「一回でいい。それ以上は望まない。だから、ヤらせろ」
なんで強気なんだよ。お願いするならもっとしおらしくしろや。
「嫌だ。ひなちゃんの躯を傷つけたくない――いっ!」
腹に回された腕に力が籠り、圧迫されてしまう。
「っ……はな、せ、よ……」
肩越しに振り返って見た奴の顔は怒っているようだった。怒りたいのはこっちだっつーの。苦しいんだよ。
「くるし……っ、ひっ!」
耳に生暖かいなにかが触れる。耳の形をなぞるようにして動くそれは言われなくても理解していた。
「や、なにっ、舐めて……っ」
「これだけ言っても解らないなら、実力行使しかないだろ。どう考えても」
囁かれる言葉は呆れと熱を持ち合わせている。
「ちょ、待っ……、なんで……そんな、考えにっ」
どう考えても、お前の考えの方がおかしいよ。
蠢く舌は耳朶を這い首筋へと流れる。これ以上はヤバイだろ!
「やっ……、や、めろ、よ……」
震えながらは説得力が微力な気がする。だってやめてくれないし。
チュク、という水音と制服――セーラー服の三角スカーフを取るのとはほぼ同時。軽くなる圧迫感に目を瞬かせるのと声を出したのも同時だ。
「マジでっ!?」
奴の腕を引き剥がそうとするがあっさりと手を取られ、スカーフで後ろ手に手首を縛られた。そうして制服の上から胸を揉む。
「お前っ、変態っ」
「男は皆変態だ。つか、ブラ邪魔だな」
やっと返ってきた声に少しばかりほっとしたのもつかの間、奴は中に手を入れて下着を外した。するりと外されたブラジャーを取り出して、床へと投げ捨てる。垣間見たそれは、淡いピンク色だった。ひなちゃんはピンクが好きなのかな。たまたまなのかな。っていうか、いまはそれどころじゃないか。
「ノーブラだけじゃ心許無いだろ? ノーブラといえばノーパンだよな」
「いや、全然違いますけど!」
心許無いわけないだろ。つか、ノーブラといえばノーパンとか初めて聞いたわボケ! セット商品じゃないんだぞ。
人の話を全く聞こうとはせず、恵太はまた制服の上から胸を揉み始めた。素肌に布が当たり、少しくすぐったい。なにを思ったのか、奴はまた首筋に舌を這わせながら指の間で突起を摘まむ。刹那、びくりと躯が強張った。
「やぁっ!」
声を出せば気をよくしたのか、今度は指の腹で乳首を転がす。
「ふ、うぅっ……」
声を出すまいと唇を噛んで答えるが、どうしてもくぐもった声が出てしまう。
「声出せよ。俺に聞かせろ」
「だ、れ、がっ……、き、かせる、かよ……」
必死に堪えながら声を絞り出したのがまずかったのか、恵太の指が同時に突起を引っ掻いて強く摘まむ。
「んぁあっ! や、だぁっ!」
刺激に弓なりに躯をしならせれば、奴は「お前の方が変態だろ」と囁いた。
「ど、こがぁ?」
「ちょっとの愛撫に感じまくる変態、だろ。ノーブラで制服着たまま乳首尖らせて――あぁ、ノーパンにもしなきゃな」
振り返っての弱々しい問いに返るのは、はっきりとした口調だった。にっこりと笑いながらだが、それは微かに怒気を孕んでいる。
言葉と共に太股を撫で上げた手が、纏う下着を脱がしに伸びた。割れ目をなぞる指がすぐにそこへと押し込まれ、滴る愛液がじわりと下着を濡らす。
「やぁっ、ダメ、嫌だっ」
「違ったな。愛撫に感じまくって濡らす変態か」
「ちが……、そんなんじゃ、ない……」
言われたことを認めたくなくて頭を振れば、もう一度乳首を摘ままれてしまう。
「んっ!」
「違わないだろ。変態」
震える躯をものともせずに、片手は胸を愛撫しながら、もう片手は器用に下着を脱がす。いとも簡単に足首を通ったそれは、放置されたブラジャーと同じように床へと投げ捨てられた。上下セットらしいそれは色がお揃いらしい。
「ぁっ、やだっ……や――んんっ」
直にそこに指を入れられ、びくりと躯が竦んだ。部屋を満たす漏れる水音が、如何に感じているかを際立たせている。
「比奈子の躯で感じまくるとか、はしたないよな。こんなに濡らして、どんな気分なんだ?」
囁いた後に指を増やしての挿入が繰り返される。グチュグチュという卑猥な水音が鼓膜を刺激し、躯が火照って熱い。
「んっ……、や、違う、ちがう、のっ」
違う、はしたなくない。そう絞り出せば、恵太は指を抜いてそこを摘まみ上げた。
「ふぁ、あぁあっ!」
目の前が白くなり、躯も跳ね上がる。これはイったらしい。いや、オレが自らイったわけじゃないから、『イカされた』が正しいけど。
「――あ、あうぅ……やだ……やぁ……っ」
こんな声は出したくないのに、甘い声が次から次に漏れ出る。煽るみたいで嫌だ。
「可愛いな。もっと声出せよ」
「あ、ぁ……お、ねが……、や、めて……、やだっ……」
嫌々と頭を振りながら荒い息と共に吐き出した懇願は、「嫌だ」
というたった一言で崩された。
与えられる刺激は強いが、虚しさの方が大きい。こんな一方的にヤられるだけなんて、玩具のようだ。
「お、前のっ……ヤるって、こ、ゆ……こと、かよ……」
浮かぶ涙が頬に流れた。目尻から次々に溢れて流れ落ちていく。嗚咽を漏らしながらそれでも言葉を紡ぎ出す。
「い、ぽ、的に……っ、気持ち、よ、くっ……なるだけ、かよっ……も、きら、い、……だ、きら、い……」
お互いの気持ちがあってこそだろ。ただ自分だけが気持ちよくなる為に、自分だけの気持ちが満たされる為だけに、気持ちが繋がらないまま相手を無理矢理イかす。その行為はただの性欲処理だろう。
「――っ」
潤む瞳で恵太を見据えれば、手を止めて目を見開いた。そうして小さく呟く。
「悪い……」
しゅるりと手首の拘束を解き、頭を冷やしてくると言い残して浴室へと消える。酷く傷ついたような顔をして。
「……違う、だろ」
傷ついたのはオレの方で、お前が傷つく理由はない。いや、オレが知らないうちに傷つけた――のか?
自由になった手で涙を拭い、解らないアイツの考えを解ろうと頭を回転させる。
ひなちゃんと入れ替わったオレを抱くと言ったアイツ。ひなちゃん自身にムラムラしたことがないのに、どうして入れ替わったオレを抱こうとするのか。
――どうして、と再び頭を働かせようとしたところで、ある妙案が浮かんだ。解らないなら聞けばいい、と。そうだよ、聞かないから解らないんだよな。
「よしっ!」
意を決して立ち上がったオレは、すぐに浴室へと赴いた。脱衣場で制服を脱ぎ捨て――といっても畳んで置いたけど、薄目にしながらタオルを躯に巻き、散らばる衣服を踏まないようにしながらドアノブに手を掛けた。そうして閉められたそのドアを思い切り開ける。
「おい、恵太! 聞きたいことがあんだけどっ」
シャワーを浴びていた奴は振り返り、目を丸くさせた。
「お前っ、なんだその格好は!?」
「なんだって、タオル巻いてあるけど?」
だって浴室に入るし、制服のままじゃ濡れるだろ。それにオレも男だし、一応頑張って見ないようにしたんだ。裸じゃないんだからそんなに驚かないでほしい。
「そういうっ……、もういい!」
シャワーを止めてから慌てたようにオレの腕を掴んで浴槽へと入れる。刹那、お湯が溢れ出て辺りを濡らした。いつの間にお湯をいれたのか。
「なっ、なにすんだよ!」
「なんで煽るんだよ……。人が頭を冷やして、冷静になろうとしてるのに」
頬に触れる手は冷たい。見つめる顔は困ったように歪んでいた。チクリと胸が痛み、思わず視線を逸らす。
「き……、聞きたいことがあるから」
「聞きたいことなんかないだろ。俺はお前を傷つけた。そんな俺になにを聞くんだよ」
「だからっ、お前の考えが聞きたいの!」
「聞いてどうするんだ? どうせなにもできないだろ」
「そんなことない。言わなきゃ解んねぇだろ」
その言葉に恵太は浴槽へと押し入り、お湯を吸うタオルを握りしめた。
「うぇっ!?」
躯が固まるが、なにかをする気配はない。てっきり襲うかと思ったから拍子抜けだ。
「――なにもできないんだよ、鈍感」
震える声が響く。小さく、それでも確かに。
「恵太?」
タオルから離したその手で抱きしめられる。ぎゅっと。優しく。
「お前は、なにもできやしないんだ」
三回も否定されるなんて。どうしてそこまで
「ムカつく!」
言わずに否定とかいい度胸だな。腕の中で軽く暴れれば、離すまいとしているかの如く抱きしめる腕に力が籠る。それでも、痛くはない。
「な、にを――」
身動げば手櫛で髪をすかれた。そんなに長くはないひなちゃんの濡れた髪を、奴は愛しげに梳いている。
「なぁ、無理矢理じゃないならお前は満足するわけ?」
「え? えっと、うん……そうだな。満足するかは解んねぇけど、無理矢理は絶対に嫌だ」
「なら、優しくする」
「おまっ、えぇっ!?」
ならってなんだ。ならってのは。
問おうとすれば突如躯を反転させられ、足の間に押し込まれる。今度は背後から抱きしめられて軽く肩が跳ねた。掛かる吐息がくすぐったい。
「け、恵太?」
「お前に、触れたい。どうしても」
囁かれ、ずくり、と躯が疼く。心臓が大きく跳ね、顔に熱が集まりだす。その声は掠れていて、どこか必死さが感じられた。
「触れたい」
雰囲気に飲まれて言葉を発するのを忘れていれば、奴はもう一度はっきりとそう言い放つ。これでは、いやもうすでに触れてるじゃん、という突っ込みはできない。
「オ、レは……」
意味が解らない。そこまで固執する意味が。
「一度でいい。もうそれでいいから。諦めるから」
「はぁ? お前なに言ってんだよ?」
一体なにを言っているのか。話の意図が読めないからムカつく。
「……俺は――好きだ。好きなんだよ!」
乱暴に吐き出された告白に振り返りながら首を傾げる。
「誰が誰を?」
「っ……俺が……っ、お前を!」
いまなんて言ったんだ?
「――は?」
再度首を傾げれば、恵太は目線を逸らした。
「だから、好き、なんだよ」
「いや、ちょっと落ち着けよ。言ってる意味、解ってんのか?」
落ち着け。お前はなにを言っているんだ。オレを好きとか。そんなの有り得ないだろ。
「落ち着いてるし解ってる」
「解ってるなら、なんで……」
そんなことを言うんだよ。
漸く合点がいった。コイツはオレが好きだから、オレとヤりたいのか。ひなちゃんになったオレと。
「んん? お前オレが好きなんだよな?」
問い掛ければ目線が戻され、ぎこちなく頷かれる。
「じゃあ、なんでひなちゃんと入れ替わったオレとヤりたいわけ?」
「お前だからだよ。比奈子の中にいるのが、お前だから」
真っ直ぐに見つめる瞳がオレを捕らえて離さない。
「っ……」
頬に触れた指先に躯を竦めて目をぎゅっと瞑る。――見ていられないのだ。どうしてそんなに熱い視線を寄越すんだよ。
「好きだ」
「それは解った、から」
目を閉じた後も視線を感じる。ずっと目を瞑っていたかったがそれはできないので、徐に瞼を上げた。すぐにかち合う視線には、やはり熱が籠っている。
「そ……そんなに、ヤりたいのかよ」
「いや……ん、そうだな。大事にしたいな」
「はぁ? お前なに言ってんだよ?」
思ったことと違う返事にすっとんきょうな声を出す。いままでの流れから『ヤりたい』じゃなくて『大事にしたい』なんて返事がくるなんて思わないだろ。
「大事にしたい。お前が許す限りはずっと傍にいたいんだ」
「ヤりたいんじゃないのか?」
意味が解らない。ヤらせろヤらせろとうるさかったのはどこの誰だ。お前だろ、お前。
「お前は、嫌なんだろ?」
「それはそうだけど……」
なんだよそれ。オレが嫌がってしないなら、始めからしないだろ。思う存分変なことをした挙げ句の言葉だからか納得がいかない。
「和人」
「なっ!?」
言葉と共に頬を摘ままれ、思わず目を丸くさせる。
オレは真剣に悩んでいるんだよ。一々ちょっかいをださないでくれ。頼むから。マジで。
「俺が我慢すればいいだけの話だろ。お前が考え込む必要はない」
「我慢って……、できてないじゃん」
「うるさい。それとこれとは話が別だ」
「いたっ」
頭を軽く叩かれてしまう。奴は恥ずかしいのか、頬を染めていた。
「なにすんだよっ」
「お前がバカだからだ」
「はっ? バカって言った方がバカだろ?」
噛みつけば、恵太はまた頭を叩いた。
「だから痛いっての!」
「もういい。さっさと出ろ」
「なんで?」
「いいから」
視線を逸らす恵太にわけも解らず目を瞬かせる。
「恵太?」
「出ろよ! 早くっ」
突如の叫びに躯が竦む。どうしたっていうんだよ。
「意味解んねぇんだけど?」
もう一度目をぱちくりさせる。そうすれば、恵太はため息を吐いた。
「あー……、そうだな。お前は鈍感だもんな」
その物言いはオレの感情を逆撫でるようだ。鈍感なんて言われて、いい気分にはならない。というか、なれない。
「誰が鈍感だって?」
「お前しかいないだろ」
さも当然のように言い放つ。この場にはオレとお前しかいないから、片方になるのは当たり前だけども。
「どこが?」
「――鈍感も鈍感だ。俺の解りやすいアプローチも気づかないくらいだからな」
「アプローチって、お前オレのこと弄るだけじゃんか! オレのことバカにして、楽しんでるだけだろっ」
言えば、恵太はみたび頭を叩いた。今度は本気だ。手加減がない。
「もー、なんなんだよっ。ひなちゃんの躯なんだから傷つけんな」
痛む頭を押さえながら唇を尖らせれば、その手を退かして優しく撫でる。
「好きな子ほど苛めたくなるって言うだろ?」
「なに言ってんだ。苛めたら嫌いになるだろ」
「なら、お前は俺のことが嫌いか?」
そう言いつつふにふにと頬を摘まむ。にやにやと笑いながら。
嫌いかと問われたら嫌いじゃない。弄られるけど時々優しいし。そこはいいと思うし。かといって、好きでもないけど。コイツはオレのことを好きだけど、オレは好きじゃないし。どうしたらいいんだろうか。
「き、嫌いじゃない……けどっ」
「けど?」
「好きでもない」
小さく漏らした声に奴は噴き出した。
「な、なんで笑うんだよ! 笑うとこじゃねぇだろ」
悩んだのに笑われるなんて面白くもなんともない。つか、笑いすぎだからな!
「目ぇ泳ぎすぎだろ、お前」
「お前は本当に――可愛いな」
「んなっ!? なに言ってんだよ、可愛くないしっ。お前眼科行け、眼科直行しろ」
「悪いけど、俺の両目の視力はAだ。眼科に行く必要性は微塵もないからな」
「そういうことじゃねぇよ!」
お前の視力がよかろうが悪かろうがどうだっていい。同性に可愛い発言をかますお前の目が異常だと言いたいんだよ。目というよりは頭だけどな。
「だから、どう考えたって行く必要はないだろ? 俺はお前が好きなだけだし。なにもおかしくないだろ」
おかしいところだらけだと思うけどな、オレは。いや、それは置いといて、なんだコイツ。オレの考えを読んだかの如くの口振りだ。怖い。コイツ怖いよ。
「お、お前、オレの考えが読めるのか?」
「アホか。読めるわけないだろ」
「――あだっ」
デコピンを繰り出され、痛む額に手を置いた。奴を見遣れば、にやにやと口端を上げている。
「なにが面白いんだよっ」
「そんなもん全部」
即答の言葉に思わず首を傾げてしまう。全部ってなんだ、全部って。
「怒るところも一々突っ掛かるところも面白いな。顔を赤らめるのは可愛くて、目が離せない」
「お、おおお、お前はタラシだ! タラシ野郎っ」
平気で可愛いとか言うんだから。見た目はチャラいから、まぁ、見た目通りと言ったところだろう。
恥ずかしさにお湯に顔を入れてブクブクと泡を出せば、もう一度デコピンを繰り出されてしまう。
「誰がタラシだ。俺は一途だからな」
いや……、見た目はチャラいじゃん。どう見ても一途には見えない。
「やっぱどう見ても遊んでそうに見えるよ」
「お前なぁ……」
深いため息を吐いた恵太は前髪を掻き上げる。オレがするよりカッコいいんですけど。
「先に出るっ」
見ていたくない。ムカつくから。オレの格好でもオレよりカッコいいとか神様は意地悪だ。
「は? ――あぁ、躯ちゃんと拭けよ?」
一瞬呆気にとられたらしいがすぐに理解して、浴槽から出るオレに後ろ手を振る。
「んなこと解ってるわ。バカにすんな、バカ野郎!」
返してオレは、乱暴に言葉を返してから奴に舌を出し、浴室のドアを力強く閉めた。
脱衣場にある鏡を見れば、あられもない格好だと気付いた。今更に。白いタオルはお湯を吸い、肌が透けている。――これは、ヤバイだろ。だから恵太は出ろと言ったのか。いや、言わざるを得なかったんだ。熱を引かせたかっただろうから。
オレはとことんバカな奴だ。自分で気付くのも遅い程の、鈍感野郎だ。恵太におちょくるられて反論はしたけど、それはなかったことにしたい。
「恵太」
小さくドアを開けて中を覗きこめば、奴は不思議そうに首を傾げた。
「なにやってんだ? 風邪引くぞ」
「あの、悪かった、よ……。お前、ム、ムラムラしてただろ?」
そう申し訳なさそうに言えば、恵太は小さく息を吐いてそのまま黙りこんでしまう。オレだったら確実にムラムラしてるし。あんな格好を見せられたら、我慢なんて出来ない。年頃の男なら尚更である。恥ずかしいことではないのだから、奴が黙りこむのが不思議だった。
「け、恵太?」
「――してたよ。だから、出てけって言ったんだ」
「ですよねー」
「好きな奴のやらしい格好を見てどうも思わない方がおかしいだろ」
正論を言われてしまえば身も蓋もないだろ。
「ですよねー! オレ鈍感すぎだよなぁ。ごめんな?」
「別に今更だろ。お前が気付いたならもういいから。ほら、さっさと拭け」
追い払うように手を振る恵太を見遣り、ドアを閉める。確かにこのままでは湯冷めしてしまうだろう。置いてあるタオルで躯を拭きながら、どうしようかと考えた。
恵太はずっと我慢をしてきたのだ。オレを好きだという想いを抱きながら。何時からかは解らないけど。それは相当辛いことだと思うし、どうにかしてやりたいけど、どうにもしてやれない。――いや、オレが腹をくくればいいだけの話だけど。しかし、同性に抱かれる為に腹をくくるのも考えものだよな。
「どうしよう」
考えつつもバスローブを羽織ながら脱衣場を後に、ベッドの端に座り込む。着方が解らないので腰ひもを適当に結んで放置だ。
今の状況だけを見たら、もうこれは完璧に行為に及ぶ一歩手前にしか思えない。極端な話、好きじゃなくてもヤれるらしいけど、そこんところはさっぱり解らないのでなんとも言えなかったりする。好きじゃない奴としたって気持ちよくない気がするんだけどな。
「どうしたら――」
頭を抱えながら考えこんでいれば、ふと影が動いた。はっとして顔を上げれば、伸ばされた手が肩に掛けたタオルを外す。
「お前、ちゃんと拭いてないだろ?」
「拭いたし」
「嘘吐け。髪の毛濡れたまんまだぞ。ったく……」
頭に宛がわれたタオルでわしゃわしゃと拭かれる。オレは子供か。胸中でツッコミながらもタオルの端から恵太を盗み見れば、奴は嬉しそうに口角を上げていた。
――そこで考えるのを放棄した。そうだ。オレはバカだから、いくら考えたって答えなんか出ないんだ。それが答えで、真理。頭の中で張り詰めた糸が切れたお蔭で妙にすっきりとしている。
「風邪引くだろ? ――っ!?」
手を離そうとした奴の腕を取り、ベッドへと押し倒す。恵太は驚きに目を見張りながらオレを眺めていた。
「和人?」
「解んねぇから! 考えたって解んねぇから、やめたの!」
頭の中のクエスチョンマークを消す為に放った一言では消えていないらしい。恵太は怪訝な顔をしながら問い掛けてくる。
「なにを?」
「考えるのをだよっ。ひなちゃんがいいって言ったし、お前だってヤれば満足するだろ?」
その言葉に、今度はオレが押し倒されてしまう。視界が変わった一瞬、奴は眉を寄せた。
「お前はそれでいいのか?」
「……ずっと考えたって答えは出ないし……その分だけ、恵太を我慢させるだけだ。暴走して女の子に襲いかかられても困るからな。当たって砕けろ、だろ?」
「いや、意味違うだろ、それ」
小さく笑う恵太を見据えれば、少し――ほんの少しだけ胸が疼いた。理由は解らないけど。
「後悔しないか?」
「それはなんとも言えないな」
するかもしないし、しないかもしれないし。解らないので言葉に出来ない。
「本当にいいのか? いまならまだ引き返せるぞ?」
なんなんだよ、お前は。アレか、念には念をってやつか。そんなに確認しなくても、もう腹をくくったんだよ。一応は!
「いいって言ってんだろ! するなら早くしろっ」
心変わりしないうちにさっさと終わらせてやる。どう考えてもそれがベストだ。
「和人」
腕を掴んでいた手が頬に宛がわれた。躯を竦めながらも、小さく漏らす。
「や、優しくしろよ?」
痛いのは嫌だし、ともう一言紡げば、恵太は「当たり前だ」と返してくれた。そうしてゆっくりと唇が近づき、重なる。触れただけのキスは、前と違い優しかった。
「……け、いた……?」
おかしいな。コイツならディープぐらいすぐにすると思うんだけど。いや、息苦しくなるからごめんだけどな、オレは。
「好きだ」
オレの考えに反して、耳まで赤くさせながらそう紡いだ恵太はもう一度、触れるだけのキスをしてきた。
「知ってる、よ」
言えば頬に宛がった手を滑らせて、バスローブの中へと忍ばせる。掌の感触に躯を竦めれば、恵太はその手を浮かせた。強引なんだか気遣ってくれているんだか優しいんだか解らない奴だな。
「だい、じょぶ、だから」
本当はちょっと怖いけど、優しくしてくれるって言ったから、その言葉を信じてやるよ。
「本当に?」
「疑り深いな、お前。優しくしてくれるって言ったじゃん。だから、大丈夫」
そう言って小さく笑えば、理解したというかのように胸に滑らせた手でそこを柔く揉みだした。
「……なんか、変な感じ、がする」
くすぐったいけど、それとは違う気持ちよさがある。女の子って胸を揉まれるとこんな感じがするのかな。
「ん……っ、ぁ」
気持ちよさに、思わず甘い声を漏らしてしまう。恵太はその声に緩く口角を上げた。
「可愛い」
「そ、んなこと言うな。バカやろ……っ」
確かにひなちゃんは可愛いけど、中身はオレだってば。でも恵太にしてみれば、オレ自身も可愛いんだよな。複雑だ。――けど。
「んっ、け、いた」
笑った顔が見たいと思った。そう思ってしまった。ゆっくりと、確実に堕ちているみたいだ。
伸ばした腕を恵太の頬に添えれば、その腕に口づける。
「くすぐったいし」
「煽るの巧いよな、本当に」
「バぁカ、煽ってねぇよ」
煽った覚えは皆無だっての。そう言い放ったオレは、恵太に身を任せることにした。抵抗もなにもしない。だって笑っているから。
「ん……」
笑顔が近づいたかと思えば、首筋が熱い。聞こえる水音から察するに、首筋に舌を這わせているのだろう。これもなんか変な感じがする。
舌は首筋を滑り、鎖骨を撫でて胸へと降りてきた。
「やっぱ、くすぐったい」
そう言うオレの声に応えるかのように、恵太の舌が胸の突起を掠めた。
「っん!」
肌を滑るざらつく舌がどうしようもなく気持ちいい。胸を揉む手もワザとらしく突起を蹂躙する。掌がそれを撫で、指で摘まみ上げてを繰り返していた。
「んっ、や、ぁっ……ぁ……」
躯を竦ませれば竦ませる程、愛撫は激しさを増す。突起の周りを撫で上げていた舌はそれへと絡み、突起を舐め始めた。漏れる淫靡な音は部屋に溶け、躯に熱を籠らせていく。
「ぁ、あっ、ん……や、声がっ、出るっ……」
思わず手の甲を口に添える。こんな声を聞かれるなんて恥ずかしい。今更恥ずかさが込み上げるとはどういうことだろう、とオレも疑問だけど。
恵太は怒るどころかそのままオレを攻め立てた。突起を口に含み、強く吸い上げる。と同時に、突起を強く摘まみ上げた。
「っふ……ん、……んっ、ふ、ぁっ!」
涙を浮かばせながら躯を弓なりにしならせたオレを一瞥し、恵太はまた同じように攻める。
「んんっ!」
コイツはサディストだと思うんだけど。今更か。頭の片隅で思うが、すぐに快楽がそれを打ち消す。
「ぁ……んぁ、け、たぁ……ぁっ」
いつの間にか口に添えた手が外れ、シーツを握りしめていた。恵太が与えてくれる気持ちよさに、涙を流しながら応えている。恵太は恵太でオレの髪を優しく梳いてから、また愛撫をし始めた。濡れる音が部屋を満たし、嬌声が響き渡る。
そうして数分の間、二つの胸を攻められ続けたオレは、軽く果ててしまった。乱れたバスローブが行為を助長させているが、それには目も繰れない。荒い息を吐くオレを眺める恵太は、突如額に唇を落とした。
「――恵太?」
「大丈夫か?」
「大丈夫だからっ。もう、この雰囲気でそういうこと聞くなよぉ」
恥ずかしさに両手で顔を覆い隠す。まさか気遣われるとは。放たれた一言で雰囲気が削がれたような気がするけど。
指の間から恵太を盗み見れば、奴は顔を綻ばせていた。その手に指を絡めてやんわりと外し、また唇を塞ぐ。リップ音が小さく響き、離された唇が緩く弧を描いた。
「やっぱ、可愛いな」
「も……、言うなよ」
バシバシと胸を叩けば、恵太は「ははっ」と楽しげに笑う。その一挙一動の仕草に、胸がときめいた。偶然か必然か、惹かれているらしい。
「うぅ……。恵太、どうしよう……。オレ――ドキドキする。お前に、ドキドキしてる」
そう紡ぎながら腕で目を隠した。これ以上、まともに見られない。だから、恵太が驚きに目を見開いていることは解らなかった。
「――和人」
声が降り注いだ後に、視界が明るくなる。どうやら腕を外されたらしい。視線を巡らせれば、手首を掴まれている腕が瞳に映った。
徐に腕が持ち上げられ、目を見張る。なにをする気なのか、と不安で瞳が揺れるオレとは対照的に、恵太は目を細めて小さく笑みを溢していた。その優しい顔にそれ以上の不安は募ることはなく、伸ばされる腕を眺める。
「和人、解るか?」
「……わか、る」
「お前だけじゃない」
宛がわれた先は胸板だった。バスローブをずらして、直に触れさせている。肌の温もりと速い鼓動が掌を伝い、躯を巡った。
「俺もこんなだし。この先を考えると、わけが解らなくなりそうだ。だってそうだろ。好きな奴とするんだから」
好きな奴と――。その言葉にまた胸が高鳴ってしまった。どうしようもない程に。
「そ、っか……。お前も一緒、か」
一人ではないという安心感からか、自然と口角が上がってしまう。恵太はもう一度髪を梳いてから、その手を太股に添えた。
「続き、いいか?」
「聞くなよ。なんて答えるか解ってるくせに」
唇を尖らせて言えば、意地悪そうに口端を上げる。その顔さえ、いまは胸を高鳴らせる武器だ。
「――その答えは?」
「……っ、いい、よっ」
どうしても答えを聞きたかったらしい。仕方なく小さく答え、目を伏せた。途端、太股に添えられた手が内へと滑り落ちる。そうして愛撫で濡れたそこへと指を這わせ、軽く触れた。
「っわ……」
時間を置いた為に変な声が出て躯も強張る。それが伝わったのか指先が止まり、視線が泳いだ。察するに、躊躇しているのか。この場面で同じようになれば、多分、オレも戸惑う。気持ちを和らげるには大丈夫だということを伝えなければ。
「恵太、大丈夫だから。シていいよ?」
腕を掴んで言い放てば、恵太の顔が赤く色づいた。そうして慌てたように言い放つ。
「おま……っ、お前はどこでそんなことを覚えてくるんだよ」
「え、なにが?」
意味が解らずに問えば、もういいといわんばりに腕に置いた手を外し、空いた手をベッドフレームへと伸ばす。釣られて視線を遣れば、備え付けのコンドームを手に取っていた。
心臓が跳ねる。急激にわいた羞恥に、躯が熱くなった。
「和人、」
「うん?」
「逃げるなよ」
「この場面で逃げれるか。男に二言はねぇよ」
先程と打って変わって、挑発気味に笑みを溢せば恵太は不敵に笑う。その笑みは熱を全身に広げさせた。足の先から脳天まで、広がるそれは嫌な感覚ではない。甘く痺れて、躯の奥からわき上がるようだ。
堪えるようにシーツを握りしめれば、恵太の手がやんわりと足を割り開く。勃ち上がるそれにコンドームは装着済みであり、仕事が早いなと頭の片隅でぼんやりと思った。
「――
「一々言うなよ、バカ」
言わなくてもいいんだよ。解ってんだから。
柔く腰を掴んでから、少しずつ中へと進む。痛みと異物感に眉を顰め、詰まる息を吐き出した。
「っ、う……ぅ、」
「和人、」
「――ん、け、たぁ」
「ごめんな」
「は、ぁ……?」
謝るのか。ここで謝るのか。また雰囲気ぶち壊しだろ。
「なん、で、謝るんだよ?」
「――なんとなく?」
「な、んだ、それっ」
なんとなく謝られるこっちの身にもなれや。そもそも、謝ること自体違うだろ。
「謝んな、バカ野郎」
恵太を見れば、額に唇が押し当てられる。体勢的に、ぐっ、とさらに奥へと進んだ。
「――っぅ……ぁ」
「かず……動いて、いいか?」
「ん……、いい、から、早く……しろよ」
絶え絶えに紡げばすぐに動き出した。そりゃそうか。そのままだと辛いし。
「んぅ……っ、んぁ……あ、ぁっ」
動く度に濡れた音が大きく響き、躯の奥を熱くさせる。なんだか不思議な感じだ。痛いのか気持ちいいのかよく解らない。
「ぁ、ぅ……け……、た」
またシーツを握りしめれば、片手がその手を覆った。柔く持ち上げられれば胸の辺りに置かれ、ぎゅっと握りしめられる。
「な、に――?」
「好きだ」
「だからっ、知ってる、し。何回も、言うなや」
そんなに言わなくてもちゃんと通じてる、と手を握り返して言ってやった。はっきりとではなく、やっぱりとぎれとぎれだけど。
「あ……っ、……んっ」
「和人……、辛い、か?」
「だ、いじょうぶ……だって、の」
その前に、辛いと問うなら動きを緩めろ。――とは言えない。喋れば喘ぎ声が出そうだから。一生懸命堪えているが、それももう持たなさそうだ。
「んぁ、あっ……! 中っ、変にゃ感じする――こっち見んなっ!」
噛んじゃったよ! にゃってなんだよ、オレ! 即座に凝視する恵太から顔を逸らし、繋いだ手を離して覆い隠す。
「和人」
顔を隠すそれを離された手で剥がそうとするのを掌の隙間から見えたが、手を振って阻止をする。こんな顔は見られたくない。
「――嫌だ、見んなっ、バカ、バカっ」
こんな時に噛むなんて。顔が熱いし恥ずかしいし、穴があったら入りたい。
「ひゃうっ、あ、や、テメ……それ、反則っ」
どうしても諦めないオレに対し、恵太は止めた動きを再開した。
「顔を見せないお前が悪い」
「だって、んぁっ……あ……、は……ずかしい、しっ」
「今更恥ずかしがるなよ。可愛いけど」
「う、るせ……バカ、見るな」
確かに、最中に恥ずかしがることもないとは思う。思うけども、やっぱり恥ずかしいんだよな。
「和人の全部を見たい」
「っん……ぁ、恵太の、バカ……、そんなことっ……」
――そんなこと言うなよ。呟いてから心臓がヤバイくらいに速いことに気づく。同じ男に言われているのに、こんな風になるなんて思わなかった。
「やだ、嫌だ……変に、なる……」
嫌々と頭を振れば、恵太は頭を撫でて額にキスをしてきた。そうして瞼と頬と唇に口唇を落とす。
「大丈夫だ。お前が変になったら、俺も変になるから」
「お前は、元々、変……じゃん、か」
「それは貶してんのか」
「ち、がう、よ。……ある意味、褒めてる」
口端を上げれば、恵太はオレの目に浮かぶ涙を指で拭い、動く速度を速める。
「あっ! ん、や、だって」
「褒めてくれてありがとう」
ありがとうと言ってはいるが、刺々しい言い方だ。しかも意地悪い笑みを浮かべている。
「――んんっ、い、じわる、いぞ」
「昔からだから諦めろ」
「バっカ、やろ……っ。もっと優しく、しろや」
背中に腕を回せば、恵太は嬉しげに笑った。そりゃ反則だ、ボケ。そんな顔をするからオレはオレじゃなくなり、どうしても触れてほしくなるんだ。どう考えても末期であり、それでも、もうそれでいいとさえ思える。
「好きならっ……意地悪すんな……」
「違うだろ。好きだから苛めたくなるんだよ」
そう言ってキスをした瞬間、オレ達は果ててしまった。マジでか。マジだよ。まさかだよ。もう少し先かと思ったんだけど、躯はそんなことなかったぜ。
驚きつつも余韻に浸りながら、ベッドに腰を据えている。恵太はオレの頭を撫でながらにやにやと笑っていた。
「――アレでイくとは……和人はマジで可愛いな」
「言うな! つか、お前も一緒だろ」
「まぁな」
「あー……、ひなちゃんになんて説明しよう。百パー避妊出来る訳じゃねぇし……」
項垂れても妙案は出ない。当たり前だけど。
「何回も言ってるだろ。比奈子の許可はとってあるって。それに、なにかあっても俺が全部責任をとるから、お前はなにも心配しなくていい」
「カッコイイこと言ってんじゃねぇよ! 責任ならオレも一緒にとるわ」
一人だけ勇ましいのは許さん。そもそもエッチに雪崩れ込んだのは、二人の所為だしな。責任は恵太だけじゃなくオレにもある。
「それは頼もしいな」
笑いながら言うのはやめろ。お前それ、オレのこと頼もしいと思ってねぇだろ。
「笑うなバカっ」
「はいはい」
噛みつけば、恵太はくしゃくしゃと頭を乱暴に撫でてくる。額にキスをしながら。
「バっ……オ、オレは、まだお前のこと好きじゃないの!」
感化されそうだけどな。自分に歯止めをきかすように言えば、奴は口端を上げながら顎に手を添えた。
「攻めれば堕ちる、だろ? なぁ、和人」
「そ、それは――」
「やっほー! 二人ともどう?」
それは解んないだろ、と言おうとした途端、入り口のドアが陽気な声と共に開いた。
「比奈子……」
「うぇっ!? ひなちゃんっ!?」
「いま大丈夫? 大丈夫だね」
ひなちゃんはドアを閉めてベッドに上がり込んだ。うんともすんとも言ってないんだけど。
「え、えと……なんでここに?」
「なんでって、GPS使えば簡単簡単――なんて冗談だよ。あの公園から近いラブホってここだけだしね。あたしも隣にいたし」
「――は?」
いまなんて? 隣にいたってどういうこと? 首を傾げれば、ひなちゃんに頬を摘ままれた。
「二人と別れてから、告白されたの。で、付き合えないって断ったら、最後に思い出を作りたいからーってホテルに直行、みたいな? 押しが強かったよ、あの子。まぁでも、男の子を味わえたから万事オッケーだけど」
「比奈子」
恵太は頬を摘まむ手を
「なに、恵太はそんなに和人に触れてほしくないわけ?」
「……五月蝿い」
「ふぅん、図星なわけね。本当に恵太は和人が好きだね。和人はどうなの?」
フイと頬杖をつきながら視線を逸らした恵太に対し、ひなちゃんはしたり顔で答えてオレに返答を求めた。そんなに答えを聞きたいのか? 答えたくないんだけど。
「ど、どうって……、っていうか、ひなちゃんは恵太がオレのこと好きなの知ってんだ?」
「そりゃあねー。見れば解るし。恵太は昔から好きな子は苛めたくなるタイプなのよ。まぁ、大体は嫌われて泣きをみてたけど。それに、恋バナ相手だったしね」
「比奈子っ! お前余計なこと言ってんじゃねぇよっ」
ひなちゃんの言葉に逆上した恵太は、胸倉を掴む。そりゃ悲しい過去を暴露されたら怒りたくもなるが、オレと恵太は六・七センチ程身長差があるので少しおかしな構図になっていた。
「痛い、痛いってば」
「恵太やめろよ。ひなちゃんはワザとじゃないんだし」
多分。口が滑ってしまっただけだろう。胸倉を掴む腕を取れば、恵太はオレを見据えた。一瞬目を見張り、すぐに視線を逸らす。
「忘れろ、よ。忘れろ」
「えー、どうだろ。お前の弱味を見つけたわけだしなぁ」
「和人、それは犯されたいのか」
「冗談だってばっ! 冗談だからやめろって」
顔を近づけてくる恵太の前に急いで手を翳す。ひなちゃんがいるんだし、されたくない。人の目があるのは恥ずかしいんだってば。いや、なくても恥ずかしいけどな。
「冗談だ。過去の話だし、気にしてねぇよ」
とは言ってるが、顔が赤い。やっぱり恥ずかしいのか。そうかそうか。
「なに笑ってんだよ」
「いや、面白くて――あてっ」
「なに言ってんだ」とデコピンが飛ぶ。だから痛いからやめろって。
「だってオレは恵太のこと知らないし。いや、モテてるのは知ってるけど。スゲームカつくけど、でもそれ以外は知らないじゃん」
「和人は恵太の誕生日祝いとかしたいわけ?」
「したくねぇよ。なにが嬉しくて男同士で誕生日を祝わなきゃならねぇんだ」
虚しいだろ、それは。けどひなちゃんがいれば華やかになる気もする。恵太とひなちゃんの誕生日を祝ったことはないけどな。
「じゃあ、なんで恵太のこと知りたいの?」
「解んねぇ……」
それが一番謎なんだよ。オレは恵太を知ってどうしたいんだ。
「好きなんでしょ? だから、知りたいって思うんだよ」
「そりゃ、笑顔は見たいなーって思ったけど、それは緊張の糸が切れたからだし」
「和人」
ぱんとひなちゃんの両手が頬に置かれた。ちょっと痛い。
「――っ、ひなちゃん?」
「あたしは恵太も和人も好きだから、二人が幸せなのがいい。恵太はずっと和人のことが好きだったの。中学の頃から、ずっと好きだったの」
目を白黒させてひなちゃんを見れば、何故か目に涙を溜めていた。というか、またいろいろ暴露されてますけど。恐る恐る恵太を見遣れば、肩を落として額に手を添えている。
「もういいから。一々暴露すんな」
「恵太が言わないから、あたしが替わって言ってあげてるんじゃないっ」
「言ってどうにかなる問題じゃねぇし。和人が俺のことを嫌いにならないなら、それでいい。つか、お前はなにしに来たんだ」
憤るひなちゃんに肩を竦めながら答えた恵太は、彼女の頭を軽く叩く。
「そうだよ、忘れてた!」
思い出したように言い放ち、頬から手を離した。そうしてその場に座り込み、うんうんと頷く。
「戻りにきたんだった。そうだったそうだった」
「っえ……戻れるの!?」
オレは一ヶ月ぐらいは戻れないと思ってたんだけど。漠然と。
「戻れない薬を買うわけないでしょ。ちゃんと確認済みですよ」
「そ、そうだよな。戻れなかったら一大事だもんな」
「あたしは戻れなくてもいいけどねー」
それはご勘弁を。このままとか無理すぎる。オレはひなちゃんじゃないから、ひなちゃんに成り済ますことは出来ないからな。
「冗談だよ。だからそんな顔しないの!」
嫌な顔をしていたであろうオレの肩をバシバシと叩く。なんかさっきから叩かれてばっかだ。
「冗談ならよかった」
胸を撫で下ろせば、ひなちゃんは再度頬に両手を添えた。じっとオレを眺めてまじまじと紡ぐ。
「嘘」
「嘘?」
言っている意味を理解出来ずに目を瞬かせれば、ひなちゃんは目を伏せた。
「本当は戻れないの……。あたしもうどうしたらいいのか解らなくて……」
「う、嘘っ!?」
驚きの声をあげれば、ひなちゃんは噴き出して爆笑している。離した手を腹に添えて。
「冗談、冗談……やっぱり和人は面白いよ」
「本当に!? 本当に冗談だよな?」
「うん。からかっただけー」
目尻に溜まった涙を拭いながら笑いを噛みしめていた。
本当に大丈夫だろうな。上げて落とすのはやめてほしい。えげつないから。
「その前に着替えてね。戻ってから着替えるのはめんどくさいから、あたしが」
「解った」
「恵太は?」
「はいはい」
「よろしい」
にんまりと機嫌がよさそうに笑うひなちゃんはベッドから立ち上がる。
「そういえば、二人ともしちゃったんだよね?」
「見れば解るだろ」
次いでベッドから出る恵太とオレは乱れたバスローブを着ている。なにがあったかなんて、一目で解るだろう。
「そりゃ解るよ。お赤飯炊こうかってこと」
「お赤飯? なんで?」
おいしそうだけど、なぜお赤飯が出てくるのか。
「和人、鈍いにも程があるよ」
ひなちゃんは額に手を添えて大袈裟にため息を吐く。
「なっ! 鈍くねぇしっ」
なんだよ。恵太もひなちゃんもオレをバカにして。
わざわざお赤飯じゃなくても、白米でいいじゃん。手間も時間も掛からないし。と言えば、ひなちゃんは感心したように言い放つ。
「――あぁ、それは解ってるんだ」
「だからっ、鈍くないの」
鈍感なんてもう言わせない。はいはいというように恵太はオレの頭を撫でて風呂場へと消える。そういえば、恵太は脱衣場に服を脱ぎ散らかしたままだ。かくいうオレも置いたままだけど。
ひなちゃんは放られた下着を手にしてオレに渡す。軽く礼をし、ベッドの上にそれを置いた。恥ずかしいから後ろ向きだけど、人に見られながらとかどんなプレイだ。いや後ろ向きだから、ひなちゃんは見てないかもしれないけど。いやいや、けど……と悶々としながらもショーツを履き、次いでブラジャーへと手を伸ばす。
「ブラ付けれる?」
「ん、大丈夫」
多分だけど。とりあえず、カップ部分を胸に当て、肩紐に腕を通す。あとは後ろのホックを留めればいいか。
「よっと……」
腕を後ろに回してホックを留める。大丈夫だよな。同じ位置に留まってるよな。なんか三ヶ所留め具があるけどそんなもんなのか。
「おかしいとこない?」
バスローブをはだけさせ、ひなちゃんに背中を見せる。
「大丈夫。ねぇ、和人」
「っえ、ひ、ひなちゃんっ?」
腕が回り、ひなちゃんに抱きしめられた。肩越しに振り返れば、ひなちゃんはオレを見据える。
「和人は恵太のこと嫌い?」
「オレのことからかうけど、嫌いじゃないよ」
「言ったよね。恵太はずっと和人のことが好きだったって。――恵太は和人と友達になって、すぐに自覚したらしいよ。好きだって。それからあたしに相談してきたの。どうしたらいいか」
「どうしたらいいか……?」
「だって和人は男でしょ? 好きなままでいいのか、諦めた方がいいのかってね。あたしにはそんな経験はないから、なにも言えなかったよ」
「比奈子、お前なにしてんだ?」
恵太の声に視線を遣れば、その手に畳んだ制服を持っていた。眉を寄せて。
「ほら、いまだってあたしに嫉妬してる」
耳に顔を寄せて囁く。思わず躯を竦めればひなちゃんは小さく笑った。
「ひ、ひなちゃんは、オレと恵太をくっつけたいのか?」
「うん。言ったでしょ。あたしは恵太も和人も好きだから、二人が幸せなのがいいの。二人が笑ってくれたら、あたしも嬉しい」
「いい加減にしろ。お前はなにがしたいんだよ」
腹に回されたひなちゃんの腕を掴んで、オレから引き剥がす。ひなちゃんはひなちゃんで、唇を尖らせて言った。
「――なにがしたいって、解ってるくせに。恵太もけっこう鈍いよね」
「誰も頼んでねぇだろ」
掴んだ腕を勢いよく離してから制服を押しつけられた。さっさと着ろということか。
「そう。じゃあ、また
制服を着ながら二人の言い合いを眺めるが、恵太は押し黙ってひなちゃんを見据えている。さすが女の子だな。口が強い。
「――乗らせたのは、お前だろ」
「乗らせたなんて人聞きが悪いんだけど。乗ったのが恵太なだけで、あたしはただあのお店で薬を見つけただけだもん」
うん? 二人はあの店の存在を知っていたのか。言っちゃ悪いが、ボロくて近寄りがたい雰囲気だけど。店の中だって埃臭いし、よく解らないもんがいっぱいあっただけだ。
「見つけて使おうと勧めただろ」
「面白いじゃない。入れ替わりなんてそうそう出来るものじゃないし」
やっぱりオレは面白いで巻き込まれたのかよ!? いや、ひなちゃんの泣き顔に弱いオレが悪いけども!
「大体、使う使わないは決められたでしょ。使うって決めたのは恵太なんだからね」
「――……そうだよ」
「じゃあ、あたしに当たらないでよ。ねぇ、和人。酷いと思わない?」
「っわ!?」
ひなちゃんは着替え終わり二人を眺めていたオレを抱きしめる。
「比奈子!」
「だからぁ、あたしに当たらないでってば」
恵太は慌てたようにオレからひなちゃんを引き剥がした。自分は触れないのに、他人が触れるのが嫌だなんて面白い奴だ。今更すぎるけど。
「恵太は面白いな」
「はっ?」
「面白いのは昔からだって」
オレの言葉に恵太は目を丸くさせ、ひなちゃんはあははと笑う。ひなちゃんの笑う顔は可愛くて好きだ。恵太の笑う顔も――可愛いとさえ思う。もっと笑う顔を見たい。
「やっぱ、オレ――好きかも」
もう認めてしまおうか。
「え、なに……?」
「いまなんて?」
二人は固まり、オレを凝視する。穴が開くかと思うほどに。
「だ、だから……、好きかもって……」
「恵太を?」
「……だって、なんか、わ、笑う顔が見たいって思うんだよ……。なんでか解んないけど! 興味ないならそうは思わないし、だから、好きかもって……」
知りたいと思うのも、笑う顔が見たいと思うのも、好きだからだ。芽生えた気持ちを認めたくはなかったけど、認めてしまえばそうだと解る。恥ずかしいから、声は小さいけど。恥ずかしさで顔を背けているけど。
「――遅い、かな?」
気づくのが遅かったかな。いや、鈍いから遅かったのか。けど、さっさと気づくことは出来なかった。
「恵太もひなちゃんも呆れた?」
ちらりと二人を窺うが、なにも言わない。完璧に呆れられたらしい。
「いや、驚いてる、だけだから」
「あたしも……」
よく見れば、二人ともぽかんと口を開けていた。
「驚くことか?」
「お前な……。あれだけ頑なに好きじゃないって言ってたんだぞ。それがなんで――」
「知らねぇよ、そんなの」
「人の心は解らないからね」
半ば呆れながらの恵太の言葉に答えれば、ひなちゃんのフォローが入った。
「解らないから、悩むんじゃない。ねー」
「そりゃ、そうだけど。……納得いかねぇだろ」
「まぁね。解るよ、その気持ち。和人があっさりと認めるとはねぇ」
ふふふとひなちゃんはそれはそれは面白そうに笑う。やっぱ可愛いよなぁ。外見は恵太だけど。
「でもこれで、両想いなわけでしょ? よかったじゃない」
両想いという単語に、思わず恵太を見遣ってしまった。まだ納得していないのか眉間にシワを寄せているが、口元は緩ませている。
「……そうだな」
数秒間の沈黙の後には眉間にシワがなくなり、目元を細めた。どうやら奴の中で
というか、見つめられるとやっぱりドキドキするし。緩く顔を逸らして、指を弄る。
恵太は何時もあんな顔でオレを見ていたのか。オレが知らなかっただけで、あんな顔を向けられたら周りは好きだと解りそうだよな。
――だから、か。だからひなちゃんは恋バナに付き合っていたのだろう。そして、けしかけたんだ。
「じゃあ、二人の気持ちも通じあったし、ちゃっちゃと戻ろうか」
「ちょっと待ってひなちゃん」
自身のカバンを探るひなちゃんを制して、恵太に歩み寄る。恵太は恵太で訳がわからなそうに目を瞬いていた。まぁ、解るよ。
「なんだよ?」
そんな恵太の腰に腕を回して抱きしめた。ぎゅっと。どうしても抱きしめたくなったから。
「は? か、和人?」
困惑の色を含む恵太の声に自分でも訳がわからなくなってきた。それでもオレは早口で言い放つ。
「オレは男で鈍感でバカで、お前の気持ちが解らなかった。多分、これからだって、言ってくれなきゃ解らない。バカだからな。――でも、こんなオレでも、好きになってくれてありがとう。恵太は本当にオレでいいのか?」
最後の最後でわく疑問。オレは男で恵太も男だから。恵太はカッコいいから女の子にモテるし、可愛い子だって沢山見てきた。その中から素敵な子と付き合うことも出来るのに、オレに転ぶことで波瀾になることは必至なのだ。
「――そのままのお前がいい」
抱きしめ返されて囁かれる言葉。それは本当に、本当だろうか。
「本当に?」
「本当に。俺はな、男で鈍感でバカなそのままの和人が好きなんだよ」
「そ、そそっ、そっか」
またも囁かれ、熱が顔へと集まる。好きだという言葉が、抱きしめられることが、すごく嬉しい。そう思えば、今度は耳まで熱くなってくる。きっと耳まで赤いんだろう。
恵太はオレの頭を撫でると腕を離して、ひなちゃんに視線を遣った。ひなちゃんはひなちゃんでにこにこと――いや、にやにやと笑っている。その笑みも嫌悪感はないけど。
「再確認できた?」
「見れば解るだろーが」
「いやー、若いっていいねぇ」
「年寄り臭いこと言ってんなよ」
近づくひなちゃんにデコピンを繰り出して、「戻るならさっさと戻るぞ」と促した。
「はいはい」
ひなちゃんは肩を竦め、カバンから探し当てたであろう小瓶を手に、説明を始める。
「じゃーん! これは『モトニモドレール』ね。こっちは『イレカワール』。解りやすいでしょ」
右手にはあの紫色の液体が入っている小瓶。名前は『イレカワール』。そして左手には赤色の液体が入っている小瓶があり、名前は『モトニモドレール』。解りやすいけど、やっぱりネーミングセンスが酷いだろ。
「戻るには、入れ替わった時と反対に飲めばいいわけよ」
備え付けられた小さなコップに赤い液体を注ぎながら言い放つ。見た目はまんま濃い色のアセロラドリンクだ。
「はい」
渡されたそれを一口飲んだ恵太は「イチゴか」と呟いた。そうか。イチゴ味なのかこれは。
「ほら」
受け取ったコップを凝視して一口含む。イチゴっぽい味が広がりやはり不味くはない。きっと作り方が巧いんだな。燕下すれば恵太はオレを見て、頭を撫でた。どうやら恵太はスキンシップを図っているようだ。気持ちを整理した後だからやけに恥ずかしくなり、急いでひなちゃんにコップを渡す。
「ひ、ひなちゃんこれっ」
ひなちゃんが中身を飲めば、入れ替わった時と同じようにふわりと一瞬記憶が飛んだ。
徐に目を開ければ、じっとオレを眺める二人と目が合う。ちょっとビックリした。
「戻れた、のか?」
「あぁ」
「残念ながらねー」
残念ながらって、ひなちゃんは戻りたいと思わなかったのか?
「違う違う。店主さんがもしかしたら戻れないかもとか言ってたから。戻れなかったら面白かったんだけど……、戻っちゃったんだよねぇ」
オレの心を読んだのかなんなのか、ひなちゃんは続けて言い放つ。オレは面白い以前に、大変だと思うんだけど。
「――アホか。戻れなかったらボロ出しまくりで大変なことになるぞ」
「それはそうだね。じゃあ戻れてよかったかも」
「ね、和人」と振られた話しに大きく頷いた。戻れなかったらと思うとゾッとする。
「ねぇ、和人」
「え、ひなちゃん?」
「――また、入れ替わろうね」
腕を絡めてそう耳打ちをし、にっこりと笑う。またってまたあるの?
「比奈子」
みたび妬いた恵太は、ひなちゃんからオレを引き剥がして苦しまない程度に抱きしめてきた。
「もう、あたしに妬かないでよ。あたしは和人に恋愛感情ないんだよ?」
「そんなもん知ってるけど、お前は危ないからな」
「どこがよ? あたしは和人をからかうのが好きなだけで、危なくはないでしょ」
ひなちゃんは胸に手を置いて言うが、恵太は鼻で笑った。
「からかうのが好きとか、お前相当だな」
「そういう恵太もからかうのが好きじゃない」
再度オレの腕を取ったひなちゃんは「ねぇ」と同意を求めてくる。問われてもどうしようもないんだけど。
「いや……そう言われてもなぁ」
「あー、和人は恵太の味方なんだ?」
「えっ、いや、そういうんじゃなくて……っ」
ひなちゃんの顔がみるみる悲しそうなそれになる。慌ててフォローをするが、俯いてしまった。
「ひ、ひなちゃん?」
「――なんてね」
勢いによく顔を上げたひなちゃんは笑顔だ。どうやらからかわれたらしい。
「本当に質が悪いな」
恵太は呆れながら言い放ち、ひなちゃんの頭を軽く叩く。
「和人の反応が一番楽しいから」
「はいはい。もう用はないし帰るか」
オレを離した恵太はさっさと踵を返す。ひなちゃんは恵太を追って腕を引いた。
「待って。おんぶして帰ってね」
「なんでだよ」
「誰かさんがヤっちゃったから躯がダルいんですよ」
「解った解った」
ひなちゃんの反論に恵太は渋々屈み込み、ひなちゃんをおんぶする。
「和人なにやってんだ。帰るぞ」
キョロキョロと部屋を見渡していたのは忘れ物がないか見てたんだよ。
「和人、早く」
おぶられたひなちゃんが手を招く。まぁ、忘れ物があっても保管はしてくれるか。急いで二人を追い、部屋を後にする。
◇◆◇◆◇◆
ホテルから出て気付いたけど小瓶はどうしたのだろうか。道を歩きながらひなちゃんに問う。
「小瓶は?」
「カバンの中だよ」
「そっか」
オレが見ていないところでちゃんとしまったんだな。
「なんだ、気になるのか?」
「別に」
「じゃあまた入れ替わろうねー。ね、恵太もいいでしょ?」
ひなちゃんは嬉々として言うが恵太は緩く首を振る。やっぱりもう一度入れ替わりたいのだろうか。
「ダメだ」
「あたしになった和人は可愛いでしょー? それに、あたしまた男の子を味わいたいもん」
「可愛いけどそれとこれとは話が違うだろ。それに、そんなのは味わわなくていいんだよ」
「和人ぉ~」
「えっ!?」
ひなちゃんがオレを見るが、瞳が潤んでいる。これはからかわれているんじゃないな。
「え、えと……あと一回ぐらいなら……、いい、けど」
「騙されんなよ。比奈子は嘘泣きが巧いんだからな」
「恵太は五月蝿い」
「いてっ」
呆れながら言う恵太はひなちゃんに肩を叩かれた。
まぁでも、もう一度くらいならいいんだけど。元に戻れるしな。
「ひなちゃんがいいならオレはいいよ」
オレのその言葉にひなちゃんは歓喜し、恵太は大きくため息を吐いた。
「お前は本当に比奈子に甘いな」
「でもオレが好きなのは恵太だからな。それに、女の子には優しくしないとさ」
「な?」と恵太を見遣れば、瞬時に顔が赤く染まる。
「くそっ……。和人に免じて、入れ替わるのはあと一回だけだからな!」
やけくそ気味だけど、折れるの早くね?
恵太の言葉にひなちゃんは「やったー!」と両手を上げた。
なにもかもがひなちゃんの思い通りな気もするけど、嫌じゃないんだよな。それは多分オレが、ひなちゃんも恵太も嫌いじゃないからだろう。
end.
2011/7/20
【 あとがき 】
最後までお付き合いありがとうございました。
◆ 執筆時期 ◆
執筆開始 : 2010/12/22 - 執筆終了 : 2011/7/20