フレユリの本編クリア後の話です。小説です。
ユーリ→フレンの片思いな内容です。
※pixivにも投稿しています。

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望蜀【フレユリ】

何度同じ思いを抱けば気が済むのだろう・・・

 

何度同じ痛みを味わえば気が済むのだろう・・・

 

あなたの優しさに期待して、何度失望しただろう・・・

 

私の勝手な我侭に、あなたはどれだけ答えてくれたのだろう・・・

 

あなたの笑顔を一番近いところで見ていたいから・・・

 

私はあなたに嘘をつき続けるんだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― 望蜀 ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう!遊びに来たぜ!」

 

星喰みが消えてから半年が経った世界。帝都の街並みは復旧が順調に進んでいるようで、

下町のみんなはいつも通りの笑顔を浮かべていた。

人々は忙しなく動いているが、とても活気が溢れている様に思える。

この多くの人々の笑顔を見ることが出来るのは、きっと新しく就任した騎士団長の功績が大きいように思う。

 

「ユーリ!・・・またわざわざそんなところから・・・」

 

とても自然に自分の部屋の窓から侵入したユーリに、フレンは困ったように出迎える。

 

「あぁ、わりぃ。なんかこうやって入った方がしっくり来るんだよな」

「忍び込むような真似しなくたって、正面から入ってこれば良いじゃないか」

「なんだよ、密会してるのがバレると不味い相手でもいるのか?」

 

フレンの注意もよそに、ユーリは軽口を言いながら窓に足をかけて部屋へと入る。

相変わらず整然としていて、余計なものが一切無い部屋だ。

子供の頃、ユーリが描いたフレンの似顔絵が変わらずに飾ってある。

それを目にしたユーリはそっと嬉しくなる。

けれど、いつも片付いている机の上に、ユーリには見知った物が置いてあり途端に顔をしかめる。

 

「そ、そんな人なんて居ないよ!まったく、君はそんなことばかり・・・」

「また見合い写真か?」

 

からかうような言葉にフレンは焦るように反論するが、その後のユーリの問いかけに律儀にも答える。

 

「え?あぁ、まぁね。世界が平和になった途端、こういうのが多くて本当に困るよ」

 

ユーリの視線の先にあるものに一瞬だけ目をやると、苦々しい笑顔を浮かべる。

世界の危機を華々しく救った青年が、眉目秀麗、将来有望とくれば、周りが放っておくはずも無く。

自分の親族を嫁にと躍起になって、お見合い写真を送りつけてくる。

ユーリは毎度、相手の違うお見合い写真の束を見る度に心を痛めているけれど、

フレンはそれに気づく事も無い。

ユーリがフレンを密かに想っていることなんて、必死に隠してきた事だから。

それなのに、この痛みを少しでも良いから理解してもらいたいと思ってしまう。

 

「断りの手紙を書くのも一苦労だから、いっそ誰かと婚約でもしたほうが楽かもしれないね」

 

あまり嘘を言わないフレンなだけに、彼の口から婚約の一言が発せられてユーリは慌てる。

 

「すんのかよ?・・・結婚・・・」

「ハハッ、冗談だよ。まだ、僕にはやるべき事と、やりたいことが山ほどあるし、

 中々考えてる余裕はないかな。・・・でも、そろそろ僕らもいい歳だからね、

 考えなきゃいけないとは思ってるよ。そういうユーリはどうなんだい?君だってモテるだろ?」

 

フレンは爽やかな笑顔で、けれど確実にユーリの心を傷つける。

自分がどれほどの嘘を重ねて、フレンの一番近いところに居ようとしているのか。

忙しいフレンの隙を見て、ここへ通っている自分の気持ちも、全く鑑みてくれないのだろうか。

無茶なことを願っていると分かっているのに、湧き上がる苛立ちを抑えることが出来なかった。

ユーリは机の上の写真を整理しているフレンの腕を掴み、強引にベッドへ押し倒す。

 

「うわっ!・・・なにするんだよ、もう」

 

急に力ずくで腕を引っ張られた痛みと、ベッドに倒れた衝撃に顔をしかめながらユーリに抗議する。

 

「まあな、俺ももてるぜ?ここに来る途中、男に告白されてきたからな・・・」

 

ベッドに倒れているフレンの上に跨り、自分の服の帯を解く。

 

「そいつに抱かれてやっても良かったけど、今日はお前とするつもりだったし」

「ユー・・・」

 

強引で性急すぎるユーリに、フレンは嗜めようと声をかけたが、直ぐにユーリによって口を塞がれる。

強い力で襟首をつかまれ、フレンはまともに拒むことが出来ない。

 

 

そうでなくても、フレンはユーリを強く拒むことはしない。

ユーリはそれを知っていて、知っているからこそ利用する。

フレンがユーリを大切に思っている気持ちを利用して、身体の関係を強要し続けている。

そこに恋愛感情が無いことなど、ユーリはとうに知っていたけれど。

いつもはぐらかして、いい加減な嘘をついた。

 

-僕も君が好きだよ・・・-

 

そう言い合っていた幼い頃。

いつからか自分だけが、その言葉に強い劣情を覚えるようになってしまった。

純粋に自分を好きだといったフレンの気持ちに、

邪まな心を抱いてしまった自分を信じたくなかったけれど、その欲は褪せるどころか次第に色濃くなった。

自分が同性を好きになってしまう性質かと思い、男と関係してみたこともあったが、

それでもフレンに抱く思いは変わることは無かった。

 

大切な幼馴染、唯一の親友。自分をそう思ってくれる相手を騙してまで、ユーリはその人を手に入れたかった。

友情でも同情でも良い、求めても拒まない彼を独占できるのが、とても心地よかった。

 

 

 

フレンはユーリの気持ちが分からなかった。

何を考えているのか、何を自分に求めているのか。

そして、自分が何故ユーリを拒めないのかも分からないでいた。

ユーリが訪れる度に重ねる行為は、友人と呼ぶ相手とするのには相応しくない。

それでも、彼に求められれば答え、最後には夢中になってしまうのだ。

 

-・・・・だったらお前が相手になれよ、俺は誰だっていいんだぜ?-

 

ユーリが連日遊び歩いていた頃、フレンは何度も彼に苦言を呈した。

自分と同じような生活をしろと思うわけではなかったし、押さえつけたいわけでもなかった。

けれど、彼の奔放さがあまりにも目に余って、つい余計な口出しをした。

彼は自分を一瞥し、挑戦的な目をしてその言葉を放った。

 

-いいよ・・・、それで君の気が済むのなら-

 

きっとそれは衝動だった。

どうせ首を縦に振ることなんて出来ないだろう、そう言いたげなユーリの表情に、

簡単に煽られてしまったのかもしれない。

町でよく見かけるユーリの友人。

彼らと話をしているユーリは、自分の知らない表情をしていて、それを見た途端に虚無感に苛まれた。

 

誰だって良い。ユーリの口からその言葉を聞いて、えも言われぬ焦燥が湧き上がったのだ。

他の友人のもとになど行かせたくない。ただその意思だけははっきりとしていた。

 

自分の言葉を聞いたユーリは瞠目し、そして一瞬だけ眉を寄せ視線を逸らした。

直ぐにいつもの強気な瞳に戻ったけれど、

何故そんな表情をしたのか、フレンは今でもそれが分からなかった。

 

これまでに何度も見る、君の悲しみにも似た表情。

その意味を知りたいけど、フレンは聞くことが出来なかった。

聞いてしまえば、この微妙なバランスで成り立っている二人の友情が、

脆く壊れてしまいそうな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「団長、ここは異常ありません」

 

星喰みが消えたとはいえ全ての危険が去った訳ではなく、

今までと同じように街の外にはモンスターが溢れている。

むしろブラスティア、延いてはシルトブラスティアが機能しなくなった分、モンスターの脅威が身近になった。

各地から次々要請される討伐依頼に、団長であるフレン自らが隊を率いて出兵することも少なくない。

 

「よし、では次のエリアに移ろう」

 

フレンは報告を行った隊員を労い、次の作戦へ移す指示を素早く発する。

判断を誤った際に受ける損害は、ブラスティアで防備できていた頃と比べ格段に大きい。

それ故に、以前は簡単と考えていたモンスターの討伐も、

綿密に計画を立てて正確に遂行するために神経を使う。

緊張と安堵の繰り返しで、隊員も疲弊しているのが見て取れる。

フレンは皆を率いるため、いつも隊の先頭を歩く。

 

しばらく森の中を分け入って進んでいると、突然女性の甲高い悲鳴が聞こえた。

フレンは直ぐ様声のした方を振り向き、その方角へ駆け出す。

 

「こっちだ!三小隊に分かれて各方面から向かえ!」

 

フレンの指示通り隊員は、俊敏に隊列を整えると悲鳴が上がった場所へと向かった。

 

 

 

現場へ着けばそこは酷い有様だった。

数匹のモンスターに囲まれた中心には、五人ほどの人影が見える。

だがその内の三人は地面に横たわっており、辺りにはおびただしい血痕があった。

よく見れば五人の中の一人は若い女性で、残っている一人は女性を懸命に守っていた。

 

「敵を引き付けている間に、救護隊は彼らの手当てを!」

 

即座に指示を飛ばすとフレンは自ら剣を抜き、眼前の敵へと走った。

 

 

 

 

「大丈夫でしたか?」

 

彼らを襲っていたモンスターは、フレンたちの手により素早く討伐された。

衛生兵の報告により、三人は既に息が無く、残りの男性について傷は深いが命に別状はないようだった。

唯一の女性が気にかかり、彼女のそばへ駆け寄る。

 

他の四人は戦闘に備え武装しているのに対し、彼女は身奇麗でロングスカートを穿いており、

とてもこのような危険な地帯に居るにはそぐわない格好だった。

身なりの良さから察するに、彼女以外の四人は護衛だったのだろう。

 

「わ、わたし・・・どうしてこんなことにっ・・・」

 

彼女は大きく震えて混乱していた。

それはそうだろう、突然モンスターに襲われたと思ったら、

次々と目の前の護衛が血を流して倒れていったのだから。

その時の恐怖と絶望は計り知れない。涙を流しながら錯乱している女性に、フレンは溜まらず声をかけた。

しゃがみ込んでいる女性に合わせ、膝を突いて心配したフレンに女性は反射的に縋り付いた。

 

「お父様ために・・・、薬草を取りに来ただけだったのにっ・・・、こんな、ひどい・・・」

 

泣きながらも、ごめんなさいと繰り返す彼女を痛ましく思い、

フレンは自分にすがり付いてきた身体を優しく抱きしめる。

 

「落ち着いて、安心してください。我々があなたを安全な場所へお連れします。」

 

そう言ってやると、少し心が静まったのだろう、彼女の強張りがようやく消えた。

いつまでもこの場所に居るのは危険なので、フレンは残っていた討伐任務を翌日に回すことにし、

彼女たちを街へ送り届けることにした。

憔悴しきっている彼女を一人で馬に乗せるわけにもいかず、

フレンは自分の馬に乗せると、自身も彼女を守るためにその後へ乗った。

 

「それでは参ります。街までは少し時間がかかりますので、

 身体を楽にしてもたれかかって頂いても構いませんから。」

「はい、ありがとうございます」

 

彼女がうなずくのを確認して、フレンは緩やかに馬を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

フレンは団長室へ戻り、着ていたタキシードから普段着に着替えると、大きなため息を漏らした。

勝手に期待していた自分も悪いのだが、その期待と現実の落差に、普段受ける以上の徒労感を味わう。

 

 

助けた女性を送る道中で、彼女から父親の話を聞いた。

脚を悪くしている父親の為に、よく効くという薬草を自分で取りに行きたかったらしい。

周囲に反対されたが護衛をつけるという条件で、なんとか街の外へ出ることが出来た。

けれどこんな結果になってしまったことを深く反省し、

亡くなった者たちに詫びたいとも語っていた。

 

外の世界のことを何も知らずに、軽はずみな行動をとってしまったことは、決して褒めることはできない。

けれど、父親の為に自ら薬草を取ってこようとする気持ち、

それを責める事は出来ないと思った。

 

これからは、自分の出来る範疇で父親の助けになりたい。

そう素直に口にした彼女には、身分の高い人間独特の、プライドが高く、

誤りを認めず、不遜な態度というのは感じられなかった。

その後眠ってしまった彼女を、父親が居るという屋敷へ送り届けた。

その屋敷は街で一番大きく、父親は評議会の議員も務めているという相当な権力者だった。

 

元来、軍務の長であるフレンと、政務を取り仕切る評議会の人間との関係は、あまり良好とはいえない。

フレンも何度も侮辱され、苦汁を味わってきたか分からないほどなので、

本来ならばあまり関わろうという気持ちにはならない。

だが、娘にそこまで慕われている父親なのだから、という思いがあり、

自らがそのまま彼女を送り届けたのだ。

 

 

脚が悪いと言っていたとおり車椅子に乗った男は、

娘が居なくなってしまい慌しくしていた屋敷へ、その娘を抱えて突然現れた騎士に瞠目していた。

それを察したフレンは、これまでの経緯について丁寧に説明した。

 

「貴方のために、彼女は森の中に自生している薬草を取りに行きたかったそうです。

 今は疲れきって眠っていますが、怪我もありませんでしたしご安心ください」

 

そう言うと、近くに居た召使に彼女を預けた。

男は大げさにお礼を言いながら、無遠慮にフレンの格好をくまなく眺める。

 

「あの・・・、何か?」

「あっ、いえいえ。あなた様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?

 娘を助けて下さったお礼をしたいのですが。娘も改めて直接お礼をしたいと思うでしょうし」

「フレン・シーフォと申します。

 大変有難いことですが、お礼は結構です。我々の仕事をしただけですので。」

 

各地からの依頼である、モンスターの討伐任務中の事なので、

そこで襲われていた人を助けるのは当然だ。

騎士としての模範回答を返したフレンに、男は再度大袈裟に頷いて見せる。

 

「いやあ、流石ですなぁ。騎士としての大変ご立派な御方です。

 明日の夜に食事会を開きますので、是非お越しいただけませんか?

 お礼などのご用意はいたしませんので。」

 

本当であればそれすらも、フレン自身としては必要無いと断りたいところだ。

しかし騎士団長に就任してから、社交と言うものを嫌でも学ばなくてはならなかった。

相手の好意を無下に断りすぎては角がたち、

延いては本人の預かり知らぬところで、あらぬ噂を立てられることにもなる。

 

就任したての頃は、律儀に全ての誘いに断りを入れていたが、

面子を潰されたと思った連中から、幼稚な嫌がらせを受けた。

 

 

何かのきっかけでその事をユーリに相談したら、呆れた顔をされたのを覚えている。

 

-当たり前だろ?そういうのはメンドーだと思っても、

 取り合えず行って笑ってりゃいいんだよ。

 騎士団長が来てくれたってだけで、箔がつくんだろ。-

 

彼曰く、そうやって小まめに顔を出して交遊関係を広げておくと、

後々役に立つことがあるのだという。

確かに、現に無下にした相手から恨みを受けている以上、

自分の対応がマイナスであることは理解できた。

 

-まあ、俺とお前じゃ立場が全然ちがうから、同じようには言えないかもしんねーけど。

 上手く立ち回らねーと、余計な敵作るぜ?-

 

その忠告を受け止め、何度かそういった場に参加するようになると、

徐々に自分に友好的な人間が増えた。

敵が少なくなった事は良かったのだが、

その分縁談の話が増えたことには、今でも頭を抱えているが。

 

良くも悪くも助けた彼女の父親は、街の評議会の議員なのだから、

気分を損ねてしまうと厄介な相手だった。

それを察したフレンは、食事会の誘いを快く受ける振りをした。

 

 

翌日、再度彼女の屋敷を訪ねたが、食事会という名のお見合いのようなものだった。

名前を聞いた瞬間に、フレンが何者であるかを理解したのだろう、

傷心している娘を綺麗に着飾らせて待っていたのだ。

適当に談笑して帰るつもりだったフレンは、一気に気が重くなるのを感じた。

 

しきりに自分に相手が居るのかどうか、結婚は若いうちにしたほうが良いだの。

聞き飽きている内容を繰り返され、流石に最後のほうには笑顔も引きつっていたと思う。

帰り際には、また是非来てくれ、いつが空いているのかと聞かれたが、

幸いにもモンスター討伐任務は終了しているので、明日帝都に戻ると答えれば、

父親は明らかに落胆した様子だった。

 

 

騎士団長という地位を持っている自分には、皆一様に態度を変える。

距離を置く者、逆に利用したいが為に近づく者、自分を崇拝する者、侮蔑するもの。

帝国という檻の中で、フレンはいつも孤独だった。

 

そんな中で、一人の青年として、一人の親友として、

何も変わらずに居てくれるユーリは、いつもフレンの支えだった。

 

そんな彼の笑った顔が見たいと、強く思った。

 

 

 

 

 

 

「ユーリ!ユーリ!!大変だよ!」

 

ユーリとカロルはギルドで受けた仕事依頼のため、帝都に来ていた。

早々に依頼が片付いてしまったため、

ユーリは自分が下宿していた部屋のある馴染みの飲み屋で、下町のみんなと談笑していた。

そんな和気藹々とした雰囲気の中、カロルが大きな声と大きな音を立てて店へ乱入する。

 

「ん?どうしたカロル、そんな急いで・・・」

 

外が騒がしければユーリも警戒するが、そんな様子は無くカロル一人だけが大騒ぎしている。

 

「これだよ!街で号外が配られてたんだ!」

 

息が上がっているカロルが、ユーリの目の前に突きつけたのは新聞だった。

普段あまり新聞を眺めることが無いユーリは、たまらず面倒そうな表情をするが、

その紙面に書かれていたタイトルを見て直ぐ様顔をこわばらせた。

 

【フレン騎士団長熱愛!】

 

大きくその見出しと共に、見知らぬ女性を抱きしめているフレンの写真が掲載されていた。

 

-浮いた噂一つ無かったフレン騎士団長、ついに熱愛発覚!

 お相手は某都市の評議会議員の愛娘。

 人目を憚り森の中で密会していたところを、ワンダー記者がキャッチ!

 その後団長は彼女を自宅まで送り届け、翌日には食事会に呼ばれご両親公認!

 結婚秒読み間近か?-

 

ご丁寧にその状況を裏付ける写真が、何枚も掲載されている。

女性の顔はぼかされていて、はっきりとは見えないが、

服装のセンスなどで若い女性ということは理解できる。

 

「意外だよねー、あの人に彼女居たんだね。ユーリ知ってた?」

「・・・知らねぇ・・・」

 

ユーリの気持ちを理解しているはずも無いカロルは、興味津々にフレンのことを尋ねる。

手に持っていた新聞を無意識に握り締めながら、

ユーリはカロルの問いに上手く返すことも出来ず、ただつぶやいただけだった。

 

「ふーん、ユーリにも知られないようにやるなんて、

 フレンもすみに置けないね、ってちょっと、ユーリ?」

 

その異変にも気づかなかったカロルは、ユーリが急に立ち上がって店から出て行く様子を、

何も出来ずに見送るだけになってしまった。

 

「どうしちゃったんだろ、ユーリ。・・・さては悔しかったのかな?」

 

あくまで前向きなカロルはユーリの変化をそう解釈し、追いかけることはしなかった。

 

 

 

 

 

本当に何も知らない。

つい最近会った時は、冗談ではほのめかしていたけど、直ぐに笑って否定していた。

自分にはやりたいこと、やらなくてはいけない事があるから、今はそんな気は無いと言っていた。

 

信じたくは無いけどそれでもこの写真は、

ユーリの気持ちを不安定なものにさせるには十分だった。

机に積み上げられていた見合い写真に、全く興味を示さなかったのは、

彼女が居たからなのだろうか。

身を固めなければいけない歳だと語ったのは、彼女との事を意識していたからだろうか。

 

次から次へと悪い方向に傾いてしまう気持ちを抑えることが出来ないまま、

ユーリは無意識のうちにいつもの場所へたどり着いていた。

 

そこから中を覗けば、遠征から帰ってきて荷物を整理しているフレンが居た。

その瞬間に、先ほど見た記事の写真が脳裏に浮かんでしまい、反射的に身体が強張る。

動くことが出来ずにそのまま立ち尽くしていたら、

程なくしてフレンが窓の外に居るユーリに気づいた。

 

「ユーリ!どうしたんだい?そんなところで・・・」

 

荷物を片付けている途中にも関わらず、フレンはユーリの元へ歩み寄る。

逃げ出したい衝動に駆られているのに、ユーリは一歩も動けなかった。

 

「会いたかったよ、来てくれてありがとう。こんなところに居ないで、早く入ってきなよ」

 

腕を引かれて促されるまま、ユーリは部屋へと入る。

その部屋はやっぱりいつもと変わりは無かったけど、それでさえ安心できる材料ではなかった。

 

「どこ、行ってたんだよ・・・」

「帝都から南東の方角にある、新しく作られている街にね。モンスターの討伐依頼があったから」

 

新聞の記事に書いてあった、某都市とはそこの事なのだろうか。

 

「無事に終わったのか?」

「・・・うん、まぁいつも通りだったよ。何事も無く隊員たちにも大した怪我は無かったしね」

 

あのことは咄嗟に隠した。

ユーリに話しても、いつもその手の話題は詰まらなさそうに聞いているだけだったから。

それに自分自身にとってもあまり良い出来事でも無いだけに、

進んで話そうという気にはならなかった。

 

 

嘘をつかれた。

新聞記事にスクープされる程の出来事も、いつも通りだったのだろうか?

それとも自分に話してはもらえないほど、信用されていないということか。

知りたくない、聞きたくないと思っていたことだったのに、

いざ隠されたと思ったらまた別の悲しみがわきあがった。

 

 

自分の仕事に興味を持ってくれるのはいつものことだが、今日のユーリはいつもと比べ覇気が無かった。

 

「どうしたのユーリ?どこか具合でも悪い?」

 

心配になり俯いているユーリの顔を覗き込もうと、

顔にかかっている髪に手を伸ばそうとした矢先だった。

 

「なんだよ、これ・・・」

 

フレンの胸に突きつけられたのは、グシャグシャになった新聞だった。

全く心当たりの無いフレンは、その新聞を受取るとそこに書かれている記事に驚く。

 

「え!?なんだいこれ?何でこんなところの写真が・・・」

 

自分が女性と抱き合っている写真は、上手く周りが消されていて、

あの時の惨状をとても連想できない。

そして掲載されている他の写真と嘘ばかりの文章が、これでもかと言うほど合っており、

いままでのような想像だけで書かれたゴシップ記事とは違い、

読んだ人に信憑性が高いと思わせるには十分な内容だった。

 

急に取り乱すフレンを見て、ユーリは胸が焦げ付くような怒りを覚えた。

 

「・・・何慌ててんだよ、ばれちゃ拙かったのか?結婚のことが・・・」

「そ、そういう意味じゃないよユーリ、これは・・・」

「どうせ金目当てか、目立ちたがり屋の女だろ?」

 

突然声のトーンを落として発したユーリの言葉を、フレンは咄嗟に理解できなかった。

 

「え、ユーリ何を・・・」

「あからさまな媚売りだろこんなの。

 それも地方の権力者の娘かよ、お前も利用されるだけなのに、よくこんな女とっ・・・」

 

頭に血が上って一気にまくし立てたユーリだったが、その途中でフレンに頬を叩かれて我に帰る。

はっとしてフレンの顔を見れば、明らかに怒気をはらんだ表情をしていて、

ユーリは自分が酷い暴言を吐いてしまったことに気づく。

 

「こんな低俗な新聞の記事を見ただけで、知りもしない女性のことを、よくもそんなに悪く言えるね。」

「っ・・・お、俺は・・・」

「帰ってくれ、今は君の顔を見たくない」

 

フレンはそう言うと、ユーリが部屋を出て行く前に顔も見たくないという言葉通り、

自分から部屋を出て行ってしまった。

 

ユーリはしばらくその場に立ち尽くしていたが、重い足取りでフレンの部屋を後にした。

あんなことを口走ってしまった自分が、恥ずかしくて情けなくて自然と涙がこぼれる。

謝らなければいけないと思うのに、どんな顔をして会いに行けばいいのか分からない。

 

そして、記事に書かれた内容が、誤解なのか真実なのか分からないままになってしまった。

もし真実だった場合、その話を聞かなければならないのかと思うと、

とても耐えられそうになかった。

 

あんな軽蔑の視線を向けられたのは初めてで、

ユーリは怖くなってどう動けば良いのか、全く分からなかった。

 

 

 

 

 

 

その後も連日のように、新聞にはフレンと娘の結婚記事が書かれていた。

決定的な写真を手に入れたのを良いことに、

新聞の記事は益々加熱していて、フレンはウンザリしていた。

 

ユーリに一方的に怒ってしまった日から二週間程経っていたが、

ユーリは一向に自分の前に姿を見せない。

顔を見たくないとは言ったが、フレンはユーリのことを心配していた。

 

あの日のユーリは明らかに様子がおかしかったから、あんな暴挙に出てしまったのだろうか。

一度きちんと話をすべきかと思いながら、城の廊下を歩いていると、見知った二人の姿が見えた。

 

久々に城へ戻っていたエステルと、いつも行動を共にしているリタだった。

フレンは二人に駆け寄り、丁寧に挨拶をする。

 

「お久しぶりです、エステリーゼ様、リタ。お元気でしたか?」

 

懐かしい顔に出会えた事で、フレンは嬉しくなり微笑んでいたが、

二人はそれを一瞥しただけで、挨拶を返してくれなかった。

リタはともかくエステルがこのような行動を取ることなど考えられず、フレンは戸惑いを隠せない。

 

「え?エステル様?リタ?・・・あの・・・」

「私、怒ってるんです!」

 

再度声を掛けなおした瞬間、エステルは突然声を荒げて、眉を吊り上げながらフレンを睨む。

エステルを怒らせるようなことをした覚えの無いフレンは、更に混乱してしまった。

 

「ユーリの気持ちを知っているんです!?

 ずっとフレン一筋だったユーリに酷い仕打ちです!最低です!!」

 

めったに声を荒げないエステルの怒涛の非難に、その言葉を汲み取るのが精一杯だった。

ユーリの気持ち?フレン一筋?これまでのユーリの言動を鑑みて、

エステルの言っていることが理解できない。

誰でも良い、本人がそう言っていたのに、自分を一途に想っていることなど信じられない。

 

「え、でも、ユーリは・・・」

「私たちでさえあいつの本心に気づくっていうのに、

 一番近くに居たはずのあんたがそんなんじゃ、あいつも可哀相ね・・・」

 

分かろうとしないフレンに対して、今まで黙っていたリタが口を開いた。

だとしたら、彼女たちの言っていることが本当だとしたら。

以前からずっと続いていたお見合いの話、今回の新聞の記事、

それらはどれほどユーリを傷つけていたのかと、フレンはようやく気がつく。

 

あの日、ユーリが情緒不安定だったのは、君が僕を好きだから?

 

「・・・失礼します!」

 

一つの答えに帰結したフレンは、二人を残してその場を走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ユーリは帝都の酒場で飲んだくれていた。

本当なら直ぐにでもダングレストに帰っているはずなのに、

カロルが運悪く帝都での仕事を獲得してしまったからだ。

途中からジュディスも合流したので、それなら二人に任せて自分は帰ると主張した。

だが勘の良いジュディスは何かを察知したようで、

カロルを唆してリーダー命令で帝都に残ることを言い渡された。

帝都に居れば嫌でも耳に入ってくるフレンの結婚話に、ユーリは何とか逃げたかった。

 

「よぉねーちゃん、あんたずっと一人で飲んでるんだな?これから俺たちとどうだ?」

 

相当な量を飲んでいるはずなのに、上手く酔うことが出来なくてむしゃくしゃしていたら、

二人組みの男に声を掛けられた。

普段であれば逆鱗に触れる誘い文句なのだが、

自暴自棄になっている今のユーリにとって、そんなことはどうでも良かった。

 

「はっ、二人だけかよ、ちゃんと俺を楽しませてくれよ?」

「綺麗な顔して言うなぁ、いいぜ?来いよ」

 

挑発的な態度を取るユーリに、もう一人の男が軽く笑いながら、

ユーリの腕を取り腰に手を回しかける。

しかしその腕は腰に回ることは無かった。

 

「いってぇ!何すんだ、離せ!」

 

突如上がった男の悲鳴に、ユーリはびっくりして後ろを振り向くと、

男の腕を力いっぱい掴んでいるフレンがいた。

 

「・・・フレン・・・?」

「すみませんが・・・、この人は僕とこれから予定がありますので、返してください。」

 

走ってきたのだろうか、息が上がっているフレンの表情はとても真剣で、

それだけでも二人の男は気圧されているのが分かる。

 

「あぁ!?そんなのが通ると思ってんのか!?」

「お、おい!この人って、フレン団長!?」

 

男は負けじと声を張り上げたが、腕を掴まれていたもう一人の男は、

目の前の男が騎士団長だということに気がついた。

騎士だという彼らは、フレンに謝罪し大人しく引き下がってくれた。

 

「一緒に来て」

 

言葉少なにそう言うと、フレンは強引にユーリの腕を引っ張った。

 

 

 

 

 

 

着いた先はフレンの部屋だった。

その後もフレンは自分に後姿を見せているだけで、一向に何かを話そうとしなかった。

長い沈黙の間、ずっと手を握られてる状態だったユーリは、

居心地の悪さにフレンの傍から離れようとしたが、腕を放してもらえずそれも叶わなかった。

 

「何で・・・何で君は自分を大事にしないんだ!」

 

後姿しか見えないため、フレンの顔を見ることが出来ない。

どんな表情でどんなつもりで言っているのか、

それが分からなくてユーリは素直に答えることが出来ない。

 

「良いんだよ別に、俺は昔からそうだって知ってるだろ?

 ・・・それに、そうしたい奴には相手にされてねーんだから、もうほっとけよ!」

 

何故好きな人を目の前にして、こんなことを自分で言わなくてはならないのか、

ユーリは自棄になって声を張り上げる。

その途端フレンがこちらに向き直って、力強くユーリを抱きしめた。

 

あまりのことにユーリも驚いたが、

こんな状況でもフレンに抱きしめられているという事実に、嬉しくなっている自身を自嘲する。

けれど次にフレンから出た言葉が、更にユーリの鼓動を速めた。

 

「ユーリ、僕の恋人になって・・・?」

 

思いも寄らぬフレンの発言に、ユーリは一瞬息を呑む。

 

「お、お前・・・意味分かって言ってんのか」

「僕はずっと自分の気持ちに気づけなかった。いや、気づきたくなかったのかもしれない。」

 

君が、僕から離れてしまうんじゃないかって思っていたから。

そう言って抱きしめていた力を緩め、ユーリを正面から見つめるフレンも、

自嘲しているかのような表情だった

 

「僕には君しかいない、君しか要らないんだ。それはずっと、昔から変わってない。」

「いいのかよ、俺はお前と体だけの関係でもいいからって、無理やりお前を誘うような汚い奴だぜ?」

 

昔、逃避のために多数の男と関係していた事実が、自分の負い目になっているユーリは、

それでもまだフレンの言うことを受け入れる勇気が無かった。

 

「僕だってそうだ。君をつなぎ止めておくために、それを加担したんだから」

 

そう言って優しく抱きしめなおせば、今度はおずおずと自分の背中に腕を回してくれた。

その仕草に煽られたフレンは、ユーリを横抱きにするとベッドまで運んだ。

 

「好きだよユーリ、今君のことがとても欲しいんだ・・・」

 

照れながら遠慮がちに自分の上に居るフレンに、ユーリはようやく笑って。

 

「俺も愛してるぜ。お前の全部、俺にくれよ・・・」

 

言い切ると同時に、引き寄せたフレンの唇と重ねあった。

 

 

 

 

 

 

「んっ・・・ふっ・・ぁ・・・もぅ、やめ・・・」

 

ユーリはベッドに身体を横たえたまま、力なく身悶える。

脚を大きく広げさせられ、その中心で顔を伏せているフレンによって、

しっかりと掴まれているため閉じる事も出来ない。

一方的に何度も吐精に導かれて、もう何も出ないと思うほどだった。

それでもフレンは執拗に、ユーリを弄る手を休めない。

 

これまでずっとユーリがリードしてきたことと、

誘ったのは自分なのだからお前はそんな事しなくて良い、

としてあまりフレンはユーリに触れることが無かった。

その反動からかフレンは自分のことは構わずに、ユーリを苛ませている。

 

「も・・・嫌だ、フレン・・・あっ・・・辛い・・・」

 

幾度と絶頂を極めた身体はどこもかしこも敏感になっていて、

微かに触れる吐息にさえ反応してしまう。

胸の突起は弄られ過ぎて、何もしていないのに赤く熟れてジリジリと痺れている。

 

「まだだよ、もっと可愛いユーリを僕に見せて」

 

自分の手によって益々乱れていくユーリを見て、フレンは興奮を抑え切れなかった。

過ぎた快感に前後不覚になっているユーリは、とても可愛くてとても綺麗だった。

自分にこんな性癖があったのかと思うほど、

ユーリをもっと泣かせたいという気持ちが湧き出てくる。

 

甘えるように縋る仕草を見て、昔の自分は何故ユーリのしたい様にさせて、

受動的な姿勢で我慢できたのだろう、と自分の事ながら不思議に思う。

 

「いいから、ふ・・ぁ・・・お前が、欲しい・・・」

 

ユーリの上に覆いかぶさっているフレンの腰に、脚を絡ませて誘う姿は扇情的だった。

フレンの愛撫によって蕩けきっている蕾は、早く中を満たして欲しくて収縮を繰り返す。

自身も我慢の限界に近づいていたフレンは、ユーリの誘いに今度は素直に応じる。

 

「じゃあ入れえるよ?ユーリ、力抜いてね」

「ひっ!・・あぁ・・・んっ・・ん・・・あっ・・・」

 

初めの笠が張っている部分をゆっくりと挿入し終えると、残りの全てを一気に挿入した。

 

「あぁあぁっ!やっ・・め・・・・おくっ・・・」

「可愛いよ、ユーリ。・・・何も出てないけど、今のでいっちゃった?

 中、すごいヒクヒクしてるね・・・」

 

一気に挿入された刺激で、また絶頂を迎えたユーリを見下ろしながら、

フレンは立ち上がったままのユーリの中心を軽く擦る。

更にユーリの内部の痙攣を楽しむように、最奥への律動を繰り返す。

 

「いっ、やぁ・・・あっ・・あ、ぁ・・・まだっ・・・だめっ・・・んぁ・・・」

 

奥を突かれる度に押し寄せる快感はすさまじく、

常に絶頂の最中に居るような強い刺激に、ユーリはどうする事も出来ず、頭をふるだけだ。

フレンの激しい打ち付けも、腰をしっかりと掴まれているため、全てを受け止めなければならない。

 

「ユーリっ・・・好きだよ、愛してる・・・」

「んっ・・ん・・・あっ・・ぁ・・・フレン・・・」

 

ユーリの中を出入りするフレンの動きが一段と早くなり、最奥に強く打ち付けられ中に吐精される。

その緩やかで暖かい刺激に、ユーリも小さく震えながら達した。

薄れていく意識の中で、ユーリもフレンに伝える。

 

「俺も・・・愛してる・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ・・・そろそろ戻るわ」

 

あれから二人は泥のように半日以上眠っていた。

起きてからもフレンは誤解を解こうと、必死に先日起こった事の顛末を説明した。

そして、彼女から送られてきた手紙も読んでもらった。

 

中に綴られていたのは、助けた際のお礼、自分の父親が勝手に暴走し、

フレンに迷惑をかけたことへのお詫び、

最近帝都で白熱している熱愛報道への心配、そして自分自身の近況。

至極まともなことが書かれてあり、そんな女性に対して酷い暴言を吐いたことを反省した。

 

そして何より、本当に何も無かったのだという安心が得られた。

 

「うん、手紙書くね。あと、帝都に来たらまた会いに来て、

 僕もダングレスト方面まで遠征があったら、必ず行くから」

「あぁ、分かってるよ。行くに決まってるだろ?当たり前だ」

 

いつものフレンの部屋の窓際で、別れの挨拶を交わす。

下へ飛び降りようとしたユーリを、フレンは思い出したように、自分の元へ引き寄せ耳打ちした。

 

 

 

 

-くれぐれもワンダー記者にスクープされない様に気をつけなきゃね。-

 


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