以前の話は削除しました。
ノートルダムの鐘、レ・ミゼラブル、オペラ座の怪人。
トリップヒロインで逆ハーの予定です。
パリの地下道はあらゆるところへと繋がっているが、それは建造物にもいえる、寺院や教会、美術館、劇場に隠し部屋や通路があるのは暗黙の了解といってもよかった。
ノートルダム大聖堂、オペラ座の事件が時を同じくして惨事に見舞われて再建を果たすのに、それほどの時間がかからなかったのは芸術的な価値を持つ建物であること、そして貴族たちの支援があったからといっても過言ではないだろう。
大司祭、クロード・フロローとその養い子、カモドが生き延びたのは髪の采配だったのかもしれない、だが、それだけではない、他にも生き延びた者達がいた。
フロローがカジモドの異変に気づいたのは最近のことだ、一度、正午の鐘をつく時間が遅れたことがあった、だが、そのときは何とも思わなかったのだ。
思い返してみれば何か隠しているのではないかと思ってしまった、問いつめて白状させるのは簡単だが、本当のことを言うことは限らない。
ジプシー女、エスメラルダが死んだ時、カジモドはひどく落ち込んでいた、以前のように自分たちの関係が元通りになるには時間がかかるだろうと思っていたのだ。
フロローは誰かに探らせようと考えた、忠実な、裏切らない相手、一種、脳裏に浮かんだのはフィーバスだ。
元、警備隊長のフィーバス、将来を約束された身でありながら、ジプシー女の為に仕事を投げ出した、彼女が亡まなった今は別人と言ってもいい。
酒場や娼婦たちの間をうろうろと、あげくに亭主持ちの女に手をだしたことがきっかけで騒ぎになった、女の亭主に刺されたのだ。
愛人や情夫相手の事なら、大事にはならなかっただろう。
だが、手を出した女は今まで浮気などしたことのない貞操の堅い女だった、その為、フィーバスに対する風当たりは激しくなった、当然だ。
今では娼館の女たちにでさえ、白い眼を向けられる始末だ、ジプシー女に関わったばかりに、気の毒なことだ。
神は正しい、だから、あの男に天罰を与えたのだ。
フィーバスという絵床にかっての面影はない。
フロローの下僕だった。
「ジャベール」
セーヌ川の水は冷たい、心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えた瞬間、男は死を覚悟した。
少し前まで自分は法を守るべき者として正しいことをしていると自負していたのだ、ところが、あの男を追いかけていた最中に迷いが生じた。
それがだんだんと大きくなり、耐えきれなくなってみを投げたのだ。
生きることを自ら放棄した事は罪だ、地獄に堕ちるだろうと思っていたのに何故だ、ここは。
自分は生きている、何故と思いながら、ゆっくりと眼を開けると薄明かりに照らされた室内だということがわかった、ベッドに寝かされていることに驚いた、そして、ここはどこなのだろう思ったときだ、呼びかける声がした。
身投げした自分を助けたのはノートルダム寺院の鐘付き男だった、司祭の別途と言われていた。
以前街で警備をしているときに何度か見かけたことがあった。
何故、この男が自分を助けたのかわからなかった。
会話をするとき、じっと自分の顔を見るのは唇の動きを読んでいるのだと分かってから数日、ようやく話ができるようになった。
「助けるつもりはなかったよ、警部殿」
鐘つき男のぶっきらぼうな物言いは、どこか苛立っているような、怒っているのかと思えた。
「彼女があんたを見つけたんだ、この数日ずっとそばにいて看病していたんだよ」
「その女は今、どこに」
「寝てる、具合がよくない」
それは怒りを含んだ声だった。
身投げした自分を見つけた女が息があることを知って、助けたいと自分に頼んだのだという。
もし、事がフロローに知られたら厄介なことになるかもしれないと思いながらも渋々、助けたのは頼まれたからだだ。
「警部殿、この数日、あんたの看病をして彼女は疲れてしまったんだ」
カジモド吐き捨てる様な言葉をぶつけたが、ジャベールの耳には届かなかった。
まだ、体には疲れとだるさが残っていたのかもしれない。
「クリスティーヌ
「ここから出して、お願いよ、エンジェル」
だが、何度訴えかけても相手は、自分の言葉に耳を傾けようとはしない、笑うだけだ。
「君は私の顔を見た、満足だろう」
「ええ、確かに、でも」
言葉が最後まで出てこなかった、思ってもみなかったのだ、こんなことになるとは、クリスティーヌ・ダーエ、今、彼女は恐怖と絶望の中に取り残されていた。
自分に今まで歌を教えてくれた彼が、こんな事をするとは思ってもみなかったのだ。
レッスンのことを知って、生徒志願の人間が押し掛けてきては面倒だから素顔は隠している、だからいつも仮面をつけているんだ。
歌が上達し、大役を任されることが決まってから、男の事を知りたくなってきた。
彼自身の声と同じで、その顔も。
好奇心が抑えきれないほど膨れあがってくるのに時間はかからなかったた。
自分の顔は醜いから誰にも見せたくないと言われ、大丈夫だと言ったのだが、今ではそれをひどく後悔した。
男の仮面に隠された素顔というものは今まで見たことのないものだった。
髪はない、普段は鬘をつけているのだと、このとき初めて知った、頭部は陥没したような大きな傷があり、左目は大きく見開いたまま、頬の肉は引きつれたようになっている、肌の色も浅黒く変色している。
人間らしいという言葉がすべて否定された顔を見て、驚きと恐怖二気を失った、気がつくと牢屋の中だった。
音楽の天使と呼んでいた男は鉄格子の向こうから、自分は母親から捨てられたのだと笑いながら話しだした。
「化け物、悪魔だと罵って、あの女は自分から命を絶った、自殺だよ、おまえはどうだい、クリスティーヌ、自ら死ぬ事を選ぶかい、見た目こそ化け物かもしれないが、中身まではそうもないんだよ、私は」
「エンジェル」
牢屋の中の彼女が呼びかけた、すると。
「天使じゃない」
男は否定した、激しく、怒りと悲しみの感情に翻弄されたように天使じゃないんだと何度も繰り返し、叫びながらだ。
「おまえは、そっくりだ、あの女に」
「私を殺すの、憎んでいるの」
「ああ、わからないだろうね、おまえには」
彼は狂っているのではないか、このとき初めて彼女は恐くなった。
自分は亡くなった父親から頼まれて、おまえの元に来たんだ、優しい声で呼びかけてくれた、あれは夢、すべてが幻だ。
帰りたい、彼の元へ、ラウルー、幼なじみの青年の顔を思いだし彼女は涙を流した。
ああ、終わりだ、彼女は自分を恐れている、あの眼は自分の母親、今まで自分の素顔を見た人間と同じだ。
人間じゃない、化け物だ、悪魔だ。
指をさして子供たちを自分たちの背後に隠し、こちらを見る、怯えたようにだ。
自分が一体、何をしたというのだ。
素顔を見られたとことが失敗だった、間違いだった、だが、もう遅い。
彼女を地上に戻せば自分の事を話すだろう、秘密はいつかはばれるものだ。
あの若造、いや、警察が知れば自分を殺しにくるかもしれない、そうなれば牢屋ではすまないだろう。
ノートルダム寺院の大広場で見せ物のごとく、絞首刑はまぬがれないだろう、そんなことはまっぴらだ。
殺されるぐらいなら、いっそのこと。
自分の足は自然と階段を上り、オペラ座の屋上へと向かっていた。
ここから飛び降りれば間違いなく死ねる、そして彼女は誰にも見つけられず牢屋で死ぬ。
素顔を見られる前なら、そんなことを考えただけで耐えれないと思っただろう、だが、今はどうでもよかった。
終わった、全てはと自分に言い聞かせる。
冷たい、ひんやりとした空気が素顔にふれるのは、なんて心地よいのか、できるなら昼間の太陽の光も感じてみたかったが、今となっては、叶わない望み、そのときだ、足音と人の気配がした。
呼びかける女の声に驚いて振り返った。
こんな真夜中、オペラ座の屋上に、裏方の人間か、逢い引きの約束でもあるのか、だが、こんな時間に。
今日は劇場は休みではなかったか。
では、誰だ。
「飛び降りる気なの」
女の声、その言葉に、そうだと答えた瞬間、相手が近寄る気配がして、思わず来るなと叫び、拒絶した。
「生きていて何になる、全ては、この顔のせいだ」
「よく、見えないわ、カンテラだけじゃ」
近づいてくる、明かりが自分の顔だけでなく、相手の顔も照らした瞬間、突然、相手が抱きついてきた。
「死ぬなんて駄目よ、こんなところから、助からない」
冷たい石の床に倒れてしまったことに驚いた男は、しばらく、言葉が出てこず、空を見上げたままだった。
「顔が、どうしたの」
自分の頬に振れた手の感触に緊張する。
「怪我をしてるの」
生まれつきだと答え、男は目を閉じた。
「夜の空気は冷たくて気持ちいいわね」
自分のすぐ隣に女が体を横たえ、星が見えないと残念そうに呟くが、男は黙ったままだ。
自分の隣、こんな、手を伸ばせば届くほどの近い距離に誰かがいるということが信じられなかった。
「脱出」
その夜、大聖堂の地下へと向かうカジモドの姿を見つけたフロローは後をつけようとしたが、思いとどまった。
もし、気づかれたら次に見つけだすのは難しくなる、何を隠しているのだろうと考えたとき、ふと浮かんだのは誰かを地下に匿っているのではないかということだ。
しばらく前にパリの街中で暴動が起きた、革命だと本人たちは言っているが、若者、学生たちの自由と平等を全ての人間になどという運動など最初から失敗は目に見えている。
若さ故の愚行といってもよかった、この騒ぎによって大勢の人間が亡くなったのだから。
その日、カジモドに使いを頼んだフロローは部屋の隠し通路から地下へと降りた。
秘密の隠し通路は寺院に幾つかある、だが、そのことを知っているのは限られた者だけど、生まれた時から大聖堂に住んでいるカジモドでさえ、知らない事もあるのだ。
薄暗い地下を訪れるのは久しぶりだった、迷わないように地図と目印を確認しながら進んでいくのは決して簡単なことてはなかった。
しばらく歩きながら、散策していたフロローだったが、突然、立ち止まった、音が聞こえたのだ。
誰かいるのか、自然と早足になるのを止められず、フロローは音を頼りに奥へ闇の中へと突き進んで行った。
女がいた、まさかと思ったが、人を匿っていたのだ、それも内緒で、またかとフロローは思った。
脳裏に浮かんだのはエスメラルダ、今はもういないジプシーの踊り子だ。
踊りだけで食べていけないので、娼婦のように体も売っていた、そのことを、あの男は知っていたのだろうか、だから、あんな結果を招いたのだ、もし、あの女と同じ娼婦なら追い出さなければと思っていた。
気配に気づいた女が声をかけてくた。
「カジなの、今日は来ないって」
地下の布で仕切られた一角、、緊張しながらフロローは近寄り、声をかけた。
布がめくれて、そこから顔を出したのは女の顔を見て、フロローは何か言い掛けようとし言葉を飲み込んだ。
驚いた顔で女は自分を見ているが、それはすぐに別の表情に変わった、不安そうな顔に何か言いかけようとしたフロローだったが、女は逃げだそうとした。
「二度目の出会い、エリック」
もう一度、会えないだろうかとオペラ座の地下に住む男は考えていた。
今まで自分の顔に対して、大抵の人間は怯えと拒絶、罵詈雑言、中には石を投げてくるなどは可愛いもので、それが普通の反応だと思っていた。
だが、あの女は違っていた、わかるのは外国人で街ではなく、地下で暮らしているらしいということだけだ。
地下は広い、自分だけの秘密の場所を作ろうとしている浮浪者もいる、壁や地面を掘り進めて崩落し、生き埋めになることもあるが、自身の身を守る為、相手を殺す事も珍しくはないのだ。
思い出したのは寺院という言葉だ、外国人が寺院という言葉を使うと小さなところではないだろう、大きな寺院なら多くはないし探すのも難しくはないかもしれない。
それにオペラ座の近くまで歩いてきたとなると、それほど離れた場所ではないだろう。
ふと、浮かんだのはノートルダムだ。
自分を見て、逃げようとしなかったのは似ているような容姿の人間を見て、接したことがあるからではないか。
あそこには司祭のペットと呼ばれる醜い男がいる。
「いなくなった彼女」
「彼女を見なかった」
部屋に駆け込んできたカジモドの慌てた様子にジャベールは驚いた。
ベッドから起きあがれるようになり、今朝は女の用意した食事、パンとスープを間食した彼は、ここに来た当初と比べて元気になっていた。
いつまでも、ここで寝ているわけにはいかないと思っていたときに。
「居ないんだ、それに荷物も、彼女の鞄もない」
「出て行ったのか」
カジモドは首を振った、自分に何も言わずに出て行くなんてあり得ないと、するとジャベールはある疑問を口にした。
「彼女のことを知っている人間は、おまえだけなのか」
「内緒にしている、知っているのは僕とおまえだけだ、彼女の事は、御主人様も」
言葉が最後まで続かなかった、カジモドは黙りこんだ、もし、フロローに知られたら、ただではすまない。
エスメラルダのことを思い出した、最近のフロローは自分を見る目つきはいつも通りだったろうか。
「自由になったのだろうか」
自分の仕事は聖堂の鐘をつき、パリの街に時間を知らせることだ、それは毎日のことで変わることのない日常だ。
その日は大事な日で鐘の修理をする事になっていた。
街の外へ出るのは気を使うが、地下は別だ、ひんやりとした空気も暗い闇も怖くはなかった、太陽の光に自分の顔が晒されてしまうよりずっと気分がよかった。
以前は賑やかな人々の楽しそうな笑い声が気になって、外に出たいという気持ち、衝動にかられたものだが、今はそれほどではない。
多分、エスメラルダが死んだからだ、何かが心の中から消えてしまったように感じなくなってしまった。
そう思っていたのに、見つけてしまったのだ。
地下で女の姿を見つけたとき、カジモドは驚いた、エスメラルダが生き返って、自分に会いにきた。
だが、近くに寄ってみると違う、別人だった。
女はカジモドを見ると自分から近づいてきた。
迷ってしまって困っていると途方にくれていた、そんな女を放っておくことができ、カジモドは彼女を地下の安全な場所に匿うことにした、それも主人であるフロローに内緒で。
「君は、ここから出たいと思っていたんだろう」
クリスティーヌは驚いた、絶対に、ここからは出さないと怒り狂っていた数日前の彼の言葉とは思えなかった。
地上へ帰りたいんだろうと言われて、後をついて行くと以前とは違う道だ、もしかしてと不安になったが、無事に外へ出ることができたときはほっとした。
「他人には話さないでくれ、静かな生活を邪魔されたくないんだ、無害な人間なんだよ、私は」
以前と同じ優しい声、視線を向けられて困惑したのも無理はない、だが、ここで否定すれば彼は怒り出すだろう。
外に出ると日はまだ高い、自分がどこに出たのかとクリスティーヌは周りを見て驚いた、見覚えのある場所はオペラ座の近くの通りだ、男の足が止まった。
「ここまでくればいいだろう」
聞きたい事があるはずなのに言葉が出ない。
だが、そんな彼女の様子など気づきもしない様子で男は背を向け歩き出した、一度も振り向きもせずにだ。
クリスティーヌは驚いた、今までこんな事はなかった、不安、まるで捨てられたような感覚を味わい、しばらく、その場から動くことができず、呆然と立ち尽くしていた。