エルフナインがおひとりさまをする話。
AXZの事変の後の時系列で、拙作『フーガ』、『トゥギャザー』の後の話です。
時節は11月初週頃。XV放送前のため、XVの情報を含みません。
(初出:2019/05/19)(他サイトと同時投稿です)

・『フーガ』https://syosetu.org/novel/176379/
・『トゥギャザー』https://syosetu.org/novel/189865/

時系列 > AXZ終劇(9月中旬) → フーガ(10月上旬ごろ) →(約一週間後)→ トロイメライ‘ →(1~2週間後)→ トゥギャザー(10月下旬ごろ)→ 今作(11月上旬ごろ)

↓これまでの設定あらまし↓
・AXZ事変後、エルフナインは改修Beatriceを自分に用いて心象空間でキャロルと出逢い、キャロルは元の自我を取り戻し済。
・キャロルの自我は表に出ようとしないが、エルフナイン就寝時、二人は心象空間で夜毎に対面している。
 
 
 
 
 
 


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エルフナインがおひとりさまをする話。
AXZの事変の後の時系列で、拙作『フーガ』、『トゥギャザー』の後の話です。
時節は11月初週頃。XV放送前のため、XVの情報を含みません。
(初出:2019/05/19)(他サイトと同時投稿です)

・『フーガ』https://syosetu.org/novel/176379/
・『トゥギャザー』https://syosetu.org/novel/189865/

時系列 > AXZ終劇(9月中旬) → フーガ(10月上旬ごろ) →(約一週間後)→ トロイメライ‘ →(1~2週間後)→ トゥギャザー(10月下旬ごろ)→ 今作(11月上旬ごろ)

↓これまでの設定あらまし↓
・AXZ事変後、エルフナインは改修Beatriceを自分に用いて心象空間でキャロルと出逢い、キャロルは元の自我を取り戻し済。
・キャロルの自我は表に出ようとしないが、エルフナイン就寝時、二人は心象空間で夜毎に対面している。
 
 
 
 
 
 



ノンアスコルト

 

 

 

 

 

 

 

 意識が浮上していく。

 それにつれ、瞼も自然と上がっていく。

 開いていく視界に、瞼の裏の暗闇ではない別の暗闇が徐々に見えてくる。

 明かりの落ちた暗がりの中、昼色の柔らかい光をそばの床に小さく灯す足元灯によって、壁付けされた書物机や天井まである書棚の横姿がぼんやりと浮かび上がって見える。

 十歳前後の自分の足で五歩もあれば壁に行きあたるような小さな部屋。目が覚めたそこは、その中の壁付けされた一人用のベッドの上。

 この部屋で暮らすようになって三ヶ月ほど。

 SONG本部である原子力潜水艦。その巨大な艦の居住区の一室に割り当てられた、見慣れた自室の風景だった。

 仰向けの顔を横に倒して、薄明かりにかろうじて見える壁掛け時計の短針を、エルフナインの緑碧の瞳が見やる。

 

「三時……」

 

 秋も中ごろの今現在は緊急の調査事案もなく。かつてパヴァリア光明結社の仕掛けた事変の対応に当たっていた頃と違って日付の変わる一、二時間前と常識的な時間帯にベッドに入っていたけれど、起きるにはまだまだ早い時間帯。いつもならぐっすり眠っている頃なのに、不意に目が醒めてしまった。

 明日も響たち装者のトレーニング時のバイタルデータやフォニックゲイン値など、実測データのチェックや分析などの平時の任務が控えている。寝不足のままでデスクに向かえば、夏頃のギアを改修していた時のように、作業中に寝落ちてしまうかもしれない。

 夜のうちに十分に眠っておく方が良いのは明白。再び眠ることに決めて、上掛けの乱れを直そうと身じろいで――そのとたん。

 

「あっ――」

 

 ぞくん、と。身体の深いところに、悪寒に似た感覚が走って身体が震えた。

 甘さを伴う、切なくなる感覚。

 脚が、感覚の源の太ももの付け根をかばうかのように反射的に閉じられる。

 全身が無意識に縮こまって、そのせいで起きた上掛けとの衣擦れにもぞくりとする感覚が呼び起こされた。

 

「ん、っ……」

 

 呼吸をつまらせながら、両手で胸の上の上掛けを無意識に握りしめる。

 感覚を堪え通り過ぎるのを待つうち、徐々に目が覚めてきて、自分の身体の状態に意識が追いついていく。

 身体は、寝起きの体温より少し熱くて、うっすらと汗っぽい。

 脚の、太ももの付け根の間が熱い。熱を持っている――じんと疼くような、熱を。

 これは、たぶん。

 いや、きっと。

 心象の空間での行いのせい。

 

 

 ――ひと月前、改修した電界顕微観測鏡Beatriceを自分自身に――自分の同化したキャロルの躯体に用いて、仮想脳領域を探索し、そこでキャロルと再び出逢うことができた。

 キャロルの自我――電気信号は過度に想い出の焼却したせいで希薄でおぼつかない状態だったけれど、

 探索のさなかにこちらが追体験したキャロルの想い出の断片の、その想い出を複写することで電気信号の強度と欠落が補完されて、キャロルは記憶障害を起こす以前の意識を取り戻した。

 パパの遺言『世界を識れ』とは、『人と人がわかり合うこと』という命題だったと、最終決戦時にキャロルが見たパパの姿の想い出の断片からようやく、二人で知った。

 託された命題は、人の間に横たわるもの。また、それを取り巻く世界そのもの。日々を世界の中に生きて、世界とそこに生きる人びとの営みを眺め、また体感もして、その想い出を複写で分かち合う。

 キャロルはパパを拒絶した世界への不信感を拭いきれないでいるものの、託された命題をふたりでいつか解き明かそうということに、異論はないようで。

 以来、毎晩眠った後に訪れる、二人の意識の撚り合わせから作られる心象の空間、チフォージュ・シャトーの玉座の間でキャロルに逢って、口接けによって日毎の想い出を複写して共有する日々を送っていた。

 

 そんな中、半月ほど前。

 時折夢に見る想い出の断片の中で偶然キャロルの、ガリィに命じて躯体の成人化のために躯体に性感を伴わせながら破瓜を施させた想い出を見てしまった。

 自分の知っているキャロルはごく一部でしかない。キャロルのことを何も知らないに等しい。

 そう思い知ると同時に、自分の知らないキャロルの姿を、感触を、質感を、隅々までを知りたくて仕方なくなった。

 その想いは日々募り、積もり重なって、ついに。

 十日ほど前、玉座の間でキャロルに想い出を複写した後、ガリィとの想い出にあったシャトーのキャロルの寝室へと、心象空間の転換を無意識に引き起こしてしまった。

 原因はおそらく、キャロルのガリィとの想い出を見てしまったせい。

 突然に起きた空間の転換に戸惑いつつも冷静に対処を思案するキャロルにそのことを打ち明け、キャロルのことをもっと知りたい、触れたいという想いもまた正直に打ち明けると、キャロルはそれを許してくれた――切り捨てようとした相手からは、復讐として何をされても仕方がないとして、諦観の面持ちで。

 電気信号を融合してしまえば、自分の全ての理解などたやすいのだから、そうすればいい、とも。

 それらを、強く否定した。

 知りたいと願う世界のことのひとつは、他の誰でもないキャロルのことだということ。

 世界を識るのはキャロルと共にでなくては意味がない。キャロルにも知ってほしいのだから。

 そう伝えて、そして、キャロルに触れた。

 触れるうち、キャロルに触れたい想いはますます募って、キャロルの熱を感じるうちに自分の身体まで熱くなった。

 キャロルからも触れられて、こちらを知りたいと心を向けてくれたキャロルが嬉しくて、身体も胸もますます熱くなって。

 熱を、想いを、二人で分かち合って、得も言えない満ち足りた眠りに落ちた。

 

 その後に目を醒ますと、すでに出勤時間の迫った朝という現実世界だった。

 慌てて本部へと出勤したその日は、心象世界でのことをつい思い出してしまって上の空になりがちなのを、友里と藤尭に寝不足と心配をさせてしまいながらの一日となってしまった。

 任務を終え、夜を迎えて就寝し、いつものように訪れた心象の玉座の間で。

 想い出の複写をするのに向き合った玉座のキャロルは気まずげに、気恥ずかしげにばつが悪そうに目を逸していて、それを可愛らしいと思いながら、口接けした。

 複写した想い出からその日一日じゅう上の空だったことが知られて、キャロルに呆れられた直後、またも無意識に寝室への空間の転換を起こしてしまった。

 キャロルのことをもっと知りたいという想いが再び転換を起こしてしまったのだろう。

 呆れながら、心象の世界の操作は可能だから心配はないと言うキャロルの唇を、唇で塞いで。

 また触れてもいいかを、尋ねるとキャロルは。

 呆れたかのような、言いかけた抗議をやめたかのようなため息を、まるで自分を顧みたかのようについて、こくりと、頷いて――

 

 

 それ以来、求めて、ゆるされて、触れ合うことをたびたびする日々だった。

 それは、昨晩も。先ほどまでの眠りに就く前も、キャロルと触れ合っていた。

 二人の自我の認識を撚り合せてつくられるあの心象の空間では、実体と変わりない姿形と質感、触感を持っている。

 この熱はきっと、そこでの性感の伴う体感に躯体が何かしらの影響を受けてしまっているせい。

 これまでもキャロルと触れ合った後に就く眠りのさなか、深夜に目覚めることはあった。

 そんなときは身体が少し熱いと感じても、再び目を閉じればすぐに眠れていたのに、今日は目が冴えて寝付けない。

 身体と、身体の奥底が熱い。

 きつく目をつむったり、身体を硬く強張らせて感覚が通り過ぎるのを待っても、身体の熱は一向に冷めていく気配がない。

 両手が無意識的に上掛けをきゅっと握る。

 

 (シャワーでも浴びれば、落ち着くでしょうか……? いえ……)

 

 むしろ完全に目が覚めて、寝付けなくなってしまいそうな気がする。

 せめて少し汗をかいた寝間着や下着を取り替えれば、乾いたの衣服の快適さが身体の熱を冷まして、眠気も呼び込んでくれるかもしれない。

 

「であれば、善は急げ、です……」

 

 仰向けからのろのろと上半身を起こして、上掛けを退け膝丈のフリル裾からのぞく素足をカーペットの床に下ろす。

 目が冴えきってしまわないよう天井の照明は点けず、代わりにベッドと直角に壁付けされている机のデスクライトのスイッチを入れた。

 物の所在が分かる、着替えができる程度の明かるさの中、ベッドの横に立ち、白の長袖ワンピースのパジャマの袖と襟から腕と頭を抜いて、それを脱ぐ。

 

「っ……」

 

 軽い柔らかな布地が肌にこすれるその感覚にも、身体はぞくりとしてしまう。

 感覚が過ぎ去るのを術もなく待ってから、下着も下ろし脱いで。

 寝間着の替えを取り出すために右手側の壁の、壁面クローゼットに向き合う。

 

「あ……」

 

 手にしていたワンピースが指からするりと抜け落ち、足元に折り重なる。

 暗がりの中に浮かぶ、小さな人影。

 デスクライトの昼暖色の光のもと、クローゼットの扉全面に張られた鏡におぼろげに映る、裸の幼い女の子の姿は――

 

「キャロル……」

 

 肌の白い、十歳ごろの女の子。

 薄金色の、空気を含んでふわふわとした柔らかそうなショートヘア。右目の下の小さな泣きほくろ。

 かつて存在した自分の躯体の甘緩い目元とは違う、切れのある眦。

 同じ素体からつくられたホムンクルス躯体に生まれついたせいか、日々を生活するさなかにキャロルの躯体でいることを意識させられることはない。

 けれど鏡に映れば、そこに見えるのは紛れもなくキャロルの姿そのもの。

 心象の風景ではキャロルも自分も、現実と遜色ない姿で現れている。

 さっきまで触れていた。

 さっきまで触れられていた。

 だというのにもう、また触れたくなっている。

 胸の奥が締め付けられるかのようにきゅっとする。熱のある身体の深くの奥底も。

 白いなめらかな肌の、かすかに膨らみのあるなだらかな小さな胸板の上で淡く色づく、ぽつんと存在するそこから目が離せなくなる。

 左腕が、無意識のうちにのろのろと持ち上がる。

 目の離せないそこへと手は向かって、指先が左胸のそこを隠すかのように、そっと覆う。

 そのとたん、甘いような疼きが電気のようにそこに走った。

 

「ぁ、っ……!」

 

 びく、と身体が竦まる。

 普段は服の布地や手が触れても、他の肌より多少敏感なくらいでなんともないのに、今はひどく鋭敏に感じられてしまう。

 少しの刺激にも敏感になっているのはきっと、身体が熱をもっているせいに違いない。

 心象空間で幾度も経験したから、分かる。身体は内にこもった熱の解放を求めている。

 心象空間での触れ合いはあくまで電気信号同士、意識同士の触れ合いで、現実世界の身体に触れられているわけではないけれど、身体は意識から少なからず影響を受けて感応して、熱を生じてしまっていたようだった。

 今の身体の状態は、触れ合っているうちに意思と無関係に次第に熱が高まっていくのと同じに、意識の影響で生まれた熱が蓄積されていって、いつしか無視できないまでに積もり上がってしまったせいだろう。

 このままでは眠れそうにない。

 それより、なによりもキャロルの身体が熱に苛まれている。……キャロルが、苦しんでいる。

 

 (熱を、醒まさなくちゃ……でも、どうすれば……)

 

 記憶を手繰って手立てを探す最中、儚い触感を求めてか指は無意識に動いて、指先が胸の先端にかすって触れる。

 

「あっ……!」

 

 先端を中心に少し鋭さのある甘切ない感覚が左胸に、その奥にと走って、ぴくんと肩が跳ねてしまう。

 その感覚は痛みではない。不快感でもない。身体が再度、幾度も求めようとする疼きのような感覚。

 それは、紛れもなく快に属している。

 キャロルの身体が、悦がっている。……欲しがっている。

 

「キャロル……悦い、の……?」

 

 指を、動かす。今度は自分の意思で。

 指先の腹にその淡い色の小さな突起の先乗せるようにして、掬うようにそっと上へとなぞった。

 

「ふぁっ……!」

 

 甘く疼くかのような感覚がそこに沸き起こって、背筋がぴんとしてしまう。

 それにも構わずに繰り返し指先で掬い上げた。幾度も。

 キャロルのそこに触れるたび、そこにもたらされる感覚が感じられる。

 キャロルの感じる感覚を自分もまた感じ受けている。まるで、自分が触れたときのキャロルの感じる感覚が、直に分かるかのよう。

 けれど、もっとと欲するのは刺激ではなく。

 キャロルにもっと触れたい。もっと知りたい、キャロルのことを。

 そんな想いが募るせいか、心象の空間での情景が思い起こされていく。

 キャロルは。キャロルはいつも――

 

 心象の空間をシャトーの寝室へとまたも転換させてしまい、そのうえ触れたいと言い出すこちらを、キャロルはまたかと言うように呆れ気味にため息をつきながら、羞恥を押すかのように目を逸しながら、好きにしろ、とゆるしてくれる。

 ベッドの上で後ろ手に両肘を衝いて上半身をわずかに起こしている姿勢のキャロルに、その上に四つ這いでいるこちらから、想い出の複写ではない口接けを、交わして。

 口接けのさなかから脇腹に手を這わせて素肌に触れ撫でて、手指を胸の方へと滑り上がらせていくとキャロルは、悪寒に身震いするかのようにぞくりと震えて、背中をベッドに落とす。

 そうして、無意識に起こしてしまう空間転換現象の作用で服の既に霧散した、生まれたままの姿のキャロルが、自分の下に見えるようになる。

 薄い胸の上にぽつんと存在する淡い桜色のそれは、指でそっと触れると、いま鏡に映っているかのようにぴんと張り詰めて、触れる指をはじくかのよう。

 まるでキャロルの気位の高さの現れかのようなそこにはいつも、その気高さを敬ううやうやしい心持ちで口接けている。

 手探りで形を確かめるかのように先端に舌先で触れた後に、唇でとうとう触れる。

 軽く吸うように触れては離し、離しては再び唇で触れ、軽く吸う。

 それを繰り返してるうち、自然とついばむような所作になる。

 こんな、ふうに――親指と人差し指、中指の三本の指の先で挟み捉えて、先端をそぼらせて離しては、再びすぐにそっと挟み捉える。

 

「ぁっ、は、んっ……」

 

 鏡の中のキャロルは眉根を寄せて、戸惑うかのような、困ったような顔を浮かべる。

 肌に口接けている間は顔を見られないけど、いつもそんな、切なさそうな顔をしているのだろうか。

 そんなふうに触れていると、キャロルのそこの気位は下がるどころかますます高まって、ぴんと張り詰めるそれがいつも、とても可愛らしく思えてならない。

 胸の先端から生まれては波紋のように広がる、甘く疼くかのような感覚が拒めない。

 拒むどころか、もっと、欲してしまう。

 唇で触れるだけではもの足りなくなってもう一方にも触れ始めるいつものように、触れたい欲求に衝き動かされて持ち上がった右手の、指の先が右胸のそれへと差し向かわされた。

 揃えた人差し指と中指の腹で、そっと掬い弾くように触れる。

 左手では、指で挟み捉えて、先端をそぼらせては離し、また捉えてを続けて。

 左右それぞれの胸の先端に、触れる。

 

「あっ、っ、あっ、あっ……!」

 

 身をよじってしまいそうになる感覚が胸の左右両方からもたらされるようになって、堪えがたいその感覚にしぜん目が眇まった。

 ぼやける視界に、キャロルがつくりの幼い薄い胸をやにわに反らせて、切なさそうに眉根を寄せているのが見えると、胸が外側も内側もその奥もきゅうっと切なくなる。

 それに共鳴するかのように、身体の深いところも切なくなっていく。

 

 (キャロルが……切なくなってる……)

 

 鏡の中のキャロルは内向きに閉じた太ももをもじもじさせている。

 こちらが触れているさなか、脚の間に膝を立てているこちらの脚を、無意識にか腿できゅっと挟んで、太ももを擦り付けてくるみたいに。

 切なくなってるキャロルのそこに触れたい。

 キャロルを、もっと知りたい。

 いつも、こみ上げてくるそんな気持ちに衝き動かされて腿の間に手を差し向ける。こんな、ふうに――内股気味に閉じられてる両脚の付け根の間へ、四指を揃えた右手を、ふくっとした丘に沿ってあてがうように、そっと触れる。

 あてがったとたん。

 中指が、丘の真ん中を走る裂け目につぷっと沈み込んだ。

 

「あっ……!」

 

 そこはひどく熱くて、潤いに満ちていた。たぶん、眠っている最中からすでに。

 そしてあまりに潤っていたせいで、指が沈み込んだ拍子に指の頭が、谷の真ん中の過敏な突起に触れてしまった。

 

「っ〜〜!」

 

 鋭い甘い痺れが身体の奥へ、頭の芯へと駆け抜けて、身体から力が抜けかける。

 膝が崩れて前に倒れそうになる身体を、鏡に左手を衝いてかろうじて支えた。

 けれど立っていることはできなくなって、両膝はあえなく床に落ちて、鏡の前に膝立ちになる。

 感覚に痺れて、手足の動きがおぼつかなくなる。

 なのに、キャロルに触れる手指は、そこを探る指は止まらない。

 潤いを纏った指の頭が、谷あいの突起のある周囲をゆるゆると何度もなぞる。

 

「はっ、ぁっ、あぁっ……!」

 

 目の前の鏡の中のキャロルは困ったような、戸惑ったような表情を浮かべていて。

 自分が触れたときのキャロルの様子そのもので、キャロルの仕草や反応を目の当たりにしたときみたいに、胸が締め付けられるかのようにきゅっとなる。

 

 熱く潤っているそこの奥へ、谷をたどった指が滑り進む。

 やがて入り口に行き当たったそれは、そっと押し込まれて、指の頭が熱い柔みに沈むように飲み込まれて、沸き起こった甘い疼きのような感覚が、身体のいちばん深いところへとじんと響いた。

 

「っ、あぁっ!」

 

 中ほどまで沈んだ指が、締め付けられるなか窮屈さを押して指の頭でくすぐるかのように内側に撫で触れる。

 撫でれば撫でるほど指はきゅうきゅうと締め付けられる。締め付ければ締め付けるほど指の存在感はかえって増して、より刺激となってしまうというのに。

 ……むしろ、身体はそれを欲して、いる?

 腕からは更に力が抜け、身体を支えきれなくなって、鏡に触れた額が傾きかける上半身の支えになる。

 そんなさなかでも、指は止まらない。

 まるで、自分の指ではないかのよう。

 

 (キャロルの、ゆび……っ)

 

 鏡に映る姿はたしかにキャロルなのに、キャロルに触れているはずなのに。

 触れられるキャロルの感覚を感じている。

 自分がキャロルに触れているのか、キャロルに自分が触れられているのか――わからなくなる。

 

「キャロル、キャロルっ……は、ぁっ、あぁっ……!」

 

 左腕からとうとう力が抜けきって、鏡に衝いていた左手が、鏡の表面をなぞるように滑り落ちる。

 けれど、その途中で。まだキャロルに触れ足りない想いが、腕を衝き動かして、左胸に差し掛かった左手が、指先で鏡に触れそうな桜色の突起を捉えた。

 

「っ――!」

 

 胸に生まれた甘く疼くような感覚が、下腹の奥の感覚と合わさって、積み重なって。

 身体の深いところへ殺到して、飽和して――

 信号過多で白くフェードアウトしたモニター画面みたいに、頭の中が真っ白になった。

 

「ひ、っ、あっ……あぁぁっ!」

 

 甘い痺れが、頭の芯を貫く。

 身体中を駆け巡るそれに、背が弓なりにぴんと張って、身体がびくびくとするのを止められない。

 

「はっ、あ、は、ぁっ……!」

 

 抗うすべなく、額を鏡に擦り付けるようにしながら身体を幾度も小刻みに跳ねさせる。

 身体を律動させる電気は、身体の奥深くから波紋のように全身に幾度も広がる。

 やがて、いつしかその間隔は徐々に間伸びて、震えも小さくなっていって。

 何度目かに身体を震わせた後、ふいに身体から強張りが一気に抜けて、脚がかくりと崩れ、足元の絨毯の床の上に落ちていたワンピースの上に、へたりとお尻から座り込んだ。

 

「っ、はっ、はー、はー……っ」

 

 鏡の前の床に座り込んで、肩で息をする。

 そうしているうち、身体を跳ねさせるような痺れはいつしか収まっていって、呼吸が落ちついてくるにつれて、散り散りになっていた意識もが徐々にはっきりしていく。

 瞼の裏の白色もいつのまにか失せていて、痺れと入れ替わりに全身に行き渡った気怠さに苛まれながら、目を開けると。

 鏡の中に、とろんとした顔をしたキャロルが見えた。

 

「ん……」

 

 過去はもちろん、再会した後の心象空間での逢瀬でも普段見せることがない、年相応のあどけなさが露わになった無防備な顔。

 触れ合った後に見えるそれは、目にするたびに、なぜだか胸の奥がきゅっとする。

 その頬に触れたい。そんな思いに駆られ、思わず鏡に手を伸ばそうとした、そのとき。

 動かした右手の指と、太ももの間が、なめらかに滑った。

 

「あ……」

 

 気が付けば、湿度過多になっているのはそこだけではなく、全身の肌がうっすらと湿りを帯びていた。

 鏡の前で座り込んだまま、はあ、と小さくため息を落とす。

 

「……いずれにせよ、シャワーを浴びなくてはいけなくなってしまいました……」

 

 呟きは、誰に聞かれることもなかった。

 鏡の中の、もうひとりの自分以外には。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 

 シャワーを浴びた後はいろいろとすっきりしてぐっすりと眠ることができて、あまりに熟睡したせいか、翌朝の出勤は遅刻ギリギリとなってしまった。

 つつがなく一日を終えたその日の夜、就寝後。

 心象の空間のシャトーの玉座の間にて、想い出を複写すると。

 

「お前、この想い出はっ……」

「いけない、いつものように今日の想い出を包み隠さず全て複写してしまいました……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……人をダシに独りで愉しむような悪い娘には、仕置が必要だな」

「キャロル? んむーっ!? (唇を唇で塞がれる)」

 

 このあと滅茶苦茶お仕置きされた。

 (お返しもした)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ノンアスコルト=non ascolto(伊)=聴いていない(誰も)の意。のつもり。

キャロルちゃんを思いながらおひとりでいたすエルフナインちゃんはある、これを書かずには死ねないと思ったのが執筆動機でした。
エルフナインがおひとりさまをする話=戦姫絶唱エルフナインG(さいてい)
Gを〆ると書いてGX。
このあとキャロルがエルフナインGを〆るのは、また別のお話。
めでたしめでたし。

(プロットはできてるものの、別作を先に書きたいのでまたいつか)

その他よもやま話はhttp://sizu1885.blog.fc2.com/blog-entry-49.htmlにて。






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