未題 - 或ル白狼天狗ノ手記ヨリ 作:荒木田久仁緒
これは、荒木田久仁緒の未発表原稿である。未題であるが、原稿枠外のメモ書きを副題として記してある。
当人の作である事は筆跡からほぼ間違いなく、登場する単語等により「幻想々話シリーズ」に連なる作品であると考えられるが、著された時期を始めとした詳細、この作品が未発表とされた理由、人知れず廃社の床下に隠されるに至った経緯、等々、この覆面作家が何処の何者であったのかと同様に、一切が不明である。
今から、ちょっと前の話。
それは、よく晴れた春の、暖かく気持ちのいい日で。
その日は、私が午後の周縁警備の当番の一人で。
そして、あまりにもいい天気で、静かで、平和だったから、少しばかりサボろうと思い立ったわけで。
人里との境界ちかくにある、森の中のひと気のない小屋。
どうやら元々は河童が、倉庫か何かとして建てたらしいのだが、今は使うものもなく、茂った木々に埋もれながら朽ちつつあり、けれど意外とまだ土台も屋根もしっかりしていて、夏場の隠れ家として使うには十分だった。
目立たないよう、低く森の上を飛び、少し離れた木々の切れ間に降りてから、草むらをかき分け小屋へと向かう。
あたりに人影がないのを確かめて、きしむ引き戸をそっとずらし、するりとすべりこむように中へ。
広さは八畳ほど。ただ、壁際には材木やら用途不明のガラクタやらが、いくらか積まれたままに残されていて、正味は六畳くらいだろうか。ところどころ開いた隙間や、正面の壁の上にある小窓から射しこむ光で、そう暗くはないがさして明るくもない、落ちつける私だけの秘密の空間。
その奥、小窓の下に小さな寝床がしつらえてある。こっそり持ち込んだ藁を積みかさねて、上から布を被せただけの簡単なものだけど、これでなかなか具合はいいのだ。うつぶせに倒れこむように身を投げると、ぼふっと柔らかく弾んで、ちょっと埃が舞ったが気にしない。うーんと大きく伸びをして体をほぐし、目を閉じて脱力すると微かな隙間風が、木と若葉の匂いも運んできて心地いい。
ああ、春だなあ。
そよそよと梢が風に揺れる音が聞こえる。遠くで鳥の鳴く声がする。
そんな静けさと、柔らかさと暖かさに身を任せているうちに、ふわりふわりと眠気が湧きあがってきて、極上の昼寝の時間へと、首尾よく私をいざなっていく。
はずだった、の、だけど。
じっと敷き布に顔を埋めたまま、しばらく時間が過ぎた。
もそもそと寝返りを打って、横向きに姿勢を変える。自分の呼吸の音だけが、やけに大きく聞こえる。
ややあってまた、ころんと体を転がし、今度は反対向きに。ぱちりと開いたまぶたは、そのまま落ちてくる気配がない。ううむ。
いつもなら、胸のあたりに生まれた温かい空気が、上へと登ってきて頭をとろかしてくれるのに。今日は逆に、お腹のほうへ下がっていくような。それはお腹を通りこして、更に下のほうへと。
また、もそりと身じろぎして、腰と膝を曲げ、体を丸くする。左腕を伸ばし、太股の付け根の隙間に、袴の上から手を突っ込む。すっぽりと包まれた手首が、じんわり暖かい。横向きに寝るとついやってしまう、いつもの姿勢。
数日前に同僚から借りた、怪しい草子の内容が頭に浮かんでくる。
どこか遠い国の城に仕える女武者が、一揆衆に捕らえられ、首魁である若い男の慰み者にされる、そんな話。
多分、それのせいだ。こんな気分になるのは。
「……手足の自由を奪わなければ女も抱けないのか。所詮は下衆な逆賊風情か」 「女? 違うな。お前はただの穴だ。ただ俺たちの気晴らしと愉しみのためのな。……ん?」
彼女の股ぐらに無遠慮に手をつっこみ、まさぐっていた男の顔に怪訝な表情が浮かぶ。
「や、やめろ……」 「何だ、お前……未通女か。はは、その歳で? まあ、愛想のなさを考えれば納得だ」 「くっ……殺せぇっ!」 「せっかくの玩具をわざわざ壊すわけないだろうが。……なんなら舌でも噛み切ってみたらどうだ? といっても、あれはそう簡単には死ねないがな。苦しいだけだ。だが……面倒だな」
そう言って男は一旦手を離し、訝しむ彼女に背を向けて部屋の隅の戸棚に近づくと、小さな壷を手にして戻ってきた。蓋を開けて手を入れ、引き出した指にはどろりと白っぽい糊のようなものがついている。
「な……んだ、それはっ……」
縛られていない首だけを食卓から必死に持ち上げ、その様子を見ていた彼女の口から苦しげに言葉が搾り出される。
「そのまま突っ込んで痛がらせてやってもいいが……こっちもキツすぎて大して気持ちよくないからな」
べちゃりと冷たい感触が股間に押し当てられる。何かの脂らしいそれは体温ですぐに溶け出し、ぬるぬると這い回る男の指によって誰にも触れさせたことのない秘所へ塗り広げられてゆく。 | ||
太股と、その間にはさんだ手首に力をこめてみる。袴の下、布に包まれた柔らかくてちょっと膨らんだところを、擦るように軽く押しこむと、きゅうと腰の奥が切なくなる。
腕がゆっくり、小さく上下に動く。衣擦れの音がかすかに響いている。手首の骨の小さな出っ張りが、くりくりと肉の丘を昇り降りするたび、その下から熱いものが沸いてくる感覚がする。
はあ、と一息ついて仰向けになる。袴の紐を解き、腰を浮かせて蹴るように脱いだ。そのまま下帯も、と解きかけて念のため、小屋の周囲の様子を伺う。小動物以外の気配はない。よし。
よくはない。夜までおとなしく我慢して、閉めきった部屋でゆっくりやればいいものを。
頭の片隅でそう思いはするが、一度ついた火はそう簡単に消えそうもない。こらえ性のなさが嫌になるが、反省は後にしよう。
手早く解いた下帯を袴の上に投げ捨てる。足を伸ばして軽く開くと、少し湿り気を帯びた股間に風が入りこみ、小屋の中がかすかに甘酸っぱい香りで染まった。本当は、もっと雌臭い空気が広がっているのかもしれないけど。自分の匂いは自分ではよくわからないから、仕方ないし、どうでもいい。ぼふりと背中を寝床に預け、目を閉じる。
短めに刈りこんだ茂みの下、熱の源にそっと左手の中指を伸ばし、谷間をゆっくりと上下になぞる。ほころびかけた肉の割れ目のすぐ下に、熟れた雫が満ちている気配がある。丘の両脇、足の付け根の部分を人差し指と薬指で揉みこむと、閉じていた肉の門がぱくりと開き、その上にある小さな突起にじんわりと血が集まってくる。
屈辱と、初めて受ける異様な感触とに眉を絞って耐えながら、彼女は自分の足の間に立つ奸族の顔を精一杯にらみつけたが、男はどこ吹く風といった様子で手を動かし続ける。薄く小ぶりな花びらにたっぷりと脂を塗りこみ終わると、改めて壷から多目にすくい取り、その指を花の中心へゆっくりと沈めていく。
「うっ……くぅっ……」 「硬いな……自分でいじったこともないのか? もう少し慣らしてやるか……」
ぐり、ぐりと指が狭い肉洞をこじるように蠢き、先端に乗せた脂の塊を押し込むように、ぐうっと奥まで差し入れられる。 | ||
指先で充血した肉襞をいじりまわしながら、両足をゆっくりと開く。そう、お話の女武者はこんな風に、股を広げた姿勢で食卓に縛り付けられ、何もかもをさらけだされて、辱められるのだ。いやきっと、もっと大きく、限界まで。力を込めて膝を左右に倒し、軽く背中をそらしながら、思いっきり腰を突きだしてみる。
あられもなく開ききった恥部に、ひんやりとした空気と、妄想の中の視線とが突き刺さり、なぶられた粘膜がちりりとうずく。淫汁でじっとり湿った肉穴へ、ずぶりと指が押し入ってくる。もちろん、私の指だけど。わざと乱暴に、でこぼこしたところを引っかくように、とろけた穴を左手の中指でかきまわす。ぐちゃりと熟れすぎた果肉がくずれていくような指先の感触が、やがて実際の音になって耳にも届く。
ずしりと腹の上に乗せられる、熱い肉の塊。生まれて初めて目にする男の欲望は、まるで丸太のような太さに見えた。性知識に乏しい身でも、今からそれが自分の股の間にねじ込まれることは理解していた。一旦腰を引いて狙いを定めた男の先端が、秘花の中心にぴたりと押し当てられる。
「い……いやだ……やめてっ……!」
必死で保っていた気丈さの仮面が剥がれ、怯えに歪んだ唇からかすれた悲鳴のような声が上がる。 その様子に、ふと男の動きが止まる。まるで躊躇するように。 だが一転にやりと笑みを浮かべた直後、ずっと守ってきた彼女の最も大切な場所は無残に蹂躙され、純潔の証が太腿を伝って床に垂れた。 | ||
中に沈めた指の数を二本に増やす。そして三本。束ねた指で作った棒を、精一杯奥まで押し込んでいく。穴の入り口が引き伸ばされ、ずうんと鈍く重い快感が足へ、背中へと伝わっていく。
内側から持ち上げられた小さなふくらみが、谷間の奥でむずむずと存在を主張している。右手の指を皮の上に押し当てて、そっと剥き上げると、つんと飛び出してきて、外気がひやりと冷たい。あふれた汁で指を濡らし、あらわになった敏感な突起をぬるぬると撫であげる。それを合図に、キモチイイの感情が頭の中で一気にふくれあがって、心と体を支配しはじめる。
押しこんで、引きぬいて、持ちあげて、なでおろして。
私は指をくりかえし動かす。何度も何度も、快感を塗りかさね、少しずつすりこんでいくように。くちゅくちゅ、ぷちゅぷちゅと、いやらしい水音が聞こえてくる。
なんだか今日はやけに興奮してる。あんな草子を読んだからか、それとも今ちょうどそんな季節だからか。だいぶご無沙汰だったのも確かだけど。
妄想の中の男は、私を激しく犯している。中をかきまぜる指のうごきが速くなる。呼吸が浅く、とぎれがちになり、あたまがぼーっとしてくる。鼻の奥をなにかがつんつんと刺激している。ちょっと早いけど、もうこのまま。足のつけねからひろがった熱が、またぎゅうっとまんなかにもどってくるかんじ。おしりと足に力がはいってきて、パンパンにふくらんだ肉芽がぴくぴくとふるえて、がたんと音がした。そろそろ、あ、もうすぐ、
なんだ今の音。
慌ててぴしゃんと両足を閉じ、膝を立てて上半身を跳ね起こす。一体どこから。小屋の中、向かって右側のすみっこ、入り口の戸の脇。たった今まで私が恥じらいもなく股をおっぴろげていた、ほぼ正面。廃材らしき板が何枚か立てかけてある、その向こう。
澄ました耳に新たな音はない。誰かがいるのか。ネズミか何かか。それともたまたま材木が傾いただけか。そのあたり丁度ひときわ薄暗く、材木の隙間の向こうは更なる暗がりで見通せない。普通なら。
眼を凝らす。
光をわずかに屈折し、かすかな反射からも色と形を集める。本来は遥か遠くのものをくっきり視るための能力だけど、視線の通らない場所の様子を、ある程度まで探ることもできる。
いた。人間。大きさから見て、座りこんだ子供。顔かたちまではわからないが、髪は短い。男の子。小さな隙間からこっちの様子を伺っている。
ぐらり、と頭が後ろに傾き、背中と一緒に寝床の上に落ちる。
まいった。やってしまった。小屋の外は確認したのに、なんてうかつな。いやだってまさか人間の子供が山の外れとはいえこんなところまでっていうか一体どうやって。
意識してようやく、小屋に漂うにおいに気づく。
甘くはないが柔らかく鼻の粘膜に絡むように残る、雄特有のにおい。でも流石に小屋に入ったときには、こんなにはっきり匂わなかったはずだ。なら途中から濃くなった、その理由、そんなのわかりきっている。
頭の中で、いま見通した少年の姿を反芻する。はっきりとは見えなかったけれど、右手を股間のあたりに伸ばし、何かを握りしめていた。何かってそれは、つまり。
見られていた。誰にも見せられない行為。長らく誰にも見せていなかった場所。
面識もない、それも人間に、何もかも、ぜんぶ、見られながら、私は、あんな────
ぐちゅ、と指先が、汁と肉をかき混ぜる音がした。
違う。指は動かしてない。動いたのは、肉のほう。勝手にぐにゃりと動いて、私の指にしゃぶりついて。
ぞわりと背筋を這い登ってきた熱い痺れに、ぎゅっと唇を結ぶ。無意識に溜めこんでいた吐息が鼻から漏れる。動かぬ指を咥えた下の唇が、もの欲しそうにむずむず震え、それにつられて、真っ赤に熟れた小さな実が、ぴくりぴくりと脈打ち跳ねて、裂けそうなほど膨らんだその皮を、私の手のひらに押しつけてくる。
だめだ。やめろ。こんなのすぐやめて、袴を穿いて。早く。
心で叫んでも、腕も足も動いてはくれなかった。ぎゅっと両手で押さえこんで隠した、飢えた雌の本性だけが、欲望のままに餌を求めてうごめき、そこから粘り気のある熱が全身に広がっていく。
ちょっとだけ、中で指を動かしてみる。穴の内側、軽く触れただけの一点から、おへその下まで衝撃が抜ける。はずみで思わず力のこもった右手の指が、飛び出した肉の頭を勢いよく轢きつぶした。腰が跳ね、太股ががくがく震える。
続けたい。このまま、あそこを滅茶苦茶にかきまわして、反りかえった肉芽を転がし倒して、快感の沼に溺れて、底の底までいってしまいたい。今すぐに。
少年は、動かず、じっと息を殺したままだ。たぶん、私が気づいたことには、向こうは気づいてないのだろう。だったら。
いやいやいや。何が、だったら、だ。関係ないだろう、そんなこと。いいからやめろ。今すぐに。とにかくやめて、それから。ええと。どうするんだ、それから。
頭の芯が熱で溶けている。考えがまとまらない。
また、指が動いた。内側にぷっくり飛び出たところを、ぷにぷにとつつきまわす。外側につんと突き出たものを、ぬるぬると撫で回す。甘い炎が背骨を貫いて吹き上がり、脳の大事な部分がちりちりと焼かれる。
見られている。すべて見られているのに。
だけど、こんなに気持ちいいんだもの。
もう、いいや。どうなっても知らない。
賢明で、臆病なほうの私は、それっきり沈黙した。
指を中でぐにぐに動かし、充血した壁を指先でえぐるようにかきまぜる。もっと大きく、激しくほじくりかえしたいのに、手が太股にひっかかって、うまく動かない。そうだ、足を閉じたままだった。ほんの一瞬ためらって、膝を立てたまま左右に開く。小さく息を飲み込む音が、遠くのほうから聞こえたけど、それももう、興奮を高める香辛料でしかなかった。
固まっていた手首を深く曲げ、ぐいと指を奥まで突っ込む。ぶちゅりと汁が押し出されて、肉襞を、指を、手のひらを濡らす。束ねた指をひねるように動かすと、入り口が上下、左右に引き伸ばされて、その度にじんわりとした快感が、爛れた穴の中心から下半身全体へ広がっていく。
妄想の中で私を犯していた一揆の首領の男、はいつのまにか、隣国の領主の年若い息子、に変わっていた。父親が戦場から持ち帰った土産をどう扱ったらいいかわからず、それでも本能的に着くべきところにたどり着き、必死な顔で腰を振る少年。頼りないが硬くそそりたったものが、たどたどしく私の中をかき回し、時おり偶然に敏感な場所を突く。そんな光景を思い浮かべながら、それに合わせて体内に沈めた指を激しく動かす。
ぐちゅぐちゅ、と卑猥な音が股間から響く。吐きだされる荒い息が舌の根に引っかかり、あっ、はっ、と小さなくぐもった鳴き声に変わる。
全身がじんじんとしびれて熱い。二の腕で左右から胸を挟みこむと、乳肉が持ち上げられてふるふると揺れ、それも甘い刺激となって上下に広がり、わき腹と首筋に震えがはしる。
両手の指先でまさぐりこねまわす粘膜は、ねとつくのを通り越して粘りつき、泡立ってすらいるみたいだ。なのに、なかなか頂点にはたどりつかない。高まってないわけじゃない。むしろいつもよりずっと。でも、頂上がそれよりなお遠い。こんな異様な状況だから、緊張しているからか。もどかしい。せつない。苦しくて、きもちいい。もうちょっと。もうすこし、のぼれば。ほら、景色がふわっとあかるく。
押し殺した吐息のような、小さく鋭い音が聞こえた。続けて、ぱたたっ、と何かが落ちる水音。それから鼻にとどく、ねっとりした青臭いにおい。
鼻から大きく息を吸いこむ。そのにおいが全身にあびせられて、私のにおいに、私の汁にとけこんで、ぐしょぐしょになった穴の、奥の奥まで入ってくる、そんな妄想に、のどが詰まり、きゅーっと、あそこが、あたまが、ひきしぼられ、て。
腰が跳ねる。背筋が反りかえり、足が、腕が、お尻が、びくびく震える。
股間に思い切り押しつけられた両手が、はみ出したお肉とお豆を容赦なく押しつぶし、指の隙間からぶちゅっとしぶきが漏れる。
肉穴が喜びに沸いている。ぐねぐね踊って、くわえこんだ指に自分から身をこすりつけてくる。そこからまた小さな波が何度も広がり、大波のてっぺんで転がる私を、くるくると翻弄しつづける。
しばらくのあいだ、脳髄を派手に揺らした後、やがて波は、ゆっくりと去っていった。
ぷぁっと溜めていた息を一気に吐き出す。腰が寝床の上に落ち、両手を隙間に挟みこんで、膝が閉じる。はあはあと肩で息をしながら、ぴりぴりする粘膜を少しだけ指先でもてあそびつつ、余韻のぬるま湯に身を任せる。
いちばん心地のいい時間の中で、改めて小屋の反対側に意識を、耳を向けてみる。
ほんのわずかに、深い呼吸の音が聞こえる。彼もまた、同じような余韻の中にいるのだろうか。そう思っても、やっぱり表情まではわからない。けれどいまだ材木の隙間から、私を、私のあそこを、じっと見つめ続けているのは確かなようだった。
ゆらゆら揺られている心の中に、ふわりと何かが生まれる。
何、考えてる。何をやろうとしてるんだ、お前は。
叱責するような、呆れるような頭のすみからの声は、けれど小さすぎて、無視された。
立てていた膝を、ゆっくりと外側へ開いていく。広げすぎないよう自然に、やや伸ばしながら、寝床へとその重さを委ね、だらしなく脱力する。まだ両手は、そのまま。
荒い鼻息と、喉を鳴らして唾を飲み込む音が、はっきりと聞こえた。
ひと呼吸、間を置いて、今度は腕の力を徐々に抜く。肘の重さに引っ張られて、右手はすぐに肉芽から離れた。隠すもののない濡れた表面から、すうっと熱が奪われ、襞が小さく震える。
左手の指先も、ずるりと体内から抜け出していく。名残惜しそうに、肉をまくりあげながら。離れた指先と襞の間に粘液の糸が引き、切れて落ちる感触がする。
ねとりと濡れた手を太股の上に置き、もはや何の遮るものもなく私は、私の一番はずかしい場所を、見も知らぬ少年の視線の前に晒していた。
また、かすかな音が耳に届いた。衣擦れの音。そして、肌と肌がこすれあう音。息を潜めて。けれど激しく。
私はただ、小さな音のひとかけらも聞き逃すまいと、耳をそばだてていた。その音の源のありさまを、まぶたの裏に思い描いていた。体から全ての力を抜き、心は夢心地のままで。
ついこの間、下の毛を整えておいてよかった。そんな馬鹿なことを考えながら。
ややしばらくして、新たな水音が響くと共に、小屋に立ちこめた雄のにおいが、よりいっそう濃くなった。
思わず深く吸い込んだ息が、それを鼻の奥にふんだんにこすりつけ、粘膜から脳に染みとおった刺激は、すぐさま背骨を駆け下りていき、まだ残り火に震えていた下腹部の空洞を、きゅうと締めあげる。外気と視線に晒されたままの陰門から、ねっとりとした雫のかたまりが押しだされ、尻のほうへと垂れ落ちるのを感じながら私は、今まで経験したことのない高揚感を、確かに覚えていた。
それから、どれだけの時間がたっただろうか。いや、そんな長い時間じゃない。せいぜい一、二分。けれどその間、少年も私も身じろぎもせず、そのままの姿勢でいた。まだ涼しさの残る空気に包まれて、さっきまで身体を満たしていた熱は去り、心は急速に冷静になりつつあった。
嘘だ。ぜんぜん冷静ではない。確かに頭の中を埋め尽くしていた桃色の霧は晴れた。だけど、代わりに煮えたぎった血液ご一行さまが、開場の合図と同時にいっせいに、溶けかけた脳内になだれこんできていた。
熱い。頭が、顔が、燃えるように熱い。
何やってるんだ私は、という思い。これから一体どうしよう、という焦り。恥ずかしさに叫びだしたくなる衝動。ぐちゃぐちゃに絡んで、混乱している。ああ死にたい。いやもう殺すしか。待てそれよりまずは、なんだっけ。心臓がドンドコドンドコと、まるで狸の腹鼓だ。
ええいうるさい。落ち着け。思考を絞れ。そうだ、こういう時は、当然やるべきことから、一つずつ片付けるにかぎる。
汚れていない小指と薬指で懐紙をつまんで引っ張りだし、手と指を拭く。なんだこれ、自然薯のすりおろしか。とろろ飯屋でも開くつもりか、お前は。他人のつもりで入れるツッコミは、心を落ち着かせてくれる、気がする。
上半身を起こす。少年が身体を固くした気配が伝わるが、とりあえずは無視。股間も案の定のありさまで、というか、今の今まで晒しっぱなしか、これを。まるで色狂いだ。本当にどうかしてるだろ、私。
懐紙をいったん丸めて揉み、柔らかくしてから改めて広げ、股間をぬぐう。
足は大きく広げたままで。
ゆっくりと、丁寧に。時間をかけて、過剰に丁寧に。肉襞をわざわざ指で大きく押し広げて、泡立った雫を隅々まで拭き取ってゆく。食い入るように注がれているはずの視線を意識しつつ、平静を装って。
きれいになってからも、まだちょっとのあいだ指は離さず、いつもは隠れているその部分が、外気に触れて乾いてゆくさまを感じながら。敏感な小さな突起のまわりは特に、上下左右に皮を引き伸ばすようにして、念入りに。
もう材木の向こうに動きはない。けれど今なお、少年が自分を握る手に力をこめ続けていることは、かすかに耳に届く熱い呼吸音から伝わってきた。
一体、何をやっているのか、まったく。普段は、ささっと雑に拭いて終わりのくせに。
自らの痴態を、面識もない少年に見せ付け、その反応をこっそり伺って、楽しんでいる。言い訳のしようもない、色狂いそのものだ。
でも、しょうがない。そんな気分になってしまったんだから。そして、もう実行してしまったんだから。なにより、つい先ほどまでの行為を思い返せば、何もかもが今更だろう。しょうがないじゃないか。彼が幼いながらに紛れもなく男であるのと同様に、私もまた、どうしようもなく女だった。それだけのことだ。はい仰るとおり、わたくし助平ですが、何か。うん、開きなおったら、なんだか気が楽になった。
それでも、下帯を締めなおし、袴を穿くと、さすがに思考が普段どおりに戻ってきた。立ち上がり、服についた埃や藁くずを軽く払う。
さて、どうしたものか。
少年はまだ、じっと身を縮め、息を殺して、そこにいる。普通の対応をするなら、捕まえて上司に突き出さないといけない。その後の処分は上のほうの仕事だが、ただの子供であるようだし、迷いこんだだけということで、多少脅しをかけるか、あるいは記憶を消すかしてから、里に返すことになるのだろう。
だがしかし、だ。
そこまでの取調べで、私がここでサボっていたことがバレるかもしれない。かもしれないどころか、結構な率でバレそうである。さらに悪いことに、そうなるとサボって何をしていたのかまで、全てバレる可能性が高い。そして天狗の社会で行状がバレるというのは、つまり、新聞に載るということだ。
舟幽霊から逃げるネズミの集団のように、頭から血の気が我先にと駆け出していく。冗談ではない。自業自得とはいえ、最悪すぎる。困った。頭が痛い。
いっそのこと、ここでこいつを喰ってしまって、何もなかったことにするか。いや、それも無理だ。人が消えたら騒ぎになるし、騒ぎになれば調査もされる。巫女はともかく、賢者衆の調査能力は文字通り神がかりだ。必ずバレる。下っ端であろうと天狗組織の一員には、勝手な食事は許されていない。ただの野良妖怪とは話が違う。
どうしよう。どうしようか。
少年に悟られないよう背を向け、窓の外を眺めているふりをしながら、しばし悩んだ末に出した答えは。
見なかったことにする、だった。
ここは知らぬふりを決めこみ、このまま小屋を出て任務に戻る。私がいなくなれば、じきに少年も材木の陰から這い出してこの場を離れ、来た道を戻って人里へ帰るだろう。その途中で、私以外の見張りに見つかって捕まるかもしれないが、それでも、私自身が捕まえて突き出すよりは、この小屋で起きたことが他人に知れる確率は、ずっと低いはずだ。そうだ、そうしよう。そうするしかない。
もう一度身なりを改めてから外へ出ると、意識的に草むらを鳴らして小屋から距離を取る。思えば、この音を聞きつけて彼は、とっさにあそこに隠れたのだろう。なら、これで私が去っていくこともわかるはずだ。
来たとき降りたったのと同じ場所から、静かに空へと飛び上がる。なるべく目立たぬよう、森の上をかすめながら徐々に高度を上げ、持ち場の位置までそっと戻った。
どうやらサボりがバレた様子はなく、ひとまずはほっと息をつくが、安心するのは早い。改めて目を凝らし、小屋の周囲に視界の焦点を合わせる。
そのあたりに今のところ、動きはない。移動している間もちらちら様子は見ていたから、まだ少年は中にいるはずだ。
しばらく、時間が過ぎる。なかなか出てこない。
心にじわりと焦りがにじむ。
まさか何か目的があって、あそこに潜んでいるのか。だったらまずい。でも、どうすれば。
と、動悸が激しくなったところで戸が開き、小さな影が小屋から出てきた。とりあえず胸をなでおろす。丈の短い着物に黒髪の、あどけない顔。やっぱり、人間の子供だ。
観察していると、周囲をきょろきょろ見回してから、草むらの中を私から見て向こう側へ走りだした。
確か、あそこには小さな沢があったはず。そこをつたってここまで登って来たのだろうか。そう思ったとき。
不意に、少年の姿が消えた。
「えっ!?」
思わず声が出る。
崖か穴にでも落ちたか。いや、あの辺にそんなものは無いはずだし、そういう消え方じゃない。走っていく後ろ姿のまま、景色に溶けるように、かき消すように見えなくなったのだ。沢に入ったのだとしても、私の眼なら影くらいは追える。一体どうして。
慌てて飛んでいきたくなる気持ちを抑えて、考える。誰か、他の妖怪にさらわれたか。それならそれで、ある意味で今後の心配はなくなるが。そうでないとしたら、私の眼をさえぎる何かが、あのあたりにあるのか。
後で、しっかり調べてみなきゃ。そう思いながら、任務と雑事で日は暮れていった。