※この作品はR-18です。

未題 - 或ル白狼天狗ノ手記ヨリ   作:荒木田久仁緒

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十六日目


 

  頭が冷静になってから、いろいろと考えを巡らして。

  しばらく小屋を訪れるのは控えて、彼が自然と来なくなるまで待つ。そういう結論を出して。

  まずは三日ほど、間をあけてみた。それでもやっぱり同じことになったので、同じことというのは、いろんな意味でだけれど、とにかくこれでは駄目だと、思い切って一週間以上、日を置いて。

 

  さあどうだ、とやってきた小屋の真ん中で、私は立ちつくしたまま大きなため息を、背後の材木の陰には届かないように、こっそり吐き出した。

 

  まさかこの半月ほどの間、毎日ここに来ていたのだろうか。それとも偶然、今日またカチ合ってしまったのか。どちらでも結果は変わらないけど。頭を占める大きな落胆。その影に、それとは違う感情が小さく見えた気がするけど、考えないことにした。

 

  くるりと身体を半回転させ、背中から寝床の上へ倒れこんだ。組んだ両手を枕に、今度は思いっきりため息をついてから、二つの違和感に気づく。

  ひとつ、しばらく放っといたにしては、敷き布が埃っぽくない。ふたつ、敷き布から私以外の誰かの、っていうか、あの匂いがする。えーとそれは、つまり、そういうことね、はい。

  体のどこかで、しょうこりもなく疼いた場所から強引に意識を逸らし、改めて考える。これから先、どうするのかを。

 

  もう、ここを諦めるしかないか。

 

  少なくとも、当分の間は。半年か、一年か、それ以上か。敷き布も今日で持ち帰り、積み藁は捨ててしまおう。せっかくの隠れ家を失うのは惜しいけれど、しょうがない。どこかで終わりにしなければ。

  そう、ここでのひとときも、今日で最後。

  だから。

 

  だからって思ったな、こら。

  もう一度大きく、長いため息を吐く。こういうの、なんて言うんだっけ。自制が効かない。意思が弱い。反省の伴わない自覚は、ただの開き直り。わかっているつもりだけど。

  でも、絶対、これで最後だから。

 

 

 

  上半身を起こして上着の紐をゆるめ、裾からまくって肌着ごと脱ぐ。このところ急に暖かくなったおかげで、肌寒さは感じない。胸に刺さる視線なら痛いほど感じるけど、もう慣れっこだ。ぜんぜん慣れていいものじゃないが。

  袴も靴も脱いで、最後の部分を覆う布も取り去り、足袋だけを残して、ほぼ全裸になった。何かの儀式みたいに、深く、大きく、時間をかけて、鼻から息を吸い込む。いつもの、あのにおいを、たっぷりと体の中に取り込むと、頭の芯から熱が沸いてきて、それが下腹部へと流し込まれる。

 

  座ったまま、両胸に手を添えて、そっと持ち上げながら、優しく撫でさする。そのまま続けようとして、ちょっと思い直し、背中を倒して仰向けに寝転がる。だってやっぱり、顔見られるの、恥ずかしいし。

 

────恥ずかしいなら、やらなければいいのに。

 

  誰かが囁く。私はそれを無視して、両手で胸をもてあそぶ。こすれる肌の中でぽよぽよ揺れる感触が、ちょっとくすぐったくて、心地いい。

 

────ねえ、どうしてやるの。こんなに恥ずかしいこと。

 

  うるさいな。そんなの、気持ちいいからに決まってるでしょ。

 

  乳首を指で挟んで転がす。尖りはじめた先っぽをかすめるように爪でひっかくと、ぞく、ぞく、と震えが広がって、だんだん強くなってくる。

  そう、気持ちいいから、だから見られてても、やめられなくなる。それだけの理由。

 

────嘘つき。見られるのが、好きなんでしょ。見られながらのほうが興奮する。だから自分の部屋じゃなく、わざわざここでやるんでしょ。

 

  違う。確かに、今も彼の視線を、呼吸を意識してるけど。でも、違う。

  だって、たとえば他の天狗とか、河童とかには絶対に見られたくない。これは、彼が人間だから。本来、こんな近くにいるはずがない、人里という別世界の住人。日常の外から来た、異邦人だから。それに、ほら、もう散々いろいろ見られちゃった相手だし。それで特別に平気なだけ、だし。

 

────でも結局、見られて悦んでることには変わりないじゃない。この、変態。

 

  うるさい。もう、いいから、黙って。

 

  両方の乳首を強く指先ではさみ、上に引っ張る。じーんと鈍い痛みがはしり、頭をしびれさせて、雑念を飛ばす。そうして呼吸を止めたまま、数秒。指を離すと、引っ張られていた乳肉がたぷんと胸の上に落ちた。

  一息ついて、左手を下へ。太股の隙間に指をつっこむと、そこはもうじっとり湿って熱い。指を曲げ、お豆をひっかけて弾く。ぐりぐり押しつぶし、ぎゅっとつまんで引っ張る。右手も胸を強く握りしめ、腫れた乳首に爪を立てている。

 

  乱暴に、痛みを感じるほどに、私は私をなぶった。こんないやらしい、だらしない自分を、ちょっと懲らしめてやりたい、そんな気持ちで。でも、ひとしきり敏感な突起をいじめた後に残ったのは、もっともっとと疼きを訴える肉芽と、穴の奥からとろりとあふれ出す粘液だけだった。

 

  やっぱり私、変態なのかな。

  ぼんやりした頭で、そう考える。でも、あそこを隠していた足を大きく開き、彼の呼吸が荒くなるのを聞いたら、全部がどうでもよくなった。

  とにかく、いま私は、彼に見られながら、気持ちいいことをしたい。

  それでいいや、もう。

 

 

  心の中が、妙に静かになった。

 

  中指を穴の中に差し込み、入り口をぐるぐる広げるようにかきまわす。あったかい痺れが渦を巻いて、穴の奥まで伝わっていく。ちょっと奥に入ったところの肉が、指先に引っかかってぷるぷる震えるのも気持ちいい。右手は左胸に添え、胸全体を腕で抱えこむようにして、揺すり、こすって刺激する。

 

  頭の中に浮かぶのはやっぱり、すぐそこにいる少年の姿。この胸も、秘部も、触っているのは彼。ばらされたら困るんでしょ、と私を脅して、鼻息を荒げながら、無抵抗の私の体を思うさま蹂躙する彼。露見が怖くて従うほかなく、黙って陵辱に身を任せる私。そんなありがちな妄想に揉まれて、心も体も、他愛なく高ぶってゆく。

  股を開かされ、犯される自分を想像しつつ、指を穴の奥まで、一気に沈める。激しく出し入れしながら、感じるところをくりくり揉んだり、手のひらで肉芽を押さえてこねまわしたり。そうしているうちに、水音に浸る股の奥から、別な欲求が沸いてきていた。

 

  そう、奥から。開いた穴の底の底、私の雌の部分の中心から。そこが、何かをほしがっている。

 

  手首をひねり、ぬめる肉洞へ中指を思い切りねじ入れると同時に、ぐっとお腹に力を入れる。お腹の奥から押し出されたなにかに、指先がちょっとだけ触れる。触れたところから、鈍くて小さい、けれど深く響く刺激が、腰全体に広がり、背中を震わせた。

  せいいっぱい指を伸ばして、そのぷにぷにしたものを突付き、そろりと撫でる。触れるたびに、何かがその中に溜まって、お腹がずしりと重くなっていく。

 

  胸に詰まる息苦しさ。けど、それだけじゃない、熱さ。じわり、じわりと、重たいものが体を這いあがってくる。お腹を満たし、胸を満たして、背骨から、ほら、頭の中まで。

  竜巻が鳴ってるみたいな、血が激しく流れる音に耳が包まれる。だんだん周りの音が聞こえなくなって、鼻に刺さるにおいだけが強くなる。しびれてくる手を強引に動かして、ぐいぐい指を突き入れて、少しずつ、自分を快楽の沼の淵へ押し進めていく。あと少し、もうちょっと。もう一押しで、沼に落ちる。

 

  見てるかな。見てるよね。見てて、私がおちるところを。そして、君も。

 

  限界が来た。ぐぐっと、体が弓なりに引きしぼられる。肌の粟立ちが震えに変わり、震えが痙攣に変わる。全身を脳まで揺らす、大きな地震。

  開ききった股間を宙高く突き上げて、膣内の指をぎりぎりしめあげて、私は絶頂する。絶頂し続ける。長い。呼吸が苦しい。必死で搾り出し、貪り吸う息が、がくがく震える喉を通り、あああ、おおお、と掠れたあえぎ声に変わる。何も考えられない。あたまの中がプチプチと、つぶれて壊れてダメになる。

 

  やがて体力が尽き、お尻が寝床に落ちても、津波はまだ続いた。あそこから汁を噴き出し、左手をびちょびちょに濡らしながら、私はびくんびくんと、釣り上げられた岩魚みたいに震えていた。それも少しずつ小さくなり、ようやく波が引きはじめ、燃えさかっていた炎が、徐々に鎮火していく。

 

  小屋の中には、私の淫らなにおいと、彼のあの濃いにおいが充満している。彼も、私と一緒に果てたみたい。その音は、残念ながら聞き逃したけど。

 

  ああ、すごかった。気持ちよかった。ううん、まだ、気持ちいい。

 

  でも。

 

 

  でも、やっぱり、欲しい。

  ぼんやり浅い沼に漬かりながら、思う。

 

────欲しいって、何を?

 

  本物。

  本物の他人の手。本物の男の指。それから。

  本物の、おちんぽ。

  おまんこに、おちんぽが、ほしい。

 

 

  絶対に口には出せない言葉。普段なら考えただけで、恥ずかしくて死にそうになる言葉が、ダメになった頭の上にポンと咲いて出た。それで逆に、ちょっとだけ冷静になる。でも、まだ波は引いてない。体も、頭も、生ぬるい液に満たされたまま。

 

  犯してよ。もう、なんでもいい。抱いてほしい。今すぐ、君に。ねえお願い、出てきて、隠れてないで。好きにしていいから、さあ。

 

  ふと、果てた後でつい寝てしまった、あの日のことを思い出す。あの時は、何もされなかったけど。

 

  ほんとに、そうかな。

  もしかしたら、されてたかも。そう思ったとたん、お腹の中がまた、きゅんと絞られる。

  ぐっすり寝てて、気づかなかっただけで。近くで見られて、ちょっと触られるくらいは、してたかもしれない。もしかしたら。

  いや、ない。ないって。流石に起きるでしょ、そんなの。あるわけない。

 

  じゃあ、確かめてみようか。

  あの時と、同じようにして。

 

  手を、胸から、股間から離す。力を抜いて、自然に。足はだらしなく開いて、あそこを視線にさらしたまま。

  呼吸を整える。浅く、静かに、寝息を装う。目を閉じ、全身を脱力させ、寝たふりをする私。

 

  小屋を包む風の音と一緒に、時間が流れていく。耳に届くのは、私の遅い呼吸の音と、それに反して速い心臓の音。そして彼の荒い呼吸と、かすかに何かが動く音。彼が、私を見ながら、何かをしている音。

  私は、寝たふりを続ける。さらさらと時間が流れていく。体の熱は、まだ冷めない。ああ、あそこを、胸をいじりたい。またさっきの快楽を、飽きるまで感じたい。でも、もう少し。もうちょっと、我慢して。

 

  やがて、そっと、音を立てないように、材木がわきに除けられる。広がった隙間から、現れる少年の姿。足音を忍ばせて、こちらに近づいてくる。寝ている私の胸に、蜜に濡れたままの秘花に、彼の手が、指が触れる。そして猛り立ったものが、肉をかきわけ、私の中に押し入ってきて────

 

 

 

  でも、そんなことは起きなかった。

  風の音と、葉ずれの音と、小鳥の鳴く声と、私の妄想だけが、時間の流れに運ばれていく。彼は動かない。川べりに佇む岩みたいに。

 

  ふーん。

  裸の女がこんな格好で寝てるのに、なんにもしないんだ。人間にそんな度胸、ないか。あっそう。

 

  腹立ち。それとも苛立ち。微妙に違う気もするけど、とにかく、頭に血がのぼった。止めるべき理性はとっくに不貞寝していて、起きてくる気配すらない。

 

  寝たまま足を上に伸ばし、弾みをつけて勢いよく立ち上がる。つかつかと、立てかけられた板の前まで歩み寄り、隙間に両手をかけて、一気に左右に押し開く。

  派手に材木が転がる乾いた音に混ざって、ごつんと鈍い音がした。目の前に、尻餅をつくように座りこんでいる少年、その柔らかそうな短い黒髪の頭が、後ろの壁にぶつかった音。その顔は、恐怖に引きつっているような、ただ驚いているだけのような、よくわからない表情で。大きな丸い目が、私の顔を見上げている。半開きの口からは浅く、短い呼吸の音。

 

  視線を降ろすと、まくれ上がった着物の下、褌の隙間から、小さな肉の棒がぴょんと飛び出していて。いや、結構大きい、のかな。子供にしては。その先端からは、したたったらしき液が糸を引き、床の白い水溜りまでつながっていた。そこから立ちのぼるひときわ濃いにおいに、鼻の奥が完全にとろける。

 

  ほんのちょっとの間。視線を交差させたまま、時が流れて。

  私は、そのまま後ずさり、寝床の上まで戻ると、ぽすんと座りこむ。膝を立て、その上で腕を組み、腕の上からじっと彼を見つめる。

 

  それから、おもむろに、両膝を左右に開いた。

 

 

  彼の視線が、私の顔から、その下へと動く。材木ごしに感じていたのとは違う、生々しい視線。

 

  ああ、見られてる。本当に見られてるんだ。

  麻痺したはずの羞恥心が胸の中で高鳴り、顔までじわじわとよじ登ってくる。けれど腰はなおも前へ突き出され、足はますます大きく広げられていく。両手を膝に沿え、さらにもう一押し、限界まで股を開ききって、私は期待に火照った秘部を少年の前にさらけだし、見せつけていた。

 

 

  ごくんと喉が鳴る。その音が彼のものなのか、自分のものなのか、一瞬わからなくなって、すぐに同時だったと気づく。

 

  彼が立ち上がった。ゆるんだ褌が外れて床に落ちる。一歩、一歩、ためらうように、こちらに近づいてくる。心臓がどきどきうるさい。一歩、また一歩、もう寝床の前まで。着物の裾からぴんと天をつく、雄のあかしに目が吸い寄せられる。背中がだんだん、後ろに倒れて、寝床の上に沈んだ。彼が膝をつく。私の足のあいだ、すぐ目の前に。

  いつか、そしてついさっき妄想した光景が、今そこにある。彼の視線が、私の顔を、胸を、股間を、何度も往復する。見られるたびに、頬が、乳首が、あそこが、熱くしびれる。二人ぶんの荒い呼吸の音が、空間をうめつくし、それから。

 

  しばらく、時間が流れた。

 

 

  どうすればいいか、わからないのかな。

 

  動きの止まってしまった彼を見て、そんなふうに思う。

  膝を押さえていた手を、そっと自分の股間に添えた。彼の視線が、そこに集中する。これは流石に恥ずかしいけど。でも、教えてあげなきゃ。

  肉襞を手で押さえ、左右に大きく広げていく。触れた指先のぬめりぐあいがすごい。お尻の下まで、汁が垂れてる。多分さっきの残りじゃない、新しい蜜。どれだけ濡れやすいんだろ、私。

 

  ひくひく震える穴の入り口が、ぱっくりと開く感覚がする。その奥の奥まで、きっと見られてる。

  ほら、ここ。わかるよね。君のそれを、ここに、ね、入れるの。

 

  また、彼が大きく唾を飲み込んだ。続けて、跳ねるように腰が突き出される。弾力のある棒が、にゅるん、とぬかるみの上を滑った。油断していた突起が唐突にこすられて、太ももが震え、背中が跳ねる。そしてまた、にゅるん、ちゅるん。ああ、気持ちいい、けど。駄目だよ、それじゃあ。

  顔だけ持ち上げて、そこの様子を見る。足の間、整えた陰毛の向こうで、桃色の竿が勢いよく真上を向いている。そのままじゃ入らないでしょ、あせらないで。落ち着いて。いったん腰を引いて、手を添えて。うん、そう、それでいい。今度こそ、間違えないで。

  彼の先端が、ぷるぷる震えながら、入り口に触れる。ほんの小さな接点から、他人の熱が伝わってくる。心臓の音、呼吸の音が、どんどん速く、大きくなる。

 

  そう、そのまま、腰を前に進めて。とろとろに溶けてる、目の前の穴の中へ。さあ、ずぶっと一気に奥まで、そして好きなように、中をかきまわして。その硬いものは、そのためにあるんだから。怖くないよ。大丈夫。噛みついたり、食いちぎったりしないってば。ほら、固まってないで、早く────

 

  ああもう、じれったいな!!

 

  両足で彼の腰をはさみ、慌てて後ろに退こうとするところをがっしり抱えこんだ。そのまま力をこめて、引き寄せる。

  柔らかい、丸いもの、入り口をゆっくり押し広げ、入ってくる。指より太い張りつめた棒が、絡みつく液と肉をかきわけて、充血した天井をえぐるように擦りたてながら、奥へと突き進み、ほどなく彼の腰と私の股とが、一分の隙間もなく張りついた。襞と肉芽が押しつぶされ、あふれ出る淫汁が燃えだしたみたいに、あそこがじーんと熱くなる。

  重心を失った彼の体が、おなかの上に倒れこむ。私の目の前、乳房の谷間に、小さな頭が落ちてきた。きっと初めて味わう感覚に、おののくような表情を浮かべながら。

 

  足に力を入れてから、ほんの一秒ほど。ずいぶん長く感じられた、その時間の中で、見つめあう私と彼の瞳。そして、まんまるく見開かれたその目が潤んで、口と一緒にぎゅっと閉じられる。

 

  一瞬の後。彼の体が大きく痙攣した。

  私の胸に必死にしがみつき、何度も何度も、そのたびに、腰が強く押し付けられ、お腹の中で何かがぶわっと膨らんで、ぴくぴく跳ねて、肉壁を叩く。

 

  ああ、出てる。注がれてる。染みこんでくる。

  久しぶりに感じる雄の精。指では満たされない奥の奥、体の真ん中が、じんわりあったかくなる。

 

  しばらくそうして、熱い衝動を吐き出していた彼は、やがて動きを止め、ぐったりとその身を私の上に預けた。脱力した表情で胸に顔を埋めたまま、はあはあと荒い息をつく。

  その様子が、なんだか可愛らしくて、右手で頭をそっと撫でた。それを感じてか彼が身じろぎし、目が開く。また、視線が合う。少しぼーっとした、戸惑いの混ざったまなざし。

 

  また、頭をなでる。彼の目がくすぐったそうに閉じ、また開く。

  その眼に映る私の顔は、もしかしたら、笑っているみたいに見えた。気のせいだろう、たぶん。

 

 

  ぴくぴくと、どこかで何かが動いている。

  私の中、腰の奥。湿った肉に包まれた、まだ硬さを保ったままの、それが、小さく脈打っていた。

 

  ちょっとだけ、あそこに力をこめる。その大きさとかたちが、よりはっきり感じられる。と、またそれが跳ねた。今度は強く。

 

  彼が、私の目を見つめている。私も彼の目を見つめ返す。深く息を吸い込むたび、胸が、頭が熱くなる。それはきっと、彼も。

 

  彼が動いた。私の中のものを、わずかに、押し込むように。少し間をおいて、またもそりと、動きづらそうに。そういえば、まだ足で抱えこんでいたんだった。彼の後ろで組んでいた足をそっと解き、寝床へ下ろす。

  自由になった彼の腰が、少しだけ後ろに引かれる。そしてまた、ゆっくりと入ってくる。ぷちゅんと股間から水音が立ち、ねばついた粘液の中で突起が押されて震える。

 

  引いて、押して、また引いて。たどたどしく、彼は抽送を繰りかえす。切なそうに眉を寄せ、半分目を閉じて。時に細かく、時に大きく、たまに抜けてしまいそうになりながらも、一心不乱に幼い雄の劣情を私にぶつける。

  自分の指とは違う、好き勝手に跳ね回るものが、秘花の内を外を間断なく刺激し、不意に敏感な場所を深くえぐるたび、私は身をよじってそれに応える。さっき出された精液と、私の愛液がかきまぜられ、ぐちゅぐちゅ音を立てて泡立ち、二人の肉に絡みついて、より強く互いを吸い付けようとしている。

 

  いつしか私も、自分から腰をくねらせて、肉の悦びを貪っていた。敷き布にこすれる背中とお尻。湿った吐息がかかる胸。激しく腰が打ちつけられる股間。その全部が、気持ちいい。おなかの奥から、体が熱くなる。それはどんどん広がって、寒気にも似た震えが、ぞくぞく全身を這いまわる。でも、まだ燃え上がらない。快感があふれる寸前のまま、渦巻いている。もうひとつ、あと一滴、あれば。

  彼の腰の動きが速くなる。肉穴を掘り返すこわばりを、一回り大きく感じる。もうすぐ、また、あれが来る。いいよ、ぜんぶ、出しちゃって。受け止めるから。私の奥に、思いきりぶちまけて、この体に火をつけて、早く。もう限界。早く、はやく、きて、はやく、

  あ、くる。

 

  ひときわ高く腰と腰がぶつかる音がして、そのまま固まる。お腹の中で、また彼がはじける。全身の力をふるって、ありったけの子種を搾り出して、それをもっともっと奥へと押し込もうとするみたいに、脈打つ肉の杭が小刻みに中を突く。

  まぶたの裏で火花が散り、熱せられた油の上に落ちる。とろけるような甘い炎が、快楽に濡れた肌にすぐさま燃え広がり、上昇気流に乗り、巻き上げられる。柔らかく光る、桃色の雲の上まで。

 

  ぴくん、ぴくん、と体が震え続ける。頭の中に次々と花が咲く。魂まで空に溶けていくような、心地よい飛行。

  もう、ずっとこのまま、たゆたっていたい。どこまでも、君と一緒に────

 

 

  どれだけのあいだ、そうして舞っていただろう。風はだんだんとその勢いを弱め、散っていく雲の間をゆっくり通り抜けて、地上へと私を降ろした。

  無重力から帰還して、改めて自分の体の上に乗っているものを意識する。私の中にぴったりはまりこみ、腰を密着させたまま、乳房に頬をこすりつけるように抱きついて、少年は深く速い呼吸を繰りかえしている。私はそんな彼の頭の重さを、胸の間で受け止めつつ、長らく空っぽだった体の奥底を満たしてくれた人の、小さいけれど逞しい背中を、そっと抱きしめて、そのまま目を閉じる。

 

  ふたつの呼吸と心臓の鼓動が、激しく響き合いながら、だんだんと穏やかに、ひとつに溶け合っていった。

 

 

 

 

 

 

 

  やってしまった。

  やってしまった。

  やってしまった。洒落でもなんでもなく、文字通りの意味で。本当にもう、馬鹿だお前は。死んでしまえ。巫女に頭から割られてこい。ようやく目を覚ました理性が、そう叫びながら頭の中をのたうちまわっている。ある意味、ずっと寝ていたほうが良かったかもしれない。

 

  寝床の上にちょこんと座っている少年に背を向けて、私はもそもそと服を着る。とても顔など合わせられない。いっそ氷の妖精に、頭ごと凍らせてほしいくらいだ。ああ恥ずかしい。

  間に合わせに懐紙で押さえただけのあそこの中には、まだ彼に注がれたものが入ったままだ。目の前で掻き出して拭くなんて、恥ずかしすぎて出来なかった。考えただけで顔が焼ける。ええと、大丈夫だよね。人間とのあいだには、普通できないはずだし。共に千夜を過ごせばとか、そんな与太話もあったけど。というか、後から気にすることか、それ。

 

  とにかく、終わりだ。終わりったら終わり。もう気づいてないふりはできない。いや、今日のことがなければ、今後もアレを続けたとか、そういうことじゃなくて。

  袴の紐をぎっちり締めあげて立ち上がり、押し黙ったまま扉へ向かう。ああ、でも、何か言わないと。もう二度と、彼がここに来ないように。警告。脅し。それと、口止めも。だけど、一体なんて言おうか。

 

  考えているうちに、あっというまに木戸が目の前に来た。そのまま額を叩きつけたくなる衝動をこらえて、ぐいと引き開けると、外の光と風がさあっと小屋の中に吹き込んでくる。春と夏が混ざった空気を体に浴びて、私はしばし、その場で立ちすくむ。背中に少年の視線を感じながら。

  そして。

 

「我々、白狼天狗は……」

 

  背を向けたまま、口を開く。背後から、びくりと緊張した気配が伝わってくる。

 

「……山の番兵。立ち入るものを、排除するのが役目。勝手に人と言葉を交わすことは、許されてはいない。だから……これは独り言」

 

  次に会ったときは、見逃さない。容赦なく取って喰う。そう言いきって、この話はおしまい。とっぴんぱらりのぷう、だ。

  もう当分、ここにも来ない。それで終わりだ。終わらせろ。

  さあ言え。

 

「……雨の降る日には、来ない」

 

  あ、言ってしまった。ダメなほうを。

 

「明日は、仕事があるから、来ない。明後日は……たぶん、来る」

 

  そう言い捨てて、振り返らず外へ出た。

 

  乱暴にがさがさと草をかき分けて小屋を後にする。顔がかっかと熱い。どうしてあんな、格好つけた言い方を。違う、そうじゃない、問題はそこじゃない。淫婦。痴れ者。男狂い。ちょっと滝壷に飛び込んで頭を冷やせ、この色ボケ天狗。

  頭の中で鳴り響くそんな声と裏腹に、胸の奥からふわふわとした何かが湧きあがってくる。真っ赤にほてった顔のかたちが、おかしな歪みかたをするのがわかる。

 

  ぶんぶんと首を振り、両手でバシバシ頬をひっぱたいて真顔に戻す。これはただの戯れ。秘密の遊び。誰にも知られてはいけない。早く帰って、体もにおいも洗い流して、さっさといつもの自分に戻れ、私。

 

 

  その日、その次の日、その後の何日か。

  いったい何度、何かいいことでもあったの、と聞かれたか、もう思い出せない。

 


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