――彼女はよく、私の部屋を訪ねてくる――
「テートク、お邪魔しま~す」
ノックも無しに、やけに間延びした声が入ってくる。ドアのところにはワインの瓶を抱えた女性の姿があった。茶色みがかった髪にはウェーブを掛け、微かなそばかすの痕がある頬は、朱色に染まっている。おまけに千鳥足で、すっかり出来上がっているようだ。
「ノックをしたまえ」
威厳をもってそういうが、まあまあと言った感じで、テーブルの上にワインを置いて行く。そして、何処からか持ってきたワイングラスを二つ置いて、中身を注いでいく。
「どぞどぞ、テートクもぉ~」
彼女――ザラ級重巡二番艦ポーラはとても、強引だった。
彼女が着任して以来、こうしてふとした時には僕の自室へとやってくる。それも、軽く酒でも飲もうかと思う時に限ってだ。まるで酒の匂いを嗅ぎつけるかのように彼女はやってくる。もっとも、彼女は持参した酒を呑んで、私にも振る舞ってくれる。勝手に私の部屋を漁って、目ざとく酒瓶を見つけては持ちだそうとはしない。そこが唯一の良い点だ。
彼女とこうして酒を飲むようになってから、既に二月ほどが経つ。それだけの時間を掛けて学んだのは呑まれないようにということだ。酒にはでは無い。ポーラにだ。
この鎮守府にも何人かの酒好きがいるが、皆、一様に酒が強い。艦娘だからなのかもしれないが、アレだけの量を飲んでも翌日にはケロッとしている。その中でもポーラは一二を争うほどの酒豪だ。暇があれば酒を呑んでいる。そして、とにかく吐くまで飲む。翌日は二日酔いで目も当てらないということが多い。酒好きを通り越して、もはやアルコール中毒の域にまで入っている。
「では、頂こうか」
グラスを傾けて、匂いを嗅ぐ。酒は嗜む程度で、洋酒はあまり飲まない。とにかく味がキツイという印象なのだ。ポーラが持ってきたワインも同じ、ムッとするようなアルコールの匂いが鼻孔を付く。くっと一口飲むと、口の中一杯に酸味と苦みが広がり、少しだけむせそうになった。やはり、私は日本酒ぐらいがちょうどいい。
ポーラは並々とワインの注がれたグラスを持つと、そのまま一気に半分ほど飲み干してしまう。いくら度数の低いワインだからといっても、そんな呑み方をしていれば泥酔するのは当然だろう。
「ワインに合うおつまみは~、これですよぉ~」
そういって、懐から――ではなく、何故か部屋の冷蔵庫をガサゴソと漁る。まあ、見られて困る物も無いが、それでもあまり気分のいいものではない。
「ありましたぁ~。テイトク! ありましたよ~」
酒に酔ったせいか、まだ慣れない日本語のせいか。独特のニュアンスで報告してくる。任務にもこれほど熱心だったら。態度はともかく、きっちりとこなしてはくれるから、文句は無いのだが――まあ、いいか。
「酒盗か……人の冷蔵庫の中身を把握しているとは」
「ああ、怒らないでください。ジュンヨーに聞きました。テイトクはこれが好きだって」
酒盗は、言うならば“しおから”だ。主にカツオの内臓を使ったもので、普通のしおからよりも特にしょっぱい。日本酒はもちろん、苦い酒にはよく合う。ビールにも最適だ。ビール党のドイツ艦も「これは良い」と評するほど。塩辛く、味が濃い。喉が渇くから酒も進む。まるで、盗まれたように酒が消えていく。だから、酒盗というらしい。
「ポーラは、これが好きなのか?」
「はぁい。イヨさんに教わりました。イッキーノーミの罰ゲームで食べた時にとてもおいしかったです」
少しばかり、鎮守府の酒飲み共には注意してやる必要がありそうだ。
そうこうしているうちに、ポーラはもう一本のワインを開けた。手酌でグラスを満たすとそれを一息に飲み干し、皿に出した酒盗をフォークで器用に口元へ運ぶ。
「しょっぱいです」
その感想と共に、ワインをもう一杯。酒盗を半分食べるのにワインの瓶を半分飲み干す。規格外の呑みっぷりだ。
「ポーラ。私にも頼む」
空のグラスを差し出すと、おっかなびっくりの様子でついでくれる。
「えっと……注ぐときはラベルを見せる。でした?」
「作法は気にするな。今さらの話じゃないか」
それもそうですね、とばかりに並々グラスに注いでいく。こうして、私がグラスを一杯、二杯といううちに、彼女は瓶単位で飲み干していく。それでは足りないだろうとばかりに。いっそ、樽を持ってきた方が良かったのではないか。
だが、これもここ二月で知った彼女の特性のような物だった。ワインを二本だけ付き合ってやる。そうすると、彼女は満足したように部屋から去っていくのだ。きっちりと後片付けをして。初めの頃は、彼女のペースで呑まされて、酷い目に合ったものだが、今ではこうしてうまい具合に付き合えている。二日酔いの酷い彼女だが、私と飲んだ次の日はそうではないらしい。
(艦娘同士でも、何かと気を使うのかもしれない)
上司と部下の気の置けない関係。というのは、あまり良い物ではないと思う。殊更、こうした職場では。女性の多い職場だが、曲がりなりにもここは軍隊。いざという時の判断で、ポーラを犠牲にすることだってありうる。もっとも、そうならないように努力はしている。この鎮守府に着任して以来、一隻の損害も出したことは無い。今までも、そしてこれからも。
だが、そうした危険性は常について回る。だから、ポーラをこうして気兼ねなく接するのもどうなのだろうか。と考えてしまう。私もまだ若い身だ。少しでも威厳を付けようと努力しているが、それも空回り気味に思える。まだ、三十路にも満たない若造が年寄りに真似事のような喋り方をしていても、格好が付くはずがない。
(少し考えなくてはならないのかもしれない)
空気を読まない――悪い意味ではない――海外艦だからこそ、こうした付き合い方もあるのかもしれない。
ポーラはグラスに残った最後の一滴まで飲み終える。こちらも少し体が火照ってきた。明日のことも考えるとこの辺りが潮時だろう。空の瓶を抱えたポーラは少しばかり名残惜し気な表情をすると、動き出す。だが、帰るわけでは無かった。テーブルへ身を乗り出し、対面の私へと顔を近づけてきた。ミルクを溶かしたコーヒーのような茶色の眸が、私のことを見つめている。目が泳ぎ、何かを逡巡した後、何かを言いかけたまま、口を噤む。そして、もう一度、口を開こうとして――躊躇った。
何か言いたいことでもあるのか。それにしては少し様子が変だ。私も何も言わずに彼女の言葉を待った。アルコールのせいか、上気した表情は何かを恥じらうようにも見える。茶色い眸に、自分が映り込んでいることに気付いて、慌てて視線をそらした。それが拙かった。視線を下へやると、形の良い彼女の唇が目に映った。さらに下へやると――そこには大きな果実が二つあった。
たわわに実った果実。普段から布を押し上げて、その存在を主張していることは知っていた。当然、前屈みになれば、重力に従って、下へと垂れ下がるのだから、嫌でも目に付く。
嫌な沈黙が流れる。ずっと前を見据えていたポーラも視線を空に彷徨わせている。このままでは埒が明かない。耐えかねて、口を開いた。
「どうした?」
「部屋に戻りたくないです」
微かに上ずった声で、ポーラはそう答える。朱色を灯した頬がより一層赤みを増す。
「ザラと喧嘩でも?」
「違いますよ……テートクは鈍いですねぇ」
それだけ言うと、まるで張りつめていた空気を全て吐き出すかのように、ポーラはため息を吐いた。それに応じて、豊かな膨らみも弾む。その様子に、体の一部が反応した。酒に酔って理性が融けたのか。膨張する感覚を必死になって抑え込む。
彼女が言わんとしていることは分かる。艦娘というのはそういうものだ。提督という存在に対して、多かれ少なかれ依存している。中には、その度合いが過ぎるという艦娘も存在している。つまり、そういうことなのだろう。
確かにポーラは魅力的な女性だ。酒飲みという一点除けば、美人であるし、スタイルも良い。その豊かな膨らみも私好みだとは思う。だが、これはダメだ。提督という存在である以上、艦娘との交際は出来ない。もちろん、そういうことをしている者も中にはいるかもしれない。だが、私にはそういうことは無理だ。少なくとも、この鎮守府にいるすべての艦娘を納得させるような言葉、私には思いつかない。
「ポーラ、もう帰りなさい。明日も……ほら、任務があるだろう」
「明日は休みです」
大規模な敵の侵攻も無く、ここのところ哨戒任務ばかりだった。出撃のローテンションは全て大淀に任せてある。彼女が言うのならば、間違いないだろう。
「だが、私は仕事だ。もう帰れ。これは命令だ」
「むぅ……」
膨れる。まるで駄々っ子のようだ。それを見て、私はすこし笑ってしまった。
(まあ、少しぐらいなら……)
時計の針は、まだまだ時間の猶予があることを示していた。少しだけ、彼女の理由に興味が沸いた。
「聞こう。理由を」
そうすると、ポーラはハッとした表情になる。酔いも醒めたといった様子だ。
「今ここでそんなことをするんですか? コーカイショケ―ですか? 吊し上げですか? 私をドゥーチェみたいに吊るすんですか!?」
慌てた様子で、グラスを掴むが、中身は空だ。酒の力が無ければ言えないということか。
「奢ろう。私のとっておきだ」
仕方が無しに、キャビネットからいくつかの酒を出してやる。隼鷹や那智に見つかれば黙ってギンバイされかねない代物だが、これぐらいは良いだろう。
「これが良いです」
先ほどよりも、はっきりとした口調で、彼女は選んだ。
「ペンギンのラベルが可愛いです」
自信ありげにそう答える。そんな理由で選んだのかと思った。割と、こういう部分は乙女らしい。
新しいグラスに透明な液体を注ぐ。甘口の日本酒だ。飲みやすいが、それなりに度数もある。ポーラはそれを駆けつけ一杯。一気にそれを呷る。すると、さっそく酔いが回ったのか。眸が少しとろんとする。もう一杯をねだったので、ついでやると早速喋り始めた。
「テイトクのことを考えると、こう、胸がきゅうとするんです」
大きなそのふくらみを両腕で抱きしめるようにして、抑える。それから、窮屈そうに身をよじった。
「ポーラはこういう気持ちを本で読んだことがあります。だから、ここに来ました」
とろんとした酔眼でも、言葉ははっきりとしていた。自分の想いがどういうものなのか、ポーラはしっかりと理解している。その上で、こういう行動に出たわけか――そして、こうして口にするのにたっぷり二月も掛けたと。意外と初心なところがあるようだ。微笑ましいものだ。
しかし、だからと言って、彼女の気持ちを許すことは出来ない。これは提督としての責務だ。彼女にはきっぱりと諦めてもらうしかない。どういえば、説得できるか。そう悩みながら、ふとポーラの方を見ると、テーブルに突っ伏して、すやすやと寝息を立てていた。
そういえば、この部屋に来たときにも既に酔っていた様子だった。宴会にでも誘われたのか、それとも気付けもつもりで呑んだのか。なんにせよ、ポーラは潰れる限界だったらしい。
「そんなに呑まないと言えないことだったのか……?」
ふと、手を伸ばして、彼女の前髪に触れる。酒の力を借りているだけで、実際にはもっと奥手なのかもしれない。よくよく考えてみれば、彼女がいつもちょっかいを出してくるときは、だいたい酔っていた時だ。
なんにせよ、用事は終わりだ。このまま眠って、すっかり忘れてしまえばいいのだろうが。たぶん、そんなことは無いのだろう。彼女は諦めてくれるのか。それとも――まだ、この想いを持ち続けるのか。そう考えると、心臓が鷲掴みにされたような感覚を覚える。
艦娘達の中には私を慕ってくれている者も多い。私にとって、それは当たり前のことだった。兵器として、円滑に運用するためには、上位階級の物である提督を自然と従う。そういうシステムだと思い込んでいた。
だが、こうして、短くない時を、彼女達と過ごせば理解できる。彼女達は兵器では無く、ちゃんとした『女性』なのだということが。ポーラもそうなのだ。
「考えすぎは良くない」
眠ったままのポーラを抱えて、部屋を出ようとする。だが、意識を無くしたように眠るポーラは少し重い。私もすっかりと酔いが回っていた。それがいけなかった。
重たいポーラを抱えようと力を込めると、彼女は微かな抵抗を示した。きっと無意識のうちのことだったのだろう。ただ、運が悪かった。酔いが回っていた私も、足を取られ、そのままポーラを引っ張るような形で倒れ込んでしまう。
間近にあるポーラの表情が変わる。目を覚ました。あっけにとられた様子だったが、すぐにそれを理解する。微かな笑みを浮かべると、そのまま顔を近づけてきた。触れた唇は柔らかい。胸元に感じる圧力に上から優しく押される。
唇に感じる柔らかい感触が離れる。視線の先には笑みを浮かべたポーラがいた。まるで、もう耐えきれないという淫らな笑みを浮かべていた。
今度は口を開かされ、やや強引に舌が挿入された。微かに感じていたアルコールの味が、いっそう強くなり、彼女の存在を感じさせた。お互いの舌先が触れ合うと、絡み合い、淫らな音を立てた。そうやって、長い時間たっぷりと口腔を凌辱された後、ようやく解放された。離れた唇からは、繋がっていた証がすぅーと名残惜しそうに延びて、ぷっつりと途切れる。
「お酒臭かったですか?」
恥じらいの混じった笑みをそう聞いてくる。私は何も答えず、視線を逸らす。もうお互いの心は決まっていた。
おぼつかない手で彼女がYシャツのボタンを外しにかかるが、酔いが回っているせいか上手くいかない。私は彼女の手を制して、抱きかかえて、ベッドへと運んでいく。それに気付いた時、ポーラは、にへやらとだらしのない笑みを零した。やや乱暴にベッドの上に放り投げると、そのままポーラに覆いかぶさる。
酒のせいか、それともさっきのキスのせいか――自分の中でも余裕が無いのが感じられた。きっとその両方だ。理性を融かされたうえにここまで昂らされては、もう我慢が利かない。自分の内側から押し上げられるような衝動を感じるが、それでも、彼女に優しくしなければという感情は、まだあった。
「んっ……」
柔らかいふくらみを布越しに軽く触れてやると、短く声を漏らす。指先でなぞるように弄ってやると次第に息が荒くなっていく。壊れ物を掴むように優しくつかんでやると、その声音がやや大きくなった。
手のひらに感じる体温がやけに熱いに、額にはうっすらと汗が滲み、前髪が軽く張り付いている。それを払ってやると、期待に満ちた眸を向けてくる。もっと触ってほしいという、愛撫をねだる表情に、より一層下半身が漲るのを感じた。
ポーラは欲望に忠実だった。次第に大きくなる嬌声に優しくしてやろうという気持ちは欠片も失せていた。
彼女の顎を軽く持ち上げて、キスをする。今度はこちらから、先ほどのお返しと言わんばかりに舌を入れて、口腔を味わう。アルコールの苦みと同時に甘露にも似た甘美な味が混ざり合い何とも言えない味わいをもたらす。息継ぎに口を離して、もう一度、今度は時々、口を離しながら、お互いが絡み合う水音を聞かせてやる。その淫靡な響きが脳髄を刺激し、さらに欲望を駆り立てる。
キスと同時に胸も愛撫してやる。少し強くつかんでやると、口の隙間から悲鳴にも似た声が漏れた。さらさらとした手触りの布越しに、ポーラのふくらみの感触を楽しむ。すっかり成熟した女性の感触だ。手に吸い付くような柔らかさに、キスにも愛撫にも熱が籠る。
どれくらいそうしていたのか、口を離す頃にはお互いに出来上がっていた。もう、戻れないところまで来ているのを肌で感じていた。この部屋を支配している淫らな空気はちょっとやそっとでは消えることは無い。
ポーラの視線も私の股間へと向いている。見なくても分かる。ズボンをしっかりと押し上げている感触が自分の昂ぶりを現している。
いつも見せている少し子供っぽい笑みはもう消えている。代わりに期待と切望に満ちた眸に淫熱の浮かぶ頬。だらしなく開いた口元には男を誘う淫靡な笑みが浮かんでいる。
お互いに言葉も無く、見つめ合っているとポーラが先に動き出した。もう耐えきれないという様子だ。たどたどしい様子で服を脱いで、私の前の自分を差し出す。少し乱暴だったせいか、ボタンがひとつ転がっていた。
「えへへ……」
私を抱きしめて――と笑みを零す。体に押しつけられたふくらみの頂点には固く尖った感触がある。首元にキスを投げかけ、私の服を脱がしにかかる。焦って指が上手く動かないのか、最終的にすべてのボタンをちぎって、服を脱がせてくれた。
手のひらで胸板を触る。まるでその感触を確かめるように、その感触を自分の中に教え込もうとしているように。一通り感触を楽しんだ後は、キスの雨を降らせる。首すじに、胸板に、頬に。愛おしい物を慈しむように。
ただ、身を任せているのも面白くない。反撃するように、目の前で動くそのふくらみに手を伸ばした。布越しには何度も見ていたが、改めて間近にするとやはり大きい以外の感想が出てこない。キズ一つない白磁のような肌には、玉のような汗が浮かび、その頂点には薄い乳白色の隆起が見える。その周りを彩るピンク色の輪は少しばかり大きい気がした。
しっとりと汗を含んだ柔肌の感触は心地よい。まるで手に吸い付くようだ。それでいて、他の部位とは違う、わずかに温度が低い気がする。
「んぁ……んんぅ……」
手のひらで突起を弄ってやると面白いように反応する。軽く力を込めて掴むと、柔らかい乳房に指を埋まってしまう。まるでパン生地をこねているようだ。
甘い疼きは名残惜しさへと変わり、次第に強請るように身体を押し付け来る。もっと気持ちよくしてほしいと。口には出さなくても、その目が語っていた。薄い茶色の眸は酔ったようにとろんとして、今では焦点が定まっていないようだった。でも、その眸の中にはしっかりと私の姿が映っている。
そのままゆっくりとベッドの上に押し倒す。拙い愛撫から解放されたポーラは肩で息をしていた。醒めていた酔いも、また戻りつつあった。淫熱と酒の両方に苛まれているようだ。要するにすっかりと『出来上がっている』ようだ。この分だと、スカートの中もどうなっていることやら。
じっくりと視られるのは、まだ恥ずかしいらしい。寝転んだポーラはそのほっそりとした腕で、自分の体を隠そうとする。だが、その動作はゆったりとしていて、まるで意味をなさない。さっさと腕を払いのけて、胸元に口を寄せる。
「ひゃっ!」
面白いように声が跳ねた。ぷっくらと隆起したその突起を口に含んで吸ってみる。反対側の突起は指で摘まみ、転がす。こりこりとした感触だが、不思議と柔らかい。少し力を入れて摘まむと、また体が跳ねる。摘まみ、捩じって、転がして、弾く。甘噛みして、舐め回して、吸ってみて――まるで、玩具のようにポーラの乳首を弄り倒していく。そのたびに彼女の反応は新鮮だった。
ポーラは感じやすいようだ。乳首を弄っただけでこれほどの反応を返してくれるのは男冥利に尽きるというもの。軽く達してもいるだろう。だが、本番はここからなのだ。気をやってしまっては困る。
自分の中で昂ぶる欲望を抑えつつ、口でポーラの体を流れる汗を受け止める。それに気付いたポーラは両手で覆って顔を隠した。彼女にとっては一番触れられたくない部分だったのかもしれない。酒に酔えば、平気で服を脱ぐくせに。私の前では隠しているつもりだったのだろう。だが、いつも酒に酔っていればそうしたことも耳に入ってくる。ポーラにここまで一般的な羞恥心があったのは正直に驚いた。
体を伝う汗は、少し塩気がある。不快な味では無い。むしろ、独特甘味を感じる。そのまま、横腹に舌を這わせて、味わう。相変わらず、ポーラは顔を隠していた。
ただ、汗を舐めているわけではない。彼女の体に自分のことを刻んでいた。これは自分のモノだと。その証を刻み込んでいる。そして、もっと直接的にそれをする。肌に吸い付き、強く吸う。その痕を残す。白い肌に虫刺されのような赤い痕が残った。
それから、何度も彼女の体に口を寄せる。腹に、胸元に、首筋に。乳首への愛撫はやめなかった。体にキスをする度に、彼女の体は震えていた。私は彼女の体に自分の証を刻むことに夢中になっていた。キスの雨を降らせ、マーキングしていく。もう、誰にも取られないように。こんな女ばかりの鎮守府で誰に取られるというのか。そんな簡単かことにも思い至らないほど、私は彼女に酔わされていた。
そんな行為に満足した頃、ようやくベルトに手を掛けた。自分がどうして、こんなもどかしい物を付けているのか、恨みつつも、ズボンとパンツを一気に脱ぎ捨てる。外側が終わったのなら、今度は内側だ。
飛び出してきた自分の分身をポーラの目の前へとやった。ささくれだち、皮の剥けた肉棒だ。サイズにも自信がある。これから、それをお前の中にくれてやると、十分に見せてやると、ポーラが息を飲むのが分かった。期待の眼差しを向け、それを強請っていることも。
「脱がすぞ」
静かに告げて、彼女のスカートをはぎ取っていく。ショーツは既に濡れていて、引きはがすと粘度の高い液体が糸を引いていた。余分な物が無い。美しい秘所は、既にほころんでいた。彼女の呼吸に合わせて脈動し、まるで埋めてくれる物を欲するように口をぱかぱかと開いている。指で少しだけ触れると、ポーラが身をよじった。
割れ目に沿って指を這わせ、入り口の部分を広げてみる。次から次へと蜜は溢れだす。もう準備は整っているようだ。
彼女を待たせてはいけない。狙いを定めて、腰を進めていく。触れた粘膜の温度に驚きながらも、ゆっくりと挿入していく。柔らかい肉をぴったりと閉じ、その中を押し進んでいく。すると亀頭に何かが触れた。その瞬間、ポーラは顔をしかめる。抵抗感の正体に臆することなく、そのまま勢いよく付きこんだ。根元まで埋まった肉棒は柔肉に包まれ、脈動する。ポーラは痛みを感じて、反射的にテーブルに手を伸ばした。酒を飲むつもりらしい。だが、そんなことは許さない。酔うならば、俺に酔えばいい。手を制して、そのまましっかりと握りしめる。涙目のポーラをのぞき込んで、言った。
「動くぞ」
微かに腰を浮かせて、ポーラを抱きしめるとそのまま、腰を落として付きこんでいく。まだ残る痛みのせいか、それとも快楽のせいか。ポーラはしっかりと背中に手を伸ばして抱きしめてくる。一突き、一突き、重みを持って突きこんでいく。やや乱暴な腰の使いに、ポーラは振り落とされそうだ。
だが、爪を突き立てて、俺の体にしがみ付く。鋭い痛みが走るが、その程度は苦でも無い。むしろ、快楽が痛みを打ち消していた。
今までお預けを喰らっていた分、乱暴な挿入になっていた。貪るように彼女のことを抱いていた。痛みが治まったのか、ポーラはキスを強請ってきた。まるで、捕食するように彼女に口づけをする。
限界が近い。収まり切らない欲望を感じる。暴力的とも言える欲望が爆発し、さらにスピードを上げる。お互いの呼吸音が混じり合い、汗と唾液が混じり合う。獣染みた唸り声が喉からせり上がり、最後の瞬間が訪れた。
自身さえも欲望の液体と化しそうな射精に、脳内が真っ白に染め上げられる。視界が開けた後に目に入ったのは、満足そうな表情をしたポーラだった。
それから、何度も交わった。時間の感覚が無くなり、それを意識したのは空が白む頃だった。
何度出したか分からないが、ただ言えることは『随分と溜まっていた』ということだ。ご無沙汰だったのもあるだろう。欲望に任せて、ポーラには散々なことを要求した気がする。彼女に引っかかれた背中がひりひりと痛む。
そして――体力を消耗したが、精神的な昂ぶりはまだ冷めていないようだった。自分の中に残っていた若さに少し驚きながら、部屋を出て浴場に向かう。部屋を出る時には、彼女はそのまま起こさないで置いた。そして部屋に戻った時、もうポーラはいなかった。
午前中の執務を追えて、遅めの昼食を取ろう、食堂に来てみた。暇そうにしている間宮に注文を付ける。出てくるまでは、コーヒーでも飲んで待とう。結局、昨夜は徹夜になった。別にそれぐらいのことは何とでも無いのだが――昨日の出来事は、だいぶ、堪えたようだ。
今、心の中にあるのは後悔よりも不安だった。酒に酔った勢いで部下に手を出した。その後、お互いは今まで通りの部下と上司でいられるのかということだ。
結局は、私は手を出したわけだが――ポーラに何かを伝えたわけではない。彼女の好意に漬け込んで、一方的に貪ったようなものだ。それだけを考えると、とんだ下衆野郎としか思えない。
それに、この鎮守府にはポーラ同様に、私に対して好意を向けている艦娘も存在する。これが露見すれば、他の艦娘達との関係にも影響が出てくるだろう。士気にも影響が出るかもしれない。いつ、自分達に手を出すか分からない性欲魔人とは一緒に居られないと考える者も出てくる可能性がある。具体的には大井とか――
「ヘーイ、テートク。遅いランチタイムカナー?」
そんな思考を打ち破って、声を掛けて来たのは金剛だった。
「ああ。そうだ」
「では、お邪魔シマース」
ニコニコ笑顔で私の対面に座る。正直、今は勘弁してほしい。それどころじゃない。今の自分は。感情の整理が追いつかない。そもそも、あんなことがあったのだ。ポーラとはどう接していいのやら。他の艦娘達の関係は。あれこれと思考がぐるぐる巡り、頭がどうにかなりそうだった。
「テートク? どうかしましたカー?」
妙なニュアンスと共に、金剛が私の顔を覗き込んでくる。横には心配そうに見つめる間宮の姿もあった。どうやら、注文していた料理が出来たらしい。「お大事に」と、それだけ言って間宮は下がって行った。
「今日のテートクは、なんだかおかしいデス。そうだ、ワタシが食べさせてあげマース!」
私から箸を取り上げると、不器用に握りしめたままカツレツに突き刺す。それを持ち上げて「あーん」と私の口元まで運んできた。落ち着け金剛。そのサイズを一口で食べるのは無理だ。
苦笑いをしつつコーヒーカップに手を伸ばすと――後ろから、衝撃が来た。柔らかい衝撃に、カップを取り落としそうになる。金剛の表情に険しく、皺が刻まれた。
「にゅふふ~」
妙な笑い声はポーラの物だった。酒にでも酔っているのか、私に抱き着いているらしい。また酒にでも酔っているのかと思ったが、不思議とアルコールの匂いはしなかった。
「コンゴーさん、駄目ですよ~。テイトクはポーラの物なんですから」
衝撃発言。バケツの中に放り込まれて、バット殴られたかのような衝撃だ。ダメージを受けた金剛は椅子から立ち上がり、慄きながら後ずされる。ポーラの言葉はまだ続いた。
「昨日は二人でお楽しみでした~。そうですよねぇ~?」
間延びしたポーラの言葉と耳に掛かる吐息がこそばゆい。追加攻撃を受けた金剛はそのままへたり込むと、私の方に視線をやった。自然と周囲の艦娘も私達に視線を向けた。
「テートク……どういうことデスか?」
脱力した金剛はやっとのことで言葉を紡ぐ。一方のポーラも堂々と宣言した割には、頬を赤らめて恥ずかしがっている様子だ。
このままでは、埒が明かない。そう思った私は、ポーラを引き離し、立ち上がる。金剛の視線が痛い。それどころか、今、食堂に集まっている艦娘全員の視線が、私に集まっている。ひそひそと言葉を交わし、ある者は、その意味を理解して、顔を真っ赤にして、うつむいている。間宮が何事かとカウンターから顔を覗かせている。
「あっ……その……」
ダメだった。何かを口にしようとすると、喉が詰まって上手く声が出せない。こういう時に男は弱い物だ。まるで浮気を妻に糾弾されたような感覚に陥る。私にはそういう相手もいなければ、金剛とはそういう関係でも無い。だが、自分に負い目があると思うと、委縮してしまうものだった。
既にポーラの言葉の意味は、食堂にいる皆に知れ渡ったことだろう。一様に、固唾を飲んで私の言葉を待っている。強烈なプレッシャーを跳ね除け、口に出来たのはこれだけだった。
「その……すまん」
結局、それ以外の言葉は出てこなかった。軽蔑するなら軽蔑すればいい。だが、これは紛れも無い事実だ。もう開き直るしかない。金剛の表情は落胆の色に染まり、周囲の艦娘達もにわかに騒ぎ出す。遅かれ早かれこうした事態になることは予想できていたが、まさか、こんなに早いとは。
「嬉しいです~」
ひっしりと私の腕にしがみ付くポーラ。もう、振り払う元気さえも無い。とにかく、これからは誠意をもって、皆に接していこう。そうすれば失われた信頼もいつしか取り戻せるかもしれない。
そんなことを思いながら、覚悟を決めた瞬間、ポーラが手を打ち鳴らし、皆の注目を集めた。
「えっとですねぇ……その、ポーラはテイトクを独り占めする気は無いんですよぉ。だから、ポーラの物でもあり、みなさんの物でもあるというか……好きにヤっちゃってイイですヨ」
動きを取り戻した空気がそのまま凍り付く。ポーラの言葉。それはどういう意味か。一瞬の思考停止の後に、昨夜の光景が蘇ってくる。お互いに求め合った昨晩の光景が。
「ポーラ、それはどういう意味だ?」
一応、聞いてみる。ポーラは言葉では答えなかった。代わりにいつものにへらっとした表情で軽いジェスチャーをする。握りこぶしを作って、人差し指と中指の間に親指を突き入れた。そして、その親指を前後に動かして見せる。女の子がそんなことをしてはいけません。
「ツマリ……寝取ルノハアリダト……?」
金剛の言葉に、ポーラは笑顔で答える。
「はい~。ポーラも寝取りますよ~」
凍っていた時間が再び動き出す。再びどよめきが広がり、そして、伝播していく。彼女の言った言葉の意味はもはや考えるまでも無い。
こうして、私の所有権は鎮守府全体の共有財産となった。これから、わが身がどうなるのか。それは誰にも分からない。ただ、何処からか感じる視線は、鋭く獰猛な野獣のようで。とりあえず、遺書でもしたためておこうかと考えるのだった。