ーーーAM5:00ーーー
昨日、早く眠ったからかカイトはいつもより早く目が覚めた。
二度寝は出来そうに無いし特にやる事も無いのでカイトは豪邸の中を散歩してみることにした。
中庭に差し掛かると演習場に明かりがついているのを発見した。
『こんな朝早くから...誰かいるのかな?』
カイトは演習場の中をこっそりと覗いてみた。
そこには弓道着を着たアキラが弓の鍛練を行っていた。
『...アキラさん』
弓矢の完璧なコントロールとその凛とした姿にカイトは思わず見とれていた。
するとアキラは弓を急に構えるのを止めてこう言った。
『そんな所で見てないでこっちに来て座って見たらどうだ...』
『えっ...いや、 いつから気づいてたんですか!?』
カイトは言った。
『...そんなにじっと見られていたら嫌でも気づく』
アキラは溜め息をついて言った。
『...すいません』
カイトは申し訳なさそうに言った。
『...そこに座れ』
アキラはカイトに座るように言った。
『失礼します』
カイトはその場に正座した。
アキラは再び鍛練を始めた。
どんどん的の中央をいぬいていく。
カイトはそんな姿を綺麗だと思った。
そして、それと同時に自分の彼への思いはガチなんだと思い知らされて自分が自分で嫌になった。
『......やってみるか?』
アキラはそう言って自身の持っていた弓と矢を差し出した。
『えっ...僕がですか?』
カイトは言った。
『...ここにはお前と俺しかいないだろ』
アキラは言った。
『はっ...はい是非!!』
瞬時に立ち上がろうとしたが、慣れない正座のせいで脚が痺れていた為、立つことが出来なかった。
『いたた......』
『ちょっと待ってください......今、立ちますから』
カイトは生まれたての子馬のようにプルプルと震えながらなんとか立ち上がった。
『......』
アキラは何をしているんだコイツはといった感じの顔でそれを見ていた。
カイトは立ち上がってアキラから弓と矢を受け取り構えてみた。
『こっ...こうですか?』
『違う。こうだ』
アキラはカイトの背後に立ち正しい構え方に手直しする。
『......』
カイトはそんなアキラを見つめていた。
...近い そう思った。
『...何だ?』
アキラは視線に気づき不機嫌な表情を浮かべる。
『あっ...いや、その......すいません』
カイトは咄嗟に視線を外して言った。
『やってみろ』
アキラはカイトから離れてそう言った。
『はっ...はい!!』
カイトはそう言って的に向かって矢を放った。
矢は見事的の中央をいぬいた。
『...やった!! 中央に当たりました‼』
カイトはアキラの方を見た。
『....』
アキラは予想外な展開にキョトンとしていた。
こんな表情もするんだ。カイトはそう思った。
すると演習場のドアがノックされ篠原が朝食を運んできた。
『おはようございますアキラ様。朝食のご準備が整いました』
『...おや? 貴方は』
篠原はカイトを見て少し驚いた様子で言った。
『おはようございます。すぐに鳴瀧さんの分もご用意させますのでしばしお待ちくださいませ』
篠原はそう言って演習場をあとにした。
『えっ...いや、僕は』
カイトの声は篠原には届かなかった。
しばらくするとカイトの分の朝食も運ばれてきてなんやかんやで一緒に朝食を摂る事になった。
美味しそうなサンドイッチだ。
篠原が紅茶を淹れてくれた。
ふと向かい側に座るアキラを見ると尋常じゃない量の角砂糖を紅茶の入ったティーカップへと投入しミルクもたっぷりと注いでいた。
『......!?』
カイトは驚いた。
『...アキラ様、はしたないのでお止めください』
篠原は呆れた様子で言った。
『...うるさい』
アキラは言ってそれを飲み始めた。
『あの...。いつもこんな早い時間から弓の練習をされてるんですか?』
カイトはアキラに尋ねた。
『ああ、日中にやるとメイド共の視線で気が散るからな』
アキラは言った。
『確かに。あれだけ集まられたら気が散っちゃいますよね』
カイトは言った。
『......』
『......』
カイトもアキラも次の会話の話題が出てこない。
それを見兼ねた篠原が助け船を出した。
『そういえば鳴瀧さんは筋がよろしいですよね。中に入る前に見事的の中央をいぬいたところを見せて頂いたのですが、こちらにお越しになる前に弓のご経験がおありなんですか?』
『いいえ、弓どころか何も習った事無いんです』
カイトは言った。
『そうでございましたか。いゃあ~もしかすると今まで使っていなかっただけで“秘めた才能”がおありなのかもしれませんよ』
『あっ...そうだ! 鳴瀧さんさえ良ければこれから毎朝演習場で鍛練をされませんか?』
篠原はニコニコしながら言った。
アキラは紅茶を吹き出しむせ混んだ。
『えっ...毎朝ですか!?』
『でも、僕の武器って剣だし...。アキラさんの邪魔になっちゃうんじゃ』
カイトは申し訳なさそうにアキラを見て言った。
『実は、アキラ様はありとあらゆる武器を使いこなせるんです。剣なんて弓の次にお得意なんですから』
篠原はニコニコしながら言った。
『アキラ様も共に鍛練をするお相手がいらっしゃるほうが鍛練にもより力が入るというものでしょう?』
篠原はニコニコしている。
『篠原、 ...お前』
アキラは篠原を睨み付けた。
篠原はアキラにウィンクした。
『いっ...良いんですか? 鍛練に僕も参加して......』
カイトは言った。
『......好きにしろ』
アキラは溜め息をついて言った。
『あっ...ありがとうございます‼』
カイトは嬉しそうに言った。
カイトはサンドイッチを食べ始めた。
『...篠原、来い』
アキラはそう言って篠原の胸ぐらを掴んで演習場の外まで連れ出した。
『お前...どういう風の吹き回しだ?』
アキラは言った。
『どうと言われましても...。私は主人である貴方様の意思に添っただけの事。お二人が親交を深める為のちょっとした“きっかけ作り”をしたまでです』
篠原は言った。
『奴に近づくのは親交を深める為じゃない...監視だ』
アキラは言った。
『...監視だとしてもです。では、お言葉ですかアキラ様。あの方に近づくと言っても作戦はお考えになられていたのですか?』
篠原は言った。
『....』
アキラは部が悪そうに黙っている。
『ほら、何もお考えでないじゃありませんか』
篠原は言った。
『...うるさい。だが、あれはさすがに強引すぎる』
アキラは言った。
『まあまあ、ご本人は嬉しそうなんですから良いじゃありませんか』
篠原は言った。
アキラは嬉しそうにしているカイトをチラッと見てから溜め息をついた。
『......今回だけは褒めてやる』
『フフっ...お褒めに預かり光栄でございます』
篠原は笑顔で言った。
『...相変わらず胡散臭い笑い方しやがって』
アキラは言った。
『おや? 心外ですね』
篠原はその場にかしづき、途端に真剣な表情をして言った。
『私は貴方様の忠実なるしもべ...。この世に生を受けた“あの日”から......全ては貴方様の為に』
『...だと良いがな』
そう言ってアキラは演習場をあとにした。
そんなアキラを篠原は黙って見送った。
ーーーAM10:00ーーー
カイト達7人はリビングに集められた。
『皆、集まったな』
『これより任務の説明をする』
サトミは言った。
『今回の任務はクラブハウス“ジョーカー”で起きた無差別殺人事件、あれを起こしたディアーボルス中級型の討伐だ』
『ジョーカー...』
ユウキは呟いた。
...昨日、タクヤが遊んでいたクラブハウスだ。
『.....?』
カイトはユウキの様子が少しおかしい事に気づいた。
『ちょっと質問いいですか?』
ハヤトは言った。
『何だ003』
サトミは言った。
『確か、中級型って人間には化けられないんですよね?』
『どうやってクラブハウスに入ったんですか?』
ハヤトは言った。
『事前にクラブハウス内に潜んでたとか?』
『いや、今回のディアーボルスは生物に寄生する“カンディル型”。個体自体の戦闘能力こそ低いが、他の生物に寄生することでその生物の戦闘能力をそのまま受け継ぐことが出来るんだ』
『現に寄生されていた本人はボクシングの現役チャンピオンだしな』
サトミは言った。
『寄生する奴までいるのかよ...』
キョウスケは言った。
『...で? 居場所はわかっているんですか?』
ハヤトは言った。
『嗚呼、だが今の家主が使い物にならなくなればすぐに新しい家主を探すだろうからな。牛や豚なら1~2ヶ月、人間ならば持って1週間といったところだ。寄生日がわからないとなると......事は一刻を争う』
サトミは言った。
『本当は聞きたくねーんだけど....。そいつってどっから寄生するんだ?』
キョウスケは言った。
『我々の調べによると、穴があれば何処からでも入るようだ。まあ...尻の穴または尿道から入るのが一番多いらしいがな』
サトミは言った。
『聞かなきゃ良かった......』
キョウスケは頭を抱えながらそう言った。
『ちなみに、今回は004、005、006も同行してもらう』
サトミは言った。
『えっ...ちょっ!! 何でまた...』
サトルはお尻を押さえながら言った。
『そんな...冗談じゃないわ‼』
アスカは言った。
『貴様らに拒否権は無い』
サトミは言った。
『...っ!?』
アスカは何も言えなかった。
『...』
サトルは黙ってしまった。
1人の隊員がリビングに入ってきて言った。
『サトミ様、出発の準備が完了致しました』
アスカは、またいつもの頭痛を感じた。
またか...何だか最近頻度が増えている気がする。
すると、脳裏に真っ白なパジャマを赤く汚して憔悴しきった状態で床に倒れているアキラの姿が浮かんだ。
...何、いまの。これってあの御曹司?
アスカはアキラを見た。
『どうした005』
サトミは言った。
『いいえ、...何でも無いわ』
アスカは言った。
『...そうか』
サトミは何かを察しているようだった。
ーーー同時刻 都内のコンビニ駐車場ーーー
タクヤが大量に菓子パンとジュースを買って出てきた。
そして、それをバンド仲間に届ける為に音楽スタジオに向かう途中。建物と建物の間の狭い路地にうずくまっている男性を見つけた。
『お~い、おっさん。 こんな所で寝てたら風邪引くぜ......って何だよその血!?』
その男性は顔中が血だらけだった。
『コレ...ダ...メダ......アタラシ..イノ...』
その男性から人間のものとは思えない声がした。
タクヤのほうを見たその男性の目は黒目の部分が白く濁り目と鼻からは血が大量に出ていた。
タクヤは悲鳴をあげてその場に腰を抜かした。
『コイ...ツデイ......イヤ』
男性の口から魚のような物体が飛び出してきてタクヤの口に入っていった。
先程まで悲鳴をあげて腰を抜かしていたのがまるで嘘のようにスッと立ち上がったタクヤはこう呟いた。
『凡人だな......。まあいい、新しい家主が見つかるまでの繋ぎだ』
『まずは...腹ごしらえか』
そう言ってタクヤは大通りへと続く道に目をやった。
ーーー寄生者の自宅に到着ーーー
サトミはインターホンを鳴らす。だが反応は無い。
『...留守のようだな』
サトミの無線機に連絡が入る。
『どうした。 ......何だと!?』
『どうしたんですか?』
ハヤトは言った。
『...ターゲットが家主を替えた。先程隊員が家主の死体を見つけたようだ』
サトミは言った。
『...僕ら、一足遅かったみたいですね』
ハヤトは言った。
『そんな...早く探さなきゃ!!』
カイトは言った。
『寄生された奴に特有の特徴とか出ねーのか‼』
キョウスケは言った。
『...焦点の合っていない両目、青白い顔、異常なまでの発汗、痙攣しながらの歩行』
アキラは呟いた。
『...んだよ急に』
キョウスケは言った。
『...寄生された人間の身体的特徴だ』
アキラは言った。
『えっ...? ああ、教えてくれたのか。ありがとな』
キョウスケは言った。
『全隊員に継ぐ...‼ 特徴は焦点の合っていない両目、青白い顔、異常なまでの発汗、痙攣しながらの歩行だ。直ちに見つけ出して殺せ‼』
サトミは言った。
『貴様らも捜索にあたれ、見つけ次第私に連絡しろ』
サトミはユウキ、サトル、に言った。
『わっ...わかったわよ』
アスカは言った。
『...帰りたい』
サトルは泣きそうだ。
『....』
ユウキは黙っていた。
それぞれ自分なりの探し方で捜索を始めた7人。
キョウスケとカイトはとりあえず走って手当たり次第に。
『......っ!?』
カイトは急に立ち止まった。
『いる......。キョウスケさん、あっちです‼』
カイトは再び走り出した。
『...どうした?』
『ちょっ...おい待てよ!!』
キョウスケはカイトのあとを追った。
サトル、アスカもキョウスケ達と同様に手当たり次第走って探す。
ハヤトは他隊員と共に都内全土の監視カメラを調べる。
アキラはビルの屋上に上り、瞳をとしで意識を集中させる。
アキラは突如目を開いて呟く。
『....そこか』
変身してビルを飛び下りた。
ユウキはとりあえず宛もなく歩いていた。
ふと、懐かしい香水の薫りがした。
『......!!』
ユウキは後ろを振り返った。
そこにはタクヤとおぼしき後ろ姿があった。
何だか足取りが不自然だ。
ユウキはその男性を追いかけて顔を覗きこんだ。
『タクヤ...!!』
その男性は間違いなくタクヤだった。
そして、両目の焦点は全く合っておらず、顔は青白く、異常なまでに発汗していた。
『これって.....』
ユウキはサトミが言っていた。寄生された者の身体的特徴を思い出した。
『お前...こいつの知り合いか? 調度いい、腹が減って死にそうだったんだ』
タクヤはそう言ってユウキの首を絞め始めた。
『ちょっ...やめ......て』
ユウキは遠のく意識の中でタクヤとの良い思い出も悪い思い出も走馬灯のように思い出した。
カイトは走る。
アキラはビル伝いにその場所へと向かっていく。
第10話【寄生】END...