『志熊君~』
一人の少年が駆け寄ってきてサトルに笑顔で話しかけてきた。
『あっ!! 小野寺君。奇遇だね~』
サトルはご機嫌そうに言った。
彼は小野寺オサム。サトルのアニオタ仲間だ。
『...買えた? 例のアレは』
オサムはニヤリとした。
『...ムフフ。 勿論』
そう言ってサトルはドヤ顔で袋から写真集を取り出した。
『...見たまえ! この神々しい姿を!!』
『おおー‼ 水樹○々様の写真集‼ しかもサイン付き! お願いちょっとだけ...ちょっとだけ触らせて!』
オサムは興奮している。
『ダーメ。これは足を運んだ者の特権です!』
サトルはドヤ顔をしながら言った。
『くぅ~。僕も行きたかったな。○々様のサイン会...』
オサムはしょんぼりした様子で言った。
『握手は...? ○々様と握手はしたの!?』
『手は...? 手の感触は如何に‼』
オサムは興味津々だ。
何だか息も荒い。
『...勿論。 柔らかくて綺麗な手だった』
サトルはその時を思い出すかのように瞳を閉じながら言った。
『んあああァァァァァ‼ もう間接でも何でも良い!! ちょっと握手させて!』
オサムはそう言ってサトルの手を強引に握り始めた。
『ちょっ...www オサム君。 触り方w......触り方がキモいwww』
サトルはオサムの手の触り方がくすぐったすぎて笑った。
『...あのバカ。また女声優にデレデレして』
物陰から見ていた少女は呟いた。
ーーーその数ヵ月後ーーー
今日は卒業式。
アニオタではあったが、持ち前の明るさでクラスメイトからの人気もそこそこあったサトルは今日。
何不自由なく中学生活を終えようとしていた。
卒業式の後、突然1人の少女に呼び止められた。
『ねぇサトル...。ちょっと面貸しなさいよ』
『えっ...? ああうん』
サトルはその少女についていった。
サトルの周りにいたクラスメイトは口々に言った。
『ねぇ。今サトル君に話しかけた子って......』
『隣のクラスの水原リンカだよな...?』
『ああ、ちょっと素行悪いけど可愛いって有名な子じゃん‼ サトルの奴いつからそんな仲良く...』
『知らなかったの? サトルとリンカって幼馴染みなんだよ? しかも家も近所』
『サトルめ...羨ましすぎる‼』
ーーーーーー
校舎裏に着いた2人。
『ねぇ、リンカちゃん。こんな所に呼び出してどうしたの?』
サトルは不思議そうに言った。
『...好きなんだよ。あんたの事が』
リンカは言った。
『...リンカちゃん、今なんて?』
サトルは驚いた。
『だから好きなの...!! あんたの事が!!』
リンカは顔が真っ赤だ。
『......えェェェェェ‼』
サトルは言った。
『...付き合ってなんて言わない。 だけど、引っ越す前にこれだけは言っておきたくて......』
リンカは言った。
『いやいやいや待って!! 今までそんな素振り全然無かったよね!? ...それに引っ越すってどういう事!?』
サトルは動揺した。
『...そんな素振り出来る訳無いじゃん。だって、あたしこんなだし、家あんなだし......』
リンカはうつむいてそう言った。
『...離婚するの。うちの親』
『でね? ...あたしはママのほうに行く』
リンカはうつむいたままだ。
『おばさんとおじさん離婚するの?』
サトルは驚いた様子で言った。
『...うん』
『...てか感想!! 告られた感想は?』
リンカは赤面しながら言った。
『いや...なんて言うかその......、リアルで告られた事なんて始めてだからよくわかんない』
サトルは少し悲しそうな顔で言った。
『全く...これだから2次元オタクは』
リンカは溜め息をついた。
『あっ...今2次元バカにしたな‼』
サトルはムッとした。
『2次元じゃない! 今はあんたをバカにしたの!!』
『こっちは意を決して言ったっていうのに......』
リンカもムッとした表情で言った。
『....ありがとう。正直、そう思っててくれて嬉しいよ』
サトルは悲しげに微笑んだ。
『...!?』
リンカは驚いた。
『...でも、ごめん。自分がアニオタ云々の前にリンカちゃんの事を......、幼馴染みの事をそう見れないっていうか』
サトルは言った。
『...そう。 良いよ別に』
『...言えただけで、あたしは満足だから』
リンカは涙を堪えた。
『じゃあ、あたしもう行くね?』
『...うん』
サトルも泣きそうだ。
『...さよなら。サトル』
リンカは言った。
『...うん、さよなら。リンカちゃん』
サトルは無理に笑顔を作って言った。
リンカは足早にその場を去った。
リンカを見送ったサトルは1人その場に残り、こう呟いた。
『...まさか両思いだったなんて。それなのに振っちゃうなんて。 僕って本当に最低だ...。でも、僕には君の彼氏になる自信がないんだ』
『ごめん。 本当にごめんね...、リンカちゃん』
サトルは1人泣いた。
ーーーサトル 当時高校3年生ーーー
高校生になってもそれなりに充実した生活を送っていたサトル。
そんなある日の朝、1つのニュースに目を奪われた。
『新人アイドル...水原リンカ?』
『...!?』
『そっか...、夢が叶ったんだ!』
サトルはそう呟いて嬉しそうにスマホで調べ始めた。
そう、リンカはアイドルになっていたのだ。
幼い頃から歌や踊りが得意で自身でも『将来はアイドルになる』と言っていた彼女。
彼女はその夢を叶えたんだ。そう思うとサトルは嬉しくなった。
それからのサトルはグッズ購入やライブ参戦など、あの日傷つけてしまった事への罪滅ぼしのように影ながら応援を始めた。
ーーーーーー
『...あっ』
その1ヶ月後、塾の帰りに偶然出会ってしまった2人。
あんなお別れをしてしまったからか何を話して良いのかお互いわからない。
しばらく沈黙が続いた。
『...話すのは久し振りだね。中学の卒業式の以来かな』
『まあ、ライブにはちょくちょく来てたみたいだけど』
リンカはクスっと笑った。
『しっ...知ってたの!?』
サトルは驚いた。
『あんな悲しそうな目でこっちを見るお客さんなんて...嫌でも目に入るっての』
リンカは呆れた様子で言った。
『なになにぃ~? 自分で振っといて実は未練タラタラで、いつも来てくれるのはその罪滅ぼし的な?』
リンカはニヤニヤしながら言った。
『...』
サトルはうつむいたまま黙っている。
『....図星かよ』
リンカは頬を膨らませた。
『...』
『...』
またしばらく沈黙が続いた。
『...今度、ドームでライブやるんだ』
『だから...。 はい、これあげる』
リンカはそう言ってライブのチケットを出した。
『どっ...ドームで!?』
サトルは驚いた。
『特等席チケット1枚やるから誰か親でも友達でも呼べって社長は言うんだけどさ...。 ママは仕事忙しいし、あたし友達なんていないし』
『なんて言うか、その......良かったら来てよ』
リンカは少し気まずそうに言った。
『僕で...、良いの?』
サトルは困惑した。
『...嫌ならいい』
リンカはそれをバックの中にしまおうとした。
『いっ...行きます‼ 行かせて下さい‼』
サトルは咄嗟にチケットごとその手を掴んだ。
『...!? ごっ...ごめん!!』
サトルはリンカの手から自分の手を離した。
『べっ...別に気にしてない......』
リンカは顔が真っ赤だ。
『じっ...じゃあ、はいこれ』
サトルの手にチケットが強引に握らされた。
『あっ...あたしもう行くから!』
リンカは走り去ってしまった。
サトルはその後ろ姿を唖然とした様子で見送った。
ーーーライブ当日ーーー
本日の会場も大盛況だ。
やはり女性アイドルだからか男性客が圧倒的が多い。
『...相変わらず凄い数だな』
サトルは人混みを縫うように歩いた。
席につくとサトルはペンライトの準備をし始めた。
ーーーライブがスタートーーー
ライブが始まるとリンカの名を呼ぶ野太い声が飛び交った。
『リンカちゃぁぁぁぁぁん!!』
『L・O・V・E リ・ン・カ』
ステージ上でリンカが歌い踊る。
その姿は裏も表も少女を極めた強くも儚げな姿だった。
『リンカちゃぁぁぁぁん‼』
サトルも全力で名を叫んだ。
そんな時だった。1人の中年男がステージ上に上がろうとした
『ちょっと、何してるの君。ステージに上がってきちゃダメじゃないか』
止めに入るスタッフ達。
だが、次の瞬間。その中年男の右手が獰猛な獣の腕に変化し、スタッフの首を次々と切り裂いた。
『いやァァァァァァァァァァ』
リンカは悲鳴をあげる。
客達も次々と悲鳴をあげ、逃げ出す。
『...なんなんだアレ』
サトルは腰が抜けて動けなかった。
『リンカ...僕とひとつになってよ』
中年男は言った。
『君を...愛する人を食らえば。僕はもっともっと強くなれる』
中年男は息が荒い。
『こっ...来ないで‼』
リンカはマイクを投げつけた。
そのマイクは見事中年男の頭に命中し、中年男は頭から血を流した。
流れた血を手で触ったそいつは急にこう叫んだ。
『何で...何でだァァァァァァァァァァ‼』
そいつは全身が熊のような姿へと変貌しリンカに襲いかかってきた。
『...!?』
『リンカちゃん‼』
サトルは咄嗟にステージに上がりリンカを庇った。
サトルの背中にそいつの鋭い爪が食い込む。
『...っ‼』
『...サトル!?』
リンカは叫ぶ。
『逃げるんだ......早く』
サトルはか細い声で言った。
そして、意識を失った。
『...行くぞ‼ リンカ!!』
スタッフがリンカの手を無理矢理引いた。
『嫌だサトルが!! サトルが!!』
リンカは泣きながら叫ぶ。
『...叫んじゃってごめんね。でもリンカが僕に酷いことするから悪いんだよ?』
『さぁリンカ...僕とひとつになろう』
そいつはゆっくりとリンカ達に向かって歩き出した。
リンカとスタッフは必死に走った。
リンカ達を追う中でそいつは次々と人間を殺していった。
非常口のドアが開かない。
スタッフとリンカは必死にこじ開けようとした。
『何で...!! 何で開かないのよ...もう‼』
『君達が探しているのはこれかい?』
そいつは血塗れの鍵をしばらくこちらに見せてから目の前でそれを飲み込んだ。
『...!!』
スタッフは驚いた。
『...リンカ走れ』
『...!? スタッフさん!?』
リンカは言った。
『良いから.........。走れェェェェェェェェェェ』
『うおォォォォォォォォ』
そう言ってパイプ椅子を持ったスタッフはそいつに立ち向かった。
『いやァァァァァァァァァァ』
リンカは泣きながら走った。
『逃がさないよ』
そう言ってそいつはリンカの両足の腱を爪で切り裂いた。
悲鳴をあげて倒れ込んだリンカ。
『痛い...痛いよ。 もう嫌、誰か......誰か助け.........て...』
リンカは泣きながら這いつくばって逃げようとした。
そいつがリンカの背中を刺そうとした次の瞬間。
仮面ライダースペルビア(アキラ)がそいつの四肢を自身の弓で切り落とした。
『......アキラさ...ん』
胴だけとなり、その場に倒れたそいつはそう言い残し動かなくなった。
『...これで満足か。ジジィ』
変身を解除したアキラは無線機に向かってそう言った。
『大満足だよアキラ。 さすがは私の自慢の息子だ』
『そうだな...。生存者の皆さんには彼の事は“突如ライブに現れた通り魔”とでも記憶改ざんしておこうか』
志藤は無線機に向かって満足気に言った。
『...わかった』
アキラはそう言ってポケットから怪しげな注射器を取り出し、怯えるリンカに詰め寄る。
『いや......、いや! 来ないで‼』
リンカは這いつくばったままアキラから必死に逃げようとする。
『...っ!?』
それを刺されたリンカは気を失った。
『悪く思うなよ...。 これはあんたの為でもあるんだからな』
アキラは悲しげな表情を浮かべてそう言った。
ーーーーーー
病院で目が覚めたサトル。
『...サトル!! 目が覚めたのか』
そこには父と母がいた。
『母さん...ここは?』
サトルは言った。
『病院よ。貴方リンカちゃんのライブに行って通り魔にお腹を滅多刺しにされたの......リンカちゃんを庇って...』
『もう目を覚ましてくれないんじゃないかと思って、母さん......』
母は泣き出した。
『お腹...? 背中じゃなくて?』
サトルはそう言ったが触った感じ自身の背中に傷は無かった。
自分の気のせいだったのだろうか。
その2ヶ月後。自身は無事に退院できたが、リンカの傷はあまりにも酷く医者にはもう立てないと言われてしまった。
側にいたのに守れなかったという自責の念と犯人への憎しみでその後のサトルの生活は荒み、遂には高校も中退、未だに捕まっていない通り魔への復讐に信念を燃やす生活を始めた。
手始めに持ち前のPC技術を駆使し通り魔の個人情報をばらまく、そして銀行口座を荒らす。
そんな中、ある情報を掴みかけたサトルは突然逮捕される事となり今に至った。
ーーー回想シーン終わりーーー
『...今はシンガーソングライターなんだね』
『そっか...。前と形は違うけど、君はまた新たな夢に向かっているんだね』
サトルは呟いた。
ーーー同時刻 志藤邸の地下隔離施設ーーー
1つの部屋が開けられた。
『出てきなさいタカシ君。 君に外出許可を出そう』
志藤は中にいる中年男に笑顔で言った。
『ンアァァァァァァァァァァ‼』
中年男は獣のような唸り声をあげて志藤に殴りかかってきた。
サトミが中年男を蹴り飛ばした。
『まあ、落ち着いて聞きたまえ』
『君だって、愛しいリンカちゃんにまた会いたいだろう?』
志藤は言った。
『りんか...?』
『りんかぁぁぁぁぁ!!』
『りんかぁぁぁぁぁ!!』
中年男はそう叫びながら壁に頭を何度も打ち付け始めた。
『ははは...。彼女の事になると愉快だね...君は』
志藤は笑顔で言った。
『ここに彼女が明日ライブをする住所を書いておいたから会いに行くといい』
『...彼女も君にとても会いたがっていたよ?』
志藤は言った。
『ほんとう...?』
中年男は打ち付けるのを止めてそう言った。
『...ああ、本当さ』
志藤はニヤリと笑った。
『うんわかった! じゃあ、あいにいく』
『まっててね。 りんか!』
志藤からそのメモをぶん取った中年男は急に子供のようにはしゃぎ出した。
第16話【水原リンカと熊男】END...