『ぼっ...僕が......』
サトルは立ち上がり拳を構えた。
だが、その体は震えている。
『...無理だよ‼ 喧嘩だってしたことないくせに』
リンカはサトルの脚を掴んで必死に訴えた。
『りっ...リンカちゃんは黙ってて‼ 』
サトルはリンカのほうを見て言った。
『 僕だって...僕だって.........あの人達みたいに...』
そして、再び熊型に視線を戻す。
サトルの脳裏にはカイト達の戦う姿が浮かんでいた。
『...!?』
熊型は足を止めた。
『......んで』
熊型は言った。
『...んで?』
サトルは首をかしげた。
『...なんでおまえがなれるんだよ!!』
熊型は叫んだ。
『なれる...?』
サトルは言った。
『なんでおまえが“アツェディア”になれるんだよぉぉぉぉぉぉ!!』
そう叫んでその男はサトルに襲いかかってきた。
『あっ...アツェ?』
『くっ......来るなら来い‼』
サトルは再び構えた。
『おっ...おりゃ‼』
熊型をパンチで迎え撃つサトル。
『ぐっ...!!』
熊型は怯んだ。
へなちょこなパンチだったが熊型にはなかなか効いているようだ。
『やっ...やった!』
『......逃げようリンカちゃん』
サトルはリンカを再びおんぶして走った。
『やっぱりダメじゃん‼ この弱虫‼』
リンカはそう言ってサトルの頭をポカポカと殴った。
『だっ...だって』
サトルは言った。
『...なめやがって。 ぶっころしてやる‼』
熊型は執拗に追いかけてきた。
廃墟内を走りに走った2人は行き止まりに行き着いてしまった。
『行き止まり.....そんな』
サトルは言った。
『...全く、あんたらしいよね』
リンカはうつむいてフフっと笑った。
『リンカちゃん...?』
サトルはリンカのほうを見た。
『でも、最期の最期にあんたに会えて良かった......。ねぇサトル、下ろして』
リンカはうつむいたままでそう言った。
『う....うん』
サトルは自身の背中からリンカをおろし、地面に座らせた。
『...耳貸して』
リンカはサトルに耳を貸すように促した。
『えっ...何?』
サトルはリンカの言う通りにリンカに顔を近づけた。
するとリンカは突如サトルの頭を掴み強引に顔を真っ正面に向け、唇を奪った。
『...!?』
サトルは驚いた。
ゆっくりと唇を離したリンカは言った。
『...冥土の土産よ。 大事にしなさいよね』
『...リンカち!ん』
そう言ってサトルはリンカをぎゅっと抱きしめた。
『“冥土の土産”なんて言わないで。 ごめんね。 僕...もう逃げない』
自分の中で『そうこなくっちゃ♪』という声がしたような気がした。
遂に2人の隠れていた部屋の壁が蹴破られた。
『ころす‼ころす‼ころす‼ころす‼ころす‼ころす‼ころす‼』
熊型は怒りで理性が飛んでしまったようだ。殺す‼しか連呼していない。
すくっと立ち上がったサトルは強い口調でこう言った。
『やれるもんなら......やってみろ‼』
そのマスクの複眼は怪しく光っていた。
『...? しねェェェェェェェェ‼』
男は襲いかかってきた。
『はぁ!』
サトルは男にキックを食らわせた。
素人のものとは思えない大変重いキックだ。
『ぐっ...』
熊型は思わず膝をつく。
『このくらい』
すぐに立ち上がろうとした。
『......!?』
だが、立ち上がれなかった。
『ちからが......でない』
サトルは男に間髪入れずにキック、パンチを食らわせる。
熊型は防戦一方だ。
熊型は、ますます身動きが取れなくなってきた。
呼吸も満足に出来ない程にまでなってきた。
『...!? はぁ...っはぁ......』
6発目のキックを熊型に食らわせようとした次の瞬間。
何を思ったのかサトルは攻撃をやめた。
『...?』
熊型はサトルを見上げた。
『次...僕が蹴りを入れたら貴方は呼吸をする力すら無くなって死ぬ。 けど、その前に貴方にはしてもらわなくちゃいけないことがあります』
サトルは言った。
『して...もらわ...なくちゃ......いけ...ない.........こと?』
熊型はか細い声で言った。
『きちんと...罪を償ってください』
サトルは声を震わせながら言った。
『...!? 罪を?』
熊型は言った。
『今の僕に貴方の命を奪う事なんて簡単です......でも、僕はしない』
『だって...、そんな事をしたらあの日の貴方と同じになる』
サトルはそう言って悔しそうに両手で握りこぶしを作った。
『...!!』
『おもいだ...したぞ......おま...えは』
...あの日、リンカを庇った少年を思い出した。
『にく......んでな...いのか?』
男は言った。
『ええ...憎いです。 今にも最後の一撃を食らわせて殺してしまいたいくらいに...!』
『だって、好きな子の人生をめちゃくちゃにされたんですよ?.....彼女の事を考えたら何度殺したって気が収まらない!』
サトルは熊型を罵った。
『......お...まえ』
男は言った。
『ふぅ...』
サトルは溜め息をついた。
『....って。主様なら言うのかもだけど、生憎俺っちはそんな優しい心持ってないから♪』
サトルはそう言って男の頭を思いきり踏みつけた。
『...あ.........ああ...』
男はか細い声で悶え苦しむ。
『あれれ? 残り1発じゃダメだったか~。俺っち恥ずかし~www』
サトルは無邪気に笑った。
『なかなかしぶといね~。さすがは“元主”ってところかな?』
サトルは笑いながら男の頭を自身の足で何度も踏みつけた。
『やめてよサトル...!! らしくない‼ このままじゃそいつ...』
リンカはサトルの脚を掴んで必死に止める。
『邪魔しないでくれる』
サトルはリンカを突き飛ばした。
『...きゃっ』
リンカは背中を強打した。
『...てか、お前がそんなだから変なのに好かれちゃうんだぜ? ...自覚しろよなマジで』
サトルはリンカに背を向け、熊型を踏みつけながら言った。
『サトル...、あんた.........』
リンカはそんなサトルをただ見ている事しか出来なかった。
遂に男は息絶え、そこには腐った肉片のようなものだけが残った。
『...やっと死んだか。 手こずらせやがって』
サトルはその肉片を蹴った。
『...』
リンカは恐怖で声も出なかった。
『...やっと追い付いた!! 怪我してない?』
そこにハヤト達が駆けつけた。
皆、変身を解除しサトルに駆け寄った。
『お前がやったのか? ...スゲーな』
キョウスケはしゃごんで肉片を恐る恐るつつきながら言った。
『えっ...!? 1人で倒しちゃったの‼ サトル君凄いじゃん』
『...てか、いつの間に手術受けたの?』
ユウキは首をかしげた。
『はっ...はい。実は昨夜に』
変身を解除したサトルは照れ臭そうに頭をかきながら言った。
『サトル君......なの?』
カイトはサトルに違和感を感じた。
『?...どうかしました?』
サトルはカイトを見た。
『...ううん。 何でもないよ』
カイトは苦笑いしながら言った。
...目の前にいるのは紛れもなくサトル君の筈なのに、何なんだろうこの違和感は。
『...』
アキラは黙ってそれを見ていた。
ーーー志藤邸に到着ーーー
『本当に凄いよサトル君‼ 見直しちゃった。あたしがご褒美あげちゃう......はい、チュー♥』
ユウキはニコニコしながら言った。
『えっ...ちょっ......。心の準備が』
サトルは照れながら言った。
『やめろよビッチ。 お前はリンカちゃんのほうが良いんだもんな~。 な!サトル!』
キョウスケはニコニコしながら言った。
『えっ...!! いや...その』
サトルは赤面した。
『隠したって無駄だぜ? あの子をしょって走ってた時のお前の目......あれは惚れた女を守る目だ』
『良い目してたぜ、お前』
キョウスケは言った。
『鼠田さん...』
サトルは何だか嬉しそうだ。
『...これでまた仲間が増えたね~。サトル君、なかなか心強いし』
『もう敵無しだよね。僕ら』
ハヤトはニコニコしながら言った。
『...カイト君、聞いてる?』
ハヤトはカイトの顔を覗き込んだ。
カイトは考え事をしていた。
...あの時感じた違和感は何だったんだ?
それにアキラさんのあの何か知っているであろう表情も少し引っ掛かる。
『ねぇ、カイト君では‼』
ハヤトは大きな声で言った。
『...!? どうしたんですか?』
カイトはハッとした。
『それはこっちの台詞だよ。どうしちゃったの急に。 具合でも悪い?』
ハヤトは心配そうだ。
『いえ、大丈夫です。 ...それよりアキラさんは?』
カイトは周りをキョロキョロと見渡した。
『ふふっ...君は口を開けばいつも“アキラさん”だね』
ハヤトはニコッとした。
『この前一緒に食事してたけど。仲良いの?』
『...もしかして。付き合ってるとか?』
ハヤトは恐る恐るきいてきた。
『...!? つっ...付き合ってなんてないですよ‼』
『僕はただ...なんとなく心配で......』
カイトは動揺した。
『冗談だよ。もう、カイト君は可愛いなぁ』
ハヤトはクスクスと笑った。
『かっ...からかわないでください』
カイトは赤面した。
『ごめんごめん』
ハヤトはクスクスと笑った。
『アキラ坊っちゃんなら左の廊下を進んでいったよ。なんで心配なのか僕にはわからないけど、心配なら側にいてあげたら?』
ハヤトは言った。
『...きっと、アキラ坊っちゃんもそのほうが良いと思う』
『左ですね。ありがとうございます!!』
そう言ってカイトは左の廊下を走っていった。
ーーーーーー
『お帰りなさいませアキラ様』
篠原が出迎えた。
『...ああ』
アキラはそう言ってベルトを篠原に手渡した。
『“直接継承者”ですか....。よりにもよってアツェディアなんて』
篠原は不満そうに言った。
『?...お前がモニターをチェックするなんて珍しいな』
アキラは言った。
『はい、普段はしないのですが今回ばかりは鳴瀧さんのご活躍が無性に気になりまして...』
篠原は微笑みながら言った。
『残念だったな...。大した活躍を見れなくて』
アキラは鼻で笑った。
『またそんな事を...』
篠原はムッとした。
『...あれはあいつの仕業だな?』
アキラは言った。
『...!?』
『...ええ、恐らく志藤様の仕業かと』
篠原は真剣な眼差しで言った。
『...志熊サトルをライダーとして覚醒させる為に......か』
『まさか、“あの時”既にアツェディアの力を継承していたとはな』
アキラはソファに座り、足を組んだ。
『利用するだけ利用して最期には新たな継承者に殺させるなんて、如何にもあいつが好みそうな処分の仕方だ』
アキラは悲しげにフフっと笑って言った。
『...』
『...お茶にしましょう。 本日はアキラ様の大好きなモンブランをご用意致しました』
篠原は微笑んだ。
ーーーPM10:55ーーー
サトルは何となく洗面台の前に立った。
『惚れた女を守る目......か』
サトルは呟いた。
確かにあの時は...。リンカちゃんにキスをされた時まではそうだったのかもしれない。
でも、その後だ。
正直、自分にはあいつが壁を蹴破った後からの記憶が無い。
次に正気に戻った時には僕の足元にはあいつらしき肉塊が転がっていて回りに皆が集まっていた。
そして、リンカちゃんの自分を見つめる瞳が恐怖に満ち溢れていた。
『あの時の僕は......どんな目をしていたんだろう』
サトルは呟いた。
『こんな目だよ♪ 主様♪』
何処からか声が聞こえた。
『...!?』
サトルは後ろを振り返った。
『どこ見てんの? ここだよ。こーこ♪』
その声は鏡から聞こえた。
サトルが鏡を見るとそこには自分と同じ姿をした黄色い瞳の青年がいた。
鏡の中の自分はクスクスと笑っている。
『...!? 君は...誰なの?』
サトルは驚いた。
ーーー同時刻 都内某所 アパートの1室ーーー
ベッドに1組の男女が裸で横になっていた。
男のほうが布団から出て部屋のカーテンを開ける。
今日は満月、月明かりが部屋いっぱいに差し込んだ。
すると男の体にうっすらと蜘蛛のような無数の目や鋭い牙等が浮かび上がってきた。
『...今日は満月なのね』
女も布団から出てきた。
そして背後から男に抱きつく。
『...醜いだろ』
男は抱きついてきた女に悲しげに微笑みながら言った。
『そんな事無い。私は貴方の本当の姿が......とても好きよ』
女はそう言って男の背中に顔を埋めた。
男は後ろを振り返り女を優しく抱き上げるとその唇に優しくキスをした。
そして、女をベッドに優しく寝かせると再び体を重ね始めた。
頬を赤らめる女。
男はそんな女の体に首から下へと次々に自身の唇を這わせた。
女と握り合っている自身の左手を徐々に怪物の姿へと変化させながら............。
第18話【怠惰の罪】............END