カイトは夢を見た。
原形をとどめていない遺体が沢山転がっていて...、周りは血の海。カイトは吐き気を催した。
そして、夢の中で会った美しい少年はいったい。
カイトの骨折は全治3週間。
それに、牛型を倒したのは自身だと告げられますます困惑するカイト。
そんなカイトの前に志藤が表れる。
特殊任務を命令されるも、それはまさかの“志藤の息子と友達になる事”だった。
『...は?』
カイトは唖然とした。
『君の隣の部屋に住んでいる彼だよ』
志藤は言った。
『...やはり、この歳であのくらいの息子がいるのは不自然かな?』
『私はこう見えてけっこう現役でね。2年前に亡くなってしまったが若い妻がいたんだ』
『親子ほど離れた妻をめとるなんて、 “犯罪”と言われても仕方がないかもしれないね...』
志藤は苦笑いした。
『いっ...いいえ、そんな! 愛があれば年の差は関係無いと思います』
カイトは慌てた様子で言った。
...このお爺さん、ヤバイな。
『そう言ってもらえると助かるよ』
志藤は微笑んだ。
『恥ずかしい話だが......今まで“学校”というものにも通わさず、ただ“討伐”と“実験”のみに身を投じさせてしまったからかな...』
『今まで息子は“友人”という者が出来たことがなくてね...。おまけに他人に興味を示す事も殆ど無いんだ』
『だが、そんな息子が君にだけは...君にだけは興味を示したんだ』
志藤は俯き悲しそうな表情で語り始めた。
『討伐と実験だけに......』
カイトは今朝の戦っていた彼の姿が頭によぎった。
『アキラというんだ...』
『普段は気が強くて人をあまり寄せ付けたがらない子なんだか、本当はとても寂しがり屋でね』
志藤は少し悲しそうに微笑んだ。
『...アキラ』
カイトはその名を呟いた。
自身も始めてあった昨夜(厳密には始めて出会ったのはディアーボルスに襲われた時)月明かりに照らされていた綺麗な横顔が何となく忘れられずにいた。
『あの人が僕をですか...?』
『ああ、正直私にも理由はわからないんだけどね』
『急な頼みで驚いただろう......? ダメだね私も。 我が子の事となるとつい我を忘れてしまう...』
志藤は少し恥ずかしそうにフフっと笑った。
『休んでいるところすまなかったね。私はそろそろおいとまする事にするよ』
『サトミ...押してくれ』
志藤はサトミに車椅子を押されて医務室をあとにした。
『まさか、先生にあんな一面があったとはね』
ハヤトはカイトに言った。
『...あのおじいさん。最初は危ない人だと思っちゃいましたけど、本当は息子思いの優しい人なのかも知れませんね』
カイトはハヤトに言った。
『...』
『そうだね』
ハヤトはニコリとして言った。
ーーー廊下ーーー
『志藤様。あれは少々オーバー過ぎたのではありませんか?』
サトミは車椅子を押しながら志藤に言う。
『そうだったか? なかなか掴みは良かった気がしたがね』
志藤は笑いながら言う。
『我ながら良い演技だったよ。今の私は自分にアカデミー賞を授与したいくらいだ』
『...』
サトミは黙って車椅子を押した。
その日の夜。
自室に戻ったカイトは自身の包帯がぐるぐるに巻かれた右手を眺めながらハヤトが教えてくれた今朝の一連の出来事を懸命に思い出そうとした。
カイトはベットに思いきりダイブする。
『ダメだ...全然思い出せない』
寝返りをうちベランダを見る。
『あの人......いるかな』
カイトはベランダに出る。
今日も綺麗な月明かりがベランダに差し込んでいる。
...空気が美味しい。
カイトは深呼吸した。
カイトは隣のベランダに目をやる。
『......あ』
アキラもベランダにいた。
『......っ!?』
アキラはこちらに気づいた。
慌てて部屋に戻ろうとする。
『待って......、アキラさん!!』
カイトは呼び止めた。
『お前、何故俺の名を』
アキラは言った。
『えっ....? いや、その.......』
カイトは次の言葉が浮かばない。
『...』
アキラはそんなカイトをしばらく睨み付け、すぐに部屋に戻ろうとする。
『あっ....ありがとうございました‼』
カイトは言った。
『....は?』
アキラは足を止めた。
『何て言うかその....あの時助けてくれたから』
カイトは言った。
『...』
『俺は任務を果たしただけだ。お前に感謝される義理は無い』
『それに...すぐにでも“あの時死んでいたほうがマシだった”と言う羽目になる』
アキラはそう言って自室へと戻っていった。
『えっ...それどういう意味ですか? えっ......ちょっと待って‼』
カイトは再び呼び止めたがその声は聞き入れて貰えなかった。
部屋に戻りすぐ窓を閉めてカーテンを閉じる。
アキラは崩れるようにその場に座り込んだ。
そして、力無くフフっと笑い、こう呟いた。
『アイツは...アイツじゃないのにな......』
『本当、どうかしてるよ.....俺』
ーーー翌朝ーーー
カイトは食堂に向かった。
すると、自身が入った瞬間にその場の空気がガラリと変わったのを感じた。
『おっ......おはようございます』
『...おはようございます』サトルは言う。
『...おはよう』ユウキは言う。
『...』アスカは少し怯えた様子ですぐにカイトから目を反らして自身の両肩を抱く。
ユウキ,アスカ,サトルはカイトと目すら合わせてくれない。
ハヤトから聞いた昨日の討伐作戦時の一連の出来事を考えるとこれは当たり前の反応かもしれない。
カイトは収容されていた刑務所でも似たような事があったな......嗚呼、ここでもそうなるのかと思った。
そう、実は刑務所でも似たような経験があるのだ。
あれは確か収容されて1か月くらいの頃だっただろうか。
あまりの酷さに看守も手を焼いていたある受刑者をカイトがボコったというのだがそれも全く覚えていない。
カイトは椅子に座り、目の前に準備されている食事を左手でフォークを使って食べ始めた。
『手痛むか...?』
カイトに誰かが話しかけてきた。
見上げるとそこにはキョウスケがいた。
『はっ...はい。』
カイトは答えた。
『あんな奴等の事は気にすんな』
『アイツらには俺達の気持ちなんてぜってーわかんねーんだからよ』
キョウスケはユウキ達を睨み付けて言った。
『僕の事...怖がったりしないんですか?』
カイトはキョウスケに尋ねた。
『あ? テメーみてぇな奴怖くも何ともねーけど?』
『俺の周りにはテメーみてぇなあぶねー奴なんてウジャウジャいたからな』
キョウスケは言った。
やっぱり“こういう人”はこういう場面に強い。カイトは収容所時代にその沈黙を破り話しかけてきてくれた青年の事を思い出クスクスと笑った。
『何笑ってんだよ...』
キョウスケは眉間にシワを寄せる。
『ちっ...違うんです。別に貴方が可笑しくて笑ってる訳じゃなくて』
『何か...嬉しいなって思って』
カイトは言った。
『...嬉しい?』
キョウスケは尋ねた。
『...怖かったんです。 だって“あんな事”があった次の日でしょ? また一人になっちゃうんだろうなって思ってたから...』
カイトは言った。
『...』
『俺の弟がさ......お前みたいに何て言うんだ。えっ...と“二重人格”って言うのか? そんなだったからさ...』
『お前見てると.........何かな』
キョウスケは照れ臭そうに頭を掻きながら言った。
見た目は如何にも“不良”って感じの人だけど、実は良い人なんだな。
カイトはそんなキョウスケを見てそう思った。
ーーー昼過ぎ 志藤邸の噴水ーーー
『シンスケ君て言うんですか?』
カイトは言った。
『嗚呼、俺と違ってめちゃくちゃ頭良くてさ。 けど...俺の事兄ちゃん兄ちゃんって昔っから慕ってくれてさ』
キョウスケは弟の話を嬉しそうにカイトに話した。
その話を嬉しそうに聞くカイト。
しかし、その目は突然、キョウスケの後方からこちらに向かってくるアキラの姿を捕らえて急にそちらに意識が集中する。
『...カイト? どうかしたのか?』
キョウスケはカイトが見つめる方向を見た。
『...アイツの事見てんのか? てか、何だよあの傷...!?』
アキラの顔には複数の傷があった。
ジャケットが黒いのでわかりづらいがどうやら腹部からも血が出ているようだ。
服も少しほつれている。討伐作戦から帰還してきたのだろう。
『アキラさん...!!』
カイトはアキラに駆け寄る。
『えっ......おい‼ カイト!?』
キョウスケはカイトのあとを追う。
『...』
アキラはカイトを睨み付ける。
『アキラさん...』
『こんなに傷ついて...』
カイトは傷ついたアキラを悲しそうな目で見つめる。
『カイト君ただいま。 いゃあ~今日のも強くてさ。僕疲れちゃったよ~』
『............あれ? もしかして今の僕の扱いって空気?』
アキラの隣にいたハヤトがカイトに言った。
アキラ達の背後にぞろぞろといた武装部隊の1人の無線機に連絡が入る。
『...アキラ様、003。渋谷区にディアーボルス蠍型...上級体のようです。すぐに出発のご準備を』
無線機からの内容を一通り聞いたその隊員がアキラとハヤトにそう言った。
『...!?』
『待って下さい‼ アキラさんは怪我してるんですよ!! まずは傷の手当てをしなきゃ...!!』
『このままじゃ......アキラさんが死んじゃいます』
カイトはそう言った隊員に掴みかかり必死に訴えた。
『...何をする‼ 離せ001!!』
『......あぁぁ!!』
隊員は叫ぶ。
メキメキと音を立ててきしむ隊員の両肩。
カイトが隊員を掴むその両手は尋常じゃない力だった。
頭の中に『...殺せ』『...アキラは死なせない』『俺が守る...』という言葉が次々と浮かんできた。
先程まで両肩を掴んでいた手が次は隊員の首を捕らえた次の瞬間。
『......っ!?』
カイトは我に帰る。
『......邪魔だ』
アキラはそう言ってカイトをその隊員からひっぺがして床に叩きつけた。
掴まれていた隊員はいつの間にかそのあまりの痛みに気を失っていたようでカイトがひっぺがされた途端その場に倒れこんだ。
数名の隊員が慣れた手つきでその隊員を医務室に運ぶ。
『...』
アキラは気絶した隊員を黙って見ていた。
そして、次にカイトのほうを見た。
...こいつ、フューリーとしての覚醒が始まっているようだな。
『...!?』
カイトはアキラと目が合い、ハッとした。
『何すんだ‼ こいつの言う通りだろーが‼』
『そのままじゃテメー......マジで死んじまうぞ‼』
キョウスケは床に叩きつけられたカイトの側に駆け寄りアキラに怒った表情で言った。
『...余計なお世話だ』
アキラは冷やかな目でキョウスケにそう言った。
『....!』
アキラは腹部の傷を左手で押さえ、一瞬、顔が痛みに歪んだ。
左手の指の間から血がドクドクと流れ出た。
アキラは1つ深呼吸をした。
『...行くぞお前ら』
アキラはそう言って残りの隊員とハヤトと共に現場に向かっていった。
『...!?』
キョウスケは思わずアキラに殴りかかりそうになったが、アキラが一瞬見せた痛みに歪む表情と腹部から流れ出る血を見て殴る気が失せた。
『...』
『何でそんな姿になってまで......』
キョウスケは顔が真っ青になった。
キョウスケはハッとした。
『おいカイト‼ 大丈夫か?』
キョウスケはカイトの肩を揺らし、呼び掛ける。
『何なんだ......、今の』
カイトは困惑した様子で自身の両手をただ見つめていた。
ーーーPM9:00 志藤邸 屋上ーーー
カイトは自身の両手を見つめていた。
『......』
あの力は......あの声は何だったんだ?
考えれば考える程に何が何だかわからなくなる。
ただ、今わかる事は自分は完全にあの隊員を“殺そうとしていた”っていう事だけだ。
しかも、アキラの為に。
自身の右頬に急に冷たさを感じた。
『うわっ 冷たっ!!』
カイトは思わずそう口に出る。
『おうっ! 元気ねーなカイト。飲むか?』
キョウスケがカイトの右頬にキンキンに冷えたビールを当てながら言った。
『いや......僕。未成年なんですけど』
カイトは言った。
『....マジか』
『じゃあ、これやるよ』
キョウスケはカイトにキンキンに冷えたペットボトルのコーラを渡した。
『どうしたんですか? これ』
カイトはコーラを受け取り尋ねる。
『キッチンの冷蔵庫から掻っ払ってして来た。あの暴力女も冷蔵庫は自由に使って良いって言ってたからな』
キョウスケは答えた。
そして、ビールをイッキ飲みした。
『昼に見た奴いんだろ...?さっきまた見掛けたんだけどよ。傷が1つも無かったんだよ』
『...っ!?』
カイトは驚いた。
『...あんなに傷だらけだったのにですか?』
『もう訳わかんねーよな』
キョウスケは頭を掻きながら言った。
『あの時、傷だらけだったのが嘘みてーだった。めっちゃピンピンしてたし、いや...まあ腹の傷まではわかんねーけど』
『そうですか......良かった』
カイトは ほっとした。
『...あ!』
『そういゃあ骨折してんだもんな。貸せよ俺が開けてやるから』
キョウスケはそう言ってコーラを渡すように促す。
『えっ...いや。普通に開けれちゃいました』
カイトは右手でキャップを開けていた。
『...!?』
キョウスケは驚く。
『とりあえず、お前も訳わかんねー奴だな』
キョウスケは言った。
『......僕も、自分が自分でわからないです』
カイトは言った。
『...まあ、いいや』
キョウスケはそう言ってタバコを吸い始める。
『にしてもスゲー傷だったよな。俺達も減刑とか無罪とかと引き換えに......あんな奴等と戦わなきゃいけねーのかな』
『...変身出来るって事はカイトはあのじーさんの研究とやらに協力したんだろ? あんな奴等と戦ってまで減刑とか無罪になりてー理由があんだよな...』
『女でも待たせてんのか?』
『いや、彼女いませんし。僕は協力したって言うかなんと言うか......それに理由って言うならキョウスケさんのほうがあるんじゃないですか?』
『ほら、彼女さんに会いたいとかシンスケ君に会いたいとか...』
カイトは言った。
『ははっ。今、女いねーし。シンスケに会うのもな......』
キョウスケは寂しげに笑った。
『......キョウスケさん?』
カイトは不思議そうに尋ねた。
『...なあカイト。ちょっとだけ俺の昔話聞いてくんね?』
キョウスケは悲しそうに笑って言った。
第4話【特殊任務】 END