平凡に、ただ平凡に。
それだけを望んでいた。それだけしか望まなかった。
だけど其れすらも与えられず。
何をしても許されず。
愛する者と共に生きる事さえ許されず。
ならば生きる価値など無い。
私には何も無い。
嗚呼、神は其処に在らず。
若しも神が在るのならば問おう。
神よ、何故私を異形として生んだのですか?
何故私を人として生まなかったのですか?
何故私は。
妖怪なのでしょう。
私は、ただ貴女を愛していただけなのに。
幾千もの遥か昔、一人の妖怪が居た。
民は自分達人間よりも大きな力を持った妖怪を神として崇め奉った。
そんな妖怪は人の心が理解出来なかった。
人々の弱き心が理解出来なかった。
やがて民が住まう地に飢饉が起きた。
飢えに苦しむ人々は耐えた。
人々は妖怪に助けを求めた。
だが妖怪に人々を救う力は無かった。
痺れを切らし、耐え兼ねた人々は同じ人間を喰らい始めた。
人々は妖怪に対して罵声を浴びせた。
飢饉を乗り越え、僅かに生き残った人間は交配を繰り返してまた人を増やした。
そんな人間に嫌気がさした妖怪はその地を離れ、小さな島国へと渡った。
妖怪は小さな島国で細々と生きていた。
ある日、妖怪は深き森で一人の少女と出逢った。
孤独な少女は親に捨てられた哀れな人間だった。
妖怪は少女を拾う事にした。
少女は妖怪と暮らすようになった。
やがて少女は女性へと成長した。
そして女性は妖怪に恋をした。
そして妖怪は女性に恋をした。
二人きりの世界。
ただお互いが居れば幸せで、ただ手を取り合う事が喜びだった。
少女と出逢ってから時は流れ、女性の腹に子が宿った。
妖怪は半妖として生まれてくる我が子に対して申し訳が無かった。
だがそんな妖怪に女性は愛を囁き、幸せを唱えた。
もう一月すれば子が産まれる。
妖怪は初めて人の心を理解した。
幸せを理解した。
少女、また少女と出逢った。
あの森、彼女と初めて出逢った森で。
少女は私の姿を見た瞬間、笑った。
私は初めて恐怖を覚えた、年端もいかぬ幼き少女の浮かべた笑みに恐怖を覚えたのだ。
同時に危機を覚えた、何故なら彼女は私に向かってこう言ったからだ。
「愛してる。血肉も骨も髪の一本さえも」
私は走った。
我が家に向かって走った。
足が千切れる様な錯覚に陥る程に、走った。
そして我が家に飛び込んだ。
血の匂いがした。
地面が真っ赤だった。
小さな肉塊が落ちていた。
それは何処と無く、人間の様な形をしていた。
赤ん坊?
嗚呼、神よ
貴様を
殺してやる
背後から聴こえた爆裂音、振り返った私が見たのは先程出逢った少女の姿だった。
黄金色の髪をした
狂った笑みを浮かべた女
良いだろう
私も
いや、俺も
狂ってやる
そこで意識は吹き飛んだ