此処で捌くと血溜まりが出来てしまいますね…
嗚呼、そうだ。私の隠れ家へ参りましょうか。
よっと。
む…貴方少し重いですね、不摂生はいけませんよ?肉ばかり食べてるからそんな身体になってしまうのです。野菜を摂りなさい、野菜を。
…苦しそうなお顔ですよ?大丈夫ですか?
嗚呼、済みません…右足の止血が充分では無かった様ですね。
まぁ我慢してください、彼方に着いたらちゃんと止血してあげますから。
……暴れられると、鬱陶しいのですが。
嗚呼、最後の晩餐、如何でした?
黙りはいけませんよ?
まぁ良いですけど……感じ悪いですよ?
大丈夫ですか?雨が激しいので寒くありませんか?何なら上着をお貸ししましょうか?
さぁ、着きました。お恥ずかしいなからこの掘っ立て小屋が俺の前住居です。
ね、汚くて小さいでしょう。室内も泥々に汚れてしまっていて……
まぁ立ち話も何ですので中に入りましょうか。
どうぞ、お掛けになってください。
……足、診てみましょうか。
嗚呼、済みません、加減が出来てませんでしたか…
痛そうな傷です…本当にごめんなさい……
え……許さない………?
俺をこんな目に遭わせたお前を殺してやる…?
そんな簡単に殺すと謂ってはいけません。
第一、俺は誠心誠意謝りましたよ?なのに貴方はそれに応えようともしませんね?いけませんよ?感じ悪いです。罰として足の手当てはしてあげませんからね。
ハァ、まぁ今回は此方に落ち度があったので仕方ありませんが……
さて、この話はお仕舞いにしてそろそろ始めましょうか。
ん?その手に持った鉈で何をするつもりだ?
ははは、訊かなくても判っているでしょう?
遺骨を、取り出すんですよ。遺骨を…ね。
嗚呼、別に抵抗して頂いて構いませんよ?余計に痛いのは貴方ですから。
俺は貴方を殺めるつもりはありません。ですが暴れられて手元が狂えば……
……中々物分かりが良いじゃないですか。
ええ、じっとしていて下されば痛くしませんよ。
それに貴方だって妖怪の端くれ、腹を裂かれた程度で死ぬ程に柔では無いでしょう?
さぁ、其処で仰向けになって下さい。
ええ、大丈夫ですから。
俺を信じて下さい。殺しませんから。
……む、難しいですね、あはは…
あ、あれ?これ……ん、んん?
あ、間違えた…不味い…な。
ちょ、動かないで下さい!今動いたら……あっ…
だから言ったのに……ハァ…
自業自得ですよ?もう。
あーあ、胃袋を取り出すだけの筈が…何故こんな事に……
手が…こんなに汚れてしまった。
帰ったら楓に叱られてしまいそうですね。
生きてますか…?
嗚呼、良かった、動いてますね。
喋れますか?無理そうですね、あ、無理しなくて結構ですよ。
ほら無理して喋ろうとするから血が……え?
……化け物?私が?私が化け物…?
ふ、ふふっ…!あははははははははははっ!!あはははっ!何を今更!?俺が化け物ですって!?そんなの一目見れば分かるでしょう!?
俺も、勿論貴方も化け物なんですよッ!!俺達が人間に何と呼ばれてるか知っているでしょう!?妖怪、化け物、人外者ッ!!俺達はこの世界に不要な害悪!それ以外の何物でも無いんですよ!!俺だって好きで妖怪に生まれた訳じゃ無いんですよ!貴方だってそうでしょう!?でも俺達は怪物!!紛れもないッ!捻曲げようの無い事実ッ!!怪物なんですよォ!!!!渇けば血を欲しッ!!飢えれば肉を欲するゥ!!!!化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物なんですよォォ!!!!!!!!!
……取り乱してしまいました、ごめんなさい。
でも忘れないで下さい。
俺達はね……人間と共に生きられ無い。
貴方には最初からそのつもりは無いのかも知れないですが…俺には辛いんですよ……
何故俺は妖怪なんですか…?
何故俺を妖怪として創ったんですか…?
嗚呼、済みません…つい自分の世界に閉じ籠ってしまって。
最近少し情緒不安定気味でして…
さて、俺はそろそろ用があるので失礼しますが…貴方はこの部屋に居たいだけ居てくださって構いませんので。
そうだ、また俺の話を聞いて頂いて宜しいですか?
今度は酒でも飲みながら、勿論奢らせて頂きますよ。
では、また御逢いしましょう、さようなら。
狂ってる!!
完璧に狂ってやがるッ!!
何だ、一体何なんだアイツはッ!!!
クソッ!誰か助けてくれぇ!!!こんな気色悪い場所で死にたくねぇよ!!誰か!!誰か……ウッ!!!
ゲボォ…ッ…!ゲホッゲホッ!!ウグァ……アァ…ちく…しょ…が……っ…!
死にたく…ね…ぇ……
湖の畔、膝を抱えて座る少女が一人。
少女には少し大きい番傘を差し、側に寄る蛙を見ていた。
「どこに行ったんだろう」
少女が呟く。
少女は自身の唯一の家族であり、親友であった彼女を思い浮かべていた。
「なんで私は死ねないんだろう」
「…諸行無常」
聞き覚えのある青年の声に少女は顔を上げる。
其処には自らの羽織で何かを包み、その何かを大事そうに抱き抱えた歌留葉の姿があった。
「形ある物は何れ壊れます」
そう言って歌留葉は腕の中の物を差し出した。
少女は差し出された物を受け取り、歌留葉の眼を見据えながら言った。
「お兄さん、びしょ濡れだね」
「…涼しくて丁度良いんです」
歌留葉の表情が柔らかくなる。
歌留葉は少女の頭を撫でようと手を伸ばす。だがその手は少女の頭に触れることは無かった。
「…では、俺はこれで」
不思議そうにする少女に背を向け、歌留葉は今度こそ森を後にしようと歩き始めた。
残された少女は歌留葉に渡された物を力一杯抱き締め、こう言った。
「これからもずっと一緒だよ」