※この作品はR-18です。

東方愛狂録   作:ソーヤー麺

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七話 心の在り方

 

 

 

自分の事は、自分が一番良く知っている。

 

そう思っていたのだけれど、俺は俺自身の事をあまり理解していないらしい。

この心の支え、もどかしい感情が理解出来ないし。それに自分自身が何者なのかも理解していないからだ。

 

俺は人間ではない。

それは判っている。

俺が妖怪だって事も判っている、だけどどんな種族で人間には何て呼ばれているのかも知らない。

 

俺は柊 歌留葉って名前で、生まれた時には親はいなくて、柊 歌留葉って名前は「八雲紫」に貰ったってくらいしか知らない。

 

そうだ、俺には何もない。

家族も、心も、自由も。

 

せめて、自由が欲しいな。

 

俺が自由の身ならば、今すぐ八雲紫を殺すのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー1月2日、歌留葉の家ーー

 

 

「心、ですか?」

 

「心です」

 

「う、うーん…難しいですね……」

 

年が明け、また新年を迎えた訳だけど。

何時もの年明けとはまた一味違った新年になった。

理由の一つが、楓の存在。

後の一つが、この靄が掛かった心だ。

そして俺は、その理由の真意を確かめる為、楓に「心の在り方」を問うてみた。

 

「……良いですか?心っていうのは一言で言い表せる様な簡単なものではありません」

 

「…言葉で表せない…精神論か何かですか?」

 

「せ、精神論…?」

 

「違うみたいですね」

 

「えっと、だからそんなに難しく考えずに…そうだ、直感的に思った事!それが心です!」

 

「……そんなに単純な物なんでしょうか…?」 

 

「そうですよ!…多分」

 

直感的に思った事…

成る程、それが心なのか。

 

「第一、歌留葉さんは難しく物事を考え過ぎなんですよ!もう少し自分に素直に生きれば、楽になりますよ?」

 

「楓さん程、短絡的で素直な人間はそう居ませんよ」

 

「褒められてる気がしない!」

 

最早漫才である。

やはり彼女に訊いたのは間違いだったか…

 

「ハァ…」

 

「その溜め息はなんですか~…」

 

そう言って頬を膨らます彼女。

その姿は何とも可愛らしく、愛らしい物だ。

 

……愛らしい…?

 

「……今、俺は…」

 

「…どうかしたんですか?歌留葉さん?」

 

俺は人間に向けて、廃退的で邪な感情ばかりを抱いている。

寧ろそれらの感情しか浮かばなかったのだが…

俺は今確かに愛らしいと想ってしまった。

 

突然、気分が悪くなって来た。

胃の内容物が食堂を競り上がり、口内に苦い胃液が充ちるのを感じながら、必死に嘔吐感を堪える。

 

「……うっ……く…」

 

「か、歌留葉さん!大丈夫ですか!?」

 

彼女の顔を見る度に抑え様のない吐き気が俺を襲う。

これ以上彼女を見ていると、内臓ごと吐き出してしまいそうだ。

 

「…だい…じょうぶ…です…ッ」

 

「嘘ですよ!今すぐ永琳さんの所に…」

 

「大丈夫です…ッ、離してください!」

 

「か、歌留葉さん!!」

 

俺の肩を掴む彼女の腕を無理矢理振り払い、俺はトイレへと逃げ込む。

扉に鍵を掛けると、便器に向かって直ぐに胃液を吐き出した。

 

「うっ……ぐ…ぉ…えぇ…!」

 

暫くすると嘔吐は止まり、胸の激しい鼓動が静寂が支配する室内に響き渡る。

ドクドクと一定のリズムで鳴り響く鼓動は、少しずつそのリズムを落ち着かせていく。

 

「……何なんだよ…コレは…」

 

まるで毒に充てられた様な気分だ。

全く持って理解出来ない。

 

「…出よう」

 

便器の端に付いた、水洗レバーを引いてからトイレを出る。

外に出ると彼女が心配そうな表情で俺を見ていた。

 

「……あの、大丈夫ですか…?」

 

泣きそうな顔だ…

 

「大丈夫です、お見苦しい所をお見せして済みま…せん…?」 

 

「…ヒック…グスッ…うぅ……」

 

「…あの、どうして泣いてるんですか…?」

 

俺が何かしたのか?

いやそれより、今、凄く胸が痛い。

彼女の涙を見れば見るほど胸を抉られる様な錯覚に陥る。

俺が今…直感的に想った事は…

 

「……泣かないで…下さい」  

 

「グスッ…す、すみません…」 

 

「いえ、此方こそ腕を払ったり…」

 

「私が悪いんです…!すみません…、心配で…」

 

「……心配、ですか?」

 

人間が?

相手は出会って間もない妖怪なのに?

 

「……はは、はははは…あはははっ」

 

「…歌留葉さん?歌留葉さんが壊れた!?」

 

「…判りました、判りましたよ…俺の負けです」

 

「あの…一体何の話ですか?」

 

「此方の話ですよ」ニコリ

 

「嘘…わ、笑った…歌留葉さんが初めて笑った!」

 

「俺だって愉快な時は笑いますよ」

 

「歌留葉さんが笑った~!スゴい!!」

 

「何が凄いんですか」

 

嗚呼、そうだ。

必死に否定して、拒絶してどうなる?

俺は既に彼女を…「愛しているんだ」

だけど別れは避けられない。

彼女は人間で、俺は妖怪。

だからなんだ?

別に良いじゃないか。

堕ちる所まで堕ちて見ようではないか。

 

彼女と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー歌留葉の家から少し離れた林ーー

 

 

「次の新聞の見出しはコレね。「柊 歌留葉!遂に人間を拐う!」。」

 

射命丸 文は、古いカメラを片手に歌留葉と楓の姿をフィルムに収める。

そう、彼女は歌留葉を付け回しているのだ。

自らの利益の為に、欲望の為に。

 

「さて、帰りに八雲家に拠って…」

 

 

「これはこれは射命丸さん、随分嬉しそうですね?」

 

 

「っ……!!」

 

文の動きがピタリと止まる。

全身の毛穴から汗が噴き出し、額には脂汗が浮かぶ。

カメラを持つ手は無意識に力が入り、大きく開かれた瞳にはジワジワと涙さえ浮かんでいた。

 

「ひ………柊…さん」

 

無理矢理笑顔を作り、ゆっくりと機械的な動きで振り返る文。

前髪は、浮かんだ脂汗で額にくっつき、無理矢理作った笑顔のせいで眉がピクピクと勝手に動く。

 

「……どうしました?顔色が優れない様ですが…」

 

「あ、いえ…その…だ、大丈夫ですから…!」

 

文は思考を張り巡らせる。常人では到底理解出来ない様な思考能力を発揮させ、必死に現状の打破に挑んだ。

 

「こんな所で…取材ですか?」

 

「…………」

 

「黙りは良くないですよ、何か言って下さい射命丸さん」

 

だがどれだけ考えても、この状況を打破出来る作戦は思い付かない。

必死に言い訳して取り繕うか?

いや無理だ、彼に嘘は通用しない。

一気に飛び去るか?

いや無理だ、きっと飛ぶ前に殺される。

相手を気絶させるか? 

いや無理だ、きっと気絶させる前に殺される。

ならいっそのこと…殺すか?

いや無理だ……殺される。

 

あれ?

これ……私何をしても……死ぬ?

 

「…こ……な…で…」

 

「はい?何ですか?」

 

「殺さないで下さいッ!!」

 

次の瞬間には、文は土下座していた。

殆ど無意識の行為であろうソレは、とても見事な土下座だったと言う。

 

「済みませんでした!ほんの出来心で…今後一切貴方様の生活には干渉致しません!だから…だからせめて命だけは…!!」

 

自らの髪や服が汚れるのに目もくれず、必死に頭を地面に擦り付ける。

それを冷めた目で見ている歌留葉は、ゆっくりと屈み、目線を文に合わせる。

 

「…射命丸さん、俺は別に怒ってる訳じゃないですよ。覗かれて困るような事は無いですし」

 

「え…?」

 

「ただ…八雲紫、あの人に報告するのだけは止めて頂きたい」

 

「……はい」

 

「それと……俺は良いんですが彼女が…楓が怖がってましてね」

 

「ぜ、絶対にもう近付きません!」

 

「約束、出来ますか?」

 

「約束しますッ!!」

 

「そうですか」ニコリ

 

微笑みながら立ち上がる歌留葉。

それを見た文は思う。

 

(助かった…取り敢えずこの場を乗り越えれば…何とでもなる!)

 

だが、その考えは甘かった…

 

「何て、天狗の口約束なんざ信じる訳がないだろ…」

 

「えっ…」

 

刹那、文の顔面に拳が突き刺さる。

鬼の一撃と比較しても引けを取らないその一撃は、文の鼻を抉り、たったの一発で10メートル程吹き飛ばしてしまった。

 

「う…ぁ……」

 

混濁していく意識の中で文は考える。

 

(甘かった…かなぁ…?)

 

そこで、文の意識は途絶えた。

 

「…さて、どうしようかな…この天狗」

 

 

伸びた文を見て、歌留葉の表情が綻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

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