※この作品はR-18です。

東方愛狂録   作:ソーヤー麺

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九話 狩人と獲物

 

 

 

一人の少女が暗い森を駆ける。口から白い息を吐き、水に濡れた身体を震わせながら、後ろを振り返らぬ様、一心不乱に駆けているのだ。

少女が森を駆ければ駆ける程に、鋭い葉や硬い小枝が少女の白く、柔らかな肌を傷付け、幾つもの傷が太股や頬等の露出した箇所に出来て行く。

だが少女はそれを気にも留めず、苦悶の表情を浮かべながらただひたすらに森を駆け続けた。

 

遡ること五分前。

歌留葉が文に持ち掛けた「賭け」、賭けの内容は至極簡単である。

「歌留葉が三百秒数える間に、森に入り朝まで見付からなければ、文の勝ち」と言う物だ

この賭けに勝つ事で、文は生き延びる事が出来る。

だが逆に言えば、これが最初で最期のチャンスなのだ。

もしも歌留葉に見付かれば、文に未来は無い。

だから文は必死に逃げている。衣服もボロボロで、最早半裸に近い姿でも、恥も捨てて走り逃げているのだ。

 

「ハァッ…ハァッ…ゼェ…ハァ…そろそろ…ハァッ…時間…」

 

暗闇の中、背の大きな木に凭れ掛かる文。

肩で息をしながら、羽を毟り取られた背中に手を回し、曇ったその表情を更に曇らせた。

 

「…痛い…痛いよ……もう…空も飛べない…」

 

小さく呟く文。そんな文の瞳から大粒の涙が無意識に溢れ、そして落ちて行く。

身体中を包む痛み、心を支配する恐怖、そしてもし生き残れたとしても二度と飛べない現実。

余りにも非情な現実に、ただ涙を流す事しか出来ない。

本当なら泣き叫びたい気分だろう、だが今は大きな声を出す事すら出来ない。

 

文は、声を押し殺して泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーその頃ーー

 

 

自業自得 

 

あの烏天狗の現状を言葉にするのなら、この言葉がお似合いである。

俺はただ放っておいて欲しがっただけなのに…

あの女は事もあろうか最悪な行動をしてくれたのだ。

とは言っても、幻想郷中に楓の存在を知らしめるのだけは避けられた。

それだけが唯一の救いだろう。

 

さて、三百を数えた。

陽が昇る前には家に帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー小さな洞窟ーー

 

 

運良く見付けた小さな洞窟、私はこの場所に隠れる事にした。

それは良いのだが、物凄く寒い。

濡れた服や髪に冷たい風が当たり、私の体温をどんどん奪って行く。

手の震えが止まらない。

私は洞窟の片隅で、膝を抱えながら朝を待つしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー小さな洞窟の近くーー

 

 

烏天狗はどうやら洞窟に身を隠しているらしい。

やるならもっと、上手くやって欲しい物だ。

あれだけの血を撒き散らしながら歩けば、その匂いを辿れば簡単に見付かってしまうに決まっている。

まぁ、あれだけ満身創痍なら…気も回らなくて当然と言えば当然か。

 

嗚呼、つまらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー洞窟の中ーー

 

 

足音がする。

草を、枯れ木を小石を踏み鳴らす音だ。

誰かが洞窟に近付いている。

それは一人しか…いない。

 

寒い、怖い。

寒くて怖い。ひたすら怖い。

永く生きたが、まだ死にたくない。

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!

飛べなくて良い!飛べなくて良いから…誰か助けて…

 

 

 

 

「…文さん、居るんですね?」

 

 

 

「…あ…ああ……いやああああ!!来ないでっ!近付かないでぇ!!!」

 

歌留葉のこの言葉で、文の思考は完璧に正気を失った。

恐怖から来るストレスは文の心を破壊し、無意識に叫び声を上げていた。

 

「……文さん」

 

「なんでも、なんでもするから殺さないでよぉ!!まだ死にたくないよぉ!!ねぇ謝るから!紫に報告した事謝るから許してよおおお!!!」

 

鼻水と涙で顔をグシャグシャにしながら、歌留葉の足元に必死にすがり付く文。

そんな文を、歌留葉は侮蔑を表した表情で見下ろす。

 

「賭けは、俺の勝ちですね」

 

歌留葉はニコリと笑い、文に告げた。

文の顔から血の気が引き。蒼白しながら文は叫んだ。

 

「ああああああああああああッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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