あの一件から一日後の朝…。
「おはよー、ほむら。行こっか?」
「おはよう、さやか。行きましょうか。」
私はさやかと二人で登校することにした。まどかと仁美の邪魔しては可哀想だから。
「…。」
「…。」
私達の間にしばしの沈黙がおとずれる。
しかし、そんな沈黙はある少女の登場によって破られる。
「ほむらちゃん、さやかちゃん!おはよう!」
「まどか…!?あんた、どうしてここに…!?」
「…おはよう、まどか。」
「うぇひひ!ねぇねぇ、私も一緒に…」
「いいえ、私とさやか二人で登校するわ。気にしないで。」
「で、でも…。」
この子は優しいわね…。しかし、その優しさが私を苦しめているとどうして気づいてくれないの?
「さ、私達にかまっている場合ではないわ。早く仁美のところに行ってあげなさい。」
「そ、それは…!」
「…私みたいに振られたくないのなら、早く行ってあげなさい。愛想をつかされてしまうわよ?」
私はどうしてこんなにも意地悪いことをポンポンと言えるのか。悪魔みたいね。
「…!あのね、ほむらちゃん!」
そう言うとまどかは私の手を掴んできた。
この子はまた…!
「昨日のことは謝るから!私とまた…」
「やめて!!」
「…! ほむら…ちゃん…?」
「もう私に優しくしないで…!あなたが…優しくしてくれると…私…勘違いしてしまうから…!」
「まだ…あなたが私のことを好きなんじゃないかって…。」
「もう私に期待させないでよ…!一人にしてよぉ…!」
「…私は…期待させたわけじゃ…。」
「…ごめん、まどか。あたしたちもう行くね。」
「あ…。私、なにやってるんだろ…。」
私はまた逃げてしまった。まどかと一緒にいると胸が苦しくてたまらない。もう一緒には居られない。
目標であり、憧れであり、想い人であるまどか。
もう、そのまどかは私の手の届くところにはない。
私がいくら手を伸ばし、もがき、足掻いたとしても届くことはない。
それは、思っていた数倍も辛いことだった。
さやかがこれに耐えきれず、前回のループのようなことをしでかしたのも、今では頷ける。
あぁ、まどか。私の愛しきまどか。
あなたはもう…私のものではない。
そうでないのなら、私は…。
「…ねぇ、ほむら。」
私とさやかは一日を終え、家への帰路へとついていた。
「なぁに?」
「あたしたちさ、ワルプルギスの夜を倒したら…。」
「倒したら?」
「この街から出ていかない?」
「…!? さやか、あなたどういう…!?」
「もちろん、おふざけで言ってるわけじゃないよ。」
「なら…」
「あたし、嫌なんだよ…。いつまでも、こんな街に自分の気持ちを縛られるのは…!」
…!上条…恭介…。
「いつまでもこんなところにいたら、あたしも、ほむらも…呪縛に囚われ続けるだけだよ…!」
まどか…。
「このままじゃ、救いはないよ…。」
「あたしも恭介への想いは捨てられない…。ほむらだって、まどかへの想いは絶対に捨てられない…。そうでしょ?」
私は黙って頷く。
「なら、逃げればいいんだよ…。どっか遠くに二人で逃げよう…?」
「…そうね…。私も一緒に逃げたいわ…。」
「ほむら…!」
「私も…私も、まどかをもう見ていられないのよ…。あんなにまどかが幸せなら、なんて大口叩いてたくせしてね…。」
「あたしたちは、この街には相応しい人間じゃないんだ…。もう、何もかも…あたしたちが望むものなんて、この街にはないんだよ…。」
私達は、相応しくない…か。
「ふふっ、どこに行きましょうか?」
「できれば遠いところがいいな…。見滝原のことを思い出さないで済むような、遠いところ…。」
「海外なんていいんじゃない?」
「えー…。あたし英語ぜんっぜん駄目だよ?」
「じゃあ…沖縄とか、北海道とか?」
「いいね!あたし、日本がいい!」
「ふふっ…さやかったら…」
私達は逃げていた。目の前の現実から。
こんなふうに明るくしていられるのも、全部さやかのおかげだ。
彼女は強いようで、弱い。私と同じなのだ。
だから、一緒になったのは必然のことなのかもしれない。
「はぁ…ほむらちゃん…。」
私は…。
回想。
パチン。仁美ちゃんが私の頬を叩きます。
「どうしてですの…!?どうして、あんなことを言ってしまうのですか!?」
「っ…。それは…。」
「…ええ、わかってますわ。どうせ、ほむらさんは頭がいいから、言葉の裏を読んでくれる…そう思っていたのでしょう。」
「うん…。仁美ちゃんの言うとおりだよ…。」
「じゃあ!どうして…どうして、そんな遠回りをしたのですか!?」
「それは…ほむらちゃんに、もっと私のことを気にかけてほしいから…。」
「はぁ…!?呆れましたわ…!」
無理もないでしょう。こんな私の身勝手で…ほむらちゃんを深く傷つけたのですから…。
「あなたは、ほむらさんが言葉の裏を読まないで、素直にうけとったら…そう考えましたか?」
仁美ちゃんは少しずつ、ほむらちゃんがいた場所に歩いて行きます。
「もし、あなたがほむらさんから、同じことを言われたら…。そうは考えなかったのですか?」
「あなたは、想い人がいなくなる苦しみを…一度でも考えたことがあるのですか!?」
「私は…。」
そんなこと、欠片も考えていません。
自分のことしか考えていませんでした。
「これ、ほむらさんがあなたに向けたケーキと手紙ですわね…。」
「きっと、ほむらさんは誤解を解いて、あなたと仲直りをするつもりだったのでしょう。」
「しかも…この見た目は手作りですわね。…羨ましいくらいにほむらさんの愛がこもっていますわ。」
「…!ほむらちゃん…。」
「そんなほむらさんの好意をあなたは素直に受け取らず、捻じ曲げた好意で接した結果がこれですわ。」
仁美ちゃんの言葉が深く、強く、私の心に刺さります。
「あんなに健気な人は他に見たことがありませんわ。」
「まどかさんがあんなことを言っても、否定せず、怒るどころか祝福し、自らの身を引いた…。」
「よほど、ほむらさんはあなたのことを大切に思っていたようですね。」
「それにあなたは気付かなかったのですか?」
そう言われると幾つも心あたりがあります。
「流石に、この手紙を私に読む権利はありませんわ。
まどかさん。あなたにお渡しします。」
私は仁美ちゃんに手渡された手紙を眺めました。
それは、とても重く、強く、私の手の中にあります。
このたった一枚の手紙に、ほむらちゃんの想いを感じます。
「まどかさんはどうしたいのですか?関係を修復したいのですか?それとも、ほむらさんに嫌われたままでいたいのですか?」
「私は…ほむらちゃんと仲直りがしたい…!元通りに…今まで通りの関係でいたい!」
「そうですか。なら、素直に気持ちを伝える以外の方法はないと思いますわ。」
「素直な…気持ち…。」
「ほむらさんは口では祝福していても、やはり恋人のことです、ひどく悲しんでいるでしょう。」
「だから、まどかさんの言葉は、私やさやかさん、巴先輩の言葉より、強い力を持っています。」
「だから、届けるのです。あなたの…本当の言葉を!」
「何一つ、嘘偽りのない…本当の言葉を…!」
「私の…言葉…!」
現在。
「なのに…。」
どうしてこうなってしまったんだろう…。
私の言葉を伝える前にほむらちゃんに拒絶されてしまいました。
「私は…それだけのことを…。」
「あら、鹿目さん。どうしたのかしら?」
「あ、巴先輩…。」
「なにか、悩んでるみたいね。ここは、生徒会長の巴マミが相談にのってあげましょう!」
「巴先輩…! あの、ここじゃ話しにくいので…。」
「じゃあ、私の家にしましょうか。そこなら邪魔は入らないわ。」
「で、相談したいことって何かしら?」
「あの、ほむらちゃんのことなんですけど…。」
「…! そう…暁美さんのこと…。」
巴先輩の顔から笑顔が消え、その話はタブーなんだけど、というふうに書いてあるように思えました。
「実は…。私、仁美ちゃんと付き合ってないんです…。
ほむらちゃんのことだって、まだ好きなんです…。」
「なっ…!あなた…!自分がなに言ってるのか分かってるの!?」
巴先輩は飲んでいた紅茶の入ったティーカップを乱暴に机に置いて、私に凄んできました。
「それは…分かってます…。」
「…悪いけど、相談には乗れないわ。」
「え…。」
「気分が悪いのよ。早く出ていって頂戴。」
巴先輩の手は、拳を作って震えていました。
顔には怒りが滲み出ていました。
「…お邪魔しました…。」
「巴先輩…凄く怒ってた…。」
きっと、凄く悲しんでいるほむらちゃんを見たんだと想います。だから、あんなにも怒ってたんです…。
あんなことを言って、ほむらちゃんを悲しませて…。
今更虫がよすぎたのかな…。
「おーい、まどかー!」
「あっ、さやかちゃん!どうしてここにいるの?ほむらちゃんは一緒じゃないの?」
「あたしは魔女退治の帰り。ほむらは用事があるってどっか行っちゃった。まどかこそどうしてここに?」
「私は…巴先輩に相談してたの…。」
「でも、巴先輩が怒って相談できなかったけど…。」
「え…!?あのマミさん怒らせるって、まどか何したの?」
「それは…。」
言ってもいいのかな…。私の都合で…。
でも。
このままじゃいけない。ほむらちゃんは私の話を聞いてくれない。なら、さやかちゃんに話してもらえば…!
「それは、ほむらちゃんのことなの…。」
「…! ほむらがどうかしたの?」
さやかちゃんはマミさんみたいに露骨に嫌な表情をするんじゃなくて、なんとか表情を~崩さないように保っている感じでした。
「実はね…。私、仁美ちゃんとは付き合ってないの…。」
「ほむらちゃんのことだって、まだ好き…。恋人のままでいたいの…。」
「なっ…! 」
「だから、さやかちゃんには…」
「ふ…る…な…!!」
「え…?」
「ふざけるな!!あんたは…!あんたは、ほむらの気持ちを弄んで…!!」
「さ、さやかちゃん…!?」
「じゃあ、どうしてそんなことしたの!?」
「それは…ほむらちゃんが最近私を見てくれないから…私のことをもっと見てほしいと思って…。」
「はぁ!?そんな理由でほむらのことを…あいつの気持ちを…!!」
さやかちゃんは、仁美ちゃんよりずっと怒っています。
「…今あたし、あんたを殴りたくてしょうがない…。」
「ひっ…。」
「でも、そんなことはできない。ほむらが悲しむから…。そんなことはできない…!」
「まどかは知らないだろうけど、ほむらは凄く頑張ってたんだよ?」
「この一週間、まどかのため、まどかのため、って。」
「嫉妬しちゃうくらいにまどかのことを想ってた…。」
「あいつさ、死にかけたことがあったんだよ…。」
「…!?ほむらちゃんが!?」
「落ちついて聞いて…。魔女の攻撃を受けて、肺と胃を貫かれてた。あのままじゃ、ソウルジェムだって砕けてたと思う…。」
「なんとか助け出したあと、回復しようとしたの。
でもほむらは、魔女を倒すのを優先しろ、って。
まどかとの時間が一秒でも惜しいからって、私のことはいいって…。」
「そんな…。私…。」
あぁ…バカだなぁ…私…。
「ほむらは一週間あんたのことだけを想って過ごしてた。自分はどうなったっていい、まどかのためなら、ってね…。」
「でも、まどかはそんなほむらを傷つけたんだよ?」
「…っ。」
「あんたの軽い出来心でほむらの気持ちを傷つけたんだ…。」
「あいつはいいやつだから、まどかのことを凄く尊重してたよ。」
私だってそれは知っています。
「でも、あいつは女神でも、聖母でもないんだよ。一人の女の子なんだよ。」
「女の子なんだから、失恋したらショックは受ける。
まどかにたいしてだって、怒るに決まってるよ…。」
「だからほむら、泣いてたんだよ。本当は泣きたくて、泣きたくて、仕方がなかったんだよ。」
「ほむらちゃんが…泣いてた…?」
「だから…あたしはあんたを許さない。ほむらが許しても、あたしは許さない。」
「さやか…ちゃん…。」
「…でも、その気持ちが本当なら、ほむらに伝えてあげてほしい。ほむらは…まどかが全てだからね。」
「…うんっ!私、ほむらちゃんのところに行ってくる!」
「ちょ、ちょっと、まどか!?ほむらどこにいるのか知ってるの…って、もういないし…。」
「はぁ…はぁ…!ほむらちゃん…!」
私はほむらちゃんの家の前に来ていました。
ほむらちゃんがどこにいるのか、私には分かりません。
でも…なんとなく、ここにいるような気がして…。
「ふぅ…。」
私は息を整えて、チャイムを押しました。
「…はーい…。」
ん…?なんだか、ほむらちゃんぽくない声だなぁ…。
「誰ですか…?」
「えっ…!?」
出てきたのは、赤髪の女の子でした。
「あの…ここ、ほむ…いや、暁美さんのお家ですよね…?」
「ん…えっと…もしかして、ほむらの友達?」
「は、はい。ほむらちゃんにお話があって…。」
「今、ほむらはねてるから…。まぁ、上がってなよ。」
「お邪魔します…。」
でも…この子って、ほむらちゃんとどんな関係なんだろう?
友達?親戚?それとも…。ううん、これ以上考えないようにしよう…。
「そういや、名前聞いてなかったな。なんていうんだ?」
「あ、えっと、鹿目まどかです。」
「…! ふーん…。あんたがまどか、ねぇ…。」
その赤髪の子は私の顔を覗き込んできました。
「な、なんですか。私の顔になにかついてますか…?」
「いーや。もっと悪魔みたいな顔してるかと思ったら、ずいぶん可愛いかおしてるなー、って。」
「あ、悪魔!?私が…!?」
「あぁ。ほむらとか、さやかとか、マミとかから聞いた話だと、あんたは悪魔みたいな性格から、顔もそうなのかなぁ、って思ってたからな。」
「〜!私のどこが悪魔なんですか!?」
私はつい、大声で怒鳴ってしまいました。
「だって、頑張ってるほむらをに冷たく接して、その上新しい恋人まで作ってたんだろ?しかも、ほむらの目の前でカミングアウトしたって。どっからどう考えたって悪魔じゃんか。」
「ぁ…う…それは…。」
何も言い返すことができません。だって、私はそれだけのことをしたんだから…。
「で、そのまどかがなんのようだよ?新しい恋人との惚気話でもほむらにしにきたのかよ。」
「私はそんなつもりじゃ…!」
ガチャ。どこかの部屋のドアが開きます。
「んぅ…杏子…お腹すいた…。」
「おう、ほむら。直ぐになんか作ってやるからな。ところで、お客が来てるぜ。寝ぼけてる場合じゃないんじゃない?」
「ふぇ…?お客さん…?誰…?」
かわいい…。寝起きでまだ意識がはっきりしてないほむらちゃん、かわいい…。
「あ、えと…私だよ?まどか。」
「まどか…?えっ…!まどか!?」
「うん!まどかだよ!」
「ご、ごめんなさい!私、目が悪いから、全然見えないの…。今、なおすから…。」
「…こほん。見苦しいところを見せてしまったわね。
それで、なんの用かしら?」
「あの、私ね…!」
「ほむらちゃんのこと、大好きなの!!」
「えっ…?」
ほむらちゃんは、わけがわからない、って顔です。
「仁美ちゃんと付き合ってるっていうのは…嘘なの。
私、ほむらちゃんの恋人がいい!それ以外の人となんて、付き合いたくないよ!!」
「まどか…!」
「ほむらちゃん…今更許してもらえるなんて思えないけど…これが私の気持ち。受け取って…くれるかな…?」
「そんなの…そんなの…!」
ギュッ。ほむらちゃんが強く私を抱きしめます。
「ほ、ほむらちゃん!?」
「受け取るに…決まってるじゃない…!」
「私…今、凄く幸せ…!だって…まどかが私のことを好きだって…また言ってくれたから…!恋人がいいって…そう言ってくれたから…!」
「ほむらちゃん…!」
「私、悲しかったんだよ?寂しかったんだよ?まどかに冷たくされて…振られて…。」
「ごめんね…ごめんねほむらちゃん…。」
「もう…まどかが私の手の届かないところに行っちゃったんだって…そう思うと、涙が止まらなかった…。」
「もう…泣かなくていいんだよ、ほむらちゃん…。私はもうどこにも行かないから…。」
「ねぇ、まどか…キスしたいな…。」
「ふぇ!?キ、キス!?どうして?」
「だって…夢じゃないって…嘘なんかじゃないって…そう体で感じたいの…。まどかを…まどかを感じたいの…。」
「ほむらちゃん…。うん、私もキスしたいな。」
「まどか…。」
「じゃあ、するね?」
「ん…。」
ほむらちゃんは目を瞑って、プルプルと震えています。
きっと、あんなふうに言ってたけど、恥ずかしかったんだろうなぁ…。
ちょっと意地悪したくなってきちゃった。
「ん…!ま、まどか…?」
「だーめ。まだ目閉じててね?」
「う、うん…。」
「…うぇひひ。」
しばらくそうしていると…。
「うぅ…。うぇぇん…!」
ほむらちゃんが泣き出してしまいました。
「あ、え!?どうしたの、ほむらちゃん!?」
「ぐすっ…やっぱりまどかは私のことなんか好きじゃないんだ…!嘘だったんだ…!うぇぇん…!」
あ…これ、駄目なやつだ…。ほむらちゃんを悲しませちゃった。
「ごめんね…私が調子にのってキスしたい、なんていうから…嫌になったんだよね…。」
「ほむらちゃん!」
「なに…んぐっ…!?」
私は無理やりほむらちゃんにキスをしました。
「…んぅ…!んんっ…!」
「んぁ…。ぷはぁ…。」
「まどか…。」
「うぇひひ。意地悪しちゃってごめんね?これが、私の気持ちだよっ!」
「もう…私、本当に嫌われたかと思って…。」
「ごめんね?キスを待ってるほむらちゃんが可愛くてつい…。」
「ふふっ…。でも、よかった…。まどかがキスしてくれて…本当に嬉しかった…。」
「当たり前だよ!私はほむらちゃんが大好きなんだから!」
「もう、まどかったら…。あら、杏子はどうしたのかしら?」
「え?杏子って誰?」
「ほら、さっきの赤い髪の娘よ。確か、キッチンでご飯を作っていたはずなのだけど…。」
「ふーん…。あ、ほむらちゃん!これ見て!」
私が発見したのはメモでした。
「貸して、まどか。…ふむ。そういうことね…。」
「ねぇねぇ、なんて書いてあったの?」
「…ナイショ。私と杏子だけのヒ・ミ・ツ。」
「ええー!ひどーい!教えてよ!」
「駄目よ。女は秘密が多いほど、美人になるのよ。さ、杏子がご飯を作って冷蔵庫に入れてくれてあるらしいから、食べてしまいましょう。まどかの分もあるそうよ?」
「え、わーい!私も食べる!」
「…ちょろいわね。」
「え?なにか言った?」
「いいえ。ところで、親御さんが心配してるんじゃないの?電話の一つくらいしたほうがいいんじゃない?」
完全に忘れていました。ほむらちゃんと仲直りして嬉しくて、それどころではなかったのです。
「そうだね。ちょっと電話してくるね…。」
「もしもし、パパ…」
『まどか!いつまで外をほっつき歩いてるんだい!?というか、今どこにいるんだい!?』
「う…。えっと、恋人の家に…。」
『…例の、ほむらちゃんか。まぁ…それなら…。いや、ほむらちゃんに変わってくれるかい?』
「う、うん。ほむらちゃーん!パパが…。」
「えっ?私に?」
「うん。よく分かんないけど、代わってって。」
「はぁ…。…もしもし、お電話代わりました、暁美です。」
『君がほむらちゃんかい?まどかから話は聞いてるよ。』
「私も、お父様のお話は娘さんからよく聞いています。とても優しくて、お料理上手な素晴らしいお父様だと…。」
『お世辞でも嬉しいね。…それで、まどかとは付き合ってるそうじゃないか。」
「…!はい、娘さんとはお付き合いさせていただいています。」
『君には、覚悟はあるのかい?』
「それは、同性同士でのカップルだから、ということでしょうか?」
『勿論、それもあるけど…。まどかを…うちの娘を、一生守っていける覚悟が、君にあるのかい?』
『これからおとずれる不幸や、非難から、うちの娘を守れるのかい?』
パパ…それはいくらなんでも意地悪だよ…。
「お父様、お言葉ですが…そんなのは当たり前です。」
ほむらちゃん…!
「私は、必ずまどかを守ってみせます。彼女にどんな不幸がふりかかろうとも、私が弾き返してみせます。」
「私はまどかのためなら、自分の命さえ捧げる覚悟です。」
ほむらちゃんが言うと、凄く重みがあるなぁ…。ドラマとかのセリフも重みはあるけど…。そんなのとは比べ物にならないくらい重みを感じます。
『それは流石に…でも、本気のようだね。うん、君になら、まどかを託せそうだね。』
「…。」
『まどかのこと、頼んだよ。…あと、まどかは少し性格が面倒だから、気をつけてね。』
パパ…!?
「…それは身を持って痛感していますから…。」
ほむらちゃんまで…!
『おや、ごめんよ。うちのまどかが迷惑をかけて。』
「でも、そんなところも含めてまどかは魅力的なんです。多分、私はそんなところに惹かれたんだと思います。」
…ほむらちゃん。
『嬉しいことを言ってくれるじゃないか。本当に君はいい子だね。』
「ふふっ、お世辞なら結構ですよ。」
『ははっ、まんまと一本取られたね。じゃあ、まどかと代わってくれるかい?』
「はい、今代わります。…まどか、お父様が…ってなんで泣いてるの?」
「だって…ほむらちゃんがあんなこと言うから…嬉しくて…!」
「ふふっ。泣いてると電話できないわよ?ほら、鼻をかみなさい。」
ほむらちゃんは、ティッシュを渡してくれました。
なんか、私よりも全然大人だな…。おんなじ学年とは思えない…。
「ぐすっ…パパ…。まどかだよ…。」
『やっと代わったか。で、帰ってくるのかい?』
「ううん。このままほむらちゃんの所に泊まってく…。」
『そうか。荷物は取りに来るかい?』
「ん。ほむらちゃんにかして貰うから、いい。」
『迷惑をかけないようにね。折角まどかのことを大切に思ってくれる人なんだ。大切にするんだよ。』
「はーい。じゃあ、切るね?」
『うん。じゃあね、まどか。』
「じゃあね、パパ。」
「…もう泊まるのに私の許可すらいらなくなったのね。」
あ。そういえば、ほむらちゃんの許可を貰ってませんてました。
「あー、えと…野宿は嫌だな…?」
「ぷっ…。野宿って…。ふふっ…!」
「あっ!酷いよ!からかったんだね、ほむらちゃん!」
「だって…!まどかの反応が面白いから…!ふふっ…!」
「むぅ…。早くご飯食べよ!」
「はいはい。わかったわよ。ごめんなさい、今並べるから。」
その後私とほむらちゃんは、布団に入っていました。
「…ねぇ、まどか。」
「なぁに、ほむらちゃん?」
「まどかは…私のどこを好きになったのかしら…。」
「ふぇ!?と、突然どうしたの?」
「いえ…私はまどかの魅力なんて沢山あるからすぐにいえるけど、私の魅力ってなんだろうって…。」
「ほむらちゃんはすっごく魅力的な女の子だよ?」
「でも…私、まどかみたいに優しくないし、さやかみたいに明るくないし、マミさんみたいにかっこよくないし…。全然取り柄がないから…。」
「そんなことないよ!ほむらちゃんは優しくて、かっこよくて、あか…るいかどうかはわからないけど…。とにかく!私の知ってる人の中だと一番魅力的だよ!」
「まどか…!嬉しい…!」
ほむらちゃんは私を抱きしめてきました。
今日のほむらちゃんは、いつものクールからはかけ離れた、どちらかといえば甘えん坊さんで、おどおどした感じ…。
「もう…甘えん坊さんなんだから、ほむらちゃんは…。」
「いいじゃない…私にだって、甘えたいときくらいあるわよ…。」
そっか…。ほむらちゃんは今まで凄く辛かったんだもんね…。甘えてる暇なんてなかったんだもんね…。
「ううん。いいんだよ、ほむらちゃんは甘えてても…。私、クールなほむらちゃんも、甘えん坊さんのほむらちゃんも、みーんな大好きだから!」
「まどか…。ありがとう。とても嬉しいわ…。」
「すぅ…すぅ…。」
「…ほむらちゃん?もう寝ちゃったの?」
いつの間にかほむらちゃんは寝てしまいました。折角、ほむらちゃんに、私を好きになった理由を聞こうと思ってたのに…。
『その願い、僕が叶えてあげようか?』
「きゅ、キュゥべえ!?どうしてここに!?」
「んぅ…うぅん…。」
『まどか、そんなに大きな声を出したらほむらが目を覚ましてしまうよ。』
「う、うん。じゃあ、リビングの方に行こっか。」
「どうしてキュゥべえがここに?」
『勿論、君と契約するためだよ。さっき、君はほむらが君を好きになった理由を知りたいと言っていたよね。じゃあ…』
「ちょ、ちょっと待って。私、契約はしないよ?」
『…なら、君に少しサービスをしてあげるよ。』
「サービス?」
『そう。ほむらの記憶…それを君に見せてあげるよ。』
「…! そんなことができるの?」
「うん。僕たちは、コレを作るのに時間がかかって、中々君に契約を持ちかけられなかったからね。かなり自信があるよ。』
「…なにが目的なの?」
『そんなの、君の契約のために決まってるじゃないか。』
「…ブレないね。」
『ブレるもなにも、元から君の契約だけが目的で今ここにいるんだから、当たり前だよ。』
『それで、ほむらの記憶を見るのかい?僕には決定権はないから、君が見たいのなら見せてあげるよ。』
「うん。ほむらちゃんからお話は聞いてるけど…でも、実際に見ればもっとほむらちゃんの事をわかってあげられると思うから。だから、見るよ。」
『じゃあ、君の脳内に直接映像を出力するよ。目を閉じてくれるかい。』
「うん。」
その瞬間、いろいろな映像が頭の中に流れてきます。
『まずは、君についての記憶を見せてあげるよ。』
まず見えたのは、魔法少女姿の私が、魔女を倒しているところです。
声は聞こえないけど、私がほむらちゃんに手を差し出してるみたい…。
次に見えたのは、私が倒れているところです。倒れている私にほむらちゃんが抱きついています。
そして、キュゥべえが現れ、ほむらちゃんが契約したところで映像が途切れ、次の映像が流れ始めます。
ほむらちゃんにソウルジェムを差し出している私。
ほむらちゃんと一緒に倒れ込んで、ほむらちゃんを送り出す私。
ほむらちゃんを怯えた瞳で見つめる私。
ほむらちゃんを警戒した瞳で見つめる私。
ワルプルギスの夜を倒して魔女になる私。
ほむらちゃんに対して、なにかを言っている私。
さやかちゃんに殺される私。
いろいろな私の映像が流れてきます。
「うぅ…あぅ…!」
『おっと。一旦映像の送信をストップするよ。これは試作品で、まだ安全性が十分なものではないからね。』
「はぁ…はぁ…。ほむらちゃんは、こんなにもたくさんの私を見てきたの…?」
『そうみたいだね。ほむらは何度もやり直して、その度に君に様々な表情を向けられていたようだね。』
『まだ映像には続きがある。次の映像はほむらにとって、かなり大事な思い出や、残酷な思い出だよ。』
「え、もう流すの?」
『うん。あんまりもたもたしていると、ほむらが起きてきてしまうからね。』
「…分かった。見るよ。」
『じゃあ、また目を閉じてくれるかい?』
目を閉じると、映像が流れてきました。
その映像はあまりにも残酷で、悲しいものでした。
私や、さやかちゃん、巴先輩や佐倉さんが死ぬ光景…。
ほむらちゃんが誤解を受けて、私達に邪険に扱われる光景…。
何を言っているかはわからないけど、心にもないことをほむらちゃんにぶつけているみたいな雰囲気の光景…。
マミさんがほむらちゃんに銃口を向け、撃とうとするマミさんのソウルジェムを私が砕く光景…。
他にも、とても見ていられないような光景が広がります。
「キュゥべえ!お願い、もうやめて…!これ以上は見られないよ…!」
『そうかい。じゃあ、止めるよ。』
「はぁ…はぁ…うぷっ…!」
映像が止まると、私を吐き気が襲います。
「うぇ…!おえぇ…!」
洗面所で吐いてしまいます。
…ほむらちゃんは私の想像した何倍も辛い思いをしていました。私とは比べ物にならない、辛い経験をしていました。私のせいで…。
『落ち着いたかい、まどか?』
「…うん。」
『質問をしてもいいかい?』
「うん。」
『君は、これを見て魔法少女になりたいと思うかい?』
「…そんなわけないよ。絶対になりたくない。」
『でも、君が魔法少女になればほむらをこの永遠に続く長い迷路から抜け出させることができるよ。』
「…!」
『君はこのほむらの記憶を見てどう思ったんだい?これを見て、ほむらを救ってあげたいと、そう思ったんじゃないかい?』
「それは…そうだけど…。」
『それに、君が魔法少女になればワルプルギスの夜を倒す確率だって、大幅に上がる。君が契約するだけですべてが変わる。救われるんだよ。』
「私が…救える…。」
『そうだよ。だから…僕と契約して魔法少女になってよ!』
「私は…ほむらちゃんのために…」
しかし、私の言葉そこで遮られました。
「その必要はないわ!まどか、こんなやつの戯言に耳を貸しては駄目よ!」
「ほむらちゃん…!」
『やれやれ…だから、早くしてほしかったんだけどね。』
「インキュベーター…人の家に不法侵入した挙げ句、私の記憶にまで不法侵入するとはいい度胸ね…。なにが目的なのかしら?」
『まどかの契約のためだよ。』
「ふん…そのためだけにこんな回りくどい事をしたのね。」
『そうだよ。このままじゃまどかは契約はしてくれないからね。なら、なにか契約したくなるようなキッカケを作ってあげればいい。そう考えたんだ。』
「それが、私の記憶…流石、と言っておくわ、インキュベーター。」
『褒め言葉として受け取っておくよ。そうさ、君の記憶には、まどかを契約させるうる何かがある…。そう考えたんだ。その予想が当たったのはいいけれど、君の登場ですべてが水の泡というわけだよ。』
「まどかの契約阻止は私の最優先事項よ。そう簡単に契約などさせないわ。…それに、その機械には欠陥あるから私がこうして契約を阻止できたのよ。」
『欠陥?一体それはなんだい?』
「よくも私に嫌な夢を見せてくれたわね。その機械でまどかに映像を送っているとき、私も同じ映像が私の中にも流れて来たのよ。いやでも起きるわ。」
『ふむ…。まさかそちらにも映像を再生していたとはね…。考えもしなかったよ。』
「さ、話は済んだわ。個体を減らされたくないのなら、さっさと出て行くことね。」
『やれやれ…まどか、僕は君が契約してくれる事を願っているよ…。』
「…。」
「はぁ…懲りない奴ね。まどか、大丈夫?」
「あ、うん…。大丈夫だよ…。」
「…辛いものを見せてしまったわね…。」
「ううん…。ほむらちゃんはあれを見るだけじゃなくて、何度も体験してるんでしょ?それに比べたら、全然だよ…。」
「まどかは私の過去なんて知る必要なんてないのよ。無駄にあなたを苦しめるだけだから…。」
「でも、私の事を知ろうとしてくれたことはとても嬉しいわ。」
「私…ほむらちゃんの事をもっとしりたい…ほむらちゃんに私の事を、もっとしってほしい…。」
「ありがとう。…でも、もう時間も時間だから寝てしまいましょう。夜ふかしは体に良くないわ。」
「うん…。そうだね…。」
「まどかは先に戻っていて。私は、気分が悪いからシャワーでも浴びてから寝ることにするわ。」
そう言ってほむらちゃんはお風呂場に行ってしまいました。
ほむらちゃん…。私は本当にあなたに相応しいひとですか?あなたはそう思うかもしれない…。でも、本当に相応しい人は私じゃない…。いや、正確には私だけど、本当に相応しいのは、一番始めに見た、あの鹿目まどかが相応しい人なんだって…そう思ってしまいます。
これから…私は…。
いかがでしたか?雲行き、怪しいですよね。
私だったら、ほむらの経験を見せられたら絶対に正気ではいられなくなると思います。だって、大切な人たちから蔑まれて、その上何度もそれを繰り返さないといけないだなんて…。そんなのってないよ…。あんまりだよ…。
茶番が過ぎましたね。では。