どうぞ、お楽しみください。
次の日 朝。
「ほむらちゃん、ほむらちゃん!起きてー!朝だよー!」
「んー…あと…五分だけぇ…。」
「むぅ…こうなったら…。」
「おっきろー!」
「ひゃあぁぁっ!?」
「ふあぁ…ごめんなさい、まどか。起きるのが遅れてしまって…。」
私が起きたのは8時で、まどかが起きたのは6時30分らしい。どうしてこんなに遅くまで寝ていたのかは皆目見当もつかない。あのまどかに起こされるというのも中々心にくるものがあったが、こうやってまどかに起こされるのも悪くない。そう思っている自分がいることもまた事実だった。
「ううん。ほむらちゃんだってそういう日はあるよ!それに、今日は休みなんだから気にしないで?」
「ええ…。そういえば、朝ごはんはどうしたのかしら?」
料理をしていたのか、まどかはエプロンをしている。しかし、料理の良い香りはせず、なにか香ばしい香りが漂っていた。
「うー…えっと…そのー…。」
…あぁ、そういうことか。
「…一緒に作りましょ?そうすればうまくできるわ。」
「あ…うんっ!…でも、ごめんね?一食分の材料、無駄にしちゃって…。」
「まどかが気にすることではないわ。それに、まどかが私のために朝ごはんを作っていたことが嬉しいから。それがたとえ、失敗したものだったとしても。」
「うぅ…。どうしてほむらちゃんって、そんなに恥ずかしいセリフを堂々といえるのかなぁ…。ドキドキしちゃうよぉ…。」
照れているまどかもかわいいわ。トマトみたいに顔を真っ赤にしてしまって…。
…もっと照れさせたいという私は、おかしいのかしら?
「ふふっ…まどか、かわいいわ。顔、真っ赤にして…。」
「ふえっ!?ほむらちゃ…!」
「あぁ…食べちゃいたいわ…朝ごはんの代わりに…。」
「も、もぅ…朝からえっちなんだから…!で、でも、ほむらちゃんが望むなら、いつでも食べていいから、ね…?」
「まどか…!?そ、それは、学校でもしていいってこと…!?そ、そんな破廉恥な…!」
「え、ええっ!?ど、どうして学校なの!?それに、破廉恥って…ほむらちゃんがそれ言うのかなぁ…?」
私の中では、まどか>私なのだけど。
だって、昨日なんて私の手でオナニーしてたじゃない。
…なんて言ったら殺されるわね。まぁ、ここはそれっぽい反応をしておきましょう。
「えと…え?私、破廉恥…?まどかより…?」
「え?」
「え?」
「「え?」」
「それで、まどかはなにを作ろうとしたのかしら?」
「えっとね…ベーコンエッグを作ろうとしたんだけど、焼きすぎちゃって…仕方がないからトーストにしようと思ったんだけど、ほむらちゃんの家にオーブントースターがないんだもん…。ほむらちゃんの家って、いくらなんでも前時代すぎるんじゃないかなって。」
どうして焼きすぎたらトーストなのかはよくわからないけど、なんだかバカにされた挙げ句、そのことについてさらに文句を言われるって…。しかも、それが言い訳なの…?
「じゃあ、その間に焦がしてしまって、あんなことに…。」
私が視線を向けた先には、がん細胞の元があった。…ベーコンエッグ程度でこれって、どうなのかしら。
たしか、まどかのお母様も料理はからっきしだったわね…。これが親子なのね。
「うん…焦ってたらね…。でも!ほむらちゃんと一緒なら、できるような気がするよ!」
あぁ…まどかのさっきのセリフ、そのままそっくり返すわ…。私をドキドキで殺す気…?
「そ、そう。じゃあ…なにか、ないかしらね…。」
もう卵はこれ以上消費すると、今週は危うくなってしまうし…まさか、まどかがベーコンをまるまる1パック使うとは思わなかったし…。ご飯、炊き忘れるし…。
パンしかないか。でも、何にしようかしら?私は何もつけないでも問題はないのだけど…。まどかは嫌がるだろう。なにか、なにかないか…?
そのとき、私の目にあるものがとまった。
「ねぇ、まどか。甘いパンでも構わないかしら?」
「え、うん。私は別に、ほむらちゃんの作ってくれる料理ならなんでもいいかなって。」
まどかの言葉が私にズガン、と響く。
「あ、ありがとう。じゃあ、そこにあるマシュマロをとってくれる?」
「うん。…マシュマロ?うーん?」
まどかは首をひねっていた。
私は、冷蔵庫の奥から、食べかけの板チョコと、クリームチーズを取り出した。
「…?」
まどかはまだ、どういうことか理解していないらしい。
でもきっと、これはまどか好みの味になるだろう。
まず、パンの耳から1〜2cmくらいのところに沿って、包丁で切れ込みを入れていく。そして、その部分を押してへこませる。そこに、マシュマロ詰め込み、その間にチョコを入れる。さらに、上にクリームチーズを乗せる。
あとは焼いてしまうだけなのだが…。
「さて…私の記憶が正しければ…。」
私は変身した。
「ほ、ほむらちゃん?どうして変身なんか…?」
「ガスバーナーを探しているだけよ。…確か、このあたりに…有ったわ!」
私が取り出したのは、いかにもガスバーナーというガスバーナーだった。少し古びていて、なんだか不思議な感じがする。その部分だけまるでタイムスリップしたように。
「ガスバーナー…だよね?まさか、これで?」
「ええ…有効期限は問題ないのだけど、これ、いつ買ったものなのか、よく覚えていないわ。もしかしたら、もう駄目かもしれないわね。まぁ、問題ないと思うわ…。大丈夫よ。」
「…何でだろ、私、ほむらちゃんのこと信じたいのに、嘘つきだなんて思いたくないのに…全然大丈夫っていう気持ちになれない。ほむらちゃんの言ってることが本当だって思えない…。」
「ねぇ!?そのセリフ、今じゃないわよね!?あと、後ずさらないで!?」
「うぇひひ…巻き込まれたら、それはとっても悲しいなって。」
「さっきからなんなのよもう…。大丈夫よ。問題ないって言ってるじゃない。」
私は、妙に既視感のあるまどかの言い回しを無視して、バーナーがつくかを点検する。…問題ないわね。
私はマシュマロやチョコ、チーズがまんべんなく溶けるように、じっくりと焼いていく。
そして、いい感じに匂いが漂ってきて、焼きめがついたら。
「ふぅ…まどかのせいで嫌に時間がかかってしまったけど…スモアトースト、完成よ。どうぞ召し上がれ、まどか。」
「わぁ…!すっごく美味しそうだね!なんというか、意外…。」
「えっ?意外って、どういうことかしら?」
「えっと、ほむらちゃんって、こういう甘いものって好きじゃないよね、って思ってたから…。」
「まぁ、私だって女子中学生で…たまにはこんなジャンクなものだって食べたくなるのよ…。」
「うぇひひ!そうなんだ!ふーん…。」
まどかは私のことニコニコと見ている。
「なっ、なによ。私がこういうものを食べたら、駄目…なの…?」
「ううん、そんなことないよ。ただ、ほむらちゃんも私と一緒でこういう甘いものも好きなんだって、おんなじだなって思っただけだよ。」
まどかと同じ…まどかにはわかるどうかはわからないけど、恋人と同じってすごく嬉しいのよ?
…なんて、言える性格になれたらな。私の意気地なし。
こう、変化球しか出せない自分が情けない。
「…そう。さぁ、食べてしまいましょう。冷めてしまうと固まってしまうわ。」
「うんっ!はむっ…ん〜!おいしい〜!あま〜い!」
「ふふっ、口にあったみたいでよかったわ。」
「はぁ…幸せぇ…口の中がすっごく幸せだよぉ…。」
そんな大げさな…と言おうか迷ったが、本当に幸せそうなのでやめた。
その代わり、意地悪な質問をすることにした。
「ねぇ、そのトーストの味と、私のキスの味。どっちのほうが幸せ?」
「ふえっ!?え…えっと…それは…。」
「…。」
「そんなの…ほむらちゃんの…キスに決まってるよ…。」
「ありがとう、まどか。私もまどかのキスの味が一番好きよ。これまでも、これからもね。」
こうやって変化球を投げて、まどかが直球で投げ返してくれないと、私は直球を出すことができない。
「…もう。バカっ…。」
まどかはそっぽを向いて、熱々のトーストを齧っている。きっと、顔が赤いのはトーストのせいではないだろう。
「ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした。…さて、片付けてしまわないと…。」
その時。
携帯の着信音が聞こえる。
「ん…?まどか、寝室の携帯を持って来てもらえるかしら?」
「わかった。すぐに持ってくるよ。」
誰からだろうか。私の交友関係はそんなに広くはない。
さやか、マミさん…杏子は携帯を持っていないから違う…。
「はい、ほむらちゃん。巴先輩からみたいだよ。」
渡されたそれは、未だに振動を続け、けたたましい音を響かせる。初期設定のままにしてあった着信音はいかにも、という感じで…うるさい。…着信音、変えよう。
「はい…マミさん?どうしたの…」
『あ、暁美さん!大変なの!美樹さんが…美樹さんが!』
「さやかが…?どうしたの?」
『わ、わからないの…でも、ソウルジェムがすごく黒ずんで…!このままじゃ…!』
「…!すぐに行くわ!場所は!?」
『私の家よ!』
「わかったわ!」
私はそこで通話をストップする。
「ねぇ、ほむらちゃん、さやかちゃんがどうしたの?」
「わからない…でも、このままじゃ、魔女になってしまうそうよ…。」
「えっ!?さやかちゃんが…!?」
「ええ。だから、私はマミさんの家に行く。まどかは…」
「私も行く。私だって、さやかちゃんのこと心配だもん!」
「分かったわ。でも、急いで行かないといけないから…よいしょっと…。」
「わわっ!?お、お姫様抱っこは流石に恥ずかしいよぉ!」
「我慢して!さぁ、飛ばすわよ!」
どうか…どうか間に合って…!
さやか、あなたが死ぬことは私の人生のオプションの中にはないわ…!だから…!
死なないで、さやか!
ピンポーン。
マミの家のインターホンは、高い音を響かせる。
「はーい!今開けるわ、暁美さん!」
声の主はマミさんのようだ。
「さぁ、早く上がって!…って、鹿目さんも?どうして…?まぁいいわ、早く!」
「さやか!」
「さやかちゃん!」
私とまどかが部屋にかけこみ、さやかの様子を見る。
「あ…まどか…ほむら…!ごめんなさい…!」
部屋に入るや否や、さやかは謝ってきた。
「さ、さやかちゃん?どうしたの?」
「ひぃっ…!も、もう…しません!だから、許して…!」
「さやか…?いったいどうしたのよ?」
「あぁ…!わ、悪気はなかったから…!ごめん…なさい…!」
「さやか、本当にどうしたの?」
私がさやかに近づくと…。
「いやぁぁ!やめ…やめて…!あぁぁ…!」
さやかは倒れ込んでしまった。
「さやかちゃん!?どうしたの、ねぇ!?」
まどかが身体を揺さぶる。しかし、反応はない。
「…息はしているわ。ただ寝ているだけだと思うわ。」
「よかったぁ…もしさやかちゃんになにかあったら…。」
「…さて、マミさん、どういうことか説明してくれる?」
「ごめんなさい、私にもよくわからないの…。私の言葉には反応しなくて…。それに、ビクビクしていたから暁美さんを呼んだのだけど…。」
「…そう。」
どうしてこうなったのかは皆目見当もつかないが、黒幕くらいは察すことができた。
「でで来なさい、インキュベーター!」
『やれやれ…。君は勘がいいんだね。』
「残念ね、インキュベーター。私のこれは勘ではなく、統計よ。さぁ、さやかに何をしたのか、答えてもらうわよ。」
『僕はさやかの希望に従っただけさ。』
「さやかの…?」
『あぁ、そうだよ。さやかはほむらの過去をもっと詳しく知りたがっていたからね。体験させてあげただけに過ぎないよ。むしろ感謝してほしいくらいだよ。』
「まどかに使ったアレをさやかにも使ったの!?…盲点だった…しっかり監視しておくべきだった…!」
『そうだね。君はまどかばかりに目を向け、僕やさやかたちにあまりにも目を向けなかった。』
「…黙りなさい!」
私は苛立ちを隠せなかった。インキュベーターが私に言ったことはすべて真実。しかし、それをインキュベーターに言われたことがとても癪だった。
『やれやれ、君たちはどうしてありのままの真実を伝えれば、そうやって憎悪を抱くんだい?』
「黙りなさいと言っているでしょう!?」
部屋に不穏な空気が流れる。そんな空気を破ったのは一人の少女の声だった。
「…ねぇ、キュゥべえ。それって、私にも使えるの?」
「まどか!?あなた、なにを…!?」
この子はどうしてしまったのだろうか。あんなことがあったというのに、また体験したいだなんて。
「私も。キュゥべえ、私もよ。暁美さんの過去を体験したい。」
「マミさん…!?あなた…!」
いよいよ気が狂ってしまったのか。さやかがあんなになっていると分かっていながら、自ら危険に飛び込んでいくの…?
『もちろんだよ。そうだ、前回からの変更点がかなりあるから話しておくよ。まず、君たちには一ヶ月、暁美ほむらとして行動してもらうことになる。つまるところ、本当の意味で暁美ほむらの過去を体験することになる。ただし、現実とその世界は完全に切り離されているから、こちらの世界では一分ほどしか経っていないから安心してほしい。』
『そして、君たち人間の感覚、感情、さらに深い心理…すべてを再現している。だから、過去の暁美ほむらが痛いと感じれば、君たちも痛いと感じる。憎らしいと感じれば憎らしくなる。それでも構わないかい?』
「うん。私はやるよ。だって、それがさやかちゃんをもとに戻す方法につながるかもしれないし。それに、もっとほむらちゃんのことを知れると思うから。」
「ええ。私も、暁美さんについて知ることができれば、それだけ彼女の苦しみを、辛さを、喜びを分かち合える。だから、私もやるわ。」
「二人とも…いいの…いいのよ、苦しむのは私一人で十分よ…だから、二人が苦しむ必要なんて…。」
「ううん。そんなのダメ。一人で背負い込んじゃダメだよ。」
「だって、私はほむらちゃんの恋人で、一番大切な人だから!」
「…!」
「そうよ、暁美さん。私達は仲間じゃない。私はあなた一人が苦しんでいる姿なんて見たくない。みんなで苦しみだって分かち合えば、きっと辛くない。」
「だから、私達を信じて。」
「まどか…!マミさん…!」
私は素晴らしい人たちと巡り会えた。そう改めて感じた。だからこそ、私はここまで頑張ってこれたのだ。
私が護りたい、取り戻したいと思い、頑張ってこれたのは、この二人がいたから、というのも大きい。
初めてこの二人に助けてもらったとき、世界が変わった。まるで、モノクロな世界がカラフルになったように。
私はこの二人がいたからこそ、ここにいる。
そして、また私のことを気遣い、助けようとしてくれている。もちろんさやかのため、というのもあるが、そのことが何よりも嬉しかった。
「ありがとう…!私…本当に、幸せものね…!」
「うぇひひ。大げさだよ。…それじゃあ、キュゥべえ。
お願い。」
『わかった。それじゃあ、君たちの意識が途切れた後に、意識が暁美ほむらのものに切り替わる。』
『その後、君たちには暁美ほむらとして行動してもらう。ただし、あくまで体験だから、君たちの好きなようには行動できない。簡単にいってしまえば、君たちは何者かに操られているように感じると思う。』
『あとは…暁美ほむらの過去の体験が嫌になっても、途中で中断することはできない。一ヶ月はそのままだ。』
『それでも構わないかい?』
「うん。ほむらちゃんの過去がどんなに辛くたって、私は途中で投げ出すことなんてしないよ。 」
「ええ。私も鹿目さんと同じよ。」
『ならいいんだ。じゃあ、機械を作動させるよ。少し待っていてくれ…。』
「まどか、マミさん。これだけは…守ってほしいの。…二人とも、絶対に絶望なんてしないで。さやかがああなってしまって、二人まで絶望したら…私…!」
「もちろんだよ。ほむらちゃんがいままで頑張ってきたのに、私だけ絶望なんてしてられないもん!」
「そうよ。それに、私は絶望なんて感情、過去においてきたわ。あの人と…約束したから。」
あの人とは、おそらくマミさんの過去の先輩魔法少女だろう。
「ありがとう…!私はなにもできないけど…頑張って…!」
「うんっ!…それじゃあキュゥべえ、お願い。」
『わかった。それじゃあ、いくよ。』
「うん…あうっ…!」
「…っ!」
二人はぐったりとして倒れ込んでしまう。私は二人を抱きかかえた。
「まどか、マミさん!…インキュベーター、本当に大丈夫なの…?」
『あぁ。そのあたりは安心してほしい。僕たちの星の最新技術を使っているからね。』
「…ずいぶんと研究熱心なのね、あなた達は。」
『もちろん。鹿目まどかと契約するためだったらどんな回り道でもするよ。』
「変わらないわね、あなた達は。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」
皮肉のつもりだったのにね、とは言わず心に留めておく。
インキュベーターとそんな話をしていると。
「うぅん…ここは…!」
「はぁ…はぁ…!」
二人が目を覚ました。
「まどか、マミさん!よかった…!」
「ほむらちゃん…!」
まどかは私に抱きついてくる。
「わっ…!まどか、どうしたの?」
「ごめんね…!ごめんね…!ほむらちゃん…!私、迷惑かけて、邪魔してばっかりで…!」
「…まどか。ううん…いいの。あなたが優しいから…それがあなたのいいところなんだから…。それに私が何度救われたか…。」
「うわぁぁん…!ほむらちゃ…!もう、どこにも行っちゃやだよぉ…!ずっと、ずっとそばにいて…!」
「うん…うん…ずっと一緒よ、まどか…。」
私がまどかを抱きしめていると。
「暁美さん…私、私…!本当にごめんなさい…!あんな…!」
「マミさん…ううん、気にしないで。私がここにいるのも、あなたのおかげでもあるんだから…。」
「暁美さん…!ありがとう…!ありがとう…!」
二人とも辛かったようだけど、無事でよかった…。
「…それで、少し聞きたいのだけど…。二人が体験した一ヶ月って、どれだったのかしら…?」
「えっと…私は、さやかちゃんに、巴先輩、佐倉さんが全員死んじゃって…私が契約しちゃうっていう一ヶ月だったよ…。」
「私は、暁美さんがメガネで三つ編みだった頃の一ヶ月ね…前に暁美さんが話してくれた、私が狂ってしまったっていうのよ。」
「そう…バラバラなのね…。じゃあ、さやかは…?」
さやかはすぅすぅと規則正しい寝息をたてて、未だに起きずにいる。
『それについては僕から説明しよう。さやかは、君がたどった一ヶ月の中で最も新しいものだ。』
『君がまったくのイレギュラーと呼んだあの時間軸だよ。』
「な…!あれを…あれを見せたっていうの!?」
『あぁ。なにか問題でもあったのかい?』
大アリだ。あれだけは…さやかには秘密にしておくと決めたのに…。
あんな自分の姿、見たくもないだろうに…!
「…どうしたらいいのよ…。もう…私には…。」
さやかが一度ああなってしまえば、あとは落ちていくだけだ…。今までの経験がそういっている。
「ほむらちゃん!」
私の思考は、まどかの声で遮られた。
「勝手に諦めないでよ!勝手に絶望なんてしないでよ!」
「さやかちゃんを救うんじゃないの!?それなのに、私には、なんて言わないでよ!」
「まどか…。」
「ほむらちゃん、さやかちゃんを…一緒に助けよう?」
「ええ…!」
「巴先輩も…お願いします。」
「もちろんよ、鹿目さん。美樹さんも私の大切な仲間だもの!」
とはいったものの、解決手段は見つけられていない。
しかし、先程のような絶望感はまったく感じられない。
「さやかちゃんを元に戻す方法…。」
「…分からないわね…。なにか…。」
そんなとき、家のチャイムがなる。
「…?私が出るわ。…はーい、どなたでしょう…って、佐倉さん!?」
「はぁ…はぁ…さやかは!?」
どうやら杏子のようだ。
「あ、あぁ…部屋にいるわ。」
「分かった!」
そう叫ぶと杏子は部屋に駆け込んできて。
「さやか!大丈夫か!?」
「きょ、杏子落ち着いて!さやかは寝ているだけだから、大丈夫よ!」
「そ、そうなのか?よかった…さやかが無事で…。」
「杏子…。」
よほど心配だったのね…。こんなに焦って…。
「んぅ…あたし…は…。」
「さやか!?おい、さやか、あたしが分かるか?」
「んー…杏子…。どうしたの…?」
杏子には無視もしなければ、拒絶もしない…。
…まさか、これが解決への糸口?
「さやか、大丈夫?」
「いやっ…!も、もうしないから…!」
「おい!テメェ、さやかに何をした!?」
「やっぱりか…。」
「なにがやっぱりなんだよ!」
「や、やめて、杏子…。ほむらはなにもしてない…あたしが…あたしが悪いんだから…。」
「…!わ、わりぃ…ほむら…。あたし、かっとなって…。」
「いいえ、むしろいい情報を得られたわ。杏子、少し話したいことがあるの、来てくれる?」
「え?ここじゃだめなのか?」
「…もう一度さやかにこの話をすれば、間違いなく絶望する。だから、二人だけで話したいの。」
「…あぁ。んじゃ、あたしたちは出でくるよ…。」
「ごめんなさい、まどか、マミさん。少し席を外すわね。」
「…うん。分かった。」
私は前回の時間軸のことをすべて杏子に話した。
杏子はなんとなく、さやかやまどか、マミさんに話せない理由を話す最中に察してくれたようだ。
「なるほど…さやかはそれを実際に体験した、と…。」
「ええ。半狂乱になった自分の姿なんて見たくもないでしょう?…それに、まどかを殺してしまった。そのことが深くのしかかっているのよ…。」
「…それで、あたしは何をしたらいいんだ?」
「さやかの説得をしてほしいの。」
「説得…?どうやって?それに、ほむらのほうが向いてるだろ、そんなこと…。」
「これはね、杏子にしかできないの。もう、私やまどか、マミさんの言葉は彼女にはもう届かない。でも、杏子は違う。なぜかはわからないけどね…。」
「だから、杏子に説得をしてほしい。私は怒ってなんかいない。むしろ、さやかには感謝してるって。何度も何度も助けられて…あのことは気にしないでって伝えてほしいの。」
「…分かった。あたし、やってみるよ。」
その後、杏子とさやかは出ていった。
「…ねぇ、ほむらちゃん。さっき、杏子ちゃんと何を話してたのかな。」
「え?それは…杏子に説得を頼んだだけで…。」
「でも、それだけじゃないよね。」
「…。」
「隠してること、話してほしいな。」
「…それは…でき…ない…。」
「ねぇ、ほむらちゃん、その話を私が聞いたら悲しむとか、勝手に思ってないよね?」
「…。」
私はうつむくことしかできない。
「やっぱり…。」
「あのね、ほむらちゃん。」
「…?」
「バカにしないでよ!!」
「まどか…!?」
私はあまりの迫力に驚いてしまった。
「勝手に…勝手に決めつけないでよ!私が悲しむとか、わかんないのに勝手に決めつけたりなんかしないで!」
「そうやって…自分の中に抱え込まないでよ!私のことも頼ってよ!!」
「まど…か。」
まどかは泣いていた。
私は…何をしているのか。まどかの涙を見て気付かされる。
「ほむらちゃんが隠し事してるんだ、って分かって私、すっごく悲しかった。あぁ、私って頼りにならないんだなって…。」
「まどか…!」
私はまどかを抱きしめた。
「私…ただ怖かっただけなのかもしれない。まどかが知って、私のことを嫌いになるんじゃないかって…。勝手に怯えていたの…。」
「でも、まどかの涙を見て…言葉を聞いて…わかったの。」
「いつまでも、閉じこもってる必要なんてないんだって…!」
「ほむらちゃん…!」
「…私、話すね。前回のこと。すごく辛いことだけど…まどかに知ってもらいたい。」
「うんっ。私、ほむらちゃんが一緒なら、どんな辛いことだって乗り越えてみせるよ…!」
「まどかっ…!ありがとう…!」
「そんなっ…!そんなのって…!」
まどかはショックを受けている様子だ。
…無理もあるまい。私もまどかの立場なら、同じ反応をしていたに違いないだろう。
「まどか。あなたに見せたいものが…。」
私が取り出したのは、まどかからの手紙だった。
「これは…?」
「過去のあなたの手紙よ…。読んでみてほしいの。」
「うん…。」
「…。…っ!…うん、うん…。そうだね…。」
まどかはなにやら、頷いたり、声をだしたり…。
読み終えると、大事そうに手紙を抱えた。
「あなたの気持ち…私が受け取ったよ…。」
「ありがとう、ほむらちゃん…私、もう悲しくなんかないよ。辛くも…ないよ。」
「本当に…?大丈夫なの…?」
「うん…でも、抱きしめてほしいの…。」
「…! もちろんよ。」
「ふぅっ…温かい…ほむらちゃん…ぐすっ…!」
「ほむらちゃん…!やっぱり、ほむらちゃんはすごいよ…。一人であんなに頑張って…。」
「ううん…一人なんかじゃないよ。まどかが…みんながいたから…一人なんかじゃない。」
「ほむ…らちゃ…!やっぱり…あなたは、私の最高の恋人なんだね…!」
「…最高の…恋人。うん…うん…!そうだね…!」
その後しばらくして、さやかたちは帰ってきた。
「まどか…ほむら…マミさん。本当にごめんなさい。
あたし、一人で抱え込んで…悩んで…壁を作って…。」
「ほんっとに…ごめん…!」
「さやかちゃん…ううん、気にしないで。だって、私達は親友なんだから。」
まどかはさやかを抱きしめる。
「まどか…!ごめん…ごめんね…!」
「さやか…本当によかった。あなたが死んでしまったら…私…!」
私はさやかに抱きつく。
「やだなぁ…あたしがそう簡単に死ぬわけないじゃん。」
「まだ、ほむらとの約束も果たしてないからね…。」
「そうよ…約束、絶対に守ってよね…!」
「美樹さん、心配したのよ?」
マミさんもさやかに抱きつく。
「マミさん…。」
「あなたが遠くに行ってしまったみたいで…すごく悲しかった。」
「…本当にごめんなさい。」
「でも、無事でよかったわ…!もう…!」
「あはは…あたし、モテちゃってますね。…本当に、みんなが仲間で…よかった…。」
「んじゃ、あたしと杏子はこれで。…まどか、ほむらと仲直りできて、本当に良かったね。」
「うん。これもさやかちゃんのおかげだよ。ありがとう!」
「えへへ…照れちゃいますね…。」
「んー、さやか、早く!」
「あーもう。…じゃあね、みんな!」
「バイバーイ!…それじゃあ、私達も帰ります、マミさん。」
「ええ。さようなら、二人とも。夜道には気をつけるのよ?」
「分かってる。私がまどかを守るから、問題ないわ。」
「ほむらちゃん…!」
「あーはいはい。惚気はいいから…早く帰りなさい。」
「ん…私が送っていけるのはここまでね。名残惜しいけど…また明日ね。」
「うん…行っちゃうんだよね。」
「…?ええ…私も帰らないといけないし…。」
「そっか。…じゃあ、お別れのキス、してほしいな。」
「…もう、まどかは甘えん坊さんね…。」
「ほむらちゃんは…甘えん坊な私は嫌い?」
「バカね…そんなわけないじゃない。大好きよ…。」
「えへ…ありがと。…じゃあ、して?」
「ええ…。んぅっ…。」
「んっ…。」
「はぁ…まどか…。」
「ほむらちゃん…。」
「また、あした。」
「うんっ!またあした!」
私とまどかは、明日の再開を約束し、お互いの帰路へとついた…。
いやー…キュゥべえって、相当進んだ技術を持ってるってことですから、いろんなオリ設定に使えて便利ですね。
こんな風にも絶望させたり、希望をもたせたり…。
では。