※この作品はR-18です。

Lower ~魔族に支配された世界の反逆者~   作:瑠璃色砂糖月

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 がっつりR-18要素があります。
 また、グロ表現もあります。


2話「純白の救世主」

「うっ……」

 ゴブリン達が棲まう洞穴。

 そこから漂ってくる死臭と淫臭、そして何よりも青臭い。ぐちゃぐちゃに入り混じった不快な臭(にお)いに騎士が呻き声をあげた。吐き気がする。

「うへぇ……乱交パーティー始まってんねぇ」

 足元の小枝を踏めばパキリと音が鳴る。流石のロキラも悪臭に端整な顔を歪める。しかし、歩みは止めない。時間が経てば慣れるのだ。

 巣の中は案外ひっそりとしていた。何か罠があるのか、見張りも交尾に向かったのか、それとも人間程度が来るわけがないと警戒してないのか……。

「……静か、ですね」

「ま、繁殖期と子育て時期が相まって大体の住処(すみか)ってのはこんな感じなんだけどなぁ。慣れれば分かるさ」

「………。慣れたくは、ないですね」

「あっは、違いねぇ」

 騎士の答えが面白いとばかりに吹き出すロキラ。肩に担いだ銃剣(バヨネット)で肩を軽く叩きながら、着々と進む。

「ゴブリンってのは大広間で乱交してんのよ。孕ませるだけではなく溜まった欲の捌け口として……攫った男女を輪姦すんの」

「っ……」

「だから多分、いや…100パーセントひっでぇ場面に出会うぜ? 覚悟出来てんの? いや、出来てるだろうからここまで一緒に来てんだろうけどさぁ」

 くるくると銃を指で回しながら世間話でもするようにロキラは言葉を続ける。

「救助は……手伝ってくれるんですよね?」

「ああ。サービスしてやるよ。おまえじゃ手に負えないようなやつも居るかもしれないからなぁ」

「……? それだけ、多くの被害者がいるということですか?」

「あっはっは!」

 騎士の言葉にロキラは心底面白いと言うようにからからと笑い出す。その笑い声に騎士は何かおかしなことを言っただろうかと不安になる。

「いんやぁ? 死にてぇやつも勿論いるだろ? おまえじゃ処理できねぇじゃん?」

「死っ……!?」

 騎士は驚いた顔をする。

「な、何言ってるんです!? そんなことを考える人なんてっ!」

 

「居ねぇ訳がねぇだろ。化け物に処女童貞卒業させられて死にてぇなぁと思うやつは絶対居るさ」

 

 食い気味のその言葉に騎士ははっと目を見開く。ロキラはため息交じりに言葉を続ける。

「死にたくなるんだよ。死んだ方が嬉しいやつらだってたぁぁくさんいる。そんなやつらにとってはそれが報いになるんだよなぁ」

 ロキラはくつくつと嗤った。騎士は何も言えなかった。ただ唇を噛み締めるだけ。

「……お」

 ロキラが目を凝らせば、奥の闇からゴブリンが現れて始めている。

「おれの笑い声に釣られたな? おまえ……あー……そういや名前聞いてねぇな」

「え? このタイミングで? え、ちょ、前見て、前!」

 ロキラがゴブリンを目の前にして騎士を振り返るので、騎士は慌てる。しかしロキラ、名前を聞くまでゴブリンに向き直りそうもない。後十数メートルの所まで迫ったゴブリンを見て、騎士は早口に告げる。

「ブレンダンです! ブレンダン!!」

「あ、そ。ブレンダンね」

 満足したロキラが振り返る。目の前には棍棒を天高く掲げたゴブリンの姿が。

 刹那、振り下ろされる。

 ブレンダンが反射的に一歩踏み出す。

 ロキラと相手の間に身を滑り込ませて、身を挺して守ろうとしているのだ。

 

 しかし、その前にその棍棒が一刀両断される。

 

「……ギッ?」

「はぁい、アデュー♪」

 銃剣に折り畳まれていた刃が跳ね上がっている。白銀の刃が松明(たいまつ)の光を浴びて輝く。

 瞬間刺突。

 ゴブリンの醜い顔面に銃剣の刃がめり込んだ。

 銃剣の刃は剣術と共に槍術にも通じる鋭利な刃。格闘術にも懸念が無いロキラは近距離においても隙が無い。

 突き殺したゴブリンから素早く刃を抜くと、そのゴブリンに前蹴り。膨れ上がった脂肪塗れの腹が沈み、後方へと飛んでいく。何体かのゴブリンがそれを受け止めて後ろへと吹き飛んだ。

「グギ、ギ!!」

「ギャアアアアアッ!」

「ほいよっと」

 ロキラは銃身を掴んで銃剣をフルスイング。鈍い音が響き渡る。銃床でゴブリンの頸を叩き折ったのだ。振り抜けばゴブリンが空中を数回転する。その威力にその場の全員が硬直する。一体どこからその膂力を引き出しているのか謎だった。

 その一瞬の隙を彼女は見逃さない。

 素早く銃身(バレル)から持ち手(グリップ)に持ち変えると神速の早撃ち。ゴブリンの急所に銃弾が埋め込まれる。

「ほら、行くぞ」

「は……は、い」

 更に進む。

 ゴブリンが現れれば銃を乱射。その全てが吸い込まれるようにゴブリンに命中。

 百発百中。

 特に危なげも無く、ロキラと騎士は奥へ向かう。

「……ん、ここか?」

 淫蕩な悲鳴と濃くなる淫臭。

 あまりの酷さにブレンダンは慣れてきたはずの鼻を押さえる。一方でロキラ、笑みを深めた。

「ブレンダン、おまえここでちょっと待ってろ。かなりの数だからな。人間もいるのに足手纏いがいると尚更面倒だ」

「っ…!」

 彼は何度も頷いた。彼女の言葉が何故か気遣いを感じる。声音が優しかったからだろうか。ブレンダンは土の壁に背をもたれると、そのままずるずると地面に座り込む。

 ロキラはくるくると銃を指で回しながら、その広間へと向かう。

 数匹のゴブリンが入り口から顔を覗かせた。ロキラがすぐさま発砲。ゴブリンの脳天に命中、頭が弾け飛ぶ。

 ロキラはゴブリンの死体に目もくれず、パーティーの入り口を潜り抜ける。

「おーおー、相変わらずお盛んなことで」

 

 人間にとっての地獄。

 

 あちこちで女が組み敷かれている。

 上の口で奉仕を無理矢理やらされ、下の口で子種を仕込まれている。中には大きく腹が膨らんだ者も居た。ゴブリンの一部は口に漏斗(ろうと)を突き込み、何かを流し込んでいる。小さなゴブリンを胸にしゃぶりつかせている者も居た。

 あちこちで男が犯されている。

 男の上に覆い被さったゴブリンの雌が腰を一心不乱に振っていた。死ぬまで子種を絞られ、無理矢理ゴブリンの繁栄に貢献されている。1人の男を何体ものゴブリンの雌が取り囲んでいる。端の方で大きな腹を抱えたゴブリンが何体も居た。

 それを一通り見渡せば、ロキラはニタリと邪悪な笑みを浮かべた。

「おれも混ぜろ」

 極上の獲物に息を荒げたゴブリン達が一斉に群がる。

 その1匹を撃ち殺したロキラは心底愉しそうに銃を構えた。

 

 

 

*****

 

 

 

 ゴブリンの巣、薄暗いある一室にて。

 そこの部屋は大広間よりは小さいが、しかし他の一般の部屋と比べてかなり広い。

「い″ああアアアアア″アッ!! あ″っ、ひ、ぃああああ″あ″あ″っ、ぅう~~っ!!」

 そこでも営みが行われていた。

 豊満な体つきをした人間の女が髪を振り乱して獣のような嬌声をあげていた。背後から逸物を突き込まれているのだ。出入りする度に肉棒に纏わりついた白濁の液体がてらてらと光る。

 女も好きで犯され嬌声をあげているのではない。雄の精液で何度も満たされた女の膣内(ナカ)、それを擦られると嫌でも快楽を拾ってしまうのだ。

「ふーっ、ふぅぅううっ! ~がっ、ィィイイイイッ」

 彼女を犯すのは、勿論ゴブリン。

 しかし、そのサイズは通常のゴブリンと比べてかなり大きい。通常サイズのゴブリンは2等身程度の身長だが、このゴブリンは3等身はある。身長もおよそ2メートルを超えている。

 緑小鬼の王(ゴブリン・キング)。

 そんな巨大なゴブリンが不意に女の腰をしっかりと固定して、最奥まで肉棒を叩きつけた。

「がっ……!?」

 女の目蓋の裏にバチバチと火花が散る。脳天を貫くような快楽が襲い、ゴブリンが何をしようとしているのか、悟る。

 子宮口と亀頭が密着している。

 締めが、来る。

「っっっあ″ーーーーーーっ!!!」

 ビュービューと音を鳴らしてゴブリンの精液が直接子宮内に注ぎ込まれる。女は髪を更に振り乱し、逃げようと暴れ出す。

「ヤァァア″ア″ーーーーッ!! あっ、や、ぁだ、やっ……ヒィィぃいいーーーっ!!」

 しかし、腰をしっかりと固定されている女に逃げる術は無い。彼女は最後の一滴まで子宮(ナカ)に忌み嫌う子種を注ぎ込まれるしかない。

 女の秘肉がゴブリンの逞しい肉棒を痛いほどに締めつける。出されるだけでも絶頂してしまう。

「あっ、ひぃ……! ひゅ、ぅぐ、ぅぅぅ……っ」

 ようやく全てが出し切られた。終わった。

 引き抜かれ始めた肉棒を感じて、そう悟った女は全身の力を抜いた。既に何度もぶっ通しでまぐあっているのだ。下腹部は少し盛り上がり、体力も限界である。

 しかし。

「ぉあ″っ!!?」

 どちゅん、と。

 再び肉棒の先端が子宮口を叩き、最奥までしっかりと埋め込まれた。

 まさか、まだやるつもりなのか。

 女は全身を強張らせる。

「もぅ、いや……。嫌だアアあああアアっ!! だずげでっ、誰かだすげでっ……こぉして、殺じでぇぇぇえ!!!」

 絶叫して泣き叫ぶ。

 悲痛な女の叫びは誰にも届かない。

 女はゴブリンが満足するまで成されるがままになるしかなかった。

 

*****

 

「………っ………。………ぁ、ぃ………」

 ようやく性欲が収まったのか、ゴブリンが女を解放した。女の腹は痛ましいほどに膨れ上がっている。自重で腹が潰れると、膣内(ナカ)に溜まった孕ませ液が汚い音と共に排出される。

「あおっ……オ、おぉォ、オオ″オォォぉお″ぉ~~~~ッッ!」

 それにさえ快楽を感じてしまう。廃人のようになった女は白目を剥いたまま、痙攣していた。

 それを尻目にゴブリンは入り口を見やる。そこにはやはりゴブリン。

 2体いるが、その姿は通常のぼろぼろで薄汚れた腰布しか着ていないゴブリンとは違う。

 約1.5メートル程の巨大な体躯に錆びた鎧を纏っている。背中には巨大な大剣を背負っていた。

 もう1体は身長約1.3メートル。薄汚れた黒のローブを纏っていた。かなり年季が入っており、サイズがあっていない。裾を引きずっているせいでボロボロだった。細い緑色の腕には己の身長ほどの杖を持っている。

 鎧を着込んでいるのは緑小鬼の将軍(ゴブリン・ジェネラル)、ローブを着込んでいるのは緑小鬼の魔術師(ゴブリン・ウィザード)である。

「何かあったのか(ゲギャギャ)?」

「我らの城に人間が(グギギギグギグギ)攻め込んできたようで(ギャアギャアギギギグ)すの(ギャ)で(ァ)、耳に入れておこうと(ギギッゲゲゲゲゲギ)」

「人間だと(ゲギャ)?」

「こいつらです(ゲゲゲッゲゲ)」

 緑小鬼の魔術師(ゴブリン・ウィザード)が魔術を使用して空中に侵入者の姿を映す。

 

 純白の美人。

 

 肩まで伸ばされた白髪、悪戯に輝く紫色の瞳、乳白色の柔肌。純白のコートを靡かせ、不敵な笑みを浮かべた中性的な美人。

 武器は銃剣。次々に手下であり子供であるゴブリン達を撃ち殺していた。

 ゴブリン達と一定の距離を保つように縦横無尽に大広間を駆け回る。地面を這うように虚空を回ったかと思えば、天井近くで敵を見下ろす。更にゴブリン達の肩や頭を足場に飛び回っている。誰もそのスピードに追いつけていない。

 身のこなしもさながら、その合間合間にばらまかれる銃弾は全てゴブリンに命中して絶命させている。的確過ぎるその技量と速射は最早理解が出来ない。

『っあ……?』

 低音の天上音楽のような声が漏れる。美しい紫の眼(まなこ)が丸く見開かれた。

 撃ち殺しもらして接近されたゴブリンにより、銃剣(バヨネット)が宙へと弾かれたのだ。

 次の瞬間、好機とばかりにゴブリン達が殺到する。今すぐ衣服を剥いで蹂躙したいという獣欲が漏れ出ていた。

『くひっ…♪』

 その気迫に怖じ気づく所か、にたりと嗤って悠々と受け流してみせる。

 直後、ゴブリン達の頭が破裂した。

 

 美人の手には銃剣(・・)が。

 

 ゴブリン達が目を見張って見上げる。そこにはまだくるくると宙で回転している銃剣があった。

『おれは武器が1丁だけ…なんて、言ったっけぇ?』

 2丁目。

 落下してきた銃剣を受け止める。美人の両手に銃剣が収まった。

『スピードアップだ。存分に味わえ』

 何も考えていないようで計算的に。

 無駄のようで無駄ではない動き。

 苛烈で激情的な、されど冷静沈着で合理的な猛攻。

 次々とゴブリンが絶命していく。あまりにも簡単に死んでいく同族達に、他のゴブリンが恐怖を感じ始めるのが映像越しでも見て取れた。

 それを感じたのだろう。映像の美人も嗤っている。

『おいおい……おれは下等種族である人間だぜ? なんで怯えてんの? なあ……?』

 両手の銃剣を構えた美人。

『分かんねぇよ』

 その言葉と共に銃弾が踊り狂う。銃声は遥かに遅れて聞こえた。

 

 ゴブリンの地獄。

 それは、あの純白の美人が現れたこと。

 美人は傷1つ負っていない。

『はい、終了♪』

 銃を弄びながら美人は嗤った。

 それを見て、緑小鬼の魔術師(ゴブリン・ウィザード)は恐怖した。この人間は一体何者なんだ、と。獣欲よりも逃走本能が勝ってしまう。

「こいつを連れて来い(ゲギャギャギャギギ)」

「あの人間を(グギャ)?」

 緑小鬼の将軍(ゴブリン・ジェネラル)が聞き返す。緑小鬼の王(ゴブリン・キング)は潰れた顔を更に醜く歪ませて嗤った。

 

 

 

*****

 

 

 

「さぁて、と……」

 ロキラは辺りを見渡す。

 ロキラの突然の登場に呆気に取られている者、ロキラの存在にも気づかず、ぼんやりと天井を見上げている者、壊れて笑っている者、腹を膨らませている者、死んでいる者……様々だった。

「ん……?」

 足元を蠢き産声をあげているゴブリンの赤子。それはまだ腹の緒で母体と繋がっていた。元を辿ればそこにはそばかすがある虚ろな目をした女がいる。

 サマラだった。

「………んん」

 ロキラは顎を軽く擦るとゴブリンの赤子を拾ってサマラに近づく。

「よお、おれはロキラ。おまえの名前は?」

「………」

「災難だったなぁ、こんなにかわいらしい赤ちゃん産まされて」

 ポン、と片手で掴んでいた子供を母親であるサマラの腹の上に置いた。そして、女の目の前にしゃがみ込む。それでもサマラは虚ろな目をロキラに向けたまま、反応しない。

「なあ、どんな気分だ? 産みたくないもの産まされて、大切な純潔を化け物に奪われる感覚ってどれだけ最低な気分だ?」

 相手を嘲るように、煽るようにロキラは言葉を続けた。とてもじゃないが、被害者にかける言葉ではない。悪意すら感じるその言い方。しかし、サマラには響かない。

 ロキラは笑顔を消してため息をつく。

「やっぱ怒りもしねぇか……。死んだ方がマシだな」

 わざと相手に激情を持たせるための言葉。そうして生きる気力を奮い立たせようとしたのだ。しかし、そんな単純な感情さえ湧き上がらない被害者。

 完全に気力を失っていた。もう既に心が死んでいた。

 手遅れ。

 ロキラは立ち上がるとバヨネットを片手で回転させ、グリップを握ると標準をサマラの額に合わせる。この距離なら外そうにも外せない。

「あばよ、名も知らねぇ憐れなお嬢ちゃん」

 ロキラが初めて憐れみの笑みを浮かべた。

 トリガーを、引く。

 発射された弾丸はサマラの額に侵入、脳内をぐちゃぐちゃにするように貫いた。後頭部が破裂する。

 サマラはその時、初めて自身が救われたことを知った。もう生きたいとは思っていなかった。それをこの人は汲み取ってくれたのだと理解できた。無理に生かそうとせず、ただ願いを叶えてくれた。

 サマラの口元に笑みが浮かんでいる。ゴブリンの巣に来て以降、1度もなかった微笑み。安らかな死に顔は実に美しい。安心して眠れることが嬉しいと言うかのように。

「……ぎ、ギ」

「………」

 ロキラはサマラの胸にしゃぶりつくように蠢くゴブリンの赤子を冷めた目で見下すと、首元を掴んで冷たく固い地面へと引きずり落とす。

 そして、足を持ち上げると、そのまま赤子を踏み潰した。ぐちゃりと柔らかい頭部が潰れて、頭の中身がぶじゅりと頭蓋骨の隙間から出て来る。

「ぎっ……」

「……さて、と」

 くるくると銃を人差し指で回転させ、彼女は再び口の端を吊り上げる。

「次、死にたい方はいらっしゃいますでしょうかぁ~?」

 ロキラは邪笑を浮かべた。

 その後も彼女は死にたいと願う被害者を殺し続けた。

 

 

 

*****

 

 

 

「うっ……ぶ……!」

 騎士ブレンダンは吐き気を催していた。

 鼻につく淫臭と何かの青臭い匂い。鼻を犯して気分を悪くする有害なもの。

「はあ……はあ……っ」

 どうしてこんなことが出来るのだろう。理解が出来なかった。

 ブレンダンは人を守る、国を守る騎士に憧れていた。それなのに、いざ害を与える者の前では、自身はあまりにも無力。

 それが悔しい。

 今もこうして地面に座り込む以外何もしていない。

 

 何が騎士だ。

 

 自身への憤りと情けなさが入り混じる。

 

「へばってんの?」

 からかうような声。顔を上げればニヤニヤと笑っているロキラの姿。

「……ロキラ、さん」

「ついでに選別(・・)も済ませた。連れて帰るんだろ?」

「……はい」

 選別。つまり、死にたい者がいたということ。それを聞いて胸に鋭い痛みを感じた。ブレンダンはよろよろと立ち上がると、ロキラの後を追う。悪臭の根源へと足を踏み入れた。

「……っ」

 おびただしい死体の数。

 死屍累々。

 地獄絵図。

 死臭が鼻から体内へと侵入してくる。

「う、ぶ……」

 もう、耐えられなかった。

 彼は胃の中身を吐き出した。口の中にすっぱい味が広がる。しかし、嫌悪感と憎悪と気持ち悪さだけは吐き出せない。吐き出せそうも無い。

「情けねぇなぁ」

 ロキラは半笑いで先に進む。

 集まっている生存者達は僅か5人。男2人、女3人。それだけだった。

 その他の者は全員死を望んでいた。

「良かったなぁ。おまえらは国に帰れるぜ」

 被害者達にはにっこりと笑ったロキラが何故か憎たらしく見えた。何故だろう。

「こ……これだけ?」

 ようやく吐き気が収まったブレンダンがロキラと被害者に近づく。

「これだけしか、生存者がいないんですか?」

「おう。後は全員殺した」

「っ……」

 何とも思ってないような言い方に思わずカッとなった。しかし、歯を噛み締める。救える者がこれだけしかいなかった。それが納得できない。でも、納得するしかない。ロキラに怒るのは筋違いだとブレンダンは思い留まった。

 当の本人はというと、大きなあくびをしていて緊張感の欠片もなかった。

「んじゃあ、ブレンダン。おまえちょっとここに居ろ」

「え……? すぐに出て行くんじゃないですか?」

「当然だろ。元凶殺さねぇと同じことが起きるぜ?」

 

 ゴブリンとは元々1体のゴブリンが産み落としたものが繁殖して生まれる。そうでなくともゴブリンは繁殖能力が高く、放っておくとまた増えるある意味面倒な魔物だった。また、学習能力が高いため、時間が経つと更に力を増し手が付けられなくなるものも多い。

 

「緑小鬼の王(ゴブリン・キング)。それが巣の中で最上位に立つゴブリンだ。そいつを殺せばゴブリンは指揮系統が取れなくて散(ち)り散(ぢ)りになる」

「え、じゃあ一緒に行けば良いんじゃないですか……?」

 そうすれば全員の安全も守られて、やりたいことも出来る。主戦力はロキラなのだ。離れれば、ゴブリンが来た時に対抗する者が居なくなる。

 しかし、ロキラは首を横に振る。

「人質とか取られると面倒だ。そうなったらおれは迷いなくおまえらを見捨てるし。それに、ここなら人間がいても特に違和感は感じないだろ? ゴブリンが来たら大人しく体使わせれば特に問題も起きないだろうし」

 平然とそんなことを言えるロキラに騎士は流石に怒りを抑えられない。

「同じっ……人間なんですよ……?」

「そうだな。でも……だから、何? それは理由にならねぇよ」

 半笑いの彼女の首元を掴むブレンダン。グッと引き寄せると怒鳴り散らす。

「あなたには人の心が分からないのか!!」

「分かるわけねぇだろ、他人なんだから」

「そういうことじゃない! 俺は、俺はっ」

 ロキラが足払いをかける。簡単に地面を転ばされたブレンダンが起き上がろうとすると、見下す紫の瞳があった。

 冷めている。

「勘違いされちゃ困る。おれはゴブリンを殺すためにここに派遣された戦士だ。人間がどうなろうとどうでもいい。おれさえ無事ならどうでもいい。その他大勢が死んでも何も思わねぇ」

「なっ……」

「つーかさ……おまえ、おれの護衛だろ? なんでおれみたいな腐れ外道にそんなこと頼むんだよ、おかしくねぇか?」

 彼女は嗤う。

「おまえはおれの肉壁になるように命じられたんだろ? なんでおまえが命張らねぇんだよ。おかしいだろ」

「っ………」

「何か反論があるか?」

 にっこりと笑ったロキラ。ブレンダンからの反論が無いと分かると、6人に背を向けてひらひらと手を振った。

「用が終わればすぐに駆けつけるさ。ちょっと待ってろ」

 

 

 

*****

 

 

 

 ロキラが大広間の入り口から出ると、兜を被ったゴブリンが目の前にいた。

 体長約1.5メートル程。全身に錆びた鎧を纏っている。その背中には身長ほどにもありそうな大剣を背負っている。

「緑小鬼の将軍(ジェネラル)ねぇ……。今頃来られても遅いんだけどなぁ」

 ゴブリンは大剣を少しだけ引き抜き、ロキラを威圧するようにちらつかせてみせる。

「トモニコイ、ニンゲン。ワレラノオウガオマエヲオマチダ」

 人語を喋った緑小鬼の将軍(ゴブリン・ジェネラル)に口笛を吹くロキラ。

「下等種族の言葉を理解できるたぁ驚きだぜ。よく勉強したんだなぁ、偉い偉い」

「………チョウシニノルナヨ、ニンゲン」

 たかが人間の分際で我らに逆らうなと、そう言っているのだ。その殺気にも似たプレッシャーにロキラは首を横に傾ける。顔には相手を小馬鹿にするような笑みが。

「調子に乗ってるのはどっちだ? 強姦魔」

 直後、抜刀。

 ジェネラルが間合いを詰めながら背中に背負った大剣を抜く。

 上段からの振り下ろし。固まった地面が抉られる程の威力。

 しかし、その攻撃に手応えが無い。

「おいおい、おれを王様が御所望なんだろう?」

 当然だ。刃の上に乗っているのだから。

 ジェネラルの目が見開かれる。それと同時に、ゴリッ、とジェネラルの額に銃砲が突き付けられる。

 それでもジェネラルは余裕だった。兜と鎧には緑小鬼の魔術師(ゴブリン・ウィザード)が防御魔術、結界魔術を込めている。今までどの人間もジェネラルを傷つけることさえ出来なかった。たかが銃弾如きが兜を貫けるはずがない。そう思っていた。

 

 BANG!

 

 撃ち出された弾丸と強固な兜。

 ギャリギャリと回転している弾と兜が拮抗する。

 火花が散った。

「おっ……?」

「グギャアアッ!!」

 大剣を振り上げたジェネラル。しかし、ロキラには当たらない。素早く大剣から退くと体を半身にする。ロキラの鼻の先すれすれを大剣が通過した。

「ギャアアアアアアアアッ!!」

 もう一度振り下ろそうとするジェネラル。ロキラはもう一度標準をジェネラルの兜に合わせる。

 無駄だ。貫けるはずがない。

 しかし、嫌な予感がするのだ。強者の勘というものだろうか。

 目の前のニンゲンは楽しそうに嗤っているのだ。

 

「逝け」

 

 BANG!!

 

 発射された弾丸。

 それは先程の弾丸と形状が少し異なっていた。通常弾丸よりも細長いそれは、通常よりもかなりの回転を見せる。

 

 貫通弾(ペネトレイトバレット)。

 

 先端が通常よりも硬い金属で出来ており、変形しない。そのため、貫通力が最も高い銃弾。

 更に回転をかけることで威力と貫通力を何倍にも高める。

 

 弾丸は容易に兜を砕いた。

 

 それでも弾丸は止まらず、ジェネラルの額を抉り、頭蓋骨を破壊し、脳味噌を掻き混ぜ、脳内を突き進んで排出され、それでも推進力は衰えず天井へとめり込み消えていった。

「………。………。………。………ギャ?」

 ドサリとジェネラルが倒れた。完全に息の根が止まっている。

 その死体の隣を歩きながら、ロキラは呟く。

「馬鹿が。下等だと見下すからだ」

 静かに呟くと、口の端を吊り上げるロキラ。

「さぁて……緑小鬼の王(メインディッシュ)はどこだ?」

 静かに彼女は歩き出す。

 

 

 

*****

 

 

 

 ブレンダンはため息を吐いていた。

 5人のお守りを任せられたとはいえ、頭の中はまだ混乱していた。

 自由気まま、傍若無人、自分勝手なロキラを少し嫌気が差していた。着いてこなければ良かったと思ったが、ここまで来れば最後までつき合うしかない。

「あ、あの……」

「はい?」

 ブレンダンに話しかけたのは、女性だった。

 ぱっちりとした瞳が不安げに揺れている。焦げ茶色の髪は手入れをしていないせいでボサボサ。体は少し痩せている。

 彼女はミヴェルと名乗った。

「どうしました?」

「あの……さっきの白い方は、一体……?」

「ああ……。ロキラさんと言って……自由国の戦士です」

「ああ、あの……」

 彼女にもロキラの素性が分かった。

 フリーダムの自由戦士は有名なのだ。

「あんなに綺麗な人とは思ってなかった……」

「え?」

「あ、い、いえ! こちらの話で!」

 ぽつりと呟いたミヴェルに聞き返す騎士。ミヴェルは顔を赤くして首を横に振った。

 彼女は他の4人と比べて元気が良かった。

「……人間でも、あんなに強い人がいるんですね」

「その分、変わってますが……」

 矜持も何もない彼女。自分が思うがままに行動し、他人を思いやる心が無い。そのような自己中心的な人間にブレンダンは見えた。

「でも、あの人は誰よりも自分に正直なんだと思います」

 彼女は決してぶれない、折れない、曲がらない。何故なら自分に正直だから。自分が思うがままに行動しているから。だから、彼女は強いのだとミヴェルは思う。

「私は羨ましいです」

「………」

 ブレンダンは視点が少し違う女性を見て、再びロキラについて考える。

 

 ドォォオオオンッ!!

 

「っ!?」

「なんっ、なんです!?」

 地鳴りのような音と共に壁が破壊される。ブレンダンとミヴェルが辺りを見渡す。

 そして、息を呑む。

 

「グギ、ギギキ……!」

 

 ローブを被ったゴブリンが少数のゴブリンを率いている。

 

 魔術でロキラが6人から離れたことを知り、彼らを再び捕らえるためにやって来たのだ。

「くっ……!」

 ブレンダンが腰から剣を引き抜く。剣を持つ手は震えている。

 ゴブリン達も嗤っていた。

 聖剣も持たないただの騎士がゴブリンに敵うわけがない。

 のそのそと、ゆっくり近づいていくゴブリン。

 まるで相手の恐怖を煽るように。

「ふー……っ、ふー……っ、……!」

 怖い、怖い、怖い。

 カタカタと剣が震えた。

 ブレンダンは後ろをちらりと目で振り向いた。全員が怯えたように目を見開き、震えている。今までのあの扱いを、まるで家畜のような出来事を思い出し、体が動かないのだ。

「う、ああああああああっ!」

 ブレンダンは己を奮い立たせるように近づいてきたゴブリンに斬りかかる。

「ギギッ」

 ゴブリンは動かない。むしろ自ら首を差し出してみせる。ブレンダンは一瞬戸惑うも、すぐに思い直して剣を頸に向かって振り抜いた。

 

 甲高い音が鳴る。

 

 剣が弾かれる。力を入れたブレンダンが仰け反り、数歩後退(あとずさ)る。

 ゴブリン達の背後に居るローブを羽織ったゴブリンが嗤う。そのゴブリンが周りにいるゴブリンに強化魔術をかけ、身体能力を底上げしていたのだ。

 ただの剣が通じるわけがない。

「ごふっ!?」

 ゴブリンがお返しとばかりに棍棒でブレンダンの頭を叩いた。その衝撃でブレンダンは数回転すると、地面に倒れ込んだ。

「ぐっ……あ……!」

 グラグラと視界が歪む。頭痛がする。頭から血がボタボタ流れる。口の中に血の味が広がる。

 ゴブリン達は嘲笑った。ひ弱な人間を。

 不意にゴブリンがブレンダンに近づき、その無防備な背中に棍棒を振り下ろした。

「がっ!?」

 鎧がメキリと軋んだ。更に別のゴブリンが棍棒を振り落とす。

「ご、うが、ぃ、ぎぃ!」

 振り落とす、振り落とす、振り落とす。

 ゴブリンが大勢で1人の人間をリンチにしている。

「がぁ、げぉっ! ご、ぶっ……!」

 鎧が壊れ、生身で棍棒の猛攻を受けるブレンダン。何度も叩かれ、口から血を吐き出す。

 それでも、ゴブリン達は叩くのを止めなかった。

 ブレンダンの目の前が霞む。

 

 霞む視界で、何かが見えた。

 

「ああああああああっ!!」

 ミヴェルだった。

 細い腕に何かを持っている。

 きっと落ちていた棍棒を拾ったのだろう。ゴブリンの1匹が嗤いながらその女の目の前に立つ。どんな攻撃でも傷つかない。わざと受けることで相手に絶望を与える。それを目的としていた。

「や………やめ……」

 ブレンダンの声は届かない。

 彼女は手に持つ何かを振り上げ、振り下ろした。

 

 ───叩き潰れた(・・・・・)。

 

「ギッ………!!」

「ああああああああああっ!!」

 

 ───叩き潰した(・・・・・)。

 

「ああああああっ! 死ねっ! 死ね!! 死ねぇぇえええええっ!! 私が何をした!! 私が一体何をしたんだ!! ふざけるな! ふざけるな! ふざけるなぁああああっ!!」

 怒気と憎悪と嫌悪に塗れた女の顔はまるで鬼のようで。

 人間はミヴェルがゴブリンを叩き殺したという事実に驚いた。

 ゴブリンは人間如きに殺された仲間に驚いた。

 ブレンダンも意識を朦朧(もうろう)とさせながら、驚いていた。

 ミヴェルは騎士でもなければ戦士でもない。訓練を受けていないただの一般人の筈。それなのに彼女は騎士の剣すら弾いたゴブリン体を叩き潰した。

 それは何故か。

 答えは簡単だ。

 

 彼女は神の加護を授か(・・・・・・・・・・)った(・・)。

 

「殺すっ……! ゴブリンもっ……他の化け物もっ……!」

 手に持つのは巨大な鉄槌。

 バトルハンマー。色は白を基調としている。

 巨大なヘッドはゴブリンの血に濡れている。全てを押し潰す平たい部分の反対は、全てを突き刺す角のようになっている。

 

 聖剣【裁きの鉄鎚(ジャッジメント)】。

 

 ミヴェルは聖剣を神より授かった。




 次回の投稿は未定です。
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